(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】熱プレス用クッション材
(51)【国際特許分類】
B29C 43/32 20060101AFI20240226BHJP
B30B 15/02 20060101ALI20240226BHJP
B30B 15/34 20060101ALI20240226BHJP
B32B 17/02 20060101ALI20240226BHJP
D02G 3/18 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
B29C43/32
B30B15/02 E
B30B15/02 M
B30B15/34 A
B32B17/02
D02G3/18
(21)【出願番号】P 2022072381
(22)【出願日】2022-04-26
(62)【分割の表示】P 2021186662の分割
【原出願日】2021-11-16
【審査請求日】2022-06-27
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114710
【氏名又は名称】ヤマウチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】河野 秀平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 晃
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】井口 猶二
【審判官】植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-132656(JP,A)
【文献】特許第6790297(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00-43/58
B32B 1/00-43/00
B30B 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッション部を有する熱プレス用クッション材であって、
前記クッション部は、
経糸又は緯糸の少なくとも一方に、ガラス繊維からなる嵩高糸を用いた織布と、
前記ガラス繊維の表面に付着させた、ポリマー材料と、
を含み、
前記嵩高糸は、前記ガラス繊維の単繊維を6000~100000本集束したものであり、
40kgf/cm
2の加圧状態で、230℃の加熱を60分間行い、次いで冷却を15分間行った後、加圧を解除する条件で前記熱プレス用クッション材を100回繰り返し圧縮した後、230℃、0.01kgf/cm
2の条件で前記熱プレス用クッション材を圧縮したときの厚みをt
1、230℃、40kgf/cm
2の条件で前記熱プレス用クッション材を圧縮したときの厚みをt
2で表すと、下記(1)式から求められるFnが、300以上である、
熱プレス用クッション材。
Fn=(t
1-t
2)×1000/t
2・・・(1)
【請求項2】
前記ガラス繊維の単繊維の直径は、3~11μmである、
請求項1に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項3】
前記織布は、経糸又は緯糸の少なくとも一方に、複数の嵩高糸を合撚して形成した合撚糸が用いられている、
請求項1に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項4】
前記嵩高糸のそれぞれは、直径が3~11μmであるガラス繊維の単繊維を1500~15000本集束したものである、
請求項1に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項5】
前記熱プレス用クッション材から取り出した前記ポリマー材料が付着した前記嵩高糸の強熱減量が、5~30%である、
請求項1から請求項4の何れか一つに記載の熱プレス用クッション材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱プレス用クッション材に関する。
【背景技術】
【0002】
銅張積層板、フレキシブルプリント基板、多層板等のプリント基板、ICカード、液晶表示板、セラミックス積層板、電子部品などの精密機器部品(以下、「積層板」と総称する)を製造する際には、プレス成形又は熱圧着などの熱プレスが行われる。
【0003】
図9は、プリント基板等をプレス成形又は熱圧着するプレス装置を説明するための図である。このプレス装置は、対向する一対の熱盤13、13を備える。一対の熱盤13、13は、プリント基板等を加熱・加圧する手段である。プレス装置は、一対の熱盤13、13で、積層板材料である被プレス材12を挟み込み、一定の圧力と熱とでプレスする。このとき、被プレス材12に加えられる熱と圧力とを全面に亘って均一化するために、熱盤13と被プレス材12との間には、平板状のクッション材11を介在させる。
図9では、クッション材11と被プレス材12との間には、ステンレス製の鏡面板14をさらに介在させている。
【0004】
クッション材11に要求される一般特性としては、熱盤13及び被プレス材12の持つ凹凸を吸収するクッション性、プレス面内全体に亘って熱盤13から被プレス材12に温度と圧力とを均一に伝達するための面内均一性、熱盤13から被プレス材12に効率良く熱を伝達するための熱伝達性、及び、プレス温度に耐えうる耐熱性等が挙げられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、経糸又は緯糸の少なくとも一方にガラス繊維からなる嵩高糸を用いた織布と、その織布に含浸されたゴムとからなる繊維-ゴム複合材料層を備えた熱プレス用クッション材が開示されている。この熱プレス用クッション材には、良好なクッション性が発揮されるように、繊維-ゴム複合材料層の内部に空隙が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、熱プレス用クッション材は繰り返し使用されるため、耐久性が要求される。また、
図9で説明したように、クッション材11(熱プレス用クッション材)は、被プレス材12をプレスする際に、熱盤13と共に用いられる。このため、クッション材11が厚いと、被プレス材12の厚みが制限されるため、クッション材11はより薄くすることが望まれる。また、被プレス材12への熱伝達性の観点からも、クッション材11の厚みは厚くしないことが望まれる。一方で、クッション材11を薄くすると、クッション性は低くなる。特許文献1には、厚みを厚くせずに、クッション性を高める熱プレス用クッション材については、開示されていない。
【0008】
本発明は、厚みを厚くすることなく、反復使用した場合でも良好なクッション性を維持できる熱プレス用クッション材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、
クッション部を有する熱プレス用クッション材であって、
前記クッション部は、
経糸又は緯糸の少なくとも一方にガラス繊維からなる嵩高糸を用いた織布と、
前記ガラス繊維の表面に付着させたポリマー材料と、
を含み、
前記嵩高糸は、前記ガラス繊維の単繊維を6000~100000本集束したものであり、
40kgf/cm2の加圧状態で、230℃の加熱を60分間行い、次いで冷却を15分間行った後、加圧を解除する条件で前記熱プレス用クッション材を100回繰り返し圧縮した後、230℃、0.01kgf/cm2の条件で前記熱プレス用クッション材を圧縮したときの厚みをt1、230℃、40kgf/cm2の条件で前記熱プレス用クッション材を圧縮したときの厚みをt2で表すと、下記(1)式から求められるFnが、300以上である、
熱プレス用クッション材。
Fn=(t1-t2)×1000/t2・・・(1)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、厚みを厚くすることなく、反復使用した場合でも良好なクッション性を維持できる熱プレス用クッション材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る熱プレス用クッション材を示す図である。
【
図2】
図2は、通常のガラス繊維糸を示す図である。
【
図3】
図3は、ガラス繊維からなる嵩高糸を示す図である。
【
図4】
図4は、他の実施形態に係る熱プレス用クッション材を示す図である。
【
図6】
図6は、他の実施形態に係る熱プレス用クッション材を示す図である。
【
図7】
図7は、他の実施形態に係る熱プレス用クッション材を示す図である。
【
図9】
図9は、プリント基板等をプレス成形又は熱圧着するプレス装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係る熱プレス用クッション材について詳しく説明する。
【0013】
[本実施形態に係る熱プレス用クッション材]
図1は、本実施形態に係る熱プレス用クッション材10を示す図である。
図1に示すように、熱プレス用クッション材10は、少なくともクッション部1を備える。クッション部1は、織布5と、織布5を構成する繊維の表面に付着させたポリマー材料6とで構成される、シート状のクッション部材(クッションシート)である。クッション部1は、内部に空隙7を含む。
【0014】
クッション部1において、織布5の経糸5a又は緯糸5bの少なくとも一方は、ガラス繊維からなる嵩高糸(texturized yarn)である。
図1においては、経糸5aが通常のガラス繊維糸、緯糸5bがガラス繊維の嵩高糸である。なお、経糸5aも、緯糸5bと同様に嵩高糸であってもよい。
【0015】
図2は、通常のガラス繊維糸1aを示す図である。
図3は、ガラス繊維からなる嵩高糸1bを示す図である。
【0016】
図2に示すガラス繊維糸1aは、単糸、複数の単繊維を集束させたロービング糸、又は、複数の単糸若しくはロービング糸を合撚した糸である。
図3に示す嵩高糸1bは、
図2に示すガラス繊維糸1aとは異なり、ガラス糸を構成する短繊維同士が平行状態ではなく、絡み合い、乱れた状態で引きそろえられた占有面積の大きな糸である。言い換えれば、嵩高糸1bは毛糸のような膨らみを持つので、嵩高糸1bを用いた織布は、通常の織布とは異なり内部に多くの空隙を含んでいる。クッション部1に空隙7が含まれることで、本実施形態に係る熱プレス用クッション材10は、クッション部1の厚みを厚くしなくても、良好なクッション性を発揮することができる。
【0017】
嵩高糸1bは、ガラス繊維の糸をバルキー加工して得られるバルキーヤーン(bulked yarn)である。バルキーヤーンは、糸の開繊を行ない、毛糸のような膨らみを持たせた加工糸である。
【0018】
また、嵩高糸1bとしては、バルキーヤーンのほか、ステープルヤーン(staple yarn)、スライバヤーン(sliver yarn)等を用いることができる。ステープルヤーンは、綿状のガラス短繊維を紡績して糸状にしたものである。スライバヤーンは、撚りのない嵩高の短繊維(スライバ:sliver)に撚りをかけて作る糸である。嵩高糸1bは、複数本(例えば4本)のガラス繊維糸を合撚した糸に、バルキー加工して得られる加工糸であってもよい。
【0019】
嵩高糸1bは、ガラス繊維の単繊維が3000本~100000本集束したものであることが好ましい。これは厚みを厚くすることなく、良好なクッション性と十分な耐久性とを得るためである。単繊維の本数は、4500本以上がより好ましく、6000本以上が更に好ましい。さらに、単繊維の本数は、80000本以下がより好ましく、60000本以下が更に好ましい。
【0020】
嵩高糸1bを構成するガラス繊維の単繊維の直径は、3~11μmであることが好ましい。これは、3μm未満は製造上加工が難しく単繊維の必要数が多くなってしまい、11μmよりも太い場合は繊維が折れやすくなってしまい特性に悪影響を及ぼすためである。また、嵩高糸が合撚糸である場合の撚り数は、少なすぎると耐久性に劣るおそれが多く、多すぎるとクッション性が低下するおそれがあるため、ガラス繊維の長さ1インチあたり0.1~10回が好ましく、0.5~5回がより好ましい。
【0021】
クッション部1はシート状物である。クッション部1の厚さは、小さすぎるとクッション性が損なわれるおそれがあり、厚すぎると熱伝達性に劣るおそれがある。このため、クッション部1の適切な厚さは、用途にもよるが、例えば、0.5~5.0mmの範囲で設定するのがよい。また、2層以上のクッション部1を積層して用いる場合には、合計厚さを0.5~5.0mmの範囲とするのがよい。
【0022】
図1に戻る。クッション部1において、織布5を構成する繊維の表面には、ポリマー材料6が付着している。ポリマー材料6は、嵩高糸の持つ空隙7、及び、織り目の空隙7に適度に入り込んでいるが、空隙7を完全には塞いでいないため、クッション部1には空隙7が残存している。このため、本実施形態に係る熱プレス用クッション材10は、良好なクッション性を発揮する。さらに、嵩高糸が織られており、織布の形状をとるので、不織布に比べて目付け精度が良好であり、面内均一性に優れたものとなる。また、織布の形状をとるので、不織布よりも厚みを小さくでき、熱伝達性にも優れたものとすることができる。
【0023】
ポリマー材料6としては、特に制限はないが、合成ゴム又は合成樹脂等を用いることができる。ポリマー材料6としては、具体的には、合成ゴムでは、フッ素ゴム、EPM、EPDM、水素化ニトリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム等を例示することができ、合成樹脂では、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等を例示することができる。ポリマー材料としては、プレス温度を超える熱分解温度(5%重量減少温度)と、ガラス転位温度とを持つものであることが好ましい。このような観点から、特に好ましいポリマー材料は、フッ素ゴムおよびポリイミド樹脂である。
【0024】
ポリマー材料は、ガラス繊維を保護するとともに繊維の接点(経糸と緯糸との接点のほか、嵩高糸を構成するフィラメント繊維同士の接点も含む)を結合している。このため、ポリマー材料6を用いた熱プレス用クッション材10は、熱プレスに反復使用した場合のガラス繊維の破損を低減し、織布5のいわゆるヘタリを抑止することができ、良好なクッション性を維持できる。
【0025】
(クッション部1のクッション性)
熱プレス用クッション材10を、230℃の温度、0.01kgf/cm2の加圧力で圧縮したときの厚みをt1とし、230℃の温度、40kgf/cm2の加圧力で圧縮したときの厚みをt2とするとき、熱プレス用クッション材10の厚みに対するクッション性Fnは、(t1-t2)×1000/t2で表すことができる。
【0026】
なお、熱プレス用クッション材10を、上記のプレス試験条件で圧縮した時の厚みt1、t2は、インストロン万能材料試験機(インストロン社製)、オートグラフ精密万能試験機(株式会社島津製作所製)などの圧縮機能を有する試験機によって測定することができる。
【0027】
本実施の形態に係る熱プレス用クッション材10は、40kgf/cm2の加圧状態で、230℃の加熱を60分間行い、次いで冷却を15分間行った後、加圧を解除する条件で、熱プレス用クッション材10を100回繰り返し圧縮した後、上記のようにして測定されたクッション性Fnが、300以上となるよう、構成されている。この範囲とすることで、熱プレス用クッション材10の厚みを厚くすることなく、十分なクッション性を付与することができる。Fn値のより好ましい範囲は420以上であり、更に好ましい範囲は450以上である。
【0028】
(嵩高糸の強熱減量)
織布5のヘタリを抑止して、熱プレス用クッション材10が良好な特性を維持するために、クッション部1の織布5を構成する繊維の表面には、ポリマー材料6を付着させている。ポリマー材料6の付着量は、強熱減量試験を行った際、熱プレス用クッション材10から取り出した、ポリマー材料6が付着した嵩高糸の強熱減量(LOI:Loss on Ignition)が、5~30質量%となるようにすることが好ましい。なお、強熱減量は、8質量%以上とすることがより好ましい。また、強熱減量は、25質量%以下とすることがより好ましい。強熱減量試験とは、熱プレス用クッション材10から取り出した嵩高糸を高温に加熱して、ポリマー材料6の成分の一部を揮発させた後の嵩高糸の重量変化を測定する試験である。
【0029】
強熱減量の試験方法としては、まず、熱プレス用クッション材から、5cm四方の正方形のサンプルを採取し、そのサンプルから嵩高糸を10本抜き取る。つまり、5cmの長さの嵩高糸を10本用意する。これら試料を十分に乾燥させた後、るつぼに入れた状態で秤量する。このときの重さをmaで表す。
【0030】
次に、試料を入れたるつぼをマッフル炉に入れ、約1時間、約650℃で加熱した後、試料を入れたるつぼを秤量する。このときの重さをmbで表す。
【0031】
るつぼの質量をmcで表すと、強熱減量LOIは、以下の式で表される。
LOI=(ma-mb)/(ma-mc)×100
【0032】
[他の実施形態に係る熱プレス用クッション材]
図4及び
図5は、上記実施形態で、織布5の経糸5a又は緯糸5bの少なくとも一方に用いた嵩高糸を、複数本の嵩高糸を合撚して構成した例を示す。この例では、複数本の嵩高糸を合撚して構成される嵩高糸を、嵩高糸複合撚糸と言う。
【0033】
図4は、他の実施形態に係る熱プレス用クッション材を示す図である。
図5は、嵩高糸複合撚糸1cを示す図である。
図4では、緯糸5bが嵩高糸複合撚糸1cであり、経糸5aが通常のガラス繊維糸である。なお、経糸5aも、緯糸5bと同様に嵩高糸複合撚糸であってもよい。
【0034】
一般的な合撚糸は、複数本の糸を撚り合せたものを意味するが、本発明の嵩高糸複合撚糸1cは、
図3に示す嵩高糸1bを複数本(
図4では3本)合撚して形成されたものを意味する。すなわち、本実施形態に用いる嵩高糸複合撚糸は、嵩高糸を複数本合撚するのであって、例えば合撚糸をさらに合撚し、最後にバルキー加工した嵩高糸とは明確に区別される。なお、嵩高糸複合撚糸1cを形成する複数本の嵩高糸1bそれぞれは、適度なクッション性及び十分な耐久性を得るために、ガラス繊維の単繊維を1000~15000本集束したものであることが好ましい。単繊維の本数は、1500本以上がより好ましく、2000本以上が更に好ましい。さらに、単繊維の本数は、12000本以下がより好ましく、10000本以下が更に好ましい。さらに、嵩高糸複合撚糸1cの撚り数は、例えば、嵩高糸の長さ1インチあたり1~4回とすることができる。嵩高糸1bを構成するガラス繊維糸の単繊維の直径は3~11μmであることが好ましい。これは、3μm未満は製造上加工が難しく単繊維の必要数が多くなってしまい、11μmよりも太い場合は繊維が折れやすくなってしまい特性に悪影響を及ぼすためである。
【0035】
織布5の経糸5a又は緯糸5bの少なくとも一方に嵩高糸複合撚糸1cを用いることで、良好なクッション性に加え、十分な耐久性を得ることができる。
【0036】
また、熱プレス用クッション材10は、少なくともクッション部1を備えておればよく、クッション部1のみであってもよい。熱プレス用クッション材10のクッション部1は、1層でもよいし、複数層でもよい。
【0037】
図6は、他の実施形態に係る熱プレス用クッション材10aを示す図である。
図6に示すように、熱プレス用クッション材10aにおいては、クッション部1の表面に接着層部3を介して、表層部2が積層されている。表層部2は、主として熱プレス用クッション材に離型性を付与するために設けられる。表層部2の材料としては、合成樹脂フィルムや、織布からなる基材の表面側に離型性樹脂を塗布したものなどが使用できる。特に、高温プレスに耐えるべく、高温使用時にも寸法安定性が少なく、変形、密着なく、離型性がよい材料を用いるのが好ましい。また、表層部2の厚さは、例えば、0.1~0.5mmとするのが好ましい。また、接着層部3としては、クッション部1と同じポリマー材料を用いるのがよい。
【0038】
図7は、他の実施形態に係る熱プレス用クッション材10bを示す図である。
図7に示すように、熱プレス用クッション材10bにおいては、2層のクッション部1が接着シート部4を介して積層されている。また、各クッション部1の上下の表面には、それぞれ接着層部3を介して表層部2が積層されている。クッション部1は、ガラス繊維製の織布にポリマー材料を含浸させて構成されているため、その厚さには限界があるが、このように2層のクッション部1を積層する構成であれば、クッション部1の総厚さをさらに厚くできるというメリットがある。また、クッション部1間の接着は、単に接着剤のみで行うこともできるが、この場合、クッション部1の織り目の隙間が接着剤で埋まり、クッション性が低下する場合がある。このため、接着シート部4を用いるのが好ましい。なお、接着シート部4は、例えば、通常のガラス繊維糸1aで構成される平織りの織布に接着剤を塗布した、シート状の接着層である。この接着剤としては、クッション部1と同様にポリマー材料を用いるのがよい。側面からの繊維ほつれ、毛羽の脱落を防ぐため、製造された熱プレス用クッション材の側面を耐熱樹脂で被覆してもよい。
【0039】
[実施形態に係る熱プレス用クッション材の製造方法]
まず、経糸又は緯糸の少なくとも一方が、嵩高糸である織布を用意する。織布の織り方には、限定はなく、例えば、平織り、綾織、その他の公知の織りを採用できる。
【0040】
次に、織布を構成する繊維の少なくとも表面にポリマー材料(フッ素ゴム又はポリイミド樹脂等)を付着させる。例えば、ポリマー材料がフッ素ゴムの場合、未加硫フッ素ゴムを所定の濃度で溶解してなる未加硫フッ素ゴム溶液に、織布を浸漬した後、十分に乾燥させることにより、織布を構成する繊維の表面にフッ素ゴムを付着させ、クッション部(クッションシート)1を作製することができる。また、ポリマー材料がポリイミド樹脂である場合、例えば、所定の濃度のポリイミド樹脂ワニスを織布に塗布し、十分に乾燥させることにより、織布を構成する繊維の表面にポリイミド樹脂を付着させ、クッション部(クッションシート)1を作製することができる。
【0041】
ポリマー材料の付着量は、例えば、20~300g/m2とするのがよい。ポリマー材料の付着量は、樹脂ロール、ゴムロール、金属ロール等にて絞ることにより調整することができる。
【0042】
また、ポリマー材料の付着量は、上記したように、強熱減量試験を行った際に、熱プレス用クッション材から取り出したポリマー材料が付着した嵩高糸の強熱減量が5~30質量%となるようにすることが好ましい。
【0043】
このようにして得られた、繊維の表面にポリマー材料が付着した織布は、繊維が固定され、カバーされた状態になるので、高温での使用においても、織布の形状、及び空隙を維持することできる。このため、繰り返し使用した場合でも、良好なクッション性が確保できる。
【0044】
熱プレス用クッション材が、表層部(表層シート)2を有する場合には、例えば、基材となるシートの表面側となる片面に表層部2となるポリイミド樹脂を塗布し、乾燥させた後、接着面側となる他の面に接着層部3となるフッ素ゴム又はポリイミド樹脂を塗布し、乾燥させて得た表層シートを用いることができる。
【0045】
熱プレス用クッション材が、接着シート部(接着シート)4を有する場合に、例えば、基材となるシートの両面にフッ素ゴム又はポリイミド樹脂を塗布し、乾燥して得た接着シート4を用いることができる。接着シート部4は、基材を有さないフィルムであってもよい。
【0046】
熱プレス用クッション材が、複数のシート状物を積層した構造の場合、クッション部1と、他のシート状物を積層し(例えば、表層部(表層シート)2、クッション部(クッションシート)1、接着シート部4、クッション部(クッションシート)1、表層部(表層シート)2を積層し)、熱プレスによって一体化させることによって製造することができる。
【0047】
本発明による熱プレス用クッション材は、プリント基板等の積層板の製造において、プレス成形又は熱圧着する際、従来と同様に
図9に示すような方法で使用することができる。すなわち、熱盤13と被プレス材12との間に、本実施の形態の熱プレス用クッション材10を介在させた状態で熱プレスを行うことにより、被プレス材12に加えられる熱と圧力とを全面に亘って均一化することができる。
【実施例1】
【0048】
以下、実施例、及び比較例のクッション材を製造し、クッション性を調査した結果、及び、強熱減量試験を行った結果を示す。なお、実施例1~4及び比較例1~2は表層シート及び接着シートを含んだ構成であり、比較例3は表層シート及び接着シートなどを含まず、クッションシートのみで構成されている。
(実施例1)
ガラスヤーン(Eガラス繊維、単繊維径6μm、単繊維総本数800本、番手67.5tex)を4本合撚しバルキー加工した嵩高糸を3本用意し、その3本の嵩高糸を合撚した嵩高糸複合撚糸(単繊維総本数9600本)を用意した。その嵩高糸複合撚糸を、織布の緯糸に用いた2重織りバルキーガラスクロスを、織布材料として用意した。そのガラスクロスにフッ素ゴムを含浸し、クッション基材とした。このクッション基材を2層分用意した。また、平織りガラスクロスの両面にフッ素ゴムをコーティングした接着シートを用意した。さらに、平織りガラスクロスの片面にポリイミド樹脂、反対面に接着用のフッ素ゴムをそれぞれ塗布した表層シートを2層分用意した。これらの材料を、上から表層シート、クッション基材、接着シート、クッション基材、表層シートの順に積層し、熱プレスにより一体化させて、熱プレス用クッション材のサンプルを得た。
【0049】
(実施例2)
ガラスヤーン(Eガラス繊維、単繊維径9μm、単繊維総本数400本、番手67.5tex)を用い、嵩高糸複合撚糸(単繊維総本数4800本)とした以外は、実施例1と同様の方法により熱プレス用クッション材を作製し、サンプルを得た。
【0050】
(実施例3)
ガラスヤーン(Eガラス繊維、単繊維径9μm、単繊維総本数7800本、番手1390tex)をバルキー加工した嵩高糸を、織布の緯糸に用いた2重織りバルキーガラスクロスを、織布材料として用意した。すなわち、用いた嵩高糸は合撚しておらず、さらに嵩高糸複合撚糸としていない。この2重織りバルキーガラスクロスを用いて、実施例1と同様の構成とした熱プレス用クッション材のサンプルを得た。
【0051】
(実施例4)
実施例1と同じガラスヤーンを2本合撚した糸を、4本合撚して得られた糸(単繊維総本数6400本)にバルキー加工した嵩高糸を用意した。すなわち、嵩高糸を合撚した嵩高糸複合撚糸とするのではなく、合撚した糸にバルキー加工を施し、嵩高糸とした。その嵩高糸を、織布の緯糸に用いた2重織りバルキーガラスクロスを、織布材料として用意した。この2重織りバルキーガラスクロスを用いて、実施例1と同様の構成とした熱プレス用クッション材のサンプルを得た。
【0052】
(比較例1)
実施例1と同じガラスヤーンを4本合撚しバルキー加工した嵩高糸(単繊維総本数3200本)を、織布の緯糸に用いた2重織りバルキーガラスクロスを、織布材料として用意した。すなわち、用いた嵩高糸は嵩高糸複合撚糸としていない。そのガラスクロスにフッ素ゴムを含浸し、クッション基材とした。このクッション基材を6層分用意した。また、実施例1と同様の接着シートを5層分用意した。さらに、実施例1と同様の表層シートを2層分用意した。これらの材料を、上から表層シート、クッション基材、接着シート、クッション基材、接着シート、クッション基材、接着シート、クッション基材、接着シート、クッション基材、接着シート、クッション基材、表層シートの順に積層し、熱プレスにより一体化させて、熱プレス用クッション材のサンプルを得た。
【0053】
(比較例2)
クッション基材として、目付重量が450g/m2のポリメタフェニレンイソフタラミド製不織布を用いた。3層のクッション基材と、2層の実施例1で用いたものと同じ接着シートと、2層の実施例1で用いたものと同じ表層シートを用い、上から表層シート、クッション基材、接着シート、クッション基材、接着シート、クッション基材、表層シートの順に積層し、熱プレスにより一体化させて、熱プレス用クッション材のサンプルを得た。
【0054】
(比較例3)
目付重量が190g/m2のクラフト紙を20枚重ねて、熱プレス用クッション材のサンプルを得た。
【0055】
各種熱プレス用クッション材について下記の要領でプレス耐久性試験を行い、試験前後の厚さ、及びクッション性の変化を測定した。その結果を表1に示す。
[プレス耐久性試験条件]
加圧力 :40kgf/cm2
加圧時間:75分
温度 :230℃
加熱時間:60分(30分間で25℃から所定温度まで昇温し、その状態を30分間保持)
冷却時間:15分
サンプルサイズ:280mm角
プレス機:150tテストプレス機(関西ロール株式会社製)
【0056】
(クッション性の評価方法)
各種サンプルについて、プレス前、並びに、1回、10回、50回、100回、及び200回のプレス後それぞれでのクッション性を評価した。なお、比較例5のサンプルについては、プレスの繰り返しに耐えられる熱プレス用クッション材ではないため、プレスは1回のみとした。各種サンプルに、下記の加圧試験を行った。そして、0.01kgf/cm
2の加圧力で圧縮したときの厚みt
1と、40kgf/cm
2の加圧力で圧縮したときの厚みt
2との差(μm)により圧縮クッション性Fnを求めた。その結果を表1に示す。
図8は、表1をグラフ化したものである。
加圧力 :40kgf/cm
2
温度 :230℃
予熱 :0.05kgf/cm
2の加圧条件で2分間
加圧速度:1mm/min
サンプルサイズ :25mmφ
サンプル採取位置:耐久性試験用サンプルの、端から5cm以上離れた位置から1か所
試験装置:インストロン万能材料試験機 5565型(インストロン ジャパン カンパニィリミテッド製)
【0057】
なお、クッション性は、Fn値が300以上のものを良好として評価した。
【0058】
【0059】
また、各種熱プレス用クッション材について強熱減量試験を行い、試験後の強熱減量を測定した。その結果を表1に併記した。なお、強熱減量試験は、織布を用いている実施例1~4と、比較例1とについて行った。
【0060】
表1に示すように、本発明の条件を満たす実施例1~4においては、100回プレスを行った場合であっても、Fnが300以上であり、厚みに対するクッション性が良好な状態を維持していた。一方、比較例1では、複数回のプレスを実施してもクッション性が低下しにくく、耐久性の面では優れているものの、クッション性自体が低い結果となった。比較例3では、クッション性も耐久性も低い結果となった。また、比較例2は、初期においては、厚みに対するクッション性は高いものの、一回の試験でもクッション性が極端に低下し、50回のプレスでFnが300を下回る結果となり、繰り返し使用した場合に安定したクッション性が得られないものであった。
【0061】
また、表1に示すように、本発明の条件を満たす実施例1~4においては、強熱減量(LOI)が5~30質量%となっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、厚みを厚くすることなく、反復使用した場合でも良好なクッション性を維持できる熱プレス用クッション材を提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 クッション部
1a ガラス繊維糸
1b 嵩高糸
1c 嵩高糸複合撚糸
2 表層部
3 接着層部
4 接着シート部
5 織布
5a 経糸
5b 緯糸
6 ポリマー材料
7 空隙
10 熱プレス用クッション材
11 クッション材
12 被プレス材
13 熱盤
14 鏡面板