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  • 特許-ボイラの気水分離装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】ボイラの気水分離装置
(51)【国際特許分類】
   B04C 5/04 20060101AFI20240226BHJP
   F22B 37/32 20060101ALI20240226BHJP
   B01D 45/12 20060101ALI20240226BHJP
   B04C 5/103 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
B04C5/04
F22B37/32 Z
B01D45/12
B04C5/103
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019203630
(22)【出願日】2019-11-11
(65)【公開番号】P2021074679
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000154668
【氏名又は名称】株式会社ヒラカワ
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉井 悦二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】川端 朋子
(72)【発明者】
【氏名】木下 正成
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-028740(JP,U)
【文献】実開平05-002748(JP,U)
【文献】特開昭60-238602(JP,A)
【文献】特開2019-109031(JP,A)
【文献】実開昭60-115565(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 45/00-45/18
B04C 1/00-11/00
F22B 37/00-37/78
B01D 8/00
B01D 53/00-53/96
G21C 15/16
F25B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラの缶体にて発生した、蒸気と熱水との気液混合流体を受け入れて、これら蒸気と熱水とを気液分離させるための装置であって、
上下方向の円筒状の容器を備え、
ボイラの缶体にて発生した蒸気と熱水との気液混合流体を前記容器に供給するために前記容器に接続された横方向の蒸気管を備え、
前記蒸気管は、前記容器に対し、前記容器の中心軸に向かう位置から離れた偏心位置において、前記円筒状の容器の接線方向と平行な方向に接続されており、
前記円筒状の容器は、前記蒸気管の接続位置よりも上側の位置において隔壁によって上下に区画されており、
前記隔壁の中央部に、前記容器の内径よりも小径でオリフィスとして機能する貫通穴が形成されているとともに、前記隔壁は、前記貫通穴以外の貫通状態の穴を有しない構成とされ、
前記隔壁の下部に、前記貫通穴を囲む筒状体が上下方向に設置されており、
前記上下方向の筒状体は、前記蒸気管よりも上側に設けられるとともに、下端に開口を有し、かつ下端の開口以外には、前記隔壁よりも下側における前記容器の内部と前記筒状体の内部とを連通する連通路を有しないことを特徴とするボイラの気水分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラの気水分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラには気水分離装置が設置されることが通例である。すなわち、ボイラは缶体の内部において缶水を沸騰させることによって水蒸気を発生させるものであるが、ボイラから取り出される発生水蒸気には、沸騰に伴うと飛び跳ねによって熱水が含まれることが避けられない。すなわち、ボイラからは蒸気と熱水との気液混合流体が取り出される。このため上記のように気水分離器を設置し、この気水分離器の中で気液混合流体における蒸気と熱水とを分離して、乾いた状態の蒸気だけを系外に排出して需要先へ供給する。分離された熱水は、缶体に戻すか、あるいはドレンとして排出させることが行われている(特許文献1)。
【0003】
公知の気水分離器は上下方向に円筒状の容器にて構成され、この容器に対して缶体からの蒸気管が横方向に接続され、容器の内部では比重差によって蒸気と熱水とが分離される。分離された軽量の蒸気は、容器の上部から外部へ排出されて需要先へ供給される。蒸気よりも重い熱水は、蒸気から分離されて容器の下部に溜り、容器から取り出されて、ボイラの缶体に戻されるか、あるいはドレンとして排出される。
【0004】
そして公知の気水分離器では、上下方向に円筒状の容器の中心軸と、横方向の蒸気管の中心軸とが交差するようにして、好ましくはこれらの中心軸が直交するようにして、容器と蒸気管とが相互に組み立てられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭52-93802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、一般的な気水分離器では、ボイラ負荷が急変した場合や、缶内水位が高い場合には、気水分離器内に流入する気液混合流体の量が増大する。すると、分離機能が低下して、乾き度の低い蒸気しか発生しなくなる。極端な場合には、蒸気に水が混入したキャリーオーバーの状態でボイラからの取り出しが行われてしまうこともある。
【0007】
そこで本発明は、このような課題を解決して、ボイラ負荷が急変した場合や、缶内水位が高い場合であっても、キャリーオーバーの発生を防止し、乾き度の高い良質な蒸気を得ることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため本発明のボイラの気水分離装置は、
ボイラの缶体にて発生した、蒸気と熱水との気液混合流体を受け入れて、これら蒸気と熱水とを気液分離させるための装置であって、
上下方向の円筒状の容器を備え、
ボイラの缶体にて発生した蒸気と熱水との気液混合流体を前記容器に供給するために前記容器に接続された横方向の蒸気管を備え、
前記蒸気管は、前記容器に対し、前記容器の中心軸に向かう位置から離れた偏心位置において、前記円筒状の容器の接線方向と平行な方向に接続されており、
前記円筒状の容器は、前記蒸気管の接続位置よりも上側の位置において隔壁によって上下に区画されており、
前記隔壁の中央部に、前記容器の内径よりも小径でオリフィスとして機能する貫通穴が形成されているとともに、前記隔壁は、前記貫通穴以外の貫通状態の穴を有しない構成とされ、
前記隔壁の下部に、前記貫通穴を囲む筒状体が上下方向に設置されており、
前記上下方向の筒状体は、前記蒸気管よりも上側に設けられるとともに、下端に開口を有し、かつ下端の開口以外には、前記隔壁よりも下側における前記容器の内部と前記筒状体の内部とを連通する連通路を有しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、横方向の蒸気管が、上下方向の円筒状の容器に対し、同容器の中心軸に向かう位置から離れた偏心位置において、同円筒状の容器の接線方向と平行な方向に接続されているため、蒸気と熱水との比重差にもとづく気液分離を行うことができることのほかに、容器の内部において気液混合流体の旋回流を発生させることができ、これにより遠心力の作用による気液分離を行うこともできるため、公知の気液分離装置と比べて気液分離性能を向上させることができ、したがってボイラ負荷が急変した場合や、缶内水位が高い場合であっても、キャリーオーバーの発生を防止し、乾き度の高い良質な蒸気を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態のボイラの気水分離装置を備えたボイラ装置の構成を示す図である。
図2図1における要部の断面構造を示す横断面図である。
図3図1における要部の断面構造を示す縦断面図である。
図4】本発明の実施の形態のボイラの気水分離装置についての公知の装置と比べた優位性を示す実験結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1において、10はボイラの缶体であって、内部に缶水を貯留しているとともに、その上端に設けられたバーナ11によって燃料を燃焼させることで缶水を蒸発させて蒸気を得るものである。12は燃焼室、13はバーナ11からの火炎、14は燃焼排ガスの排出路である。図示は省略するが、缶体10の内部における上側の部分は気相すなわち蒸気が充満しており、缶体10の内部における下側の部分は液相すなわち缶水が貯留されている。15は缶体10への給水路で、缶体10における上述の液相の部分すなわち下側の部分に接続されている。
【0014】
缶体10の外側には気水分離器16が設けられている。この気水分離器16は、缶体10から排出される沸騰状態の気水混合流体を受け入れ、この混合流体を蒸気Sと熱水Wとに分離し、分離された蒸気Sを系外に供給し、また熱水Wを缶体10の内部に戻すものである。気水分離器16は、上下方向の円筒状の容器17と、蒸気管18とを備えている。蒸気管18は、缶体10における上側の気相部と、容器17における高さ方向の中央部分とを連通させている。そして蒸気管18は、容器17に対して横向きに接続されている。気水分離器16において、19は降水管で、容器17の底部と、缶体10における液相の部分とを連通させている。気水分離器16にて分離された蒸気Sは、容器17の上部から系外へ排出される。気水分離器16にて分離された熱水Wは、容器の17底部を通って降水管19へ導かれる。
【0015】
図1図3に示すように、蒸気管18は、容器17に対し、容器17における上下方向の中心軸20に向かう位置から離れた偏心位置において、円筒状の容器17の接線方向と平行な方向に接続されている。
【0016】
また図1図3に示すように、上下方向の円筒状の容器17は、蒸気管18の接続位置よりも上側の位置において、横方向の隔壁21によって上下に区画されている。隔壁21には、その中央部に、容器17の内径よりも小径の貫通穴22が形成されている。隔壁21よりも上側の空間は、蒸気溜めとして機能する。
【0017】
隔壁21の下部には、この隔壁21の下面23から下向きに突出する筒状体24が設置されている。筒状体24は、貫通穴22を囲むように形成されており、その内径は貫通穴22の内径と同径とされている。
【0018】
図示の構成についての寸法関係を説明する。蒸気管18の内径をD1、容器17の内径をD2、貫通穴22および筒状体24の内径をD3とする。また蒸気管18の長さ方向に沿った中心25の位置から隔壁21の下面23までの距離をH1、隔壁21の下面23から筒状体24の先端までの突出高さをH2とする。
【0019】
このとき、
D2=1.25×D1~4×D1
D3=0.2×D2~0.8×D2
H1=1×D1~3×D1
H2=0.5×D3~2×D3
という寸法関係が成立することが好ましい。その理由は後述する。
【0020】
上記した構成の気水分離装置によれば、蒸発管18が円筒状の容器17に対して偏心状態で接続されているため、図2および図3に示すように、蒸気管18から容器17に導入された気液混合流体26は、容器17の中心軸20のまわりの旋回流となる。このため、容器17の内部においては、公知の気液分離装置の場合と同様の蒸気Sと熱水Wとの比重差にもとづく気液分離を行うことができるほかに、図示した気液混合流体26の旋回流によって、遠心力の作用にもとづく気液分離をも行うことができる。このため、比重差にもとづく気液分離だけを行う公知の気液分離装置と比べて、気液分離性能を向上させることができる。
【0021】
さらに、容器17の内部には蒸気管18の接続位置よりも上側の位置において隔壁21が設けられており、この隔壁21の中央部に、容器17の内径よりも小径の貫通穴22が形成されているため、この貫通穴22はオリフィスとして機能することになる。その結果、図3に示すように、隔壁21よりも下側における貫通穴22の近傍の位置において、すなわち気液混合流体26の旋回流の中心の部分において、それ以外の位置よりも圧力の低い低圧部27を形成することができる。この低圧部27では、他の部分に比べて蒸気Sの乾き度が高められる。
【0022】
また、図示の構成であると隔壁21よりも下側において気液混合流体26についての気液分離が行われ、分離された熱水Wは隔壁21よりも下側へ降水するが、そのときに容器17の内面に衝突する熱水の液滴が存在する。この点に関し、図示の構成では、隔壁21の下側に所定の突出高さH2の筒状体24が設けられているため、容器17の内面に衝突して跳ね返った熱水Wの液滴が貫通穴22に入り込み、この貫通穴22を通過して隔壁21よりも上側の、容器17から排出されるべき蒸気Sが溜まった部分に到達することを、効果的に防止することができる。この点からも気液分離性能の向上を図ることができる。なお、隔壁21自体も、跳ね返った熱水の液滴が、隔壁21よりも上側の部分に入り込むことを阻止可能である。
【0023】
このように本実施の形態のボイラの気液分離装置によれば、公知の気液分離装置に比べて気液分離性能を向上させることができ、また貫通穴22による蒸気の乾き度の向上効果を得ることもできる。その結果、公知の気水分離装置よりも乾き度が高められた蒸気Sを得ることができる。
【0024】
図4は、図1図3に示される本発明の実施の形態のボイラの気液分離装置と、同実施の形態のような旋回流発生手段も貫通穴付きの隔壁も有しない公知の気液分離装置とについて、これらの気液分離装置へ供給される気液混合流体の蒸気圧力(横軸)が変動したときの、気液分離された蒸気の乾き度(縦軸)の測定結果を示すグラフである。このグラフに示されたとおり、本発明の実施の形態のボイラの気液分離装置によれば、0.80MPa以上の蒸気圧力のときに、公知の気液分離装置により得られた蒸気よりも乾き度がいっそう100%に近付いている。また、公知の気液分離装置では、蒸気圧力が0.80MPaよりも低くなると乾き度が極端に低下しているが、本発明の実施の形態のボイラの気液分離装置によれば、蒸気圧力が0.50MPa程度まで低下しても100%に近い乾き度を確保している。
【0025】
上記した各部の寸法D1、D2、D3、H1、H2の関係について詳細に説明する。蒸気管18の内径D1に比べて容器17の内径D2が1.25×D1未満であると、容器17の内部で気水が容器17の壁に衝突し、それによって、気水分離が行われずに水滴が飛散するという弊害が生じやすい。また容器17の内径D2が4×D1を超えると、気液混合流体26による容器17の中心軸20のまわりの旋回流の流速が低下して、その旋回力も低下するという弊害が生じやすい。貫通穴22および筒状体24の内径D3が0.2×D2未満であると、それらの内径が小さ過ぎて、不要な圧力損失が発生する可能性がある。また内径D3が0.8×D2を超えると、熱水Wをせき止める効果が低減して、熱水Wの液滴が隔壁21よりも上側に入り込んでしまう可能性がある。蒸気管18の中心25の位置から隔壁21の下面23までの距離H1が1×D1未満であると、蒸気管18から容器17に流入した気液混合流体が隔壁21に衝突し、跳ね返った水滴が飛散して蒸気とともに筒状体24に入り込んでしまうという弊害が生じやすい。また距離H1が3×D1を超えると、旋回流が、筒状体24の近傍で発生せずに筒状体よりもかなり下側で発生することになるため、容器17の中心軸20の近傍すなわち筒状体24の設置位置でも気液混合流体26が存在することになってしまうという弊害が生じやすい。隔壁21の下面23から筒状体24の先端までの突出高さH2が0.5×D3未満であると、筒状体24を設けた意義が低下して、容器17の内面に衝突して跳ね返った熱水Wの液滴が貫通穴22へ入り込むことを阻止しにくくなる。反対に突出高さH2が2×D3を超えると、却って熱水Wの液滴が筒状体24に入り込みやすくなってしまう。また、突出高さH2があまりに高すぎると、蒸気管18から容器17の内部に供給された気液混合流体が筒状体24に当たってしまって、旋回流を発生しづらくなり、その分だけ気液分離性能が低下することになってしまう。
【0026】
なお、容器の中心軸20から蒸気管の中心25までの距離H3には制約は無く、発生させるべき旋回流の程度に応じて適宜に設定することができる。
【符号の説明】
【0027】
10 缶体
17 容器
18 蒸気管
20 中心軸
21 隔壁
22 貫通穴
24 筒状体
26 気液混合流体
S 蒸気
W 熱水
図1
図2
図3
図4