(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】有機化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/18 20060101AFI20240226BHJP
C07C 31/12 20060101ALI20240226BHJP
C07C 27/02 20060101ALI20240226BHJP
C07C 31/10 20060101ALI20240226BHJP
C07C 31/125 20060101ALI20240226BHJP
C07C 69/14 20060101ALI20240226BHJP
C07C 67/08 20060101ALI20240226BHJP
C07C 69/618 20060101ALI20240226BHJP
C07C 67/343 20060101ALI20240226BHJP
C07C 49/217 20060101ALI20240226BHJP
C07C 45/74 20060101ALI20240226BHJP
C07C 49/255 20060101ALI20240226BHJP
C08F 2/16 20060101ALI20240226BHJP
C07D 317/12 20060101ALI20240226BHJP
C07D 317/72 20060101ALI20240226BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240226BHJP
【FI】
B01J19/18
C07C31/12
C07C27/02
C07C31/10
C07C31/125
C07C69/14
C07C67/08
C07C69/618
C07C67/343
C07C49/217
C07C45/74
C07C49/255 B
C08F2/16
C07D317/12
C07D317/72
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020172773
(22)【出願日】2020-10-13
(62)【分割の表示】P 2020529779の分割
【原出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/047984
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/047985
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/007646
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595111804
【氏名又は名称】エム・テクニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】榎村 眞一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 健司
(72)【発明者】
【氏名】竹田 一貴
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0282440(US,A1)
【文献】特開2011-189348(JP,A)
【文献】国際公開第2018/069997(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/220719(WO,A1)
【文献】特開2016-087485(JP,A)
【文献】特開2005-279619(JP,A)
【文献】特表2011-500618(JP,A)
【文献】特開平05-200260(JP,A)
【文献】特開2006-239638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00-19/32
C07B
C07C
C07D
C08F 2/16
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物の製造方法であって、
前記製造方法に用いる流体処理装置は、
接近及び離反が可能な相対的に回転する少なくとも二つの処理用面
を1mm以下の間隔に維持し、この間隔に形成される薄膜流体中で被処理流動体を処理する上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置され、前記上流側処理部で処理された前記被処理流動体を滞留させ撹拌する機能を果たす複数のラビリンスシールを設けた下流側処理部とを備え、
前記下流側処理部は、円筒型受容部とこれに受容される円柱部とを備え、
前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方が回転することにより、前記円筒型受容部と前記円柱部とが相対的に回転し、
前記ラビリンスシールは狭溢なシール空間から構成され、
前記下流側処理部は滞留空間を備え、前記滞留空間は前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い空間であり、
前記上流側処理部からの前記被処理流動体の上流側流出口が前記滞留空間に開口し、
前記円筒型受容部と前記円柱部のうちの少なくとも一方に複数の突起部を備え、
前記突起部は前記円筒型受容部の周壁部の内周面から前記円柱部に向けて径方向内側に突出する又は前記突起部は前記円柱部の外周面から前記円筒型受容部に向けて径方向外側に突出し、
前記突起部の先端と前記円柱部の外周面との間又は前記突起部の先端と前記円筒型受容部の周壁部の内周面との間に前記シール空間が形成され、前記突起部が設けられていない前記円筒型受容部の周壁部の内周面と前記円柱部の外周面との間又は前記突起部が設けられていない前記円柱部の外周面と前記円筒型受容部の周壁部の内周面との間に前記滞留空間が形成され、
前記被処理流動体を前記上流側処理部を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理を行なうとともに、
前記上流側処理が行われた前記被処理流動体を前記下流側処理部を通過させることにより、前記上流側処理が行われた前記被処理流動体に対する下流側処理を行うものであり、
前記上流側処理と前記下流側処理とを連続して行う
ものであり、
前記被処理流動体は、少なくとも1種類の有機化合物を含有する流体を含む、少なくとも2つの流体であり、
前記上流側処理と前記下流側処理とによって有機反応がなされるものであり、
前記上流側処理として、主として分子拡散による前記被処理流動体の混合が行われながらあるいは行われた後反応処理がなされるか、主として分子拡散による前記被処理流動体の混合が行われ、
前記下流側処理とは、前記上流側処理がなされた後の反応の処理であって、反応を進行させ反応生成物を得る処理であり、
前記上流側処理部で処理された前記被処理流動体の前記滞留空間での滞留と、その後の前記被処理流動体の前記シール空間の通過とが繰り返し行われ、前記シール空間を通過する前記被処理流動体は層流となり、前記滞留空間で滞留する前記被処理流動体は乱流となり、前記滞留空間での滞留中の前記被処理流動体に対して撹拌作用が加えられることを特徴とする有機化合物の製造方法。
【請求項2】
有機化合物の製造方法であって、
前記製造方法に用いる流体処理装置は、接近及び離反が可能な相対的に回転する少なくとも二つの処理用面を1mm以下の間隔に維持し、この間隔に形成される薄膜流体中で被処理流動体を処理する上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置され、前記上流側処理部で処理された前記被処理流動体を滞留させ撹拌する機能を果たす複数のラビリンスシールを設けた下流側処理部とを備え、
前記下流側処理部は、円筒型受容部とこれに受容される円柱部とを備え、
前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方が回転することにより、前記円筒型受容部と前記円柱部とが相対的に回転し、
前記ラビリンスシールは狭溢なシール空間から構成され、
前記下流側処理部は滞留空間を備え、前記滞留空間は前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い空間であり、
前記上流側処理部からの前記被処理流動体の上流側流出口が前記滞留空間に開口し、
前記円筒型受容部と前記円柱部のうちの少なくとも一方に複数の突起部を備え、
前記突起部は前記円筒型受容部の底面の内面から前記円柱部に向けて上方向に突出する又は前記突起部は前記円柱部の下面から前記円筒型受容部に向けて下方向に突出し、
前記突起部の先端と前記円柱部の下面との間又は前記突起部の先端と前記円筒型受容部の底面の内面との間に前記シール空間が形成され、前記突起部が設けられていない前記円筒型受容部の底部の内面と前記円柱部の下面との間又は前記突起部が設けられていない前記円柱部の下面と前記円筒型受容部の底部の内面との間に滞留空間を形成され、
前記被処理流動体を前記上流側処理部を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理を行なうとともに、
前記上流側処理が行われた前記被処理流動体を前記下流側処理部を通過させることにより、前記上流側処理が行われた前記被処理流動体に対する下流側処理を行うものであり、
前記上流側処理と前記下流側処理とを連続して行うものであり、
前記被処理流動体は、少なくとも1種類の有機化合物を含有する流体を含む、少なくとも2つの流体であり、
前記上流側処理と前記下流側処理とによって有機反応がなされるものであり、
前記上流側処理として、主として分子拡散による前記被処理流動体の混合が行われながらあるいは行われた後反応処理がなされるか、主として分子拡散による前記被処理流動体の混合が行われ、
前記下流側処理とは、前記上流側処理がなされた後の反応の処理であって、反応を進行させ反応生成物を得る処理であり、
前記上流側処理部で処理された前記被処理流動体の前記滞留空間での滞留と、その後の前記被処理流動体の前記シール空間の通過とが繰り返し行われ、前記シール空間を通過する前記被処理流動体は層流となり、前記滞留空間で滞留する前記被処理流動体は乱流となり、前記滞留空間での滞留中の前記被処理流動体に対して撹拌作用が加えられることを特徴とする有機化合物の製造方法。
【請求項3】
有機化合物の製造方法であって、
前記製造方法に用いる流体処理装置は、接近及び離反が可能な相対的に回転する少なくとも二つの処理用面を1mm以下の間隔に維持し、この間隔に形成される薄膜流体中で被処理流動体を処理する上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置され、前記上流側処理部で処理された前記被処理流動体を滞留させ撹拌する機能を果たす複数のラビリンスシールを設けた下流側処理部とを備え、
前記下流側処理部は、円筒型受容部とこれに受容される円柱部とを備え、
前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方が回転することにより、前記円筒型受容部と前記円柱部とが相対的に回転し、
前記ラビリンスシールは狭溢なシール空間から構成され、
前記下流側処理部は滞留空間を備え、前記滞留空間は前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い空間であり、
前記上流側処理部からの前記被処理流動体の上流側流出口が前記滞留空間に開口し、
前記円筒型受容部の周壁部の内周面から前記円柱部に向けて径方向内側に突出する複数の前記円筒型受容部に備えられた突起部と、前記円柱部の周壁部の外周面から前記円筒型受容部に向けて径方向外側に突出する複数の前記円柱部に備えられた突起部と、を備え、
前記円筒型受容部に備えられた前記突起部と前記円柱部に備えられた前記突起部とは対向して配置され、
前記円筒型受容部に備えられた前記突起部の先端と前記円柱部に備えられた前記突起部の先端との間に前記シール空間が形成され、前記突起部が設けられていない前記円筒型受容部の周壁部の内周面と前記突起部が設けられていない前記円柱部の周壁部の外周面との間に前記滞留空間が形成され、
前記被処理流動体を前記上流側処理部を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理を行なうとともに、
前記上流側処理が行われた前記被処理流動体を前記下流側処理部を通過させることにより、前記上流側処理が行われた前記被処理流動体に対する下流側処理を行うものであり、
前記上流側処理と前記下流側処理とを連続して行うものであり、
前記被処理流動体は、少なくとも1種類の有機化合物を含有する流体を含む、少なくとも2つの流体であり、
前記上流側処理と前記下流側処理とによって有機反応がなされるものであり、
前記上流側処理として、主として分子拡散による前記被処理流動体の混合が行われながらあるいは行われた後反応処理がなされるか、主として分子拡散による前記被処理流動体の混合が行われ、
前記下流側処理とは、前記上流側処理がなされた後の反応の処理であって、反応を進行させ反応生成物を得る処理であり、
前記上流側処理部で処理された前記被処理流動体の前記滞留空間での滞留と、その後の前記被処理流動体の前記シール空間の通過とが繰り返し行われ、前記シール空間を通過する前記被処理流動体は層流となり、前記滞留空間で滞留する前記被処理流動体は乱流となり、前記滞留空間での滞留中の前記被処理流動体に対して撹拌作用が加えられることを特徴とする有機化合物の製造方法。
【請求項4】
有機化合物の製造方法であって、
前記製造方法に用いる流体処理装置は、接近及び離反が可能な相対的に回転する少なくとも二つの処理用面を1mm以下の間隔に維持し、この間隔に形成される薄膜流体中で被処理流動体を処理する上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置され、前記上流側処理部で処理された前記被処理流動体を滞留させ撹拌する機能を果たす複数のラビリンスシールを設けた下流側処理部とを備え、
前記下流側処理部は、円筒型受容部とこれに受容される円柱部とを備え、
前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方が回転することにより、前記円筒型受容部と前記円柱部とが相対的に回転し、
前記ラビリンスシールは狭溢なシール空間から構成され、
前記下流側処理部は滞留空間を備え、前記滞留空間は前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い空間であり、
前記上流側処理部からの前記被処理流動体の上流側流出口が前記滞留空間に開口し、
前記円筒型受容部と前記円柱部のうちの少なくとも一方に複数の突起部を備え、
前記突起部は前記円筒型受容部の周壁部の内周面から前記円柱部に向けて径方向内側に突出する又は前記突起部は前記円柱部の外周面から前記円筒型受容部に向けて径方向外側に突出し、
前記突起部の先端と前記円柱部の外周面との間又は前記突起部の先端と前記円筒型受容部の周壁部の内周面との間に前記シール空間が形成され、前記突起部が設けられていない前記円筒型受容部の周壁部の内周面と前記円柱部の外周面との間又は前記突起部が設けられていない前記円柱部の外周面と前記円筒型受容部の周壁部の内周面との間に前記滞留空間が形成され、
前記被処理流動体を前記上流側処理部を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理を行なうとともに、
前記上流側処理が行われた前記被処理流動体を前記下流側処理部を通過させることにより、前記上流側処理が行われた前記被処理流動体に対する下流側処理を行うものであり、
前記上流側処理と前記下流側処理とを連続して行うものであり、
前記少なくとも二つの処理用面の相対的な回転により、前記上流側処理部を通過する前記被処理流動体にせん断力を加えるものであり、
前記被処理流動体は、少なくとも1種類の有機化合物を含有する流体を含む、少なくとも2つの流体であり、
重合性の単量体を少なくとも1つ含む流体と、
前記単量体と互いに混ざり合わない媒体に、前記単量体を前記媒体中に乳化させる乳化剤または前記単量体を前記媒体中に分散させる分散剤を少なくとも1つ含む流体と、
を前記被処理流動体とし、
前記上流側処理部にて前記上流側処理として乳化工程または分散工程を実施し、前記下流側処理部にて前記下流側処理として重合工程を実施することで重合体を得るものであり、
前記上流側処理部で処理された前記被処理流動体の前記滞留空間での滞留と、その後の前記被処理流動体の前記シール空間の通過とが繰り返し行われ、前記シール空間を通過する前記被処理流動体は層流となり、前記滞留空間で滞留する前記被処理流動体は乱流となり、前記滞留空間での滞留中の前記被処理流動体に対して撹拌作用が加えられることを特徴とする有機化合物の製造方法。
【請求項5】
有機化合物の製造方法であって、
前記製造方法に用いる流体処理装置は、接近及び離反が可能な相対的に回転する少なくとも二つの処理用面を1mm以下の間隔に維持し、この間隔に形成される薄膜流体中で被処理流動体を処理する上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置され、前記上流側処理部で処理された前記被処理流動体を滞留させ撹拌する機能を果たす複数のラビリンスシールを設けた下流側処理部とを備え、
前記下流側処理部は、円筒型受容部とこれに受容される円柱部とを備え、
前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方が回転することにより、前記円筒型受容部と前記円柱部とが相対的に回転し、
前記ラビリンスシールは狭溢なシール空間から構成され、
前記下流側処理部は滞留空間を備え、前記滞留空間は前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い空間であり、
前記上流側処理部からの前記被処理流動体の上流側流出口が前記滞留空間に開口し、
前記円筒型受容部と前記円柱部のうちの少なくとも一方に複数の突起部を備え、
前記突起部は前記円筒型受容部の底面の内面から前記円柱部に向けて上方向に突出する又は前記突起部は前記円柱部の下面から前記円筒型受容部に向けて下方向に突出し、
前記突起部の先端と前記円柱部の下面との間又は前記突起部の先端と前記円筒型受容部の底面の内面との間に前記シール空間が形成され、前記突起部が設けられていない前記円筒型受容部の底部の内面と前記円柱部の下面との間又は前記突起部が設けられていない前記円柱部の下面と前記円筒型受容部の底部の内面との間に滞留空間を形成され、
前記被処理流動体を前記上流側処理部を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理を行なうとともに、
前記上流側処理が行われた前記被処理流動体を前記下流側処理部を通過させることにより、前記上流側処理が行われた前記被処理流動体に対する下流側処理を行うものであり、
前記上流側処理と前記下流側処理とを連続して行うものであり、
前記少なくとも二つの処理用面の相対的な回転により、前記上流側処理部を通過する前記被処理流動体にせん断力を加えるものであり、
前記被処理流動体は、少なくとも1種類の有機化合物を含有する流体を含む、少なくとも2つの流体であり、
重合性の単量体を少なくとも1つ含む流体と、
前記単量体と互いに混ざり合わない媒体に、前記単量体を前記媒体中に乳化させる乳化剤または前記単量体を前記媒体中に分散させる分散剤を少なくとも1つ含む流体と、
を前記被処理流動体とし、
前記上流側処理部にて前記上流側処理として乳化工程または分散工程を実施し、前記下流側処理部にて前記下流側処理として重合工程を実施することで重合体を得るものであり、
前記上流側処理部で処理された前記被処理流動体の前記滞留空間での滞留と、その後の前記被処理流動体の前記シール空間の通過とが繰り返し行われ、前記シール空間を通過する前記被処理流動体は層流となり、前記滞留空間で滞留する前記被処理流動体は乱流となり、前記滞留空間での滞留中の前記被処理流動体に対して撹拌作用が加えられることを特徴とする有機化合物の製造方法。
【請求項6】
有機化合物の製造方法であって、
前記製造方法に用いる流体処理装置は、接近及び離反が可能な相対的に回転する少なくとも二つの処理用面を1mm以下の間隔に維持し、この間隔に形成される薄膜流体中で被処理流動体を処理する上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置され、前記上流側処理部で処理された前記被処理流動体を滞留させ撹拌する機能を果たす複数のラビリンスシールを設けた下流側処理部とを備え、
前記下流側処理部は、円筒型受容部とこれに受容される円柱部とを備え、
前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方が回転することにより、前記円筒型受容部と前記円柱部とが相対的に回転し、
前記ラビリンスシールは狭溢なシール空間から構成され、
前記下流側処理部は滞留空間を備え、前記滞留空間は前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い空間であり、
前記上流側処理部からの前記被処理流動体の上流側流出口が前記滞留空間に開口し、
前記円筒型受容部の周壁部の内周面から前記円柱部に向けて径方向内側に突出する複数の前記円筒型受容部に備えられた突起部と、前記円柱部の周壁部の外周面から前記円筒型受容部に向けて径方向外側に突出する複数の前記円柱部に備えられた突起部と、を備え、
前記円筒型受容部に備えられた前記突起部と前記円柱部に備えられた前記突起部とは対向して配置され、
前記円筒型受容部に備えられた前記突起部の先端と前記円柱部に備えられた前記突起部の先端との間に前記シール空間が形成され、前記突起部が設けられていない前記円筒型受容部の周壁部の内周面と前記突起部が設けられていない前記円柱部の周壁部の外周面との間に前記滞留空間が形成され、
前記被処理流動体を前記上流側処理部を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理を行なうとともに、
前記上流側処理が行われた前記被処理流動体を前記下流側処理部を通過させることにより、前記上流側処理が行われた前記被処理流動体に対する下流側処理を行うものであり、
前記上流側処理と前記下流側処理とを連続して行うものであり、
前記少なくとも二つの処理用面の相対的な回転により、前記上流側処理部を通過する前記被処理流動体にせん断力を加えるものであり、
前記被処理流動体は、少なくとも1種類の有機化合物を含有する流体を含む、少なくとも2つの流体であり、
重合性の単量体を少なくとも1つ含む流体と、
前記単量体と互いに混ざり合わない媒体に、前記単量体を前記媒体中に乳化させる乳化剤または前記単量体を前記媒体中に分散させる分散剤を少なくとも1つ含む流体と、
を前記被処理流動体とし、
前記上流側処理部にて前記上流側処理として乳化工程または分散工程を実施し、前記下流側処理部にて前記下流側処理として重合工程を実施することで重合体を得るものであり、
前記上流側処理部で処理された前記被処理流動体の前記滞留空間での滞留と、その後の前記被処理流動体の前記シール空間の通過とが繰り返し行われ、前記シール空間を通過する前記被処理流動体は層流となり、前記滞留空間で滞留する前記被処理流動体は乱流となり、前記滞留空間での滞留中の前記被処理流動体に対して撹拌作用が加えられることを特徴とする有機化合物の製造方法。
【請求項7】
前記下流側処理部は、前記下流側処理がなされた前記被処理流動体を前記流体処理装置外に排出するための流出部を備え、
前記上流側流出口から流出した前記上流側処理が行われた前記被処理流動体は、前記下流側処理部を通過し前記流出部から前記流体処理装置外に排出され、
前記下流側処理部は、前記被処理流動体の流れの上流から下流にかけて前記シール空間と前記滞留空間とが複数組連続的に配置されたことを特徴とする請求項1
から6のいずれかに記載の有機化合物の製造方法。
【請求項8】
前記少なくとも二つの処理用面の少なくとも一方の回転および/または前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方の回転により、
前記上流側処理部および/または下流側処理部を通過する前記被処理流動体にせん断力を加えることを特徴とする請求項
1から3のいずれか又は請求項1から3のいずれかを引用する請求項7に記載の有機化合物の製造方法。
【請求項9】
前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方の回転により、
前記下流側処理部を通過する前記被処理流動体にせん断力を加えることを特徴とする請求項4から6のいずれか又は請求項4から6のいずれかを引用する請求項7に記載の有機化合物の製造方法。
【請求項10】
前記下流側処理部を通過する前記被処理流動体の温度制御を目的とした温度調整機構が敷設され、
前記温度調整機構により前記下流側処理部を通過する前記被処理流動体を加熱または冷却することを特徴とする請求項1から
9のいずれかに記載の有機化合物の製造方法。
【請求項11】
前記下流側処理部に、前記上流側処理部からの前記被処理流動体以外の流体を導入する導入口が設けられ、
前記上流側処理部からの前記被処理流動体に前記上流側処理部からの前記被処理流動体以外の流体を導入することを特徴とする請求項1から
10のいずれかに記載の有機化合物の製造方法。
【請求項12】
前記少なくとも2つの流体と、前記有機反応との組み合わせが、下記の第1~第4の組合せからなる群から選択された、少なくとも1つの組合せであることを特徴とする請求項1
から3、8のいずれか、請求項1から3のいずれかを引用する請求項7または請求項1から3、8のいずれかを引用する請求項10もしくは11に記載の有機化合物の製造方法。
第1の組合せ:
前記少なくとも2つの流体が、エステルを少なくとも1つ含む流体と、前記エステルの加水分解を促進する酸性物質または塩基性物質のいずれかを少なくとも1つ含む流体であり、
前記有機反応が前記加水分解によりアルコールを得る反応である組合せ。
第2の組合せ:
前記少なくとも2つの流体が、アルコールまたはアミンを少なくとも1つ含む流体と、カルボン酸、カルボン酸無水物、またはカルボン酸ハロゲン化物のうち少なくとも1つを含有する流体であり、
前記有機反応が縮合によってエステルまたはアミドを得る反応である組合せ。
第3の組合せ:
前記少なくとも2つの流体が、アルデヒドまたはケトンと活性メチレン化合物とをそれぞれ少なくとも1つずつ含む流体と、前記アルデヒドと前記活性メチレン化合物との反応または前記ケトンと前記活性メチレン化合物との反応を促進する物質を含む流体であり、
前記有機反応が脱水縮合によってアルケンを得る反応である組合せ。
第4の組合せ:
前記少なくとも2つの流体が、アルデヒドまたはケトンとアルコール類とを少なくとも1つずつ含む流体と、前記アルデヒドと前記アルコール類との反応または前記ケトンと前記アルコール類との反応を促進するプロトン酸触媒を含む流体であり、
前記有機反応がアセタール化反応である組合せ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一方が他方に対して回転する少なくとも二つの処理用面にて規定される処理空間を採用した流体処理装置を用いた有機化合物の製造方法の改良に関する。また、連続撹拌装置を用いた有機化合物の製造方法に関する。さらに詳しくは、化学、生化学、農業、食品、医薬、化粧品などの分野、とりわけ有機化合物を用いた化学反応、化学合成に有効並びに有用な連続反応装置を用いた有機化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に2種類以上の物質もしくは1種類の物質そのもの同士を化学反応させて、新たな物質を得るための反応処理は、バッチ式と連続式とに大きく分類される。バッチ式の反応処理は、実験室においてフラスコに代表されるような容器の中に、溶媒と基質、反応剤などを入れ、撹拌機などで撹拌して反応を行う。バッチ式と連続式のいずれも工業的に実用化されているが、当然ながらその反応場は容積を持つ。この反応容器における容積は、反応場における反応条件の不均一性に影響する。例えば、均一な基質溶液に反応剤を加えて化学反応を行う場合、反応剤の濃度が均一になるまでには一定の時間を要する。反応条件における温度についても同様の事が考えられる。つまり、反応容器を外部乃至内部から、加熱や冷却を行う場合、反応容器内全体が一定温度に到達するまでには一定の時間を要し、さらに、容器内の反応場全体を完全に一定温度とすることは極困難であると考えられる。また、バッチ式の反応容器の場合において、容器中の溶媒と基質に反応剤を投入する場合、反応剤の投入開始時と終了時ではすでに異なる反応条件である。上記のような要因によって生じる反応場における反応条件の不均一性は、結果的に反応生成物に影響を与える。つまり、一つの容器内に様々な反応条件が発生する事により、目的の反応を理想的には行えない。例えば、主反応と副反応を完全には選択できない事やそれに伴う副生成物の発生、また重合反応などの場合には得られる生成物の分子量分布が均一に成り難い事等が挙げられる。容器壁面への生成物の付着も含めると、反応物から生成物への収率は自ずと低くなる。反応場におけるそれらの問題を解決するために、通常、反応容器には、撹拌機、タービンなどの撹拌装置を備える。撹拌装置により容器内の混合反応流体の混合速度を向上することで、反応場の均一性を確保し、反応速度に対応せんとするものであった。しかし、対象とする混合反応流体の粘度が上昇する毎に再び上記反応場における不均一化の問題が浮上する。それでも尚、瞬間的な混合を目標とする事によって、自然と撹拌所要動力は増大する一途である。また、温度勾配が大きいため短時間で加熱する場合には必要以上の熱エネルギーを必要とすることなどの問題もある。
【0003】
さらに上記のような反応処理は化学工業において頻繁に使用されるにも関わらず、安全性の問題および危険を伴う。多くの場合、比較的大量の高度な毒性の化学物質が用いられ、人および環境に相当な危険を示し、溶媒が種々の点で環境汚染物質であることから、格別の問題が現れる。また、例えば、フリーデル-クラフツアシル化の場合における反応の強力な発熱性のリスクや、ニトロ化の場合には発熱反応のみならず大きな爆発のリスクがある。さらにそれらの危険性は実生産に向けてスケールアップを図ると同時に前面に出てくる。
【0004】
上記の問題を解決するために、特許文献1や特許文献2に示されるような、微小反応器、微小流路式反応器であるマイクロミキサーやマイクロリアクターが提案され、微少量での合成が可能なことや、温度制御の高効率化、界面反応の高効率化、効率的混合などの利点が提唱されている。しかし、一般的なマイクロリアクターを用いる場合にはマイクロデバイス及びシステムの利点は数あるとしても、実際にはマイクロ流路径が狭くなればなるほどその圧力損失は流路の4乗に反比例する事、つまり実際には流体を送り込むポンプが入手し難いくらい大きな送液圧力が必要となる事、また析出を伴う反応の場合、生成物が流路に詰まる現象や反応によって生じる泡によるマイクロ流路の閉鎖、さらに基本的には分子の拡散速度にその反応を期待するため、全ての反応に対してマイクロ流路が有効・適応可能と言う訳ではなく、現実的にはトライアルアンドエラー方式に反応を試行し、首尾良いものを選択する必要性があるなど、その問題も多い。そのため特許文献1のようにマイクロリアクター中に発生する堆積物の問題を超音波処理する事で回避する場合もあるが、超音波によって生じる流路内の不規則な乱流やキャビテーションは、目的の反応に対して常に都合良くは作用しない可能性が高い。さらにスケールアップについても、マイクロリアクターそのものの数を増やす方法、つまりナンバリングアップで解決されて来たが、実際には積層可能数は数十が限界であり、自ずと製品価値の高い製品に的が絞られやすく、また、装置が増えるという事は、その故障原因の絶対数も増えるという事であり、実際に詰まりなどの問題が発生した場合、その故障箇所など、問題箇所を検出する事が大変困難と成りうる可能性がある。
【0005】
これらの問題を解決すべく特許文献3に示されるような有機化合物の製造方法が本願出願人により提案された。特許文献3は、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面間にできる薄膜流体中で、例えば、有機化合物を少なくとも1種類含む流体と反応剤を少なくとも1種類含む流体とを合流させるものであり、当該薄膜流体中において各種の有機反応をさせることを特徴とする、有機化合物の製造方法であり、薄膜流体中において有機反応させることから、反応の均一性を確保でき、スケールアップも可能としている。
【0006】
しかしながら、特許文献3に示される有機化合物の製造方法を用いた場合であっても、前述した通り現実的にはトライアルアンドエラー方式に反応を試行し、首尾良いものを選択する必要性があるなど、同様の問題が見受けられる。
【0007】
その問題の第一として反応時間の確保が上げられる。処理用面間における薄膜流体中で各流体を合流されるものであるため拡散効率は前例がないくらい高い結果、完全混合を実現できているが、特に有機反応の場合絶対的な反応時間を延ばしたい場合があった。反応時間の短縮化のために反応温度を極端に上げたり触媒量を増やしたり等のトライアルアンドエラーを繰り返すが副生成物の増大や危険性などの弊害も目立つ。また処理用面を極端に大型化すれば反応時間の確保は可能となるが大きなコストや設置面積の問題など現実的ではない。
【0008】
本願出願人に係る特許文献4には、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面間にできる薄膜流体中で各流体を合流させるものであり、当該薄膜流体中において微粒子を析出させ処理用面間から排出された吐出液を捕集するためのベッセルを設け、ベッセルの下端に管状容器を接続し、管状容器内で吐出液に含まれる微粒子の核や結晶子を成長させることが開示されている。しかしながら、結晶核や結晶子を成長させる場合、本提案は有用であるが、例えば有機合成においては管状容器内における吐出液の滞留時間を満足するためには相当大型の管状容器が必要となるし、管状容器に吐出液を流すだけでは目的の反応物を得るための条件を満足し難く管状容器の閉塞の問題も発生する。また、別途撹拌機や送液のシステムが必要となる場合が多い。
【0009】
本願出願人に係る特許文献5には、相対的に回転する処理用面間にて規定される環状流路を採用したマイクロリアクターについて、環状流路の径方向の内側に筒状の撹拌空間を備えると共に、撹拌空間内に撹拌羽根とスクリーンとが配置され、環状流路に導入される直前の被処理流動体に対して、撹拌羽根によって撹拌エネルギーが加えられると共に撹拌羽根とスクリーンとの間でせん断力が加えられるように構成された流体処理装置が開示されている。特許文献5は、環状流路に導入される被処理流動体の均質性を向上させることにより、環状流路での均質な反応を実現させるものであるが、環状流路から排出された流体のさらなる処理についての具体的な記載はない。
【0010】
特許文献6においては、1又は複数の流体を混合する混合器であって、スタティックマイクロリアクターの下流側に容積体を配置したものである。容積体は、内部にラビリンス壁を構成して、ラビリンス型の流路を形成するものであるが、ラビリンス型の流路は、通過流体に乱流を発生させ、混合を促進させるために設けられたものである。
【0011】
また、特許文献7においては、外筒と、該外筒内で回転する内筒との間に形成された隙間空間で複数本のテイラー渦が発生するテイラー反応装置であって、前記隙間空間に、テイラー渦間の流動を抑制するラビリンス通路が設けられたものが開示されている。特許文献7の反応装置はテイラー渦の発生を前提としており(例えば、特許文献7の段落0017)、該装置の構造はテイラー渦が発生し得る条件に設定されるはずである。特許文献8によれば、下記式(1)で計算されるテイラー数が2000以下であればテイラー渦が安定して得られるとされており、式(1)によれば、ラビリンスシールの設置間隔や、回転部(内筒)の回転数、扱える流体の動粘度の制約が存在する。
Ta=ω・R・b/ν・(b/R)1/2 式(1)
ここで、Taがテイラー数(無次元数)、ωは回転部の角速度(1/秒)、Rは回転部の半径(cm)、bは内筒の外周面と外筒の内周面との間の距離(cm)、νは流体の動粘度(cm2/秒)である。
有機溶媒は水よりも動粘度も低いことが多いため、テイラー数を2000以下にとどめるには条件設定の制約が多くなり、現実的に該装置の有機反応への使用は適さない。
【0012】
これらの観点に着目し、本願出願人は、反応時間を十分に確保し、目的とする反応生成物を高効率で得ることができる流体処理装置や連続撹拌装置を用いた有機化合物の製造方法を提案するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2005-060281号公報
【文献】特開2007-050340号公報
【文献】特許第5561732号公報
【文献】特開2014-023997号公報
【文献】国際公開第2018/069997号パンフレット
【文献】特開2006-239638号公報
【文献】特開2016-087485号公報
【文献】特開平8-109208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記に鑑み本発明は、反応の完了に比較的長時間を必要とする有機反応であっても反応時間を十分に確保し高い収率で目的の物質を得ることができる有機化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【0015】
一例として化学反応処理で原料Aと原料Bとを反応させて目的生成物Xを得るものとする。この場合、第一の流体処理は原料Aと原料Bの混合であり、原料Aと原料Bとをより均一にかつより早く混合することが望まれる。続いて、第二の流体処理として原料Aと原料Bとの反応を進行させる。この反応を進行させるために、生成物Xを効率的に得るための反応条件を調整する。反応条件とは、原料Aと原料Bの濃度や、反応場の温度条件、圧力条件や撹拌条件、触媒の有無やその適正化、反応時間などをいう。故に高効率で連続式且つ安価でシンプルな処理装置は前記の各処理(第一の流体処理と第二の流体処理)を高効率で処理可能としなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、有機化合物の製造方法であって、前記製造方法に用いる流体処理装置は、相対的に回転する少なくとも二つの処理用面の間で被処理流動体を処理する上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置され、前記上流側処理部で処理された前記被処理流動体を滞留させ撹拌する機能を果たす複数のラビリンスシールを設けた下流側処理部とを備える。少なくとも1種類の有機化合物を含有する前記被処理流動体を前記上流側処理部を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理を行なうとともに、前記上流側処理が行われた前記被処理流動体を前記下流側処理部を通過させることにより、前記上流側処理が行われた前記被処理流動体に対する下流側処理を行うものであり、前記上流側処理と前記下流側処理とを連続して行うことを特徴とするものである。
本発明においては、前記上流側処理と前記下流側処理とは有機反応の処理である。
【0017】
前記製造方法に用いる流体処理装置においては、前記下流側処理部は、狭隘なシール空間と、前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い滞留空間とを備え、前記上流側処理部からの前記被処理流動体の上流側流出口が前記滞留空間に開口し、前記下流側処理部は、前記被処理流動体の流れの上流から下流にかけて前記シール空間と前記滞留空間とが複数組連続的に配置されたものとして実施することができる。
【0018】
また、前記製造方法に用いる流体処理装置においては、前記下流側処理部は、円筒型受容部とこれに受容される円柱部とを備え、前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方が回転することにより、前記円筒型受容部と前記円柱部とが相対的に回転するものとして実施することができる。
【0019】
また、本発明は、前記少なくとも二つの処理用面の少なくとも一方の回転および/または前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方の回転により、前記上流側処理部および/または下流側処理部を通過する前記被処理流動体にせん断力を加えるものとして実施することができる。
【0020】
また、本発明は、前記下流側処理部を通過する前記被処理流動体の温度制御を目的とした温度調整機構が敷設され、前記温度調整機構により前記下流側処理部を通過する前記被処理流動体を加熱または冷却するものとして実施してもよい。
【0021】
また、本発明は、前記下流側処理部に、前記上流側処理部からの前記被処理流動体以外の流体を導入する導入口が設けられ、前記上流側処理部からの前記被処理流動体に前記上流側処理部からの前記被処理流動体以外の流体を導入するものとして実施することができる。
【0022】
また、本発明は、前記上流側処理部にて前記被処理流動体に含まれる反応物質を分子レベルで即座に混合し、そのまま前記下流側処理部にて必要な反応条件を保ったまま長時間前記被処理流動体を保持する工程を1台の前記流体処理装置で実施するものとして実施することができる。
これによって、例えば特許文献4に記載の処理に適用できる。
【0023】
また、本発明は、前記被処理流動体は、前記少なくとも1種類の有機化合物を含有する流体を含む、少なくとも2つの流体であり、重合性の単量体を少なくとも1つ含む流体と、前記単量体と互いに混ざり合わない媒体に、前記単量体を前記媒体中に乳化させる乳化剤または前記単量体を前記媒体中に分散させる分散剤を少なくとも1つ含む流体と、を前記被処理流動体とし、前記上流側処理部にて前記上流側処理として乳化工程または分散工程を実施し、前記下流側処理部にて前記下流側処理として重合工程を実施することで重合体を得るものとして実施することができる。
【0024】
また、本発明は、前記被処理流動体は、前記少なくとも1種類の有機化合物を含有する流体を含む、少なくとも2つの流体であり、前記上流側処理と前記下流側処理とによって有機反応がなされるものであり、前記少なくとも2つの流体と、前記有機反応との組み合わせが、下記の第1~第4の組合せからなる群から選択された、少なくとも1つの組合せであるものとして実施することができる。
第1の組合せ:
前記少なくとも2つの流体が、エステルを少なくとも1つ含む流体と、前記エステルの加水分解を促進する酸性物質または塩基性物質のいずれかを少なくとも1つ含む流体であり、
前記有機反応が前記加水分解によりアルコールを得る反応である組合せ。
第2の組合せ:
前記少なくとも2つの流体が、アルコールまたはアミンを少なくとも1つ含む流体と、カルボン酸、カルボン酸無水物、またはカルボン酸ハロゲン化物のうち少なくとも1つを含有する流体であり、
前記有機反応が縮合によってエステルまたはアミドを得る反応である組合せ。
第3の組合せ:
前記少なくとも2つの流体が、アルデヒドまたはケトンと活性メチレン化合物とをそれぞれ少なくとも1つずつ含む流体と、前記アルデヒドと活性メチレン化合物との反応または前記ケトンと前記活性メチレン化合物との反応を促進する物質を含む流体であり、
前記有機反応が脱水縮合によってアルケンを得る反応である組合せ。
第4の組合せ:
前記少なくとも2つの流体が、アルデヒドまたはケトンとアルコール類とを少なくとも1つずつ含む流体と、前記アルデヒドとアルコール類との反応またはケトンとアルコール類との反応を促進するプロトン酸触媒を含む流体であり、
前記有機反応がアセタール化反応である組合せ。
【0025】
また、本発明は、有機化合物の製造方法であって、外壁と前記外壁の内側に配置された内壁とを同心で有し、前記外壁と前記内壁とのうち少なくとも一方が他方に対して回転し、前記外壁と前記内壁との間に形成される処理空間内に被処理物を通過させ撹拌する撹拌装置であって、前記処理空間に複数のラビリンスシールが敷設された前記撹拌装置を用い、前記ラビリンスシールの上流側から、少なくとも1種類の有機化合物を含有する被処理物を導入し、前記ラビリンスシールの上流側の上記被処理物の滞留と、その後の前記被処理物の前記ラビリンスシールの通過とを繰り返し行ない、前記被処理物を撹拌することを特徴とする。
【0026】
前記製造方法に用いる撹拌装置においては、前記処理空間は、狭溢なシール空間と前記シール空間の上流側に配置され、且つ前記シール空間よりも広い滞留空間とを一組として、前記被処理物の流れの上流から下流にかけて前記シール空間と前記滞留空間とを複数組連続的に備え、前記外壁と前記内壁とは円錐台筒状であり、前記シール空間の広さを調整する事を目的として、前記外壁と前記内壁とのうちの少なくとも一方を同心上で移動させる間隙調整機構が敷設されたものとして実施することができる。
【0027】
本発明に係る有機化合物の製造方法に用いる流体処理装置においては、相対的に回転する少なくとも二つの処理用面によって規定される上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置された下流側処理部とを備え、前記上流側処理部は、前記少なくとも二つの処理用面にて規定された上流側処理空間内に被処理流動体を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理が行なわれるよう構成された流体処理装置に関するものであり、前記下流側処理部は、複数のラビリンスシールによって前記被処理流動体を滞留させ撹拌する機能を果たす下流側処理空間を備え、前記上流側処理部からの前記被処理流動体の上流側流出口が前記下流側処理空間内に開口しており、前記下流側処理空間は前記ラビリンスシールを用いて滞留時間を制御する機能を果たすように構成されたものである。
【0028】
この装置は、前記下流側処理空間は、狭隘なシール空間と、前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い滞留空間とを備えたものとして実施することができる。この装置は、前記シール空間の広さを調整することができるものとして実施することができる。
【0029】
この装置は、前記上流側流出口が前記滞留空間に開口しているものとして実施することができる。
【0030】
また、この装置は、前記下流側処理部は、前記被処理流動体の流れの上流から下流にかけて前記シール空間と前記滞留空間とが複数組連続的に配置されたものとして実施することができる。
【0031】
この装置は、前記下流側処理部は、前記下流側処理空間を規定する円筒型受容部とこれに受容される円柱部とを備え、前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方が回転することにより、前記円筒型受容部と前記円柱部とが相対的に回転するものとして実施することができる。前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方の回転が、前記上流側処理部の
前記処理用面の回転とは独立してなされるものとして実施してもよく、前記円筒型受容部と前記円柱部との少なくとも何れか一方の回転が、前記上流側処理部の前記処理用面の回転と一体的になされるものとして実施してもよい。
【0032】
この装置は、前記少なくとも二つの処理用面は、前記処理用面の回転の軸方向に隔てて配置されたディスク状の処理用面であり、前記上流側処理部は、前記処理用面の前記回転の中心側を上流とし、前記回転の外周側を下流として、前記上流処理空間に被処理流動体を通過させ、前記上流側処理空間の外周端の前記上流側流出口から排出するように構成され、前記下流側処理部は、前記上流側流出口の外周側に環状の受け入れ空間を備え、前記受け入れ空間は、前記下流側処理空間の内の最上流の空間であり且つ前記シール空間よりも広い空間であるものとして実施することができる。
【0033】
この装置は、前記下流側処理空間内の前記被処理流動体の温度制御を目的として温度調整機構が敷設することができ、前記温度調整機構を複数敷設し、各々異なる温度に調整することができるものとして実施することができる。
【0034】
この装置は、前記少なくとも二つの処理用面の間の間隔が機械的に設定され、前記間隔を測定するクリアランス測定センサーと、前記クリアランス測定センサーの測定結果に基づいて、前記少なくとも二つの処理用面のうちの一つの処理用面を自動で動かし、前記一つの処理用面の位置を可変としたクリアランス調整機構とを備えるものとして実施することができる。
【0035】
この装置には、前記下流側処理空間内の前記被処理流動体に対するマイクロウェーブ照射機構を敷設することができる。また、この装置には、前記下流側処理空間内の前記被処理流動体の圧力制御を目的として圧力調整機構を敷設することができる。
【0036】
この装置には、前記下流側処理空間に、前記上流側処理部からの前記被処理流動体以外の被処理流動体を導入する導入口を設けることができる。また、この装置には、前記下流側処理空間に、前記上流側処理及び/又は前記下流側処理部で行われる下流側処理において発生するガスを排出する排出口を設けることができる。また、この装置には、前記下流側処理空間内の前記被処理流動体の滞留時間ごとの排出を可能にする目的で、複数個の排出口を前記下流側処理部に設けることができる。
【0037】
この装置は、前記上流側処理部での前記上流側処理を層流条件下の前記被処理流動体に対して行い、前記下流側処理部で行われる下流側処理を非層流条件下の前記被処理流動体に対して行うように構成されたものとして実施することができる。
【0038】
また、本発明に係る有機化合物の製造方法に用いる流体処理装置は、下記の形態として実施することができる。
【0039】
本発明に係る有機化合物の製造方法に用いる流体処理装置は、接近及び離反可能に互いに対向して配設され、相対的に回転する少なくとも二つの処理用面によって規定される上流側処理部と、前記上流側処理部の下流側に配置された下流側処理部とを備え、前記上流側処理部は、前記少なくとも二つの処理用面にて規定された上流側処理空間内に被処理流動体を通過させることにより、前記被処理流動体に対する上流側処理が行なわれるよう構成された流体処理装置に関するものである。この装置においては、前記下流側処理部は、前記上流側処理空間に繋がる下流側処理空間を備え、前記上流側処理部の回転する処理用面と一体的に回転する回転部材の一部が前記下流側処理空間を規定する壁面の一部を構成している。そして、前記下流側処理部は、前記回転部材の回転を利用して、前記被処理流動体に対する下流側処理を前記上流側処理と連続的に行うことができるように構成されたものである。
【0040】
この装置は、前記下流側処理は前記回転部材の外周側を上流とし前記回転部材の前記回転の中心側を下流として、前記被処理流動体の処理特性の制御を行なうように構成されたものとして実施することができる。また、この装置は、前記下流側処理部は、前記回転部材の回転の軸方向に伸びる筒状の流路を前記下流側処理空間の少なくとも一部として備え、前記筒状の流路にて、前記被処理流動体の処理特性の制御を行なうように構成されたものとして実施することができる。
【0041】
この装置は、前記下流側処理部は、遠心力を用いて滞留時間を制御するように構成されたものとして実施することができる。
【0042】
この装置は、前記回転する処理用面と一体的に回転する前記回転部材は、全体として円柱状をなす円柱部であり、前記円柱部の一方の上流側端面に前記回転する処理用面が配置され、前記円柱部が、全体として円筒状をなす円筒型受容部内に配置され、前記下流側処理空間は、前記円柱部の前記下流側端面と外周面との少なくとも何れか一方の内面と、前記円筒型受容部内の下流側内端面と内周面との少なくとも何れか一方の外面との間にて規定された空間であり、前記下流側処理空間を規定する前記内面と前記外面との少なくともいずれか一方は、流体処理用の凹凸を備えており、前記流体処理用の凹凸と、当該凹凸に対向する前記壁面との相互作用によって、前記下流側処理がなされるように構成されたものとして実施することができる。
【0043】
この装置には、前記下流側処理空間内における前記被処理流動体の滞留時間を制御するために、前記下流側処理空間を規定する壁面の一部の位置を可変とした位置調整機構を敷設することができる。
【0044】
この装置は、前記上流側処理部は、接近及び離反可能に対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転を行う少なくとも2つの処理用部と、前記少なくとも2つの処理用部のそれぞれにおいて互いに対向する位置に設けられた複数の前記処理用面とを備え、前記少なくとも2つの処理用部のうちの1つの処理用部は、前記回転部材の一部を構成し、前記少なくとも2つの処理用面は、前記処理用面の前記回転の軸方向に接近及び離反可能であり、前記少なくとも2つの処理用面は前記被処理流動体が通される環状流路である前記上流側処理空間を規定し、前記被処理流動体が薄膜流体となった状態で前記環状流路の径方向の内側から外側に通過することにより、前記少なくとも2つの処理用面の間で前記被処理流動体に対する前記上流側処理がなされ、前記環状流路の外周端に上流側流出口を備えるものであり、前記少なくとも2つの処理用面を前記軸方向に接近する方向に加えられる力と、前記少なくとも2つの処理用面を前記軸方向に離反させる方向への力とのバランスによって、前記処理用面間の間隔が制御され、前記上流側流出口から排出された前記被処理流動体は、前記処理用面による強制から解放され、前記下流側空間へと排出されるものであり、前記被処理流動体は、前記回転部材の回転の影響を受けながら、前記下流側空間を通過するように構成されたものとして実施することができる。
【0045】
この装置は、前記上流側処理部は、第1処理用部と第2処理用部とを備え、前記第1処理用部が前記回転部材の一部を構成し、前記少なくとも2つの処理用面として、前記第1処理用部は第1処理用面を備え、前記第2処理用部は第2処理用面を備え、前記第1処理用部を収容するケーシングが、前記第1処理用部の外側に配置され、前記第1処理用部の外周面と前記ケーシングの内周面との間の空間と、前記第1処理用部の外面と前記ケーシングの底部の内面との間の空間が、前記下流側処理空間の少なくとも一部を構成し、前記下流側処理空間は、前記上流側処理空間から排出させた前記被処理流動体を滞留させる流路空間であるものとして実施することができる。
【0046】
また、本発明に係る有機化合物の製造方法に用いる連続撹拌装置は、下記の形態として実施することができる。この形態は、上述の有機化合物の製造方法に用いる流体処理装置の上流側処理部を取り払って、下流側処理部のみで下流側処理を行うものである。下流側処理は有機反応の処理である。
【0047】
本発明に係る有機化合物の製造方法に用いる連続撹拌装置は、外壁と前記外壁の内側に配置された内壁とを同心で有し、前記外壁と前記内壁とのうち少なくとも一方が他方に対して回転し、前記外壁と前記内壁との間に形成される処理空間内に被処理物を通過させ撹拌する撹拌装置に関するものである。
この装置においては、前記処理空間に複数のラビリンスシールが敷設され、前記ラビリンスシールの上流側の前記被処理物の滞留と、その後の前記被処理物の前記ラビリンスシールの通過とが繰り返し行われ、前記被処理物を撹拌するように構成されたものである。
また、この装置においては、前記処理空間に複数のラビリンスシールが敷設され、前記ラビリンスシールの上流側の前記被処理物の滞留と、その後の前記被処理物の前記ラビリンスシールの通過とが繰り返し行われ、前記被処理物の滞留時間を制御し撹拌するように構成されたものである。
本発明において、被処理物とは、前記処理空間内で流体の処理を予定する流体をいう。
【0048】
この装置は、前記処理空間は、狭溢なシール空間と前記シール空間の上流側に配置され且つ前記シール空間よりも広い滞留空間とを一組として、前記被処理物の流れの上流から下流にかけて前記シール空間と前記滞留空間とを複数組連続的に備えたものとして実施することができる。
【0049】
この装置は、前記外壁は円筒壁であるものとして実施してもよく、前記内壁は円筒壁であるものとして実施してもよい。
【0050】
この装置は、前記処理空間内の被処理物の温度制御を目的として温度調整機構が敷設されたものとして実施することができ、前記温度調整機構が複数敷設され、複数の前記温度調整機構により前記処理空間内の被処理物を異なる温度に調整するように構成されたものとして実施することができる。
【0051】
この装置は、前記被処理物を前記処理空間内に供給する供給口を備え、前記供給口の一端が前記連続撹拌装置の外部に接続され、前記供給口の他端が前記処理空間に連通しているものとして実施することができる。
この装置は、前記供給口から供給される前記被処理物とは別経路で、前記被処理物を前記処理空間内に導入する導入口が設けられたものとして実施することができる。
この装置は、前記処理空間から前記被処理物を異なる処理時間ごとに排出する排出口が複数設けられたものとして実施することができる。
【0052】
この装置は、前記処理空間内の被処理物に対するマイクロウェーブ照射機構が敷設されたものとして実施することができる。
【0053】
この装置は、前記シール空間の広さを調整する間隙調整機構が敷設されたものとして実施することができる。
【0054】
この装置は、前記外壁と前記内壁とは円錐台筒状であり、前記シール空間の広さを調整する事を目的として、前記外壁と前記内壁とのうちの少なくとも一方を同心上で移動させる間隙調整機構が敷設されたものとして実施することができる。
【0055】
この装置は、外壁と前記外壁の内側に配置された内壁とを備えた処理部を備え、前記外壁と前記内壁とは同心であり、前記処理部は処理空間を備え、前記処理空間は、前記外壁と前記内壁との間の空間であって、前記外壁と前記内壁のうちの少なくとも一方に、複数のラビリンスシールを含むラビリンスシール機構を構成する部材を備え、前記外壁と前記内壁のうちの少なくとも一方が他方に対して回転し、前記ラビリンスシールの上流側の被処理物の滞留と、その後の前記被処理物の前記ラビリンスシールの通過とが繰り返し行われるよう構成され、前記処理空間は被処理物を撹拌する空間であるものとして実施することができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明においては、相対的に回転する少なくとも2つの処理用面間で被処理流動体を処理する上流側処理部に被処理流動体を通過させることにより、被処理流動体に対する流体処理(上流側処理)を行うとともに、前記上流側処理部の下流側に配置された下流側処理部に上流側処理がなされた被処理流動体を通過させることにより、被処理流動体に対するさらなる流体の処理(下流側処理)を行うことによって、一連の化学反応処理を流体処理装置内で行う際、原料濃度や、反応場の温度条件、圧力条件や撹拌条件、触媒の有無やその適正化、反応時間等の種々の反応条件、特に反応時間を調整することができた結果、高効率で目的とする生成物を得ることができる有機化合物の製造方法を提供することができたものである。
【0057】
特に、下流側処理部に上流側処理部で処理された被処理流動体を滞留させ撹拌する機能を有する複数のラビリンスシールを設け、上流側処理と下流側処理とを連続して行うことによって、例えば、乳化重合においては上流側処理による乳化と、下流側処理での滞留による重合反応が途切れなく実施することができ、一つの装置で乳化重合を完結させる方法を提供することができたものである。また、本願の請求項5による下流側処理部に敷設された温度調整機構にて温度調整を行うことにより、上流側処理が行われた被処理流動体を所定温度の下流側処理部の処理空間内をゆっくりとよく撹拌されている状態で通過させることで被処理流動体の温度を所定の温度に保ちながら反応を進行させることができたものである。
【0058】
また、本発明においては、上述の流体処理装置の上流側処理部を取り払って、下流側処理部のみで下流側処理を行う連続攪拌装置を用いた場合であっても、少なくとも一方が他方に対して回転する、外壁と内壁との間に形成される処理空間において、被処理物に対して流体の処理を行うことによって、化学反応や乳化、分散、混合などの一連の流体処理を撹拌装置内で行う際、原料濃度や、反応場の温度条件、圧力条件や撹拌条件、触媒の有無やその適正化、反応時間等の種々の反応条件、特に反応時間を調整することができた結果、高効率で目的とする生成物を得ることができる有機化合物の製造方法を提供することができたものである。
【0059】
特に、処理空間に複数のラビリンスシールが敷設され、ラビリンスシールの上流側の被処理物の滞留と、その後の被処理物のラビリンスシールの通過とが繰り返し行われ、被処理物を撹拌する又は被処理物の滞留時間を制御し撹拌するよう構成されることによって、処理空間内の被処理物の滞留時間を調整することができ、特に、有機反応における反応の継続と反応を完結させるための反応時間を十分に確保することができることから、被処理物に対する流体の処理を効果的に行うことができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】本発明の実施に用いる流体処理装置の略断面図である。
【
図2】(A)は
図1に示す流体処理装置の第1処理用面の略平面図であり、(B)は同装置の処理用面の要部拡大図である。
【
図3】(A)は同装置の第2導入部の断面図であり、(B)は同第2導入部を説明するための処理用面の要部拡大図である。
【
図4】本発明の実施に用いる流体処理装置の他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【
図5】本発明の実施に用いる流体処理装置の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の要部説明図である。
【
図6】本発明の実施に用いる流体処理装置の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【
図7】本発明の実施に用いる流体処理装置の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【
図8】本発明の実施に用いる流体処理装置の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【
図9】
図8に示す流体処理装置の一組の底部材の突起部とアウターケーシングの突起部とを取り上げた説明図であって、底部材の突起部は下方からの斜視図、アウターケーシングの突起部は上方からの斜視図として描かれている。
【
図10】本発明の実施に用いる流体処理装置の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【
図11】
図1に示す流体処理装置の第1処理用部を下方から見た斜視図である。
【
図12】(A)は本発明の実施に用いる流体処理装置の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図であり、(B)は
図12(A)の要部拡大断面図であり、(C)は
図12(A)の変形例の要部拡大断面図である。
【
図13】本発明の実施に用いる流体処理装置の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の要部説明図である。
【
図14】本発明の実施に用いる流体処理装置の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の要部説明図である。
【
図15】本発明の実施に用いる流体処理装置の更に他の実施の形態に係る流体処理装置の略断面図である。
【
図16】(A)は本発明の実施に用いる連続撹拌装置の略断面図であり、(B)は同装置の要部説明図である。
【
図17】(A)は
図16(A)のA-A線に沿う要部断面図であり、(B)は
図17(A)のB-B線に沿う要部断面図である。
【
図18】本発明の実施に用いる連続撹拌装置の他の実施の形態に係る連続撹拌装置の要部斜視図である。
【
図19】本発明の実施に用いる連続撹拌装置の更に他の実施の形態に係る連続撹拌装置の要部断面図である。
【
図20】(A)は本発明の実施に用いる連続撹拌装置の更に他の実施の形態に係る連続撹拌装置の略断面図であり、(B)(C)は同装置の要部説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0062】
本発明は、酸化反応、還元反応、置換反応、付加反応、脱離反応、転位反応、縮合反応、ペリ環状反応、重合反応、加溶媒分解、脱水反応、ハロゲン化反応などの、有機化合物を出発原料とする有機反応を行い、有機化合物を得る有機化合物の製造方法である。
【0063】
(流体処理装置Fについて)
本発明に係る有機化合物の製造方法の実施に適した流体処理装置Fについて、
図1~
図15を参照して、説明する。
【0064】
流体処理装置Fは、相対的に回転する少なくとも二つの処理用面によって規定される上流側処理部と、上流側処理部の下流側に配置された下流側処理部とを備え、上流側処理部は、少なくとも二つの処理用面にて規定された上流側処理空間内に被処理流動体を通過させることにより、被処理流動体に対する上流側処理が行なわれるよう構成される。
【0065】
流体処理装置Fにおける上流側処理空間内において流体の処理を行う部分は、特許文献3から5に記載の装置と同様である。具体的には、相対的に回転する少なくとも2つの処理用面にて規定された上流側処理空間内において被処理流動体を処理するものである。被処理流動体のうちの第1の被処理流動体である第1流体を上流側処理空間に導入し、第1流体を導入した流路とは独立し、上流側処理空間に通じる開口部を備えた別の流路から被処理流動体のうちの第2の被処理流動体である第2流体を上流側処理空間に導入して上流側処理空間で前記第1流体と第2流体とを混合して、連続的に流体の処理を行う装置である。言い換えれば、回転の軸方向に対向するディスク状の処理用面によって規定された上流側処理空間内において前記の各流体を合流させて薄膜流体とするものであり、当該薄膜流体中において前記の被処理流動体の処理を行い、上流側処理空間から処理された流体を排出する装置である。なおこの装置は、複数の被処理流動体を処理することに最も適するが、単一の被処理流動体を上流側処理空間において流体の処理を行うために用いることもできる。
【0066】
図1において図の上下は装置の上下に対応しているが、本発明の実施に用いる流体処理装置において上下前後左右は相対的な位置関係を示すに止まり、絶対的な位置を特定するものではない。
図1、
図2(A)、
図3(B)においてRは回転方向を示している。
図3(B)においてCは遠心力方向(半径方向)を示している。なお、本願の実施に用いる流体処理装置において、全体としてのところ、円柱とは、数学上の円柱と解釈すべきではなく、円柱のほか中空の円筒(以下、円筒という)、頂部を有する円筒も含むものとする。
【0067】
この発明の実施に用いる流体処理装置Fは、上流側処理空間内において流体の処理がなされ、上流側処理空間から排出された流体に、さらなる流体の処理を行うための下流側処理空間を流体処理装置F内に設ける点において特許文献3から5に記載の装置と相違するものである。ところが、同先行技術文献に記載の装置と共通する上流側処理空間に関する流体処理装置としての構造と作用などについて説明することが、この発明の理解を深めるために重要であるため、上流側処理空間に関する部分の説明を先に行う。本発明において、被処理流動体には少なくとも1種類の有機化合物が含まれる。
【0068】
(処理用面について)
この流体処理装置Fは、対向する第1及び第2の2つの処理用部10、20を備え、少なくとも一方の処理用部が他方の処理用部に対して回転する。両処理用部10、20の対向する面が、それぞれ処理用面となる。第1処理用部10は第1処理用面1を備え、第2処理用部20は第2処理用面2を備える。
【0069】
両処理用面1、2は、上流側処理部を規定するものであるとともに上流側処理空間3を規定するものであり、この上流側処理空間3内において、被処理流動体を混合させるなどの流体の処理を行うものである。上流側処理空間3は、後述するように、環状の空間である。この上流側処理空間3内で行われる流体の処理を上流側処理という。
【0070】
両処理用面1、2間の間隔は、適宜変更して実施することができるが、この実施形態においては、通常は、1mm以下、例えば0.1μmから50μm程度の微小間隔に調整される。これによって、この両処理用面1、2間を通過する被処理流動体は、両処理用面1、2によって強制された強制薄膜流体となる。
【0071】
この流体処理装置Fを用いて第1流体と第2流体とを含む複数の被処理流動体を処理する場合、この流体処理装置Fは、第1流体の流路に接続され、両処理用面1、2間によって規定される上流側処理空間3の上流端(この例では環状の内側)から導入される。これと共に、この上流側処理空間3は、第1流体とは別の、第2流体の流路の一部を形成する。そして、両処理用面1、2間の上流側処理空間3内において、第1流体と第2流体との両被処理流動体を混合し、反応させるなどの流体の処理を行なう。
【0072】
具体的に説明すると、流体処理装置Fは、前記の第2処理用部20を保持する第2ホルダ22と、接面圧付与機構と、回転駆動機構Mと、第1導入部d1と、第2導入部d2と、流体圧付与機構P1、P2とを備えるものである。
【0073】
この実施の形態において、第2処理用部20は、第1処理用部10の上方に配置されており、第2処理用部20の下面が第2処理用面2であり、第1処理用部10の上面が第1処理用面1である。
【0074】
図1へ示す通り、この実施の形態において、第1処理用部10は、中央に開口を備えていない円盤体である。また、第2処理用部20は、環状体であり、より詳しくはリング状のディスクである。この実施の形態においては、第1処理用面1が盤状であって第2処理用面2は環状であることから、両処理用面1、2間によって規定される上流側処理空間3は環状の空間、即ち環状流路を構成する。第2処理用部20は、第1流体と第2流体を含む被処理流動体を導入できることを条件に、中央に開口を備えていない円盤状であってもかまわない。
【0075】
第1、第2処理用部10、20は、単一の部材または複数の部材を組み合わせて構成することができ、その材質は、金属の他、シリコンカーバイド(SiC)などのセラミックスや焼結金属、耐磨耗鋼、サファイア、その他金属に硬化処理を施したものや、硬質材をライニングやコーティング、メッキなどを施工したものを採用することができる。この実施の形態において、第1、第2の処理用面1、2の少なくとも一部が鏡面研磨されている。
【0076】
(処理用部の回転について)
第1処理用部10と第2処理用部20のうち、少なくとも一方の処理用部は、電動機などの回転駆動機構Mにて、他方の処理用部に対して相対的に回転する。回転駆動機構Mの駆動軸は回転軸31に接続されており、この例では、回転軸31に取り付けられた第1処理用部10が第2処理用部20に対して回転する。本実施形態においては、回転軸31は、第1処理用部10の中心にネジなどの固定具32によって固定され、その後端が回転駆動機構Mの駆動軸と接続され、回転駆動機構Mの駆動力を第1処理用部10に伝えて第1処理用部10を回転させるものであり、環状の第2ホルダ22の環状の中央には、回転軸31を軸支するための支持部33を備える。もちろん、第2ホルダ22に支持された第2処理用部20を回転させるようにしてもよく、双方を回転させるようにしてもかまわない。
【0077】
(処理用面の接近離反について)
この実施の形態では、第1処理用部10と第2処理用部20とは、少なくとも何れか一方が、少なくとも何れか他方に、回転軸31の軸方向に対して接近及び離反可能となっており、両処理用面1、2は接近及び離反することができる。
【0078】
この実施の形態では、第1処理用部10が軸方向には固定されており、周方向に回転するよう構成されている。この第1処理用部10に対して第2処理用部20が軸方向に接近及び離反するもので、第2ホルダ22に設けられた収容部23に、O-リング26などのシール機構を用いて第2処理用部20が出没可能に収容されている。この収容部23は、第2処理用部20の、主として第2処理用面2側とは軸方向において反対側の部位を収容する凹部であり、平面視において、円を呈する、即ち環状に形成された、溝である。
【0079】
なお、第2処理用部20は、軸方向に平行移動のみが可能なように第2ホルダ22の収容部23に配置してもよいが、クリアランスを大きくした状態で収容することもでき、3次元的に変位可能に保持するフローティング機構によって、第2処理用部20を保持するようにしてもよい。
【0080】
(流体圧付与機構について)
被処理流動体(この例では第1流体と第2流体)は、流体圧付与機構P1、P2によって流体処理装置Fに供給される。流体圧付与機構P1、P2には、種々のポンプを用いることができるものであり、所定の圧力で被処理流動体を流体処理装置Fに供給できる。また圧送時の脈動の発生を抑制するために、流体圧付与機構P1、P2として、加圧容器を備えた圧力付与装置を採用することもできる。被処理流動体が収納された加圧容器に加圧用ガスを導入し、その圧力によって被処理流動体を押し出すことにより、被処理流動体を圧送することができる。
【0081】
(被処理流動体の動き)
前記の被処理流動体は、流体圧付与機構P1、P2により圧力が付与される。この加圧状態で、第1流体と第2流体とを含む被処理流動体が、第1導入部d1と、第2導入部d2から両処理用面1、2間に導入される。
【0082】
この実施の形態において、第1導入部d1は、環状の第2ホルダ22に設けられた流路であり、その一端が、筒状の導入空間51に接続されている。導入空間51は、支持部33の下面、第2ホルダ22の内周側の下面、第2処理用部20の内周面及び第1処理用面1によって規定される円筒状の空間である。
【0083】
第2導入部d2は、第2処理用部20の内部に設けられた通路であり、その一端が、第2処理用面2にて開口するものであり、この開口が上流側処理空間3への直接の導入開口(第2導入口d20)となる。
【0084】
第1流体は、第1導入部d1から、導入空間51を経て両処理用部10、20の間の内径側の隙間である上流側処理空間3の上流端から上流側処理空間3に導入されるものであり、この隙間が第1導入口d10となる。第1導入口d10から上流側処理空間3へ導入された第1流体は、第1処理用面1と第2処理用面2で薄膜流体となり、両処理用部10、20の外側に通り抜ける。これらの処理用面1、2間において、第2導入部d2の第2導入口d20から所定の圧力に加圧された第2流体が供給され、薄膜流体となっている第1流体と合流し、上流側処理として、主として分子拡散による混合が行われながらあるいは行われた後、反応処理がなされる。上流側処理として、主として分子拡散による混合のみが行われてもよい。この分子拡散によって被処理流動体に含まれる反応物質を分子レベルで即座に混合できるものである。この反応処理は、晶出、晶析、析出などを伴うものであってもよく、伴わないものであってもかまわない。
【0085】
第1流体と第2流体とによる薄膜流体は、上流側処理がなされた後、両処理用面1、2(この例では、処理用面1,2の外周端と外周端との間、即ち、上流側処理空間3の下流端)から、両処理用部10、20の外側に排出される。上流側処理空間3の下流端は上流側処理空間3の出口となるから、以下、上流側処理空間3の下流端を上流側流出口4とも言う。両処理用面1、2から両処理用部10、20の外側に排出された流体は、第1処理用部10の外側に配置されたアウターケーシング61で受容され、上流側処理がなされた流体にさらなる流体の処理を効率的に行い、系外(装置外)に排出する。両処理用面1、2から両処理用部10、20の外側に排出された流体は、両処理用面1、2による強制から解放され、より広い流路空間(下流側処理空間81)へと排出される。
【0086】
なお、第1処理用部10は回転しているため、上流側処理空間3内の被処理流動体は、内側から外側へ直線的に移動するのではなく、環状の半径方向への移動ベクトルと周方向への移動ベクトルとの合成ベクトルが被処理流動体に作用して、内側から外側へ略渦巻き状に移動する。
【0087】
流体の運動において、慣性力と粘性力の比を表す無次元数をレイノルズ数と呼び、以下の式(2)で表される。
レイノルズ数Re=慣性力/粘性力=ρVL/μ=VL/ν 式(2)
ここで、ν=μ/ρは動粘度、Vは代表速度、Lは代表長さ、ρは密度、μは粘度を示す。
そして、流体の流れは、臨界レイノルズ数を境界とし、臨界レイノルズ数以下では層流、臨界レイノルズ数以上では乱流となる。
【0088】
流体処理装置Fの両処理用面1、2間は、通常は、1mm以下、例えば0.1μmから50μm程度の微小間隔に調整されるため、両処理用面1、2間に保有される流体の量は極めて少ない。そのため、代表長さLが非常に小さくなり、両処理用面1、2間を通過する薄膜流体の遠心力は小さく、薄膜流体中は粘性力の影響が大きくなる。従って、レイノルズ数は小さくなり、薄膜流体は層流となる。
なお、第1処理用部10の回転数を高めてレイノルズ数を上げることで、薄膜流体にせん断力を加えてもよい。
【0089】
遠心力は、回転運動における慣性力の一種であり、中心から外側に向かう力である。遠心力は、以下の式(3)で表される。
遠心力F=ma=mv2/R 式(3)
ここで、aは加速度、mは質量、vは速度、Rは半径を示す。
【0090】
上述の通り、両処理用面1、2間に保有される流体の量は少ないため、流体の質量に対する速度の割合が非常に大きくなり、その質量は無視できるようになる。従って、両処理用面1、2間にできる薄膜流体中においては重力の影響を無視できる。
【0091】
(力のバランスについて)
次に、第1処理用面1と第2処理用面2とを接近させる方向に作用させる力を処理用部に付与するための接面圧付与機構について説明する。この実施の形態では、接面圧付与機構は、第2ホルダ22に設けられ、第2処理用部20を第1処理用部10に向けて付勢する。前記の接面圧付与機構は、第1処理用部10の第1処理用面1と第2処理用部20の第2処理用面2とに対して、互いに接近する方向に加えられる力(以下、接面圧力という)を発生させるための機構である。この接面圧力と、流体圧付与機構P1、P2による流体圧力などの両処理用面1、2間を離反させる力との均衡によって、1mm以下のnm単位ないしμm単位の微小な膜厚を有する薄膜流体を発生させる。言い換えれば、前記力の均衡によって、両処理用面1、2間の間隔が所定の微小間隔に保たれる。
【0092】
図1に示す実施の形態において、接面圧付与機構は、前記の収容部23と第2処理用部20との間に配位される。具体的には、第2処理用部20を第1処理用部10に近づく方向に付勢するスプリング25と、空気や油などの付勢用流体を導入する付勢用流体導入部(図示せず)とにて構成され、スプリング25と前記前記付勢用流体の流体圧力とによって、前記の接面圧力を付与する。このスプリング25と前記付勢用流体の流体圧力とは、いずれか一方が付与されるものであればよく、磁力や重力などの他の力であってもよい。
【0093】
この接面圧付与機構の付勢に抗して、流体圧付与機構P1、P2により加圧された被処理流動体の圧力や粘性などによって生じる離反力によって、第2処理用部20は、第1処理用部10から遠ざかり、両処理用面1、2間に微小な間隔を開ける。このように、この接面圧力と離反力との力のバランスによって、第1処理用面1と第2処理用面2とは、μm単位の精度で設定され、両処理用面1、2間の微小間隔の設定がなされる。上記の離反力としては、被処理流動体の流体圧や粘性によって生じるもののほか、処理用部の回転による遠心力と、付勢用流体導入部に負圧を掛けた場合の当該負圧、スプリング25を引っ張りスプリングとした場合のバネの力などを挙げることができる。この接面圧付与機構は、第2処理用部20ではなく、第1処理用部10に設けてもよく、双方に設けてもよい。
【0094】
第1、第2処理用部10、20は、その少なくともいずれか一方に温度調整機構を組み込み、冷却或いは加熱して、その温度を調整するようにしてもよい。また、第1導入部d1、第2導入部d2から流体処理装置Fに導入される被処理流動体を冷却或いは加熱して、その温度を調整するようにしてもよい。被処理流動体の有する温度エネルギーは、析出を伴う反応の場合において微粒子の析出のために用いることもできる。
【0095】
(凹部とマイクロポンプ効果)
図2に示すように、第1処理用部10の第1処理用面1には、第1処理用部10の中心側から外側に向けて、即ち径方向について伸びる溝状の凹部13を形成して実施してもよい。この凹部13の平面形状は、
図2(B)へ示すように、第1処理用面1上をカーブして或いは渦巻き状に伸びるものや、図示はしないが、真っ直ぐ外方向に伸びるもの、L字状などに屈曲あるいは湾曲するもの、連続したもの、断続するもの、枝分かれするものであってもよい。また、この凹部13は、第2処理用面2に形成するものとしても実施可能であり、第1及び第2の処理用面1、2の双方に形成するものとしても実施可能である。このような凹部13を形成することによりマイクロポンプ効果を得ることができ、被処理流動体を第1及び第2の処理用面1、2間に吸引することができる効果がある。
【0096】
第1処理用面1に凹部13を設ける場合、この凹部13の基端は、導入空間51に達することが望ましい。この凹部13の先端は、第1処理用部10の外周面側に向けて伸びるもので、その深さ(横断面積)は、基端から先端に向かうにつれて、漸次減少するものとしてもよい。
この凹部13の先端と第1処理用部10の外周面11との間には、凹部13のない平坦面14が設けられている。
【0097】
(回転速度と流体の処理について)
前記の第2導入部d2の第2導入口d20を第2処理用面2に設ける場合は、対向する第1処理用面1の平坦面14と対向する位置に設けることが好ましい。
【0098】
この第2導入口d20は、第1処理用面1の凹部13からよりも下流側(この例では外側)に設けることが望ましい。特に、第1流体がマイクロポンプ効果によって上流側処理空間3に導入される際の流れ方向が処理用面1、2間で形成されるスパイラル状で層流の流れ方向に変換される点よりも外径側の平坦面14に対向する位置に設置することが望ましい。具体的には、
図2(B)において、第1処理用面1に設けられた凹部13の最も外側の位置から、径方向への距離nを、約0.5mm以上とするのが好ましい。特に、流体中から微粒子を析出させる場合には、層流条件下にて複数の被処理流動体の分子拡散による混合と、微粒子の反応、析出が行なわれることが望ましい。
【0099】
このように層流条件下で被処理流動体を処理するため、第1処理用部10の外周における周速度は、0.3~35m/secであることが適当である。
【0100】
(第2導入部に関して)
第2導入口d20の形状は、
図1に示すように、リング状のディスクである第2処理用面2の中央の開口を取り巻く同心円状の円環形状などの連続した開口であってもよく、
図2(B)や
図3(B)に示すように、円形などの独立した開口であってもよい。また、第2導入口d20を円環形状とした場合、その円環形状の開口部は全周にわたって連続していてもよいし、一部分が不連続であってもよい。
【0101】
円環形状の第2導入口d20を第2処理用面2の中央の開口を取り巻く同心円状に設けると、第2流体を上流側処理空間3に導入する際に円周方向において同一条件で実施することができるため、目的生成物を量産したい場合には、開口部の形状を同心円状の円環形状とすることが好ましい。
【0102】
この第2導入部d2は方向性を持たせることができる。例えば、
図3(A)に示すように、前記の第2処理用面2の第2導入口d20からの導入方向が、第2処理用面2に対して所定の仰角(θ1)で傾斜している。この仰角(θ1)は、0度を超えて90度未満に設定されており、さらに反応速度が速い反応の場合には1度以上45度以下で設置されるのが好ましい。
【0103】
また、
図3(B)に示すように、第2導入口d20が独立した開口穴の場合、第2処理用面2に沿う平面において、方向性を有するものとすることもできる。この第2流体の導入方向は、処理用面の半径方向の成分にあっては中心から遠ざかる外方向であって、且つ、相対的に回転する処理用面の間における流体の回転方向に対しての成分にあっては順方向である。言い換えると、第2導入口d20を通る半径方向であって外方向の線分を基準線gとして、この基準線gから回転方向Rへの所定の角度(θ2)を有するものである。この角度(θ2)についても、0度を超えて90度未満に設定されることが好ましい。
【0104】
(被処理流動体の種類と流路の数)
前記の被処理流動体の種類とその流路の数は、
図1の例では、2つとしたが、1つであってもよく、3つ以上であってもよい。
図1の例では、第2導入部d2から上流側処理空間3に第2流体を導入したが、この導入部は、第1処理用部10に設けてもよく、双方に設けてもよい。また、一種類の被処理流動体に対して、複数の導入部を用意してもよい。また、各導入口は、その形状や大きさや数は特に制限はなく適宜変更して実施し得る。また、前記第1及び第2の処理用面間1、2の直前或いはさらに上流側に導入口を設けてもよい。また、各流体における第1、第2という表現は、複数存在する流体の第n番目であるという、識別のための意味合いを持つに過ぎないものであり、第3以上の流体も存在する。
図6-8、
図10に、第3の被処理流動体である第3流体の流路である第3導入部d3とその開口d30を示す。第3導入部d3は、第2導入部d2と同じように、第2処理用部20の内部に設けられた通路であり、その一端が、第2処理用面2にて開口するものであって、その導入開口(第3導入口d30)は、第2導入部d2の第2導入口d20よりも、第2処理用面2において、下流側に位置する。
図6-8、
図10においては、図面が煩雑になるのを避けるため、第1導入部d1はその記載を省略している。この点については、第1導入部d1が設けられていない位置の断面と考えればよい。なお各流路は、密閉されたものであり、液密(被処理流動体が液体の場合)、気密(被処理流動体が気体の場合)とされている。
【0105】
(下流側処理)
次に本発明の実施に用いる流体処理装置Fの要部である、下流側処理空間81内におけるさらなる流体の処理(下流側処理)に関して説明する。
【0106】
流体処理装置Fは、上流側処理部の下流側に配置された下流側処理部を備え、下流側処理部は、下流側処理空間81を備える。この下流側処理空間81が配置されている領域の範囲DSを、
図1及び
図12(A)において例示的に示す。
【0107】
本発明の実施に用いる流体処理装置Fにあっては、上流側処理空間内3において上流側処理が行われ、上流側処理空間3の下流端から排出された流体(上流側処理がなされた流体)に、さらなる流体の処理を行うための下流側処理空間81を設ける。下流側処理空間81内で行われる流体の処理を下流側処理という。
【0108】
(アウターケーシング)
第1処理用部10を収容するために、回転する第1処理用部10の外側にアウターケーシング61を設ける。アウターケーシング61は、上流側流出口4から排出された流体を受容する。本実施の形態においては、アウターケーシング61は、第1処理用部10と第2処理用部20の一部とを収容するもので、第1処理用部10の上流側流出口4から流出した流体は、アウターケーシング61の内面と第1処理用部10の外面との間の下流側処理空間81にて下流側処理がなされる。
【0109】
アウターケーシング61は、本実施の形態においては、
図1に示すように、全体として円筒状をなす円筒型受容部を構成し、必要に応じて底部を有するものとして実施され得る。またアウターケーシング61は、軸方向(図の上下方向)に移動不可能であっても構わないが、この実施の形態では、上下方向に移動可能に設けられている。これによって、第1処理用部の底部(第1処理用部10の外端面12)と、アウターケーシング61の底部62(底部62の内面71)との間の間隔を調整可能としている。
図1においては、中心線の左側にアウターケーシング61が上昇している状態を描き、右側にアウターケーシング61が下降している状態を描いている。
この上下動のための構成は種々変更して実施することができるが、これに適する構造の一例を示せば、アウターケーシング61は、底部62と、底部62の周囲から上方に伸びる周壁部63とを備え、周壁部63の上端には、周壁部63から径方向外側に突出するフランジ67が全周に渡って形成されている。本実施形態においては、周壁部63には、その厚さが薄い薄肉部64とその厚さが厚い厚肉部65と両者の境界である境界部66を備え、底部62の中央に流出部68を備える。本実施形態においては、周壁部63の厚みにより薄肉部64と厚肉部65とを備えたが、周壁部63の厚みは一定であってもよい。また、フランジ67は、周方向の一部分にのみ形成してもよく、フランジ67をアウターケーシング61に備えなくてもよい。流出部68は、下流側処理空間81を流れる流体を系外(装置外)に排出するための排出口である。
【0110】
第2ホルダ22にアウターケーシング61を取り付けて、第1処理用部10と第2処理用部20とをアウターケーシング61に収容する。
図1に示すように、第2ホルダ22には、第2ホルダ22の外周面から径方向外側に突出する突出部24を備える。第2ホルダ22の外周面とアウターケーシング61の薄肉部64の内周面とを密着させ、突出部24の下面とフランジ67の上面とを当接させるように組み付けると、アウターケーシング61の段差部66が第2ホルダ22の外周側の底面に当接する。その後、ボルト等の固定具による固定や、O-リング72などのシール機構を用いて第2ホルダ22にアウターケーシング61を液密・気密に取り付けて、第1処理用部10と第2処理用部20とをアウターケーシング61に収容する。両処理用面1、2から両処理用部10、20の外側に排出された流体、即ち上流側流出口4から排出された流体をアウターケーシング61で受容することができれば、第2ホルダ22の外周面の一部とアウターケーシング61の薄肉部64の内周面の一部とを密着させるように組み付けて、第2ホルダ22にアウターケーシング61を液密・気密に取り付けてもよい。
【0111】
(下流側処理空間)
上述のように、第2ホルダ22にアウターケーシング61を取り付けることによって、(a)第1、2処理用部10、20の外周面11、21とアウターケーシング61の周壁部63(肉厚部65)の内周面70との間と、(b)第1処理用部10の外端面12とアウターケーシング61の底部62の内面71との間に、下流側処理空間81を設けることができる。なお、この第1処理用部10の外端面12は、第1処理用部10の下面(言い換えれば第1処理用面1とは軸方向において反対側の面)である。
この実施の形態においては、回転する第1処理用面1と一体的に回転する第1処理用部10が回転部材であり、第1処理用部10の外周面11と外端面12は、下流側処理空間81を構成する壁部の一部を構成する。言い換えれば第1処理用部10が全体として円柱状をなす円柱部を構成し、その外面とアウターケーシング61の内面との間が下流側処理空間81を構成し、外面と内面の間で下流側処理がなされる。
【0112】
また、上流側流出口4が下流側処理空間81内に開口しており、下流側処理空間81は、両処理用面1、2から両処理用部10、20の外側に排出された流体を受容し滞留させることができる。このような構成とすることによって、下流側処理空間81を備える下流側処理部が上流側処理部を規定する第1及び第2処理用面1、2の下流側に配置され、上流側処理空間4と下流側処理空間81とが繋がり、下流側処理を上流側処理と連続して行うことができる。
【0113】
さらに、回転部材である第1処理用部10の回転を利用して、下流側処理を行うことができる。下流側処理とは下流側処理空間81内で行われる流体の処理であって、上流側処理がなされた後の反応の処理であって、反応を進行させ反応生成物を得る処理である。上流側処理空間4での上流側処理において、主として分子拡散による混合は完結するものであるが、下流側処理として、次のような処理を行うことができる。例えば、流体の滞留、流体の撹拌、流体の混合、熱処理、pH調整、熟成が挙げられる。例えば、有機反応の場合、滞留処理によって反応の完結を行ってもよいし、その際に撹拌処理を加えても構わない。
【0114】
下流側処理空間81の間隔は、下流側処理空間81内の流体の滞留時間にもよるが、第1処理用部10の外径Dの2~30%が好ましく、第1処理用部10の外径Dの3~20%がより好ましい。例えば、第1処理用部10の外径が100mmである場合、下流側処理空間81の間隔は、2~30mmが好ましく、3~20mmがより好ましい。ここで、第1処理用部10の外径Dとは、第1処理用部10の直径であって、後述する突起部16は含まれない。
【0115】
アウターケーシング61の形状は、第1処理用部10との間で下流側処理をなす部分を含んでいることを条件に特に限定されるものではなく、例えば、
図10に示すように、底部62について、径が徐々に小さくなる円錐形状のロート状とし、このロート状の下端に流出部を備えてもよいし、
図4に示すように、アウターケーシング61の底部62を周壁部63に設けた流出部68に向けて傾斜したものとしてもよい。
【0116】
(流出部)
流出部68は、底部62に開口するものに限らず、例えば、周壁部63に開口するものであってもよい。また、複数個の流出部68を設けてもよく、複数個の流出部68を設けることによって、下流側処理空間81内の流体の滞留時間に応じた流体の流出入を可能とする。
【0117】
(別途の導入部)
さらに、後述する
図12(A)に示される実施の形態に示すように、流体を下流側処理空間81に供給するための導入装置(図示無し)を備え、その導入部69をアウターケーシング61内に配置してもよい。導入部69から下流側処理空間81に供給される流体に含まれる物質の一例として、原料そのものや重合開始剤、反応停止剤、重合停止剤、pH調整剤、触媒、コーティング剤などが挙げられる。
【0118】
(ケーシング移動可能)
アウターケーシング61は、取付位置調整機構(図示せず)により上下方向(回転の軸方向)に移動可能に備えてもよい。アウターケーシング61を上下方向(回転の軸方向)に移動可能に備えることにより、下流側処理空間81の容積を増減することができ、下流側処理空間81内の流体の滞留時間を制御することができる。取付位置調整機構の具体的構成は、特に限定されるものではなく、ネジによる送り機構、エアーや油圧などの流体圧駆動機構など、直線的な送り手段を適宜選択して採用することができる。
【0119】
(撹拌用の凹凸)
下流側処理空間81に撹拌用の凹凸を備えて、流体に対する撹拌機能を持たせてもよい。例えば、第1処理用部10の外周面11や第1処理用部10の外端面12に撹拌羽根を備えることができる。第1処理用部10の外周面11や第1処理用部10の外端面12に撹拌羽根を備えると、回転軸31の回転を利用して、上流側処理がなされた流体を撹拌羽根で撹拌することができる。撹拌羽根は、両処理用面1、2から両処理用部10、20の外側に排出された流体に対してせん断力を与えることができる種々の形態として実施することができ、例えば、プレート状の羽根やスクリュー型の羽根、また凹状に加工されたものでも良い。撹拌羽根の形状は、処理目的に合った吐出量(流出部68からの流出量)やせん断力により最適に選定される。
【0120】
その一例として、
図1の右側に示した半断面図と
図11に示すように、第1処理用部10の外端面12には、径方向外側から内側に向けて伸びる複数の溝状の凹部15を備える。全体として円柱状をなす円柱部(具体的には第1処理用部10)と、これを受容する全体として円筒状をなす円筒型受容部(具体的にはアウターケーシング61)との間における比較的狭く制限された空間内で、第1処理用部10が回転すると、凹部15が撹拌羽根の役割を果たし、凹部15の周囲の流体が第1処理用部10の外側に排出されることで、流体が撹拌される。第1処理用部10の外側に排出された流体は、アウターケーシング61の周壁部63の内周面70や底部62の内面71にぶつかり跳ね返ってくることで、撹拌作用がより促進される。
図4に示すように、第1処理用部10の外周面11に凹部15を設けてもよい。
【0121】
(ラビリンスシール機構)
第1処理用部10の外周面11や外端面12、アウターケーシング61の周壁部63の内周面70や底部62の内面71などの下流側処理空間81を構成する壁部に、下流側処理空間81の流体の滞留時間を延ばすための、ラビリンスシール機構を備えてもよい。ラビリンスシールとは、半径方向または軸方向に間隙をもちながら流体の流れに対する抵抗を与える、漏れが最小のシールであって、周辺部のナイフ状構造や接触点が形成する迷路によって、通過する流体の膨張が次々と引き起こされるものをいう。
【0122】
例えば、
図4に示すように、ラビリンスシール機構を奏するための突起部として、アウターケーシング61の周壁部63の内周面70から下流側処理空間81に向けて径方向内側に突出する突起部73を備えた形態を示すことができる。この突起部73は、平面視円周状をなしており、1個または複数個を同心円状に設けることができる。
本実施形態においては、突起部73は、その基端から先端に向けてすぼまっている。突起部73の先端と第1処理用部10の外周面11との間には、処理物の粘度にもよるが0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。また、アウターケーシング61の底部62を周壁部63に設けた流出部68に向けて傾斜したものとしてもよい。
【0123】
他の実施の形態としては、
図5に示すように、第1処理用部10の外周面11から下流側処理空間81に向けて径方向外側に突出する複数の突起部16を備えた形態を示すことができる。本実施形態においては、突起部16は、その基端から先端に向けてすぼまっている。突起部16の先端とアウターケーシング61の周壁部63(肉厚部65)の内周面70と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。
このように微小な間隙に設定されることによって、流体はそこを通過する際に層流状となり、通過が困難となる。その結果、この微小な間隙を通過するために時間を要することとなり、微小な間隙より上流側の比較的広い空間内に流体が滞留することになる。
言い換えれば、本発明の実施に用いる流体処理装置Fに適用されるラビリンスシール機構は、完全に漏れのないシール機構ではなく、その上流側の空間に流体を滞留させながら徐々に流体を下流側へ漏らしていく機構であると言える。
【0124】
この第1処理用部10は、一つの部材で構成する必要はなく、複数の部材を一体的に組み付けたものであっても構わない。このように、複数の部材で全体として円柱状をなす第1処理用部10に、凹凸を容易に加工形成することができる。
具体的には、更に他の実施の形態として、
図6に示すものを挙げることができる。この実施の形態では、第1処理用部10の外端面12に、底部材91を備え、底部材91の下面93から下流側処理空間81に向けて下方向に突出する複数の突起部94を備えた形態を示すことができる。底部材91は、第1処理用部10と同体に回転するように第1処理用部10に取り付けられる。本実施形態においては、複数の突起部94はその基端から先端に向けてすぼまっている。突起部94の先端とアウターケーシング61の底部62の内面71と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。本実施形態においては、(a)第1、2処理用部10、20並びに底部材91の外周面11、21、92とアウターケーシング61の周壁部63(肉厚部65)の内周面70との間と、(b)底部材91の下面93とアウターケーシング61の底部62の内面71との間に、下流側処理空間81を設けることができる。この実施の形態においては、第1処理用部10と底部材91とが回転部材であり、第1処理用部10の外周面11と底部材91の外周面92と下面93とが下流側処理空間81を構成する壁部の一部を構成する。本実施形態においては、底部材91を第1処理用部10とは別部品として作製し、第1処理用部10と同体に回転するように第1処理用部10に取り付けたが、底部材91は、第1処理用部10を直接加工して形成するなど、第1処理用部10と完全な同体として構成してもよい。また、
図6に示すように、下流側処理空間81の深さを径方向外側から内側に向けて深くなるようアウターケーシング61の底部62の内面71を円錐形状のロート状としてもよい。
【0125】
更に他の実施の形態としては、
図7に示すように、複数の突起部94に加え、径方向外側から内側に向けて下流側処理空間81の深さが深くなるようにアウターケーシング61の底部62の内面71に段差を設けてもよい。突起部94の先端とアウターケーシング61の底部62の内面71と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。
【0126】
更に他の実施の形態としては、
図10に示すように、第1処理用部10の外端面12と第1処理用部10の外周面11とをほぼ覆うように構成された底部材91を備え、底部材91の下面93から下流側処理空間81に向けて下方向に突出する複数の突起部94と、底部材91の外周面92から下流側処理空間81に向けて径方向外側に突出する複数の突起部95を備えた形態を示すことができる。底部材91は、第1処理用部10と同体に回転するように第1処理用部10に取り付けられる。本実施形態においては、複数の突起部94、95はその基端から先端に向けてすぼまっている。突起部95の先端とアウターケーシング61の周壁部63の内周面70と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有し、突起部94の先端とアウターケーシング61の底部62の内面71との間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。この実施の形態においては、第1処理用部10と底部材91とが全体として円柱状をなす円柱部であり、これを受容する円筒型受容部(アウターケーシング61)との間の空間が下流側処理空間81を構成する。
第1処理用部10の外周面11と底部材91の外周面92と下面93とが下流側処理空間81を構成する壁部の一部を構成する。
【0127】
ここで、
図5を用いてラビリンスシール機構の具体的な構成と機能とを説明する。
下流側処理空間81は、シール部84とプール部83とを備える。シール部84は、突出部16の先端とアウターケーシング61の周壁部63(肉厚部65)の内周面70との間に形成される狭隘な空間であり、プール部83は、第1処理用部10の突起部16のない外周面11とアウターケーシング61の周壁部63(肉厚部65)の内周面70との間に形成される空間であって、シール部84の上流側に配置され、シール部84よりも広い空間である。
【0128】
シール部84とプール部83とは、一組であっても構わないが、流体の流れの上流から下流にかけて、複数組が連続して配置されることが好ましい。
【0129】
下流側処理空間81は、上流側流出口4の外周側に受け入れ部82を備える。受け入れ部82は、下流側処理空間81のうちの最上流の空間であってシール部84よりも広い空間であり、下流側処理空間81内に開口している上流側流出口4から排出された流体を抵抗なく受け入れることができる。流体の流れの最上流に配置されるプール部83と兼用してもよい。
【0130】
上流側流出口4から排出された流体は、まず、受け入れ部82で受け入れられ、貯留される。受け入れ部82が流体で満たされると、流体は受け入れ部82の下流側に配置されたシール部84に漏れる。シール部84が流体で満たされると、流体はシール部84の下流側に配置されたプール部83に漏れる。流体はプール部83で受け入れられ、貯留される。プール部83が流体で満たされると、流体はプール部83の下流側に配置されたシール部84に漏れる。下流側処理空間81には、シール部84とプール部83とが複数組連続して配置されているので、これらの流体の移動が繰り返される。
【0131】
一方、突起部16を外周面11に備えた第1処理用部10は回転している。受け入れ部82、シール部84、プール部83のそれぞれの空間を流体が満たしている場合には、第1処理用部10の回転により遠心力が作用し、例えば、受け入れ部82にある流体は受け入れ部82の下流側に配置されたシール部84に漏れにくい。特に、狭隘な空間であるシール部84においては、第1処理用部10の回転により、流体はシール部84の下流側に配置されたプール部83に漏れにくい。
【0132】
このように、下流側処理空間81の壁部の一部を構成する回転部材である第1処理用部10を回転させ、下流側処理空間81において、受け入れ部82と、狭隘なシール空間であるシール部82とシール部より広い滞留空間であるプール部83とが複数組連続して配置されることによって、上流側流出口4から下流側処理空間81に排出された流体はシール部84で漏れ量が最小になり、シール部84から漏れた流体がシール部84の下流側に配置されたプール部83に満たされ貯留される結果、ラビリンスシールにより下流側処理空間81内の流体の滞留時間が延びる。
特に、プール部83とシール部84を複数組設けることによって、装置全体における流体の滞留時間が平準化する。例えば、単一のプール部83によって、装置全体で予定する流体の総貯留容量を、満たすようにした場合を考えると、この単一のプール部83が空の状態からこれが満杯となるまでの滞留時間は一定であるとしても、満杯となった以降も連続運転をしていく場合には、単一のプール部83を満たした全ての流体が上流から流れ込んでくる新たな流体に全て入れ替わるように構成することは困難であり、一部の流体は上記の滞留時間に至らないまでに下流へ流出して、他の一部の流体はいつまでもプール部83内で滞留する。したがって、この滞留時間の制御は、偶然が支配する可能性が大きくなり、その結果、予定された所定の滞留時間に至らないまでに下流へ流出してしまう流体の割合も偶然が支配することになる。これに対して、プール部83とシール部84を複数組設けた場合には、一つあたりのプール部83での滞留時間は偶然が支配したとしても、設ける組数を多くしていくことによって、それぞれの流体の滞留時間が平準化していくことになり、滞留時間の安定的な制御の点で有利となる。
【0133】
下流側処理空間81内の流体の滞留時間は、下流側処理空間81の容積、下流側処理空間81の間隔やその長さ、シール部84とプール部83との組数、第1処理用部10や底部材91といった回転部材の回転数、流体処理装置Fに導入される流体(第1流体と第2流体)の導入量を調整することによって調整することができる。流体処理装置Fの稼働中に滞留時間を調整したい場合、第1処理用部10や底部材91といった回転部材の回転数と流体処理装置Fに導入される流体(第1流体と第2流体)の導入量を調整する。これらを調整することによって、生成物に応じて目的の滞留時間を実現する。
【0134】
図5を用いてラビリンスシール機構の具体的な構成と機能とを説明したが、他の実施の形態においても、回転部材(第1処理用部10、底部材91)、受け入れ部82、プール部83、シール部84の機能は同じであり、同じ効果を奏する。突起部16、73、94、95の形状は、その先端と円柱部(第1処理用部10や底部材91)又は円筒状受容部(アウターケーシング61)との間に狭隘な空間であるシール部84を形成できる形状であればよい。突起部の長さと突起部の先端の幅は、ラビリンスシール性を得るために必要な範囲で適宜設定することができる。
【0135】
なお、狭隘な空間であるシール部84を満たす流体は層流となることによってそのシール効果は高まる。他方、比較的広い空間である受け入れ部82やプール部83に貯留される流体は乱流となることによって、その滞留中に撹拌作用が流体に対して加えられることになる。
【0136】
次に、
図12-15を参照して、下流側処理部の変形例について説明する。なお、以下の説明においても流体処理装置Fの基本的な構造や作用は同じであり、異なる部分を中心に説明するが、説明のない点については、前記の実施の形態の説明がそのまま適用されるものとする。何れの変形例にあっても、ラビリンスシール機構を備えその機能を奏する。
【0137】
下流側処理部は、回転部材の軸方向に伸びる筒状の流路を下流側処理空間81の少なくとも一部に備えるものであり、下流側処理である反応を長く進行させる上で有利である。
【0138】
図12(A)は、少なくとも第1処理用部10を軸方向に長く伸ばしたもので、その外周面19とアウターケーシング61の周壁部63の内周面70との間に筒状の流路を、先の実施の形態と比べて長く伸ばしたものである。
【0139】
この実施の形態においても、第1処理用部10は円柱部を構成するものである。
図12(A)へ示す通り、頂部17を有し、その上面が第1処理用面1である。
【0140】
第1処理用部10の軸方向に(図では下方に)長く伸びる延長部18を備え、その外周面19には、下流側処理空間81に向けて径方向外側に突出する突起部16を備える。突起部16はその基端から先端に向けてすぼまっている。延長部18の外周面19は、
図12(B)に示すように平坦であってもよく、
図12(C)に示すように湾曲していてもよい。
図12(C)に示すように延長部18の外周面19が湾曲していることにより、延長部18の外周面19や突出部16に生成物が付着するのを防止することができる。
【0141】
突起部16の先端と、後述するアウターケーシング61の周壁部63の内周面70と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有するもので、シール部84を構成する。シール部84の上流側には比較的広いプール部83が形成される。
【0142】
(処理用部の回転について)
この実施の形態では、回転軸31に取り付けられた第1処理用部10が第2処理用部20に対して回転する。従って、第1処理用部10が回転部材である。回転軸31は、第1処理用部10を貫通する空洞に配置され、第1処理用部10の頂部17の中心にネジなどの固定具32によって固定される。回転軸31の基端は回転駆動機構Mの駆動軸と接続され、回転駆動機構Mの駆動力を第1処理用部10に伝えて第1処理用部10を回転させる。この回転を円滑に軸支するために、回転支持部34が、その外周に配置され、その先端側と基端側で回転軸31を回動可能に軸支する。
【0143】
詳しくは、回転支持部34は、円柱状の軸部35と軸部35の下方に円柱状で軸部35よりも径の大きな台部36とを備え、中心には回転軸31が装着される貫通孔37を備える。軸部35は第1処理用部10の延長部18の内側に配置され、貫通孔37に回転軸31を装着して回転軸31を軸支する。
【0144】
両処理用面1、2間の間隔は、先に上流側処理部に関して説明したのと同様1mm以下であることが良好なナノ微粒子を析出させる場合には好ましい。但し、有機反応などのナノ微粒子を析出させない流体処理を行ったり、微粒子を析出させてもその粒子サイズが比較的大きい場合には、5mm以下、例えば1μmから5mm程度の間隔に調整して実施することができる。このように両処理用面1、2間の間隔を、比較的大きな間隔に調整する場合では、前述の接面圧力と離反力との力のバランスによる間隔設定以外でも好適に実施することができるものであり、機械的なクリアランス設定の構造でも実施することができる。したがって先に述べた全ての実施の形態においても、両処理用面1、2間の間隔調整は機械的なクリアランス設定の構造で実施できる場合があると理解すべきである。
この機械的なクリアランス設定の構造での実施では、両処理用面1、2は、接近及び離反するものではなく、固定された間隔を有するものとして実施することができる。
【0145】
(機械的なクリアランス調整機構)
機械的なクリアランス設定の構造の例とすれば、図示しないが、両処理用面1、2の間隔を測定可能なセンサーで測定し、その測定結果に基づいて、クリアランス調整機構を用いて第2処理用部20を軸方向へ移動させるよう構成してもよい。クリアランス調整機構の具体的構成は特に限定されるものではなく、ネジによる送り機構、エアーや油圧などの流体圧駆動機構など、直線的な送り手段を適宜選択して採用することができる。
【0146】
この実施の形態において、第2処理用部20は、環状の第2ホルダ22の環状の中央にO-リング26などのシール機構を用いて取り付けられている。
【0147】
この実施の形態において、第1導入部d1は、環状の第2処理用部20の中央に配置された中央部41を軸方向に貫通する流路であり、その下流端が、導入空間51に接続されている。導入空間51は、中央部41の下面と第1処理用面1によって規定される空間である。
【0148】
この実施の形態において、アウターケーシング61は、円筒形状である。
【0149】
第2ホルダ22と回転支持部34とにアウターケーシング61を取り付けて、第1処理用部10と第2処理用部20とをアウターケーシング61に収容する。まず、第2ホルダ22の下面とアウターケーシング61の円筒形状を構成する周壁部63の上面とをボルト等の固定具による固定や、O-リングなどのシール機構を用いて第2ホルダ22にアウターケーシング61を液密・気密に取り付ける。次に、回転支持部34の台部36の上面とアウターケーシング61の下面とをボルト等の固定具による固定や、O-リングなどのシール機構を用いて回転支持部34にアウターケーシング61を液密・気密に取り付けるとともに、第1処理用部10の延長部18の下面と台部36の上面とをシール部材38でシールする。
【0150】
このように、第2ホルダ22と回転支持部34とに全体としてほぼ円筒状のアウターケーシング61を取り付けることによって、(a)第2処理用部20の外周面21とアウターケーシング61の周壁部63の内周面70との間と(b)第1処理用部10の延長部18の外周面19とアウターケーシング61の周壁部63の内周面70との間に、筒状の空間である下流側処理空間81を設けることができる。この実施の形態においては、第1処理用部10の延長部18が円柱部となり、アウターケーシング61の周壁部63が円筒型受容部となる。この、円柱部である、第1処理用部10の延長部18がアウターケーシング61の周壁部63に対して回転するものであるが、逆に、円柱部を固定状態として、他方の円筒型受容部を回転させて実施しても構わないし、両者を共に回転させても構わないが、両者を相対的に回転させる必要がある。
【0151】
アウターケーシング61の周壁部63には、流出部68と導入部69を備える。導入部69は、上流側流出口4から下流側処理空間81へ供給される流体とは別経路から、下流側処理空間81に流体を供給するためのものである。この導入部69からの流体は、上流側流出口4からの流体とは、流体自体を比べると異なるものでもあっても構わないし同一のものであっても構わない。
導入部69は、上流側処理及び/又は前記下流側処理において発生するガスを排出する排出口と兼用させてもよく、排出口を別途設けてもよい。
したがって、上流側流出口4から流出した流体は、必要に応じて導入部69を通じて、流体の導入や気体などの流体の排出が行なわれながら、流出部68から排出されることにより、制限された下流側処理空間81にての下流側処理が完了するものである。
【0152】
図13はさらに他の例を示すものであり、底部材91が第1処理用部10とは独立して駆動されるものである。
【0153】
この実施の形態において、第1処理用部10は、厚みの小さな円柱、即ち円盤体であって、その上部には底部材91を受け入れるためのつば部を備える。第1処理用部10の上面が第1処理用面1である。
【0154】
この実施の形態において、底部材91は、円柱状であって、その外周面98から下流側処理空間81に向けて径方向外側に突出する突起部95を備える。突起部95はその基端から先端に向けてすぼまっている。
【0155】
突起部95の先端と、アウターケーシング61の周壁部63の内周面70と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。
【0156】
第1処理用面10のつば部の下面と底部材91の上面との間をシール部材を用いてシールして第1処理用面10と底部材91とを液密・気密に取り付ける。
【0157】
底部材91は、第1処理用部10を回転させるための回転駆動機構Mとは異なる、電動機などの回転駆動機構M1にて、回転する。その一例として、ギア101等の回転力伝達手段や変速手段を介して回転駆動機構M1にて底部材91を回転する。このような構成とすることにて、第1処理用部10と底部材91とは同心に回転するものであるが、底部材91が第1処理用部10とは独立して駆動される。底部材91を第1処理用部10とは異なる回転数で回転させたいときなどに有利である。
【0158】
回転支持部34は貫通孔37に回転軸31を装着して回転軸31を軸支するとともに、軸部35の外周側でベアリングなどの軸受を用いて底部材91を支持する。
【0159】
図14はさらに他の例を示すものであり、円筒形状であるアウターケーシング61の周壁部63の内周面70から下流側処理空間81に向けて径方向内側に突出する突起部73を備えるとともに、円柱部である底部材91の周壁部97の外周面98から下流側処理空間81に向けて径方向外側に突出する突起部95を備えたものであって、突起部73と突起部73との間に突起部95を受容し、突起部95と突起部95との間に突起部73を受容するように配置した形態を示すことができる。突起部73、95はその基端から先端に向けてすぼまっている。この実施の形態においては、底部材91の突起部95とアウターケーシング61の周壁部63の内周面70との間をシール部84としているが、これに加え、アウターケーシング61の突起部73と底部材91の周壁部97の外周面98との間をシール部84としてもよい。なお、底部材91は、全体として円柱状をなす円柱部として頂部99を有する円筒状である。
【0160】
突起部95の先端と、アウターケーシング61の周壁部63の内周面70と間には、0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。
【0161】
図15はさらに他の例を示すものである。この例では、
図15の下方が上流側であり、
図15の上方が下流側であって、第2処理用部20は第1処理用部10の下方に配置され、上流側処理部を規定する第1、第2処理用面1、2よりも上方に下流側処理部を備える。例えば、乳化重合反応や懸濁重合反応を行うときに上流側処理部で好適な乳化状態や懸濁状態にし、下流側処理部で、重合反応を行う際に反応中に発生するガスを系外に排出する場合に適している。なお、本発明に係る流体処理装置Fはその設置に際し上下左右は問わず、横向きに設置しても実施可能である。
【0162】
この例は、アウターケーシング61の突起部73と底部材91の突起部95とが対向して配置され、底部材91が第1処理用部10とは独立して駆動されるとともに、アウターケーシング61を上下方向(回転の軸方向)に移動可能に備えたものである。
【0163】
より詳しくは、アウターケーシング61は頂部を有する円筒状であって、その周壁部63の内周面70から下流側処理空間81に向けて径方向内側に突出する複数の突起部73を備え、この突起部73は平面視円周状をなしている。底部材91は、全体として円柱状をなす円柱部として頂部99を有する円筒状であり、その周壁部97の外周面98から下流側処理空間81に向けて径方向外側に突出する複数の突起部95を備え、平面視円周状をなしている。アウターケーシング61の突起部73と底部材91の突起部95とは対向して配置される。ここで、突起部73と突起部95とが対向して配置されるとは、突起部73と突起部95とが、径方向において接近しているもの又はオーバーラップしているものをいう。
【0164】
この実施の形態において、アウターケーシング61は取付位置調整機構(図示せず)により上下方向に移動可能に備える。アウターケーシング61を上下方向に移動可能に備えることにより、シール部84の広さを調整可能としている。反応中に発生するガスを抜きたいときや高粘性の処理物を処理する際にシール部84の広さを調整して比較的広いシール部84を備えることができ有利である。
図15においては、中心線の左側にアウターケーシング61が下降している状態を描き、右側にアウターケーシング61が上昇している状態を描いている。取付位置調整機構の具体的構成は、特に限定されるものではなく、ネジによる送り機構、エアーや油圧などの流体圧駆動機構など、直線的な送り手段を適宜選択して採用することができる。
【0165】
この実施の形態において、アウターケーシング61に温度調整機構Tを組み込み、冷却或いは加熱して、その温度を調整することで下流側処理空間81を流れる流体の温度を調整する。温度調整機構Tとして、アウターケーシング61に氷水やスチームを含む各種の熱媒体を流すための温度調整ジャケットを備える。1つの温度調整ジャケットをアウターケーシング61に組み込んでもよく、
図15に示すように、複数の温度調整ジャケット(
図15ではT1とT2の2つ)をアウターケーシング61に組み込んでもよい。また、複数の温度調整ジャケットを用いた場合、これらのジャケットを同じ温度に調整してもよく、異なる温度に調整してもよい。複数の温度ジャケットを異なる温度に調整することで、下流側処理の進行に応じて下流側処理空間81を流れる流体の温度を調整することができる。温度調整ジャケットに替えて、冷却素子や発熱素子をその少なくともいずれか1つの部材に取り付けてもよい。
【0166】
(流体に対してせん断力を与える場合)
ラビリンスシール機構の例ではないが、更に他の実施の形態としては、
図8に示すように、第1処理用部10の外端面12に、底部材91を備え、底部材91の下面93から下流側処理空間81に向けて下方向に突出する櫛歯状の突起部96と、アウターケーシング61の底部62の内面71から下流側処理空間81に向けて上方向に突出する櫛歯状の突起部74とを備え、突起部96と突起部96との間に突起部74を受容し、突起部74と突起部74との間に突起部96を受容するように配置した形態を示すことができる。底部材91は、第1処理用部10と同体に回転するように第1処理用部10に取り付けられる。このような配置とすることにより、突起部96と突起部74との間を通過する流体に対してせん断力を付与することができる。より詳しくは、底部材91が第1処理用部10と同体に回転することにより、底部材91に設けられた櫛歯状の突起部96が回転し、回転する櫛歯状の突起部96が櫛歯状の突起部74と突起部74との間を通過する際に、突起部96と突起部74との間の微小な間隙において被処理流動体に対してせん断力を付与することができる。突起部96と突起部74との間を通過する流体に効率よくせん断力を付与するために、突起部96と突起部74との間のクリアランスは0.1mmから1mm程度が望ましい。また、櫛歯状の突起部96の先端とアウターケーシング61の底部62の内面71と間には、0.5mmから2mm程度の微小な間隙を有し、櫛歯状の突起部74の先端と底部材91の下面93と間には、0.5mmから2mm程度の微小な間隙を有する。櫛歯状の突起96と74について、
図8においては、中心線の左側には両者がオーバーラップしているものを描き、中心線の右側には両者がオーバーラップしていないものを描いている。
図9に、最も径方向外側に設けられた一組の櫛歯状の突起部96aと櫛歯状の突起部74aとを取り上げた説明図を示す。理解しやすくするために、アウターケーシング61について、底部62の内面71と櫛歯状の突起部74aのみを描いている。
【0167】
(被処理流動体の動き)
上流側処理がなされたがなされた流体は、上流側処理空間3の下流端から排出される。上流側処理空間3の下流端から排出された流体は、アウターケーシング61に受容され、下流側処理空間81を流れながら下流側処理として反応を進行させ反応生成物を得る処理がなされ、流出部68から系外(装置外)に排出される。
【0168】
(遠心力)
回転部材である第1処理用部10や底部材91は回転しているため、下流側処理空間81を流れる流体が下流側処理空間81を満たしている場合には、径方向外向きに遠心力が作用する。この遠心力の作用により、下流側処理空間81内の流体の滞留時間を制御する。
【0169】
具体的には、例えば、第1処理用部10や底部材91の回転数を調整することによって、下流側処理空間81を流れる流体に作用する遠心力を調整して、下流側処理空間81内の流体の滞留時間を制御する。この滞留時間を制御するため、第1処理用部10の外周における周速度は0.5~35m/secが適当である。第1処理用部10の外周には突起部16は含まれない。上流側処理と下流側処理との両面から回転部材の回転数を設定すればよい。例えば、上流側処理空間3内での層流条件下での上流側処理に適した第1処理用部10の回転数の範囲から下流側処理における第1処理用部10の回転数を設定すればよい。
【0170】
また、滞留時間の調整に目を向ければ、下流側処理部にラビリンスシール機構を備えたり、下流側処理空間81の容積を増やしたり、流出部68から下流側処理がなされた流体を系外に排出させる排出速度を遅くすることによって、下流側処理空間81内の流体の滞留時間を延ばすことができる。下流側処理空間81内の流体の滞留時間は、5~60分程度が好ましく、10~30分程度がより好ましいが、流体処理が重合反応等の場合、数時間の滞留が必要になる場合もある。原料の導入量、即ち、第1流体と第2流体との上流側処理空間3内への導入速度(単位時間当たりの導入量)を調整すると、第1、2処理用部の相対的な回転数を一定とし、部品交換をしない場合であっても、滞留時間を調整することができる。
【0171】
(材質)
アウターケーシング61は、単一の部材または複数の部材を組み合わせて構成することができ、その材質は、各種の金属の他、シリコンカーバイド(SiC)などのセラミックスや焼結金属、耐磨耗鋼、サファイア、その他金属に硬化処理を施したものや、硬質材をライニングやコーティング、メッキなどを施工したものなど、第1、第2処理用部10、20と同等の材質のものを採用することができる。また、底部材91においては、ステンレスやチタンなどの金属やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの樹脂など加工のしやすい材質を選択して用いることができる。
【0172】
(温度調整機構)
第1処理用部10、底部材91やアウターケーシング61には、その少なくともいずれか1つに温度調整機構Tを組み込み、冷却或いは加熱して、部材の温度を調整するようにしてもよい。それによって、下流側処理空間81を流れる流体の温度を調整することができる。
図1、
図4-8、
図10、
図12-15に示す実施形態において、温度調整機構Tとしてアウターケーシング61に氷水やスチームを含む各種の熱媒体を流す温度調整ジャケットを設けている。熱媒体に替えて、冷却素子や発熱素子をその少なくともいずれか1つの部材に取り付けてもよい。
【0173】
(マイクロウェーブ)
第1処理用部10、底部材91やアウターケーシング61は、少なくとも何れか1つにマイクロウェーブを照射する為の、マグネトロンなどのマイクロ波発生装置をマイクロウェーブ照射機構として備え、下流側処理空間81を流れる流体の加熱、化学反応の促進を行ってもよい。
【0174】
(圧力調整機構)
第1処理用部10、底部材91やアウターケーシング61に、下流側処理空間81を流れる流体の圧力を調整するために、圧力調整機構を備えてもよい。例えば、圧力調整機構として、種々のポンプを用いることができる。下流側処理空間81に負圧をかけてもよい。具体的には、窒素ガスを用いて下流側処理空間81を加圧状態としたり、真空ポンプによる下流側処理空間81の真空度を制御することが挙げられる。
【0175】
(処理特性の制御)
本発明の流体処理装置を用いて、上流側処理と下流側処理とを行うことによって、反応場の温度条件、圧力条件や撹拌条件、反応時間といった反応条件を調整することができることから、例えば、原料の反応率、選択率、生成物の収率といった処理特性の制御を行うことができるものであり、原料の反応率は、供給された原料に対する反応により消費された原料の割合であり、選択率は、反応により消費された原料が目的生成物の生成に消費された割合であり、生成物の収率は反応率と選択率とを乗じたものである。
【0176】
(層流条件下と非層流条件下)
本発明においては、上流側処理空間3内での上流側処理を層流条件下で行い、下流側処理空間81内での下流側処理を非層流条件下で行うことが好ましい。上流側処理空間3内で薄膜流体となっている第1流体に対して第2流体を層流条件下で合流させ、層流条件下で分子拡散による被処理流動体の均質な混合を行わせることが好ましい。上流側処理空間3の下流端から排出された流体は、両処理用面1、2による強制から解放され、より広い下流側処理空間81へと排出される。これに対し、上流側処理空間3の下流端から下流側処理空間81へ排出された流体に対してせん断力を付与したり上述の式(2)に記載の代表長さLを大きくするなどして乱流状態とし、流体中の分子同士が接触したり衝突したりする頻度を増加させることにより、生成物を得ることもできる。例えば、上流側処理空間3において有機反応により有機顔料粒子を生成させた後、その顔料粒子を分散させたい場合に乱流条件下での撹拌は有用である。また、乱流条件下では、温度調整機構Tを流れる熱媒体と下流側処理空間81を流れる流体との熱交換率のアップが期待できる。
流体処理装置Fを用いて、上流側処理を層流条件下で行うことで、上流側処理部で分子拡散により被処理流動体に含まれる反応物質を分子レベルで即座に混合することができる。そして、流体処理装置Fを用いて、上流側処理に引き続いて下流側処理を行うことで、層流条件下で上流側処理が行われた被処理流動体が、下流側処理部での反応に必要な反応条件、例えば反応場の温度条件、圧力条件や撹拌条件を保ったまま長時間被処理流動体を保持することができる。従って、流体処理装置Fは、短時間で反応を完了させることが困難な、付加反応、重合反応、縮合反応、加溶媒分解等の有機反応を行うのに好適な装置である。
また、第1処理用部10の回転数を高めてレイノルズ数を上げることで、上流側処理空間内を流れる被処理流動体にせん断力を加えてもよい。例えば、流体処理装置Fを用いて乳化重合を行う際、上流側処理部で乳化工程を行い下流側処理部で重合工程を行うが、上流側処理空間内を流れる互いに相溶しない被処理流動体にせん断力を加えることで、効率よく乳化させることができる。
【0177】
(連続撹拌装置Fについて)
本発明に係る有機化合物の製造方法の実施に適した連続撹拌装置Fについて、
図16~
図20を参照して、説明する。この形態は、上述の流体処理装置Fの上流側処理部を取り払って、下流側処理部のみで下流側処理を行うものである。下流側処理は有機反応の処理である。
【0178】
図16(A)、
図20(A)において図の上下は装置の上下に対応しているが、本発明において上下前後左右は相対的な位置関係を示すに止まり、絶対的な位置を特定するものではない。
図17(A)においてRは回転方向を示している。
【0179】
連続撹拌装置Fは、外壁161と外壁161の内側に配置される内壁110とを備える処理部を備える。外壁161と内壁110とは同心であり、処理部は外壁161と内壁110との間に形成される処理空間181を備える。外壁161と内壁110とのうちの少なくとも一方が他方に対して回転する。
【0180】
(外壁)
外壁161は、
図16(A)に示すように、全体として円筒状をなし、必要に応じて底部や天部を有するものとして実施され得る。本実施の形態においては、外壁161は円筒壁163であって、その両端には、円筒壁163から径方向外側に突出するフランジ167が形成されている。外壁161とは別部材である天部176又は底部162とフランジ167、167とが固定されることによって、円筒壁163の両端が閉鎖されている。
【0181】
(内壁)
内壁110は、
図16(A)に示すように、全体として柱状をなす。本実施の形態においては、内壁110は円柱状であって、その外周面111から径方向外側に突出する複数の突起部116を備える。突起部116は、平面視円周状をなし、軸方向において所定の間隔をあけて設けられている。
図16(B)は、連続撹拌装置Fの要部説明図であって、内壁110と突起部116と後述する撹拌羽根211との配置を示す斜視図であり、上方の他の突起部116がない状態を描いている。
図16(B)に示すように、突起部116は全体が厚みの等しい円盤状である。突起部116は径方向において厚みが変化するものであってもよい。
突起部116に換えて又は突起部116とともに、外壁161の円筒壁163の内周面170から径方向内側に突出する突起部を設けてもよく、底部162の内面171や天部176の内面から処理空間181に向けて突出する突起部を設けてもよい。
【0182】
外壁161は全体として円筒状をなし、内壁110は全体として柱状をなす。外壁161は、処理空間181を構成する外壁161の内表面が流体の処理を行う上で重要であって、中空であり、内壁110は、処理空間181を構成する内壁110の外表面が流体の処理を行う上で重要であるから、中実であっても中空であってもよい。内壁110においては、円筒状、柱状の表現にかかわらず、断面円形、断面角形や断面異形状を有するものを含むものと理解すべきである。外壁161においても、円筒状、柱状の表現にかかわらず、断面円形、断面角形や断面異形状を有するものを含むものと理解することができる。但し、突起部116と外壁161との間の微小な間隔が本発明の実施に際しては重要となるため、外壁161が、断面円形ではない場合には回転に伴って突起部116との間の間隔が変化する点に注意して実施すべきである。
【0183】
(処理空間)
内壁110は外壁161の内側に配置され、外壁161と内壁110とは同心に配置される。外壁161と内壁110との間に処理空間181が形成される。本実施の形態においては、内壁110の外周面111と外壁161の円筒壁163の内周面170との間に、処理空間181を備える。この処理空間181内で被処理物の処理が行われる。被処理物とは、処理空間181内で流体の処理を予定する流体をいい、以下、被処理物を流体とも記載する。本発明において、被処理物には少なくとも1種類の有機化合物が含まれる。外壁161と内壁110との間に処理空間181を設けることができれば、外壁161と内壁110とは同心に配置しなくてもよい。
【0184】
処理空間181の間隔、即ち、本実施の形態においては、内壁110の外周面111と外壁161の円筒壁163の内周面170との間の間隔は、処理空間181内の被処理物の滞留時間にもよるが、内壁110の外径D2の5~200%が好ましく、内壁110の外径D2の10~150%がより好ましい。例えば、内壁110の外径D2が100mmである場合、処理空間181の間隔は、5~200mmが好ましく、10~150mmがより好ましい。ここで、内壁110の外径D2とは、内壁110の直径であって、突起部116は含まれない。
【0185】
外壁161と内壁110とのうち少なくとも一方が他方に対して回転する。本実施の形態においては、電動機などの回転駆動機構Mの駆動軸が回転軸131に接続され、その回転軸131が、底部162と天部176とに設けられた軸受177、177を介して内壁110を回転可能に支持し、内壁110が外壁161に対して回転する。外壁161を内壁110に対して回転させるようにしてもよく、双方を回転させるようにしても構わないが、双方を相対的に回転させる必要がある。
【0186】
(供給部と流出部)
外壁161には供給部175と流出部168とを備える。供給部175は処理空間181内で流体の処理を予定する流体である被処理物を系外(装置外)から処理空間181へ供給するための供給口であり、その一端は被処理物を貯留するタンクなどの連続撹拌装置Fの外部に接続され、他端は処理空間181に直接又は間接に連通している。本実施の形態においては、
図16(A)に示すように、供給部175は外壁161に設けられ、次に述べる受け入れ部182を介してシール部184に連通する。流出部168は、処理空間181で流体の処理がなされた処理物を系外(装置外)に排出するための排出口である。本実施の形態においては、
図16(A)の上方が被処理物の流れの上流側であり、
図16(A)の下方が被処理物の流れの下流側であって、供給部175は外壁161の円筒壁163の上方に設けられ、流出部168は外壁161の円筒壁163の下方に設けられている。供給部175と流出部168とを外壁161に複数備えてもよい。供給部175を外壁161に複数備えることにより、複数の被処理物を系外(装置外)から処理空間181に供給することを可能とし、流出部168を外壁161に複数備えることにより、処理空間181内の被処理物の処理時間に応じて処理空間181から系外(装置外)へ処理物の流出を可能とする。
【0187】
(ラビリンスシール機構)
内壁110の外周面111や外壁161の円筒壁163などの処理空間181を構成する部材に、処理空間181の流体の滞留時間を延ばすための、ラビリンスシール機構を備えてもよい。ラビリンスシールとは、半径方向または軸方向に間隙をもちながら流体の流れに対する抵抗を与える、漏れが最小のシールであって、周辺部のナイフ状構造や接触点が形成する迷路によって、通過する流体の膨張が次々と引き起こされるものをいう。
【0188】
本実施形態においては、突起部116がラビリンスシール機構を構成する部材であり、突起部116の先端と外壁161の円筒壁163の内周面170との間には、被処理物の粘度にもよるが0.01mmから1mm程度の微小な間隙を有する。
このように微小な間隙に設定されることによって、被処理物はそこを通過する際に層流状となり、通過が困難となる。その結果、この微小な間隙を通過するために時間を要することとなり、微小な間隙より上流側の比較的広い空間内に被処理物が滞留することになる。
言い換えれば、本発明の実施に用いる連続撹拌装置Fに適用されるラビリンスシールは、完全に漏れのないシールではなく、その上流側の空間に流体を滞留させながら徐々に流体を下流側へ漏らしていく機構であると言える。
【0189】
図16(A)を用いてラビリンスシール機構の具体的な構成と機能とを説明する。
処理空間181は、シール部184とプール部183とを備える。シール部184は、突出部116の先端と外壁161の円筒壁163の内周面170との間に形成される狭隘な空間であり、プール部183は、内壁110の突起部116のない外周面111と外壁161の円筒壁163の内周面170との間に形成される空間であって、シール部184の上流側に配置され、シール部184よりも広い空間である。
連続撹拌装置Fにおいて、ラビリンスシールとはシール部184をいい、ラビリンスシール機構とは一組のシール部184とプール部183をいう。
本実施の形態のように、内壁110が外壁161に対して回転し、内壁110の外周面111に突起部116を設け、突起部116の先端と外壁161の円筒壁163の内周面170との間にシール部184を設けることが、被処理物の齢を制御する点で理想的である。
【0190】
本実施形態においては、被処理物の流れの上流から下流にかけて、シール部184とプール部183とを一組として、複数組が連続して配置される。一組のシール部184とプール部183とを配置しても構わない。
【0191】
処理空間181は、受け入れ部182を備える。受け入れ部182は、処理空間181のうちの最上流の空間であってシール部184よりも広い空間であり、供給部175から供給された被処理物を抵抗なく受け入れることができる。被処理物の流れの最上流に配置されるプール部183と兼用してもよい。
【0192】
供給部175から処理空間181へ供給された流体は、まず、受け入れ部182で受け入れられ、貯留される。受け入れ部182が流体で満たされると、流体は受け入れ部182の下流側に配置されたシール部184に漏れる。シール部184が流体で満たされると、流体はシール部184の下流側に配置されたプール部183に漏れる。流体はプール部183で受け入れられ、貯留される。プール部183が流体で満たされると、流体はプール部183の下流側に配置されたシール部184に漏れる。処理空間181には、シール部184とプール部183とが複数組連続して配置されているので、これらの流体の移動が繰り返される。
【0193】
一方、突起部116を外周面111に備えた内壁110は回転している。受け入れ部182、シール部184、プール部183のそれぞれの空間を流体が満たしている場合には、内壁110の回転により遠心力が作用し、例えば、受け入れ部182にある流体は受け入れ部182の下流側に配置されたシール部184に漏れにくい。特に、狭隘な空間であるシール部184においては、内壁110の回転により、流体はシール部184の下流側に配置されたプール部183に漏れにくいが、完全にシールするのではなく、わずかな所定量を下流側へ移動させる。この所定量は、要求される処理の目的や処理量、処理速度など必要な処理条件に応じて決定する。
【0194】
このように、内壁110を回転させ、処理空間181において、受け入れ部182と、狭隘なシール空間であるシール部184とシール部184より広い滞留空間であるプール部183とが複数組連続して配置されることによって、供給部175から処理空間181へ供給された流体はシール部184で漏れ量が最小になり、シール部184から漏れた流体がシール部184の下流側に配置されたプール部183に満たされ貯留される結果、ラビリンスシールにより処理空間181内の流体の滞留時間が延びる。
特に、プール部183とシール部184を複数組設けることによって、装置全体における流体の滞留時間が平準化する。例えば、単一のプール部183によって、装置全体で予定する流体の総貯留容量を、満たすようにした場合を考えると、この単一のプール部183が空の状態からこれが満杯となるまでの滞留時間は一定であるとしても、満杯となった以降も連続運転をしていく場合には、単一のプール部183を満たした全ての流体が上流から流れ込んでくる新たな流体に全て入れ替わるように構成することは困難であり、一部の流体は上記の滞留時間に至らないまでに下流へ流出して、他の一部の流体はいつまでもプール部183内で滞留する。したがって、この滞留時間の制御は、偶然が支配する可能性が大きくなり、その結果、予定された所定の滞留時間に至らないまでに下流へ流出してしまう流体の割合も偶然が支配することになる。これに対して、プール部183とシール部184を複数組設けた場合には、一つあたりのプール部183での滞留時間は偶然が支配したとしても、設ける組数を多くしていくことによって、それぞれの流体の滞留時間が平準化していくことになり、滞留時間の安定的な制御の点で有利となる。
【0195】
処理空間181にシール部184とプール部183とを一組として複数組連続して設け、処理空間181を構成する内壁110が外壁161に対して回転することによって、シール部184の上流側にあるプール部183での被処理物の滞留と、その後の被処理物のシール部184の通過とが繰り返し行われ、被処理物の滞留時間を制御することができる。
【0196】
処理空間181内の流体の滞留時間は、処理空間181の容積、処理空間181の間隔やその長さ、シール部184とプール部183との組数、内壁110の回転数、連続撹拌装置Fに導入される流体の導入量を調整することによって調整することができる。処理空間181内の流体の滞留時間は、2~30分程度が好ましく、3~10分程度がより好ましいが、流体の処理が重合反応等の場合、数時間の滞留が必要になる場合もある。また、内壁110の外周における周速度は0.5~35m/secが適当である。内壁110の外周には突起部116は含まれない。連続撹拌装置Fの稼働中に滞留時間を調整したい場合、内壁110の回転数と連続撹拌装置Fに導入される流体の導入量を調整する。
これらを調整することによって、生成物に応じて目的の滞留時間を実現する。
【0197】
突起部116の形状は、その先端と外壁161との間に狭隘な空間であるシール部184を形成できる形状であればよい。突起部を外壁161に備える場合、突起部の形状は、その先端と内壁110との間に狭隘な空間であるシール部184を形成できる形状であればよい。突起部の長さと突起部の先端の幅は、ラビリンスシール性を得るために必要な範囲で適宜設定することができる。
【0198】
なお、狭隘な空間であるシール部184を満たす流体は層流となることによってそのシール効果は高まる。他方、比較的広い空間である受け入れ部182やプール部183に貯留される流体は乱流となることによって、その滞留中に撹拌作用が流体に対して加えられることになる。
【0199】
(導入部)
外壁161や天部176には導入部169を備えてもよい。導入部169は、供給部175から処理空間181へ供給される被処理物とは別経路から、処理空間181に被処理物を供給するための供給口である。本実施の形態においては、導入部169は供給部175と流出部168との間の外壁161に設けられ、処理途中の被処理物に対して他の被処理物を供給するものである。導入部169は、外壁161の円筒壁163の上端に設けてもよく、その位置を変更してもよい。導入部169から処理空間181へ供給される被処理物は、供給部175から処理空間181に供給される被処理物とは、被処理物自体を比べると異なるものでもあっても構わないし同一のものであっても構わない。導入部169から処理空間181に供給される被処理物の一例として、原料そのものや重合開始剤、反応停止剤、重合停止剤、pH調整剤、触媒、コーティング剤などが挙げられる。
導入部169は、流体の処理において発生するガスを排出する排出口と兼用させてもよく、ガスを排出する排出口を別途設けてもよい。
したがって、供給部175から処理空間181に供給された被処理物は、必要に応じて導入部169を通じて、被処理物の導入や気体などの流体の排出が行なわれながら、流出部168から排出されることにより、制限された処理空間181にて流体の処理が完了するものである。
【0200】
(温度調整機構)
外壁161と内壁110とのうちの少なくとも何れか1つに温度調整機構T10を備え、冷却或いは加熱して、部材の温度を調整することによって、処理空間181を流れる流体の温度を調整してもよい。
図16(A)では、温度調整機構T10として、氷水やスチームを含む各種の熱媒体を流すための温度調整ジャケットを外壁161の円筒壁163の外周面に取り付けている。
図16(A)に示すように、1つの温度調整ジャケットを外壁161に備えてもよく、後述する
図20(A)に示すように、複数の温度調整ジャケット(
図20(A)ではT11とT21の2つ)を外壁161に備えてもよい。また、
図20(A)に示すように、複数の温度調整ジャケットを外壁161に備えた場合、これらのジャケットを同じ温度に調整してもよく、異なる温度に調整してもよい。複数の温度調整ジャケットを異なる温度に調整することで、処理空間181での流体の処理の進行に応じて処理空間181を流れる流体の温度を調整することができる。温度調整ジャケットに替えて、冷却素子や発熱素子を外壁161と内壁110とのうちの少なくとも何れか1つに取り付けてもよい。
【0201】
(撹拌羽根とスクレーパ)
内壁110には撹拌羽根211やスクレーパ212を備えてもよい。高粘性の被処理物の流体の処理を行う際に効果的である。
本実施形態においては、
図16(A)(B)に示すように、内壁110に設けられた突起部116と突起部116との間の突起部116のない外周面111に複数枚の板状の撹拌羽根211を周方向に間隔をあけて備える。撹拌羽根211は内壁110の外周面111に固定されていてもよいし、円盤状の突起部116に固定されていてもよい。内壁110とともに撹拌羽根211が回転することにより、処理空間181を流れる被処理物への撹拌機能を高めることができる。撹拌羽根211に着脱自在に別個の羽根を取り付けてもよい。
また、本実施の形態においては、
図16(A)に示すように、内壁110に設けられた突起部116と突起部116との間にスクレーパ212を備える。
図17(A)は、
図16(A)のA-A線に沿う要部断面図であり、(B)は
図17(A)のB-B線に沿う要部断面図である。
図17(A)(B)に示すように、突起部116と突起部116との間にスクレーパ212を支持するための柱部213を設ける。
図17(A)に示すように、柱部213は2枚の板状部材であって、2枚の板状部材の間にスクレーパ212を挟みスクレーパ212と2枚の板状部材とをボルト214などで固定することによって、柱部213がスクレーパ212を支持する。
図17(A)(B)に示すように、スクレーパ212の先端を外壁161の円筒壁170の内周面170に密着させる。
スクレーパ212は外壁161の円筒壁163の内周面170に付着した付着物を掻き取る、掻き取り羽根である。内壁110に設けられた柱部213にスクレーパ212を固定し、スクレーパ212の先端と外壁161の円筒壁163の内周面170とを密着させ、内壁110とともにスクレーパ212が回転することにより、スクレーパ212が付着物を連続して掻き取る。
外壁161の円筒壁163の外周面に温度調整機構T10を取り付け、処理空間181内を流れる被処理物の温度を調整しながら重合反応などの流体処理を行う場合、外壁161の円筒壁163の内周面170に付着物が発生すると、伝熱面となる内周面170の伝熱効率が著しく低下し、処理空間181内の流体の温度が調整できなくなる。スクレーパ212が付着物を連続して掻き取ることにより、外壁161の円筒壁163の内周面170の伝熱効率が低下することを防ぐとともに、生成物の収率の向上を図る。
【0202】
外壁161に邪魔板(バッフル)178を設けて実施することもできる。
図18においては、外壁161に邪魔板(バッフル)178を取り付けた形態を示す。より詳しくは、外壁161の円筒壁163に邪魔板(バッフル)178を支持する支持部179を設け、支持部179に支持された邪魔板(バッフル)178の先端部がプール部183に向けて突出している。このように、邪魔板(バッフル)178を設けることによって、流体の撹拌を促進する。
また、この実施の形態においては、内壁110は六角柱状であって、その外周面111から径方向外側に突出する複数の突起部116を備える。内壁110は、円柱状や六角柱状、四角柱状など角柱状であってもよく、異形柱状であっても構わない。
【0203】
プール部183に触媒部215を設けて実施することもできる。
図19においては、触媒部215として担体に担持された触媒を取り付けた形態を示すことができ、より詳しくは、内壁110に設けられた突起部116と突起部116との間の突起部116のない外周面111に、外径が突起部116と略同じ触媒部215が取り付けられている。触媒部215の外径は突起部116よりも短くてもよい。ここで、触媒部215の外径とは、触媒を担持された担体全体の外径を指す。触媒部215を円盤状の突起部116に取り付けてもよく、その際、内壁110の外周面111と触媒部215との間に空間を設けて触媒部215を円盤状の突起部116に取り付けてもよい。内壁110の外周面111に触媒部215として複数の担体に担持された触媒を周方向に間隔をあけて取り付けてもよい。内壁110とともに触媒部215が回転することから、触媒が担持された担体は回転に耐えうる強度を有するものがよい。また、触媒が担持された担体は、流体を流すためにハニカム状や網目状のものが良く、必要以上に処理空間181を流れる流体に抵抗を生じさせるものは好ましくない。担体に担持された触媒もしくは触媒自体は、固形であって、被処理物の種類や反応の種類により必要に応じて選択して実施することができる。このようにプール部183に触媒部215を備えることにより、効率よく反応を行うことができる。
なお、それぞれの実施の形態は、先の実施の形態と組み合わせて実施することができる。
【0204】
(材質)
内壁110や外壁161は、単一の部材または複数の部材を組み合わせて構成することができ、その材質は、各種の金属の他、シリコンカーバイド(SiC)などのセラミックスや焼結金属、耐磨耗鋼、サファイア、その他金属に硬化処理を施したものや、硬質材をライニングやコーティング、メッキなどを施工したものを採用することができる。
【0205】
(変形例)
次に、
図20(A)を参照して、連続撹拌装置Fの変形例について説明する。なお、以下の説明においても連続撹拌装置Fの基本的な構造や作用は同じであり、異なる部分を中心に説明するが、説明のない点については、前記の実施の形態の説明がそのまま適用されるものとする。この変形例にあっても、ラビリンスシール機構を備えその機能を奏する。
【0206】
図20(A)においては、外壁161と内壁110とは共に円錐台筒状であって、外壁161と内壁110とが同心に配置された形態を示すことができる。この例では、
図20(A)の下方が被処理物の流れの上流側であり、
図20(A)の上方が被処理物の流れの下流側である。例えば、乳化重合反応や懸濁重合反応を行うときに、前処理で好適な乳化状態や懸濁状態とされた流体に対し、処理空間181内において重合反応を行う際に反応中に発生するガスを系外(装置外)に排出する場合に適している。ここで、円錐台筒状とは、断面円形の筒状であって、その径が被処理物の流れの上流側から下流側に向けて漸次大きくなる又は漸次小さくなるものであるが、その径が一定となる部分があってもよい。例えば、後述するように、外壁161と内壁110とのうちの少なくとも一つを間隙調整機構(図示せず)により移動可能に備える場合、被処理物の流れの上流側と下流側においてその径が一定となる部分を設けてもよい。また、ラビリンスシール機構を作用させる部分においてもその径が漸次大きくなる又は漸次小さくなる部分とその径が一定となる部分とがあってもよい。本実施の形態においては、外壁161と内壁110とは共に断面円形の筒状であって、その径が被処理物の流れの上流側から下流側に向けて漸次大きくなるものである。
【0207】
外壁161は、底部162を有する円錐台筒状であって、その開口端には径方向外側に突出するフランジが形成され、外壁161とは別部材である天部176とフランジ167とが固定されることによって閉鎖されている。
内壁110は、円錐台筒状であって、その外周面111から径方向外側に突出する複数の突起部116を備える。本実施の形態においては、突起部116は、平面視円周状をなし、軸方向において所定の間隔をあけて設けられ、突起部116の基端から先端に向けてすぼまっており、径方向において厚みが変化するものである。内壁110は中実の円錐台形状であってもよい。
【0208】
(間隙調整機構)
外壁161と内壁110とのうちの少なくとも一つを間隙調整機構(図示せず)により移動可能に備えてもよい。外壁161と内壁110とのうちの少なくとも一つを移動可能に備えることにより、シール部184の広さを調整可能としている。この実施の形態においては、内壁110を間隙調整機構(図示せず)により同心上で即ち中心軸方向に移動可能に備える。中心軸の位置が変化しないことが好ましい。内壁110を同心上で移動可能に備えることにより、シール部184の広さを調整可能としている。この実施の形態においては、外壁161は円錐台筒状であり、内壁110を同心上で移動可能に備えることにより、突起部116の先端と外壁161の円筒壁163の内周面170との間の微小な間隙を調整可能としている。反応中に発生するガスを抜きたいときや高粘性の被処理物を処理する際にシール部184の広さを調整して比較的広いシール部184を備えることができ有利である。
図20(B)(C)は、連続撹拌装置Fの要部説明図であって、内壁110を間隙調整機構(図示せず)により同心上で移動させた際のシール部の広さの変化を示す。実線で内壁110が下降している状態を描き、二点鎖線で内壁110が上昇している状態を描いている。なお、
図20(C)は、円柱状である内壁110を間隙調整機構(図示せず)により同心上に移動させた際の要部断面図である。
図20(B)(C)に示すように、内壁110を間隙調整機構(図示せず)により同心上で上昇させると、シール部184の広さが広くなる。間隙調整機構の具体的構成は、特に限定されるものではなく、ネジによる送り機構、エアーや油圧などの流体圧駆動機構など、直線的な送り手段を適宜選択して採用することができる。
【0209】
(マイクロウェーブ照射機構)
外壁161や内壁110には、少なくとも何れか1つにマイクロウェーブを照射する為の、マグネトロンなどのマイクロ波発生装置をマイクロウェーブ照射機構として備え、処理空間181を流れる流体の加熱、化学反応の促進を行ってもよい。
【0210】
(圧力調整機構)
内壁110や外壁161に、処理空間181を流れる流体の圧力を調整するために、圧力調整機構を備えてもよい。例えば、圧力調整機構として、種々のポンプを用いることができる。処理空間181に負圧をかけてもよい。具体的には、窒素ガスを用いて処理空間181を加圧状態としたり、真空ポンプによる処理空間181の真空度を制御することが挙げられる。
【0211】
処理空間181内で流体の処理が予定される被処理物が供給部175から処理空間181に供給される。供給部175から処理空間181へ供給された被処理物は、処理空間181を流れながら流体の処理がなされ、流出部168から系外(装置外)に排出される。流体の処理とは、反応処理であって、原料の混合と、それに続く反応の進行及び反応生成物を得る処理であり、次のような処理を行うことができる。例えば、流体の滞留、流体の撹拌、流体の混合、熱処理、pH調整、熟成等が挙げられる。この反応処理は、晶出、晶析、析出などを伴うものであってもよく、伴わないものであってもかまわない。例えば、有機反応の場合、滞留処理によって反応の完結を行ってもよいし、その際に撹拌処理を加えても構わない。
【0212】
本発明の実施に用いる連続撹拌装置Fは、上述で例示した、第一の流体処理(原料Aと原料Bの混合)と第二の流体処理(原料Aと原料Bとの反応の進行)とを実施するものとして用いてもよい。第一の流体処理を本発明に係る連続撹拌装置Fとは異なる装置で実施し、第一の流体処理に続く第二の流体処理を本発明に係る連続撹拌装置Fで実施するものとしてもよく、第一の流体処理を本発明に係る連続撹拌装置Fで実施し、第一の流体処理に続く第二の流体処理を本発明に係る連続撹拌装置Fとは異なる装置で実施してもよい。
また、本発明に係る連続処理装置Fとは異なる装置を用いてプレ分散、プレ乳化、プレ粉砕などの前処理を行った流体に対する流体の処理を行ったり、前処理を行わずにダイレクトに流体の処理を行うなどの展開が可能である。
【0213】
(処理特性の制御)
本発明の連続撹拌装置Fを用いて、流体処理を行うことによって、反応場の温度条件、圧力条件や撹拌条件、反応時間といった反応条件を調整することができることから、例えば、原料の反応率、選択率、生成物の収率といった処理特性の制御を行うことができるものであり、原料の反応率は、供給された原料に対する反応により消費された原料の割合であり、選択率は、反応により消費された原料が目的生成物の生成に消費された割合であり、生成物の収率は反応率と選択率とを乗じたものである。
【0214】
(非層流条件下)
本発明においては、処理空間181内での流体処理を非層流条件下で行うことが好ましい。供給部175から処理空間181へ供給された流体に対してせん断力を付与したり、上記の式(2)に記載の代表長さLを大きくするなどして乱流状態とし、流体中の分子同士が接触したり衝突したりする頻度を増加させることにより、生成物を得ることもできる。例えば、顔料粒子を含む流体を分散させて顔料分散液を得たい場合に乱流条件下での撹拌は有用である。また、乱流条件下では、温度調整機構T10を流れる熱媒体と処理空間181を流れる流体との熱交換率のアップが期待できる。
【0215】
以下に、本発明をさらに具体的に、いくつかの化学反応を例としてより詳細に説明する。しかし、本発明はこの形態にとらわれるものではない。有機化合物を出発原料とする全ての有機反応における一例を列挙するに過ぎない。
【0216】
本発明における有機反応は、
図12(C)に示す流体処理装置Fの、上流側処理部と、被処理流動体を滞留させ撹拌する機能を果たす複数のラビリンスシールを設けた下流側処理部とを、被処理流動体に含まれる反応基質となる有機化合物および/または反応を促進させる物質(反応剤)が通過することで強制的に均一に混合・撹拌されて有機反応が進行する。本発明において、被処理流動体には少なくとも1種類の有機化合物が含まれる。
【0217】
(反応種類と反応条件)
本発明における反応は、均一系の液相反応や、互いに混じり合わない液体同士の反応、液体-固体系又は液体-気体系の不均一系の反応でもよい。代表的には、反応基質となる有機化合物そのもの、または有機化合物を予め溶媒に溶解させた溶液の状態としたものおよび/または反応を促進させる物質(反応剤)そのもの、または反応を促進させる物質(反応剤)を予め溶媒に溶解させた溶液の状態としたものを、上述した
図12(C)の流体処理装置Fに従って、第1導入部d1、第2導入部d2から導入し、強制的に均一に混合・撹拌して有機反応させる。また、反応基質と反応基質との反応時または反応基質と反応剤との反応時に、必要に応じて反応基質や反応剤とは異なる第3の成分を存在させても良い。第3の成分としては、重合開始剤、反応停止剤、重合停止剤、pH調整剤、触媒、コーティング剤等が挙げられ、反応時に複数の成分を存在させてもよい。
【0218】
反応基質である有機化合物とは異なる溶媒を使用する場合には、溶媒としては、水、液体アンモニア、有機溶媒、超臨界流体、イオン液体、無機酸等が使用可能である。
有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族系炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール等のジオール類、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ブチルアルデヒドなどのアルデヒド類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエ-テル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類、トリエチルアミン、ピロリジン、ピリジンなどのアミン類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、酢酸、蟻酸等のカルボン酸類、メタンスルホン酸等のスルホン酸類、が挙げられ、これらの任意の割合の混合物を用いることもできる。
超臨界流体としては、超臨界水、超臨界二酸化炭素などを用いることが出来る。
イオン液体としては、アンモニウム塩類、イミダゾリウム塩類、モルホリニウム塩類、ホスホニウム塩類、ピペリジニウム塩類、ピリジニウム塩類、ピロリジニウム塩類、スルホニウム塩類が挙げられ、これらの任意の割合の混合物を用いることもできる。
無機酸としては、硝酸、亜硝酸、硫酸、過硫酸、亜硫酸、チオ硫酸、アジチオン酸などの硫酸類、ホスホン酸、亜リン酸、リン酸、ポリリン酸などのリン酸類などがあげられ、これらの任意の割合の混合物を用いることもできる。
中でも、水と有機溶媒が好ましい。溶媒の使用量は、通常反応基質の濃度が、溶媒1リットルに対して0.01~20モル、好ましくは0.1~10モル、更に好ましくは1~5モルとなるような量の溶媒を用いるのがよい。
【0219】
本発明における反応としては、酸化反応、還元反応、置換反応、付加反応、脱離反応、転位反応、縮合反応、ペリ環状反応、重合反応、加溶媒分解、脱水反応、ハロゲン化反応などが挙げられる。
【0220】
酸化反応としては、ヒドロキシ基のカルボニル基への酸化反応、アルデヒド基のカルボン酸への酸化反応、カルボン酸の過カルボン酸への酸化反応、アルカンのアルケンへの脱水素反応、アルケンのアルキンへの脱水素反応、アルケンのアルケンオキサイドへの酸化反応、アミンの酸化反応によるニトロ基合成反応、アミンの酸化反応によるN-Oラジカル合成反応が挙げられる。酸化反応の反応剤としては、クロム酸塩類、次亜塩素酸塩類、過塩素酸塩類、オスミウム化合物、超原子価ヨウ素化合物、硫黄酸化物、N-オキシド化合物、過酸化水素水やヒドロペルオキシド等の過酸化物、酸素等が挙げられる。
【0221】
還元反応としては、エステルからのアルデヒドへの還元反応、エステルからのアルコールへの還元反応、エステルからのメチル基への還元反応、ケトンからのアルコールへの還元反応、ケトンからの炭化水素基への還元反応、シアノ基からのシッフ塩基への還元反応、シアノ基からのメチルアミノ基への還元反応、ニトロ基からアミノ基への還元反応、シッフ塩基のアミノ基への還元反応、カルボニル基の還元的アミノ化反応が挙げられる。還元反応の反応剤としては、アルミニウムヒドリド化合物、ボラン化合物、ボロヒドリド化合物、金属ヒドリド化合物、シラン化合物、スズヒドリド化合物等が挙げられる。
【0222】
置換反応とは、有機化合物の原子や置換基が置き換わる反応であり、反応の様式により求電子置換反応と求核置換反応に大別される。例としては、ハロゲン化アルキルの求核置換反応、芳香族求核置換反応、芳香族求電子置換反応、親電子置換反応、アルコールの水素原子による置換反応、シリルオキシ化合物の求核置換反応、ジアゾニウム基のハロゲン原子置換反応、ジアゾニウム基の水酸基置換反応等が挙げられる。
【0223】
付加反応とは、多重結合が解裂し、それぞれの端が別の原子団と新たな単結合を生成する反応で、置換反応と同様、その反応様式によって求電子付加反応と求核付加反応に大別される。例としては、アルケンへのハロゲンの付加反応、アルキンへのハロゲンの付加反応、アルケンへのハロゲン化水素の付加反応、アルキンへのハロゲン化水素付加反応、α,β-不飽和カルボニル化合物への共役付加反応、アルケンのヒドロホウ素化、アルケンのヒドロホルミル化、アルケンからのジオール合成反応、イソシアノ基へのアルコール付加反応、イソシアノ基へのアミン付加反応、イソシアノ基への酸の付加反応、カルボニル基のシアノヒドリン化反応、カルボニル基とアルコールからのアセタール基を与える反応、カルボニル基のヘミアセタール化反応、アミンのアルキル化反応による2級アミンもしくは3級アミンもしくは4級アンモニウム塩の合成反応、カルボニル基またはシアノ基への有機金属化合物(グリニャー試薬、ブチルリチウム等)の求核付加反応が挙げられる。
【0224】
脱離反応とは、有機化合物が原子団を放出してより原子数の少ない分子となる反応形であり、結果として、多重結合が生成する反応である。例としては、シアノ基の脱シアン化水素反応、4級アンモニウム塩のホフマン脱離反応、エーテルの脱アルコール反応等が挙げられる。
【0225】
転位反応とは、化合物を構成する原子または原子団(基)が結合位置を変える反応であり、反応様式によって求核転位、求電子転位、シグマトロピー転位、ラジカル転位に分類される。例としては、ワーグナー・メーヤワイン転位、ピナコール・ピナコロン転位、ベンジル・ベンジル酸転位、アリル転位、ファボルスキー転位、プメラー転位、ベックマン転位、クルチウス転位、ロッセン転位、ホフマン転位、シュミット反応、バイヤー・ビリガー酸化等が挙げられる。
【0226】
縮合反応とは、付加反応と脱離反応とが連続して進行する反応であり、付加脱離反応とも呼ばれる反応である。縮合反応の内、水分子が脱離する場合を、脱水縮合と呼ぶ。例としては、アルコールとカルボン酸、カルボン酸無水物またはカルボン酸塩化物とのエステル化反応、アミンとカルボン酸、カルボン酸無水物またはカルボン酸塩化物とのアミド化反応、α位に水素を持つカルボニル化合物とアルデヒドまたはケトンとのアルドール縮合反応、塩基性条件下におけるエステル同士のクライゼン縮合反応、カルボン酸の酸無水物合成反応、活性メチレン化合物とアルデヒドまたはケトンとの縮合によりアルケンを得る反応等が挙げられる。
【0227】
ペリ環状反応とは、π電子系を含む複数の結合が環状の遷移状態を経て、反応中間体を経由せずに同時に形成、切断される反応様式である。例としては、アルケンとジエンのディールスアルダー反応、アルキンとジエンのディールスアルダー反応、カルボニル基とジエンのヘテロディールスアルダー反応、アリル位に水素をもつアルケンとアルケンまたはカルボニル基とのエン反応、1,3-ブタジエンと二酸化硫黄とのキレトロピー反応が挙げられる。
【0228】
重合反応とは、重合体(ポリマー)を合成することを目的にした一群の反応であり、二重結合を有する重合性の単量体(モノマー)が二重結合を開きながら重合する付加重合、環構造を有するモノマーが環の結合を開きながら重合する開環重合、モノマーが水などの分子や原子団が脱離しながら重合する縮合重合がある。また、少量の開始剤から生じた活性種にモノマーが反応して新たに同類の活性種を生成し、この反応が連続的に起こりポリマーを生成するプロセスを連鎖重合と呼び、活性種の違いにより、それぞれラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位重合に分類される。液相重合を行う場合、ポリマーがモノマーあるいは溶剤に溶けている均一系重合と、ポリマーがモノマーあるいは溶剤に溶けないで析出している不均一系重合に分類され、前者としては溶液重合や塊状重合が挙げられ、後者としては懸濁重合や乳化重合が挙げられる。
【0229】
加溶媒分解とは、溶媒が求核剤となり、溶質である有機化合物を反応物とする求核置換反応または脱離反応である。加溶媒分解は、求核剤となる溶媒の種類によって、加水分解(求核剤が水の場合)、加アルコール分解(求核剤がアルコールの場合)、加アンモニア分解(求核剤がアンモニアの場合)、アミノ分解(求核剤がアルキルアミンの場合)などに分類される。加溶媒分解の反応物としては、エステル、ニトリル、イソシアニド、アミドが挙げられ、一般的に一つの反応物から二つの分解物を生み出す。例えば、加水分解の場合、エステルをアルコールとカルボン酸に、アミドをカルボン酸とアミンに分解する。エステルを反応物とする加アルコール分解はアルコール部分の交換であるエステル交換反応として知られる。
【0230】
脱水反応とは、分子内あるいは分子間から水分子が脱離することで進行する反応である。例としては、アルコール2分子からの分子間脱水によりエーテルを合成する反応、アルコールからの分子内脱水によりアルケンを合成する反応、カルボニル基とアミノ基から分子間脱水によりシッフ塩基を与える反応等が挙げられる。
【0231】
ハロゲン化反応とは、有機化合物に1個またはそれ以上のハロゲン原子を導入する反応で、ハロゲンの種類によって、フッ素化、塩素化(クロロ化)、臭素化(ブロモ化),ヨウ素化に分類される。例として、アルキル基のハロゲン化反応、芳香環のハロゲン化反応、カルボニル基のα位のハロゲン化反応が挙げられる。ハロゲン化反応の反応剤としては、フッ素、フッ化水素、フッ化物塩、塩素、塩化チオニル、三塩化リン、五塩化リン、塩化スルフリル、塩化オキサリル、N-クロロスクシンイミド、臭素、トリブロミド、N-ブロモスクシンイミド、ヨウ素、N-ヨードスクシンイミド等が挙げられる。
【0232】
また、前記に挙げた反応以外に本発明における反応としては、カルボン酸とエステルとのエステル交換反応、カルボン酸とアミドとのアミド交換反応、エステルとアミドの交換反応、ウィッティヒ反応、ホーナー・ワズワース・エモンス反応等のリン化合物とカルボニル化合物からアルケンを生成する反応、ピーターソン オレフィン化反応等の有機ケイ素化合物とカルボニル化合物からアルケンを生成する反応、テッベ試薬のようなチタンのカルベン錯体を利用したオレフィン化反応、コーリー・チャイコフスキー反応の等のカルボニル化合物と硫黄イリドからエポキシドを合成する反応、ジハロアルカンによりアルケンをシクロプロパン化するシモンズ・スミス反応、各種カップリング反応(鈴木・宮浦カップリング反応、Kumada-Corriu反応、Ullmannカップリング)等が挙げられる。
【0233】
本発明の方法は、下流側処理部に温度調整機構Tが敷設された流体処理装置Fを使用することで反応時に生じる反応熱を効果的に除去可能であることから、発熱の大きい反応や暴走の懸念される反応に好適である。
【0234】
本発明においては、短時間で反応を完了させることが困難な以下の反応について下流側処理が特に有効であると考え、詳しく記述しているが、流体処理装置Fを用いる反応について何ら限定するものではない。以下に記述する反応以外においても本装置は有効であり高い収率をさらに高くすることや、使用する反応促進剤や触媒の使用量を減らすことが期待できる。
【0235】
反応例1(乳化重合)
乳化重合は、安価で安全な水を媒体として用い、高い分子量のポリマーが得られ、0.01~数μmの幅広い範囲の粒子径を持つ微粒子が製造できることから広く普及した重合方法である。典型的な乳化重合では、モノマー、乳化剤もしくは分散剤、開始剤、水を用い、ラジカル重合を経てポリマー微粒子の水分散液を製造する。本発明の実施に用いる流体処理装置Fは、上流側処理部において相対的に回転する少なくとも二つの処理用面の間で被処理流動体にせん断力がかけられるため、互いに相溶しない二つの流体を上流側処理部を通過させることによって効率よく乳化させることができる。また、下流側処理部において一定時間反応を継続することができるため、連鎖重合のように同じ条件の維持が必要な反応に適している。例えば、
図12(C)に示す装置を使用して乳化重合を行う場合、重合体原料として乳化重合に用いる各種原料を、第1流体、第2流体として調製し、それぞれ第1導入部d1、第2導入部d2から導入し、上流側処理部にて上流側処理としてモノマーの乳化工程または分散工程を実施し、下流側処理部にて下流側処理として被処理流動体に対して加熱撹拌処理を行うことにより重合工程を実施し、ポリマー微粒子の分散液を製造することが好ましい。上流側処理として一部重合が行われても構わないし、下流側処理として重合と並行してモノマーの乳化または分散が引き続き行われても構わない。第1流体、第2流体の例として、モノマーを少なくとも1つ含む流体と、モノマーと互いに混ざり合わない媒体である水に開始剤と乳化剤または分散剤を少なくとも1つ含む流体とが挙げられる。
【0236】
本発明において使用できる乳化重合のモノマーについては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレン、プロピレン等のα‐オレフィン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、スチレン等、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のエチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート、アクリル酸やメタクリル酸等のα,β-不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、桂皮酸等の不飽和基含有二価カルボン酸及びそれらのアルキルエステル、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、о-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、イソプロペニルベンセン(α-メチルスチレン)等のスチレン系単量体、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、1,1-ジフェニルエチレン、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物類、マレイミドや、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-置換マレイミド等、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、ジビニルベンゼン等の多官能モノマー等があげられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0237】
乳化剤もしくは分散剤としては以下に限定されるものではないが、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、高分子系分散剤等が挙げられる。乳化剤または分散剤は、モノマーを水中に乳化または分散させる物質である。
【0238】
アニオン性界面活性剤としては、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、リノレン酸ナトリウム、ロジン酸ナトリウム、ロジン酸カリウム等の脂肪酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸カリウム、セチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、セチルベンゼンスルホン酸カリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸カリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸カリウム等のアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸カリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩、等が挙げられる。これらのアニオン性界面活性剤の中でも、アルキル硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等が好ましい。
【0239】
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、ベンジルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0240】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらのノニオン性界面活性剤の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコールが好ましい。
【0241】
高分子系分散剤としては、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等が挙げられる。
【0242】
以上に挙げられた乳化剤もしくは分散剤は単独で用いてもよいし、必要に応じて2種類以上を系に添加してもよい。また、乳化剤もしくは分散剤自体に重合性官能基を含む重合性の乳化剤もしくは分散剤を用いてもよい。
【0243】
単量体の重合を開始させる開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム(ペルオキソ2硫酸カリウム)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、などの過硫酸塩、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物系重合開始剤、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤が挙げられる。
【0244】
開始剤は上記のものを単独で使ってもよいし、酸化剤(たとえば過酸化アンモニウム、過酸化カリウムなど)と還元剤(たとえば亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなど)および遷移金属塩(たとえば硫酸鉄など)からなるレドックス開始剤類を用いてもよい。
【0245】
反応の制御を目的とし必要に応じて重合停止剤を用いてもよい。重合停止剤としては、例えば、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン硫酸塩、ジエチルヒドロキシアミン、ヒドロキシアミンスルホン酸およびそのアルカリ金属塩、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ハイドロキノン等が挙げられる。
【0246】
本発明において、乳化重合を行う場合、前記のモノマー、水、乳化剤もしくは分散剤、開始剤、その他必要に応じて使用される薬剤(例えば、重合停止剤)を適宜の割合で用いることができる。重合体原料の供給速度(単位時間当たりの流量)、装置の容積(下流側処理空間81の容積)、重合時間(下流側処理空間81内の流体の滞留時間)は、互いに関連している。通常、装置の容積は一旦装置が設置されると固定される場合が多い。重合時間も重合体原料によって適切な時間が設定されるため、装置の容積と重合時間から重合体原料の供給速度を適宜設定するのが一般的であるが、本発明においてはこのような方法に限定するものではない。ここで、重合体原料の供給速度とは、第1流体と第2流体との上流側処理空間3内への供給速度(単位時間当たりの流量)をいう。以下、本発明において、種々の有機反応における原料の供給速度(単位時間当たりの流量)とは、第1流体と第2流体との上流側処理空間3内への供給速度(単位時間当たりの流量)をいう。
【0247】
重合温度は、通常、室温から95℃程度までであり、好ましくは用いる開始剤のラジカル発生温度により決められる。重合体原料の重合を前記下流側処理部で行う場合、敷設される温度調整機構Tにより下流側処理空間81内を流れる流体と熱媒体との熱交換を行うことで、短時間に均一な温度調整が可能になり、重合反応の進行のばらつきを抑え、分子量分布がそろったポリマー微粒子の製造が可能になる。
【0248】
反応例2(エステルの加水分解反応)
エステル結合はプラスチック材料、繊維、医薬品などによくみられる基本的な結合であり、高分子を分解して再利用する際や、医薬品などで中間体の保護基を外して目的の官能基を結合させる場合などに、高分子や医薬品に含まれるエステル結合を分解することがある。加水分解反応はエステルをアルコールとカルボン酸に分ける反応であり、基本的な反応操作の一つである。酸性物質または塩基性物質によって触媒的に反応速度が増加することが知られている。典型的な加水分解の場合、エステル、水、触媒、溶媒を用いて、均一系、または不均一系で行われる。例えば
図12(C)に示す装置を使用して、エステルの加水分解を行う場合、加水分解原料として用いる各種化合物を、第1流体、第2流体として調製し、それぞれ第1導入部d1、第2導入部d2から導入し、上流側処理部において上流側処理として混合工程を実施し、下流側処理部において下流側処理として被処理流動体に対して反応工程を実施することにより、アルコールとカルボン酸の混合液を得る。上流側処理として第1流体と第2流体との混合と反応がなされ、下流側処理において被処理流動体に対して反応状態を継続しても構わない。
第1流体、第2流体の例として、エステルを少なくとも1つ含む流体と、エステルの加水分解を促進する酸性物質または塩基性物質のいずれかを少なくとも1つ含む流体とが挙げられる。
【0249】
本反応に使用できるエステルとしては以下の例が挙げられるが、本発明においては以下の物質に何ら制限されるものではない。エステルとしてはもっとも単純なギ酸メチルから、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、ギ酸ヘキシル、ギ酸ヘプチル、ギ酸オクチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸3-メチルブチル、酢酸ヘキシル、酢酸ヘプチル、酢酸オクチル等の脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸のエステル、酢酸フェニル、酢酸ベンジル等のフェノール又は芳香族アルコールと脂肪族カルボン酸のエステル、安息香酸メチル、フタル酸ジエチル等の脂肪族アルコールと芳香族カルボン酸のエステル、安息香酸フェニル、安息香酸ベンジル等のフェノール又は芳香族アルコールと芳香族カルボン酸のエステル、鎖状構造に限らず環状のラクトン類、トリグリセリドのような多価アルコールと脂肪酸のエステル等があげられる。また、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等のアシル系保護基で保護された水酸基を有する化合物(例えば、酢酸レチノール(ビタミンAの酢酸エステル)、酢酸トコフェロール(ビタミンEの酢酸エステル))の脱保護にも適用できる。
【0250】
加水分解に用いられる触媒の例としては、塩酸、硝酸、硫酸、などの鉱酸を始め、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸等の酸性物質、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、水酸化テトラメチルアンモニウム等の四級アンモニウムの水酸化物等の塩基性物質が用いることができる。
【0251】
溶媒は特に限定されないが、反応物及び分解物を溶解させることができる、水、アルコールなどの親水性溶媒であることが好ましい。
【0252】
本発明において、エステルの加水分解を行う場合、加水分解原料として前記のエステル、水、触媒、溶媒、その他必要に応じて使用される薬剤(例えば、乳化剤、加水分解酵素、緩衝剤など)を適宜の割合で用いることができる。加水分解原料の供給速度(単位時間当たりの流量流量)、装置の容積(下流側処理空間81の容積)、反応時間(下流側処理空間81内の流体の滞留時間)は互いに関連しており、原材料、触媒によって適切な反応時間が設定されるため、装置の容積と反応時間から加水分解原料の供給速度を適宜設定するのが一般的であるが、本発明においてはこのような方法に限定するものではない。
【0253】
加水分解の反応時間は、通常、下限は数分から上限は数時間までであり、好ましくは5分以上1時間以下であり、より好ましくは10分以上30分以下である。反応温度は、通常、0℃から95℃程度までであり、好ましくは用いる触媒の強度と原料となるエステルの反応性により決められる。
【0254】
反応例3(エステル化反応またはアミド化反応)
反応例2の逆反応であり同じく有機化合物の合成にて多用される。ただし、エステル化反応またはアミド化反応の際に原料から脱離する水を適宜除去しないと逆反応によってエステル化反応またはアミド化反応の進行が阻害されるため、脱水剤等の試薬を必要に応じて併用する。特にカルボン酸自体の反応性が低い場合は、対応するカルボン酸塩化物などのカルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸無水物等のカルボン酸等価体を使用することで反応性を改善することができ、取り扱いのしやすさからカルボン酸無水物を用いることが望ましい。また、エステル化反応またはアミド化反応を行う際は、必要に応じて反応を促進する物質(反応剤)を使用してもよい。典型的なエステル化反応またはアミド化反応の場合、アルコールまたはアミン、カルボン酸等価体、反応を促進する物質(反応剤)、溶媒を用いて、均一系、または不均一系で行われる。例えば
図12(C)に示す装置を使用して、エステル化反応またはアミド化反応を行う場合、エステル化原料又はアミド化原料として用いる各種化合物を、第1流体、第2流体として調製し、それぞれ第1導入部d1、第2導入部d2から導入し、上流側処理部において上流側処理として混合工程を実施し、下流側処理部において下流側処理として被処理流動体に対して反応工程を実施することにより、目的とするエステルまたはアミドを得る。上流側処理として第1流体と第2流体との混合と反応がなされ、下流側処理として被処理流動体に対して反応状態を継続しても構わない。
第1流体、第2流体の例として、アルコールまたはアミンを少なくとも1つ含む流体と、カルボン酸、カルボン酸無水物、またはカルボン酸ハロゲン化物のうち少なくとも1つを含有する流体とが挙げられる。
【0255】
エステル化反応に用いるアルコールとしては、例えば、炭素数1~10(好ましくは1~5)の脂肪族アルコール、炭素数3~10(好ましくは3~7)の脂環式アルコール、炭素数6~30(好ましくは7~18)の芳香族アルコールを挙げることができる。炭素数1~10の脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチルプロパノール、1-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-オクタノール、1-デカノールなどの1価の脂肪族アルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等の2価の脂肪族アルコール、グリセロールなどの3価の脂肪族アルコールが挙げられる。炭素数3~10の脂環式アルコールとしては、例えば、シクロヘキシルメチルアルコール、2-シクロヘキシルエチルアルコール、グルコース、フルクトースが挙げられる。炭素数6~30の芳香族アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール、2-フェニルエチルアルコール、3-フェニルプロピルアルコール、3-フェニル-2-プロペン-1-オールが挙げられる。
【0256】
アミド化反応に用いられるアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、tert-ブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ヘキシルアミン、などのアルキルアミン、シクロヘキシルアミン、ピペリジン、モルホリン、などの環状アミン、アミノエタノール、アミノプロパノールの各種異性体、アミノプロパンジオールの各種異性体、ビス(ヒドロキシエチル)アミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、(ジメチルアミノ)エチルアミン、(ジメチルアミノ)プロピルアミン、(アミノメチル)ピリジン、(アミノエチル)ピリジン、およびヒスタミンなどを挙げることができる。
【0257】
カルボン酸無水物としては、例えば、脂肪族カルボン酸無水物、脂環式カルボン酸無水物、及び芳香族カルボン酸無水物が挙げられる。脂肪族カルボン酸無水物としては、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基を有するカルボン酸の無水物であれば特に限定されないが、酢酸無水物、プロパン酸無水物(無水プロピオン酸)、ブタン酸無水物、ペンタン酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物、オクタン酸無水物、ノナン酸無水物、デカン酸無水物、ラウリン酸無水物、ミリスチン酸無水物、パルミチン酸無水物、ステアリン酸無水物、無水マレイン酸、無水コハク酸等が挙げられる。脂環式カルボン酸無水物としては、飽和又は不飽和の脂環式炭化水素基を有するカルボン酸の無水物であれば特に限定されないが、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロヘキセンジカルボン酸無水物、ビス(シクロペンタンカルボン酸)無水物、ビス(シクロヘキサンカルボン酸)無水物、ビス(アダマンタンカルボン酸)無水物、ビス(ノルボルナンカルボン酸)無水物等が挙げられる。芳香族カルボン酸無水物としては、芳香族炭化水素基を有するカルボン酸の無水物であれば特に限定されないが、例えば、安息香酸無水物、フタル酸無水物、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0258】
カルボン酸ハロゲン化物としては、例えば、脂肪族カルボン酸ハロゲン化物、脂環式カルボン酸ハロゲン化物、及び芳香族カルボン酸ハロゲン化物が挙げられる。また、ハロゲン化物としては、フッ化物、塩化物、臭化物、及びヨウ化物が挙げられる。脂肪族カルボン酸ハロゲン化物としては、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基を有するカルボン酸のハロゲン化物であれば特に限定されないが、例えば、フッ化アセチル、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、フッ化プロピオニル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、フッ化ブチリル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル等が挙げられる。脂環式カルボン酸ハロゲン化物としては、飽和又は不飽和の脂環式炭化水素基を有するカルボン酸のハロゲン化物であれば特に限定されないが、例えば、塩化シクロヘキサンジカルボニル、塩化シクロヘキセンジカルボニルが挙げられる。また、芳香族カルボン酸ハロゲン化物としては、芳香族炭化水素基を有するカルボン酸のハロゲン化物であれば特に限定されないが、例えば、フッ化ベンゾイル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイルなどが挙げられる。
【0259】
エステル化反応またはアミド化反応を促進する物質(触媒、脱水剤を含む)としては例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、プロピオン酸、フタル酸、安息香酸などの有機カルボン酸類、メチルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機スルホン酸類、リン酸ジエチル、リン酸フェニルなどの有機リン酸類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩および炭酸水素塩、リン酸三リチウム、リン酸二水素カリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属のリン酸塩およびリン酸水素塩、メタホウ酸カリウム、四ホウ酸ナトリウム、オルトホウ酸マグネシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属のホウ酸塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸マグネシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属のカルボン酸塩、リチウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、マグネシウムメトキシド、ナトリウムフェノキシドなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコキシド化合物またはフェノキシド化合物、酸化カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属酸化物、アンモニア、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、テトラメチルアンモニウムメチルカーボネート、テトラメチルアンモニウムエチルカーボネート、メチルトリエチルアンモニウムメチルカーボネート、メチルトリn-ブチルアンモニウムメチルカーボネート、メチルトリn-オクチルメチルカーボネートなどのアンモニウム塩、水酸化テトラフェニルホスホニウム、水酸化テトラメチルホスホニウム、テトラメチルホスホニウムメチルカーボネート、メチルトリn-ブチルホスホニウムエチルカーボネート、メチルトリn-オクチルホスホニウムメチルカーボネートなどのホスホニウム塩、n-ブチルアミン、ベンジルアミン、アニリン、エチレンジアミンなどの一級アミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、ピロリジン、N-メチルトルイジンなどの二級アミン、トリエチルアミン、トリn-ブチルアミン、N-メチル-N-エチルアニリン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセンなどの三級アミン、ピリジン、ピコリン、キノリン、イミダゾール、ピリミジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジンなどの含窒素芳香族複素環式化合物、塩化カドミウム、酸化カドミウム、酢酸カドミウムなどのカドミウム系化合物、塩化錫、酸化錫、酢酸錫、オクタン酸錫、トリブチル錫、アセチルアセトン錫(IV)クロリドなどの錫系化合物、塩化鉛、酸化鉛、炭酸鉛、四酢酸鉛などの鉛系化合物、塩化アルミニウム、酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、アルミニウムアルコキシドなどのアルミニウム系化合物、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、トリフルオロ酢酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、アセチルアセトン亜鉛(II)、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛(II)、亜鉛2-テトラフルオロボラート、オキソ[ヘキサ(トリフルオロアセタト)]テトラ亜鉛などの亜鉛系化合物、塩化ビスマス、酸化ビスマス、酢酸ビスマスなどのビスマス系化合物、塩化鉄、酸化鉄、酢酸鉄、アセチルアセトン鉄(III)、N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン鉄(II)などの鉄系化合物、塩化コバルト、酸化コバルト、酢酸コバルト、ステアリン酸コバルト、アセチルアセトンコバルト(II)などのコバルト系化合物、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、酸化銅、酢酸銅、アセチルアセトン銅(II)などの銅系化合物、塩化クロム、酸化クロム、酢酸クロム、アセチルアセトンクロム(III)などのクロム系化合物、塩化モリブデン、酸化モリブデン、酢酸モリブデン、アセチルアセトンモリブデン(VI)ジオキシドなどのモリブデン系化合物、塩化マンガン、酸化マンガン、酢酸マンガン、アセチルアセトンマンガン(II)などのマンガン系化合物、塩化チタン、酸化チタン、酢酸チタン、アルコキシチタン、乳酸チタン、アセチルアセトンチタン(VI)オキシドなどのチタン系化合物、塩化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、アセチルアセトンジルコニウム(IV)などジルコニウム系化合物、塩化ハフニウム、酸化ハフニウム、トリフルオロメタンスルホン酸ハフニウム(IV)などのハフニウム系化合物、塩化ランタン、酸化ランタン、酢酸ランタン、硝酸ランタン、ランタンアルコキシド、アセチルアセトンランタン(III)、トリフルオロメタンスルホン酸ランタン(III)などのランタン系化合物、塩化ゲルマニウム、酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム系化合物、リパーゼなどの酵素などが好適に用いられる。
【0260】
用いられる溶媒は特に限定されないが、n-ヘキサン、n-ペンタン、シクロヘキサンなどの脂肪族または脂環式炭化水素類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの脂肪族または芳香族ハロゲン化物、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、アニソール、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、スルホランなどのスルホラン類などが挙げられる。反応を促進する物質であるアミンをそのまま溶媒として用いてもよい。
【0261】
本発明において、エステル化反応またはアミド化反応を行う場合、エステル化またはアミド化原料として前記のアルコールまたはアミン、カルボン酸等価体、溶媒、反応を促進する物質、その他必要に応じて使用される薬剤(例えば、重合禁止剤、脱水剤など)を適宜の割合で用いることができる。エステル化原料またはアミド化原料の供給速度(単位時間当たりの流量)、装置の容積(下流側処理空間81の容積)、反応時間(下流側処理空間81内の流体の滞留時間)は互いに関連しており、アルコールまたはアミン、カルボン酸等価体、反応を促進する物質によって適切な反応時間が設定されるため、装置の容積と反応時間からエステル化原料またはアミド化原料の供給速度を適宜設定するのが一般的であるが、本発明においてはこのような方法に限定するものではない。
【0262】
エステル化反応またはアミド化反応の反応時間は、通常、下限は数分から上限は数時間までであり、好ましくは5分以上1時間以下であり、より好ましくは10分以上30分以下である。反応温度は、通常、室温から95℃程度までであり、好ましくは用いる反応を促進する物質の強度と原料となるアルコールまたはアミンとカルボン酸等価体の反応性により決められる。
【0263】
反応例4(脱水縮合反応)
脱水縮合反応にはいくつかの様式が存在するが、以下に説明するのはその中のひとつで活性メチレン化合物とアルデヒドまたはケトンとの縮合によりアルケンを得る反応(別名Knoevenagel縮合)である。また、脱水縮合反応を行う際は、必要に応じて反応を促進する物質(反応剤)を使用してもよい。典型的な脱水縮合反応の場合、活性メチレン化合物とアルデヒドまたはケトン、反応を促進する物質(反応剤)、溶媒を用いて、均一系、または不均一系で行われる。例えば
図12(C)に示す装置を使用して、脱水縮合反応を行う場合、脱水縮合原料として用いる各種化合物を、第1流体、第2流体として調製し、それぞれ第1導入部d1、第2導入部d2から導入し、上流側処理部において上流側処理として混合工程を実施し、下流側処理部において下流側処理として被処理流動体に対して加熱撹拌処理を行うことにより反応工程を実施することで、目的とするアルケンを得る。上流側処理として第1流体と第2流体との混合と反応がなされ、下流側処理として被処理流動体に対して加熱撹拌処理を行うことにより反応状態を継続しても構わない。
第1流体、第2流体の例として、アルデヒド又はケトンと活性メチレン化合物をそれぞれ少なくとも1つずつ含む流体と、アルデヒドと活性メチレン化合物との反応又はケトンと活性メチレン化合物との反応を促進する物質を含む流体とが挙げられる。
【0264】
本反応に用いられるアルデヒド類、ケトン類は特に限定されないが、具体例としては、アルデヒドとして、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、グリオキサール、ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド、サリチルアルデヒド、3-メチルブタナール、アクロレイン、シンナムアルデヒド、ぺリルアルデヒド、バニリンなどが挙げられ、ケトンとして、アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、4-メチル-2-ペンタノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、2-オクタノン、3-オクタノン、シクロヘキサノン、2-メチルシクロペンタノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンジリデンアセトン、3-ブテン-2-オン、イソホロンなどがあげられる。
【0265】
一方の活性メチレン化合物としては、有機化合物の中で、2個の電子求引基にはさまれたメチレン基を持つ一連の化合物群であり、電子求引基としては、カルボニル基、エステル基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ホスホノ基などが例として挙げられる。本反応に用いられる活性メチレン化合物は特に限定されないが、具体例としては、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル等のマロン酸ジエステル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル等のアセト酢酸エステル、マロノニトリル、アセチルアセトン、メルドラム酸、マロン酸などがあげられる。
【0266】
本反応を促進する物質として、酢酸、プロピオン酸などの酸性物質、ピリジン、ピペリジン、イミダゾールなどの塩基性物質またはそれらの混合物等を使用することができる。
【0267】
用いられる溶媒は特に限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、n-ヘキサン、n-ペンタン、シクロヘキサンなどの脂肪族または脂環式炭化水素類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの脂肪族または芳香族ハロゲン化物、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、アニソール、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、スルホランなどのスルホラン類などが挙げられる。
【0268】
本発明において、脱水縮合反応を行う場合、原料として前記の活性メチレン化合物とアルデヒド類またはケトン類、溶媒、反応を促進する物質、その他必要に応じて使用される薬剤(例えば、酢酸アンモニウム)を適宜の割合で用いることができる。原料の供給速度(単位時間当たりの流量)、装置の容積(下流側処理空間81の容積)、反応時間(下流側処理空間81内の流体の滞留時間)は互いに関連しており、活性メチレン化合物とアルデヒド類またはケトン類、反応を促進する物質の組合せによって適切な反応時間が設定されるため、装置の容積と反応時間から原料の供給速度を適宜設定するのが一般的であるが、本発明においてはこのような方法に限定するものではない。
【0269】
脱水縮合反応の反応時間は、通常、下限は数分から上限は数時間までであり、好ましくは5分以上1時間以下であり、より好ましくは10分以上30分以下である。反応温度は、通常、室温から95℃程度までであり、好ましくは用いる反応を促進する物質の強度と原料となる活性メチレン化合物とアルデヒド類またはケトン類の反応性により決められる。
【0270】
反応例5(アセタール化反応)
アセタール化反応は、酸触媒存在下でアルデヒドまたはケトンとアルコールを縮合させてアセタールを得る反応、または、ビニルエーテルとアルコールを縮合させてアセタールを得る反応であり、樹脂や接着剤の中間体合成に用いられる。また、反応を行う際は、必要に応じて反応を促進する物質(反応剤)を使用してもよい。典型的なアセタール化反応の場合、アルコールと、アルデヒドまたはケトンまたはビニルエーテル、酸触媒、反応を促進する物質(反応剤)、溶媒を用いて、均一系、または不均一系で行われる。例えば
図12(C)に示す装置を使用して、アセタール化反応を行う場合、アセタール化原料として用いる各種化合物を、第1流体、第2流体として調製し、それぞれ第1導入部d1、第2導入部d2から導入し、上流側処理部において上流側処理として混合工程を実施し、下流側処理部において下流側処理として被処理流動体に対して加熱撹拌処理を行うことにより工程を実施することで、目的とするアセタールを得る。上流側処理として第1流体と第2流体との混合と反応がなされ、下流側処理として被処理流動体に対して加熱撹拌処理を行うことにより反応状態を継続しても構わない。
第1流体、第2流体の例として、アルデヒドまたはケトンとアルコール類とを少なくとも1つずつ含む流体と、アルデヒドとアルコール類との反応またはケトンとアルコール類との反応を促進するプロトン酸触媒を含む流体とが挙げられる。
【0271】
本反応に用いられるアルデヒド類、ケトン類は特に限定されないが、具体例としては、アルデヒドとして、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、グリオキサール、ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド、サリチルアルデヒド、3-メチルブタナール、アクロレイン、シンナムアルデヒド、ぺリルアルデヒド、バニリンなどが挙げられ、ケトンとして、アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、4-メチル-2-ペンタノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、2-オクタノン、3-オクタノン、シクロヘキサノン、2-メチルシクロペンタノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンジリデンアセトン、3-ブテン-2-オン、イソホロンなどがあげられる。
【0272】
アセタール化反応に用いるアルコールとしては、例えば、炭素数1~10(好ましくは1~5)の脂肪族アルコールを挙げることができる。炭素数1~10の脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチルプロパノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-オクタノール、1-デカノールなどの1価の脂肪族アルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール等の2価の脂肪族アルコールが挙げられる。
【0273】
アセタール化反応に用いるビニルエーテルとしては、例えば、3,4-ジヒドロ-2H-ピランであり、生成物としてテトラヒドロピラニルエーテルが得られる。
【0274】
本発明で用いるアセタール化反応の触媒としての酸(プロトン酸触媒)としては、硫酸、塩酸、リン酸、臭化水素酸など、通常アセタール化反応に用いられるものはいずれも使用できる。
【0275】
用いられる溶媒は特に限定されないが、n-ヘキサン、n-ペンタン、シクロヘキサンなどの脂肪族または脂環式炭化水素類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの脂肪族または芳香族ハロゲン化物、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、アニソール、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、スルホランなどのスルホラン類などが挙げられる。原料のアルコールをそのまま溶媒として用いてもよい。
【0276】
本発明において、アセタール化反応を行う場合、原料として前記のアルデヒド類、ケトン類またはビニルエーテルと、アルコール、触媒、溶媒、その他必要に応じて使用される薬剤(例えば、ジメトキシプロパン)を適宜の割合で用いることができる。アセタール化原料の供給速度(単位時間当たりの流量)、装置の容積(下流側処理空間81の容積)、反応時間(下流側処理空間81内の流体の滞留時間)は互いに関連しており、アルデヒド類、ケトン類またはビニルエーテルとアルコール、触媒の組合せによって適切な反応時間が設定されるため、装置の容積と反応時間から原料の供給速度を適宜設定するのが一般的であるが、本発明においてはこのような方法に限定するものではない。
【0277】
アセタール化反応の反応時間は、通常、下限は数分から上限は数時間までであり、好ましくは5分以上1時間以下であり、より好ましくは10分以上30分以下である。反応温度は、通常、室温から95℃程度までであり、好ましくは用いる酸触媒の強度と原料となるアルデヒド類、ケトン類またはビニルエーテルとアルコールの反応性により決められる。
【実施例】
【0278】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。また、「第1流体、第1導入部d1」、「第2流体、第2導入部d2」についても、その投入順序を限定するものではなく、第1流体と第2流体が入れ替わってもなんら差し支えない。
【0279】
(本発明に用いる装置)
図12(C)に示す流体処理装置Fを用いた。あらかじめ原料液を作製し、原料液を貯蔵している容器(図示無し)から送液ポンプP1、P2を用いて第1導入部d1及び第2導入部d2から上流側処理空間3へ原料液を導入し有機反応させた。また、比較のため、下流側処理部を有さない従来型の装置として、本願出願人に係る特開2010-189661号公報の
図1(A)に示されているものと同様の、エム・テクニック株式会社製の強制薄膜式リアクター(ULREA SS-11-75)を用いて、同様に送液ポンプP1、P2を用いて原料液を処理用面1、2間に導入し有機反応させた。本発明に係る有機化合物の製造方法の実施に用いる流体処理装置Fは、下流側処理を行うための下流側処理空間81を流体処理装置F内に設ける点において、特開2010-189661号公報に示されている装置と相違するものである。
【0280】
(分子量及び分子量分布分析)
乳化重合で得られた重合体(ポリマー)微粒子の分散液については、ゲル濾過クロマトグラフィーにより数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布Mw/Mnの評価を行った。
具体的には、実施例1と比較例1-1、1-2について、重合反応完了後に得られたポリマー微粒子の分散液を一定量分けとった。分け取ったポリマー微粒子の分散液を遠心分離機(高速冷却遠心機モデル7000、株式会社久保田製作所製)を用いて8000Gの遠心力で10分間遠心分離を行い、得られた固形分を純水で2回洗浄し開始剤などを除去した。洗浄後の固形分を減圧乾燥により乾燥し、ポリマー微粒子の乾燥粉体を得た。ポリマー微粒子の乾燥粉体をテトラヒドロフラン(関東化学株式会社製)に0.3質量%の濃度で溶解してゲル濾過クロマトグラフィーの測定試料とした。分析装置としてゲル濾過クロマトグラフィー装置(Prominence、株式会社島津製作所製)に有機溶媒系SEC(GPC)用充てんカラム(KF-807L、カラムサイズ:8.0mmΦ×300mm、昭和電工株式会社製)を直列に2本接続し、検出器として示差屈折率検出器(RID-10A、株式会社島津製作所製)を使用した。溶離液としてテトラヒドロフランを使用し、カラム温度40℃、流速毎分1.0mLにて測定を実施した。測定結果から解析用ソフトウェア LCsolution GPC解析(株式会社島津製作所製)を使用して数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布Mw/Mnを得た。
【0281】
(粒度分布)
実施例1と比較例1-1、1-2について、重合反応完了後に得られたポリマー微粒子の分散液の粒度分布をレーザ回折・散乱式 粒子径分布測定装置(MT-3300、マイクロトラックベル株式会社製)により測定した。
【0282】
(反応率)
実施例2から実施例12および比較例2から実施例12における反応率をガスクロマトグラフィーにより評価した。反応率とは反応に投入した反応物のうち反応して生成物となったものの割合である。分析装置としてガスクロマトグラフ(Agilent社製、Agilent7890 GCsystem)にGCカラム(DB-WAXetr、長さ30m、内径0.250mm、膜厚0.25μm、Agilent J&W製)を接続して使用した。あらかじめ原料または生成物となる有機化合物についてガスクロマトグラフ分析を行い得られたクロマトグラム上で原料または生成物が現れる保持時間を測定した。反応終了後に得られた溶液のクロマトグラム上でこれら生成物及び原料のピークの各面積を以下の式(4)に代入し原料の生成物への反応率として反応の進行度を評価した。
反応率(%)=生成物に対応するピークの面積 / (生成物に対応するピークの面積+原料に対応するピークの面積) 式(4)
【0283】
また、流出部68から流出する流出液の採取(実施例2から実施例12)又は処理用面1、2間から流出する流出液の採取(比較例2から比較例12)につき、各実施例・比較例に記載のないものについては、1分間である。
【0284】
(実施例1:メタクリル酸メチルの乳化重合)
ドデシル硫酸ナトリウム(関東化学株式会社製)2000重量部、ペルオキソ2硫酸カリウム(過硫酸カリウム、関東化学株式会社製)81重量部、チオ硫酸ナトリウム5水和物(東京化成工業株式会社製)74重量部をそれぞれイオン交換水97845重量部に投入し、撹拌羽根を有する撹拌機であるクレアミックス(エム・テクニック株式会社製)を用いて回転数8000rpmで10分間撹拌し溶液1とした。溶液1は使用直前に-0.1MPaG以下まで減圧を行い、泡を除去した。溶液1を
図12(C)に示す流体処理装置Fの第1導入部d1から、メタクリル酸メチル(安定剤ハイドロキノン0.005%含有、富士フイルム和光純薬株式会社製)を同第2導入部d2からそれぞれ送液ポンプP1、P2を用いて流体処理装置Fに導入し、温度調整機構Tとして設けられた温度調整ジャケットに80℃の温水を循環させながら乳化重合を行った。溶液1とメタクリル酸メチルの送液速度(供給速度)の比率が7:3となるように、送液速度を14.0/6.0(それぞれ単位はmL/min)と設定した。装置導入部d1、d2に原料液(溶液1、メタクリル酸メチル)を導入する際の温度(以下、導入部d1、d2への原料液の供給温度ともいう)はそれぞれ20℃とした。第1処理用部10の回転速度は3000rpmとした。下流側処理空間81内の流体の滞留時間は10分間であった。流体処理装置Fの出口である流出部68から流出する際の流出液であるポリメタクリル酸メチル微粒子の分散液の温度は71℃であった。流出液の採取は3分間行った。流出液のゲル濾過クロマトグラフィーの結果から実施例1で得られたポリメタクリル酸メチルの重量平均分子量は6.78×10
6で、数平均分子量は5.74×10
5、分子量分布Mw/Mnは11.8であり、粒度分布測定の結果から実施例1で得られたポリメタクリル酸メチル微粒子の直径の最頻値は0.110μmであった。
【0285】
(比較例1-1:ビーカーでのメタクリル酸メチルの乳化重合)
140mLの溶液1をホットスターラー上の300mLビーカー内で70℃に達するまで回転数600rpmで撹拌したのちにあらかじめ70℃程度に熱した実施例1で用いたメタクリル酸メチルを60mL加えそのまま15分間回転数600rpmで撹拌し続けた。ゲル濾過クロマトグラフィーの結果から比較例1-1で得られたポリメタクリル酸メチルの重量平均分子量は5.41×106で、数平均分子量は4.45×104、分子量分布Mw/Mnは121.3であり、粒度分布測定の結果から比較例1-1で得られたポリメタクリル酸メチル微粒子の直径の最頻値は104.8μmであった。
【0286】
(比較例1-2:下流側処理部を有さない従来型の装置を用いたメタクリル酸メチルの乳化重合)
特開2010-189661号公報の
図1(A)に示されるものと同様の、エム・テクニック株式会社製の強制薄膜式リアクター(ULREA SS-11-75)を用いて乳化重合を行った。実施例1で用いた溶液1を第1導入部d1から、実施例1で用いたメタクリル酸メチルを第2導入部d2から流体処理装置に導入し、第1処理用部10の回転数は実施例1と同様3000rpmとした。溶液1とメタクリル酸メチルの送液速度(供給速度)と導入部d1、d2への溶液1とメタクリル酸メチルの供給温度は実施例1と同じである。処理用面1、2間から流出した流出液をビーカーに取り分け、ビーカーに取り分けた流出液60mlを回転数600rpmで撹拌しながら70℃になるまで加熱した。流出液が70℃に達してから、実施例1における下流側処理空間81内の流体の滞留時間と同じ10分間70℃で保持を行い、重合反応を進行させた。流出液が70℃に達してしばらくすると気泡が発生し、反応熱による温度の上昇が見られた。得られたポリメタクリル酸メチル微粒子の分散液について実施例1と同様の分析を行った。ゲル濾過クロマトグラフィーの結果から比較例
1-2で得られたポリメタクリル酸メチルの重量平均分子量は7.06×10
6で、数平均分子量は4.08×10
5、分子量分布Mw/Mnは17.3、粒度分布測定の結果から比較例1-2で得られたポリメタクリル酸メチル微粒子の直径の最頻値は0.120μmであった。
【0287】
(実施例2:酢酸ブチルの加水分解)
反応基質であるエステルとして酢酸ブチル(構造式(1)、関東化学株式会社製)4重量部をメタノール(株式会社ゴードー製)396重量部に投入し、クレアミックス(エム・テクニック株式会社製)を用いて回転数5000rpmで10分間撹拌し溶液2とした。一方、加水分解触媒である水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製)40重量部を純水160重量部に溶解させて溶液3とした。
図12(C)に示す流体処理装置Fを用いてエステルの加水分解反応を行った。
この時の化学反応は下に示す反応式によってあらわされる。
【0288】
【0289】
以下、各反応式に記載の化学式や略記号で示された物質については、H2Oは水、MeOHはメタノール、NaOHは水酸化ナトリウム、CH2Cl2はジクロロメタン、TEAはトリエチルアミン、DMAPはN,N-ジメチル-4-アミノピリジン、THFはテトラヒドロフランである。
【0290】
基質溶液(溶液2)を流体処理装置Fの第1導入部d1から送液ポンプP1を用いて10mL/minの供給速度で流体処理装置Fに導入し、アルカリ溶液(溶液3)を同第2導入部d2から送液ポンプP2により1mL/minの供給速度で流体処理装置Fに導入し、第1処理用部10の回転数を500rpmとしてエステルの加水分解反応を行った。導入部d1、d2への原料液(基質溶液(溶液2)とアルカリ溶液(溶液3))の供給温度はそれぞれ20℃とした。下流側処理空間81内の流体の滞留時間は20分間であった。流出部68から流出した流出液は加水分解触媒である水酸化ナトリウムの5倍モル量の塩化アンモニウム(関東化学株式会社製)を回収容器に入れることで流出液を中和させ加水分解反応を停止させながら回収を行った。
得られたクロマトグラム上では保持時間約9.2分に酢酸ブチル(構造式(1))のピーク、11分にn-ブタノール(構造式(2))のピークが確認され、実施例2については99%と高い反応率を示した。
【0291】
(比較例2:下流側処理部を有さない従来型の装置を用いた酢酸ブチルの加水分解)
実施例2と同じ原料液(溶液2と溶液3)を用い、下流側処理部を有さない従来型の装置としてULREA SS-11-75(エム・テクニック株式会社製)を使用して、実施例2と同様の供給方法(溶液2と溶液3の流体処理装置へ供給するための導入路d1、d2、その供給速度と導入部d1、d2への溶液2と溶液3の供給温度)及び運転条件(第1処理用部10の回転数)でエステルの加水分解反応を行った。加水分解触媒である水酸化ナトリウムの5倍モル量の塩化アンモニウム(関東化学株式会社製)を入れた回収容器を用意し、処理用面1、2間から流出した流出液を回収容器にて回収することで、流出液を中和させ加水分解反応を停止させながら回収を行った。
実施例2と同様の解析により比較例2の反応率は11%であった。
【0292】
(実施例3:酢酸n-プロピルの加水分解)
反応基質として酢酸ブチルの代わりに酢酸n-プロピル(構造式3、関東化学株式会社製)を用いたほかは実施例2と同様に実施した。この時の化学反応は下に示す反応式によってあらわされる。
【0293】
【0294】
得られたクロマトグラム上では保持時間約7.1分に酢酸n-プロピル(構造式(3))のピーク、8.7分にn-プロパノール((構造式(4))のピークが確認され、実施例3については99%と高い反応率を示した。
【0295】
(比較例3:下流側処理部を有さない従来型の装置を用いた酢酸n-プロピルの加水分解)
反応基質として酢酸ブチルの代わりに酢酸n-プロピル(構造式(3)、関東化学株式会社製)を用いたほかは比較例2と同様に実施した。
実施例3と同様の解析により比較例3の反応率は14%であった。
【0296】
(実施例4:酢酸3-メチルブチルの加水分解)
反応基質として酢酸ブチルの代わりに酢酸3-メチルブチル(構造式(5)、関東化学株式会社製)を用いたほかは実施例2と同様に実施した。この時の化学反応は下に示す反応式によってあらわされる。
【0297】
【0298】
得られたクロマトグラム上では保持時間約10.3分に酢酸3-メチルブチル(構造式(5))のピーク、12.3分に3-メチル-1-ブタノール(構造式(6))のピークが確認され、実施例4については99%と高い反応率を示した。
【0299】
(比較例4:下流側処理部を有さない従来型の装置を用いた酢酸3-メチルブチルの加水分解)
反応基質として酢酸ブチルの代わりに酢酸3-メチルブチル(構造式(5)、関東化学株式会社製)を用いたほかは比較例2と同様に実施した。実施例4と同様の解析により比較例4の反応率は17%であった。
【0300】
(実施例5:無水酢酸とn-ブタノールのエステル化反応)
n-ブタノール(構造式(2)、富士フイルム和光純薬工業株式会社製)15重量部をジクロロメタン(関東化学株式会社製)985重量部と混合しアルコール溶液(溶液4)とした。無水酢酸(構造式(7)、シグマアルドリッチ社製)240重量部、トリエチルアミン(関東化学株式会社製)240重量部、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(東京化成工業株式会社製)3重量部をジクロロメタン9517重量部に溶解させて溶液5とした。これらの原料液(溶液4と溶液5)をいずれも5mL/minの供給速度で
図12(C)に示す流体処理装置Fを用いて、第1処理用部10の回転数を500rpmとしてエステル化反応させた。この時の化学反応は下に示す反応式によってあらわされる。
【化4】
【0301】
アルコール溶液(溶液4)を流体処理装置Fの第1導入部d1から送液ポンプP1を用いて流体処理装置Fに導入し、溶液5を同第2導入部d2から送液ポンプP2により流体処理装置Fに導入してエステル化反応を行った。下流側処理空間81内の流体の滞留時間は20分間であった。温度調整機構Tとして設けられた温度調整ジャケットに40℃の温水を循環させて流出部68から流出する流出液の温度が30℃以上となるようにした。流出部68から流出した流出液を、流体処理装置Fに導入したアルコール(実施例5ではn-ブタノール)の10倍の物質量の塩化アンモニウムで処理し反応を停止させた。
原料のアルコール(n-ブタノール、構造式(2))と生成物であるエステル(酢酸ブチル、構造式(1))の定量は実施例および比較例2~4と同様にガスクロマトグラフ分析を行いそれぞれのピーク面積の比率から反応率を計算した。反応後のガスクロマトグラムのピーク比率から実施例5の反応率は89%となった。
【0302】
(比較例5:下流側処理部を有さない従来型の装置を用いた無水酢酸とn-ブタノールのエステル化反応)
実施例5と同じ原料液(アルコール溶液(溶液4)と溶液5)を用い、下流側処理部を有さない従来型の装置としてULREA SS-11-75(エム・テクニック株式会社製)を使用して実施例5と同様の送液方法(溶液4と溶液5の流体処理装置へ供給するための導入路d1、d2とその供給速度)及び運転条件(第1処理用部10の回転数)でエステル化反応を行った。処理用面1、2間から流出した流出液を、流体処理装置に導入したアルコール(比較例5ではn-ブタノール)の10倍の物質量の塩化アンモニウムで処理し反応を停止させた。
反応後の溶液中の定量分析は実施例5と同様に行い、比較例5の反応率は45%であった。
【0303】
(実施例6:無水酢酸とn-プロパノールのエステル化反応)
アルコールとしてn-ブタノールの代わりに12重量部のn-プロパノール(構造式(4)、関東化学株式会社製)を用いたほかは実施例5と同様に実施した。この時の化学反応は下に示す反応式によってあらわされる。
【0304】
【0305】
反応後のガスクロマトグラムのピーク比率から実施例6の反応率は94%となった。
【0306】
(比較例6:下流側処理部を有さない従来型の装置を用いた無水酢酸とn-プロパノールのエステル化反応)
アルコールとしてn-ブタノールの代わりに12重量部のn-プロパノール(構造式(4)、関東化学株式会社製)を用いたほかは比較例5と同様に実施した。
反応後の溶液中の定量分析は実施例6と同様に行い比較例6の反応率は43%程度であった。
【0307】
(実施例7:無水酢酸と3-メチル-1-ブタノールのエステル化反応)
アルコールとしてn-ブタノールの代わりに17重量部の3-メチル-1-ブタノール(構造式(6)、関東化学株式会社製)を用いたほかは実施例5と同様に実施した。この時の化学反応は下に示す反応式によってあらわされる。
【0308】
【0309】
反応後のガスクロマトグラムのピーク比率から実施例7の反応率は94%となった。
【0310】
(比較例7:下流側処理部を有さない従来型の装置を用いた無水酢酸と3-メチル-1-ブタノールのエステル化反応)
アルコールとしてn-ブタノールの代わりに17重量部の3-メチル-1-ブタノール(構造式(6)、関東化学株式会社製)を用いたほかは比較例5と同様に実施した。
反応後の溶液中の定量分析は実施例7と同様に行い比較例7の反応率は46%であった。
【0311】
(実施例8:ベンズアルデヒドとマロン酸ジメチルの脱水縮合反応)
ベンズアルデヒド(構造式(8)、関東化学株式会社製鹿1級)106重量部、マロン酸ジメチル(構造式(9)、関東化学株式会社製特級)134重量部、をメタノール(株式会社ゴードー製)1760重量部に投入し、クレアミックス(エム・テクニック株式会社製)を用いて回転数5000rpmで10分間撹拌し、ベンズアルデヒドとマロン酸ジメチルをメタノールに溶解させて溶液6とした。酢酸(関東化学株式会社製)180重量部、ピぺリジン(富士フイルム和光純薬株式会社製特級)255重量部、をメタノール1065重量部に投入し、クレアミックス(エム・テクニック株式会社製)を用いて回転数5000rpmで10分間撹拌し、酢酸とピぺリジンをメタノールに溶解させて溶液7とした。送液ポンプP1、P2を用いて溶液6を5.0mL/minの供給速度で、溶液7を1.0mL/minの供給速度で
図12(C)に示す流体処理装置Fを用いて、第1処理用部10の回転数を500rpmとして脱水縮合反応させた。この時の化学反応は下に示す反応式によってあらわされる。
【0312】
【0313】
溶液6を流体処理装置Fの第1導入部d1から送液ポンプP1を用いて流体処理装置Fに導入し、溶液7を同第2導入部d2から送液ポンプP2により流体処理装置Fに導入して脱水縮合反応を行った。温度調整機構Tとして設けられた温度調整ジャケットに59℃の温水を循環させて流出部68から流出する流出液の温度が51℃以上となるようにした。前述の溶液6、溶液7の供給速度では下流側処理空間81内の滞留時間が22分であった。流出液を1分間採取した。1分間採取した流出液はすぐにGC測定用容器に分取しガスクロマトグラフ測定装置により定量分析を行った。クロマトグラム上で保持時間10.4分に現れる原料のピークと20.9分に現れる生成物(構造式(10))のピークの比率より反応率は91%となった。
【0314】
(比較例8:下流側処理部を有さない従来型の装置を用いたベンズアルデヒドとマロン酸ジメチルの脱水縮合反応)
実施例8と同じ原料液(溶液6、溶液7)を、下流側処理部を有さない従来型の装置であるULREA SS-11-75(エム・テクニック株式会社製)に導入して脱水縮合反応させた。溶液6、7の流体処理装置への送液方法(溶液6と溶液7の流体処理装置へ供給するための導入路d1、d2とその供給速度)及び流体処理装置の運転条件(第1処理用部10の回転数)は実施例8と同じである。処理用面1、2間から流出した流出液を1分間採取しガスクロマトグラフ測定装置により定量分析を行った。実施例8と同様の解析により比較例8の反応率は22%であった。
【0315】
(実施例9:ベンズアルデヒドとアセチルアセトンの脱水縮合反応)
ベンズアルデヒド(構造式(8)、関東化学株式会社製)106重量部、アセチルアセトン(構造式(11)、関東化学株式会社製)106重量部、をメタノール(株式会社ゴードー製)1788重量部に投入し、クレアミックス(エム・テクニック株式会社製)を用いて回転数5000rpmで10分間撹拌し、ベンズアルデヒドとアセチルアセトンをメタノールに溶解させて溶解させて溶液8とした。送液ポンプP1、P2を用いて溶液8を5.0mL/minの供給速度で、実施例8で用いた溶液7を1.0mL/minの供給速度で
図12(C)に示す流体処理装置を用いて、第1処理用部10の回転数を500rpmとして脱水縮合反応させた。この時の化学反応は下に示す反応式によってあらわされる。
【0316】
【0317】
溶液8を流体処理装置Fの第1導入部d1から送液ポンプP1を用いて流体処理装置Fに導入し、実施例8で用いた溶液7を同第2導入部d2から送液ポンプP2により流体処理装置Fに導入して脱水縮合反応を行った。下流側処理空間81内の流体の滞留時間は40分間であった。温度調整機構Tとして設けられた温度調整ジャケットに59℃の温水を循環させて流出部68から流出する流出液の温度が51℃以上となるようにした。実施例8と同様に流出液を1分間採取した。1分間採取した流出液はすぐにGC測定用容器に分取しガスクロマトグラフ測定装置により定量分析を行った。クロマトグラム上で保持時間10.5分に現れる原料のピークと19.7分に現れる生成物(構造式(12))のピークの比率より実施例9の反応率は78%となった。
【0318】
(比較例9:下流側処理部を有さない従来型の装置を用いたベンズアルデヒドとアセチルアセトンの脱水縮合反応)
実施例9と同じ原料液(溶液8、溶液7)を、下流側処理部を有さない従来型の装置であるとしてULREA SS-11-75(エム・テクニック株式会社製)に導入して脱水縮合反応させた。溶液8、溶液7の流体処理装置への送液方法(溶液8と溶液7の流体処理装置へ供給するための導入路d1、d2とその供給速度)及び流体処理装置の運転条件(第1処理用部10の回転数)は実施例9と同じである。処理用面1、2間から流出した流出液を1分間採取しガスクロマトグラフ測定装置により定量分析を行った。実施例9と同様の解析により比較例9の反応率は14%であった。
【0319】
(実施例10:アニスアルデヒドとアセチルアセトンの脱水縮合反応)
アニスアルデヒド(構造式(13)、関東化学株式会社製)134重量部、アセチルアセトン(構造式(11)、関東化学株式会社製)106重量部、をメタノール(株式会社ゴードー製)1760重量部に投入し、クレアミックス(エム・テクニック株式会社製)を用いて回転数5000rpmで10分間撹拌し、アニスアルデヒドとアセチルアセトンをメタノールに溶解させて溶液9とした。送液ポンプP1、P2を用いて溶液9を5.0mL/minの供給速度で、実施例8で用いた溶液7を1.0mL/minの供給速度で
図12(C)に示す流体処理装置Fを用いて、第1処理用部10の回転数を500rpmとして脱水縮合反応させた。この時の化学反応は下に示す反応式によってあらわされる。
【0320】
【0321】
溶液9を流体処理装置Fの第1導入部d1から送液ポンプP1を用いて流体処理装置Fに導入し、実施例8で用いた溶液7を同第2導入部d2から送液ポンプP2により流体処理装置Fに導入して脱水縮合反応を行った。下流側処理空間81内の流体の滞留時間は40分間であった。温度調整機構Tとして設けられた温度調整ジャケットに59℃の温水を循環させて流出部68から流出する流出液の温度が52℃以上となるようにした。実施例8と同様に流出液を1分間採取した。1分間採取した流出液はすぐにGC測定用容器に分取しガスクロマトグラフ測定装置により定量分析を行った。クロマトグラム上で保持時間15.9分に現れる原料のピークと29.4分に現れる生成物(構造式(14))のピークの比率より実施例10の反応率は37%となった。
【0322】
(比較例10:下流側処理部を有さない従来型の装置を用いたアニスアルデヒドとアセチルアセトンの脱水縮合反応)
実施例10と同じ原料液(溶液9、溶液7)を、下流側処理部を有さない従来型の装置であるULREA SS-11-75(エム・テクニック株式会社製)に導入して脱水縮合反応させた。溶液9、溶液7の流体処理装置への送液方法(溶液9と溶液7の流体処理装置へ供給するための導入路d1、d2とその供給速度)及び流体処理装置の運転条件(第1処理用部10の回転数)は実施例10と同じである。処理用面1、2間から流出した流出液を1分間採取しガスクロマトグラフ測定装置により定量分析を行った。クロマトグラム上では生成物(構造式(14))に該当するピークが検出されず比較例10の反応率は0%であった。
【0323】
(実施例11:ベンズアルデヒドとエチレングリコールのアセタール化反応)
ベンズアルデヒド(構造式(8)、関東化学株式会社製)106重量部とエチレングリコール(構造式(15)、三菱化学株式会社製)186重量部とジメトキシプロパン(シグマアルドリッチ社製)104重量部を溶媒のテトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬株式会社製)1404重量部に溶解させ溶液10とした。触媒であるメタンスルホン酸(関東化学株式会社製)96重量部をテトラヒドロフラン1704重量部に溶解させたものを溶液11とした。溶液10を流速(供給速度)10.0mL/min、溶液11を流速(供給速度)1.0mL/minまたは2.0mL/minで
図12(C)に示す流体処理装置Fを用いてアセタール化反応させた。この時の化学反応は下に示す反応式によってあらわされる。
【0324】
【0325】
溶液10を流体処理装置Fの第1導入部d1から送液ポンプP1を用いて流体処理装置Fに導入し、溶液11を同第2導入部d2から送液ポンプP2により流体処理装置Fに導入してアセタール化反応を行った。第1処理用部10の回転数を500rpmとした。下流側処理空間81内の流体の滞留時間は20分間であった。流出部68から流出する流出液を飽和濃度の炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)水溶液中に1分間採取し溶媒中に含まれる酸を失活させて反応を停止させた。その後反応を停止させた流出液にジエチルエーテルを接触させ溶媒抽出を行うことにより原料および生成物を回収し、GC測定用容器に分取しガスクロマトグラフ測定装置により定量分析を行った。クロマトグラム上で保持時間10.2分に現れる原料のピークと14.2分に現れる生成物2-フェニル-1,3-ジオキソラン(構造式(16))のピークの比率より実施例11の反応率を求めた。実施例11の反応率は、溶液11の流速(供給速度)が1.0mL/minの場合は64%、2.0mL/minの場合は59%であった。
【0326】
(比較例11:下流側処理部を有さない従来型の装置を用いたベンズアルデヒドとエチレングリコールのアセタール化反応)
実施例11と同じ原料液(溶液10、溶液11)を、下流側処理部を有さない従来型の装置であるULREA SS-11-75(エム・テクニック株式会社製)に導入してアセタール化反応させた。溶液10、11の流体処理装置への送液方法(溶液10と溶液11をそれぞれ流体処理装置へ供給するための導入路d1、d2とその供給速度)及び流体処理装置の運転条件(第1処理用部10の回転数)は実施例11と同じである。処理用面1、2間から流出した流出液を飽和濃度の炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)水溶液中に1分間採取し溶媒の酸を失活させて反応を停止させた。その後反応を停止させた流出液にジエチルエーテルを接触させ溶媒抽出を行うことにより原料および生成物を回収し、GC測定用容器に分取しガスクロマトグラフ測定装置により定量分析を行った。比較例11の反応率は、溶液11の流速(供給速度)が1.0mL/minの場合は15%、2.0mL/minの場合は25%であった。
【0327】
(実施例12:シクロヘキサノンとエチレングリコールのアセタール化反応)
シクロヘキサノン(構造式(17)、関東化学株式会社製)98重量部とエチレングリコール(構造式(15)、三菱化学株式会社製)186重量部とジメトキシプロパン(シグマアルドリッチ社製)104重量部を溶媒のテトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬株式会社製)1412重量部に溶解させ溶液12とした。溶液12を流速(供給速度)10.0mL/min、実施例11で用いた溶液11を流速(供給速度)1.0mL/minまたは2.0mL/minで
図12(C)に示す流体処理装置Fを用いてアセタール化反応させた。この時の化学反応は下に示す反応式によってあらわされる。
【0328】
【0329】
溶液12を流体処理装置Fの第1導入部d1から送液ポンプP1を用いて流体処理装置Fに導入し、溶液11を同第2導入部d2から送液ポンプP2により流体処理装置Fに導入してアセタール化反応を行った。下流側処理空間81内の流体の滞留時間は20分間であった。流出部68から流出する流出液を飽和濃度の炭酸ナトリウム水溶液中に1分間採取し溶媒中に含まれる酸を失活させて反応を停止させた。流出部68から流出した流出液について、実施例11と同様の操作によりガスクロマトグラフ測定装置により定量分析を行った。クロマトグラム上で保持時間6.9分に現れる原料のピークと8.5分に現れる生成物1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカン(構造式(18))のピークの比率より実施例12の反応率を求めた。実施例12の反応率は溶液11の流速(供給速度)が1.0mL/minの場合は95%、2.0mL/minの場合は95%であった。
【0330】
(比較例12:下流側処理部を有さない従来型の装置を用いたシクロヘキサノンとエチレングリコールのアセタール化反応)
実施例12と同じ原料液(溶液12、溶液11)を、下流側処理部を有さない従来型の装置であるULREA SS-11-75(エム・テクニック株式会社製)に導入してアセタール化反応させた。溶液12、溶液11の流体処理装置への送液方法(溶液12と溶液11の流体処理装置へ供給するための導入路d1、d2とその供給速度)及び流体処理装置の運転条件(第1処理用部10の回転数)は実施例12と同じである。流出液を1分間採取し実施例12と同様の操作を行いガスクロマトグラフ測定装置により定量分析を行った。実施例12と同様の解析により、比較例12の反応率は、溶液11の流速(供給速度)が1.0mL/minの場合は22%、2.0mL/minの場合は37%であった。
【0331】
実施例2から実施例12と比較例2から比較例12について、各実施例、各比較例の反応式と反応率とを表1と表2とに示す。なお、溶液11の供給速度を変更して実施したことにより複数の反応率を算出している実施例11と比較例11、実施例12と比較例12については、溶液11の流速を2.0L/minとしたときの反応率を表2に記載した。
【0332】
【0333】
【符号の説明】
【0334】
1 第1処理用面
2 第2処理用面
3 上流側処理空間
4 上流側流出口
10 第1処理用部
20 第2処理用部
61 アウターケーシング
81 下流側処理空間
83 プール部
84 シール部
91 底部材
110 内壁
161 外壁
181 処理空間
183 プール部
184 シール部
F 流体処理装置、連続撹拌装置