(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】食品用鋏
(51)【国際特許分類】
B26B 13/08 20060101AFI20240226BHJP
B26B 13/28 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
B26B13/08
B26B13/28 A
(21)【出願番号】P 2023005050
(22)【出願日】2023-01-17
【審査請求日】2023-03-08
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504407457
【氏名又は名称】協和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第115284337(CN,A)
【文献】韓国公開実用新案第20-2016-0001069(KR,U)
【文献】実開昭59-155072(JP,U)
【文献】韓国公開実用新案第20-2021-0002582(KR,U)
【文献】実開平07-016769(JP,U)
【文献】特開2018-187281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26B 13/08
B26B 13/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の鋏片をX字状に交差させ、弾性部材を介して軸部材により、この一対の鋏片を密着させる方向に常に押圧する状態で互いに回動自在に結合させ、
前記一対の鋏片の刃部をそれぞれ複数連設された略U字状の溝刃としており、
前記刃部の刃線を略円弧状に形成し、
前記溝刃の開口幅を0.6~0.8mmにし、前記溝刃の開口深さを0.2~0.4mmにしており、
さらに前記溝刃は先端溝縁線から基端溝縁線にいたる凹曲面が形成されており、前記溝刃の傾斜角を50~65度にして
おり、
前記一対の鋏片は、一方の鋏片の刃部の後方には前記軸部材が固定的に取り付けられ、他方の鋏片の刃部の後方には結合孔が形成されており、
前記軸部材は、略長方形状の頭部の下方に胴部を有し、その下方に基部を有し、さらにその下方にネジ部を有したものとし、前記一方の鋏片に形成された円形状の軸受孔に挿通して、その鋏片の内面側に頭部および胴部が突出するようにし、その鋏片の外面側にネジ部が突出するようにし、このネジ部にナットで螺着することにより、前記鋏片に固定的に取り付けられ、
前記結合孔は、中央を円形状部とし両側を略四角形状部としており、この結合孔から前記軸部材の頭部が、この結合孔が形成された鋏片の外面側に突出するようにして、一対の鋏片を結合しており、
前記結合した一対の鋏片が、開く角度が0~80度程度の通常の使用状態では、軸部材の頭部が結合孔の円形状部の周囲を回動して離脱せず、開く角度が110度程度の通常の使用状態よりも大きく開いた状態では、軸部材の頭部が結合孔の両側の略四角形状部に合致して弾性部材により押し出されて離脱するようにしていることを特徴とする食品用鋏。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包丁などでは切りにくい硬い食品、例えば肉、野菜、果物などの冷凍食品や、干物、昆布などの乾燥食品、ごぼうなどの硬い生野菜を切るのに適した食品用鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の鋏としては、例えば
図10示したように、一対の鋏片51の切刃52を波刃にした料理用鋏が存在する(特許文献1)。
【0003】
前記料理用鋏は、物を挟むと波刃が物にくいこみ、すべらないとしている。したがって、この料理用鋏は、野菜、魚、肉、冷凍品など何でも切れるとしている。
【0004】
また、鋏として、例えば
図11に示したように、一対の刃身61の一方は受刃とし、他方は切込刃とし、一方の刃身61を他方の刃身61に比して相当長くし、これら刃身61の各腹部にはそれぞれ刃部62を設け、他方の刃身61の背部に鋸刃列63を設けたものが存在する(特許文献2)。
【0005】
前記鋏は、調理用鋏として用いると、生の魚類、鳥類、畜類の肉、野菜、果実の切断を鋏でなし、冷凍食品、例えば冷凍された肉類を鋸部分で切断すると、凍結したものが簡単且つ容易に切断することができるとしている。
【0006】
さらに、理髪用鋏として、例えば
図12、13に示したように、一対の鋏片71の刃部72の少なくとも一方が複数連設された略V字状の溝刃73を有しており、それぞれの溝刃73の開口幅Wは0.25~0.4mmとし、前記溝刃73のピッチPは0.4~0.5mmとしたものが存在する(特許文献3)。
【0007】
前記理髪用鋏では、それぞれの溝刃73は髪がそれぞれ3~5本入る程度の開口幅で非常に微小であり、ごく少量の髪が溝刃73に保持されるため、鋏の閉じ操作に対する抵抗が極めて小さい。これにより、溝刃73に保持された大量の髪を一度に切断する従来の鋏とは異なり、使用者の手や腕に負担を与えることなく、滑らかな動作で髪を切断することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開平7ー16769号公報
【文献】実公平3ー5232号公報
【文献】特開2009ー213638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1に記載された料理用鋏では、波刃にしたそれぞれの切刃52の開口幅や深さ、ピッチなどの寸法を特定しておらず、これら寸法の大小によっては切れ味が相違し、硬い食品を切るのに必ずしも適したものとはならない。
【0010】
また、前記特許文献2に記載された料理用鋏では、硬い食品を切る場合には鋸部分を使用するとしており、包丁で切るような操作をしなければならず、まな板などの置台を必要とするため、取り扱いが面倒であり、さらにこの鋸部分は刃身61の背部に設けられており、刃身61の腹部には刃部62が設けられているため、取り扱いに気を付けなければ危ない。
【0011】
さらに、前記特許文献1、2に記載された鋏では、一対の鋏片をX字状に交差させ、支軸を介して互いに回動自在に結合させているだけあるので、硬い食品を切る場合などには鋏片に力を入れて挟み込むので、一対の鋏片どうしの間に隙間があき、鋏片どうしがガタつくこともあり、硬い食品を切るのに適したものではない。
【0012】
さらにまた、前記特許文献3に記載された理髪用鋏では、使用者の手や腕に負担を与えることなく、滑らかな動作で髪を切断するために、溝刃73の開口幅WやピッチPを数値限定しているが、これは髪を切るのに特化したものであり、硬い食品を切るのに適したものではない。
【0013】
そこで、本発明は、使用時に一対の鋏片どうしの間に隙間があくことがなく、鋏片どうしがガタつくこともなく、さらに溝刃の開口幅や溝刃の開口深さなどを数値限定することにより、使用者の手や腕に負担を与えることなく、滑らかな動作で硬い食品を切ることができる食品用鋏を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の食品用鋏は、一対の鋏片1をX字状に交差させ、弾性部材25を介して軸部材2により、この一対の鋏片1を密着させる方向に常に押圧する状態で互いに回動自在に結合させている。前記一対の鋏片1の刃部11はそれぞれ複数連設された略U字状の溝刃5としている。前記刃部11の刃線は略円弧状に形成している。前記溝刃5の開口幅Wは0.6~0.8mmにし、前記溝刃5の開口深さDは0.2~0.4mmにしている。さらに、前記溝刃5は、先端溝縁線5aから基端溝縁線5bにいたる凹曲面5cが形成されている。前記溝刃5の傾斜角βは50~65度にしている。前記一対の鋏片1は、一方の鋏片1の刃部11の後方には前記軸部材2が固定的に取り付けられ、他方の鋏片1の刃部11の後方には結合孔3が形成されている。前記軸部材2は、略長方形状の頭部21の下方に胴部22を有し、その下方に基部23を有し、さらにその下方にネジ部24を有したものとしている。前記一方の鋏片1に形成された円形状の軸受孔4に挿通して、その鋏片1の内面側に頭部21および胴部22が突出するようにし、その鋏片1の外面側にネジ部24が突出するようにし、このネジ部24にナット26で螺着することにより、前記鋏片1に固定的に取り付けられている。前記結合孔3は、中央を円形状部31とし両側を略四角形状部32としており、この結合孔3から前記軸部材2の頭部21が、この結合孔3が形成された鋏片1の外面側に突出するようにして、一対の鋏片1を結合したものとしている。そして、前記結合した一対の鋏片1が、開く角度αが0~80度程度の通常の使用状態では、軸部材2の頭部21が結合孔3の円形状部31の周囲を回動して離脱せず、開く角度αが110度程度の通常の使用状態よりも大きく開いた状態では、軸部材2の頭部21が結合孔3の両側の略四角形状部32に合致して弾性部材25により押し出されて離脱するようにしている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の食品用鋏は、使用時に鋏片に力を入れて挟み込んでも、一対の鋏片どうしの間に隙間があくことがなく、鋏片どうしがガタつくこともなく、硬い食品を切り易いものとなった。
【0018】
さらに、本発明の食品用鋏は、使用者の手や腕に負担を与えることなく、滑らかな動作で硬い食品を切ることができるものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の食品用鋏の一実施形態を示す正面図である。
【
図2】
図1に示す本発明の食品用鋏を開いた状態の正面図である。
【
図3】(a)は一方の鋏片の平面図であり、(b)はその鋏片の刃部側から見た下面図である。
【
図4】(a)は他方の鋏片の平面図であり、(b)はその鋏片の刃部側から見た上面図である。
【
図5】(a)は鋏片どうしの軸支部の要部正面図であり、(b)はその軸支部のB-Bによる拡大断面図である。
【
図6】
図1中のA-A間における部分拡大図である。
【
図7】
図1中のA-A間を上方から見た部分拡大図である。
【
図10】従来の鋏の一例を開いた状態の正面図である。
【
図11】従来の鋏の他の例を開いた状態の正面図である。
【
図12】従来の鋏のさらに他の例の開いた状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の食品用鋏を実施するための形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
本発明の食品用鋏は、
図1~5に示したように、一対の鋏片1をX字状に交差させ、後に述べる弾性部材25を介して軸部材2により、この一対の鋏片1を密着させる方向に常に押圧する状態で互いに回動自在に結合させている。このようにすることにより、使用時に鋏片1に力を入れて挟み込んでも、前記一対の鋏片1どうしの間に隙間があくことがなく、鋏片1どうしがガタつくこともない。
【0022】
前記鋏片1は、それぞれ刃部11および持手部12を有しており、鋏片1の一方の刃部11の後方には軸部材2が固定的に取り付けられ、他方の刃部11の後方には結合孔3が形成されている。
【0023】
前記軸部材2は、
図3、5に示したように、略長方形状の頭部21の下方に胴部22を有し、その下方に基部23を有し、さらにその下方にネジ部24を有したものとしている。この軸部材2は、
図5に示したように、前記一方の鋏片1に形成された円形状の軸受孔4に挿通して、その鋏片1の内面側に頭部21および胴部22が突出するようにし、その鋏片1の外面側にネジ部24が突出するようにする。そして、このネジ部24に弾性部材25を介してナット26で螺着することにより、前記軸部材2が一方の鋏片1に固定的に取り付けられる。
【0024】
前記結合孔3は、
図4に示したように、中央を円形状部31とし両側を略四角形状部32としており、
図5に示したように、この結合孔3から前記軸部材2の頭部21が、この結合孔3が形成された鋏片1の外面側に突出するようにして、一対の鋏片1を結合したものとしている。
【0025】
このとき、前記結合した一対の鋏片1が、通常の使用状態(開く角度αが0~80度程度)では、軸部材2の頭部21が結合孔3の円形状部31の周囲を回動して離脱せず、通常の使用状態よりも大きく開いた状態(開く角度αが110度程度)では、軸部材2の頭部21が結合孔3の両側の略四角形状部32に合致して弾性部材25により押し出されて離脱するようにしている。また、前記離脱した一対の鋏片1が、軸部材2の頭部21を結合孔3の両側の略四角形状部32に合致させて、弾性部材25を押圧しつつ通常の使用状態の角度に戻すことにより、再結合するようにしている。
【0026】
前記弾性部材25としては、波形座金(ウェーブワッシャ)やばね座金(スプリングワッシャ)などが用いられるが、これらに限定されることはない。
【0027】
さらに、本発明の食品用鋏は、
図6~9に示したように、一対の鋏片1の刃部11がそれぞれ複数連設された略U字状の溝刃5を有しており、前記刃部11の刃線は略円弧状に形成されている。
【0028】
前記溝刃5は、
図9に示したように、先端溝縁線5aから基端溝縁線5bにいたる凹曲面5cが形成されており、前記溝刃5の開口幅Wを0.6~0.8mmにし、
図8に示したように、前記溝刃5の傾斜角βを50~65度にしている。このようにすることにより、硬い食品を切るときに、この食品が滑ることなく切り易いものとなる。前記溝刃5の開口幅Wが0.5mm以下であると、硬い食品を切るときに、この食品が滑ってしまい、また溝刃5の開口幅Wが0.9mm以上であると、切るときに溝刃5どうしが引っ掛かってしまうので好ましくない。また、前記溝刃5の傾斜角βを50~65度より小さくすると、溝刃5が耐久性に劣るものとなって刃こぼれし易いものとなり、前記溝刃5の傾斜角βを50~65度より大きくすると、硬い食品を切るときに、この食品に溝刃5が食い込みにくくなって切れにくく使いづらいものとなるので好ましくない。
【0029】
また、前記溝刃5の開口深さDは、
図9に示したように、0.2~0.4mmにしている。このようにすることにより、硬い食品を切るときに、この食品が滑ることなく切り易いものとなる。前記溝刃5の開口深さDが0.2~0.4mmより小さいと、硬い食品を切るときに、この食品が滑ってしまい、また溝刃5の開口深さDが0.2~0.4mmより大きいと、切るときに溝刃5どうしが引っ掛かってしまうので好ましくない。
【0030】
さらに、前記刃部11の刃線の曲率半径は、800~1000mmにしている。このようにすることにより、刃部11の刃線を直線状にした場合よりも、切り込み角度が浅くなり、硬い食品をスムーズに切ることができるものとなる。
【0031】
本発明の食品用鋏は、以上に述べたように構成されており、弾性部材25が一対の鋏片1を密着させる方向に常に押圧する状態にしているので、硬い食品を切る場合に鋏片1に力を入れて挟み込んでも、一対の鋏片1どうしの間に隙間があくことがなく、鋏片1どうしがガタつくこともないので、使用し易いものとなる。
【0032】
さらに、本発明の食品用鋏は、溝刃5の開口幅Wを0.6~0.8mmにし、溝刃5の開口深さDを0.2~0.4mmにし、溝刃5の傾斜角βを50~65度にし、さらに刃部2の刃線の曲率半径を800~1000mmにすることにより、使用者の手や腕に負担を与えることなく、滑らかな動作で硬い食品を切ることができるものとなる。
【符号の説明】
【0033】
1 鋏片
5 溝刃
5a 先端溝縁線
5b 基端溝縁線
5c 凹曲面
11 刃部
25 弾性部材
β 傾斜角
D 開口深さ
W 開口幅
【要約】
【課題】使用時に一対の鋏片どうしの間に隙間があくことがなく、鋏片どうしがガタつくこともなく、さらに溝刃の開口幅や溝刃の開口深さなどを数値限定することにより、使用者の手や腕に負担を与えることなく、滑らかな動作で硬い食品を切ることができる食品用鋏を提供する。
【解決手段】一対の鋏片1をX字状に交差させ、この一対の鋏片1を密着させる方向に常に押圧する状態で互いに回動自在に結合させている。前記一対の鋏片1の刃部11をそれぞれ複数連設された略U字状の溝刃5としている。前記刃部11の刃線を略円弧状に形成している。前記溝刃5の開口幅Wを0.6~0.8mmにし、前記溝刃5の開口深さDを0.2~0.4mmにしている
【選択図】
図9