(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】ろう材及びろう付用部材、並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/14 20060101AFI20240226BHJP
B23K 1/20 20060101ALI20240226BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20240226BHJP
B23K 35/32 20060101ALI20240226BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20240226BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240226BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240226BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20240226BHJP
B23K 35/40 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
B23K35/14 Z
B23K1/20 J
B23K35/30 310D
B23K35/30 310E
B23K35/32 310B
C22C19/05 B
B22F1/00 M
B22F1/00 R
B22F10/28
B22F10/25
B23K35/40 340Z
B22F1/00 N
(21)【出願番号】P 2023095557
(22)【出願日】2023-06-09
【審査請求日】2023-08-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599035063
【氏名又は名称】東京ブレイズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬知 啓久
(72)【発明者】
【氏名】松 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 康平
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/139860(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/081346(WO,A1)
【文献】特開昭63-157793(JP,A)
【文献】特表2008-518786(JP,A)
【文献】特表平11-505178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/00 - 3/08、31/02、
33/00
B23K 35/00 - 35/12、
35/16 - 35/40
C22C 19/05
B22F 1/00、10/25、10/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろう材粉体
が溶融凝固
した付加形成体からなる、
ろう材であって、
前記ろう材が、前記ろう材中に空孔を有し、
前記ろう材の相対密度が25%以上99%以下である、ろう材。
【請求項2】
前記ろう材が、Ni系ろう材、Ti系ろう材、及びFe-Cr-Ni系ろう材からなる群から選ばれる少なくとも一種である、
請求項1に記載のろう材。
【請求項3】
前記ろう材のビッカース硬さが、400HV以上である、
請求項1に記載のろう材。
【請求項4】
前記ろう材が、棒状形状である、
請求項1に記載のろう材。
【請求項5】
基材を有するろう付用部材であって、該基材表面に請求項1~
4のいずれか1項に記載のろう材を有する、ろう付用部材。
【請求項6】
前記基材表面に前記ろう材の一部が融着し、該ろう材上にさらに前記ろう材が付加形成された、請求項
5に記載のろう付用部材。
【請求項7】
ろう材の製造方法であって、
ろう材粉体の溶融凝固体からなるろう材を、付加製造によって形成する工程を含む、ろう材の製造方法。
【請求項8】
前記ろう材が、Ni系ろう材、Ti系ろう材、及びFe-Cr-Ni系ろう材からなる群から選ばれる少なくとも一種である、
請求項
7に記載のろう材の製造方法。
【請求項9】
前記ろう材のビッカース硬さが、400HV以上である、
請求項
7に記載のろう材の製造方法。
【請求項10】
前記ろう材が、前記ろう材中に空孔を有する、
請求項
7に記載のろう材の製造方法。
【請求項11】
前記ろう材の相対密度が25%以上99%以下である、
請求項
10に記載のろう材の製造方法。
【請求項12】
前記ろう材が、棒状形状である、
請求項
7に記載のろう材の製造方法。
【請求項13】
基材表面にろう材を有するろう付用部材の製造方法であって、
ろう材粉体の溶融凝固体からなるろう材を、付加製造によって該基材表面に形成する工程を含む、
ろう付用部材の製造方法。
【請求項14】
前記ろう材が、Ni系ろう材、Ti系ろう材、及びFe-Cr-Ni系ろう材からなる群から選ばれる少なくとも一種である、
請求項
13に記載のろう付用部材の製造方法。
【請求項15】
前記ろう材のビッカース硬さが、400HV以上である、
請求項
13に記載のろう付用部材の製造方法。
【請求項16】
前記ろう材が、前記ろう材中に空孔を有する、
請求項
13に記載のろう付用部材の製造方法。
【請求項17】
前記ろう材の相対密度が25%以上99%以下である、
請求項
16に記載のろう付用部材の製造方法。
【請求項18】
前記付加製造が、ろう材粉体を前記基材表面に噴射し、レーザ溶着することで、前記ろう材を前記基材表面に形成する工程である、
請求項
13~17のいずれか1項に記載のろう付用部材の製造方法。
【請求項19】
前記付加製造が、ろう材粉体を前記基材表面に配置し、レーザ溶着することで、前記ろう材を前記基材表面に形成する工程である、
請求項
13~17のいずれか1項に記載のろう付用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう材及びろう付用部材、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、セラミックスや金属からなる部材同士を接合する方法として、ろう付が用いられている。ろう材として、例えば特許文献1には、特定の組成と粒子径分布を有するろう材粉末が開示されている。
【0003】
粉体状のろう材を用いる場合、粉体状のままでは接合部にろう材を保持(密着)させることができないため、通常は特許文献2のように、粉体状のろう材原料をバインダー(有機物)や有機溶剤等と共に混錬し、ペースト状とした後に、当該ペースト状のろう材をスクリーン印刷等することで接合部に塗布した後にろう付(接合)を行う。特許文献2には、塗布作業性、密着性及び保存安定性に優れるろう付用組成物として、特定の金属を含むろう材粉末と、特定のバインダー組成とを有するろう付用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-155460号公報
【文献】特開2014-184476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなバインダーを含むペースト状のろう材では、接合部に塗布した後に液だれが生じ得るといった課題が依然としてあり、また、塗布後に乾燥させる工程が必要であるため生産効率に影響する等、改善の余地がある。
さらには、ペースト中のバインダー成分を加熱除去する際、蒸発したバインダー成分が加熱装置に付着し、悪影響を及ぼす場合がある。そのため、機器の損耗をきたすほか、清掃等を頻繁に行う必要が生じる、という課題もある。
加えて、ペースト塗布の関係でろう付継手構造に制限が生じる問題もある。
また、粉体やペースト状のろう材を用いず、ろう材を鋳造して接合部に保持させる方法もあるが、鋳型を作るコストが発生するだけでなく、鋳造コストそのものも高く、実用的ではない。
本発明の目的は、液だれ、生産効率、加熱装置への負荷といった、バインダーを含むろう材で生じ得る課題を生じさせることなく、部材同士の接合が可能なろう材及びろう付用部材、並びにそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、特定のろう材及びろう付用部材によって上記課題を解決できることを見出した。また、特定の製造方法によってそのようなろう材及びろう付用部材を製造可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]ろう材粉体の溶融凝固体からなる、ろう材。
[2]前記ろう材が、Ni系ろう材、Ti系ろう材、及びFe-Cr-Ni系ろう材からなる群から選ばれる少なくとも一種である、[1]に記載のろう材。
[3]前記ろう材のビッカース硬さが、400HV以上である、[1]又は[2]に記載のろう材。
[4]前記ろう材が、前記ろう材中に空孔を有する、[1]~[3]のいずれかに記載のろう材。
[5]前記ろう材の相対密度が25%以上99%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のろう材。
[6]前記ろう材が、棒状形状である、[1]~[5]のいずれかに記載のろう材。
[7]基材を有するろう付用部材であって、該基材表面に[1]~[6]のいずれかに記載のろう材を有する、ろう付用部材。
[8]前記基材表面に前記ろう材の一部が融着し、該ろう材上にさらに前記ろう材が付加形成された、[7]に記載のろう付用部材。
[9]ろう材の製造方法であって、ろう材粉体の溶融凝固体からなるろう材を、付加製造によって形成する工程を含む、ろう材の製造方法。
[10]前記ろう材が、Ni系ろう材、Ti系ろう材、及びFe-Cr-Ni系ろう材からなる群から選ばれる少なくとも一種である、[9]に記載のろう材の製造方法。
[11]前記ろう材のビッカース硬さが、400HV以上である、[9]又は[10]に記載のろう材の製造方法。
[12]前記ろう材が、前記ろう材中に空孔を有する、[9]~[11]のいずれかに記載のろう材の製造方法。
[13]前記ろう材の相対密度が25%以上99%以下である、[9]~[12]のいずれかに記載のろう材の製造方法。
[14]前記ろう材が、棒状形状である、[9]~[13]のいずれかに記載のろう材の製造方法。
[15]基材表面にろう材を有するろう付用部材の製造方法であって、ろう材粉体の溶融凝固体からなるろう材を、付加製造によって該基材表面に形成する工程を含む、ろう付用部材の製造方法。
[16]前記ろう材が、Ni系ろう材、Ti系ろう材、及びFe-Cr-Ni系ろう材からなる群から選ばれる少なくとも一種である、[15]に記載のろう付用部材の製造方法。
[17]前記ろう材のビッカース硬さが、400HV以上である、[15]又は[16]に記載のろう付用部材の製造方法。
[18]前記ろう材が、前記ろう材中に空孔を有する、[15]~[17]のいずれかに記載のろう付用部材の製造方法。
[19]前記ろう材の相対密度が25%以上99%以下である、[15]~[18]のいずれかに記載のろう付用部材の製造方法。
[20]前記付加製造が、ろう材粉体を前記基材表面に噴射し、レーザ溶着することで、前記ろう材を前記基材表面に形成する工程である、[15]~[19]のいずれかに記載のろう付用部材の製造方法。
[21]前記付加製造が、ろう材粉体を前記基材表面に配置し、レーザ溶着することで、前記ろう材を前記基材表面に形成する工程である、[15]~[19]のいずれか1項に記載のろう付用部材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液だれ、生産効率、加熱装置への負荷といった、バインダーを含むろう材で生じ得る課題を生じさせることなく、部材同士の接合が可能なろう材及びろう付用部材、並びにそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であること
を意味する。
【0010】
<ろう材>
本発明の第一の実施形態は、ろう材粉体の溶融凝固体からなる、ろう材である。
本明細書において、ろう材粉体の溶融凝固体とは、ろう材原料である粉体の表面の一部又は全体が加熱によって溶融し、粉体同士が融着した後融点以下に冷却され凝固したものである。本実施形態に係るろう材は、ろう材粉体同士が表面の一部のみで融着した疎な構造であってもよい。このような溶融凝固体からなるろう材は、粉体同士が融着しているため一定の形状を保つことができ、バインダー等の有機物を用いることなく、容易に接合部に保持(密着)させることが可能である。加えて、鋳型の製造や、バインダーの調合・攪拌といった工程、バインダー成分の加熱除去工程、ろう材粉体を圧粉成形する工程等が不要なため生産性に優れ、また、圧粉成形が困難な、展延性が低い金属を用いたろう材にも適用が可能である。
すなわち、本実施形態に係るろう材は、バインダーを含まないことが好ましい。
【0011】
ろう材粉体の原料としては特に限定されず、接合する部材の材質や、耐食性等の要求性能に応じて、公知のろう材で用いられる金属、合金、化合物及び混合物を用いることができる。例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、金(Au)、チタニウム(Ti)、パラジウム(Pd)及びこれらの合金、ステンレス鋼、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、並びにこれらの組み合わせを挙げることができる。また、ろう材粉体中にはリン(P)、ホウ素(B)、珪素(Si)、クロム(Cr)といった公知のろう材に含まれる添加成分や、不可避不純物を含み得る。
【0012】
ろう材粉体の原料の例として、より具体的には、以下に列記する合金が挙げられる。
Ni系合金として、日本産業規格(JIS Z3265)に規定されるNi-Cr-Fe-Si-B系合金(BNi-2)、Ni-Cr-Fe-Si系合金(BNi-5)、Ni-Cr-P系合金(BNi-7)等;Ag系合金として、JIS Z3261に規定される、Ag-Cu-Zn-Cd系合金(BAg-1)、Ag-Cu-Zn-Ni系合金(BAg-4)、Ag-Cu-Zn-Sn系合金(BAg-7)等;Ti系合金として、American Welding Society (AWS) A5.8M/A5:2019に規定されるTi-Zr-Cu-Ni(BTi-3)等;Fe-Cr-Ni系合金として、アイアンブレイズ(登録商標)TB-2720(商品名 東京ブレイズ株式会社製)等。
【0013】
上記の中でも、硬度が高く、展延性が低いため、圧粉成形等の従来技術ではバインダー等の有機物を含まない態様で提供することが困難である観点から、Ni系合金、Ti系合金、及びFe-Cr-Ni系合金からなる群から選ばれる少なくとも一種が好適である。
すなわち、本実施形態に係るろう材は、Ni系ろう材、Ti系ろう材、及びFe-Cr-Ni系ろう材からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。ここで、Ni系ろう材とは、JIS Z3265に規定されるろう材の他、ろう材中のNi含有量が50質量%以上のろう材を指し、Ti系ろう材とは、AWS A5.8M/A5:2019に規定されるろう材の他、ろう材中のTi含有量が25質量%以上かつNiの含有量が50質量%未満のろう材を指し、Fe-Cr-Ni系ろう材とは、Fe、Cr及びNiを含有し、ろう材中のFe含有量が27質量%以上、Ni含有量が50質量%未満、Ti含有量が25質量%未満のろう材を指す。
【0014】
ろう材のビッカース硬さは特に限定されないが、同様の観点から、ビッカース硬さ400HV以上であることが好ましい。より好ましくは、450HV以上、特に好ましくは500HV以上である。ビッカース硬さの上限は特に限定されないが、通常1200HV以下である。
ろう材のビッカース硬さを上記範囲とするためには、上記範囲を満たす組成のろう材原料を用いればよい。
なお、上記ビッカース硬さは、粉体化前のろう材原料のバルク体、又は溶融凝固後のろう材の表面を、JIS Z2244:2009 ビッカース硬さ試験により測定した値とする。
【0015】
なお、ろう材粉体は、原料となる上記金属等をアトマイズ法、回転円盤法、粉砕法等公知の方法で粉体化することで製造できる。
【0016】
本実施形態に係るろう材は、ろう材中に空孔を有していてもよい。ろう材中に空孔を有することで、ろう材粉体の表面を溶融させる際やろう付の際に、該粉体への過剰な入熱を回避することができる。空孔の有無はろう材表面を顕微鏡観察する等の方法で確認できる。
ろう材中に空孔を作る方法は、例えば後述するろう材の製造方法によってろう材を製造することで可能である。
【0017】
ろう材中の空孔の有無は、ろう材の相対密度の値からも確認することができる。
ろう材中に空孔を有する場合、ろう材の相対密度の下限は特に限定されないが、25%以上であってよく、30%以上であってよい。また相対密度の上限は特に限定されないが、99%以下であってよく、90%以下であってよく、80%以下であってよい。
相対密度が低すぎる場合、ろう材中の空孔が多すぎるため、接合強度が不十分となる場合がある。一方、相対密度が高すぎる場合、ろう材中の空孔が少なすぎるため、ろう材粉体への入熱が過剰となる場合がある。
ろう材の相対密度は、粉体加熱時の供給量や掃引速度を変更することで調整することができる。
なお、ろう材は空孔を有さない緻密体、すなわち、相対密度が100%であってもよい。
【0018】
相対密度は、「JIS Z8807 固体の密度及び比重の測定方法」に基づき測定されたかさ密度を真密度で除した値とする。
【0019】
本実施形態に係るろう材の形状は特に限定されず、棒状形状、リング状形状、シート状形状、ワイヤ形状等が挙げられるが、取り扱い性や、基材からの切断が容易である観点から、棒状形状であることが好ましい。
また、本実施形態に係るろう材の大きさは特に限定されないが、通常、棒状形状であれば長さ3~50cm、太さ0.5~10mm程度、リング状形状であれば直径1~10cm程度、シート状形状であれば、1cm×1cm~20cm×100cm程度である。
【0020】
本実施形態に係るろう材は、例えば、後述する第三の実施形態に係るろう材の製造方法で製造できる。
【0021】
<ろう付用部材>
本発明の第二の実施形態は、基材を有するろう付用部材であって、該基材表面にろう材を有するろう付用部材である。
基材及びろう付用部材は特に限定されず、例えばステンレス基材を有する熱交換器の部材などが挙げられる。
本実施形態に係るろう材の好ましい態様は、上述した第一の実施形態に係るろう材と同様である。
【0022】
基材表面にはろう材の一部が融着し、該ろう材上にさらにろう材が付加形成されている
ことが好ましい。基材表面にろう材の一部が融着していることにより、ろう材が基材表面に保持(密着)され、部材同士を適切に接合することができ、また、その後の付加形成を安定して行うことができる。基材表面に融着したろう材上に、さらにろう材が付加形成されていることで、部材同士を接合するために十分な量のろう材が、液だれすることなく基材上に確保される。
【0023】
本実施形態に係るろう付用部材は、例えば、第一の実施形態に係るろう材を基材上の所定の接合部に設置した後、基材及びろう材を加熱することでろう材表面を溶融させ、その後冷却凝固させることで製造できる。ろう材が例えば棒状形状やリング状形状である場合、基材表面にろう材の一部が融着・凝固した後、ろう材上部の不要部を切断して取り除いてもよい。また、後述する第四の実施形態に係る製造方法によっても製造できる。
【0024】
<ろう材及びろう付用部材の製造方法>
本発明の第三の実施形態は、ろう材粉体の溶融凝固体からなるろう材を、付加製造によって形成する工程を含む、ろう材の製造方法である。また、本発明の第四の実施形態は、基材表面にろう材を有するろう付用部材の製造方法であって、金属化合物粉体の溶融凝固体からなるろう材を、付加製造によって該基材表面に形成する工程を含む、ろう付用部材の製造方法である。
【0025】
付加製造(Additive manufacturing)とは、ISOやASTM(American Society for Testing and Materials)規格には、材料を付着させることによって、3次元形状データから部品を作る技術と定義されており、3Dプリンティング等の名称で呼ばれることもある。積層造形、クラッディングと称される技術も付加製造に包含される。
【0026】
前記付加製造が、ろう材粉体を前記基材表面に噴射し、レーザ溶着することで、前記ろう材を前記基材表面に形成する工程であることが好ましい。
また、前記付加製造が、ろう材粉体を前記基材表面に配置し、レーザ溶着することで、前記ろう材を前記基材表面に形成する工程であることが好ましい。
【0027】
ろう材粉体の溶融凝固体からなるろう材を付加製造によって形成する具体的手順の一例としては、以下のような方法があるが、これに限定されない。
まず、ろう材原料となるろう材粉体を、ステンレス等の板状の基材上に薄く敷き詰め、その表面にレーザ光や電子ビームを照射、走査することによって必要な領域を選択的に溶融・凝固(溶着)させ、ろう材粉体と基材とを密着させる。これにより、この後行われる積層を安定的に行うことができる。なお、ろう材粉体と基材との密着を迅速に行うため、基材は予熱されていてもよい。
次に、基材と密着したろう材粉体上に新たなろう材粉体を供給し、熱源となるレーザ光や電子ビームの照射、走査を繰り返すことでろう材粉体を積層させ、棒状形状やリング状形状を有するろう材を形成する。
また、製造効率の観点から、ろう材粉体を噴射供給しながらレーザ光照射やアーク放電等によって溶融・凝固(溶着)させ、これを連続的に走査させることで面状の層を形成し、積層することでろう材を成形してもよい。
所望の厚さ(高さ)のろう材を基材上に成形した後、基材との接合部を折る、又はワイヤーカット放電加工機等を用いて切断することで、ろう材粉体の溶融凝固体からなるろう材を得ることができる。
なお、ろう材粉体と基材、あるいはろう材粉体同士の密着は、ろう材粉体の全体が完全に溶融して密着される必要はなく、ろう材粉体が動かない程度に、表面の一部が密着されていればよい。
【0028】
基材表面にろう材を有するろう付用部材を製造する場合は、上記手順における基材を、ろう付用部材の基材とし、同様の手順で、ろう付を行いたい部位に直接所望の量のろう材を形成すればよい。
基材としては、板状の基材に限らず、ろう付を行いたい部材に応じて、例えば棒状の基材等であってよい。
【0029】
上記のような方法でろう材やろう付用部材を製造することで、ペースト状のろう材を塗布・乾燥させる工程が不要なため、液だれの問題が生じず、作業性、製造効率に優れる。
【0030】
また、上記のような方法でろう材やろう付用部材を製造することで、ろう材自体がろう付時のセルフアライメント治具として機能すると共に、ろう材付着量の管理も容易となる利点がある。
【0031】
原料となるろう材粉体の好ましい態様は、第一の実施形態に係るものと同様である。
【0032】
ろう材粉体を噴射供給する場合、レーザ光等の熱源を基材に対して垂直に照射し、ろう材粉体をその横から斜めに供給する方式であってよく、ろう材粉体を基材に対して垂直に噴射供給し、レーザ光等の熱源をその横から斜めに照射する方式であってもよい。
【0033】
ろう材粉体の噴射供給速度は特に限定されないが、通常0.5~25g/min、好ましくは1~20g/min、より好ましくは1.5~15g/minである。
ろう材粉体表面を溶融させる熱源は特に限定されないが、処理速度向上及びろう材粉体の表面酸化防止の観点から高エネルギー密度による急速かつ局所加熱が可能なレーザ光が好ましい。
【0034】
レーザ光の照射条件は特に限定されないが、出力は通常10~1500W、好ましくは20~1400W、より好ましくは40~1200Wである。
レーザ光の照射回数や走査速度は特に限定されず、積層させるろう材の量や形状に応じて適宜調整すればよい。
【実施例】
【0035】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ただし本発明は、これらに限定されるものではない。
【0036】
実施例1~3において、ろう材粉体として、以下の原料を使用した。
使用原料:Niろう(東京ブレイズ株式会社 品番TB-905X)
化学成分:Ni61質量%、Cr29質量%、Si4質量%、P6質量%
固相線:980℃
液相線:1040℃
比重:7.7g/cm3
硬度:780HV
【0037】
ろう材の相対密度は、「JIS Z8807 固体の密度及び比重の測定方法」に基づき測定されたかさ密度を真密度で除した値から算出した。
【0038】
(実施例1)
室温の板状ステンレス基材上に、高精度レーザクラッディング装置(村谷機械製作所社製 装置名 ALPION)を用いてろう材粉体を8g/minの条件で噴射供給しながら、出力60Wの条件でレーザ光を照射する工程を1200回繰り返し、基材上に高さ5cm太さ3mmの棒状形状のろう材を形成した。その後、基材との接合部を切断し、ろう
材を得た。得られたろう材はろう材粉体の表面の一部が融着した溶融凝固体であり、空孔を有し、相対密度は90%であった。
【0039】
(実施例2)
室温のステンレス棒基材の表面円周方向に実施例1と同じ装置を用いてろう材粉体を2g/minの条件で噴射供給しながら、出力100Wの条件でレーザ光を照射する工程を2回繰り返し、基材上に高さ0.2cmのリブ形状のろう材を形成した。得られたろう材はろう材粉体の表面の一部が融着した溶融凝固体であり、空孔を有し、相対密度は50%であった。
【0040】
(実施例3)
室温の板状ステンレス基材表面にろう材粉体1gを載せ、ステンレス板で上から加圧して粉体厚みを平準化したのち、特開2019-063852に示される半導体レーザ光源を有するレーザろう付装置を用いて、ろう材粉体に、出力50Wのレーザ光を10mm/sの条件で走査しながら照射する工程を10回繰り返し、基板上に厚さ0.1mm、10mm角のシート状ろう材を形成した。得られたろう材はろう材粉体の表面の一部が融着した溶融凝固体であり、空孔を有し、相対密度は40%であった。
【0041】
以上のように得られたろう材やろう付用部材を用いて部材同士をろう付(接合)することで、バインダーを用いることなく部材同士の接合をすることが可能である。
【要約】
【課題】液だれ、生産効率、加熱装置への負荷といった、バインダーを含むろう材で生じ得る課題を生じさせることなく、部材同士の接合が可能なろう材及びろう付用部材、並びにそれらの製造方法を提供すること。
【解決手段】ろう材粉体の溶融凝固体からなるろう材によって課題を解決する。
【選択図】なし