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特許7442251細胞外小胞の分泌を抑制する細胞外小胞分泌抑制剤、およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】細胞外小胞の分泌を抑制する細胞外小胞分泌抑制剤、およびその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/713 20060101AFI20240226BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240226BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240226BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240226BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240226BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240226BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240226BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20240226BHJP
   C12N 9/22 20060101ALN20240226BHJP
   C07K 16/40 20060101ALN20240226BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20240226BHJP
   C12N 5/079 20100101ALN20240226BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20240226BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20240226BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20240226BHJP
【FI】
A61K31/713
A61K31/7088
A61K31/7105
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K45/00
G01N33/48 Z
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N9/22
C07K16/40
C12N5/071
C12N5/079
C12Q1/02
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022514098
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2021014693
(87)【国際公開番号】W WO2021206105
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2020069392
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021022825
(32)【優先日】2021-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513086728
【氏名又は名称】テオリアサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
(72)【発明者】
【氏名】占部 文彦
(72)【発明者】
【氏名】小坂 展慶
(72)【発明者】
【氏名】山元 智史
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/106126(WO,A1)
【文献】特表2018-521038(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043370(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0045915(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0071400(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61P 35/00
A61K 31/7088
A61K 31/713
A61K 31/7105
A61P 43/00
C12N 15/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリン合成経路の阻害剤を含み、
前記阻害剤が、前記セリン合成経路の酵素タンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制する発現抑制物質であり、
前記コードする遺伝子が、PSAT1遺伝子、PHGDH遺伝子、およびPSPH遺伝子からなる群から選択された少なくとも一つであり、
前記発現抑制物質が、RNA干渉物質、アンチセンス、アンチジーン、リボザイム、およびこれらのいずれかを発現する発現ベクターからなる群から選択された少なくとも一つであることを特徴とする細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制する細胞外小胞分泌抑制剤。
【請求項2】
前記細胞が、がん細胞である、請求項1に記載の細胞外小胞分泌抑制剤。
【請求項3】
前記がん細胞が、大腸がん細胞、肺がん細胞、メラノーマ細胞、乳がん細胞、膵臓がん細胞、および多発性骨髄腫細胞からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項に記載の細胞外小胞分泌抑制剤。
【請求項4】
前記細胞が、ウイルス感染細胞である、請求項1に記載の細胞外小胞分泌抑制剤。
【請求項5】
前記RNA干渉物質が、miRNA、またはsiRNAである、請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞外小胞分泌抑制剤。
【請求項6】
in vitroにおいて、細胞におけるセリン合成経路を構成する酵素タンパク質の発現を抑制することを特徴とする細胞からの細胞外小胞分泌の抑制方法。
【請求項7】
in vitroにおいて、請求項1からのいずれか一項に記載の細胞外小胞分泌抑制剤を細胞に投与する、請求項6に記載の抑制方法。
【請求項8】
前記細胞が、がん細胞である、請求項6または7に記載の抑制方法。
【請求項9】
前記がん細胞が、大腸がん細胞、肺がん細胞、メラノーマ細胞、乳がん細胞、膵臓がん細胞、および多発性骨髄腫細胞からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項に記載の抑制方法。
【請求項10】
前記細胞が、ウイルス感染細胞である、請求項6または7に記載の抑制方法。
【請求項11】
非ヒト動物において、細胞におけるセリン合成経路を構成する酵素タンパク質の発現を抑制することを特徴とする細胞からの細胞外小胞分泌の抑制方法。
【請求項12】
非ヒト動物に、請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞外小胞分泌抑制剤を投与する、請求項11に記載の抑制方法。
【請求項13】
セリン合成経路の酵素タンパク質をコードする遺伝子から前記酵素タンパク質を発現する発現系に被検物質を共存させ、前記酵素タンパク質を発現させる工程、
前記発現系における前記酵素タンパク質の発現を検出する工程、および、
前記酵素タンパク質の発現量が、前記被検物質を共存させていないコントロールの発現よりも相対的に低い前記被検物質を、細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制する候補物質として選択する工程を含む
ことを特徴とする細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制する細胞外小胞分泌抑制剤の候補物質のスクリーニング方法。
【請求項14】
セリン合成経路の酵素タンパク質に被検物質を接触させる工程、
前記酵素タンパク質の触媒活性を検出する工程、および、
前記酵素タンパク質の触媒活性が、前記被検物質を共存させていないコントロールの系よりも相対的に低い前記被検物質を、細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制する候補物質として選択する工程を含む
ことを特徴とする細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制する細胞外小胞分泌抑制剤の候補物質のスクリーニング方法。
【請求項15】
セリン合成経路の酵素タンパク質に被検物質を接触させる工程、
前記酵素タンパク質と前記被検物質との結合を検出する工程、および、
前記酵素タンパク質に結合した前記被検物質を、細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制する候補物質として選択する工程を含む
ことを特徴とする細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制する細胞外小胞分泌抑制剤の候補物質のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制する細胞外小胞分泌抑制剤、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞から分泌されるエクソソーム等の細胞外小胞が着目されている。前記細胞外小胞は、マイクロRNA(miRNA)等の核酸、タンパク質を内包している。そして、これらの内包物が、前記細胞外小胞を介して、前記細胞外小胞を分泌した細胞から受取側の細胞に伝達されることから、細胞間のコミュニケーションツールとして機能すると考えられている。具体例として、例えば、がんの転移に関しても、原発がんから分泌される細胞外小胞の関与が報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、細胞からの細胞外小胞の分泌が、どのように制御されているのか、その分泌のメカニズムについては解明されていない。前記細胞外小胞の分泌のメカニズムが解明されれば、例えば、そのメカニズムに基づいて前記細胞外小胞の分泌を抑制することにより、前記細胞外小胞の分泌が与える生体への影響を容易に解析することも可能になる。また、前記細胞外小胞の分泌が原因となっている疾患等であれば、前記メカニズムに基づいて前記細胞外小胞の分泌を抑制することにより、その疾患の治療も可能となる。
【0004】
そこで、本発明は、細胞からの細胞外小胞の分泌に関して、新たな分泌抑制剤および分泌抑制方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明は、セリン合成経路の阻害剤を含むことを特徴とする細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制する細胞外小胞分泌抑制剤である。
【0006】
本発明の分泌抑制方法は、細胞からの細胞外小胞の分泌の抑制方法であり、本発明の細胞外小胞分泌抑制剤を、投与対象に投与する工程を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明のスクリーニング方法は、細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制する細胞外小胞分泌抑制剤の候補物質のスクリーニング方法であり、被検物質から、セリン合成経路を阻害する阻害物質を、細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制する候補物質として選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、細胞からの細胞外小胞の分泌にセリン合成経路が関与しており、セリン合成経路を阻害することで、細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制できることを見出した。前述のように、細胞からの細胞外小胞の分泌のメカニズムについては解明されておらず、本発明者らがはじめて見出したことである。本発明によれば、セリン合成経路の阻害によって、細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制できる。このため、本発明により分泌抑制を行うことで、例えば、細胞外小胞の分泌または分泌の抑制が生体に与える影響を解析することも可能である。したがって、本発明は、例えば、医療分野において非常に有用な技術といえる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1において、(A)は、miR-891bをトランスフェクションした形質転換体(miR-891b)とネガティブコントロールの形質転換体(NC)とについて、ExoScreen法によるEV量の相対値を示すグラフであり、(B)は、NTA法によるEV量の相対値を示すグラフである。
図2図2において、(A)は、siPSAT1をトランスフェクションした形質転換体(siPSAT1)とネガティブコントロールの形質転換体(NC)とについて、ExoScreen法によるEV量の相対値を示すグラフであり、(B)は、NTA法によるEV量の相対値を示すグラフである。
図3図3において、(A)は、前記形質転換体(miR-891b)と前記形質転換体(NC)について、PSAT1遺伝子の発現量の相対値を示すグラフであり、(B)は、PSAT1タンパク質の相対値を示すグラフであり、(C)は、PSAT1遺伝子の3’UTRとmiR-891bとの関係を示す図であり、(D)は、PSAT1遺伝子とmiR-891bとをトランスフェクションした形質転換体におけるPSAT1の発現量を示すグラフである。
図4図4は、各種がん細胞にsiPSAT1をトランスフェクションした形質転換体(siPSAT1)とネガティブコントロールの形質転換体(NC)とについて、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフである。
図5図5は、がん細胞にsiPSAT1をトランスフェクションした形質転換体(siPSAT1)とネガティブコントロールの形質転換体(NC)とについて、細胞内におけるCD63陽性EVの相対量を示すグラフである。
図6図6において、がん細胞にsiPSAT1をトランスフェクションした形質転換体(siPSAT1)とネガティブコントロールの形質転換体(NC)とについて、セリン欠乏培地またはセリン含有培地で培養した結果であり、(A)は、ExoScreen法による分泌EV量の相対値を示すグラフであり、(B)は、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフである。
図7図7は、細胞内におけるCD63陽性EVの相対量を示すグラフである。
図8図8は、セリン合成の阻害剤を共存させたがん細胞について、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフである。
図9図9は、各種がん細胞にsiPSAT1をトランスフェクションした形質転換体(siPSAT1)とネガティブコントロールの形質転換体(NC)とについて、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフである。
図10図10は、乳がん転移株MDA-MB-231_Luc_D3H2LNの結果であり、(A)は、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフであり、(B)は、PSAT1タンパク質の発現を示すウェスタンブロットの写真である。
図11図11は、乳がん転移株を移植したマウスの結果であり、(A)は、マウスの原発巣(乳腺)の腫瘍体積のグラフであり、(B)は、原発巣(乳腺)の腫瘍重量のグラフである。
図12図12は、PSAT1またはPHGDHをサイレンシングした肺がん細胞の結果であり、(A)は、細胞生存率の結果であり、(B)は、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフであり、(C)は、ExoScreen法による分泌EV量の相対値を示すグラフである。
図13図13は、PSAT1またはPHGDHをサイレンシングした大腸がん細胞の結果であり、(A)は、細胞生存率の結果であり、(B)は、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフであり、(C)は、ExoScreen法による分泌EV量の相対値を示すグラフである。
図14図14は、細胞1個あたりのEV分泌量を示すグラフであり、(A)は、大腸の正常上皮細胞の結果であり、(B)は、肺の正常上皮細胞の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の細胞外小胞(extracellular vesicle;EV)分泌抑制剤は、以下、EV分泌抑制剤という。
【0011】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記阻害剤が、セリン合成経路における酵素タンパク質の発現を抑制する発現抑制物質またはセリン合成経路における酵素タンパク質の触媒機能を抑制する触媒機能抑制物質である。
【0012】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記セリン合成経路が、PSAT1を含む合成経路である。
【0013】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記セリン合成経路の阻害剤が、PSAT1タンパク質の発現抑制物質または触媒機能抑制物質である。
【0014】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記セリン合成経路の阻害剤が、PHGDHタンパク質の発現抑制物質または触媒機能抑制物質である。
【0015】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記セリン合成経路の阻害剤が、PSPHタンパク質の発現抑制物質または触媒機能抑制物質である。
【0016】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記細胞が、がん細胞である。
【0017】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記がん細胞が、大腸がん細胞、肺がん細胞、メラノーマ細胞、乳がん細胞、膵臓がん細胞、および多発性骨髄腫細胞からなる群から選択された少なくとも一つである。
【0018】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記細胞が、ウイルス感染細胞である。
【0019】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記阻害剤が、低分子化合物、タンパク質、またはペプチドである。
【0020】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記酵素タンパク質に対する発現抑制物質が、前記酵素タンパク質をコードする遺伝子からの転写を抑制する物質、転写された転写産物を分解する物質、および前記転写物からのタンパク質の翻訳を抑制する物質からなる群から選択された少なくとも一つである。
【0021】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記発現抑制物質が、miRNA、siRNA、アンチセンス、およびリボザイムからなる群から選択された少なくとも一つの核酸物質である。
【0022】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記発現抑制物質が、前記核酸物質を発現する発現ベクターである。
【0023】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記タンパク質の機能抑制物質が、前記酵素タンパク質に対する活性阻害物質または活性中和物質である。
【0024】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記活性中和物が、前記タンパク質に対する抗体または抗原結合断片である。
【0025】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記機能抑制物質が、前記活性中和物を発現する発現ベクターである。
【0026】
本発明のEV分泌の抑制方法は、例えば、前記細胞が、がん細胞である。
【0027】
本発明のEV分泌の抑制方法は、例えば、前記がん細胞が、大腸がん細胞、肺がん細胞、メラノーマ細胞、乳がん細胞、膵臓がん細胞、および多発性骨髄腫細胞からなる群から選択された少なくとも一つである。
【0028】
本発明のEV分泌の抑制方法は、例えば、前記細胞が、ウイルス感染細胞である。
【0029】
本発明のEV分泌の抑制方法は、例えば、前記投与対象が、ヒトまたは非ヒト動物である。
【0030】
本発明のEV分泌の抑制方法は、例えば、前記投与が、in vivoまたはin vitroで行われる。
【0031】
本発明のEV分泌抑制剤の候補物質のスクリーニング方法は、例えば、前記細胞が、がん細胞である。
【0032】
本発明のEV分泌抑制剤の候補物質のスクリーニング方法は、例えば、前記がん細胞が、大腸がん細胞、肺がん細胞、メラノーマ細胞、乳がん細胞、膵臓がん細胞、および多発性骨髄腫細胞からなる群から選択された少なくとも一つである。
【0033】
本発明のEV分泌抑制剤の候補物質のスクリーニング方法は、例えば、前記細胞が、ウイルス感染細胞である。
【0034】
<細胞外小胞分泌抑制剤>
本発明の細胞外小胞(EV)分泌抑制剤(以下、EV分泌抑制剤という)は、細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制する剤である。本発明のEV分泌抑制剤は、前述のように、セリン合成経路の阻害剤を含むことを特徴とする。本発明のEV分泌抑制剤は、前記阻害剤を含むことが特徴であって、その他の構成および条件は、特に制限されない。また、本発明のEV分泌抑制剤は、後述する本発明のEV分泌の抑制方法等の記載を援用できる。
【0035】
本発明において、前記阻害剤は、セリン合成経路における酵素タンパク質に対する発現抑制物質でもよいし、セリン合成経路における酵素タンパク質に対する触媒機能抑制物質でもよい。本発明は、前述のように、セリン合成経路の発現挙動がEV分泌を制御しており、セリンの合成を阻害することで、細胞からのEV分泌を抑制できることを見出したことが特徴である。このため、セリン合成を阻害する物質の種類および阻害の方法に関しては、何ら制限されない。
【0036】
前記阻害剤は、セリン合成経路を阻害できればよく、その阻害の形式は特に制限されない。すなわち、セリン合成経路における酵素タンパク質の発現を抑制することで阻害してもよいし、セリン合成経路における酵素タンパク質の触媒機能を抑制することで阻害してもよい。前者の場合、前記阻害剤は、例えば、セリン合成経路における酵素タンパク質に対する発現抑制物質であり、後者の場合、前記阻害剤は、例えば、セリン合成経路における酵素タンパク質の触媒機能抑制物質である。本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、有効成分の前記阻害剤として、前記発現抑制物質を含んでもよいし、前記触媒機能抑制物質を含んでもよいし、前者と後者の両方を含んでもよい。
【0037】
前記阻害剤の種類は、特に制限されず、例えば、核酸物質等の低分子化合物、抗体等のタンパク質、抗原結合断片等のペプチド等があげられる。
【0038】
前記発現抑制物質は、例えば、前記酵素タンパク質をコードする遺伝子(以下、ターゲット遺伝子ともいう)からの前記酵素タンパク質(以下、ターゲットタンパク質ともいう)の発現において、転写および翻訳のいずれの工程を抑制するものでもよく、特に制限されない。転写の抑制としては、例えば、DNAからmRNA前駆体への転写の阻害、mRNA前駆体から成熟mRNAを形成するRNAプロセシングの阻害、mRNA前駆体または成熟mRNAの分解等があげられる。前記翻訳の抑制としては、例えば、成熟mRNAからの翻訳の阻害、翻訳産物の修飾の阻害等があげられる。
【0039】
前記発現抑制物質は、例えば、核酸物質(以下、核酸型抑制物質もいう)であり、そのままで発現を抑制する形態(第1形態)でもよいし、in vivo、in vitro、またはex vivoの環境下において発現を抑制する状態となる、前駆体の形態(第2形態)でもよい。
【0040】
前記第1形態の発現抑制物質は、例えば、アンチジーン、アンチセンス(アンチセンスオリゴヌクレオチド)、RNA干渉(RNAi)物質、リボザイム等があげられる。RNAi物質は、例えば、siRNA、miRNA等があげられる。アンチジーンは、例えば、mRNAの転写を阻害し、アンチセンスおよびmiRNAは、例えば、mRNAからの翻訳を阻害し、siRNAおよびリボザイムは、例えば、mRNAを分解する。これらの発現抑制物質は、例えば、前記ターゲット遺伝子の全領域および部分領域のいずれをターゲット領域としてもよい。具体例として、アンチセンスおよびmiRNAは、例えば、ターゲットの遺伝子から転写されたmRNAの3’UTR領域に結合するようにデザインでき、siRNAおよびリボザイムは、例えば、ターゲットの遺伝子から転写されたmRNAの一部の領域に完全に相補的に結合するようにデザインできる。
【0041】
前記第1形態の発現抑制物質は、例えば、後述するようなスクリーニング方法により得ることもでき、また、前記ターゲット遺伝子の配列から設計することもできる。
【0042】
前記第1形態の発現抑制物質は、例えば、一本鎖でも二本鎖でもよい。前記発現抑制物質の構成単位は、特に制限されず、例えば、糖と、プリンまたはピリミジン等の塩基と、リン酸とを含み、デオキシリボヌクレオチド骨格またはリボヌクレオチド骨格があげられ、この他に、例えば、ピロリジンまたピペリジン等の塩基を含む非ヌクレオチド骨格等でもよい。これらの骨格は、修飾型でも非修飾型でもよい。また、前記構成単位は、例えば、天然型でも、人工の非天然型でもよい。前記発現抑制物質は、例えば、同じ構成単位から形成されてもよいし、二種類以上の構成単位から形成されてもよい。
【0043】
前記第2形態の発現抑制物質は、前述のように、前記前駆体であり、具体例としては、前記第1形態の発現抑制物質を発現する前駆体があげられる。前記前駆体は、対象に投与することで、例えば、in vivo、in vitro、またはex vivoの環境下、前記第1形態の発現抑制物質を発現させ、機能させることができる。
【0044】
前記前駆体は、例えば、前記第1形態の発現抑制物質とリンカーとを含む形態があげられる。具体例として、前記前駆体は、siRNAの両鎖を前記リンカーで連結した形態があげられる。このような前駆体によれば、例えば、in vivo、in vitro、またはex vivoの環境下、前記前駆体が切断されることにより、前記前駆体から前記リンカーが除去され、二本鎖のsiRNAを生成(発現)できる。前記前駆体の具体例として、例えば、切断によりsiRNAを生成するshRNA等が例示できる。
【0045】
また、前記前駆体は、例えば、前記第1形態の発現抑制物質のコード配列を挿入した発現ベクターでもよい。前記発現ベクターによれば、例えば、in vivo、in vitro、またはex vivoの環境下、前記第1形態の発現抑制物質を発現することができる。前記発現ベクターには、例えば、前述のshRNA等の前駆体のコード配列を挿入してもよい。前記発現ベクターの種類は、特に制限されず、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター等があげられ、前記ウイルスベクターは、例えば、アデノウイルスベクター、センダイウイルスベクター等があげられる。
【0046】
前記触媒機能抑制物質は、例えば、前記酵素タンパク質の活性を阻害する活性阻害物質、前記酵素タンパク質の活性を中和する活性中和物質があげられる。
【0047】
前記活性阻害物質は、特に制限されず、低分子化合物等があげられる。
【0048】
前記活性中和物質は、例えば、前記酵素タンパク質に対する抗体または抗原結合断片(抗原結合ペプチド)(以下、あわせて抗体型抑制物質ともいう)等があげられる。前記抗体型抑制物質は、例えば、前記酵素タンパク質への結合によって、前記酵素タンパク質の機能を抑制できることから、中和抗体または中和抗原結合断片ともいう。前記抗体型抑制物質は、例えば、後述するようなスクリーニング方法により得ることもできる。
【0049】
前記抗体は、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれでもよく、また、そのアイソタイプは、特に制限されず、例えば、IgG、IgM、IgA等があげられる。前記抗体は、ヒトに投与する場合、例えば、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体等が好ましい。
【0050】
前記抗原結合断片は、例えば、前記ターゲットタンパク質の標的部位を認識して結合できればよく、前記抗体の相補性決定領域(CDR)を有している断片があげられる。具体例として、前記抗原結合断片は、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)等の断片等があげられる。
【0051】
前記触媒機能抑制物質は、例えば、そのままで前記酵素タンパク質の触媒機能を抑制する第1形態でもよいし、in vivo、in vitro、またはex vivoの環境下において発現を抑制する状態となる、前駆体の第2形態でもよい。前記第1形態の触媒機能抑制物質は、例えば、前述のような抗体型抑制物質である。また、前記第2形態の前駆体は、例えば、前記酵素タンパク質の触媒機能を抑制するタンパク質またはペプチドのコード配列を挿入した発現ベクターがあげられる。前記発現ベクターの種類は、特に制限されず、前述と同様に、プラスミドベクター、ウイルスベクター等があげられる。
【0052】
また、前記触媒機能抑制物質は、例えば、前記酵素タンパク質が触媒活性を有し、触媒としての機能を失ってはいないが、機能しうる状態を抑制する物質でもよい。すなわち、具体例として、前記酵素タンパク質が機能するために必要な基質を減少させる、または基質を変化させる等の抑制物質でもよい。前記基質の減少は、例えば、基質の生成の抑制でもよいし、基質の分解でもよい。
【0053】
セリン合成経路は、例えば、下記式に示す合成経路(I)があげられる。本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、PSAT1を含むセリン合成経路(I)の阻害剤を含むことが好ましい。本発明者らは、前述のように、セリン合成経路の発現挙動がEV分泌を制御していることを見出した。具体的には、例えば、がん細胞等のような非正常細胞は、セリン合成経路の遺伝子およびそれがコードするタンパク質の発現が過剰になることで、正常細胞と比較して、EV分泌量が増加するとの知見を得た。そして、このセリン合成経路におけるタンパク質、具体的には、例えば、下記セリン合成経路(I)におけるタンパク質について、それをコードする遺伝子の発現を抑制(阻害)したり、機能を抑制(阻害)することによって、非正常細胞についてEV分泌の増加を抑制できることを確認し、本発明を確立した。本発明におけるEV分泌の抑制は、例えば、EV分泌の増加の抑制ということもでき、具体的には、例えば、EV分泌が正常のレベルよりも増加することを抑制することともいえる。
【化1】
【0054】
PHGDHは、D-3-Phosphoglycerate Dehydrogenaseである。ヒトPHGDHタンパク質およびそれをコードするPHGDH遺伝子は、データベース(Genetic Testing Registry (GTR))においてGene ID:26227で登録されている。PHGDHに対する発現抑制物質は、例えば、PHGDH遺伝子の配列から設定することができる。また、前記PHGDHに対する触媒機能抑制物質は、例えば、NCT-503、CBR-5884等の阻害剤、PHGDH抗体等の中和抗体を使用できる。
【0055】
PSAT1は、Phosphoserine Aminotransferase 1である。ヒトPSAT1タンパク質およびそれをコードするPSAT1遺伝子は、データベース(GTR)においてGene ID: 29968で登録されている。PSAT1に対する発現抑制物質は、例えば、PSAT1遺伝子の配列から設定することができ、具体例として、miR-891b等が使用できる。また、前記PSAT1に対する触媒機能抑制物質は、例えば、PSAT1抗体等の中和抗体を使用できる。
【0056】
PSPHは、Phosphoserine Phosphataseである。ヒトPSPHタンパク質およびそれをコードするPSPH遺伝子は、データベース(GTR)においてGene ID:5723で登録されている。PSPHに対する発現抑制物質は、例えば、PSPH遺伝子の配列から設定することができる。また、前記PSPHに対する触媒機能抑制物質は、例えば、PSPH抗体等の中和抗体を使用できる。
【0057】
本発明において、セリン合成経路の阻害剤は、例えば、PSAT1タンパク質の発現抑制物質および触媒機能抑制物質、PHGDHタンパク質の発現抑制物質および触媒機能抑制物質、ならびにPSPHタンパク質の発現抑制物質および触媒機能抑制物質のいずれでもよく、いずれか一種類を含んでもよく、二種類以上を含んでもよい。
【0058】
本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、前記有効成分のみを含んでもよいし、さらにその他の添加成分を含んでもよい。前記添加成分は、特に制限されず、例えば、以下のような成分、好ましくは、薬理学的に許容される成分があげられる。前記添加成分は、例えば、前記EV分泌抑制剤の投与方法、投与対象、および剤型等に応じて、適宜設定できる。
【0059】
前記添加成分は、例えば、賦形剤があげられる。前記賦形剤は、例えば、水性溶媒、アルコール溶媒、ポリアルコール溶媒、油性溶媒、これらの混合溶媒(例えば、乳化溶媒)等の液体媒質、乳糖、デンプン等があげられる。前記水性溶媒は、例えば、水、生理食塩水、塩化ナトリウム等の等張液等があげられ、油性溶媒は、例えば、大豆油等があげられる。前記添加成分は、これらの他に、例えば、デンプン糊等の結合剤;デンプン、炭酸塩等の崩壊剤;タルク、ワックス等の滑沢剤等があげられる。また、前記添加成分は、例えば、前記有効成分を目的部位にデリバリーするためのDDS剤を含んでもよい。
【0060】
本発明において、EVの分泌抑制の対象となる細胞は、特に制限されず、細胞外小胞の分泌を抑制することによって、分泌による影響または分泌抑制による影響を確認したい細胞が対象となる。前記細胞は、例えば、正常細胞でもよいし、目的の項目について非正常である細胞でもよい。前記目的の項目について非正常とは、特に制限されず、例えば、前記項目ががんの場合、非正常の細胞は、がん細胞でもよいし、前記項目がウイルス感染の場合、非正常の細胞は、ウイルス感染細胞でもよい。本発明によれば、例えば、がんの発生、転移、治療等のメカニズムを解析できることから、前記細胞としては、がん細胞が好ましい。特に、前述のように、細胞外小胞は細胞間の情報伝達の役割を果たすことから、他の器官(臓器)に転移する原発がんのがん細胞が好ましい。前記がん細胞は、特に制限されず、例えば、大腸がん細胞、肺がん細胞、メラノーマ細胞、乳がん細胞、膵臓がん細胞、または多発性骨髄腫細胞等があげられる。また、本発明によれば、例えば、ウイルスの感染のメカニズムを解析できることから、前記細胞としては、ウイルス感染細胞が好ましい。前記ウイルスの種類は、特に制限されず、インフルエンザウイルス、コロナウイルス等があげられる。
【0061】
本発明において、細胞外小胞は、例えば、エンドサイトーシスパスウェイにより分泌されるエクソソーム、マイクロベシクル(微小小胞体)、アポトーシス小体等であり、中でも、例えば、エクソソームである。エクソソームは、一般的に、Alix、Tsg101、CD81、CD63、CD9、フロチリン等のマーカ分子により検出できる。
【0062】
本発明のEV分泌抑制剤の使用方法は、特に制限されず、例えば、細胞外小胞の分泌を抑制させたい対象に添加すればよく、添加方法は、特に制限されず、例えば、in vivo、in vitro、またはex vivoでもよい。本発明のEV分泌抑制剤の添加対象は、例えば、細胞もしくは組織、または生体等である。前記細胞および組織の種類、ならびに生体の部位(器官)は、特に制限されず、例えば、大腸、肺、皮膚、乳房、乳菅、乳腺、膵臓、および骨髄等があげられる。前記細胞および組織は、例えば、生体から単離したものでもよいし、セルラインまたはその培養物でもよい。前記添加対象の細胞および組織は、例えば、ヒト由来でもよいし、非ヒト動物由来でもよい。また、前記添加対象の生体は、例えば、ヒトでもよいし、非ヒト動物でもよい。前記非ヒト動物は、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ウシ、ラクダ等の哺乳類動物があげられる。前記添加対象が非ヒト動物由来または非ヒト動物の場合、前記EV分泌抑制物質は、例えば、その特定の非ヒト動物由来のターゲットタンパク質(前記酵素タンパク質)またはターゲット遺伝子に相対的に特異的に対応する抑制物質であることが好ましく、また、前記添加対象がヒト由来またはヒトの場合、前記抑制物質は、例えば、ヒト由来の前記ターゲットタンパク質またはターゲット遺伝子に相対的に特異的に対応する抑制物質であることが好ましい。
【0063】
<EV分泌抑制方法>
本発明のEV分泌抑制方法は、細胞からのEVの分泌を抑制する方法であり、前記本発明のEV分泌抑制剤を、投与対象に投与する工程を含むことを特徴とする。本発明は、前記本発明のEV分泌抑制剤を使用することがポイントであって、その他の工程および条件は、特に制限されない。前記本発明のEV分泌抑制方法に関しては、前記本発明のEV分泌抑制剤における記載を援用できる。
【0064】
前記投与対象が細胞の場合は、例えば、培地の存在下、前記EV分泌抑制剤を添加し、インキュベートすることによって、前記細胞からのEV分泌を抑制することができる。前記インキュベートの条件は、特に制限されず、例えば、細胞の種類に応じて、前記培地、温度、時間、湿度等を設定できる。
【0065】
前記投与対象が組織の場合は、例えば、培地の存在下、前記EV分泌抑制剤を添加し、インキュベートすることによって、前記組織を構成する細胞からのEV分泌を抑制することができる。前記インキュベートの条件は、特に制限されず、例えば、組織の種類、大きさ等に応じて、前記培地、温度、時間、湿度等を設定できる。
【0066】
前記投与対象が生体の場合、前記EV分泌抑制剤の投与方法は、特に制限されず、非経口投与、経口投与、静脈投与等があげられる。投与条件は、特に制限されず、例えば、生体の種類、投与対象の器官の種類等に応じて、適宜決定できる。
【0067】
前記非経口投与の場合、投与部位は、例えば、対象器官、すなわち、EV分泌を抑制させたい細胞を有する器官(対象部位ともいう)でもよいし、前記対象部位まで前記EV分泌抑制剤の有効成分である前記阻害剤をデリバリーできる部位でもよい。具体例として、例えば、対象細胞が大腸細胞の場合、投与部位は、対象部位の大腸でもよいし、大腸にまで前記阻害剤をデリバリーできる部位でもよい。また、例えば、対象細胞が肺細胞の場合、投与部位は、対象部位の肺でもよいし、肺まで前記阻害剤をデリバリーできる部位でもよく、他の器官についても同様である。前記非経口投与の方法は、例えば、患部注射、静脈注射、皮下注射、皮内注射、点滴注射、経皮投与等があげられる。前記EV分泌抑制剤の形態は、特に制限されず、前述のように、投与方法等に応じて適宜設定でき、前述の記載を援用できる。
【0068】
非経口投与の場合、剤型は、特に制限されず、投与方法により適宜決定でき、例えば、液状、クリーム状、ジェル状等であり、媒質と前記阻害剤とを混合することで調製できる。前記媒質のうち、水性溶媒は、例えば、生理食塩水、等張液等であり、油性溶媒は、例えば、大豆油等であり、乳化溶媒は、例えば、これらの混合液である。前記非経口投与剤は、例えば、さらに、アルコール、ポリアルコール、界面活性剤等を含んでもよい。また、前記非経口投与剤は、前記阻害剤を、対象部位以外の部位から前記対象部位に効果的にデリバリーするためのDDS剤を含んでもよい。また、前記対象部位の組織の中でも、例えば、がん細胞に前記阻害剤を効果的にデリバリーする場合、前記非経口投与剤は、例えば、前記がん細胞を特異的に認識するDDS剤を含んでもよい。
【0069】
前記経口投与の場合、経口投与剤の剤型は、特に制限されず、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤等があげられる。前記経口投与剤は、例えば、希釈剤、賦形剤、担体等を含んでもよい。また、前記経口投与剤は、例えば、前記阻害剤を前記対象部位に効果的にデリバリーするためのDDS剤を含んでもよい。また、前記対象部位の組織の中でも、例えば、がん細胞に前記阻害剤を効果的にデリバリーする場合、前記経口投与剤は、例えば、前記がん細胞を特異的に認識するDDS剤を含んでもよい。
【0070】
前記生体への投与において、本発明のEV分泌抑制剤の投与条件は、例えば、年齢、体重、投与対象の器官の種類、性別等に応じて適宜決定できる。
【0071】
本発明者らによって、がんの転移のメカニズムとして、原発がんのがん細胞から細胞外小胞が分泌され、前記細胞外小胞を介した細胞間の情報伝達により、がんの転移が生じることが報告されている。本発明のEV分泌抑制剤によれば、前述のように、がんに罹患した患者の対象部位(がん器官)への投与により、前記対象部位におけるがん細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制することで、がんの進行を抑制したり、他の器官へのがんの転移を抑制できる。このため、本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、がんの治療剤としても使用できる。本明細書において、治療は、例えば、いわゆる、がんの進行の緩和、がんの治癒等のための行為の他、がんへの罹患、再発を防止するための予防の行為の意味も含む。本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、いずれか1つを目的として使用されてもよいし、2つ以上を目的として使用されてもよい。
【0072】
この場合、前記生体への投与において、本発明のEV分泌抑制剤の投与条件は、例えば、前述の例示した項目に加えて、さらに、がんの種類(例えば、大腸がん、肺がん、メラノーマ、乳がん、膵臓がん、および多発性骨髄腫等)、がんの進行度等に応じて適宜決定できる。また、前記生体は、例えば、治療の点から、前記がん罹患に罹患した対象でもよいし、予防の点から、前記がんに罹患していない対象、または罹患の有無が不明な対象でもよい。
【0073】
本発明のEV分泌抑制の用途としては、このような例示には限定されない。近年、例えば、体内における細胞間の伝達にエクソソーム等のEVが関与することが報告されている。具体例としては、例えば、感染したウイルス(例えば、インフルエンザウイルス、コロナウイルス等)の体内における伝達等があげられる。このため、本発明のEV分泌抑制剤によれば、EVの分泌抑制によって、例えば、ウイルスの伝達を抑制し、結果的に体内におけるウイルス感染の拡大を阻害することもできる。
【0074】
本発明のEV分泌抑制剤により分泌が抑制されるEVは、前述のように、例えば、ある細胞内の情報物質を他の細胞に移送することにより、細胞間の情報伝達を行うという役割を果たすことが知られている。このため、本発明のEV分泌抑制剤は、例えば、細胞間の情報伝達抑制剤ということもでき、また、本発明のEV分泌抑制方法は、例えば、細胞間の情報伝達抑制方法ともいえる。
【0075】
<スクリーニング方法>
本発明のスクリーニング方法は、細胞からのEVの分泌を抑制するEV分泌抑制剤の候補物質のスクリーニング方法であり、被検物質から、セリン合成経路を阻害する阻害物質を、細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制する候補物質として選択することを特徴とする。前記細胞の種類は、特に制限されず、前述のとおりであり、例えば、がん細胞が例示できる。前記がん細胞は、前述のように、例えば、大腸がん細胞、肺がん細胞、メラノーマ細胞、乳がん細胞、膵臓がん細胞、および多発性骨髄腫細胞等があげられる。
【0076】
前記発現抑制物質の候補物質をスクリーニングする場合、本発明のスクリーニング方法は、例えば、前記酵素タンパク質をコードする遺伝子(前記ターゲット遺伝子)から前記酵素タンパク質(前記ターゲットタンパク質)を発現する発現系に前記被検物質を共存させ、前記ターゲットタンパク質を発現させる工程、前記発現系における前記ターゲットタンパク質の発現を検出する工程、および前記ターゲットタンパク質の発現量が、前記被検物質を共存させていないコントロールの発現系よりも相対的に低い前記被検物質を、前記候補物質として選択する工程を含む。
【0077】
前記触媒機能抑制物質の候補物質をスクリーニングする場合、本発明のスクリーニング方法は、例えば、前記酵素タンパク質(前記ターゲットタンパク質)に前記被検物質を接触させる工程、前記酵素タンパク質の触媒活性を検出する工程、および前記酵素タンパク質の触媒活性が、前記被検物質を共存させていないコントロールの系よりも相対的に低い前記被検物質を、前記候補物質として選択する工程を含む。
【0078】
前記触媒機能抑制物質の候補物質として、前記活性中和物質をスクリーニングする場合、本発明のスクリーニング方法は、例えば、前記酵素タンパク質(前記ターゲットタンパク質)に前記被検物質を接触させる工程、前記ターゲットタンパク質と前記被検物質との結合を検出する工程、および前記ターゲットタンパク質に結合した前記被検物質を、前記候補物質として選択する工程を含む。
【0079】
<用途>
本発明は、細胞からの細胞外小胞の分泌抑制に使用するための前記阻害剤である。前記抑制物質は、前記本発明のEV分泌抑制剤および前記本発明のEV分泌抑制方法の記載を援用できる。
【実施例
【0080】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコルに基づいて使用した。
【0081】
(細胞)
大腸がん細胞として、ヒト結腸腺がん細胞株HCT116(ATCC CCL-247)、肺がん細胞として、ヒト肺胞基底上皮腺がん細胞株A549(ATCC CCL-185)を使用した。メラノーマ細胞として、ヒトメラノーマ細胞株A375(ATCC CRL-1619)、乳がん細胞として、ヒト乳癌細胞株MM231(ATCC HTB-26)、膵臓がん細胞として、ヒト膵臓腺がん細胞株Panc-1(ATCC CRL-1469)、多発性骨髄腫細胞として、ヒト多発性骨髄腫細胞株RPMI8226(ATCC CCL-155)を使用した。
【0082】
(核酸分子)
核酸分子miRNAとして、miR-891b(miR-891b mimicともいう。配列番号1:GCAACUUACCUGAGUCAUUGA)(製品番号 4464066 、Ambion社)を使用し、ネガティブコントロール用の核酸分子miRNAとして、miRNA Mimic Negative Control#1(4464058)(Ambion)を使用した。核酸分子siRNAとして、siPSAT1(製品番号 siGENOME SMART pool siRNA M-010398、Dharmacon社)を使用し、ネガティブコントロール用の核酸分子siRNAとして、ALL STARネガティブコントロールsiRNA(SI03650318)(いずれもQiagen)を使用した。
【0083】
(細胞培養)
MM231用の培地は、RPMI 1640培地(Gibco)に10%熱不活化ウシ胎児血清(FBS)および抗生物質-抗真菌溶液(Gibco)を添加したRPMI完全培地を使用した。HCT116用の培地は、Maccoy5Aに10%熱不活化FBSおよび抗生剤-抗真菌薬を添加したMaccoy5A完全培地を使用し、その他の細胞用の培地は、DMEM培地(Gibco)に10%熱不活化FBSおよび抗生剤-抗真菌薬を添加したDMEM完全培地を使用した。培養条件は、37℃、5%二酸化炭素、95%相対湿度(RH)とした。約100,000個の細胞を前記完全培地18mLに播種し、3~4日間インキュベートし、継代数20未満の細胞を使用した。
【0084】
(分泌EVの回収)
培養したがん細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、培地を、前記抗生物質-抗真菌薬と2mmol/L L-グルタミン(Gibco)とを含むadvanced RPMIまたはadvanced DMEMに置き換えた。置換後の調整培養液を2,000×gで10分間遠心分離して細胞を除去し、得られた上清を0.22μmフィルター(Millipore)でろ過した。得られたろ液を110,000×gで70分間遠心分離し、EVが濃縮されたペレットを得た。前記ペレットを11mLのPBSで洗浄し、さらに110,000×gで70分間超遠心分離し、再回収した。
【0085】
(Exo Screen法)
EVの検出には、AlphaScreenストレプトアビジン被覆ドナービーズ(6760002)、AlphaLISA非結合アクセプタービーズ(6062011)、およびAlphaLISAユニバーサルバッファ(AL001F)から構成されるAlphaLISA試薬(Perkin Elmer)、96ウェルハーフエリアホワイトプレート(6005560、Perkin Elmer)、および検出装置EnSpire Alpha 2300 Mutilabelプレートリーダー(Perkin Elmer)を使用した。具体的には、前記プレートの各ウェルに、EV 5μLまたはCM(細胞の培養上清)10μLと、前記バッファで調製した5nmol/Lビオチン化抗体 10μLと、50μg/mL AlphaLISAアクセプタービーズ結合抗体 10μLとを添加した。CD9/CD9二重陽性EVの検出には、ビオチン化抗ヒトCD9抗体とAlphaLISAアクセプタービーズ結合抗ヒトCD9抗体とを使用し、CD9/CD63二重陽性EVの検出には、ビオチン化抗ヒトCD9抗体とAlphaLISAアクセプタービーズ結合抗ヒトCD63抗体とを使用した。また、CD63/CD63二重陽性EVの検出には、ビオチン化抗ヒトCD63抗体とAlphaLISAアクセプタービーズ結合抗ヒトCD63抗体とを使用した。そして、前記プレートを37℃で1時間インキュベートした後、80μg/mL AlphaScreenストレプトアビジン被覆ドナービーズ 25μLを添加し、さらに37℃で30分間、暗所でインキュベートした。つぎに、前記検出装置を励起波長680nmおよび発光検出波長615 nmに設定し、前記プレートのウェルにおける発光を測定した。抗体は、いずれも市販品として、マウスモノクローナル抗ヒトCD9(クローン12A12)およびCD63抗体(クローン8A12)(いずれもCosmo Bio)を使用した。
【0086】
(ナノ粒子トラッキング追跡分析NTAによるEVの分析)
回収した分泌EVをPBSに懸濁し、さらにPBSで希釈系を調製し、NanoSight粒子トラッキング分析(LM10、ソフトウェアVer. 2.03)で分析した。前記粒子トラッキングは、カメラレベル14で各サンプルから少なくとも5つの60秒ビデオを得た。分析設定は、最適化し、サンプル間で一定に維持させた。EV濃度は、培養液の粒子/細胞として算出し、正味のEV分泌率が得られた。前記ExoScreen法によるEVの測定結果は、NTA分析によるEVの測定結果と相関関係を示したことから、ExoScreen法により分泌EV量を測定できることが確認できた。
【0087】
(一過性トランスフェクションアッセイ)
6ウェルプレートに、1.0×10細胞/ウェルの条件でがん細胞の懸濁液2mLを播種し、24時間インキュベートした後、目的の核酸分子10nmol/Lを添加し、トランスフェクション試薬(商品名DharmaFECT Transfection Reagent 1)により前記核酸分子のトランスフェクションを行った。前記核酸分子は、前記miRNA、前記siRNAを使用した。前記24時間のインキュベート後、培地を、前記抗生物質-抗真菌薬と2mmol/L-グルタミン(Gibco)とを含む前記advanced RPMI 1640培地またはadvanced DMEM培地に置き換えた。置換の48時間後、トータルRNAを抽出し、目的の遺伝子の発現をqPCRで測定した。
【0088】
(RNA抽出およびqPCR分析)
トータルRNAは、市販の試薬(商品名QIAzol、商品名miRNeasy Mini Kit、Qiagen)を用いて培養細胞から抽出した。逆転写反応は、市販キット(商品名High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit、Applied Biosystems)およびランダムヘキサマープライマーを用いて行った。リアルタイムPCR分析は、市販キット(商品名StepOne Plus、商品名TaqMan Universal PCR MasterMix、Thermo Fisher Scientific)を用いて行った。mRNAの発現は、β-アクチンで正規化した。PSAT1用のプローブは、TaqManプローブ(Applied Biosystems)を使用した。
【0089】
実施例におけるデータは、特に記載しない限り、平均値±標準誤差で示した。統計的有意性はスチューデントt検定で決定した。ドットプロットにおいて、バーは、中央値と四分位範囲を示し、統計的有意性は、スチューデントt検定によって決定した。P <0.05を、統計的に有意とした。
* P <0.05、** P <0.01。
【0090】
[実施例A]
[実施例A1]
大腸がんおよび肺がんにおけるEV分泌の調節に関与するターゲット遺伝子を同定した。
【0091】
(1)がん細胞から分泌されるEVの検出
大腸がん細胞HCT116および肺がん細胞A549に、それぞれmiR-891bをトランスフェクションして、その形質転換体(miR-891b)の培養上清(CM)および前記形質転換体(miR-891b)から分泌されたEVを含むEV画分を回収し、前記ExoScreen法により分泌EV量を強度シグナルとして測定した。また、各形質転換体について、NTA分析により、分泌EV量を確認した。ネガティブコントロールとして、miR-891b miRNA Mimic Negative Control#1をトランスフェクションしたA549の形質転換体(NC)についても、同様に分泌EV量を測定した。そして、形質転換体(NC)の分泌EV量を1として、形質転換体(miR-891b)の分泌EVの相対値(n=3)を求めた。
【0092】
これらの結果を図1に示す。図1において、(A)は、ExoScreen法による分泌EV量の相対値を示すグラフであり、(B)は、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフである。図1(A)に示すように、miR-891bをトランスフェクトした大腸がん細胞HCT116および肺がん細胞A549の形質転換体(miR-891b)は、前記CMおよびEV画分のいずれにおいても、形質転換体(NC)より、分泌EV量が有意に抑制された。また、図1(B)に示すように、NTA法によっても同様の結果が得られた。これらの結果から、大腸がん細胞および肺がん細胞において、miR-891bが、EV分泌を抑制することがわかった。
【0093】
(2)miR-891bのターゲット遺伝子
前記(1)において、miR-891bのトランスフェクションによってEV分泌が抑制されたことから、発明者らは、さらなる鋭意研究によって、miR-891bにより発現が抑制されるターゲット遺伝子としてPSAT1遺伝子を見出した。そこで、PSAT1遺伝子の発現を抑制するsiRNA(siPSAT1)を大腸がん細胞HCT116および肺がん細胞A549にトランスフェクションして、ExoScreen法およびNTA法により分泌EV量を確認した。また、ネガティブコントロールとして、ALL STARネガティブコントロールsiRNAをトランスフェクションして、同様の確認を行った。これらの結果を図2に示す。図2において、(A)は、ExoScreen法による分泌EV量の相対値を示すグラフであり、(B)は、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフである。
【0094】
図2(A)に示すように、siPSAT1をトランスフェクトした大腸がん細胞HCT116および肺がん細胞A549の形質転換体(siPSAT1)は、前記CMおよびEV画分のいずれにおいても、形質転換体(NC)より、分泌EV量が有意に抑制された。また、図2(B)に示すように、NTA法によっても同様の結果が得られた。このように、siPSAT1によるPSAT1遺伝子のダウンレギュレーションによって、EV分泌が抑制されたことから、前記(1)の結果とあわせて、miR-891bのターゲット遺伝子がPSAT1遺伝子であることがわかった。
【0095】
(3)ターゲット遺伝子の確認
前記(2)におけるPSAT1遺伝子について、miR-891bの直接のターゲット遺伝子であることの確認を行った。
【0096】
まず、前記形質転換体(miR-891b)およびそれに対するコントロールの前記形質転換体(NC)について、PSAT1遺伝子の発現を検出した。そして、前記形質転換体(NC)の発現量を1として、前記形質転換体(miR-891b)の発現量の相対値を求めた。これらの結果を図3(A)に示す。図3(A)は、PSAT1遺伝子の発現量の相対値を示すグラフである。また、前記形質転換体(miR-891b)およびそれに対するコントロールの前記形質転換体(NC)について、PSAT1タンパク質の発現をウエスタンブロッティングにより検出した。また、コントロールとして、β-アクチンも検出した。これらの結果を図3(B)に示す。図3(B)は、PSAT1タンパク質の発現を示すウェスタンブロットの写真である。
【0097】
つぎに、図3(C)に示すように、miR-891bは、ヒトPSAT1 mRNAの3’UTR(配列番号2:UGGACUUAAUAAUGCAAGUUGCは、3’UTRの部分領域)における連続する7塩基領域にパーフェクトマッチする配列を有する。そこで、3’UTRの前記7塩基領域が野生型配列(配列番号3:AAGTTGC)である野生型PSAT1遺伝子と、3’UTR’の前記7塩基領域が変異型配列(配列番号4:TTCAACG)である変異型PSAT1遺伝子とを用いて、miR-891bによる影響を確認した。具体的には、以下のような実験を行った。野生型PSAT1遺伝子または変異型PSAT1遺伝子を、プラスミドベクターpsiCHECK2にサブクローニングし、この組換えベクターを、ヒト胎児腎細胞(HEK293細胞)に、miR-891bまたはネガティブコントロール用miRNAと共に、Lipofectamine3000を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後に、Dual-Luciferase Reporter Assay Systemの操作手順に従い、形質転換体のルシフェラーゼ活性をプレートリーダーで定量した。
【0098】
これらの結果を、図3(D)に示す。図3(D)は、PSAT1の発現量をルシフェラーゼ活性相対値で示すグラフである。
【0099】
図3(D)に示すように、miR-891bのトランスフェクションにより、PSAT1遺伝子の発現およびPSAT1タンパク質の発現が抑制された。さらにmiR-891bの認識領域の配列が野生型である野生型PSAT1の場合、miR-891bのトランスフェクションによって、PSAT1の発現量は有意に低下したが、miR-891bの認識領域の配列を変異型とすることによって、PSAT1の発現量が低下しなかった。これらのことから、miR-891bがPSAT1の3’UTRを認識してPSAT1を切断していることがわかった。つまり、PSAT1遺伝子が、miR-891bの直接的なターゲットであることが裏付けられた。
【0100】
[実施例A2]
PSAT1遺伝子の発現抑制による、各種がん細胞からのEV分泌の抑制を確認した。
【0101】
メラノーマ細胞A375、乳がん細胞MM231、膵臓がん細胞Panc-1、多発性骨髄腫細胞RPMI8226を使用した以外は、実施例A1(2)と同様に、siRNA(siPSAT1)をトランスフェクションし、ナノ粒子トラッキング追跡分析(NTA)法によりEV分泌量を測定した。これらの結果を図4に示す。図4は、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフである。
【0102】
図4に示すように、いずれのがん細胞も、siPSAT1をトランスフェクトした形質転換体(siPSAT1)は、ネガティブコントロールの形質転換体(NC)より、分泌EV量が有意に抑制された。これらの結果から、大腸がん細胞および肺がん細胞だけでなく、様々ながん細胞のEV分泌も、PSAT1の発現抑制によって抑制できることがわかった。このことから、PSAT1の発現を抑制することによって、様々ながん細胞からのEV分泌を抑制し、これらのがんの治療、他の器官へのがん転移の予防が可能であるといえる。
【0103】
[実施例A3]
前記実施例A1(2)と同様に、大腸がん細胞HCT116および肺がん細胞A549にsiRNA(siPSAT1)をトランスフェクションし、PSAT1サイレンシング後のEVバイオジェネシスを確認した。サイレンシング後の各形質転換体について、免疫蛍光によりCD63およびPSAT1を確認したところ、PSAT1サイレンシング後の細胞質において、EVのマーカであるCD63の蓄積が確認された。また、miR-891bをトランスフェクションした場合も、同様に、CD63の蓄積が確認できた。この結果から、PSAT1の発現を抑制することによって、EVの産生自体は維持されるが、産生されたEVは細胞質内に蓄積され、細胞から外部へのEV分泌が抑制されることを確認できた。
【0104】
さらに、PSAT1サイレンシング後の前記形質転換体について、EVのマーカであるCD63と、初期エンドソームマーカーであるEEA1または後期エンドソームマーカーであるRab7との共免疫染色を行った。その結果、PSAT1サイレンシング後の形質転換体とネガティブコントロールの形質転換体のいずれにおいても、EEA1とCD63との重複は確認されなかった。一方、ネガティブコントロールの形質転換体では、CD63とRab7との大部分がオーバーラップしたが、PSAT1サイレンシング後の形質転換体では、CD63とRab7とのオーバーラップは少なかった。そこで、CD63シングルポジティブの面積を強度に基づいて測定した。この結果を図5に示す。図5に示すように、HCT116およびA549のいずれについても、PSAT1サイレンシングを行うことによって、CD63シングルポジティブの面積が顕著に増加し、細胞内にEVが蓄積していることが確認された。これらの結果から、PSAT1が、後期エンドソーム合成の過程でEV分泌に機能している可能性が示唆された。
【0105】
[実施例B]
前記実施例Aにおいて、EV分泌にPSAT1が関与しており、PSAT1の発現抑制により、EV分泌を抑制できることが確認された。PSAT1は、セリン合成経路の酵素タンパク質であるため、EV分泌にセリン合成経路が関与しており、セリン合成経路の阻害、すなわちセリン合成の阻害によってEV分泌を抑制できることが推測された。そこで、実施例Bにおいて、PSAT1にかかわらず、セリン合成経路についていずれかの工程を阻害することで、EV分泌を抑制できることを確認した。
【0106】
[実施例B1]
通常のDMEM培地にはセリンが含まれているため、セリン欠乏培地を使用し、セリン添加によるEV分泌への影響を確認した。
【0107】
1×インスリン、トランスフェリン、セレン溶液(100×ITS -G)、1×MEMビタミン溶液、およびセリン(4mmol/L)を含む無血清のセリン含有MEM培地と、セリンを含まない以外は同じ組成である無血清のセリン欠乏MEM培地とを使用した。大腸がん細胞HCT116および肺がん細胞A549を、96ウェルプレートに5×10細胞/ウェルとなるように播種し、6ウェルプレートに1.5×10細胞/ウェルとなるように播種し(Day0)、培地(10% FBSと1×antibiotic-antimycoticとを含むDMEM)で、24時間インキュベートした。インキュベート後(Day1)に、各細胞をsiRNA(siPSAT1)または前記ALL STARネガティブコントロールsiRNA(NC)でトランスフェクションし、さらに24時間インキュベートした。インキュベート後(Day2)、ウェル中の培地を前記セリン欠乏MEM培地または前記セリン含有MEM培地に交換し、さらに48時間インキュベーションした後(Day4)後、前記96ウェルプレートをExoScreen法に使用し、前記6ウェルプレートから培養後の培地を回収した。前記回収した培地から分泌EVを回収し、NTAを行った。
【0108】
その結果、PSAT1サイレンシング後の形質転換体は、前記セリン欠乏MEM培地を使用した場合、前記セリン含有MEM培地を使用した場合と比較して、その生育は遅くなった。
【0109】
さらに、ExoScreen法およびNTAによる測定結果を、図6に示す。前記ExoScreen法による分泌EV量は、siRNA(siPSAT1)でトランスフェクションした形質転換体の結果を1として、相対値を求め、NTAによる分泌EV量は、siRNA(siPSAT1)でトランスフェクションした形質転換体の分泌EV量を1として、相対値を求めた。図6において、(A)は、ExoScreen法による分泌EV量の相対値を示すグラフであり、(B)は、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフである。
【0110】
図6に示すように、PSAT1サイレンシングされていないネガティブコントロール(NC)は、前記セリン欠乏MEM培地と前記セリン含有MEM培地とにおいて、ほぼ同様の結果であった。一方、siRNA(siPSAT1)でトランスフェクションした形質転換体は、前記セリン欠乏MEM培地で培養した結果、ネガティブコントロールの形質転換体(NC)よりもEV分泌量が減少した。そして、siRNA(siPSAT1)でトランスフェクションした形質転換体は、EV分泌量が、前記セリン含有MEM培地の使用(つまり、セリンの添加)によって、前記セリン欠乏MEM培地を用いた結果よりも有意に増加し、ネガティブコントロール(NC)と同程度の結果になった。これらの結果から、セリン合成がEV分泌に関与しており、セリン合成の阻害によりEV分泌を抑制できることがわかった。
【0111】
[実施例B2]
セリン合成経路における阻害剤を使用して、EV分泌への影響を確認した。
【0112】
前記阻害剤として、セリン合成経路における酵素タンパク質(PHGDH)の阻害剤NCT-503を使用した。
【化2】
【0113】
具体的には、以下のようにして試験を行った。大腸がん細胞HCT116および肺がん細胞A549を、それぞれ、6ウェルプレートに1.5×10細胞/ウェルとなるように播種し(Day0)、培地(DMEM with 10% FBS, 1x anti-anti培地)で、24時間インキュベートした。インキュベート後(Day1)、前記培地を除去してから、前記ウェルにセリン欠乏培地と阻害剤溶液とを添加した。前記阻害剤溶液は、NCT-503をDMSOに溶解して調製し、前記ウェルあたりの阻害剤の濃度は、2.5μmol/Lとした。そして、さらに48時間のインキュベート後(Day3)、前記ウェル中の培地を回収し、前記ウェル中の細胞のカウントを行った。なお、ネガティブコントロール(NC)は、前記阻害溶液に代えてDMSOを添加した以外は、同様に行った。
【0114】
細胞内の蓄積EVについては、以下のようにして分析を行った。すなわち、回収した細胞を免疫染色し、CD63シングルポジティブの面積を、蛍光強度に基づいて測定し、核の数で割った値を、細胞内に蓄積されたEV量として求めた。これらの結果を図7に示す。一方、分泌EVについては、前記回収した培地からEVを回収し、NTAを行った。NTAによる分泌EV量は、ネガティブコントロールの分泌EV量を1として、相対値として求めた。この結果を図8に示す。
【0115】
まず、免疫蛍光観察の結果、がん細胞を阻害剤と共存させることによって、前記実施例A3におけるPSAT1サイレンシングの形質転換体の結果と同様に、CD63陽性EVの細胞内蓄積が確認された。この結果は、図7においても同様であった。すなわち、図7においても、阻害剤を共存させた細胞は、NCと比較して、EV量が増加したことから、EVが細胞内に蓄積され、分泌が阻害されていることが確認できた。また、これに対応して、図8に示すように、阻害剤を共存させた細胞の培地は、NCと比較して、EV量が減少したことから、細胞からのEV分泌が阻害されていることが確認できた。これらの結果からも、セリン合成の阻害によって、EV分泌が抑制できることがわかった。
【0116】
[実施例C]
様々ながん細胞を用いて、セリン合成によるEV分泌の制御を確認した。なお、本実施例において、セリン合成経路の阻害としてPSAT1サイレンシングを利用したが、前述のように、PSAT1のサイレンシングには限定されず、セリン合成の阻害であれば、同様にEV分泌を抑制できることは確認済みである。
【0117】
細胞として、大腸がん細胞株(HCT15、COLO201、COLO205、HT-29)と正常大腸線維芽細胞(CCD-18co)、肺がん細胞株(A427、H1650、H2228)と正常肺上皮細胞を使用した。これらの細胞からトータルRNAを調製し、PSAT1の発現レベルを確認したところ、大腸細胞および肺細胞ともに、正常細胞と比較して、がん細胞におけるPSAT1の発現レベルは有意に高かった。また、大腸がんおよび肺がんの他に、卵巣がん、乳がん、メラノーマ、頭頚部がん、多発性骨髄腫、膵臓がんの細胞についても、同様に、正常細胞よりもがん細胞におけるPSAT1の発現レベルが有意に高いことを確認した。また、肺がん患者におけるPSAT1の発現レベルは、生存率と高い相関関係を示し、具体的には、発現レベルが高い程、生存率は低かった。
【0118】
そこで、本実施形態においては、前記実施例A2と同様にして、前記各種がん細胞に、siRNA(siPSAT1)をトランスフェクションし、PSAT1サイレンシングした形質転換体について、NTAによりEV分泌量の測定を行った。これらの結果を図9に示す。図9は、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフである。
【0119】
図9に示すように、いずれのがん細胞も、siPSAT1をトランスフェクトした形質転換体(siPSAT1)は、ネガティブコントロールの形質転換体(NC)より、分泌EV量が有意に抑制された。これらの結果から、様々ながん細胞のEV分泌も、PSAT1の発現抑制によって抑制できることがわかった。このことから、PSAT1の発現を抑制することによって、セリン合成が阻害され、様々ながん細胞からのEV分泌を抑制できることが確認できた。このため、PSAT1の発現抑制等によりセリン合成を阻害することで、これらの様々ながんの治療、他の器官へのがん転移の予防が可能であるといえる。
【0120】
[実施例D]
セリン合成経路における酵素タンパク質(PHGDH)の阻害剤NCT-503を使用して、in vivoにおける腫瘍体積の減少、EV分泌の抑制等を確認した。
【0121】
乳がん転移株としてMDA-MB-231_Luc_D3H2LN細胞株(以下、D3H2LNという)を使用した。この細胞株は、親株乳がん細胞MDA-MB-231の改変株であり、前記親株に対して有意にエクソソーム分泌量が多く、PSAT1の発現量が多いことを確認済みである。すなわち、前記親株と前記D3H2LNについて、前記実施例A1と同様にして、NTA分析によりEV分泌量を測定し、また、ウエスタンブロッティングによりPSAT1の発現を測定した。この結果を図10に示す。図10において、(A)は、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフであり、(B)は、PSAT1タンパク質の発現を示すウェスタンブロットの写真である。図10に示すように、D3H2LNは、前記親株に対して、エクソソーム分泌量が有意に多く、PSAT1の発現量が有意に多いことを確認済みである。
【0122】
マウスとして、免疫不全マウスC.B-17 scid mouse(雌、6週齢)を使用した。前記D3H2LNをPBSで懸濁し、1×10細胞/100μLの細胞懸濁液を調製した。そして、0日(Day0)に、マウスの乳腺皮下に前記細胞懸濁液100μLを注射して移植した。そして、7日目(Day7)に、前記D3H2LNの生着し、毎日、阻害剤投与群(n=6)を、体重1kgあたり40mgの条件で、NCT-503液(溶媒 PBS)を腹腔内注射により投与した。非投与群(n=6、Vehicle)は、前記NCT-503に代えて、毎日、同量のPBSを投与した。前記投与群および前記非投与群ともに、1週間ごとにIVIS―Spectrum(住商ファーマインターナショナル株式会社)を用いて原発巣(乳腺)の腫瘍の体積を測定した。具体的には、前記腫瘍の長径と短径を用いた計算式(短径×短径×長径×0.5)により算出した。また、毒性の判定として、毎日、マウスの体重を測定した。35日目(Day35)に、マウスを屠殺し、原発巣である乳腺と、転移巣である肺を切除し、原発巣の重さを測定した。
【0123】
これらの結果を、図11に示す。図11において、(A)は、Day21およびDay35におけるマウスの原発巣(乳腺)の腫瘍体積のグラフ(算出値)であり、(B)は、Day35のマウスの原発巣(乳腺)の腫瘍重量のグラフ(実測値)である。
【0124】
図11(A)に示すように、前記阻害剤を投与した投与群は、前記非投与群と比較して、経時的に有意に原発巣の腫瘍の体積が減少した。また、図11(B)に示すように、前記阻害剤を投与した投与群は、前記非投与群と比較して、原発巣の腫瘍の重量も有意に減少した。また、転移巣である肺をHE染色で確認したところ、前記投与群の肺は、前記非投与群の肺と比較して転移巣が少ない傾向にあった。
【0125】
[実施例E]
セリン合成経路の酵素タンパク質であるPHGDHについて、上述の実施例でEV分泌抑制が確認されているPSAT1をポジティブコントロールとして、それぞれの遺伝子(PHGDH遺伝子およびPSAT1遺伝子)の発現抑制による、がん細胞からのEV分泌の抑制を確認した。特に示さない限りは、前記実施例B1の方法と同様に行った。
【0126】
PHGDH遺伝子は、siRNAとしてsiPHGDH(製品番号M-9518-01-0010、Dharmacon社)を使用した。PSAT1遺伝子は、前記実施例Aと同様に、前記siPSAT1を使用した。
【0127】
肺がん細胞A549および大腸がん細胞HCT116およびを、それぞれ、96ウェルプレートに5×10細胞/ウェルとなるように播種し、また、6ウェルプレートに1.5×10細胞/ウェルとなるように播種し(Day0)、24時間インキュベートした。培地は、DMEM培地(Gibco)に10%熱不活化FBSおよび抗生剤-抗真菌薬を添加したDMEM完全培地を使用した。そして、Day1に、各細胞をsiRNA(siPSAT1またはsiPHGDH)または前記ALL STARネガティブコントロールsiRNAでトランスフェクションし、さらに24時間インキュベートした。インキュベート後(Day2)、ウェル中の培地をadvanced DMEM培地に交換し、さらに48時間インキュベーションした後(Day4)、前記96ウェルプレートをExoScreen法に使用し、前記6ウェルプレートから培養後の培地を回収した。前記回収した培地から分泌EVを回収し、NTAを行った。また、前記6ウェルプレートで培養したDay4の細胞数をカウントし、前記ネガティブコントロールの細胞数を相対値1として生存率を算出した。
【0128】
図12に肺がん細胞A549の結果、図13に大腸がん細胞HCT116の結果を示す。図12および図13において、(A)は、細胞生存率の結果であり、(B)は、NTA法による分泌EV量の相対値を示すグラフである。
【0129】
いずれのがん細胞も、図12(A)および図13(A)に示すように、サイレンシングされていないコントロールと比較して、サイレンシングした形質転換体は、生存率がほとんど変化しなかった。また、図12(B)(C)に示すように、コントロールと比較して、サイレンシングした形質転換体は、EV分泌が減少した。
【0130】
[実施例F]
前記実施例B2において、セリン合成経路のPHGDHを阻害する阻害剤NCT-503を用いて、がん細胞におけるEV分泌を抑制できることが確認された。ここで、NCT-503の添加によって、細胞が細胞死したことによりEV分泌が抑制されたのではなく、がん細胞等の非正常細胞に特有のEV分泌がセリン合成経路の阻害によって抑制されたことの補足データを示す。
【0131】
本例においては、がん細胞に特有のEV分泌が抑制されたことの間接的なデータとして、正常細胞におけるNCT-503の影響を確認した。前記実施例B2では、ウェルの培地に対して2.5μmol/LとなるようにNCT-503を添加した。そこで、肺(HBEC)および大腸(HCoEpiC)のそれぞれの正常上皮細胞について、NCT-503未添加(DMSO添加)の培地、または、所定の濃度(0.15625~2.5μmol/L)となるようにNCT-503を添加したNCT-503添加培地を用いて培養を行い、細胞生存率と、ExoScreenによるEV分泌量とを確認した。
【0132】
具体的には、正常以下のようにして試験を行った。前記正常上皮細胞を、96ウェルプレートに5000細胞/ウェルとなるように播種し(Day0)、培地で、24時間インキュベートした(Day1)。前記大腸細胞に対する培地は、CoEpiCM 1x anti-anti培地を使用し、前記肺細胞に対する培地は、BEBM 1x anti-anti培地を使用した。前記インキュベート後、細胞の接着を確認し、さらに、NCT-503が2.5μmol/Lとなるように、前記実施例B2と同様にして前記阻害剤溶液(NCT-503/DMSO)を添加し、さらにさらに48時間のインキュベートを行った(Day3)。そして、前記ウェル中の培地を回収し、前記ウェル中の細胞のカウントを行った。また、コントロールとして、前記阻害剤溶液に代えてDMSOを添加した以外は、同様として、前記ウェル中の細胞のカウントを行った。そして、コントロールの前記NCT未添加(0M)培地(すなわちDMSO添加培地)における細胞数を相対値1として、細胞生存率を算出した。また、ExoScreenによりEV分泌量を測定した。
【0133】
これらの結果を図14に示す。図14は、細胞1個あたりのEV分泌量を示すグラフであり、(A)は、大腸の正常上皮細胞の結果であり、(B)は、肺の正常上皮細胞の結果である。その結果、前記NCT-503添加培地のEV分泌量は、NCT未添加(0M)であるDMSO添加培地のEV分泌量に対して、大腸および肺の正常上皮細胞はいずれも、ほとんど差は見られなかった。具体例として、例えば、2.5μmol/LのNCT-503を添加した場合、前記NCT-503添加培地のEV分泌量は、NCT未添加(0M)のDMSO添加培地のEV分泌量に対して、大腸の正常上皮細胞では、相対値0.98、肺の正常上皮細胞では、相対値1.17であり、ほとんど差は見られなかった。つまり、NCT-503の添加は、正常上皮細胞におけるEV分泌には影響を与えなった。これらの結果に対して、前記実施例B2では、がん細胞に対して、2.5μmol/L NCT-503を添加することによって、NCT-503の溶媒であるDMSOのみを添加したコントロールと比較して、EV分泌は有意に抑制できた。これらの結果から、がん細胞におけるNCT-503の添加によるEV抑制は、細胞死によるものではなく、細胞のがん化によりセリン合成系の発現がアップレギュレートされ、それに対して前記合成系のPHGDHが阻害剤NCT-503により阻害され、結果的に、EV分泌が抑制されたということが確認された。
【0134】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0135】
この出願は、2020年4月7日に出願された日本出願特願2020-069392および2021年2月16日に出願された日本出願特願2021-022825を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明によれば、セリン合成経路の阻害によって、細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制できる。このため、本発明により分泌抑制を行うことで、細胞外小胞の分泌または分泌の抑制が生体に与える影響を解析することが可能になる。したがって、本発明は、例えば、医療分野において非常に有用な技術といえる。
図1
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図11
図12
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【配列表】
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