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特許7442263白血球の接着を阻害する医薬の調製におけるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】白血球の接着を阻害する医薬の調製におけるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7076 20060101AFI20240226BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240226BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240226BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240226BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
A61K31/7076
A61K9/08
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/48
A61P9/10
A61P29/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018560192
(86)(22)【出願日】2017-05-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-11
(86)【国際出願番号】 CN2017085519
(87)【国際公開番号】W WO2017202297
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-04-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】201610346541.9
(32)【優先日】2016-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522337772
【氏名又は名称】北京谷神生命健康科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Beijing Gushen Life Health Technology Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】R1202, 11th Floor, Building No.1, No.105 Yaojiayuan Road, Chaoyang District, Beijing 100026, China
(73)【特許権者】
【識別番号】591120284
【氏名又は名称】中国医学科学院葯物研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF MATERIA MEDICA, CHINESE ACADEMY OF MEDICAL SCIENCES
【住所又は居所原語表記】NO.1, Xian Nong Tan Street, Xuanwu District, Beijing,China
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(72)【発明者】
【氏名】朱 海波
(72)【発明者】
【氏名】王 敏杰
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】渕野 留香
【審判官】吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102125580(CN,A)
【文献】特表2012-519714(JP,A)
【文献】特表2019-510762(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104546887(CN,A)
【文献】Experimental Biology and Medicine,2012,Vol.237,p.1262-1272
【文献】Vascular Pharmacology,2016,Vol.85,p.1-10
【文献】Clinical Study,2012,Vol.33,No.9,p.733(5)-735(7)
【文献】化学と生物,1995,Vol.33,No.2,p.83-90
【文献】Journal of Lipid Research,2015,Vol.56,p.986-997
【文献】PLoS ONE,2015,Vol.10,No.6:e0127583.[online](URL:doi:10.1371/journal.pone.0127583)(インターネット上での公開は2015年6月1日)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-47/69,A61P1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性血管炎症の予防および/または治療用医薬の調製における式(I)で表されるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンの使用
(I)
【請求項2】
前記医薬は、錠剤、カプセル剤、丸剤、注射剤であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記医薬は、徐放性製剤または放出制御製剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管炎症の予防および/または治療、または/および内皮機能不全の改善用医薬の調製におけるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンおよびそれを含む医薬組成物の応用に関し、医薬・衛生分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
アテローム性動脈硬化症、高血圧、糖尿病等の心血管疾患の発生、進展および最終的な標的器官の損傷は、血管内炎症および内皮機能不全(Endothelial dysfunction,ED)に密接に関係する。内皮細胞は、血管拡張の促進、平滑筋過形成の抑制および血管内炎症反応の抑制等の一連の血管保護作用により血管内恒常性維持を制御する。しかし、これらの効果は主に、内因性血管拡張物質である一酸化窒素(Nitric Oxide,NO)の影響を受ける。NO産生障害は、内皮機能不全をもたらし、内皮依存性拡張機能の損傷として表れる。血管内皮機能不全を改善して、アテローム性動脈硬化症、高血圧、糖尿病の発生や進展を防止することは極めて重要である。臨床実験において、スタチン系医薬が内皮機能障害を改善することによって、血中脂質に対する影響とは無関係に患者の冠動脈性心疾患のリスクを低減し、チアゾリジンジオン系およびアンジオテンシン変換酵素阻害剤がいずれも独立した内皮機能不全改善作用によって心血管疾患のリスクを低減することが明らかになっており、したがって、血管炎症を軽減しかつ内皮機能不全を改善することは、心血管疾患のリスクを低減することにとって極めて重要である。
【0003】
現在、臨床的に、血管内皮機能を改善できる医薬としては主に、スタチン系、メトホルミン、チアゾリジンジオン、高血圧治療薬のアンジオテンシン変換酵素阻害剤等の従来の心血管疾患治療用医薬があり、それらは主に、一酸化窒素合成酵素の活力を向上させることによって、NO産生を増加させる作用を発揮する。しかし、スタチン系医薬の長期にわたる服用により引き起こされる筋肉痛等の有害反応は、患者が長期にわたって耐えるのは非常に困難であり、ビグアナイド系医薬は、胃腸障害を引き起こしたり、まれに乳酸性アシドーシスを引き起こしたりすることがあり、チアゾリジン誘導体は、体液貯留や体重増加、肝機能障害等の深刻な副作用を引き起こすことがあるため、使用時に注意を要する。
【0004】
トリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシン(特許番号ZL200980101131.6)は、Institute of Materia Medica, CAMS & PUMCがコルジセピン誘導体で選別した顕著な血中脂質調節活性を有する新規な構造タイプの化合物であり、また、毒性副作用が少なく、薬物動態学的に優れている等の特徴を有し、現在、臨床前の研究段階にある。現在、血管炎症を軽減し、かつ内皮型一酸化窒素合成酵素の活性を向上させて血管内皮機能不全を改善する、関連の疾患における該化合物の応用については報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする技術課題は、白血球の接着を阻害する医薬の調製における式(I)で表されるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンの応用を提供することである。
【0006】
本発明の技術課題を解決するため、以下の技術態様を提供する。
【0007】
本発明に係る技術形態の第一の態様は、白血球の運動を促進させ、かつ、白血球の接着を阻害する医薬の調製における式(I)で表されるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンの使用であって、有効量の前記トリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンを含有する前記医薬を患者に投与することで、急性血管炎症を治療及び/又は緩和する、使用を提供することである。
(I)
【0009】
本発明に係る技術形態の第二の態様は、血管内皮機能不全の予防および/または治療用医薬の調製における式(I)で表されるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンの応用を提供することである。
【0010】
ここで、前記血管内皮機能不全は、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧、冠動脈性心疾患、肥満、インスリン抵抗性または2型糖尿病を伴う血管内皮機能不全を含む。
【0011】
本発明に係るトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンは、血管内の白血球-内皮細胞の炎症反応を抑制することによって、血管内皮型一酸化窒素合成酵素の活性を向上させ、NO産生を増加させて、内皮機能障害およびその関連疾患を改善する。
【0012】
本発明に係る技術態様の第三の態様は、白血球の接着を阻害する医薬の調製における医薬組成物の使用において、前記医薬組成物は、式(I)に記載されるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンおよび薬学的に許容可能な担体を含むことを特徴とする使用を提供する。
(I)
【0015】
該医薬組成物は当該分野の公知の方法に基づいて調製することができる。本発明に係る化合物を一種以上の薬学的に許容可能な固体または液体の賦形剤および/またはアジュバントと組み合わせることで、ヒトや動物への使用に適したいずれかの剤形を調製することができる。本発明に係る化合物のその医薬組成物における含有量は一般的に0.1~95重量%である。
【0016】
本発明に係る前記医薬組成物の剤形は、錠剤、カプセル剤、丸剤、注射剤、徐放性製剤、放出制御製剤または各種の微粒子投薬システムである。
【発明の効果】
【0017】
トリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンは、血管炎症を軽減し、かつ内皮型一酸化窒素合成酵素の活性を向上させ、血管内皮機能不全またはこれに関連する疾患を改善することができ、該作用はその脂質低下作用とは独立する、すなわち、該化合物の脂質低下作用とは関連性がない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】IMM-H007による、TNF-αにより誘発される急性マウス血管内炎症反応の制御に関する図である。
図2】IMM-H007による、高脂肪飼料で飼養したApoE-/-マウスの血管炎症反応の軽減に関する図である。
図3】ApoE-/-マウスの血中脂質レベルに対するIMM-H007の影響に関する図である。
図4】ApoE-/-マウスの血清炎症因子TNF-α、VCAM-1に対するIMM-H007の影響に関する図である。
図5】ApoE-/-マウスの腸間膜微細血管の内皮機能に対するIMM-H007の影響に関する図である。
図6】ApoE-/-マウスの大動脈血管内皮機能に対するIMM-H007の影響に関する図である。
図7】IMM-H007による、AMPK-eNOS経路を通じた内皮機能の改善に関する図である。
図8】IMM-H007による、ApoE-/-マウスの動脈プラークの減少に関する図である。
図9】IMM-H007による、Ob/Ob肥満マウスの微細血管の内皮機能の改善に関する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の実施例を用いて本発明をさらに説明するが、本発明を何ら制限するものではない。
【0020】
実施例1:トリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシン(IMM-H007)による、マウスの内皮機能不全による初期血管内炎症反応の抑制
【0021】
1.IMM-H007による、TNF-αにより誘発された急性マウス血管炎症(急性炎症モデル)の抑制
【0022】
実験材料および機器
IMM-H007(Institute of Materia Medica, CAMS & PUMC)、メトホルミンハイドロクロライドタブレット(Bristol-Myers Squibb)、A769662(Shanghai Biochempartner Co., Ltd.)、Murine TNF-α(Peprotech,INC)、Rhodamine-6G(sigma)、Pentobarbital Sodium(Serva)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Sinopharm Chemical Reagent Co., Ltd)、並びに動態可視化微細血管研究システム(Gene&I-SMC1)
【0023】
動物および実験設計
SPF級の野生型(Wild Type,WT)C57BL/6Jマウス(雄性,6~8週齢,18~20g)を、BEIJING HFK BIOSCIENCE CO.,LTDより購入した。
【0024】
C57BL/6Jマウス60匹を体重に基づきランダムに6個の群に分け、それぞれ正常対照群、モデル対照群、IMM-H007群、陽性対照AMPKアゴニスト群(メトホルミン群)、A769662群およびアトルバスタチン群とし、それぞれ生理食塩水、IMM-H007(100mg/kg)、メトホルミン(Metformin,260mg/kg)、アトルバスタチン(lipitor,10mg/kg)を胃内投与し、A769662(30mg/kg)を腹腔注射して(経口は吸収し難いため)、連続して7日間投与し、8日目に、ブランク対照群に生理食塩水を腹腔注射したことを除き、他の各群はいずれもTNF-α(0.3μg/匹)を腹腔注射して血管内急性炎症の発生を誘発させ、TNF-αを注射した4時間後に、視神経血管叢に100μlの0.05%Rhodamine-6Gを静脈注射して白血球を蛍光マーキングした。ペントバルビタールナトリウムでマウスを麻酔し、マウスを右側臥位にして観察台上に固定し、腹腔に沿って小さく切開し、腸間膜血管床を軽く引き出し、マウスの小腸を観察窓に固定し、顕微鏡を用いて、低倍率顕微鏡により腸間膜静脈の鮮明な三箇所を探し出してから、20倍の高倍率顕微鏡に調整して観察し、輝度および焦点距離を最適に調整した後、白光を消し、蛍光をつけて、動態可視化微細血管研究システム(Gene&I-SMC1)ToupViewソフトウェアを用いて各血管部(vascular segmentの1min間の白血球運動映像を収集した。白血球運動速度と白血球-内皮細胞接着数が血管内の炎症を反映した状況は、内皮機能不全の初期指標である。
【0025】
検出指標
(1)白血球運動速度(白血球運動速度が減速して、血管内に炎症反応が発生したことを反映し、相応する医薬を投与した後に、投与後の白血球運動速度の変化を観察して炎症反応に対する医薬の制御作用を反映する。):マウスごとに腸間膜小静脈の三箇所を選択して観察し、image pro 6.0を用いて白血球運動速度を分析し、観察視野の箇所ごとに少なくとも3個の観察点を選択し、マウスごとに最終的に少なくとも9個の観察点を統計して、平均値を求め、白血球平均運動速度を算出する。
【0026】
(2)白血球-内皮細胞接着数(白血球接着数の増加は、血管内炎症反応が悪化したことを反映したものであり、内皮機能障害を引き起こす可能性がある):血管の箇所ごとに200μmを選択して白血球接着数を観察する(30秒以内に内皮細胞に接着して動きを止めることが、すなわち接着である)。
【0027】
データ統計
実験結果を平均値Χ±SDで表す。Graphpad Prismソフトウェアを用いてt-student検査を行い、群間の差はone way-ANOVAパラメータ分散分析を行うか、またはノンパラメータLSD-t法で検査を行う。P<0.05は統計学的差を有することを表し、P<0.01は有意差を有する。
【0028】
実験結果
TNF-αのような炎症因子により引き起こされる血管内白血球運動速度の減速と、白血球-内皮細胞接着数の増加は、内皮機能不全を引き起こす重要な原因であり、内皮機能不全は血管損傷を悪化させ得る。実験の結果、正常対照群に比べて、TNF-αを腹腔注射(0.3μg/匹)した4時間後に、血管内に急性炎症が発生し、モデル対照群の白血球運動速度が減速し、白血球接着数が増加したことが明らかになった。IMM-H007(100mg/kg)を投与した後、モデル対照群に比べて、白血球運動速度が顕著に速くなり、内皮細胞接着数が顕著に低下し、これはIMM-H007が炎症因子TNF-αにより誘発された血管内炎症反応を軽減できることを説明する(結果は、表1、図1を参照)。
【0029】
【表1】
【0030】
2.IMM-H007による、高脂肪飼料で飼養したApoE-/-マウスの血管内炎症反応の抑制(慢性炎症モデル)
【0031】
実験材料および機器
IMM-H007(Institute of Materia Medica, CAMS & PUMC)、メトホルミンハイドロクロライドタブレット(Bristol-Myers Squibb)、A769662(Shanghai Biochempartner Co., Ltd.)、Rhodamine-6G(sigma)、Pentobarbital Sodium(Serva)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Sinopharm Chemical Reagent Co., Ltd)、Mouse TNF-α ELISA Kit(Andy gene)、Mouse VCAM-1 ELISA Kit(Andy gene)、並びに、動態可視化微細血管研究システム(Gene&I-SMC1)、BioTeK Epochプレートリーダー。
【0032】
動物および実験設計
C57BL/6背景のApoE-/-マウス(雄性,6~8週齢,18~20g)およびC57BL/6マウスを、INSTITUTE OF RABORATORY ANIMAL SCIENCES,CAMS & PUMC(BEIJING HFK BIOSCIENCE CO.,LTD)より購入した。
【0033】
動物が適応するように1週間飼養した後、体重に基づきランダムに4個の群に分け、モデル対照群、A769662(30mg/kg,ip)、メトホルミン(260mg/kg)投与群、IMM-H007(100mg/kg)投与群とし、群ごとに7匹であり、高脂肪飼料(基礎飼料78.6%、ラード10%、コレステロール1.00%、卵黄粉10%、胆汁酸塩0.4%)を与えるとともに、0.1ml/10g体重に基づき胃内投与し、連続して投与して8週間飼養した。ペントバルビタールナトリウム(60mg/kg body weight)で麻酔し、マウスを右側臥位にして観察台上に固定し、腹腔に沿って小さく切開し、腸間膜血管床を軽く引き出し、マウスの小腸を観察窓に固定し、顕微鏡を用いて、低倍率顕微鏡により腸間膜静脈の鮮明な三箇所を探し出してから、20倍の高倍率顕微鏡に調整して観察し、輝度および焦点距離を最適に調整した後、白光を消し、蛍光をつけて、血管内白血球運動を視認できるように、動態可視化微細血管研究システム(Gene&I-SMC1)ToupViewソフトウェアを用いて各血管部の1min間の白血球運動映像を収集した。image pro 6.0を用いて白血球運動速度および白血球内皮細胞接着数を分析した。
【0034】
検出指標
(1)白血球運動速度(2)白血球-内皮細胞接着数
【0035】
データ統計
実験結果を平均値Χ±SDで表す。Graphpad Prismソフトウェアを用いてt-student検査を行い、群間の差はone way-ANOVAパラメータ分散分析を行うか、またはノンパラメータLSD-t法で検査を行う。P<0.05は統計学的差を有することを表し、P<0.01は有意差を有する。
【0036】
実験結果
高脂肪飼料は、血中低密度リポ蛋白質コレステロールを増加させ、内皮細胞を刺激して炎症反応を引き起こして、白血球運動速度の減速、白血球-内皮細胞接着数の増加をもたらして、内皮機能不全を引き起こし、さらにはアテローム性動脈硬化症の発生をもたらす可能性がある。IMM-H007(100mg/kg)を投与した後、モデル対照群に比べて、白血球運動速度が顕著に速くなり、内皮細胞接着数が顕著に低下し、これはIMM-H007が高脂肪飼料で飼養したApoE-/-マウスの白血球-内皮細胞炎症反応を顕著に制御し、高脂質により引き起こされる血管炎症が軽減されることを説明する(結果は、表2、図2を参照)。
【0037】
【表2】
【0038】
実施例2:トリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシン(IMM-H007)による血管内皮機能の改善
【0039】
実験材料および機器
IMM-H007(Institute of Materia Medica, CAMS & PUMC)、A769662(Shanghai Biochempartner Co., Ltd.)、メトホルミンハイドロクロライドタブレット(Bristol-Myers Squibb)、Pentobarbital Sodium(Serva)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Sinopharm Chemical Reagent Co., Ltd)、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、グルコース、EDTA、アセチルコリン(sigma)、ニトロプルシド(VETEC)、R-(-)フェニレフリン(BEIJING J&K SCIENTIFIC LTD)、Mouse TNF-α ELISA Kit(Andy gene)、Mouse VCAM-1 ELISA Kit(Andy gene)、トリグリセリド測定キット、総コレステロール測定キット、高密度リポ蛋白質コレステロール測定キット、低密度リポ蛋白質コレステロール測定キット(BIOSINO BIO-TECHNOLOGY&SCIENCE INC)、遊離脂肪酸検出キット(SEKISUI MEDICAL CO., LTD.)、並びに分析天秤、Olympus SZ51実体顕微鏡、シェーカー、スプレッダ、離体微細血管圧力-直径測定灌流システム(Pressure Myography system-120CP)、高精度ミクロ外科用鉗子、高精度ミクロ外科用鋏、O(95%)とCO(5%)との混合気体、外科処置シリコンディスク。
【0040】
動物および実験設計
C57BL/6背景のApoE-/-マウス(雄性,6~8週齢,18~20g)およびC57BL/6マウスを、BEIJING HFK BIOSCIENCE CO.,LTDより購入した。
【0041】
動物が適応するように1週間飼養した後、体重に基づきランダムに7個の群に分け、正常対照群、モデル対照群、A769662(30mg/kg)投与群、メトホルミン(260mg/kg)投与群、IMM-H007低、中、高投与群(50、100、200mg/kg)とし、群ごとに8匹であり、高脂肪飼料(基礎飼料78.6%、ラード10%、コレステロール1.00%、卵黄粉10%、胆汁酸塩0.4%)を与えるとともに、0.1ml/10g体重に基づき胃内投与し、連続して投与して8週間餌付け、アテローム性動脈硬化症モデルを確立した。
【0042】
検出指標
(1)ApoE-/-マウスの血中脂質レベルに対するIMM-H007の影響:総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、低密度リポ蛋白質コレステロール(LDL)、高密度リポ蛋白質コレステロール(HDL)、遊離脂肪酸(FFA)
キット説明書に基づき処置する。
【0043】
(2)ApoE-/-マウスの血清炎症因子TNF-α、VCAM-1に対するIMM-H007の影響
キット説明書に基づき処置する。
【0044】
(3)ApoE-/-マウスの腸間膜微細血管の内皮機能に対するIMM-H007の影響
説明書に基づきPSSおよびKPSS溶液を配置し、当日に配置したものを当日に使用する。実験を開始する前に、PSS溶液を先に取り出し、20min程度酸素をプリチャージする。高脂肪飼料で飼養するとともに、10週間投与したApoE-/-マウスを、ペントバルビタールナトリウムで麻酔し、マウスを仰臥させて固定し、正中線に沿って腹腔を開き、腸間膜血管床を分離して、20分間予め酸素が通されたPSS緩衝液中に入れ、実体顕微鏡下で、一箇所が約3mmの長さの腸間膜小動脈の三箇所を注意深く分離する。先ず、血管をP1端のガラスカニューレに固定して、コイルを締め付ける。注意深く近位部をP1端に接続し、P2端の血管を固定して、コイルを締め付ける。Chamberを顕微鏡ステージ上に置いて、ChamberとInterfaceとの間のデータ接続線を査収する。バスをカバーで覆い、予め酸素が通されるようにする。管路内の空気を除去する。顕微鏡下で血管画像を探し出してから、顕微鏡をカメラモードに調整する。(接眼レンズの横のつまみをgraphまで回転させればよい)。MyoVIEWソフトウェアを用いる。CameraのウインドウのCaptureをクリックして血管画像の表示を開始する。血管を10mmHgから60mmHgまでゆっくりと上昇させて平衡させ、ステップごとに300sとする。平衡させるべきプロセスがすべて終了した後に、バス内の溶液を排出して、37℃に予熱したKPSS溶液を用いて血管を2min刺激し(10ml)、血管収縮変化を観察してから、PSS溶液を用いて血管を基準線まで溶出する。60mmHg、37℃で45分間平衡させ、この間に20分ごとに溶液を一回交換する。次の通り実験を開始する。2μMのフェニレフリンを与えて予め収縮させた後、10-10~10-5MのAchにより引き起こされる血管拡張反応を観察し、血管内皮機能に対する医薬の影響を評価する。実験終了後に、37℃に予熱した新たなPSS緩衝液を30min平衡させ、2μMのフェニレフリンを与えて予め収縮させた後、10-10~10-3Mのニトロプルシドにより引き起こされる血管拡張反応を観察し、血管平滑筋機能に対する医薬の影響を評価する。LDは、異なる濃度でAchまたはニトロプルシドを与えた後の血管拡張後直径であり、LDは、フェニレフリンを与えて予め収縮させた後の血管直径であり、LDは、如何なる刺激剤も添加していない場合における血管の最大拡張直径を表す。
【0045】
フェニレフリンで予め収縮させた後にAchおよびニトロプルシドを与えた拡張反応は、血管外径増加百分率として次のように表される。
Relaxation=(LD-LD)/(LD-LD)×100。
【0046】
(4)ApoE-/-マウスの胸部大動脈内皮機能に対するIMM-H007の影響
マウスを麻酔し、迅速に胸部大動脈を取り、周囲組織を注意深く剥離し、血管輪を3mm程度の長さに切開し、血管輪を張力変換装置上に用心深く掛け、初期張力を0.5g与え、90分以上平衡させる。平衡過程において、20分ごとに溶液を一回交換し、通気を保持し、温度を37℃に維持する。1時間程度平衡させ、飽和KCl(60mM)を用いて2回刺激して血管が活性を有するか否かを検出する。血管収縮が安定した後に、直ちにKClを洗い流す。最後に溶液を一回交換した後、20分間平衡させ、フェニレフリン1μMを投与して血管収縮を刺激し、血管収縮が安定した後に、アセチルコリン(Ach,1×10-10~1×10-5)およびニトロプルシド(SNP,10-10~10-4M)を累積投与して血管拡張曲線を記録する。
【0047】
血管拡張率=[PEにより引き起こされる血管張力(g)-ACh添加後の血管張力(g)]÷[PE収縮により引き起こされる張力(g)-血管基礎張力(g)]×100%。
【0048】
(5)内皮機能改善に対するIMM-H007の機序の検討
Western BlottingでAMPK、pAMPK、peNOS、eNOS、Caveolin-1蛋白質の発現量の分析および検出を行って、血清における総一酸化窒素合成酵素の活力を測定する。
【0049】
(6)ApoE-/-マウスのプラーク面積に対するIMM-H007の影響
大動脈根部および大動脈全長をオイルレッドOで染色し、Photoshop、Image J、Image-Pro Plusソフトウェアを用いて病理学的画像を分析し、カイ二乗検定を用いて病理学的ランクデータを統計分析する。P<0.05、P<0.01の比較の結果、統計学的差を有する。
【0050】
データ統計
実験結果を平均値Χ±SDで表す。Graphpad Prismソフトウェアを用いてt-student検査を行い、群間の差はone way-ANOVAパラメータ分散分析を行うか、またはノンパラメータLSD-t法で検査を行う。P<0.05は統計学的差を有することを表し、P<0.01は有意差を有する。
【0051】
実験結果
(1)ApoE-/-マウスの血中脂質レベルに対するIMM-H007の影響
実験の結果、高脂肪飼料を与えて8週間飼養した後、モデル対照群は、正常対照群に比べて、総コレステロール、トリグリセリド、低密度リポ蛋白質コレステロールおよび遊離脂肪酸がいずれも上昇しており、高密度リポ蛋白質コレステロールは低下したことが明らかになった。IMM-H007を50mg/kg用量で投与した群は、総コレステロール、トリグリセリド、低密度リポ蛋白質コレステロール、遊離脂肪酸、高密度リポ蛋白質コレステロールのいずれに対しても影響がなく、IMM-H007を100mg/kg用量で投与した群は、コレステロール、トリグリセリド、低密度リポ蛋白質コレステロール、高密度リポ蛋白質コレステロールに対しては影響がなく、遊離脂肪酸に対しては一定程度の低下があり、IMM-H007を200mg/kg用量で投与した群は、モデル対照群に比べて、総コレステロール、低密度リポ蛋白質、遊離脂肪酸が低下した(結果は、表3、図3を参照)。
【0052】
【表3】
【0053】
(2)ApoE-/-マウスの血清炎症因子TNF-α、VCAM-1に対するIMM-H007の影響
実験の結果、モデル対照群に比べて、IMM-H007の50、100、200mg/kg用量はいずれもApoE-/-マウスの血清VCAM-1のレベルを減少させることができ、IMM-H007の50mg/kg用量はApoE-/-マウスの血清TNF-αの発現を減少させることが明らかになっており、これはIMM-H007の投与が血清に関連する炎症因子のレベルを軽減できることを説明する(結果は、表4、図4を参照)。
【0054】
【表4】
【0055】
(3)ApoE-/-マウスの腸間膜微細血管の内皮機能に対するIMM-H007の影響
実験の結果、2μMのフェニレフリンを予め投与して血管を予め収縮させた後に、異なる濃度勾配で投与された(10-10~10-5M)アセチルコリンにより引き起こされる血管拡張反応は、血管内皮機能に対する医薬の影響を評価できることが明らかになった。モデル対照群に比べて、IMM-H007を50mg/kg用量で投与した群は、血中脂質レベルに影響を与えない状況において、高脂質により引き起こされる微細血管の内皮機能不全を顕著に改善することができ、IMM-H007を100mg/kg用量で投与した群は、コレステロール、トリグリセリド、低密度リポ蛋白質コレステロール、高密度リポ蛋白質コレステロールに影響を与えない状況下において、アセチルコリンにより引き起こされる内皮依存性拡張反応を顕著に改善して、内皮機能不全を改善することができ、この結果、IMM-H007がその脂質低下作用とは独立して微細血管の内皮機能不全を改善できることを説明する(結果は、表5、6および図5を参照)。
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
(4)ApoE-/-マウスの胸部大動脈内皮機能に対するIMM-H007の影響
実験の結果、1μMノルエピネフリンを予め投与して血管を予め収縮させた後に、異なる濃度勾配で投与された(10-10~10-5M)アセチルコリンにより引き起こされる血管拡張反応は、血管内皮機能に対する医薬の影響を評価できることが明らかになっており、モデル対照群に比べて、IMM-H007を50mg/kg用量で投与した群は、血中脂質レベルに影響を与えない状況において、高脂質により引き起こされる大動脈血管のアセチルコリンの内皮依存性拡張反応を顕著に改善して、内皮機能不全を改善することができ、これはIMM-H007がその脂質低下作用とは独立して血管内皮機能不全を改善できることを説明する(結果は、表7、8および図6を参照)。
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
(5)IMM-H007による、AMPK-eNOS経路を通じた内皮機能の改善
Western Blottingを用いてAMPK、pAMPK、peNOS、eNOS、Caveolin-1蛋白質発現量の分析および検出を行って、血清における総一酸化窒素合成酵素の活力を測定し、血中脂質低下作用とは独立して内皮機能を改善するIMM-H007の推定機序を分析する。実験から、IMM-H007は主に、AMPK-eNOS経路を活性化することにより、一酸化窒素合成酵素の活力を向上させ、NO産生を増加させて血管機能を改善することが見出された。(結果は図7を参照)。
【0062】
(6)IMM-H007による、ApoE-/-マウスのプラーク面積の減少
AMPK-eNOS蛋白質レベルを上昇させることは、血管内皮機能不全の改善において、アテローム性動脈硬化症の発生や進行を緩和することに有利である。本研究では、アテローム性動脈硬化症モデルのApoE-/-マウスを用いて、高脂肪飼料を10週間餌付け、大動脈全長および動脈根部のプラーク堆積を観察し、さらに、アテローム性動脈硬化症に対するIMM-H007の作用を観察する。実験の結果、IMM-H007は、大動脈根部および大動脈全長のプラークの蓄積を顕著に減少することができ、大動脈根部切片の染色によって、プラーク部位の脂質堆積が減少することが見出され、IMM-H007による内皮機能不全の改善により、アテローム性動脈硬化症の進展を緩和し得ることが明らになった(結果は、表9および図8を参照)。
【0063】
【表9】
【0064】
実施例3:トリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシン(IMM-H007)による、Ob/Ob肥満マウスの血管内皮機能の改善
【0065】
実験材料および機器
IMM-H007(Institute of Materia Medica, CAMS & PUMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Sinopharm Chemical Reagent Co., Ltd)、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、グルコース、EDTA、アセチルコリン(sigma)、ニトロプルシド(VETEC)、R-(-)フェニレフリン(BEIJING J&K SCIENTIFIC LTD)、トリグリセリド測定キット、総コレステロール測定キット、高密度リポ蛋白質コレステロール測定キット、低密度リポ蛋白質コレステロール測定キット(BIOSINO BIO-TECHNOLOGY&SCIENCE INC)、遊離脂肪酸検出キット(SEKISUI MEDICAL CO., LTD.)、およびインスリン、グルコース、ロシュ血糖測定試験紙、分析天秤、Olympus SZ51実体顕微鏡、シェーカー、スプレッダ、離体微細血管圧力-直径測定灌流システム(Pressure Myography system-120CP)、高精度ミクロ外科用鉗子、高精度ミクロ外科用鋏、O(95%)とCO(5%)との混合気体、外科処置シリコンディスク。
【0066】
動物および実験設計
Ob/Ob肥満マウス(雄性,4週齢)を、Model Animal Research Center Of Nanjing Universityより購入。
【0067】
動物が適応するように1週間飼養した後、体重に基づきランダムに2個の群に分け、モデル対照群、IMM-H007群(400mg/kg)とし、群ごとに10匹であり、一般飼料で飼養するとともに、0.1ml/10g体重に基づき胃内投与し、連続して投与して9週間飼養する。摂食と体重の変化を記録し、血中脂質、血糖等の通常の生化学的指標を測定し、9週間データを取った後に、群ごとに3匹の動物を取り、腸間膜小動脈を取って血管内皮機能を測定する。方法は実施例2と同じである。
【0068】
検出指標
(1)通常の生化学的指標(2)血管内皮機能
【0069】
データ統計
実験結果を平均値Χ±SDで表す。Graphpad Prismソフトウェアを用いてt-student検査を行い、群間の差はone way-ANOVAパラメータ分散分析を行うか、またはノンパラメータLSD-t法で検査を行う。P<0.05は統計学的差を有することを表し、P<0.01は有意差を有する。
【0070】
実験結果
実験の結果、Ob/Ob肥満マウスを一般飼料で9週間飼養した後の血糖およびインスリンレベルの測定から、インスリン抵抗性モデルを形成することが明らかになっており、インスリン抵抗性は、内皮機能不全をもたらす重要な原因であることが明らかになった。したがって、Ob/Obマウスの微細血管の内皮機能を9週間測定し、研究から、IMM-H007(400mg/kg)群が、微細血管の内皮機能を改善し得ることが見出された(実験結果は、表10、11、12および図9を参照)。
【0071】
【表10】
【0072】
【表11】
【0073】
【表12】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9