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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】クラッド鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240226BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20240226BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240226BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240226BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240226BHJP
   B23K 20/04 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C21D8/02 B
C21D8/02 D
C22C38/00 301Z
C22C38/00 302H
C21D9/46 Z
C22C38/58
C22C38/60
B23K20/04 C
B23K20/04 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019068426
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164950
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(72)【発明者】
【氏名】川 真知
(72)【発明者】
【氏名】柘植 信二
(72)【発明者】
【氏名】安藤 潤平
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 純平
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-028146(JP,A)
【文献】特開2018-119186(JP,A)
【文献】特開2014-114466(JP,A)
【文献】特開昭61-056236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材となる鋼板の片面に合わせ材をクラッドしたクラッド鋼板であって、
前記母材となる鋼板の化学組成が、質量%で、
C:0.03~0.15%、
Si:1.0%以下、
Mn:0.5~2.0%、
P:0.05%以下、
S:0.05%以下、
Nb:0.005~0.10%、
Ti:0.005~0.10%、
Cu:0~0.50%、
Cr:0~0.50%、
Ni:0~1.0%、
Mo:0~0.50%、
Al:0~0.30%、
V:0~0.40%、
Ca:0~0.0050%、
B:0~0.0030%、
REM:0~0.010%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
前記母材の降伏強度が315MPa以上であって、
前記合わせ材の化学組成が、質量%で、
C:0.03%以下、
Si:0.05~1.00%、
Mn:0.1~4.0%、
P:0.05%以下、
S:0.005%以下、
Cr:20.0~28.0%、
Ni:4.0~8.0%、
Mo:2.5%超~5.0%、
酸素:0.001~0.006%、
N:0.08~0.30%、
W:0~1.50%、
Co:0~1.00%、
Cu:0~3.0%、
V:0~1.00%、
Nb:0~0.20%、
Ta:0~0.20%、
Ti:0~0.030%、
Zr:0~0.050%、
Hf:0~0.10%、
B:0~0.0050%、
Al:0~0.050%、
Ca:0~0.0050%、
Mg:0~0.0050%、
REM:0~0.10%、
Sn:0~0.10%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物であり、
前記合わせ材が、
式4で求められるPREWが35以上45以下であり、
式2で求められるσ相析出温度Tσ(℃)が950℃以上1100℃以下であり、
合わせ材の表面硬度が固溶化熱処理状態の1.3倍以下の値であり、
そのフェライト相のミクロ歪εαが式1で求められるεmax以下であることを特徴とするクラッド鋼板。
εmax=0.0035-Tσ×2.63×10-6 (式1)
Tσ=4Cr+25Ni+71(Mo+W)-11.4(Mo-1.3)×(Mo-1.3)+5Si-6Mn-30N+569(℃) (式2)
PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N (式4)
ただし、式1、式2、式4における各元素記号は、前記合わせ材における当該元素の含有量(質量%)を示し、含有しない場合は0を代入する。
【請求項2】
請求項1に記載のクラッド鋼板の製造方法であって、
請求項1に記載の化学組成を有する合わせ材を、請求項1に記載の化学組成を有する母材となる鋼板の片面に貼り合わせたスラブ2体を、前記合わせ材が内側に配置するように重ね合わせて一体のスラブとするサンドイッチ組み立てによるクラッド鋼板の製造方法であって、
式3を満足する仕上温度TFとなる熱間圧延をおこない、
その後TFから650℃まで平均冷却速度を1℃/s以上で冷却することを特徴とするクラッド鋼板の製造方法。
TF≧Tσ-50 (℃) (式3)
Tσ=4Cr+25Ni+71(Mo+W)-11.4(Mo-1.3)×(Mo-1.3)+5Si-6Mn-30N+569(℃) (式2)
ただし、式2における各元素記号は、前記合わせ材における当該元素の含有量(質量%)を示し、含有しない場合は0を代入する。
【請求項3】
前記サンドイッチ組み立てクラッドの製造において、
前記冷却の冷却停止温度が650℃未満であることを特徴とする請求項2に記載のクラッド鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッド鋼板およびその製造方法に関する。特に、二相ステンレス鋼を合わせ材としたクラッド鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
二相ステンレス鋼はCr、Mo、Ni、Nを多量に含有し、金属間化合物、窒化物が析出しやすいため1000℃以上の固溶化熱処理を加えて析出物を固溶させ、熱間圧延鋼材として製造されていた。このため、二相ステンレス鋼を合わせ材としたクラッド鋼板の製造に際しては1000℃以上の高い温度の熱処理で機械特性を確保することができるように化学組成を工夫した炭素鋼を母材とすることが提案されている(特許文献1)。また、熱間圧延条件を制御することにより熱処理を省略して二相ステンレスクラッド鋼板を製造する技術も提案されている(特許文献2)。あるいは熱間圧延中に再加熱して合わせ材中の析出を押さえる技術も提案されている(特許文献3)。
【0003】
さらに、Ni、Mo等を節減した合金元素節減型二相ステンレス鋼のクラッド鋼板も提案されている(特許文献4)。合金元素節減型二相ステンレス鋼の材質に対して、主に影響する析出物はクロム窒化物である。
【0004】
二相ステンレス鋼のうちMo含有量が2.5~5.0%の範囲にある二相ステンレス鋼に対して影響する析出物はシグマ相に代表される金属間化合物とクロム窒化物である。
シグマ相はCr含有量の高い金属間化合物であり、Moはシグマ相の析出を非常に加速させる元素であるためMo含有量が高い鋼種ではσ相の析出開始温度が高くなる。二相ステンレス鋼の中にシグマ相の析出がおこると、その周囲にクロム欠乏層が生成して鋼の耐食性が低下する。同様にクロム窒化物が析出しても、その周囲にクロム欠乏層が生成して鋼の耐食性が低下する。このうちクロム窒化物に対する対策として、その析出温度と熱間圧延条件等を制御する技術が提案されている(特許文献4)。
【0005】
一方、クラッド鋼板は合わせ材として用いられるステンレス鋼に耐食性を、母材に強度・靱性と溶接性を持たせることにより複合的な特性を経済的に得ることができる鋼材である。クラッド鋼板は合わせ材としてのステンレス鋼と母材とが構造的に接合される部位に用いられ、一般に板厚が厚く、特に強度や靭性が求められる用途に使用されている。例えば、海水淡水化機器、輸送船のタンク類等が挙げられ、従来その多くはオーステナイト系ステンレス鋼が合わせ材として用いられてきた。これらの用途のステンレス鋼が安価な二相ステンレス鋼に変更される趨勢が進みつつあり、合わせ材を二相ステンレス鋼としたさらに安価なクラッド鋼板の潜在的な要求も存在する。クラッド鋼板が適用される場合は、強度や靭性の機能を母材が受け持ち、耐食性を合わせ材が受け持つ。特に、汽水・海水域におけるダムや水門の鋼製部材には戸当たりやレールといった摺動部材があり、摺動性と耐食性の両方が要求されることがある。また輸送船では船体の大型化にともない鋼材の高強度化による重量低減が輸送コスト低減とともに環境負荷低減にも資するため重要になってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-292445号公報
【文献】特開2018-119186号公報
【文献】特公平6-36993号公報
【文献】特開2012-180567号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】ISIJ Vol.58(2018),p1181-1183
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の二相ステンレス熱延鋼板やクラッド鋼板の製造では、固溶化熱処理が欠かせないものとなっている。前記したように二相ステンレス鋼において耐食性を低下させる金属間化合物や窒化物を解消するのに必要なためである。特にクラッド鋼板の合わせ材に用いられる二相ステンレス鋼は熱間加工の温度域で金属間化合物や窒化物が析出しやすい性質を持っており、熱間圧延を終了した状態でこれらの析出物が鋼材中に分散すると耐食性が低下する。固溶化熱処理により、合わせ材中の析出物を消失させることが可能であるが、1000℃以上の固溶化熱処理を施すと母材の靱性が低下してしまうため、クラッド鋼板の用途から言えば好ましくない処理である。また、更なるコスト低減への要求や、近年の使用エネルギー削減への要求からも、固溶化処理を省略してクラッド鋼板製造コストや製造に要するエネルギーを低減することが望まれている。
【0009】
また、普通鋼母材の高強度化には様々な方法があるが、ソリッド材の圧延では未再結晶域での圧延と冷却制御を組み合わせたTMCP(Thermo Mechanical Control Process)が主に用いられる。しかし通常の炭素鋼では未再結晶域の温度は高くても900℃程度であり、二相ステンレス鋼のようにσ相が析出しやすい鋼種を合わせ材としたクラッド鋼板ではσ相の析出温度と圧延温度が重なるため耐食性の低下が生じる。そのため、母材の強度と合わせ材の耐食性を両立する二相ステンレス鋼を合わせ材としたクラッド鋼板が望まれていた。
【0010】
本発明は、強度と耐食性を併せ持ち固溶化熱処理を省略できるクラッド鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するためには、クラッド鋼板製造過程の、母材と合わせ材とを熱間圧延で接合する工程において、合わせ材である二相ステンレス鋼中に金属間化合物と窒化物が析出しなければ、後工程である固溶化熱処理を省略しても耐食性が損なわれないと考えた。そこで、クラッド鋼板の合わせ材に熱間圧延温度を低下させても高い耐食性を維持できる二相ステンレス鋼を用いることを考えた。このような二相ステンレス鋼を得るには、固溶化熱処理を省略した熱延鋼材の化学組成、熱間加工条件とシグマ相やクロム窒化物等の析出量、フェライト相とオーステナイト相の回復・再結晶等を含む金属組織の状態、さらに鋼材の耐食性の関係などについての知見を得た。
この知見を基に、二相ステンレス鋼を合わせ材として用いて固溶化熱処理を省略できるクラッド鋼板についての本発明の完成に至った。
すなわち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
【0012】
[1]
母材となる鋼板の片面に合わせ材をクラッドしたクラッド鋼板であって、前記合わせ材の化学組成が、質量%で、
C:0.03%以下、
Si:0.05~1.0%、
Mn:0.1~4.0%、
P:0.05%以下、
S:0.005%以下、
Cr:20.0~28.0%、
Ni:4.0~8.0%、
Mo:2.5%超~5.0%、
酸素:0.001~0.006%、
N:0.08~0.30%、
W:0~1.5%、
Co:0~1.0%、
Cu:0~3.0%、
V:0~1.0%、
Nb:0~0.2%、
Ta:0~0.2%、
Ti:0~0.03%、
Zr:0~0.05%、
Hf:0~0.10%、
B:0~0.0050%、
Al:0~0.05%、
Ca:0~0.0050%、
Mg:0~0.0050%、
REM:0~0.10%、
Sn:0~0.10%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物であり、
式4で求められるPREWが35以上45以下であり、
式2で求められるσ相析出温度Tσ(℃)が950℃以上1100℃以下であり、
合わせ材の表面硬度が固溶化熱処理状態の1.3倍以下の値であり、
そのフェライト相のミクロ歪εαが式1で求められるεmax以下であることを特徴とするクラッド鋼板。
εmax=0.0035-Tσ*2.63*10-6 (式1)
Tσ=4Cr+25Ni+71(Mo+W)-11.4(Mo-1.3)*(Mo-1.3)+5Si-6Mn-30N+569(℃) (式2)
PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N (式4)
ただし、式1、式2、式4における各元素記号は、前記合わせ材における当該元素の含有量(質量%)を示し、含有しない場合は0を代入する。
[2]
前記母材となる鋼板の化学組成が質量%で
C:0.03~0.15%、
Si:1.0%以下、
Mn:0.5~2.0%、
P:0.05%以下、
S:0.05%以下、
Nb:0.005~0.10%、
Ti:0.005~0.10%以下、
Cu:0~0.50%、
Cr:0~0.50%、
Mo:0~0.50%、
Al:0~0.30%、
V:0~0.40%、
Ca:0~0.0050%、
B:0~0.0030%、
REM:0~0.010%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、母材の降伏強度が315MPa以上であることを特徴とする[1]に記載のクラッド鋼板。
[3]
[1]または[2]に記載の合わせ材を母材となる鋼板の片面に貼り合わせたスラブ2体を、合わせ材が内側に配置するように重ね合わせて一体のスラブとするサンドイッチ組み立てによりクラッド鋼板の製造方法であって、
式3で満足する仕上温度TFとなる熱間圧延をおこない、
その後TFから650℃まで平均冷却速度を1℃/s以上で冷却することを特徴とするクラッド鋼板の製造方法。
TF≧Tσ-50 (℃) (式3)
Tσ=4Cr+25Ni+71(Mo+W)-11.4(Mo-1.3)*(Mo-1.3)+5Si-6Mn-30N+569(℃) (式2)
ただし、式2における各元素記号は、前記合わせ材における当該元素の含有量(質量%)を示し、含有しない場合は0を代入する。
[4]
前記サンドイッチ組み立てクラッドの製造において、
前記冷却の冷却停止温度が650℃未満であることを特徴とする[3]に記載のクラッド鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、製造に使用するエネルギーが少なく、表面の耐食性と強度特性に優れた安価なクラッド鋼材を得ることができる。その結果、産業面、環境面に寄与するところは極めて大である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明する。特に断りのない限り、成分に関する「%」は鋼中の質量%を示す。
【0015】
前述したように、本発明者らは上記課題を解決するためには、クラッド鋼板製造過程の、母材と合わせ材とを熱間圧延で接合する工程において、合わせ材である二相ステンレス鋼中に金属間化合物と窒化物が析出しなければ、後工程である固溶化熱処理を省略しても耐食性が損なわれないと考えた。そこで、クラッド鋼板の合わせ材に熱間圧延温度を低下させても高い耐食性を維持できる二相ステンレス鋼を用いることを考えた。このような二相ステンレス鋼を得るには、固溶化熱処理を省略した熱延鋼材の化学組成、熱間加工条件とシグマ相やクロム窒化物等の析出量、フェライト相とオーステナイト相の回復・再結晶等を含む金属組織の状態、さらに鋼材の耐食性の関係などについて以下の実験を行い調査した。
【0016】
シグマ相の析出に関する指標として、シグマ相析出温度Tσを導入し、このシグマ相析出温度Tσが異なる鋼材を用いて、熱間圧延の加熱温度を1150~1250℃、熱間圧延の最終仕上げパスの入側温度TFを700~1000℃、熱間圧延終了後の加速冷却開始温度TCを950℃以下にし、板厚10mmから35mmの熱間圧延鋼材を得た。得られた熱延鋼材および固溶化熱処理を施した鋼材について強度、衝撃特性を、表層部および板厚中央部の金属組織と耐食性を評価した。
【0017】
ついで上記の実験で得た二相ステンレス鋼の知見をもとに、二相ステンレス鋼の耐食性が良好である圧延条件においても高強度が得られる普通鋼成分・製造条件を得るためには、普通鋼の成分調整によって再結晶温度を高くするとともに、σ相析出温度域以下の冷却を制御する必要があると考え、以下の実験を行った。種々の成分の普通鋼の表面に合わせ材を張り付けたスラブを作成し、そのスラブ2本を、合わせ材を内側に配置したサンドイッチ方式のクラッド素材を、電子ビーム溶接法を用いて組み立てた。合わせ材の厚さが3mm、クラッド鋼板の全厚さを20mmから50mmとしたクラッド鋼板を熱間圧延により得て、強度、衝撃特性、金属組織、耐食性を評価した。
以上の実験を通じて、二相ステンレス鋼を合わせ材として用いて固溶化熱処理を省略できるクラッド鋼板についての本発明の完成に至った。
【0018】
まず、合わせ材の化学組成について説明する。
【0019】
Cは、ステンレス鋼の耐食性を確保するために、0.03%以下の含有量に制限する。0.03%を超えて含有させると熱間圧延時にCr炭化物が生成して、耐食性、靱性が劣化する。
【0020】
Siは、脱酸のため0.05%以上含有する。好ましくは0.20%以上含有するとよい。しかしながら、1.00%を超えて含有すると靱性が劣化する。そのため、上限を1.00%に限定する。好ましくは0.70%以下含有するとよい。
【0021】
Mnはオーステナイト相を増加させ靭性を改善する効果を有し、母材および溶接部の靱性を確保するためと、また窒化物析出温度TNを低下させる効果を有するため0.1%以上含有する。好ましくは、0.2%以上含有するとよい。しかしながら、4.0%を超えて含有すると耐食性が劣化する。そのため、上限を4.0%に限定する。好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下含有するとよい。
【0022】
Pは原料から不可避に混入する元素であり、熱間加工性および靱性を劣化させるため、少ない方がよいので0.05%以下に限定する。好ましくは、0.03%以下含有するとよい。
【0023】
Sも原料から不可避に混入する元素であり、熱間加工性、靱性および耐食性をも劣化させるため、少ない方がよく0.005%以下に限定する。好ましくは、0.003%以下である。
【0024】
Crは、基本的な耐食性を確保するため20.0%以上含有させる。好ましくは23.0%以上含有させるとよい。一方28.0%を超えて含有させるとフェライト相分率が増加し靭性および溶接部の耐食性を阻害する。このためCrの含有量を28.0%以下とした。好ましくは26.0%以下含有するとよい。
【0025】
Niは、オーステナイト組織を安定にし、各種酸に対する耐食性、さらに靭性を改善するため4.0%以上含有させる。Ni含有量を増加することにより窒化物析出温度を低下させることが可能になる。好ましくは4.5%以上含有するとよい。一方、Niは高価な合金であり、省合金型二相ステンレス鋼を対象とした本発明鋼ではコストの観点より8.0%以下の含有量にする。好ましくは6.5%以下含有するとよい。
【0026】
Moは、ステンレス鋼の耐食性を高める非常に有効な元素であり、2.5%を超えて含有させる。好ましくは3.0%以上含有するとよい。耐食性改善のためには多く含有させることが良いが、シグマ相の析出を促進させる元素であり、その含有量の上限を5.0%にするとよい。好ましくは、4.5%以下含有するとよい。
【0027】
N(窒素)は、オーステナイト相に固溶して強度、耐食性を高める有効な元素である。このために0.08%以上含有させる。好ましくは0.15%以上含有するとよい。固溶限度はCr含有量に応じて高くなるが、本発明鋼においては0.30%を超えて含有させると窒化物析出温度TNが高くなって熱間圧延中にCr窒化物を析出して靭性および耐食性を阻害するようになるため含有量の上限を0.30%とした。好ましくは、0.22%以下含有するとよい。
【0028】
O(酸素)は、不可避的不純物であり、非金属介在物の代表である酸化物を構成する元素であり、過剰な含有は靭性を阻害する。また粗大なクラスター状酸化物が生成すると表面疵の原因となる。このためその上限を0.006%とした。一方で過剰な脱酸はコストがかさむためその下限を0.001%とした。
【0029】
残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物とは、鋼の製造過程において、意図せず混入し、除去しきれずに残存する不純物である。
さらに、Feに代えて以下の元素(W、Co、Cu、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、B、Al、Ca、Mg、REM、Sn)のうち1種または2種以上を含有してもよい。これらの元素は含有しなくてもよいので、含有量の範囲は0%も含む。
【0030】
Wは、Moと同様にステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であり、含有してもよい。一方で高価な元素であるので、1.50%以下含有するとよい。好ましくは1.00%以下にするとよい。含有する場合の好ましい含有量は0.05%以上にするとよい。
【0031】
Coは、鋼の靭性と耐食性を高めるために有効な元素であり、選択的に含有される。1.00%を超えて含有させると高価な元素であるためにコストに見合った効果が発揮されないようになるため上限を1.00%と定めた。含有する場合の好ましい含有量は、下限が0.03%に、上限が0.50%である。
【0032】
Cuは、ステンレス鋼の酸に対する耐食性を付加的に高める元素であり、かつ靭性を改善する作用を有するため含有させることができる。3.0%を超えて含有させると熱間圧延時に固溶度を超えてεCuが析出し脆化を発生するので上限を3.0%とした。Cuを含有させる場合の好ましい含有量は、下限が0.3%に、上限が2.0%である。
【0033】
V、Nb、Taは鋼の中で炭化物、窒化物を生成する元素であって、耐食性を付加的に高めるために微量含有させることが可能である。一方で、Nを含有する本発明鋼におけるV、Nb、Taの多量の含有は炭窒化物を生成し靭性を阻害するようになるため、上限が規制される。V、Nb、Taの作用の大きさ、合金コストを勘案し、それぞれの上限を1.00%、0.20%、0.20%と定めた。含有させる場合の好適範囲はそれぞれ、下限が0.03%、0.01%、0.01%に、上限が0.20%、0.10%、0.10%である。
【0034】
Ti、Zr、Hfは鋼の中で窒化物、炭化物を生成する元素であって、結晶組織を微細化する目的で微量含有させることが可能である。Ti、Zr、Hfの窒化物形成能力は非常に強いため、Nを含有する本発明鋼におけるTi、Zr、Hfの多量の含有は粗大な窒化物を生成し靭性を阻害するようになるため、上限が規制される。Ti、Zr、Hfの作用の大きさ、合金コストを勘案し、それぞれの上限を0.030%、0.050%、0.10%と定めた。含有させる場合の好適範囲はそれぞれ、下限が0.003%、0.005%、0.01%に、上限が0.020%、0.030%、0.05%である。
【0035】
Bは鋼の中で窒化物、炭化物を生成する元素であり、また鋼の中での固溶度が小さく、粒界に偏析しやすい元素である。その作用として熱間加工性を改善する。一方、過剰な含有は粗大な窒化物を形成し、鋼の靭性を阻害するようになる。このため、含有量の上限を0.0050%と定めた。含有させる場合の好適な含有量は、下限が0.0005%に、上限が0.0035%である。
【0036】
Alは鋼の脱酸のために含有することができる。また、窒化物を生成する元素であり、過剰な含有は粗大な窒化物を形成して靭性を阻害するようになることから、その上限を0.050%と定めた。含有させる場合の好適な含有量は、下限が0.003%に、上限が0.030%である。
【0037】
CaおよびMgは鋼の熱間加工性を改善するために含有することができる。過剰な含有は逆に熱間加工性を阻害するようになることから、その上限を0.0050%と定めた。好適な含有量範囲は、下限が0.0005%に、上限が0.0035%である。
【0038】
REMは鋼の熱間加工性を改善するために含有することができる。過剰な含有は逆に熱間加工性を阻害するようになることから、その上限を0.10%と定めた。好適な含有量範囲は、下限が0.01%に、上限が0.08%である。ここでREMはLaやCe等のランタノイド系希土類元素の含有量の総和とする。
【0039】
Snは鋼の酸に対する耐食性を付加的に高める元素であり、この目的で含有させることができる。一方で過剰な含有は鋼の熱間加工性を阻害するようになることより、その上限を0.10%と定めた。含有させる場合の好適な含有量は、下限が0.01%に、上限が0.08%である。
【0040】
PREWはステンレス鋼の耐孔食性に対する指標であって、合金元素Cr、Mo、W、Nの含有量(%)を用いて式4で算出される。二相ステンレス鋼のPREWが35未満であると汽水・海水環境における耐食性を発揮することができず、また、45を超えて合金元素を含有させるとコストが高くなるため、PREWの範囲を35以上45以下にするとよい。
PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N (式4)
ただし、式4における各元素記号は、当該元素の含有量(質量%)を示し、含有しない場合は0を代入する。
【0041】
σ相析出温度:Tσ(℃)は合わせ材の化学組成により決まる指標であって、シグマ相が平衡的に析出し始める温度を表し、金属材料の平衡状態図に対する熱力学計算により求められる値である。熱力学計算は、市販されているサーモカルク(Themocalc@)とよばれるソフトウェアと熱力学データベース(FE-DATA version6など)を用いて算出することができる。各種の二相ステンレス鋼に対してこの計算をおこなった。シグマ相はFe、Cr、Mo、Wを主要元素とする金属間化合物であり、Fe、Cr含有量が一定の数値範囲にある二相ステンレス鋼において、Mo、Wが析出を促進する。Crはシグマ相を析出させる主要元素であり、Cr量の大小によってもTσは変化する。このため、本発明者らは発明鋼の成分範囲で適用可能なTσの値を求める式(式2)を作成した。
【0042】
本発明が目的とするクラッド鋼板の熱間圧延による製造において、熱間圧延中のシグマ相の析出を制御して所望のクラッド鋼板を得る目的よりこのTσ(式2)の下限値を950℃、上限値を1100℃とした。Tσが950℃未満であるとシグマ相の析出は抑制されるがMo、Cr含有量が少ない鋼種となるため所望の耐食性を得ることが困難となる、一方で1100℃を超えるとクラッド鋼板表層部のシグマ相析出抑制が困難となるため、上記の数値範囲を定めた。好ましくは、Tσは1050℃以下であるとよい。
Tσ=4Cr+25Ni+71(Mo+W)-11.4(Mo-1.3)*(Mo-1.3)+5Si-6Mn-30N+569(℃) (式2)
ただし、式2における各元素記号は、当該元素の含有量(質量%)を示し、含有しない場合は0を代入する。
【0043】
合わせ材の表面硬度は、本発明が対象とするクラッド鋼板の表面特性を左右する特性であって、高いことが好ましい。本発明鋼板は熱間圧延の後に冷却され、固溶化熱処理を省略して適用される製品であり、固溶化熱処理材よりも高い硬度を有することを特徴とする。このため、合わせ材の表面硬度が固溶化熱処理状態の1.3倍以下の硬度を有することを規定した。この硬度は大きい方が好ましいが、熱間圧延中に導入され残留した大きな歪により金属間化合物の析出が促進され、クラッド鋼板表面の耐食性を損なうようになることから、この上限を1.3倍と定めた。ここで固溶化熱処理状態とは、同じ合わせ材を固溶化熱処理したときの表面硬度のことをいう。
【0044】
この硬度の倍率の測定には、二相ステンレス鋼よりなる合わせ材の対象とする表層部(表皮下0.1~0.5mm程度)の位置(試料A)を研磨してビッカース硬度測定をおこなうとともに、この試料に対して1050℃均熱の固溶化熱処理を加えた材料(試料B)について同様に硬度測定をおこない、合わせ材の表面硬度が固溶化熱処理状態に対する比(試料Aの硬度/試料Bの硬度)の値を持って数値化する。好ましくは、固溶化熱処理を施した場合の表面硬度の1.05~1.30倍であるとよい。試料Aと試料Bは、同じ試料であることを例に説明したがたが必ずしも同じものである必要はなく、同一の鋼材であれば別個の試料(例えば鋼材から切り取った別個の試料)であってもよい。
【0045】
フェライト相のミクロ歪:εαは本発明鋼板の合わせ材を規定する重要な特性値である。二相ステンレス鋼はフェライト相とオーステナイト相より構成されているが、熱間加工中の組織変化挙動は大きく異なる。熱間加工により導入される歪は材料内部で転位となり、その転位は回復、再結晶の過程を経て減少していく。オーステナイト相における転位密度減少の速度は小さく、フェライト相における転位密度減少の速度は大きい。このような一般的知見を基に、本発明者らは対象とする二相ステンレス鋼のクラッド鋼板を種々の熱間圧延条件のもとで作成し、その合わせ材表層部の金属組織を観察する研究をおこなった。
【0046】
その結果、本発明者らは二相ステンレス鋼に対して適切な熱間圧延を施さないとフェライト相の転位密度減少が抑制され、クラッド鋼板の合わせ材に歪が残留すること、さらに熱間圧延後の冷却過程でフェライト相の中に光学顕微鏡では観察困難な金属間化合物が析出を開始し、これに対応して耐食性が低下すること、このような析出の過程でフェライト相のミクロ歪が増大することを知見した。この知見を整理することにより、合わせ材表層部のフェライト相のミクロ歪が、式1で求められるεmaxよりも小さくなるように制御することで所望の特性を得ることができる。
εmax=0.0035-Tσ×2.63×10-6 (式1)
ただし、式1における各元素記号は、当該元素の含有量(質量%)を示し、含有しない場合は0を代入する。
【0047】
ここで、ミクロ歪の値はX線回折法により求めることができる値であり、単位は無次元である。具体的な測定方法は以下のとおりである。二相ステンレス鋼よりなる合わせ材の対象とする表層部(表面から厚さ方向に下0.1mm以上0.5mm以下の領域)の位置(試料A)を機械加工と電解研磨により試料作成時の歪が残らないように3mm厚さx20mm幅x20mm長さ程度の寸法に仕上げたのち、CuKα線等の線源を用いたX線回折をおこない、フェライト相、オーステナイト相の各回折面の回折強度プロファイルAを測定する。比較材として、上記合わせ材に1050℃均熱の固溶化熱処理を加えて熱間加工により導入されていた歪を取り除き(試料B)、同様のX線回折用試料を作成してX線回折をおこない、歪の無い回折強度プロファイルBを測定する。残留した歪の大きい試料では回折強度プロファイルが回折角2θに対して広がり(半価幅)を持っており、AとBの対比により半価幅の増加量を回折面毎に求め数値処理することにより、フェライト相とオーステナイト相のミクロ歪が定量化される。このようにして求めたミクロ歪と材料内部の転位密度との関係は一定の関係があり、フェライト相についての両者の関係は非特許文献1を参照すると良い。
【0048】
次に、母材となる鋼板の化学組成について説明する。本発明に係るクラッド鋼板は、特に母材となる鋼板の化学組成は限定しないが、以下に説明する化学組成であることが望ましい。
【0049】
Cは鋼の強度を向上させる元素であり、0.03%以上含有させることで十分な強度を発現する。しかし、0.15%を超えると溶接性および靭性の劣化を招く。したがって、C量は0.03~0.15%とする。好ましくは、0.10%以下含有するとよい。
【0050】
Siは脱酸に有効であり、また鋼の強度を向上させる元素である。しかしながら、1.0%を超えて含有すると鋼の表面性状および靭性の劣化を招く。したがって、Si含有量は1.0%以下とする。好ましくは0.5%以下含有するとよい。
【0051】
Mnは鋼の強度を上昇させる元素であり、0.5%以上含有させることでその効果が発現する。しかしながら、2.0%を超えると溶接性が損なわれるとともに合金コストも増大する。したがって、Mn含有量は0.5~2.0%とする。好ましくは0.9%以上含有するか、1.6%以下含有するとよい。
【0052】
Pは鋼中の不可避的不純物であり、含有量が0.05%を超えると靭性が劣化する。したがって、P含有量は0.05%以下とする。好ましくは0.02%以下含有するとよい。
【0053】
Sは鋼中の不可避的不純物であり、含有量が0.05%を超えると靭性が劣化する。したがって、S含有量は0.05%以下とする。好ましくは0.01%以下含有するとよい。
【0054】
Nbは再結晶温度を上げる元素であり、0.005%以上の含有でその効果が発現する。しかし、0.100%を超えると溶接性が損なわれるとともに合金コストも増大する。したがって、Nb量は0.005~0.100%とする。好ましくは0.010%以上含有するか、0.070%以下含有するとよい。更に好ましくは0.030%以上含有するか、0.050%以下含有するとよい。
【0055】
Tiは結晶粒を微細化させて強度を増加させる元素であり、0.005%以上の含有でその効果が発現する。しかし、0.1%を超えると溶接性が損なわれるとともに合金コストも増大する。したがって、Ti含有量は0.005~0.1%とする。好ましくは0.010%以上含有するか、0.020%以下含有するとよい。
【0056】
母材の降伏強度は315MPa以上であれば通常の軟鋼に比べて高強度であり薄肉化可能である。降伏強度は高いほど構造部材の板厚を薄くすることができるため上限は設けない。したがって、母材の降伏強度は315MPa以上とした。より好ましくは355MPa以上である。
【0057】
残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物とは、鋼の製造過程において、意図せず混入し、除去しきれずに残存する不純物である。
さらに、Feに代えて以下の元素(Cu、Cr、Ni、Mo、Al、V、Ca、B、REM)のうち1種または2種以上を含有してもよい。これらの元素は含有しなくてもよいので、含有量の範囲は0%も含む。
【0058】
Cuは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度および靭性を向上させる。しかしながら、0.50%を超えて含有すると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってCuを含有する場合、Cu含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.30%以下である。
【0059】
Crは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度および靭性を向上させる。しかしながら、0.50%を超えて含有すると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってCrを含有する場合、Cr含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.30%以下含有するとよい。
【0060】
Niは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度および靭性を向上させる。しかしながら、1.0%を超えて含有すると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってNiを含有する場合、Ni量は1.0%以下とする。好ましくは0.5%以下含有するとよい。
【0061】
Moは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度および靭性を向上させる。しかしながら、0.50%を超えて含有すると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってMoを含有する場合、Mo含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.30%以下含有するとよい。
【0062】
Alは鋼の脱酸に効果がある元素である。しかしながら、0.30%を超えて含有すると溶接部の靭性の劣化を引き起こす。したがってAlを含有する場合、Al含有量は0.30%以下とする。好ましくは0.10%以下含有するとよい。
【0063】
Vは炭窒化物を形成することで鋼の強度を上昇させる。しかしながら、0.40%を超えて含有すると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってVを含有する場合、V含有量は0.40%以下とする。好ましくは0.20%以下含有するとよい。
【0064】
Caは溶接熱影響部の組織を微細化し、靭性を向上させる。しかしながら、0.0050%を超えて含有すると粗大な介在物を形成して靭性を劣化させる。したがってCaを含有する場合、Ca含有量は0.0050%以下とする。好ましくは0.0030%以下含有するとよい。
【0065】
Bは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度および靭性を向上させる。しかしながら、0.0030%を超えて含有すると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってBを含有する場合、B含有量は0.0030%以下とする。好ましくは0.002%以下含有するとよい。
【0066】
REMは溶接熱影響部の組織を微細化し、靭性を向上させる。しかしながら、0.010%を超えて含有すると粗大な介在物を形成して靭性を劣化させる。したがってREMを含有する場合、REM含有量は0.010%以下含有するとよい。好ましくは0.005%以下含有するとよい。ここでREMはLaやCe等のランタノイド系希土類元素の含有量の総和とする。
【0067】
製造方法について説明する。
【0068】
本発明で規定するサンドイッチ組み立てとは、母材となる鋼板の片面に上記の化学組成を有する合わせ材を貼り合わせたスラブ2体を、それぞれ合わせ材を内側に配置するように重ね合わせて1体のスラブとして組み立てる方式である。母材となる鋼板の化学組成は特に限定しないが、上記の化学組成を有する鋼板であることが好ましい。このように母材、合わせ材、合わせ材、母材からなるスラブを常法にしたがって加熱し、加熱炉から抽出後に熱間圧延をおこない、圧延クラッド鋼板を製造する。
【0069】
仕上温度TFは熱間圧延の最終パスの入口における鋼材表面温度で定義する。本発明者らは、上記で述べた実験をおこなうなかで、サンドイッチ組み立て圧延において、TσとTFを式3で示す関係で熱間圧延したうえで、熱間圧延後のクラッド鋼板のTF~650℃までの平均冷却速度を1℃/s以上となるように製造する。さらに冷却停止温度を650℃未満とするとよい。好ましくは冷却停止温度を600℃未満にするとよい。この場合、熱間圧延後から600℃までの平均冷却速度を1℃/s以上となるように冷却することが好ましい。
TF≧Tσ-50 (℃) (式3)
Tσは、上記式2で得られるσ相析出温度である。
【0070】
仕上げ温度TFをTσ-50℃以上と規定した理由は、シグマ相析出温度よりも過冷却された温度で圧延を実施するとその過冷度と圧延中に導入される歪に応じてシグマ相が析出し、圧延後の冷却速度を早くしても耐食性が低下してしまう場合があるためである。サンドイッチ圧延ではステンレス鋼が板厚中央に位置するため、表層の付加的せん断歪やロールによる抜熱の効果が小さくなるとともに鋼材表面温度より合わせ材の温度が高い状態で熱間圧延される。この影響について実験評価した結果、仕上げ温度TFをTσ-50℃以上とすることで耐食性低下が生じないことが明らかになった。
【0071】
TF~650℃までの平均冷却速度を1℃/s以上と規定した理由は、本発明鋼の熱間圧延後の金属組織において、シグマ相などの金属間化合物が析出する温度域がTσ~700℃程度に存在することより、この温度区間の冷却速度を大きくする必要があるためである。板厚が大きなサンドイッチ組み立て方式で熱間圧延されたクラッド鋼板の冷却速度を1℃/s以上とするためには熱間圧延終了後に水冷を施すと良い。板厚が小さい場合は空冷や強制風冷に依っても良い。
【0072】
冷却停止温度を650℃未満とした理由は、650℃以上で冷却停止した場合は普通鋼の組織が粗大になり、十分な降伏強度が得られないためである。より好ましくは600℃未満である。
【0073】
本発明のクラッド鋼板は、合わせ材である二相ステンレス鋼のシグマ相析出温度に応じて熱間圧延の温度を特定温度以上とし、冷却速度を1℃/s以上に限定することで得られる。したがって、クラッド鋼板の母材としては、普通鋼(炭素鋼)、およびステンレス鋼を除く合金鋼からなる群より1種以上を選択して用いることが出来、特に限定されるものではない。目的用途に応じて適宜選択して使用できる。合金鋼としては、低合金鋼、ニッケル鋼、マンガン鋼、クロムモリブデン鋼、高速度鋼などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、普通鋼に1種以上の元素を含有した鋼であれば良い。
以上本発明の実施態様の一例で説明したが、本発明は上記実施態様に限定されるものではない。
【実施例
【0074】
以下に実施例について記載する。表1に合わせ材の化学組成、表2に母材となる鋼板の化学組成を示す。なお表1、2に記載されている成分以外はFeおよび不可避的不純物である。また表1に示した成分について含有量が記載されていない部分は不純物レベルであることを示し、REMはランタノイド系希土類元素を意味し、含有量はそれら元素の合計を示している。
また、表1中のシグマ相析出温度は上述の熱力学計算で求めたTσ計算式(式2)を用いて計算した。
【0075】
クラッド鋼板は表1に示した化学組成の二相ステンレス鋼を合わせ材とし、母材として表2に示した炭素鋼とし、それらを所定の厚さの素材とし、溶接により母材となる鋼の片面に合わせ材を貼り合わせ、厚さを130mmのスラブとした。その後130mm厚のスラブ2体を、合わせ材を内側にして溶接により組み立て(サンドイッチ組み立て)、260厚のスラブとした。なお、オープン方式として、は上記の合わせ材を張り合わせたスラブを、そのまま熱間圧延用の素材に用いた。
【0076】
サンドイッチ組み立て方式の熱間圧延は260mm厚のスラブを1150~1220℃の所定の温度に加熱した後、実験室の2段圧延機によりクラッド鋼板を作成した。熱間圧延条件としては、8~12回の圧下を繰り返し、最終板厚が20~50mmとなるようにTσ以下の圧延の圧下率が0~40%、TFが900~1100℃で仕上圧延を実施し、TF~600℃までの平均冷却速度が0.6~10℃/sで冷却停止温度が670~550℃となるよう冷却し、その後冷却床に移送して冷却した。冷却後に板厚中央部で剥離させ、2枚のクラッド鋼板に分離した。このようにして合わせ材の厚さが3mmで全板厚が10~25mmのクラッド鋼板を得た。この鋼板の一部を用いて1050℃で固溶化熱処理を実施し、熱処理前後の合わせ材表層部の金属組織を評価するためのX線回折用試料と孔食電位測定用試料を採取した。
【0077】
合わせ材の表面のミクロ歪の測定は鋼材の表皮下0.3mmの面を試験片加工の歪が残らないようにエメリー紙による湿式研磨と電解研磨によって仕上げた2.5mmtx20wx25LのX線回折用試料を採取し、CuKαの線源を用いたX線回折測定をおこなって、フェライト相とオーステナイト相の回折プロファイルを測定し、固溶化熱処理を施す前後(AとB)の鋼材についてのそれぞれの半価幅データより固溶化熱処理前の試料Aの両相のミクロ歪を求めた。このうち、フェライト相のミクロ歪の値を表3に示した。
【0078】
合わせ材の表面硬度測定は鋼材の表皮下0.3mmの面に対してビッカース荷重5kgfの条件にて実施した。固溶化熱処理を施す前後の鋼材(即ち固溶化熱処理をしていない試料Aと固溶化熱処理をした試料B)についてそれぞれn=3で測定し、平均値を求め、その平均値の比(=試料Aの硬度/試料Bの硬度)の値を表3に示した。
【0079】
合わせ材の孔食電位測定は鋼材の表皮下0.3mmの面に対してJIS G0577に定められた方法に准じて80℃-1モルNaCl溶液中で分極をおこない、電流密度が100μA/cm2に対応する電位(VC’100)を測定した。固溶化熱処理を施す前後の鋼材(即ち固溶化熱処理をしていない試料Aと固溶化熱処理をした試料B)についてそれぞれn=3で測定し、平均値を求めその試料の孔食電位とした。その試料Aと試料Bの孔食電位およびその差を表3に示した。試料Aの孔食電位が0.3V以上であり、さらに固溶化熱処理材の電位に対するクラッド鋼板の電位の差(試料Aと試料Bの孔食電位の差)が0.1V以下のものを合格とした。
【0080】
母材の強度は厚さの1/4部より板厚5~10mmのJIS13号B試験片を採取し、JIS Z 2247に定められた方法に準じて引張試験を実施して求めた。それぞれn=3で測定し、降伏強度平均値を求めた。その平均値を表3に示した。降伏強度が315MPa以上を合格とした。
【0081】
表3に示す実施例は、表1に示した鋼を合わせ材とし、表2に示した鋼を母材とし、サンドイッチ方式で組み立て熱間圧延したクラッド鋼板の合わせ材に対する実施例をまとめた。
このように本発明の実施例となるクラッド鋼板は合わせ材の表面硬度が大きく、耐食性は固溶化熱処理材と比べてその差が0.1V以下であり遜色がないことが確認された。なお、比較例23と比較例27はオープンサンド方式で圧延したため、ロール接触による抜熱やロール冷却水により合わせ材表層の温度が低下した状態で圧延されている。そのため、合わせ材表層のミクロ歪が大きくなり、σ相析出が促進されたことによって耐食性が固溶化熱処理材と比べて0.1V以上となった。また、比較例31は、合わせ材IがMoの下限値を外れ、その結果、耐食性が固溶化熱処理材と比べ差異が0.1V以下であるものの、固溶化熱処理を施す前後の鋼材の耐食性は0.3V未満であり劣位な耐食性であった。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、強度と耐食性を両立させたことにより、海水淡水化機器、輸送船のタンク類、各種容器等などあらゆる産業機器や構造物用として利用することができる。