(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】記録装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240226BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
B41J2/01 207
B41J2/01 205
B41J2/165 301
B41J2/165 211
B41J2/165 207
(21)【出願番号】P 2019157267
(22)【出願日】2019-08-29
【審査請求日】2022-08-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】及川 悠平
(72)【発明者】
【氏名】筑間 聡行
(72)【発明者】
【氏名】狩野 豊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昂平
(72)【発明者】
【氏名】深澤 拓也
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-331354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルと、該複数のノズルおのおのに設けられ且つ液体を加熱する複数のヒータと、
該複数のヒータにそれぞれ対応して設けられた複数の温度検知素子と、を備えた記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行う記録装置であって、
液体の吐出状態を検査する対象として選択されたノズルの吐出状態を判定するための閾値を変化させながら、
液体の吐出状態を検査する対象として選択されたノズルに対応する前記温度検知素子で検知した温度の時間変化に基づいて前記記録ヘッドの液体の吐出状態を検査する検査手段と、
液体の吐出状態を検査する対象として選択されたノズルについて
前記検査手段により前記温度検知素子から出力された信号、及び、前記選択されたノズルの近傍のノズルについて
前記温度検知素子から出力された信号に関する情報を取得する取得手段と、
前記取得手段が取得した前記選択されたノズルの前記信号に関する情報と前記取得手段が取得した前記近傍のノズルの前記信号に関する情報との差分値と、第1の閾値とを比較することによって、前記選択されたノズルの液体の吐出状態を判断する第1の判断手段とを有する
ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記複数のノズルによってノズル列が形成され、
前記近傍のノズルの前記信号に関する情報は、前記ノズル列に関し、前記選択されたノズルの両側それぞれに位置する予め定められた数のノズルを用いて算出される
ことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記第1の判断手段は、前記選択されたノズルの吐出状態が、液体の吐出不良であるか否かを判断する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記液体の吐出状態は、液体の正常吐出と、液体の吐出不良と、液体の不吐出とを含む
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記第1の判断手段は、前記液体の吐出状態は、前記液体の正常吐出であるか、又は、前記液体の吐出不良もしくは前記液体の不吐出であるかを判断する
ことを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記選択されたノズルの近傍の複数のノズルそれぞれについて前記取得手段により取得された情報の統計により得られた値と、前記選択されたノズルについて前記取得手段により取得された情報との差分値を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された差分値と予め定められた前記第1の閾値とを比較する第1の比較手段と、を有し、
前記第1の判断手段は、前記第1の比較手段による比較の結果に基づいて前記選択されたノズルの吐出状態を判断する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記算出手段により算出された差分値と、前記第1の閾値とは異なる予め定められた第2の閾値を比較する第2の比較手段と、
前記第2の比較手段による比較の結果に基づいて、前記選択されたノズルについて、さらに前記液体の吐出状態が、前記液体の吐出不良であるか、又は、前記液体の不吐出であるかを判断する第2の判断手段とをさらに有する
ことを特徴とする請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記情報の統計により得られる値は、前記情報の平均値であり、
前記選択されたノズルの両側それぞれに位置する予め定められた数のノズルそれぞれに関して前記取得手段により取得された情報と、予め定められた第3の閾値とを比較する第3の比較手段をさらに有し、
前記算出手段は、前記第3の比較手段による比較の結果に基づいて、前記選択されたノズルの両側それぞれに位置する予め定められた数のノズルから前記液体の不吐出と判定されるノズルを除外するか、該ノズルに関して前記取得手段により取得された情報を他の値で置換して前記情報の平均値を算出する
ことを特徴とする請求項6に記載の記録装置。
【請求項9】
前記情報は、前記取得手段により複数回、取得された情報の平均値である
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項10】
前記複数のノズルそれぞれについて、前記取得手段により取得した情報と、前記液体の吐出状態を格納する記憶手段をさらに有する
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項11】
前記液体の吐出状態に基づいて、前記記録ヘッドによる記録を適切に実行するための処理手段をさらに有する
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項12】
前記処理手段による処理は、液体を正常に吐出するノズルによる補完記録、前記液体の吐出状態を回復させる回復処理を含む
ことを特徴とする請求項11に記載の記録装置。
【請求項13】
前記回復処理は、前記記録ヘッドの予備吐出と、前記記録ヘッドの吐出口面のワイピングと、前記記録ヘッドのノズルの吸引とのうちの少なくとも1つの実行を含む
ことを特徴とする請求項12に記載の記録装置。
【請求項14】
前記検査手段は、
前記複数のノズルのうち、液体の吐出状態を検査する対象となるノズルを選択する選択信号と、前記閾値を示す検査閾値信号とを生成して前記記録ヘッドに出力する信号生成手段と、
前記信号生成手段が生成する前記選択信号が示すノズルと前記検査閾値信号が示す閾値とを変化させるよう指示する指示手段とを含む
ことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項15】
前記指示手段は、前記検査手段が検査の対象とするノズルを1つずつ指示することを特徴とする請求項14に記載の記録装置。
【請求項16】
前記取得手段は、前記選択されたノズルの近傍のノズルとして、前記選択されたノズルに隣接するノズルについて、
前記温度検知素子から出力された信号に関する情報を取得する
ことを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項17】
前記取得手段は、前記選択されたノズルの近傍のノズルとして、前記選択されたノズルに隣接する複数のノズルについて、
前記温度検知素子から出力された信号に関する情報を取得する
ことを特徴とする請求項16に記載の記録装置。
【請求項18】
前記ヒータは、前記ヒータに加えられた電圧を熱エネルギーに変換する電気熱変換素子であ
る
ことを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項19】
液体を吐出する複数のノズルと、該複数のノズルおのおのに設けられ且つ液体を加熱する複数のヒータと、
該複数のヒータにそれぞれ対応して設けられた複数の温度検知素子と、を備えた記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行う記録装置における制御方法であって、
液体の吐出状態を検査する対象として選択されたノズルの吐出状態を判定するための閾値を変化させながら、
液体の吐出状態を検査する対象として選択されたノズルに対応する前記温度検知素子で検知した温度の時間変化に基づいて前記記録ヘッドの液体の吐出状態を検査する検査工程と、
液体の吐出状態を検査する対象として選択されたノズルについて
前記検査工程により前記温度検知素子から出力された信号、及び、前記選択されたノズルの近傍のノズルについて
前記温度検知素子から出力された信号に関する情報を取得する取得工程と、
前記選択されたノズルの前記信号に関する情報と前記近傍のノズルの前記信号に関する情報との差分値と、第1の閾値とを比較することによって、前記選択されたノズルの液体の吐出状態を判断する判断工程とを有する
ことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置及びその制御方法に関し、特に、例えば、複数の記録素子を備えた素子基板を組み込んだ記録ヘッドをインクジェット方式に従って記録を行うために適用した記録装置及びそのインク吐出状態を判定するための制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルからインク液滴を吐出させ、紙,プラスチック・フィルムその他の記録媒体に付着させるインクジェット記録方式の中で、インクを吐出するために熱エネルギーを発生する記録素子を有する記録ヘッドを用いるものがある。この方式に従う記録ヘッドは、例えば、通電に応じて発熱する電気熱変換素子およびその駆動回路などを半導体製造工程と同様の工程を用いて形成できる。従って、ノズルの高密度実装が容易であり記録の高精細化が達成できるなどの利点を有する。
【0003】
この記録ヘッドでは、異物や粘度が増加したインクなどによるノズルの目詰まり、インク供給経路やノズル内に混入した気泡、あるいはノズル表面の濡れ性の変化などの原因により、記録ヘッドの全部または一部のノズルでインク吐出不良が発生することがある。そのような吐出不良が発生した場合に生じる画像品位の低下を避けるために、インク吐出状態を回復させる回復動作や、他のノズルなどによる補完動作を速やかに実行することが好ましい。しかし、これらの動作を速やかに行うためには、インク吐出状態の判定やその吐出不良発生の判定を正確にかつ適時に行うことが極めて重要な課題となっている。
【0004】
このような背景から、従来より、種々のインク吐出状態判定方法や補完記録方法やこれらを適用した装置が提案されている。
【0005】
特許文献1は記録ヘッドからのインク吐出不良を検出するために、正常吐出時に生じる温度低下を検出する方法を開示している。特許文献1によれば、正常吐出時は検出温度が最高温度に到達した時刻から一定時間後に温度の降下速度が変化するポイント(特徴点)が出現するが、吐出不良時は出現しない。従って、この特徴点の有無を検知することで、インクの吐出状態を判定するのである。また、特許文献1は、温度検知素子をインク吐出熱エネルギーを発生させる記録素子の直下に備えた構成や、上記特徴点の有無を検知する方法として、その特徴点を温度変化の微分処理によりピーク値として検知する方法も開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、特許文献1が開示する吐出状態の判定方法は、正常吐出状態と不吐出状態の区別を正確かつ高速に行うことが可能である。しかしながら上記従来例では、吐出検査を行う状況によっては正常吐出と不吐出の2つの状態に区別するだけでは吐出不良状態にあるノズルを判定できない。そのため、適切なタイミングで回復処理を実行することができず、白スジなどの画像不良が発生する場合があった。
【0008】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、より正確にインク吐出状態を判定することが可能な記録装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の記録装置は次のような構成からなる。
【0010】
即ち、
液体を吐出する複数のノズルと、該複数のノズルおのおのに設けられ且つ液体を加熱する複数のヒータと、該複数のヒータにそれぞれ対応して設けられた複数の温度検知素子と、を備えた記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行う記録装置であって、
液体の吐出状態を検査する対象として選択されたノズルの吐出状態を判定するための閾値を変化させながら、液体の吐出状態を検査する対象として選択されたノズルに対応する前記温度検知素子で検知した温度の時間変化に基づいて前記記録ヘッドの液体の吐出状態を検査する検査手段と、
液体の吐出状態を検査する対象として選択されたノズルについて前記検査手段により前記温度検知素子から出力された信号、及び、前記選択されたノズルの近傍のノズルについて前記温度検知素子から出力された信号に関する情報を取得する取得手段と、
前記取得手段が取得した前記選択されたノズルの前記信号に関する情報と前記取得手段が取得した前記近傍のノズルの前記信号に関する情報との差分値と、第1の閾値とを比較することによって、前記選択されたノズルの液体の吐出状態を判断する第1の判断手段とを有する
ことを特徴とする。
【0011】
また本発明を別の側面から見れば、
液体を吐出する複数のノズルと、該複数のノズルおのおのに設けられ且つ液体を加熱する複数のヒータと、該複数のヒータにそれぞれ対応して設けられた複数の温度検知素子と、を備えた記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行う記録装置における制御方法であって、
液体の吐出状態を検査する対象として選択されたノズルの吐出状態を判定するための閾値を変化させながら、液体の吐出状態を検査する対象として選択されたノズルに対応する前記温度検知素子で検知した温度の時間変化に基づいて前記記録ヘッドの液体の吐出状態を検査する検査工程と、
液体の吐出状態を検査する対象として選択されたノズルについて前記検査工程により前記温度検知素子から出力された信号、及び、前記選択されたノズルの近傍のノズルについて前記温度検知素子から出力された信号に関する情報を取得する取得工程と、
前記選択されたノズルの前記信号に関する情報と前記近傍のノズルの前記信号に関する情報との差分値と、第1の閾値とを比較することによって、前記選択されたノズルの液体の吐出状態を判断する判断工程とを有する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各ノズルの吐出状態をより正確に判別することができ、その結果に応じて適切なタイミングによる処理を実行できるという効果がある。これにより、白スジなどのない高品位な画像を記録することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態であるフルライン記録ヘッドを備えた記録装置の構造を説明するための斜視図である。
【
図2】
図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【
図3】メンテナンスユニットを説明するための図である。
【
図4】シリコン基板に形成された記録素子近傍の多層配線構造を示す図である。
【
図5】
図4に示す素子基板を用いた温度検知の制御構成を表すブロック図である。
【
図6】記録素子に駆動パルスを印加したときの、温度検知素子から出力される温度波形とその波形の温度変化信号を表した図である。
【
図7】各ノズルのDrefを測定する方法を示すフローチャートである。
【
図8】3つの吐出状態の模式図とその時に温度検知素子が検知した温度波形信号に基づく温度変化信号(dT/dt)の波形を示す図である。
【
図9】実施例1に従うノズルからのインク吐出状態の判別処理を示すフローチャートである。
【
図10】正常吐出、吐出不良、或いは不吐出と判定された各ノズルのDref値と算出されたDdiffの値を示す図である。
【
図11】実施例2に従うノズルからの3つのインク吐出状態の判別処理を示すフローチャートである。
【
図12】正常吐出、吐出不良、或いは不吐出と判定された各ノズルに関し、算出されたDdiffの値と2つの閾値との関係を示す図である。
【
図13】正常吐出、吐出不良、或いは不吐出と判定された各ノズルのDref値と算出されたDdiffの値を示す図である。
【
図14】実施例3に従うDdiffの算出方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について、さらに具体的かつ詳細に説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には、複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられても良い。さらに添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0015】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0016】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0017】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0018】
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路であり、「記録素子は」吐出口に対応して設けられ、インク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を指すものとして用いる。例えば、吐出口と対向する位置に記録素子が設けられることがある。
【0019】
以下に用いる記録ヘッド用の素子基板(ヘッド基板)とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた構成を差し示すものである。
【0020】
さらに、基板上とは、単に素子基板の上を指し示すだけでなく、素子基板の表面、表面近傍の素子基板内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み(built-in)」とは、別体の各素子を単に基体表面上に別体として配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
【0021】
<フルライン記録ヘッドを搭載した記録装置(
図1)>
図1は本発明の実施形態であるインクを吐出して記録を行うフルライン記録ヘッドを用いた記録装置1000の概略構成を示した図である。
【0022】
図1に示されるように、記録装置1000は、記録媒体2を搬送する搬送部1と、記録媒体2の搬送方向と略直交して配置されるフルライン記録ヘッド3とを備え、複数の記録媒体2を連続的又は間欠的に搬送しながら連続記録を行うライン型記録装置である。フルライン記録ヘッド3は記録媒体の搬送方向と交差する方向に並ぶインクの吐出口を備えている。フルライン記録ヘッド3には、インク経路内の圧力(負圧)を制御する負圧制御ユニット230と、負圧制御ユニット230と連通した液体供給ユニット220と、液体供給ユニット220へのインクの供給及び排出口となる液体接続部111とを設ける。
【0023】
筺体80には、負圧制御ユニット230と液体供給ユニット220と液体接続部111とが備えられる。
【0024】
なお、記録媒体2は、カットシートに限らず、連続したロールシートであっても良い。
【0025】
フルライン記録ヘッド(以下、記録ヘッド)3は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクによるフルカラー記録が可能である。記録ヘッド3に対しては、インクを記録ヘッド3へ供給する供給路である液体供給ユニット220と、メインタンクが接続される。また、記録ヘッド3には、記録ヘッド3へ電力および吐出制御信号を伝送する電気制御部(不図示)が電気的に接続される。
【0026】
また、記録媒体2はその搬送方向に長さFの距離だけ離して設けられた2つの搬送ローラ81、82を回転することにより搬送される。
【0027】
この実施例の記録ヘッドは、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用している。このため、記録ヘッド3の各吐出口には電気熱変換素子(ヒータ)を備えている。この電気熱変換素子は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換素子にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを加熱して吐出する。なお、記録装置は、上述した記録媒体の幅に相当する記録幅をもつフルライン記録ヘッドを用いた記録装置に限定するものではない。例えば、記録媒体の搬送方向に吐出口を配列した記録ヘッドをキャリッジに搭載に、そのキャリッジを往復走査しながらインクを記録媒体に吐出して記録を行ういわゆるシリアルタイプの記録装置にも適用できる。
【0028】
<制御構成の説明(
図2)>
図2は記録装置1000の制御回路の構成を示すブロック図である。
【0029】
図2に示すように、記録装置1000は、主に記録部を統括するプリントエンジンユニット417と、スキャナ部を統括するスキャナエンジンユニット411と、記録装置1000の全体を統括するコントローラユニット410によって構成されている。MPUや不揮発性メモリ(EEPROMなど)を内蔵したプリントコントローラ419は、コントローラユニット410のメインコントローラ401の指示に従ってプリントエンジンユニット417の各種機構を制御する。スキャナエンジンユニット411の各種機構は、コントローラユニット410のメインコントローラ401によって制御される。
【0030】
以下、制御構成の詳細について説明する。
【0031】
コントローラユニット410において、CPUにより構成されるメインコントローラ401は、ROM407に格納されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM406を作業領域としながら記録装置1000の全体を制御する。例えば、ホストI/F402またはワイヤレスI/F403を介してホスト装置400から印刷ジョブが入力されると、メインコントローラ401の指示に従って、画像処理部408は受信した画像データに対して所定の画像処理を施す。そして、メインコントローラ401はプリントエンジンI/F405を介して、画像処理を施した画像データをプリントエンジンユニット417へ送信する。
【0032】
なお、記録装置1000は無線通信や有線通信を介してホスト装置400から画像データを取得しても良いし、記録装置1000に接続された外部記憶装置(USBメモリ等)から画像データを取得しても良い。無線通信や有線通信に利用される通信方式は限定されない。例えば、無線通信に利用される通信方式として、Wi-Fi(Wireless Fidelity)(登録商標)やBluetooth(登録商標)が適用可能である。また、有線通信に利用される通信方式としては、USB(Universal Serial Bus)等が適用可能である。また、例えば、ホスト装置400から読取命令が入力されると、メインコントローラ401は、スキャナエンジンI/F409を介してこの命令をスキャナエンジンユニット411に送信する。
【0033】
操作パネル404は、ユーザが記録装置1000に対して入出力を行うためのユニットである。ユーザは、操作パネル404を介してコピーやスキャン等の動作を指示したり、記録モードを設定したり、記録装置1000の情報を認識したりすることができる。
【0034】
プリントエンジンユニット417では、CPUにより構成されるプリントコントローラ419は、ROM420に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM421を作業領域としプリントエンジンユニット417が備える各種機構を制御する。
【0035】
コントローラI/F418を介して各種コマンドや画像データが受信されると、プリントコントローラ419は、これを一旦RAM421に保存する。記録ヘッド3が記録動作に利用できるように、プリントコントローラ419は画像処理コントローラ422に、保存した画像データは記録データへ変換される。記録データが生成されると、プリントコントローラ419は、ヘッドI/F427を介して記録ヘッド3に記録データに基づく記録動作を実行させる。この際、プリントコントローラ419は、搬送制御部426を介して搬送ローラ81、82を駆動して、記録媒体2を搬送する。プリントコントローラ419の指示に従って、記録媒体2の搬送動作に連動して記録ヘッド3による記録動作が実行され、記録処理が行われる。
【0036】
ヘッドキャリッジ制御部425は、記録装置1000のメンテナンス状態や記録状態といった動作状態に応じて記録ヘッド3の向きや位置を変更する。インク供給制御部424は、記録ヘッド3へ供給されるインクの圧力が適切な範囲に収まるように、液体供給ユニット220を制御する。メンテナンス制御部423は、記録ヘッド3に対するメンテナンス動作を行う際に、メンテナンスユニット(不図示)におけるキャップユニットやワイピングユニットの動作を制御する。
【0037】
スキャナエンジンユニット411においては、メインコントローラ401が、ROM407に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM406を作業領域としながら、スキャナコントローラ415のハードウェア資源を制御する。これにより、スキャナエンジンユニット411が備える各種機構は制御される。例えば、コントローラI/F414を介してメインコントローラ401がスキャナコントローラ415内のハードウェア資源を制御して、ユーザによってADF(不図示)に積載された原稿を搬送制御部413を介して搬送し、センサ416によって読取る。そして、スキャナコントローラ415は読取った画像データをRAM412に保存する。
【0038】
なお、プリントコントローラ419は、上述のように取得された画像データを記録データに変換することで、記録ヘッド3にスキャナコントローラ415で読取った画像データに基づく記録動作を実行させることが可能である。
【0039】
<メンテナンス動作の説明(
図3)>
次に、記録ヘッド3に対するメンテナンス動作について説明する。
【0040】
図3はメンテナンスユニットの構成を示す斜視図である。
図3において、(a)はメンテナンスユニット16が待機ポジションにある状態を示し、(b)はメンテナンスユニット16がメンテナンスポジションにある状態を示す。
【0041】
図3に示すように、メンテナンスユニット16はキャップユニット10とワイピングユニット17とを備え、所定のタイミングにこれらを作動させてメンテナンス動作を行う。
【0042】
記録ヘッド3に対するメンテナンス動作を実行する際に記録ヘッド3はメンテナンス動作が可能なメンテナンスポジションに移動し、記録ヘッド3が記録中およびメンテナンス中以外の状態では待機ポジションに移動する。
【0043】
図3(a)に示すように、記録ヘッドが待機ポジションにあるとき、キャップユニット10は鉛直方向(z方向)上方に移動しており、ワイピングユニット17はメンテナンスユニット16の内部に収納されている。キャップユニット10はy方向に延在する箱形のキャップ部材10aを有し、これを記録ヘッド3の吐出口面に密着させることにより、吐出口からのインクの蒸発を抑制することができる。また、キャップユニット10は、キャップ部材10aを記録ヘッド3の吐出口面に密着させた状態で予備吐出によるインクを回収し、回収したインクを吸引ポンプ(不図示)に吸引させる機能も備えている。
【0044】
一方、
図3(b)に示すように、記録ヘッドがメンテナンスポジションにあるとき、キャップユニット10は鉛直方向(z方向)下方に移動しており、ワイピングユニット17がメンテナンスユニット16から引き出されている。ワイピングユニット17は、ブレードワイパユニット171とバキュームワイパユニット172の2つのワイパユニットを備えている。
【0045】
ブレードワイパユニット171には、吐出口面をx方向に沿ってワイピングするためのブレードワイパ171aが吐出口の配列領域に相当する長さだけy方向に配されている。ブレードワイパユニット171を用いたワイピング動作を行う際、ワイピングユニット17は、記録ヘッドがブレードワイパ171aに当接可能な高さに位置決めされた状態で、ブレードワイパユニット171をx方向に移動する。この移動により、吐出口面に付着するインクなどはブレードワイパ171aに拭き取られる。
【0046】
ブレードワイパ171aが収納される際のメンテナンスユニット16の入り口には、ブレードワイパ171aに付着したインクを除去するとともにブレードワイパ171aにウェット液を付与するためのウェットワイパクリーナ16aが配されている。ブレードワイパ171aは、メンテナンスユニット16に収納される度にウェットワイパクリーナ16aによって付着物が除去されウェット液が塗布される。そして、次に吐出口面をワイピングしたときにウェット液を吐出口面に転写し、吐出口面が乾燥するのを防いでいる。
【0047】
一方、バキュームワイパユニット172は、y方向に延在する開口部を有する平板172aと、開口部内をy方向に移動可能なキャリッジ172bと、キャリッジ172bに搭載されたバキュームワイパ172cとを有している。バキュームワイパ172cは、キャリッジ172bの移動に伴って吐出口面をy方向にワイピング可能になっている。バキュームワイパ172cの先端には、吸引ポンプ(不図示)に接続された吸引口が形成されている。このため、吸引ポンプを作動させながらキャリッジ172bをy方向に移動すると、記録ヘッドの吐出口面に付着したインク等は、バキュームワイパ172cによって拭き寄せられながら吸引口に吸い込まれる。この際、平板172aと開口部の両端に設けられた位置決めピン172dは、バキュームワイパ172cに対する吐出口面の位置合わせに利用される。
【0048】
ここでは、ブレードワイパユニット171によるワイピング処理を行いバキュームワイパユニット172によるワイピング動作を行わない第1のワイピング処理と、両方のワイピング処理を順番に行う第2のワイピング処理が備えられる。第1のワイピング処理を行う際、プリントコントローラ419は、まず、記録ヘッド3をメンテナンスポジションよりも鉛直方向(z方向)上方に退避させた状態で、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16から引き出す。そして、記録ヘッド3をブレードワイパ171aに当接可能な位置まで鉛直方向(z方向)下方に移動させた後、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16内へ移動させる。この移動により、吐出口面に付着するインクなどはブレードワイパ171aに拭き取られる。
【0049】
ブレードワイパユニット171が収納されると、プリントコントローラ419は、次にキャップユニット10を鉛直方向(z方向)上方に移動させ、キャップ部材10aを記録ヘッド3の吐出口面に密着させる。そして、その状態で記録ヘッド3を駆動して予備吐出を行わせ、キャップ内に回収したインクを吸引ポンプによって吸引する。以上が、第1のワイピング処理における一連の工程である。
【0050】
ここでは、第1のワイピング処理は、記録媒体100ページ分の記録動作が行われる毎に1回実行されるものとする。
【0051】
一方、第2のワイピング処理を行う際、プリントコントローラ419は、まず、記録ヘッド3をブレードワイパ171aに当接する高さに位置決めし、その状態でワイピングユニット17をメンテナンスユニット16からスライドさせて引き出す。これにより、ブレードワイパ171aによるワイピング動作が吐出口面に対して行われる。次に、平板172aと位置決めピン172dを用いて、記録ヘッド3の吐出口面とバキュームワイパユニット172の位置決めを行い、上述したバキュームワイパユニット172によるワイピング動作を実行する。その後、記録ヘッド3を鉛直方向(z方向)上方に退避させ、ワイピングユニット17を収納した後、第1のワイピング処理と同様に、キャップユニット10によるキャップ部材内への予備吐出と回収したインクの吸引動作を行う。以上が、第2のワイピング処理における一連の工程である。
【0052】
第2のワイピング処理は、第1のワイピング処理に比べて吐出口面に対する清浄効果は高いが処理時間は長くなる。このため、第2のワイピング処理は、第1のワイピング処理が50回行われる毎に1回実行されるものとする。即ち、第2のワイピング処理は、記録媒体5000ページ分の記録動作が行われる毎に1回実行される。
【0053】
<温度検知素子の構成の説明(
図4)>
図4はシリコン基板に形成された記録素子近傍の多層配線構造を示す図である。
【0054】
図4(a)は温度検知素子306を記録素子309の下層に層間絶縁膜307を介してシート状に配置した上面図である。
図4(b)は
図4(a)に示した上面図における破線x-x’に沿った断面図であり、
図4(c)は
図4(a)に示した破線y-y’に沿った断面図である。
【0055】
図4(b)に示すx-x’断面図と
図4(c)に示すy-y’断面図において、シリコン基板上に積層した絶縁膜302の上にアルミニウム等からなる配線303が形成され、さらに配線303の上に層間絶縁膜304が形成される。配線303と、チタン及び窒化チタン積層膜等からなる薄膜抵抗体の温度検知素子306とが層間絶縁膜304に埋め込まれたタングステン等からなる導電プラグ305を介して電気的に接続される。
【0056】
次に、温度検知素子306の下側に層間絶縁膜307が形成される。そして、配線303と、タンタル窒化珪素膜等からなる発熱抵抗体の記録素子309とが、層間絶縁膜304及び層間絶縁膜307を貫通するタングステン等からなる導電プラグ308を介して電気的に接続される。
【0057】
なお、下層の導電プラグと上層の導電プラグを接続する際は、中間の配線層からなるスペーサを挟んで接続されるのが一般的である。この実施例に適用する場合、中間の配線層となる温度検知素子の膜厚が数10nm程度の薄膜のため、ビアホール工程の際、スペーサとなる温度検知素子膜に対するオーバエッチ制御の精度が求められる。また、温度検知素子層のパターンの微細化に不利にもなる。このような事情を鑑み、この実施例では層間絶縁膜304及び層間絶縁膜307を貫通させた導電プラグを採用している。
【0058】
また、プラグの深さに応じて導通の信頼性を確保するために、この実施例では層間絶縁膜が一層の導電プラグ305は口径0.4μmとし、層間絶縁膜が二層を貫通する導電プラグ308ではより大きい口径0.6μmにしている。
【0059】
次に、シリコン窒化膜などの保護膜310、そして保護膜310の上にタンタルなどの耐キャビテーション膜311を形成してヘッド基板(素子基板)となる。さらに、感光樹脂等からなるノズル形成材312で吐出口313が形成される。
【0060】
このように、配線303の層と記録素子309の層の中間に独立した温度検知素子306の中間層を設けた多層配線構造としている。
【0061】
以上の構成から、この実施例で用いる素子基板では記録素子ごとに各記録素子に対応して設けられた温度検知素子により温度情報を得ることが可能になる。
【0062】
そして、その温度検知素子により検知された温度情報とその温度変化とから、素子基板の内部に設けられた論理回路(検査部)により対応する記録素子からのインク吐出状態を示す判定結果信号RSLTを得ることができる。判定結果信号RSLTは1ビットの信号であり、“1”が吐出正常を示し、“0”が吐出不良を示す。
【0063】
一般的に、薄膜抵抗体である温度検知素子306には工業製品としての製造上の膜厚ばらつきが一定量生じるため、複数の温度検知素子間には、それに起因する抵抗値の違いによる温度検知感度ばらつきが生じることが知られている。また、ノズル形成材312で成形される吐出口313も同様に製造上のばらつきによるノズル口径の分布が生じるため、温度検知感度に分布が生じる要因の一つである。
【0064】
<温度検知構成の説明(
図5)>
図5は
図4に示す素子基板を用いた温度検知の制御構成を表すブロック図である。
【0065】
図5に示すように、プリントエンジンユニット417は、素子基板5に実装された記録素子の温度を検知するために、MPUを内蔵したプリントコントローラ419と、記録ヘッド3と接続するヘッドI/F427と、RAM421とを備える。また、ヘッドI/F427は素子基板5に送信するための種々の信号を生成する信号生成部7と、温度検知素子306が検出した温度情報に基いて素子基板5から出力される判定結果信号RSLTを入力する判定結果抽出部9とを含む。
【0066】
温度検知のため、プリントコントローラ419が信号生成部7に指示を発行すると、信号生成部7は素子基板5に対して、クロック信号CLK、ラッチ信号LT、ブロック信号BLE、記録データ信号DATA、ヒートイネーブル信号HEを出力する。信号生成部7は更に、センサ選択信号SDATA、定電流信号Diref、吐出検査閾値信号Ddthを出力する。
【0067】
センサ選択信号SDATAは、温度情報を検出する温度検知素子を選択する選択情報と選択された温度検知素子への通電量指定情報、判定結果信号RSLTの出力指示に関わる情報を含む。例えば、素子基板5が複数の記録素子からなる記録素子列を5列、実装する構成である場合、センサ選択信号SDATAに含まれる選択情報は列を指定する列選択情報とその列の記録素子を指定する記録素子選択情報とを含む。一方、素子基板5からはセンサ選択信号SDATAにより指定された列の1つの記録素子に対応する温度検知素子により検知された温度情報に基づく1ビットの判定結果信号RSLTが出力される。
【0068】
判定結果信号RSLTから出力される正常吐出を示す“1”と吐出不良を示す“0”の値は、温度検知素子から出力される温度情報と吐出検査閾値信号Ddthが示す吐出検査閾値電圧(TH)とを素子基板5の内部で比較することにより得られる。この比較については後で詳述する。
【0069】
なお、この実施例では5列分の記録素子あたり、1ビットの判定結果信号RSLTが出力される構成を採用している。従って、素子基板5が記録素子列を10列分、実装する構成では判定結果信号RSLTは2ビットとなり、この2ビット信号が1本の信号線を介してシリアルに判定結果抽出部9へと出力される。
【0070】
図5から分かるように、ラッチ信号LT、ブロック信号BLE、センサ選択信号SDATAは判定結果抽出部9にフィードバックされる。一方、判定結果抽出部9は、温度検知素子が検出した温度情報に基いて素子基板5から出力される判定結果信号RSLTを受信し、ラッチ信号LTの立下りと同期して各ラッチ期間に判定結果を抽出する。そして、その判定結果が吐出不良だった場合に、判定結果に対応するブロック信号BLE、センサ選択信号SDATAをRAM421に格納する。
【0071】
そして、プリントコントローラ419は、RAM421に格納された吐出不良ノズルを駆動するために用いたブロック信号BLE、センサ選択信号SDATAに基づいて、該当ブロックの記録データ信号DATAから吐出不良ノズルに対する信号を消去する。そして、代わりに不吐補完用のノズルを該当ブロックの記録データ信号DATAに追加して、信号生成部7に出力する。
【0072】
<吐出状態の判定方法の説明(
図6~
図8)>
図6は記録素子に駆動パルスを印加したときの、温度検知素子から出力される温度波形(センサ温度:T)とその波形の温度変化信号(dT/dt)を表した図である。
【0073】
なお、
図6では温度波形(センサ温度:T)は温度(℃)で示されているが、実際には温度検知素子に定電流が供給され、温度検知素子の端子間電圧(V)が検出される。この検出電圧は温度依存性があるので、
図6には検出電圧を温度に変換して温度として表記されている。また、温度変化信号(dT/dt)は検出電圧の時間変化(mV/sec)として表記されている。
【0074】
図6に示すように、記録素子309に駆動パルス211を印加するとインクが正常に吐出される場合(正常吐出)、温度検知素子306の出力波形は波形201のようになる。波形201が示す温度検知素子306により検知される温度の降温過程において、正常吐出時には、吐出されたインク液滴の尾引が引き戻されて記録素子309の界面(最表面)に接触着して記録素子309の界面が冷却されることにより特徴点209が出現する。そして、特徴点209以降で波形201は降温速度が急激に増大する。これに対して、吐出不良の場合、温度検知素子306の出力波形は波形202のようになり、正常吐出時の波形201のように特徴点209は現れず、降温過程において降温速度は徐々に低下していく。
【0075】
図6の一番下は、温度変化信号(dT/dt)を示しており、温度検知素子の出力波形201、202を温度変化信号(dT/dt)に処理した後の波形を波形203、204とする。この時の温度変化信号への変換方法はシステムに応じて適切に選択される。この実施例における温度変化信号(dT/dt)は、温度波形をフィルタ回路(この構成では1回微分)と反転アンプを通した後に出力される波形である。
【0076】
さて、波形203には、波形201の特徴点209以降の最大降温速度に起因するピーク210が出現する。波形(dT/dt)203は、素子基板5に実装されたコンパレータに予め設定された吐出検査閾値電圧(TH)と比較され、吐出検査閾値電圧(TH)を上回る区間(dT/dt≧TH)で正常吐出であることを示すパルスが判定信号(CMP)213に現れる。
【0077】
一方、波形202には特徴点209が現れないため降温速度も低く、波形204に現れるピークは吐出検査閾値電圧(TH)よりも低くなる。波形(dT/dt)202も、素子基板5に実装されたコンパレータに予め設定している吐出検査閾値電圧(TH)と比較される。そして、吐出検査閾値電圧(TH)を下回る区間(dT/dt<TH)では、パルスが判定信号213には現れない。
【0078】
従って、この判定信号(CMP)を取得することで各ノズルの吐出状態を把握することが可能となる。この判定信号(CMP)が上述した判定結果信号RSLTになる。
【0079】
記録装置の本体部では、予め吐出判定閾値電圧(TH)を正常吐出時と不吐出時のそれぞれの温度変化信号(dT/dt)のピーク210の電圧に相当する値(Def)の間に来るように設定することで、正常吐出と不吐出を区別することが可能となる。
【0080】
次に、各ノズルの温度変化信号(dT/dt)203のピーク210の電圧に相当する値(Dref)を記録装置の本体部で測定する方法を説明する。
【0081】
図7は各ノズルのDrefを測定する方法を示すフローチャートである。
【0082】
まず、ステップS201では、吐出検査閾値の再設定の対象となるノズルを設定する。次に、ステップS202では、対象ノズルの吐出検査閾値電圧(TH)を“255”と設定する。
【0083】
吐出検査閾値電圧(TH)は温度検知素子306から出力される検知温度の温度変化(dT/dt)に対して比較される。この温度変化の値は物理的にはmV/secの単位で表現されるが、この実施例では、この値を量子的に8ビットで表すことにしている。従って、ここでは、8ビット表現の最大値である“255”を吐出検査閾値電圧(TH)の値として仮に設定している。
【0084】
そして、ステップS203では設定された吐出検査閾値電圧(TH)を用いて吐出検査を実行する。続くステップS204では、設定された吐出検査閾値電圧(TH)により、選択されたノズルの判定結果信号RSLTを調べる。ここで、判定結果信号RSLTの値が“1”であれば、処理はステップS207に進み、判定結果信号RSLTの値が“0”であれば、処理はステップS205に進む。
【0085】
そして、ステップS205では、吐出検査閾値電圧(TH)が“0”、即ち、最小値であるかどうかを調べる。ここで、吐出検査閾値電圧(TH)が“0”であれば、処理はステップS207に進み、“0”でなければ処理はステップS206に進み、吐出検査閾値電圧(TH)の値を“-1”し、処理はステップS203に戻る。
【0086】
このように、ステップS203~S206の処理により、1つの選択ノズルに対して吐出検査閾値電圧(TH)の値を段階的に変化させながら、吐出検査が繰り返され、判定結果信号RSLTが“0”から“1”に変化する検査結果の変化点が特定される。この検査結果の変化点は、温度変化信号(dT/dt)のピークの値(Dref)と同義となる。そして、ステップS207では、この検査結果の変化点に対応する吐出検査閾値電圧(TH)の値をRAM421に一時的に保存する。
【0087】
以上の処理を任意のタイミングですべてのノズルに対して実行することで、各ノズルの温度変化信号(dT/dt)203のピーク210の電圧に相当する値(Dref)を測定することが可能となる。
【0088】
なお、
図7では、吐出検査閾値(TH)を255から検査結果が変化するまで“-1”ずつ段階的に下げていく処理を例として説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、システムに応じて適切に設定可能である。例えば、現状保持しているDrefの値を吐出検査閾値(TH)として設定し、その検査結果に応じて吐出検査閾値(TH)を上げる又は下げることでように処理しても良い。この方法は、検査結果の変化点をより速く特定できるという点で処理時間の観点から望ましいものである。
【0089】
また、各ノズルの温度変化信号(dT/dt)203のピーク210の電圧に相当する値(Dref)は、ノズル内のインク粘度の増大や記録媒体の紙粉や空気中の埃などの付着による吐出不良など吐出状態で変化する。このため、ピーク210の電圧に相当する値(Dref)は、所定タイミング毎に更新することが望ましい。ここでいう所定タイミングとは、通紙枚数、記録ドット数、時刻、前回検査からの経過期間、印刷ジョブ毎、印刷ページ毎、記録ヘッドの交換時、記録ヘッドの回復処理時などであり、システムに応じて適切に設定するものである。
【0090】
・吐出状態の判定の課題について
図8は3つの吐出状態のノズル部と吐出されたインク滴の模式図と、各状態での温度検知素子が検知した温度波形信号に基づく温度変化信号(dT/dt)の波形を示す図である。
【0091】
図8(a)はインクが正常吐出される場合の吐出状態の模式図と温度変化のプロフィールを示す図である。ここで、正常吐出時の波形203のピークに対して吐出検査閾値電圧(TH)が低く設定されている。従って、吐出検査閾値電圧(TH)と温度変化信号(dT/dt)とを比較することにより、正常吐出として判別される。
【0092】
図8(b)は吐出口面にインク滴が付着し、吐出したインク滴の飛翔の直進性の状態が悪い場合の模式図と温度変化のプロフィールを示す図である。インク滴は直進性が悪いため記録媒体に到達する位置は意図した位置からずれており、白いスジやその付近の濃いスジなどのように視認されるため画質劣化の一因となる。この現象は吐出口面へのインク滴の付着に限らず、記録媒体から発生する紙粉の付着であったり、空気中に漂う埃であったり、様々な要因で発生するものである。この状態に陥った場合は、メンテナンス処理により吐出口面を清掃する必要がある。
【0093】
この時の波形203は、吐出したインク滴の直進性は十分ではないものの、ヒータ上では加熱による発泡現象は生じているため、ある程度の温度変化信号は出力される。しかしながら、
図8(b)に示されるように、
図8(a)で示した正常吐出時の波形203(
図8(b)では点線)のピーク値に対してそのピーク値は低くなる。これは、吐出口面上の異物により、吐出されたインクの飛翔が影響を受け、吐出されたインク液滴の尾引の量が変化するためであると考えられる。
【0094】
ところが正常吐出時の波形203(
図8(b)では点線)からの変化量は、先述した薄膜抵抗体である温度検知素子306の温度検知感度ばらつきよりも小さい場合が多い。そのため、この状態の波形のピークに対して吐出検査閾値電圧(TH)は低く設定することになり、吐出検査閾値電圧(TH)と温度変化信号(dT/dt)とを比較することにより、正常吐出として判別される。
【0095】
図8(c)は記録ヘッドのノズル内のインクの粘度の増大や固着により、インク滴が吐出されなかった場合の模式図と温度変化のプロフィールを示す図である。インク滴は吐出されないため、記録媒体上の意図した位置にはインク滴がない状態となり、白スジとして視認されこれも画質劣化の一因となる。この状態に陥った場合は、メンテナンス処理によりノズル内の粘度の増大したインクや吐出口面に固着したインクを除去する必要がある。このような場合、先述のバキュームワイピングなどでも回復可能であるが、消費するインク量が多いという欠点がある。この実施例では、インク循環動作を実行し、ノズル内にフレッシュなインクを一定期間供給し続けることで、インクを消費せずに粘度の増大したインクや固着したインクを溶解させてノズル状態を回復させることが可能である。
【0096】
正常吐出時の波形203からの変化量は、先述した薄膜抵抗体である温度検知素子306の温度検知感度ばらつきよりよりも十分に大きく、この状態の波形203のピークに対して吐出検査閾値電圧(TH)は高く設定されている。このため、吐出検査閾値電圧(TH)と温度変化信号(dT/dt)とを比較することにより、吐出不良として判別される。なお、
図8(c)でも正常吐出の場合の波形は参考のために点線で示されている。
【0097】
以上、
図8(a)~
図8(c)で示したように、正常吐出の状態、吐出不良の状態、不吐出の状態に応じて、温度変化信号(dT/dt)のピーク値が異なる。このため、吐出状態の判定を実行すると、吐出判定閾値電圧(TH)との比較により、以下の判定結果信号RSLTが出力される。即ち、
図8(a)の場合、判定結果信号RSLT“1”
図8(b)の場合、判定結果信号RSLT“1”
図8(c)の場合、判定結果信号RSLT“0”
となる。
【0098】
この場合、判定結果信号RSLT“1”と判定されたノズルは正常吐出状態または不吐出状態のどちらかの可能性があることになり、判定結果信号RSLT“0”と判定されたノズルは不吐出状態ということになる。正常吐出状態と吐出不良状態の判別ができないということは、適切なタイミングによる回復処理を実行できずに白スジなどの画像不良が発生する可能性がある。
【0099】
実際の吐出状態が吐出口面へのインク滴の付着による吐出不良であった場合、吐出検査を実行後、ブレードワイピングによる吐出口面の払拭を実行する必要がある。しかしながら、この方法に従った判定結果では正常吐出または吐出不良の両方の可能性を示唆しているため、実際に吐出不良が発生しているのか、またどのタイミングで回復処理を実行すればよいのか判断することが困難である。
【0100】
さらに吐出不良状態を検知できないため、所定タイミング毎(例えば、所定通紙枚数毎)にブレードワイピング処理を実行したとすると、実際の吐出状態とは関係なくブレードワイピング処理が実行されるため、過小または過剰な回復処理となる。その結果、記録画像の品質劣化が発生したり無駄な回復処理時間が発生したりすることとなる。
【0101】
このように、上述した判定方法において、吐出検査の判定結果に応じた処理を実行する場合、正常吐出状態と吐出不良状態の区別が難しく、最適なタイミングでの回復処理を選択できないことも想定される。以下に説明する実施例ではこのような課題を解決するための構成と制御について説明する。
【実施例1】
【0102】
この実施例では、上述した実施形態の方法では区別することが困難であった正常吐出と吐出不良状態を判別するための方法を、フローチャートと模式図を用いて説明する。
【0103】
図9は実施例1に従うノズルからのインク吐出状態の判別処理を示すフローチャートである。
【0104】
まず、ステップS301では、処理対象となる記録ヘッドのノズル列を設定し、次のステップS302では、対象ノズル列内ノズル番号をiとし、seg0から処理を開始するためi=0と設定する。
【0105】
次にステップS303では、処理対象ノズルとそれに隣接するノズルのDrefを取得する。なお、この実施例では隣接するノズルの数を2としている。つまり処理対象ノズルと両側2ノズル分を合わせて5ノズル分のDrefを取得することとなる。例えば、処理対象ノズルがseg8の場合、隣接するノズルはseg6、seg7、seg9、seg10である。この隣接ノズルの数は、これに限定するものではなくシステムに応じて適切に設定する。Dref値は
図7を参照して前述した処理を任意のタイミング実行し、最新の値をメモリ(RAM421)に保持する。ここで、ノズル列両端の各2ノズルはこの5ノズル分のDref値を取得することができず、適切な処理ができないため、この処理の対象外とする。
【0106】
さらにステップS304では、隣接ノズルのDrefの統計により得られる値と処理対象ノズルのDref値の差分値Ddiffを算出する。これ以降の説明では、隣接ノズルのDrefの統計により得られる値として、隣接ノズルのDrefの平均値を用いる。続いて、ステップS305では、ステップS304において算出されたDdiffを所定の閾値と比較する。この実施例では、所定の閾値を“2.0”としている。ここで、Ddiff<2.0である場合、処理はステップS306に進み、正常吐出と判定し、Ddiff≧2.0である場合、処理はステップS307に進み、吐出不良または不吐出と判定する。いずれの結果が判定されても、処理はステップS308に進み、その判定結果を本体メモリ(RAM421)に保存する。なお、上述した隣接ノズルのDrefの統計により得られる値は隣接ノズル各々のDrefの平均値に換えて、中央値、最頻値を使用し、以降に説明する処理を行うこともできる。
【0107】
そして、ステップS309では、処理対象ノズルすべての判定が終了したかどうかを調べる。ここで、まだ判定が終了していない処理対象ノズルがある場合、処理はステップS310に進み、処理対象ノズルを次のノズルに変更し、さらに処理はステップS303に進み、上述の処理を繰り返す。これに対して、該当ノズル列において処理対象ノズルすべての判定が終了した場合、処理はステップS311に進み、処理対象ノズル列すべての判定が終了したかどうかを調べる。
【0108】
ここで、まだ判定が終了していない処理対象ノズル列がある場合、処理はステップS301に戻り、対象ノズル列を設定し、上述の処理を繰り返す。これに対して、処理対象ノズル列すべてのノズルの判定が終了したなら、処理を終了となる。
【0109】
図10は正常吐出、吐出不良、或いは不吐出と判定された各ノズルのDref値と算出されたDdiffの値を示す図である。なお、
図10(a)と
図10(b)において、○は正常吐出と判定されたノズルを、△は吐出不良と判定されたノズルを、□は不吐出と判定されたノズルを示す。
【0110】
次に、
図10を参照して各吐出状態の判別方法を説明する。
【0111】
図10(a)は各ノズルの温度変化情報(Dref値)を示している。この例では、記録ヘッド3は32個のノズル(seg0~seg31)を備えており、各ノズルの吐出状態は異なっているとしている。前述のとおり、正常吐出状態と、吐出口面に付着したインクによる吐出不良状態と、ノズルに固着したインクによる不吐出状態とでは、検知される温度変化信号(Dref)が異なる。
図10(a)に示す例では、ノズル(seg6)とノズル(seg18)は吐出不良状態にあり、ノズル(seg12)とノズル(seg24)とは不吐出状態にあることを示している。
【0112】
さて、たとえ正常吐出状態にあると判定されたノズルであっても、Dref値は薄膜抵抗体である温度検知素子の温度検知感度ばらつきに起因した、ノズル列内でのばらつきを持っている。そのばらつきの幅は、
図10(a)に示すDref値からすれば、6ランクであるのに対し、吐出不良によるDref値の変化は2~3程度と小さいことがわかる。つまりこの状態において、所定閾値で吐出状態を区別しようとすると、正常吐出ノズルと吐出不良ノズルを区別することができない。
【0113】
図10(b)は
図10(a)に示した状態のノズルに対して、
図9に示した処理を実行して得られたDdiff値を示している。Ddiff値は対象ノズルに対して隣接する両側2ノズルずつのDrefの平均値と処理対象ノズルのDref値の差分値であるので、ノズル列の両端2ノズルは本処理の対象外となる。従って、
図10(b)では、両端2ノズルずつ(seg0、seg1、seg30、seg31)のDdiff値は求められず、非表示となっている。
【0114】
上述のように、正常吐出と判定されたノズルであっても、Dref値は薄膜抵抗体である温度検知素子の温度検知感度ばらつきに起因した、ノズル列内でのばらつきを持っているが、このばらつきは
図10(a)が示すように隣接するノズル間では極めて小さい。これは、記録ヘッド用の素子基板の製造過程において、近い素子同士は、遠い素子同士と比較して製造時の加工条件の一致度合が高いことに起因すると想定される。これにより処理対象ノズルに対応する温度検知素子と処理対象ノズル近傍のノズルに対応する温度検知素子とは温度検知感度においてもばらつきが少ないと考えられる。そのため、正常吐出状態と判定されたノズルのDdiff値は、
図10(b)に示すようにゼロ付近に分布することになる(図中の〇)。従って、処理対象ノズルの本来のDref値を隣接する複数のノズルのDref値から推定し比較することで、吐出不良または不吐出によってDref値が変化したノズルを特定することが可能となる。このような点で隣接ノズルを用いることは好適である。
【0115】
以上の説明では、処理対象ノズルの本来のDref値を隣接する複数のノズルのDref値から推定し比較する形態を例にとり説明をした。しかしながら、上述した観点に基づけば、必ずしも処理対象ノズルの隣接ノズルを用いなくとも、その他の近傍のノズルのDref値を利用して、処理対象ノズルの本来のDref値を推定し、比較することが可能である。例えば、ステップS304においては、処理対象ノズルの近傍の各ノズルのDrefの統計により得られる値と処理対象ノズルのDref値の差分値をDdiffとして算出し、それ以降の処理を行うことができる。なお、この近傍の範囲については、素子基板内の各位置の特性のばらつきを考慮して適宜設定することが可能であり、例えば、処理対象ノズルから両側に150μmまでの範囲を近傍とすることができる。そして、その範囲のノズルのうち、例えば4つのノズルのDref値の統計により得られる値を用いることも可能である。素子基板の面内均一性が高く、各温度検知素子の特性のばらつきが極めて小さく抑えられているならば、近傍の範囲をさらに広げても問題ない。
【0116】
つまり
図10(b)に示すように、各ノズルのDdiff値が閾値(Ddiff_TH)の2.0を超えているノズルを吐出不良(図中の△)又は不吐出状態(図中の□)として区別することが可能となっている。例えば、処理対象ノズルをseg9とした場合、隣接するノズル(seg7、8、10、11)のDrefの平均値は103.5となり、ノズル(seg9)のDrefは103であるため、そのDdiff値は+0.5となり正常吐出ノズルと判定される。また、処理対象ノズルをseg6とした場合、隣接するノズル(seg4、5、7、8)のDrefの平均値は103.0となり、seg6のDrefは100であるためDdiff値は+3.0となり吐出不良ノズル又は不吐出ノズルと判定される。
【0117】
従って以上説明した実施例に従えば、各ノズルのDref値からDdiff値を算出し閾値と比較することで正常吐出と、吐出不良及び不吐出の2つの吐出状態に分類することが可能となる。これにより、吐出不良状態のノズルを検知することができ、ブレードワイピングなどの回復処理を適切なタイミングで実行することが可能となる。
【0118】
なお、各ノズルのDref値を複数回サンプリングしその平均値をDref値とすることで、各ノズルのDref値の繰り返し誤差をキャンセルすることができ、より精度の高い吐出状態の判別が可能となる。
【実施例2】
【0119】
実施例1では正常吐出状態と、吐出不良及び不吐出状態の2つの吐出状態に分類する方法について説明したが、ここではさらに正常吐出と吐出不良状態と不吐出状態の3つの状態に吐出状態を判別するための方法について説明する。なお、基本的な処理の流れは実施例1と共通であるため、ここでは、この実施例に特徴的な構成についてのみ説明する。
【0120】
図11は実施例2に従うノズルからの3つのインク吐出状態の判別処理を示すフローチャートである。なお、
図11において、既に
図9を参照して説明したのと同じ処理ステップには同じステップ参照番号を付し、その説明は省略する。
【0121】
この実施例では実施例1と同様に、ステップS301~S304の処理を実行後、ステップS305では対象ノズルのDdiff値を所定の閾値(第1の閾値:Ddiff_TH1)と比較する。この実施例では、所定の閾値を“2.0”としている。ここで、Ddiff<2.0(即ち、第1の閾値未満)である場合、処理はステップS306に進み、正常吐出と判定し、Ddiff≧2.0(即ち、第1の閾値以上)である場合、処理はステップS305Aに進む。
【0122】
ステップS305Aでは対象ノズルのDdiff値を別の所定の閾値(第2の閾値:Ddiff_TH2)と比較する。この実施例では、別の所定の閾値を“6.0”としている。ここで、Ddiff<6.0(即ち、第2の閾値未満)である場合、処理はステップS307Aに進み、吐出不良と判定し、Ddiff≧6.0(即ち、第2の閾値以上)である場合、処理はステップS307Bに進み、不吐出であると判定する。
【0123】
そして、ステップS306、ステップS307A、ステップS307Bのいずれの結果が判定されても、処理はステップS308に進み、その判定結果を本体メモリ(RAM421)に保存する。
【0124】
その後は、実施例1と同様に、ステップS308~S311の処理を実行する。
【0125】
図12は正常吐出、吐出不良、或いは不吐出と判定された各ノズルに関し、算出されたDdiffの値と2つの閾値との関係を示す図である。なお、
図12においても、○は正常吐出と判定されたノズルを、△は吐出不良と判定されたノズルを、□は不吐出と判定されたノズルを示す。
【0126】
次に、
図12を参照して各吐出状態の判別方法を説明する。
【0127】
図12に示すように、各ノズルのDdiffの値に対して、第1の閾値(Ddiff_TH1)と第2の閾値(Ddiff_TH2)が設定されており、各閾値によって区切られた範囲に異なる吐出状態が対応している。
【0128】
この実施例では第1の閾値(Ddiff_TH1)は2.0と設定しており、Ddiff≦2.0の範囲は正常吐出として分類される。また、第2の閾値(Ddiff_TH2)は6.0と設定しており、2.0<Ddiff≦6.0の範囲は不良吐出として分類される。例えば、処理対象ノズルをseg9とした場合、
図10(b)が示すように、隣接するノズル(seg7、8、10、11)のDrefの平均値は103.5であり、ノズル(seg9)のDrefは103である。このため、Ddiff値は+0.5となり正常吐出と判定される。
【0129】
また、処理対象ノズルをseg6とした場合、隣接するノズル(seg4、5、7、8)のDrefの平均値は103.0であり、seg6のDrefは100であるため、
図12によれば、Ddiff値は+3.0となり吐出不良と判定される。また、処理対象ノズルをseg12とした場合、隣接するノズル(seg10、11、13、14)のDrefの平均値は103.8であり、seg12のDrefは95であるため、
図12によれば、Ddiff値は+8.8となり不吐出に判定される。
【0130】
従って以上説明した実施例に従えば、Ddiffの値を2つの閾値と比較することで正常吐出、吐出不良、不吐出の3つの吐出状態に分類することが可能となる。これにより、適切なタイミングでの回復処理が実行可能となるのみならず、次のような処理も可能となる。即ち、ノズル毎に吐出状態を特定し、不吐出ノズルに対する予備吐出のための駆動回数数を増加させて選択的に回復を促したり、吐出不良ノズル数のみをカウントしてブレードワイピングのタイミングを最適化することなどが可能になる。さらに、不吐出ノズルを検知した場合には、吸引回復などのより強力な回復処理を実行するなど、より詳細な回復処理を実行することができる。
【実施例3】
【0131】
実施例1、2では隣接する4つのノズルのDrefの平均値から処理対象ノズルのDrefの差分を算出することで吐出状態を判定した。しかしながら、この方法では隣接するノズルに不吐出ノズルが存在すると隣接する4つのノズルのDrefの平均値が不吐ノズルのDrefによって低めに算出され、吐出不良ノズルが検知できない可能性がある。これを踏まえ、この実施例では、隣接ノズルが不吐出ノズルである場合に、そのノズルのDrefを除いてDrefの平均値を計算することにより、対象ノズルの吐出状態をより正確に判定する例について説明する。
【0132】
図13は
図10と同様な正常吐出、吐出不良、或いは不吐出と判定された各ノズルのDref値と算出されたDdiffの値を示す図である。なお、
図13(a)と
図13(b)において、○は正常吐出と判定されたノズルを、△は吐出不良と判定されたノズルを、□は不吐出と判定されたノズルを示す。また、
図13(b)に示したDdiffの値は、実施例1、2で説明したのと同様な方法で算出されたものである。
【0133】
さて、
図13(a)によれば、処理対象ノズルをseg6とした場合、隣接する4つのノズル(seg4、5、7、8)のDrefの平均値は101.3となり、ノズル(seg6)のDrefは100であるためDdiff値は+1.3となる。従って、
図13(b)に示すように、処理対象ノズルは正常吐出と判定される。しかしながら、ノズル(seg6)実際は吐出不良状態であるため、誤判定したことになる。この原因は、処理対象ノズルの隣接ノズル(この場合、seg5)が低いDrefの値を示す不吐出状態であるため、4つの隣接ノズルのDrefの平均値が実施例1、2で説明した例と比較して、より小さく算出されたことに起因する。
【0134】
次に、このようの状況を回避するための処理を説明する。
【0135】
図14はこの実施例に従うDdiffの算出方法を説明する図である。なお、
図14におけるDdiffの算出は、
図13(a)に示した各ノズルのDref値と同じDref値を用いて行うものとする。
【0136】
図14(a)に示すように各ノズルのDrefの値と所定閾値を比較し、不吐出ノズルを特定する。この実施例では所定閾値を“97”と設定している。これにより、所定閾値を下回るノズル(seg5)が不吐出ノズルとして特定される。
【0137】
次に実施例1、2で説明したようなDdiffの算出処理を実行するが、この実施例では、隣接ノズルのDrefの平均値を算出処理において不吐出ノズルのDref、即ち、ノズル(seg5)のDrefは使用しないこととする。これにより、処理対象ノズルをseg6とした場合、隣接する3つのノズル(seg4、seg7、seg8)のDrefの平均値は103.3となり、ノズル(seg6)のDrefは100であるため、算出されるDdiff値は+3.3となる。このDdiff値を閾値(Ddiff_TH)の2.0と比較すると、Ddiff≧2.0となり、吐出不良又は不吐出ノズルと判定することができる。さらに、実施例2の
図11に示したような2つの閾値を用いて比較すると、2.0≦Ddiff<6.0となり、吐出不良ノズルと判定することができる。
【0138】
従って以上説明した実施例に従えば、実施例1、2で説明した処理の実行前に不吐出ノズルを特定し、処理対象ノズルの隣接ノズルのDrefの平均値を算出する際にこの不吐出ノズルのDrefの値を除外する。これにより、隣接ノズルに不吐出ノズルが存在しても、その影響を排除して、より正確に処理対象ノズルのインク吐出状態を判定することができる。
【0139】
なお、実際の処理では、隣接ノズルのDref平均値算出時に不吐出ノズルのDrefを使用しなければ良いので、この実施例のように不吐出ノズルを予め特定し除外してもよいし、平均値算出時に隣接ノズルのDrefの最小値を除外する処理を行ってもよい。また、特定された不吐出ノズルの正常吐出時のDrefを保持している場合はその値に置換して処理をしてもよい。
【0140】
このように実施例1、2で説明した処理の実行前に予め不吐出ノズルを特定し、隣接ノズルのDrefの平均値を算出する際に、著しくばらつきの多い値を除外することで、どのような状況でも高精度に不吐出、吐出不良状態を検知することが可能となる。
【符号の説明】
【0141】
1 搬送部、2記録媒体、3 記録ヘッド、5 素子基板、7 信号生成部、
9 判定結果抽出部、80 筺体、81、82 搬送ローラ、111 液体接続部、
220 液体供給ユニット、230 負圧制御ユニット、400 ホスト装置、
404 操作パネル、417 プリントエンジンユニット、
419 プリントコントローラ、421 RAM、427 ヘッドI/F、
1000 インクジェット記録装置