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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】内燃機関用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 163/00 20060101AFI20240226BHJP
   C10M 141/12 20060101ALI20240226BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20240226BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20240226BHJP
   C10M 159/22 20060101ALN20240226BHJP
   C10M 129/54 20060101ALN20240226BHJP
   C10M 133/38 20060101ALN20240226BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20240226BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20240226BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240226BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20240226BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240226BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20240226BHJP
【FI】
C10M163/00
C10M141/12
C10M139/00 Z
C10M133/16
C10M159/22
C10M129/54
C10M133/38
C10N40:25
C10N10:12
C10N10:04
C10N20:02
C10N30:00 Z
C10N30:12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019176121
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021054878
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】松田 裕充
(72)【発明者】
【氏名】常岡 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】楠原 慎太郎
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-148004(JP,A)
【文献】国際公開第2018/212340(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/212339(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159006(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/031404(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/143365(WO,A1)
【文献】特開2014-132076(JP,A)
【文献】特開2014-122343(JP,A)
【文献】特開2017-179197(JP,A)
【文献】特開2015-189887(JP,A)
【文献】特開2014-227424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラレル型ハイブリッド車の内燃機関の潤滑に用いられる内燃機関用潤滑油組成物であって、
1種以上の鉱油系基油もしくは1種以上の合成系基油またはそれらの組み合わせからなり、100℃における動粘度が2.0~5.0mm/sである潤滑油基油と、
(A)油溶性有機モリブデン化合物を、組成物全量基準でモリブデン量として50~2000質量ppmと、
(B)N-オレオイルサルコシンを、組成物全量基準で0.2~5質量%と、
(C)カルシウムサリシレートを含むカルシウム系清浄剤を、組成物全量基準でカルシウム量として500~3000質量ppmと
を含有し、
150℃におけるHTHS粘度が1.7~2.3mPa・sであることを特徴とする、
内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
(D)マグネシウム系清浄剤を、組成物全量基準でマグネシウム量として50~2000質量ppm
をさらに含有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記(C)成分がホウ酸カルシウムを含む、
請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
(E)窒素含有無灰分散剤を、組成物全量基準で窒素分として100~1000質量ppm
をさらに含有する、請求項1~3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記(E)成分は、ホウ酸変性コハク酸イミド無灰分散剤を、組成物全量基準でホウ素分として50~500質量ppm含有する、請求項1~4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
150℃におけるHTHS粘度が1.7~2.0mPa・sである、請求項1~5のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関はその発明以来、長年にわたり種々の輸送手段の動力源を担ってきた。近年、内燃機関に求められる省燃費性は高まる一方であり、この要求に対応するために内燃機関の潤滑油にも高い省燃費性能が求められている。
【0003】
各種の輸送手段の中でも、自動車は陸上における輸送の多くを担っており、その省燃費性の向上は重大な関心を集めている。自動車におけるさらなる省燃費性の向上のため、内燃機関と電動モーターとを組み合わせた動力ユニットを備えるハイブリッド自動車が提案され、商業的成功を収めている。ハイブリッド自動車は、駆動系には電動モーターのみが機械的に接続されており、常に電動モーターの出力で走行し、内燃機関は専ら電動モーターを駆動するための電力を発電するために最も効率の良い所定の回転数を維持するように運転される、シリーズ型のハイブリッド自動車と、内燃機関および電動モーターの両方が駆動系に機械的に接続されており、内燃機関と電動モーターとの出力負担を速度に応じて適宜配分し又は切り替えながら走行する、パラレル型のハイブリッド自動車との2種類に分類される。内燃機関には最も効率の高い回転数があり、これより低回転数になるほどトルクが低下する。電動モーターは低回転数におけるトルクは高いが高回転数になるほど効率が低下する。パラレル型のハイブリッド自動車によれば、内燃機関と電動モーターとで互いの欠点を補い合うことができるので、低速から高速まで全速度域にわたって燃料効率を高めることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2018/212339号パンフレット
【文献】国際公開2018/212340号パンフレット
【文献】特開2016-148004号公報
【文献】国際公開2015/022976号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハイブリッド自動車、特にパラレル型のハイブリッド自動車においては、内燃機関が頻繁に始動と停止を繰り返し得る。そのような運転形態においては、エンジン油が十分な高温に達しないため、炭化水素燃料の燃焼により発生した水分が内燃機関内部に留まりやすい。内燃機関内部に溜まった水は、内燃機関の部品を錆びさせる原因となる。
【0006】
内燃機関内部での錆発生を抑制するためには、内燃機関の潤滑油に十分な量の錆止め剤を配合することも考えられる。しかしながら、従来公知の錆止め剤(例えば中性カルシウムスルホネート等。)は摩擦係数を増大させる傾向にあるため、省燃費性を高める観点からは好ましくない。
【0007】
本発明は、省燃費性と水混入条件下での錆防止性とを同時に高めることが可能な、内燃機関用潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記[1]~[8]の態様を包含する。
[1] 1種以上の鉱油系基油もしくは1種以上の合成系基油またはそれらの組み合わせからなり、100℃における動粘度が2.0~5.0mm/sである潤滑油基油と、
(A)油溶性有機モリブデン化合物を、組成物全量基準でモリブデン量として50~2000質量ppmと、
(B)炭素数6~24のアルキル若しくはアルケニル若しくはアシル基を有するアミノ酸及び/又はその誘導体を、組成物全量基準で0.01~5質量%と、
(C)カルシウムサリシレートを含むカルシウム系清浄剤を、組成物全量基準でカルシウム量として500~3000質量ppmと、を含有し、
150℃におけるHTHS粘度が1.7~2.3mPa・sであることを特徴とする、内燃機関用潤滑油組成物。
[2] (D)マグネシウム系清浄剤を、組成物全量基準でマグネシウム量として50~2000質量ppmをさらに含有する、[1]に記載の潤滑油組成物。
[3] 前記(C)成分がホウ酸カルシウムを含む、[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4] (E)窒素含有無灰分散剤を、組成物全量基準で窒素分として100~1000質量ppmをさらに含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[5] 前記(E)成分は、ホウ酸変性コハク酸イミド無灰分散剤を、組成物全量基準でホウ素分として50~500質量ppm含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[6] 150℃におけるHTHS粘度が1.7~2.0mPa・sである、[1]~[5]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[7] 前記(B)成分がN-オレオイルサルコシンである、[1]~[6]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[8] ハイブリッド車の内燃機関の潤滑に用いられる、[1]~[7]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0009】
本明細書において、「100℃における動粘度」とは、ASTM D445に規定される100℃での動粘度を意味する。「150℃におけるHTHS粘度」とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物によれば、省燃費性と水混入条件下での錆防止性とを同時に高めることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳述する。なお、特に断らない限り、数値A及びBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。また「又は」及び「若しくは」の語は、特に断りのない限り論理和を意味するものとする。本明細書において、要素E及びEについて「E及び/又はE」という表記は「E若しくはE、又はそれらの組み合わせ」を意味するものとし、要素E、…、E(Nは3以上の整数)について「E、…、EN-1、及び/又はE」という表記は「E、…、EN-1、若しくはE、又はそれらの組み合わせ」を意味するものとする。また本明細書において、「アルカリ土類金属」にはマグネシウムも包含されるものとする。
【0012】
<潤滑油基油>
潤滑油基油としては、1種以上の鉱油系基油もしくは1種以上の合成系基油またはそれらの組み合わせからなり、100℃における動粘度が2.0~5.0mm/sである潤滑油基油(以下において「本実施形態に係る潤滑油基油」ということがある。)が用いられる。鉱油系基油としては、1種以上のAPI基油分類グループII基油(以下において単に「APIグループII基油」ということがある。)もしくは1種以上のAPI基油分類グループIII基油(以下において単に「APIグループIII基油」ということがある。)またはそれらの組み合わせを好ましく用いることができ、合成系基油としては、1種以上のAPI基油分類グループIV基油(以下において単に「APIグループIV基油」ということがある。)もしくは1種以上のAPI基油分類グループV基油(以下において単に「APIグループV基油」ということがある。)またはそれらの組み合わせを好ましく用いることができる。APIグループII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループIII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。APIグループIV基油はポリα-オレフィン基油である。APIグループV基油は好ましくはエステル系基油である。
【0013】
鉱油系基油としては、例えば、原油を常圧蒸留および/または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理から選ばれる1種または2種以上の組み合わせにより精製したパラフィン系鉱油、およびノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油、ならびにこれらの混合物などのうち、100℃における動粘度が2.0~5.0mm/sである鉱油系基油が挙げられる。
【0014】
鉱油系基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)~(8)を原料とし、この原料油および/またはこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留による留出油
(2)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)および/またはガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(4)基油(1)~(3)から選ばれる1種または2種以上の混合油および/または当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(5)基油(1)~(4)から選ばれる2種以上の混合油
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)または(5)の脱れき油(DAO)
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(8)基油(1)~(7)から選ばれる2種以上の混合油。
【0015】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸またはアルカリ)洗浄などが好ましい。これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0016】
鉱油系基油としては、上記基油(1)~(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)または(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)~(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解基油
(10)上記基油(1)~(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化基油。脱ろう工程としては接触脱ろう工程を経て製造された基油が好ましい。
【0017】
また、上記(9)または(10)の潤滑油基油を得るに際して、必要に応じて溶剤精製処理および/または水素化仕上げ処理工程を、適当な段階で更に行ってもよい。
【0018】
また、上記水素化分解・水素化異性化に使用される触媒は特に制限されないが、分解活性を有する複合酸化物(例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニアなど)または当該複合酸化物の1種類以上を組み合わせてバインダーで結着させたものを担体とし、水素化能を有する金属(例えば周期律表第VIa族の金属や第VIII族の金属などの1種類以上)を担持させた水素化分解触媒、あるいはゼオライト(例えばZSM-5、ゼオライトベータ、SAPO-11など)を含む担体に第VIII族の金属のうち少なくとも1種類以上を含む水素化能を有する金属を担持させた水素化異性化触媒が好ましく使用される。水素化分解触媒および水素化異性化触媒は、積層または混合などにより組み合わせて用いてもよい。
【0019】
水素化分解・水素化異性化の際の反応条件は特に制限されないが、水素分圧0.1~20MPa、平均反応温度150~450℃、LHSV0.1~3.0hr-1、水素/油比50~20000scf/bとすることが好ましい。
【0020】
潤滑油基油の100℃における動粘度は2.0~5.0mm/sである。潤滑油基油の100℃における動粘度が2.0mm/s以上であることにより、潤滑箇所で十分に油膜を形成することが可能になるとともに、潤滑油組成物の蒸発損失を低減して潤滑油の消費量を低減することが可能になる。また、潤滑油基油の100℃における動粘度が5.0mm/s以下であることにより、省燃費性を高めることが可能になる。
【0021】
潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは10~40mm/s、より好ましくは12~30mm/s、さらに好ましくは14~25mm/s、特に好ましくは14~22mm/s、最も好ましくは14~20mm/sである。潤滑油基油の40℃における動粘度が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の低温粘度特性を向上させるとともに、省燃費性をさらに高めることが可能になる。また潤滑油基油の40℃における動粘度が上記下限値以上であることにより、潤滑箇所での油膜形成をし十分にして潤滑性を高めることが可能になるとともに、潤滑油組成物の蒸発損失をさらに低減して潤滑油の消費量をさらに低減することが可能になる。
【0022】
なお本明細書において「40℃における動粘度」とは、ASTM D445に規定される40℃での動粘度を意味する。
【0023】
潤滑油基油の粘度指数は、好ましくは100以上、より好ましくは105以上、さらに好ましくは110以上、特に好ましくは115以上、最も好ましくは120以上である。粘度指数が上記下限値以上であることにより、潤滑油組成物の粘度-温度特性及び摩耗防止性を高めることが可能になるほか、省燃費性をさらに高めることが可能になるとともに、潤滑油の蒸発損失をさらに低減して潤滑油の消費量をさらに低減することが可能になる。なお、本明細書において粘度指数とは、JIS K 2283-1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0024】
潤滑油基油の250℃におけるNOACK蒸発量は、好ましくは15質量%以下である。潤滑油基油の250℃におけるNOACK蒸発量の下限は特に制限されるものではないが、通常5質量%以上である。本明細書において、潤滑油基油又は組成物について「250℃におけるNOACK蒸発量」とは、ASTM D5800に準拠して測定される250℃における潤滑油基油又は組成物の蒸発量である。
【0025】
潤滑油基油の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-12.5℃以下、更に好ましくは-15℃以下である。流動点が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物全体の低温流動性を高めることが可能になる。なお、本明細書において流動点とは、JIS K 2269-1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0026】
潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。潤滑油組成物の低硫黄化の観点から、潤滑油基油の硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0027】
潤滑油基油における窒素分の含有量は、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、更に好ましくは3質量ppm以下である。本明細書において窒素分とは、JIS K 2609-1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0028】
鉱油系基油の%Cは、好ましくは70~99、より好ましくは70~95、さらに好ましくは75~95、特に好ましくは75~94である。基油の%Cが上記下限値以上であることにより、粘度-温度特性を高めることが可能になるとともに、省燃費性をさらに高めることが可能になる。また、基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目を十分に発揮させることが可能になる。また、基油の%Cが上記上限値以下であることにより、添加剤の溶解性を高めることが可能になる。
【0029】
鉱油系基油の%Cは、2以下であることが好ましく、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下である。基油の%Cが上記上限値以下であることにより、粘度-温度特性を高めることが可能になるほか、省燃費性をさらに高めることが可能になる。
【0030】
鉱油系基油%Cは、好ましくは1~30、より好ましくは4~25である。基油の%Cが上記上限値以下であることにより、粘度-温度特性を高めることが可能になるとともに、省燃費性をさらに高めることが可能になる。また、%Cが上記下限値以上であることにより、添加剤の溶解性を高めることが可能になる。
【0031】
本明細書において%C、%Cおよび%Cとは、それぞれASTM D 3238-85に準拠した方法(n-d-M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C、%Cおよび%Cの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%Cは0を超える値を示し得る。
【0032】
鉱油系基油における飽和分の含有量は、基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上である。飽和分の含有量が上記下限値以上であることにより、粘度-温度特性を向上させることができる。なお本明細書において飽和分とは、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。
【0033】
また、飽和分の分離方法には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記ASTM D 2007-93に記載された方法の他、ASTM D 2425-93に記載の方法、ASTM D 2549-91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0034】
鉱油系基油における芳香族分は、基油全量を基準として、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%、特に好ましくは0~1質量%以下であり、一の実施形態において0.1質量%以上であり得る。芳香族分の含有量が上記上限値以下であることにより、粘度-温度特性および低温粘度特性を高めることが可能になるほか、省燃費性をさらに高めることが可能になるとともに、潤滑油の蒸発損失をさらに低減して潤滑油の消費量をさらに低減することが可能になる。また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目を効果的に発揮させることが可能になる。また、潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量が上記下限値以上であることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0035】
なお、本明細書において芳香族分とは、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮環した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0036】
合成系基油としては、100℃における動粘度が3.0mm/s以上4.0mm/s未満であり、250℃におけるNOACK蒸発量が15質量%以下である、例えば、ポリα-オレフィン及びその水素化物、イソブテンオリゴマー及びその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ビス-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ビス-2-エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、並びにこれらの混合物等の合成系基油を用いることができ、これらの中でも、ポリα-オレフィン系基油が好ましい。ポリα-オレフィン系基油の典型的な例としては、炭素数2~32、好ましくは炭素数6~16のα-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー(1-オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンコオリゴマー等)およびそれらの水素化生成物が挙げられる。
【0037】
ポリα-オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウムまたは三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸またはエステルとの錯体を含む触媒等の重合触媒の存在下で、α-オレフィンを重合させる方法が挙げられる。
【0038】
潤滑油基油は、基油全体(全基油)として100℃における動粘度が2.0~5.0mm/sである限りにおいて、単一の基油成分からなってもよく、複数の基油成分を含んでもよい。
【0039】
潤滑油組成物中の潤滑油基油(全基油)の含有量は、組成物全量基準で、通常75~95質量%であり、好ましくは85~95質量%である。
【0040】
<(A)油溶性有機モリブデン化合物>
本発明の潤滑油組成物は、(A)油溶性有機モリブデン化合物(以下において「(A)成分」ということがある。)を、組成物全量基準でモリブデン量として50~2000質量ppm含有する。(A)成分はモリブデン系摩擦調整剤として作用する。
【0041】
(A)成分としては、モリブデンジチオカーバメート(硫化モリブデンジチオカーバメート又は硫化オキシモリブデンジチオカーバメート。以下において「(A1)成分」ということがある。)を好ましく用いることができる。
【0042】
(A1)成分としては、例えば次の一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0043】
【化1】
【0044】
一般式(1)中、R~Rは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2~24のアルキル基又は炭素数6~24の(アルキル)アリール基、好ましくは炭素数4~13のアルキル基又は炭素数10~15の(アルキル)アリール基である。アルキル基は第1級アルキル基、第2級アルキル基、第3級アルキル基のいずれでもよく、また直鎖でも分岐鎖でもよい。なお「(アルキル)アリール基」は「アリール基若しくはアルキルアリール基」を意味する。アルキルアリール基において、芳香環におけるアルキル基の置換位置は任意である。Y~Yはそれぞれ独立に硫黄原子又は酸素原子であり、Y~Yのうち少なくとも1つは硫黄原子である。
【0045】
(A1)成分以外の油溶性有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデンジチオホスフェート;モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩またはアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等。)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等。)又はその他の有機化合物との錯体等;および、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等の、硫黄を含有する有機モリブデン化合物を挙げることができる。なお有機モリブデン化合物は、単核モリブデン化合物であってもよく、二核モリブデン化合物や三核モリブデン化合物等の多核モリブデン化合物であってもよい。
【0046】
また、(A1)成分以外の油溶性有機モリブデン化合物として、硫黄を含まない有機モリブデン化合物を用いることも可能である。硫黄を含まない有機モリブデン化合物の例としては、モリブデン-アミン錯体、モリブデン-コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン-アミン錯体、有機酸のモリブデン塩およびアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0047】
潤滑油組成物の(A)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準でモリブデン量として50~2000質量ppmであり、好ましくは200~1500質量ppm、より好ましくは300~1200質量ppm、さらに好ましくは500~1000質量ppmである。モリブデン系摩擦調整剤の含有量が上記下限値以上であることにより、省燃費性、および過早着火抑制能をさらに高めることが可能になる。またモリブデン系摩擦調整剤の含有量が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の貯蔵安定性を高めることができる。
【0048】
<(B)アミノ酸化合物>
本発明の潤滑油組成物は、炭素数6~24のアルキル若しくはアルケニル若しくはアシル基を有するアミノ酸及び/又はその誘導体(以下において「(B)成分」ということがある。)を含有する。(B)成分としては1種の化合物を単独で用いてもよく、2種以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。炭素数6~24のアルキル又はアルケニル又はアシル基を有するアミノ酸の例としては、下記一般式(2)で表される化合物を挙げることができる。
【0049】
【化2】

一般式(2)において、Rは炭素数6~24の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル又はアシル基である。Rは水素原子又は炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。Rは官能基を有していてもよく直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素基を含む炭素数1~10の炭化水素基、又は水素原子である。aは0又は1であり、a=1のとき、Rは水素原子又は炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。
【0050】
の炭素数は6~24であり、好ましくは12~24、より好ましくは12~18である。Rの炭素数が上記下限値以上であることにより、基油への溶解性を高めるとともに、省燃費性および水混入条件下での錆防止性を高めることが可能になる。Rは直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよいが、省燃費性をさらに高める観点からは、Rは直鎖のアルキル又はアルケニル又はアシル基であることが好ましい。アルキル基の例としては、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、及びテトラコシル基を挙げることができる。アルケニル基の例としては、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、及びテトラコセニル基を挙げることができる。アルケニル基において二重結合の位置はいずれでもよいが、α-位(すなわち窒素原子に結合した炭素原子)以外であることが好ましい。アシル基の例としては、α-位にメチレン基を有する直鎖または分岐鎖アルキル又はアルケニル基において、該α-位の(すなわち窒素原子に結合した)メチレン基がカルボニル基に置き換えられた基を挙げることができる。
【0051】
は水素原子又は炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、貯蔵安定性の観点からは好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖アルキル基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基、さらに好ましくはメチル基又はエチル基であり、一の実施形態においてメチル基であり得る。
【0052】
は官能基を有していてもよく直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素基を含む炭素数1~10の炭化水素基、又は水素原子である。Rはフェニル基、フェニレン基、イミダゾリル基、インドリル基等の環状構造または複素環構造を有していてもよく、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミド結合、アミノ基、メルカプト基、スルフィド結合、グアニジノ基等の官能基を有していてもよい。省燃費性をさらに高める観点、ならびに基油への溶解性を高める観点からは、R15は好ましくはメチル基若しくはエチル基又は水素原子、より好ましくはメチル基又は水素原子、特に好ましくは水素原子である。
【0053】
aは0又は1であり、a=1のとき、Rは水素原子又は炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。貯蔵安定性の観点からは、Rは好ましくは炭素数1~3のアルキル基又は水素原子であり、より好ましくはメチル基若しくはエチル基又は水素原子であり、特に好ましくは水素原子である。
【0054】
一般式(2)で表される化合物の一の好ましい実施形態としては、Rが脂肪族アシル基、Rがメチル基である化合物、すなわち、N-メチルアミノ酸の窒素原子が脂肪酸でアシル化された構造を有するN-アシル化-N-メチルアミノ酸を挙げることができる。当該化合物において、Rは脂肪酸に対応する脂肪族アシル基である。そのような化合物は例えば、N-メチルアミノ酸と、脂肪酸から誘導されるアシル化剤とを、必要に応じて塩基の存在下に反応させることにより、縮合生成物として得ることができる。なお本明細書において、「脂肪酸に対応する脂肪族アシル基」とは、脂肪酸(R-COH)のカルボキシ基からヒドロキシ基を取り除くことにより得られるアシル基(R-CO-基)を意味する。
【0055】
N-メチルアミノ酸は、アミノ酸のアミノ基(アミノ酸がα-アミノ酸である場合にはα-アミノ基、β-アミノ酸である場合にはβ-アミノ基。)がメチル化された構造を有する化合物である。N-メチルアミノ酸は2種以上の化合物の混合物であってもよい。アミノ酸の例としては、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、トリプトファン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン、シトルリン、テアニン等のα-アミノ酸;及び、β-アラニン等のβ-アミノ酸を挙げることができる。不斉中心を有するアミノ酸はD-体であってもよく、L-体であってもよく、ラセミ体であってもよく、それらの混合物であってもよい。これらのアミノ酸の中でも、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、又はβ-アラニンが好ましく、グリシン又はβ-アラニンが特に好ましい。
【0056】
脂肪酸から誘導されるアシル化剤の例としては、脂肪酸の酸ハライド(例えば酸塩化物、酸臭化物等。)、脂肪酸の活性エステル(例えば脂肪酸とN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)とのエステル、脂肪酸と1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)とのエステル等。)、脂肪酸の酸無水物等を挙げることができる。脂肪酸としては、炭素数6~24、好ましくは炭素数8~24、より好ましくは炭素数12~24、さらに好ましくは炭素数12~22の脂肪酸を用いることができる。脂肪酸は飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよいが、直鎖脂肪酸であることが好ましい。脂肪酸の好ましい例としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、エレオステアリン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸、及びこれらの混合物等を挙げることができる。上記の脂肪酸のうち2種以上を含有する混合物として、天然油脂由来の脂肪酸を用いてもよい。天然油脂由来の脂肪酸の例としては、ココナッツ油脂肪酸、パーム核油脂肪酸、パーム油脂肪酸、キリ油脂肪酸、トール油脂肪酸、コーン油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、ごま油脂肪酸、大豆油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸、ひまわり油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、あまに油脂肪酸、魚油脂肪酸、牛脂脂肪酸、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0057】
N-メチルアミノ酸とアシル化剤との反応に際しては、必要に応じて、N-メチルアミノ酸のアミノ基(アミノ酸がα-アミノ酸である場合にはα-アミノ基、β-アミノ酸である場合にはβ-アミノ基。)以外の1つ以上の官能基(例えばカルボキシ基。)に保護基が導入された状態で上記縮合反応を行い、その後に必要に応じて脱保護を行ってもよい。α-カルボキシ基(アミノ酸がβ-アミノ酸である場合にはβ-カルボキシ基。)の保護基の例としては、メチルエステル、エチルエステル、ベンジルエステル、tert-ブチルエステル等を挙げることができる。アスパラギン酸およびグルタミン酸側鎖のカルボキシ基の保護基の例としては、tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、アリルエステル等を挙げることができる。セリン及びトレオニン側鎖のアルコール性ヒドロキシ基の保護基の例としては、ベンジル基、tert-ブチル基等を挙げることができる。チロシン側鎖のフェノール性ヒドロキシ基の保護基の例としては、2-ブロモベンジルオキシカルボニル基、tert-ブチル基等を挙げることができる。システイン側鎖のメルカプト基の保護基の例としては、4-メチルベンジル基、トリチル基、tert-ブチル基等を挙げることができる。アルギニン側鎖のグアニジノ基の保護基の例としては、p-トルエンスルホニル基等を挙げることができる。ヒスチジン側鎖のイミダゾリル基の保護基の例としては、ベンジルオキシメチル基、tert-ブトキシメチル基、2,4-ジニトロフェニル基、トリチル基等を挙げることができる。トリプトファン側鎖のインドール環の保護基の例としては、ホルミル基、tert-ブトキシカルボニル基等を挙げることができる。保護基の導入および脱保護には、公知の反応条件を適用できる。
【0058】
一般式(2)で表される化合物の他の一の実施形態としては、Rが直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル基、好ましくは直鎖のアルキル又はアルケニル基であり、Rがメチル基である化合物、すなわち、N-メチルアミノ酸の窒素原子がアルキル又はアルケニル化された構造を有するN-アルキル又はアルケニル-N-メチルアミノ酸を挙げることができる。そのような化合物は例えば、N-メチルアミノ酸と、直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニルハライドとを、塩基の存在下に反応させることにより得ることができる。N-メチルアミノ酸としては、上記説明したN-メチルアミノ酸を用いることができる。アルキル又はアルケニルハライドとしては、Rに関連して上記説明したアルキル基又はアルケニル基と、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子とが結合したアルキル又はアルケニルハライドを用いることができる。一の実施形態において、アルキル又はアルケニルハライドとしては、上記説明した脂肪酸に対応する脂肪族アルコールに対応するアルキル又はアルケニルハライドを好ましく用いることができる。なお本明細書において、「脂肪酸に対応する脂肪族アルコール」とは、当該脂肪酸(R-COH)のカルボキシ基をヒドリド還元することにより得られる脂肪族アルコール(R-CH-OH)を意味する。また本明細書において、「脂肪族アルコールに対応するアルキル又はアルケニルハライド」とは、当該脂肪族アルコールのヒドロキシ基がハロゲノ基に変換された構造を有するアルキル又はアルケニルハライドを意味する。N-メチルアミノ酸とアルキル又はアルケニルハライドとの反応に際しては、必要に応じて、N-メチルアミノ酸のアミノ基(アミノ酸がα-アミノ酸である場合にはα-アミノ基、β-アミノ酸である場合にはβ-アミノ基。)以外の1つ以上の官能基(例えばカルボキシ基。)に保護基が導入された状態で上記アルキル又はアルケニルハライドとの反応を行い、その後に必要に応じて脱保護を行ってもよい。保護基については上記説明した通りである。
【0059】
一般式(2)で表される化合物の一の典型的な実施形態としては、N-メチルグリシンのアミノ基が脂肪酸でアシル化された構造を有する、N-アシル化-N-メチルグリシン(一般式(2)においてRが脂肪酸に対応するアシル基、Rがメチル基、Rが水素原子、a=0)を挙げることができる。かかる化合物の特に好ましい例としては、N-オレオイルサルコシン(すなわち、N-オレオイル-N-メチルグリシン)を挙げることができる。
一般式(2)で表される化合物の他の典型的な実施形態としては、N-メチル-β-アラニンのアミノ基が脂肪酸でアシル化された構造を有する、N-アシル化-N-メチル-β-アラニン(一般式(2)においてRが脂肪酸に対応するアシル基、Rがメチル基、Rが水素原子、a=1、Rが水素原子)を挙げることができる。
【0060】
一の実施形態において、一般式(2)で表される化合物を、そのままで(B)成分として好ましく用いることができる。他の実施形態において、(B)成分として一般式(2)で表される化合物の誘導体を用いてもよく、(B)成分として一般式(2)で表される化合物とその誘導体とを組み合わせて用いてもよい。一般式(2)で表される化合物の誘導体としては、金属塩、エタノールアミン塩、第1級または第2級アミド、メチルエステル、及び多価アルコールエステルを挙げることができる。
【0061】
一般式(2)で表される化合物と金属塩を形成する金属の例としては、ナトリウム、カリウム等の、アルカリ金属;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属;及び亜鉛を挙げることができる。省燃費性および水混入条件下での錆防止性を長期間にわたって維持する観点からは、金属塩はアルカリ土類金属塩または亜鉛塩であることが好ましい。なお本明細書においては、マグネシウムはアルカリ土類金属に包含されるものとする。
一般式(2)で表される化合物の金属塩およびエタノールアミン塩は例えば、一般式(2)で表される化合物を、金属塩基(例えば金属酸化物、金属水酸化物等。)またはエタノールアミン塩と反応させることにより得ることができる。
【0062】
一般式(2)で表される化合物のメチルエステルは、一般式(2)中のカルボキシ基(アミノ酸がα-アミノ酸である場合にはα-カルボキシ基、β-アミノ酸である場合にはβ-カルボキシ基。)がメチルエステルに変換された誘導体である。当該メチルエステルは、例えば一般式(2)で表される化合物とメタノールとの縮合反応により得てもよく、アミノ酸メチルエステル又はN-アルキルアミノ酸メチルエステルのアミノ基(アミノ酸がα-アミノ酸である場合にはα-アミノ基、β-アミノ酸である場合にはβ-アミノ基。)の窒素原子上に置換基Rを導入することにより得てもよい。
【0063】
一般式(2)で表される化合物の第1級アミドは、一般式(2)中のカルボキシ基(アミノ酸がα-アミノ酸である場合にはα-カルボキシ基、β-アミノ酸である場合にはβ-カルボキシ基。)が第1級アミド(-CONH)に変換された誘導体である。当該第1級アミドは、例えば一般式(2)で表される化合物のエステル(例えばメチルエステル、エチルエステル等。)とアンモニアとの反応(アンモノリシス)により得てもよく、アミノ酸の第1級アミド又はN-アルキルアミノ酸の第1級アミドのアミノ基(アミノ酸がα-アミノ酸である場合にはα-アミノ基、β-アミノ酸である場合にはβ-アミノ基。)の窒素原子上に置換基Rを導入することにより得てもよい。
【0064】
一般式(2)で表される化合物の第2級アミドは、一般式(2)中のカルボキシ基(アミノ酸がα-アミノ酸である場合にはα-カルボキシ基、β-アミノ酸である場合にはβ-カルボキシ基。)が第2級アミド(-CONHR)に変換された誘導体である。Rは好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。当該第2級アミドは例えば、一般式(2)で表される化合物と第1級アミンとの縮合反応により得てもよく、アミノ酸の第2級アミド又はN-アルキルアミノ酸の第2級アミドのアミノ基(アミノ酸がα-アミノ酸である場合にはα-アミノ基、β-アミノ酸である場合にはβ-アミノ基。)の窒素原子上に置換基Rを導入することにより得てもよい。
なお、一般式(2)で表される化合物のアミド誘導体としては、第1級アミドが好ましい。
【0065】
一般式(2)で表される化合物の多価アルコールエステルは、一般式(2)中のカルボキシ基(アミノ酸がα-アミノ酸である場合にはα-カルボキシ基、β-アミノ酸である場合にはβ-カルボキシ基。)が多価アルコールとエステルを形成した誘導体である。当該多価アルコールエステルは例えば、一般式(2)で表される化合物と多価アルコールとの縮合反応により得ることができる。
カルボキシ基とエステルを形成する多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、イソプレングリコール(3-メチル-1,3-ブタンジオール)、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールペンタン)、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールヘプタン)、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、イソソルビド、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールF、ダイマージオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチロールメタン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、1,2,3-ペンタントリオール、1,2,4-ペンタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、1,3,5-ペンタントリオール、2,3,4-ペンタントリオール、3-メチル-1,2,3-ブタントリオール、トリメチロールエタン、1,2,3-ヘキサントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,3,6-ヘキサントリオール、2,3,4-ヘキサントリオール、2-エチル-1,2,3-ブタントリオール、トリメチロールプロパン、4-プロピル-3,4,5-ヘプタントリオール、ペンタメチルグリセリン(2,4-ジメチル-2,3,4-ペンタントリオール)等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、エリスリトール、1,2,3,4-ペンタンテトロール、1,2,4,5-ペンタンテトロール、1,3,4,5-ヘキサンテトロール、1,2,5,6-ヘキサンテトロール、2,3,4,5-ヘキサンテトロール、ジグリセリン、ソルビタン等の4価アルコール;アドニトール、アラビトール、キシリトール、アロース、タロース、トリグリセリン等の5価アルコール;ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、イノシトール、ダルシトール等の6価アルコール;ポリグリセリン;及びこれらの脱水縮合物;並びにこれらの混合物等を挙げることができる。
【0066】
潤滑油組成物中の(B)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01~5質量%であり、好ましくは0.1~2質量%、より好ましくは0.2~1質量%である。(B)成分の含有量が上記下限値以上であることにより、省燃費性および水混入条件下での錆防止性を高めることが可能になる。また(B)成分の含有量が上記上限値以下であることにより、省燃費性を高めることが可能になる。
【0067】
<(C)、(D):金属系清浄剤>
本発明の潤滑油組成物は、金属系清浄剤として、(C)カルシウムサリシレートを含むカルシウム系清浄剤(以下において「(C)成分」ということがある。)を、組成物全量基準でカルシウム量として500~3000質量ppm含有する。また一の実施形態において、潤滑油組成物は、(B)マグネシウム系清浄剤(以下において「(B)成分」ということがある。)を、組成物全量基準でマグネシウム量として50~2000質量ppm含有し得る。金属系清浄剤としては例えば、フェネート系清浄剤、スルホネート系清浄剤、サリシレート系清浄剤を挙げることができる。また、これら金属系清浄剤は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
フェネート系清浄剤の好ましい例としては、以下の式(3)で示される構造を有する化合物のアルカリ土類金属塩の過塩基性塩を挙げることができる。アルカリ土類金属としては、マグネシウムまたはカルシウムが好ましい。
【0069】
【化3】
【0070】
式(3)中、R10は炭素数6~21の直鎖もしくは分岐鎖、飽和もしくは不飽和のアルキル又はアルケニル基を表し、mは重合度であって1~10の整数を表し、Aはスルフィド(-S-)基またはメチレン(-CH-)基を表し、xは1~3の整数を表す。なおR10は2種以上の異なる基の組み合わせであってもよい。
【0071】
式(3)におけるR10の炭素数は、好ましくは9~18、より好ましくは9~15である。R10の炭素数が上記下限値以上であることにより、基油に対する溶解性を高めることができる。またR10の炭素数が上記上限値以下であることにより製造が容易になる。
【0072】
式(3)における重合度mは、好ましくは1~4である。
【0073】
スルホネート系清浄剤の好ましい例としては、アルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩またはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。アルキル芳香族化合物の重量平均分子量は好ましくは400~1500であり、より好ましくは700~1300である。
アルカリ土類金属としては、マグネシウム又はカルシウムが好ましい。アルキル芳香族スルホン酸としては、例えば、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸が挙げられる。ここでいう石油スルホン酸としては、鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が挙げられる。また、合成スルホン酸の一例としては、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントにおける副生成物を回収すること、もしくは、ベンゼンをポリオレフィンでアルキル化することにより得られる、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものを挙げることができる。合成スルホン酸の他の一例としては、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したものを挙げることができる。また、これらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては、特に制限はなく、例えば発煙硫酸や無水硫酸を用いることができる。
【0074】
サリシレート系清浄剤の好ましい例としては、金属サリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。金属サリシレートの好ましい例としては、以下の式(4)で表される化合物を挙げることができる。
【0075】
【化4】
【0076】
上記式(4)中、R11はそれぞれ独立に炭素数14~30のアルキルまたはアルケニル基を表し、Mはアルカリ土類金属を表し、nは1又は2を表す。Mとしてはカルシウムまたはマグネシウムが好ましい。nとしては1が好ましい。なおn=2であるとき、R11は異なる基の組み合わせであってもよい。
【0077】
サリシレート系清浄剤の好ましい一形態としては、上記式(4)においてn=1であるアルカリ土類金属サリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。
【0078】
アルカリ土類金属サリシレートの製造方法は特に制限されるものではなく、公知のモノアルキルサリシレートの製造方法等を用いることができる。例えば、フェノールを出発原料として、オレフィンを用いてアルキレーションし、次いで炭酸ガス等でカルボキシレーションして得たモノアルキルサリチル酸、あるいは、サリチル酸を出発原料として、当量の上記オレフィンを用いてアルキレーションして得られたモノアルキルサリチル酸等に、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基を反応させること、又は、これらのモノアルキルサリチル酸等を一旦ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と金属交換させること等により、アルカリ土類金属サリシレートを得ることができる。
【0079】
金属系清浄剤は、炭酸塩(例えば炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩。)で過塩基化されていてもよく、ホウ酸塩(例えばホウ酸カルシウムやホウ酸マグネシウム等のアルカリ土類金属ホウ酸塩。)で過塩基化されていてもよい。
アルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化された金属系清浄剤を得る方法は特に限定されるものではないが、例えば、炭酸ガスの存在下で、金属系清浄剤(例えばアルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属サリシレート等。)の中性塩をアルカリ土類金属の塩基(例えばアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物等。)と反応させることにより得ることができる。
アルカリ土類金属ホウ酸塩で過塩基化された金属系清浄剤を得る方法は特に限定されるものではないが、ホウ酸または無水ホウ酸及び任意的にホウ酸塩の存在下で、金属系清浄剤(例えばアルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属サリシレート等。)の中性塩をアルカリ土類金属の塩基(例えばアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物等。)と反応させることにより得ることができる。ホウ酸はオルトホウ酸であってもよく、縮合ホウ酸(例えば二ホウ酸、三ホウ酸、四ホウ酸、メタホウ酸等。)であってもよい。ホウ酸塩としては、これらのホウ酸のカルシウム塩((C)成分を得る場合)またはマグネシウム塩((D)成分を得る場合)を好ましく用いることができる。ホウ酸塩は中性塩であってもよく、酸性塩であってもよい。ホウ酸および/またはホウ酸塩は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
(C)成分はカルシウムサリシレート清浄剤を含んでなる。(C)成分は例えば、カルシウムフェネート清浄剤、若しくはカルシウムスルホネート清浄剤、又はこれらの組み合わせをさらに含んでもよい。ただし、省燃費性を高める観点からは、(C)成分は1種以上のカルシウムサリシレート清浄剤と、任意的に1種以上のカルシウムフェネート清浄剤とからなることが好ましく、1種以上のカルシウムサリシレート清浄剤からなることが特に好ましい。(C)成分は少なくとも過塩基性カルシウムサリシレート清浄剤を含むことが好ましい。(C)成分は炭酸カルシウムで過塩基化されていてもよく、ホウ酸カルシウムで過塩基化されていてもよい。
【0081】
(D)成分としては例えば、マグネシウムフェネート清浄剤、マグネシウムスルホネート清浄剤、若しくはマグネシウムサリシレート清浄剤、又はこれらの組み合わせを用いることができる。(D)成分は過塩基性マグネシウムスルホネート清浄剤または過塩基性マグネシウムサリシレートを含むことが好ましい。(D)成分は炭酸マグネシウムで過塩基化されていてもよく、ホウ酸マグネシウムで過塩基化されていてもよい。
【0082】
金属系清浄剤中の金属含有量は、通常1.0~20質量%、好ましくは5.0~14質量%である。
【0083】
(C)成分の塩基価は、好ましくは150~350mgKOH/g、より好ましくは150~300mgKOH/g、特に好ましくは150~250mgKOH/gである。本明細書において塩基価とは、JIS K2501に準拠して過塩素酸法により測定される塩基価を意味する。また金属系清浄剤は一般に、溶剤や潤滑油基油等の希釈剤中での反応により得られる。そのため金属系清浄剤は、潤滑油基油等の希釈剤によって希釈された状態で商業的に流通している。本明細書において、金属系清浄剤の塩基価は、希釈剤を含む状態での塩基価を意味するものとする。また本明細書において、金属系清浄剤の金属含有量は、希釈剤を含む状態での金属含有量を意味するものとする。
【0084】
潤滑油組成物中の(C)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、カルシウム量として500~3000質量ppmであり、好ましくは1000~2500質量ppmである。(C)成分のカルシウム量としての含有量が上記上限値以下であることにより、過早着火の抑制作用および省燃費性を得ながらも、組成物中の灰分の増加を抑制することが可能になる。また(C)成分のカルシウム量としての含有量が上記下限値以上であることにより、清浄化性能および塩基価維持性も高めることが可能になる。
【0085】
(D)成分の塩基価は、好ましくは200~600mgKOH/g、より好ましくは250~550mgKOH/g、特に好ましくは300~500mgKOH/gである。
【0086】
潤滑油組成物が(D)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、マグネシウム量として好ましくは50~2000質量ppmであり、より好ましくは100~1000質量ppm、さらに好ましくは200~700質量ppmである。(D)成分のマグネシウム量としての含有量が上記下限値以上であることにより、過早着火を抑制しながらも清浄化性能を高めることができる。また(D)成分のマグネシウム量としての含有量が上記上限値以下であることにより、省燃費性をさらに高めることが可能になる。
【0087】
潤滑油組成物が(D)成分を含有する場合、(C)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準でカルシウム量として好ましくは500~2500質量ppm、より好ましくは1000~2000質量ppmである。
潤滑油組成物が(D)成分を含有しない場合、(C)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準でカルシウム量として好ましくは1000~3000質量ppm、より好ましくは1500~2500質量ppmである。
【0088】
<(E)窒素含有無灰分散剤>
本発明の潤滑油組成物は、(E)窒素含有無灰分散剤(以下において「(E)成分」ということがある。)を含有することが好ましい。
(E)成分としては、例えば、以下の(E-1)~(E-3)から選ばれる1種以上の化合物を用いることができる。
(E-1)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドまたはその変性物(以下において「成分(E-1)」ということがある。)、
(E-2)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミンまたはその変性物(以下において「成分(E-2)」ということがある。)、
(E-3)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミンまたはその変性物(以下において「成分(E-3)」ということがある。)。
【0089】
(E)成分としては、成分(E-1)を特に好ましく用いることができる。
成分(E-1)のうち、アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドの例としては、下記一般式(5)または(6)で表される化合物を挙げることができる。
【0090】
【化5】
【0091】
式(5)中、R12は炭素数40~400のアルキル基またはアルケニル基を示し、hは1~5、好ましくは2~4の整数を示す。R12の炭素数は好ましくは60~350である。
【0092】
式(6)中、R13及びR14は、それぞれ独立に炭素数40~400のアルキル基又はアルケニル基を示し、異なる基の組み合わせであってもよい。また、iは0~4、好ましくは1~4、より好ましくは1~3の整数を示す。R13及びR14の炭素数は好ましくは60~350である。
【0093】
式(5)、式(6)におけるR12~R14の炭素数が上記下限値以上であることにより、潤滑油基油に対する良好な溶解性を得ることができる。一方、R12~R14の炭素数が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の低温流動性を高めることができる。
【0094】
式(5)及び式(6)におけるアルキル基またはアルケニル基(R12~R14)は直鎖状でも分枝状でもよく、好ましくは、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィンのオリゴマーや、エチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基を挙げることができる。なかでも慣用的にポリイソブチレンと呼ばれるイソブテンのオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基またはアルケニル基や、ポリブテニル基が最も好ましい。
式(5)及び式(6)におけるアルキル基またはアルケニル基(R12~R14)の好適な数平均分子量は800~3500である。
【0095】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドには、ポリアミン鎖の一方の末端のみに無水コハク酸が付加した、式(5)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミン鎖の両末端に無水コハク酸が付加した、式(6)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含される。本発明の潤滑油組成物には、モノタイプのコハク酸イミド及びビスタイプのコハク酸イミドのいずれが含まれていてもよく、それらの両方が混合物として含まれていてもよい。
【0096】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドの製法は、特に制限されるものではない。例えば、炭素数40~400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100~200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸を、ポリアミンと反応させることにより、該コハク酸イミドを得ることができる。ここで、ポリアミンの例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミンを挙げることができる。
【0097】
成分(E-2)のうち、アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミンの例としては、下記式(7)で表される化合物を挙げることができる。
【0098】
【化6】
【0099】
式(7)中、R15は炭素数40~400のアルキル基またはアルケニル基を表し、jは1~5、好ましくは2~4の整数を表す。R15の炭素数は好ましくは60~350である。
【0100】
成分(E-2)の製法は特に制限されるものではない。例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、又はエチレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンを、フェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドと、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンとをマンニッヒ反応により反応させる方法が挙げられる。
【0101】
成分(E-3)のうちアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミンの例としては、下記式(8)で表される化合物を挙げることができる。
【0102】
【化7】
【0103】
式(8)中、R16は炭素数40~400以下のアルキル基またはアルケニル基を表し、kは1~5、好ましくは2~4の整数を表す。R16の炭素数は好ましくは60~350である。
【0104】
成分(E-3)の製法は特に制限されるものではない。例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテンまたはエチレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させる方法が挙げられる。
【0105】
成分(E-1)~成分(E-3)における変性物(変性化合物)の例としては、(i)含酸素有機化合物による変性化合物、(ii)ホウ酸変性化合物、(iii)リン酸変性化合物、(iv)硫黄変性化合物、及び(v)これらのうち2種以上の変性の組み合わせによる変性化合物、を挙げることができる。
(i)含酸素有機化合物による変性化合物は、上述のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、ベンジルアミンまたはポリアミン(以下「上述の含窒素化合物」という。)に、脂肪酸等の炭素数1~30のモノカルボン酸、炭素数2~30のポリカルボン酸(例えばシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等。)、これらの無水物もしくはエステル化合物、炭素数2~6のアルキレンオキサイド、又はヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させたことにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている変性化合物である。
(ii)ホウ素変性化合物は、上述の含窒素化合物にホウ酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている変性化合物である。
(iii)リン酸変性化合物は、上述の含窒素化合物にリン酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている変性化合物である。
(iv)硫黄変性化合物は、上述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させることにより得られる変性化合物である。
(v)2種以上の変性の組み合わせによる変性化合物は、上述の含窒素化合物に含酸素有機化合物による変性、ホウ素変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせて施すことにより得ることができる。
これら(i)~(v)の誘導体の中でも、アルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物、特にビスタイプのアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物を好ましく用いることができる。
【0106】
(E)成分の分子量には特に制限は無いが、好適な重量平均分子量は1000~20000である。
【0107】
潤滑油組成物が(E)成分を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、窒素分として好ましくは100~1000質量ppm、より好ましくは100~900質量ppm、さらに好ましくは200~900質量ppm、特に好ましくは200~800質量ppmである。(E)成分の含有量が上記下限値以上であることにより、潤滑油組成物の耐コーキング性を十分に向上させ、添加剤の溶解性を高めることができる。また(E)成分の含有量が上記上限値以下であることにより、省燃費性をより高く維持することが可能になる。
【0108】
(E)成分がホウ素を含む場合、(E)成分に由来する潤滑油組成物中のホウ素含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは400質量ppm以下、さらに好ましくは350質量ppm以下、特に好ましくは300質量ppm以下である。(E)成分に由来するホウ素含有量が上記上限値以下であることにより、省燃費性をより高く維持することが可能になるとともに、潤滑油組成物の灰分量を低減することができる。
【0109】
一の実施形態において、(E)成分は、ホウ酸変性コハク酸イミド無灰分散剤を、組成物全量基準でホウ素分として50~500質量ppm、より好ましくは50~300質量ppm含み得る。当該含有量が上記範囲内であることにより、省燃費性をより長期間にわたって維持することが可能になる。
一の実施形態において、(E)成分は、1種以上のホウ酸変性コハク酸イミド無灰分散剤とホウ酸変性されていない1種以上のコハク酸イミド無灰分散剤とを含んでもよい。他の実施形態において、(E)成分は、ホウ酸変性されていない1種以上のコハク酸イミド無灰分散剤からなっていてもよい。
【0110】
<(F)ジアルキルジチオリン酸亜鉛>
一の好ましい実施形態において、本発明の潤滑油組成物は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP;以下において「(F)成分」ということがある。)を含有し得る。(F)成分としては、例えば次の一般式(9)で表される化合物を用いることができる。
【0111】
【化8】
【0112】
式(9)中、R17~R20は、それぞれ独立に炭素数1~24の直鎖状又は分枝状のアルキル基を表し、異なる基の組み合わせであってもよい。また、R17~R20の炭素数は好ましくは3~12、より好ましくは3~8である。また、R17~R20は、第1級アルキル基、第2級アルキル基、及び第3級アルキル基のいずれであってもよいが、第1級アルキル基もしくは第2級アルキル基またはそれらの組み合わせであることが好ましく、さらに第1級アルキル基と第2級アルキル基とのモル比(第1級アルキル基:第2級アルキル基)が、0:100~30:70であることが好ましい。この比は分子内のアルキル鎖の組み合わせ比であっても良く、第1級アルキル基のみを有するZnDTPと第2級アルキル基のみを有するZnDTPとの混合比であっても良い。第2級アルキル基が主であることにより、省燃費性をさらに高めることが可能になる。
【0113】
上記ジアルキルジチオリン酸亜鉛の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、R17~R20に対応するアルキル基を有するアルコールを五硫化二リンと反応させてジチオリン酸を合成し、これを酸化亜鉛で中和することにより、上記ジアルキルジチオリン酸亜鉛を合成することができる。
【0114】
(F)成分の含有量は、組成物全量基準でリン量として、好ましくは600~800質量ppmである。(F)成分の含有量が上記下限値以上であることにより、過早着火抑制能を高めることが可能になる。また、(F)成分の含有量が上記上限値以下であることにより、耐摩耗性を向上させるとともに、排気ガス処理触媒の触媒被毒を低減することが可能になる。
【0115】
<(G)粘度指数向上剤>
本発明の潤滑油組成物は、(G)粘度指数向上剤(以下において「(G)成分」ということがある。)を、潤滑油組成物全量基準で5質量%以下含有するか、又は含有しないことが好ましい。すなわち、潤滑油組成物中の粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で0~5質量%であることが好ましく、0~3質量%であることがより好ましく、0~1質量%であることがさらに好ましい。(G)成分の例としては、非分散型もしくは分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤、(メタ)アクリレート-オレフィン共重合体、非分散型もしくは分散型エチレン-α-オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン-ジエン水素化共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体、及びポリアルキルスチレン等を挙げることができる。潤滑油組成物中の(G)成分の含有量が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の清浄化性能および省燃費性を高めることが可能になる。
【0116】
潤滑油組成物が(G)成分を含有する場合、(G)成分としては、(G1)重量平均分子量が100,000以上であるポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤(以下において「(G1)成分」ということがある。)を好ましく用いることができる。(G)成分中の(G1)成分の含有量は、(G)成分の全含有量の95質量%以上であることが好ましく、100質量%であってもよい。
【0117】
(G1)成分の重量平均分子量(Mw)は、100,000以上であり、好ましくは200,000~1,000,000、より好ましくは200,000~700,000、さらに好ましくは200,000~500,000である。重量平均分子量が上記下限値以上であることにより、粘度指数向上効果を高めて、低温粘度特性を向上させるとともに省燃費性をさらに高めることが可能になるほか、コストを低減することが可能になる。また、重量平均分子量が上記上限値以下であることにより、粘度増加効果を適切な範囲内に保ち、低温粘度特性を向上させるとともに省燃費性をさらに高めることが可能になるほか、潤滑油基油への溶解性および貯蔵安定性を高めるとともに、せん断安定性をさらに高めることが可能になる。
【0118】
(G1)成分は、ポリマー中の全単量体単位に占める下記一般式(10)で表される構造単位の割合が10~90モル%であるポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤(以下において「本実施形態に係る粘度指数向上剤」ということがある。)を含有することが好ましい。本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味する。
【0119】
【化9】

(式(10)中、R21は水素又はメチル基を表し、R22は炭素数1~5の直鎖状又は分枝状の炭化水素基を表す。)
【0120】
本実施形態に係る粘度指数向上剤において、ポリマー中の一般式(10)で表される(メタ)アクリレート構造単位の割合は、好ましくは10~90モル%、より好ましくは20~90モル%、さらに好ましくは30~80モル%、特に好ましくは40~70モル%である。ポリマー中の全単量体単位に占める一般式(10)で表される(メタ)アクリレート構造単位の割合が上記上限値以下であることにより、基油への溶解性、粘度温度特性の向上効果、及び低温粘度特性を高めることが可能になる。当該割合が上記下限値以上であることにより、粘度温度特性の向上効果を高めることが可能になる。
【0121】
本実施形態に係る粘度指数向上剤は、一般式(10)で表される(メタ)アクリレート構造単位に加えて、他の(メタ)アクリレート構造単位を有する共重合体であってもよい。このような共重合体は、下記一般式(11)で表される1種以上のモノマー(以下、「モノマー(M-1)」という。)と、モノマー(M-1)以外の1種以上のモノマーとを共重合させることによって得ることができる。
【0122】
【化10】

(式(11)中、R21は水素又はメチル基を表し、R22は炭素数1~5の直鎖状又は分枝状の炭化水素基、好ましくはアルキル基を表す。)
【0123】
モノマー(M-1)と組み合わせるモノマーは特に制限されるものではないが、例えば下記一般式(12)で表される1種以上のモノマー(以下、「モノマー(M-2)」という。)若しくは下記一般式(13)で表される1種以上のモノマー(以下、「モノマー(M-3)」という。)又はそれらの組み合わせが好適である。モノマー(M-1)とモノマー(M-2)及び/又はモノマー(M-3)との共重合体は、いわゆる非分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤である。
【0124】
【化11】

(式(12)中、R23は水素原子又はメチル基を表し、R24は炭素数6~18の直鎖状又は分枝状の炭化水素基、好ましくはアルキル基を表す。)
【0125】
【化12】

(式(13)中、R25は水素原子又はメチル基を表し、R26は炭素数19以上の直鎖状又は分枝状の炭化水素基、好ましくはアルキル基を表す。)
【0126】
式(13)で示すモノマー(M-3)中のR26は、上述の通り炭素数19以上の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基であり、好ましくは炭素数20~50,000の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基、又は炭素数22~500の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基、又は炭素数24~100の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基、又は炭素数24~50の分岐鎖炭化水素基、又は炭素数24~40の分岐鎖炭化水素基である。
【0127】
本実施形態に係る粘度指数向上剤において、ポリマー中の全単量体単位に占める一般式(12)で表されるモノマー(M-2)に対応する構造単位の割合は、好ましくは3~75モル%、より好ましくは5~65モル%、さらに好ましくは10~55モル%、特に好ましくは15~45モル%であり、例えば15~35モル%であってもよい。ポリマー中の全単量体単位に占める一般式(12)で表されるモノマー(M-2)に対応する構造単位の割合が上記上限値以下であることにより、基油への溶解性、粘度温度特性の向上効果、及び低温粘度特性を高めることが可能になる。当該割合が上記下限値以上であることにより、粘度温度特性の向上効果を高めることが可能になる。
【0128】
本実施形態に係る粘度指数向上剤において、ポリマー中の全単量体単位に占める一般式(13)で表されるモノマー(M-3)に対応する構造単位の割合は、好ましくは0.5~70モル%、又は1~70モル%、より好ましくは3~60モル%、さらに好ましくは5~50モル%、特に好ましくは10~40モル%であり、例えば10~30モル%であってもよい。ポリマー中の全単量体単位に占める一般式(13)で表されるモノマー(M-3)に対応する構造単位の割合が上記上限値以下であることにより、粘度温度特性の向上効果および低温粘度特性を高めることが可能になる。当該割合が上記下限値以上であることにより、粘度温度特性の向上効果を高めることが可能になる。
【0129】
一の実施形態において、ポリマー中の全単量体単位に占めるモノマー(M-1)、(M-2)、及び(M-3)に対応する構造単位の割合は、モノマー(M-1):モノマー(M-2):モノマー(M-3)=10~90モル%:3~75モル%:1~70モル%、又は20~90モル%:5~65モル%:3~60モル%、又は30~80モル%:10~55モル%:5~50モル%、又は40~70モル%:15~45モル%:10~40モル%であり得る。
【0130】
モノマー(M-1)と共重合させる他のモノマーとしては、下記一般式(14)で表される1種以上のモノマー(以下、「モノマー(M-4)」という。)、若しくは下記一般式(15)で表される1種以上のモノマー(以下、「モノマー(M-5)」という)、又はそれらの組み合わせが好適である。モノマー(M-1)とモノマー(M-4)及び/又は(M-5)との共重合体は、いわゆる分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤である。なお、当該分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤は、構成モノマーとしてモノマー(M-2)及び/又は(M-3)をさらに含んでいてもよい。
【0131】
【化13】

(式(14)中、R27は水素原子又はメチル基を表し、R28は炭素数1~18のアルキレン基を表し、Eは窒素原子を1~2個、酸素原子を0~2個含有する、アミン残基又は複素環残基を表し、bは0又は1を表す。)
【0132】
28で表される炭素数1~18のアルキレン基の例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、及びオクタデシレン基(これらアルキレン基は直鎖状でも分枝状でもよい。)等を挙げることができる。
【0133】
で表される基の例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピロリジノ基、ピペリジニル基、ピペリジノ基、キノリル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、及びピラジニル基等を挙げることができる。
【0134】
【化14】

(式(15)中、R29は水素原子又はメチル基を表し、Eは窒素原子を1~2個、酸素原子を0~2個含有する、アミン残基または複素環残基を表す。)
【0135】
で表される基の例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピロリジノ基、ピペリジニル基、ピペリジノ基、キノリル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、及びピラジニル基等を挙げることができる。
【0136】
モノマー(M-4)および(M-5)の好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2-メチル-5-ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N-ビニルピロリドン、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0137】
モノマー(M-1)とモノマー(M-2)~(M-5)との共重合体の共重合モル比については特に制限はないが、モノマー(M-1):モノマー(M-2)~(M-5)=20:80~90:10程度が好ましく、より好ましくは30:70~80:20、さらに好ましくは40:60~70:30である。
【0138】
本実施形態に係る粘度指数向上剤の製造法は特に制限されない。例えば、重合開始剤(例えばベンゾイルパーオキシド等。)の存在下で、モノマー(M-1)と(M-2)及び/又は(M-3)とをラジカル溶液重合させることにより、非分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物を容易に得ることができる。また例えば、重合開始剤の存在下で、モノマー(M-1)と、モノマー(M-4)及び(M-5)から選ばれる1種以上の含窒素モノマーと、任意的にモノマー(M-2)及び/又は(M-3)とをラジカル溶液重合させることにより、分散型ポリ(メタ)アクリレート化合物を容易に得ることができる。
【0139】
<その他の添加剤>
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている他の添加剤を含有させることができる。そのような添加剤としては、例えば、(A)及び(B)成分以外の摩擦調整剤、酸化防止剤、摩耗防止剤または極圧剤、腐食防止剤、(B)(C)及び(D)成分以外の防錆剤、金属不活性化剤、抗乳化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0140】
(A)及び(B)成分以外の摩擦調整剤としては、潤滑油用の無灰摩擦調整剤として通常用いられている化合物を特に制限なく用いることができる。無灰摩擦調整剤としては、例えば、分子中に酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選ばれる1種以上のヘテロ元素を含有する、炭素数6~50の化合物が挙げられる。さらに具体的には、炭素数6~30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6~30の直鎖アルキル基、直鎖アルケニル基、分岐鎖アルキル基、または分岐鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪族ウレア、脂肪酸ヒドラジド等の無灰摩擦調整剤が挙げられる。
【0141】
潤滑油組成物が(A)及び(B)成分以外の摩擦調整剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、通常0.1~1.0質量%であり、好ましくは0.3~0.8質量%である。無灰摩擦調整剤の含有量が上記下限値以上であることにより、省燃費性をさらに高めることが可能になる。また無灰摩擦調整剤の含有量が上記上限値以下であることにより、摩耗防止剤等の効果が阻害されることを避けることが容易になるほか、添加剤の溶解性を高めることが容易になる。
【0142】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤等の公知の酸化防止剤を使用可能である。例としては、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化-α-ナフチルアミンなどのアミン系酸化防止剤、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)などのフェノール系酸化防止剤などを挙げることができる。
潤滑油組成物が酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、また好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。
【0143】
摩耗防止剤または極圧剤としては、潤滑油に用いられる摩耗防止剤または極圧剤を特に制限なく使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄-リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。これらの中では硫黄系極圧剤が好ましく、特に硫化油脂が好ましい。
潤滑油組成物が摩耗防止剤または極圧剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01~10質量%であることが好ましい。
【0144】
腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、及びイミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を使用可能である。潤滑油組成物が腐食防止剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005~5質量%である。
【0145】
(B)(C)及び(D)成分以外の防錆剤としては、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪族アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等の公知の防錆剤を使用可能である。潤滑油組成物が防錆剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005~5質量%である。ただし、省燃費性をさらに高める観点からは、これらの化合物の含有量は好ましくは0~0.007質量%、より好ましくは0~0.01質量%であり、潤滑油に対して通常用い得る分析手段の検出限界未満であってもよい。一の好ましい実施形態において、(B)(C)及び(D)成分以外の防錆剤を含有しない潤滑油組成物とすることも可能である。
【0146】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、並びにβ-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等の公知の金属不活性化剤を使用可能である。潤滑油組成物が金属不活性化剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005~1質量%である。
【0147】
抗乳化剤としては、例えばポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等の公知の抗乳化剤を使用可能である。潤滑油組成物が抗乳化剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005~5質量%である。
【0148】
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコーン、及びフルオロアルキルエーテル等の公知の消泡剤を使用可能である。潤滑油組成物が消泡剤を含有する場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.0001~0.1質量%である。
【0149】
着色剤としては、例えばアゾ化合物等の公知の着色剤を使用可能である。
【0150】
<潤滑油組成物>
潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは4.0~6.1mm/s、より好ましくは4.5~5.6mm/sである。潤滑油組成物の100℃における動粘度が上記下限値以上であることにより、潤滑性を維持することが容易になる。潤滑油組成物の100℃における動粘度が上記上限値以下であることにより、省燃費性をさらに高めることが可能になる。
【0151】
潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは4.0~50mm/s、より好ましくは15~40mm/s、さらに好ましくは18~40mm/s、特に好ましくは20~35mm/sである。潤滑油組成物の40℃における動粘度が上記下限値以上であることにより、潤滑性を維持することが容易になる。また潤滑油組成物の40℃における動粘度が上記上限値以下であることにより、低温粘度特性および省燃費性能をさらに高めることが可能になる。
【0152】
潤滑油組成物の粘度指数は、100以上であることが好ましく、より好ましくは120以上、特に好ましくは130以上である。潤滑油組成物の粘度指数が上記下限値以上であることにより、150℃におけるHTHS粘度を維持しながら省燃費性を向上させることが可能となり、さらには低温(例えば省燃費油の粘度グレードとして知られるSAE粘度グレード0W-Xに規定されるCCS粘度の測定温度である-35℃。)における粘度を低減させることが可能となる。
【0153】
潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、1.7~2.3mPa・sであり、好ましくは1.8~2.0mPa・sである。本明細書において、150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を意味する。150℃におけるHTHS粘度が上記下限値以上であることにより、潤滑性を維持することが容易になる。また150℃におけるHTHS粘度が上記上限値以下であることにより、省燃費性能をさらに高めることが可能になる。
【0154】
潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は、好ましくは3.5~4.2mPa・sであり、より好ましくは3.6~4.1mPa・sである。本明細書において、100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を意味する。100℃におけるHTHS粘度が3.5mPa・s以上であることにより、潤滑性を維持することが容易になる。また100℃におけるHTHS粘度が4.0mPa・s以下であることにより、低温粘度特性および省燃費性能をさらに高めることが可能になる。なお本明細書において、「100℃におけるHTHS粘度」とは、ASTM D4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を意味する。
【0155】
潤滑油組成物の蒸発損失量は、250℃におけるNOACK蒸発量として、15質量%以下であることが好ましく、14.5質量%以下であることがより好ましい。潤滑油基油成分のNOACK蒸発量が上記上限値以下であることにより、潤滑油の蒸発損失をさらに低減できるので、粘度増加等の高温における潤滑油の劣化をさらに抑制することが可能になるとともに、潤滑油の消費量をさらに低減することが可能になる。なお本明細書においてNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800に準拠して測定される潤滑油の蒸発量である。潤滑油組成物の250℃におけるNOACK蒸発量の下限は特に制限されるものではないが、通常5質量%以上である。
【実施例
【0156】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0157】
<実施例1~7、比較例1~4>
以下に示す基油および添加剤を用いて、本発明の潤滑油組成物(実施例1~7)及び比較用の潤滑油組成物(比較例1~4)をそれぞれ調製した。各組成物の組成を表1に示す。表1中、「基油組成」の項目において「mass%」は基油全量を基準とする質量%を表し、他の項目において「mass%」は組成物全量を基準とする質量%を表し、「mass ppm」は組成物全量を基準とする質量ppmを表す。
【0158】
(基油)
O-1: APIグループIII基油(水素化分解鉱油系基油、SKルブリカンツ社製Yubase(登録商標)4+)、動粘度(100℃)4.1mm/s、動粘度(40℃)18.7mm/s、粘度指数135、NOACK蒸発量(250℃、1h)13.5質量%、%C 87.3、%C 12.7、%C 0、飽和分99.6質量%、芳香族分0.2質量%、樹脂分0.2質量%
【0159】
(油溶性有機モリブデン化合物)
A-1:硫化(オキシ)モリブデンジチオカーバメート(モリブデン系摩擦調整剤)、Mo含有量10質量%、硫黄分11質量%、一般式(1)においてR~Rは炭素数8又は13のアルキル基
【0160】
(アミノ酸化合物)
B-1:N-オレオイルサルコシン
【0161】
(金属系清浄剤)
C-1:炭酸カルシウム過塩基化カルシウムサリシレート、Ca含有量6.2質量%、塩基価(過塩素酸法)180mgKOH/g
C-2:ホウ酸カルシウム過塩基化カルシウムサリシレート、Ca含有量6.8質量%、ホウ素含有量2.7質量%、塩基価(過塩素酸法)190mgKOH/g
C-3:中性カルシウムスルホネート、Ca含有量2.5質量%、塩基価(過塩素酸法)20mgKOH/g
D-1:炭酸マグネシウム過塩基化マグネシウムサリシレート、Mg含有量7.4質量%、塩基価(過塩素酸法)340mgKOH/g
D-2:炭酸マグネシウム過塩基化マグネシウムスルホネート、Mg含有量9.1質量%、塩基価(過塩素酸法)400mgKOH/g
【0162】
(窒素含有無灰分散剤)
E-1:ポリブテニルコハク酸イミド、N含有量0.7質量%、B含有量0質量%
E-2:ホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミド、N含有量1.5質量%、B含有量0.5質量%
【0163】
(ZnDTP)
F-1:ジアルキルジチオリン酸亜鉛、P含有量7.4質量%、S含有量15質量%、Zn含有量9.0質量%、アルキル基:第1級アルキル基
F-2:ジアルキルジチオリン酸亜鉛、P含有量7.2質量%、S含有量15質量%、Zn含有量8.0質量%、アルキル基:第2級アルキル基
【0164】
(粘度指数向上剤)
G-1:非分散型ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、重量平均分子量400,000、モノマー組成(モル比)M-1:M-2:M-3=6:2:2
【0165】
(無灰摩擦調整剤)
H-1:グリセロールモノオレエート
【0166】
(酸化防止剤)
I-1:アミン系酸化防止剤(ジフェニルアミン)
I-2:ヒンダードフェノール系酸化防止剤
【0167】
【表1】
【0168】
(エンジンモータリングトルク試験)
各潤/滑油組成物について、エンジンモータリングトルク試験を行った。各潤滑油組成物について、当該潤滑油組成物(油温80℃)により潤滑された直列4気筒DOHCエンジン(排気量1.8L、16バルブ)の出力軸を電動モータにより一定速度で回転させるのに必要なトルクを測定した。測定は750rpmで行い、比較例1における測定値に対するトルクの低減率を算出した。トルクの低減率が高いほど省燃費性に優れることを意味する。結果を表1に示している。
【0169】
(錆止め性試験)
各潤滑油組成物について、以下の試験により、潤滑油の錆止め性を評価した。
300mLガラスビーカーに入った試験油(250mL)にスチール球(直径5.6mm)(1個、材質:炭素鋼AISI 1040)を入れ、該ガラスビーカーをホットプレート上に載置し、油温60℃で2時間静置した。静置後の試験油に10%塩酸(10mL)を1分かけて滴下し、プロペラ式撹拌機を用いて60℃で2時間攪拌した後、スチール球を試験油から取り出してヘキサンで洗浄した。スチール球のさびの程度を目視にて次の4段階で評価した。結果を表1に示している。
評点3:スチール球全表面で変色部がない
評点2:スチール球表面に占める変色部の面積が全表面積の1/3未満
評点1:スチール球表面に占める変色部の面積が全表面積の1/3以上2/3未満
評点0:スチール球表面に占める変色部の面積が全表面積の2/3以上
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物によれば、省燃費性と水混入条件下での錆防止性とを同時に高めることが可能である。したがって本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、内部に水が蓄積しやすい条件で運転される内燃機関、特にハイブリッド自動車のエンジン、とりわけパラレル型ハイブリッド自動車のエンジンの潤滑に好ましく用いることができる。