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特許7442304熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20240226BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20240226BHJP
   C22F 1/05 20060101ALI20240226BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240226BHJP
【FI】
C22C21/06
C22C21/02
C22F1/05
C22F1/00 623
C22F1/00 630K
C22F1/00 630A
C22F1/00 650F
C22F1/00 661A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 686
C22F1/00 684C
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019211947
(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公開番号】P2021085040
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】521407924
【氏名又は名称】堺アルミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】山ノ井 智明
(72)【発明者】
【氏名】籠重 眞二
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-179443(JP,A)
【文献】特開2017-179449(JP,A)
【文献】特開平09-143604(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108300879(CN,A)
【文献】特開2003-321755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/06
C22C 21/02
C22F 1/05
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、Si:0.20~0.65質量%、Mg:0.35~0.7質量%、Fe:0.05~0.35質量%、Cu:0.01~0.15質量%、Ni:0.06~0.20質量%、Cr:0.05質量%以下、Mn:0.05質量%以下、Zn:0.10質量%以下、Ti:0.10質量%以下、B:0.05質量%以下を含み、残部がAlと不可避不純物からなり、かつ導電率が56%IACS以上、引張強さを250MPa以上であることを特徴とする熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材。
【請求項2】
Cu:0.04~0.12質量%、Mn:0.0002~0.04質量%、Cr:0.0002~0.04質量%、Zn:0.0002~0.04質量%、Ti:0.0002~0.04質量%、B:0.0005~0.04質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材。
【請求項3】
不可避不純物中のVが0.05質量%以下、Gaが0.05質量%以下、Zrが0.05質量%以下、Caが0.01質量%以下、Pbが0.05質量%以下、Biが0.05質量%以下、Snが0.05質量%以下、Inが0.004質量%以下に規制されていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材。
【請求項4】
化学組成が、Si:0.20~0.65質量%、Mg:0.35~0.7質量%、Fe:0.05~0.35質量%、Cu:0.01~0.15質量%、Ni:0.02~0.20質量%、Cr:0.05質量%以下、Mn:0.05質量%以下、Zn:0.10質量%以下、Ti:0.10質量%以下、B:0.05質量%以下を含み、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金鋳塊に対し、後続して実施される面削の前または後に500℃以上570℃以下の温度で1時間以上20時間以下の時間にて均質化処理を実施後、480℃以上550℃以下の温度で5分以上10時間保持後に熱間圧延を開始し、複数の圧下パスにより圧下率95%以上99.5%以下の熱間圧延を実施した後、圧下率30%以上98.5%以下の冷間圧延を施す工程を含むことを特徴とする熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム合金鋳塊は、Cu:0.04~0.12質量%、Mn:0.0002~0.04質量%、Cr:0.0002~0.04質量%、Zn:0.0002~0.04質量%、Ti:0.0002~0.04質量%、B:0.0005~0.04質量%を含有する請求項4に記載の熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム合金鋳塊は、不可避不純物中のVが0.05質量%以下、Gaが0.05質量%以下、Zrが0.05質量%以下、Caが0.01質量%以下、Pbが0.05質量%以下、Biが0.05質量%以下、Snが0.05質量%以下、Inが0.004質量%以下に規制されている請求項4または5に記載の熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【請求項7】
冷間圧延を施す工程の開始から終了のいずれかのパスの前後に少なくとも1回、120℃以上220℃以下、5分以上12時間保持による熱処理工程を含むことを特徴とする請求項4~6のいずれかに記載の熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム合金圧延材、特に熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型テレビ、パーソナルコンピューター用薄型モニター、ノートパソコン、タブレットパソコン、カーナビゲーションシステム、ポータブルナビゲーションシステム、スマートフォンや携帯電話等の携帯端末等の製品のシャーシ、メタルベースプリント基板、内部カバーのように発熱体を内蔵または装着する部材材料においては、速やかに放熱するための優れた熱伝導性、強度が求められる。
【0003】
JIS1100、1050、1070等の純アルミニウム合金は熱伝導性に優れるが、強度が低い。高強度材として用いられるJIS5052等のAl-Mg合金(5000系合金)は、純アルミニウム系合金よりも熱伝導性および導電性が著しく劣る。
【0004】
これに対しAl-Mg-Si系合金(6000系合金)は、熱伝導性および導電性が良く時効硬化により強度向上を図ることができるため、Al-Mg―Si系合金を用いて強度、熱伝導性、加工性に優れたアルミニウム合金板を得る方法が検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、Mgを0.1~0.34質量%、Siを0.2~0.8質量%、Cuを0.22~1.0質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、Si/Mg含有量比が1.3以上である合金を、半連続鋳造で厚さ250mm以上の鋳塊とし、400~540℃の温度で予備加熱を経て熱間圧延、50~85%の圧下率で冷間圧延を施した後、140~280℃の温度で焼鈍をすることを特徴とするAl-Mg―Si系合金圧延板の製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、Si:0.2~1.5質量%、Mg:0.2~1.5質量%、Fe:0.3質量%以下を含有し、さらに、Mn:0.02~0.15質量%、Cr:0.02~0.15%の1種または2種を含有するとともに、残部がAlおよび不可避不純物からなり、該不可避不純物中のTiを0.2%以下に規制し、もしくはこれに更にCu:0.01~1質量%か希土類元素:0.01~0.2質量%の1種または2種を含有する組成を有するアルミニウム合金版を連続鋳造圧延により作製し、その後冷間圧延し、次いで500~570℃の溶体化処理を行い、続いて冷間圧延率5~40%で冷間圧延を行い、冷間圧延後150~190℃未満に加熱する時効処理を行うことを特徴とする熱伝導性、強度および曲げ加工性に優れたアルミニウム合金板の製造方法が記載されている。
【0007】
特許文献3には、Si:0.2~1.5質量%、Mg:0.2~1.5質量%、Cr:0.02~0.1質量%、Fe:0.3質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、該不可避不純物中のTiが0.015質量%以下に規制され、かつ導電率が50%IACS以上、熱伝導率が200W/m・K以上であることを特徴とする熱伝導性と成形性に優れたアルミニウム合金板が開示されている。
【0008】
特許文献4には、Si:1.1~1.5質量%、Mg:0.3~0.6質量%、Cu:0.6~0.8質量%を含有し、不純物としてFe:0.35質量%以下に規制し、残部がAlおよび不可避不純物よりなり、かつ導電率が55%IACS以上、引張強さを215N/mm以上であることを特徴とする、熱伝導性と強度と曲げ加工性に優れたアルミニウム合金圧延板が開示されている。
【0009】
なお、Al-Mg―Si系合金においては、熱伝導率と導電率が良好な相関性を示し、優れた熱伝導性を有するアルミニウム合金板は優れた導電率を有し、放熱部材材料はもちろん導電部材材料として用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-62517号公報
【文献】特開2007-9262号公報
【文献】特開2005-8926号公報
【文献】特開2008-248297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1では、工程条件の検討が不十分である。また、特許文献1において、引張強さはSiまたはCuの寄与により改善がなされたものであり、Alの次に多い元素は、SiもしくはCuであり、Mgの含有量が比較的少なく、SiおよびMgをほぼ同じ割合で含有する合金は特許文献1の請求範囲に含まれない。
【0012】
特許文献2では、比較的高い強度が得られているものの実施例に記載の導電率は54%IACS未満と低い。
【0013】
特許文献3において、実施例の記載例では導電率が56%IACS以上の材料については引張強度が250MPa以上のものはなく、引張強度が250MPa以上の材料における導電率は51%IACS以下と低い。
【0014】
特許文献4においても、実施例の記載例では導電率は55%IACS以上と高いものの引張強度が250MPa以上の材料は得られていない。
【0015】
上記のように、高い導電率及び熱伝導性と引張強さの双方の特性を備えるアルミニウム合金板を得ることは非常に困難である。
【0016】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、良好な熱伝導性と高い導電率及び高い強度を有するアルミニウム合金圧延材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決すべく、本願発明者は鋭意研究の結果、アルミニウム圧延材の組成と製造工程を検討することで良好な熱伝導性と高い導電率及び熱伝導性と高い強度を有するアルミニウム合金圧延材が得られることを見出した。すなわち本願発明は以下に関する。
(1)化学組成が、Si:0.20~0.65質量%、Mg:0.35~0.7質量%、Fe:0.05~0.35質量%、Cu:0.01~0.15質量%、Ni:0.02~0.20質量%、Cr:0.05質量%以下、Mn:0.05質量%以下、Zn:0.10質量%以下、Ti:0.10質量%以下、B:0.05質量%以下を含み、残部がAlと不可避不純物からなり、かつ導電率が56%IACS以上、引張強さを250MPa以上であることを特徴とする熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材。
(2)Cu:0.04~0.12質量%、Mn:0.0002~0.04質量%、Cr:0.0002~0.04質量%、Zn:0.0002~0.04質量%、Ti:0.0002~0.04質量%、B:0.0005~0.04質量%を含有することを特徴とする前項1に記載の熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材。
(3)不可避不純物中のVが0.05質量%以下、Gaが0.05質量%以下、Zrが0.05質量%以下、Caが0.01質量%以下、Pbが0.05質量%以下、Biが0.05質量%以下、Snが0.05質量%以下、Inが0.004質量%以下に規制されていることを特徴とする前項1または2に記載の熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材。
(4)前項1~3のいずれかに記載のアルミニウム合金圧延材の組成を有するアルミニウム合金鋳塊に後続して実施される面削の前または後に500℃以上570℃以下の温度で1時間以上20時間以下の時間にて均質化後、480℃以上550℃以下の温度で5分以上10時間保持後に熱間圧延を開始し、複数の圧下パスにより圧下率95%以上99.5%以下の熱間圧延を実施した後、30%以上98.5%以下の冷間圧延を施す工程を含むことを特徴とする熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法。
(5)冷間圧延を施す工程の開始から終了のいずれかのパスの前後に少なくとも1回、120℃以上220℃以下、5分以上12時間保持による熱処理工程を含むことを特徴とする前項4に記載の熱伝導性、導電性ならびに強度に優れたアルミニウム合金圧延材の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
前項(1)に記載の発明によれば、化学組成が、Si:0.20~0.65質量%、Mg:0.35~0.7質量%、Fe:0.05~0.35質量%、Cu:0.01~0.15質量%、Ni:0.02~0.20質量%、Cr:0.05質量%以下、Mn:0.05質量%以下、Zn:0.10質量%以下、Ti:0.10質量%以下、B:0.05質量%以下を含み、残部がAlと不可避不純物からなり、熱伝導性が良く、導電率が高く、引張強さが強いアルミニウム合金圧延材となしうる。
【0019】
前項(2)に記載の発明によれば、Cu:0.04~0.12質量%、Mn:0.0002~0.04質量%、Cr:0.0002~0.04質量%、Zn:0.0002~0.04質量%、Ti:0.0002~0.04質量%、B:0.0005~0.04質量%を含有しており、熱伝導性が良く、導電率が高く、引張強さが強いアルミニウム合金圧延材となしうる。
【0020】
前項(3)に記載の発明によれば、不可避不純物中のVが0.05質量%以下、Gaが0.05質量%以下、Zrが0.05質量%以下、Caが0.01質量%以下、Pbが0.05質量%以下、Biが0.05質量%以下、Snが0.05質量%以下、Inが0.004質量%以下に規制されているから、熱伝導性が良く、導電率が高く、引張強さが強いアルミニウム合金圧延材となしうる。
【0021】
前項(4)に記載の発明によれば、熱伝導性が良く、導電率が高く、引張強さが強いアルミニウム合金圧延材を製造できる。
【0022】
前項(5)に記載の発明によれば、更に熱伝導性が良く、導電率が高く、引張強さが強いアルミニウム合金圧延材を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本願発明者は、熱間圧延、冷間圧延を順次施するアルミニウム合金圧延材の製造方法において、熱間圧延上がりの合金材の表面温度を所定の温度以下とするとともに、熱間圧延終了後であって冷間圧延終了前に時効処理としての熱処理を施すことにより、高い導電率を有しつつ高い強度を有するアルミニウム合金圧延材が得られることを見出し本願の発明に至った。
【0024】
以下に、本願のアルミニウム合金圧延材について詳細に説明する。
【0025】
アルミニウム合金圧延材の組成において、各元素の添加目的および含有量の限定理由は下記のとおりである。
(Mg、Si含有量)
MgおよびSiは強度の発現に必要な元素であり、それぞれの含有量はSi:0.20~0.65質量%、Mg:0.35~0.7質量%とする。Si含有量が0.2質量%未満あるいはMg含有量が0.35質量%未満では十分な強度を得ることができない。一方、Si含有量が0.65質量%、Mg含有量が0.7質量%を超えると、熱間圧延での圧延負荷が高くなって生産性が低下し、得られるアルミニウム板の成形加工性も悪くなる。Si含有量は0.25質量%以上0.6質量%以下が好ましく、更に0.30質量%以上0.55質量%以下が好ましい。Mg含有量は0.40質量%以上0.6質量%以下が好ましく、更に0.45質量%以上0.55質量%以下が好ましい。
(Cu含有量)
Cuは強度向上に必要な成分であるが、多量に含有すると耐食性が低下する。0.15質量%を超えると導電率の確保が難しい。一方で、0.01質量%未満では強度の確保が難しい。従ってCu含有量の範囲は0.01~0.15質量%とする。更に0.06質量%以上0.10質量%以下であることが好ましい。
(Fe含有量)
Feは結晶粒の微細化効果が期待でき強度向上に有効な成分であるが、多量に含有すると耐食性が低下する。0.35質量%を超えると耐食性への阻害要因となる。一方で、0.05質量%未満では強度向上が期待できない上にアルミ塊のベース純度が上がり高価となる。従ってFe含有量の範囲は0.05~0.35質量%とする。更に0.08質量%以上0.30質量%以下であることが好ましい。
(Ni含有量)
Niは強度向上に必要な成分であるが、多量に含有すると導電率が低下する。0.20質量%を超えると導電率の確保が難しい。一方で、0.02質量%未満では強度の確保が難しい。従ってNi含有量の範囲は0.02~0.20質量%とする。更に0.06質量%以上0.18質量%以下であることが好ましい。
(Ti、B含有量)
TiおよびBは、合金をスラブに鋳造する際に結晶粒を微細化するとともに凝固割れを防止する効果がある。前記効果はTiまたはBの少なくとも1種の添加により得られ、両方を添加してもよい。しかしながら、多量に含有すると、晶出物がサイズの大きい晶出物が多く生成するため、製品の加工性や熱伝導性および導電率が低下する。Ti含有量は0.10質量%以下が好ましく、更に0.0002質量%以上0.04質量%以下が好ましい。また、B含有量は0.05質量%以下が好ましく、特に0.0005質量%以上0.04質量%以下が好ましい。
(Mn、Cr、Zn含有量)
Mnは再結晶粒の微細化、Crは強度向上、Znは析出促進の効果が期待できる元素であるが、一方で含有量が多くなると、MnおよびCrは伝導性および導電性を低下させ、Znは合金材の耐食性を低下させる。従って、Mn、Crの含有量は0.05質量%以下とし、更に0.0002質量%以上0.04質量%以下が好ましい。Znの含有量は0.10質量%以下とし、更に0.0002質量%以上0.04質量%以下が好ましい。
(In含有量)
Inは耐食性を著しく低下させるため少ないことが好ましい。不純物としてのIn含有量は0.004質量%以下であることが好ましい。
(Ca含有量)
Caは粒界に偏析しやすく、Ca含有量が多くなると延性を低下させるため少ないことが好ましい。不純物としてのCa含有量は0.01質量%以下であることが好ましい。
(その他不純物元素)
上記以外のその他の不純物元素としては、V、Ga、Zr、Pb、Bi、Sn、等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらその他の不純物元素は個々の元素の含有量として0.05質量%以下であることが好ましい。
【0026】
次に、本願規定のアルミニウム合金圧延材を得るための処理工程について記述する。
【0027】
常法にて溶解成分調整し、アルミニウム合金鋳塊を得る。得られた合金鋳塊に熱間圧延前加熱より前の工程として均質化処理を施すことが好ましい。均質化処理は、500℃以上で行うことが好ましい。
【0028】
前記均質化処理はアルミニウム合金鋳塊中に晶出物およびMg、Siを固溶させ均一な組織とするために実施するが、温度が高すぎると共晶融解が生じるため、500℃以上570℃以下で行うことが好ましく、特に520℃以上560℃以下で行うことが好ましい。時間は1時間以上20時間以下で行うことが好ましく、特に2時間以上18時間以下で行うことが好ましい。
【0029】
アルミニウム合金鋳塊に均質化処理を行った後、一旦冷却した後、あるいは冷却することなく引き続いて熱間圧延前加熱を行う。熱間圧延前加熱の好ましい温度範囲は480℃以上550℃以下である。時間は5分以上10時間以下が好ましい。更に好ましい範囲は、温度500℃以上540℃以下、時間1時間以上8時間以下である。なお、前記均質化処理および熱間圧延前加熱双方の好ましい温度範囲にて均質化処理と熱間圧延前加熱を兼ねて同じ温度で加熱しても良い。
【0030】
鋳造後熱間圧延前加熱前に鋳塊の表面近傍の不純物層を除去する為に鋳塊に面削を施すことが好ましい。面削は鋳造後均質化処理前であっても良いし、均質化処理後熱間圧延前加熱前であってもよい。
【0031】
熱間圧延前加熱後のアルミニウム合金鋳塊に熱間圧延を施す。熱間圧延は粗熱間圧延と仕上げ熱間圧延からなり、粗熱間圧延機を用い複数のパスからなる粗熱間圧延を行った後、粗熱間圧延機とは異なる仕上げ熱間圧延機を用いて仕上げ熱間圧延を行う。なお、本願において、粗熱間圧延機での最終パスを熱間圧延の最終パスとする場合は、仕上げ熱間圧延を省略することができる。
【0032】
冷間圧延をコイルで実施する場合には、仕上げ熱間圧延後のアルミニウム合金圧延材を巻き取り装置で巻き取って熱延コイルとすればよい。仕上げ熱間圧延を省略し、粗熱間圧延の最終パスを熱間圧延の最終パスとする場合は、粗熱間圧延の後、アルミニウム合金圧延材を巻き取り装置にて巻き取って熱延コイルとしてもよい。
【0033】
粗熱間圧延では、溶体化処理に準じてMgおよびSiが固溶された状態を保持した後、粗熱間圧延のパスによるアルミニウム合金圧延材の冷却、もしくは粗熱間圧延のパス後とパス後の冷却による温度降下により焼き入れの効果を得ることができる。
【0034】
上記粗熱間圧延のパス間の冷却は、アルミニウム合金圧延材を圧延しながら圧延後の部位に対し順次実施してもよいし、アルミニウム合金圧延材全体を圧延した後実施してもよい。冷却の方法は限定されないが、水冷であっても空冷であってもよいし、クーラントを利用してもよい。
【0035】
本願において、粗熱間圧延の最終パス後に仕上げ圧延を行わない場合は、熱間圧延の最終パス直後のアルミニウム合金圧延材の表面温度を熱延上り温度とし、粗熱間圧延の最終パス後に仕上げ圧延を行う場合は、仕上げ圧延直前のアルミニウム合金圧延材の表面温度を熱延上り温度とする。
【0036】
上記熱延上り温度は280℃以下とすることが好ましい。熱延上り温度を280℃以下とすることにより有効な焼き入れ効果が得られ、その後の熱処理時により時効硬化するとともに導電率が向上する。熱延上り温度が高すぎると、焼き入れの効果が不足し、熱間圧延終了後冷間圧延終了前に熱処理を実施しても強度の向上が不十分となる。熱延上り温度は260℃以下が更に好ましく、特に250℃以下が好ましい。
【0037】
なお、後工程の冷間圧延をコイルで実施するために熱間圧延後にコイル巻き取りを実施する際、巻き取り後の自然冷却速度が極めて遅くなる場合がある。その時、高温で長時間保持されると粗大な析出物が発生し過時効となるため、後述する熱処理による時効硬化が見込めなくなる。
【0038】
従って、コイル状に巻き取る場合で仕上げ熱間圧延を行わない場合は、粗熱間圧延最終パス上りのアルミニウム合金板の表面温度は180℃以下が好ましい。粗熱間圧延の後仕上げ熱間圧延を行う場合は、仕上げ熱間圧延後のアルミニウム合金板の表面温度は180℃以下であることが好ましい。
【0039】
熱間圧延終了後、冷間圧延前後またはそのパス間においてアルミニウム合金圧延材に熱処理を施し、時効硬化させるとともに導電率を向上させることができる。本願においてアルミニウム合金圧延材への熱処理は時効硬化および導電率向上の効果を得るために120℃以上200℃未満の温度で実施することが好ましい。前記熱処理の温度は130℃以上190℃以下が更に好ましく、特に140℃以上180℃以下が好ましい。
【0040】
前記熱間圧延終了後、冷間圧延前後またはそのパス間において実施するアルミニウム合金圧延材の熱処理の時間は、5分以上12時間以下熱処理を実施することが好ましい。更に1時間以上10時間以下が好ましく、特に2時間以上8時間以下が好ましい。
【0041】
前記熱処理後の冷間圧延により所定の厚さのアルミニウム合金圧延材とする。冷間圧延を実施することにより一般に加工硬化にて強度は向上する。熱間圧延終了後、前記熱処理により時効硬化させたアルミニウム合金圧延材に冷間圧延を実施すると加工硬化による強度向上効果が期待できる。冷間圧延後に前記熱処理を実施すると予備歪により時効硬化能を更に向上させることが出来る。冷間圧延終了後に前記熱処理を実施すると冷間加工歪の回復と時効析出が同時に起こるため、大きな強度向上は期待できないが、延性が大幅に向上し、曲げ加工等の成形性を向上させることができる。
【0042】
このように要求される特性により前記熱処理の位置は、熱間圧延終了後、冷間圧延前後またはそのパス間で使い分けることが望ましい。
【0043】
熱間圧延終了後、所定の厚さのアルミニウム合金圧延材を得るまでの冷間圧延の総圧下率は強度向上の為30%以上で実施されることが好ましい。冷間圧延によるアルミニウム合金圧延材の総圧延率は更に40%以上が好ましく、特に50%以上が好ましい。総圧下率の上限は、加工硬化による伸びの低下を考慮し、98.5%以下とする。
【0044】
冷間圧延後のアルミニウム合金圧延材に必要に応じて洗浄を実施しても良い。
【0045】
なお、本願のアルミニウム合金圧延材の製造はコイルで行ってもよく、単板で行ってもよい。また、冷間圧延より後の任意の工程でアルミニウム合金圧延材を切断し切断後の工程を単板で行ってもよいし、用途に応じスリットして条にしても良い。
【0046】
上記の製造方法によれば、高い導電率を得つつ、強度を向上させることができ、優れたアルミニウム合金圧延材が得られる。
【0047】
本願のアルミニウム合金圧延材の導電率は56%IACS以上、引張強さは250MPa以上と規定する。引張強さは260MPa以上が好ましく、270MPa以上が更に好ましく、特に280MPa以上がよりいっそう好ましい。本願規定の導電率と引張強さを満足することにより優れた熱伝導性を有するアルミニウム合金圧延材となる。
【実施例
【0048】
以下に、本発明を実施例により説明する。なお、本発明は、ここに記述する実施例に発明の範囲を限定するものではなく、本発明の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。
【0049】
まず、表1に示す11種類の化学組成のアルミニウム合金スラブに面削を施した。次に、面削後の合金スラブに対し加熱炉中で表2記載の均質化処理を実施した後、同じ炉中で温度を変化させ表2記載の熱間圧延前加熱を実施した。熱間圧延前加熱後のスラブを加熱炉中から取り出し、粗熱間圧延を実施し、表2記載の合金板とした。
【0050】
粗熱間圧延の後、引き続き仕上げ熱間圧延を実施し、表2記載の熱延上り温度、板厚の熱間圧延板を得た。仕上げ熱間圧延後の合金板に表2記載の熱処理、冷間圧延を施し、所定の板厚のアルミニウム合金板を得た。表1の合金スラブと表2の工程の組み合わせは表3の通りとした。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
得られた合金板の引張強さ、0.2%耐力、伸び、導電率、曲げ加工性を以下の方法により評価した。
[引張強さ、耐力、伸び]
引張強さ(σB)、0.2%耐力(σ0.2)および伸び(δ)は、JISZ2201に定めるJIS5号試験片にて、圧延方向に対し平行方向に採取した試料について常温、常法により測定した。
[導電率]
導電率は、国際的に採択された焼鈍標準軟銅(体積低効率1.7241×10-2μΩm)の導電率を100%IACSとしたときの相対値(%IACS)として求めた。
[曲げ加工性]
曲げ加工性は、曲げ角度を90°、合金板の厚さが0.4mm以上の場合はそれぞれの合金板の板厚を曲げ内側半径、合金板の厚さが0.4mm未満の場合は曲げ内側半径を0として、JIS Z 2248金属材料曲げ試験方法の「6.3 Vブロック法による曲げ試験」を実施し、割れが発生しなかったものを○、割れが発生したものを×として評価した。
【0054】
引張強さ、0.2%耐力、導電率、および曲げ加工性の評価結果を表3に示す。表3より、本願規定の化学組成、引張強さ、および導電率を満足する実施例記載のアルミニウム合金圧延材が確認できた。
【0055】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係るアルミニウム合金圧延材においては、熱伝導率と導電率が良好な相関性を示し、優れた熱伝導性を有するアルミニウム合金板は優れた導電率を有し、放熱部材材料はもちろん導電部材材料として用いることができて有用である。