(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】ポリマーセメント組成物用原料セット、ポリマーセメント組成物及びその製造方法、並びにポリマーセメント硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 28/06 20060101AFI20240226BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240226BHJP
C04B 22/16 20060101ALI20240226BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20240226BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
C04B28/06
C04B24/26 C
C04B22/16 A
C04B24/12 A
C04B24/26 E
C04B24/04
(21)【出願番号】P 2020058780
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】515181409
【氏名又は名称】MUマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】松野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】貫田 誠
(72)【発明者】
【氏名】戸田 靖彦
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-501236(JP,A)
【文献】特開2012-224511(JP,A)
【文献】特開2014-148446(JP,A)
【文献】特表2019-536725(JP,A)
【文献】特開2013-001585(JP,A)
【文献】特開平02-150457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメントを含む水硬性成分、樹脂エマルション、凝結遅延剤、及び凝結促進剤を含有する第1の原料と、
アミン化合物を含む塩基性水溶液からなる第2の原料と、
から構成される、ポリマーセメント組成物用原料セット。
【請求項2】
前記樹脂エマルションが、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体エマルション又はアクリル共重合体エマルションである、請求項1に記載のポリマーセメント組成物用原料セット。
【請求項3】
前記凝結促進剤が、ギ酸塩を含む、請求項1又は2に記載のポリマーセメント組成物用原料セット。
【請求項4】
前記第1の原料が、細骨材をさらに含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマーセメント組成物用原料セット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマーセメント組成物用原料セットの前記第1の原料と前記第2の原料とを混合してなる、ポリマーセメント組成物。
【請求項6】
アルミナセメントを含む水硬性成分、樹脂エマルション、凝結遅延剤、及び凝結促進剤を含有する第1の原料を準備する工程と、
前記第1の原料に、アミン化合物を含む塩基性水溶液からなる第2の原料を添加し、前記第1の原料と前記第2の原料とを混合する工程と、
を備える、ポリマーセメント組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項
5に記載のポリマーセメント組成物の硬化物を含有する、ポリマーセメント硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーセメント組成物用原料セット、ポリマーセメント組成物及びその製造方法、並びにポリマーセメント硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物の屋上、地下、ベランダ、開放廊下、外壁等に防水性を付与する場合、樹脂エマルション等にセメントを配合したポリマーセメントが施工され、さらに、意匠性及び耐久性を付与するため、防水層の表面に樹脂エマルションに顔料等を配合した着色塗料が施工されることもある。例えば、特許文献1には、水性ペースト状の第一の成分を用意し、これに活性化剤を含有する第二の成分を添加する、基材に塗布するための水性被覆材料(ポリマーセメント組成物)の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の水性被覆材料では、活性化剤としてアルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを使用することが記載されている。しかし、これらのアルカリ金属水酸化物は劇物として指定されており、製造、運搬、販売、使用等において様々な制約がかかる。また、アルカリ金属水酸化物と接触した場合、薬傷のおそれがあるため、作業中の安全性が懸念される。
【0005】
そこで、本発明は、活性化剤に劇物を使用せず、作業中の安全性に優れ、かつ原料混合後の可使時間を充分に確保することができるとともに、硬化物を形成したときの硬化物の下地ひび割れ追従性及び伸び性能が、アルカリ金属水酸化物を使用した場合と同程度以上の性能を示すポリマーセメント組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、所定の第1の原料及び所定の第2の原料を用いることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の一側面は、ポリマーセメント組成物用原料セットに関する。当該ポリマーセメント組成物用原料セットは、アルミナセメントを含む水硬性成分、樹脂エマルション、凝結遅延剤、及び凝結促進剤を含有する第1の原料と、アミン化合物を含む塩基性水溶液からなる第2の原料とから構成される。このようなポリマーセメント組成物用原料セットを用いることによって、作業中の安全性に優れ、かつ原料混合後の可使時間を充分に確保することができるとともに、硬化物を形成したときの硬化物の下地ひび割れ追従性及び伸び性能に優れるポリマーセメント組成物を製造することが可能となる。
【0008】
以下に、ポリマーセメント組成物用原料セットの好ましい様態を示す。本発明の一側面では、これらを複数組み合わせてもよい。
(1)樹脂エマルションが、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体エマルション又はアクリル共重合体エマルションであること
(2)凝結促進剤が、ギ酸塩を含むこと
(3)第1の原料が、細骨材をさらに含有すること
【0009】
本発明の他の一側面は、ポリマーセメント組成物に関する。当該ポリマーセメント組成物は、上述のポリマーセメント組成物用原料セットの第1の原料及び第2の原料を含有するものであり、アルミナセメントを含む水硬性成分と、樹脂エマルションと、凝結遅延剤と、凝結促進剤と、アミン化合物を含む塩基性水溶液とを含有する。このようなポリマーセメント組成物によれば、作業中の安全性に優れ、かつ原料混合後の可使時間を充分に確保することができるとともに、硬化物を形成したときの硬化物の下地ひび割れ追従性及び伸び性能に優れる。また、このようなポリマーセメント組成物によれば、混合の際に粉塵が発生しないため、防塵マスクを必要とせず、従来に比べて良好な作業環境で施工することが可能となる。
【0010】
本発明の他の一側面は、ポリマーセメント組成物の製造方法に関する。当該ポリマーセメント組成物の製造方法は、アルミナセメントを含む水硬性成分、樹脂エマルション、凝結遅延剤、及び凝結促進剤を含有する第1の原料を準備する工程と、第1の原料に、アミン化合物を含む塩基性水溶液からなる第2の原料を添加し、第1の原料と第2の原料とを混合する工程とを備える。
【0011】
本発明の他の一側面は、ポリマーセメント硬化体に関する。当該ポリマーセメント硬化体は、上述のポリマーセメント組成物の硬化物を含有する。ポリマーセメント硬化体によれば、下地ひび割れ追従性及び伸び性能に優れるポリマーセメント組成物の硬化物を含有していることから、防水性能に優れるものとなり得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、活性化剤に劇物を使用せず、作業中の安全性に優れ、かつ原料混合後の可使時間を充分に確保することができるとともに、硬化物を形成したときの硬化物の下地ひび割れ追従性及び伸び性能が、アルカリ金属水酸化物を使用した場合と同程度以上の性能を示すポリマーセメント組成物が提供される。また、本発明によれば、このようなポリマーセメント組成物を製造するための原料セットが提供される。また、本発明によれば、このようなポリマーセメント組成物の製造方法が提供される。さらに、本発明によれば、このようなポリマーセメント組成物の硬化物を含有するポリマーセメント硬化体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
[ポリマーセメント組成物用原料セット]
一実施形態のポリマーセメント組成物用原料セットは、ポリマーセメント組成物を製造するために好適に用いられるものであり、第1の原料と第2の原料とから構成される。ポリマーセメント組成物は、例えば、第1の原料に対して、第2の原料を添加し、第1の原料と第2の原料とを混合することによって製造することができる。
【0015】
<第1の原料>
第1の原料は、水硬性成分、樹脂エマルション(樹脂が水中に分散している液体)、凝結遅延剤、及び凝結促進剤を含有する。第1の原料は、水硬性成分と少なくとも樹脂エマルションにおける水とが反応することから、徐々に硬化が進行する成分であり得る。
【0016】
(水硬性成分)
水硬性成分は、アルミナセメントを含む。速硬性、白華抑制効果による美観、及び耐食性の観点から、水硬性成分中のAl2O3の含有量は、好ましくは20%~90%、より好ましく40%~80%、さらに好ましくは55%~75%である。
【0017】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。アルミナセメントは、本発明に支障のない粒径を有するものを使用すればよく、市販されているものを使用でき、例えば粒子径が1μm~90μm程度のものを主成分として用いることが好ましい。アルミナセメントは、例えば、粒子径が1~90μm程度のものがアルミナセメントの全量を基準として、好ましくは80質量%~100質量%、より好ましくは90質量%~100質量%、さらに好ましくは95質量%~100質量%で含まれているものを用いることが好ましい。アルミナセメントは、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0018】
(樹脂エマルション)
樹脂エマルションとしては、公知の樹脂エマルションを用いることができる。樹脂エマルションとしては、合成樹脂エマルションであってよい。合成樹脂エマルションとしては、ポリエチレンエマルション、ポリプロピレンエマルション、ポリ酢酸ビニルエマルション、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体エマルション、エチレンと酢酸ビニルと(メタ)クリル酸誘導体との共重合体エマルション、エチレンと(メタ)クリル酸誘導体との共重合体エマルション、ポリ(メタ)クリル酸誘導体のエマルション、スチレンと(メタ)クリル酸誘導体との共重合体エマルション、ポリクロロプレンラテックス、酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体エマルション、スチレンとブタジエンとの共重合体エマルション、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合体エマルション、酢酸ビニルと(メタ)クリル酸誘導体とのエマルション等のエチレン、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)クリル酸誘導体などを少なくとも1種含む合成樹脂のエマルションを用いることができる。(メタ)クリル酸誘導体は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸、これらのエステルなどの酸誘導体を意味し、少なくともこれらの成分を1種以上含むものである。これらは、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。樹脂エマルションは、好ましくはエチレンと酢酸ビニルとの共重合体エマルション又はアクリル共重合体エマルション、より好ましくはアクリル共重合体エマルションである。特に、樹脂エマルションとしてアクリル共重合体エマルションを用いることによって、得られるポリマーセメント組成物は、低温環境(例えば、0℃周辺)における下地ひび割れ追従性及び伸び性能に優れる傾向にあり、冬期のような低温環境でも容易に施工が可能で、かつ優れた防水性を有する硬化物(塗膜)を形成させることができる。
【0019】
樹脂エマルションに含まれる樹脂成分のガラス転移温度は、特に限定されるものではないが、下地ひび割れ追従性及び伸び性能の観点から、好ましくは-45℃~0℃、より好ましくは-40℃~-5℃、さらに好ましくは-35℃~-10℃を好適に用いることができる。
【0020】
樹脂エマルションの固形分(樹脂分)の含有量は、下地ひび割れ追従性及び伸び性能の観点から、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは50質量部~550質量部、より好ましくは75質量部~450質量部、さらに好ましくは100質量部~350質量部である。
【0021】
(凝結遅延剤)
凝結遅延剤は、水硬性成分の水和反応を遅延させるための成分である。凝結遅延剤としては、例えば、リン酸;亜リン酸;次亜リン酸;ピロリン酸;及びこれらの塩が挙げられる。これらの中でも、凝結遅延剤は、好ましくはリン酸又はリン酸塩を含む。リン酸塩としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、リン酸カルシウム、重リン酸アルミニウム、重リン酸マグネシウム等が挙げられる。凝結遅延剤としてリン酸又はリン酸塩を用いることによって、水和反応の進行を長期にわたって抑制することができる傾向にある。凝結遅延剤は、より好ましくはリン酸を含む。
【0022】
凝結遅延剤の含有量は、水和反応の進行の安定的抑制、下地ひび割れ追従性、及び伸び性能の観点から、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~10質量部、より好ましくは0.5質量部~7質量部、さらに好ましくは1質量部~5質量部である。
【0023】
(凝結促進剤)
凝結促進剤は、水硬性成分の水和反応を促進させるための成分である。凝結促進剤は、通常、上述の凝結遅延剤と組み合わせて、凝結調整剤として使用される。凝結促進剤しては、例えば、酢酸塩、ギ酸塩等が挙げられる。これらの中でも、凝結促進剤は、ギ酸塩を含むことが好ましい。通常、凝結促進剤は、水硬性成分の水和反応を促進させるために用いられるものであるが、ギ酸塩を含む凝結促進剤を用いることによって、又は、凝結遅延剤とギ酸塩を含む凝結促進剤とを組み合わせて用いることによって、原料混合後の可使時間をより充分に確保することができるとともに、硬化物を形成したときの硬化物の下地ひび割れ追従性及び伸び性能により優れるものとなり得る。このような効果が発現する理由は、必ずしも明らかではないが、本発明者らは、凝結促進剤としてギ酸塩を含むことによって、凝結遅延剤の効力を損なわずにセメント粒子を穏やかに刺激することができ、その結果として、可使時間を充分に確保できると考えている。また、凝結促進剤としてギ酸塩を含むことによって、セメントの水和反応の初期段階が緩やかに開始されることとなり、その結果として、樹脂の特性を損ない難く、下地ひび割れ追従性及び伸び性能により優れた硬化物が得られると考えている。
【0024】
ギ酸塩としては、例えば、ギ酸リチウム、ギ酸カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、ギ酸塩は、可使時間をより充分に確保できることから、好ましくはギ酸カルシウムである。
【0025】
凝結促進剤の含有量は、可使時間の観点から、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~10質量部、より好ましくは0.4質量部~7質量部、さらに好ましくは0.7質量部~5質量部である。
【0026】
(細骨材)
第1の原料は、細骨材をさらに含有していてもよい。細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂等の砂類などが挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
細骨材の含有量は、施工時の作業性の観点から、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは50質量部~400質量部、より好ましくは75質量部~350質量部、さらに好ましくは100質量部~300質量部である。
【0028】
(分散剤)
第1の原料は、分散剤をさらに含有していてもよい。分散剤は、減水効果を併せ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル、ポリカルボン酸等の市販品をその種類に問わず用いることができる。これらは、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、分散剤は好ましくはポリエーテル又はポリカルボン酸である。
【0029】
分散剤の含有量は、無機成分粒子の安定分散、減水効果、及び経済性の観点から、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01質量部~10質量部、より好ましくは0.05質量部~7質量部、さらに好ましくは0.1質量部~4質量部である。
【0030】
(増粘剤)
第1の原料は、増粘剤をさらに含有していてもよい。増粘剤としては、例えば、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、変性アクリル系、水溶性ポリマー系、キサンタンガム、スターチエーテル、グアーガム等の化工でんぷん系の増粘剤などが挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、増粘剤は好ましくはセルロース系又は変性アクリル系の増粘剤である。
【0031】
増粘剤の含有量は、無機成分粒子の安定分散、施工時の作業性、及び経済性の観点から、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01質量部~5質量部、より好ましくは0.03質量部~3質量部、さらに好ましくは0.05質量部~2質量部である。
【0032】
(水)
第1の原料は、樹脂エマルションにおける水に加えて、さらに水を含有していてもよい。水(樹脂エマルションにおける水を含む総量)の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは15質量部~600質量部、より好ましくは50質量部~500質量部、さらに好ましくは100質量部~400質量部、特に好ましくは150質量部~300質量部である。
【0033】
(無機微粉末)
第1の原料は、細骨材の代わりに、又は、細骨材に加えて、無機微粉末を含有していてもよい。無機微粉末としては、例えば、スラグ粉、フライアッシュ、石灰石粉、タルク、カオリン、アルミナ粉、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0034】
<第2の原料>
第2の原料は、アミン化合物を含む塩基性水溶液である。塩基性水溶液がアミン化合物を含むことによって、可使時間、伸び性能、及び安全性の観点で優れる傾向にある。第1の原料に、第2の原料を添加し、これらを混合することによって、得られるポリマーセメント組成物の水和反応を開始させることができる。
【0035】
アミン化合物としては、特に制限されないが、例えば、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルアミン、メタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等が挙げられる。
【0036】
塩基性水溶液におけるアミン化合物の濃度は、緻密な組織の形成及び経済性の観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。塩基性水溶液におけるアミン化合物の濃度の上限は、例えば、99質量%以下又は95質量%以下であってよい。
【0037】
第1の原料と第2の原料(塩基性水溶液)との割合は、緻密な組織の形成及び経済性の観点から、第1の原料の水硬性成分を100質量部としたとき、第2の原料(塩基性水溶液)が、好ましくは1~50質量部、より好ましくは3質量部~30質量部、さらに好ましくは5質量部~20質量部となる割合である。
【0038】
[ポリマーセメント組成物]
一実施形態のポリマーセメント組成物は、アルミナセメントを含む水硬性成分と、樹脂エマルションと、凝結遅延剤と、凝結促進剤と、アミン化合物を含む塩基性水溶液とを含有する。ポリマーセメント組成物は、水和反応の進行及び/又は乾燥によって、硬化物となり得るものである。このようなポリマーセメント組成物によれば、作業中の安全性に優れ、かつ原料混合後の可使時間を充分に確保することができるとともに、硬化物を形成したときの硬化物の下地ひび割れ追従性及び伸び性能に優れるものとなる。
【0039】
ポリマーセメント組成物は、上述のポリマーセメント組成物用原料セットの第1の原料及び第2の原料を含有するものである。そのため、ポリマーセメント組成物で使用される材料、含有量等は、上述のポリマーセメント組成物用原料セットの第1の原料及び第2の原料の材料、含有量等と同様である。したがって、ここでは、重複する説明を省略する。
【0040】
ポリマーセメント組成物の粘度は、施工時に使用される施工道具、塗布量等によって適宜調整することができる。ポリマーセメント組成物を、例えば、ローラーで施工する場合の粘度は、作業性及び硬化物の保形性の観点から、好ましくは3000~40000mPa・s、より好ましくは4000~30000mPa・s、さらに好ましくは5000~20000mPa・sである。なお、本明細書において、ポリマーセメント組成物の粘度は、実施例の記載の方法で測定される粘度を意味する。
【0041】
[ポリマーセメント組成物の製造方法]
一実施形態のポリマーセメント組成物の製造方法は、第1の原料を準備する工程(以下、「第1の工程」という場合がある。)と、第1の原料に第2の原料を添加し、第1の原料と第2の原料とを混合する工程(以下、「第2の工程」という場合がある。)とを備える。
【0042】
<第1の工程>
本工程では、第1の原料を準備する。第1の原料は、例えば、アルミナセメントを含む水硬性成分、樹脂エマルション、凝結遅延剤、及び凝結促進剤、並びに必要に応じて添加される成分を容器に加え、これらの混合物をハンドミキサー等の混合機を用いて混合することによって、準備することができる。第1の原料は、樹脂エマルションの水に加えて、さらに水を含有してもよい。各成分の容器に加える順序は、特に制限されず、各成分の性状に合わせて任意に調整することができる。準備された第1の原料は、小分け容器に適宜分けてもよい。
【0043】
<第2の工程>
本工程では、第1の原料に第2の原料を添加し、第1の原料と第2の原料とを混合する。第1の原料に第2の原料を添加する方法は、第1の原料に第2の原料を添加できるのであれば特に制限されず、任意の方法を採用することができる。第1の原料と第2の原料とを混合する方法も、第1の原料と第2の原料とを混合できるのであれば特に制限されず、任意の方法を採用することができる。第1の原料と第2の原料とを混合する方法としては、例えば、ハンドミキサー等の混合機を用いて混合する方法等が挙げられる。
【0044】
[ポリマーセメント硬化体]
一実施形態のポリマーセメント硬化体は、上述のポリマーセメント組成物の硬化物を含有する。
【0045】
ポリマーセメント組成物は、一般的方法で被施工物表面に塗布して使用される。ポリマーセメント硬化体は、塗布したポリマーセメント組成物の水和反応の進行及び/又は乾燥により、ポリマーセメント組成物の硬化物を形成することによって得ることできる。ポリマーセメント組成物の乾燥時間は、気温及び塗布量によって変化するが、例えば、23℃で塗布量が1kg/m2である場合、好ましくは0.3~3.0時間、より好ましくは0.4~2.5時間、さらに好ましくは0.5~2.0時間である。ポリマーセメント組成物の乾燥時間がこの範囲にあると、良好な作業時間を確保しつつ、塗布施工後は速やかに次工程に移行することができる。
【0046】
ポリマーセメント硬化体は、施工者又は施工場所による硬化物(塗膜)厚みのバラツキを軽減する目的として、上述の操作を繰り返し行い、複数層のポリマーセメント組成物の硬化物を有していることが好ましい。また、建築物の屋上、構造物の壁等の施工で、ポリマーセメント組成物の硬化物間に、不織布、織布等のメッシュを挟む構造を形成する場合は、ポリマーセメント組成物の硬化物上にメッシュを置き、メッシュの上からさらにポリマーセメント組成物を塗布し、メッシュを固定する方法を採用することができる。
【0047】
ポリマーセメント硬化体は、下地ひび割れ追従性及び伸び性能に優れるポリマーセメント組成物の硬化物を含有していることから、防水性能に優れるものとなり得る。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本開示について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
[使用材料]
<第1の原料>
(1)水硬性成分
・アルミナセメント:イメリス社製、ブレーン比表面積:3520cm2/g
(2)樹脂エマルション
・樹脂エマルションA:市販のアクリル共重合体エマルション(固形分濃度:60質量%、pH:4.2、ガラス転移温度(Tg):-34℃)
・樹脂エマルションB:市販のエチレンと酢酸ビニルと共重合体エマルション(固形分濃度:60%、pH:4.5、ガラス転移温度(Tg):-15℃)
(3)凝結遅延剤
・リン酸(市販):濃度85%以上、密度1.69g/cm3以上
(4)凝結促進剤
・ギ酸カルシウム(市販):含有量98%以上
・酢酸リチウム(市販):含有量98%以上
(5)細骨材
・珪砂(100メッシュ(150μm)篩通過質量が40%以上、140メッシュ(106μm)篩通過質量が10%以上、70メッシュ(212μm)篩通過質量が90%以上の粒度を有する珪砂)
(6)分散剤
・SNディスパーサント5020(サンノプコ株式会社製):有効成分約40%
(7)増粘剤
・SNシックナー920(サンノプコ株式会社製)
【0050】
なお、樹脂エマルションにおける樹脂成分のガラス転移温度(Tg)は、以下の方法によって測定した。ガラス板上に樹脂エマルションを適量滴下し、60℃で16時間乾燥することによって、9.5~10.5mgの範囲にある乾燥塗膜を得た。当該乾燥塗膜を、示差走査熱量計(DSC)(株式会社島津製作所社製、DSC-50)を用い、ガラス転移温度を測定した。DSCの測定条件は、室温から150℃に10分間で昇温し、150℃を10分間保持した後に計算で得られた試料のTgより50℃低い温度まで下げ、再度150℃まで10分間で昇温する際に、1回目のTgを測定した。次いで、1回目のTgより50℃低い温度まで下げる際に、2回目のTgを測定した。本明細書においては、2回目のTgを樹脂成分のガラス転移温度(Tg)とした。
【0051】
<第2の原料>
(1)塩基性水溶液
・2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール:市販品を蒸留水で濃度90%になるように調製した水溶液
・水酸化ナトリウム:市販品を蒸留水で濃度90%になるように調製した水溶液
【0052】
(実施例1~3及び比較例1)
[ポリマーセメント組成物の調製]
表1に示す原料を用いて、ポリマーセメント組成物の調製を行った。なお、表1に示す数値は質量部を意味する。樹脂エマルションの数値は樹脂エマルション全体の質量部を意味し、括弧内の数値は固形分の質量部を意味する。まず、撹拌容器に、水、水硬性成分、凝結遅延剤、凝結促進剤、分散剤、及び増粘剤を加え、これらを15分間撹拌混合した。その後、撹拌容器に樹脂エマルション及び細骨材を添加し、これらをさらに10分間撹拌混合し、1日静置することによって第1の原料を得た。次いで、得られた第1の原料に対して、第2の原料である塩基性水溶液を添加し、30秒間撹拌混合することによって、ポリマーセメント組成物を調製した。
【0053】
[ポリマーセメント組成物及びその硬化物の評価]
実施例1~3及び比較例1のポリマーセメント組成物及びその硬化物を用いて、以下の評価を行った。
【0054】
(1)粘度の測定
粘度は、温度23℃の環境下で、B型粘度計(ブルックフィールド社製デジタル粘度計:RVDV-1+)及びローターNo.6を用いて行った。調製したポリマーセメント組成物を200mLのカップにすばやく充填し、充填直後に、スピンドルを6rpm(回転/分)に設定し、回転開始してから1分後の粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(2)可使時間の評価
調製したポリマーセメント組成物を容器に入れ、ポリマーセメント組成物を入れた容器を所定の時間ごとに傾け、ポリマーセメント組成物が流動しなくなった時間を可使時間として評価した。結果を表1に示す。
【0056】
(3)下地ひび割れ追従性の評価(ゼロスパン伸び量の評価)
中央に切り込みを入れた5mm厚スレート板(50mm×150mm)に、予めプライマー(第1の原料の準備の際に、第1の原料の配合成分の質量に対して、3倍量の水を添加した以外は、各実施例及び比較例のポリマーセメント組成物と同様にして調整したポリマーセメント組成物)を0.2kg/m2の量で塗布した。プライマーが塗布されたスレート板のプライマー塗布面に、調製したポリマーセメント組成物を2mm厚みでコテを用いて塗布した。塗布後、温度23±2℃、相対湿度50±5%の条件下で14日間養生し、ポリマーセメント組成物の硬化物を試験体として得た。下地ひび割れ追従性試験による伸びの測定は、試験体を測定温度0℃又は23℃の条件で、精密万能材料試験機(株式会社インテスコ製、210XLS)を用い、引張速度5mm/分の条件で行った。目視観察で試験体に亀裂等の欠陥が生じた時の伸びを測定し、その伸びを下地ひび割れ追従性(ゼロスパン)として評価した。結果を表1に示す。
【0057】
(4)伸び性能の評価
ガラス板にPETフィルムを敷き、その上に調製したポリマーセメント組成物を2mm厚みで塗布し、温度23±2℃、相対湿度50±5%の条件下で塗膜を7日間養生した。その後、塗膜を剥がし、さらに23±2℃の状態で7日間養生し、塗膜シートを得た。伸び性能は、標線間伸び率及びチャック間伸び率で評価した。伸び率の測定は、塗膜シートよりダンベル2号形(JIS K 6251準拠)を用いて試験片を作製し、試験片の中央部分に幅20mmの標線を引き、20mm部分の3箇所の厚みを測定し、平均厚みを算出した。試験片を各温度で12時間以上養生し、同温度条件で試験した。試験は、精密万能材料試験機(株式会社インテスコ製、商品名:210XLS)を用い、チャック間隔(つかみ間隔)を60mmに調整した試験機に試験片をたるみがないように取り付け、引張速度200mm/分で試験片が破断するまで引張り、最大引張荷重と標線間距離およびチャック間距離を測定し、伸び率を算出した。ただし、標線間伸び率の測定は、23℃のみ測定した。
標線間伸び率(%)=(B-A)/A×100 (1)
(式(1)中、Aは標線間の試料の長さ(20mm)、Bは破断時の標線間の試料の長さ(破断時の標線間距離)である。)
チャック間伸び率(%)=(B’-A’)/A’×100 (2)
(式(1)中、A’はチャック間の試料の長さ(60mm)、B’は破断時のチャック間の試料の長さ(破断時のチャック間距離)である。)
【0058】
【0059】
表1に示すとおり、アミン化合物を含む塩基性水溶液を用いた実施例のポリマーセメント組成物は、水酸化ナトリウムを含む塩基性水溶液を用いた比較例のポリマーセメント組成物に比べて、可使時間、下地ひび割れ追従性、及び伸び性能の点において優れていた。また、ギ酸塩を含む凝結促進剤を用いた実施例1、2のポリマーセメント組成物は、酢酸塩を含む凝結促進剤を用いた実施例3のポリマーセメント組成物に比べて、可使時間、下地ひび割れ追従性、及び伸び性能の点において優れる傾向にあることが判明した。さらに、樹脂エマルションとしてアクリル共重合体エマルションを用いた実施例1のポリマーセメント組成物は、樹脂エマルションとしてエチレンと酢酸ビニルと共重合体エマルションを用いた実施例2に比べて、低温(0℃)における下地ひび割れ追従性及び伸び性能の点において優れる傾向にあることが判明した。以上の結果から、本発明のポリマーセメント組成物が、作業中の安全性に優れ、かつ原料混合後の可使時間を充分に確保することができるとともに、硬化物を形成したときの硬化物の下地ひび割れ追従性及び伸び性能に優れることが確認された。