(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】合成スラブ構造
(51)【国際特許分類】
E04B 5/40 20060101AFI20240226BHJP
E04B 5/32 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
E04B5/40 A
E04B5/32 A
(21)【出願番号】P 2020060429
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】西山 留実子
(72)【発明者】
【氏名】赤丸 一朗
(72)【発明者】
【氏名】石丸 亮
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-125007(JP,A)
【文献】特開平10-245922(JP,A)
【文献】特開2005-133447(JP,A)
【文献】特開2019-031792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/00-5/48
E04C 5/00-5/20
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
段差が設けられた合成スラブ構造であって、
スラブ上段側に配置され、スパン方向に延びる溝部を複数有する上段デッキプレートと、
スラブ下段側に配置され、前記スパン方向に延びる溝部を複数有する下段デッキプレートと、
前記スラブ上段を構成し、且つ、前記スラブ下段を構成するコンクリートと、を備え、
前記上段デッキプレートと前記下段デッキプレートとは、前記スパン方向に並べられ、
前記下段デッキプレートは、前記上段デッキプレートよりも下側に配置され、
前記コンクリート内には、前記スラブ上段と前記スラブ下段との間で応力を伝達する応力伝達部材が設けられ、
前記応力伝達部材は、
前記上段デッキプレートの前記溝部内において
、当該溝部の底面から上方に離間する位置で前記スパン方向に延びる上段部と、
前記下段デッキプレートの前記溝部内において
、当該溝部の底面から上方に離間する位置で前記スパン方向に延びる下段部と、
前記上段部と前記下段部とを接続する接続部と、を備え
、
前記応力伝達部材の前記上段部、前記接続部、及び前記下段部は、一本の連続した鉄筋によって構成される、合成スラブ構造。
【請求項2】
前記コンクリート内には、前記上段デッキプレートと前記下段デッキプレートとの間の境界部において、上下方向に延びる補強部材が設けられる、請求項1に記載の合成スラブ構造。
【請求項3】
前記補強部材は、少なくとも前記上段デッキプレートよりも高い位置まで延びる、請求項2に記載の合成スラブ構造。
【請求項4】
前記上段デッキプレート及び前記下段デッキプレートの複数の前記溝部のそれぞれには、少なくとも一つの前記応力伝達部材が配置される、請求項1~3の何れか一項に記載の合成スラブ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成スラブ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の合成スラブ構造として、特許文献1に記載されたものが知られている。この合成スラブ構造は、デッキプレートと、当該デッキプレートの上側に打設されるコンクリートと、を備える。また、合成スラブ構造は、コンクリートの厚みを変えること設けられた段差を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、コンクリートの厚みを変えることで段差を設けた場合、スラブ上段におけるコンクリートの厚みが必要以上に厚くなるため、合成スラブ構造の重量が増加するという問題が生じる。これに対し、特許文献1では、コンクリートが厚い箇所にボイド材等を埋設することで、重量の増大を回避している。しかしながら、このような方法は、施工の手間がかかりすぎ、精度管理が難しいという問題がある。その他、合成スラブ構造に段差を設ける方法として、上段デッキプレートの端部と下段デッキプレートの端部との間に梁材を設け、上段デッキプレートを梁材の上面に載せ、下段デッキプレートを梁材の側面のブラケットに載せる方法が挙げられる。しかしながら、当該方法は、段差を設けるために梁材を追加しなくてはならず、当該梁材の周辺構造が複雑になるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、構造を複雑化させることなく、段差を設けることができる合成スラブ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る合成スラブ構造は、段差が設けられた合成スラブ構造であって、スラブ上段側に配置され、スパン方向に延びる溝部を複数有する上段デッキプレートと、スラブ下段側に配置され、スパン方向に延びる溝部を複数有する下段デッキプレートと、スラブ上段を構成し、且つ、スラブ下段を構成するコンクリートと、を備え、上段デッキプレートと下段デッキプレートとは、スパン方向に並べられ、下段デッキプレートは、上段デッキプレートよりも下側に配置され、コンクリート内には、スラブ上段とスラブ下段との間で応力を伝達する応力伝達部材が設けられ、応力伝達部材は、上段デッキプレートの溝部内においてスパン方向に延びる上段部と、下段デッキプレートの溝部内においてスパン方向に延びる下段部と、上段部と下段部とを接続する接続部と、を備える。
【0007】
本発明に係る合成スラブ構造において、スラブ下段側の下段デッキプレートは、スラブ上段側の上段デッキプレートよりも下側に配置される。このような構成によれば、真っ直ぐなデッキプレートに対して、スラブ上段の厚みが厚くなるようにコンクリートを打設することで段差を設けるような構成とは異なり、スラブ上段の厚みとスラブ下段の厚みとの差を無くす、又は少なくすることができる。従って、スラブ上段の厚みを過度に大きくすることによる重量の増大を抑制できる。ここで、コンクリート内には、スラブ上段とスラブ下段との間で応力を伝達する応力伝達部材が設けられる。この応力伝達部材は、上段デッキプレートの溝部内においてスパン方向に延びる上段部と、下段デッキプレートの溝部内においてスパン方向に延びる下段部と、上段部と下段部とを接続する接続部と、を備える。上段部は、上段デッキプレートの溝部内に配置されているため、コンクリートに付着することで、上段デッキプレートに作用する応力を十分に受けることが可能となる。下段部は、下段デッキプレートの溝部内に配置されているため、コンクリートに付着することで、下段デッキプレートに作用する応力を十分に受けることが可能となる。そして、応力伝達部材は、接続部を介して、上段部と下段部との間で互いに応力を良好に伝達し合うことができる。以上より、上段デッキプレートと下段デッキプレートとが、例えば梁材などを介して接続されることなく分割された状態であっても、応力伝達部材を介して良好に応力伝達を行うことができる。また、応力伝達部材は、所望の形状にして、単にコンクリート内に配置すればよいだけなので、梁材などを用いて応力伝達をする場合に比して、構造をシンプルにすることができ、施工の手間も低減できる。以上より、構造を複雑化させることなく、段差を設けることができる。
【0008】
コンクリート内には、上段デッキプレートと下段デッキプレートとの間の境界部において、上下方向に延びる補強部材が設けられてよい。この場合、補強部材が、上段デッキプレートと下段デッキプレートとの間の境界部において、上下方向にコンクリートを拘束することができる。従って、補強部材は、上段デッキプレートの端部から進展する応力伝達部材付近におけるコンクリートのひび割れを抑制できる。これにより、応力伝達部材とコンクリートの付着力の低下を抑制し、応力伝達部材による応力伝達性能を確保することができる。
【0009】
補強部材は、少なくとも上段デッキプレートよりも高い位置まで延びてよい。この場合、補強部材は、コンクリートを十分に拘束することができる。
【0010】
上段デッキプレート及び下段デッキプレートの複数の溝部のそれぞれには、少なくとも一つの応力伝達部材が配置されてよい。これにより、上段デッキプレート及び下段デッキプレートの幅方向における各位置において、良好に応力の伝達を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構造を複雑化させることなく、段差を設けることができる合成スラブ構造を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る合成スラブ構造の断面図である。
【
図3】合成スラブ構造の段差付近の構造を示す拡大断面図である。
【
図4】変形例に係る合成スラブ構造の拡大断面図である。
【
図5】変形例に係る合成スラブ構造の拡大断面図である。
【
図6】他のデッキプレートの例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る合成スラブ構造100の断面図である。
図1に示すように、合成スラブ構造100は、上面側に段差15が設けられている。合成スラブ構造100は、上段デッキプレート10Aと、下段デッキプレート10Bと、コンクリート12と、を備える。
【0015】
まず、
図2を参照して、デッキプレート10A,10Bの構成について説明する。
図2は、デッキプレート10A,10Bの断面図である。なお、
図2には、後述の応力伝達部材20も記載されているが、コンクリート12は省略されている。
図2に示すように、デッキプレート10A,10Bの幅方向D2の一方の端部の連結部10aと他方の端部の連結部10bは、敷き並べる際に互いに連結可能な断面形状である。デッキプレート10は、2つの山部10cと、その間の溝部10dと、を有する。なお、山部10cの数は特に限定されない。山部10cは、当該山部10cの両側の傾斜部10eにコンクリート12と結合可能な鍵部10fを有する。また、溝部10dは、コンクリート12と結合可能なリブ10gを有する。なお、溝部10dが延びる方向をスパン方向D1と称し、溝部10dが並んでいる方向を幅方向D2と称する。合成スラブ構造100においては、複数枚のデッキプレート10A,10Bが、互いに連結された状態で幅方向D2に並べられるように設けられる。
【0016】
図1に戻り、上段デッキプレート10Aと下段デッキプレート10Bとは、スパン方向D1に並べられている。なお、以降の説明においては、スパン方向D1のうち、上段デッキプレート10Aが設けられている側を「スラブ上段側」と称し、下段デッキプレート10Bが設けられている側を「スラブ下段側」と称する場合がある。上段デッキプレート10Aのスパン方向D1におけるスラブ下段側の端部10nと、下段デッキプレート10Bのスパン方向D1におけるスラブ上段側の端部10hとは、スパン方向D1において略同位置に配置されている。また、下段デッキプレート10Bは、上段デッキプレート10Aよりも下側に配置される。なお、上段デッキプレート10Aの端部10nと下段デッキプレート10Bの端部10hとのスパン方向D1における位置関係は特に限定されず、例えば、スパン方向D1において互いに離れるように配置されてもよい。
【0017】
従って、上段デッキプレート10Aの端部10nと、下段デッキプレート10Bの端部10hとは、互いに上下方向にずれた位置関係をなしている。本実施形態では、上段デッキプレート10Aの下端部と下段デッキプレート10Bの上端部とは、上下方向において略同位置に配置される。ただし、上段デッキプレート10Aと下段デッキプレート10Bとがどの程度上下方向にずれているかは特に限定されず、両者は上下方向において互いに重なりあってもよい。
【0018】
なお、上段デッキプレート10Aとスパン方向D1におけるスラブ上段側に隣り合う位置には、他の上段デッキプレート10Aが並べられている。また、下段デッキプレート10Bとスパン方向D1におけるスラブ下段側に隣り合う位置には、他の下段デッキプレート10Bが並べられる。一対の上段デッキプレート10Aが互いに対向し合う箇所は、梁材11Aによって下方から支持される。一対の下段デッキプレート10Bが互いに対向し合う箇所は、梁材11Bによって下方から支持される。梁材11A,11Bは、幅方向D2に延びる断面H字状の鋼材である。なお、上段デッキプレート10Aの方が下段デッキプレート10Bよりも高い位置に配置されているため、梁材11Aは、梁材11Bよりも上方まで延びている。なお、上段デッキプレート10Aと下段デッキプレート10Bとの間、すなわち下面側の段差16の位置には、梁材は設けられていない。
【0019】
コンクリート12は、上段デッキプレート10A、及び下段デッキプレート10Bの上面側に打設される。コンクリート12は、上段デッキプレート10A,10Bの溝部10dの内部に充填された状態で、山部10cの上面よりも高い位置まで充填される。コンクリート12は、上段デッキプレート10Aの山部10cから上方へ所定寸法だけ離間した位置に、水平方向に広がる平面状の上段面13Aを有する。コンクリート12は、下段デッキプレート10Bの山部10cから上方へ所定寸法だけ離間した位置に、水平方向に広がる平面状の下段面13Bを有する。また、コンクリート12は、上段面13Aと下段面13Bとの間に上下方向に延びた状態で幅方向D2に延在する段差面13Cを有する。段差面13Cは、上段デッキプレート10Aの端部10nからスラブ下段側に離間した位置に配置される。
【0020】
このように、合成スラブ構造100の上面側には、上段面13A、下段面13B、及び段差面13Cによる段差15が形成される。また、前述のような上段デッキプレート10A及び下段デッキプレート10Bの配置により、合成スラブ構造100の下面側においても、段差16が形成される。具体的に、上段デッキプレート10Aの下面により、水平方向に広がる下面側の上段面14Aが形成される。下段デッキプレート10Bの下面により、水平方向に広がる下面側の下段面14Bが形成される。また、下面側の上段面14Aと下段面14Bとの間に、上下方向に延びた状態で幅方向D2に延在する下面側の段差面14Cが形成される。なお、下段デッキプレート10Bの端部10hは、打設時にコンクリート12が漏れないように、図示されない型部材で封止される。従って、下面側の段差面14Cは、当該型部材によって構成される。これにより、合成スラブ構造100の下面側には、上段面14A、下段面14B、及び段差面14Cによる段差16が形成される。
【0021】
以上のような構成により、合成スラブ構造100は、スラブ上段60Aと、スラブ下段60Bと、スラブ上段60A及びスラブ下段60Bが重なった重なり部60Cと、を備える。スラブ上段60Aは、上面側の上段面13Aと下面側の上段面14Aとが重なる位置に形成される。スラブ下段60Bは、上面側の下段面13Bと下面側の下段面14Bとが重なる位置に形成される。重なり部60Cは、上面側の上段面13Aと下面側の下段面14Bとが重なる位置に形成される。従って、上段デッキプレート10Aは、スラブ上段60A側に配置される部材となる。下段デッキプレート10Bは、スラブ下段60B側に配置される部材となる。なお、本実施形態では、スラブ上段60Aの厚みと、スラブ下段60Bの厚みとは、略同一に設定されるが、厚みの関係は特に限定されず、互いに異なる厚みが設定されてもよい。
【0022】
次に、
図3を参照して、合成スラブ構造100の段差15,16付近の構造について詳細に説明する。
図3は、合成スラブ構造100の段差15,16付近の構造を示す拡大断面図である。なお、デッキプレート10A,10Bの厚みは合成スラブ構造100全体から見て非常に薄いため、デッキプレート10A,10Bの断面の厚みは単なる直線で記載されている。
【0023】
図3に示すように、コンクリート12内には、スラブ上段60Aとスラブ下段60Bとの間で応力を伝達する応力伝達部材20が設けられる。また、応力伝達部材20は、上段部21と、下段部22と、接続部23と、を備える。応力伝達部材20は、一本の鉄筋によって構成されてよい。この場合、一本の鉄筋を屈曲させることで、上段部21、下段部22、及び接続部23が形成される。
【0024】
上段部21は、上段デッキプレート10Aの溝部10d内においてスパン方向D1に延びる部分である。また、下段部22は、下段デッキプレート10Bの溝部10d内においてスパン方向D1に延びる部分である。接続部23は、上段部21と下段部22とを接続する部分である。
【0025】
具体的に、上段部21は、上下方向において、上段デッキプレート10Aの山部10cの上面と溝部10dの底面との間に配置されている。また、上段部21は、溝部10dの底面、及び両側面に囲まれる内部領域(
図2参照)にて、スパン方向D1と平行をなして直線状に延びる。溝部10d内における上段部21のスパン方向D1の長さは、所望の応力伝達性能を発揮できる限り、特に限定されないが、少なくとも上段デッキプレート10Aの高さや溝部10dの幅よりも大きく設定されている。例えば、溝部10d内における上段部21のスパン方向D1の長さは、410~650mm程度に設定されてよい。また、上段部21のスラブ下段60B側の端部付近の一部は、上段デッキプレート10Aの端部10nから突出している。
【0026】
下段部22は、上下方向において、下段デッキプレート10Bの山部10cの上面と溝部10dの底面との間に配置されている。また、下段部22は、溝部10dの底面、及び両側面に囲まれる内部領域(
図2参照)にて、スパン方向D1と平行をなして直線状に延びる。溝部10d内における下段部22のスパン方向D1の長さは、所望の応力伝達性能を発揮できる限り、特に限定されないが、少なくとも下段デッキプレート10Bの高さや溝部10dの幅よりも大きく設定されている。例えば、溝部10d内における下段部22のスパン方向D1の長さは、410~650mm程度に設定されてよい。なお、下段部22のスラブ上段60A側の端部は、下面側の段差面14Cから、スラブ下段60B側へ離間した位置に配置される。本実施形態では、下段部22のスラブ上段60A側の端部は、スパン方向D1において、下面側の段差面14Cと上面側の段差面13Cとの間に配置される。
【0027】
接続部23は、上下方向において互いに異なる位置に配置されている上段部21と下段部22との間において、応力伝達部材20の高さ位置を変化させる部分である。接続部23は、スパン方向D1において、上段部21の端部と下段部22の端部との間で斜め方向に延びることによって、両者を互いに接続している。接続部23は、上段部21から下段部22へ向かうに従って、下側へ向かうように直線状に延びる。なお、接続部23の傾斜角θ1は、応力伝達性能を発揮できる限り、特に限定されない。ただし、接続部23の傾斜角θ1は、応力伝達をスムーズに行うために、90°以上であることが好ましく、135°以上であることが更に好ましい。
【0028】
応力伝達部材20の溝部10dに対する幅方向D2の位置は特に限定されるものではないが、例えば、
図2に示すように、溝部10dにおける幅方向D2の中央位置に配置されてよい。ただし、応力伝達部材20は、溝部10dに対し、幅方向D2の何れか一方側に寄った位置に配置されてもよい。
【0029】
上段デッキプレート10A及び下段デッキプレート10Bの複数の溝部10dのそれぞれには、少なくとも一つの応力伝達部材20が配置される。具体的には、
図2に示すように、応力伝達部材20は、一つの溝部10d内に配置され、且つ、当該溝部10dと幅方向D2に隣り合う溝部10d内にも配置される。このように、デッキプレート10A,10Bの全ての溝部10dに応力伝達部材20が配置されている。なお、幅方向D2における一部の領域における全ての溝部10dに応力伝達部材20が配置され、他の一部の領域においては、応力伝達部材20が配置されない溝部10dが存在してもよい。
【0030】
次に、本実施形態に係る合成スラブ構造100の作用・効果について説明する。
【0031】
本実施形態に係る合成スラブ構造100において、スラブ下段60B側の下段デッキプレート10Bは、スラブ上段60A側の上段デッキプレート10Aよりも下側に配置される。このような構成によれば、真っ直ぐなデッキプレートに対して、スラブ上段の厚みが厚くなるようにコンクリートを打設することで段差を設けるような構成とは異なり、スラブ上段60Aの厚みとスラブ下段60Bの厚みとの差を無くす、又は少なくすることができる。従って、スラブ上段60Aの厚みを過度に大きくすることによる重量の増大を抑制できる。ここで、コンクリート12内には、スラブ上段60Aとスラブ下段60Bとの間で応力を伝達する応力伝達部材20が設けられる。この応力伝達部材20は、上段デッキプレート10Aの溝部10d内においてスパン方向D1に延びる上段部21と、下段デッキプレート10Bの溝部10d内においてスパン方向D1に延びる下段部22と、上段部21と下段部22とを接続する接続部23と、を備える。上段部21は、上段デッキプレート10Aの溝部10d内に配置されているため、コンクリート12に付着することで、上段デッキプレート10Aに作用する応力を十分に受けることが可能となる。下段部22は、下段デッキプレート10Bの溝部10d内に配置されているため、コンクリート12に付着することで、下段デッキプレート10Bに作用する応力を十分に受けることが可能となる。そして、応力伝達部材20は、接続部23を介して、上段部21と下段部22との間で互いに応力を良好に伝達し合うことができる。以上より、上段デッキプレート10Aと下段デッキプレート10Bとが、例えば梁材などを介して接続されることなく分割された状態であっても、応力伝達部材20を介して良好に応力伝達を行うことができる。また、応力伝達部材20は、所望の形状にして、単にコンクリート12内に配置すればよいだけなので、梁材などを用いて応力伝達をする場合に比して、構造をシンプルにすることができ、施工の手間も低減できる。以上より、構造を複雑化させることなく、段差15を設けることができる。
【0032】
上段デッキプレート10A及び下段デッキプレート10Bの複数の溝部10dのそれぞれには、少なくとも一つの応力伝達部材20が配置されてよい。これにより、上段デッキプレート10A及び下段デッキプレート10Bの幅方向D2における各位置において、良好に応力の伝達を行うことができる。
【0033】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0034】
例えば、
図4に示す構造が採用されてもよい。
図4に示す合成スラブ構造100は、補強部材30が設けられている点で、
図3に示す構造と主に相違する。
【0035】
図4に示すように、コンクリート12内には、上段デッキプレート10Aと下段デッキプレート10Bとの間の境界部(重なり部60C)において、上下方向に延びる補強部材30が設けられてよい。補強部材30は、境界部におけるコンクリート12のひび割れを抑制するための部材である。補強部材30は、立ち上がり部31と、上段部32と、下段部33と、を備えるように、略Z字状に構成されている。補強部材30は、一本の鉄筋によって構成されてよい。この場合、一本の鉄筋を屈曲させることで、立ち上がり部31、上段部32、及び下段部33が形成される。
【0036】
立ち上がり部31は、重なり部60Cにおいて、上下方向に直線状に延びる部分である。立ち上がり部31は、下段デッキプレート10Bの端部10h、及び上段デッキプレート10Aの端部10nに近接した位置にて、当該端部10h,10nに沿って立ち上がる。立ち上がり部31の下端は、下段デッキプレート10Bの溝部10d内に配置されている。
【0037】
立ち上がり部31は、上段デッキプレート10Aよりも高い位置まで延びる。すなわち、立ち上がり部31は、上段デッキプレート10Aの山部10cの上面よりも高い位置であって、上段面13Aに近接する位置まで延びている。ここで、立ち上がり部31は、スラブ上段60Aの中立軸よりも上側まで延びる事が好ましい。合成スラブ構造100の変形態様を考えた場合、スラブ上段60Aの中立軸よりも上側の領域は、圧縮領域に該当する。従って、立ち上がり部31(及び後述の上段部32)が圧縮領域に配置されることで、補強部材30のコンクリート12に対する付着性を向上することができる。
【0038】
上段部32は、立ち上がり部31の上端から、スラブ上段60A側へ向かって延びる部分である。上段部32は、上段デッキプレート10Aよりも高い位置に配置される。すなわち、上段部32は、上段デッキプレート10Aの山部10cの上面よりも高い位置であって、上段面13Aに近接する位置に配置される。上段部32は、スパン方向D1と平行をなして直線状に延びる。上段部32の長さは、コンクリート12に対する付着性を向上できる限り、特に限定されないが、少なくとも上段デッキプレート10Aの高さや溝部10dの幅よりも大きく設定されており、重なり部60Cからスラブ上段60Aに至るまで延びている。
【0039】
下段部33は、立ち上がり部31の下端から、スラブ下段60B側へ向かって延びる部分である。下段部33は、下段デッキプレート10Bの溝部10d内に配置される。下段部33は、溝部10d内において、スパン方向D1と平行をなして直線状に延びる。下段部33の長さは、コンクリート12に対する付着性を向上できる限り、特に限定されないが、少なくとも上段デッキプレート10Aの高さや溝部10dの幅よりも大きく設定されている。なお、下段部33は、重なり部60Cからスラブ下段60Bに至るまで延びているが、スラブ下段60Bまで至ってなくてよい。
【0040】
なお、
図4においては、補強部材30は、応力伝達部材20に対して、幅方向D2の紙面手前側に配置されているが、紙面奥側に配置されてもよい。また、応力伝達部材20が、上段デッキプレート10A及び下段デッキプレート10Bの複数の溝部10dのそれぞれに対して少なくとも一つ配置されていたが、補強部材30も同様に、複数の溝部10dのそれぞれに対して配置されてよい。ただし、補強部材30は、応力伝達部材20よりも数が少なくてもよく、二つの溝部10dに対して一つの割合、又は三つ以上の溝部10dに対して一つの割合で配置されてよい。
【0041】
図4に示す構造では、補強部材30が、上段デッキプレート10Aと下段デッキプレート10Bとの間の境界部において、上下方向にコンクリート12を拘束することができる。従って、補強部材30は、上段デッキプレート10Aの端部から進展する応力伝達部材20付近におけるコンクリート12のひび割れを抑制できる。これにより、応力伝達部材20とコンクリート12の付着力の低下を抑制し、応力伝達部材20による応力伝達性能を確保することができる。
【0042】
補強部材30は、少なくとも上段デッキプレート10Aよりも高い位置まで延びてよい。この場合、補強部材30は、コンクリート12を十分に拘束することができる。
【0043】
また、
図5に示す構造が採用されてもよい。
図5に示す合成スラブ構造100は、補強部材30とは異なる形状の補強部材40が設けられている点で、
図4に示す構造と主に相違する。
【0044】
補強部材40は、立ち上がり部41,44と、上段部42と、下段部43と、を備えるように、略ロ字状に構成されている。補強部材40は、当該略ロ字状の形状を一本の鉄筋によって構成し、当該ロ字状部材を幅方向D2に複数並べて接続筋45で互いに連結することで、あばら筋として構成されてよい。この場合、略ロ字状の形状は、一本の鉄筋を屈曲させることで、立ち上がり部41,44、上段部42、及び下段部43が形成される。補強部材40は、重なり部60C内に収まるように配置されている。なお、各部位の位置は、補強部材40のコンクリート12に対する付着性を確保できる範囲で、適宜変更可能である。
【0045】
立ち上がり部41は、
図4の立ち上がり部31の構成と略同様である。立ち上がり部44は、重なり部60C内において、段差面13C付近で上下方向に直線状に延びる部分である。
【0046】
上段部42は、立ち上がり部41の上端と立ち上がり部44の上端との間において、上段面13Aに沿ってスパン方向D1と平行をなして直線状に延びる。下段部43は、立ち上がり部31の下端と立ち上がり部44の下端との間において、下段デッキプレート10Bの溝部10d内において、スパン方向D1と平行をなして直線状に延びる。
【0047】
図5に示す構造では、補強部材40が、上段デッキプレート10Aと下段デッキプレート10Bとの間の境界部において、上下方向、および、水平方向(スパン方向び)にコンクリート12を拘束することができる。従って、補強部材40は、上段デッキプレート10Aの端部から進展する応力伝達部材20付近におけるコンクリート12のひび割れを抑制できる。これにより、応力伝達部材20とコンクリート12の付着力の低下を抑制し、応力伝達部材20による応力伝達性能を確保することができる。特に、補強部材40は、重なり部60Cのコンクリート12に対して広範囲に拘束することができるので、ひび割れを良好に抑制できる。
【0048】
補強部材40は、少なくとも上段デッキプレート10Aよりも高い位置まで延びてよい。この場合、補強部材40は、コンクリート12を十分に拘束することができる。
【0049】
なお、補強部材の形状は、
図4及び
図5に示したものに限らず、例えば、L字状形状や、コ字状形状など、他の様々な形状を採用してよい。
【0050】
また、上述の実施形態では、応力伝達部材20は、一本の鉄筋で構成されていたが、どのような部材で応力伝達部材20を構成するかは特に限定されない。例えば、一本の部材でそれぞれ上段部21、下段部22、及び接続部23を構成し、それら三本の鉄筋を溶接など、応力伝達が可能な態様で固定してよい。また、応力伝達部材20は、複数本の鉄筋を束ねて構成されてもよいし、板材、金網、繊維で構成されてもよい。
【0051】
応力伝達部材20の数量なども特に限定されず、二つの溝部10dに対して一つの割合、又は三つ以上の溝部10dに対して一つの割合で配置されてよい。あるいは、一つの溝部10dに対して、複数の応力伝達部材20が配置されてもよい。
【0052】
ここで、応力伝達部材20は、コンクリートと一体化しているデッキプレートの溝部に配置すればよいものであるので、デッキプレートの断面形状は特に限定されない。例えば、
図6に示すようなデッキプレートが採用されてよい。
図6(a)に示すデッキプレート110A,110Bは、
図2のデッキプレート10A,10Bに比して、山部111が高い事により、溝部112が深く形成されている。
図6(b)に示すデッキプレート120A,120Bは、山部121が幅方向に広く形成されることで、溝部122が小さく形成されている。
図6(c)に示すデッキプレート130A,130Bは、サイノスデッキと称されるデッキプレートであり、山部131が略板状に形成されており、溝部132が広く確保されている。
【符号の説明】
【0053】
10A,110A,120A,130A…上段デッキプレート、10B,110B,120B,130B…下段デッキプレート、10d,112,122,132…溝部、12…コンクリート、13A…上段面、13B…下段面、13C…段差面、60A…スラブ上段、60B…スラブ下段、15…段差、20…応力伝達部材、21…上段部、22…下段部、23…接続部、30,40…補強部材。