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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】不織布濾材
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20240226BHJP
   D04H 1/544 20120101ALI20240226BHJP
【FI】
B01D39/16 A
D04H1/544
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020072706
(22)【出願日】2020-04-15
(65)【公開番号】P2021169059
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宇野 晋也
(72)【発明者】
【氏名】川野 明彦
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】村田 修一
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-067680(JP,A)
【文献】特開2003-113567(JP,A)
【文献】特開2006-028689(JP,A)
【文献】特開2017-125281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
D04H 1/00-18/04
D01F 8/00-8/18
B01D 46/00-46/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成繊維が、引張り強さが3cN/dtex以上のポリオレフィン系接着繊維と、他の繊維である、不織布濾材であって、
前記他の繊維はフィブリル状の部分を有する繊維であり、
前記ポリオレフィン系接着繊維の繊度は0.60dよりも大きく、
前記ポリオレフィン系接着繊維と前記他の繊維との質量の和に占める、前記ポリオレフィン系接着繊維の質量の百分率は、10質量%よりも多く100質量%よりも少な
剛軟度の値を目付の値で除し算出される値が0.003よりも大きい、不織布濾材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からポリオレフィン系繊維を含んだ不織布は、濾材として活用されている。例えば、特開2006-28689号公報(特許文献1)には、繊維径が4μm以下、かつ引張り強さが3cN/dtex以上のポリオレフィン系極細高強度繊維を含む不織布が開示されており、当該不織布によって、強度に優れる不織布濾材を提供できることが開示されている。
なお、特許文献1には、前記ポリオレフィン系極細高強度繊維が熱融着性を有し構成繊維同士を繊維接着する役割を担うことで、より強度に優れた不織布を提供できることが開示されている。また、前記ポリオレフィン系極細高強度繊維と他の繊維とを含み構成された不織布であってもよいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-28689号公報(特許請求の範囲、0015、0017、0033-0034など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願出願人は、特許文献1に開示されているような、従来技術にかかる不織布濾材について検討を行った。具体的には、強度に優れる不織布濾材の提供を目的として、熱融着性を有するポリオレフィン系樹脂繊維(以降、ポリオレフィン系接着繊維と称することがある)であって引張り強さが3cN/dtex以上の繊維と、他の繊維とを含み構成された不織布濾材について検討を行った。
しかし、従来技術にかかる不織布濾材であっても、なお強度が十分ではなかった。特に、薄手の当該不織布濾材へプリーツ形状を付与した際に、亀裂や破断が発生し易いものであった。
そのため、更に強度に優れた不織布濾材の提供が求められた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第一の発明は、「構成繊維が、引張り強さが3cN/dtex以上のポリオレフィン系接着繊維と、他の繊維である、不織布濾材であって、
前記他の繊維はフィブリル状の部分を有する繊維であり、
前記ポリオレフィン系接着繊維の繊度は0.60dよりも大きく、
前記ポリオレフィン系接着繊維と前記他の繊維との質量の和に占める、前記ポリオレフィン系接着繊維の質量の百分率は、10質量%よりも多く100質量%よりも少な
剛軟度の値を目付の値で除し算出される値が0.003よりも大きい、不織布濾材。」である。
【発明の効果】
【0006】
本願出願人が検討を続けた結果、従来技術にかかる不織布濾材において、つまり、「引張り強さが3cN/dtex以上のポリオレフィン系接着繊維と他の繊維とを含み構成された不織布濾材」において、
・ポリオレフィン系接着繊維の繊度は0.60dよりも大きい、
・ポリオレフィン系接着繊維と他の繊維との質量の和に占める、前記ポリオレフィン系接着繊維の質量の百分率は10質量%よりも多く100質量%よりも少ない、
という両構成を満足するときに、薄手であっても亀裂や破断が発生するのが防止されており、プリーツ形状を有することができるなど、不織布濾材の強度が更に向上されることを見出した。
そのため、本発明によって、更に強度に優れた不織布濾材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本発明で説明する各種測定は特に記載のない限り、大気圧下のもと測定を行った。また、25℃温度条件下で測定を行った。そして、本発明で説明する各種測定結果は特に記載のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、少数第一位までが求める値である場合、測定によって少数第二位まで値を求め、得られた少数第二位の値を四捨五入することで少数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。
そして、以下に記載する各上限値ならびに各下限値は、所望により任意に組み合わせることで採用可能な数値範囲を定めることができる。
【0008】
本発明のポリオレフィン系接着繊維はポリオレフィン系樹脂を含み構成された繊維である。そして、熱融着性を有することで不織布濾材の構成繊維同士を繊維接着し、主として、不織布濾材の構造を保ち強度を維持する役割を担う。更に、ポリオレフィン系接着繊維によって、バインダを用いることなく不織布濾材の構成繊維同士を繊維接着できるため、不織布濾材の空隙がバインダなどによって意図せず閉塞するのを防止でき、濾過性能に優れる不織布濾材を提供できる。
【0009】
そのため、本発明にかかるポリオレフィン系接着繊維を含むことによって、強度に優れると共に濾過性能にも優れた不織布濾材を提供できる。また、ポリオレフィン系接着繊維はポリオレフィン系樹脂を含み構成された繊維であるため、耐薬品性やエレクトレット性などの点でも優れている。
【0010】
ポリオレフィン系樹脂の種類は本発明の課題を解決できるよう適宜選択するものであり、特に限定するものではないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン(例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなど)、ポリ4-メチルペンテン-1等のホモポリマーや、プロピレンとα-オレフィン(例えば、エチレン、ブテン-1等)との共重合体、エチレンとブテン-1との共重合体などを挙げることができる。これらの中でもポリプロピレンは比較的融点が高く耐熱性に優れており、また、紡糸性、延伸性に優れ、前記引張り強さをもつ極細高強度繊維を製造しやすいため好適に使用できる。
【0011】
また、ポリオレフィン系接着繊維は単一成分から構成されている単繊維であっても、複数成分から構成されていても良い。例えば、鞘部に低融点ポリオレフィン系樹脂、芯部に前記低融点ポリオレフィン系樹脂よりも融点の高い樹脂を備えてなる芯鞘型接着繊維のような複合繊維(複合繊維の他の態様として、例えば、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型など)であることができる。このような複合繊維であると、ポリオレフィン系接着繊維を構成する低融点ポリオレフィン系樹脂により、不織布濾材の構成繊維同士が軟化や融解した状態であっても、芯部の存在によってポリオレフィン系接着繊維の繊維形状が維持された状態で繊維接着がなされる結果、より強度に優れる不織布濾材を提供できる。
【0012】
上述した複合繊維の表面に占める低融点ポリオレフィン系樹脂露出割合(両端部を除く)は適宜調整できるが、50%以上であるのが好ましいが、多ければ多いほど確実に融着でき、前記効果に優れているため、70%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが更に好ましく、100%、つまりポリエチレンが繊維表面全体(両端部を除く)を占めているのが最も好ましい。また、上述した芯鞘型接着繊維の断面に占める、芯部と鞘部の面積の割合は適宜調整できるが、芯部:鞘部=10:90~90:10であることができ、40:60~60:40であることができ、50:50であることができる。
【0013】
なお、ポリオレフィン系接着繊維を構成する樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、多成分の樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。
【0014】
なお、ポリオレフィン系接着繊維は、ポリオレフィン系樹脂以外にも、後述するポリオレフィン系樹脂以外の樹脂を含んでいても良いが、より強度に優れると共に濾過性能にも優れた不織布濾材を提供できるよう、ポリオレフィン系接着繊維はポリオレフィン系樹脂のみで構成されているのが好ましい。
【0015】
更にポリオレフィン系接着繊維は、例えば、吸湿剤、艶消し剤、顔料、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、着色剤、染色剤、導電剤、親水化剤、脱臭剤、或いは抗菌剤などの機能性物質を含んでいても良い。
【0016】
なお、ポリオレフィン系接着繊維の横断面形状は円形又は非円形(例えば、楕円状、長円状、T状、Y状、+状、中空状、多角形状など)であることができる。また、ポリオレフィン系接着繊維は連続した長繊維であっても、所定長さに切断された短繊維(湿式不織布からなる不織布濾材とする場合には、0.5~20mmであるのが好ましい)であっても良い。なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c)直接法(C法)に則って測定した値をいう。
【0017】
ポリオレフィン系接着繊維は、引張り強さが3cN/dtex(デシテックス)以上の強度の優れるものである。この引張り強さが高い程、優れた強度を有する不織布濾材を提供できるため、引張り強さは4cN/dtex以上であるのが好ましく、5cN/dtex以上であるのがより好ましく、6cN/dtex以上であるのが更に好ましく、7cN/dtex以上であるのが更に好ましい。なお、引張り強さの上限は特に限定するものではないが、20cN/dtex以下が現実的である。本発明における「引張り強さ」はJIS L1015(化学繊維ステープル試験法、定速緊張形)により測定した値をいう。
【0018】
本発明にかかる不織布濾材が含んでいるポリオレフィン系接着繊維の繊度は、強度に優れる不織布濾材を提供できるように、0.60d(デニール)よりも大きいことを特徴としている。本願出願人が検討した結果、不織布濾材を構成する本発明にかかるポリオレフィン系接着繊維の繊度が0.60d以下であると、不織布濾材が強度に劣るものとなり、特に、薄手の当該不織布濾材へプリーツ形状を付与した際に亀裂や破断が発生し易いことを見出した。
【0019】
ポリオレフィン系接着繊維の繊度が大きいほど強度に優れる不織布濾材を提供できることから、繊度は0.65d以上であるのが好ましく、繊度は0.70d以上であるのが好ましく、繊度は0.80d以上であるのが好ましい。一方、繊度の上限値は適宜調整できるが、余りにも繊度の大きいポリオレフィン系接着繊維を含み構成されている不織布濾材は、その空隙が大きくなり濾過性能が低下する恐れがある。そのため、ポリオレフィン系接着繊維の繊度は6d以下であるのが現実的であり、5d以下であるのがより現実的であり、3d以下であるのがより現実的であるる。
【0020】
本発明にかかる不織布濾材は、ポリオレフィン系接着繊維以外に他の繊維を含んでいる。ここでいう「他の繊維」とは、「引張り強さが3cN/dtex以上のポリオレフィン系接着繊維」という構成を満足していない繊維であることを指す。例えば、引張り強さが3cN/dtex未満の繊維や、ポリオレフィン系接着繊維ではない繊維は、他の繊維である。なお、ポリオレフィン系接着繊維ではない繊維として、ポリオレフィン系樹脂を含んでいない繊維や、ポリオレフィン系樹脂として高融点を有するポリオレフィン系樹脂(不織布濾材を構成している前記ポリオレフィン系接着繊維において繊維接着の役割を担うポリオレフィン系樹脂が繊維接着機能を発揮する温度では、融解しない高い融点を有するポリオレフィン系樹脂)のみで構成された繊維などを挙げることができる。
【0021】
他の繊維は不織布濾材の強度や濾過性能を向上する役割を担うことができるよう、ポリオレフィン系接着繊維よりも細い繊維径の部分を有する繊維であるのが好ましい。具体例として、ポリオレフィン系接着繊維よりも繊維径が細い、ステープル繊維、分割型繊維の少なくとも一部が分割してなる繊維、フィブリル状の部分を有する繊維などを採用できる。特に不織布濾材の強度や濾過性能を向上する役割を担うことのできるよう、他の繊維はフィブリル状の部分を有する繊維であるのが好ましい。
【0022】
他の繊維を構成する樹脂の種類は適宜選択でき、例えば、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂を用いて構成できる。
【0023】
特に、耐薬品性の観点から、他の繊維はポリオレフィン系樹脂を含んでいるのが好ましく、他の繊維はポリオレフィン樹脂のみで構成されているのが好ましい。
【0024】
なお、これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、多成分の樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。
【0025】
不織布濾材に難燃性が求められる場合には、他の繊維が難燃性の樹脂を含んでいるのが好ましい。このような難燃性の樹脂として、例えば、モダアクリル樹脂、ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ノボロイド樹脂、ポリクラール樹脂、リン化合物を共重合したポリエステル樹脂、ハロゲン含有モノマーを共重合したアクリル樹脂、アラミド樹脂、ハロゲン系やリン系又は金属化合物系の難燃剤を練り込んだ樹脂などを挙げることができる。
【0026】
他の繊維は、一種類の樹脂から構成されてなるものでも、複数種類の樹脂から構成されてなるものでも構わない。複数種類の樹脂から構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0027】
なお、他の繊維の横断面形状は円形又は非円形(例えば、楕円状、長円状、T状、Y状、+状、中空状、多角形状など)であることができる。また、他の繊維は連続した長繊維であっても、所定長さに切断された短繊維(湿式不織布濾材構成繊維とする場合には、0.5~20mmであるのが好ましい)であっても良い。更には、例えば、吸湿剤、艶消し剤、顔料、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、着色剤、染色剤、導電剤、親水化剤、脱臭剤、或いは抗菌剤などの機能性物質を含んでいても良い。
【0028】
他の繊維の繊度や繊維長は、強度に優れる不織布濾材を提供できるよう適宜調整できるが、繊度は6~0.01dであることができ、2~0.02dであることができ、1.7~0.03dであることができる。また、繊維長は20~0.1mmであることができ、10~1mmであることができ、7~2mmであることができる。なお他の繊維は連続繊維であってもよい。
【0029】
本発明にかかる不織布濾材は、ポリオレフィン系接着繊維と他の繊維を含んで構成されている。そして、不織布濾材を構成するポリオレフィン系接着繊維と他の繊維との質量の和に占める、ポリオレフィン系接着繊維の質量の百分率は、10質量%よりも多く100質量%よりも少ないことを特徴としている。本願出願人が検討した結果、当該百分率が10質量%以下であると不織布濾材が強度に劣るものとなり、特に、薄手の当該不織布濾材へプリーツ形状を付与した際に亀裂や破断が発生し易いことを見出した。
【0030】
当該百分率が大きいほど強度に優れる不織布濾材を提供できることから、当該百分率は10質量%よりも多く、20質量%以上であるのが好ましく、30質量%以上であるのが好ましく、40質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのが好ましく、60質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのが好ましい。
【0031】
一方、当該百分率の上限値は適宜調整できるが、本発明にかかる不織布濾材は引張り強さが3cN/dtex以上のポリオレフィン系接着繊維と他の繊維とを含み構成された不織布濾材であることから、その上限値は100質量%未満となるものであるが、強度に優れていると共に濾過性能にも優れる不織布濾材を提供できるよう、90質量%未満であるのが好ましい。
【0032】
なお、上述した百分率は、以下の方法で算出できる。
A=100×B/(B+C)
A:不織布濾材を構成するポリオレフィン系接着繊維と他の繊維との質量の和に占める、ポリオレフィン系接着繊維の質量の百分率(単位:質量%)
B:不織布濾材を構成するポリオレフィン系接着繊維の質量(単位:g/m
C:不織布濾材を構成する他の繊維の質量(単位:g/m
【0033】
不織布濾材の、例えば、厚さ、目付などの諸構成は、特に限定されるべきものではなく適宜調整できる。厚さは、0.1~10mmであることができ、0.3~5mmであることができ、0.5~3mmであることができる。また、目付は、例えば、10~500g/mであることができ、30~300g/mであることができ、40~100g/mであることができる。なお、本発明において厚さとは主面と垂直方向へ20g/cm圧縮荷重をかけた時の当該垂直方向の長さをいい、目付とは測定対象物の最も広い面積を有する面(主面)における1mあたりの質量をいう。
【0034】
また、本発明にかかる不織布濾材は強度が向上していることに伴いその剛軟度の値も向上しているものである。剛軟度の値は適宜調整可能であるが、0.2mN以上であることができ、0.4mN以上であることができ、0.5mN以上であることができる。なお上限値は適宜調整できるが、プリーツ加工を容易に行えるよう、20mN以下が現実的である。
【0035】
なお、剛軟度は測定対象を以下の測定方法へ供し、求めることができる。
(剛軟度の測定方法)
測定対象から30mm×40mmの大きさの試料を採取し、採取した試料をJIS L1913:2010の6.7.4に規定するガーレ法によって測定する。
【0036】
また、本願出願人は不織布濾材の強度を評価する方法として、評価対象となる各不織布濾材における剛軟度の値を目付の値で除し、算出される値(単位なし)を指標とする方法を見出した。具体的には、プリーツ形状を付与した際に亀裂や破断が発生し易いなど強度に劣る不織布濾材であるか、それとも、プリーツ形状を付与した際に亀裂や破断が発生するのが防止されているなど強度に優れる不織布濾材であるかは、不織布濾材の構造的な強度を評価することによって判断できると考えた。そして、不織布濾材の構造的な強度を評価するためには、不織布濾材の剛軟度の高低のみを確認するだけでは評価できないと考えた。
【0037】
そのため、不織布濾材の剛軟度の値をその目付の値(不織布濾材における、その構造的な強度に寄与している諸構成物の総量を意味すると考えられる)で除し算出される値を指標とすることで、不織布濾材における構造的な強度を評価することとした。
プリーツ形状を付与した際に亀裂や破断が発生するのが防止された、強度に優れる不織布濾材を提供できるよう、当該算出される値は、0.003よりも大きいのが好ましく、0.005以上であるのが好ましく、0.007以上であるのが好ましく、0.01以上であるのが好ましい。
【0038】
本発明の不織布濾材は周知の方法により製造することができるが、本発明にかかる不織布濾材を薄手の態様で提供できることから、ポリオレフィン系接着繊維および他の繊維を湿式抄造して湿式不織布を製造するのが好ましい。
湿式不織布濾材は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、上述のようなポリオレフィン系接着繊維および他の繊維を用意する。次いで、ポリオレフィン系接着繊維および他の繊維を周知の湿式法(例えば、水平長網方式、傾斜ワイヤー型長網方式、円網方式、又は長網・円網コンビネーション方式など)を用いて抄造し繊維ウエブを形成する。そして、この繊維ウエブを乾燥あるいは加熱して繊維接着することで、本発明にかかる構成を満たす湿式不織布濾材を製造できる。なお、製造工程において、(1)水流やニードルによって構成繊維同士を絡合する、(2)バインダーを塗布又は散布して構成繊維同士をバインダ接着するなどの方法を採用してもよい。構成繊維同士を絡合する工程において、ポリオレフィン系接着繊維および/または他の繊維を、分割したりフィブリル化してもよい。
また、抄造してなる繊維ウェブを加熱機へ供することで乾燥させることができるが、当該工程でポリオレフィン系接着繊維の熱接着成分を融解させ、繊維接着機能を発揮させることで、構成繊維同士が繊維接着してなる不織布濾材を調製できる。
【0039】
上述の不織布濾材の製造方法は、更に別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層する工程、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程、などの、各種二次工程を備えていてもよい。なお、これらの構成部材は不織布濾材の一方の主面あるいは両主面に積層して備えることができる。また、不織布濾材あるいは不織布濾材と構成部材との積層体を、リライアントプレス処理などの表面を平滑とするための加圧処理工程、帯電工程、吸着剤などの添加物を付与する工程、プリーツやコルゲート形状に加工する工程へ供してもよい。
【実施例
【0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0041】
(構成繊維の準備)
以下に記載の構成を備える各ポリオレフィン系接着繊維を用意した。
・ポリオレフィン系接着繊維1
繊度:0.60d、引張り強さ:6cN/dtex、繊維長:5mm。
・ポリオレフィン系接着繊維2
繊度:0.65d、引張り強さ:6cN/dtex、繊維長:5mm。
・ポリオレフィン系接着繊維3
繊度:0.70d、引張り強さ:6cN/dtex、繊維長:5mm。
・ポリオレフィン系接着繊維4
繊度:0.80d、引張り強さ:6cN/dtex、繊維長:5mm。
なお、ポリオレフィン系接着繊維1~4はいずれも、芯部が融点168℃のポリプロピレン樹脂、鞘部が融点135℃の高密度ポリエチレン樹脂で構成されており、繊維断面における芯部面積と鞘部面積の比率が60%:40%である芯鞘型繊維である。
【0042】
また、他の繊維として分割型繊維(繊維長:5mm、繊度:1.7d)を用意した。なお、分割型繊維は融点168℃のポリプロピレン樹脂と融点235℃のポリメチルペンテン樹脂が交互に配列した、断面形状が16分割可能なオレンジ形状をしており、水流により分割されてなる各繊維の各繊維径は、上述したポリオレフィン系接着繊維よりも細いものとなる。また、分割されてなる各繊維は、部分的にフィブリル状にもなるものである。
【0043】
(比較例1)
ポリオレフィン系接着繊維1を60質量%と、分割型繊維を40質量%の配合比率で混綿し、水からなる分散浴に分散させ抄紙機により抄造した。その後、水流絡合装置へ供することで分割型繊維を分割させると同時に構成繊維同士を絡合させ、湿式繊維ウェブを製造した。
製造した湿式繊維ウェブを、加熱温度140℃に調整したエアースルー加熱機へ供することで、湿式繊維ウェブを乾燥すると同時にポリオレフィン系接着繊維の接着成分(鞘成分)のみを融解させ、構成繊維がポリオレフィン系接着繊維の接着成分(鞘成分)により繊維接着してなる、不織布濾材(厚さ:0.6mm)を製造した。
【0044】
(実施例1)
ポリオレフィン系接着繊維1の替わりにポリオレフィン系接着繊維2を用いたこと以外は、比較例1と同様にして不織布濾材を製造した。
【0045】
(実施例2)
ポリオレフィン系接着繊維1の替わりにポリオレフィン系接着繊維3を用いたこと以外は、比較例1と同様にして不織布濾材を製造した。
【0046】
(実施例3)
ポリオレフィン系接着繊維1の替わりにポリオレフィン系接着繊維4を用いたこと以外は、比較例1と同様にして不織布濾材を製造した。
【0047】
上述のようにして製造した各不織布濾材の物性を、表1にまとめた。なお、配合していない組成については表中に「-」を記載した。また、表中の「プリーツ加工性」の欄には、不織布濾材に同一条件でプリーツ加工を施した結果を記載した。つまり、亀裂や破断が発生することなくプリーツ形状を有した不織布濾材を製造できたものについては、表中に「〇」を記載し、亀裂や破断が発生したためプリーツ形状を有した不織布濾材を製造できなかったものについては、表中に「×」を記載した。これらの記載は、以降の表においても同様に行った。
【0048】
【表1】
【0049】
比較例1と実施例1~3とを比較した結果から、不織布濾材を構成するポリオレフィン系接着繊維の繊度が0.60dよりも大きい(より好ましくは0.65d以上)ことによって、剛軟度ならびに剛軟度/目付の値が高く、強度に優れる不織布濾材を提供できることが判明した。
【0050】
(実施例4)
抄造する繊維の量を増量すると共に水流絡合処理の条件を変更したこと以外は、実施例3と同様にして不織布濾材(厚さ:0.6mm)を製造した。
【0051】
(実施例5)
ポリオレフィン系接着繊維4の替わりにポリオレフィン系接着繊維3を用いたこと以外は、実施例4と同様にして不織布濾材を製造した。
【0052】
(実施例6)
ポリオレフィン系接着繊維4の替わりにポリオレフィン系接着繊維2を用いたこと以外は、実施例4と同様にして不織布濾材を製造した。
【0053】
上述のようにして製造した各不織布濾材の物性を、表2にまとめた。
【0054】
【表2】
【0055】
実施例4~6の不織布濾材は、剛軟度ならびに剛軟度/目付の値が実施例1~3よりも、いずれも高い値を示すものであった。そのため、本発明の構成を満足することによって、更に強度に優れる不織布濾材を提供できることが判明した。
【0056】
また、上述のようにして製造した実施例3~4の不織布濾材について、その捕集性能を、以下の測定方法へ供し評価した。
(NaCl初期効率の測定方法)
試験ダクトに不織布濾材を設置して、計数法により捕集効率(%)を算出した。つまり、平面状の不織布濾材を有効間口面積0.04mの試験ダクトのホルダーにセットした後、粒子径0.3μmのNaCl(NaCl数:U)を不織布濾材の上流側に供給し、面風速5.3cm/sで空気を通過させた時の、下流側における粒子径0.3μmのNaCl数(D)をパーティクルカウンタ(RION社製:形式KC-22B)で測定し、次式より算出した値をNaCl初期効率(単位:%)とした。
NaCl初期効率=[1-(D/U)]×100
なお、本数値が高い不織布濾材は、粒子の初期捕集効率が高く捕集性能に優れる濾材であることを意味する。
【0057】
測定の結果、実施例3で製造した不織布濾材のNaCl初期効率は76.7%であったのに対し、実施例4で製造した不織布濾材のNaCl初期効率は77.7%であった。この結果から、実施例3~4で製造した不織布濾材は十分な捕集性能を有する濾材であることが判明した。
【0058】
なお、目付が43.1g/mであった実施例3の不織布濾材に対し、目付が86.0g/mであった実施例4の不織布濾材は目付がほぼ倍であるにも関わらず、そのNaCl初期効率は実施例3の不織布濾材と同等の値を示すものであった。この結果から、本発明の構成を有する不織布濾材において、少なくともその目付が43.1g/m以上である場合においては(少なくとも、目付が43.1g/m以上86.0g/m以下の範囲においては)、目付の大きさは捕集性能の高さと直接的な比例関係を有していないと考えられた。
【0059】
(比較例2)
ポリオレフィン系接着繊維4を10質量%と、分割型繊維を90質量%の配合比率で混綿したこと以外は、実施例4と同様にして不織布濾材を製造した。
【0060】
(実施例7)
ポリオレフィン系接着繊維4を20質量%と、分割型繊維を80質量%の配合比率で混綿したこと以外は、実施例4と同様にして不織布濾材を製造した。
【0061】
(実施例8)
ポリオレフィン系接着繊維4を40質量%と、分割型繊維を60質量%の配合比率で混綿したこと以外は、実施例4と同様にして不織布濾材を製造した。
【0062】
(実施例9)
ポリオレフィン系接着繊維4を90質量%と、分割型繊維を10質量%の配合比率で混綿したこと以外は、実施例4と同様にして不織布濾材を製造した。
【0063】
上述のようにして製造した各不織布濾材の物性を、NaCl初期効率の測定へ供した結果と共に、表3にまとめた。なお、理解を容易にするため表中には、実施例4の結果も併せて記載した。
【0064】
【表3】

【0065】
比較例2と実施例4および実施例7~9とを比較した結果から、不織布濾材を構成するポリオレフィン系接着繊維と他の繊維との質量の和に占める、ポリオレフィン系接着繊維の質量の百分率が10質量%よりも多い(より好ましくは20質量%以上)ことによって、剛軟度ならびに剛軟度/目付の値が高く、強度に優れる不織布濾材を提供できることが判明した。
【0066】
以上から、引張り強さが3cN/dtex以上のポリオレフィン系接着繊維と、他の繊維とを含み構成された不織布濾材において、
・ポリオレフィン系接着繊維の繊度は0.60dよりも大きい、
・ポリオレフィン系接着繊維と他の繊維との質量の和に占める、ポリオレフィン系接着繊維の質量の百分率は、10質量%よりも多く100質量%よりも少ない、
という両構成を満足することで、強度に優れる不織布濾材を提供できることが判明した。
【0067】
また、実施例9の不織布濾材は実施例4および実施例7~8の不織布濾材よりもNaCl初期効率が大きく低下しているものであった。この理由として、実施例9の不織布濾材は不織布濾材に含まれている、濾過性能を向上する役割を担う他の繊維(分割されていると共に部分的にフィブリル状になっている、ポリオレフィン系接着繊維よりも細い繊維)の割合が低いため、強度には優れているものの、濾過性能が低下していると考えられた。
【0068】
そのため、本発明において、強度に優れていると共に濾過性能にも優れる不織布濾材を提供するためには、上述した構成について、更に、
・ポリオレフィン系接着繊維と他の繊維との質量の和に占める、ポリオレフィン系接着繊維の質量の百分率は、10質量%よりも多く90質量%よりも少ない、
という構成を満たしているのが好ましく、
・ポリオレフィン系接着繊維と他の繊維との質量の和に占める、ポリオレフィン系接着繊維の質量の百分率は、10質量%よりも多く60質量%以下である、
という構成を満たしているのがより好ましいことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明にかかる不織布濾材は、例えば、食品や医療品の生産工場用途、精密機器の製造工場用途、農作物の室内栽培施設用途、一般家庭用途あるいはオフィスビルなどの産業施設用途、空気清浄機用途やOA機器用途などの電化製品用途、自動車や航空機などの各種車両用途において、気体フィルタや液体フィルタとして好適に使用できる。