(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】シミュレーション方法、シミュレーション装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240226BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
(21)【出願番号】P 2020099617
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2019109022
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】関 淳一
(72)【発明者】
【氏名】大口 雄一郎
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-212833(JP,A)
【文献】特開2013-201278(JP,A)
【文献】特開2013-232452(JP,A)
【文献】特許第7393304(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0017329(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/00
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材および第2部材のうちの一方の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と前記第1部材および前記第2部材のうちの他方とを接触させ、前記第1部材の上に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション方法であって、
前記硬化性組成物の複数の液滴それぞれの代表位置を示す代表点をノードで表し、近傍のノード同士を接続してリンクを生成するリンク生成工程と、
複数のリンクによって形成される閉領域であるセルを生成するセル生成工程と、
前記セルを構成する各リンクに対応する液滴同士の接合の有無に基づいて前記セルにおいて気泡が形成されたか否かを判定する気泡判定工程と、
を有することを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項2】
前記セルを構成する各リンクについて、リンクを構成する液滴同士が接合していない場合は該リンクを開リンク、リンクを構成する液滴同士が接合している場合は該リンクを閉リンクと判定するリンク判定工程を更に有し、
前記気泡判定工程は、互いに隣接する複数の前記閉リンクによって閉領域が形成される場合、該閉領域に含まれる全てのセルにおいて気泡が形成されたと判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記気泡判定工程は、前記開リンクを挟んで対向するセルの代表点同士を接続するグラフを生成し、該グラフが、雰囲気に連通していることが予め分かっている雰囲気連通セルと接続されていない場合、該グラフを形成する複数のセルに気泡が形成されたと判定する、ことを特徴とする請求項2に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記リンク生成工程は、
着目する液滴のノードと該ノードから所定の探索距離内の領域にある各ノードとを接続してリンクを生成する生成工程と、
着目する液滴を変えながら前記生成工程を繰り返し行うことにより発生した交差するリンクのうち、長い方のリンクを削除する削除工程と、
を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記セルの形状が鈍角三角形である場合、鈍角をなす頂点とは反対側に隣接するセルと合一させる工程を更に有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記複数の液滴と前記第2部材との接触の進行に伴って各液滴が押し拡げられる挙動を計算する計算工程を更に有し、
前記計算工程の後に前記気泡判定工程が実行される、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
気泡の気体分子数を算出する工程を更に有し、
前記気泡判定工程は、前記算出された気体分子数を、気泡欠陥の有無を判定するための指標として用いる
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
前記気体分子数は、前記気泡における気体の圧力と該気泡の体積との積に比例する量として計算され、
前記気体の圧力は、液滴同士が接合していない開リンクを介して生じる前記セル間の気体の流動に基づいて計算される
ことを特徴とする請求項7に記載のシミュレーション方法。
【請求項9】
前記気泡が形成される前に、前記第1部材と前記第2部材と前記硬化性組成物とに対して、気体が溶解した量をメモリに格納する工程を更に有し、
前記気泡判定工程は、前記溶解した量を、気泡欠陥の有無を判定するための指標として用いる
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のシミュレーション方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
第1部材および第2部材のうちの一方の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と前記第1部材および前記第2部材のうちの他方とを接触させ、前記第1部材の上に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション装置であって、
前記硬化性組成物の複数の液滴それぞれの代表位置を示す代表点をノードで表し、近傍のノード同士を接続してリンクを生成し、
複数のリンクによって形成される閉領域であるセルを生成し、
前記セルを構成する各リンクに対応する液滴同士の接合の有無に基づいて前記セルにおいて気泡が形成されたか否かを判定する、
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション方法、シミュレーション装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
基板の上に硬化性組成物を配置し、該硬化性組成物と型とを接触させ、該硬化性組成物を硬化させることによって該基板の上に硬化性組成物の硬化物からなる膜を形成する膜形成方法がある。このような膜形成方法は、インプリント方法および平坦化方法等に適用されうる。インプリント方法では、パターンを有する型を用いて、基板の上の硬化性組成物に該型のパターンが転写される。平坦化方法では、平坦面を有する型を用いて、基板の上の硬化性組成物と該平坦面とを接触させ該硬化性組成物を硬化させることによって平坦な上面を有する膜が形成される。
【0003】
基板の上には、硬化性組成物が液滴の状態で配置されうる。その後、基板の上の硬化性組成物の液滴に型が押し当られうる。これにより、液滴が拡がって硬化性組成物の膜が形成される。このような処理においては、厚さが均一な硬化性組成物の膜を形成すること、膜中に気泡がないことなどが重要であり、これらを実現するために、液滴の配置、液滴への型の押し付けの方法および条件等が調整されうる。このような調整を、膜形成装置を使った膜形成を伴う試行錯誤によって実現するためには、膨大な時間と費用を必要とする。そこで、このような調整を支援するシミュレータの登場が望まれる。
【0004】
特許文献1には、パターン形成面に配置された複数の液滴の濡れ広がりおよび合一を予測するためのシミュレーション方法が記載されている。このシミュレーション方法では、パターン形成面がモデル化された解析面が複数の解析セルに分割され、また、液滴は、解析面上のドロップサイトごとに配置される。特許文献1では、ドロップサイトは、m×nの格子状に分割された領域であると定義されているが、ドロップサイトは、解析セルとは別個の概念であると説明されている。
【0005】
通常、液滴の挙動を計算する場合、液滴の寸法よりも十分に小さい計算要素(解析セル)を定義する必要がある。しかしながら、このような小さい計算要素を定義しつつ、例えば1つのショット領域などの広い領域の全域にわたって液滴の挙動を計算することは、極めて現実性に乏しく、許容可能な時間内に計算結果を得ることはできないと思われる。とりわけ、従来は計算要素(計算格子)上の複数の液滴により気泡の閉じ込めを表現していたが、計算格子の数が膨大であるため現実的な時間では解くことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、硬化性組成物の膜を形成する処理における該硬化性組成物の挙動をより短時間で計算するために有利な技術を提供することを目的とする。とりわけ本発明は、硬化性組成物の液滴間の気泡の表現に関して演算量の点で有利な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば、第1部材および第2部材のうちの一方の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と前記第1部材および前記第2部材のうちの他方とを接触させ、前記第1部材の上に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション方法であって、前記硬化性組成物の複数の液滴それぞれの代表位置を示す代表点をノードで表し、近傍のノード同士を接続してリンクを生成するリンク生成工程と、複数のリンクによって形成される閉領域であるセルを生成するセル生成工程と、前記セルを構成する各リンクに対応する液滴同士の接合の有無に基づいて前記セルにおいて気泡が形成されたか否かを判定する気泡判定工程と、を有することを特徴とするシミュレーション方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硬化性組成物の液滴間の気泡の表現に関して演算量の点で有利な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態におけるシミュレーション装置の構成を示す図。
【
図3】実施形態におけるシミュレーション方法を示すフローチャート。
【
図7】リンク構造生成時に用いられる背景格子の例を示す図。
【
図8】鈍角三角形セルで発生しうる課題を説明する図。
【
図9】鈍角三角形セルを隣接するセルに合一させた状態を示す図。
【
図10】閉リンクと開リンクの判定方法を説明する図。
【
図11】液滴間の気体の流動と圧力の関係を説明する図。
【
図12】リンク構造上の気体流動計算を説明する図。
【
図13】気体の流動計算におけるフラックスを説明する図。
【
図14】気泡の閉じ込めのタイミングの例を示す図。
【
図15】気泡の閉じ込めを判定する手法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
<第1実施形態>
図1には、一実施形態の膜形成装置IMPおよびシミュレーション装置1の構成が示されている。膜形成装置IMPは、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と型Mとを接触させ、基板Sと型Mとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する処理を実行する。膜形成装置IMPは、例えば、インプリント装置として構成されてもよいし、平坦化装置として構成されてもよい。ここで、基板Sと型Mとは相互に入れ替え可能であり、型Mの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と基板Sとを接触させ、型Mと基板Sとの間の空間に硬化性組成物IMの膜が形成されてもよい。したがって、より包括的には、膜形成装置IMPは、第1部材および第2部材のうちの一方の上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と第1部材および第2部材のうちの他方とを接触させ、第1部材の上に硬化性組成物IMの膜を形成する処理を実行する装置である。以下の例においては、第1部材は基板Sであり、第2部材は型Mである。
【0013】
インプリント装置では、パターンを有する型Mを用いて、基板Sの上の硬化性組成物IMに型Mのパターンが転写されうる。インプリント装置では、パターンが設けられたパターン領域PRを有する型Mが使用されうる。インプリント装置では、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mのパターン領域PRとを接触させ、基板Sのパターンを形成すべき領域と型Mとの間の空間に硬化性組成物を充填させ、その後に、硬化性組成物IMが硬化されうる。これにより、基板Sの上の硬化性組成物IMに型Mのパターン領域PRのパターンが転写される。インプリント装置では、例えば、基板Sの複数のショット領域のそれぞれの上に硬化性組成物IMの硬化物からなるパターンが形成されうる。
【0014】
平坦化装置では、平坦面を有する型Mを用いて、基板Sの上の硬化性組成物IMと該平坦面とを接触させ硬化性組成物IMを硬化させることによって平坦な上面を有する膜が形成されうる。平坦化装置では、通常は、基板Sの全域をカバーしうる大きさを有する型Mが使用され、基板Sの全域に硬化性組成物IMの硬化物からなる膜が形成されうる。
【0015】
硬化性組成物としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する材料が使用されうる。硬化用のエネルギーとしては、電磁波、熱等が用いられうる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、例えば、赤外線、可視光線、紫外線などでありうる。硬化性組成物は、光の照射により、あるいは、加熱により硬化する組成物でありうる。これらのうち、光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて非重合性化合物または溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。硬化性組成物の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下でありうる。基板の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂等が用いられうる。必要に応じて、基板の表面に、基板とは別の材料からなる部材が設けられてもよい。基板は、例えば、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスである。
【0016】
本明細書および添付図面では、基板Sの表面に平行な方向をXY平面とするXYZ座標系において方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ平行な方向をX方向、Y方向、Z方向とし、X軸周りの回転、Y軸周りの回転、Z軸周りの回転をそれぞれθX、θY、θZとする。X軸、Y軸、Z軸に関する制御または駆動は、それぞれX軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向に関する制御または駆動を意味する。また、θX軸、θY軸、θZ軸に関する制御または駆動は、それぞれX軸に平行な軸の周りの回転、Y軸に平行な軸の周りの回転、Z軸に平行な軸の周りの回転に関する制御または駆動を意味する。また、位置は、X軸、Y軸、Z軸の座標に基づいて特定されうる情報であり、姿勢は、θX軸、θY軸、θZ軸の値で特定されうる情報である。位置決めは、位置および/または姿勢を制御することを意味する。
【0017】
膜形成装置IMPは、基板Sを保持する基板保持部SH、基板保持部SHを駆動することによって基板Sを駆動する基板駆動機構SD、および、基板駆動機構SDを支持する支持ベースSBを備えうる。また、膜形成装置IMPは、型Mを保持する型保持部MH、および、型保持部MHを駆動することによって型Mを駆動する型駆動機構MDを備えうる。基板駆動機構SDおよび型駆動機構MDは、基板Sと型Mとの相対位置が調整されるように基板SDおよび型MDの少なくとも一方を駆動する相対駆動機構を構成しうる。該相対駆動機構による相対位置の調整は、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mとの接触、および、硬化した硬化性組成物IMからの型Mの分離のための駆動を含みうる。また、該相対駆動機構による相対位置の調整は、基板Sと型Mとの位置合わせを含みうる。基板駆動機構SDは、基板Sを複数の軸(例えば、X軸、Y軸、θZ軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸、θZ軸の6軸)について駆動するように構成されうる。型駆動機構MDは、型Mを複数の軸(例えば、Z軸、θX軸、θY軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸、θZ軸の6軸)について駆動するように構成されうる。
【0018】
膜形成装置IMPは、基板Sと型Mとの間の空間に充填された硬化性組成物IMを硬化させるための硬化部CUを備えうる。硬化部CUは、例えば、型Mを介して硬化性組成物IMに硬化用のエネルギーを照射し、これによって硬化性組成物IMを硬化させうる。膜形成装置IMPは、型Mの裏面側(基板Sに対面する面の反対側)に空間SPを形成するための透過部材TRを備えうる。透過部材TRは、硬化部CUからの硬化用のエネルギーを透過させる材料で構成され、これにより、硬化性組成物IMに対する硬化用のエネルギーの照射を可能にする。膜形成装置IMは、空間SPの圧力を制御することによって型MのZ軸方向への変形を制御する圧力制御部PCを備えうる。例えば、圧力制御部PCが空間SPの圧力を大気圧より高くすることによって、型Mは、基板Sに向けて凸形状に変形しうる。
【0019】
膜形成装置IMPは、基板Sの上に硬化性組成物IMを配置、供給あるいは分配するためのディスペンサDSPを備えうる。膜形成装置IMPには、他の装置によって硬化性組成物IMが配置された基板Sが供給されてもよく、この場合には、ディスペンサDSPは膜形成装置IMPに備えられなくてもよい。膜形成装置IMPは、基板S(または基板Sのショット領域)と型Mとの位置合わせ誤差を計測するためのアライメントスコープASを備えてもよい。
【0020】
シミュレーション装置1は、膜形成装置IMPにおいて実行される処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する計算を実行しうる。より具体的には、シミュレーション装置1は、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と型Mとを接触させ、基板Sと型Mとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する計算を実行しうる。
【0021】
シミュレーション装置1は、例えば、汎用または専用のコンピュータにシミュレーションプログラム21を組み込むことによって構成されうる。あるいは、シミュレーション装置1は、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)によって構成されうる。一例において、シミュレーション装置1は、プロセッサ10、メモリ20、ディスプレイ30および入力デバイス40を備えるコンピュータを準備し、メモリ20にシミュレーションプログラム21が格納されることによって構成されうる。メモリ20は、半導体メモリであってもよいし、ハードディスク等のようなディスクであってもよいし、他の形態のメモリであってもよい。シミュレーションプログラム21は、コンピュータによって読み取り可能なメモリ媒体に格納されて、または、電気通信回線等の通信設備を介してシミュレーション装置1に提供されてよい。
【0022】
図2には、一般的な手法によって基板Sと型Mとの間における硬化性組成物IMの挙動をシミュレーションする際に定義されうる計算格子が例示されている。この明細書において、計算格子は、計算のための最小単位である計算要素の集合体である。
図2において格子を構成するように配置された複数の微小な矩形の各々が計算要素である。基板Sの解析対象の領域(例えば、ショット領域)に計算格子が定義される。通常のシミュレーション手法においては、硬化性組成物IMの体積が各々の計算要素の体積に対して占める割合として表現されうる。硬化性組成物IMの液滴の挙動を解析するために、液滴の寸法よりも十分に小さい計算要素からなる計算格子が定義されるであろう。例えば、半導体製造における標準的な画角である26mm×33mmの領域に、数十nm前後の膜厚となる硬化性組成物の液膜を、数pLの液滴を塗布することで形成しようとした場合、数万滴の液滴を同時に取り扱うことになる。そのため、上述のような微細な計算要素からなる計算格子を定義すると、計算量が膨大なものとなり、許容可能な時間内に計算結果が得られることは期待できない。
【0023】
以下、
図3のフローチャートを参照して、シミュレーション装置1によって実行されるシミュレーション方法を説明する。このフローチャートに対応するプログラムは、シミュレーションプログラム21に含まれ、プロセッサ10によって実行される。このシミュレーション方法は工程S001、S002、S003、S004、S005、S006、S007、S008を含みうる。工程S001は、シミュレーションに必要な条件を設定する工程である。工程S002は、工程S001で設定された硬化性組成物IMの液滴の配置情報に基づいて、隣接する液滴同士を結び付けるリンク構造を生成する工程である。工程S001と工程S002は、併せて1つの工程、例えば準備工程として理解されてもよい。工程S003は、型Mの運動を計算し、型Mの位置を更新する工程である。工程S004は、工程S003で更新された型Mの位置情報に基づいて、硬化性組成物IMの液滴が押し拡げられる挙動を計算する工程である。また、工程S004は、押し拡げられた液滴同士の接合(結合)を判定する工程を含みうる。工程S005は、上記リンク構造の各リンクが閉じたかどうかを判定する工程である。工程S006は、液滴要素間を流れる気体の流動を計算し、気体の圧力分布を算出する工程である。工程S007は、更新されたリンクの開閉情報に応じて、液滴間に気泡が閉じ込められているかを判定する工程である。工程S008では、計算における時刻が終了時刻に到達したかが判定され、達していなければ、時刻を次の時刻に進めて、工程S003に戻る。一方、計算における時刻が終了時刻に達した場合には、このシミュレーション方法が終了する。なお、シミュレーション装置1は、工程S001、S002、S003、S004、S005、S006、S007、S008をそれぞれ実行するハードウェア要素の集合体として理解されてもよい。
【0024】
工程S001では、シミュレーションに必要なパラメータが設定される。パラメータは、基板Sの上における硬化性組成物IMの液滴の配置、各液滴の体積、硬化性組成物IMの物性値、型Mの表面の凹凸(例えば、パターン領域PRのパターンの情報)に関する情報、基板Sの表面の凹凸に関する情報等を含みうる。また、パラメータは、型駆動部MDが型Mに与える力の時間プロファイル、圧力制御部PCが空間SP(型M)に与える圧力のプロファイル等を含みうる。
【0025】
工程S002では、硬化性組成物IMの液滴の配置情報に基づいて、隣接する液滴同士を結び付けるリンク構造が生成される。
図4を参照しながら、リンク構造について説明する。ここで、硬化性組成物IMの各液滴を表現するモデルを液滴要素DRPと表現する。この液滴要素の代表位置を示す点である代表点にノードNDが生成される。隣接するノード同士を接続してリンクが作成される。具体的には、リンクは、接合が発生し得る近傍に存在する液滴要素上に生成されたノード同士に対して生成され、両ノードを結んだ線分として定義されうる。また、リンクを構成する2つの液滴要素同士が接合している場合には、そのリンクを閉リンクLNCと呼び、接合していない場合には、そのリンクを開リンクLNOと呼ぶ。閉リンク、開リンクを区別せずにリンクを指し示す場合はリンクLNと表記することとする。ここで、リンクLN同士が交わるのは、必ずノードNDであって、それ以外の部分では互いに交差することがないように生成される。
【0026】
複数のリンクによって形成される閉領域の最小単位領域をセルCELと呼称する。ひとつのセルが、硬化性組成物IMの膜形成プロセスにおいて、液滴間に閉じ込められる一つの気泡に対応する。セルは典型的には三角形となるが、四角形以上の多角形としても定義されうる。各セルに対しては、代表点が定義されうる。上述のように、ひとつのセルはひとつの気泡に対応するため、セルの代表点位置は、気泡が発生する位置と対応するように定めることが望ましい。三角形セルに対しては外心、つまりその外接円の中心に代表点が設定されうる。外心を採用する利点としては、セルを構成する3つのノードから等距離にある点であり、実際に気泡が閉じ込められる位置とよく一致することが挙げられる。一方、四角形以上の多角形をなす多角形セルに対しては、セルを構成する全ノード座標に対する重心として定義されうる。
【0027】
リンク構造を生成する手法は複数考えられうる。その一例を
図5を参照しながら説明する。液滴の配置情報は、
図3の工程
S001において既に取得されているものとする。工程S201は、各液滴のノードについて、近傍に存在するノード同士を接続してリンクを生成するリンク生成工程である。ここで近傍とは、着目する液滴の例えば中心にあるノードから所定の探索距離内の領域をいう。この探索距離をL
searchとする。探索距離L
searchは、最終生成物である硬化性組成物の膜が形成される過程において、互いの接合が発生し得る液滴が含まれるように選択されるべきである。例えば、硬化性組成物IMの液膜の平均的な厚みをh
RLT、液滴の平均体積をV
dropとすると、探索距離L
searchは、次式で表される。
【0028】
ここでαは安全率であり、1以上の数値である。αを大きくするほど、リンクの生成漏れが回避できる一方、リンク生成にかかる計算コストが増大する。探索範囲のイメージを
図6に示す。
【0029】
上記の近傍探索の工程は、ある着目している液滴に対して、その他すべての液滴について距離計算を実施し、距離がL
search以下になっているかを判定してもよい。ただし、この方法では、液滴の総数が大きくなるにつれて、探索に時間がかかる。近傍探索工程を高速化するためには、以下に示すような背景格子を定義する方法がとられうる。背景格子とは、
図7に示されるように、液滴の塗布領域を含む領域を矩形の格子で分割した格子を指し、これをBGと表記する。また、背景格子の1つの要素を背景格子要素BCと表記する。各背景格子要素BCに対して、その中に液滴中心が含まれる液滴を登録しておく。ここで少なくとも、1つの背景格子要素には複数の液滴が含まれ、かつ上記のL
searchよりも大きくなるように、背景格子の大きさを選択する必要がある。2つ以上隣の背景格子要素同士に含まれる液滴の組み合わせでは、距離が十分に離れていることが予め分かっているので、探索範囲から除外してよい。このようにして、隣接する背景格子要素間に含まれる液滴の組み合わせについてのみ探索を行なえば十分となるため、近傍探索の時間が大幅に削減できる。
【0030】
安全率αの値によっては、この工程で生成されたリンクには互いに交差するものが存在し得る。互いに交差しているリンクが存在すると、以後のシミュレーション方法に不都合が生じるため、そのようなリンクを削除することが必要である。生成されたリンクを、液滴と同様に、前述の背景格子BGに登録することで、次の工程S202におけるリンクの検索を少ない計算コストで実行することが可能になる。
【0031】
工程S201は、着目する液滴を変えながら繰り返し行われる。着目する液滴を変えながら工程S201が繰り返し行われると、
図6に示されるように、交差するリンクが発生しうる。そこで工程S202では、リンク同士が交差しているかどうかをすべてのリンクの組に対して判定し、交差が判定されたリンクの組のうち、長さが長い方のリンクを削除する。リンク同士が十分に離れている組に関しては、交差がないことが予め判断できるため、上記判定を省略することが可能である。背景格子BGにリンクを登録している場合、このような組を簡便に検索のリストから除外することができる。この工程の完了時には互いに交差するリンクがない状態になる。
【0032】
工程S203は、複数のリンクによって囲まれる最小の領域に対してセルを生成するセル生成工程である。典型的な液滴配置においては、主として三角形のセルが生成される。一部の領域に関しては、この時点で多角形(四角形以上)のセルが生成される場合もある。また、液滴配置に応じて、形状が鈍角三角形となるセルも発生しうる。鈍角三角形のセルに対しては、セル内における硬化性組成物IMの占める面積割合を求める際に不都合が生じうる。
【0033】
そこで工程S204では、発生した鈍角三角形セルを、隣接するセルと合一させる。
図8に示されるように、鈍角となるノードに対応する液滴が、対向するリンクからはみ出すことが起きうる(
図8の黒塗り部)。そのため同図の斜線で示された面積を算出する計算手法が煩雑になり、計算コストも増大しうる。そこで、セルの形状が鈍角三角形である場合、鈍角をなす頂点とは反対側に隣接するセルと合一させることで、上記問題を回避する。
図9を例にその方法を説明する。頂点Aが鈍角となるような鈍角三角形のセルABCに、頂点Aに対向するリンクBCを共有する隣接セルBCDを合一させる。ここで隣接するセルは多角形セルであっても構わない。この操作を、全ての鈍角三角形セルに対して施す。
【0034】
以上の工程S201からS205までを実行することで、本シミュレーション手法で用いるリンク構造を生成することができる。当該リンク構造は、前記の方法以外でも生成してもよい。たとえば、デローニ分割を用いた手法などが挙げられる。
【0035】
工程S003では、型Mの位置を更新する。型Mの位置は、運動方程式を解くことによって算出されうる。運動方程式は、型Mに作用する硬化性組成物IMから受ける流体力、型Mと基板Sに挟まれる空間に存在する気体の流動から受ける圧力、型Mの慣性力、型の保持部MHに作用させる荷重、型Mの弾性変形に伴う復元力等を含みうる。予め計算された型Mの時刻ごとの位置情報を入力し、その情報を補間して用いることで、型Mの位置を更新してもよい。
【0036】
工程S004では、型Mの運動によって、すなわち硬化性組成物の複数の液滴と第2部材との接触の進行に伴って、基板S上の各液滴要素が押し拡げられる挙動が計算される。ここで、液滴の押し拡がりを計算する手法は、液滴の輪郭形状が精度よく求まる手法であることが望ましい。工程S004は、セルを構成する各リンクについて、リンクを構成する液滴同士が接合しているか否かを判定する工程を含みうる。この工程においては、液滴要素同士の接合の有無が精度よく判定できる手法であることが望ましい。たとえば、各々の液滴要素を、その輪郭形状によって表現する手法などが考えられうる。型Mによる押し拡がり時に、硬化性組成物IMの体積が保存することから、計算格子による分割を行わずに、液滴の押し拡がり形状の変化を近似式で予測する手法がとられうる。このような手法等は計算時間の大幅な低減が期待できるため、本発明と組み合わせて用いるのに好適である。一方、解析領域を計算格子で分割する工程を伴う、一般的な流体シミュレーション手法等は計算時間が非常に長くなる。ただし、解析領域が十分に小さい場合など、現実的な時間内に計算結果を得ることができる場合については、本発明と組み合わせて使用することはもちろん可能である。
【0037】
工程S004の計算工程の後に、工程S005、S006、S007が実行される。工程S005は、全てのリンクLNに対して、開閉の判定を行うリンク判定工程である。この工程では、セルを構成する各リンクについて、リンクを構成する液滴同士が接合していない場合は該リンクを開リンク、リンクを構成する液滴同士が接合している場合は該リンクを閉リンクと判定する。
図10を参照しながら、開閉判定の方法について説明する。各リンクに対して、そのリンクを構成する2つの液滴要素が、互いに接合している場合、このリンクは閉じていると判断され、閉リンクLNCとなる。一方、接合が無い場合、そのリンクは開リンクLNOと判断される。工程S006では、液滴間に存在する気体の流動が計算される。その結果、気体の圧力分布が計算される。工程S007では、工程S005で判定された、各リンクの開閉判定に基づき、各セルにおいて気泡が形成されたかが判定される。気泡が形成されたと判定された場合、当該気泡の体積V
bubは次のようにして算出されうる。すなわち、着目するセルの面積から硬化性組成物IMがセル内に占める面積を除いた量に、気泡が形成されたと判定された計算時刻における型Mと基板Sとの距離をかけることで算出されうる。
【0038】
工程S006では、液滴間の気体の流動を計算する。液滴が型Mによって押しつぶされ、互いに接合していくことによって、典型的に
図11に示すような気体の流路が形成されうる。このような流路が形成されると、その狭い領域を気体が流動することによって、大きな圧力損失が生じうる。すると、
図11に示される左側において閉じ込められる気泡は、その内部の圧力p
bubが増大する。気泡内の気体分子数n
bubは、気泡の体積V
bubと圧力p
bubを用いて、次式(式0)で表される。
【0039】
(式0)
ここで、Rは気体定数であり、Tは温度である。このように、気体分子数は、気泡における気体の圧力と該気泡の体積との積に比例する量として計算される。気体分子数n
bubが大きいほど、所定の時間経過後において気泡欠陥として残り易くなると判定されうる。したがって本シミュレーション手法では、ショット内領域における気体の圧力分布を算出し、閉じ込められた気泡内の気体分子数n
bubを計算することで、該n
bubを気泡欠陥の有無を判定するための指標として用いる。
【0040】
以下では、気体圧力の計算方法について説明する。工程S002にて生成されたリンク構造の各セルに対して、気体の圧力を表すパラメータpを定義する。
図12に示されるように、開リンクを共有する2つのセル間では、気体の流動が発生するとみなすことができる。一方、閉リンクを共有する2つのセル間では、気体の流動は発生しないとみなしうる。したがって、気体の流動を表す方程式は次式(式1)で表すことができる。
【0041】
(式1)
ここで、hは各セル位置における型Mと基板Sとの間の距離、つまり流路高さであり、qはセル間の気体のフラックスである。上述のように、閉リンクを共有するセル間では、qが0になるように解かれる。膜形成装置IMPにおいては、典型的に、液滴の寸法と比較して十分に小さい距離まで、型Mを基板Sに対して押し付ける。気体流路の厚みが流路の長さに対して十分に小さくなる。そのため、上記流動の方程式に対して潤滑近似を適用することが可能である。すると、フラックスqは次式(式2)で表現されうる。
【0042】
(式2)
ここで、μは気体の粘度であり、Qは粘性抵抗の補正係数である。Qは、流路高さhの関数として表現されうるもので、流路高さhが小さいほど大きな値をとる。式1を各セル面積に対して積分し、離散化した方程式を得る。i番目のセルCELiに対して積分を行うと、次式(式3)が得られる。
【0043】
(式3)
ここで、p
iおよびS
g,iはそれぞれ、セルiにおける気体の圧力および気体が占める面積である。h
iはセルiにおける流路高さである。f
i,jはセルiから隣接するセルjへの気体のフラックスである
(図13参照)。ここでf
i,jの表式は、硬化性組成物IMがセルに対して占める面積割合が増加するにつれて、液滴間を流れる気体の流路幅が狭くなる効果を含みうる。f
i,outは、セルiにおいて、セル間の気体の流動以外の気体のフラックスを示している。たとえば、気体が型Mと基板Sと硬化性組成物IMに対して透過・溶解する際のフラックスなどが考えられうる。式3をp
iについて解くことで、気体の圧力分布を算出することができる。
【0044】
式3に示される、型Mと基板Sと硬化性組成物IMに対して透過・溶解する気体のフラックスに相当する量fi,outを、各計算時刻で足しあげた量を、nsolとして別途、メモリに格納することが可能である。あるセルにおいて、この量が大きく見積もられるほど、接触工程の間に多くの気体分子が溶解することに対応し、当該位置における気泡欠陥が残りやすくなる傾向を示す。したがって、上記nsolはnbubに加えて、気泡欠陥の有無を判定するための指標として利用されうる。
【0045】
上述の手法を用いれば、解くべき連立方程式の未知数の数は、高々、セルの総数になる。生成されるセルの数は、ショット領域内に含まれる液滴の数と同程度である。これは一般的な流体シミュレーションによる計算手法で必要な計算要素数、つまり未知数の数、と比較して、圧倒的に少ない量となる。したがって、本シミュレーションを用いることで、現実的な時間内に計算結果を得ることが期待できる。
【0046】
工程S007は、セルを構成する各リンクに対応する液滴同士の接合の有無に基づいてセルにおいて気泡が形成されたか否かを判定する気泡判定工程である。工程S007では、例えば、互いに隣接する複数の閉リンクによって閉領域が形成される場合、該閉領域に含まれる全てのセルにおいて気泡が形成されたと判定される。その典型例が
図14(a)に示されている。
図14(a)は、セルを構成する全てのリンクが閉リンクとなった場合であり、3つの閉リンクによって閉領域が形成されており、この閉領域に含まれる1つのセルにおいて気泡が形成されたと判定される。もう一つのケースは、
図14(b)に示されるように、各セルについては(a)の条件を満たさないが、複数セルにわたって閉リンクによって同時に囲まれる場合である。
図14(a)の場合については、各セルについて、セルを構成する全てのリンクが閉リンクであるかを調べることで判定が可能である。それに対して
図14(b)の場合については、ひとつのセルだけでは判定ができず、周辺を含めた大域的な情報が必要となる。
【0047】
図14(b)では、互いに隣接する複数の閉リンクによって閉領域が形成されている。この場合、該閉領域に含まれる全てのセルにおいて気泡が形成されたと判定される。この場合の判定は、着目するセルの気体領域がショット領域の外と連通しているかを調べることによってなされる。この連通の有無を判定する方法には複数が考えられうるが、無向グラフの探索アルゴリズムを利用した手法が適用されうる。
図15を参照しながら、その手法について説明する。
図15は、四角形セルが格子状に並んだ系を例として示している。破線で示される線分が開リンクを示し、太い実線で示されるのが閉リンクである。黒丸で示されているのが、各セルの代表点である。網掛けで示されるセルは、インプリント領域外の気体領域(雰囲気)に連通していることが予め分かっているセルであり、これを雰囲気連通セルと呼称する。たとえば、ショット領域の外周に接するセルなどが雰囲気連通セルに対応する。雰囲気を満たす気体は、空気以外の気体であってもよい。例えば、雰囲気を満たす気体は、酸素効果阻害対策で用いられる不活性ガスや、気泡消失促進のために空気の代わりに用いられる凝縮性ガス等でありうる。上記セルの代表点の集合の上に無向グラフ構造が生成されうる。グラフは、開リンクを挟んで対向するセルの代表点同士を接続することにより生成されうる。
図15において、辺は細い実線で示されている。このようにして生成された頂点と辺の集合に対し、互いに連結されていない各々の集合を、グラフと呼ぶ。各グラフに対して探索アルゴリズムを適用し、そのグラフが雰囲気連通セルと接続されているかを判定する。雰囲気連通セルとの接続が確認された場合、そのグラフに属する全てのセルは、気泡が形成されていないセルであると判定される。逆に、雰囲気連通セルとの接続が無いグラフに属する全てのセルは、気泡が形成されたセルであると判定される。
図15の三角形で示されるセルがそれに対応する。この手法に基づけば、
図14(a)に示される場合も同時に判定することができる。気泡の有無の判定手法は、ここに示される手法以外であってもよい。
【0048】
工程S007では、セルごとに気泡の閉じ込めの判定情報がメモリに格納されうる。ある計算時刻において、セルiについて気泡が閉じ込められたと判定された場合、現計算時刻ttrap,iと、セルiの気泡内の気体の圧力piと、気泡の体積Vbub,iとが格納されうる。式0に、piとVbub,iとを代入することで、セルi内に発生した気泡内の気体分子の数nbub,iが算出されうる。
【0049】
工程S003、S004、S005、S006、S007を含む計算工程は、予め設定された複数の時刻について実行される。複数の時刻は、型Mが初期位置から降下を開始する時刻から複数の液滴と接触し、複数の液滴が潰されながら拡がり、複数の液滴が相互に結合し、最終的に1枚の膜を形成し、硬化性組成物の硬化がなされるべき時刻までの期間内で任意に定められうる。典型的には、該複数の時刻は、一定の時間間隔で定められうる。
【0050】
工程S008では、計算における時刻が終了時刻に達したかどうかが判断され、達していなければ、時刻を次の時刻に進めて工程S003に戻る。一方、計算における時刻が終了時刻に達した場合には、このシミュレーション方法が終了する。一例において、工程S008では、現在時刻が、指定された時間刻み分だけ進められて、新たな計算時刻とされる。そして、計算時刻が予め決められた終了時刻に達した場合、計算が完了したと判断される。
【0051】
工程S003から工程S007の順番は入れ替えてもよい。たとえば、工程S004、S005、S003、S006、S007の順番で実施する場合、液滴の押し拡がり計算をする際に用いる、型Mの位置情報を、前の計算時刻における値を利用することによって、同様に処理することができる。
【0052】
以上のシミュレーション方法によれば、生成されたリンク構造上の各セルにおいて以下のものが計算され、メモリに格納される。
(1)気泡が閉じ込められた時刻ttrap、
(2)該気泡に含まれる気体分子数nbub、
(3)該気泡の位置において基板Sと型Mと硬化性組成物IMとに溶解した気体分子数nsol。
【0053】
これらの指標値を用いることで、任意の時刻が経過した時点における気泡欠陥分布が算出されうる。
図16に、気泡欠陥分布の表示例を示す。指標値の値から、気泡欠陥の有無を判定する方法は、実験から取得されたデータベースを利用してもよい。また、気泡の溶解現象をシミュレーションした計算結果をまとめたデータベースを利用することもできる。
【0054】
以上のように、本実施形態によれば、基板S上に塗布された硬化性組成物IMの各液滴が型Mによって押し拡げられ、互いに接合して、液膜を形成していく過程を、非常に少ないコストで計算することが可能である。また接合の過程において、液滴間に閉じ込められる気泡について、気泡欠陥として残るかどうかを、閉じ込め時の気泡内の気体分子数に対応する指標値nbubを算出することで、判定することができる。その結果、押印開始から所定時間経過後における液膜中の、どの位置に気泡欠陥が残っているかを、2次元画像として表示することが可能になる。
【0055】
(他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0056】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0057】
1:シミュレーション装置、10:プロセッサ、20:メモリ、30:ディスプレイ、40:入力デバイス