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  • 特許-吊構造物及び吊設工法 図1
  • 特許-吊構造物及び吊設工法 図2A
  • 特許-吊構造物及び吊設工法 図2B
  • 特許-吊構造物及び吊設工法 図2C
  • 特許-吊構造物及び吊設工法 図3
  • 特許-吊構造物及び吊設工法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】吊構造物及び吊設工法
(51)【国際特許分類】
   B66C 1/10 20060101AFI20240226BHJP
   B66C 1/14 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
B66C1/10 A
B66C1/14 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020100145
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021195183
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】592009281
【氏名又は名称】株式会社IHIプラント
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】野村 欣央
(72)【発明者】
【氏名】内田 修
(72)【発明者】
【氏名】郡山 浩朗
(72)【発明者】
【氏名】中井 賢司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 光輝
(72)【発明者】
【氏名】市川 揮章
(72)【発明者】
【氏名】高橋 優介
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-072297(JP,U)
【文献】実開平02-010383(JP,U)
【文献】特開平05-332506(JP,A)
【文献】米国特許第06305330(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00-3/20
F22B 37/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送装置の玉掛けワイヤが係合する第1係合部材と、
対象物に設けられた一対の突起部に各々係合する一対の第2係合部材と、
該一対の第2係合部材と前記第1係合部材とを接続する一対の吊り部材と
を備え
前記第1係合部材は、ボイラ架構を構成する本設吊材であり、前記ボイラ架構と合体させることによって前記対象物を吊持する
ことを特徴とする吊構造物。
【請求項2】
前記第1係合部材は、前記突起部と略平行な軸周りに回動自在に前記吊り部材と連結することを特徴とする請求項1に記載の吊構造物。
【請求項3】
前記第2係合部材は、2軸周りに回動自在に前記吊り部材と連結することを特徴とする請求項1または2に記載の吊構造物。
【請求項4】
前記対象物は汽水分離器であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の吊構造物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の吊構造物を前記対象物と一体化させた状態で吊上げて吊設することを特徴とする吊設工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊構造物及び吊設工法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、汽水分離器ならびにそれを備えたボイラ装置が開示されている。この背景技術は、縦型の円筒形をした胴と、当該胴の内部に水と蒸気の2相流体を胴内周面の接線方向に沿って供給する流入管と、2相流体から分離された蒸気を胴の上部から流出させる上部流出管と、2相流体から分離された水を胴の下部から流出させる下部流出管を備えた汽水分離器に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-261538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記汽水分離器は、気液分離機能に加え、タンク機能を併せ持つものであり、特許文献1の図1に記載されているように、円筒形かつ長尺状の胴を備える機械構成要素である。すなわち、この汽水分離器は、ボイラ装置の架構に縦姿勢で設置され、上部が汽水分離器として機能し、下部が蒸気ドレインを貯留するドレインタンクとして機能するものである。このような長尺状の汽水分離器を架構に設置する場合、従来では、汽水分離器の端部にクレーンの玉掛けワイヤを掛け回すことによって縦姿勢で吊上げていた。
【0005】
しかしながら、このような汽水分離器に対する玉掛け作業は、極めて高度の玉掛け技能を有する熟練者でないと行い得ず、このような熟練者を所望の時期に確保することは、近年の人手不足の現状では極めて困難である。したがって、汽水分離器を吊上げる際に高度な玉掛け技能を必要としない汽水分離器の設置工法の開発が極めて重要である。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、対象物を吊上げる際に高度な玉掛け技能を必要としない吊上用構造物及び吊設工法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、吊構造物に係る第1の解決手段として、搬送装置の玉掛けワイヤが係合する第1係合部材と、対象物に設けられた一対の突起部に各々係合する一対の第2係合部材と、該一対の第2係合部材と前記第1係合部材とを接続する一対の吊り部材とを備える、という手段を採用する。
【0008】
本発明では、吊構造物に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記第1係合部材は、ボイラ架構を構成する本設吊材であり、前記ボイラ架構と合体させることによって前記対象物を吊持する、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、吊構造物に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記第1係合部材は、前記突起部と略平行な軸周りに回動自在に前記吊り部材と連結する、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、吊構造物に係る第4の解決手段として、上記第1~第3のいずれかの解決手段において、前記第2係合部材は、2軸周りに回動自在に前記吊り部材と連結する、という手段を採用する。
【0011】
本発明では、吊構造物に係る第5の解決手段として、上記第1~第4のいずれかの解決手段において、前記対象物は汽水分離器である、という手段を採用する。
【0012】
本発明では、吊設工法に係る解決手段として、上記第1~第5のいずれかの解決手段に係る吊構造物を前記対象物と一体化させた状態で吊上げて吊設する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、汽水分離器を吊上げる際に高度な玉掛け技能を必要としない吊構造物及び吊設工法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態におけるボイラの概略構造を示す模式図である。
図2A】本発明の一実施形態における吊構造物Tを示す正面図である。
図2B】本発明の一実施形態における吊構造物Tを示す側面図である。
図2C】本発明の一実施形態における吊構造物Tのボイラ架構Kへの接続状態を示す上面図である。
図3】本発明の一実施形態におけるタンク付汽水分離器Sをクレーンで吊った状態を示す斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る汽水分離器設置工法の工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
最初に、本実施形態に係る吊構造物T及び汽水分離器設置工法(吊設工法)が適用されるボイラの概略構造を説明する。このボイラは、図1に示すようにボイラ架構Kにボイラ本体H及びタンク付汽水分離器S等が支持された構造を備える。
【0016】
ボイラ架構Kは、鋼材等の強度部材を組み合わせた大型構造物であり、地上に所定面積かつ所定高さに構築されている。このボイラ架構Kは、ボイラ本体H及びタンク付汽水分離器S等を吊持するための十分な強度を確保するために、図示するように長尺状の強度部材を縦横に組み合わせた構造を備える。
【0017】
ボイラ本体Hは、このようなボイラ架構Kに支持された吊り構造物であり、微粉炭等の燃料を燃焼させることによって発生する熱を用いて水を気化させ、水蒸気を成果物として発生させる。すなわち、このボイラ本体Hは、表面(ボイラ壁)や内部に設けられた多数の水熱管を用いて内部で燃料を燃焼させて得られる燃焼ガスから熱回収することにより、多数の水熱管内を流れる水を加熱して気化させる。
【0018】
このようなボイラ本体Hで生成された水蒸気は、完全な水蒸気(気体)ではなく、気化しきれなかった水分(液体成分)を含む二相流である。ボイラ本体Hは、このような二相流を多数の水熱管から回収してタンク付汽水分離器Sに供給する。
【0019】
タンク付汽水分離器Sは、このようなボイラ本体Hから供給された二相流を気液分離する装置であり、本発明の対象物の相当する。このタンク付汽水分離器Sは、図示するように長尺状かつ中空状の管体であり、吊構造物Tを用いることにより縦姿勢つまり管軸方向が鉛直方向となる姿勢でボイラ架構Kに吊持されている。
【0020】
ここで、本実施形態におけるタンク付汽水分離器Sは、気液分離機能に加え、タンク機能を備えるものである。すなわち、このタンク付汽水分離器Sは、上部が汽水分離器として機能し、下部が上記液体成分を貯留するドレインタンクとして機能する。
【0021】
このようなタンク付汽水分離器Sは、ボイラ架構Kに吊持させるために、図2Aに示すように一対のトラニオンs1を備える。これらトラニオンs1は、タンク付汽水分離器Sの一端部近傍において、管軸に直交する円形断面の周面と当該円形断面の中心を通る直線とが交差する2点に各々設けられている。すなわち、一対のトラニオンs1は、タンク付汽水分離器Sの管軸に直交する直線がタンク付汽水分離器Sの表面と交差する位置、つまり管軸に対して対称な位置に設けられた円柱状の突起部である。
【0022】
このような長尺状のタンク付汽水分離器Sでは、高さ方向の途中部位から内部に供給された二相流を気液分離することにより、一端部(上端部)から水蒸気を排出し、また他端部(下端部)から水分を排出する。タンク付汽水分離器Sから排出された水蒸気は、過熱器を経た後に、ボイラの成果物として蒸気タービン等の外部設備に供給され、水分はボイラ本体Hに還流する。
【0023】
吊構造物Tは、このようなタンク付汽水分離器Sとボイラ架構Kとの間に介在し、タンク付汽水分離器Sを鉛直姿勢でボイラ架構Kに懸架させる。この吊構造物Tは、タンク付汽水分離器Sをボイラ架構Kに据え付ける前の段階、つまりタンク付汽水分離器Sが地上に載置された状態においてタンク付汽水分離器Sに一体に取付られており、クレーン(搬送装置)によってタンク付汽水分離器Sと共に吊上げられてボイラ架構Kに懸架される。
【0024】
すなわち、この吊構造物Tは、ボイラ架構Kを構成する本設吊材であり、ボイラ架構Kと合体することによってタンク付汽水分離器S(対象物)を吊持する。より詳細には、この吊構造物Tは、図2A図2Cに示すように、第1係合部材1、一対の第2係合部材2及び一対の吊り部材3を備える。
【0025】
第1係合部材1は、クレーンの玉掛けワイヤW(図3参照)が係合する構造体であり、クレーンに係合する機能、ボイラ架構Kの一部を構成する機能及びタンク付汽水分離器Sを吊持する機能とを併せ持つ。この第1係合部材1は、図2A図2Cに示すように共に本体部1a、4つの吊ピース1b及び一対の本体連結部1c等を備えている。
【0026】
本体部1aは、第1係合部材1の本体を構成しており、ボイラ架構Kの一部となる構造体である。この本体部1aは、平行に対峙する一対の長尺状部材1dの両端近傍部位を一対の接続材1eで接続した構造体である。これら一対の長尺状部材1dは、同一形状つまり同一長さ、同一幅かつ同一厚の部材であり、上面が同一平面を構成している。
【0027】
4つの吊ピース1bは、図2B図2Cに示すように、一対の長尺状部材1dの両端部近傍かつ上面に離散的に固定された吊具である。これら4つの吊ピース1bには、クレーンの玉掛けワイヤW(図3参照)が各々接続される。すなわち、本実施形態に係る吊構造物Tは、4つの吊ピース1bに玉掛けワイヤWが装着されることによってタンク付汽水分離器Sと共に吊上げられる。
【0028】
ここで、同一長さの玉掛けワイヤWを4つの吊ピース1bに各々接続して吊構造物Tを吊上げた場合、本体部1aつまり一対の長尺状部材1dは、地面に対して略水平姿勢となる。すなわち、一対の長尺状部材1dの上面における4つの吊ピース1bの位置は、吊構造物Tの本体部1aが略水平状態となるように設定されている。
【0029】
一対の本体連結部1cは、下方に突出するように長尺状部材1dの中央に設けられた板状部である。各々の本体連結部1cには、吊り部材3の一端部(上端部)が係合ピン1fを用いて接続されている。この係合ピン1fは、図2Bに示すようにタンク付汽水分離器Sのトラニオンs1と平行な軸線を有する。
【0030】
すなわち、一対の本体連結部1cのうち、一方の本体連結部1cには、一対の吊り部材3のうち、一方の吊り部材3の一端部(上端部)が係合ピン1fによって回動自在に接続され、また他方の本体連結部1cには、他方の吊り部材3の一端部(上端部)が係合ピン1fによって回動自在に接続されている。このような第1係合部材1は、タンク付汽水分離器Sのトラニオンs1と略平行な軸周りに回動自在に吊り部材3と連結する。
【0031】
一対の第2係合部材2は、タンク付汽水分離器S(対象物)に設けられた一対のトラニオンs1に各々係合する構造体である。すなわち、一方の第2係合部材2はタンク付汽水分離器S(対象物)における一方のトラニオンs1に係合し、他方の第2係合部材2はタンク付汽水分離器S(対象物)における他方のトラニオンs1に係合する。各々の第2係合部材2は、図2A図2Cに示すようにU字状部材2a及び連結部材2b等を備えている。
【0032】
U字状部材2aは、トラニオンs1に掛け回される正面視でU字状の板状部材である。このU字状部材2aは、円柱状のトラニオンs1の外径に沿った曲率で湾曲すると共に内側曲面がトラニオンs1の外周面に当接する。このようなU字状部材2aにおける内側曲面(当接面)は、トラニオンs1の中心軸線周りにトラニオンs1の外周面と摺動する摺動面である。
【0033】
連結部材2bは、複数の板状部材からなる構造体であり、U字状部材2aの両端部に回動自在に接続されると共に吊り部材3の他端(下端)に回動自在に接続される。すなわち、この連結部材2bは、U字状部材2aの両端に各々接続される一対の第1接続部2c及び当該一対の第1接続部2cを接続すると共に吊り部材3の他端(下端)に接続される第2接続部2dを備える。
【0034】
各々の第1接続部2cは、所定間隔を隔てて対向する2枚の板状部材によって構成されている。各々の第1接続部2cは、図2Bに示すようにU字状部材2aの端部を挟んだ状態で平行対峙しており、係合ピン2eを用いることにより回動自在な状態でU字状部材2aに係合する。
【0035】
すなわち、第1接続部2c及びU字状部材2aは、U字状部材2aの端部を中間層とする三層状態に平行対峙しており、三層を貫くように係合ピン2eが挿通されている。このような第1接続部2c及びU字状部材2aの接続構造では、第1接続部2cとU字状部材2aとが係合ピン2e周りに回動自在である。
【0036】
第2接続部2dは、上述した第1接続部2cと同様に、所定間隔を隔てて対向する2枚の板状部材によって構成されている。この第2接続部2dは、図2Aに示すように吊り部材3の他端(下端)を挟んだ状態で平行対峙しており、係合ピン2fを用いることにより回動自在な状態で吊り部材3に係合する。
【0037】
すなわち、第2接続部2d及び吊り部材3は、吊り部材3の端部(下端部)を中間層とする三層状態に平行対峙しており、三層を貫くように係合ピン2fが挿通されている。このような第2接続部2d及び吊り部材3の接続構造では、第2接続部2dと吊り部材3とが係合ピン2f周りに回動自在である。
【0038】
このような第1接続部2c及び第2接続部2dを備える連結部材2bは、軸線方向が異なる2種類の係合ピン2e、2fによってU字状部材2a及び吊り部材3に接続されている。したがって、このような連結部材2bを備える第2係合部材2は、2軸周りに回動自在に吊り部材3と連結する。
【0039】
ここで、第2接続部2dにおける係合ピン2fの軸線方向は、第1接続部2cにおける係合ピン2eの軸線方向に対して直交している。すなわち、第2接続部2dにおける係合ピン2fの軸線方向は、トラニオンs1の中心軸線方向と同一方向であり、これに対して第1接続部2cにおける係合ピン2eの軸線方向は、トラニオンs1の中心軸線方向に対して直交する関係にある。
【0040】
一対の吊り部材3は、上述した第1係合部材1と第2係合部材2とを接続する構造体である。各々の吊り部材3は、本体連結部材3a、第1アイボルト3b、第2アイボルト3dc及びネジ継手3d等を備えている。
【0041】
本体連結部材3aは、所定間隔を隔てて対向する2枚の板状部材によって構成されている。この本体連結部材3aは、図2Aに示すように一端部(上端部)が本体連結部1cを挟んだ状態で平行対峙しており、第1係合部材1の係合ピン1fを介して回動自在な状態で本体連結部1cに係合する。また、この本体連結部材3aは、他端部(下端部)が第1アイボルト3bの一端部(上端部)を挟んだ状態で平行対峙しており、係合ピン3eを用いることにより回動自在な状態で第1アイボルト3bに係合する。
【0042】
すなわち、本体連結部材3aの一端部(上端部)及び本体連結部1cは、本体連結部1cを中間層とする三層状態に平行対峙しており、三層を貫くように係合ピン1fが挿通されている。このような本体連結部材3aの一端部(上端部)及び本体連結部1cの接続構造では、本体連結部材3aと本体連結部1cとが係合ピン1f周りに回動自在である。
【0043】
また、本体連結部材3aの他端部(下端部)及び第1アイボルト3bの一端部(上端部)は、第1アイボルト3bの一端部(上端部)を中間層とする三層状態に平行対峙しており、三層を貫くように係合ピン3eが挿通されている。このような本体連結部材3aの他端部(下端部)及び第1アイボルト3bの一端部(上端部)の接続構造では、本体連結部材3aと第1アイボルト3bとが係合ピン3e周りに回動自在である。
【0044】
ここで、本体連結部材3aの一端部(上端部)と本体連結部1cとに挿通される係合ピン1fの軸線方向及び本体連結部材3aの他端部(下端部)と第1アイボルト3bの一端部(上端部)とに挿通される係合ピン3eの軸線方向は、図2Aに示すようにトラニオンs1の中心軸線方向に対して平行である。
【0045】
第1アイボルト3bは、長尺板状部材であり、一端部(上端部)が本体連結部材3aの他端部(下端部)に係合ピン3eを介して接続され、他端部(下端部)がネジ継手3dを介して第2アイボルト3cの一端部(上端部)に接続されている。このような第1アイボルト3bは、上述したように本体連結部材3aに対して回動自在であるが、第2アイボルト3cに対して固定構造である。
【0046】
第2アイボルト3cは、第1アイボルト3bと同様に長尺板状部材であり、一端部(上端部)が第1アイボルト3bの他端部(下端部)にネジ継手3dを介して接続され、他端部(下端部)が第2係合部材2の係合ピン2fを介して第2接続部2dに接続されている。このような第2アイボルト3cは、第1アイボルト3bに対して固定構造であるが、第2係合部材2に対して回動自在である。
【0047】
ネジ継手3dは、第1アイボルト3bと第2アイボルト3cとを固定状態に接続する接続具である。すなわち、このネジ継手3dは、ボルト及びナットによって第1アイボルト3bの他端部(下端部)と第2アイボルト3cの一端部(上端部)とを締結するものである。
【0048】
次に、このような吊構造物Tを用いた汽水分離器設置工法(吊設工法)の吊設工法について、図4を参照して詳しく説明する。
【0049】
この汽水分離器設置工法では、図4(a)に示すように、初期状態としてタンク付汽水分離器S(対象物)が横倒し状態で地上に置かれている。そして、図4(b)に示すように、吊構造物Tをタンク付汽水分離器Sに接近させ、さらに図4(c)に示すように吊構造物Tをタンク付汽水分離器Sに係合させる。
【0050】
すなわち、連結部材2bが分離された状態のU字状部材2aをタンク付汽水分離器Sのトラニオンs1に嵌め合わせ、この後にU字状部材2aの両端部に連結部材2bを固定することによって、吊構造物Tとタンク付汽水分離器Sとを一体に合体させる。この合体状態において、タンク付汽水分離器Sは略水平姿勢で地上に載置され、吊構造物Tは鉛直姿勢でタンク付汽水分離器Sに係合している。
【0051】
この合体作業が完了すると、略水平姿勢の吊構造物Tに設けられた4つの吊ピース1bに玉掛けワイヤWを接続する。この玉掛け作業では、吊構造物Tの本体部1aを構成する一対の長尺状部材1dの上面(略鉛直姿勢)に配置された4つの吊ピース1bに玉掛けワイヤWを接続すればよいので、高度な玉掛け技能を必要としない。
【0052】
すなわち、本実施形態に係る汽水分離器設置工法(吊設工法)では、吊り専用の吊構造物Tに玉掛けワイヤWをすればよいので、タンク付汽水分離器S(対象物)を吊上げる際に高度な玉掛け技能を必要としない。
【0053】
このような玉掛け作業が完了すると、玉掛けワイヤWをクレーンで吊上げることによって略水平姿勢のタンク付汽水分離器Sを鉛直姿勢とする(図4(d)参照)。そして、クレーンによってタンク付汽水分離器Sをさらに吊上げることによって、図4(e)に示すように、本設吊材である吊構造物Tがボイラ架構Kよりも上方となる位置までタンク付汽水分離器Sを移動させる。
【0054】
そして、図4(f)に示すように、吊構造物Tをボイラ架構Kに吊り下ろし、吊構造物Tの本体部1aにおける両端部つまり一対の長尺状部材1dの両端部をボイラ架構Kに固定する。すなわち、本実施形態に係る汽水分離器設置工法では、吊構造物Tをタンク付汽水分離器S(対象物)と一体化させた状態で吊上げて吊設する。
【0055】
このように吊構造物Tをボイラ架構Kに固定することによって、吊構造物T及びタンク付汽水分離器S(対象物)は、ボイラ架構Kによって支持可能な状態となる。このような固定作業が完了すると、図4(e)に示すように玉掛けワイヤWが吊構造物Tの4つの吊ピース1bから取り外されて、タンク付汽水分離器S(対象物)の設置作業が終了する。
【0056】
このような本実施形態によれば、上述したように玉掛け作業において高度な玉掛け技能を必要としないことに加え、吊構造物Tを本設吊材として構成しているので、作業効率が良い。すなわち、吊構造物Tが本設吊材でない場合には、クレーンを用いて吊構造物Tを地上に搬送する必要があり、この搬送作業の分、クレーンの占有時間が長くなるので、クレーンを他の設備の搬送に使用することができない。
【0057】
また、本実施形態に係る吊構造物Tは、上述したように複数個所が回動自在に構成されているので、タンク付汽水分離器S(対象物)に対して過度の荷重を掛けることなく、タンク付汽水分離器S(対象物)を吊上げることができる。
【0058】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、図2A図2Cに示した詳細構造の吊構造物Tを採用したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、図2A図2Cの詳細構造はあくまでも一例であり、要求される吊り機能を満足するものであれば他の構造のものを採用してもよい。例えば、トラニオンs1(突起部)の先端部に係合孔(貫通孔)が形成されたフランジ部を設け、上記係合孔にピンを介して係合する吊構造物を採用してもよい。
【0059】
(2)上記実施形態では、タンク付汽水分離器Sを対象物としたが、本発明はこれに限定されない。本発明は、タンク付汽水分離器S以外の対象物にも適用可能である。また、本発明における対象物は、ボイラを構成する機器に限定されない。
【0060】
(3)上記実施形態では、搬送装置としてクレーンを用いたが、本発明はこれに限定されない。搬送装置として、クレーンに代えて例えばウインチやジャッキ等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0061】
K ボイラ架構
H ボイラ本体
S タンク付汽水分離器
s1 トラニオン(突起部)
T 吊構造物
W 玉掛けワイヤ
1 第1係合部材
1a 本体部
1b 吊ピース
1c 本体連結部
1d 長尺状部材
1e 接続材
1f 係合ピン
2 第2係合部材
2a U字状部材
2b 連結部材
2c 第1接続部
2d 第2接続部
2e 係合ピン
2f 係合ピン
3 吊り部材
3a 本体連結部材
3b 第1アイボルト
3c 第2アイボルト
3d ネジ継手
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4