(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】エアーテントシステム
(51)【国際特許分類】
E04H 15/20 20060101AFI20240226BHJP
E04H 15/22 20060101ALI20240226BHJP
E04H 3/08 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
E04H15/20 C
E04H15/22
E04H3/08 B
(21)【出願番号】P 2020112688
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595016428
【氏名又は名称】再処理機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】嶋津 正
(72)【発明者】
【氏名】黒目 和也
(72)【発明者】
【氏名】片山 賢治
(72)【発明者】
【氏名】円谷 信一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 静香
(72)【発明者】
【氏名】上野 博之
(72)【発明者】
【氏名】岡山 雄飛
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-073593(JP,A)
【文献】特表2008-526466(JP,A)
【文献】特開2004-069400(JP,A)
【文献】特開2015-150024(JP,A)
【文献】実開平02-009740(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 15/20 - 15/22
E04H 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給気部と、
前記給気部によって空気が導入されることで膨らむ気柱を有し、内側に閉空間としての居室空間を形成するテント本体と、
前記居室空間内に、前記気柱に連通して該気柱から空気が導入される通路、及び、互いに独立するとともに前記通路又は前記気柱に連通し該通路又は前記気柱から空気がそれぞれ導入される複数の個室を形成する区画部と、
各前記個室からそれぞれ個別に空気を排気可能な排気部と、
を備え
、
前記個室は、前記通路に連通しており、
前記給気部によって前記気柱に導入される空気は該気柱が設置される環境の気圧以上の圧力であり、前記気柱の内部から前記通路を経て前記個室に向かうに従って気圧が低くなるエアーテントシステム。
【請求項2】
前記排気部によって排気される空気が通過するフィルタ部をさらに備える請求項
1に記載のエアーテントシステム。
【請求項3】
前記区画部は、互いに接続されることで板状をなす複数の前記気柱によって形成されている請求項1
又は2に記載のエアーテントシステム。
【請求項4】
前記排気部は、各前記個室に設けられた排気口と、複数の前記排気口を接続する排気流路と、前記排気流路の端部に設けられた排気用ファンと、を有する請求項1から
3のいずれか一項に記載のエアーテントシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エアーテントシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感染性の疾病が蔓延した場合に、既存の医療施設では全ての患者に対応できず、医療を安定的に供給しきれなくなるケースが懸念されている。そこで、このような場合に、一時的に増設することが可能な医療施設として、エアーテントの活用が検討されている。下記特許文献1に記載されたエアーテントは、空気によって膨らむアーチ状の気柱と、これら気柱同士を接続する複数の梁状気柱と、外側から被せられるテント膜と、を備えている。テント膜の換気口に送風機を設置することで、エアーテント内部を必要に応じて陰圧、又は陽圧とすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、疾病が過度に蔓延した場合に備えて、複数の患者を互いに隔離した状態で収容することが可能な複数の個室を有する医療用テントに対する要請が高まっている。しかしながら、上記特許文献1に記載されたエアーテントでは、内部に複数の個室を設けた場合に、個室同士の間で空気の移動を制限することが難しい。例えば、各個室につながる通路を通じて一方の個室から他方の個室に空気が流入する可能性がある。その結果、個室同士の隔離が適切に行えず、医療活動に支障を来たしてしまう。
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、複数の居住者を互いに隔離した状態で収容することが可能なエアーテントシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係るエアーテントシステムは、給気部と、前記給気部によって空気が導入されることで膨らむ気柱を有し、内側に閉空間としての居室空間を形成するテント本体と、前記居室空間内に、前記気柱内に連通して該気柱内から空気が導入される通路、及び、互いに独立するとともに前記通路に連通し該通路から空気がそれぞれ導入される複数の個室を形成する区画部と、各前記個室からそれぞれ個別に空気を排気可能な排気部と、を備え、前記個室は、前記通路に連通しており、前記給気部によって前記気柱に導入される空気は該気柱が設置される環境の気圧以上の圧力であり、前記気柱の内部から前記通路を経て前記個室に向かうに従って気圧が低くなる。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、複数の居住者を互いに隔離した状態で収容することが可能なエアーテントシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態に係るエアーテントシステムの構成を示す平面図である。
【
図3】
図1のIII-III線における断面図である。
【
図4】本開示のエアーテントシステムにおける空気の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態に係るエアーテントシステムについて、
図1から
図4を参照して説明する。
【0010】
(エアーテントシステムの構成)
本実施形態に係るエアーテントシステム100は、例えば感染性の高い疾病が蔓延した場合に、既存の医療施設を補完する仮設の医療設備として好適に用いられる。
図1に示すように、エアーテントシステム100は、テント本体1と、給気部2と、区画部10Bと、排気部5と、フィルタ部6と、を備えている。
【0011】
(テント本体の構成)
テント本体1は、空気が導入されることで膨らむ袋状の気柱10によって形成されたアーチ部10Aと、このアーチ部10Aの開口部を閉塞する一対のシート部30と、を有している。
図2又は
図3に示すように、アーチ部10Aは、床面から上方に向かって延びる一対の柱状部10aと、この柱状部10aの上端部同士を接続する梁部10bと、によって形成されている。柱状部10a、及び梁部10bは、一体に連続する一つの気柱10をなしている。
【0012】
このようなアーチ部10Aを、梁部10bの延びる方向に交差する方向に複数連結することで、テント本体1の側壁と屋根(天井)が形成されている。なお、複数のアーチ部10A同士は互いに連通している。給気部2によっていずれか一のアーチ部10Aに空気を導入することで、複数のアーチ部10Aが膨らみ、床面上で自立する。なお、給気部2として具体的には、送風ファンが好適に用いられる。
【0013】
アーチ部10Aの開口部(つまり、アーチ部10Aの連結方向両側における開口部)には、それぞれシート部30が取り付けられている。シート部30は、テント本体1の前壁、及び後壁を形成する。なお、詳しくは図示しないが、これらシート部30にジッパー等で開閉可能な出入口を形成することが望ましい。
【0014】
これらシート部30、及び後述する区画部10Bを含めて、テント本体1は、洗浄することで再利用することが可能で、かつ容易に折りたたむことが可能な軽量の繊維材料で形成されることが望ましい。
【0015】
(区画部の構成)
以上のような構成により、テント本体1の内部には、閉空間としての居室空間20が形成される。この居室空間20は、区画部10Bによって複数のエリアに分けられている。
図1又は
図2に示すように、区画部10Bは、上述した気柱10を互いに接続して形成された板状をなしている。区画部10Bは、アーチ部10Aにおける柱状部10aの内面から、居室空間20側に向かって突出する壁状をなしている。
図1の例では、6つの区画部10Bによって、居室空間20が、通路3と、複数(8つ)の個室4とに区画されている。通路3は、一方側のシート部30から他方側のシート部30に向かって延びている。各個室4は、この通路3の幅方向両側にそれぞれ4つずつ形成されている。個室4には、例えばベッドや医療機器等が収容される。
【0016】
(排気部の構成)
テント本体1には、内部の空気を外部に排出するための排気部5と、空気を浄化するためのフィルタ部6とが設けられている。排気部5は、排気口51と、排気流路52と、排気用ファン53と、を有している。排気口51は、各個室4にそれぞれ1つずつ設けられている。これら排気口51には、排気流路52が接続されている。つまり、複数の排気口51から回収された空気は、共通の排気流路52を通じて、排気用ファン53によって外部に排出される。排気用ファン53の上流側(つまり、テント本体1側)には、フィルタ部6が設けられている。フィルタ部6として具体的には、HEPAフィルタが好適に用いられる。
【0017】
(テント本体内の空気の流れ)
次に、
図4を参照して、テント本体1内における空気の流れについて説明する。まず、アーチ部10Aとしての気柱10に、給気部2によって外気が導入される。このアーチ部10Aに導入された空気は、アーチ部10A自身を大気圧以上の圧力で膨らませるとともに、その一部は気柱10から通路3に噴出する。具体的には、アーチ部10Aに形成された開孔Hを通じて、空気の一部が通路3に供給される。通路3に供給された空気は、次いで各個室4に向かって流れる。個室4内の空気は、上述の排気部5によって回収されて外部に排出される。ここで、排気部5による吸引力と、開孔Hの大きさとのバランスによって、テント本体1内では、気柱10、通路3、個室4の順に気圧が低くなっている。つまり、各個室4は陰圧状態となる(個室4内の気圧は、大気圧よりも低くなる)。したがって、個室4から通路3側に向かう空気の流れは生じないか、又は極わずかに抑えられている。なお、開孔Hにダンパやバルブを設けるとともに、排気流路52中に気圧センサを設けることで、排気流路52の気圧に基づいて開孔Hを開閉し、上記の気圧の関係を自律的に維持する構成を採ることも可能である。
【0018】
(作用効果)
近年、疾病が過度に蔓延した場合に備えて、複数の患者を互いに隔離した状態で収容することが可能な複数の個室を有する医療用テントに対する要請が高まっている。しかしながら、従来の医療用エアーテントでは、内部に複数の個室を設けた場合に、個室同士の間で空気の移動を制限することが難しい。例えば、各個室につながる通路を通じて一方の個室から他方の個室に空気が流入する可能性があった。その結果、個室同士の隔離が行えず、医療活動に支障を来たしてしまう。
【0019】
一方で、本実施形態によれば、居室空間20内に区画部10Bによって複数の個室4を形成することができる。これにより、複数の居住者(患者)を互いに独立して収容することができる。さらに、給気部2から導かれた空気は、気柱10を膨らませるとともに、当該気柱10から通路3を経て各個室4に流れる。個室4内の空気は、排気部5によって個別に(個室4ごとに)排気される。つまり、個室4から通路3に向かう空気の流れは形成されないため、個室4同士の間で空気の移動が生じることがない。その結果、個室4同士が隔離されるため、医療活動をより安全に実施することができる。
【0020】
上記構成によれば、気柱10から通路3を経て個室4に向かうに従って気圧が低くなる。つまり、個室4を陰圧状態とすることができる。これにより、当該個室4から通路3に向かう空気の流れが抑制される。その結果、例えば個室4に感染性の疾病に罹患した患者を収容した場合には、当該疾病が個室4外に拡散する可能性を低減することができる。
【0021】
上記構成によれば、個室4から排気される空気は、フィルタ部6を通過する。これにより、個室4内の空気に含まれているウイルス等が捕捉され、外部に拡散する可能性を低減することができる。
【0022】
上記構成によれば、区画部10Bは、複数の気柱10を互いに接続することで形成されている。したがって、気柱10に破れや損傷が生じた場合であっても、当該区画部10Bがただちに貫通してしまうことがない。これにより、例えば区画部10Bをシート状の部材で形成した場合に比べて、個室4同士の間の隔離状態を安定的に維持することができる。
【0023】
上記構成によれば、各個室4から排気された空気は、1つの排気流路52によって回収され、排気用ファン53によって外部に排出される。これにより、例えば個室4ごとに排気部5を設ける必要がなく、装置の部品点数を削減することができる。また、外部への排気箇所を一つに集約することができるため、防疫の観点からも管理をより容易に行うことができる。
【0024】
以上、本開示の実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上述した通路3や個室4の個数は一例であり、設計や仕様に応じて適宜変更することが可能である。また、エアーテントシステム100の適用例は医療に限定されず、内部を陰圧状態として作業を行う要請があるものであればいかなる対象にもエアーテントシステム100を適用することが可能である。
なお、気柱10に形成された開口部から通路を経由せずに直接的に個室4に空気が供給されてもよい。即ち、気柱10と個室4とが直接的に連通されていてもよい。この場合気柱10内の気圧よりも、個室4内の気圧の方が低い。
また、エアーテントシステム100を負圧の施設内に設置する場合には、気柱10、通路3、個室4の順に気圧が低くなるのであれば、気柱10の気圧が大気圧以下であってもよい。即ち、気柱10に吸気部2から導入される空気は、気柱10が設置される環境の気圧以上の圧力であればよい。
【0025】
<付記>
各実施形態に記載のエアーテントシステム100は、例えば以下のように把握される。
【0026】
(1)第1の態様に係るエアーテントシステム100は、給気部2と、前記給気部2によって空気が導入されることで膨らむ気柱10を有し、内側に閉空間としての居室空間20を形成するテント本体1と、前記居室空間20内に、前記気柱10内に連通して該気柱10内から空気が導入される通路3、及び、互いに独立するとともに前記通路3又は気柱10に連通し該通路3又は気柱10から空気がそれぞれ導入される複数の個室4を形成する区画部10Bと、各前記個室4からそれぞれ個別に空気を排気可能な排気部5と、を備える。
【0027】
上記構成によれば、居室空間20内に区画部10Bによって複数の個室4を形成することができる。これにより、複数の居住者(患者)を互いに独立して収容することができる。さらに、給気部2から導かれた空気は、気柱10を膨らませるとともに、当該気柱10から通路3を経て各個室4に流れる。個室4内の空気は、排気部5によって個別に(個室4ごとに)排気される。つまり、個室4から通路3に向かう空気の流れは形成されないため、個室4同士の間で空気の移動が生じることがない。その結果、個室4同士が隔離されるため、例えば医療活動をより安全に実施することができる。
【0028】
(2)第2の態様に係るエアーテントシステム100は、前記個室4は、前記通路3に連通しており、前記給気部2によって前記気柱10に導入される空気は該気柱10が設置される環境の気圧以上の圧力であり、前記気柱10の内部から前記通路3を経て前記個室4に向かうに従って気圧が低くなる。
【0029】
上記構成によれば、気柱10から通路3を経て個室4に向かうに従って気圧が低くなる。つまり、個室4を陰圧状態とすることができる。これにより、当該個室4から通路に向かう空気の流れが抑制される。その結果、例えば個室4に感染性の疾病に罹患した患者を収容した場合には、当該疾病が個室4外に拡散する可能性を低減することができる。
【0030】
(3)第3の態様に係るエアーテントシステム100は、前記個室4は、前記気柱10に連通しており、前記給気部2によって前記気柱10に導入される空気は該気柱10が設置される環境の気圧以上の圧力であり、前記気柱10の内部の気圧よりも前記個室4の気圧の方が低い。
【0031】
上記構成によれば、気柱10の気圧よりも個室4の気圧の方が低い。つまり、個室4を陰圧状態とすることができる。これにより、当該個室4に感染性の疾病に罹患した患者を収容した場合には、当該疾病が個室4外に拡散する可能性を低減することができる。
【0032】
(4)第4の態様に係るエアーテントシステム100は、前記排気部5によって排気される空気が通過するフィルタ部6をさらに備える。
【0033】
上記構成によれば、個室4から排気される空気は、フィルタ部6を通過する。これにより、個室4内の空気に含まれているウイルス等が捕捉され、外部に拡散する可能性を低減することができる。
【0034】
(5)第5の態様に係るエアーテントシステム100では、前記区画部10Bは、互いに接続されることで板状をなす複数の前記気柱10によって形成されている。
【0035】
上記構成によれば、区画部10Bは、複数の気柱10を互いに接続することで形成されている。したがって、気柱10に破れや損傷が生じた場合であっても、当該区画部10Bがただちに貫通してしまうことがない。これにより、例えば区画部10Bをシート状の部材で形成した場合に比べて、個室4同士の間の隔離状態を安定的に維持することができる。
【0036】
(6)第6の態様に係るエアーテントシステム100では、前記排気部5は、各前記個室4に設けられた排気口51と、複数の前記排気口51を接続する排気流路52と、前記排気流路52の端部に設けられた排気用ファン53と、を有する。
【0037】
上記構成によれば、各個室4から排気された空気は、1つの排気流路52によって回収され、排気用ファン53によって外部に排出される。これにより、例えば個室4ごとに排気部5を設ける必要がなく、装置の部品点数を削減することができる。また、外部への排気箇所を一つに集約することができるため、防疫の観点からも管理をより容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0038】
100 エアーテントシステム
1 テント本体
2 給気部
3 通路
4 個室
5 排気部
6 フィルタ部
10 気柱
10a 柱状部
10b 梁部
10A アーチ部
10B 区画部
20 居室空間
30 シート部
51 排気口
52 排気流路
53 排気用ファン