(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】浄水器膜モジュール
(51)【国際特許分類】
B01D 63/02 20060101AFI20240226BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20240226BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20240226BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20240226BHJP
【FI】
B01D63/02
C02F1/44 H
C02F1/28 G
C02F1/42 A
(21)【出願番号】P 2020117438
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【氏名又は名称】水野 基樹
(74)【代理人】
【識別番号】100217892
【氏名又は名称】松田 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】榎本 政巳
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-15199(JP,A)
【文献】特開2010-162496(JP,A)
【文献】特開2012-030204(JP,A)
【文献】特開2005-211852(JP,A)
【文献】特開平8-033831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/28、1/42、1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側から下流側へ、濾材充填部、分散部および中空糸膜部をこの順に有する浄水器膜モジュールであって、
前記濾材充填部は、外周側の濾材層と、前記濾材層の内周側の通水路とを備え、前記濾材層へその外周側から流入した水が前記濾材層を通過して前記通水路に到達し、前記通水路を通って前記分散部へ到達するように構成されており、
前記分散部は、前記濾材充填部と前記中空糸膜部とを接続し、前記通水路からの水が前記中空糸膜部の内部へ排出されるように前記通水路と前記中空糸膜部の内部空間とをつなぐ接続口を有する接続板と、前記接続口から排出された水の流れを遮る天板とを備え、前記天板の径(X)と前記接続口の径(Y)との比(X/Y)が1.5~5.0であり、前記接続板と前記天板との隙間(Z)が0.5~2.0mmであり、
前記中空糸膜部は、多数の中空糸からなる中空糸膜が収容されており、前記分散部を通過した水を受け入れ、前記中空糸膜を通過した水を排出するように構成されている、浄水器膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浄水器膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の浄水器膜モジュールとして、円筒状の成形活性炭と中空糸膜モジュールを一体化したタイプのものが挙げられる。このタイプは原水が成形活性炭の側面から管内部に流入し、さらに連結口を介して中空糸膜モジュールに入る構造となっている。
しかしながら、このタイプでは連結部から中空糸膜モジュールへ、集中して活性炭処理水が流れ込むため、中空糸膜モジュールにおける膜束の先端に水流の負荷がかかり、中空糸膜に悪影響が及ぶ可能性もあった。
そこで、対応策として、例えば特許文献1では保護ネットを、特許文献2では分散口を、特許文献3では邪魔板を、それぞれ設けることが提案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-30204号公報
【文献】特開2006-015199号公報
【文献】特開2005-211852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3に記載の浄水器膜モジュールでは、中空糸膜モジュールにおける膜束の先端への水流の負荷は抑制される。しかしながら、保護ネット、分散口および邪魔板によって水流抵抗が増すため、その圧力損失によって浄水器膜モジュールの透水性能が損なわれてしまう。
【0005】
このように、従来、中空糸膜モジュールにおける膜束の先端にかかる水流の負荷が抑制されたうえで、透水性能が高い浄水器膜モジュールは提案されていなかった。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、中空糸膜モジュールにおける膜束の先端にかかる水流の負荷が抑制され、かつ、透水性能が高い浄水器膜モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は、
上流側から下流側へ、濾材充填部、分散部および中空糸膜部をこの順に有する浄水器膜モジュールであって、
前記濾材充填部は、外周側の濾材層と、前記濾材層の内周側の通水路とを備え、前記濾材層へその外周側から流入した水が前記濾材層を通過して前記通水路に到達し、前記通水路を通って前記分散部へ到達するように構成されており、
前記分散部は、前記濾材充填部と前記中空糸膜部とを接続し、前記通水路からの水が前記中空糸膜部の内部へ排出されるように前記通水路と前記中空糸膜部の内部空間とをつなぐ接続口を有する接続板と、前記接続口から排出された水の流れを遮る天板とを備え、前記天板の径(X)と前記接続口の径(Y)との比(X/Y)が1.5~5.0であり、前記接続板と前記天板との隙間(Z)が0.5~2.0mmであり、
前記中空糸膜部は、多数の中空糸からなる中空糸膜が収容されており、前記分散部を通過した水を受け入れ、前記中空糸膜を通過した水を排出するように構成されている、浄水器膜モジュール、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、中空糸膜モジュールにおける膜束の先端にかかる水流の負荷が抑制され、かつ、透水性能が高い浄水器膜モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の浄水器膜モジュールの好適態様を示す概略断面図である。
【
図2】
図1における分散部のみを抜き出した図(概略断面図)である。
【
図4】分散部を中空糸膜部側から見た場合の概略平面図である。
【
図5】分散部を濾材充填部側から見た場合の概略平面図である。
【
図6】実施例および比較例における実験装置を説明するための概略図である。
【
図7】実施例および比較例の結果をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の浄水器膜モジュールについて、図を用いて説明する。
図1は、本発明の浄水器膜モジュールの好適態様を示す概略断面図である。
図1に示す好適対応は、全体が円柱状の浄水器膜モジュールである。例えば断面直径が約32mmで、長手方向の長さが約120mm程度のものが挙げられる。
図1は、円柱の長手方向の中心軸ωを含むように本発明の浄水器膜モジュールを2つに切った場合に得られる断面を表している。
【0011】
図1において本発明の浄水器膜モジュール1は、上流側から下流側へ向かって、濾材充填部3、分散部5および中空糸膜部7を、この順に有する。
【0012】
<濾材充填部>
本発明の浄水器膜モジュール1が有する濾材充填部3について説明する。
濾材充填部3は、外周側の濾材層31と、濾材層31の内周側の通水路33とを備える。
【0013】
濾材充填部3は、例えば、中心に筒状の通水路33を有する、概ね濾材からなる円筒体であってよい。これは、例えば、円筒状の容器の中心に通水路33を形成するための筒35を挿入し、挿入した筒35の外周面と容器の内周面との間に濾材を充填することで得ることができる。濾材を充填して濾材層31を形成した後、筒35を引き抜いて濾材層31と分離してもよい。
【0014】
ここで筒35を分離せずに残す場合、すなわち、
図1に示すように濾材充填部3が筒35を含む場合、通水路33を形成するための筒35は網状または多孔状などであって、水が通過することが必要である。例えばアクリル繊維からなる筒35を用いて通水路33を形成することができる。
【0015】
なお、濾材充填部3の形状は円筒状でなくてもよい。例えば断面が楕円状、矩形、多角形であってもよい。
【0016】
また、
図1に示す濾材層31は、その外周がポリエステル等からなる不織布37で被覆されている。本発明の浄水器膜モジュールにおいて濾材層は、その外周が不織布で被覆されていることが好ましい。
本発明の浄水器膜モジュールにおいて濾材層は、その外周がプラスチック等からなる層で覆われていてもよい。つまり、濾材層はプラスチック等からなる容器に収容されていてもよい。
【0017】
濾材層31を構成する濾材は、従来、浄水用に用いられている濾材を用いることができる。例えば粒状活性炭、繊維状活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂、その他吸着剤が挙げられる。濾材は残留塩素、溶解性鉛、カビ臭の原因となる2-メチルイソボルネオールを除去可能なものであることが好ましい。
濾材の形状や大きさ等についても、従来公知の浄水器膜モジュールに用いられる濾材と同様であってよい。
濾材層における濾材の充填率等についても、従来公知の浄水器膜モジュールにおける濾材層の場合と同様であってよい。
【0018】
図1に示す濾材層31は、上流側の端面にエンドキャップ39を有する。エンドキャップ39は濾材層31の上流側の端面に接着剤等によって固定されている。エンドキャップ39は、上流側から流れてきた浄化対象である水が濾材層31の上流側の端面から濾材層31の内部へ流入することを防ぐ。上流側から流れてきた水は、エンドキャップ39が存在するために、濾材層31の端面ではなく外周側(側面側)から、その内部へ流入する。
【0019】
図1に示した本発明の浄水器膜モジュール1では、濾材層31の外周側から流入した水は不織布37および濾材層31を通過し、さらに筒35も通過して通水路33に到達する。そして、通水路33を通って分散部5へ到達する。
【0020】
エンドキャップ39の材質として、例えばABS樹脂が挙げられる。
【0021】
<分散部>
本発明の浄水器膜モジュール1が有する分散部5について、図を用いて説明する。
図2は
図1における分散部5のみを抜き出した図(概略断面図)であり、
図3は分散部5の概略斜視図であり、
図4は分散部5を中空糸膜部7側から見た場合の概略平面図であり、
図5は分散部5を濾材充填部3側から見た場合の概略平面図である。
【0022】
図1に示すように、分散部5は、濾材充填部3と中空糸膜部7とを接続する接続板51を有する。すなわち、接続板51は濾材充填部3と中空糸膜部7とに挟まれる位置に配置される。
図1に示すように、本発明の浄水器膜モジュール1における接続板51の外周端部が、中空糸膜部7の端部(後述する円筒型のケース75の端面)に固定されている。接続板51の外周端部と中空糸膜部7の端部(後述する円筒型のケース75の端面)とは、例えば超音波溶着によって接合される。また、接続板51は、次に説明する接続口53の外周に沿って濾材充填部3側へ向かう凸部511を有し、この凸部511は通水路33を構成する筒35に密着して嵌るように構成されており、これによって分散部5と濾材充填部3とが固定されるか、または固定が補助される。
【0023】
図1~
図5に示すように、分散部5が有する接続板51は接続口53を有する。接続口53は、通水路33と中空糸膜部7の内部空間71とをつないでいる。通水路33の内部の水は接続口53を通過し、中空糸膜部7の内部空間71へ排出される。
【0024】
図1~
図5に示される接続板51は円板状であり、その中心に円形の接続口53が形成されているが、本発明の浄水器膜モジュールにおいて接続板および接続口の形状は特に限定されない。それらの形状は楕円形、矩形、多角形等であってもよい。
ただし、
図1~
図5に示すように、接続板および接続口が共に円形であって、その中心が一致することが好ましい。
【0025】
分散部5は天板55を有する。天板55は
図1~
図5に示すように、リブ57によって接続板51の表面に所定の間隔を保ちながら固定されている。
天板55は、接続口53から排出された水の流れを遮る役割を果たす。通水路33の内部の水は接続口53を通過した直後に、そのほとんどが天板55へ衝突する。そのため、通水路33の内部の水は接続口53を通過した直後に、直接、中空糸膜へ当たることはほぼない。したがって、接続口53から中空糸膜部7の内部空間71へ排出された水による、中空糸膜への流水負荷は大幅に抑制される。
【0026】
また、分散部5において、天板55の径(X)と、接続口の径(Y)との比(X/Y)は1.5~5.0(好ましくは1.7~3.0)であり、さらに、接続板51と天板55との隙間(Z)は0.5~2.0mm(好ましくは1.0~1.5mm)である。
このような場合、中空糸膜モジュールにおける膜束の先端にかかる水流の負荷が抑制されたうえに、透水性能を高くすることができることを、本発明者は見出した。
【0027】
ここで天板55が、
図1~
図5に示した例のように円板である場合、その径(X)は円板の直径を意味するが、天板55が円板ではない場合、その径(X)は等面積円相当径を意味するものとする。すなわち、円板ではない形状の天板55の場合、それと面積が等しい円の直径を、その天板55の径(X)とする。なお、天板55の径および形状は、天板55における中空糸膜部7側の表面において測定できる径および形状とする。
同様に、接続口53が
図1~
図5に示した例のように円形である場合、その径(Y)は円形の接続口53の直径であるが、接続口53が円形ではない場合、その径(Y)は等面積円相当径を意味するものとする。すなわち、円形ではない形状の接続口53の場合、それと面積が等しい円の直径を、その接続口53の径(Y)とする。なお、接続口53の径および形状は、接続板51における中空糸膜部7側の表面において測定できる径および形状とする。
【0028】
さらに、
図1~
図5に示した例のように、接続板51および天板55の表面が平行に配置されている場合、接続板51と天板55との隙間(Z)はそれらの対向する表面間の距離であるが、接続板51および天板55の表面が平行に配置されていない場合、接続板51と天板55との隙間(Z)は、各々の表面間の距離の平均値を意味するものとする。
【0029】
<中空糸膜部>
本発明の浄水器膜モジュール1が有する中空糸膜部7について説明する。
中空糸膜部7は、多数の中空糸からなる中空糸膜73が収容されている。
【0030】
中空糸膜73は、水に含まれるバクテリアや微粒子等の不純物成分を除去する役割を果たす。
中空糸膜73は、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等の材料からなることが好ましい。
【0031】
中空糸膜73は中心から外方への放射状となるように折り返して結束されていることが好ましい。
図1に示す好適態様では、中空糸膜73をABS等からなる円筒型のケース75へ挿入し、円筒型のケース75の開口部751へポリウレタンやエポキシ樹脂等の封止材を充填して封止部77を形成することで、中空糸膜73の端部を結束しつつ、開口部751に中空糸膜73を固定し、加えて開口部751を密封することができる。
【0032】
中空糸膜部7は、分散部5を通過した水を受け入れ、中空糸膜73を通過した水を開口部751から排出するように構成されている。
【実施例】
【0033】
本発明の実施例について説明する。本発明は実施例に限定されない。
【0034】
天板の径(X)および接続板と天板との隙間(Z)が異なる9種類の分散部を用意した。具体的には、天板の径(X)は10mm、12mmまたは16mmの3種類であり、接続板と天板との隙間(Z)は1.00mm、1.25mmまたは1.50mmの3種類であり、これらを組み合わせてなる9種類の分散部を用意した。
そして、各々の分散部を
図6(b)に示すような筒状の通水治具の内部に設置した後、
図6(a)に示すようにポンプから所定の通水圧力(10kPa)にて通水治具の内部へ通水したときの流量(モジュール流量(L/min))を測定した。モジュール流量の測定結果を表1に示す。
【0035】
【0036】
表1の結果をグラフにまとめたものが
図7である。
図7に示すグラフから明らかなように、本発明の浄水器膜モジュールに該当する実施例1~6の場合は、該当しない比較例1~3と比較して、明らかにモジュール流量が大きくなった。
また、実施例1~6の場合、中空糸膜モジュールにおける膜束の先端にかかる水流の負荷は抑制されていた。
すなわち、実施例および比較例の結果より、本発明の浄水器膜モジュールは、膜束の先端にかかる水流の負荷が抑制され、かつ、透水性能が高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の浄水器膜モジュールは、水栓内蔵用として用いることが好ましい。本発明の浄水器膜モジュールは、水栓に内蔵されない浄水器としても利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 本発明の浄水器膜モジュール
3 濾材充填部
31 濾材層
33 通水路
35 筒
37 不織布
39 エンドキャップ
5 分散部
51 接続板
511 凸部
53 接続口
55 天板
57 リブ
7 中空糸膜部
71 内部空間
73 中空糸膜
75 ケース
751 開口部
77 封止部
ω 浄水器膜モジュールの中心軸