IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

特許7442404地震波形処理方法及び地震波形処理システム
<>
  • 特許-地震波形処理方法及び地震波形処理システム 図1
  • 特許-地震波形処理方法及び地震波形処理システム 図2
  • 特許-地震波形処理方法及び地震波形処理システム 図3
  • 特許-地震波形処理方法及び地震波形処理システム 図4
  • 特許-地震波形処理方法及び地震波形処理システム 図5
  • 特許-地震波形処理方法及び地震波形処理システム 図6
  • 特許-地震波形処理方法及び地震波形処理システム 図7
  • 特許-地震波形処理方法及び地震波形処理システム 図8
  • 特許-地震波形処理方法及び地震波形処理システム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】地震波形処理方法及び地震波形処理システム
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/28 20060101AFI20240226BHJP
【FI】
G01V1/28
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020118257
(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公開番号】P2022015432
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅嗣
(72)【発明者】
【氏名】内山 泰生
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-178226(JP,A)
【文献】特開2012-127929(JP,A)
【文献】特開2006-275903(JP,A)
【文献】特開平10-253766(JP,A)
【文献】特許第7216359(JP,B1)
【文献】特開2009-103672(JP,A)
【文献】米国特許第5490062(US,A)
【文献】中国特許出願公開第110988985(CN,A)
【文献】Zefeng Li et al.,Machine Learning Seismic Wave Discrimination : Application to Earthquake Early Warning,Geophysical Research Letters 2018,2018年03月29日,pp.4773-4779,DOI:10.1029/2018GL077870
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震計で観測された地震観測データからノイズ成分を除去して地震波形を取り出す地震波形処理方法であって、
地震の加速度波形及び速度波形の画像を含む入力データに対し、当該画像中の前記ノイズ成分の有無の情報を教師データとして、深層学習させた第1学習モデルに、前記地震観測データの前記加速度波形及び前記速度波形の画像を入力して、前記ノイズ成分の有無を推論する工程と、
前記ノイズ成分が有ると推論された場合に、地震の加速度フーリエスペクトルの画像を含む入力データに対し、当該画像中の前記ノイズ成分を含む部分が識別された画像を教師データとして、深層学習させた第2学習モデルに、前記地震観測データの前記加速度フーリエスペクトルの画像を入力して、当該画像中の前記ノイズ成分を推論して当該ノイズ成分の周波数境界値を算出し、当該周波数境界値を用いたフィルタ処理により、前記ノイズ成分を除去したノイズ成分除去地震波形を生成する工程と、を含むことを特徴とする地震波形処理方法。
【請求項2】
前記ノイズ成分の無い地震波形と、当該地震波形にフィルタを適用してP波及びS波の各区間が抽出された波形を含む入力データに対し、P波及びS波の到達時刻を教師データとして、深層学習させた第3学習モデルに、前記ノイズ成分が無いと判別された前記地震観測データの地震波形か、または前記ノイズ成分除去地震波形のいずれかを入力して、P波及びS波の到達時刻を推論する工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の地震波形処理方法。
【請求項3】
地震計で観測された地震観測データからノイズ成分を除去して地震波形を取り出す地震波形処理システムであって、
地震の加速度波形及び速度波形の画像を含む入力データに対し、当該画像中の前記ノイズ成分の有無の情報を教師データとして、深層学習させた第1学習モデルと、
前記第1学習モデルに、前記地震観測データの前記加速度波形及び前記速度波形の画像を入力して、前記ノイズ成分の有無を推論するノイズ成分有無推論部と、
地震の加速度フーリエスペクトルの画像を含む入力データに対し、当該画像中の前記ノイズ成分を含む部分が識別された画像を教師データとして、深層学習させた第2学習モデルと、
前記ノイズ成分が有ると推論された場合に、前記第2学習モデルに、前記地震観測データの前記加速度フーリエスペクトルの画像を入力して、当該画像中の前記ノイズ成分を推論して当該ノイズ成分の周波数境界値を算出し、当該周波数境界値を用いたフィルタ処理により、前記ノイズ成分を除去したノイズ成分除去地震波形を生成するノイズ成分除去部と、を備えることを特徴とする地震波形処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震計で観測された地震観測データからノイズ成分を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地震が発生すると、各所に設けられた地震計により地震が観測されて、地震観測データとして、地震動波形データが生成される。地震観測データは、地震破壊過程の推定をはじめとした、様々な目的に使用されている。
この地震観測データには、地震計の周囲において生じる、道路交通の振動、列車の振動、工事の振動等の、様々な振動が、ノイズとして混入していることがある。例えば緊急地震速報システム等ではP波の僅かな情報からS波の到達時刻を予測するが、上記のようなノイズが混入した地震観測データが緊急地震速報システム等の構築の際に用いられると、S波の予測に誤差が生じ得る。したがって、地震観測データのノイズを除去することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、地震計で計測される振動を周波数成分に対する強度レベルに分解し、該振動の所定周波数が15~25(ヘルツ)の範囲内のいずれかの周波数、例えば20(ヘルツ)であり、その周波数成分の振動レベルをa20(デシベル)、振動のノイズレベルをan(デシベル)、振動のピークを与える振動周波数fp(ヘルツ)における振動レベルをap(デシベル)としたとき、r20=(a20-an)/(apan)×100で与えられる、r20(パーセント)が所定の値、例えば60(パーセント)を越える場合に、ノイズと判定しその振動を除去する、地震観測方法が開示されている。
また、特許文献2には、整数の演算だけで容易に計算される卓越周波数の計算、地震波の立ち上がり方を表すためのパラメータ、及び両者の関係を用いて、地震波の特徴を表し、その属性を持たない地震観測データをノイズであると判定する解析法が開示されている。
更に、特許文献3には、地震計のノイズ識別方法において、地表を伝播する地震以外の振動を検出する地表地震計と、地中から地表へ伝播する地震動を検出する地中地震計とを設置し、地表地震計のみが起動した場合には、地震以外の振動と識別し、地中地震計と地表地震計4との両方の地震計が起動した場合には、地震動と識別する、地震計のノイズ識別方法が開示されている。
【0004】
上記の特許文献に記載されたようなノイズの識別、除去は、十分な精度が得られない場合がある。したがって、地震観測データのノイズ処理は、作業員が地震観測データを目視することによりノイズを判読し、ノイズと判読された部分の周期帯にフィルタ処理を適用することが一般である。
しかし、現在においては、様々な公的機関により、莫大な数の地震記録が公開されており、これらすべての地震観測データを人手でノイズ除去処理することは現実的ではない。
自動で、かつ高い精度でノイズ成分を除去することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-253766号公報
【文献】特開2009-103672号公報
【文献】特開2014-66571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高い精度でノイズ成分を除去することができる、地震波形処理方法及び地震波形処理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、地震計で観測された地震観測データからノイズ成分を除去して地震波形を取り出す地震波形処理方法であって、地震の加速度波形及び速度波形の画像を含む入力データに対し、当該画像中の前記ノイズ成分の有無の情報を教師データとして、深層学習させた第1学習モデルに、前記地震観測データの前記加速度波形及び前記速度波形の画像を入力して、前記ノイズ成分の有無を推論する工程と、前記ノイズ成分が有ると推論された場合に、地震の加速度フーリエスペクトルの画像を含む入力データに対し、当該画像中の前記ノイズ成分を含む部分が識別された画像を教師データとして、深層学習させた第2学習モデルに、前記地震観測データの前記加速度フーリエスペクトルの画像を入力して、当該画像中の前記ノイズ成分を推論して当該ノイズ成分の周波数境界値を算出し、当該周波数境界値を用いたフィルタ処理により、前記ノイズ成分を除去したノイズ成分除去地震波形を生成する工程と、を含むことを特徴とする地震波形処理方法を提供する。
上記のような構成によれば、第1学習モデルは、地震の加速度波形及び速度波形の画像を含む入力データに対し、当該画像中のノイズ成分の有無の情報を教師データとして、深層学習されている。このため、第1学習モデルには、地震の加速度波形及び速度波形の画像と、及び当該画像中のノイズ成分の有無に関する情報が、特徴量として学習されている。したがって、第1学習モデルは、地震観測データの加速度波形及び速度波形の画像が入力されると、当該画像内にノイズ成分が有るか無いかを、適切に推論できる。
また、第2学習モデルは、地震の加速度フーリエスペクトルの画像を含む入力データに対し、当該画像中のノイズ成分を含む部分が識別された画像を教師データとして、深層学習されている。このため、第2学習モデルには、地震の加速度フーリエスペクトルの画像と、及び当該画像中のノイズ成分を含む部分に関する情報が、特徴量として学習されている。したがって、第2学習モデルは、地震観測データの加速度フーリエスペクトルの画像が入力されると、当該画像中のどの部分にノイズ成分を含むのか、すなわち、加速度フーリエスペクトルのノイズ成分が含まれる周波数帯を、適切に推論することができる。
このように、第1及び第2学習モデルにより、ノイズ成分が含まれる周波数帯が推論されるので、この周波数帯の境界を周波数境界値として算出し、これを用いたフィルタ処理を行うことで、ノイズ成分を除去したノイズ成分除去地震波形を生成できる。したがって、高い精度でノイズ成分を除去することが可能である。
【0008】
本発明の一態様においては、地震波形処理方法は、前記ノイズ成分の無い地震波形と、当該地震波形にフィルタを適用してP波及びS波の各区間が抽出された波形を含む入力データに対し、P波及びS波の到達時刻を教師データとして、深層学習させた第3学習モデルに、前記ノイズ成分が無いと判別された前記地震観測データの地震波形か、または前記ノイズ成分除去地震波形のいずれかを入力して、P波及びS波の到達時刻を推論する工程とを含む。
上記のような構成によれば、第3学習モデルは、ノイズ成分の無い地震波形と、当該地震波形にフィルタを適用してP波及びS波の各区間が抽出された波形を含む入力データに対し、P波及びS波の到達時刻を教師データとして、深層学習されている。このため、第3学習モデルには、ノイズ成分の無い地震波形と、当該地震波形にフィルタを適用してP波及びS波の各区間が抽出された波形、及びP波及びS波の到達時刻に関する情報が、特徴量として学習されている。したがって、第3学習モデルは、ノイズ成分の無い地震波形として、ノイズ成分が無いと判別された地震観測データの地震波形か、またはノイズ成分除去地震波形のいずれかが入力されると、P波及びS波の到達時刻を、適切に推論することができる。
【0009】
また、本発明は、地震計で観測された地震観測データからノイズ成分を除去して地震波形を取り出す地震波形処理システムであって、地震の加速度波形及び速度波形の画像を含む入力データに対し、当該画像中の前記ノイズ成分の有無の情報を教師データとして、深層学習させた第1学習モデルと、前記第1学習モデルに、前記地震観測データの前記加速度波形及び前記速度波形の画像を入力して、前記ノイズ成分の有無を推論するノイズ成分有無推論部と、地震の加速度フーリエスペクトルの画像を含む入力データに対し、当該画像中の前記ノイズ成分を含む部分が識別された画像を教師データとして、深層学習させた第2学習モデルと、前記ノイズ成分が有ると推論された場合に、前記第2学習モデルに、前記地震観測データの前記加速度フーリエスペクトルの画像を入力して、当該画像中の前記ノイズ成分を推論して当該ノイズ成分の周波数境界値を算出し、当該周波数境界値を用いたフィルタ処理により、前記ノイズ成分を除去したノイズ成分除去地震波形を生成するノイズ成分除去部と、を備えることを特徴とする地震波形処理システムを提供する。
上記のような構成によれば、既に説明したように、高い精度でノイズ成分を除去することが可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い精度でノイズ成分を除去することができる、地震波形処理方法及び地震波形処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態における地震波形処理システムのブロック図である。
図2】地震波形処理システムの第1学習モデルに入力される入力データの、データ中にノイズ成分を含まない場合の説明図である。
図3】第1学習モデルに入力される入力データの、データ中にノイズ成分を含む場合の説明図である。
図4】第1学習モデルの模式的なブロック図である。
図5】地震波形処理システムの第2学習モデルの模式的なブロック図である。
図6】地震波形処理システムの第3学習モデルの、入力データの説明図である。
図7】第3学習モデルの、教師データの説明図である。
図8】実施形態の地震波形処理方法のフローチャートである。
図9】第3学習モデルの評価結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、機械学習モデル(AI技術)を用いて、地震観測データからノイズ成分を取り除き、P波及びS波の地震波形を取得する地震波形処理方法、及び地震波形処理システムである。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態における地震波形処理システムのブロック図である。本実施形態の地震波形処理システム1は、地震計で観測された地震観測データからノイズ成分を除去して、ノイズ成分を含まないような、地震波形を取り出す。更に、地震波形処理システム1は、このノイズ成分が除去された地震波形を基に、P波及びS波の到達時刻を推論する。
地震波形処理システム1は、図1に示されるように、コンピュータ装置からなるもので、予め設定されたコンピュータプログラムに基づいた処理を実行することで、ノイズ成分を除去し、P波及びS波の到達時刻を推論する。地震波形処理システム1は、ノイズ成分有無推論部2、ノイズ成分除去部3、及び到達時刻導出部4を備えている。ノイズ成分有無推論部2は、速度波形生成部21、入力画像生成部22、及び第1学習モデル50を備えている。ノイズ成分除去部3は、スペクトル生成部31、第2学習モデル60、周波数境界値抽出部32、及びフィルタ処理部33を備えている。到達時刻導出部4は、入力データ生成部41と第3学習モデル70を備えている。
【0013】
ノイズ成分有無推論部2は、地震観測データの加速度波形5を入力して、当該加速度波形5にノイズ成分が含まれているか否かを推論する。
まず、速度波形生成部21は、地震計で観測された加速度波形5が入力されると、これを微分して、速度波形を生成する。
入力画像生成部22は、加速度波形5と、速度波形生成部21により生成された速度波形を基に、第1学習モデル50への入力データとなる、加速度波形及び速度波形の画像(以下、第1入力画像と記載する)を生成する。図2図3は、第1入力画像7の説明図である。入力画像生成部22は、加速度波形5を基に加速度波形の画像7aを生成し、速度波形を基に速度波形の画像7bを生成し、更に、これら加速度波形の画像7aと速度波形の画像7bを上下に連接して、1枚の第1入力画像7を生成する。
【0014】
図2に示される第1入力画像7は、加速度波形5にノイズ成分が含まれない場合の波形である。これに対し、図3に示される第1入力画像7にはノイズ成分が含まれており、このために、図2とは異なる特徴が画像に表れている。次に説明する第1学習モデル50は、この特徴を認識するように機械学習されている。
図4は、第1学習モデル50の模式的なブロック図である。本実施形態においては、第1学習モデル50は、画像を入出力とした場合の処理と相性の良い畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、以下CNNと記載する)により実現されている。第1学習モデル50は、畳み込み処理部51と全結合部52を備えている。
【0015】
畳み込み処理部51は、複数の畳み込み層51aを備えている。第1学習モデル50に第1入力画像7が入力されると、初段の畳み込み層51aに設けられた複数のフィルタの各々により、畳み込みフィルタ処理が実行され、かつ必要に応じてプーリング処理等が適用されて、初段の畳み込み層51aに対応する特徴量マップが生成される。この処理を、後段へと繰り返すことで、最終段の畳み込み層51aに対応する特徴量マップ53が生成される。この、最終段の畳み込み層51aに対応する特徴量マップ53は、全結合部52への入力となる。
全結合部52は、入力層52a、複数の中間層52b、及び出力層52cを備えている。入力された特徴量マップ53に含まれる値の各々は、入力層52aの対応する入力ノードに入力される。この値に対して重み付け和が演算され、その結果が初段の中間層52bへと格納される。この処理を、後段へと繰り返すことで、出力層52cには、最終的な演算値が格納される。
【0016】
第1学習モデル50は、入力された第1入力画像7にノイズ成分が含まれているか否かを推論する、2クラス分類を解決するものである。本実施形態においては、出力層52cは、第1出力ノード52dと第2出力ノード52eを備えている。第1出力ノード52dは、第1入力画像7がノイズ成分を含む場合に対応し、第2出力ノード52eはノイズ成分を含まない場合に対応している。
学習時には、第1学習モデル50に入力された、学習時の入力データとしての第1入力画像7が、畳み込み処理部51、全結合部52により処理されて、第1及び第2出力ノード52d、52eに処理結果が格納される。この処理結果は、教師データと比較される。本実施形態においては、教師データは、第1入力画像7中のノイズ成分の有無の情報である。より詳細には、例えば入力された第1入力画像7がノイズを含む場合には、第1出力ノード52d内の処理結果は1と、及び第2出力ノード52e内の処理結果は0と、それぞれ比較される。また、例えば入力された第1入力画像7がノイズを含まない場合には、第1出力ノード52d内の処理結果は0と、及び第2出力ノード52e内の処理結果は1と、それぞれ比較される。
第1学習モデル50は、これらの処理結果と教師データとの2乗誤差等により表されるコスト関数を小さくするように、誤差逆伝搬法、確率的勾配降下法等により、畳み込み処理部51の各フィルタの重みの値、全結合部52の重み付け和に用いられる重みの値等を調整することで、機械学習されている。
結果として、第1学習モデル50は、第1出力ノード52dと第2出力ノード52eの値が、入力された第1入力画像7にノイズ成分が含まれていればそれぞれ1、0に近く、含まれていなければそれぞれ0、1に近くなるように学習されている。このように、第1学習モデル50は、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとして利用される、適切な学習パラメータが学習された学習済みの学習モデルである。
【0017】
ノイズ成分有無推論部2は、上記のように学習された第1学習モデル50に対し、入力画像生成部22により生成された、推論対象となる第1入力画像7を入力して、第1学習モデル50の第1及び第2出力ノード52d、52eに格納された処理結果を参照する。ノイズ成分有無推論部2は、第1出力ノード52dに格納された処理結果が第2出力ノード52eに格納された処理結果よりも大きく1に近ければ、第1入力画像7にノイズ成分が含まれていると推論する。逆に、ノイズ成分有無推論部2は、第2出力ノード52eに格納された処理結果が第1出力ノード52dに格納された処理結果よりも大きく1に近ければ、第1入力画像7にノイズ成分が含まれていないと推論する。
ノイズ成分有無推論部2は、このように、第1学習モデル50に、地震観測データの第1入力画像7を入力して、加速度波形5のノイズ成分の有無を推論し、ノイズ成分除去部3に送信する。
【0018】
ノイズ成分除去部3は、ノイズ成分有無推論部2において加速度波形5にノイズ成分が有ると推論された場合に、当該加速度波形5を入力して、ノイズ成分を除去したノイズ成分除去地震波形を生成する。図5は、ノイズ成分除去部3の、特に後に説明する第2学習モデル60の、模式的なブロック図である。
まず、スペクトル生成部31は、ノイズ成分有無推論部2において加速度波形5にノイズ成分が有ると推論された場合に、当該加速度波形5を受信する。スペクトル生成部31は、加速度波形5をフーリエ変換し、図5に示されるような、横軸が周波数で、縦軸が各周波数に対応するスペクトル振幅として表される、フーリエスペクトルの画像(以下、第2入力画像と記載する)8を生成する。
スペクトル生成部31は、第2学習モデル60に第2入力画像8を送信し、入力する。
【0019】
第2学習モデル60は、入力された第2入力画像8のどの部分がノイズ成分であるかを特徴として認識するように機械学習されている。
本実施形態においては、第2学習モデル60は、CNNにより実現されて、セマンティックセグメンテーションにより、入力された第2入力画像8のどの画素がノイズ成分に相当するかを推論するように、学習されている。第2学習モデル60は、畳み込み処理部61と逆畳み込み処理部62を備えている。
畳み込み処理部61は、複数の畳み込み層61aを備えている。第2学習モデル60に第2入力画像8が入力されると、第1学習モデル50の畳み込み処理部51と同様な手順により、畳み込み処理が実行される。最終段の畳み込み層61aの処理結果は、第2入力画像8の特徴が抽出されて低次元に圧縮された状態のものとなっており、これは、逆畳み込み処理部62への入力となる。
逆畳み込み処理部62は、畳み込み処理部61により低次元に圧縮された特徴を拡大し、復元するように、逆畳み込み処理を実行する。逆畳み込み処理部62は、第2学習モデル60の出力として、出力画像64を出力する。
【0020】
学習時には、第2学習モデル60に入力された、学習時の入力データとしての第2入力画像8が、畳み込み処理部61、逆畳み込み処理部62により処理されて、出力画像64が出力される。この処理結果は、教師データである教師画像65と比較される。本実施形態においては、教師画像65は、第2入力画像8のどの画素が、ノイズ成分に相当するかという情報であり、第2入力画像8中のノイズ成分を含む部分が識別された画像である。より詳細には、教師画像65の各画素には、第2入力画像8の対応する画素がノイズ部分である場合には、所定の第1画素値を、ノイズ部分ではない場合には、第1画素値とは異なる所定の第2画素値を、有するように設定されている。出力画像64は、入力となった第2入力画像8に対応する教師画像65と、画素ごとに画素値が比較されて、例えば各画素間のこれらの差分の2乗誤差等がコスト関数として計算される。
その上で、このコスト関数を小さくするように、誤差逆伝搬法等により、各フィルタの重みの値等を調整することで、第2学習モデル60は機械学習されている。
結果として、第2学習モデル60は、出力された出力画像64の各画素の画素値が、入力された第2入力画像8の対応する画素がノイズ成分であれば第1画素値に近く、ノイズ成分でなければ第2画素値に近くなるように学習されている。このように、第2学習モデル60は、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとして利用される、適切な学習パラメータが学習された学習済みの学習モデルである。
【0021】
ノイズ成分除去部3は、上記のように学習された第2学習モデル60に対し、スペクトル生成部31により生成された、推論対象となる第2入力画像8を入力する。第2学習モデル60は、第2入力画像8中のノイズ成分を推論し、出力画像64を生成する。
周波数境界値抽出部32は、出力画像64を受信し、出力画像64内で第1画素値を有する周波数帯を抽出する。特に本実施形態においては、周波数境界値抽出部32は、低周波数帯域に現れるノイズ成分の上限値である低周波数帯域上限値と、高周波数帯域に現れるノイズ成分の下限値である高周波数帯域下限値を、ノイズ成分の周波数境界値として算出する。
フィルタ処理部33は、これらの周波数境界値を基に、加速度波形5をフィルタ処理する。より詳細には、フィルタ処理部33は、加速度波形5に対して、低周波数帯域上限値をカットオフ周波数とし、これ以上の周波数帯域を通すハイパスフィルタを実行し、かつ、高周波数帯域下限値をカットオフ周波数とし、これ以下の周波数帯域を通すローパスフィルタを実行する。このようにして、フィルタ処理部33は、加速度波形5に対して、ノイズ成分を除去したノイズ成分除去地震波形を生成する。
【0022】
到達時刻導出部4は、ノイズ成分が無いと判別された地震観測データの地震波形か、またはノイズ成分除去地震波形のいずれかを入力して、P波及びS波の到達時刻を推論する。すなわち、到達時刻導出部4は、ノイズ成分有無推論部2において加速度波形5にノイズが無いと推論された場合には、加速度波形5を入力波形として受信する。また、到達時刻導出部4は、ノイズが有ると推論された場合には、ノイズ成分除去部3によってノイズ成分が除去された、ノイズ成分除去地震波形を入力波形として受信する。このように、いずれの場合であっても、到達時刻導出部4は、ノイズ成分の無い地震波形を、入力波形として受信する。
【0023】
図6は、第3学習モデルの、入力データの説明図である。入力データ生成部41は、次に説明する第3学習モデル70への入力データである、データセット9を生成する。本実施形態においては、データセット9は、加速度波形91、0.5ガルで飽和する加速度波形92、及び偏向解析結果93を備えている。
加速度波形91は、南北方向の加速度波形91a、東西方向の加速度波形91b、及び上下方向の加速度波形91cを備えている。入力データ生成部41は、南北方向、東西方向、及び上下方向の各々に対応して入力波形を受信し、これらの各々を、最大加速度値で除算して正規化して、各加速度波形91a、91b、91cを生成する(図6には、正規化する前の波形が記載されている)。
0.5ガルで飽和する加速度波形92は、南北方向の0.5ガルで飽和する加速度波形92a、東西方向の0.5ガルで飽和する加速度波形92b、及び上下方向の0.5ガルで飽和する加速度波形92cを備えている。各加速度波形91a、91b、91cは、上記の正規化において、絶対値の情報が失われている。各加速度波形92a、92b、92cは、これを補完し、相対的に小さな値となるP波が到達する時刻を推定するのに有効な入力となる。
偏向解析結果93は、P波の偏向解析結果93aとS波の偏向解析結果93bを備えている。偏向解析結果93は、受信した入力波形に対し、Ross and Ben-Zionによるフィルタ処理を施すことにより、これら偏向解析結果93a、93bを生成する。このフィルタ処理は、観測点で得られた水平2成分、上下1成分の観測地震動波形の偏向解析により、P波とS波の特徴を有する波形区間を判定するものであり、本指標が高いときに、P波あるいはS波が到達している可能性が高くなっていると判断可能である。
【0024】
第3学習モデル70は、入力波形の中のP波到達時刻及びS波到達時刻に関する特徴を認識するように機械学習されている。本実施形態においては、第3学習モデル70は、第1学習モデル50の全結合部52として示されたような、畳み込み層を有さない、全結合部のみのニューラルネットワークとして実現されている。
第3学習モデル70には、入力として上記データセット9が、数値データの系列として与えられる。これに対応して、第3学習モデル70の入力層は、複数の入力ノードを備えている。第3学習モデル70に各データが入力されると、第1学習モデル50の全結合部52における説明と同様に、後段へと重み付け和の演算を繰り返すことで、出力層に、最終的な演算値が格納される。
【0025】
第3学習モデル70は、入力されたデータセット9に対し、P波及びS波の到達時刻を推論するものである。これに対応し、第3学習モデル70の出力層は、P波到達時刻に関連する数値の系列に対応する、複数の出力ノードと、S派到達時刻に関連する数値の系列に対応する、複数の出力ノードにより構成されている。
より詳細には、例えば、60秒にわたる入力波形に対して、0.1秒の精度でP波の到達時刻を推論する場合には、P波の到達時刻に関しては、0.1×60=600個の、60秒を0.1秒刻みに分割した各時刻に対応する出力ノードが設けられる。S波の到達時刻に関しても同様に、例えば600個の出力ノードが設けられ、全体として、例えば計1200個の出力ノードが設けられる。
学習時には、第3学習モデル70に入力された、学習時の入力データとしてのデータセット9が、全結合部により処理されて、各出力ノードに処理結果が格納される。この処理結果は、教師データと比較される。本実施形態においては、教師データは、P波の到達時刻及びS波の到達時刻を示す、ベクトルである。図7に、第3学習モデル70の教師データである、教師ベクトル71を模式的に示す。教師ベクトル71は、P波教師ベクトル71aとS波教師ベクトル71bを備えている。P波教師ベクトル71aは、P波到達時刻に対応する出力ノードの各々に各要素が対応して設けられた、ワンホットベクトルである。すなわち、P波教師ベクトル71aは、例えば上記の例で示すところの600個の要素を有しており、入力波形においてP波が到達した時刻に対応する要素のみが1で、他の時刻に対応する要素が全て0で、表現されている。同様に、S波教師ベクトル71bは、S波到達時刻に対応する出力ノードの各々に各要素が対応して設けられた、ワンホットベクトルである。すなわち、S波教師ベクトル71bも同様に例えば600個の要素を有しており、入力波形においてS波が到達した時刻に対応する要素のみが1で、他の時刻に対応する要素が全て0で、表現されている。第3学習モデル70の処理結果は、出力ノードごとに、各出力ノードに対応する教師ベクトル71の要素と比較される。
第3学習モデル70は、これらの処理結果と教師データとの2乗誤差等により表されるコスト関数を小さくするように、誤差逆伝搬法、確率的勾配降下法等により、全結合部の重み付け和に用いられる重みの値等を調整することで、機械学習されている。
結果として、第3学習モデル70は、入力波形のなかで、P波到達時刻とS波到達時刻であると推論した各時刻に対応する出力ノードの値が1に、他の出力ノードの値が0に、それぞれ近くなるように学習されている。このように、第3学習モデル70は、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとして利用される、適切な学習パラメータが学習された学習済みの学習モデルである。
【0026】
到達時刻導出部4は、上記のように学習された第3学習モデル70に対し、入力データ生成部41により生成された、推論対象となるデータセット9を入力して、第3学習モデル70の各出力ノードに格納された処理結果を参照する。到達時刻導出部4は、P波到達時刻に対応する出力ノードの中で、最も値が大きく1に近い出力ノードに対応する時刻を、P波の到達時刻として推論する。また、到達時刻導出部4は、S波到達時刻に対応する出力ノードの中で、最も値が大きく1に近い出力ノードに対応する時刻を、S波の到達時刻として推論する。
到達時刻導出部4は、このように推論されたP波及びS波の到達時刻を、到達時刻6として出力する。
【0027】
次に、図1図7、及び図8を用いて、上記の地震波形処理システム1を用いた地震波形処理方法を説明する。図8は、地震波形処理方法のフローチャートである。
処理が開始されると(ステップS1)、速度波形生成部21は、地震計で観測された加速度波形5を取得し、これを微分して、速度波形を生成する。
入力画像生成部22は、加速度波形5と、速度波形生成部21により生成された速度波形を基に、第1学習モデル50への入力データとなる第1入力画像7を生成する(ステップS3)。
ノイズ成分有無推論部2は、第1学習モデル50に、地震観測データの第1入力画像7を入力して、ノイズ成分の有無を推論する(ステップS5)。
【0028】
次に、地震波形処理システム1は、ノイズ成分の推論結果を基に、加速度波形5にノイズ成分が有るか無いかを判定する(ステップS7)。
ノイズ成分が有ると判定された場合には(ステップS7のYes)、スペクトル生成部31が、加速度波形5をフーリエ変換し、第2入力画像8を生成する。ノイズ成分除去部3は、第2学習モデル60に、第2入力画像8を入力して、第2入力画像8中のノイズ成分を推論し、出力画像64を生成する。周波数境界値抽出部32は、出力画像64を受信し、出力画像64内で第1画素値を有する周波数帯を抽出し、ノイズ成分の周波数境界値を算出する(ステップS9)。フィルタ処理部33は、周波数境界値を基に、加速度波形5をフィルタ処理して、ノイズ成分除去地震波形を生成する(ステップS11)。その後、処理は、次に説明するステップS13へと遷移する。
ノイズ成分が無いと判定された場合にも(ステップS7のNo)、ステップS13へと遷移する。
【0029】
ステップS13においては、到達時刻導出部4は、ステップS7においてノイズ成分が無いと判別された場合には、地震観測データの地震波形(加速度波形5)を、またはステップS7においてノイズ成分が有ると判別された場合には、ステップS11で生成されたノイズ成分除去地震波形を受信し、これを基に、P波及びS波の到達時刻を推論する。
より詳細には、入力データ生成部41は、第3学習モデル70への入力データであるデータセット9を生成する。到達時刻導出部4は、これを第3学習モデル70に入力して、P波及びS波の到達時刻を推論し、到達時刻6として出力する。その後、処理は終了する(ステップS15)。
【0030】
次に、上記の地震波形処理方法及び地震波形処理システムの効果について説明する。
本実施形態における地震波形処理方法は、地震計で観測された地震観測データからノイズ成分を除去して地震波形を取り出す地震波形処理方法であって、地震の加速度波形及び速度波形の画像(第1入力画像)7を含む入力データに対し、当該画像7中のノイズ成分の有無の情報を教師データとして、深層学習させた第1学習モデル50に、地震観測データの加速度波形及び速度波形の画像(第1入力画像)7を入力して、ノイズ成分の有無を推論する工程(ステップS5)と、ノイズ成分が有ると推論された場合に、地震の加速度フーリエスペクトルの画像(第2入力画像)8を含む入力データに対し、当該画像8中のノイズ成分を含む部分が識別された画像(教師画像)65を教師データとして、深層学習させた第2学習モデル60に、地震観測データの加速度フーリエスペクトルの画像(第2入力画像)8を入力して、当該画像8中のノイズ成分を推論して当該ノイズ成分の周波数境界値を算出し、当該周波数境界値を用いたフィルタ処理により、ノイズ成分を除去したノイズ成分除去地震波形を生成する工程(ステップS9、S11)と、を含む。
また、本実施形態における地震波形処理システム1は、地震計で観測された地震観測データからノイズ成分を除去して地震波形を取り出す地震波形処理システム1であって、地震の加速度波形及び速度波形の画像(第1入力画像)7を含む入力データに対し、当該画像7中のノイズ成分の有無の情報を教師データとして、深層学習させた第1学習モデル50と、第1学習モデル50に、地震観測データの加速度波形及び速度波形の画像(第1入力画像)7を入力して、ノイズ成分の有無を推論するノイズ成分有無推論部2と、地震の加速度フーリエスペクトルの画像(第2入力画像)8を含む入力データに対し、当該画像8中のノイズ成分を含む部分が識別された画像(教師画像)65を教師データとして、深層学習させた第2学習モデル60と、ノイズ成分が有ると推論された場合に、第2学習モデル60に、地震観測データの加速度フーリエスペクトルの画像(第2入力画像)8を入力して、当該画像8中のノイズ成分を推論して当該ノイズ成分の周波数境界値を算出し、当該周波数境界値を用いたフィルタ処理により、ノイズ成分を除去したノイズ成分除去地震波形を生成するノイズ成分除去部3と、を備える。
上記のような構成によれば、第1学習モデル50は、地震の加速度波形及び速度波形の画像(第1入力画像)7を含む入力データに対し、当該画像7中のノイズ成分の有無の情報を教師データとして、深層学習されている。このため、第1学習モデル50には、地震の加速度波形及び速度波形の画像(第1入力画像)7と、及び当該画像7中のノイズ成分の有無に関する情報が、特徴量として学習されている。したがって、第1学習モデル50は、地震観測データの加速度波形及び速度波形の画像(第1入力画像)7が入力されると、当該画像7内にノイズ成分が有るか無いかを、適切に推論できる。
また、第2学習モデル60は、地震の加速度フーリエスペクトルの画像(第2入力画像)8を含む入力データに対し、当該画像8中のノイズ成分を含む部分が識別された画像(教師画像)65を教師データとして、深層学習されている。このため、第2学習モデル60には、地震の加速度フーリエスペクトルの画像(第2入力画像)8と、及び当該画像8中のノイズ成分を含む部分に関する情報が、特徴量として学習されている。したがって、第2学習モデル60は、地震観測データの加速度フーリエスペクトルの画像(第2入力画像)8が入力されると、当該画像8中のどの部分にノイズ成分を含むのか、すなわち、加速度フーリエスペクトルのノイズ成分が含まれる周波数帯を、適切に推論することができる。
このように、第1及び第2学習モデル50、60により、ノイズ成分が含まれる周波数帯が推論されるので、この周波数帯の境界を周波数境界値として算出し、これを用いたフィルタ処理を行うことで、ノイズ成分を除去したノイズ成分除去地震波形を生成できる。よって、機械学習デモル(第1及び第2学習モデル50、60)では、例えば特定の周波数帯を対象として、閾値を設定してノイズ成分を除去しているものではなく、閾値は不要であり、高い精度でノイズ成分を除去することが可能である。
【0031】
特に、本実施形態においては、第1学習モデル50の入力として、地震の加速度波形と速度波形の双方が用いられている。短周期のノイズ成分は加速度波形に、及び長周期のノイズ成分は速度波形に、それぞれ現れやすいため、これら双方を入力として用いることで、ノイズ成分の周期帯に依らずに、ノイズ成分を効率的に検出することができる。
【0032】
また、上記の地震波形処理方法は、ノイズ成分の無い地震波形(ノイズ成分が無いと判別された場合の加速度波形5、またはノイズ成分除去地震波形)と、当該地震波形にフィルタを適用してP波及びS波の各区間が抽出された波形(偏向解析結果)93を含む入力データに対し、P波及びS波の到達時刻を教師データとして、深層学習させた第3学習モデル70に、ノイズ成分が無いと判別された地震観測データの地震波形か、またはノイズ成分除去地震波形のいずれかを入力して、P波及びS波の到達時刻6を推論する工程とを含む。
上記のような構成によれば、第3学習モデル70は、ノイズ成分の無い地震波形と、当該地震波形にフィルタを適用してP波及びS波の各区間が抽出された波形を含む入力データに対し、P波及びS波の到達時刻を教師データとして、深層学習されている。このため、第3学習モデル70には、ノイズ成分の無い地震波形と、当該地震波形にフィルタを適用してP波及びS波の各区間が抽出された波形、及びP波及びS波の到達時刻に関する情報が、特徴量として学習されている。したがって、第3学習モデル70は、ノイズ成分が無いと判別された地震観測データの地震波形か、またはノイズ成分除去地震波形のいずれかが入力されると、P波及びS波の到達時刻6を、適切に推論することができる。
【0033】
図9は、上記のように構築された第3学習モデル70の評価結果を表すグラフであり、地震記録に対してS波の到達時刻を目視によって識別した際の結果と、第3学習モデル70によって推論された結果との、残差のヒストグラムである。0秒近傍に結果が集中しており、残差が0に近く、すなわち第3学習モデル70の精度が高いことがわかる。
【0034】
なお、本発明の地震波形処理方法及び地震波形処理システムは、図面を参照して説明した上述の各実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態において、第1学習モデル50は、地震の加速度波形及び速度波形の画像(第1入力画像)7を入力データとしていたが、これに加えて、他のデータを入力して与えてもよい。
また、上記実施形態において、第2学習モデル60は、地震の加速度フーリエスペクトルの画像(第2入力画像)8を入力データとしていたが、これに加えて、他のデータを入力して与えてもよい。
更に、上記実施形態において、第3学習モデル70は、データセット9を入力データとしていたが、このデータセット9には、加速度波形91、0.5ガルで飽和する加速度波形92、偏向解析結果93以外の、他のデータが含まれていてもよい。
その他、第1、第2、及び第3学習モデル50、60、70を実現するに際し、上記実施形態において説明したような構成とする必要はなく、例えばCNN以外の他の機械学習器を使用してもよいことは、言うまでもない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記各実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 地震波形処理システム 5 加速度波形
2 ノイズ成分有無推論部 6 到達時刻
21 速度波形生成部 7 第1入力画像(加速度波形及び速度波形の画像)
22 入力画像生成部 8 第2入力画像(加速度フーリエスペクトルの画像)
3 ノイズ成分除去部 50 第1学習モデル
31 スペクトル生成部 60 第2学習モデル
32 周波数境界値抽出部 65 教師画像(ノイズ成分を含む部分が識別された画像)
33 フィルタ処理部 70 第3学習モデル
4 到達時刻導出部 91 ノイズ成分の無い地震波形(加速度波形)
41 入力データ生成部 93 偏向解析結果(区間が抽出された波形)
42 到達時刻抽出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9