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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】モーター銅コイル回収装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20240226BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20240226BHJP
   C22B 7/00 20060101ALN20240226BHJP
   C22B 15/00 20060101ALN20240226BHJP
【FI】
H02K15/02 A
H02K15/04 Z
C22B7/00 A
C22B15/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020133676
(22)【出願日】2020-08-06
(65)【公開番号】P2022030003
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】591063202
【氏名又は名称】産業振興株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】青山 隆一
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-155355(JP,A)
【文献】特表2019-525713(JP,A)
【文献】特開2002-051488(JP,A)
【文献】特開昭56-164565(JP,A)
【文献】特開平09-295074(JP,A)
【文献】実開昭59-164267(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
H02K 15/04
C22B 7/00
C22B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーターの鉄心から、当該鉄心の軸線方向に平行かつ、鉄心の軸心を中心に同心円状かつ等角度間隔に配置され嵌合されてなる銅板を回収するモーター銅コイル回収装置であって、前記鉄心が有する前記銅板の総数を「銅板総数」と呼び、
前記鉄心を載置する載置台と、前記銅板を鉄心から押し抜く押し抜き機とを有し、
前記銅板を鉄心から押し抜く押し抜き時において、前記押し抜き機は前記載置台に載置された鉄心の軸線方向に平行な方向(以下「押し抜き方向」という。)に移動可能であり、前記押し抜き方向に見て鉄心の軸心を回転中心として回転可能であり、
前記押し抜き機は2以上かつ前記銅板総数の半数以下の押し刃を有し、前記押し刃は前記押し抜き機の回転中心に同心円状に配置され、前記押し抜き機の回転位置を調整することにより、前記押し抜き方向に見て、前記押し刃が前記押し抜かれるいずれかの銅板配置位置に対応する位置とすることができ、
前記押し刃の押し抜き方向先端を「押し刃先端」、押し抜き機における前記押し刃先端の押し抜き方向位置を「押し刃先端位置」と呼び、それぞれの押し刃の押し刃先端位置相互間の位置差について、予め「最小位置差」を定め、
それぞれの押し刃から見て、他の押し刃との押し刃先端位置の位置差が、前記最小位置差よりも小さい当該他の押し刃の数が2以下であり、少なくともひとつの押し刃の押し刃先端位置は、他のいずれかの押し刃の押し刃先端位置との位置差が前記最小位置差以上であり、
前記鉄心を前記載置台に載置した上で、前記押し抜き機を押し抜き方向に移動することにより、前記押し刃の配置位置に対応する前記銅板を押し抜き、押し抜き後に前記押し抜き機を押し抜き方向の反対方向に移動し、前記押し抜き機を回転して押し刃の位置を次に押し抜く銅板配置位置に対応させることができる、モーター銅コイル回収装置。
【請求項2】
前記鉄心に嵌合された銅板の配置数が36、銅板の角度間隔が10度であり、
前記押し刃の配置数が2、3、4、6、9、12、18のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のモーター銅コイル回収装置。
【請求項3】
前記押し刃の配置数が2、3、4、6のいずれかであり、
それぞれの押し刃から見て、他の押し刃との押し刃先端位置の位置差が、前記最小位置差よりも小さい当該他の押し刃の数が0であることを特徴とする請求項2に記載のモーター銅コイル回収装置。
【請求項4】
前記押し刃が、押し抜き機の回転中心に回転対称に配置されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のモーター銅コイル回収装置。
【請求項5】
前記最小位置差を5mm~15mmの範囲で定めることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のモーター銅コイル回収装置。
【請求項6】
前記最小位置差を5mmとすることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のモーター銅コイル回収装置。
【請求項7】
前記鉄心が、電動モーターの固定子であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のモーター銅コイル回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター銅コイル回収装置に関するものであり、特に電動モーターの固定子を構成する鉄心から銅材料を回収する回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動モーターは、固定子、回転子、回転子のシャフト(軸)、軸受、モーター外郭としてのエンドブラケット及びフレームなどから構成される。固定子は、鉄心と巻き線を有し、鉄心はその内側形状が回転子の回転軸と同心円の円筒状で、銅線が所定の電気仕様で鉄心の回りで巻かれて形成された巻き線を有する。小型の電動モーターにおいては、銅の伸線にエナメル皮膜を被覆したエナメル銅線が巻き線として使用される。新幹線の走行モーターなどの大型の電動モーターでは、固定子の軸線方向中央部分については、固定子の鉄心の内側(モーターの軸心と同心円の円筒状形状)の表面に軸線方向に平行な溝を設け、この溝内に細長い銅板を嵌合し、巻き線として機能させている。新幹線の電動モーターの固定子においては、固定子の鉄心の内側(軸心側)表面に36個の溝が等角度(10度)間隔で設けられ、それぞれの溝に巻き線の一部として機能する銅板が嵌合されている。固定子の溝と銅板との間は、ワニスによって固着されている。
【0003】
廃棄された電動モーターをリサイクル使用するに際しては、構成する部品の部材ごとに分別回収すれば、回収品の使用価値を高めることができる。固定子や回転子については、鉄で構成される鉄心と、銅で構成される巻線とを分別回収できれば、利用価値を高めることができる。特に巻線は高純度の電気銅が用いられており、利用価値が高い。
【0004】
巻線としてエナメル銅線が用いられている小型の電動モーターについては、特許文献1に、樹脂モールドした回転子をアルカリ分解液に浸漬し、樹脂モールドをアルカリ分解して崩壊させ、少なくとも巻線や鉄芯等の電磁部材の金属要素を分離する方法が考えられている。特許文献2には、エナメル銅線から成る巻線から純度の高い銅を効率的に回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-340661号公報
【文献】特開平10-25523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
巻線としてエナメル銅線が用いられている小型の電動モーターについては、上述のように銅を効率的に回収する方法が開示されている。一方、新幹線の走行モーターの固定子のように、鉄心の内側表面に等角度で設けた溝に銅板を嵌合したような場合については、鉄心と銅板とを効率的に分離する手法が開示されておらず、海外に搬出され、海外の解体業者において、基本は手解体、一部機械を用いて解体し、素材ごとの分別を行っている。
【0007】
本発明は、電動モーターの固定子などにおいて、鉄心の軸線方向に平行かつ、鉄心の軸心を中心に同心円状かつ等角度間隔に銅板が配置され嵌合されてなるモーターの鉄心を対象とし、モーターの鉄心から銅板を回収することのできる、モーター銅コイル回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]モーターの鉄心から、当該鉄心の軸線方向に平行かつ、鉄心の軸心を中心に同心円状かつ等角度間隔に配置され嵌合されてなる銅板を回収するモーター銅コイル回収装置であって、前記鉄心が有する前記銅板の総数を「銅板総数」と呼び、
前記鉄心を載置する載置台と、前記銅板を鉄心から押し抜く押し抜き機とを有し、
前記銅板を鉄心から押し抜く押し抜き時において、前記押し抜き機は前記載置台に載置された鉄心の軸線方向に平行な方向(以下「押し抜き方向」という。)に移動可能であり、前記押し抜き方向に見て鉄心の軸心を回転中心として回転可能であり、
前記押し抜き機は2以上かつ前記銅板総数の半数以下の押し刃を有し、前記押し刃は前記押し抜き機の回転中心に同心円状に配置され、前記押し抜き機の回転位置を調整することにより、前記押し抜き方向に見て、前記押し刃が前記押し抜かれるいずれかの銅板配置位置に対応する位置とすることができ、
前記押し刃の押し抜き方向先端を「押し刃先端」、押し抜き機における前記押し刃先端の押し抜き方向位置を「押し刃先端位置」と呼び、それぞれの押し刃の押し刃先端位置相互間の位置差について、予め「最小位置差」を定め、
それぞれの押し刃から見て、他の押し刃との押し刃先端位置の位置差が、前記最小位置差よりも小さい当該他の押し刃の数が2以下であり、少なくともひとつの押し刃の押し刃先端位置は、他のいずれかの押し刃の押し刃先端位置との位置差が前記最小位置差以上であり、
前記鉄心を前記載置台に載置した上で、前記押し抜き機を押し抜き方向に移動することにより、前記押し刃の配置位置に対応する前記銅板を押し抜き、押し抜き後に前記押し抜き機を押し抜き方向の反対方向に移動し、前記押し抜き機を回転して押し刃の位置を次に押し抜く銅板配置位置に対応させることができる、モーター銅コイル回収装置。
[2]前記鉄心に嵌合された銅板の配置数が36、銅板の角度間隔が10度であり、
前記押し刃の配置数が2、3、4、6、9、12、18のいずれかであることを特徴とする[1]に記載のモーター銅コイル回収装置。
[3]前記押し刃の配置数が2、3、4、6のいずれかであり、
それぞれの押し刃から見て、他の押し刃との押し刃先端位置の位置差が、前記最小位置差よりも小さい当該他の押し刃の数が0であることを特徴とする[2]に記載のモーター銅コイル回収装置。
[4]前記押し刃が、押し抜き機の回転中心に回転対称に配置されていることを特徴とする[2]又は[3]に記載のモーター銅コイル回収装置。
[5]前記最小位置差を5mm~15mmの範囲で定めることを特徴とする[1]から[4]までのいずれか1つに記載のモーター銅コイル回収装置。
[6]前記最小位置差を5mmとすることを特徴とする[1]から[4]までのいずれか1つに記載のモーター銅コイル回収装置。
[7]前記鉄心が、電動モーターの固定子であることを特徴とする[1]から[6]までのいずれか1つに記載のモーター銅コイル回収装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明のモーター銅コイル回収装置により、電動モーターの固定子などにおいて、鉄心の軸線方向に平行かつ、鉄心の軸心を中心に同心円状かつ等角度間隔に銅板が配置され嵌合されてなるモーターの鉄心から銅板を回収するに際し、押し刃によって銅板を押し下げて回収し、少ない押し下げ力で銅板を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のモーター銅コイル回収装置を示す図であり、(A)は正面図、(B)はB-B矢視平面図である。
図2】本発明のモーター銅コイル回収装置の一部を示す図であり、(A)はA-A矢視図、(B)は部分正面図(押し抜き前)、(C)は部分正面図(押し抜き中)、(D)はD-D矢視平面図である。
図3】押し抜き中の押し抜き機と鉄心の関係を示す図であり、(A1)は押し抜き初期の押し抜き機の部分図、(B1)は(A1)で押し抜き後の鉄心の部分図、(A2)(B2)は2回目、(A3)(B3)は9回目の押し抜き段階を示す。
図4】押し抜きの経過と押し抜き力の関係を示す図であり、(A)は1枚の押し刃で押し抜きを行ったとき、(B)は本発明の4枚の押し刃で押し抜きを行ったときの結果である。
図5】2枚の押し刃を有する本発明の押し刃を示す図であり、(A)は平面図、(B)は回転ヘッド外周を展開して示した図である。
図6】3枚の押し刃を有する本発明の押し刃を示す図であり、(A)は平面図、(B)は回転ヘッド外周を展開して示した図である。
図7】4枚の押し刃を有する本発明の押し刃を示す図であり、(A)は平面図、(B)(C)は回転ヘッド外周を展開して示した図である。
図8】6枚の押し刃を有する本発明の押し刃を示す図であり、(A)は平面図、(B)(C)(D)は回転ヘッド外周を展開して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は前述のように、電動モーターの固定子などにおいて、鉄心の軸線方向に平行かつ、鉄心の軸心を中心に同心円状かつ等角度間隔に銅板が配置され嵌合されてなるモーターの鉄心を対象とする。以下、固定子、特に新幹線の走行用電動モーターの固定子の場合を例にとって、モーターの鉄心から銅板を回収する本発明のモーター銅コイル回収装置の説明を行う。
【0012】
新幹線の走行用電動モーターの固定子は、固定子の軸線方向の中央部分については、固定子の鉄心の内側表面に36個の溝が等角度(10度)間隔で設けられ、それぞれの溝に巻き線の一部として機能する銅板が嵌合されている。図2(B)(D)には、固定子16の軸線方向17の中央部分について、固定子16の鉄心11をさらに軸線方向17に分断したものが記載されている。固定子16の鉄心11の内側表面14(軸心15側の表面)に36個の溝12が等角度(10度)間隔で設けられ、それぞれの溝12に銅板13が嵌合されている。鉄心11の溝12と銅板13との間は、ワニスによって固着されている。図示しない、固定子の軸線方向の両側については、上記軸線方向の中央部分に配置された直線状の銅板の相互間を電気的に接続してコイルを形成するための配線が設けられ、銅板のそれぞれの端部に当該配線が接続されており、銅板外周接続コイルを形成している。鉄心11が有する銅板13の総数を「銅板総数」と呼ぶ。
【0013】
モーターの固定子から銅を回収する場合において、まずは固定子の軸線方向17において、固定子の軸線方向17の中央部分と両端部分とを切断する。切断の結果として、銅を回収する対象の鉄心11が得られる。対象の鉄心11は、さらに軸線方向17に垂直な切断面で細かく分断する。鉄心11は、図2(B)(D)に示すように、鉄心11の軸線方向17に平行かつ、軸心15を中心に同心円状かつ等角度間隔に銅板13が配置され嵌合されている。切断で切り離された軸線方向の両側の銅板外周接続コイル部分は、基本的に銅線のみで構成されているので、そのまま銅素材としてリサイクルできる。
【0014】
本発明のモーター銅コイル回収装置について、図1図3に基づいて説明する。モーター銅コイル回収装置は、回収対象の鉄心11を載置する載置台6と、銅板13を鉄心11から押し抜く押し抜き機1とを有しする。銅板13を鉄心11から押し抜く押し抜き時において、押し抜き機1は載置台6に載置された鉄心11の軸線方向17に平行な方向(押し抜き方向31)に移動可能であり、回転中心32まわりに回転可能とする。押し抜き方向31に見て、回転中心32は鉄心11の軸心15と同じ位置にある。通常は図1図2に示すように、銅板13を鉄心11から押し抜く押し抜き時において、載置台6に載置した鉄心11の軸線方向17は鉛直方向とし、押し抜き方向31も鉛直方向とすると好ましい。以下、押し抜き方向31が鉛直方向である場合を例にとって説明する。押し抜き時において押し抜き機1は載置台6の上方に配置される。
【0015】
載置台6を水平方向に移動可能とし、載置台6に鉄心11を載置する位置(載置位置)(図示せず)と、鉄心11から銅板13を押し抜く位置(押し抜き位置)(図1)を別の位置とすると好ましい。これにより、載置台を載置位置に移動して鉄心をクレーン等で載置し、その後載置台を押し抜き位置に移動して鉄心から銅板の押し抜きを行い、その後載置台を載置位置に戻して、銅板の押し抜きが完了した鉄心をクレーン等で回収することが容易となる。
【0016】
上記のように、銅板13を鉄心11から押し抜く押し抜き時において、押し抜き機1は載置台6に載置された鉄心11の軸線方向17に平行な方向(押し抜き方向31)に移動可能であり、押し抜き方向31に見て鉄心11の軸心15を回転中心32として回転可能としている。(押し抜き方向31に見て、回転中心32は鉄心11の軸心15と同じ位置にある。)即ち、鉄心11を載置した載置台6が押し抜き位置にあるとき、押し抜き機1は鉄心11の軸心15を回転中心32として回転する。好ましくは、押し抜き機1は押し下げ機構2と回転ヘッド3とを有し、押し下げ機構2は好適には油圧プレス機などで構成され、押し抜き方向31に移動可能とする。押し下げる方向に移動する際に所定の圧下力を保持している。押し下げ機構2に取り付けられた回転ヘッド3が回転中心32まわりに回転する。
【0017】
押し抜き機1は2以上かつ前記銅板総数の半数以下の押し刃4を有し、押し刃4は押し抜き機1の回転中心32に同心円状に配置される。具体的には、図2に示すように、押し刃4は回転ヘッド3に配置される。図2は押し刃4を4枚配置した例である。押し抜き方向31に見たとき、押し抜き機1の回転中心32(鉄心11の軸心15と一致している)から押し刃4までの距離は、鉄心11の軸心15から溝12までの距離と一致し、押し刃4の断面形状は、溝12内を通過可能な形状とする。回転ヘッド3を回転させ、鉄心11の溝12位置と押し刃4の位置を回転方向で一致させたとき(図2(A)(B)(D))、押し抜き機1を下方(押し下げ方向)に押し下げることにより(図2(C))、押し刃4が溝12内を下降し、溝12内に嵌合された銅板13を押し下げ、下方に分離して回収することができる。
【0018】
本発明のように、押し抜き機1に設けた押し刃4によって鉄心11の銅板13を押し抜く方法を採用するに際し、押し抜き機1に設置する押し刃4の数に比例して押し抜き力が増大するので、押し刃4の数が鉄心11の銅板13の総数(銅板総数)に等しいと、大きな押し抜き力を有する押し抜き機を用意する必要が生じる。本発明は、上記のように押し刃4の数を銅板総数の半数以下とするので、押し抜き機の押し抜き力を低減できる。押し刃の数が少ないほど、押し抜き力をさらに低減することができる。
【0019】
例えば、銅板総数が36枚で、等角度(10度)で配置されている場合について考える。押し刃4の数が18枚で等角度(20度)で配置されたものであれば、1回の押し抜きで18個の銅板13を押し抜き、次に回転ヘッドを10度回転させて再度押し抜くことにより、残りの18個の銅板13を押し抜くことができる。押し刃の数が4枚で等角度(90度)で配置されたものであれば(図2図3参照)、1回の押し抜きで4個の銅板を押し抜き(図3(A1)(B1))、次に回転ヘッドを10度回転させて再度押し抜き(図3(A2)(B2))、これを9回繰り返すことにより、全ての銅板を押し抜くことができる(図3(A3)(B3))。押し刃4の数は最少が2枚であり(図5参照)、2枚の押し刃4を等角度(180度)で配置することにより、押し抜き時の押し下げ機構の圧下力と押し刃にかかる抵抗力との力のバランスがとりやすくなる。
【0020】
ここで、鉄心11の溝12内に嵌合された銅板13を押し刃4で押し抜くに際しての、必要な押し抜き力について説明する。新幹線の走行用電動モーターの固定子の場合を例にとる。固定子16の鉄心11の内側表面14は直径0.5mの円筒状であり、36個の溝12が等角度(10度)間隔で同心円状に形成され、それぞれの溝12内に銅板13が嵌合されている(図2(D)参照)。軸線方向17両側の銅板外周接続コイル部分を切り離したときの固定子16の軸線方向17中央部分は、軸線方向17の長さが約240mmである。
【0021】
以下、押し抜きに用いる鉄心11の鉄心厚さをL、最小位置差をS、1枚の押し刃による押し抜き初期の押し抜き力の最大をP、押し抜き後半の低下した一定の押し抜き力をP、押し抜き機での合計押し抜き力の最大値を合計押し抜き力最大値PTM、押し抜き機の必要押し抜きストロークをSとする。
【0022】
溝12内の銅板13を、鉄心11の軸線方向17(銅板の長手方向)に押し刃4で押し込むことにより、銅板13を溝12から押し抜く。銅板13は溝12に固着されているので、押し抜き時の鉄心11の軸線方向17の厚さ(鉄心厚さL)が厚いほど、必要な押し抜き力は大きくなる。ここでは、鉄心厚さLが120mmとなるように鉄心11を分断した上で押し抜き対象とし(図2(D)参照)、押し抜き力の調査を行った。
【0023】
試験押し抜き装置において、押し刃4をひとつとし、一箇所の溝12において押し刃4を一定速度で押し下げ、必要な押し抜き力の時間経過を調査した。その結果を図4(A)に示す。図4(A)から明らかなように、押し下げの経過とともに(押し刃の位置が下降して図4(A)横軸の押し下げ距離が増大するに従い)、押し抜き力が変化し、押し抜きの初期の早い時期(押し抜き距離が5mm程度)に押し抜き力が最大(7T)(P)となり、さらに押し刃を下方に移動し続けて押し抜き距離が増えると押し抜き力が低下し、押し抜き開始から移動距離約15mmの位置で約3Tの一定の押し抜き力(P)となり、それ以降はその一定の押し抜き力(P)で銅板13が溝12内を移動し、押し刃4の押し下げ距離が鉄心厚さL(120mm)まで移動したところで、最終的に溝12から銅板13を離脱させることができた。
【0024】
ここで、押し刃4の押し抜き方向31先端を「押し刃先端21」、押し抜き機における押し刃先端21の押し抜き方向31位置を「押し刃先端位置22」と名付ける。本発明の特徴は、押し刃先端位置22がすべての押し刃4で同一の位置となるのではなく、押し刃4ごとに押し刃先端位置22を異ならせることを最大の特徴とする。以下に詳細に説明するように、押し刃4ごとに押し刃先端位置22を異ならせることにより、押し抜き機1の必要押し抜き力を低減することが可能となる。
【0025】
前述のように、鉄心11の溝12に嵌合された銅板13を押し刃4で押し抜く際、押し抜き初期に最大の押し抜き力(P)となり、その後押し抜き力が低下し、以後低下した一定の押し抜き力(P)で押し抜きが進行する。すべての押し刃4の押し刃先端位置22が一致していると、すべての押し刃4で同時に最大の押し抜き力(P)となり、押し抜き機1として高い押し抜き力を保持する必要がある。これに対して、押し刃4ごとの押し刃先端位置22を異ならせ、先行するひとつの押し刃4での押し抜き力が最大(P)を通り越して低下した一定の押し抜き力(P)となったところで、後行する押し刃の押し抜き力が最大(P)となるようにすれば、各時刻における合計の押し抜き力の最大値を低減できるので、押し抜き機として保持する押し抜き力能力を低く抑えることが可能となる。
【0026】
そこで本発明では、それぞれの押し刃4の押し刃先端位置22相互間の位置差Sについて、予め「最小位置差S」を定める。最小位置差Sは、押し刃4での押し抜きを開始してから、押し抜き力が最大(P)を経過するまでの移動距離を勘案して定めると好ましい。2つの押し刃4の押し刃先端位置22相互間の位置差Sを最小位置差S以上とすることにより、2つの押し刃4における最大押し抜き力(P)が同時に発生することがなく、押し抜き機の合計押し抜き力を低く抑えることができる。
【0027】
ここで、図1図4図7に基づき、押し刃4の数が4枚(90度間隔で配置)の場合を例にとって具体的に説明する。前記新幹線の走行用電動モーターの固定子16の場合、押し抜き開始から移動距離約5mmの位置で約7Tの最大押し抜き力(P)となり、それから押し抜き力が低下し始め、約15mmの位置で約3Tの一定の押し抜き力(P)となった。
【0028】
図7(A)は4枚の押し刃4を配置した回転ヘッド3の平面図、図7(B)は回転ヘッド3の外周1周を展開した図である。図7(B)において、角度=0度、90度、180度、270度にそれぞれ押し刃(4a、4b、4c、4d)が配置されている。4枚の押し刃4の押し刃先端位置22を、押し刃4aから押し刃4dへ順に深くし、押し刃先端位置22が隣接する押し刃相互間の押し刃先端位置22の位置差Sを上記最小位置差S(5mm)より大きな値とする。図5、6、8についても、配置する押し刃4の数を変更した以外は図7と同様である。
【0029】
このような押し刃4を備えた押し抜き機1(図1図2参照)によって、新幹線の走行用電動モーターの固定子16の鉄心11から銅板13の押し抜きを行った。押し刃先端位置22相互間の位置差Sを上記最小位置差S(5mm)より大きな値である50mmとした。押し抜きの経過と押し抜き力の推移を観察したところ、図4(B)に示す結果(発明例)が得られた。図4(B)の太い実線が、4枚の押し刃を備えた押し抜き機での押し抜き力の実績である。図4(B)のうち、4種類の細い線は、図4(A)の結果に基づき、4枚の押し刃単独の押し抜き力を推定で記載したものである。発明例では、最大でも押し抜き力を13Tに抑えることができた。4枚のうちで一番最後に最大押し抜き力(P)(7T)がかかった時点において、その他の3枚の押し刃のうち1枚はすでに押し抜きが完了し、残りの2枚の押し刃については、低い一定の押し抜き力(P)(3T)であったため、合計の押し抜き力が13Tに収まったためである。
【0030】
比較例として、4枚の押し刃4の押し刃先端位置22がすべて同じとした場合の押し抜き力の推移を調査した。比較例では、押し抜きの初期に28Tの高い押し抜き力を要した。4枚の押し刃4が同時に高い押し抜き力(7T)を要したためである。
【0031】
新幹線の走行用電動モーターの固定子の場合、最小位置差Sを5mm~15mmの範囲で定めると好ましい。左記範囲の最小値よりも小さい場合、複数の押し刃4において、押し抜き初期の押し抜き力が最大となる時期に重なりが生じ、合計の押し抜き力が過大となる場合がある。左記範囲の最大値よりも大きい場合、押し抜き力低減効果は飽和する一方、必要な押し抜きストロークが過大となる。最小位置差Sを5mmとすると好ましい。最小位置差Sを15mmとするとより好ましい。
【0032】
以上のように、設置したすべての押し刃4について、押し刃先端位置22がすべて異なり、押し刃先端位置22が近接する押し刃4相互間の押し刃先端位置22の位置差Sが最小位置差S以上であれば、押し抜き機1の押し抜き力能力を最も低下することができるので好ましい。一方、設置したすべての押し刃4について押し刃先端位置22を異ならせなくても、一定の範囲内で押し刃先端位置22を異ならせることにより、本発明の効果を必要な範囲内で享受することができる。以下、説明する。
【0033】
設置した押し刃4の中で、押し刃先端位置22が同一又はほぼ同一となる押し刃の数が3枚以下であれば、当該条件の押し刃4の数が4枚以上である場合に比較して、押し抜き機1の押し抜き力能力を抑制して本発明の効果を発揮することができる。より厳密には、それぞれの押し刃4から見て、他の押し刃4との押し刃先端位置22の位置差Sが、最小位置差Sよりも小さい当該他の押し刃4の数が2以下であれば、設置した押し刃4の中で、押し刃先端位置22が同一又はほぼ同一となる押し刃4の数を3枚以下とすることができる。
【0034】
ただし上記の条件を採用するにおいて、押し刃4の合計が2枚又は3枚の場合、すべての押し刃4の押し刃先端位置22が同一又はほぼ同一の場合も条件に合致する場合を含むこととなり、本発明の趣旨から外れてしまう。そこで本発明では、少なくともひとつの押し刃4の押し刃先端位置22は、他のいずれかの押し刃4の押し刃先端位置22との位置差が最小位置差S以上となることを条件として付加した。これにより、たとえ押し刃の合計が2枚又は3枚であっても、すべての押し刃4の押し刃先端位置22が同一又はほぼ同一となる場合を本発明範囲から除外することができる。
【0035】
前述のように、新幹線の走行用電動モーターの固定子16の場合、鉄心11に嵌合された銅板13の配置数が36、銅板13の角度間隔が10度である。この場合、押し刃4の配置数が2、3、4、6、9、12、18のいずれかであると好ましい。左記の枚数は、いずれも銅板13の配置数36の約数である。銅板13の配置数(36)を押し刃4の配置数で除した値が、押し抜きの繰り返し回数となる。例えば、押し刃4の配置数が4枚で、等角度(90度)間隔で配置した場合について、図3に基づいて説明する。図3(A1)は1回目の押し抜きにおける押し刃4の位置を示す。1回目の押し抜きで、図3(B1)に示すように4枚の銅板13を押し抜き、4箇所に押し抜き完了位置33が生じる。次いで図3(A2)に示すように、回転ヘッド3を時計回りに10度回転させて2回目の押し抜きを行う。押し抜きの結果、図3(B2)に示すように押し抜き完了位置33が増える。これを9回繰り返す。図3(A3)は9回目の押し抜きにおける押し刃4の位置を示す。これにより、図3(B3)に示すように、36枚の銅板13すべてを押し抜くことができる。
【0036】
上記の好ましい条件に加えてさらに、押し刃4の配置数が2、3、4、6のいずれかであり、それぞれの押し刃4から見て、他の押し刃4との押し刃先端位置22の位置差Sが、最小位置差Sよりも小さい当該他の押し刃4の数が0であるとより好ましい。左記条件は換言すると、どの押し刃4相互間についても、押し刃先端位置22の位置差Sが最小位置差Sよりも大きい、即ち、どの押し刃4相互間についても、押し刃先端位置22が同一又はほぼ同一となることがなく、押し抜き中において押し抜き力が大きくなるタイミングが重ならないので、押し抜き機1の必要押し抜き力能力を低く抑えることができる。ただし、押し刃4の必要押し抜きストロークSは、(押し刃の数-1)に位置差Sを乗じた距離に鉄心厚さLを加えた距離が必要となる。押し刃4の配置数を6以下に限定したのは、6以下であれば、押し刃の必要押し抜きストロークSが過剰となることを回避できるからである。
【0037】
押し刃4の配置数が2~18の上記好ましい実施の形態において、押し刃4が、押し抜き機の回転中心32に回転対称に配置されていると好ましい。これにより、押し抜き時において、押し下げ機構2にかかる負荷のアンバランスを防止することができる。
【0038】
以上のような本発明の好適条件で鉄心11から銅板13を押し抜く際において、押し刃4の配置数ごとに、好ましい実施の形態について以下説明する。
【0039】
下記いずれの場合についても、合計押し抜き力最大値PTMを算出する式の右辺のPにかかる係数は、「L/S」より大きくなることはない。「L/S超」組目の押し刃が押し抜きを開始する時点では、1組目の押し刃が銅板押し抜きを完了しているからである。例えば、L=120mm、S=50mmの場合、L/S=2.4であるから、PTMを算出する式の右辺のPにかかる係数は、最大でも「2」となる(注1)。
【0040】
《押し刃の配置数が2の場合》(押し刃を180度の位置に配置)(図5参照)
2枚の押し刃4の押し刃先端位置22相互間の位置差Sを最小位置差S以上としたとき、合計押し抜き力最大値PTMは、
TM=P+P
となり、必要押し抜きストロークSは、
=L+S
となる。
1回の押し抜きで2枚の銅板を押し抜き、以後回転ヘッド3の角度を10度ずつ変更して合計18回の押し抜きを行う。
【0041】
《押し刃の配置数が3の場合》(押し刃を等角度(120度)の位置に配置)(図6参照)
図6(B)に示すように、3枚の押し刃4の押し刃先端位置22をいずれも異ならせ、近接する相互間の位置差Sを最小位置差S以上とする。このとき、合計押し抜き力最大値PTMは、
TM=P+2P
となり、必要押し抜きストロークSは、
=L+2S
となる。
1回の押し抜きで3枚の銅板13を押し抜き、以後回転ヘッド3の角度を10度ずつ変更して合計12回の押し抜きを行う。
【0042】
《押し刃の配置数が4の場合》(押し刃を等角度(90度)の位置に配置)(図7参照)
4枚の押し刃4の押し刃先端位置22をいずれも異ならせた場合(条件1)(図7(B))と、押し刃4を2枚1組とし、各組では押し刃先端位置22を同一とした場合(条件2)(図7(C))について検討し、近接する相互間の位置差Sを50mm(最小位置差S以上)とする。このとき、合計押し抜き力最大値PTMは、
TM=P+2P (条件1)(上記注1参照)
TM=2P+2P (条件2)
となり、必要押し抜きストロークSは、
=L+3S (条件1)
=L+S (条件2)
となる。
1回の押し抜きで4枚の銅板13を押し抜き、以後回転ヘッド3の角度を10度ずつ変更して合計9回の押し抜きを行う。
【0043】
《押し刃の配置数が6の場合》(押し刃を等角度(60度)の位置に配置)(図8参照)
図8(B)は、6枚の押し刃4の押し刃先端位置22をいずれも異ならせた場合(条件1)である。図8(C)は、押し刃4を2枚1組とし、各組では押し刃先端位置22を同一とした場合(条件2)である。押し刃4aと4d、4bと4e、4cと4fが同一組である。図8(D)は、押し刃4を3枚1組とし、各組では押し刃先端位置22を同一とした場合(条件3)である。押し刃(4a、4c、4e)、(4b、4d、4f)が同一組である。これら3条件について検討し、近接する相互間の位置差Sを50mm(最小位置差S以上)とする。このとき、合計押し抜き力最大値PTMは、
TM=P+2P (条件1)(上記注1参照)
TM=2P+4P (条件2)
TM=3P+3P (条件3)
となり、必要押し抜きストロークSは、
=L+5S (条件1)
=L+2S (条件2)
=L+S (条件3)
となる。条件1は合計押し抜き力最大値PTMは最小だが必要押し抜きストロークSは最大、条件3は合計押し抜き力最大値PTMは最大だが必要押し抜きストロークSは最小となり、条件2は両者の中間となる。
1回の押し抜きで6枚の銅板13を押し抜き、以後回転ヘッド3の角度を10度ずつ変更して合計6回の押し抜きを行う。
【0044】
《押し刃の配置数が9の場合》(押し刃を等角度(40度)の位置に配置)(図示せず)
9枚の押し刃4を3枚1組とし、各組では押し刃先端位置22を同一とした場合について検討し、近接する相互間の位置差Sを50mm(最小位置差S以上)とする。このとき、合計押し抜き力最大値PTMは、
TM=3P+6P(上記注1参照)
となり、必要押し抜きストロークSは、
=L+2S
となる。
1回の押し抜きで9枚の銅板13を押し抜き、以後回転ヘッド3の角度を10度ずつ変更して合計4回の押し抜きを行う。
【0045】
《押し刃の配置数が12の場合》(押し刃を等角度(30度)の位置に配置)(図示せず)
12枚の押し刃4を3枚1組(合計4組)とし、各組では押し刃先端位置22を同一とした場合について検討し、近接する相互間の位置差Sを50mm(最小位置差S以上)とする。このとき、合計押し抜き力最大値PTMは、
TM=3P+6P(上記注1参照)
となり、必要押し抜きストロークSは、
=L+3S
となる。
1回の押し抜きで12枚の銅板13を押し抜き、以後回転ヘッド3の角度を10度ずつ変更して合計3回の押し抜きを行う。
【0046】
《押し刃の配置数が18の場合》(押し刃を等角度(20度)の位置に配置)(図示せず)
18枚の押し刃4を3枚1組(合計6組)とし、各組では押し刃先端位置22を同一とした場合について検討し、近接する相互間の位置差Sを50mm(最小位置差S以上)とする。このとき、合計押し抜き力最大値PTMは、
TM=3P+6P(上記注1参照)
となり、必要押し抜きストロークSは、
=L+5S
となる。
1回の押し抜きで18枚の銅板13を押し抜き、以後回転ヘッド3の角度を10度変更して合計2回の押し抜きを行う。
【0047】
《総合的な評価》
以上、押し刃4の数を2枚から18枚まで変化させたときの本発明の実施の形態について説明した。これら結果から明らかなように、配置する押し刃4の数を増やすほど、押し抜きの繰り返し回数が低減して処理所要時間の短縮が図れる一方、合計押し抜き力最大値PTMが増大するので押し下げ機構2の圧下力能力を増大する必要が生じ、併せて必要押し抜きストロークSが増大する。また、押し刃先端位置22を同一とする押し刃の数が増えるほど、必要押し抜きストロークSは低減するものの、合計押し抜き力最大値PTMが増大する。処理所要時間、合計押し抜き力最大値PTM、必要押し抜きストロークSのうち、いずれを重要視するかによって、最適な組み合わせを見いだすことができる。
【0048】
また、押し抜きに用いる鉄心11の鉄心厚さLが小さいほど、押し抜き力P、Pがともに小さくなるので合計押し抜き力最大値PTMが小さくなり、また、押し抜き機の必要押し抜きストロークSも小さくなる一方、押し抜き時の鉄心厚さLを小さくするためには、鉄心11の分断個数を増加させる必要が生じ、合計処理所要時間が増大することとなる。これらの点を勘案して、押し抜き時の鉄心厚さLの最適値を定めると好ましい。
【0049】
回転ヘッド3の回転角度調整について説明する。押し抜き処理スタート前において、押し抜き方向31に見て、載置台6に載置した鉄心11の溝位置(角度)と、回転ヘッド3に設置した押し刃4の位置(角度)が合致している必要がある。載置台6に載置する鉄心11の溝12の位置を所定の角度位置になるように調整する方法と、鉄心11の溝12の位置は特に調整せず、回転ヘッド3の回転角度を調整して溝12の位置に合致させる方法のいずれかを採用することができる。押し抜き処理を開始した後、押し抜きを繰り返して銅板13を回収するに際し、回転ヘッド3を所定の角度(例えば10度)で回転させて、次に押し抜く銅板13の位置に合わせる。回転ヘッド3の角度調整については、押し抜き処理スタート前に鉄心11の溝12の位置と押し刃4の位置を合わせるための角度調整、繰り返し押し抜きを行う際の一定角度の回転のいずれも、サーボ機構を用いて調整することができる。あるいは、回転ヘッド3を所定の角度(例えば10度)で回転させるに際し、回転ヘッド3の回転機構に10度ピッチでノッチを施し、ノッチとプランジャーの組み合わせにより、10度ピッチの回転角度制御を行っても良い。この場合は、押し抜き処理スタート前に鉄心11の溝12の位置と押し刃4の位置を合わせるための角度調整について、別の調整機構(例えば手動の調整機構)を設けることとなる。
【0050】
新幹線の走行用電動モーターの固定子16において、固定子16の溝12と銅板13との間は、ワニスによって固着されている。銅板13の押し抜きに先立って、固定子16の加熱処理を行い、ワニス被覆を加熱炭化処理し、押し抜き力の低減を図ることとしても良い。
【実施例
【0051】
新幹線の走行用電動モーターの固定子16の鉄心11から銅板13を回収するに際し、本発明を適用した。この場合、固定子16の鉄心11の内側表面14は直径0.5mの円筒状であり、36個の溝12が等角度(10度)間隔で同心円状に形成され、それぞれの溝12内に銅板13が嵌合されている。軸線方向17両側の銅板外周接続コイル部分を切り離したときの固定子16の軸線方向17中央部分は、軸線方向17の長さが240mmである。鉄心厚さLが120mmとなるように鉄心11を分断した上で押し抜き対象とした(図1図2)。事前の押し抜き力評価試験の結果を参考にして、最小位置差Sを5mmに定めた。
【0052】
図1図2に示すように、押し抜き機1は押し下げ機構2と回転ヘッド3、載置台6を有する。載置台6には、押し抜き対象の鉄心11を載置し、鉄心11の軸線方向17が鉛直方向となる。押し下げ機構2は最大押し抜き力が30T、押し抜きストロークが300mmである。回転ヘッド3は回転中心32を中心として回転可能であり、回転軸は鉛直方向である。押し抜き実施時において、回転ヘッド3の回転中心32と鉄心11の軸心15は平面視で同一位置とする。回転ヘッド3には、押し刃4を設置する押し刃設置溝(図示せず)が合計36箇所、回転軸回りに等角度(10度)間隔で設けられている。載置台6に鉄心11を載置して載置台6を押し抜き位置に配置したとき、押し刃設置溝に押し刃4を設置して回転ヘッド3を下降すると、設置した押し刃4がちょうど鉄心11の溝12(銅板13が嵌合されている)内に進入する位置となる。
【0053】
押し刃設置溝が合計36箇所設けられているので、押し刃設置溝に設置する押し刃4の数を2、3、4、6、9、12、18のいずれかとすることができる。いずれにおいても、押し刃4が、押し抜き機1の回転中心32に回転対称に配置されていると好ましい。本実施例においては、押し刃4の設置数を4とし、回転中心32に回転対称に等角度(90度)で配置した(図2、3、7参照)。また、4枚の押し刃4の押し刃先端位置22については、それぞれ異なる押し刃先端位置22とし、押し刃先端位置22が近接する相互間の位置差Sが50mm(前記定めた最小位置差S(5mm)以上)となるように配置した(図7(B)参照)。
【0054】
このような押し刃4を備えた押し抜き機1によって、上記新幹線の走行用電動モーターの固定子16の銅板13の押し抜きを行った。結果は前述のとおりであり、押し抜きの経過と押し抜き力の推移を観察したところ、図4(B)の太線に示す結果(発明例)が得られた。比較例として、4枚の押し刃4の押し刃先端位置22がすべて同じとした場合の押し抜き力の推移を調査した。比較例では、押し抜きの初期に28Tの高い押し抜き力を要した。それに対して発明例では、最大でも押し抜き力を13Tに抑えることができた。
【符号の説明】
【0055】
1 押し抜き機
2 押し下げ機構
3 回転ヘッド
4 押し刃
6 載置台
11 鉄心
12 溝
13 銅板
14 内側表面
15 軸心
16 固定子
17 軸線方向
21 押し刃先端
22 押し刃先端位置
31 押し抜き方向
32 回転中心
33 押し抜き完了位置
L 鉄心厚さ
S 押し刃先端位置の位置差
最小位置差
必要押し抜きストローク
TM 合計押し抜き力最大値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8