(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】感圧接着ファスナー、ファスナー、吸収性物品、衣類貼付物品及び布類貼付物品
(51)【国際特許分類】
A44B 99/00 20100101AFI20240226BHJP
A44B 18/00 20060101ALI20240226BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240226BHJP
【FI】
A44B99/00 611K
A44B99/00 611J
A44B18/00
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2020182954
(22)【出願日】2020-10-30
(62)【分割の表示】P 2015256908の分割
【原出願日】2015-12-28
【審査請求日】2020-11-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 新
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】西堀 宏之
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-298569(JP,A)
【文献】特表2001-511377(JP,A)
【文献】特開2014-76210(JP,A)
【文献】特開平11-155612(JP,A)
【文献】特開2014-155598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B18/00, A44B99/00, A61F13/15-13/84, C09J7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布類の対象物と重ね合わせられることで当該対象物と連結する感圧接着ファスナーであって、
対向する一対の面を有するシート基材と、
前記シート基材の少なくとも一方の面に形成された感圧接着剤層と、
前記シート基材の少なくとも前記一方の面から第1の方向へ突出すると共に、前記一方の面が広がる第2の方向において互いに離間して配列する複数の突出部材と、を備え、
前記突出部材は、
先端側において前記第2の方向に広くな
り、先端側における端面が前記第2の方向のうち少なくとも一方向に平行に広がる幅広部と、
前記幅広部よりも基端側において前記第2の方向に狭くなる幅狭部と、を有し、
前記幅広部は、
前記第1の方向に沿って切断した断面視において外側へ向かって凸状をなすように形成され、該外側へ向かうに従って先端側から基端側へ向かう部分を含み、
前記突出部材の平均高さは20μm以上150μm以下であり、
前記突出部材の平均高さと、前記感圧接着剤の平均厚さとの差は、100μm以下である、
布類貼付物品用の感圧接着ファスナー。
【請求項2】
綿布に対する動的せん断強度が7N/6.45cm
2以上である、請求項1に記載の感圧接着ファスナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一形態は、感圧接着ファスナー、ファスナー、吸収性物品、衣類貼付物品及び布類貼付物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣類などに物品を固定するために、感圧接着剤が広く用いられている。例えば、ナプキン又は軽失禁パッドなどといった吸収性物品は、感圧接着剤を介して下着などの衣類に固定される。また、特許文献1には、衣類に物品を剥離自在に取り付けることを企図した感圧接着ファスナーが記載されている。この感圧接着ファスナーは、感圧接着剤層から先端側が先細りとなるように尖った突出部材が突出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衣類や布類などに物品(ナプキンなど)を固定する場合、位置ずれを抑える、剥離時における衣類や布類へのダメージを抑える、剥離後に感圧接着剤が衣類や布類に残留すること(糊残り)を抑える、貼りなおしの容易性、といったことが期待される。この点、従来の感圧接着剤のみによる固定では位置ずれを抑えようとすると接着強度が強くなり、衣類や布類へのダメージ、糊残り、貼り直し等に影響を与えていた。また、例えば特許文献1に記載の感圧接着ファスナーによる固定では、着用中の位置ずれが生じる場合があった。従って、位置ずれを抑制し、剥離時における対象物へのダメージが小さく、剥離後の対象物への感圧接着剤の残留を低減し、且つ、貼りなおしをすることが容易に可能な感圧接着ファスナー及びファスナーが要請されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一形態における感圧接着ファスナーは、対象物と重ね合わせられることで当該対象物と連結する感圧接着ファスナーであって、対向する一対の面を有するシート基材と、シート基材の少なくとも一方の面に形成された感圧接着剤層と、シート基材の少なくとも一方の面から第1の方向へ突出すると共に、一方の面が広がる第2の方向において互いに離間して配列する複数の突出部材と、を備え、突出部材は、シート基材から第1の方向へ延びて、感圧接着剤層の表面から突出する柱部と、柱部の先端部から第2の方向へ突出し、対象物に挿入される挿入部と、を備えている。
【0006】
一形態に係る感圧接着ファスナーは、感圧接着剤層及び突出部材が形成された一方の面側を対象物と重ね合わせることにより、対象物と連結される。感圧接着ファスナーと対象物とが連結された状態では、感圧接着剤層が対象物と接合されることに加え、突出部材の柱部の一部及び挿入部が対象物(衣類や布類、例えば下着の綿布の編目、糸、繊維など)の隙間に入り込む。このように、突出部材が対象物に突き刺さるような態様となることで、感圧接着ファスナーと対象物との位置ずれを抑制することができる。また、このように位置ずれを抑制することができるので強力な接着剤を使う必要性が低下すること、及び/又は、突出部材が形成されているので当該突出部材が対象物と干渉し感圧接着剤層が対象物と過度に密着することが抑制されることにより、剥離後の対象物への感圧接着剤の残留を低減することができる。また、強力な接着剤を使う必要性が低下するため、及び/又は、突出部の形状が対象物に絡まるほどの形状ではないため、剥離時における対象物へのダメージが少ない。また、強力な接着剤を使う必要性が低下するため、及び/又は、接着する面積を少なくできるため、対象物に一度貼り付けた後に剥してから貼りなおしをすることも容易に行うことができる。
【0007】
一形態では、挿入部は、第2の方向における外周側の端部と、端部に対して柱部の先端側に設けられる第1の側面と、端部に対して柱部の基端側に設けられる第2の側面と、を備え、柱部の先端面と、挿入部の第1の側面とは、互いに連続した面を構成してよい。このような構造により、挿入部が柱部の先端面に近い位置に配置されるため、柱部の先端面が対象物に当接している状態において、挿入部が対象物の隙間に挿入され易くなる。従って、突出部材が対象物に突き刺さり易くなる。
【0008】
一形態では、柱部の先端面と、挿入部の第1の側面とは、互いに同一の平面を構成してよい。このような構成により、挿入部が柱部の先端面と同位置に配置されるため、柱部の先端面が対象物に当接している状態において、挿入部が対象物の隙間に挿入され易くなる。従って、突出部材が対象物に突き刺さり易くなる。
【0009】
一形態では、挿入部は、第2の方向における外周側の端部と、端部に対して柱部の先端側に設けられる第1の側面と、端部に対して柱部の基端側に設けられる第2の側面と、を備え、端部は、第1の側面と第2の側面との間の角部によって構成され、角部は、第1の方向に沿って切断した断面視において鋭角をなしていてよい。このような構成により、挿入部が鋭角をなす角部を有することで、対象物の隙間に挿入され易くなる。従って、突出部材が対象物に突き刺さり易くなる。
【0010】
一形態では、第2の側面は、第1の方向に沿って切断した断面視において内側へ向かって凹状をなすように形成されている。
【0011】
一形態では、挿入部は、第2の方向における外周側の端部と、端部に対して柱部の先端側に設けられる第1の側面と、端部に対して柱部の基端側に設けられる第2の側面と、を備え、第1の側面及び第2の側面の少なくとも一方は、第1の方向に沿って切断した断面視において外側へ向かって凸状をなすように形成してよい。 一形態では、綿布に対する動的せん断強度が7N/6.45cm2以上であってよい。このような構成により、位置ずれを抑制することができる。
【0012】
本発明の一形態における感圧接着ファスナーは、対象物と重ね合わせられることで当該対象物と連結する感圧接着ファスナーであって、対向する一対の面を有するシート基材と、シート基材の少なくとも一方の面に形成された感圧接着剤層と、シート基材の少なくとも一方の面から第1の方向へ突出すると共に、一方の面が広がる第2の方向において互いに離間して配列する複数の突出部材と、を備え、突出部材は、先端側において第2の方向に広くなる幅広部と、幅広部よりも基端側において第2の方向に狭くなる幅狭部と、を有し、幅広部の幅は250μm以下であり、幅狭部の幅は、幅広部の幅の95%以下であり、突出部材の平均高さ(シート基材からの)と、感圧接着剤の平均厚さ(シート基材からの)との差は、250μm以下である。
【0013】
一形態に係る感圧接着ファスナーは、感圧接着剤層及び突出部材を備えた一方の面を衣類などといった対象物と重ね合わせることにより、対象物と連結される。感圧接着ファスナーと対象物とが連結された状態では、感圧接着剤層が対象物と接合されることに加え、突出部材の上述のような構成を有する幅広部が対象物の隙間に入り込む。これにより、突出部材が対象物に突き刺さるような態様となることで、感圧接着ファスナーと対象物との位置ずれを抑制することができる。また、このように位置ずれを抑制することができるので強力な接着剤を使う必要性が低下すること、及び/又は、突出部材が形成されているので感圧接着剤層が対象物と過度に密着することが抑制されることにより、剥離後の対象物への感圧接着剤の残留を低減することができる。また、強力な接着剤を使う必要性が低下するため、及び/又は、突出部の形状が対象物に絡まるほどの形状ではないため、剥離時における対象物へのダメージが少ない。また、強力な接着剤を使う必要性が低下するため、及び/又は、接着する面積を少なくできるため、対象物に一度貼り付けた後に剥がしてから貼りなおしをすることも容易に行うことができる。
【0014】
本発明の一形態に係る吸収性物品は、感圧接着ファスナーを備えた吸収性物品。
【0015】
本発明の一形態に係る衣類貼付物品は、感圧接着ファスナーを備えた衣類貼付物品。
【0016】
本発明の一形態に係る布類貼付物品は、感圧接着ファスナーを備えた布類貼付物品。
【0017】
本発明の一形態に係るファスナーは、対象物と重ね合わせられることで当該対象物と連結するファスナーであって、対向する一対の面を有するシート基材と、シート基材の少なくとも一方の面から第1の方向へ突出すると共に、一方の面が広がる第2の方向において互いに離間して配列する複数の突出部材と、を備え、突出部材は、シート基材から第1の方向へ延びる柱部と、柱部の先端部から第2の方向へ突出し、対象物に挿入される挿入部とを備える、ファスナー。
【0018】
一形態では、挿入部は、第2の方向における外周側の端部と、端部に対して柱部の先端側に設けられる第1の側面と、端部に対して柱部の基端側に設けられる第2の側面と、を備え、端部は、第1の側面と第2の側面との間の角部によって構成され、角部は、第1の方向に沿って切断した断面視において鋭角をなしていてよい。
【0019】
これらの一形態に係るファスナーによれば、上述の感圧接着ファスナーと同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【0020】
本発明の一形態に係る吸収性物品は、ファスナーを備えた吸収性物品。
【0021】
本発明の一形態に係る衣類貼付物品は、ファスナーを備えた衣類貼付物品。
【0022】
本発明の一形態に係る布類貼付物品は、ファスナーを備えた布類貼付物品。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、位置ずれを低減し、剥離時における対象物へのダメージが小さく、剥離後の対象物への感圧接着剤の残留を低減し、且つ、物品の貼りなおしをすることが容易に可能な感圧接着ファスナーが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一実施形態に係る感圧接着ファスナーを備えたナプキンを示す図である。
【
図2】一実施形態に係る感圧接着ファスナーの一部を示す斜視図である。
【
図3】一実施形態に係る感圧接着ファスナーの一部を示す断面図である。
【
図4】(a)は突出部材の形状を示す斜視図であり、(b)はIV-IV線に沿った断面図である。
【
図5】一実施形態に係る感圧接着ファスナーの突出部材の変形例を示す図である。
【
図6】一実施形態に係る感圧接着ファスナーの突出部材の変形例を示す図である。
【
図7】一実施形態に係る感圧接着ファスナーの突出部材の変形例を示す図である。
【
図8】動的せん断強度を評価するための実験の結果を示す図である。
【
図9】静的せん断強度を評価するための実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付すこととする。
【0026】
図1は、本願発明の一形態に係る感圧接着ファスナーを備えたナプキンを示す図である。ナプキン1は、肌に対向し液透過性を有する表面1aと、衣類に対向し液不透過性である裏面1bと、裏面1bに設けられた感圧接着ファスナー100と、を備えている。
図1に示す例では、裏面1bの3つの領域に互いに離間して配置される感圧接着ファスナー100がそれぞれ設けられている。感圧接着ファスナー100が設けられる各領域の寸法は、1.5cm×5.7cm程度である。後述するように、感圧接着ファスナー100は、位置ずれ抑制効果が高いため、裏面1bの広い面に設ける必要性は低下している。なお、感圧接着ファスナー100を設ける領域の数、各領域の形状、及び各領域の寸法はこれに限定されず、任意に設計することができる。また、感圧接着ファスナー100が適用される物品はナプキンに限定されず、例えば、軽失禁パッド、カイロ(衣類に貼って使用するもの)、タグ(カーテン等に貼って使用するもの)等に対して適用されてもよい。ナプキンと軽失禁パッドを含めて吸収性物品とも呼ぶ。吸収性物品にさらに衣類に貼って使用するカイロ等を含めて衣類貼付物品とも呼ぶ。衣類貼付物品にさらにカーテン等に貼って使用するタグ等を含めて布類貼付物品とも呼ぶ。
【0027】
次に、
図2及び
図3を参照して、感圧接着ファスナー100の構造について説明する。
図2は、一実施形態に係る感圧接着ファスナー100の一部を示す斜視図である。また、
図3は、一実施形態に係る感圧接着ファスナー100の一部を示す断面図である。なお、説明のために、
図2及び
図3にはXYZ直交座標系が併せて示されている。
【0028】
感圧接着ファスナー100は、衣類などの対象物150と重ね合わせられることで当該対象物150と連結するものである。これによって、感圧接着ファスナー100は、ナプキン1を衣類などの対象物150に対して固定することができる。対象物150が綿布であった場合、感圧接着ファスナー100の綿布に対する動的せん断強度は、7N/6.45cm
2以上、又は8N/6.45cm
2以上、又は9N/6.45cm
2以上であってよい。
図2及び
図3に示すように、感圧接着ファスナー100は、シート基材110と、感圧接着剤層120と、複数の突出部材130と、を備えている。本実施形態では、突出部材130が突出する方向をZ軸方向(第1の方向)とする。また、Z軸方向と直交する方向をX軸方向とし、Z軸方向及びX軸方向と直交する方向をY軸方向とする。
【0029】
シート基材110は略シート状を呈しており、Z軸方向に互いに対向する第1面110a及び第2面110bを有している。このシート基材110は、XY軸平面方向(第2の方向)に広がっている。すなわち、第1面110a及び第2面110bは、XY軸平面方向に広がっている。このうち、第1面110aには複数の突出部材130が形成される。シート基材110は、例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)、ナイロン等のポリアミド、ポリ(スチレン-アクリロニトリル)、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)、ポリプロピレン等のポリオレフィン、可塑化塩ビ、ポリエステル等の樹脂材料から形成される。シート基材110の厚さは20μm~500μm、又は20μm~150μm程度である。
【0030】
感圧接着剤層120は、シート基材110の第1面110a及び第2面110bの両面に形成される。ここでは、第1面110aに形成される感圧接着剤層120を感圧接着剤層121とし、第2面110bに形成される感圧接着剤層120を感圧接着剤層122とする。感圧接着剤層121は、複数の突出部材130の間を埋めるように設けられている。感圧接着剤層121,122は、面110a,110bの略全面(ただし、突出部材130の位置を除く)を覆うように形成されている。なお、感圧接着剤層121と感圧接着剤層122とが異なる種類の感圧接着剤であってもよく、感圧接着剤層122がない場合もあり得る。また、製造工程や保管状況により突出部材130の側面や天面にも感圧接着剤が付着することはあり得る。感圧接着剤層121,122の材質として、例えば、天然ゴム/樹脂系、合成ゴム/樹脂系及びアクリレート系コポリマー等が採用される。感圧接着剤層121,122のそれぞれの厚さは、15μm~100μm、又は15μm~50μm程度である。
【0031】
突出部材130は、シート基材110の第1面110aからZ軸方向(第1の方向)へ突出する。また、突出部材130は、第1面110aが広がるXY平面方向(第2の方向)において互いに離間して配列している。ただし、配列はXY方向に直角な格子状に限らず、例えばXY方向に斜めの格子状、千鳥状、ランダムなど種々あり得る。突出部材130の材質として、例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)、ナイロン等のポリアミド、ポリ(スチレン-アクリロニトリル)、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)、ポリプロピレン等のポリオレフィン、可塑化塩ビ、ポリエステル等が採用される。なお、突出部材130は、シート基材110と同一の材質によって構成されて、当該シート基材110と一体的に形成されていてよい。あるいは、突出部材130は、シート基材110と異なる材質によって、別部材として構成されてよい。また、突出部材130が配列される密度は、例えば、1平方インチあたり500~5000個程度、又は1600~3500個程度とすることができる。
【0032】
突出部材130は、感圧接着剤層121のZ軸方向正側の表面121aよりも当該Z軸方向正側に突出している。突出部材130の平均高さは500μm以下であってよく、あるいは300μm以下、あるいは150μm以下、あるいは100μm以下であってもよい。突出部材130の平均高さは20μm以上であってよく、あるいは40μm以上であってもよい。突出部材130の平均高さ(シート基材110から測った)と、感圧接着剤層121の平均厚さ(シート基材110から測った)との差(言い換えると、突出部材130のZ方向正側の天面と感圧接着剤層121のZ軸方向正側の表面121aとのZ軸方向での距離)は、250μm以下であってよく、あるいは200μm以下、あるいは150μm以下、あるいは100μm以下、あるいは50μm以下、あるいは30μm以下であってよい。突出部材130の平均高さと、感圧接着剤層121の平均厚さとの差は、10μm以上であってよく、あるいは20μm以上であってよい。なお、この差は突出部材130の大きさや密度、感圧接着剤の材質や厚さ、対象物の種類などの種々の要因によって発明の趣旨の範囲内で最終決定される。また、感圧接着ファスナー100中の全ての突出部材130の高さは同一(製造誤差の範囲の変動は許容される)であってもよく、一部の領域と他の領域とで高さが異なっていてもよい。
【0033】
突出部材130は、柱部131と、挿入部132と、を備えている。柱部131は、シート基材110からZ軸方向へ延びて、感圧接着剤層121の表面121aから突出する部分である。挿入部132は、柱部131の先端部131aからXY平面方向へ突出し、対象物150に挿入される部分である。なお、感圧接着ファスナー100中の全ての突出部材130の柱部131及び挿入部132の形状は同一(製造誤差の範囲の変動は許容される)であってもよく、一部の領域と他の領域とで形状が異なっていてもよい。
【0034】
次に、
図4を参照して、突出部材130の形状の一形態についてさらに詳細に説明する。
図4(a)は突出部材130を示す斜視図であり、
図4(b)は
図4(a)に示すIV-IV線に沿った断面図である。
図4に示すように、突出部材130は、Z軸方向に延びる中心軸線CL周りに軸対称な形状を有している。
【0035】
図4(b)に示すように、本実施形態に係る柱部131は、側面131bが中心軸線CLに対して傾斜した状態で真っ直ぐ延びる円錐台形状をなしている。ただし、柱部131は、Z軸方向に延びる構成であれば、特に形状は限定されない。例えば、柱部131は、Z軸方向に延びる円柱状をなしていてもよい。あるいは、柱部131は、その側面131bがZ軸方向に沿って湾曲、又は多段状に変化するような形状を有していてもよい。変形例の詳細については後述する。
【0036】
柱部131は、Z軸方向正側における端面として、先端面131cを有している。本実施形態に係る先端面131cは、XY平面方向に平行に広がる平面をなしている。なお、先端面131cの形状は、突出部材130の対象物150に対する固定性に影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、先端面131cは、中心軸線CL側へ向かうに従ってZ軸方向正側(又は負側)へ配置されるように傾斜又は湾曲する形状であってもよい。あるいは、一部の領域が傾斜又は湾曲し、他の部分が平面であってもよい。変形例の詳細については後述する。
【0037】
挿入部132は、XY平面方向における外周側の端部132aと、端部132aに対して柱部131の先端側に設けられる第1の側面132bと、端部132aに対して柱部131の基端側に設けられる第2の側面132cと、を備えている。
【0038】
挿入部132は、柱部131と一体的に形成されることで境界部(柱部131と挿入部132との間の境界部)140が目視できない態様で構成されてもよい。本実施形態では、境界部140は目視できないものとして、破線で示されている。あるいは、挿入部132は、柱部131とは別部材として形成されて、当該別部材を柱部131に接合することで、境界部140を目視できる態様で構成されてよい。
【0039】
突出部材130の側面は、基端側からZ軸方向の正側に向かうに従って先細りとなると共に、点TPを境にして、Z軸方向の正側へ向かうに従って広がる形状をなしている。突出部材130側面のうち、点TPより基端側の部分は柱部131の側面131bに対応し、点TPよりも先端側の部分は、挿入部132の第2の側面132cに対応する。ここで、
図4(b)に示す例においては、柱部131の側面131bをそのまま延長させた傾斜する直線を境界部140として設定している。従って、当該境界部140の外周側の部分が挿入部132に対応し、当該境界部140の内周側の部分が柱部131に対応する。また、突出部材130の先端面においては、境界部140の外周側の部分が挿入部132の第1の側面132bに対応し、境界部140の内周側の部分が柱部131の先端面131cに対応する。このように、境界部140は、柱部131の形状パターン(ここでは、先細りとなるように真っ直ぐ延びるパターン)と同様の形状パターンとなるように設定してよい。ただし、境界部140の設定は任意であり、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更してよい。例えば、点TPからZ軸と平行に真っ直ぐに延ばした直線を境界部140と設定してもよく、このような場合であっても、挿入部132の機能が変化するものではない。
【0040】
図4(b)に示すように、第1の側面132bは、柱部131の先端面131cをそのまま外周側へ延長させた平面によって構成されている。これにより、第1の側面132bは、柱部131の先端面131c(天面ともいう)と、互いに連続した面を構成する。ここでは、第1の側面132bは、柱部131の先端面131cと、同一の平面を構成する(製造誤差の範囲の変動は許容される)。なお、第1の側面132bの形状は特に限定されず、傾斜する傾斜面であってもよく、湾曲する湾曲面であってもよく、複数の傾斜面が段階的に変化する面であってもよい。詳細な変形例については後述する。また、第1の側面132bは、柱部131の先端面131cと連続した面でなくともよい。例えば、第1の側面132bと先端面131cとの間に溝部などが形成されていてもよく、段差部が形成されていてもよい。
【0041】
第2の側面132cは、点TPからZ軸方向の正側へ向かうに従って、一定の傾斜角で真っ直ぐに外周側へ広がっている。本実施形態のように、第1の側面132bがXY平面方向と平行な平面をなしている場合、第2の側面132cの傾斜角(第1の側面132bに対してなす角度)は、鋭角、又は0.1~89.9°、又は1~80°、又は3~70°に設定してよい。なお、第1の側面132bの形状は特に限定されず、湾曲する湾曲面であってもよく、複数の傾斜面が段階的に変化する面であってもよい。詳細な変形例については後述する。
【0042】
端部132aは、挿入部132のうち、XY平面方向における外周側のピークを構成する箇所である。本実施形態では、端部132aは、第1の側面132bと第2の側面132cとの間の角部によって構成される。従って、端部132aは、挿入部132のうち、最も外周側に配置される箇所となる。また、端部132aを構成する角部は、Z軸方向に沿って切断(Z軸方向に延びて中心軸線CLを含む平面で切断)した断面視において鋭角をなしている。なお、端部132aは、角部によって構成されていなくともよい。また、断面視において、端部132aは点で示されているが、最も外周側に配置されている箇所であればよいので、中心軸線CLと平行な直線によって構成されてもよい。ただし、この場合、挿入部132が対象物の表面に挿入可能な程度に端部132aの直線(中心軸線CLと平行な直線)が小さいことが好ましい。詳細な変形例については後述する。
【0043】
ここで、端部132aのZ軸方向における位置について説明する。端部132aは、柱部131の先端になるべく近い位置に配置されていることが好ましい。このような構成とすると、突出部材130を対象物150に当接させた場合に、挿入部132のうち端部132a付近の部分が対象物150の隙間に挿入され易くなる。一方、挿入部132の端部132aが柱部131の先端からZ軸方向の負側に離間した位置に配置されていた場合、挿入部132が対象物150の隙間に挿入され難くなる、あるいは挿入できなくなる。従って、柱部131の先端から所定の範囲の領域を先端部131aとして設定した場合に、端部132aは、Z軸方向において、先端部131aとして設定される領域内に配置されていることが好ましい。例えば、柱部131の先端(Z軸方向の正側におけるピークである。本実施形態では先端面131c全体がピークに該当する。)を通過すると共にXY平面方向と平行な直線を基準線SL1とする。当該基準線SL1からZ軸方向の負側へ所定寸法だけ離間した位置に、XY平面方向と平行な基準線SL2を設定する。基準線SL1と基準線SL2との間の領域が先端部131aとして設定される。なお、対象物150が綿布である場合、先端部131aのZ軸方向の寸法は、100μm以下、あるいは75μm以下、あるいは50μm以下、あるいは25μm以下としてもよい。なお、挿入部132のZ軸方向の負側の大きさは、性能に影響を及ぼさない範囲で特に限定されない。図においては挿入部132のZ軸方向の負側の端部である点TPが基準線SL2よりもZ軸方向の正側に配置されているが、基準線SL2上に配置されてもよく、基準線SL2よりもZ軸方向の負側に配置されてもよい。
【0044】
また、以上のように構成された突出部材130は、先端側においてXY平面方向に広くなる幅広部146と、幅広部146よりも基端側においてXY平面方向に狭くなる幅狭部147と、を有している。本実施形態では、挿入部132の端部132aが形成されている位置に幅広部146が形成される。また、挿入部132と柱部131との間の位置(点TPの位置)に幅狭部147が形成される。幅広部146の幅W1は250μm以下であってよく、あるいは200μm以下、あるいは150μm以下、あるいは100μm以下であってもよい。幅狭部147の幅W2は、幅広部146の幅W1の95%以下であってよく、又は90%以下、又は85%以下であってよい。幅狭部147の幅W2は、幅広部146の幅W1の20%以上であってもよく、あるいは35%以上であってもよく、あるいは50%以上であってよく、あるいは60%以上、あるいは70%以上であってよい。
【0045】
次に、感圧接着ファスナー100の製造方法について説明する。まず、シート基材110と突出部材130の原型とを一体成型する。この突出部材130の原型(例えば柱状のもの)に圧力をかけるなどの加工を施し、突出部材130を成形する。または、シート基材110と突出部材130とを一段階で一体成型してもよい。次に、シート基材110の第1の面110a及び第2の面110bに感圧接着剤層121,122を形成する(特許文献1として挙げた特開平2-298569号公報も参照)。この場合、感圧接着剤層を上(Z方向)から投入してもよいし、横(XY方向)から投入してもよいし、斜めなど他の方向から投入してもよい。
【0046】
次に、本実施形態に係る感圧接着ファスナー100の作用・効果について説明する。
【0047】
本実施形態に係る感圧接着ファスナー100は、感圧接着剤層121及び突出部材130を備えた一方の面110a側を対象物150と重ね合わせることにより、対象物150と連結される。感圧接着ファスナー100と対象物150とが連結された状態では、感圧接着剤層121が対象物150と接合されることに加え、突出部材130の柱部131の一部及び挿入部132が対象物150の隙間に入り込む。これにより、突出部材130が対象物150に突き刺さるような態様となることで、感圧接着ファスナー100と対象物150との位置ずれを抑制することができる。また、このように位置ずれを抑制することができるので強力な接着剤を使う必要性が低下すること、及び/又は、突出部材130が形成されているので当該突出部材130が対象物150と干渉し感圧接着剤層121が対象物150と過度に密着することが抑制されることにより、剥離後の対象物150への感圧接着剤の残留を低減することができる。また、強力な接着剤を使う必要性が低下するため、及び/又は、突出部の形状が対象物に絡まるほどの形状ではないため、剥離時における対象物150へのダメージが少ない。また、強力な接着剤を使う必要性が低下するため、及び/又は、接着する面積を少なくできるため、対象物150に一度貼り付けた後に剥がしてから貼りなおしをすることも容易に行うことができる。
【0048】
また、本実施形態に係る感圧接着ファスナー100では、挿入部132は、XY平面方向における外周側の端部132aと、端部132aに対して柱部131の先端側に設けられる第1の側面132bと、端部132aに対して柱部131の基端側に設けられる第2の側面132cと、を備えている。柱部131の先端面131cと、挿入部132の第1の側面132bとは、互いに連続した面を構成している。このような構造により、挿入部132が柱部131の先端面131cに近い位置に配置されるため、柱部131の先端面131cが対象物150に当接している状態において、挿入部132が対象物150の隙間に挿入され易くなる。従って、突出部材130が対象物150に突き刺さり易くなる。
【0049】
また、本実施形態に係る感圧接着ファスナー100では、柱部131の先端面131cと、挿入部132の第1の側面132bとは、互いに同一の平面を構成している。このような構成により、挿入部132が柱部131の先端面131cと同位置に配置されるため、柱部131の先端面131cが対象物150に当接している状態において、挿入部132が対象物150の隙間に挿入され易くなる。従って、突出部材130が対象物150に突き刺さり易くなる。
【0050】
また、本実施形態に係る感圧接着ファスナー100では、端部132aは、第1の側面132bと第2の側面132cとの間の角部によって構成される。角部は、Z軸方向に沿って切断した断面視において鋭角をなしている。このような構成により、挿入部132が鋭角をなす角部を有することで、対象物150の隙間に挿入され易くなる。従って、突出部材130が対象物150に突き刺さり易くなる。
【0051】
次に、
図5~
図7を参照して、変形例に係る感圧接着ファスナーの突出部材の形状について説明する。
【0052】
図5(a)に示す突出部材130Aは、柱部131の側面131b及び挿入部132の第2の側面132cの形状が、
図4(b)に示す突出部材130と主に相違している。その他の構成については同趣旨であるため説明を省略する。
【0053】
図5(a)に示す突出部材130Aにおいて、Z軸方向に沿って切断した断面視において、突出部材130Aの側面は内側に向かって凹状をなすような円弧状をなしている。ここでは、当該円弧上の所定の点に対して接線を引き、当該接線がZ軸方向に平行となる場合の接点を点TPとする。従って、点TPからZ軸方向に平行に延びる直線を境界部140とする。当該構成により、柱部131の側面131b及び第2の側面132cは、Z軸方向に沿って切断した断面視において内側へ向かって凹状をなすように形成されている。
図5(a)に示す例において、端部132aを構成する角部は、Z軸方向に沿って切断した断面視において鋭角をなしている。
【0054】
図5(b)に示す突出部材130Bは、柱部131の側面131b及び挿入部132の第2の側面132cの形状が、
図4(b)に示す突出部材130と主に相違している。その他の構成については同趣旨であるため説明を省略する。
【0055】
図5(b)に示す突出部材130Bでは、Z軸方向に沿って切断した断面視において、突出部材130Bの側面のうち、柱部131の側面131bは真っ直ぐに延びており、挿入部132の第2の側面132cは、内側に向かって凹状をなすような円弧状をなしている。ここでは、側面131bを延長した線によって境界部140が設定される。側面の広がりが顕著となる部分を点TPとする。従って、点TPからZ軸方向に平行に延びる直線を境界部140とする。
図5(b)に示す例において、端部132aを構成する角部は、Z軸方向に沿って切断した断面視において鋭角をなしている。
【0056】
このように、
図5(a)のように側面の131bの形状が広がっていても(すそ広がり)、
図5(b)のように広がっていなくともよい。この点は
図4、6、7に挙げた例についても同様である。
【0057】
図6(a)に示す突出部材130Cは、柱部131の側面131b及び挿入部132の第2の側面132cの形状が、
図4(b)に示す突出部材130と主に相違している。その他の構成については同趣旨であるため説明を省略する。
【0058】
図6(a)に示す突出部材130Cでは、Z軸方向に沿って切断した断面視において、突出部材130Cの側面のうち、柱部131の側面131bはZ軸方向に真っ直ぐに延びており、挿入部132の第2の側面132cは、Z軸方向に沿って切断した断面視において、外側へ向かって凸状をなすように形成されている。すなわち、第2の側面132cは、外側へ向かって凸状をなすように湾曲している。ここでは、側面131bを延長した線によって境界部140が設定される。側面の広がりが顕著となる部分を点TPとする。従って、点TPからZ軸方向に平行に延びる直線を境界部140とする。
図6(a)に示す例において、端部132aを構成する角部は、Z軸方向に沿って切断した断面視において鋭角をなしている。
【0059】
図6(b)に示す突出部材130Dは、柱部131の側面131bと第2の側面132cの形状が、
図4(b)に示す突出部材130と主に相違している。その他の構成については同趣旨であるため説明を省略する。
【0060】
図6(b)に示す突出部材130Dにおいて、Z軸方向に沿って切断した断面視において、突出部材130Dの側面のうち、柱部131の側面131bはZ軸方向に真っ直ぐに延びている。ここでは、側面131bを延長した線によって境界部140が設定される。側面の径が拡大する基端となる部分を点TPとする。従って、点TPからZ軸方向に平行に延びる直線を境界部140とする。
図6(b)に示す例において、端部132aを構成する角部は、Z軸方向に沿って切断した断面視において鋭角をなしている。
【0061】
図7(a)に示す突出部材130Eは、柱部131の側面131b、挿入部132の第1の側面132b、及び第2の側面132cの形状が、
図4(b)に示す突出部材130と主に相違している。その他の構成については同趣旨であるため説明を省略する。
【0062】
図7(a)に示す突出部材130Eでは、Z軸方向に沿って切断した断面視において、突出部材130Eの側面のうち、柱部131の側面131bはZ軸方向の正側へ向かうに従って先細りとなるように延びており、挿入部132の第2の側面132cは、Z軸方向に沿って切断した断面視において、外側へ向かって凸状をなすように形成されている。すなわち、第2の側面132cは、外側へ向かって凸状をなすように湾曲している。また、挿入部132の第1の側面132bは、Z軸方向に沿って切断した断面視において、外側へ向かって凸状をなすように形成されている。すなわち、第1の側面132bは、外側へ向かって凸状をなすように湾曲している。ここでは、側面131bを延長した線によって境界部140が設定される。側面の広がりが顕著となる部分を点TPとする。従って、点TPからZ軸方向に平行に延びる直線を境界部140とする。
【0063】
図7(b)に示す突出部材130Fは、柱部131の側面131b、挿入部132の第1の側面132b、及び第2の側面132cの形状が、
図4(b)に示す突出部材130と主に相違している。その他の構成については同趣旨であるため説明を省略する。
【0064】
図7(b)に示す突出部材130Fでは、Z軸方向に沿って切断した断面視において、突出部材130Fの側面のうち、柱部131の側面131bは、基端側においてはZ軸方向の正側へ向かうに従って先細りとなるように延びており、先端側においてはZ軸方向の正側へ向かうに従って広がるように延びている。第1の側面132b及び第2の側面132cは、XY平面方向における外周側へ向かうに従って、先端側から基端側へ向かう部分(ただし小幅)を有している。ここでは、側面131bを延長した線によって境界部140が設定される。側面の広がりが顕著となる部分を点TPとする。従って、点TPからZ軸方向に平行に延びる直線を境界部140とする。
[実施例]
【0065】
以下、本発明の一形態に係る感圧接着ファスナーを評価するために行った実験について説明する。
[動的せん断強度の評価実験]
【0066】
この実験は、一般的な感圧接着剤を備えた市販のナプキン、及び、本願発明に係る感圧接着ファスナーについて、対象物に貼付けた際の動的せん断強度を計測した実験である。動的せん断強度によって、感圧接着ファスナーの位置ずれ抑制効果を評価するための実験である。
【0067】
この実験では、先行技術文献である特開平2-298569号公報の第IV表に記載されている実施例7及び実施例8を比較例1及び比較例2とした。また、比較例3として市販のナプキンの感圧接着剤が設けられている部分を2.54×2.54cmにカットした試験片を準備した。また、実施例として、比較例3と同じ大きさの感圧接着ファスナーを試験片として準備した。この感圧接着ファスナーは、
図4に示す構成を有しており、突出部材の寸法は、高さ約80μm、W1:約200μm、W2:約160μmであり、端部132aを構成する角部は鋭角(Z軸方向に沿って切断した断面視において)であった。また、感圧接着剤層として、合成ゴム/樹脂系の材質を採用し、厚さは約30μmであった。すなわち、突出部材の高さ(シート基材から測った)と、感圧接着剤層の厚さ(シート基材から測った)との差が約50μmであった。さらに、対象物として、被着体布を準備した。
【0068】
まず、被着体布の6.35×15.2cmの片を鋼製パネルの2端に取り付けた。2.54cm平方の試験片を被着体布に配置し、2.0kgのロールを2回転がして圧着した。試験片を引張試験機にセットし、12.7cm/minのクロスヘッド速度で測定を行った。これにより、試験片と被着体布との間でせん断接着破壊を起こすのに要する力(動的せん断強度)を測定した。
【0069】
図8は動的せん断強度の測定結果を示す図である。
図8において、比較例1及び比較例2のデータは、先行技術文献である特開平2-298569号公報の第IV表に記載されている実施例7及び実施例8の数値を引用したものである。これにより、感圧接着ファスナー100と特開平2-298569号公報に記載されている感圧接着テープファスナーとを比較することができる。比較例1及び比較例2の動的せん断強度はそれぞれ520g/6.45cm
2(5.096N/6.45cm
2)および500g/6.45cm
2(4.9N/6.45cm
2)であった。これに対し、実施例における動的せん断強度は927g/6.45cm
2(9.085N/6.45cm
2)であった。この結果より、先行技術文献に記載の感圧接着テープファスナーに比べ、感圧接着ファスナー100は位置ずれを抑制する効果が高いことが確認された。また、比較例3における動的せん断強度とも遜色ないレベルであった。この結果より、感圧接着ファスナー100は、位置ずれを抑制するための十分な動的せん断強度を有していることが確認された。なお、g(g重)からNへの変換は1g重=0.0098Nの関係式により可能である。
[静的せん断強度の評価実験]
【0070】
この実験は、一般的な感圧接着剤を備えた市販のナプキン、及び、本願発明に係る感圧接着ファスナーを対象物に貼付けた際の静的せん断強度を計測した実験である。静的せん断強度によって、感圧接着ファスナーの位置ずれ抑制効果を評価するための実験である。
【0071】
この実験では、比較例として、前述の比較例3と同様に、市販のナプキンの感圧接着剤が設けられた領域を3×3cmにカットした試験片を準備した。また、実施例として、3×3cmの感圧接着ファスナー(動的せん断強度の評価の実施例で用いたものと同様の構成を備える)を試験片として準備した。被着体布として、8×6cmの綿100%の布を使用した。
【0072】
静的せん断強度を測定するために、試験台の上に被着体布を固定し、当該被着体布の上に試験片を静置した。試験片の上には、3×3cmのコルク材を介して垂直抗力の荷重をかけるためのおもりが乗せられている。また、試験片には、引張荷重をかけるためのおもりを乗せるカゴが糸を介して繋がれている。このように試験片をセットした後、コルク材を用いて3g/cm2の圧力で試験片と被着体布を圧着し1分間放置した。その後、カゴにおもりを乗せ、糸を介して試験片に230gの荷重をかけた。1分間以内に試験片が動かない場合には、おもりを20gずつ追加していき、1分間以内に試験片が動いた時の引張荷重を測定した。なお、ここで「動く」とは、僅かなずれが生じることではなく、比較例及び実施例が落下することを意味する。
【0073】
図9は静的せん断強度の測定結果を示す図である。比較例における静的せん断強度は470g/9cm
2(4.606N/9cm
2)であった。これに対し、実施例における静的せん断強度は870g/9cm
2(8.526N/9cm
2)であった。この結果より、感圧接着ファスナーは、一般的な感圧接着剤よりも強い静的せん断強度を有していることが確認された。なお、g(g重)からNへの変換は1g重=0.0098Nの関係式により可能である。
[対象物表面へのダメージの評価実験]
【0074】
この実験は、一般的な感圧接着剤を備えた市販のナプキン、及び、本願発明に係る感圧接着ファスナーを備えたナプキンの剥離後における、対象物表面へのダメージを評価した実験である。
【0075】
この実験では、比較例として前述と同様の市販のナプキン(比較例のナプキン)を準備した。また、上述の実施例に係る感圧接着ファスナーを備えたナプキン(実施例のナプキン)を準備した。実施例のナプキンの全体の寸法は、長手方向においては約22.5cm、短手方向においては、約9.2cmである。また、実施例の感圧接着ファスナーをナプキンに貼り付けるための感圧接着剤の寸法は、ナプキンの長手方向においては1.5cm、ナプキンの短手方向においては5.7cmである。感圧接着ファスナーは、ナプキンにおいて所定の間隔を開けている(
図1参照)。比較例のナプキンの裏面の感圧接着剤の領域は、長手方向においては15cm、短手方向においては5.7cmであった。さらに、ナプキンを貼付ける対象として、被着体布を2つ準備した。被着体布は綿100%の布であり、その寸法は、長手方向においては20cm、短手方向においては7cmである。
【0076】
対象物へのダメージの評価を行うために、まず、ナプキンを被着体布に貼付け、二枚の金属板でナプキン及び被着体布を挟み込んだ。その後、平均約36g/cm2の圧力がかかるように上側の金属板上におもりを乗せた。この状態でナプキン及び被着体布は、温度40℃、湿度80%の条件下で24時間放置した。その後、室温条件下で、T字剥離を行った。T字剥離には、引張試験機(A&D Company,Limited TENSILON RTG-1225)を使用した。引張試験機の上側チャックには被着体布を固定し、下側チャックには各ナプキンを固定した状態で、30cm/minの一定速度で剥離を行った。T字剥離を行った後、光学マイクロスコープ(キーエンス、VHX1000)を用いて、25倍の倍率で各被着体布の剥離された面を観察した。剥離後の被着体布における繊維の毛羽立ちの高さを計測し、被着体布へのダメージとして評価した。
【0077】
計測の結果、比較例のナプキンを剥離した後の被着体布における毛羽立ちは平均1.2mmであった。また、実施例のナプキンを剥離した後の被着体布における毛羽立ちは平均0.8mmであった。これらの結果から、一般的な感圧接着剤に比べ、感圧接着ファスナーは対象物へのダメージが少ないことが確認された。
[初期接着力及び貼付けエイジング後接着力の評価実験]
【0078】
この実験は、一般的な感圧接着剤を備えた市販のナプキン、及び、本願発明に係る感圧接着ファスナーを備えたナプキンにおける、初期接着力(貼り合わせ直後の接着力)を測定した実験である。また、各ナプキンにおける貼合わせエイジング後の接着力を測定し、貼り合わせ直後の接着力との関係性を検証するために行われたものである。
【0079】
この実験では、「[対象物表面へのダメージの評価実験]」と同様なナプキンをそれぞれ2つずつ準備した。ナプキンを貼付ける対象として、被着体布を4つ準備した。各被着体布は綿100%の布であり、その寸法は、長手方向においては22.5cm、短手方向においては7cmである。
【0080】
初期接着力の測定のため、被着体布の長手方向における一端が、各ナプキンの長手方向における一端から3cm延出するように、被着体布を貼付けた。次に、重さが210g、45mm幅の圧着ローラーを用いて、被着体布が貼付けられたナプキンを金属板の上で一往復で圧着した。圧着を行った直後に、各ナプキンにおける初期接着力の測定を行った。測定には、引張試験機(A&D Company,Limited TENSILON RTG-1225)を使用した。引張試験機の上側チャックには被着体布を、下側チャックには各ナプキンを固定し、30cm/minの一定速度でT字剥離し、剥離時の力を計測した。このとき、ハンドサポートは無しとした。
【0081】
貼合わせエイジング後の接着力の測定のため、上述の実験と同様、ナプキンに被着体布を貼付けた。次に、重さが2kg、65mm幅の圧着ローラーを使用して、被着体布が貼付けられた各ナプキンを金属板の上で一往復で圧着した。次に、各ナプキンを金属板で挟み、当該金属板上におもりを均等に分散させて乗せ、温度40℃、湿度80%の条件下で24時間放置した。なお、この工程では、各ナプキンに平均約36g/cm2の圧力を加えている。その後、室温条件下で、初期接着力の測定と同様に引張試験機を用いてT字剥離を行い、剥離時の力を計測した。このとき、ハンドサポートは無しとした。
【0082】
比較例のナプキンの貼合わせエイジング後の接着力は、貼合わせ直後の接着力に比べて大幅に大きくなっていた(貼合わせ直後:約0.2N/57mmに対してエイジング後:約5N/57mm)。実施例のナプキンの貼合わせエイジング後の接着力は貼合わせ直後の接着力に比べてやはり大きくなっていたものの、接着力の増加は抑制されていた(貼合わせ直後:約0.2N/57mmに対してエイジング後:約2N/57mm)。市販のナプキンでは、貼合わせた状態が継続すると接着力が大幅に増大して糊残りなどの要因になると考えられるのに対し、感圧接着ファスナーを備えたナプキンでは、まず突出部材によって位置ずれが抑えられるので接着力がそれほど強くある必要がなく、また、突出部材があることにより貼合わせた状態が継続することによる接着力の増加が抑制され、これらによって糊残りを比較的小さく抑えられるものと推定される。
[感圧接着剤の残留の評価実験]
【0083】
この実験は、ナプキンの被着体布への感圧接着剤の残留を評価した実験である。この実験では、比較例として前述の実験と同じ種類の市販のナプキンを準備した。また、実施例として、前述の実験と同じ感圧接着ファスナーを備えたナプキンを準備した。また、被着体布として、市販の下着(サニタリーショーツ)をカットしたものを準備した。
【0084】
感圧接着剤の残留を評価するために、まず、ナプキンと被着体布とを貼合わせた。次に、2枚の金属板でナプキンと被着体布を挟み込み、平均約36g/cm2の圧力をかけた状態で、温度40℃、湿度80%の条件下で24時間放置した。その後、温度40℃、湿度80%の条件下において、約50cm/minの速度でナプキンを被着体布から剥離し、目視と指触で被着体布への感圧接着剤の残留の有無を評価した。
【0085】
実験の結果、比較例のナプキンを貼合わせた被着体布では、感圧接着剤の残留が確認された。これに対し、実施例のナプキンを貼合わせた被着体布では、感圧接着剤の残留は見られなかった。
【0086】
以上、本発明の実施に好適な形態の例を説明したが、サイズ、材質、貼り付け方、用途など、本発明の趣旨の範囲内で変更可能である。
【0087】
また、流通経路において、いわゆる川上側の企業からは突出部材130とシート基材110の構成で感圧接着剤を含まない部品(ファスナーとも呼ぶ)として流通し、ユーザ側に近いいわゆる川下側のナプキンなどを製造する企業において感圧接着剤層121や122を付加されてナプキンなどの最終製品になる場合もあり得る。また、感圧接着剤層121を突出部材130の間に塗布することが省スペースの点で望ましいが、感圧接着剤層121の領域と突出部材130の領域とを並べて設ける(隣接を含む)ことも可能である。
【符号の説明】
【0088】
1…ナプキン、100…感圧接着ファスナー、110…シート基材、120,121,122…感圧接着剤層、130,130A,130B,130C,130D,130E,130F…突出部材、131…柱部、131c…先端面、132…挿入部、132a…端部、132b…第1の側面、132c…第2の側面、140…境界部、146…幅広部、147…幅狭部。