(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】神経障害の検出および一般的認知能力の測定のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20240226BHJP
A61B 3/113 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B3/113
(21)【出願番号】P 2020547480
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(86)【国際出願番号】 IL2018051316
(87)【国際公開番号】W WO2019106678
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-09-15
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522375198
【氏名又は名称】ビューマインド・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヘラルド・アベル・フェルナンデス
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0022137(US,A1)
【文献】特表2016-523112(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0255766(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0022136(US,A1)
【文献】Registering eye movements during reading in Alzheimer's disease: difficulties in predicting upcoming words,J Clin Exp Neuropsychol,2014年,36,302-316
【文献】Eye Movement Alterations During Reading in Patients With Early Alzheimer Disease,Invest Ophthalmol Vis Sci,2013年,54,8345-8352
【文献】Ocular motor measures of cognitive dysfunction in multiple sclerosis II working memory,Journal of Neurology,2015年,262
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 3/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼球運動を測定することによって被検者における1つまたは複数の
認知障害を検出するためのシステムであって、
前記認知障害が、前頭葉、側頭葉、および/または頭頂葉の変質を含み、眼球運動の前記測定が、前記被検者が読んでいる間に行われ、前記システムが、
a. 被検者[5]がテキスト[15]を読んでいる間、前記被検者[5]の眼球運動を監視するように構成された、アイトラッカー[10]と、
b. 前記被検者[5]が前記テキスト[15]を読んでいる間、前記アイトラッカー[10]からデータを受け取るように構成された、プロセッサ[20]と、
c. 前記プロセッサ[20]から受け取ったテストレポート[50]を表示するように構成された表示手段[40]と
を備え、
前記プロセッサ[20]が、1つ
または複数の
認知低下の根拠について視線追跡データを分析
し、インテリジェントアルゴリズムを適用することと、前記被検者[5]の
ワーキングメモリ、想起記憶、実行過程、および注意過程のうちの少なくとも1つを含む特定の認知領域における認知低下の検出また
は測定を、前記テストレポート[50]において報告することとを行うようにさらに構成される、システム。
【請求項2】
前記プロセッサが、前記アイトラッカーから前記視線追跡データを受け取ると、
a. 前記テキストを読んでいる間、被検者の視線固定の総数をカウントすることと、
b. 読んでいるときの前記被検者の視線固定の前記総数が対照群を上回る場合、注意過程における低下が検出されることを前記テストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサが、前記アイトラッカーから前記視線追跡データを受け取ると、
a. 前記テキストを読んでいる間、前記被検者の前方視線固定の数をカウントすることと、
b. 前記被検者の前方視線固定の前記数が対照群を下回り、読んでいるときの前記被検者の視線固定の前記数が前記対照群を上回る場合、ワーキングメモリにおける低下が検出されることを前記テストレポート[50]において報告することと
を行うようにさらに構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサが、前記アイトラッカーから前記視線追跡データを受け取ると、
a. 前記テキストを読んでいる間、前記被検者が一度だけ固視した語の数をカウントすることと、
b. 前記被検者が一度だけ固視した語の前記数が対照群を下回る場合、想起記憶における低下が検出されることを前記テストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサが、前記アイトラッカーから前記視線追跡データを受け取ると、
a. 前記テキストを読んでいる間、前記被検者の複数の視線固定の数をカウントすることと、
b. 複数の視線固定の前記数が対照群を上回る場合、実行過程における低下が検出されることを前記テストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記プロセッサが、前記アイトラッカーから前記視線追跡データを受け取ると、
a. 1つの視線固定から次の視線固定までの平均サッケード振幅を算出することと、
b. 1つの視線固定から次の視線固定までの前記平均サッケード振幅が対照群を下回る場合、実行過程における低下が検出されることを前記テストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記被検者の瞳孔径を測定するための手段[17]をさらに備え、前記プロセッサが、
a. 前記テキストを読んでいる前記被検者の前記瞳孔径を追跡することと、
b. 前記被検者の前記瞳孔径が前記テキストを読み進めるにつれて縮小を示さない場合、実行過程における低下が検出されることを前記テストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記インテリジェントアルゴリズムが、少なくとも1つの入力を読み取るように構成され、前記入力が、以下からなる群から選択される、請求項
1に記載のシステム。
a. 前記テキストを読んでいる間の被検者の視線固定の総数のインデックス。
b. 前記テキストを読んでいる間の前記被検者の前方視線固定のインデックス。
c. 前記テキストを読んでいる間、前記被検者が一度だけ固視した語のインデックス。
d. 前記テキストを読んでいる間の前記被検者の複数の視線固定のインデックス。
e. 1つの視線固定から次の視線固定までの平均サッケード振幅。
f. 前記テキストを読んでいる前記被検者の瞳孔径。
g. 左眼、右眼による、または両眼から得られる瞬きのインデックス。
h. マイクロサッケードのフォームファクタ(FF)、すなわち
i. HEWI:マイクロサッケードの高さ/幅の関係を示す。
ii. AREA:マイクロサッケードが内接する矩形の面積を示す
iii. LONG:マイクロサッケードの水平-垂直面の軌跡の長さである。
iv. ANG:マイクロサッケードの水平-垂直面におけるすべての角度の合計である。
v. AANG:マイクロサッケードの水平-垂直面におけるラジアン単位の角度のすべての絶対値の合計である。これらの最後の2つのFFが、マイクロサッケード軌道の規則性を推定する。
vi. MODおよびTHETA:デカルト座標の合計の極座標の係数および角度である。
これらは、固視の中央値に関してマイクロサッケードの空間定位を与える。
vii. TIME:マイクロサッケードのミリ秒単位の継続時間である。
viii. VMINおよびVMAX:1秒当たりの度単位のマイクロサッケードの最小および最大速度である。
ix. マイクロサッケードレート:各時間区切りにおける瞬間レートである。
x. 方向一致:マイクロサッケード方向と刺激の位置との一致である。
i. 前記テキストを読んでいる間の左眼、右眼による、または両眼から得られる眼球位置(すなわち、横および縦座標)。
j. 前記テキストを読んでいる間の固視シーケンス(すなわち、眼の動き)。前記シーケンスは、画像、マトリックスなどから入手可能となる。
k. 前記テキストを読んでいる間の視線固定間の分離の距離。
l. 前記被検者のフィリア情報(すなわち、年齢、学歴年数、性別、人種、職業、週当たりの身体活動時間)。
m. 総読取り時間(すなわち、前記被検者が前記テキストを読んでいるとき費やした時間)。
【請求項9】
被検者の眼球運動を測定することによって前記被検者
のワーキングメモリ、想起記憶、実行過程、および注意過程のうちの少なくとも1つを含む特定の認知領域における1つまたは複数の
認知低下の存在を検出するため
の方法[400]であって、眼球運動の前記測定が、前記被検者が読んでいる間に行われ、前記方法が、
a. 請求項
1に記載の1つまたは複数の
認知障害を検出するためのシステムを提供するステップと、
b.被検者がテキストを読んでいる間、前記被検者の視線追跡データおよび/または瞳孔径データを受け取るステップ[415]と
を含み、
前記方法が、1つまたは複数の
認知低下の根拠について前記視線追跡データおよび/または瞳孔径データを分析
し、インテリジェントアルゴリズムを適用するステップ[417]と、前記
認知低下の検出のレポートを表示するステップ[499]とをさらに含む、方法。
【請求項10】
a. 前記被検者が前記テキストを読んでいる間、前記被検者の視線固定の総数をカウントするステップ[420]と、
b. 前記テキストを読んでいる間の前記被検者の視線固定の前記総数が対照群を上回る場合、注意過程における低下が検出されることを報告するステップ[460]と
をさらに含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
a. 前記被検者が前記テキストを読んでいる間、前記被検者の視線固定の総数をカウントするステップ[420]と、
b. 前記被検者が前記テキストを読んでいる間、前記被検者の前方視線固定の数をカウントするステップ[430]と、
c. 前記テキストを読んでいる間の前記被検者の前方視線固定の前記数が対照群を下回り、読んでいるときの前記被検者の視線固定の前記数が前記対照群を上回る場合、ワーキングメモリにおける低下が検出されることを報告するステップ[470]と
をさらに含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項12】
a. 前記被検者が前記テキストを読んでいる間、前記テキスト中の各語への前記被検者による視線固定の数をカウントするステップ[440]と、
b. 前記テキストを読んでいる間、前記被検者が一度だけ固視した前記語の数をカウントするステップ[445]と、
c. 前記テキストを読んでいる間、前記被検者が一度だけ固視した語の前記数が対照群を下回る場合、想起記憶における低下が検出されることを報告するステップ[480]と
をさらに含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項13】
a. 前記テキストを読んでいる間、前記被検者の複数の視線固定の数をカウントするステップ[450]と、
b. 前記被検者が前記テキストを読んでいる間の前記被検者の複数の視覚固定の前記数が対照群を上回る場合、実行過程における低下が検出されることを報告するステップ[490]と
をさらに含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項14】
a. 前記テキストを読んでいる間、1つの視線固定から次の視線固定までの前記被検者の平均サッケード振幅を算出するステップ[454]と、
b. 前記平均サッケード振幅が対照群を下回る場合、実行過程における低下が検出されることを前記テストレポートにおいて報告するステップ[491]と
をさらに含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項15】
a. 前記テキストを読んでいる前記被検者の瞳孔径を追跡するステップ[456]と、
b. 前記被検者の前記瞳孔径が、前記テキストを読み進めるにつれて縮小を示さない場合、実行過程における低下が検出されることを前記テストレポートにおいて報告するステップ[492]と
をさらに含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項16】
被検者の記憶結び付け機能の障害を検出するための方法[500]であって、
a. 請求項
1に記載のシステムを提供するステップと、
b. 視線追跡データを受け取るステップと、
c. 被検者により1つまたは複数のターゲットを見るステップ[510~535]と、
d. 前記ターゲットの各々への前記被検者の凝視継続時間を測定するステップ[545]と、
e. 前記被検者による前記ターゲットの平均凝視継続時間を計算するステップ[550]と、
f. より少ない認知努力を必要とする活動を行っている間の前記被検者の瞳孔径を測定するステップ[555]と、
g. 前記ターゲットを見ている間に前記被検者によって行われる視線固定の数をカウントするステップ[560]と
を含み、
h. 前記方法が、
i. 前記被検者の前記平均凝視継続時間が対照群の平均凝視継続時間よりも長い場合、ターゲット記銘および認識過程における低下が前記被検者に検出されることを報告するステップ[565]と、
ii. より大きな認知努力を必要とする前記活動を行っている間の前記被検者の前記瞳孔径が、より少ない認知努力を必要とする前記活動を行っている間の前記被検者の前記瞳孔径を超える増加を示さない場合、認知資源における低下が前記被検者に検出されることを報告するステップ[570]と、
iii. 前記ターゲットを見ている間に前記被検者によって行われる視線固定の前記数が対照群を上回る場合、注意過程における低下が前記被検者に検出されることを報告するステップ[575]と
をさらに含む、方法。
【請求項17】
前記インテリジェントアルゴリズムが、少なくとも1つの入力を読み取るように構成され、前記入力が、以下からなる群から選択される、請求項
16に記載の方法。
a. 各結び付けタスクを行っている間の、被検者の視線固定の総数。
b. 結び付け評価タスク、すなわち「結び付けられる色」または「結び付けられない色」。
c. 結び付け試行の識別番号。
d. 前記試行の正しい行動の答え。
e. 被検者の行動の応答。
f. 前記試行の一部、すなわち記銘または想起。
g. 前記結び付け評価を行っている間の前記被検者の瞳孔径。
h. 左眼、右眼、または両眼から得られる瞬きの数。
i. マイクロサッケード、フォームファクタ(FF)、すなわち
i) HEWI:マイクロサッケードの高さ/幅の関係を示す。
ii) AREA:マイクロサッケードが内接する矩形の面積を示す。
iii) LONG:マイクロサッケードの水平-垂直面の軌跡の長さである。
iv) ANG:マイクロサッケードの水平-垂直面におけるすべての角度の合計である。
v) AANG:マイクロサッケードの水平-垂直面におけるラジアン単位の角度のすべての絶対値の合計である。これらの最後の2つのFFが、マイクロサッケード軌道の規則性を推定する。
vi) MODおよびTHETA:デカルト座標の合計の極座標の係数および角度である。これらは、固視の中央値に関してマイクロサッケードの空間定位を与える。
vii) TIME:マイクロサッケードのミリ秒単位の継続時間である。
viii) VMINおよびVMAX:1秒当たりの度単位のマイクロサッケードの最小および最大速度である。
ix) マイクロサッケードレート:各時間区切りにおける瞬間レートである。
x) 方向一致:マイクロサッケード方向と刺激の位置との一致である。
j. 前記結び付け評価を行っている間の左眼、右眼による、または両眼から得られる眼球位置(すなわち、横および縦座標)。
k. ターゲットを処理している間のサッケード振幅。
l. ターゲットを処理している間の固視シーケンス(すなわち、眼の動き)。前記シーケンスは、画像、マトリックスなどから入手可能となる。
m. 前記結び付け評価を行っている間の右眼と左眼の固視点間の距離。
n. 前記被検者のフィリア情報(すなわち、年齢、学歴年数、性別、人種、職業、週当たりの身体活動時間)。
o. ターゲットを処理している間の固視継続時間。
p. ターゲットを処理している間の凝視継続時間。
q. 各ターゲットへの固視の数。
r. 各ターゲット外への固視の数。
s. 各ターゲットへの固視の数。
【請求項18】
被検者の神経障害および実行障害を検出するための方法[600]であって、
a. 請求項
1に記載のシステムを提供するステップと、
b. 視線追跡データを受け取るステップと、
c. 被検者により1つまたは複数のターゲットを見るステップ[605~610]と、
d. 前記ターゲットの各々への前記被検者のサッケード振幅を測定するステップ[630]と、
e. 前記被検者による前記ターゲットの平均サッケード速度を測定するステップ[620]と、
f. 多くの注意を必要とする活動を行っている間の前記被検者の瞳孔径を測定するステップ[640]と、
g. 前記少しの注意ではなく多くの注意を必要とする活動を行っている間の前記被検者の瞳孔径を測定するステップと、
h. 正しいターゲット認識を行っている間に前記被検者によって行われる視線固定の数をカウントするステップ[625]と
を含み、
i. 前記方法が、
i. 前記被検者の平均サッケード振幅が対照群の平均サッケード振幅よりも短い場合、ターゲット視覚化、認識、維持、照合、抑制、および順序付け過程における低下が前記被検者に検出されることを報告するステップと、
ii. 多くの注意を必要とする前記活動を行っている間の前記被検者の前記瞳孔径が、少しの注意を必要とする前記活動を行っている間の前記被検者の前記瞳孔径を超える増加を示さない場合、認知資源および機能資源での低下が前記被検者に検出されることを報告するステップと、
iii. 前記ターゲットを見ている間に前記被検者によって行われる視線固定の前記数が対照群を上回る場合、注意過程における低下が前記被検者に検出されることを報告するステップと、
iv. 前記被検者の平均サッケード潜時(速度)が対照群の平均サッケード潜時よりも短い場合、実行過程における低下が前記被検者に検出されることを報告するステップと、
v. 前記被検者の正しいターゲット認識の前記数が対照群の正しいターゲット認識の前記数よりも少ない場合、実行過程における低下が前記被検者に検出されることを報告するステップと
をさらに含む、方法。
【請求項19】
前記被検者の平均サッケード継続時間が、対照群の平均固視継続時間よりも短い場合、実行過程における低下が前記被検者に検出されることを報告するステップをさらに含む、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
前記神経障害が、パーキンソン病または注意欠陥多動性障害からなる群から選択される、請求項
18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経障害の検出および一般的認知能力の測定を、詳細には、眼球運動および/または眼球運動タスク中の瞳孔径を測定することによって行うためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
診断ツールとして視線追跡を使用することが当技術分野において実施されている。
【0003】
米国特許第4,889,422号は、失読症の存在を決定するための自動システムを開示する。このシステムは、眼刺激手段と、眼球運動検出器と、時間による眼球位置を表すデータを収集するプロセッサと、データを分析し、眼球運動を微小運動、サッケード運動(saccade movement)、追跡運動、輻輳開散運動、固視、および瞬きに分類するための分析プログラムとを備える。固視の総数が視覚刺激の数よりも大きい場合、失読症があるという第1のインジケータが登録される。
【0004】
Fieldingらが、「Ocular motor measures of cognitive dysfunction in multiple sclerosis II: working memory」(J Nerol、2015年4月9日オンライン公開)を公開したが、これは、タスクエラー、サッケード潜時(saccade latency)、およびワーキングメモリの負荷に対する相対感度を測定した眼の検査によって、ワーキングメモリについて、臨床的に確実な多発性硬化症(CDMS:clinically-definite multiple sclerosis)または臨床的孤立症候群(CIS:clinically isolated syndrome)のある患者のワーキングメモリをテストした実験を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Fieldingら、「Ocular motor measures of cognitive dysfunction in multiple sclerosis II: working memory」(J Nerol、2015年4月9日オンライン公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
神経障害を診断するための広く利用可能なツールが、長年にわたり必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
眼球運動を測定することによって被検者における1つまたは複数の神経障害を検出するためのシステムを提供することが、本発明の目的であり、眼球運動の測定は、被検者が読んでいる間に行われ、このシステムは、
a. 被検者[5]がテキスト[15]を読んでいる間、被検者[5]の眼球運動を監視するように構成された、アイトラッカー[10]と、
b. 被検者[5]がテキスト[15]を読んでいる間、アイトラッカー[10]からデータを受け取るように構成された、プロセッサ[20]と、
c. プロセッサ[20]から受け取ったテストレポート[50]を表示するように構成された、表示手段[40]と
を備え、
プロセッサ[20]は、1つもしくは複数の神経障害または一般的認知能力の根拠について視線追跡データを分析することと、被検者[5]の1つまたは複数の神経障害の検出または認知能力の測定を、テストレポート[50]において報告することとを行うようにさらに構成される。
【0009】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサは、アイトラッカーから視線追跡データを受け取ると、
a. テキストを読んでいる間、被検者の視線固定の総数をカウントすることと、
b. 読んでいるときの被検者の視線固定の総数が対照群を上回る場合、注意過程における低下(compromise)が検出されることをテストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0010】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサは、アイトラッカーから視線追跡データを受け取ると、
a. テキストを読んでいる間、被検者の前方視線固定の数をカウントすることと、
b. 被検者の前方視線固定の数が対照群を下回り、読んでいるときの被検者の視線固定の数が対照群を上回る場合、ワーキングメモリにおける低下が検出されることをテストレポート[50]において報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0011】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサは、アイトラッカーから視線追跡データを受け取ると、
a. テキストを読んでいる間、被検者が一度だけ固視した語の数をカウントすることと、
b. 被検者が一度だけ固視した語の数が対照群を下回る場合、想起記憶(retrieval memory)における低下が検出されることをテストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0012】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサは、アイトラッカーから視線追跡データを受け取ると、
a. テキストを読んでいる間、被検者の複数の視線固定の数をカウントすることと、
b. 複数の視線固定の数が対照群を上回る場合、実行過程における低下が検出されることをテストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0013】
本発明の別の目的は、眼球運動を測定することによって、被検者における1つまたは複数の神経障害を検出することであり、プロセッサは、アイトラッカーから視線追跡データを受け取ると、
a. 1つの視線固定から次の視線固定までの平均サッケード振幅(saccade amplitude)を算出することと、
b. 平均サッケード振幅が対照群を下回る場合、実行過程における低下が検出されることをテストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0014】
上記で説明した本発明の別の目的では、被検者の瞳孔径を測定するための手段[17]をさらに備え、プロセッサは、
a. テキストを読んでいる被検者の瞳孔径を追跡することと、
b. 被検者の瞳孔径が、テキストを読み進めるにつれて縮小を示さない場合、実行過程における低下が検出されることをテストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0015】
1つまたは複数の神経障害を検出するためのシステムを提供すること、ならびに眼球運動および瞳孔の動きを測定し、インテリジェントアルゴリズムを適用することによって被検者における認知能力をチェックすることが、本発明の目的であり、眼球運動の測定は、被検者が読んでいる間に行われ、このシステムは、
a. アイトラッカー[10]であって、被検者[5]がテキスト[15]を読んでいる間、被検者[5]の眼球運動および瞳孔の動きを監視するように構成された、アイトラッカー[10]と、
b. プロセッサ[20]であって、被検者[5]がテキスト[15]を読んでいる間、アイトラッカー[10]からデータを受け取るように構成された、プロセッサ[20]と、
c. 病理においておよび病理内で眼球運動の特徴を学習し、識別し、類型化し、分類するためのインテリジェントアルゴリズムと、
d. 表示手段[40]であって、プロセッサ[20]から受け取ったテストレポート[50]にインテリジェントアルゴリズムの出力を表示するように構成された表示手段[40]と
を備え、
プロセッサ[20]は、1つもしくは複数の神経障害の根拠について、および認知能力から、視線追跡データを分析し、モデル化することと、病理間および病理内の両方で、被検者[5]の1つまたは複数の神経障害の検出および分類をテストレポート[50]において報告することとを行うようにさらに構成される。
【0016】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサは、アイトラッカーから視線追跡データを受け取ると、テキストを読んでいる間の眼球運動特徴および瞳孔の動きを識別し、分類し、被検者の認知能力および/または病理学的分類(すなわち、被検者の眼球運動特徴から被検者に対応する病理)をテストレポートにおいて報告するための分類子の出力と、病理内の値(すなわち、被検者が特定の病理内で示す認知的、行動的、および生物学的低下のレベル)とを提供するようにさらに構成される。
【0017】
上記で説明した本発明の別の目的では、インテリジェントアルゴリズムは、少なくとも1つの入力を読み取るように構成され、入力は、以下からなる群から選択される。
a. テキストを読んでいる間の被検者の視線固定の総数のインデックス。
b. テキストを読んでいる間の被検者の前方視線固定のインデックス。
c. テキストを読んでいる間、被検者が一度だけ固視した語のインデックス。
d. テキストを読んでいる間の被検者の複数の視線固定のインデックス。
e. 1つの視線固定から次の視線固定までの平均サッケード振幅。
f. テキストを読んでいる被検者の瞳孔径。
g. 左眼、右眼による、または両眼から得られる瞬きのインデックス。
h. マイクロサッケードのフォームファクタ(Microsaccades' Factors of Form(FF))、すなわち
i. HEWI:マイクロサッケードの高さ/幅の関係を示す。
ii. AREA:マイクロサッケードが内接する矩形の面積を示す。
iii. LONG:マイクロサッケードの水平-垂直面の軌跡の長さである。
iv. ANG:マイクロサッケードの水平-垂直面におけるすべての角度の合計である。
v. AANG:マイクロサッケードの水平-垂直面におけるラジアン単位の角度のすべての絶対値の合計である。これらの最後の2つのFFが、マイクロサッケード軌道の規則性を推定する。
vi. MODおよびTHETA:デカルト座標の合計の極座標の係数(modulus)および角度である。これらは、固視の中央値に関してマイクロサッケードの空間定位を与える。
vii. TIME:マイクロサッケードのミリ秒単位の継続時間である。
viii. VMINおよびVMAX:1秒当たりの度単位のマイクロサッケードの最小および最大速度である。
ix. マイクロサッケードレート:各時間区切り(time bin)における瞬間レートである。
x. 方向一致:マイクロサッケード方向と刺激の位置との一致である。
i. テキストを読んでいる間の左眼、右眼による、または両眼から得られる眼球位置(すなわち、横および縦座標)。
j. テキストを読んでいる間の固視シーケンス(すなわち、眼の動き)。シーケンスは、画像、マトリックスなどから入手可能となる。
k. テキストを読んでいる間の視線固定間の分離の距離。
l. 被検者のフィリア情報(Filia information)(すなわち、年齢、学歴年数、性別、人種、職業、週当たりの身体活動時間)。
m. 総読取り時間(すなわち、被検者がテキストを読んでいるとき費やした時間)。
【0018】
多発性硬化症[MS]と関連する神経機能における低下を評価するための方法[300]を提供することが、本発明の目的であり、この方法は、
a. MSと関連する神経機能における低下を評価するためのシステムを提供するステップ[305]と、
b. 被検者にチャートの参照ターゲットを固視するよう要求するステップ[310]と、
c. いくつかの繰返しの間、ゾーンの1つにおいて被検者に刺激画像(stimulus image)を提示するステップ[315]であって、被検者が、各刺激画像がどのゾーンにどんな順序で現れたかを記憶するよう要求される、提示するステップと、
d. 提示された刺激画像のうちの1つに対応するキューを被検者に提示するステップ[320]と、
e. キューを提示するステップに応答して、被検者のサッケードを測定するステップ[325]であって、被検者が、キューに対応する刺激画像が提示されたゾーンを見るよう要求される、測定するステップと、
f. キューを提示するステップ、およびサッケードを測定するステップを繰り返すステップ[330]と、
g. いくつかの試行に対して、ステップb~fを繰り返すステップ[335]と、
h.
i. WM効果[340](すなわち、WM効果は、WM需要が増えるとき増える尺度である。各キュー番号に対して、WM効果は、すべての試行を通して被検者によって報告された誤りの数と試行回数の比率によって表される)、および
ii. 平均サッケード潜時[345]であって、サッケード潜時は被検者がゾーンにサッケードを開始する時間量として定義される、平均サッケード潜時
のうちの1つまたは複数を計算するステップと、
i.
i. WM効果の増加に伴う、ワーキングメモリにおける低下の程度[350]、および
ii. サッケード潜時の増加に伴う、実行過程における低下の程度[355]
のうちの1つまたは複数を報告するステップと
を含み、
j. 方法は、刺激画像を提示するステップ[315]の間に行われる測定を含む追加のステップをさらに含み、その間に被検者は、刺激画像を見るようさらに要求され、この測定は、
i. 被検者の瞳孔拡張の振幅[360]、
ii. 被検者によって刺激画像上に行われた固視の数[365]、および
iii. 被検者による刺激画像への凝視継続時間[370]
のうちの1つまたは複数を測定することを含み、
k. 追加のステップは、
i. 瞳孔拡張の振幅の増大に伴う、皮質下過程の低下の程度[375]、
ii. 固視の数の増加に伴う、実行過程の低下の程度[380]、および
iii. 凝視継続時間の増加に伴う、実行過程およびワーキングメモリの低下の程度[385]
のうちの1つまたは複数を計算し、報告するステップをさらに含む。
【0019】
上記で説明した本発明の別の目的では、参照ターゲットは、チャートの中央位置にあり、複数のゾーンが参照ターゲットの周りに配置される。
【0020】
上記で説明した本発明の別の目的では、キューは、参照ターゲットの位置に配置される。
【0021】
上記で説明した本発明の別の目的では、誤りは、正しいゾーン以外の場所に向かう眼球運動、および/またはサッケードが時間制限内に開始されないこととして定義される。
【0022】
上記で説明した本発明の別の目的では、第1の提示される刺激に対応するキューが、提示されるキュー番号から除外される。
【0023】
上記で説明した本発明の別の目的では、キュー番号を提示するステップの後に、最小サッケード潜時を超えてサッケードが開始される場合のみ、WM効果およびサッケード潜時を計算するステップにサッケードが含まれる。
【0024】
上記で説明した本発明の別の目的では、時間制限内にゾーンの1つへのサッケードが行われず、角度ゾーン(angular zone)の1つへのサッケードの発症まで参照ターゲットへの固視を維持できず、瞬きが眼球動作を不確定にする場合、サッケードは、WMを計算するステップから除外される。
【0025】
眼球運動を測定することによって被検者における1つまたは複数の神経障害を検出するためのシステムを提供することが、本発明の目的であり、眼球運動の測定は、被検者が視覚テストを実行しながら行われ、このシステムは、
a. 被検者[5]が視覚テスト[15]を実行している間、被検者[5]の眼球運動を監視するように構成された、アイトラッカー[10]であって、
b. 被検者に、同じピクチャ(すなわち、迷宮または迷路)に一緒に提示されたターゲット(たとえば、点)群の一部であるターゲットを連続的に固視するよう要求し[605]、
c. 被検者に、迷宮または迷路方向に従って(すなわち、上記迷宮または迷路の下から入って上から出て)ピクチャにわたってすべてのターゲットを視覚化し終えるまで、毎回1つのターゲットのみを固視するよう要求する[610]、アイトラッカー[10]と、
d. 被検者[5]が視覚テスト[15]を実行している間、アイトラッカー[10]からデータを受け取るように構成された、プロセッサ[20]と、
e. プロセッサ[20]から受け取ったテストレポート[50]を表示するように構成された表示手段[40]と
を備え、
プロセッサ[20]は、神経障害および注意障害の根拠について視線追跡データを分析することと、被検者[5]の1つまたは複数の神経障害および注意障害の検出をテストレポート[50]において報告することとを行うようにさらに構成される。
【0026】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサは、被検者がターゲットを視覚化、認識、維持、照合(control)、抑制、および順序付けしている間、アイトラッカーから視線追跡データを受け取ると、
a. 視覚テストを行っている間、被検者の視線固定の総数[615]をカウントすることと、
b. ターゲットを視覚化しているときの被検者の視線固定の総数が対照群を上回る場合、注意過程における低下が検出されることをテストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0027】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサは、アイトラッカーから視線追跡データを受け取ると、
a. 被検者が一方のターゲットから他方に移る間、サッケード平均速度[620]を測定することと
b. 被検者のサッケード平均速度[620]が対照群を下回る場合、実行機能における低下が検出されることをテストレポート[50]において報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0028】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサは、アイトラッカーから視線追跡データを受け取ると、
a. 正しいターゲット認識の数[625]をカウントすることと、
b. 正しいターゲット認識の数[625]が対照群を下回る場合、ワーキングメモリにおける低下が検出されることをテストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0029】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサは、アイトラッカーから視線追跡データを受け取ると、
a. 平均サッケード振幅[630]を算出することと、
b. 平均サッケード振幅[630]が対照群を下回る場合、実行過程における低下が検出されることをテストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0030】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサは、アイトラッカーから視線追跡データを受け取ると、
a. 視覚テストを行うために費やされる総時間[635]を算出することと、
b. 視覚テストを行うために費やされる総時間[635]が対照群を上回る場合、注意過程における低下が検出されることをテストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0031】
上記で説明した本発明の別の目的では、被検者の瞳孔径を測定するための手段[17]をさらに備え、プロセッサは、
a. 視覚テストを実施する被検者の瞳孔径[640]を追跡することと、
b. 被検者の瞳孔径[640]が、タスクの実施が進むとき、増加を示さない場合、注意過程における低下が検出されることをテストレポートにおいて報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0032】
上記で説明した本発明の別の目的では、被検者の瞳孔径を測定するための手段[17]をさらに含み、プロセッサは、視覚テストを行っている間、人のターゲットへの固視継続時間を計算し、ターゲットへの固視の間の被検者の固視継続時間[645]が対照群を下回る場合、注意過程および実行過程における低下が検出されることをテストレポートにおいて報告するようにさらに構成される。
【0033】
被検者の眼球運動を測定することによって被検者における1つまたは複数の神経障害の存在を検出するための、または一般的認知能力を測定するための方法[400]を提供することが、本発明の目的であり、眼球運動の測定は、被検者が読んでいる間に行われ[405]、この方法は、
a. 請求項1または請求項18に記載の1つまたは複数の神経障害を検出するためのシステムを提供するステップと、
b. 被検者がテキストを読んでいる間、被検者の視線追跡データおよび/または瞳孔径データを受け取るステップ[415]と
を含み、この方法は、1つまたは複数の神経障害の根拠について視線追跡データおよび/または瞳孔径データを分析するステップ[417]と、神経障害の検出のレポートを表示するステップ[499]とをさらに含む。
【0034】
上記で説明した本発明の別の目的では、
a. 被検者がテキストを読んでいる間、被検者の視線固定の総数をカウントするステップ[420]と、
b. テキストを読んでいる間の被検者の視線固定の総数が対照群を上回る場合、注意過程における低下が検出されることを報告するステップ[460]と
をさらに含む。
【0035】
上記で説明した本発明の別の目的では、
a. 被検者がテキストを読んでいる間、被検者の視線固定の総数をカウントするステップ[420]と、
b. 被検者がテキストを読んでいる間、被検者の前方視線固定の数をカウントするステップ[430]と、
c. テキストを読んでいる間の被検者の前方視線固定の数[430]が対照群を下回り、読んでいるときの被検者の視線固定の数が対照群を上回る場合、ワーキングメモリにおける低下が検出されることを報告するステップ[470]と
をさらに含む。
【0036】
上記で説明した本発明の別の目的では、
a. 被検者がテキストを読んでいる間、テキスト中の各語への被検者による視線固定の数をカウントするステップ[440]と、
b. テキストを読んでいる間、被検者が一度だけ固視した語の数をカウントするステップ[445]と、
c. テキストを読んでいる間、被検者が一度だけ固視した語の数[445]が対照群を下回る場合、想起記憶における低下が検出されることを報告するステップ[480]と
をさらに含む。
【0037】
上記で説明した本発明の別の目的では、
a. テキストを読んでいる間、被検者の複数の視線固定の数をカウントするステップ[450]と、
b. 被検者がテキストを読んでいる間、被検者の複数の視覚固定の数[450]が対照群を上回る場合、実行過程における低下が検出されることを報告するステップ[490]と
をさらに含む。
【0038】
上記で説明した本発明の別の目的では、
a. テキストを読んでいる間、1つの視線固定から次の視線固定までの被検者の平均サッケード振幅を算出するステップ[454]と、
b. テキストを読んでいる間の1つの視線固定から次の視線固定までの被検者の平均サッケード振幅[454]が対照群を下回る場合、実行過程における低下が検出されることをテストレポートにおいて報告するステップ[491]と
をさらに含む。
【0039】
上記で説明した本発明の別の目的では、
a. テキストを読んでいる被検者の瞳孔径を追跡するステップ[456]と、
b. テキストを読んでいる被検者の瞳孔径[456]が、テキストを読み進めるにつれて縮小を示さない場合、実行過程における低下が検出されることをテストレポートにおいて報告するステップ[492]と
をさらに含む。
【0040】
被検者の記憶結び付け機能の障害を検出するためのシステム[100]を提示することが本発明の目的であり、このシステムは、
a. アイトラッカー[10]と、
b. 瞳孔径を測定するための手段と、
c. プロセッサ[20]であって、
i. アイトラッカー[10]から被検者[5]の視線追跡データを受け取ることと、
ii. 瞳孔径を測定するための手段から被検者[5]の瞳孔径データを受け取ることと
を行うように構成された、プロセッサと、
d. プロセッサ[20]から受け取ったテストレポート[50]を表示するように構成された表示手段[40]と
を備え、
プロセッサ[20]は、視線追跡データおよび瞳孔径データを分析することと、被検者[5]の記憶結び付け機能の1つまたは複数の障害の検出をテストレポート[50]において報告することとを行うようにさらに構成される。
【0041】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサ[20]は、アイトラッカー[10]から視線追跡データを受け取ると、
a. 被検者[5]によって見られる1つまたは複数のターゲットの各々への被検者[5]の1つまたは複数の凝視継続時間を測定することと、
b. 被検者[5]によるターゲットの平均凝視継続時間を計算することと、
c. 被検者[5]の平均凝視継続時間が対照群の平均凝視継続時間よりも長い場合、ターゲットの記銘(encoding)および認識における低下が被検者[5]に検出されることをテストレポート[50]において報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0042】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサ[20]は、アイトラッカー[10]から視線追跡データを受け取ると、
a. 1つまたは複数のターゲットを見ている間に被検者[5]によって行われる視線固定の数をカウントすることと、
b. ターゲットを見ている間に被検者[5]によって行われる視線固定の数が対照群を上回る場合、注意過程における低下が被検者[5]に検出されることをテストレポート[50]において報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0043】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサ[20]は、インテリジェントアルゴリズムを適用し、
a. 被検者[5]がより少ない認知努力を必要とする活動を行っている間に、瞳孔径を測定するための手段から被検者[5]の瞳孔径を受け取ることと、
b. 被検者[5]がより大きな認知努力を必要とする活動を行っている間に、瞳孔径を測定するための手段から被検者[5]の瞳孔径を受け取ることと、
c. より大きな認知努力を必要とする活動を行っている間の被検者[5]の瞳孔径が、縮小した/最低限の認知努力を必要とする活動を行っている間の被検者[5]の瞳孔径を超える増加を示さない場合、認知資源における低下が被検者[5]に検出されることをテストレポート[50]において報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0044】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサ[20]は、被検者[5]にシステム[100]によって検出されない記憶結び付け機能の障害について、テストレポート[50]において結果をさらに報告する。
【0045】
被検者[505]の記憶結び付け機能の障害を検出するための方法[500]を提供することが本発明の目的であり、この方法は、以下のステップを含む。
a. 請求項1または請求項33に記載のシステムを提供するステップ。
b. ターゲットを提示するステップ[510]。
c. 被検者にターゲットを固視し、それらを記憶するよう要求するステップ(記銘)[515]。
d. 空白の画面を提示するステップ[520]。
e. ターゲットを提示し、被検者にターゲットが前に見たものとまったく同じであるかどうかを識別するよう要求するステップ(認識)。ターゲットがまったく同じである場合、「同じ」という答えが与えられなければならない。ターゲットがまったく同じではない場合、「違う」という答えが与えられなければならない。両方の答えは、キーボードまたは同様のサポートを使用して収集されなければならない[525]。いくつかの試行に対して[510~525]からのステップを繰り返す[530]。
f. いくつかの試行に対して、ステップ[510~525]を繰り返すステップ[530]。
g. 視線追跡データを受け取るステップ。
h. 被検者により1つまたは複数のターゲットを見るステップ[540]。
i. ターゲットの各々への被検者の凝視継続時間を測定するステップ[545]。
j. 被検者によるターゲットの平均凝視継続時間を計算するステップ[550]。
k. より少ない認知努力を必要とする活動を行っている間の被検者の瞳孔径を測定するステップ[555]。
l. ターゲットを見ている間に被検者によって行われる視線固定の数をカウントするステップ[560]。
m. この方法は、
i. 被検者の平均凝視継続時間が対照群の平均凝視継続時間よりも長い場合、ターゲット記銘および認識過程における低下が被検者に検出されることを報告するステップ[565]と、
ii. より大きな認知努力を必要とする活動を行っている間の被検者の瞳孔径が、より少ない認知努力を必要とする活動を行っている間の被検者の瞳孔径を超える増加を示さない場合、認知資源における低下が被検者に検出されることを報告するステップ[570]と、
iii. ターゲットを見ている間に被検者によって行われる視線固定の数が対照群を上回る場合、注意過程における低下が被検者に検出されることを報告するステップ[575]と
をさらに含む。
【0046】
上記で説明した本発明の別の目的では、インテリジェントアルゴリズムは、少なくとも1つの入力を読み取るように構成され、入力は、以下からなる群から選択される。
a. 各結び付けタスクを行っている間の、被検者の視線固定の総数。
b. 結び付け評価タスク、すなわち「結び付けられる色」または「結び付けられない色」。
c. 結び付け試行の識別番号。
d. 試行の正しい行動の答え(すなわち、「同じ」か「違う」か)。
e. 被検者の行動の応答。
f. 試行の一部、すなわち記銘または想起。
g. 結び付け評価を行っている間の被検者の瞳孔径。
h. 左眼、右眼、または両眼から得られる瞬きの数。
i. マイクロサッケード、フォームファクタ(FF)、すなわち
i. HEWI:マイクロサッケードの高さ/幅の関係を示す。
ii. AREA:マイクロサッケードが内接する矩形の面積を示す。
iii. LONG:マイクロサッケードの水平-垂直面の軌跡の長さである。
iv. ANG:マイクロサッケードの水平-垂直面におけるすべての角度の合計である。
v. AANG:マイクロサッケードの水平-垂直面におけるラジアン単位の角度のすべての絶対値の合計である。これらの最後の2つのFFが、マイクロサッケード軌道の規則性を推定する。
vi. MODおよびTHETA:デカルト座標の合計の極座標の係数および角度である。これらは、固視の中央値に関してマイクロサッケードの空間定位を与える。
vii. TIME:マイクロサッケードのミリ秒単位の継続時間である。
viii. VMINおよびVMAX:1秒当たりの度単位のマイクロサッケードの最小および最大速度である。
ix. マイクロサッケードレート:各時間区切りにおける瞬間レートである。
x. 方向一致:マイクロサッケード方向と刺激の位置との一致である。
j. 結び付け評価を行っている間の左眼、右眼による、または両眼から得られる眼球位置(すなわち、横および縦座標)。
k. ターゲットを処理している間のサッケード振幅。
l. ターゲットを処理している間の固視シーケンス(すなわち、眼の動き)。シーケンスは、画像、マトリックスなどから入手可能となる。
m. 結び付け評価を行っている間の右眼と左眼の固視点間の距離。
n. 被検者のファクタ情報(すなわち、年齢、学歴年数、性別、人種、職業、週当たりの身体活動時間)。
o. ターゲットを処理している間の固視継続時間。
p. ターゲットを処理している間の凝視継続時間。
q. 各ターゲットへの固視の数。
r. 各ターゲット外への固視の数。
s. 各ターゲットへの固視の数。
【0047】
被検者の神経障害および注意障害を検出するための方法[600]を提供することが本発明の目的であり、この方法は、以下のステップを含む。
a. アイトラッカー[10]を提供するステップと、
b. 瞳孔径を測定するための手段と、
c. プロセッサ[20]であって、
i. アイトラッカー[10]から被検者[5]の視線追跡データを受け取ることと、
ii. 瞳孔径を測定するための手段から被検者[5]の瞳孔径データを受け取ることと
を行うように構成された、プロセッサ[20]と、
iii. プロセッサ[20]から受け取ったテストレポート[50]を表示するように構成された表示手段[40]と
を備え、
プロセッサ[20]は、視線追跡データおよび瞳孔径データを分析することと、被検者[5]の1つまたは複数の神経障害および注意障害の検出をテストレポート[50]において報告することとを行うようにさらに構成される。
【0048】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサ[20]は、アイトラッカー[10]から視線追跡データを受け取ると、
a. 被検者[5]によって見られる1つまたは複数のターゲットの各々への被検者[5]の1つまたは複数の固視凝視継続時間を測定することと、
b. 各ターゲットから他のターゲットへの被検者[5]による平均サッケード振幅を計算することと、
c. 被検者[5]の平均サッケード振幅が対照群の平均サッケード振幅よりも短い場合、ターゲットの視覚化、認識、維持、照合、抑制、および順序付けにおける低下が被検者[5]に検出されることをテストレポート[50]において報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0049】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサ[20]は、アイトラッカー[10]から視線追跡データを受け取ると、
a. 1つまたは複数のターゲットを見ている間に被検者[5]によって行われる視線固定の数をカウントすることと、
b. ターゲットを見ている間に被検者[5]によって行われる視線固定の数が対照群を上回る場合、注意過程における低下が被検者[5]に検出されることをテストレポート[50]において報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0050】
上記で説明した本発明の別の目的では、プロセッサ[20]は、
a. 被検者[5]が多くの注意資源を必要とする活動を行いながら、瞳孔径を測定するための手段から被検者[5]の瞳孔径を受け取ることと、
b. 被検者[5]が多くの注意を必要とする活動を行いながら、瞳孔径を測定するための手段から被検者[5]の瞳孔径を受け取ることと、
c. 多くの注意を必要とする活動を行っている間の被検者[5]の瞳孔径が、少しの注意を必要とする活動を行っている間の被検者[5]の瞳孔径を超える増加を示さない場合、認知資源における低下が被検者[5]に検出されることをテストレポート[50]において報告することと
を行うようにさらに構成される。
【0051】
被検者の神経障害および実行障害を検出するための方法[600]を提供することが本発明の目的であり、この方法は、
a. 上記で説明したシステムを提供するステップと、
b. 視線追跡データを受け取るステップと、
c. 被検者により1つまたは複数のターゲットを見るステップ[605~610]と、
d. 被検者によりターゲットの平均サッケード振幅を計算するステップ[630]と、
e. 多くの注意を必要とする活動を行っている間の被検者の瞳孔径を測定するステップ[640]と、
f. 少しの注意ではなく多くの注意を必要とする活動を行っている間の被検者の瞳孔径を測定するステップと、
g. ターゲットを見ている間に被検者によって行われる視線固定の数をカウントするステップ[615]と
を含み、
h. この方法は、
i. 被検者の平均サッケード振幅が対照群の平均サッケード振幅よりも短い場合、ターゲット視覚化、認識、維持、照合、抑制、および順序付け過程における低下が被検者に検出されることを報告するステップと、
ii. 多くの注意を必要とする活動を行っている間の被検者の瞳孔径が、少しの注意を必要とする活動を行っている間の被検者の瞳孔径を超える増加を示さない場合、認知資源および機能資源における低下が被検者に検出されることを報告するステップと、
iii. ターゲットを見ている間に被検者によって行われる視線固定の数が対照群を上回る場合、注意過程における低下が被検者に検出されることを報告するステップと、
iv. 被検者の平均サッケード潜時(速度)が対照群の平均サッケード潜時よりも短い場合、実行過程における低下が被検者に検出されることを報告するステップと
をさらに含む。
【0052】
上記で説明した本発明の別の目的では、方法は、被検者の平均サッケード継続時間が、対照群の平均固視継続時間よりも短い場合、実行過程における低下が被検者に検出されることを報告するように構成される。
【0053】
上記で説明した本発明の別の目的では、神経障害は、パーキンソン病または注意欠陥多動性障害からなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】本発明のいくつかの実施形態による、被検者の1つまたは複数の神経障害を検出するためのシステムを示す図である。
【
図2】本発明のいくつかの実施形態による、被検者の1つまたは複数の神経障害を検出するためのシステムを示す図である。
【
図3A】本発明のいくつかの実施形態による、MSと関連する神経機能における低下を評価するための方法を示す図である。
【
図3B】本発明のいくつかの実施形態による、MSと関連する神経機能における低下を評価するための方法を示す図である。
【
図4A】本発明のいくつかの実施形態による、読んでいる被検者の1つまたは複数の神経障害を検出するための方法を示す図である。
【
図4B】本発明のいくつかの実施形態による、読んでいる被検者の1つまたは複数の神経障害を検出するための方法を示す図である。
【
図5】本発明のいくつかの実施形態による、記憶結び付け機能の障害を検出するための方法を示す図である。
【
図5B】
図5Aの評価方法によるテスト結果、すなわち対照とAD患者の両方における2つの実験条件の間の訂正された認識(エラーバー=平均の標準誤差)を示す図である。
【
図5C】
図5Aの評価方法によるテスト結果、すなわち記銘および認識時の間の対照におけるおよびアルツハイマー病(AD)患者における凝視継続時間への瞬きタスクの効果を示す図である。パネルは、EMM(すなわち、他の固定効果および分散成分の除去後)の部分的効果を示す。影付きの領域は、95%信頼区間を示す。凝視継続時間は、LMMとの対応について対数スケール上に描かれる。
【
図6A】パーキンソン病および注意欠陥多動性障害を検出するための方法を示す図である。
【
図6B】パーキンソン病および注意欠陥多動性障害を検出するための方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
「認知努力」という用語は、被検者がタスクを行うために必要とする精神的努力の総量を反映する。本出願において、「より少ない認知努力」という用語は、タスク実行時のワーキングメモリ需要に関する減少を指す。
【0056】
本出願において、「フリック」としても知られる「マイクロサッケード」という用語は、固視時間期間中に行われる小さいサッケードである。それらは、固視眼球運動(fixational eye movement)の最大および最速のものである。本出願において、「サッケード」という用語は、固視の2つ以上のフェーズ間の両眼の高速の同時運動を指す。
【0057】
本出願において、「眼球ドリフト」という用語は、物体に固定されるときの眼のより滑らかにゆっくりとさまよう動きを特徴とする固視眼球運動である。
【0058】
本出願において、「眼球微動(Ocular microtremor)」(OMT)という用語は、平均的な健康な個人では一般的におよそ90Hzで発生するが、40から100Hzの範囲内の周波数で発生する眼の小さく高速の同期された振動である。それらは、高い周波数およびわずか数秒角の非常に小さい振幅を特徴とする。
【0059】
本出願において、「刺激画像」という用語は、ディスプレイで被検者に提示される特定の視覚的パターンまたはターゲットを指す。「視覚タスク」または「視覚テスト」という用語は、各刺激画像を処理している間の被検者に実施する活動を指す。
【0060】
本発明の非限定的な実施形態について、次に詳細に説明する。
【0061】
次に、本発明のいくつかの実施形態による、被検者[5]の神経障害または神経機能を検出するためのシステム[100]を示す、
図1を参照する。
【0062】
システム[100]は、アイトラッカー[10]と、瞳孔径を測定するための手段[17]と、プロセッサ[20]と、表示手段[40]とを備える。
【0063】
アイトラッカー[10]は、当技術分野で知られている任意のタイプとすることができ、たとえば、取付け式アイトラッカー(eye-attached tracker)、光学式アイトラッカー(optical eye tracker)、または眼球電位式アイトラッカー(electrooculographic eye tracker)とすることができる。
【0064】
瞳孔径を測定するための手段[17]は、たとえば、眼の画像を取得するように構成されたカメラ、および画像から瞳孔径を測定するための処理ユニットを含んでもよい。処理ユニットの代わりに、瞳孔径を測定するための手段[17]は、ディスプレイを見ている間に手動測定が行われる画像のディスプレイを含むことができる。
【0065】
アイトラッカー[10]および瞳孔径を測定するための手段[17]は、プロセッサ[20]と通信接続している。通信接続は、当技術分野で知られている任意の形式とすることができ、有線(たとえば、USB、パラレルポート、もしくは同様のもの)またはワイヤレス(たとえば、WiFi、Bluetooth、もしくは同様のもの)とすることができる。
【0066】
プロセッサ[20]は、RAM、CD/DVD、HDD、フラッシュメモリ、および/または任意の好適な媒体などの、1つまたは複数の記憶媒体[60]に記憶された命令を受け取り、実行する。命令は、プロセッサ[20]に、1)アイトラッカー[10]から視線追跡データを受け取ること、2)瞳孔径を測定するための手段[17]から瞳孔径データを受け取ること、3)視線追跡および瞳孔径データを分析すること(本明細書においてさらに説明する)、4)表示手段[40]上に表示するために、被検者[5]における記憶結び付け機能の1つまたは複数の障害の検出または不検出を、テストレポート50において報告することを命じる。表示手段[40]は、モニタ、スマートフォンなどのモバイルデバイスの画面、プリントアウト、またはテストレポート[50]を表示するための任意の好適な手段とすることができる。プロセッサ[20]は、受け取った視線追跡データ、分析のいずれかの段階での中間結果、および/またはテストレポート[50]のいずれかを記憶媒体[60]に記憶してもよい。
【0067】
システム[100]によって検出される神経障害は、ターゲットの記銘および認識における低下、注意過程における低下、認知資源における低下、またはそれらの任意の組合せなどの、読み取り機能を含むことができる。他の実施形態では、検出される障害は、多発性硬化症(MS)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、パーキンソン障害(PD)、アルツハイマー病(AD)などを含むことができる。
【0068】
いくつかの実施形態では、プロセッサ[20]は、被検者[5]が1つまたは複数のターゲット[30]の各々を見ながら、アイトラッカー[10]から視線追跡データを受け取る。プロセッサ[20]は、被検者[5]によって見られる各ターゲット[30]への被検者[5]の凝視継続時間を測定する。プロセッサ[20]は、被検者[5]によるターゲット[30]の各々への平均凝視継続時間を計算する。被検者[5]のターゲット[30]への凝視継続時間の平均が、対照群の平均凝視継続時間よりも長い場合、プロセッサ[20]は、ターゲット記銘および認識過程における低下が被検者[5]に検出されることをテストレポート[50]において報告する。
【0069】
いくつかの実施形態では、プロセッサ[20]は、追加または代替として、ターゲット[30]の各々を見ている間に被検者[5]によって行われる視線固定の数をカウントする。ターゲット[30]を見ている間に被検者[5]によって行われる視線固定の数が対照群を上回る場合、プロセッサ[20]は、注意過程における低下が被検者[5]に検出されることをテストレポート[50]において報告する。
【0070】
いくつかの実施形態では、プロセッサ[20]は、被検者[5]がより少ない認知努力を必要とする活動を行っている間に瞳孔径を測定する手段[17]から瞳孔径データを受け取る。プロセッサ[20]はさらに、被検者[5]がより少ない認知度力を必要とする活動よりも、強力な認知努力を必要とする活動を行っている間に瞳孔径を測定する手段[17]から瞳孔径データを受け取る。より大きな認知努力を必要とする活動を行っている間の被検者5の平均瞳孔径が、より少ない認知度力を必要とする活動を行っている間の被検者[5]の平均瞳孔径を超える増加を示さない場合、プロセッサ[20]は、認知資源における低下が被検者[5]に検出されることをテストレポート[50]において報告する。
【0071】
対照群は、被検者[5]と同じ人口統計セクタ(たとえば、同じ性別、人種、国民文化、年齢群、および/または被検者[5]の他の人口統計特徴)に統計的代表断面を含んでもよい。対照群の視線追跡データは、システム[100]によって取得されてもよく、または場合によっては、以前の調査研究および/もしくは臨床研究から集められてもよい。被検者[5]の平均凝視継続時間または視線固定の数が、対照群の平均的数字の選択されたマージン、すなわち対照群の対応する数字の分布の約1標準偏差内である場合、システム[100]は、被検者[5]の平均凝視継続時間または視線固定の数を、対照群の平均的な対応する数字に等しいものとして扱ってもよい。
【0072】
プロセッサ[20]によって受け取られる視線追跡データは、アイトラッカー[10]によって測定される一連の眼球位置であってもよく、プロセッサ[20]は、被検者[5]の凝視継続時間または視線固定を見つけるためにこれを分析することを理解されたい。代替的に、プロセッサ[20]は、一連の事前に処理された信号を、アイトラッカー[10]から受け取ってもよく、各々が凝視継続時間または視線固定が発生したことをシグナリングする。信号は、場合によってはメタデータ(たとえば、眼球位置、時間、および/または視線固定の長さ)を添えられてもよい。
【0073】
多発性硬化症
次に、本発明のいくつかの実施形態による、多発性硬化症[MS]と関連する神経機能における低下を評価するための方法[300]を示す、
図3Aおよび
図3Bを参照する。方法[300]は、以下のステップを含み、すなわち
a. MSと関連する神経機能における低下を評価するためのシステムを提供するステップ[305]と、
b. 被検者にチャートの参照ターゲットを固視するよう要求するステップ[310]と、
c. いくつかの繰返しの間、チャート上の複数のゾーンのうちの1つにおいて被検者に刺激画像を提示するステップ[315]であって、被検者が、各刺激画像がどのゾーンにどんな順序で現れたかを記憶するよう要求される、提示するステップ[315]と、
d. 提示された刺激画像のうちの1つに対応するキューを被検者に提示するステップ[320]と、
e. キューを提示するステップに応答して、被検者のサッケードを測定するステップ[325]であって、被検者が、キューに対応する提示された刺激画像があったゾーンを見るよう要求される、測定するステップ[325]と、
f. キューを提示するステップ、およびサッケードを測定するステップを繰り返すステップ[330]と、
g. いくつかの試行に対して、ステップb~fを繰り返すステップ[335]と、
h.
i. WM効果[340](すなわち、WM効果は、WM需要が増えるとき増える尺度である。各キュー番号に対して、WM効果は、すべての試行を通して被検者によって報告された誤りの数と試行回数の比率によって表される)、および
ii. 平均サッケード潜時[345]であって、サッケード潜時は被検者がゾーンにサッケードを開始する時間量として定義される、平均サッケード潜時
のうちの1つまたは複数を計算するステップと、
i.
i. WM効果の増加に伴う、ワーキングメモリにおける低下の程度[350]、および
ii. サッケード潜時の増加に伴う、実行過程における低下の程度[355]
のうちの1つまたは複数を報告するステップと
を含み、
方法は、刺激画像を提示するステップ[315]の間に行われる追加のステップをさらに含み、その間に被検者は、刺激画像を見るようさらに要求され、
j. 追加のステップは、
i. 被検者の瞳孔拡張の振幅[360]、
ii. 被検者によって刺激画像上に行われた固視の数[365]、および
iii. 被検者による刺激画像への凝視継続時間[370]
のうちの1つまたは複数を測定するステップを含み、
k. 追加のステップは、
i. 瞳孔拡張時の振幅の不変に伴う、皮質下過程の低下の程度[375]、
ii. 固視の数の増加に伴う、実行過程の低下の程度[380]、および
iii. 凝視継続時間の増加に伴う、実行過程およびワーキングメモリの低下の程度[385]
のうちの1つまたは複数を計算し、報告するステップを含む。
【0074】
方法は、以下の変数を利用して、被検者を分析するためにインテリジェントアルゴリズムを採用する。
a. nバックタスクを行っている間の被検者の視線固定の総数。
b. nバックタスク試行の識別番号(すなわち、20個のnバックタスク試行がある場合、5番目の試行は5番と識別される。20番目の試行は20番と識別されるなど)。
c. 試行部、すなわち、1、2、および3。
d. 試行の部分、すなわち、記銘、想起。
e. nバックタスクを行っている間の被検者の瞳孔径。
f. 左眼、右眼、または両眼から得られる瞬きの数。
g. マイクロサッケード、フォームファクタ(FF)、すなわち
i. HEWI:マイクロサッケードの高さ/幅の関係を示す。
ii. AREA:マイクロサッケードが内接する矩形の面積を示す。
iii. LONG:マイクロサッケードの水平-垂直面の軌跡の長さである。
iv. ANG:マイクロサッケードの水平-垂直面におけるすべての角度の合計である。
v. AANG:マイクロサッケードの水平-垂直面におけるラジアン単位の角度のすべての絶対値の合計である。これらの最後の2つのFFが、マイクロサッケード軌道の規則性を推定する。
vi. MODおよびTHETA:デカルト座標の合計の極座標の係数および角度である。これらは、固視の中央値に関してマイクロサッケードの空間定位を与える。
vii. TIME:マイクロサッケードのミリ秒単位の継続時間である。
viii. VMINおよびVMAX:1秒当たりの度単位のマイクロサッケードの最小および最大速度である。
ix. マイクロサッケードレート:各時間区切りにおける瞬間レートである。
x. 方向一致:マイクロサッケード方向と刺激の位置との一致である。
h. nバックタスクを行っている間の左眼、右眼による、または両眼から得られる眼球位置(すなわち、横および縦座標)。
i. ターゲットを処理している間のサッケード振幅。
j. サッケード潜時。
k. ターゲットを処理している間の固視シーケンス(すなわち、眼の動き)。シーケンスは、画像、マトリックスなどから入手可能となる。
l. ターゲットの処理を行っている間の右眼および左眼の固視点間の距離。
m. 被検者のファクタ情報(すなわち、年齢、学歴年数、性別、人種、職業、週当たりの身体活動時間)。
n. ターゲットを処理している間の固視継続時間。
o. ターゲットを処理している間の凝視継続時間。
p. 各ターゲットへの固視の数。
q. 各ターゲット以外への固視の数。
【0075】
刺激画像(方法[300]では特徴j)を提示している間に行われる測定は、被検者が初めて視覚刺激の場所を識別しながら行われる記銘中の情報を提供する。発明者が行った予備研究において、MSのある被検者は、視覚情報を記銘するとき、障害が生じることがわかった(たとえば、被検者はディスプレイに多くの固視を行った)。記銘中の測定は、Fieldingらの研究の場合のように、視覚刺激が提示された後にキューが提示されるとき、認識中に行われる測定に加えるものである(方法[300]ではステップa~i)。総合すれば、記銘と認識の両方の間の被検者の動作は、さらなる欠陥(すなわち、皮質下過程、実行過程、および/または実行過程の低下の程度)を識別する助けとなり、認識中だけの動作よりも被検者の状態へのより優れた洞察を行うことができる。
【0076】
読取り
次に、本発明のいくつかの実施形態による、被検者が読んでいる間、被検者の眼球運動および/または瞳孔径を測定することによって、一般的認知能力を測定するための、および被検者の1つまたは複数の神経障害を検出するための方法を示す、
図4Aおよび
図4Bを参照する。
【0077】
方法[400]は、眼球運動および/または瞳孔径を測定することによって、一般的認知能力を測定するための、および1つまたは複数の神経障害の存在を検出するためのシステムを提供するステップと、テキストを読んでいる被検者の視線追跡データおよび/または瞳孔径データを受け取るステップと、1つまたは複数の神経障害の根拠について視線追跡データを分析するステップと、神経障害の検出のレポートを表示するステップとを含む。
【0078】
いくつかの実施形態では、方法[400]は、被検者がテキストを読んでいる間、被検者の視線固定の総数をカウントするステップ[405]と、テキストを読んでいるときの被検者の視線固定の総数が対照群を上回る場合、注意過程における低下が検出されることを報告するステップ[460]とを含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、方法[400]は、テキストを読んでいる間、被検者の視線固定の総数をカウントするステップ[405]と、テキストを読んでいる間、被検者の前方視線固定の数をカウントするステップ[430]と、被検者の前方視線固定の数が対照群を上回り、読んでいるときの被検者の全視線固定の数が対照群を上回る場合、ワーキングメモリにおける低下が検出されることを報告するステップ[470]とをさらに含む。
【0080】
生理学的に、ワーキングメモリにおける低下は、前頭葉における劣化(deterioration)と相関している。いくつかの実施形態では、ワーキングメモリにおける低下の報告[470]は、追加の処置に使用されてもよい。たとえば、脳外科手術が指示される場合、方法[400]は、被検者の前頭葉の脳画像を調べるステップが続いてもよい。
【0081】
いくつかの実施形態では、方法[400]は、被検者がテキストを読んでいる間、テキスト中の各語への被検者による視線固定の数をカウントするステップ[440]と、被検者が1度だけ固視した語の数をカウントするステップ[445]と、被検者が1度だけ固視した語の数が対照群を下回る場合、想起記憶における低下が検出されることを報告するステップ[480]とを含む。
【0082】
生理学的に、想起記憶における低下は、側頭葉における劣化と相関している。いくつかの実施形態では、想起記憶における低下の報告[480]は、追加の処置に使用されてもよい。たとえば、脳外科手術が指示される場合、方法[400]は、被検者の前頭葉の脳画像を調べるステップが続いてもよい。
【0083】
いくつかの実施形態では、方法[400]は、テキストを読んでいる間、被検者の複数の視線固定の総数をカウントするステップ[450]と、複数の視線固定の数が対照群を上回る場合、実行過程における低下が検出されることを報告するステップ[490]とを含む。
【0084】
いくつかの実施形態では、方法[400]は、テキストを読んでいる間、1つの視線固定から次の視線固定までの被検者の平均サッケード振幅を算出するステップ[454]と、平均サッケード振幅が対照群を下回る場合、実行過程における低下が検出されることを報告するステップ[491]とを含む。
【0085】
いくつかの実施形態では、方法[400]は、テキストを読んでいる間、被検者の瞳孔径を追跡するステップ[456]と、被検者の瞳孔径がテキストを読み進めるにつれて縮小を示さない場合、実行過程における低下が検出されることを報告するステップ[492]とを含む。
【0086】
生理学的に、実行過程おける低下は、前頭葉、側頭葉、および/または頭頂葉における劣化と相関している。いくつかの実施形態では、実行過程[490~491~492]における低下の報告は、追加の処置に使用されてもよい。たとえば、脳外科手術が指示される場合、方法[400]は、被検者の前頭葉、側頭葉、および/または頭頂葉の脳画像を調べるステップが続いてもよい。
【0087】
システムおよび方法[400]は、50人の健常対照者および50人の軽度AD患者についてテストされた。両方の群が、40の定型文を読んだ。
【0088】
【0089】
参考文献一覧
上記のルールは、以下の研究に部分的に基づいている。
1. Fernandez G、Mandolesi P、Rotstein NP、Colombo O、Agamennoni O、Politi LE. (2013) Eye movement alterations during reading in patients with early Alzheimer disease. Invest Ophthalmol Vis Sci. pii: iovs.l3-l2877vl. doi: lO.H67/iovs.l3- 12877。
2. Fernandez G.、Manes F.、Politi L.、Orozco D.、Schumacher M.、Castro L.、Agamennoni O.、Rotstein N. (2016). Patients with Mild Alzheimer Disease Fail When Using Their Working Memory: Evidence from the Eye Tracking Technique. Journal of Alzheimer Disease; 50、827~828。
3. Fernandez, G.、Laubrock, J.、Mandolesi P.、Colombo O.、Agamennoni O. (2014) Registering eye movements during reading in Alzheimer disease: difficulties in predicting upcoming words.Journal of Clinical and Experimental Neuropsychology; 36、302~16。
4. Fernandez G.、Sapognikoff M.、Guinjoan S.、Orozco D.、Agamennoni O. (2016). Word processing during reading sentences in patients with schizophrenia: evidences from the eyetracking technique. COMPREHENSIVE PSYCHIATRY; 68、193~200。
5. Fernandez G、Manes F、Rotstein N、Colombo O、Mandolesi P、Politi L、Agamennoni O. (2014) Lack of contextual-word predictability during reading in patients with mild Alzheimer disease.Neuropsychologia; 62、143~51。
6. Fernandez G.、Schumacher M.、Castro L.、Orozco D.、Agamennoni O.、(2015). Patients with Alzheimer disease produced shorter outgoing saccades when reading sentences. Psychiatry Research, 229、470~478。
7. Fernandez G.、Biondi J.、Castro S.、Agamennoni O. (2017). Pupil size behavior during online processing of sentences. Journal of Integrative Neurosciences 15(4) 485~496
【0090】
記憶結び付け
本発明の非限定的な実施形態について、次に詳細に説明する。
【0091】
次に、本発明のいくつかの実施形態による、被検者における記憶結び付け機能の障害を検出するための方法[500]を示す、
図5を参照する。
【0092】
方法は、被検者における記憶結び付け機能の障害を検出するためのシステムを提供するステップ[505]を含む。
【0093】
いくつかの実施形態では、方法[500]は、被検者により1つまたは複数のターゲットを見るステップ[510~535]と、ターゲットの各々への被検者の凝視継続時間を測定するステップ[545]と、被検者によるターゲットの平均凝視継続時間を計算するステップ[550]と、被検者の凝視継続時間の平均が対照群の平均凝視継続時間よりも長い場合、ターゲット記銘および認識過程における低下が被検者において検出されることを報告するステップ[565]とを含む。
【0094】
いくつかの実施形態では、方法[500]は、より少ない認知努力を必要とする活動を行っている(たとえば、3つのターゲットを認識しているまたはターゲットを区別している)間の被検者の1つまたは複数の瞳孔径を測定するステップ[555]と、より大きな認知努力を必要とする活動を行っている間の被検者[5]の平均瞳孔径が、より少ない認知努力を必要とする活動を行っている間の被検者[5]の平均瞳孔径を超える増加を示さない場合、認知資源における低下が被検者[5]に検出されることを報告するステップ[570]とを含む。
【0095】
いくつかの実施形態では、方法[500]は、ターゲット[30]を見ている間の被検者[5]による視線固定の数をカウントするステップ[560]と、ターゲット[30]を見ている間に被検者[5]によって行われる視線固定の数が対照群を上回る場合、注意過程における低下が被検者[5]に検出されることを報告するステップ[575]とを含む。
参考文献一覧
【0096】
上記のルールは、以下の研究に部分的に基づいている。
1. Fernandez G、Mandolesi P、Rotstein NP、Colombo O、Agamennoni O、Politi LE.(2013) Eye movement alterations during reading in patients with early Alzheimer disease.Invest Ophthalmol Vis Sci. pii: iovs.l3-l2877vl. doi: lO.H67/iovs.l3- 12877。
2. Fernandez G.、Manes F.、Politi L.、Orozco D.、Schumacher M.、Castro L.、Agamennoni O.、Rotstein N. (2016)。Patients with Mild Alzheimer Disease Fail When Using Their Working Memory: Evidence from the Eye Tracking Technique.Journal of Alzheimer Disease; 50、827~828。
3. Fernandez, G.、Laubrock, J.、Mandolesi P.、Colombo O.、Agamennoni O. (2014) Registering eye movements during reading in Alzheimer disease: difficulties in predicting upcoming words.Journal of Clinical and Experimental Neuropsychology; 36、302~16。
4. Fernandez G.、Sapognikoff M.、Guinjoan S.、Orozco D.、Agamennoni O. (2016)。Word processing during reading sentences in patients with schizophrenia: evidences from the eyetracking technique.COMPREHENSIVE PSYCHIATRY; 68、193~200。
5. Fernandez G、Manes F、Rotstein N、Colombo O、Mandolesi P、Politi L、Agamennoni O. (2014) Lack of contextual-word predictability during reading in patients with mild Alzheimer disease.Neuropsychologia; 62、143~51。
6. Fernandez G.、Schumacher M.、Castro L.、Orozco D.、Agamennoni O.、(2015)。Patients with Alzheimer disease produced shorter outgoing saccades when reading sentences.Psychiatry Research, 229、470~478。
7. Fernandez G.、Biondi J.、Castro S.、Agamennoni O. (2017)。Pupil size behavior during online processing of sentences.Journal of Integrative Neurosciences 15(4) 485-496。
8. Biondi J.、Fernandez G.、Castro S.、Agamennoni O. (2018)。 Eye-movement behavior identification for Alzheimer Disease diagnosis. Journal of Integrative Neurosciences (in Press)。
9. Fernandez、Orozco、Agamennoni、Schumacher、Sanudo、Biondi、Parra。(2018)。 Visual Processing during Short-Term Memory Binding in Mild Alzheimer's Disease. J Alzheimers Dis.;63(l): 185-194. doi: 10.3233/JAD-170728。
【0097】
パーキンソン病(PD)および注意欠陥多動性障害(ADHD)
次に、本発明のいくつかの実施形態による、人が視覚テストを行っている間、人の眼球運動および/または瞳孔径を測定することによって、人の1つまたは複数の認知障害、神経障害、および行動障害を検出するための方法を示す、
図6Aおよび
図6Bを参照する。
【0098】
方法[600]は、人がターゲットを視覚化、認識、維持、照合、抑制、および順序付けしている間、眼球運動を測定することによって1つまたは複数の認識障害および神経障害の存在を検出するためのシステムを提供するステップと、ターゲットを視覚化、認識、維持、照合、抑制、および順序付けしている人の視線追跡データを受け取るステップと、1つまたは複数の認知障害および神経障害の根拠について視線追跡データを分析するステップと、認知障害および神経障害の検出のレポートを表示するステップとを含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、方法[600]は、人が視覚テストを行っている間、人の視線固定の総数をカウントするステップ[615]と、人の視線固定の数が対照群を上回る場合、注意、実行、および抑制過程における低下が検出されることを報告するステップとを含む。
【0100】
いくつかの実施形態では、方法[600]は、被検者[5]が視覚テストを行っている間、1つのターゲットから他のターゲットまでの被検者[5]のサッケード平均速度[620]を計算するためのステップと、被検者が行ったサッケード平均速度が対照群を下回る場合、実行機能における低下が検出されることを報告するステップとを含む。
【0101】
生理学的に、より遅いサッケード速度は、前頭眼野、大脳基底核、および上丘における劣化と相関している。いくつかの実施形態では、サッケード速度における低下の報告は、追加の処置に使用されてもよい。
【0102】
いくつかの実施形態では、方法[600]は、視覚テストを行っている間、人の正しいターゲット認識定の数をカウントするステップ[625]と、正しいターゲット認識の数が対照群を下回る場合、ワーキングメモリにおける低下が検出されることを報告するステップとを含む。
【0103】
生理学的に、ワーキングメモリにおける低下は、前頭前皮質(Prefrontal Cortex)および後頭頂皮質(Posterior Parietal Cortex)における劣化と相関している。いくつかの実施形態では、ワーキングメモリ、抑制過程、および精神的柔軟性における低下の報告は、追加の処置に使用されてもよい。
【0104】
いくつかの実施形態では、方法[600]は、1つの視線固定から次の視線固定までの平均サッケード振幅を算出するステップ[630]と、平均サッケード振幅が対照群を下回る場合、実行過程における低下が検出されることを報告するステップとを含む。
【0105】
いくつかの実施形態では、方法[600]は、視覚テストを行っている間、人の瞳孔径を追跡するステップ[640]と、被検者の瞳孔径が視覚テストの実施を進めるにつれて増大を示さない場合、注意過程における低下が検出されることを報告するステップとを含む。
【0106】
生理学的に、注意過程の低下は、青班核、ノルアドレナリン作動系における、および上丘における劣化と相関している。いくつかの実施形態では、実行過程における低下の報告は、追加の処置に使用されてもよい。
【0107】
いくつかの実施形態では、方法[600]は、視覚試行を行っている間に人によって費やされた総時間を算出するステップ[635]と、試行を行うために必要とされる総時間が、対照群に報告されたものよりも多い場合、注意過程における低下が検出されることを報告するステップとを含む。
【0108】
生理学的に、注意過程および抑制過程における、ならびに精神的柔軟性における低下は、前頭前皮質、後頭頂皮質、前頭前野線条体小脳(prefrontal striatal cerebellar)および前頭前野線条体視床(prefrontal striatal thalamic)回路における劣化と相関している。いくつかの実施形態では、実行過程における低下の報告は、追加の処置に使用されてもよい。
【0109】
いくつかの実施形態では、方法[600]は、視覚テストを行っている間、人のターゲットへの固視継続時間を計算するステップ[645]と、ターゲットへの固視継続時間が対照群を下回る場合、ワーキングメモリにおける低下が検出されることを報告するステップとを含む。
【0110】
生理学的に、注意および抑制過程における、ならびに精神的柔軟性における低下は、前頭前皮質、前頭眼野における、および背側頭頂皮質(dorso-parietal cortex)における劣化と相関している。いくつかの実施形態では、実行過程における低下の報告は、追加の処置に使用されてもよい。
【0111】
方法は、以下の変数を利用して、被検者を分析するためにインテリジェントアルゴリズムを採用する。
a. 視覚テストを行っている間の被検者の視線固定の総数。
b. 迷宮または迷路での位置に応じた各ターゲットの識別番号。
c. 視覚テストを行っている間の被検者の瞳孔径。
d. 左眼、右眼、または両眼から得られる瞬きの数。
e. マイクロサッケード、フォームファクタ(FF)、すなわち
i. HEWI:マイクロサッケードの高さ/幅の関係を示す。
ii. AREA:マイクロサッケードが内接する矩形の面積を示す。
iii. LONG:マイクロサッケードの水平-垂直面の軌跡の長さである。
iv. ANG:マイクロサッケードの水平-垂直面におけるすべての角度の合計である。
v. AANG:マイクロサッケードの水平-垂直面におけるラジアン単位の角度のすべての絶対値の合計である。これらの最後の2つのFFが、マイクロサッケード軌道の規則性を推定する。
vi. MODおよびTHETA:デカルト座標の合計の極座標の係数および角度である。これらは、固視の中央値に関してマイクロサッケードの空間定位を与える。
vii. TIME:マイクロサッケードのミリ秒単位の継続時間である。
viii. VMINおよびVMAX:1秒当たりの度単位のマイクロサッケードの最小および最大速度である。
ix. マイクロサッケードレート:各時間区切りにおける瞬間レートである。
x. 方向一致:マイクロサッケード方向と刺激の位置との一致である。
f. 視覚タスクを行っている間の左眼、右眼による、または両眼から得られる眼球位置(すなわち、横および縦座標)。
g. ターゲットを処理している間のサッケード振幅。
h. サッケード潜時。
i. ターゲットを処理している間の固視シーケンス(すなわち、眼の動き)。シーケンスは、画像、マトリックスなどから入手可能となる。
j. ターゲットの処理を行っている間の右眼および左眼の固視点間の距離。
k. 被検者のファクタ情報(すなわち、年齢、学歴年数、性別、人種、職業、週当たりの身体活動時間)。
l. ターゲットを処理している間の固視継続時間。
m. 各ターゲットへの固視の数。
n. 各ターゲット以外への固視の数。
o. 総視覚タスク時間(すなわち、試行全体を行うために被検者が費やした時間)。
【0112】
この方法[600]は、PDおよびADHDのある被検者についてテストされ、健常対照者と比較された。
【0113】
【符号の説明】
【0114】
5 被検者
10 アイトラッカー
15 テキスト
17 瞳孔径を測定するための手段
20 プロセッサ
30 ターゲット
40 表示手段
50 テストレポート
60 記憶媒体
100 システム