(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】相分析装置、試料分析装置、および分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2252 20180101AFI20240226BHJP
G01N 23/2206 20180101ALI20240226BHJP
G01N 23/2251 20180101ALI20240226BHJP
【FI】
G01N23/2252
G01N23/2206
G01N23/2251
(21)【出願番号】P 2021179615
(22)【出願日】2021-11-02
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 綱太
(72)【発明者】
【氏名】藤井 敦大
(72)【発明者】
【氏名】大竹 祐香
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-200270(JP,A)
【文献】特開2020-169993(JP,A)
【文献】特開2017-161309(JP,A)
【文献】特開2010-060389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の位置と前記試料からの信号に基づくスペクトルを対応づけたスペクトルイメージングデータを取得するデータ取得部と、
前記スペクトルイメージングデータに対して多変量解析を行って相の数の候補を決定する候補決定部と、
前記候補ごとに、前記相の数に応じた数の相マップからなる相マップ群を作成する相分析部と、
前記候補ごとに、前記相マップ群を表示部に表示させる表示制御部と、
を含む、相分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記候補決定部は、
前記多変量解析の結果に基づいて、前記相の数の優先度を求め、
前記相の数の優先度に基づいて、前記候補を決定する、相分析装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記表示制御部は、各前記候補の優先度を、前記表示部に表示させる、相分析装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記相分析部は、前記相マップ群を構成する各相マップに基づいて、化合物名を決定し、
前記表示制御部は、決定した前記化合物名を前記表示部に表示させる、相分析装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記相分析部は、前記相マップ群を構成する各相マップに基づいて、各相の面積率を求め、
前記表示制御部は、各相の面積率を前記表示部に表示させる、相分析装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、
前記候補決定部は、
前記スペクトルイメージングデータに対してクラスター分析を行い、複数の最小単位のクラスターに分類し、
前記複数の最小単位のクラスターに対して階層的クラスタリング法により、クラスター数と、非類似度を表す結合距離と、の関係を示す関数を求め、
前記関数の曲率に基づいて、前記クラスター数の優先度を求め、
前記クラスター数の優先度に基づいて、前記候補を決定する、相分析装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の相分析装置を含む、試料分析装置。
【請求項8】
試料上の位置と前記試料からの信号に基づくスペクトルを対応づけたスペクトルイメージングデータを取得する工程と、
前記スペクトルイメージングデータに対して多変量解析を行って相の数の候補を決定する工程と、
前記候補ごとに、前記相の数に応じた数の相マップからなる相マップ群を作成する工程と、
前記候補ごとに、前記相マップ群を表示部に表示させる工程と、
を含む、分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相分析装置、試料分析装置、および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー分散型X線分光器(EDS)や波長分散型X線分光器(WDS)等のX線検出器が搭載された走査電子顕微鏡では、試料上の位置とX線スペクトルを対応づけたスペクトルイメージングデータを取得できる。スペクトルイメージングデータを用いて化合物の分布を求める手法として、相分析が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、化合物の分布を示す相マップとともに、各元素のX線強度や各元素の濃度を面積として表すグラフを表示して、化合物の組成の特徴を把握しやすく表示した相分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
相分析では、設定された相の数が適切でなければ、良好な相マップが得られない。そのため、相の数の条件を変えて相分析を繰り返し行い、適切な相の数を探す必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る相分析装置の一態様は、
試料上の位置と前記試料からの信号に基づくスペクトルを対応づけたスペクトルイメージングデータを取得するデータ取得部と、
前記スペクトルイメージングデータに対して多変量解析を行って相の数の候補を決定する候補決定部と、
前記候補ごとに、前記相の数に応じた数の相マップからなる相マップ群を作成する相分析部と、
前記候補ごとに、前記相マップ群を表示部に表示させる表示制御部と、
を含む。
【0007】
このような相分析装置では、相の数の候補を決定し、相の数の候補ごとに相の数に応じた数の相マップからなる相マップ群を表示部に表示させるため、ユーザーは容易に良好な相マップ群を得ることができる。
【0008】
本発明に係る試料分析装置の一態様は、
上記相分析装置を含む。
【0009】
本発明に係る分析方法の一態様は、
試料上の位置と前記試料からの信号に基づくスペクトルを対応づけたスペクトルイメージングデータを取得する工程と、
前記スペクトルイメージングデータに対して多変量解析を行って相の数の候補を決定する工程と、
前記候補ごとに、前記相の数に応じた数の相マップからなる相マップ群を作成する工程と、
前記候補ごとに、前記相マップ群を表示部に表示させる工程と、
を含む。
【0010】
このような分析方法では、相の数の候補を決定し、相の数の候補ごとに相の数に応じた数の相マップからなる相マップ群を表示部に表示させるため、ユーザーは容易に良好な相マップ群を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る相分析装置を含む試料分析装置の構成を示す図。
【
図3】階層的クラスタリング法を説明するための図。
【
図4】階層的クラスタリング法を説明するための図。
【
図5】クラスター数と結合距離の関係を示すグラフ。
【
図10】相マップ群の候補を表示するためのプレビュー画面の一例を示す図。
【
図11】プレビュー画面において1つの相マップ群が選択された状態を模式的に示す図。
【
図13】相分析装置の処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0013】
1. 分析装置
まず、本発明の一実施形態に係る相分析装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る相分析装置80を含む試料分析装置100の構成を示す図である。
【0014】
試料分析装置100は、X線検出器70が搭載された走査電子顕微鏡である。試料分析装置100では、電子プローブEPで試料Sを走査して、試料S上の位置とX線スペクトルを対応づけたスペクトルイメージングデータを取得できる。
【0015】
試料分析装置100は、
図1に示すように、電子銃10と、コンデンサーレンズ20と、走査コイル30と、対物レンズ40と、試料ステージ50と、二次電子検出器60と、X線検出器70と、相分析装置80と、を含む。
【0016】
電子銃10は、電子線を放出する。電子銃10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する。
【0017】
コンデンサーレンズ20および対物レンズ40は、電子銃10から放出された電子線を集束させて電子プローブEPを形成する。コンデンサーレンズ20によって、プローブ径およびプローブ電流を制御することができる。
【0018】
走査コイル30は、電子プローブEPを二次元的に偏向させる。走査コイル30で電子プローブEPを二次元的に偏向させることによって、電子プローブEPで試料Sを走査で
きる。
【0019】
試料ステージ50は、試料Sを保持することができる。試料ステージ50は、試料Sを移動させるための移動機構を有している。
【0020】
二次電子検出器60は、電子線が試料Sに照射されることによって試料Sから放出された二次電子を検出する。電子プローブEPで試料Sを走査し、試料Sから放出された二次電子を二次電子検出器60で検出することで、二次電子像を得ることができる。なお、試料分析装置100は、電子線が試料Sに照射されることによって試料Sから放出された反射電子を検出する反射電子検出器を備えていてもよい。
【0021】
X線検出器70は、電子線が試料Sに照射されることによって試料Sから放出された特性X線を検出する。X線検出器70は、例えば、エネルギー分散型X線検出器である。なお、X線検出器70は、波長分散型X線分光器であってもよい。電子プローブEPで試料Sを走査し、試料Sから放出された特性X線をX線検出器70で検出することで、スペクトルイメージングデータを得ることができる。
【0022】
スペクトルイメージングデータは、試料上の位置(座標)と試料からの信号に基づくスペクトルを対応づけたデータである。試料分析装置100では、スペクトルイメージングデータとして、試料S上の位置とX線スペクトルを対応づけたデータを取得できる。試料分析装置100では、試料S上を電子プローブEPで走査しながら、各画素ごとにX線スペクトルを収集し、試料S上の位置(画素の座標)とX線スペクトルを対応づけて記憶する。
【0023】
相分析装置(情報処理装置)80は、スペクトルイメージングデータを用いて相分析を行い、相マップを表示する。
【0024】
【0025】
相分析装置80は、
図2に示すように、処理部800と、操作部810と、表示部820と、記憶部830と、を含む。
【0026】
操作部810は、ユーザーが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を処理部800に出力する。操作部810の機能は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパネル、タッチパッドなどの入力機器により実現することができる。
【0027】
表示部820は、処理部800によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD(Liquid Crystal Display)や、CRT(Cathode Ray Tube)などのディスプレイにより実現できる。表示部820には、相分析の条件の入力や、相分析結果の表示、相分析の解析や編集を行うためのGUI(Graphical User Interface)画面が表示される。
【0028】
記憶部830は、処理部800の各部としてコンピューターを機能させるためのプログラムや各種データを記憶している。また、記憶部830は、処理部800のワーク領域としても機能する。記憶部830の機能は、ハードディスク、RAM(Random Access Memory)などにより実現できる。
【0029】
処理部800は、記憶部830に記憶されているプログラムを実行することで、以下に説明する、データ取得部802、候補決定部804、相分析部806、表示制御部808として機能する。処理部800の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)、ASI
C(ゲートアレイ等)などのハードウェアで、プログラムを実行することにより実現できる。処理部800は、データ取得部802と、候補決定部804と、相分析部806と、表示制御部808と、を含む。
【0030】
データ取得部802は、試料分析装置100で試料Sを測定して得られたスペクトルイメージングデータを取得する。
【0031】
候補決定部804は、スペクトルイメージングデータに対して多変量解析を行って相の数の候補を決定する。候補決定部804は、多変量解析の結果に基づいて相の数の優先度を求め、当該優先度に基づいて相の数の候補を決定する。
【0032】
相分析部806は、候補決定部804が決定した相の数の候補ごとに、相の数に応じた数の相マップからなる相マップ群を作成する。相マップ群は、スペクトルイメージングデータに対して多変量解析を行って作成できる。相マップは、化合物の分布を示す画像である。
【0033】
表示制御部808は、相の数の候補ごとに、相マップ群を表示部820に表示させる。
【0034】
2. 分析方法
2.1. スペクトルイメージングデータの取得
データ取得部802は、試料分析装置100で試料Sを測定して得られたスペクトルイメージングデータを取得する。試料分析装置100では、電子プローブEPで試料Sを走査し、試料Sから放出されたX線をX線検出器70で検出し、検出位置(試料S上の座標)とX線スペクトルデータを関連付けて記憶することで、スペクトルイメージングデータを得ることができる。
【0035】
2.2. 相の数の候補の決定
候補決定部804は、スペクトルイメージングデータを解析し、類似したスペクトルを持つ座標群(画素群)を抽出する。スペクトルイメージングデータの解析には、例えば、多変量解析が用いられる。多変量解析としては、自己組織化マップ、階層的クラスタリング法、K-means法、主成分分析、特異値分解、非負値行列分解、頂点成分分析などの手法が挙げられる。また、これらの手法を組み合わせて、類似したスペクトルを持つ座標群を抽出してもよい。
【0036】
候補決定部804は、多変量解析を行って相の数(類似したスペクトルを持つ座標群の数)の候補を決定する。
【0037】
候補決定部804は、例えば、スペクトルイメージングデータに対してクラスター分析を行って相の数の候補を決定する。クラスター分析は、多変量解析の一種であり、データ群のなかで類似したデータ同士を集めて仲間分けする教師なし学習である。ここでは、クラスター分析として、自己組織化マップおよび階層的クラスタリング法を組み合わせて相の数の候補を決定する場合について説明する。
【0038】
候補決定部804は、まず、スペクトルイメージングデータの自己組織化マップを作成する。候補決定部804は、スペクトルイメージングデータを構成する各画素のスペクトルデータを入力ベクトルとして、自己組織化マップを学習させていく。これにより、入力ベクトル同士を関連付けるマップ空間が形成される。マップ空間では、スペクトルデータの類似度がマップ上の距離で表現される。候補決定部804は、マップ空間上の距離に基づいて、スペクトルデータを仲間分けし、クラスターを作成する。クラスターは、類似する入力ベクトル(スペクトルデータ)の集まりである。
【0039】
候補決定部804は、自己組織化マップを用いて得られたクラスターを最小単位のクラスターとし、階層的クラスタリング法を用いて最小単位のクラスターを併合して新たなクラスターを作成する。
【0040】
図3および
図4は、階層的クラスタリング法を説明するための図である。
【0041】
候補決定部804は、
図3および
図4に示すように、自己組織化マップで得られた最小単位のクラスターC1,C2,C3,C4,C5,C6,C7,C8,C9,C10を、階層的クラスタリング法を用いて併合して、新たなクラスターを作成する。
【0042】
具体的には、候補決定部804は、最小単位のクラスターC1,C2,C3,C4,C5,C6,C7,C8,C9,C10のクラスター間の距離(非類似度)を求め、その距離が短い組み合わせから順に併合する。併合の過程は、樹形図で表すことができる。2つのクラスターの併合に要する距離を結合距離という。
【0043】
図4に示すように、樹形図を閾値Tで切断することによって、新たなクラスターを作成できる。階層的クラスタリング法では、閾値Tを調整することで、任意の数のクラスターを作成できる。図示の例では、樹形図を閾値Tで切断することによって、4つのクラスターが作成されている。
【0044】
図5は、クラスター数と結合距離の関係を示すグラフである。
【0045】
候補決定部804は、最小単位のクラスターC1,C2,C3,C4,C5,C6,C7,C8,C9,C10のクラスター間の結合距離を求め、
図5に示すクラスター数と結合距離の関係を示すグラフ(関数)を作成する。
【0046】
図6は、クラスター数と曲率の関係を示すグラフである。
【0047】
候補決定部804は、
図5に示すクラスター数と結合距離の関係を示すグラフから、
図6に示すクラスター数と曲率の関係を示すグラフを作成する。ここで、曲率とはクラスター数と結合距離の関係を示す関数の、任意の点における曲率である。y=f(x)の点(a,f(a))における曲率Rは以下の式で求めることができる。
【0048】
【0049】
候補決定部804は、クラスター数ごとに曲率を求め、曲率に基づいて優先度を決定する。優先度は、例えば、クラスター数ごとに求められた曲率のうちの最も大きい曲率を基準として、その比で表すことができる。曲率が大きいほど、優先度が高くなる。
【0050】
図6に示す例では、クラスター数が「4」の場合が最も曲率が大きいため、優先度が最も高く、候補1とした。また、クラスター数が「5」の場合が2番目に曲率が大きいため、優先度が2番目に高く、候補2とした。また、クラスター数が「3」の場合が3番目に曲率が大きいため、優先度が3番目に高く、候補3とした。
【0051】
この結果から、候補決定部804は、相の数が4つの場合、相の数が5つの場合、相の
数が3つの場合を候補として決定する。
【0052】
ここで、候補決定部804は、あらかじめ設定された優先度の基準値よりも大きい優先度のクラスター数のみを候補として決定する。そのため、クラスター数が「7」の場合が4番目に曲率が大きいが、優先度があらかじめ設定された基準値よりも小さいため、候補から外れる。
【0053】
なお、候補決定部804は、例えば、あらかじめ設定された数だけ相の数の候補を挙げてもよい。すなわち、あらかじめ候補の数が3つに設定された場合、候補決定部804は優先度が高い順から3つ、相の数の候補を挙げる。
【0054】
2.3. 相分析
相分析部806は、候補決定部804で決定された相の数の候補ごとに、決定した相の数に応じた数の相マップからなる相マップ群を作成する。
【0055】
図6に示す例では、候補決定部804は、相の数が4つの場合、相の数が5つの場合、相の数が3つの場合を候補として決定した。そのため、相分析部806は、相の数が4つを条件として相分析を行い、4つの相マップからなる相マップ群を作成する。同様に、相分析部806は、相の数が5つを条件として相分析を行い、5つの相マップからなる相マップ群を作成する。また、相分析部806は、相の数が3つを条件として相分析を行い、3つの相マップからなる相マップ群を作成する。
【0056】
相分析部806は、さらに、相マップ群を構成する各相マップから相スペクトルを作成する。相スペクトルは、相マップを構成する各画素のスペクトルを平均(または積算)して得られたスペクトルである。また、相分析部806は、相マップごとに相の名前を付ける処理、各相の面積率(マップ全体の面性に対する各相の面積の割合)を求める処理を行う。
【0057】
相の名前は、2つのデータベース(第1データベースおよび第2データベース)を用いて決定される。ここでは、相の名前として化合物名が用いられる場合について説明する。
【0058】
図7は、第1データベースを説明するための図であり、
図8は、第2データベースを説明するための図である。
【0059】
第1データベースには、
図7に示すように、分類名(化合物名)、スペクトルデータ、および定量結果が登録されている。第1データベースは、測定したスペクトルをユーザーが登録することで形成される。分類名は、定量結果から推定される化合物名である。スペクトルデータは、測定したX線スペクトルのデータである。定量結果は、測定したスペクトルに対して定量計算を行った結果である。例えば、第1データベースには、データNo.1として、分類名SiO
2、スペクトルの形状のデータとしてSiO
2のスペクトルデータ、および定量結果としてSi:47.3269%、O:52.6731%が登録されている。
【0060】
第2データベースは、
図8に示すように、化合物名と組成情報が登録されている。組成情報は、化合物名から計算により求めている。例えば、第2データベースには、データNo.1として化合物名としてSiO
2、組成情報として、Si:46.744559%、O:53.255441%が登録されている。
【0061】
相分析部806は、名前を付ける対象となる相マップから得られた相スペクトルと、第1データベースに登録されている各スペクトルデータとの間の相関係数を求める。例えば
、データxとデータyとの間の相関係数は、次式で求めることができる。
【0062】
【0063】
ただし、iはデータのチャンネルであり、Nはデータ数である。
【0064】
相分析部806は、第1データベースに登録された全てのスペクトルデータのなかから、相関係数が最も大きいスペクトルデータを見つける。
【0065】
また、相分析部806は、名前を付ける対象となる相マップから得られた相スペクトルに対して定量計算を行い、定量結果と第1データベースに登録されている各定量結果との間の相関係数を求める。相分析部806は、第1データベースに登録されている全ての定量結果のなかから、相関係数が最も大きい定量結果を見つける。
【0066】
相分析部806は、相関係数が最も大きいスペクトルデータの相関係数と、相関係数が最も大きい定量結果の相関係数を比較して、相関係数が大きい方を、第1データベースにおける候補のデータとして採用する。
【0067】
また、相分析部806はスペクトルデータとの相関係数のみを求め、最も大きい相関係数のスペクトルデータを第1データベースにおける候補のデータとして採用してもよい。同様に、定量結果との相関係数のみを求め、最も大きい相関係数の定量結果を第1データベースにおける候補のデータとして採用してもよい。この場合、スペクトルデータと定量結果のどちらを使用するかはあらかじめ設定されているものとする。
【0068】
相分析部806は、名前を付ける対象となる相マップから得られた相スペクトルに対して定量計算を行い、定量結果と第2データベースに登録されている各組成情報との間の相関係数を求める。相分析部806は、第2データベースに登録されている全ての定量結果のなかから、相関係数の最も大きい定量結果を見つけて、第2データベースにおける候補のデータとして採用する。
【0069】
相分析部806は、第1データベースにおける候補のデータの相関係数と、第2データベースにおける候補のデータの相関係数を比較して、相関係数が大きい方のデータを選択する。そして、選択されたデータに登録されている化合物名を相の名前として採用する。
【0070】
また、第1データベースにおける候補と第2データベースにおける候補を比較せずに、第1データベース(または第2データベース)における候補を相の名前として採用してもよい。この場合、どちらのデータベースを使用するかはあらかじめ設定されているものとする。
【0071】
なお、相の名前は、ユーザーが直接入力してもよい。また、相分析部806は、
図9に示すように、第1データベースおよび第2データベースから相関係数の大きい順に化合物名を抽出してリストを作成し、このリストからユーザーが化合物名を選択して相の名前と
してもよい。また、例えば、ユーザーが文字列を入力すると、
図9に示すリストから入力された文字列を含む化合物名が抽出されてもよい。これにより、容易に化合物名を決定できる。
【0072】
2.4. 表示
表示制御部808は、相の数の候補ごとに、相の数と相マップ群を表示部820に表示させる。表示制御部808は、優先度が高い順に、相マップ群を表示させる。表示制御部808は、例えば、相マップ群の候補を表示するためのプレビュー画面2に相マップ群を表示させる。
【0073】
図10は、相マップ群の候補を表示するためのプレビュー画面2の一例を示す図である。
【0074】
表示制御部808は、上述した相分析部806における相分析の結果を、
図10に示すプレビュー画面2に表示させる。
【0075】
図10に示すプレビュー画面2には、相の数が4つの相マップ群、相の数が5つの相マップ群、相の数が3つの相マップ群が表示されている。この3つの相マップ群は、優先度が高い順に並んでいる。
【0076】
また、表示制御部808は、化合物名(相の名前)、および各相の面積率を表示させる。化合物名として、相分析部806が決定した化合物名、またはユーザーが入力した化合物名が表示される。図示はしないが、プレビュー画面2には、上述した相の名前や、面積率の他に、相スペクトルや、樹形図など、ユーザーが相マップ群を選択するための情報が表示されてもよい。
【0077】
図11は、プレビュー画面2において1つの相マップ群が選択された状態を模式的に示す図である。
【0078】
プレビュー画面2では、表示された複数の相マップ群の候補から、ユーザーが1つの相マップ群を選択可能となっている。例えば、表示部820がタッチパネル(操作部810の一例)を備えている場合、ユーザーが指先FGを所望の相マップ群に接触させる操作を行うことで、プレビュー画面2に表示された複数の相マップ群から1つの相マップ群を選択できる。なお、相マップ群の選択は、マウスやキーボードを操作することで行ってもよい。
【0079】
ユーザーがプレビュー画面2で所望の相マップ群を選択すると、表示制御部808は選択された相マップ群をGUI画面に表示させる。
【0080】
【0081】
GUI画面4では、選択された相マップ群を構成する各相マップの解析や編集を行うことができる。GUI画面4には、相マップ群を構成する複数の相マップ、各相の名前、各相の面積率、定量結果が表示されている。さらに、GUI画面4の領域6には、各相マップとSEM像を合成した画像が表示されている。
【0082】
GUI画面4では、相スペクトルの定性定量分析、相の結合または結合解除、相の色の変更、相の名前の変更などの解析や編集を行うことができる。
【0083】
GUI画面4では、様々な条件で相スペクトルの定性定量分析を行うことができる。相
スペクトルの定性定量分析を行うことで、相の名前を変えたり、他の相との比較を行ったりできる。
【0084】
GUI画面4では、複数の相マップを結合して1つの相マップを形成できる。例えば、類似する分布を持つ相マップを1つの相マップにまとめたり、同様の組成を持つ複数の相を1つの相にまとめて相マップを作成したりできる。また、他の相の縁になっている相(エッジ相)を1つの相マップにまとめることができる。ここで、相マップでは、2つの相の境界において2つの相を分離できずに、2つの相の境界にあたかも別の相が存在するようにみえる場合がある。この2つの相の境界に存在する別の相をエッジ相という。このエッジ相は実際には存在しないため、エッジ相が複数存在する場合には複数のエッジ相を結合して1つにまとめる。
【0085】
GUI画面4では、ユーザーが選択した相マップの色を所望の色に変更することができる。これにより、相マップをみやすくできる。
【0086】
また、GUI画面4では、相の名前を変更することができる。例えば、相スペクトルの定性定量分析の結果に基づいて相の名前を変更できる。
【0087】
3. 相分析装置の動作
図13は、相分析装置80の処理の一例を示すフローチャートである。
【0088】
試料分析装置100で試料Sの測定が行われ、スペクトルイメージングデータが生成されると、データ取得部802は、スペクトルイメージングデータを取得する(S10)。
【0089】
候補決定部804は、スペクトルイメージングデータに対して多変量解析を行って相の数の候補を決定する(S20)。
【0090】
具体的には、まず、候補決定部804は、スペクトルイメージングデータの自己組織化マップを作成し、最小単位のクラスターを作成する。次に、候補決定部804は、階層的クラスタリング法を用いて最小単位のクラスターを併合して新たなクラスターを作成する。このとき、候補決定部804は、
図6に示すようにクラスター数と結合距離の関係を示す関数の曲率に基づいて、クラスター数の候補、すなわち、相の数の候補を決定する。
【0091】
相分析部806は、候補決定部804で決定された相の数の候補ごとに、決定した相の数に応じた数の相マップからなる相マップ群を作成する(S30)。相分析部806は、相マップ群の他に、化合物名(相の名前)、相の面積率、相スペクトルを求める。さらに、相分析部806は、相スペクトルに対して定性定量分析を行う。
【0092】
表示制御部808は、
図10に示すように、相の数の候補ごとに、相の数と相マップ群が表示されたプレビュー画面2を表示部820に表示させる(S40)。
【0093】
表示制御部808は、プレビュー画面2に表示された複数の相マップ群から所望の相マップ群が選択された場合(S50のYes)、選択された相マップ群をGUI画面4に表示させる(S60)。これにより、相マップの解析や編集が可能となる。処理部800は、選択された相マップ群をGUI画面4に表示させた後、相マップ群を表示させる処理を終了する。
【0094】
4. 効果
相分析装置80は、スペクトルイメージングデータを取得するデータ取得部802と、スペクトルイメージングデータに対して多変量解析を行って相の数の候補を決定する候補
決定部804と、相の数の候補ごとに、相の数に応じた数の相マップからなる相マップ群を作成する相分析部806と、相の数の候補ごとに、相マップ群を表示部820に表示させる表示制御部808と、を含む。そのため、相分析装置80では、相の数の候補を決定し、相の数の候補ごとに相の数に応じた数の相マップからなる相マップ群を表示部820に表示させるため、ユーザーは容易に良好な相マップ群を得ることができる。
【0095】
例えば、ユーザーが相の数を指定して相マップ群を得る場合、良好な相マップ群を得るために、ユーザーは相の数を変更して相マップ群を得るための操作を繰り返し行わなければならなかった。これに対して、相分析装置80では、相の数が互いに異なる複数の相マップ群を表示部820に表示できるため、ユーザーは複数の相マップ群から1つを選択するだけで、容易に良好な相マップ群を得ることができる。また、複数の相マップ群が同時に表示されるため、相マップ群を比較しやすい。
【0096】
さらに、相分析装置80では、複数の相マップ群が表示されるプレビュー画面2には、相マップ群の妥当性を判断するための種々の情報(優先度、面積率、化合物名、相スペクトル、定性定量結果等)が表示される。そのため、ユーザーは、相マップ群の妥当性を容易に判断できる。
【0097】
相分析装置80では、候補決定部804は、多変量解析の結果に基づいて相の数の優先度を求め、当該優先度に基づいて相の数の候補を決定する。そのため、相分析装置80では、ユーザーは容易に相の数を指定できる。
【0098】
相分析装置80では、相分析部806は、相マップ群を構成する各相マップに基づいて化合物名を決定し、表示制御部808は、化合物名を表示部820に表示させる。ここで、相マップの妥当性を判断するうえで化合物名は重要な情報である。相分析装置80では、相マップとともに化合物名が表示されるため、ユーザーは相マップ群の妥当性を容易に判断できる。
【0099】
相分析装置80では、相分析部806は、相マップ群を構成する各相マップに基づいて各相の面積率を求め、表示制御部808は、各相の面積率を表示部820に表示させる。そのため、相分析装置80では、各相の面積率の情報を得ることができる。
【0100】
試料分析装置100は、相分析装置80を含むため、ユーザーは容易に良好な相マップを得ることができる。
【0101】
5. 変形例
5.1. 第1変形例
上記の実施形態では、クラスター数と結合距離の関係を示す関数の曲率が大きい順に、相の数の候補を決定した。例えば、
図6に示す例では、曲率が大きい順に、相の数が4つの場合、相の数が5つの場合、相の数が3つの場合を候補として決定した。
【0102】
相の数の候補を決定する手法は、上記の実施形態に限定されない。例えば、多変量解析を行って最も優先度が高い相の数を決定した後、最も優先度が高い相の数に1を足した数および1を引いた数を相の数の候補としてもよい。
図6に示す例では、まず、曲率が最も大きい相の数が4つの場合を候補と決定し、次に、相の数が5つ(4+1)の場合および相の数が3つ(4-1)の場合を候補として決定する。
【0103】
なお、相の数の候補を5つ挙げる場合には、さらに、最も優先度が高い相の数に2を足した数、および2を引いた数を候補として決定してもよい。
【0104】
5.2. 第2変形例
上述した実施形態では、試料分析装置100が、X線検出器70を備えた走査電子顕微鏡である場合について説明したが、本発明に係る分析装置は、これに限定されない。例えば、本発明に係る分析装置は、試料Sからの信号(X線や、電子、イオン等)に基づくスペクトルを得ることができる装置であればよい。本発明に係る分析装置は、エネルギー分散型X線分光器や波長分散型X線分光器を備えた透過電子顕微鏡、電子プローブマイクロアナライザー、オージェマイクロプローブ、光電子分光装置、集束イオンビーム装置などであってもよい。
【0105】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0106】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0107】
10…電子銃、20…コンデンサーレンズ、30…走査コイル、40…対物レンズ、50…試料ステージ、60…二次電子検出器、70…X線検出器、80…相分析装置、100…試料分析装置、800…処理部、802…データ取得部、804…候補決定部、806…相分析部、808…表示制御部、810…操作部、820…表示部、830…記憶部