IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

特許7442509積層シート及び電子部品包装容器並びに電子部品包装体
<>
  • 特許-積層シート及び電子部品包装容器並びに電子部品包装体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】積層シート及び電子部品包装容器並びに電子部品包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240226BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240226BHJP
   B65D 85/90 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
B32B27/00 104
B32B27/30 A
B65D85/90
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021516041
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2020016651
(87)【国際公開番号】W WO2020218133
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2019084912
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】谷中 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】藤原 純平
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-042072(JP,A)
【文献】国際公開第2012/046815(WO,A1)
【文献】特開2006-281452(JP,A)
【文献】特開2004-230780(JP,A)
【文献】国際公開第2012/102287(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/084129(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
B32B 27/30
B65D 85/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の両面に設けられた表面層とを有する積層シートであって、
前記表面層が、前記表面層の総質量に対して、下記(A)成分を50~90質量%と、下記(B)成分を10~50質量%含み、
前記基材層が、共役ジエンに由来する単量体単位を含むビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物から構成されており、
前記基材層中の前記共役ジエンに由来する単量体単位の割合が、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物の全単量体単位に対して、6~14質量%であ
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物が、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物の総質量に対して、下記(C)成分を30~70質量%、下記(D)成分を30~70質量%、及び積層シートの再生材を0~40質量%含む、積層シート。
(A)成分:共役ジエンゴム成分の割合が5~25質量%である、ゴム変性(メタ)アクリル酸エステル-ビニル芳香族炭化水素共重合体。
(B)成分:高分子型帯電防止剤。
(C)成分:ビニル芳香族炭化水素-共役ジエンブロック共重合体。
(D)成分:ビニル芳香族炭化水素重合体、及びゴム変性ビニル芳香族炭化水素重合体からなる群より選択される少なくとも1つの重合体。
【請求項2】
前記高分子型帯電防止剤が、ポリオレフィン系ブロック、及びポリアミド系ブロックからなる群より選択される少なくとも1つのブロックと、親水性ブロックとを分子鎖内に有するブロック共重合体である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
表面層/基材層で表される積層シートの各層の厚み比が、10/90~50/50である、請求項1又は2に記載の積層シート。
【請求項4】
JIS-K-7374に準拠した測定方法で測定した前記積層シートの像鮮明度が40%以上である、請求項1からのいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項5】
JIS-K-7127に準拠した測定方法で測定した前記積層シートの引張弾性率が、1200~2000MPaである、請求項1からのいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項6】
JIS-P-8115に準拠した測定方法で測定した前記積層シートの耐折強度が30回以上である、請求項1からのいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項7】
打ち抜きバリ発生率が10%未満である、請求項1からのいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載の積層シートを用いた電子部品包装容器。
【請求項9】
キャリアテープである、請求項に記載の電子部品包装容器。
【請求項10】
トレイである、請求項に記載の電子部品包装容器。
【請求項11】
請求項から10のいずれか一項に記載の電子部品包装容器を用いた電子部品包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シート及び電子部品包装容器並びに電子部品包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の電子部品を電子機器に実装するためのキャリアテープは、塩化ビニル樹脂、ビニル芳香族炭化水素系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等の熱可塑性樹脂で構成されたシートをエンボス形状に熱成形したものが用いられている。これらのキャリアテープは、エンボス部(ポケットともいう)に収納する電子部品への静電気障害防止対策を取る目的で、例えば熱可塑性樹脂にカーボンブラック等の導電性フィラーを含有させて導電化した不透明なシートが用いられている。一方で、電子部品の中でも、例えばコンデンサーのように静電気障害によって破壊する可能性が少ないものを収納するキャリアテープは、外から内容物の電子部品を目視することや、前記電子部品に記載された文字を検知する点で有利なことから、前記の樹脂のなかでも比較的透明性の良好な熱可塑性樹脂を基材とした透明タイプのキャリアテープが用いられている。
【0003】
透明タイプのキャリアテープ用のシートとしては、例えば、ビニル芳香族炭化水素重合体とビニル芳香族炭化水素-共役ジエンブロック共重合体とを混合したシート(特許文献1及び2参照)や、ゴム変性(メタ)アクリル酸エステル-ビニル芳香族炭化水素共重合体を用いたシート(特許文献3)等が提案されている。
【0004】
ところで、キャリアテープには、前述の透明性の他に、耐折り曲げ性(耐折強度)、帯電防止性、及び成形性等の諸物性をバランスさせることが求められる。しかしながら、従来のキャリアテープ用積層シートは、これらの諸物性を十分に満足させることは難しいという問題がある。
またキャリアテープには、原反シートをスリットする際や、エンボス成形でスプロケットホール等を打ち抜く際に、その断面にバリが発生することがある。そのため、バリの発生しにくいキャリアテープ用積層シートも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-055526号公報
【文献】特開2002-332392号公報
【文献】特開2003-253069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、耐折り曲げ性、帯電防止性、及び成形性等の物性バランスに優れ、かつバリの発生しにくい積層シート、及びそれを用いた電子包装容器並びに電子部品包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、これら課題について鋭意検討した結果、特定量の共役ジエンゴム成分を含むゴム変性(メタ)アクリル酸エステル-ビニル芳香族炭化水素共重合体と、高分子型帯電防止剤とを表面層に含み、共役ジエン単量体単位を含むビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物から構成される基材層において、前記基材層中の共役ジエン単量体単位を特定の範囲とした積層シートによって、前記課題の全てを解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]基材層と、前記基材層の両面に設けられた表面層とを有する積層シートであって、前記表面層が、前記表面層の総質量に対して、下記(A)成分を50~90質量%と、下記(B)成分を10~50質量%含み、前記基材層が、共役ジエンに由来する単量体単位を含むビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物から構成されており、前記基材層中の前記共役ジエンに由来する単量体単位の割合が、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物の全単量体単位に対して、6~14質量%である、積層シート。
(A)成分:共役ジエンゴム成分の割合が5~25質量%である、ゴム変性(メタ)アクリル酸エステル-ビニル芳香族炭化水素共重合体。
(B)成分:高分子型帯電防止剤。
[2]前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物が、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物の総質量に対して、下記(C)成分を30~70質量%、下記(D)成分を30~70質量%、及び積層シートの再生材を0~40質量%含む、[1]に記載の積層シート。
(C)成分:ビニル芳香族炭化水素-共役ジエンブロック共重合体。
(D)成分:ビニル芳香族炭化水素重合体、及びゴム変性ビニル芳香族炭化水素重合体からなる群より選択される少なくとも1つの重合体。
[3]前記高分子型帯電防止剤が、ポリオレフィン系ブロック、及びポリアミド系ブロックからなる群より選択される少なくとも1つのブロックと、親水性ブロックとを分子鎖内に有するブロック共重合体である、[1]又は[2]に記載の積層シート。
[4]表面層/基材層で表される積層シートの各層の厚み比が、10/90~50/50である、[1]から[3]のいずれか一項に記載の積層シート。
[5]JIS-K-7374に準拠した測定方法で測定した前記積層シートの像鮮明度が40%以上である、[1]から[4]のいずれか一項に記載の積層シート。
[6]JIS-K-7127に準拠した測定方法で測定した前記積層シートの引張弾性率が、1200~2000MPaである、[1]から[5]のいずれか一項に記載の積層シート。
[7]JIS-P-8115に準拠した測定方法で測定した前記積層シートの耐折強度が30回以上である、[1]から[6]のいずれか一項に記載の積層シート。
[8]打ち抜きバリ発生率が10%未満である、[1]から[7]のいずれか一項に記載の積層シート。
[9][1]から[8]のいずれか一項に記載の積層シートを用いた電子部品包装容器。
[10]キャリアテープである、[9]に記載の電子部品包装容器。
[11]トレイである、[10]に記載の電子部品包装容器。
[12][9]から[11]のいずれか一項に記載の電子部品包装容器を用いた電子部品包装体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐折り曲げ性、帯電防止性、及び成形性等の物性バランスに優れ、かつバリの発生しにくい積層シート、及びそれを用いた電子包装容器並びに電子部品包装体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の積層シートの1つの態様を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
【0011】
[積層シート]
本発明は、基材層と、前記基材層の両面に設けられた表面層とを有する積層シートであって、前記表面層が、前記表面層の総質量に対して、下記(A)成分を50~90質量%と、下記(B)成分を10~50質量%含み、前記基材層が、共役ジエンに由来する単量体単位を含むビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物から構成されており、前記基材層中の前記共役ジエンに由来する単量体単位の割合が、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物の全単量体単位に対して、6~14質量%であることを特徴とする、積層シートに関する。
(A)成分:共役ジエンゴム成分の割合が5~25質量%である、ゴム変性(メタ)アクリル酸エステル-ビニル芳香族炭化水素共重合体。
(B)成分:高分子型帯電防止剤。
本発明の積層シートは、上記の構成を有することにより、耐折り曲げ性(耐折強度)、帯電防止性、及び成形性等の物性バランスに優れ、かつバリの発生を効果的に抑制することができる。図1は本発明の積層シートの1つの態様を表す断面図である。積層シート10は、基材層1の両面に表面層2が設けられている。
以下、本発明の積層シートの構成について詳細に説明する。
【0012】
<表面層>
本発明の積層シートは、基材層の両面に設けられた表面層を備える。また、表面層は、前述の(A)成分と(B)成分とを含む。すなわち、表面層は、(A)成分と(B)成分とを含む樹脂組成物により構成されている。
((A)成分)
(A)成分は、共役ジエンゴム成分の割合が5~25質量%である、ゴム変性(メタ)アクリル酸エステル-ビニル芳香族炭化水素共重合体である。ここで、「共役ジエンゴム成分の割合」とは、(A)成分の総質量に対する、共役ジエンゴム成分の含有量のことを意味する。
(A)成分は、ゴム成分の存在下で、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と、ビニル芳香族炭化水素系単量体とを共重合して得られるものである。また、(メタ)アクリル酸エステル系単量体とビニル芳香族炭化水素系単量体との共重合体からなる樹脂相中に、(メタ)アクリル酸エステル系単量体とビニル芳香族炭化水素系単量体とがグラフト重合したゴム成分が、島状に分散した構造を有している。
【0013】
(A)成分における「ゴム成分」とは、「共役ジエンゴム成分」のことを意味する。共役ジエンゴム成分を構成する共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン(ブタジエン)、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2-メチルペンタジエン等が挙げられる。このうち、ブタジエン、イソプレンが好ましい。これら共役ジエンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(A)成分中の共役ジエンゴム成分の割合は、積層シートの耐折強度、成型性、透明性等の物性バランスの観点から、5~25質量%であり、7~23質量%が好ましく、9~21質量%がより好ましい。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステルの誘導体であり、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-メチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このうち、積層シートの生産性、透明性の観点から、メチルメタクリレート、n-ブチルアクリレートが好ましい。
【0015】
ビニル芳香族炭化水素系単量体とは、スチレン、あるいはその誘導体である。誘導体としては、例えば、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等を挙げることができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このうち、スチレンが好ましい。
尚、必要に応じてこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリロニトリル、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等を共重合させることができる。
【0016】
(A)成分は、乳化重合、溶液重合等の従来公知の重合方法によって製造することができる。
なお、(A)成分中の共役ジエンゴム成分の割合は、(A)成分の製造段階において、従来公知の方法によって調整することができる。また、共役ジエンゴム成分を5~25質量%の割合で含む、市販のゴム変性(メタ)アクリル酸エステル-ビニル芳香族炭化水素共重合体を(A)成分として用いてもよい。また、(A)成分は、1種類のゴム変性(メタ)アクリル酸エステル-ビニル芳香族炭化水素共重合体のみで構成されていてもよく、2種類以上のゴム変性(メタ)アクリル酸エステル-ビニル芳香族炭化水素共重合体の混合物であってもよい。(A)成分が2種類以上の混合物である場合、混合物の総質量に対する共役ジエンゴム成分の割合が、5~25質量%の範囲となるように調整される。
【0017】
表面層中の(A)成分の割合は、表面層の総質量に対して(すなわち、表面層を構成する樹脂組成物の総質量に対して)、50~90質量%であり、60~85質量%が好ましく、70~80質量%がより好ましい。表面層中の(A)成分の割合が50~90質量%であれば、前述の物性バランスに優れた積層シートが得られる。なお、本発明の積層シートは、基材層の両面に表面層が設けられている(すなわち、基材層の上面に設けられた表面層(I)と、基材層の下面に設けられた表面層(II)とを有している)。本発明の1つの態様においては、表面層(I)及び表面層(II)中に含まれる(A)成分の割合は同じであってもよく、異なっていてもよい。成形性、帯電防止性の観点からは、表面層(I)及び表面層(II)の(A)成分の割合は同じであることが好ましい。なお、表面層中の(A)成分の割合は、表面層(I)又は表面層(II)の総質量に対する、(A)成分の含有量を意味する。
【0018】
本発明の1つの態様において、(A)成分の質量平均分子量は、110,000~170,000が好ましく、120,000~160,000がより好ましい。(A)成分の質量平均分子量が前記範囲内であれば、積層シートの生産性、又は成形性が良好となりやすい。なお、(A)成分の質量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、標準ポリスチレン換算で求めた値のことを指す。
【0019】
((B)成分)
(B)成分は高分子型帯電防止剤である。高分子型帯電防止剤としては、例えば、数平均分子量が2000以上であり、ポリオレフィン系ブロック、及びポリアミド系ブロックからなる群より選択される少なくとも1つのブロックと、親水性ブロックとを分子鎖内に有するブロック共重合体が挙げられる。このようなブロック共重合体で構成された高分子型帯電防止剤としては、例えば、特開2001-278985号公報、特開2015-96595公報に記載の高分子型帯電防止剤を用いることができる。なお、数平均分子量は、GPCを用い、標準ポリスチレン換算で求めた値のことを指す。
【0020】
前記ポリオレフィン系ブロックを構成するオレフィン系単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等のC2~C6のオレフィンが例示できる。ポリオレフィン系ブロック中のこれらC2~C6のオレフィン系単量体の割合は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。また、これらのオレフィン系単量体の中では、エチレン及びプロピレンから選択される少なくとも1つが好ましい。また、オレフィン系単量体としては、プロピレンが特に好ましい。オレフィン系単量体のうち、プロピレンの割合は80モル%以上が好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。ポリオレフィン系ブロックの数平均分子量は、例えば、1000~50000、好ましくは3000~40000、さらに好ましくは5000~30000程度である。ブロック共重合体中のポリオレフィン系ブロックの割合は、例えば、ブロック共重合体の総質量に対して、20~70重量%、好ましくは25~50重量%程度である。なお、数平均分子量は、GPCを用い、標準ポリスチレン換算で求めた値のことを指す。
【0021】
前記ポリアミド系ブロックとしては、例えば、ジアミンとジカルボン酸との縮合反応によって得られるブロック、アミノカルボン酸同士の縮合反応によって得られるブロック、ラクタムの開環重合によって得られるブロック、又はこれら成分の共重合によって得られるブロック等が挙げられる。
ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン等のC4~C20の脂肪族ジアミン等が挙げられる。
ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸やセバシン酸、ドデカン二酸等のC4~C20の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
アミノカルボン酸としては、例えば、6-アミノヘキサン酸、12-アミノドデカン酸等のC4~C20のアミノカルボン酸等が挙げられる。
ラクタムとしては、例えば、カプロラクタム等のC4~C20のラクタム等が挙げられる。上述の各成分は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。このうち、ジアミンとジカルボン酸との縮合反応によって得られるブロック、アミノカルボン酸同士の縮合反応によって得られるブロックが好ましい。
ポリアミド系ブロックの数平均分子量は、例えば、1000~50000、好ましくは3000~40000、さらに好ましくは5000~30000程度である。ブロック共重合体中のポリアミド系ブロックの割合は、例えば、ブロック共重合体の総質量に対して、20~70重量%、好ましくは25~50重量%程度である。なお、数平均分子量は、GPCを用い、標準ポリスチレン換算で求めた値のことを指す。
【0022】
親水性ブロックとしては、例えば、ポリエーテル系ポリマー、構造内に親水基を有するノニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー、又はアニオン性ポリマー等のポリマーから構成されるブロックが例示できる。このうち、親水性ブロックを構成するポリマーとしては、ポリエーテル系ポリマーが好ましく、C2~C4のアルキレンオキシドの重合体であるポリアルキレンオキシドがより好ましい。ポリアルキレンオキシドの重合度は、1~300が好ましく、5~200がより好ましく、10~150がさらに好ましく、10~100が特に好ましい。
ブロック共重合体中の親水性ブロックの割合は、例えば、ブロック共重合体の総質量に対して、20~90質量%が好ましく、25~80質量%がより好ましい。
【0023】
前記ポリオレフィン系ブロックと、親水性ブロックとは、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、イミド結合等を介して結合されている。これらの結合は、例えば、ポリオレフィンを変性剤で変性した後、親水性ブロックを導入することにより形成できる。例えば、ポリオレフィンを変性剤で変性して活性水素原子を導入した後、アルキレンオキシド等の親水性単量体を付加重合することによって導入される。このような変性剤としては、例えば、不飽和カルボン酸又はその無水物((無水)マレイン酸等)、ラクタム又はアミノカルボン酸(カプロラクタム等)、酸素又はオゾン、ヒドロキシアミン(2-アミノエタノール等)、ジアミン(エチレンジアミン等)、あるいはこれらの混合物等が例示できる。
【0024】
前記ポリアミドブロックと、親水性ブロックとは、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、イミド結合等を介して結合されている。これらの結合は、例えば、両末端に官能基を有するポリアミドとポリエーテル系ポリマーとをグリシジルエーテル化合物等(例えば、ビスフェノールAグリシジルエーテル等)で結合することによって形成できる。
(B)成分としては、ポリアミド系ブロックと親水性ブロックとを分子鎖内に有するブロック共重合体が好ましく、ポリアミド系ブロックと、ポリエーテル系ポリマーから構成されるブロックとを分子鎖内に有するブロック共重合体がより好ましく、ポリエーテルエステルアミドが特に好ましい。
【0025】
表面層中の(B)成分の割合は、表面層の総質量に対して、10~50質量%であり、15~40質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。表面層中の(B)成分の割合が10~50質量%であれば、帯電防止性に優れた積層シートが得られる。なお、表面層(I)及び表面層(II)中に含まれる(B)成分の割合は同じであってもよく、異なっていてもよいが、成形性、帯電防止性の観点から、同じであることが好ましい。なお、表面層中の(B)成分の割合は、各表面層の総質量に対する、(B)成分の含有量を意味する。
【0026】
本発明の表面層には、前述の(A)、(B)成分以外のその他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、例えば、後述する(C)成分、(D)成分等が挙げられる。本発明の1つの態様において、積層シートの表面層(I)及び表面層(II)は、(A)成分と(B)成分のみから構成されていることが好ましい。
なお、本発明の積層シートの表面層において、(A)成分と(B)成分は、その合計量が100質量%を超えない範囲で配合することができる。
【0027】
<基材層>
本発明の積層シートにおいて、基材層は、共役ジエンに由来する単量体単位を含むビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物から構成されている。このような基材層を備えることで、本発明の積層シートは、耐折り曲げ性(耐折強度)、帯電防止性、及び成形性等の物性バランスに優れ、かつバリの発生を効果的に抑制することができる。ここで、「共役ジエンに由来する単量体単位を含むビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物」とは、分子構造内に共役ジエンに由来する単量体単位を有する樹脂を含む組成物のことを意味する。すなわち、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物は、複数種類の樹脂の混合物であってもよい。
基材層中の共役ジエンに由来する単量体単位の割合は、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物の全単量体単位に対して、6~14質量%であり、7~13質量%が好ましく、8~12質量%がより好ましい。基材層中の共役ジエンに由来する単量体単位の割合が6~14質量%であれば、成形性が良好となり、バリの発生率を低減させることができる。なお、基材層中の共役ジエンに由来する単量体単位の割合は、例えば、積層シートの基材層を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)等で分析することによって、算出することができる。
本発明の1つの態様において、ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物は、以下の(C)成分と、(D)成分とを含むことが好ましい。
(C)成分:ビニル芳香族炭化水素-共役ジエンブロック共重合体。
(D)成分:ビニル芳香族炭化水素重合体、及びゴム変性ビニル芳香族炭化水素重合体からなる群より選択される少なくとも1つの重合体。
【0028】
((C)成分)
(C)成分は、ビニル芳香族炭化水素-共役ジエンブロック共重合体である。ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物に含まれる(C)成分とは、その構造中にビニル芳香族炭化水素系単量体を主体とするブロックと、共役ジエン系単量体を主体とするブロックとを含有する重合体である。
ビニル芳香族炭化水素系単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン等があり、なかでもスチレンは好適である。ビニル芳香族炭化水素系単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
共役ジエン系単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン(ブタジエン)、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2-メチルペンタジエン等があり、なかでもブタジエン、イソプレンは好適である。共役ジエン系単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ビニル芳香族炭化水素系単量体を主体とするブロックとは、ビニル芳香族炭化水素系単量体に由来する構造のみからなるブロック、ビニル芳香族炭化水素系単量体に由来する構造を50質量%以上含有するブロックのいずれをも意味する。また、共役ジエン系単量体を主体とするブロックとは、共役ジエン系単量体に由来する構造のみからなるブロック、共役ジエン系単量体に由来する構造を50質量%以上含有するブロックのいずれをも意味する。ビニル芳香族炭化水素-共役ジエンブロック共重合体は、乳化重合、溶液重合等の従来公知の重合方法によって製造することができる。
【0029】
(C)成分中の共役ジエンに由来する単量体単位の含有量は、本発明の積層シートの強度、成形性等のバランスの観点から、ビニル芳香族炭化水素-共役ジエンブロック共重合体の全単量体単位に対して、15~30質量%、好ましくは20~25質量%である。(C)成分中の共役ジエンに由来する単量体単位の含有量は、(C)成分の製造段階で従来公知の方法により調整することができる。また、共役ジエンに由来する単量体単位を上記の範囲で含有する、市販のビニル芳香族炭化水素-共役ジエンブロック共重合体を(C)成分としてそのまま用いることもできる。本発明において、共役ジエンに由来する単量体単位を上記の範囲で含有する(C)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、(C)成分中の共役ジエンに由来する単量体単位の割合は、前述のFT-IRによって算出された値を用いることもできる。
【0030】
本発明の1つの態様において、基材層を構成するビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物中の(C)成分の割合は、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物の総質量に対して、30~70質量%であることが好ましく、35~60質量%であることがより好ましい。(C)成分の含有量が30~70質量%であれば、成形性がより良好となりやすく、バリ発生率低減の効果が得られやすくなる。また、基材層中の共役ジエンに由来する単量体単位の割合を、7~13質量%の範囲に調整しやすい。
【0031】
本発明の1つの態様において、(C)成分の質量平均分子量は、80,000~220,000が好ましく、100,000~200,000がより好ましい。(C)成分の質量平均分子量が前記範囲内であれば、積層シートの生産性、及び成形性がより良好となりやすくなり、バリ発生率低減の効果が得られやすい。なお、(C)成分の質量平均分子量は、(A)、(B)成分と同じく、GPCを用い、標準ポリスチレン換算で求めた値のことを指す。
【0032】
((D)成分)
(D)成分は、ビニル芳香族炭化水素重合体、及びゴム変性ビニル芳香族炭化水素重合体からなる群より選択される少なくとも1つの重合体である。
(D)成分におけるビニル芳香族炭化水素重合体としては、スチレンの単独重合体である、所謂汎用ポリスチレン(GPPS)が最も一般的であるが、微量成分としてo-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン等の芳香族ビニル単量体の1種以上を含有するものであっても良い。
GPPSの質量平均分子量としては、100,000~400,000が好ましく、150,000~350,000がより好ましい。前記範囲内であれば、積層シートの生産性、及び成形性がより良好となりやすく、バリ発生率低減の効果が得られやすい。なお、前記質量平均分子量は、GPCを用いて、標準ポリスチレン換算で求めた値のことを指す。
【0033】
(D)成分におけるゴム変性ビニル芳香族炭化水素重合体としては、ゴム成分の存在下でスチレン単量体を重合して得られ、ポリスチレンからなる樹脂相中に、スチレン単量体がグラフト重合したゴム成分が島状に分散している、所謂耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)が最も一般的である。このうち、微量成分としてo-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン等の芳香族ビニル単量体の1種以上を含有するものであっても良い。
ゴム成分としては、例えば、1,3-ブタジエン(ブタジエン)、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2-メチルペンタジエン等を単量体とする共役ジエン系ゴムが用いられ、なかでもブタジエン、イソプレンは好適である。これらの共役ジエン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ゴム変性ビニル芳香族炭化水素重合体中の共役ジエンに由来する単量体単位の割合は、ゴム変性ビニル芳香族炭化水素重合体の全単量体単位に対して、3~15質量%が好ましく、5~10質量%がより好ましい。なお、(D)成分中の共役ジエンに由来する単量体単位の割合は、前述のFT-IRによって算出することができる。
【0034】
本発明の1つの態様において、(D)成分のゴム変性ビニル芳香族炭化水素重合体の質量平均分子量は、100,000~400,000が好ましく、150,000~350,000がより好ましい。質量平均分子量が前記範囲内であれば、積層シートの生産性、及び成形性がより良好となりやすく、バリ発生率低減の効果が得られやすい。なお、ゴム変性ビニル芳香族炭化水素重合体の質量平均分子量は、GPCを用い、標準ポリスチレン換算で求めた値のことを指す。
【0035】
(D)成分は、ビニル芳香族炭化水素重合体とゴム変性ビニル芳香族炭化水素重合体との混合物であってもよい。
本発明の1つの態様において、ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物に含まれる(D)成分は、少なくともビニル芳香族炭化水素重合体を含むことが好ましい。また、本発明の1つの態様において、(D)成分として、ビニル芳香族炭化水素重合体とゴム変性ビニル芳香族炭化水素重合体の両方を含む場合、(D)成分の総質量に対するビニル芳香族炭化水素重合体の含有量が、60~80質量%であることが好ましい。
【0036】
本発明の1つの態様において、基材層を構成するビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物中の(D)成分の割合は、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物の総質量に対して、30~70質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。(D)成分の含有量が30~70質量%であれば、積層シートの引張弾性率が適正な範囲となりやすく、耐折強度が低下しにくい。
なお、本発明の積層シートの基材層においては、ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物中の(C)成分と(D)成分は、その合計量が100質量%を超えない範囲で調整して配合することができる。
【0037】
(再生材)
更に基材層を構成するビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物には再生材を含有させることができる。その割合は、ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物の総質量に対して、0~40質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましい。再生材とは、積層シートを押出成形により製造する際に、ダイより押し出されたシートの両端部がトリミングされることにより発生する「耳」と呼ばれる部分、シートを巻き取る際の始め部分等のそのままでは製品とならない部分を粉砕し、再ペレット化したものである。このような再生材を添加しても、その積層シートの特性が良好であることは積層シートの生産性の点で極めて重要である。本発明の基材層を構成するビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物に含有する再生材が40質量%以内であれば、積層シートの透明性が低下しにくい。
本発明の1つの態様において、前記再生材としては、本発明の積層シートに由来するものを用いることができる。すなわち、本発明の基材層と表面層とを有する積層シートを粉砕し、ペレット化して得られる再生原料を、ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物に含有させてもよい。
【0038】
本発明の1つの態様において、表面層/基材層で表される各層の厚み比は、10/90~50/50であることが好ましく、14/86~30/70がより好ましい。各層の厚み比が前記範囲内であれば、帯電防止性、及び成形性がより良好になりやすく、バリ発生率低減の効果が得られやすい。なお、表面層の厚みは、前述の表面層(I)と表面層(II)の厚みの合計の値である。すなわち、「表面層/基材層で表される各層の厚み比が10/90~50/50である」とは、本発明の積層シートの総厚みを100とした際の、「複数の表面層の合計厚み」と「基材層の厚み」の比率のことを意味している。
また、本発明の積層シートの総厚みは、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、100~700μmの範囲が一般的である。
【0039】
<像鮮明度>
本発明の1つの態様において、JIS-K-7374に準拠した測定方法で測定した積層シートの像鮮明度は、40%以上であることが好ましく、60%以上がより好ましい。像鮮明度が40%以上であることにより、ポケットに収納した部品を視認しやすくなる。すなわち、良好な透明性が得られやすい。
【0040】
<引張弾性率>
本発明の1つの態様において、JIS-K-7127に準拠した測定方法で測定した前記積層シートの引張弾性率は、1200~2000MPaであることが好ましく、1300~1900MPaであることがより好ましい。なお、前記引張弾性率は積層シートのシート流れ方向の引張弾性率を指す。ここで流れ方向とは、積層シートを作製する際の積層シートの生産方向(MD方向)を意味する。引張弾性率がこの範囲内であれば、キャリアテープに成形したときのポケットに必要な剛性が低下しにくく、良好な成形品が得られやすい。また、耐折強度が低下しにくい。
【0041】
<耐折強度>
本発明の1つの態様において、JIS-P-8115に準拠した測定方法で測定した前記積層シートの耐折強度は、30回以上であることが好ましく、100回以上であることがより好ましい。耐折強度が30回以上であれば、積層シートが割れにくくなる。
【0042】
<バリ発生率>
本発明の1つの態様において、積層シートの打ち抜きバリ発生率は10%未満であることが好ましい。本発明の積層シートは、前述の特徴ある成分を含む表面層と基材層とを備えているため、バリの発生を抑制できる。すなわち、打ち抜きバリの発生率を10%未満に抑制しやすい。
なお、打ち抜きバリ発生率は、下記の方法で算出した値である。
真空ロータリー成形機を用いて、積層シートのシートサンプルに直径4mmの穴を打ち抜く。その後、光学顕微鏡を用いて穴の観察を行い、穴に付着しているバリの面積の合計量を算出し、以下の式(1)より打ち抜きバリ発生率を算出する。
打ち抜きバリ発生率(%)=(バリの面積(合計量)/穴の面積)×100 ・・・(1)
【0043】
<成形性>
本発明の1つの態様において、積層シートの成形性は、例えば、上記の引張弾性率、耐折強度を適切な範囲とするほか、本発明の積層シートをキャリアテープとして成形した際の、ポケット底面と側面シートの厚み差の精度によっても評価することができる。例えば、本発明の積層シートは、キャリアテープに成形した際のポケット底面と側面シートの厚み差が、±20%以下であることが好ましい。
【0044】
[積層シートの製造方法]
本発明の積層シートを製造する方法は、本発明の効果を有する限り特に限定されず、従来公知の方法で製造することができる。例えば、上記(A)成分及び(B)成分を含む樹脂組成物を表面層とし、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物が基材層となるように、マルチマニホールドを有する多層Tダイを用いてこれら樹脂組成物を押出成形する方法や、フィードブロックを用いたTダイ法押出成形等によって好適に製造される。
【0045】
[電子部品包装容器]
本発明の積層シートから真空成形、圧空成形、プレス成形等公知のシートの成形方法(熱成形)を利用することにより、キャリアテープ、トレイ等の自由な形状の電子部品包装容器を得ることができる。本発明の積層シートは、耐折強度、帯電防止性、及び成形性等の物性バランスに優れ、かつバリが発生しにくいため、電子部品包装容器として好適に利用できる。
すなわち、本発明の積層シートのその他の態様は、電子部品包装容器としての使用、又はその使用方法である。
【0046】
[電子部品包装体]
電子部品包装容器は、電子部品を収納して電子部品包装体とし、電子部品の保管及び搬送に用いられる。例えば、キャリアテープは、前記の成形方法で形成されたポケットに電子部品を収納した後に、カバーテープにより蓋をしてリール状に巻き取ったキャリアテープ体として、電子部品の保管及び搬送に用いられる。
すなわち、本発明の積層シートのその他の態様は、電子部品包装体としての使用、又はその使用方法である。また、本発明の積層シートの別の態様は、電子部品包装体として使用可能な電子部品包装容器としての使用、又はその使用方法である。
【0047】
電子部品包装体に包装される電子部品としては特に限定はなく、例えばIC、LED(発光ダイオード)、抵抗、液晶、コンデンサー、トランジスター、圧電素子レジスター、フィルター、水晶発振子、水晶振動子、ダイオード、コネクター、スイッチ、ボリュウム、リレー、インダクタ等がある。また、これら電子部品を使用した中間製品や最終製品であってもよい。
【0048】
本発明のその他の態様は以下のとおりである。
基材層と、前記基材層の両面に設けられた表面層とから構成される積層シートであって、前記表面層が下記(A)成分と下記(B)成分とからなる樹脂組成物により構成されており、前記基材層が、下記(C)成分と下記(D)成分とを含むビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物により構成されており、前記樹脂組成物の総質量に対する前記(A)成分の割合が50~90質量%であり、前記(B)成分の含有量が10~50質量%であり、前記基材層を構成するビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物中の共役ジエンに由来する単量体単位の割合が、5~13質量%である、積層シート。
(A)成分:共役ジエンゴム成分の割合が5~25質量%である、ゴム変性(メタ)アクリル酸エステル-ビニル芳香族炭化水素共重合体。
(B)成分:高分子型帯電防止剤。
(C)成分:共役ジエンに由来する単量体単位の割合が10~35質量%である、ビニル芳香族炭化水素-共役ジエンブロック共重合体。
(D)成分:GPPS及びHIPSからなる群より選択される少なくとも1つの重合体。
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物の総質量に対する、前記(C)成分の割合は、30~70質量%が好ましく、前記(D)成分の割合は30~70質量%が好ましい。また、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物は、さらに再生材を0~40質量%含んでいてもよい。なお、ビニル芳香族炭化水素系樹脂組成物中の各成分の合計量は、100質量%を超えない。また、前記(B)成分は、ポリエーテルエステルアミドであることが好ましい。
前記積層シートは、電子部品包装容器として使用できる。また、電子部品包装体として使用できる。
【実施例
【0049】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0050】
[(A)~(D)成分、及びその他の原料樹脂]
実施例及び比較例で用いた各成分を表1に示した。なお、これら各成分は、公知の方法により調整した。
【0051】
【表1】
【0052】
ここで、(A)成分((A’)成分)、(C)成分、及び(D)成分中の共役ジエンに由来する単量体単位の含有量は、日本分光(株)社製フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)によって得られる各原料樹脂のIRスペクトルから算出した。
【0053】
[実施例1]
<積層シートの作成>
表面層及び基材層に用いた原料樹脂及び配合割合を表2に示す通りとし、表面層用のφ40mm押出機(L/D=26)、基材層用のφ65mm押出機(L/D=28)及び500mm幅のTダイを用いたフィードブロック法により、厚み比率が、表面層/基材層/表面層が10/80/10(すなわち、表面層/基材層で表される各層の厚み比は、20/80である)となるように調整して、積層シートを作成した。なお、表面層の目標厚みは30μmであり、基材層の目標厚みは、240μmとした。また、積層シートの総厚みは0.3mmであった。
【0054】
[実施例2~14、及び比較例1~8]
表面層及び基材層に用いた原料樹脂、配合割合、及び表面層/基材層の比率を表2~3に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法にて積層シートを作成した。
【0055】
[参考例1~3]
原料樹脂及び配合割合を表3に示す通りとし、φ65mm押出機(L/D=28)及び500mm幅のTダイを用いたフィードブロック法により、総厚みが0.3mmとなる単層シートを得た。
【0056】
[評価方法]
各実施例、及び比較例で作製した積層シートについて、次に示す方法によって評価を行った。なお、下記の像鮮明度、バリ発生率、帯電防止性、引張弾性率、耐折強度、及び成型性評価における評価基準は、評価の数字が大きいほど各性能に優れることを意味する。
(1)像鮮明度評価
JIS-K-7374に準拠し、像鮮明度測定器を用いて、像鮮明度を測定した。また、以下の評価基準に従って像鮮明度を評価し、「2評価」以上を合格とした。
<評価基準>
3:像鮮明度が50%以上100%以下のもの。
2:像鮮明度が30%以上50%未満のもの。
1:像鮮明度が30%未満のもの。
【0057】
(2)バリ発生率評価
真空ロータリー成形機を用いて、積層シートのシートサンプルに直径4mmの穴を打ち抜いた。その後、光学顕微鏡を用いて穴の観察を行い、穴に付着しているバリの面積の合計量を算出し、以下の式(1)より打ち抜きバリ発生率を算出した。また、以下の評価基準に従ってバリ発生率を評価し、「2評価」以上を合格とした。
打ち抜きバリ発生率(%)=(バリの面積(合計量)/穴の面積)×100 ・・・(1)
<評価基準>
3:バリ発生率が0%以上5%未満のもの。
2:バリ発生率が5%以上10%未満のもの。
1:バリ発生率が10%以上のもの。
【0058】
(3)帯電防止性評価
ASTM-D-257に準拠し、23℃×50%RHの環境下で積層シートの表面抵抗率を測定した。帯電防止性は、測定した表面抵抗率が1012~1013Ω/sq.では静的状態での障害防止(ほこり付着防止)に有効であり、10~1012Ω/sq.では動的状態での障害防止(摩擦等による静電気発生下での帯電防止)に有効である。よって、以下の評価基準に従って帯電防止性を評価し、「2評価」以上を合格とした。
<評価基準>
3:表面抵抗率が1.0×1011Ω/sq.未満のもの。
2:表面抵抗率が1.0×1011Ω/sq.以上1.0×1012Ω/sq.未満のもの。
1:表面抵抗率が1.0×1012Ω/sq.以上のもの。
【0059】
(4)引張弾性率評価
JIS-K-7127に準拠し、(株)東洋精機製作所製のストログラフVE-1Dを用いて、シートの流れ方向を長さ方向としてサンプリングした試験片タイプ5で測定した。また、以下の評価基準に従って引張弾性率を評価し、「2評価」以上を合格とした。
<評価基準>
3:引張弾性率が1200MPa以上2000MPa以下のもの。
2:引張弾性率が1000MPa以上1200MPa未満のもの。
1:引張弾性率が1000MPa未満のもの、及び2000MPaよりも大きいもの。
【0060】
(5)耐折強度評価
JIS-P-8115(2001年)に準拠し、シートの流れ方向を長さ方向としてサンプリングした長さ150mm、幅15mm、厚さ0.3mmの試験片を作製し、(株)東洋精機製作所製、MIT耐折疲労試験機を用いてMIT耐折強度の測定を行った。この時、折り曲げ角度135度、折り曲げ速度175回/分、測定荷重250gにて試験を行った。また、以下の評価基準に従って耐折強度を評価し、「2評価」以上を合格とした。
<評価基準>
3:耐折強度が30回以上のもの。
2:耐折強度が10回以上30回未満のもの。
1:耐折強度が10回未満のもの。
【0061】
(6)成形性評価
ヒーター温度210℃の条件で、圧空成形機により成形を行い24mm幅のキャリアテープを作成した。キャリアテープのポケットサイズは、流れ方向15mm、幅方向11mm、深さ方向5mmである。このキャリアテープのポケット底面、側面をそれぞれ切り出し、(株)キーエンス製形状測定レーザーマイクロスコープを用いて厚み測定による成形性評価を行った。また、以下の評価基準に従って成形性を評価し、「2評価」以上を合格とした。
<評価基準>
3:測定したポケット底面と側面シートの厚み差が±10%未満のもの。
2:測定したポケット底面と側面シートの厚み差が±10%以上20%以下のもの。
1:測定したポケット底面と側面シートの厚み差が±20%を超えるもの。
【0062】
各実施例、比較例、及び参考例で作製したシートの評価結果をそれぞれ表2~3に纏めて示した。なお、表3中、参考例1~3の帯電防止性(表面抵抗値)における「-」の表記は、表面抵抗値が高すぎてオーバーレンジとなり、測定できなかったことを意味する。よって、これら参考例の帯電防止性評価は、「1」(表面抵抗率が1.0×1012Ω/sq.以上のもの)として評価した。
【0063】
【表2】

【表3】
【0064】
各実施例の積層シートは、表2に示す通り、耐折強度、帯電防止性、及び成形性等の物性バランスに優れ、かつバリ発生率も低かった。一方、本発明の積層シートの構成を満たさない比較例の積層シートは、耐折強度、帯電防止性、成形性、又はバリ発生率のいずれかの物性に劣っており、これら全ての物性を満たす積層シートは得られなかった。以上の結果より、本発明の積層シートは、耐折強度、帯電防止性、及び成形性等の物性バランスに優れ、かつバリの発生を抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0065】
10 積層シート
1 基材層
2 表面層
図1