(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】がん処置における抗CD47薬の治療有効用量を決定及び達成する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240226BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240226BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P35/02
(21)【出願番号】P 2022140214
(22)【出願日】2022-09-02
(62)【分割の表示】P 2018553360の分割
【原出願日】2017-04-14
【審査請求日】2022-09-02
(32)【優先日】2016-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ワイスマン,アービング エル.
(72)【発明者】
【氏名】チャオ,マーク ピー.
(72)【発明者】
【氏名】マジェティ,ラビンドラ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,ジー
(72)【発明者】
【氏名】フォルクマ-,ジェンス-ピーター
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/149477(WO,A1)
【文献】Journal of Clinical Oncology,2016年05月20日,Vol. 34, No. 15, Suppl.,Abstract No. 3019
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61P 35/00
A61P 35/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CD47
抗体を含む、ヒト対象のがん処置する方法に使用されるための医薬組成物であって、
前記方法は、
(a)プライミング用量の前記抗CD47
抗体を前記ヒト対象に投与することであって、前記プライミング用量が約0.5~約5mg/kgであ
り、前記プライミング用量が約0.05mg/ml~約0.5mg/mlの濃度の抗CD47抗体の注入液で前記ヒト対象に投与され、前記注入液が2.5~6時間の期間にわたって送達され、前記プライミング用量が注入直後から急性赤血球凝集をもたらし得る、前記投与することと、
(b)
急性赤血球凝集を低減する際に前記プライミング用量の投与が有効であるかを判定することと、
(c)治療有効用量の抗CD47
抗体を前記ヒト対象に投与することであって、
前記治療有効用量が10~40mg/kgであり、ステップ
(c)がステップ(a)の開始から少なくとも約3日後である、前記投与することと、
を含む、
医薬組成物。
【請求項2】
前記プライミング用量の投与が有効であるかを判定することは、赤血球(RBC)におけるCD47の受容体占有率を測定することを含んでおり、好適なプライミング用量がRBC上における約50%を超える受容体占有率をもたらす、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記注入液が、少なくとも3時間の期間にわたって送達される、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん処置における抗CD47薬の治療有効用量を決定及び達成する方法に関する。
本出願は、2016年4月15日に出願された米国仮特許出願第62/323,330号及び2016年11月29日に出願された米国仮特許出願第62/427,679号の利益を主張し、これらの出願の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
世界的に見て、大部分のがんは固形腫瘍である。2016年には、米国内で1,600,000人超が新たに悪性固形腫瘍の診断を受けるものと推定されている(Siegel et al.(2016),Cancer statistics,2016.CA:A Cancer Journal for Clinicians,66:7-30)。固形腫瘍に対する現状の標準治療としては、外科的切除、放射線療法、細胞傷害性化学療法、ならびに分子標的型の低分子薬及びモノクローナル抗体(mAb)が挙げられる。これらの療法にもかかわらず、転移性がんを有するほとんどの患者は、疾患及び/または処置合併症が原因で死亡する。がんを標的とする低分子薬は、既存または創発性の耐性を有することや、たいていの場合正常細胞に対し細胞傷害性を示すことから、単剤としての有効性に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
治療用mAbの開発は、一部のタイプのがんの処置に大きな影響をもたらした。従来的には、このような組換えタンパク質はがん細胞に特異的に結合し、シグナリング経路を遮断するか、または免疫系の破壊対象となるようにがん細胞をマーキングする。しかし、標的mAbはごく少数のがんのために存在するものであり、最も有効なmAbであっても従来的化学療法との併用療法を必要とする場合があり、また不完全な治療応答をもたらすことが多い。多くの患者において、(分子が腫瘍細胞の生存に必須でない場合の)抗体標的の喪失により、または腫瘍殺傷への耐性発生により、がん疾患はmAb処置に対し耐性を 持つようになる。通常、患者は疾患の再発を経験する。
【0005】
CD47は、がん細胞が自然免疫系による貪食作用を回避する媒介となる主要分子として特定された。CD47は、がん細胞(がん幹細胞を含む)が自らの貪食促進的な「私を食べて(eat me)」シグナルの内在的発現を克服するために用いる不可欠の手段であると思われる。正常細胞からがん細胞への進行は、プログラム細胞死(PCD)及びプログラム細胞除去(PCR)のトリガーとなる遺伝子及び/または遺伝子発現の変化を伴う。がん進行における多くのステップでPCDの複数の機構が弱体化し、支配的な抗貪食シグナル、CD47の発現が重要なチェックポイントとなり得る。
【0006】
CD47発現の増加は、以下の原発性悪性腫瘍を含めた多くの様々なヒト腫瘍タイプに由来するがん細胞表面で生じる:頭頸部癌、黒色腫、乳癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、結腸癌、膀胱癌、前立腺癌、平滑筋肉腫、神経膠芽細胞腫、髄芽細胞腫、乏突起神経膠腫、神経膠腫、リンパ腫、白血病、及び多発骨髄腫。マウス異種移植片の研究において、CD47遮断抗体が、様々な血液悪性腫瘍及びいくつかの固形腫瘍からのがん幹細胞及びがん細胞の貪食及び除去を可能にすることで、ヒトのがんの増殖及び転移を阻害することが示されている。
【0007】
CD47は、貪食細胞(マクロファージ及び樹状細胞を含む)上で発現するSIRPαのリガンドとして機能する。SIRPαは、CD47の結合によって活性化するとシグナル伝達カスケードを開始し、その結果貪食作用を阻害する。このようにして、CD47は、貪食細胞に支配的な阻害シグナルを送達することによって抗貪食シグナルとして機能する。遮断作用のある抗CD47 mAbががん幹細胞及びがん細胞の貪食除去を可能にすることが実証されている。
【0008】
マウス異種移植片において、CD47遮断mAbは、様々な血液悪性腫瘍及び固形腫瘍に由来するがん細胞の貪食作用及び除去を可能にすることにより、ヒト異種移植片の腫瘍成長及び転移を阻害する。さらに、CD47遮断mAbは、確立したがん細胞標的mAbであるリツキシマブ、トラスツズマブ、及びセツキシマブと協同して、一部の腫瘍タイプにおける治療有効性を強化する。
【0009】
CD47とSIRPαとの相互作用を遮断する抗体の有効な送達方法は臨床的な関心対象であり、この送達方法を本明細書で提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
治療有効用量の抗CD47薬を用いて個体を処置する方法が提供される。本発明の方法は、有効なプライミング用量及び治療用量のCD47に結合する薬剤であって、がん細胞上に存在し、赤血球(RBC)上に存在してもよい薬剤を投与する。本発明の方法で使用する抗CD47薬は、がん細胞上に存在するCD47と、貪食細胞上に存在するSIRPαとの結合を妨害する。概して、このような細胞はいずれも処置対象の個体内に存在する。本発明の方法は、貪食促進シグナルの存在下で、RBC集団への望ましくない副作用を低減しつつ、標的がん細胞の貪食を増加させることができる。
【0011】
主題の方法は、CD47に結合する薬剤(抗CD47抗体を含む)を用いて、対象のがん処置に使用することができる。ここでの抗体という用語は、抗体断片及びそのバリアント、ならびにSIRPαポリペプチド(例えば、SIRPα配列を含む多価ポリペプチド)を含む。好適な薬剤としては、以下に限定されないが、Hu5F9(Hu5F9-G4 を含む);CC-9002;TTI-621、及び二価、四価等の高親和性SIRPαポリペプチドが挙げられる。
【0012】
前述のように、治療用量のCD47結合薬は、赤血球(RBC)の損失及び貧血につながる恐れがある。プライミング用量のCD47結合薬を投与することで、成熟した赤血球の損失に起因する毒性が顕著に低減され、その一方で若い赤血球は温存される。理論に拘泥するものではないが、プライマー薬によって生成が増加した網状赤血球(若いRBC)は、CD47が媒介する貪食作用に高い耐性を有するため、次に行われる抗CD47薬投与の間、損失が起こりにくいものと考えられる。血球(例えば、RBC及びWBC)におけるCD47の受容体占有率を測定することにより、前臨床使用または臨床使用に適切な用量タイミングを決定する方法が提供される。本明細書では、好適なプライミング用量が、RBC上における約50%を超える受容体占有率をもたらすことが示されている。プライミング用量を決定するこの方法は、任意のCD47結合薬に適用することができる。
【0013】
本発明の一部の実施形態では、Hu-5F9G4における有効プライミング用量が提供され、ヒトに対する有効プライミング用量は、約1mg/kg前後、例えば、少なくとも約0.5mg/kg~約5mg/kg以下、少なくとも約0.75mg/kg~約1.25mg/kg以下、少なくとも約0.95mg/kg~約1.05mg/kg以下であり、約1mg/kg前後とすることができる。
【0014】
また、CD47結合薬の初回用量(プライミング用量を含むがこれに限定されない)は、注入直後からある期間の間、赤血球凝集ももたらし得る。理論に拘泥するものではないが、初回用量の多価CD47結合薬は、当該薬剤に結合したRBCの架橋を引き起こす可能性がある。本発明のある特定の実施形態において、CD47結合薬は、初回用量において、また任意選択で後続の用量において、局所的に高い濃度のRBC及び薬剤が存在する血液学的ミクロ環境の可能性を低減する期間及び/または濃度で患者に注入される。
【0015】
本発明の一部の実施形態において、初回用量のCD47結合薬は、少なくとも約2時間、少なくとも約2.5時間、少なくとも約3時間、少なくとも約3.5時間、少なくとも約4時間、少なくとも約4.5時間、少なくとも約5時間、少なくとも約6時間、またはそれ以上にわたって注入される。一部の実施形態において、初回用量は、約2.5時間~約6時間、例えば約3時間~約4時間の期間にわたって注入される。一部のこのような実施形態において、注入液中の薬剤の用量は約0.05mg/ml~約0.5mg/ml、例えば、約0.1mg/ml~約0.25mg/mlである。
【0016】
一部の実施形態において、プライミング用量は2つ以上のサブ用量に細分化され、約1日から、約2日、約3日、約4日、約1週間、約10日、約2週間の期間にわたって送達される。
【0017】
他の実施形態において、CD47結合薬の初回用量(例えば、プライミング用量)は、持続注入により(例えば、浸透圧ポンプ、送達パッチなどとして)投与され、このとき用量は少なくとも約6時間、少なくとも約12時間、少なくとも約24時間、少なくとも約2日、少なくとも約3日の期間にわたって投与される。
【0018】
一部の実施形態において、プライミング用量は皮下経路を通じて、当技術分野で公知のように、注射、パッチ、浸透圧ポンプなどによって送達することができる。
【0019】
プライミング薬を投与し、網状赤血球の生成増加のためにある期間置いた後、治療用量の抗CD47薬を投与する。治療用量は、複数の異なる方法で投与することができる。一部の実施形態において、プライマー薬が投与された後に、例えば週1回の投与スケジュールで、2回以上の治療有効用量が投与される。一部の実施形態において、治療有効用量の抗CD47薬は漸増濃度の2回以上の用量として投与され、他の実施形態では用量は等価である。
【0020】
本発明の一部の実施形態において、治療(維持)用量は、ある持続期間の間100μg/mlを超える循環レベルを達成するのに十分である。一部のこのような実施形態において、抗CD47薬は抗体5F9のことである。一部の実施形態において、持続期間は最大約1週間である。一部の実施形態において、持続期間は最大約10日である。一部の実施形態において、持続期間は最大約2週間である。一部の実施形態において、維持用量は、約10mg/kg~約25mg/ml、約12.5mg/kg~約22.5mg/kg、約15mg/kg~約20mg/kg、約17.5mg/kg~約20mg/kg、約10mg/kg~約20mg/kgである。維持用量は、約100μg/mlを超える持続血清レベルをもたらす周期で投与することができ、このとき投与は、週1回、8日に1回、9日に1回、10日に1回、11日に1回、12日に1回、13日に1回、2週間に1回、3週間に1回とすることができ、また低頻度の投与(例えば1ヵ月に1回、1ヵ月に2回、2ヵ月に1回など)にはフォローアップ療法を提供してもよい。
【0021】
一部の実施形態において、がん処置のための治療レジメンは、負荷用量の抗CD47抗体(5F9-G4を含むがこれに限定されない)の投与を含み、この負荷用量は10mg/kg~40mg/kgの用量で週2回投与され、場合によっては20mg/kg~30mg/kgの用量で週2回投与される。次に、患者は維持用量を週1回または週2回、10mg/kg~40mg/kgの用量で投与され、場合によっては20mg/kg~30mg/kgの用量とする。一部のこのような実施形態において、当該がんは固形腫瘍である。一部のこのような実施形態において、当該がんは血液癌、例えば白血病であり、急性骨髄性白血病がこれに含まれるが限定されない。
【0022】
本発明は、添付の図面と併用して以下の詳細な説明を参照することで、十分に理解される。本特許または出願ファイルには、カラーで制作された図面が少なくとも1点含まれている。慣例に従い、図面の様々な特徴が縮尺通りではないことを強調する。反対に、様々な特徴の寸法は、分かりやすくするため任意に拡大または縮小されている。以下の図が図面に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】赤血球は低用量の抗体で飽和する。グラフは、指示投与量のHu5F9-G4を投与した患者におけるRBC上のCD47の受容体占有率を示している。1mg/kgの用量は、RBC結合部位の飽和に十分である。
【
図2】WBC CD47受容体占有率は用量濃度と共に増加する。グラフは、指示投与量のHu5F9-G4を投与した患者におけるWBC上のCD47の受容体占有率を示している。
【
図3-1】WBC CD47受容体占有率は用量濃度と共に増加する。グラフは、様々な用量の抗体におけるWBC上のCD47の受容体占有率を示している。
【
図3-2】WBC CD47受容体占有率は用量濃度と共に増加する。グラフは、様々な用量の抗体におけるWBC上のCD47の受容体占有率を示している。
【
図3-3】WBC CD47受容体占有率は用量濃度と共に増加する。グラフは、様々な用量の抗体におけるWBC上のCD47の受容体占有率を示している。
【
図4】臨床使用向けの抗CD47抗体の目標トラフレベルを示すグラフである。
【
図5】抗CD47抗体の目標トラフレベルの薬物動態を示すグラフである。
【
図6】ヒト患者において10mg/kgでの投与の繰り返しにより目標トラフレベルに近づくことを示すグラフである。
【
図7】抗CD47抗体投与後の代償的な網状赤血球増加による貧血を示すグラフである。
【
図8】赤血球凝集は、プライミング用量の注入時間の延長によって軽減される。末梢血塗抹の顕微鏡像と、抗CD47抗体の初回注入に伴う赤血球凝集のグラフとが示されている。A。処置前、そしてHu5F9-G4の最初の1mg/kg(プライミング)用量から4時間後に患者から得た代表的な末梢血塗抹の顕微鏡像である。1時間の注入では顕著な赤血球凝集が観察されるが、3時間の注入では赤血球凝集が顕著に低減している。B。プライミング用量注入の持続時間を1時間から3時間に延長することで、赤血球凝集の頻度及び重症度が顕著に低減する。1+~3+は、処置後4時間時に末梢血塗抹で観察された凝集赤血球のパーセンテージを表す。N=各注入時間で処置を受けた患者の数。
【
図9】Hu5F9-G4は、臨床的に実行可能な用量で目標PKレベルを達成することができる。データは、Hu5F9-G4が臨床的に実行可能な用量で内部のCD47組織シンクを飽和させることができ、抗体の半減期は組織シンクの飽和発生後に延長されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、治療用量の抗CD47薬を用いて対象を処置する方法に関する。
【0025】
本発明の方法及び組成物について説明する前に理解されたいことは、説明される特定の方法及び組成物は当然ながら変動し得るため、本発明がこれら特定の方法及び組成物に限定されるものではないということである。また、本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、本明細書の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることになるため、こうした用語が限定的であるようには意図されていないことも理解されたい。
【0026】
値の範囲が示されている場合、各介在値(文脈による別段の指示が明確にない限り、当該範囲の上限と下限との間の下限の10分の1の単位まで)も明確に開示されていることを理解されたい。記載範囲内における、任意の記載値または介在値と他の任意の記載値または介在値との間の各々の小範囲は、本発明に含まれる。これらの小範囲における上限及び下限は、独立してその小範囲に含めても除外してもよく、この小範囲に上限下限の一方が含まれる、いずれも含まれない、または両方が含まれる各々の範囲も本発明に含まれ、記載範囲における任意の明確に除外された制限の対象となる。記載範囲が上限下限の一方または両方を含む場合、この含まれた上限下限の一方または両方を除外する範囲も、本発明に含まれる。
【0027】
別途定義されない限り、本明細書で使用する技術的用語及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。本発明の実施または試験において、本明細書に記載の方法及び材料に類似または同等の任意の方法及び材料を使用してもよいが、以下、いくつかの有望かつ好ましい方法及び材料について説明する。本明細書で言及する全ての刊行物は、これらの刊行物の引用に関連した方法及び/または材料を開示及び説明するため、参照により本明細書に組み込まれる。本開示は、矛盾が存在する限りにおいて、組み込まれた刊行物の任意の開示に取って代わるものであることを理解されたい。
【0028】
本開示を読めば当業者には明らかとなるように、本明細書で説明及び例示がなされている個々の実施形態は別々の要素及び特徴を有し、これらは、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴から分離することもそれらと組み合わせることも容易にできる。任意の示された方法は、示された事象の順に実行することも、他の任意の論理的に可能な順に実行することもできる。
【0029】
本明細書及び付属の請求項で使用する単数形「a」「an」及び「the」は、文脈による別段の明確な定めがない限り、複数の指示対象を含むことに注意しなければならない。したがって、例えば、「細胞」と言及した場合は複数のこのような細胞が含まれ、「当該ペプチド」と言及した場合は、1つ以上のペプチドや当業者に公知のその等価物(例えば、ポリペプチド)への言及が含まれる、などということになる。
【0030】
本明細書で論じられている刊行物は、単に本願の出願日より前にそれらが開示されていたために提供されている。本明細書のいかなる内容も、本発明が先発明によってこのような刊行物に先行する権利を有しないことを承認するものとして解釈すべきではない。さらに、示される公開日は実際の公開日と異なる可能性があり、実際の公開日は独立に確認する必要があり得る。
【0031】
定義
抗CD47薬。本明細書において、「抗CD47薬」という用語は、(例えば、標的細胞上の)CD47と(例えば、貪食細胞上の)SIRPαとの結合を低減する任意の薬剤を指す。本発明の特定の方法に関しては、CD47に結合する薬剤が対象となる。好適な抗CD47薬の非限定的例としてはSIRPα試薬が挙げられ、以下に限定されないが、高親和性SIRPαポリペプチド及び抗CD47抗体または抗CD47抗体断片が含まれる。本発明の方法で使用する薬剤は、薬剤不在下での貪食作用と比較して、貪食作用を少なくとも10%(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも120%、少なくとも140%、少なくとも160%、少なくとも180%、または少なくとも200%)上方制御する。一部の実施形態において、抗CD47薬は結合の際にCD47を活性化しない。CD47が活性化されると、アポトーシス(すなわち、プログラム細胞死)に似たプロセスが起こり得る(Manna and Frazier,Cancer Research,64,1026-1036,Feb.1 2004)。したがって、一部の実施形態において、抗CD47薬はCD47発現細胞の細胞死を直接的に誘導することはない。
【0032】
抗CD47抗体。一部の実施形態において、主題の抗CD47薬は、CD47に特異的に結合する抗体(すなわち、抗CD47抗体)であり、ある細胞(例えば、感染細胞)上のCD47と別の細胞(例えば、貪食細胞)上のSIRPαとの相互作用を低減する。一部の実施形態において、好適な抗CD47抗体は結合の際にCD47を活性化しない。好適な抗体の非限定的例としては、クローンB6H12、5F9、8B6、及びC3が挙げられる(例えば、参照により本明細書に明確に組み込まれる国際特許公開第WO2011/143624号で説明されている)。クローンCC-9002は、参照により本明細書に明確に組み込まれるWO2013119714に開示されている。好適な抗CD47抗体としては、当該抗体の完全ヒト型、ヒト化型、またはキメラ型が挙げられる。ヒト化抗体(例えば、hu5F9-G4)は抗原性が低いことから、ヒトにおけるin vivoの用途で特に有用である。同様に、イヌ化抗体、ネコ化抗体、その他の抗体は、それぞれイヌ、ネコ、及びその他の種における用途で特に有用である。対象となる抗体としては、ヒト化抗体、またはイヌ化、ネコ化、ウマ化、ウシ化、ブタ化、及びその他の抗体ならびにそのバリアントが挙げられる。
【0033】
SIRPα試薬。SIRPα試薬は、シグナル配列と膜貫通ドメインとの間に存在し、CD47に認識可能な親和性で結合するのに十分であるSIRPαの一部部分、または結合活性を保持するその断片を含む。本発明の特定の方法に関しては、多価のSIRPαポリペプチドが対象となる。
【0034】
好適なSIRPα試薬は、ネイティブタンパク質SIRPαとCD47との間の相互作用を低減する(例えば、遮断する、防止するなど)。通常、SIRPα試薬は少なくともSIRPαのd1ドメインを含むことになる。一部の実施形態において、SIRPα試薬は融合タンパク質であり、例えば第2のポリペプチドとインフレーム融合している。一部の実施形態において、第2のポリペプチドは、例えば融合タンパク質が迅速に循環から除去されないように、融合タンパク質のサイズを増加させることができる。一部の実施形態において、第2のポリペプチドは免疫グロブリンFc領域の一部または全体である。Fc領域による貪食作用の支援は、Fc領域が提供する「私を食べて」シグナルが、高親和性SIRPα試薬が提供する「私を食べないで(don’t eat me)」シグナルの遮断を強化することによって行われる。他の実施形態において、第2のポリペプチドはFcにかなり類似し、例えば、サイズの増加、多量体化ドメイン、及び/またはIg分子との追加的な結合もしくは相互作用をもたらす、任意の好適なポリペプチドである。対象となるSIRPα薬としてはTTI-621が挙げられる(参照により本明細書に明確に組 み込まれる、臨床試験識別子NCT02663518を参照)。
【0035】
一部の実施形態において、主題の抗CD47薬とは「高親和性SIRPα試薬」のことであり、SIRPα由来ポリペプチド及びその類似体がこれに含まれる。高親和性SIRPα試薬は、参照により本明細書に明確に組み込まれる国際出願第PCT/US13/21937号で説明されている。高親和性SIRPα試薬は、ネイティブSIRPαタンパク質のバリアントである。一部の実施形態において、高親和性SIRPα試薬は可溶性であり、ポリペプチドはSIRPα膜貫通ドメインが欠如し、野生型のSIRPα配列との比較で少なくとも1つのアミノ酸変化を含み、このアミノ酸変化から、例えばオフレートが少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、またはそれ以上低下することによって、SIRPαポリペプチドとCD47との結合親和性が向上する。
【0036】
高親和性SIRPα試薬は、シグナル配列と膜貫通ドメインとの間に存在し、CD47に認識可能な親和性(例えば、高親和性)で結合するのに十分であるSIRPαの一部分、または結合活性を保持するその断片を含む。通常、高親和性SIRPα試薬は、少なくとも、親和性を向上させるための修飾アミノ酸残基を有するSIRPαのd1ドメインを含む。一部の実施形態において、本発明のSIRPαバリアントは融合タンパク質であり、例えば第2のポリペプチドとインフレーム融合している。一部の実施形態において、第2のポリペプチドは、例えば融合タンパク質が迅速に循環から除去されないように、融合タンパク質のサイズを増加させることができる。
【0037】
一部の実施形態において、第2のポリペプチドは免疫グロブリンFc領域の一部または全体である。Fc領域による貪食作用の支援は、Fc領域が提供する「私を食べて」シグナルが、高親和性SIRPα試薬が提供する「私を食べないで」シグナルの遮断を強化することによって行われる。他の実施形態において、第2のポリペプチドはFcにかなり類似し、例えば、サイズの増加、多量体化ドメイン、及び/またはIg分子との追加的な結合もしくは相互作用をもたらす、任意の好適なポリペプチドである。親和性の向上をもたらすアミノ酸変化は、d1ドメイン内に局在化されているため、高親和性SIRPα試薬は、d1ドメイン内の野生型配列との比較で少なくとも1つのアミノ酸変化を有する、ヒトSIRPαのd1ドメインを含む。このような高親和性SIRPα試薬は、任意選択で、追加のアミノ酸配列を含み、これは、例えば抗体Fc配列、d1ドメイン以外の野生型ヒトSIRPαタンパク質の部分(以下に限定されないが、ネイティブタンパク質の残基150~374またはその断片、通常はd1ドメインに近接した断片を含む)などである。高親和性SIRPα試薬は、単量体であっても多量体(すなわち、二量体、三量体、四量体など)であってもよい。
【0038】
「処置」「処置すること」「処置する」などの用語は、本明細書では、所望の薬理学的及び/または生理学的効果を得ることを広く指すために使用される。効果は、疾患もしくはその症状を完全にもしくは部分的に防止するという観点で予防的であってもよく、及び/または、疾患または疾患に起因し得る有害作用を部分的にもしくは完全に安定化もしくは治癒するという観点で治療的であってもよい。「処置」という用語は、哺乳類、特にヒトにおける疾患の任意の処置を含み、(a)疾患または症状にかかりやすい可能性があるがまだそれを有すると診断されていない対象において疾患及び/または症状(複数可)が生じるのを防止することと、(b)疾患及び/または症状(複数可)を阻害すること、すなわちこれらの発生を抑止することと、(c)疾患、症状(複数可)を緩和すること、すなわち、疾患及び/または症状(複数可)の後退を引き起こすことと、を含む。処置を必要とする者には、既にかかっている者(例えば、がんを有する者、感染症を有する者など)及び防止が望ましい者(例えば、がんへの感受性が高まっている者、感染の可能性が高まっている者、がんを有する疑いがある者、感染症を有する疑いがある者など)が含まれる。
【0039】
本明細書において、「標的細胞」とは、表面上にCD47を発現する細胞のことであり、(例えば、抗CD47薬の投与によって)CD47陽性表現型を隠すまたは改変することで貪食作用の増加がもたらされる。通常、標的細胞とは哺乳類細胞、例えばヒト細胞のことである。
【0040】
「レシピエント」「個体」「対象」「宿主」及び「患者」という用語は本明細書では互換的に使用され、診断、処置、または治療が望ましい任意の哺乳類対象、特にヒトを指す。処置目的の「哺乳類」とは、哺乳類として分類される任意の動物を指し、ヒト、飼育動物、家畜、動物園の動物、競技用動物、またはペット動物(例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタなど)がこれに含まれる。好ましくは、当該哺乳類はヒトである。
【0041】
「治療有効用量」または「治療用量」とは、所望の臨床結果をもたす(すなわち、治療有効性を達成する)のに十分な量のことである。治療有効用量は、1回以上の投与で投与され得る。本発明の目的において、抗CD47薬の治療有効用量とは、標的細胞(例えば、標的細胞)の貪食作用を増加させることによって、疾患状態(例えば、がん)の進行を緩和、改善、安定化、反転、防止、緩速化、または遅延するのに十分な量のことである。したがって、治療有効用量の抗CD47薬は、標的細胞の貪食作用を増加する有効用量で、標的細胞上のCD47と貪食細胞上のSIRPαとの結合を低減する。
【0042】
一部の実施形態において、治療有効用量は、約40μg/ml以上(例えば、約50μg/ml以上、約60μg/ml以上、約75μg/ml以上、約100μg/ml以上、約125μg/ml以上、または約150μg/ml以上)の抗CD47薬(例えば、抗CD47抗体)の血清レベルの持続、すなわちトラフレベルをもたらす。
【0043】
一部の実施形態において、治療有効用量は、約40μg/ml~約300μg/ml(例えば、約40μg/ml~250μg/ml、約40μg/ml~200μg/ml、約40μg/ml~150μg/ml、約40μg/ml~100μg/ml、約50μg/ml~300μg/ml、約50μg/ml~250μg/ml、約50μg/ml~200μg/ml、約50μg/ml~150μg/ml、約75μg/ml~300μg/ml、約75μg/ml~250μg/ml、約75μg/ml~200μg/ml、約75μg/ml~150μg/ml、約100μg/ml~300μg/ml、約100μg/ml~250μg/ml、または約100μg/ml~200μg/ml)を範囲とする抗CD47薬(例えば、抗CD47抗体)の血清レベルの持続をもたらす。
【0044】
一部の実施形態において、固形腫瘍処置のための治療有効用量は、約100μg/ml以上の抗CD47薬(例えば、抗CD47抗体)の血清レベルの持続、例えば、約100μg/ml~約500μg/ml、約100μg/ml~約400μg/ml、約100μg/ml~約300μg/ml、約100μg/ml~約200μg/mlを範囲とする血清レベルの持続をもたらす。
【0045】
したがって、一連の治療有効用量は抗CD47薬の血清レベルを達成し維持することができると考えられる。抗CD47薬の治療有効用量は、使用する特定の薬剤に依存し得るが、通常は、約5mg/kg体重以上(例えば、約8mg/kg以上、約10mg/kg以上、約15mg/kg以上、約20mg/kg以上、約25mg/kg以上、約30mg/kg以上、約35mg/kg以上、約40mg/kg以上)、または約10mg/kg~約40mg/kg(例えば、約10mg/kg~約35mg/kg、または約10mg/kg~約30mg/kg)である。特定の血清レベルの達成及びまたは維持に必要な用量は、用量間の時間量に比例し、投与する用量の回数に反比例する。したがって、投与の頻度が増加するに伴い必要な用量は減少する。投与の最適化戦略は、当業者によって容易に理解され、実施されるであろう。
【0046】
一部の実施形態において、プライミング用量は、過度の貧血を伴うことなく代償的な網状赤血球増加を引き起こすのに十分な用量(すなわち、量)として定義される。一部の実施形態において、プライミング用量は、後続の用量によって悪化しない貧血を引き起こす用量として定義される。抗CD47薬のプライミング用量は使用する特定の薬剤に依存し得るが、概して約0.5~約5mg/kgである。
【0047】
本明細書において「プライミング用量」という用語は、治療有効用量の抗CD47薬を投与する対象を予備刺激して、この治療有効用量が重大なRBC損失(ヘマトクリット低減またはヘモグロビン低減)をもたらさないようにする抗CD47薬の用量を指す。具体的かつ適切な抗CD47薬のプライミング用量は、使用する薬剤の性質や多数の対象固有の要因(例えば、年齢、体重など)に応じて変動し得る。抗CD47薬における好適なプライミング用量の例としては、約0.5mg/kg~約5mg/kg、約0.5mg/kg~約4mg/kg、約0.5mg/kg~約3mg/kg、約1mg/kg~約5mg/kg、約1mg/kg~約4mg/kg、約1mg/kg~約3mg/kg、約1mg/kg、約2mg/kg、約3mg/kg、約4mg/kg、約5mg/kgが挙げられる。
【0048】
「維持用量」とは、治療有効用量であるように意図されている用量のことである。例えば、治療有効用量を決定するための実験では、複数の異なる維持用量を異なる対象に投与する場合がある。そのため、維持用量においては、治療有効用量である維持用量もあり得るし、サブ治療用量である維持用量もあり得る。
【0049】
「負荷用量」は、維持用量に切り替える前に、治療レベルの抗体を達成するために使用することができる。負荷用量は、維持用量と同じであってもそれより高くても低くてもよいが、概して所与の期間にわたってもたらす全体的な送達量は維持用量より高いものとなる。例えば、負荷用量は、維持用量と同じであってもそれより低くてもよいが、より高い頻度で、例えば、1日1回、2日に1回、3日に1回、週に2回、週に1回などで送達され得る。代替方法として、負荷用量は維持用量よりも高用量とすることができ、同じ周期またはより高い頻度で、例えば、1日1回、2日に1回、3日に1回、週に2回、週に1回などで送達され得る。
【0050】
「特異的な結合」「特異的に結合する」などの用語は、溶液中または反応混合物中で、他の分子または部分より優先的に、ある分子に非共有結合または共有結合することを指す(例えば、ある抗体が、他の利用可能なポリペプチドではなく特定のポリペプチドまたはエピトープに特異的に結合する、またはSIRPαポリペプチドの結合)。一部の実施形態において、ある分子における特異的結合対象の別の分子に対する親和性は、10-5M以下(例えば、10-6M以下、10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、10-10M以下、10-11M以下、10-12M以下、10-13M以下、10-14M以下、10-15M以下、または10-16M以下)のKD(解離定数)によって特徴づけられる。「親和性」とは結合の強さを指し、結合親和性の増加はKDの低下と相関する。
【0051】
本明細書において「特異的結合メンバー」とは、特異的結合ペアのメンバーを指す(すなわち、2つの分子、通常は2つの異なる分子において、これらの分子の一方(例えば、第1の特異的結合メンバー)が、非共有的手段を通じて他方の分子(例えば、第2の特異的結合メンバー)に特異的に結合する)。好適な特異的結合メンバーとしては、CD47及び/またはSIRPαに特異的に結合する薬剤(すなわち、抗CD47抗体)、あるいはCD47とSIRPαとの間の相互作用を遮断する薬剤が挙げられる。
【0052】
「ポリペプチド」「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書では互換的に使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。これらの用語は、天然アミノ酸ポリマー及び非天然アミノ酸ポリマーに適用されるだけではなく、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工化学模倣体であるアミノ酸ポリマーにも適用される。
【0053】
「貪食細胞」及び「食細胞」という用語は本明細書では互換的に使用され、貪食作用が 可能な細胞を指す。食細胞には3つの主なカテゴリーが存在し、それはすなわち、単核細 胞(組織球及び単球)であるマクロファージ、多形核白血球(好中球)、及び樹状細胞で ある。
【0054】
患者に関しての「試料」という用語は、血液及び他の生体起源の液体試料、固体組織試料、例えば、生検標本もしくは組織培養物もしくは細胞由来のもの、またはそこからの単離物及び継代物を含む。また、当該定義には、試料の調達後に、試薬を用いた処理、洗浄、またはある特定の細胞集団(例えば、がん細胞)の豊富化などにより、任意の方法で操作を施した試料も含まれる。当該定義には、特定のタイプの分子(例えば、核酸、ポリペプチドなど)を豊富化した試料も含まれる。
【0055】
「生体試料」という用語は臨床試料を含み、また外科的切除により得られる組織、生検により得られる組織、培養物中の細胞、細胞上清、細胞可溶化物、組織試料、臓器、骨髄、血液、血漿、血清なども含む。「生体試料」には、標的細胞もしくは正常な対照細胞を含む試料、またはこのような細胞もしくはそれに由来する生体液を含む疑いのある試料(例えば、がん細胞、感染細胞など)、例えば、このような細胞から得られるポリヌクレオチド及び/またはポリペプチドを含む試料(例えば、ポリヌクレオチド及び/またはポリペプチドを含む細胞可溶化物または他の細胞抽出物)が含まれる。患者からの病気にかかった細胞を含む生体試料は、病気にかかっていない細胞も含み得る。
【0056】
「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、具体的にはモノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異的抗体(例えば、二重特異的抗体)、及び抗体断片(ただし、所望の生体活性を示す場合に限る)を網羅する。「抗体」(Ab)及び「免疫グロブリン」(Ig)は、同じ構造特性を有する糖タンパク質である。抗体が特定の抗原に結合特異性を示すのに対し、免疫グロブリンには、抗体も抗原特異性を欠いた他の抗体類似分子も含まれる。後者の種類のポリペプチドを、例えば、リンパ系は低レベルで生成し、骨髄腫は高レベルで生成する。
【0057】
本明細書において、「抗体断片」及びその全ての文法上のバリアントはインタクトな抗体の一部分として定義され、インタクトな抗体の抗原結合部位または可変領域を含み、この一部分は、インタクトな抗体のFc領域における定常重鎖ドメイン(すなわち、抗体アイソトープに応じてCH2、CH3、及びCH4)を含まない。
【0058】
抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab′、Fab′-SH、F(ab′)2、及びFv断片;ダイアボディ;連続したアミノ酸残基の1つの中断されない配列からなる一次構造を有するポリペプチドである任意の抗体断片(本明細書では、「単鎖抗体断片」または「単鎖ポリペプチド」と呼ばれる)(以下に限定されないが、(1)単鎖Fv(scFv)分子、(2)関連する重鎖部分なしで、1つの軽鎖可変ドメインのみを含有する単鎖ポリペプチド、または軽鎖可変ドメインの3つのCDRを含有するその断片、(3)関連する軽鎖部分なしで、1つの重鎖可変領域のみを含有する単鎖ポリペプチド、または重鎖可変領域の3つのCDRを含有するその断片、及び(4)非ヒト種からの単一のIgドメインを含むナノボディ、または他の特異的単一ドメイン結合分子がこれに含まれる);ならびに抗体断片から形成された多重特異的構造または多価構造が挙げられる。
【0059】
1つ以上の重鎖を含む抗体断片において、重鎖(複数可)は、インタクトな抗体の非Fc領域内に見いだされる任意の定常ドメイン配列(例えば、IgGアイソタイプにおけるCH1)を含有することができ、及び/またはインタクトな抗体内に見いだされる任意のヒンジ領域を含有することができ、及び/または重鎖(複数可)のヒンジ領域配列または定常ドメイン配列に融合しているまたはその中に位置するロイシンジッパー配列を含有することができる。
【0060】
本発明において、「エピトープ」という用語は、抗体のパラトープが結合対象とする抗原上の任意の抗原決定基を意味する。通常、エピトープ決定基は、アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学活性表面グルーピングからなり、通常、特定の三次元構造特性及び特定の荷電特性を有する。
【0061】
方法
受容体占有率(RO)アッセイは、CD47結合薬(例えば、抗CD47抗体(Ab))によるCD47占有率のレベルを測定する。CD47 ROのレベルを測定する目的は、CD47結合薬の用量と、CD47受容体飽和度と、及び薬理学的効果との関係を決定することである。経時的な受容体占有率のパーセントにより、所望の薬理学的効果を生じるに必要な薬物の量または曝露持続時間に関する有用な情報がもたらされ得る。このアッセイを使用して、代用細胞上のCD47 RO、例えば、CD45陰性(-)赤血球(RBC)及びCD45陽性(+)白血球(WBC)、または他の細胞集団(例えば、骨髄または組織生検から得られる組織細胞)上のCD47 ROを測定することにより、体内の全体的ROを決定することができる。また、ROアッセイを使用して、CD47結合及び/または遮断療法向けに、標的細胞上のCD47 RO、例えばRBC、白血球細胞、または固形腫瘍細胞上のCD47 ROを決定することもできる。
【0062】
対象となるのは、所望の薬理学的効果に関連するCD47受容体占有率閾値を決定するための当該アッセイの使用である。この閾値は、ex vivo(in vitro)で実施するアッセイにより、またはin vivo投与/処置中の試料の解析により、決定することができる。
【0063】
当該アッセイの一実施形態において、対象となる細胞におけるCD47結合標準曲線は、蛍光色素結合抗体を様々な濃度で使用することにより作成される。受容体占有率は、標的細胞を種々の濃度下で標識されていない抗体と共にインキュベートすることによって測定し、次に細胞のin vitro貪食作用をアッセイするか、または細胞を標準曲線に基づいた標識抗体の飽和濃度でインキュベートし、フローサイトメトリーにより結合を解析した。受容体占有率を以下のように産出した。
%RO=100-((MFI試験-MFI非染色)/(MFI飽和STD-MFI非染色))×100
【0064】
他の実施形態において、当該アッセイは、患者に規定用量の抗体を注入し、患者から、通常は抗体注入の前後に、組織試料(例えば、血液試料)を得ることによって実施される。組織試料は、標識抗体の飽和濃度でインキュベートし、フローサイトメトリーによって解析する。この解析は、例えば赤血球、白血球、がん細胞などのゲーティングを行ってもよい。
【0065】
RBC上で少なくとも約80%のCD47の飽和度を達成するプライミング用量は、貧血の代償を誘導し後続の用量で貧血の程度を低減するのに十分であることが分かっている。ヒトにおいては、プライミング用量は上で論じされている通り、すなわち約0.5mg/kg~約5mg/kgであることが分かっている。本発明の一部の実施形態において、受容体占有率アッセイは、候補CD47結合薬を用いて、RBC上での少なくとも約50%の飽和度、少なくとも約60%の飽和度、少なくとも約70%の飽和度、少なくとも約80%の飽和度、少なくとも約90%の飽和度、少なくとも約95%の飽和度、少なくとも約99%の飽和度、またはそれ以上をもたらすプライミング用量のレベルを決定するために実施する。
【0066】
本発明の一部の実施形態において、受容体占有率アッセイは、候補抗CD47抗体薬(例えば、CD47に結合する抗体、SIRPαポリペプチドなど)の適切なプライミング用量を決定するために実施される。
【0067】
処置方法
治療用量の抗CD47薬を用いて対象を処置する方法が提供される。主題の方法は、プライマー薬を対象に投与するステップの後に、治療有効用量の抗CD47抗体を対象に投与するステップを含む。一部の実施形態において、治療有効用量を投与するステップは、プライマー薬の投与開始から少なくとも約3日後(例えば、少なくとも約4日後、少なくとも約5日後、少なくとも約6日後、少なくとも約7日後、少なくとも約8日後、少なくとも約9日後、または少なくとも約10日後)に実施される。この期間は、例えば、個体が網状赤血球の生成を強化するのに十分である。
【0068】
治療有効用量の抗CD47抗体薬の投与は、複数の異なる方法で達成することができる。場合によっては、プライマー薬が投与された後に2回以上の治療有効用量が投与される。治療有効用量の好適な投与は単回用量の投与を伴う場合もあれば、1日1回、週に2回、週に1回、2週間に1回、1ヵ月に1回、年に1回などの投与を伴う場合もある。場合によっては、治療有効用量は、漸増濃度(すなわち増加用量)の2回以上の用量として投与され、このとき(i)全ての用量が治療用量である、または(ii)最初に1回のサブ治療用量(または2回以上のサブ治療用量)が投与され、治療用量は前述の漸増によって達成される。漸増濃度(すなわち、増加濃度)を説明する1つの非限定的な例として、治療有効用量は、週1回投与することができ、サブ治療用量(例えば、5mg/kgの用量)で開始し、後続の各用量は、特定の増分ずつ(例えば、5mg/kgずつ)、または可変の増分ずつ、治療用量(例えば、30mg/kg)に達するまで増加させることができ、治療用量に達した時点で投与を止めることも継続することもできる(例えば、治療用量(例えば30mg/kgの用量)の継続)。
【0069】
漸増濃度(すなわち、増加濃度)を説明する別の非限定的な例として、治療有効用量は、週1回投与することができ、治療用量(例えば、10mg/kgの用量)で開始し、後続の各用量は、特定の増分ずつ(例えば、10mg/kgずつ)、または可変の増分ずつ、治療用量(例えば、30mg/kg、100mg/mlなど)に達するまで増加させることができ、治療用量に達した時点で投与を止めることも継続することもできる(例えば、治療用量(例えば30mg/kg、100mg/mlなどの用量)の継続)。一部の実施形態において、治療有効用量の投与は持続注入とすることができ、経時的に用量を変更する(例えば、漸増させる)ことができる。
【0070】
投与量及び頻度は、患者における抗CD47薬の半減期に応じて変動し得る。このようなガイドラインは、例えば、抗体断片の使用、抗体複合体の使用、SIRPα試薬の使用、可溶性CD47ペプチドの使用などにおいて、活性薬の分子量に応じて調整されることが当業者には理解されよう。また、投与量は、局在的投与(例えば、鼻腔内、吸入など)に関して、または全身投与(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下など)に関しても変動し得る。
【0071】
プライマー薬の有効な投与。CD47結合薬の初回用量(プライミング用量を含むがこれに限定されない)は、注入直後からある期間の間、赤血球凝集をもたらし得る。理論に拘泥するものではないが、初回用量の多価CD47結合薬は、当該薬剤に結合したRBCの架橋を引き起こす可能性がある。本発明のある特定の実施形態において、CD47結合薬は、初回用量において、また任意選択で後続の用量において、局所的に高い濃度のRBC及び薬剤が存在する血液学的ミクロ環境の可能性を低減する期間及び/または濃度で患者に注入される。
【0072】
本発明の一部の実施形態において、初回用量のCD47結合薬は、少なくとも約2時間、少なくとも約2.5時間、少なくとも約3時間、少なくとも約3.5時間、少なくとも約4時間、少なくとも約4.5時間、少なくとも約5時間、少なくとも約6時間、またはそれ以上にわたって注入される。一部の実施形態において、初回用量は、約2.5時間~約6時間、例えば約3時間~約4時間の期間にわたって注入される。一部のこのような実施形態において、注入液中の薬剤の用量は約0.05mg/ml~約0.5mg/ml、例えば、約0.1mg/ml~約0.25mg/mlである。
【0073】
他の実施形態において、CD47結合薬の初回用量(例えば、プライミング用量)は、持続注入により(例えば、浸透圧ポンプ、送達パッチなどとして)投与され、このとき用量は少なくとも約6時間、少なくとも約12時間、少なくとも約24時間、少なくとも約2日、少なくとも約3日の期間にわたって投与される。多くのこのようなシステムが当技術分野で知られている。例えば、DUROS技術はピストンによって分離されたバイコンパートメントシステムを提供する。
【0074】
コンパートメントの一方は、詳細には過剰な固体NaClにより製剤化された浸透圧エンジンからなり、それによって送達期間全体にわたり存在し、一定の浸透圧勾配をもたらす。また、当該コンパートメントは、一方の端部が水を浸透圧エンジンに引き込む半透過性の膜からなり、組織液と浸透圧エンジンとの間の大きい一定の浸透圧勾配を確立する。他方のコンパートメントは薬物溶液及び開口部からなり、薬物はこの開口部から浸透圧勾配によって放出される。これは、ヒトに移植すると、部位特異的かつ全身的な薬物送達をもたらすのに役立つ。好ましい移植部位は、上腕内側の皮下への配置である。
【0075】
プライミング薬を投与し、網状赤血球の生成増加のためにある期間置いた後、治療用量の抗CD47薬を投与する。治療用量は、複数の異なる方法で投与することができる。一部の実施形態において、プライマー薬が投与された後に、例えば週1回の投与スケジュールで、2回以上の治療有効用量が投与される。一部の実施形態において、治療有効用量の抗CD47薬は漸増濃度の2回以上の用量として投与され、他の実施形態では用量は等価である。プライミング用量の後に赤血球凝集の低減が生じるため、注入時間の延長は必須ではない。
【0076】
キット
当該方法で使用するためのキットも提供される。主題のキットは、プライマー薬及び抗CD47薬を含む。一部の実施形態において、キットは2つ以上のプライマー薬を含む。一部の実施形態において、キットは2つ以上の抗CD47薬を含む。一部の実施形態において、プライマー薬は、剤形(例えば、プライミング剤形)で提供される。一部の実施形態において、プライマー薬は、2つ以上の異なる剤形(例えば、2つ以上の異なるプライミング剤形)で提供される。一部の実施形態において、抗CD47薬は、剤形(例えば、治療有効剤形)で提供される。一部の実施形態において、抗CD47薬は、2つ以上の異なる剤形(例えば、2つ以上の異なる治療有効剤形)で提供される。キットの文脈において、プライマー薬及び/または抗CD47薬は、液体または固体の形態で、任意の好都合なパッケージング(例えば、スティックパック、用量パックなど)で提供することができる。
【0077】
上記の構成要素に加えて、主題のキットはさらに、(ある特定の実施形態において)主題の方法を実施するための指示書を含んでもよい。このような指示書は、様々な形態で主題のキット内に存在することができ、その1つ以上がキット内に存在することができる。このような指示書が存在し得る一形態は、好適な媒体または基板上に印刷された情報であり、例えば、キットのパッケージング内、添付文書内などの、情報が印刷された1枚または複数枚の紙である。このような指示書のまた別の形態は、情報が記録されているコンピューター可読媒体(例えば、ディスケット、コンパクトディスク(CD)、フラッシュドライブなど)である。このような指示書のまた別の存在し得る形態は、ウェブサイトアドレスであり、これを使用してインターネットを介し遠隔サイトの情報にアクセスすることができる。
【0078】
有用性。主題の方法及びキットは、標的細胞が同じタイプの正常細胞よりもCD47の発現増加を示す任意の苦痛の処置に使用することができる。投与する抗CD47薬は、(例えば、食細胞上の)SIRPαと標的細胞上の(例えば、がん細胞上の、感染細胞上の、など)CD47との相互作用を阻害することにより、in vivoでの標的細胞の貪食作用を増加させる。主題の方法は、処置を必要とする対象に治療有効用量の抗CD47薬を投与することを含み、抗CD47薬には、以下に限定されないが、試薬と別の薬物(例えば、抗がん薬物など)との組合せが含まれる。
【0079】
本明細書において、「がん」という用語は、異常で制御されない細胞成長によって引き起こされる様々な状態を指す。がんを引き起こし得る細胞は「がん細胞」と呼ばれ、特有の性質、例えば、制御されない増殖、不死性、転移可能性、迅速な成長率や増殖率、及び/またはある特定の典型的な形態学的特徴を所持する。がんは、多数ある方法のいずれかで検出することができ、方法としては、以下に限定されないが、腫瘍(1つまたは複数)の存在の検出(例えば、臨床手段または放射線手段による)、腫瘍内または別の生体試料から(例えば、組織生検から)の細胞の検査、がんを示す血液マーカーの測定、及びがんを示す遺伝子型の検出が挙げられる。しかし、上記の検出方法の1つ以上で否定的結果が得られても、必ずしもがんの不在を示すわけではなく、例えば、がん処置に対し完全な応答を示した患者は、後続の再発で証明されるように、依然としてがんを有する可能性がある。
【0080】
本明細書において、「がん」という用語は、癌腫(in situの癌腫、浸潤がん、転移性がん)及び前悪性状態、すなわち組織学的起源とは無関係の新形態変化を含む。「がん」という用語は、患部組織または細胞集合におけるいかなるステージ、グレード、組織形態学的特徴、浸潤性、攻撃性、または悪性にも限定されない。特に、ステージ0のがん、ステージIのがん、ステージIIのがん、ステージIIIのがん、ステージIVのがん、グレードIのがん、グレードIIのがん、グレードIIIのがん、悪性がん、及び原発がんが含まれる。
【0081】
処置され得るがん及びがん細胞としては、以下に限定されないが、血液がん(白血病、リンパ腫、及び骨髄腫を含む)、ならびに固形がん(例えば、脳腫瘍(神経膠芽細胞腫、髄芽細胞腫、星細胞腫、乏突起神経膠腫、脳室上皮腫)を含む)、癌腫(例えば、肺癌、肝臓癌、甲状腺癌、骨癌、副腎癌、脾臓癌、腎臓癌、リンパ節癌、小腸癌、膵臓癌、結腸癌、胃癌、乳癌、子宮内膜癌、前立腺癌、精巣癌、卵巣癌、皮膚癌、頭頸部癌、及び食道癌)が挙げられる。
【0082】
一実施形態において、当該がんは血液癌である。一実施形態において、当該血液癌は白血病である。別の実施形態において、当該血液癌は骨髄腫である。一実施形態において、当該血液癌はリンパ腫である。
【0083】
一実施形態において、白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、及び慢性骨髄性白血病(CML)から選択される。一実施形態において、当該白血病はAMLである。一実施形態において、当該白血病はALLである。一実施形態において、当該白血病はCLLである。さらなる実施形態において、当該白血病はCMLである。一実施形態において、がん細胞は白血病細胞であり、例えば以下に限定されないが、AML細胞、ALL細胞、CLL細胞、またはCML細胞である。
【0084】
抗CD47薬を用いた処置に応答性を有する好適ながんとしては、以下に限定されないが、白血病;急性骨髄性白血病(AML);急性リンパ芽球性白血病(ALL);転移;微小残存病変;固形腫瘍がん、例えば、乳癌、膀胱癌、結腸癌、卵巣癌、神経膠芽細胞腫、平滑筋肉腫、及び頭頸部扁平上皮癌などが挙げられる。例えば、以下を参照:(i)Willingham et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.2012 Apr 24;109(17):6662-7:″The CD47-signal regulatory protein alpha (SIRPα) interaction is a therapeutic target for human solid tumors″;(ii)Edris et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.2012 Apr 24;109(17):6656-61:″Antibody therapy targeting the CD47 protein is effective in a model of aggressive metastatic leiomyosarcoma″;及び(iii)米国特許出願第20110014119号(これらの全てが全体において本明細書に組み込まれる)。
【0085】
医薬組成物。好適な抗CD47薬及び/またはプライマー薬は、治療的用法(例えば、ヒトの処置)に適した医薬組成物で提供することができる。一部の実施形態において、本発明の医薬組成物は、本発明の1つ以上の治療実体、またはその医薬的に許容される塩、エステル、または溶媒和物を含む。一部の実施形態において、抗CD47薬またはプライマー薬の使用は、別の治療薬(例えば、別の抗感染薬または別の抗がん薬)と組み合わせた使用を含む。1つ以上の抗CD47薬及び/またはプライマー薬を含む治療製剤は、所望の純度を有する抗CD47薬またはプライマー薬と、任意選択の生理学的に許容される担体、賦形剤、または安定化剤とを混合することにより(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980))、保管用に凍結乾燥製剤または水性溶液の形態で調製される。
【0086】
抗CD47薬またはプライマー薬の組成物は、良好な医療行為に調和した様式で、製剤化、投与(dosed)、及び投与(administered)される。この文脈で考慮する要素としては、処置対象となる特定の障害、処置対象となる特定の哺乳類、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤送達部位、投与方法、投与のスケジューリング、及び医療実施者に知られている他の要素が挙げられる。
【0087】
抗CD47薬またはプライマー薬は、しばしば、活性治療薬及び別の医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物として投与される。好ましい形態は、意図される投与及び治療用途の様式に依存する。当該組成物は、所望の製剤に応じて、医薬的に許容される無毒性の担体または希釈剤を含むこともでき、これらは、動物またはヒトの投与向けの医薬組成物の製剤化に一般に使用されるビヒクルとして定義される。希釈剤は、配合物の生体活性に影響を及ぼさないように選択される。このような希釈剤の例に、蒸留水、生理学的リン酸緩衝食塩水、リンガー液、ブドウ糖液、及びハンクス液がある。加えて、当該医薬組成物または製剤は、他の担体、アジュバント、または無毒性、非治療的、非免疫原性の安定化剤なども含むことができる。
【0088】
典型的には、組成物は、溶液または懸濁液としての注射用液として調製され、注射前に液体ビヒクルに溶解または懸濁するのに適した固体形態も調製することができる。また、調製物は、上で論じたように、ポリラクチド、ポリグリコシド、またはアジュバント効果強化のためのコポリマーなどのリポソームまたは微粒子に乳化させることもカプセル化することもできる。Langer,Science 249:1527,1990 and Hanes,Advanced Drug Delivery Reviews 28:97-119,1997。本発明の薬剤は、デポー注射またはインプラント調製物の形態で投与することができ、これらは活性成分の持続放出または拍動放出を可能にするような方法で製剤化され得る。概して医薬組成物は、無菌、実質的に等張で、米国食品医薬品局の全てのGood Manufacturing Practice(GMP)規定を完全に遵守するように製剤化される。
【0089】
抗CD47薬及び/またはプライマー薬の毒性は、細胞培養または実験動物における標準的医薬手順、例えばLD50(個体群の50%に対する致死用量)の測定またはLD100(個体群の100%に対する致死用量)の測定によって決定することができる。毒性と治療効果との用量比率が治療指数である。このような細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータは、ヒトにおける使用のための治療投与量範囲及び/またはプライミング投与量範囲のさらなる最適化で使用することができる。的確な製剤化、投与経路、及び投与量は、個々の医師が患者の状態を考慮して選択することができる。
【0090】
これより本発明の十分な説明を行うが、当業者であれば、本発明の趣旨または範囲を逸脱することなく様々な変更及び修正がなされ得ることは明らかとなろう。
【0091】
実験
以下の実施例は、本発明の作製及び使用方法についての完全な開示及び説明を当業者に提供するために示されるものであり、発明者らが発明とみなすものの範囲を限定するようには意図されておらず、また以下の実験が実施された全ての実験である、すなわち以下の実験のみが実施された実験であることを表すようにも意図されていない。使用する数字(例えば、量、温度など)に関しては正確さを保証するよう努めたが、ある程度の実験的誤差及び偏差は考慮されるべきである。別段の指示がない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧前後である。
【0092】
本明細書で引用されている全ての出版物及び特許出願は、個々の出版物または特許出願が、明確に及び個々に参照により組み込まれていると示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0093】
本発明は、本発明の実施に好ましい様式を含むように、発明者によって見いだされた、または提案された特定の実施形態の観点から説明されてきた。当業者であれば、本開示に照らし、例示された特定の実施形態において、本発明の意図された範囲を逸脱することなく多数の修正及び変更がなされ得ることを理解するであろう。例えば、コドンの冗長性により、根底にあるDNA配列は、タンパク質配列に影響が及ぶことなく変更がなされ得る。さらに、生体の機能的等価物の考慮により、タンパク質構造は、種類においても量においても生体作用に影響が及ぶことなく変更がなされ得る。このような修正は全て、添付の請求項の範囲内に含まれることが意図されている。
【0094】
実施例1
受容体占有率アッセイ及び有効投与量の決定
異種移植片マウスモデルにおいて、50~250μg/mlのHu5F9-G4血清濃度はAML及び固形腫瘍の治療有効性に相関する。週2回の維持用量10mg/kgは、非ヒト霊長類において潜在的有効治療域内でのHu5F9-G4血清濃度を達成する。週1回の維持用量10mg/kgは、患者において潜在的有効治療域内でのHu5F9-G4血清濃度を達成する。
【0095】
標的細胞を標識されていないHu5F9-G4と共に種々の濃度下でインキュベートすることにより受容体占有率を測定し、次に細胞のin vitro貪食作用をアッセイするか、または標準曲線に基づいたAF488-Hu5F9-G4の飽和濃度でインキュベートし、フローサイトメトリーにより結合を解析し、APC/FITC二重集団でゲートにかけ、各試料についてMFIを計算した。
受容体占有率:
%RO=100-((MFI試験-MFI非染色)/(MFI飽和STD-MFI非染色))×100
【0096】
最初に、カニクイザルに対し、0、0.1、0.3、1、3、10、及び30mg/kgの単回静脈内注入として別々の個体に投与したHu5F9-G4について評価した。全動物について、臨床徴候、摂餌量、体重、及び臨床病理パラメーターにおける変化を評価した。Hu5F9-G4の投与は概して認容性が良好であり、臨床所見、摂餌量、体重、または腎臓、肝臓、もしくは心臓への影響を示す臨床化学パラメーターの包括的リストにおいて、処置に関係する影響は認められなかった。臨床血液学評価からは、Hu5F9-G4が全動物において網状赤血球増加及び球状赤血球症に伴う用量依存性の貧血を引き起こすことが示された。貧血の最下点は注入からおよそ5~7日後に生じ、概して用量と相関していた。30mg/kgを投与した動物2匹が異なる応答を示したことから、貧血の重症度は可変であった。重要なことには、全ての動物において貧血が自発的に解決し、およそ2週間後にベースラインレベルに戻った。全ての場合において遊離血漿ヘモグロビンは検出されなかったが、これは血管内溶血の不在を示すものである。その他の白血球や血小板の異常は観察されなかった。したがって、Hu5F9-G4は、RBC貪食作用の制御において知られている機能と一致して、赤血球食細胞増加に起因すると思われる一過性の貧血を引き起こしたが、他の点では認容性が良好であった。
【0097】
Hu5F9-G4の単回用量投与により、薬物動態データからは、10mg/kg及び30mg/kgの用量のみが、異種移植片研究における有効性に関連する範囲での血清レベルを一過的に達成できることが示された。これは、おそらくは、他の造血組織に加え、循環する赤血球及び白血球上に発現したCD47の大きな抗原シンクに起因するものである。先に説明した老化赤血球の正常なクリアランスにおけるCD47の役割に基づけば、本研究で観察されたHu5F9-G4関連貧血は、RBC上に発現したCD47に結合するHu5F9-G4の薬理学作用に関連すると考えられるものであった。RBCの早期損失は次に生じる網状赤血球増加によって代償され、時間と共に、初期貧血は若い細胞による置き換えによって解決した。
【0098】
これらの考慮事項から、発明者らは、初回の低用量がRBCの損失を鈍化し感受性の低い若いRBCの生成を刺激することにより、後続のより多い用量に対する認容性を促進するという仮説に基づいて、NHPにおいて個別の用量漸増研究を行った。2匹の動物を本研究に登録し、1週間の間隔を置いて、一方にEPO前処置を行い(3、10、30、100、及び300mg/kg)、一方に前処置を行わなかった(1、3、10、30、及び100mg/kg)。どちらの場合も、NHPは初回投与によって軽度貧血を示したが、投与の繰り返しによって悪化することはなかった。実際に、ヘモグロビンは、ヒトにおいてEPO前処置なしであっても専ら輸血の上限閾値に達した。際立ったことには、動物は100mg/kg及び300mg/kgを含む全ての用量を、追加の血液異常や代謝異常を伴うことなく良好に認容した。研究終了時に両方の動物を安楽死させたが、剖検及び病理組織学解析で異常は見られなかった。
【0099】
この用量漸増研究から、NHPにおけるHu5F9-G4の薬物動態を決定した。正常組織が発現するCD47の大きな抗原シンクの存在と一致して、初回低用量のHu5F9-G4は血清から迅速に除去された。これに対し、高用量のHu5F9-G4は血清レベルの持続をもたらしたが、これは抗原シンクの飽和を示すものである。注目すべきは、300mg/kgを投与した動物のピークレベルが5mg/mlとなり、1mg/mlを上回るレベルが少なくとも2週間持続したことである。これらのデータは、プライミング用量の後により多い維持用量を投与するレジメンが、前臨床異種移植片モデルにおいて強力な有効性と関連した50~250μg/ml血清レベルの持続を達成できるはずであることを示唆するものである。
【0100】
これらの結果を元に、プライミング-維持用量アプローチを用いて、有望な臨床的投与戦略をモデル化するための別のNHPパイロット研究を行った。プライミング用量の目標は若いRBCの生成を刺激することと考えられ、この若いRBC生成の刺激によって、次に、より多い維持用量が血清レベルの持続を達成できるように促進されると考えられた。
【0101】
カニクイザルの研究を行い、1mg/kgまたは3mg/kgのプライミング用量(PD)を1日目に投与し、1週間後、30mg/kgの維持用量(MD)を週に1回、6週間投与した。全動物について、臨床所見、摂餌量、体重、及び臨床病理パラメーターにおける変化を評価した。死亡も、腎臓、肝臓、または心臓への影響を示す主要臨床化学パラメーターの変化も認められなかった。Hu5F9-G4の投与は、投与過程全体にわたり認容性が良好であった。どちらの場合も、プライミング用量によって軽度貧血及び網状赤血球増加がもたらされた。仮説の通り、維持用量の認容性は良好であり、処置過程全体にわたりヘモグロビンがさらに減少することはなかった。本研究が終了するまでに、ヘモグロビンレベルは正常範囲に戻った。薬物動態解析からは、両方の動物におけるCmax及び血清濃度曲線下面積(AUC0-43)によって測定されるHu5F9-G4への曝露が、潜在的有効治療域内でまたはそれを上回って、維持用量の期間中、血清Hu5F9-G4レベルの持続を達成し、最終用量後の半減期も延長することが示された。
【0102】
これらの結果は、PD1/MD30またはPD3/MD30投与戦略がCD47抗原シンクを飽和させることを示唆するものである。まとめると、これらのカニクイザル研究は、低プライミング用量のHu5F9-G4が中程度の貧血及び代償的な網状赤血球増加応答をもたらし、これによって、後続のより多い維持用量の薬物に対する認容性を良好にすることができることを実証した。
【0103】
図1に示すように、ヒト患者における、様々なプライミング用量のHu5F9-G4を用いて処置した後のCD47結合標準曲線を、AF488結合Hu5F9-G4を用いて作成した。1mg/kg以上のプライミング用量は、患者における最初の用量で赤血球上のCD47分子の80%超を飽和させることが可能であり、後続の用量によってRBC凝集を防止するということが分かる。用量濃度が示されているが、1/3及び1/10はそれぞれ、最初のプライミング用量1mg/kgの後に維持用量3mg/kg、最初のプライミング用量1mg/kgの後に維持用量10mg/kgを表すものである。
【0104】
図2及び
図3に示されているのは、異なる患者を用いての受容体占有率の結果であり、用量増加の影響と、ヒト患者の白血球上における受容体の飽和度とが示されている。それぞれの線は、異なる患者に対応する。用量濃度が示されているが、1/3及び1/10はそれぞれ、最初のプライミング用量1mg/kgの後に維持用量3mg/kg、最初のプライミング用量1mg/kgの後に維持用量10mg/kgを表すものである。
【0105】
図4では、前臨床異種移植片マウスモデルにおいて、内在性CD47シンクの飽和を伴っての100~200μg/mlトラフレベルが有効治療域であることが示されている。これらのトラフレベルは、治療抗腫瘍有効性と相関する。非ヒト霊長類(NHP)前臨床モデルでは、プライミング用量の後、10mg/kgコホートで100μg/mlの目標トラフレベルが達成された。薬物動態プロファイルは、臨床薬物動態を予測するものである。
【0106】
ヒト固形腫瘍患者における週に1回の10mg/kgの用量の投与により、100μg/kgの目標トラフが達成され、これはFDAガイドラインを用いて適切に変換すると、前臨床NHPモデルの予測力の説明となる。非ヒト霊長類においては週2回、10mg/kgの投与となり(
図5)、ヒトにおいては週1回、10mg/kgの投与となる(
図6)。
【0107】
抗CD47抗体投与に伴う初期貧血は、代償的な網状赤血球増加を有する。
図7に示されるように、ヒト患者にHu5F9-G4を週1回投与する間、網状赤血球の%が増加するが、これは主に最初の(プライミング)用量の後に見られる。Hu5F9-G4は週1回投与する。
【0108】
実施例2
注入時間延長に伴う赤血球凝集の低減
赤血球は細胞表面上にCD47を発現する。しかし、老化赤血球はCD47の細胞表面発現を喪失し、貪食促進シグナルの発現を獲得する。細胞表面上のCD47の喪失または遮断が貪食促進シグナルの獲得を伴うことで、赤血球の貪食性クリアランスがもたらされる。実施例1で論じられているように、数日から数週間の期間にわたり、プライミング用量の抗CD47抗体の投与は、抗CD47抗体の投与が引き起こす初期の一過性貧血を、老化赤血球を除去し網状赤血球増加を誘導することによって代償することができ、このとき赤血球の血液集団は、CD47を発現するが貪食促進シグナルを有しない若い細胞にシフトする。
【0109】
貧血及び代償の効果の拡大に加えて、抗CD47抗体の投与直後に赤血球凝集の急性効果が生じる可能性がある。理論に拘泥するものではないが、これは、投与部位に局在化された抗体及びRBCが、正常な血流の動力学によって細胞及び抗体が均等に分配されるまで、ごく短時間高濃度であることに起因する可能性がある。高濃度においては、抗体が異なるRBCに結合することにより、望ましくない架橋効果を引き起こす恐れがある。
【0110】
そのため、急性赤血球凝集を低減するには、注入部位における即時濃度をRBCが架橋しないレベルに低減するような方法で抗体を投与することが望ましい。初期プロトコルにおいては、抗体のプライミング用量を、0.1mg/kg及び0.3mg/kgの用量については250mlの体積で、そして1mg/kgの用量については500mlの体積で、1時間かけて投与した。
図8に示すように、このプロトコルは望ましくない赤血球凝集をもたらし得る。
【0111】
これに対し、同じ用量及び濃度の抗体を3時間かけて投与すると、
図8に示すように凝集レベルにおける注目すべき改善が見られる。投与の延長は、プライミング完了後の治療投与のために実施してもよいが、プライミング用量の完了後は貪食促進シグナルを発現する老化RBCの低減が生じるため、必須ではない。
【0112】
実施例3
臨床試験プロトコル
新規の治療用mAbは、貪食細胞上のCD47に特異的に結合し、CD47が自らのリガンド、シグナル制御タンパク質アルファ(SIRPα)と相互作用するのを遮断する。これによって、貪食促進シグナル(ホスファチジルセリン、カルレチキュリン他が挙げられ得る)を介したがん細胞の貪食作用及び除去がもたらされる。赤血球を除けば、概して正常な細胞は貪食促進シグナルを発現せず、抗CD47mAbによる影響を受けない。ヒト化CD47遮断mAbであるHu5F9-G4は臨床試験用に開発され、潜在的有効治療血清レベルで安全に非ヒト霊長類(NHP)に投与されている。臨床現場でのHu5F9-G4の静脈内投与を支持するため、NHP(カニクイザル及びアカゲザル)における非臨床毒性学研究が行われた。GLPからのデータに基づいてカニクイザルにおける8週間の毒性学研究を行ったところ、ヒト試験用に安全な開始用量は0.1mg/kgと推定される。
【0113】
Hu5F9-G4の薬物動態(PK)及び毒物動態(TK)は、GLP毒性学研究と共にカニクイザルで研究されている。これらの研究から収集したPK及びTKにより、Hu5F9-G4が単回用量及び複数回用量の後に6.35時間から320時間に及ぶ様々な半減期(t1/2)を示すことが指摘される。分布容積は、モノクローナル抗体について予想されたように、サルの血清容積に近似していた。用量を増加させ投与を繰り返すほど、半減期が増加しクリアランスが低下するように思われ、このことからは内在性のCD47細胞シンクを介した標的媒介クリアランスの飽和が示唆される。特に10mg/kg以下の用量の場合に、確認された抗薬物抗体(ADA)の著しい発生がサルに見られ、これはHu5F9-G4の低濃度と相関するように思われた。それにもかかわらず、10mg/kg以上の用量に関しては、繰り返し用量研究の処置期間全体にわたり、曝露が維持された。
【0114】
臨床試験での8週間の期間にわたるHu5F9-G4の静脈内投与使用を支持するために、NHP(カニクイザル及びアカゲザル)における非臨床研究を実施した。8週間の期間の投与フェーズ、その後に8週間の回復期とするGLP毒性学研究をカニクイザルに行った。8週間のGLP毒性学研究では、合計8週間のプライミング/維持用量スケジュールを用いて、Hu5F9-G4をオス及びメスのカニクイザルに対し1時間の静脈内注入を介して投与した。Hu5F9-G4は、1日目にプライミング用量(5mg/kg)として投与し、次に維持用量5、10、50、または100mg/kgを、週に2回、8、11、15、18、22、25、29、32、36、39、43、46、50、及び53日目に投与した。
【0115】
本研究(及び過去のパイロット毒性研究)で注目される一次処置に関する知見は、赤血球(RBC)数、ヘモグロビン、及びヘマトクリットを含めた赤血球量の減少にあった。ヘモグロビン減少は全てのHu5F9-G4処置動物において1日目のプライミング用量投与後に認められ、このヘモグロビン減少は、概して8日目の第1の維持用量投与後に最も顕著であった。Hu5F9-G4関連貧血の重症度及び出現率は動物全体で様々であり、ヘモグロビン減少が明確な用量依存的様式で生じなかった一方で、高用量維持群(100mg/kg)では、11日目に≦10.0g/dLのヘモグロビンを有する動物の出現率が最も高かった(90%)。
【0116】
重要なことには、全ての動物においてヘモグロビンレベルが回復傾向を示し(概して、15日目~32日目あたりで開始)、研究終了に至るまで回復が継続した。重度貧血(ヘモグロビン≦7.0g/dL)のため、2匹の動物(一方は5/50mg/kg群、一方は5/100mg/kg群)への投与を休止して、貧血の回復及び投与再開時の動物の反応を評価した。50mg/kg維持用量群の動物のヘモグロビンレベル減少は、15日目及び18日目に5.7g/dLと低かったため、25日目~36日目(維持用量6~9)に投与を休止した。36日目にこの動物のヘモグロビンが回復したため、39日目(用量10)にこの動物への投与を再開した。維持投与が再開されたが、この動物のヘモグロビンレベルは研究終了まで回復を継続した。100mg/kg維持用量群の動物のヘモグロビンレベルは、18日目に6.9g/dLまで低下したため、25日目に投与を休止した。この動物については、研究終了まで投与休止を継続した。この動物のヘモグロビンレベルも、研究終了まで継続的な回復傾向を示した。
【0117】
したがって、少数の動物は、Hu5F9-G4がもたらす貧血に対し特に感受性を有し得るように思われるが、これらの動物に毒性の臨床徴候は観察されず、さらに、この貧血は一過性であり、ヘモグロビンレベルは経時的に回復する。赤血球量の減少に加えて、網状赤血球の増加が全てのHu5F9-G4処置群で観察されたが、これはRBC量の減少に伴うロバストな赤血球新生応答を示すものである。
【0118】
過去の研究と一致して、赤血球量の減少は、平均赤血球容積(MCV)及びハプトグロビンの減少、ならびに平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、網状赤血球、及び赤血球分布幅(RDW)の増加も伴うものであった。注目すべきは、遊離血漿ヘモグロビンがいずれのHu5F9-G4処置群にも観察されなかったことであり、これは血管内溶血の不在を示すものである。軽微~軽度のリンパ球増加も観察されたが、この増加は本質的に一過性かつ散発性のものであり、用量依存的様式では生じなかった。血球形態の変化は、赤血球破壊/クリアランスの加速及び網状赤血球増加に伴うものと考えられ、この変化には赤血球大小不同、球状赤血球(小赤血球)、偏心赤血球、赤血球損傷/クリアランスに一致した非定型の赤血球断片、赤血球凝集、及び大型血小板、さらに赤血球大小不同及び多染性大赤血球からなる赤血球新生増加に伴う変化が含まれる。
【0119】
血球形態を含め、処置に関する全ての血液学パラメーター変化は、研究終了に至るまで継続的な回復傾向を示した。骨髄塗抹評価における変化は赤血球系列の軽微~軽度の形態的変化(異形成)に限定され、その内訳は核形状の異常、複数核、核の膨張(nuclear blebbing)、及び/または核-細胞質成熟不一致(異常な核-細胞質成熟)であった。著明な網状赤血球増加は、処置に関する赤血球量の減少に伴うものであり、これは赤血球新生の加速を示している。Hu5F9-G4に伴う赤血球新生応答の加速に関すると考えられる追加的変化には、赤血球新生の加速に伴う適切な軽微~軽度の幼若な赤血球前駆体へのシフトに連動した平均M:E比の穏やかな減少が含まれた。過去の研究と一致して、8週間のGLP研究で観察された処置に関する血液学パラメーターの変化(すなわち、ヘモグロビンの減少、網状赤血球の増加)は、総ビリルビンの増加及びハプトグロビンの減少を伴うものであった。
【0120】
他の臨床化学パラメーターの変化は100mg/kg維持用量群のみで観察され、この変化には、アルブミンのわずかな減少(2匹のメス動物)、グロブリンのわずかな上昇、及びこれに対応したアルブミン:グロブリン比の減少が含まれた。処置に関する全ての臨床化学パラメーターの変化は、投与フェーズ終了時には部分的または完全に可逆的であった。
【0121】
老化赤血球の正常なクリアランスにおける既知のCD47の役割に基づけば、本研究で観察されたHu5F9-G4関連貧血は、RBC上に発現したCD47に結合するHu5F9-G4の薬理学作用に関連すると考えられる。発明者らは、Hu5F9-G4の投与が、老化RBC上におけるCD47の緩やかな損失をCD47の即時的遮断で置き換えることにより、老化RBCの除去プロセスを加速すると仮定した。老化RBCの早期損失は、次に生じる網状赤血球増加(全ての研究において観察された)によって代償され、初期貧血は、時間と共に老化RBCが若い細胞で置き換えられ、結果的にRBCプールの齢分布が若い細胞にシフトすることに伴い解決する。
【0122】
全体的に見ると、Hu5F9-G4を1時間の静脈内注入を介して第1週(1日目)に5mg/kgのプライミング用量で投与し、次に最大100mg/kgで週に2回の維持用量を7週間連続で投与したところ、カニクイザルでは臨床的な認容性が良好であった。処置に関する貧血にもかかわらず、臨床的毒性の徴候は、重度貧血の観察により投与を休止した動物を含めて観察されなかった。本研究で観察された血液学的変化は、過去の研究と一致しており、Hu5F9-G4とRBC上に発現したCD47との結合を通じて老化RBCの除去プロセスを加速するHu5F9-G4の薬理学的作用に関するものと考えられた。処置に関する全ての血液学及び臨床化学パラメーターの変化は、研究終了まで部分的または完全に可逆的であった。そのため、データ全体に基づけば、本研究に関し重篤な毒性が発現しない最高用量(HNSTD)は、評価した最高用量であるプライミング/維持用量が5/100mg/kgであると考えられた。100mg/kg維持用量によってもたらされる予測安全域(AUCに基づく)は十二分であり、提唱される臨床研究向けの開始用量0.1mg/kgの766~803倍上回る範囲である。
【0123】
ヒト化抗CD47抗体Hu5F9-G4が輸血前の血液型検査及び交差試験に及ぼす影響を試験して、Hu5F9-G4処置中に輸血を必要とし得る患者を管理するための戦略に備えた。結果から、Hu5F9-G4が血漿抗体スクリーニングに干渉しないことが示され、これにより同種異系抗体を検出することや、医学的に必要な場合に濃縮赤血球(PRBC)輸血を進めることが可能となる。ただし全血においては、Hu5F9-G4は、ABO血液型検査の結果、直接抗グロブリン試験(DAT)、及び赤血球(RBC)免疫表現型検査の結果に干渉した。そのため、ABO血液型検査、DAT、及びRBC免疫表現型検査は、Hu5F9-G4処置の開始前に得た血液試料で実施することが重要となる。Hu5F9-G4を、非ヒト霊長類及びヒトドナーからのRBCと共にインキュベートした。Hu5F9-G4は、補体含有血清の存在下であっても、ヒトRBCのin vitroでの溶血を誘導しなかった。この研究から、7点のNHP標本では赤血球凝集(HA)の根拠が示されなかった。しかし、14点の全てのヒトドナー血液試料で、10マイクログラム/mlのHu5F9-G4の存在下でHAが観察された。
【0124】
HAがIgM寒冷凝集素によって引き起こされる、ほとんどの場合の凝集が関係する自己免疫性溶血性貧血とは異なり、当該凝集はHu5F9-G4によって引き起こされ、IgG4は37℃で生じるが4℃では生じない。RBC凝集はいくつかの条件下(通常は、感染病原体に関連し、臨床的続発症を伴う場合も伴わない場合もある)で見られる場合があるが、ここで見られる凝集の臨床的重要性は確かではない。
【0125】
本研究は、非盲検、非無作為化、フェーズ1、ファースト・イン・ヒューマンの、CD47遮断抗体Hu5F9-G4における漸増用量コホート研究である。この薬物の予測DLTは、マクロファージによる老化赤血球の貪食作用に起因する貧血である。カニクイザル研究で行われたパイロット毒性研究からは、低いプライミング用量の抗体投与によって中程度の貧血及び網状赤血球応答がもたらされ、これにより後続の高い維持用量の薬物の認容性を良好にできることが示された。そのため、このフェーズ1試験の戦略は、最初に、漸増用量コホート設計(パートA)において、患者6人中6人が最初の4週間、輸血の不在下で8g/dL以上のヘモグロビンを維持し、患者6人中1人以下で貧血以外のDLTをもたらす最適なプライミング用量を確立することである。
【0126】
この最適なプライミング用量をパートAで確立したら、この用量を第1週の1日目に投与し、次に1週間後にパートBにおける週1回の維持投与を行い、必要な場合はパートCを行う(第2週~第4週に、週に2回の負荷投与、次に週に1回の維持投与)。第1のコホートにおける0.1mg/kgの初回用量は、週に2回100mg/kgの維持用量(中枢的なGLP毒性研究におけるHNSTDである)に対する766倍~803倍の安全域によって支持されている。これらの研究に基づき、また安全域(適用可能でない可能性もある)の線型スケーリングを想定し、発明者らは、Hu5F9-G4が最大10mg/kgの用量、場合によってはそれより高い用量で臨床的に認容されると予測している。そのため、0.1、0.3、1、3、10、及び20mg/kgの用量漸増スキームを選択した。
【0127】
パートAについては、各コホートの第1の患者に対しDLTの評価を29日目に完了させてから、第2の患者をコホートに登録する。3人のコホートにおける第2の患者は、第1の患者がDLT評価期間を開始してから2週間後(治療開始から14日)まで処置を開始することができない。第3の患者は、第1の患者がDLT評価期間を開始してから4週間後(治療開始から28日)に開始することができる。パートB及びCについては、各コホートの第1の患者に対しDLTの評価を29日目に完了させてから、第2の患者をコホートに登録する。各コホートの後続の患者は、先行する患者が治療を開始してから2週間後に処置を開始することができる。加えて、コホートの第3の患者は、次のコホートに進む前または6人のコホートに拡大する前に、28日間の観察を必要とする。コホートを3人から6人の患者に拡大する場合、拡大分の患者は、第3の患者が治療を開始してから28日後に、当該コホートの第4~第6の患者の間で追加的な観察をすることなく、処置を受けることができる。用量レベルの配分は、CTMCによって決定される。
【0128】
本試験は、3つのパートを有する単一施設、非盲検試験である。以下のことが本研究の全パートに適用される:用量漸増は指定の用量レベルを通じて進行し、用量漸増に関する決定は、「用量制限毒性(DLT)評価期間」と呼ばれる現行のコホートにおける最初の4週間の処置と、4週間を超えて治療を継続した過去のコホートの患者に対する進行中の評価とに基づく。MTDまたはRP2DSをさらに精緻化するための追加的なコホートに関する決定はCTMCによって行われ、研究の補正が必要となる。
【0129】
用量制限毒性(DLT)の定義。DLTは、薬物が関係する可能性がある、おそらく薬物が関係する、または明らかに薬物が関係する有害事象(AE)として定義され、治療から最初の4週間以内に生じるものであり、以下のようなものとする:グレード3以上のAEは以下に挙げるものを例外とする;IMPの結果としての貧血は、輸血の必要が示される場合はヘモグロビンレベルにかかわらずグレード3毒性とみなされる。任意の輸血、またはグレード3以上の重症度の貧血、または赤血球新生刺激剤を利用する必要がある場合はDLTとみなし、研究プロトコルから外すことになる。以下のものはDLTとみなさず、DLTの定義から除外される:制吐薬による最適な処置を受けていない患者におけるグレード3の悪心で、48時間以内に<グレード2に解決する場合;制吐薬による最適な処置を受けていない患者におけるグレード3の嘔吐で、48時間以内に<グレード2に解決する場合;止痢薬による最適な処置を受けていない患者におけるグレード3の下痢で、48時間以内に<グレード2に解決する場合;グレード3の疲労で、研究中の2週間以内に解決する;前処置の不在下でのグレード3注入反応。間接型/非結合型血液ビリルビンのグレード3増加で、7日以内または次の予定されたHu5F9-G4用量の前、いずれか早い方でベースラインまたはグレード1に解決する場合、及び間接型/非結合型ビリルビンの増加がグレード2以上のAST、ALT、及び/またはアルカリホスファターゼ、及び/または肝臓起源のアルカリホスファターゼと時間的に関連しない場合(起源決定のためのアルカリホスファターゼ細分化は研究者の自由裁量で行われる)。間接型/非結合型及び直接型/結合型ビリルビンの重症度分類の判断基準には、血液ビリルビンに適用されるCTCAE4.03判断基準を使用することになる。総ビリルビンの増加は、直接型/結合型ビリルビンがグレード2以下であり、間接型/非結合型ビリルビン増加がDLTではないと判定された場合は、DLTとならない。
【0130】
最大耐用量(MTD)の定義。パートB及びCにおける第1週、1日目の最適なプライミング用量は、患者6人中6人が血液製剤輸注を必要とせず、8g/dL以上のヘモグロビン(グレード0~2貧血)を維持し、患者6人中1人以下が最初の4週間の処置中に貧血以外のDLTを有しないパートAにおける最大用量として選択されることになる。パートB及びCのMTDは、患者6人中1人以下がDLTを経験した最大用量レベルとして定義され、少なくとも1回の維持用量のHu5F9-G4を投与される患者に対しては、2人以上の患者がDLTを経験した用量レベル未満として定義される。パートB及びCにおいて、少なくとも1回の維持用量を投与されない(パートB)または少なくとも1回の負荷用量を投与されない(パートC)患者に生じるAEは、維持用量(パートB)または負荷用量(パートC)を選択するためのMTD評価に含めない。パートBまたはCでMTDが達成されない可能性があるが、その場合には最大投与耐用量を決定する。最大の計画された週1回維持用量は20mg/kgである。
【0131】
患者の評価可能性。IMP、Hu5F9-G4の曝露を受ける全ての患者は、安全性について評価可能であり、用量漸増決定へのデータを提供する。以下に該当する患者は、別の患者を当該コホートに追加することによって置き換えることができる:(1)参加を辞退し、DLTを経験しない、または(2)Hu5F9-G4関連AEに関係のない理由により研究から外される、または(3)Hu5F9-G4に関係のないAEを有し、最初の4週間の治療が完了する前に研究から外す必要がある。
【0132】
薬物投与。Hu5F9-G4は静脈内投与される。パートA:Hu5F9-G4の静脈内注入期間は、0.1~1mg/kgの用量に対し60分(±10分)、1mg/kgを超える用量に対し2時間(±10分)となる。
【0133】
パートB及びC:プライミング用量は、パートB及びCの対象が投与される最初の用量であり、これはパートAの完了時に1mg/kgに決定した。パートB及びCの対象については、プライミング用量、すなわち1mg/kgの注入期間は3時間となる。プライミング用量の完了後、維持用量が投与される。維持用量の注入期間は、1mg/kgを超える用量に対し2時間となる。2週間以上の用量遅延または休薬を伴う患者は再プライミングを受け、この場合は、1mg/kgのプライミング用量を3時間にわたり投与してから割り当てられた維持用量を再開する。前回のHu5F9-G4投与に対する注入反応を経験した患者には、前投薬を行ってから第2または後続の用量を投与してもよい。提案される前投薬レジメンには、アセトアミノフェン500mg(経口)、デキサメタゾン8mg(静注)、及びジフェンヒドラミン25mg(静注)の組合せが含まれてもよく、これらはHu5F9-G4を注入する30分前に投与される。注入反応の場合、後続の処置についての前投薬レジメンは研究者の自由裁量で行われる。
【0134】
プライミング用量の特定
本研究の当該部分における全体的な目標は、用量規定コホートの6人の患者全てにおいて最初の4週間以内に許容レベルの貧血(グレード3未満)をもたらすプライミング用量を特定することである。そのため、最適なプライミング用量レベルは、患者6人中6人が最初の4週間、輸血の不在下で8g/dL以上のヘモグロビンを維持し、患者6人中1人以下で貧血以外のDLTをもたらす最大用量レベルとなる。患者は、以下のような連続的用量コホートで評価される:0.1、0.3、1、3、10、20mg/kg(静脈内注入として投与)。
【0135】
パートAにおける用量漸増は、3mg/kg未満の用量レベルについては修正された加速用量設定デザインに従い、3mg/kg以上の用量レベルについては標準的な3プラス3用量漸増デザインに従う。加速用量設定デザインについては、コホート当たり1人の患者を、最初の4週間以内にグレード2以上のHu5F9-G4に関するAEが観察されるまで登録する。このような事象により、3人の患者へのコホート拡大がもたらされる。しかし、最初の4週間でパートAの任意の患者に任意のグレード3の貧血が発生した場合は、当該コホートへのさらなる追加を休止し、次に低い用量のコホートを拡大する。貧血以外のAEについては、最初の3人の患者の中でDLT(グレード3以上のHu5F9-G4に関するAE)を有する患者が1人いれば、コホートを6人の患者に拡大する。
【0136】
DLTを有する患者が2人いる場合、プライミング最大耐用量を超過したことを意味し、当該コホートへのさらなる参加は許可されず、次の低い用量のコホートの収容患者が3人以下の場合、これを6人の患者に拡大する。パートAに登録した患者は、許容できない毒性、または進行性疾患の文書化(固形腫瘍についてはRECIST v1.1、もしくはリンパ腫についてはIWG基準による判定)、または患者の自発的な研究からの離脱に至るまで、割り当てられた用量レベルで週1回の処置を継続する。パートB及びCで1日目のプライミング用量の後に高い維持用量及び/または負荷用量となることを除いて、本研究では患者内での用量漸増は行わない。パートAの最初の4週間における任意のグレード3の貧血は、当該コホートの休止及び次に低い用量のコホートの拡大のトリガーとなることに注意されたい。さらに、加速用量設定デザインは、3mg/kg未満の用量レベルのみに適用される。3mg/kg以上の用量レベルは、標準の3プラス3デザインで実施される。パートAの完了後、プロトコル修正版4.0に従い、プライミング用量は1mg/kgと特定された。加えて、パートAで進行中の1mg/kgを用いた週に1回の処置により、1mg/kgが維持用量としても安全であることが確立された。
【0137】
パートB及びCの間におけるプライミング用量の安全性評価の拡大。パートB及びCの患者は、パートAから決定された最適なプライミング用量1mg/kgを第1週、1日目に投与され、8日目から週に1回維持用量を投与される。患者がプライミング用量を投与された後、維持用量を投与される前にAEまたはSAEが生じた場合、当該AEまたはSAEはプライミング用量に起因するものであり、プライミング用量の安全性評価の拡大に寄与することになる。プライミング用量に起因するSAE及びAEは引き続きCTMCによって綿密に監視され、CTMCは定期的に会合を召集し、必要な場合はその頻度を増やす(CTMC憲章に従って)。
【0138】
パートB:単回プライミング用量の後の週1回の維持投与におけるMTDの特定。パートBの全ての患者は、パートAから決定された最適なプライミング用量を第1週、1日目に投与され、8日目から週に1回維持用量を投与される。投与する週1回の維持用量は、割り当てられたパートB用量コホートによって決定される。パートB向けの最初に提唱された用量コホートは、0.3、1、3、10、及び20mg/kgであった。週1回の維持用量コホートは、最適なプライミング用量よりも1用量レベル高い用量で開始する。パートAの1mg/kg用量レベルが最適なプライミング用量であると判定され、1mg/kgの週1回の維持投与が安全であると判定されたため、パートBで割り当てられた第1の維持用量レベルは週に1回3mg/kg(静脈内)の用量レベルとし、0.3mg/kg及び1mg/kgの維持用量レベルはスキップする。パートBの用量漸増は、標準の3プラス3用量漸増デザインに従う。
【0139】
パートBのMTDは、患者6人中1人以下がDLTを経験する最大用量レベルであり、少なくとも1回の維持用量のHu5F9-G4を投与される患者に対しては、2人以上の患者がDLTを経験する用量レベル未満である。パートBにおいて、少なくとも1回の維持用量のHu5F9-G4を投与されない患者に生じるAEは、維持用量を選択するためのDLT評価に含めない。MTDをさらに精緻化するために、名目上のMTDと次の高い用量レベルとの間の中間用量レベルを試験してもよい。
【0140】
例えば、3mg/kg用量レベルにおいて2人以上の対象が維持用量に起因するDLTを経験した場合、MTDをさらに精緻化するために1mg/kgと3mg/kgとの間の中間用量レベル、すなわち2mg/kgを試験することができ、2mg/kgにおいて患者6人中1人以下が2mg/kgのDLTを経験した場合、最終的なMTD判定を1mg/kgから2mg/kgに増加させることができる。同様に、名目上のMTDが3mg/kgまたは10mg/kgの場合、それぞれ6.5mg/kgまたは15mg/kgの用量レベルを追加することができる。パートBで維持用量のMTDが達成されない可能性があるが、その場合には最大の週1回用量が20mg/kgであることから最大投与耐用量を決定する。パートBにおける維持用量のDLT評価期間は、第1の維持用量の投与時(第2週、8日目)から開始し、第3の維持用量の完了から1週間後まで(第4週、29日目)とする。
【0141】
パートBに登録した患者は、許容できない毒性、または進行性疾患の文書化(固形腫瘍についてはRECIST v1.1、もしくはリンパ腫についてはIWG基準による判定)、または患者の自発的な研究からの離脱に至るまで、割り当てられた用量レベルで週1回の処置を継続する。パートB及びCで1日目のプライミング用量の後に高い維持用量及び/または負荷用量となることを除いて、本研究では患者内での用量漸増は行わない。RP2DSのPK目標は、RP2DSにおける患者6人中5人で血漿中100マイクログラム/mL超のHu5F9-G4抗体のトラフレベルを達成及び維持することである。週1回の投与についてMTDもしくは最大投与耐用量(MTD不在の場合)または最適な(PKに基づく)生体用量が決定したら、週1回の投与をQ14及び/またはQ21の日の投与後に行う追加のコホートをパートBに追加するように研究を修正することができる。スケジュールのさらなる延長は、あくまでも利用可能な安全性、PK、及び薬物力学データを詳細に検討してから開始する。
【0142】
例えば、この延長は、PKパラメーターが標的介在クリアランスの飽和及びHu5F9-G4半減期の延長を示す場合に開始することができる。Q14またはQ21の日間隔コホートの投与は、20mg/kgの認容性が良好である場合、プロトコルの修正によって30mg/kgに増加してもよい。
【0143】
パートC:パートBで週1回投与によって妥当なPKパラメーターが達成されない場合における、初回プライミング用量後かつ週1回の維持投与前に行う週2回負荷投与向けのMTDの特定。Hu5F9-G4への妥当な曝露がパートBで達成できない場合、パートCを開始することができる。妥当な曝露とは、推奨されるフェーズ2用量で57日目までに患者6人中5人で達成される100マイクログラム/mL超の抗体のトラフレベルとして定義される。
【0144】
パートCの全ての患者は、パートAで決定した最適なプライミング用量を第1週、1日目に投与され、次に割り当てられたパートC用量コホートに従って週に2回の負荷用量を投与される。プライミング用量に起因するSAE及びAEは引き続きCTMCによって綿密に監視され、CTMCは定期的に会合を召集し、必要な場合は、必要に応じてその頻度を増やす(CTMC憲章に従って)。パートC向けの最初に提唱された用量コホートは、0.3、1、3、10、及び20mg/kgであった。週に2回の負荷用量コホートは、パートBのMTDより1レベル低い用量レベルまたは最大投与耐用量で開始する。したがって、パートBにおけるMTDが20mg/kgであった場合、パートCにおける週に2回の負荷用量は10mg/kgとなる。週に2回の負荷用量(それぞれの週期間の1日目及び4日目に投与)は、第2週、第3週、及び第4週の間に投与される。
【0145】
この次に、週1回の維持用量を第5~8週に行う。投与が完了し、パートCにおける提唱されたコホート内のHu5F9-G4血清濃度を解析した後、3週間(第2~4週)の負荷の終了時、週に2回の投与中に妥当な曝露が達成されない場合、第4週以降、追加の2週間の期間に週に2回負荷投与を行うコホートを含めるようにプロトコルを修正することができる。パートCにおける負荷または維持の用量レベルが20mg/kgより高い場合、プロトコルの修正が必要となる。パートBと同様、MTDもしくは最大投与耐用量(MTD不在の場合)または最適な生体用量が決定したら、安全性、PK、及び薬物力学データに基づいて週に2回の負荷投与、次に週に1回の維持投与、ついでQ14またはQ21の日の投与行う追加のコホートを、パートCに追加することができる。
【0146】
例えば、さらに延長されたスケジュールは、PKパラメーターが標的介在クリアランスの飽和及びHu5F9-G4半減期の延長を示す時点で開始する。Q14の日またはQ21の日のコホートに用いる用量は、20mg/kgの認容性が良好であれば、プロトコルの修正によって30mg/kgに増加することができる。パートCの用量漸増は、全ての用量レベルについて標準の3プラス3デザインに従う。MTDに向けてのDLT評価は、少なくとも1回の負荷用量を投与されるパートCの患者に適用される。少なくとも1回の負荷用量のHu5F9-G4を投与されないパートCの患者に生じるDLTは、負荷用量向けのMTDを特定するためのDLT評価に含めない。
【0147】
DLTを経験した患者がいない場合、用量漸増は次の高い用量レベルに進むことができる。患者3人中1人がDLTを経験した場合、この同じ用量レベルのコホートを6人の患者に拡大する。患者6人中2人以上がDLTを経験した場合、当該用量レベルでのさらなる登録は許可されず、MTDが超過していたものとする。パートCのMTDは、患者6人中1人以下がDLTを経験する最大用量レベルであり、かつ患者6人中2人以上がDLTを経験する用量レベル未満である。パートCにおける負荷用量のDLT評価期間は、第1の負荷用量の投与時(第2週、8日目)から開始し、第4週、29日目までとする。パートCに登録した患者は、許容できない毒性、または進行性疾患の文書化(固形腫瘍についてはRECIST v1.1、もしくはリンパ腫についてはIWG基準による判定)、または患者の自発的な研究からの離脱に至るまで、割り当てられた用量レベルで処置を継続する。
【0148】
患者内での用量漸増パート。B及びCで1日目のプライミング用の後に高い維持用量及び/または負荷用量となることを除いて、本研究では患者内での用量漸増は行わない。
【0149】
治験薬
活性医薬成分(API)は、IgG4カッパアイソタイプのヒト化モノクローナル抗体Hu5F9-G4であり、これはFabアーム交換を低減するために重鎖のヒンジ領域にSer-Pro(S-P)置換を含有する。Hu5F9-G4は、2つの同一の444アミノ酸ガンマ重鎖及び2つの同一の219アミノ酸カッパ軽鎖からなるジスルフィド結合グリコシル化四量体から構成される。Hu5F9-G4はCD47を標的とする。Hu5F9-G4製剤は、静脈内注入を意図した液体剤形で提供される。Hu5F9-G4は単回使用の10mLバイアルで供給され、このバイアルは10mMの酢酸ナトリウム、5%(w/v)のソルビトール、0.01%(w/v)のポリソルベート20、pH5.0の製剤中に200mgの当該抗体を含有する。
【0150】
Hu5F9-G4原薬はLonza Group,Ltd(Slough,UK)で製造され、製剤はPatheon UK Limited(Swindon,UK)で製造されている。当該製剤(本文書全体においてIMPと呼ばれる)は、本試験のスポンサーであるStanford Universityにより、Fisher BioServicesとの保管及び配布契約を介して供給される。
【0151】
Hu5F9-G5投与の詳細
用量計算。個別の用量は、登録時の患者の実際の体重を用いて(スクリーニングでまたは1日目に得られた体重を用いて)計算され、10%を超える体重変化が観察されない限り、用量は研究全体にわたって一定のままとすることができる。20mg/mLを含有するバイアル(バイアル当たり合計200mgのHu5F9-G4)から各投与に必要なHu5F9-G4の体積を計算するには、以下の式を使用するべきである:体重(kg)× 所望の用量(mg/kg)=Hu5F9-G4(mL)20mg/mLの体積。
【0152】
パートA:1mg/kg以下の用量を必要とする用量漸増患者については、Hu5F9-G4は、250mLの持続静脈内注入として60分(±10分)にわたって投与される。他の全ての1mg/kgを超える用量の注入は、500mLで2時間(±10分)にわたって投与される。
【0153】
パートB及びC:プライミング用量はパートB及びCの患者が投与される最初の用量であり、これはパートAの完了時に1mg/kgと決定された。プライミング用量に起因するSAE及びAEは引き続きCTMCによって綿密に監視され、CTMCは定期的に会合を召集し、必要な場合はその頻度を増やす(CTMC憲章に従って)。パートB及びCの対象については、プライミング用量、すなわち1mg/kgの注入期間は3時間となる。パートBでは、維持用量は8日目、プライミング用量の完了の1週間後から投与される。維持用量の注入期間は、1mg/kgを超える用量に対し2時間となる。パートCでは、負荷用量は8日目、プライミング用量の完了の1週間後から投与され、維持用量は29日目から投与される。負荷用量及び維持用量の注入期間は、1mg/kgを超える用量に対し2時間となる。
【0154】
パートB及びCにおける、2週間以上の用量遅延または休薬を伴う患者は再プライミングを受け、この場合は、1mg/kgのプライミング用量を3時間にわたり投与してから割り当てられた維持用量を再開する。パートAの患者について、再プライミングの注入期間はプロトコルに従い1時間となる。Hu5F9-G4は、ボーラス注射として投与すべきものではない。
【0155】
処置関連毒性については、以下のように投与スケジュールの調整が可能である:処置の最初の4週間は、処置の遅延は許容できない。その後、非DLT処置関連毒性の回復に十分な時間を与えるために、処置を最大3週間まで遅らせることができる。グレード2の貧血にかかった患者は、貧血をグレード1まで回復できるように、第5週から最大3週間処置を遅らせることができる。ただし、任意のDLTが生じた場合、患者を研究から外さなければならなくなる。3週間を上回る処置の遅延(例えば、回復が予想される無関係の医学的状態のために)は、CTMCの承認を受けなければならない。加えて、研究者の自由裁量及び書面によるスポンサーの承認により、57日目以降は最大2週間の休薬が認められる。
【0156】
「休薬(drug holiday)」は、プロトコル指定の処置、評価、及び手順を休むこととして定義される。パートA及びBにおいて、Hu5F9-G4注入は間に最低6日置かなければならず、週に2回の注入により送達されるHu5F9-G4注入は間に最低3日置かなければならない。パートB及びCにおける、2週間以上の処置の遅延または休止を伴う患者は、1mg/kgのプライミング用量の3時間にわたる静脈内投与を受けることによる「再プライミング」の後に、割り当てられた維持処置用量を再開しなければならない。パートAの患者についての再プライミングの注入期間は、プロトコルに従い1時間となる。
【0157】
受容体占有率アッセイ
評価スケジュールに従って受容体占有率試料を抽出する。血球をフローサイトメトリーによって解析し、白血球及び赤血球の画分におけるCD47受容体占有率を調べる。最初のHu5F9-G4抗体インキュベートの前に収集した各患者からのベースライン(1日目)試料を、Hu5F9-G4抗体(濃度を増加させていく)と共にインキュベートして、CD47分子/受容体占有率の標準曲線を確立させる。加えて、ベースライン(1日目)及び8日目におけるアネキシンV発現によって赤血球上のホスファチジルセリン発現を評価してもよく、これは受容体占有率アッセイの追加的態様として追加の採血を伴うことなく完了することができる。
【0158】
原発がん細胞におけるCD47受容体占有率は、入手可能な場合、悪性滲出液または組織生検から得た試料でフローサイトメトリーまたは免疫蛍光法により決定する。
【0159】
腫瘍内の免疫細胞内区画組成の変化は、入手可能な場合、処置の前後に収集した腫瘍生検で決定する。
【0160】
がん体細胞変異とHu5F9-G4に対する応答との関連。例えば、結腸直腸、肺、及び頭頸部の腫瘍は、KRAS、BRAF、NRAS、及び/またはPIK3CA変異について解析することができる。
【0161】
in vitroアッセイ及び異種移植マウス研究を利用した個々の研究対象患者におけるHu5F9-G4処置に対する応答。
【0162】
Hu5F9-G4に対する潜在的耐性の評価と、耐性を克服するための代替的CD47遮断戦略の探索(例えば、高親和性SIRPアルファFc融合タンパク質)。
【0163】
末梢血塗抹評価:末梢血塗抹は、標準の細胞形態評価に加えて、赤血球凝集の存在に関して評価される。このような実験は、可能な場合、薬物注入と反対側の腕で採取すべきである。パートA及びBにおける最初の2週間の処置について、末梢血塗抹は、1日目及び8日目の投与前及び各IMP注入終了から4時間後(±30分)、2日目及び9日目のIMP注入後24時間時(±4時間)、4日目及び11日目の72時間時点(±24時間)に実施される。パートAにおける第2週の後、末梢血塗抹は、15日目の投与前及びそれ以降に研究者の自由裁量によって実施される。
【0164】
パートBにおける第2週の後、末梢血塗抹は15日目及び22日目の投与前にも実施されるが、15日目については、さらに注入終了から4時間後(±30分)にも実施される。29日目以降については、末梢血塗抹は研究者の自由裁量により実施され、また研究終了時の診察で実施される。
【0165】
パートCにおいて、末梢血塗抹は1日目及び8日目の投与前及びIMP注入終了から4時間後(±30分)、2日目及び9日目のIMP注入後24時間時(±4時間)、4日目の72時間時点(±24時間)に実施され、さらに11、15、18、22、25、及び29日目にも投与前及びIMP注入終了から4時間後(±30分)に実施される。30日目以降については、末梢血塗抹は研究者の自由裁量により実施され、また研究終了時の診察で実施される。輸血を受ける患者については、末梢血塗抹は輸血前に実施され、輸血完了から4時間後(±30分)に再び実施される。
【0166】
薬物動態解析
安全性解析セットが、PK、CD47受容体占有率、免疫原性、及び探索的バイオマーカー(データが解析に利用可能な場合)の集団に含まれる。加えて、PK集団はPKパラメーターを推定するための十分に測定可能な濃度データを必要とするが、一方PK濃度集団は、任意の測定可能な濃度のHu5F9-G4を有する全ての患者を含む。
【0167】
プロトコル違反を伴う患者を含めることについては、解析前にPK集団に含めるかの評価を患者ごとに行う。濃度対時間データは、N、平均、SD、幾何平均、中央値、最小値、最大値、及び%CVを含めて記述的に要約される。個別及び平均のHu5F9-G4濃度対時間の曲線はグラフによって提示される。非コンパートメント法を用いて計算される薬物動態パラメーター-としては、以下のものが挙げられる:Cmax、Tmax、t1/2、ゼロ時間から測定可能な最終濃度までの血清濃度時間曲線下面積(AUC0-t)、ゼロ時間から無限までのAUC(AUC0-∞)、クリアランス(CL)、及び分布容積(Vss、Vz)。Hu5F9-G4への曝露(Cmax、AUC)を含めた全てのPKパラメーターは、個々の患者について、そして用量コホートにより要約される。1つ以上のPKパラメーターと選択された安全性及び有効性の尺度(例えば、ヘモグロビン、網状赤血球増加、フローサイトメトリーによる受容体飽和度、または免疫原性)との関係を 評価するために探索的解析を行ってもよい。
【0168】
免疫原性評価
抗Hu5F9-G4抗体陽性の割合及び大きさが、個々の患者について、各パートA、B、C/用量レベルごとに、そしてプールされた患者集団に対し評価される。免疫原性アッセイ陽性と1つ以上の安全性、PK、または有効性のパラメーター(例えば、薬物クリアランス、AE、腫瘍応答)との関係を判定するために、探索的評価を行ってもよい。
【0169】
抗腫瘍活性
腫瘍評価セットに関して評価可能な者に対し、腫瘍応答の解析が行われる。RECIST v1.1またはIWG基準が適用され、評価は研究者に従う。CR、PR、SD、6ヵ月間持続する安定した疾患(SD6)、及びPDを有する患者の比率を各時点で計算する。客観的奏効を、パートA、B、及びC/用量レベルの各々における95%信頼区間を用いてCR+PRとして計算し、各測定時点の全体を表にする。臨床的利益を達成したと定義される患者の比率は、95%信頼区間を用いてCR+PR+SD6として計算する。最良の全体奏効率も評価する。応答期間は、初回応答が最初に特定された時間からPDの発生までを計算する。進行は、最も小さい腫瘍測定値との比較で評価する。抗腫瘍活性の解析に関する詳細はSAPに明記される。
【0170】
要約すれば、毒性学研究からの結果に基づき、非臨床的安全性評価プログラムは臨床試 験のためのHu5F9-G4投与(例えば、静脈内注入として)を支持する。
【0171】
実施例4
前臨床試験において、100μg/mgを超える血清レベルが治療有効性を有することが示された。
図9で提供されているデータは、ヒト患者においてこのレベルの薬物をもたらす用量を示している。
【0172】
図9に示されているように、各グラフは、1mg/kgのプライミング用量の5F9及び支持された維持用量で処置された、固形腫瘍を有するヒト患者の投与コホートを表している。各線は、血清試料中の遊離薬物(Hu5F9-G4)の濃度平均値をμg/mlで示しており、3人の患者については誤差バーを伴っている。下の表の値は、第2週の各コホートにおける平均Cmaxを示し、最後のAUCはこれらが維持された時間の長さ(時間単位)を示している。
【0173】
グラフのX軸は試料の投与に関する時間を示しており、0は注入前の試料を示し、残りは時点(注入後の時間単位)である。
【0174】
第2週にマークされた線は、3、10、または20mg/mlにおける第1の維持用量の後の濃度曲線を示している(第1週はプライミング用量である)。第5週のデータは、第4の維持用量の後の値を表す。各曲線の最も高い点はCmaxを確定し、勾配曲線は血清中の薬物のクリアランスまたは持続を確定するものである。
【0175】
第1の維持用量3mg/kgからのデータは、血清からの迅速なクリアランスを示している。また、この用量は、第5週の処置後であってもかなり急速に除去された。3mg/kgの用量は、Cmaxであっても100μg/mlを超える目標血清レベルを達成しないということも認められ得る。
【0176】
10mg/kgの用量では100μg/ml以上のCmaxが達成されたが、このレベルは持続せず、第2週の用量後に見られるクリアランスのために100μg/ml超が十分に持続しない。10mg/kgの用量は、第5週には持続的なレベルをもたらす。これは投与繰り返しスケジュールによるCD47シンクの飽和に起因する可能性がある。
【0177】
20mg/kgの維持用量においては、第1の維持用量(第2週)により、100μg/mlの目標レベルを上回る血清レベルの持続が達成されると考えられる。
図9に示されるように、曲線は平坦で、ほぼ水平である。