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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】プレス硬化方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20240226BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240226BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20240226BHJP
   C21D 1/26 20060101ALI20240226BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20240226BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20240226BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20240226BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20240226BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20240226BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20240226BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20240226BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20240226BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20240226BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20240226BHJP
   C23C 2/28 20060101ALI20240226BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240226BHJP
   C22C 38/60 20060101ALN20240226BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C21D9/46 J
C21D9/46 U
C21D1/18 C
C21D1/26 D
C22C27/06
C22C21/00 M
C22C21/02
C22C21/06
C22C21/10
C22C18/00
C22C18/04
C23C2/06
C23C2/12
C23C2/26
C23C2/28
C22C38/00 301T
C22C38/00 301W
C22C38/60
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022525322
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-10
(86)【国際出願番号】 IB2020059841
(87)【国際公開番号】W WO2021084378
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2019/059287
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グリゴリーバ,ライサ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥミニカ,フローリン
(72)【発明者】
【氏名】ナビ,ブラヒム
(72)【発明者】
【氏名】ドリエ,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】スチューレル,ティエリー
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-518136(JP,A)
【文献】特表2012-514695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00- 9/44
C21D 9/50
C21D 1/02- 1/84
C23C 2/00- 2/40
B21D 22/00-26/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス硬化方法であって、以下のステップ:
A.任意選択的に亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングでプレコーティングされた、熱処理用鋼板の提供ステップと、
B.10~550nmの厚さにわたってクロムを含み、ニッケルを含まない水素バリアプレコーティングの堆積ステップと、
C.ブランクを得るための前記プレコーティングされた鋼板の切断ステップと、
D.800~970℃の炉内温度で、1~12分の滞留時間の間、1体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以上及び50体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以下の酸化力を有する雰囲気中での前記ブランクの熱処理ステップであって、かかる雰囲気が-30~+30℃の露点を有する、ステップと、
E.前記ブランクのプレスツールへの移送ステップと、
F.部品を得るための600~830℃の温度での前記ブランクの熱間成形ステップと、
G.マルテンサイト若しくはマルテンサイト-ベイナイトであるか、又は体積分率で少なくとも75%の等軸フェライト、5~20体積%のマルテンサイト及び10体積%以下の量のベイナイトで作製される鋼中の微細構造を得るためのステップE)で得られた前記部品の冷却ステップと、
を含む、プレス硬化方法。
【請求項2】
ステップB)において、水素バリアプレコーティングが、Al、Fe、Si、Zn及びNの中から選択される少なくとも1つの元素を含まない、請求項1に記載のプレス硬化方法。
【請求項3】
ステップA)において、水素バリアプレコーティングが、クロムからなる、請求項1又は2に記載のプレス硬化方法。
【請求項4】
ステップCとGとの間で水素バリアプレコーティングの上にさらなるプレコーティングが堆積されない、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項5】
ステップA)において、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングが、アルミニウムをベースとし、かつ15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意選択的に0.1~8.0%のMg及び任意選択的に0.1~30.0%のZnを含み、残りがAlである、請求項1~4のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項6】
ステップA)において、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングが、亜鉛をベースとし、かつ6.0%未満のAl、6.0%未満のMgを含み、残りがZnである、請求項1~4のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項7】
ステップA)の水素バリアプレコーティングが、物理蒸着、電気亜鉛めっき又はロールコーティングによって堆積される、請求項1~6のいずれか一項に記載のプレス硬化方法。
【請求項8】
ステップD)において、雰囲気が、10体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以上及び30体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以下の酸化力を有する、請求項7に記載のプレス硬化方法。
【請求項9】
ステップD)において、雰囲気が空気である、請求項8に記載のプレス硬化方法。
【請求項10】
ステップD)において、熱処理が、840~950℃の温度で実施され、鋼中に完全オーステナイト微細構造を得る、請求項9に記載のプレス硬化方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法から得られる部品であって、鋼板と、クロムを含有し、ニッケルを含有せず、前記鋼板からの鉄の拡散によって合金化される水素バリアプレコーティングとを備え、前記鋼板からの酸化鉄、前記水素バリアプレコーティングからの酸化クロムを含み、酸化ニッケルを含まない酸化物層によって上部が覆われる、部品。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法から得られる部品であって、鋼板と、亜鉛系プレコーティングと、クロムを含有し、ニッケルを含有せず、前記鋼板からの鉄の拡散及び亜鉛系プレコーティングからの亜鉛及び他の元素の拡散によって合金化される水素バリアプレコーティングとを備え、前記鋼板からの酸化鉄、前記亜鉛系プレコーティングからの酸化亜鉛、前記水素バリアプレコーティングからの酸化クロムを含み、酸化ニッケルを含まない酸化物層によって上部が覆われる、部品。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法から得られる部品であって、鋼板と、アルミニウム系プレコーティングと、クロムを含有し、ニッケルを含有せず、前記鋼板からの鉄の拡散及びアルミニウム系プレコーティングからのアルミニウム及び他の元素の拡散によって合金化される水素バリアプレコーティングとを備え、前記鋼板からの酸化鉄、前記アルミニウム系プレコーティングからのAlなどの酸化アルミニウム、前記水素バリアプレコーティングからの酸化クロムを含み、酸化ニッケルを含まない酸化物層によって上部が覆われる、部品。
【請求項14】
熱力学的に安定な酸化クロム及び酸化鉄が、それぞれCr、FeO、Fe及び/若しくはFe又はそれらの混合物を含むことができる、請求項11~13のいずれか一項に記載の部品。
【請求項15】
自動車の製造のための、請求項11~14のいずれか一項に記載の部品、又は請求項1~10のいずれか一項に記載の方法から得ることができる部品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリアコーティングでコーティングされた熱処理用鋼板を提供することを含む、プレス硬化方法に関する。この水素バリアプレコーティングは、より良好な水素吸収を抑制し、遅れ破壊に対する耐性を高める。本発明は、自動車車両の製造に特によく適している。
【背景技術】
【0002】
プレス硬化用のコーティングされた鋼板は、「プレコーティング」と呼ばれることがあり、この接頭語は、プレコーティングの性質の変質がスタンピング前の熱処理中に起こることを示す。2つ以上のプレコーティングが存在し得る。本発明は、1つのプレコーティング、任意選択的に2つのプレコーティングを開示する。
【0003】
特に自動車分野における特定の用途では、金属構造体をさらに軽量化及び衝撃時に強化すること、並びに良好な絞り加工性が必要であることが知られている。この目的のために、改善された機械的特性を有する鋼が通常使用され、そのような鋼は、コールドスタンピング及びホットスタンピングによって形成される。
【0004】
しかしながら、変形後に高い残留応力が残りやすいため、特定の冷間成形又は熱間成形操作後に、遅れ破壊に対する感受性は、機械的強度とともに増加することが知られている。鋼板中に存在する可能性のある原子状水素と組み合わせて、これらの応力は変形自体から一定時間後に発生する、遅れ破壊、亀裂を生じやすい。水素は、母材/内包物界面、双晶境界及び粒界などの結晶格子欠陥への拡散によって徐々に蓄積し得る。後者の欠陥では、水素が一定時間後に臨界濃度に達すると有害になり得る。この遅延は、残留応力分布場及び水素拡散の動力学から生じ、室温での水素拡散係数は低い。更に、粒界に局在する水素は、それらの凝集を弱め、遅延粒間亀裂の出現を促進する。
【0005】
プレス硬化は、水素吸収にとって重要であることが知られており、遅れ破壊に対する感度を高める。吸収は、オーステナイト化熱処理で起こり得る。そして、これは、熱間プレスがそれ自体を形成する前の加熱ステップである。鋼中への水素の吸収は、実際に冶金相に依存する。さらに、高温では、炉内の水は、鋼板の表面で水素及び酸素に解離する。
【0006】
国際公開第2017/187255号は、特に熱間成形前の熱処理中に、水素吸収を防止するバリアの効果を有するプレコーティングを開示している。この水素バリアプレコーティングは、重量比Ni/Crが1.5~9であるニッケル及びクロムを含む。この特許出願は、熱処理の雰囲気が不活性雰囲気又は空気を含む雰囲気であることを開示している。すべての実施例は、窒素からなる雰囲気中で実行される。
【0007】
国際公開第2020/070545号によれば、熱間成形前の熱処理は、水素吸収をさらに低減するために、1体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以上及び50体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以下の酸化力を有する雰囲気中で行われてもよく、かかる雰囲気は、-30~+30℃の露点を有する。
【0008】
いずれの特許出願においても、オーステナイト化熱処理中の水素吸収は、改善されるが、遅れ破壊に対する優れた耐性を有する部品を得るには十分ではない。実際、プレコーティングされたバリアが水素吸収を減少させたとしても、わずかな水素分子が炭素鋼板によって依然として吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2017/187255号
【文献】国際公開第2020/070545号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、鋼板への水素吸着が防止されるプレス硬化方法を提供することである。本発明は、熱間成形を含む該プレス硬化方法によって得られる遅れ破壊に対する優れた耐性を有する部品を利用可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、以下のステップ:
A.任意選択的に亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングでプレコーティングされた、熱処理用鋼板の提供ステップと、
B.10~550nmの厚さにわたってクロムを含み、ニッケルを含まない水素バリアプレコーティングの堆積ステップと、
C.ブランクを得るためのプレコーティングされた鋼板の切断ステップと、
D.800~970℃の炉内温度で、1~12分の滞留時間の間、1体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以上及び50体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以下の酸化力を有する雰囲気中でのブランクの熱処理ステップであって、かかる雰囲気が-30~+30℃の露点を有する、ステップと、
E.ブランクのプレスツールへの移送ステップと、
F.部品を得るための600~830℃の温度でのブランクの熱間成形ステップと、
G.マルテンサイト若しくはマルテンサイト-ベイナイトであるか、又は体積分率で少なくとも75%の等軸フェライト、5~20体積%のマルテンサイト及び10体積%以下の量のベイナイトで作製される鋼中の微細構造を得るためのステップE)で得られた部品の冷却ステップと、
を含むプレス硬化方法を提供することによって達成される。
【0012】
実際、本発明者らは、驚くべきことに、鋼板が、クロムを含み、ニッケルを含まない水素バリアプレコーティングでプレコーティングされ、オーステナイト化熱処理が上記雰囲気で実行される場合、プレコーティングのこのバリア効果が、さらに改善され、鋼板への水素の吸収をよりさらに防止することを見出した。オーステナイト化熱処理中に水素バリアプレコーティングの表面上に選択的酸化物のより薄い層が形成される窒素からなる雰囲気とは対照的に、熱力学的に安定な酸化物が、低い動力学でバリアプレコーティングの表面上に形成されると考えられる。
【0013】
上記の特定の雰囲気では、クロムを含み、ニッケルを含まない水素バリアプレコーティングは、ニッケル及びクロムを含む水素バリアプレコーティングよりも高い水素吸収の減少を可能にすると考えられる。実際、クロムは、ニッケル及びクロムによって形成されたものよりも厚い酸化物層を形成すると考えられる。いかなる理論にも束縛されるものではないが、クロムを含み、ニッケルを含まない水素バリアプレコーティングは、水素バリアプレコーティング表面での水解離を防止し、水素バリアプレコーティングを通る水素拡散も防止することができると考えられる。1体積%パーセントの酸素からなる雰囲気の酸化力以上及び50体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以下の酸化力を有する雰囲気では、熱力学的に安定である酸化物が水の解離をさらに抑制すると考えられる。
【0014】
本発明による方法の本質的な特徴のうちの1つは、1体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以上及び50体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以下の酸化力を有する雰囲気を選択することにある。
【0015】
ステップA)において、使用される鋼板は、欧州規格EN 10083に記載されている熱処理用鋼で作製される。それは、熱処理前又は熱処理後に、500MPaを超える、有利には500~2000MPaの引張抵抗を有することができる。
【0016】
鋼板の重量組成は、好ましくは以下:0.03%≦C≦0.50%、0.3%≦Mn≦3.0%、0.05%≦Si≦0.8%、0.015%≦Ti≦0.2%、0.005%≦Al≦0.1%、0%≦Cr≦2.50%、0%≦S≦0.05%、0%≦P≦0.1%、0%≦B≦0.010%、0%≦Ni≦2.5%、0%≦Mo≦0.7%、0%≦Nb≦0.15%、0%≦N≦0.015%、0%≦Cu≦0.15%、0%≦Ca≦0.01%、0%≦W≦0.35%の通りであり、残余は鉄及び鋼の製造に起因する不可避的不純物である。
【0017】
例えば、鋼板は、以下の組成:0.20%≦C≦0.25%、0.15%≦Si≦0.35%、1.10%≦Mn≦1.40%、0%≦Cr≦0.30%、0%≦Mo≦0.35%、0%≦P≦0.025%、0%≦S≦0.005%、0.020%≦Ti≦0.060%、0.020%≦Al≦0.060%、0.002%≦B≦0.004%を有する22MnB5であり、残余は鉄及び鋼の製造に起因する不可避的不純物である。
【0018】
鋼板は、以下の組成:0.24%≦C≦0.38%、0.40%≦Mn≦3%、0.10%≦Si≦0.70%、0.015%≦Al≦0.070%、0%≦Cr≦2%、0.25%≦Ni≦2%、0.020%≦Ti≦0.10%、0%≦Nb≦0.060%、0.0005%≦B≦0.0040%、0.003%≦N≦0.010%、0.0001%≦S≦0.005%、0.0001%≦P≦0.025%を有するチタン及び窒素の含有量は、Ti/N>3.42を満たし、炭素、マンガン、クロム、及びケイ素の含有量は、以下を満たすことが理解され、
【0019】
【数1】
組成物は、任意選択的に、以下:0.05%≦Mo≦0.65%、0.001%≦W≦0.30%、0.0005%≦Ca≦0.005%のうちの1つ以上を含み、残余は鉄及び鋼の製造に起因する不可避的不純物である、Usibor(R)2000であり得る。
【0020】
例えば、鋼板は、以下の組成:0.040%≦C≦0.100%、0.80%≦Mn≦2.00%、0%≦Si≦0.30%、0%≦S≦0.005%、0%≦P≦0.030%、0.010%≦Al≦0.070%、0.015%≦Nb≦0.100%、0.030%≦Ti≦0.080%、0%≦N≦0.009%、0%≦Cu≦0.100%、0%≦Ni≦0.100%、0%≦Cr≦0.100%、0%≦Mo≦0.100%、0%≦Ca≦0.006%を有するDuctibor(R)500であり、残余は鉄及び鋼の製造に起因する不可避的不純物である。
【0021】
鋼板は、所望の厚さに応じて熱間圧延及び任意選択に、冷間圧延によって得ることができ、これは例えば0.7mm~3.0mmであり得る。
【0022】
ステップA)において、鋼板は、防食目的のために亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングによって直接上部を覆うことができる。好ましい実施形態では、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは、アルミニウムをベースとし、かつ15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意選択的に0.1~8.0%のMg及び任意選択的に0.1~30.0%のZnを含み、残りはAlである。例えば、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは、AluSi(R)である。
【0023】
別の好ましい実施形態では、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは、亜鉛をベースとし、かつ6.0%未満のAl、6.0%未満のMgを含み、残りはZnである。例えば、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングは、以下の製品:Usibor(R)GIを得るための亜鉛コーティングである。
【0024】
亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングはまた、不純物及び残留元素、最大5.0重量%、好ましくは3.0重量%の含有量のそのような鉄を含むことができる。
【0025】
任意選択的に、ステップA)において、水素バリアプレコーティングは、Sr、Sb、Pb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Zr又はBiから選択される元素を含み、各追加の元素の重量含有率は、0.3重量%に及ばない。
【0026】
好ましい実施形態では、ステップA)において、水素バリアプレコーティングは、Al、Fe、Si、Zn及びNから選択される元素のうちの少なくとも1つを含まない。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、これらの元素のうちの少なくとも1つの存在は、水素プレコーティングのバリア効果を低下させるリスクがある。
【0027】
好ましくは、ステップA)において、水素バリアプレコーティングは、50重量%又は75重量%又は90重量%のCrからなる。より好ましくは、それはCrからなり、すなわち水素バリアプレコーティングは、Cr及び追加の元素のみを含む。
【0028】
好ましくは、ステップA)において、ステップB~F)の前に水素バリアプレコーティングの上にさらなるプレコーティングは堆積されない。
【0029】
好ましくは、ステップA)において、水素バリアプレコーティングは、10~90又は150~250nmの厚さを有する。例えば、バリアプレコーティングの厚さは、50、200又は400nmである。
【0030】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、バリアプレコーティングが10nm未満である場合、バリアプレコーティングが鋼板を十分に覆わないため、鋼中に水素を吸収するリスクがあると思われる。バリアプレコーティングが550nmを超える場合、バリアプレコーティングがより脆くなり、バリアプレコーティングの脆性に起因して水素吸収が始まるリスクがあると思われる。
【0031】
プレコーティングは、当業者に知られた任意の方法、例えば溶融亜鉛めっき法、ロールコーティング、電気亜鉛めっき法、ジェット蒸着などの物理蒸着、マグネトロンスパッタリング又は電子ビーム誘起蒸着によって堆積させることができる。好ましくは、水素バリアプレコーティングは、電子ビーム誘起堆積又はロールコーティングによって堆積される。プレコーティングの堆積後、スキンパスを実現することができ、プレコーティングされた鋼板を加工硬化し、その後の成形を容易にする粗さを与えることを可能にする。例えば接着結合又は耐食性を改善するために、脱脂及び表面処理を施すことができる。
【0032】
本発明による金属プレコーティングでプレコーティングされた鋼板を提供した後、プレコーティングされた鋼板を切断してブランクを得る。炉内でブランクに熱処理を施す。好ましくは、熱処理は、非保護雰囲気下又は保護雰囲気下、800~970℃の間の温度で実行される。より好ましくは、熱処理は、通常840~950℃、好ましくは880~930℃のオーステナイト化温度Tmで実行される。有利には、該ブランクは、1~12分、好ましくは3~9分の滞留時間tmの間維持される。熱間成形前の熱処理中に、プレコーティングは、腐食、摩耗、摩擦及び疲労に対して高い耐性を有する合金層を形成する。
【0033】
好ましくは、ステップC)において、雰囲気は、10体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以上及び30体積%の酸素からなる雰囲気の酸化力以下の酸化力を有する。例えば、雰囲気は、空気であり、すなわち約78%のN、約21%のO並びに希ガス、二酸化炭素及びメタンなどの他のガスからなる。
【0034】
好ましくは、ステップC)において、露点は、-20℃~+20℃、有利には-15℃~+15℃である。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、露点が上記範囲にある場合、熱力学的に安定な酸化物の層は、熱処理中のH吸着をよりさらに減少させると考えられる。
【0035】
雰囲気は、N若しくはAr、又は窒素若しくはアルゴンと、例えば酸素などのガス酸化剤との混合物、COとCOとの混合物、又はHとHOとの混合物で作製され得る。不活性ガスを添加せずに、COとCOとの混合物又はHとHとの混合物を使用することも可能である。
【0036】
次いで、熱処理後、ブランクを熱間成形ツールに移送し、600~830℃の温度で熱間成形する。熱間成形は、ホットスタンピング又はロール成形であり得る。好ましくは、ブランクは、ホットスタンプされる。次いで、部品は、熱間成形ツールで、又は特定の冷却ツールへの移送後に冷却される。
【0037】
冷却速度は、熱間成形後の最終微細構造が大部分がマルテンサイトを含み、好ましくはマルテンサイト、又はマルテンサイト及びベイナイトを含有し、又は少なくとも75%の等軸フェライト、5~20%のマルテンサイト及び10%以下の量のベイナイトで作製されるように、鋼組成に応じて制御される。
【0038】
これにより、本発明による遅れ破壊に優れた耐性を有する硬化部品が熱間成形により得られる。任意選択的に、部品は、防食目的のための亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングでプレコーティングされた鋼板を含む。好ましくは、部品は、クロムを含み、ニッケルを含まない水素バリアプレコーティングでプレコーティングされた鋼板と、熱力学的に安定な鉄、酸化クロムを含み、酸化ニッケルを含まない酸化物層とを備え、そのような水素バリアプレコーティングは、鋼板との拡散によって合金化される。
【0039】
より好ましくは、鋼板は、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングによって直接上部が覆われ、この亜鉛系又はアルミニウム系コーティング層は、クロムを含み、ニッケルを含まない水素バリアプレコーティングによって直接上部が覆われる。水素バリアプレコーティングは、熱力学的に安定な鉄、酸化クロムを含み、酸化ニッケルを含まない酸化物層を含む。水素バリアプレコーティングは、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングとの拡散によって合金化され、亜鉛系又はアルミニウム系プレコーティングも鋼板と合金化される。いかなる理論にも束縛されるものではないが、鋼からの鉄は、熱処理中に水素バリアプレコーティングの表面に拡散すると思われる。ステップC)の雰囲気では、鉄及びクロムがゆっくり酸化して、熱力学的に安定な酸化物を形成し、鋼板への水素吸収を防止すると考えられる。
【0040】
好ましくは、熱力学的に安定な酸化クロム及び酸化鉄は、Cr、FeO、Fe、及び/若しくはFe又はそれらの混合物を含むことができる。
【0041】
亜鉛をベースとするプレコーティングが存在する場合、酸化物は、ZnOも含むことができる。アルミニウムをベースとするプレコーティングが存在する場合、酸化物は、Alも含むことができる。
【0042】
自動車用途では、リン酸塩処理ステップ後、部品は、電着浴に浸漬される。通常、リン酸塩層の厚さは、1~2μmであり、電着層の厚さは、15~25μmであり、好ましくは20μm以下である。電気泳動層は、腐食に対する追加の保護を保証する。電着ステップ後、他の塗料層、例えば、塗料のプライマーコート、ベースコート層及びトップコート層を堆積させることができる。
【0043】
部品上に電着を施す前に、電気泳動の付着を確実にするために、部品を予め脱脂し、リン酸塩処理する。
【0044】
ここで、本発明を、情報のみを目的として実施された試験例において説明する。それらは、限定的ではない。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0045】
すべての試料について、使用される鋼板は、22MnB5である。鋼の組成は以下の通りである:C=0.2252%、Mn=1.1735%、P=0.0126%、S=0.0009%、N=0.0037%、Si=0.2534%、Cu=0.0187%、Ni=0.0197%、Cr=0.180%、Sn=0.004%、Al=0.0371%、Nb=0.008%、Ti=0.0382%、B=0.0028%、Mo=0.0017%、As=0.0023%、et V=0.0284%。
【0046】
いくつかの鋼板は、以下「AluSi(R)」と呼ばれる防食プレコーティングである第1のプレコーティングでプレコーティングされる。このプレコーティングは、9重量%のケイ素、3重量%の鉄を含み、残りはアルミニウムである。それは、溶融亜鉛めっきによって堆積される。
【0047】
いくつかの鋼板は、マグネトロンスパッタリングによって堆積された第2のプレコーティングでコーティングされる。
【0048】
[実施例1]:水素試験:
この試験を使用して、プレス硬化方法のオーステナイト化熱処理中に吸着される水素の量を決定する。
【0049】
試験品は、AluSi(R)(25μm)である第1のプレコーティング及び80%のNi及び20%のCrを含む又はCrからなる第2のプレコーティングでプレコーティングされた鋼板である。
【0050】
プレコーティングの堆積後、ブランクを得るためにコーティングされた試験品を切断した。次いで、ブランクを、5~10分で変動する滞留時間の間、900℃の温度で加熱した。熱処理中の雰囲気は、露点が-15℃~+15℃の空気又は窒素であった。ブランクをプレスツールに移し、オメガ形状を有する部品を得るためにホットスタンピングした。次いで、温水に浸漬することによって部品を冷却し、マルテンサイト変態による硬化を得た。
【0051】
最後に、熱処理中に試験によって吸着された水素量を、熱脱着分析装置すなわちTDAを使用して熱脱着によって測定した。この目的のために、各試験品を石英室に入れ、窒素流下で赤外線炉内でゆっくりと加熱した。放出された水素/窒素混合物を漏れ検出器でピックアップし、質量分析計で水素濃度を測定した。
【0052】
結果を以下の表1に示す:
【0053】
【表1】
【0054】
本発明による試験例4は、比較例と比較して非常に少量の水素を放出する。
【0055】
熱処理及び熱間成形後、試験品4の表面を分析した。それは、表面上に以下の酸化物:Cr、Fe、Fe及びAlを含む。
【0056】
鋼板から外面まで、試験4の部品は、以下の層:
・鋼板からの鉄、アルミニウム、ケイ素及び他の元素を含み、10~15μmの厚さを有する相互拡散層と、
・鋼板からのアルミニウム、ケイ素及び鉄を、下の層及び他の元素より少ない量で含有し、20~35μmの厚さを有する合金層と、
・下の層よりも少ない鉄及び多くの酸化物を含有し、100~300nmの厚さを有する薄層と、
・下の層、特にCr及びAl酸化物と比較して、最大量の酸化物を含有し、表面の真下に位置し、50~150nmの厚さを有するより薄い層と、
を備える。