(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】加工性に優れた高強度鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240226BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20240226BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240226BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/06
C22C38/60
C21D9/46 G
C21D9/46 J
(21)【出願番号】P 2022537003
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(86)【国際出願番号】 KR2020016849
(87)【国際公開番号】W WO2021125604
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】10-2019-0169610
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジェ-フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジョン-クォン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186647(JP,A)
【文献】特開2013-019047(JP,A)
【文献】特開2015-193897(JP,A)
【文献】特開2015-086468(JP,A)
【文献】国際公開第2011/093490(WO,A1)
【文献】特開2017-053001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/06
C22C 38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.25~0.75%、Si:4.0%以下、Mn:0.9~5.0%、Al:5.0%以下、P:0.15%以下、S:0.03%以下、
及びN:0.03%以下
を含み、残りはFe及び不可避不純物
からなり、
微細組織として、
30~70体積%のテンパードマルテンサイト、
10~45体積%のベイナイト、
10~40体積%の残留オーステナイト、
及びフェライト
を含み、残りは不可避組織
からなり、
下記の[関係式1]及び[関係式2]を満たす、加工性に優れた高強度鋼板。
[関係式1]
1.1≦[Si+Al]
F/[Si+Al]
γ≦3.0
上記関係式1において、[Si+Al]
Fはフェライトに含まれたSi及びAlの平均合計含量(
質量%)であり、[Si+Al]
γは残留オーステナイトに含まれたSi及びAlの平均合計含量(
質量%)である。
[関係式2]
T(γ)/V(γ)≧0.1
上記関係式2において、T(γ)は鋼板のテンパード残留オーステナイトの分率(体積%)であり、V(γ)は鋼板の残留オーステナイトの分率(体積%)である。
【請求項2】
前記鋼板は、下記の(1)~(9)のうち一つ以上をさらに含む
(ただし、合計量で0%を除く)、請求項1に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
(1)Ti:0~0.5%、Nb:0~0.5%及びV:0~0.5%のうち1種以上
(2)Cr:0~3.0%及びMo:0~3.0%のうち1種以上
(3)Cu:0~4.5%及びNi:0~4.5%のうち1種以上
(4)B:0~0.005%
(5)Ca:0~0.05%、Yを除くREM:0~0.05%及びMg:0~0.05%のうち1種以上
(6)W:0~0.5%及びZr:0~0.5%のうち1種以上
(7)Sb:0~0.5%及びSn:0~0.5%のうち1種以上
(8)Y:0~0.2%及びHf:0~0.2%のうち1種以上
(9)Co:0~1.5%
【請求項3】
前記Si及びAlの合計含量(Si+Al)は1.0~6.0
質量%である、請求項1に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項4】
前記鋼板の微細組織は
、3~20体積%のフェライトを含む、請求項1に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項5】
前記鋼板は、下記の[関係式3]で表される引張強度と伸び率のバランス(B
T・E)が22,000(MPa%)以上であり、下記の[関係式4]で表される引張強度と穴拡げ率のバランス(B
T・H)が7×10
6(MPa
2%
1/2)以上であり、下記の[関係式5]で表される曲げ加工率(B
R)が0.5~3.0である、請求項1に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
[関係式3]
B
T・E=[引張強度(TS,MPa)]×[伸び率(El,%)]
[関係式4]
B
T・H=[引張強度(TS,MPa)]
2×[穴拡げ率(HER,%)]
1/2
[関係式5]
B
R=R/t
上記関係式5において、Rは90°曲げ試験後にクラックが発生しない最小曲げ半径(mm)を意味し、tは鋼板の厚さ(mm)を意味する。
【請求項6】
質量%で、C:0.25~0.75%、Si:4.0%以下、Mn:0.9~5.0%、Al:5.0%以下、P:0.15%以下、S:0.03%以下、
及びN:0.03%以下
を含み、残りはFe及び不可避不純物
からなる冷間圧延された鋼板を提供する段階と、
前記冷間圧延された鋼板をAc1以上Ac3未満の温度範囲まで加熱(1次加熱)して、50秒以上保持(1次保持)する段階と、
平均冷却速度1℃/s以上で、600~850℃の温度範囲(1次冷却停止温度)まで冷却(1次冷却)する段階と、
平均冷却速度2℃/s以上で、300~500℃の温度範囲まで冷却(2次冷却)し、この温度範囲で5秒以上保持(2次保持)する段階と、
平均冷却速度2℃/s以上で、100~300℃の温度範囲(2次冷却停止温度)まで冷却(3次冷却)する段階と、
300~500℃の温度範囲まで加熱(2次加熱)し、この温度範囲で50秒以上保持(3次保持)する段階と、
常温まで冷却(4次冷却)する段階と、を含む、
請求項1から5のいずれか1項に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記冷間圧延された鋼板は、下記の(1)~(9)のうち一つ以上をさらに含む
(ただし、合計量で0%を除く)、請求項6に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
(1)Ti:0~0.5%、Nb:0~0.5%及びV:0~0.5%のうち1種以上
(2)Cr:0~3.0%及びMo:0~3.0%のうち1種以上
(3)Cu:0~4.5%及びNi:0~4.5%のうち1種以上
(4)B:0~0.005%
(5)Ca:0~0.05%、Yを除くREM:0~0.05%及びMg:0~0.05%のうち1種以上
(6)W:0~0.5%及びZr:0~0.5%のうち1種以上
(7)Sb:0~0.5%及びSn:0~0.5%のうち1種以上
(8)Y:0~0.2%及びHf:0~0.2%のうち1種以上
(9)Co:0~1.5%
【請求項8】
前記冷間圧延された鋼板に含まれる前記Si及びAlの合計含量(Si+Al)は1.0~6.0
質量%である、請求項6に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記冷間圧延された鋼板は、
鋼スラブを1000~1350℃に加熱する段階と、
800~1000℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延する段階と、
300~600℃の温度範囲で前記熱間圧延された鋼板を巻き取る段階と、
前記巻き取られた鋼板を650~850℃の温度範囲で600~1700秒間熱延焼鈍熱処理する段階と、
前記熱延焼鈍熱処理された鋼板を30~90%の圧下率で冷間圧延する段階と、によって提供される、請求項6に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記1次冷却の冷却速度(Vc1)と前記2次冷却の冷却速度(Vc2)は、Vc1<Vc2の関係を満たす、請求項6に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品等に使用できる鋼板に関するものであって、高強度特性を備えながらも加工性に優れた鋼板及びこれを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車産業は地球環境を保護するために素材の軽量化を図っており、同時に搭乗者の安定性を確保できる方法に注目している。このような安定性及び軽量化への要求に応えるために、高強度鋼板の適用が急激に増加している。一般的に鋼板が高強度化するほど、鋼板の加工性は低下することが知られている。したがって、自動車部品用鋼板において、高強度特性を備えながらも、延性、曲げ加工性及び穴拡げ性等に代表される加工性に優れた鋼板が求められている実情である。
【0003】
鋼板の加工性を改善する技術として、テンパードマルテンサイトを活用する方法が特許文献1及び2に開示されている。硬質のマルテンサイトを焼戻し(tempering)させて作製したテンパードマルテンサイトは軟質化したマルテンサイトであるため、テンパードマルテンサイトには、既存の焼戻しされていないマルテンサイト(フレッシュマルテンサイト)との強度の差が存在する。したがって、フレッシュマルテンサイトを抑制させ、テンパードマルテンサイトを形成すると、加工性が増加することができる。
【0004】
しかし、特許文献1及び2に開示された技術では、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が22,000MPa%以上を満たすことができず、これは、強度及び延性ともに優れた鋼板を確保しにくいことを意味する。
【0005】
一方、自動車部材用鋼板は、高強度でありながらも加工性に優れた特性を全て得るために、残留オーステナイトの変態誘起塑性を用いたTRIP(Transformation Induced Plasticity)鋼が開発された。特許文献3では、強度及び加工性に優れたTRIP鋼が開示されている。
【0006】
特許文献3では、多角形のフェライトと残留オーステナイト及びマルテンサイトを含有させて、延性と加工性を向上させようとしたが、ベイナイトを主相としているため高い強度を確保することができず、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)も22,000MPa%以上を満たしていないことが分かる。
【0007】
すなわち、高い強度を有しながらも、延性、曲げ加工性及び穴拡げ性などに代表される加工性に優れた鋼板に対する要求を満たしていない実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国公開特許公報第10-2006-0118602号
【文献】日本公開特許公報第2009-019258号
【文献】韓国公開特許公報第10-2014-0012167号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一側面によると、鋼板の組成及び微細組織を最適化して優れた延性、曲げ加工性及び穴拡げ性を有する高強度鋼板及びこれを製造する方法を提供することができる。
【0010】
本発明の課題は、上述した事項に限定されない。本発明の更なる課題は、明細書の全般的な内容に記述されており、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書に記載された内容から本発明の更なる課題を理解するのに何らの困難もない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、重量%で、C:0.25~0.75%、Si:4.0%以下、Mn:0.9~5.0%、Al:5.0%以下、P:0.15%以下、S:0.03%以下、N:0.03%以下、残りのFe及び不可避不純物を含み、微細組織として、テンパードマルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト、フェライト及び不可避組織を含み、下記の[関係式1]及び[関係式2]を満たすことができる。
【0012】
[関係式1]
1.1≦[Si+Al]F/[Si+Al]γ≦3.0
上記関係式1において、[Si+Al]Fはフェライトに含まれたSi及びAlの平均合計含量(重量%)であり、[Si+Al]γは残留オーステナイトに含まれたSi及びAlの平均合計含量(重量%)である。
【0013】
[関係式2]
T(γ)/V(γ)≧0.1
上記関係式2において、T(γ)は鋼板のテンパード残留オーステナイトの分率(体積%)であり、V(γ)は鋼板の残留オーステナイトの分率(体積%)である。
【0014】
上記鋼板は、下記の(1)~(9)のうち一つ以上をさらに含むことができる。
(1)Ti:0~0.5%、Nb:0~0.5%及びV:0~0.5%のうち1種以上
(2)Cr:0~3.0%及びMo:0~3.0%のうち1種以上
(3)Cu:0~4.5%及びNi:0~4.5%のうち1種以上
(4)B:0~0.005%
(5)Ca:0~0.05%、Yを除くREM:0~0.05%及びMg:0~0.05%のうち1種以上
(6)W:0~0.5%及びZr:0~0.5%のうち1種以上
(7)Sb:0~0.5%及びSn:0~0.5%のうち1種以上
(8)Y:0~0.2%及びHf:0~0.2%のうち1種以上
(9)Co:0~1.5%
上記Si及びAlの合計含量(Si+Al)は1.0~6.0重量%であってもよい。
【0015】
上記鋼板の微細組織は、30~70体積%のテンパードマルテンサイト、10~45体積%のベイナイト、10~40体積%の残留オーステナイト及び3~20体積%のフェライトを含むことができる。上記鋼板は、下記の[関係式3]で表される引張強度と伸び率のバランス(BT・E)が22,000(MPa%)以上であり、下記の[関係式4]で表される引張強度と穴拡げ率のバランス(BT・H)が7×106(MPa2%1/2)以上であり、下記の[関係式5]で表される曲げ加工率(BR)が0.5~3.0である、加工性に優れた高強度鋼板。
【0016】
[関係式3]
BT・E=[引張強度(TS,MPa)]×[伸び率(El,%)]
[関係式4]
BT・H=[引張強度(TS,MPa)]2×[穴拡げ率(HER,%)]1/2
[関係式5]
BR=R/t
上記関係式5において、Rは90°曲げ試験後にクラックが発生しない最小曲げ半径(mm)を意味し、tは鋼板の厚さ(mm)を意味する。
【0017】
本発明の他の一側面による加工性に優れた高強度鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.25~0.75%、Si:4.0%以下、Mn:0.9~5.0%、Al:5.0%以下、P:0.15%以下、S:0.03%以下、N:0.03%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む冷間圧延された鋼板を提供する段階と、上記冷間圧延された鋼板をAc1以上Ac3未満の温度範囲まで加熱(1次加熱)して、50秒以上保持(1次保持)する段階と、平均冷却速度1℃/s以上で、600~850℃の温度範囲(1次冷却停止温度)まで冷却(1次冷却)する段階と、平均冷却速度2℃/s以上で、300~500℃の温度範囲まで冷却(2次冷却)し、この温度範囲で5秒以上保持(2次保持)する段階と、平均冷却速度2℃/s以上で、100~300℃の温度範囲(2次冷却停止温度)まで冷却(3次冷却)する段階と、300~500℃の温度範囲まで加熱(2次加熱)し、この温度範囲で50秒以上保持(3次保持)する段階と、常温まで冷却(4次冷却)する段階と、を含むことができる。
【0018】
上記冷間圧延された鋼板は、下記の(1)~(9)のうち一つ以上をさらに含むことができる。
(1)Ti:0~0.5%、Nb:0~0.5%及びV:0~0.5%のうち1種以上
(2)Cr:0~3.0%及びMo:0~3.0%のうち1種以上
(3)Cu:0~4.5%及びNi:0~4.5%のうち1種以上
(4)B:0~0.005%
(5)Ca:0~0.05%、Yを除くREM:0~0.05%及びMg:0~0.05%のうち1種以上
(6)W:0~0.5%及びZr:0~0.5%のうち1種以上
(7)Sb:0~0.5%及びSn:0~0.5%のうち1種以上
(8)Y:0~0.2%及びHf:0~0.2%のうち1種以上
(9)Co:0~1.5%
上記冷間圧延された鋼板に含まれる上記Si及びAlの合計含量(Si+Al)は1.0~6.0重量%であってもよい。
【0019】
上記冷間圧延された鋼板は、鋼スラブを1000~1350℃に加熱する段階と、800~1000℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延する段階と、300~600℃の温度範囲で上記熱間圧延された鋼板を巻き取る段階と、上記巻き取られた鋼板を650~850℃の温度範囲で600~1700秒間熱延焼鈍熱処理する段階と、上記熱延焼鈍熱処理された鋼板を30~90%の圧下率で冷間圧延する段階と、によって提供されることができる。上記1次冷却の冷却速度(Vc1)と上記2次冷却の冷却速度(Vc2)は、Vc1<Vc2の関係を満たすことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の好ましい一側面によると、強度に優れるだけでなく、延性、曲げ加工性及び穴拡げ性等の加工性に優れており、自動車部品用に特に適した鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、加工性に優れた高強度鋼板及びその製造方法に関するものであって、以下では、本発明の好ましい実現例を説明する。本発明の実現例は様々な形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明する実現例に限定されるものとして解釈されてはならない。本実現例は、当該発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細に説明するために提供されるものである。
【0022】
本発明の発明者らは、ベイナイト、テンパードマルテンサイト、残留オーステナイト及びフェライトを含む変態誘起塑性(Transformation Induced Plasticity,TRIP)鋼において、残留オーステナイトの安定化を図るとともに、残留オーステナイトとフェライトに含まれる特定成分の割合を一定範囲に制御する場合、残留オーステナイトとフェライトの相間の硬度差を減少させることにより、鋼板の加工性及び強度を同時に確保することが可能であることを認知するようになった。これを究明して、高強度鋼の延性及び加工性を向上させることができる方法を見出し、本発明に至るようになった。以下では、本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板についてより詳細に説明する。
【0023】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、重量%で、C:0.25~0.75%、Si:4.0%以下、Mn:0.9~5.0%、Al:5.0%以下、P:0.15%以下、S:0.03%以下、N:0.03%以下、残りのFe及び不可避不純物を含み、微細組織として、テンパードマルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト、フェライト及び不可避組織を含み、下記の[関係式1]及び[関係式2]を満たすことができる。
【0024】
[関係式1]
1.1≦[Si+Al]F/[Si+Al]γ≦3.0
上記関係式1において、[Si+Al]Fはフェライトに含まれたSi及びAlの平均合計含量(重量%)であり、[Si+Al]γは残留オーステナイトに含まれたSi及びAlの平均合計含量(重量%)である。
【0025】
[関係式2]
T(γ)/V(γ)≧0.1
上記関係式2において、T(γ)は鋼板のテンパード残留オーステナイトの分率(体積%)であり、V(γ)は鋼板の残留オーステナイトの分率(体積%)である。
【0026】
以下、本発明の鋼組成についてより詳細に説明する。以下では、特に断りのない限り、各元素の含量を示す%は重量を基準とする。
【0027】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、重量%で、C:0.25~0.75%、Si:4.0%以下、Mn:0.9~5.0%、Al:5.0%以下、P:0.15%以下、S:0.03%以下、N:0.03%以下、残りのFe及び不可避不純物を含む。また、追加的にTi:0.5%以下(0%を含む)、Nb:0.5%以下(0%を含む)、V:0.5%以下(0%を含む)、Cr:3.0%以下(0%を含む)、Mo:3.0%以下(0%を含む)、Cu:4.5%以下(0%を含む)、Ni:4.5%以下(0%を含む)、B:0.005%以下(0%を含む)、Ca:0.05%以下(0%を含む)、Yを除くREM:0.05%以下(0%を含む)、Mg:0.05%以下(0%を含む)、W:0.5%以下(0%を含む)、Zr:0.5%以下(0%を含む)、Sb:0.5%以下(0%を含む)、Sn:0.5%以下(0%を含む)、Y:0.2%以下(0%を含む)、Hf:0.2%以下(0%を含む)、Co:1.5%以下(0%を含む)のうちの1種以上をさらに含むことができる。なお、上記Si及びAlの合計含量(Si+Al)は1.0~6.0%であってもよい。
【0028】
炭素(C):0.25~0.75%
炭素(C)は、鋼板の強度確保に不可欠な元素であるとともに、鋼板の延性向上に寄与する残留オーステナイトを安定化させる元素でもある。したがって、本発明は、このような効果を達成するために0.25%以上の炭素(C)を含むことができる。好ましい炭素(C)含量は0.25%超であってもよく、0.27%以上であってもよく、0.30%以上であってもよい。より好ましい炭素(C)含量は0.31%以上であってもよい。一方、炭素(C)含量が一定レベルを超える場合、過度な強度上昇によって冷却圧延が困難になる可能性がある。したがって、本発明は、炭素(C)含量の上限を0.75%に制限することができる。炭素(C)含量は0.70%以下であってもよく、より好ましい炭素(C)含量は0.67%以下であってもよい。
【0029】
シリコン(Si):4.0%以下(0%は除く)
シリコン(Si)は、固溶強化による強度向上に寄与する元素であり、フェライトを強化させ、組織を均一化させることにより加工性を改善する元素でもある。また、シリコン(Si)はセメンタイトの析出を抑制させ、残留オーステナイトの生成に寄与する元素である。したがって、本発明は、このような効果を達成するためにシリコン(Si)を必須的に添加することができる。好ましいシリコン(Si)含量は0.02%以上であってもよく、より好ましいシリコン(Si)含量は0.05%以上であってもよい。但し、シリコン(Si)含量が一定レベルを超える場合、めっき工程で未めっきのようなめっき欠陥の問題を誘発するだけでなく、鋼板の溶接性を低下させる可能性があるため、本発明はシリコン(Si)含量の上限を4.0%に制限することができる。好ましいシリコン(Si)含量の上限は3.8%であってもよく、より好ましいシリコン(Si)含量の上限は3.5%であってもよい。
【0030】
アルミニウム(Al):5.0%以下(0%は除く)
アルミニウム(Al)は鋼中の酸素と結合して脱酸作用をする元素である。また、アルミニウム(Al)はシリコン(Si)と同様にセメンタイト析出を抑制させて残留オーステナイトを安定化させる元素でもある。したがって、本発明は、このような効果を達成するためにアルミニウム(Al)を必須的に添加することができる。好ましいアルミニウム(Al)含量は0.05%以上であってもよく、より好ましいアルミニウム(Al)含量は0.1%以上であってもよい。一方、アルミニウム(Al)が過剰に添加される場合、鋼板の介在物が増加するだけでなく、鋼板の加工性を低下させる可能性があるため、本発明はアルミニウム(Al)含量の上限を5.0%に制限することができる。好ましいアルミニウム(Al)含量の上限は4.75%であってもよく、より好ましいアルミニウム(Al)含量の上限は4.5%であってもよい。
【0031】
一方、シリコン(Si)とアルミニウム(Al)の合計含量(Si+Al)は1.0~6.0%であることが好ましい。シリコン(Si)及びアルミニウム(Al)は、本発明において微細組織の形成に影響を与え、延性、曲げ加工性及び穴拡げ性に影響を及ぼす成分であるため、シリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の合計含量は1.0~6.0%であることが好ましい。より好ましいシリコン(Si)とアルミニウム(Al)の合計含量(Si+Al)は1.5%以上であってもよく、4.0%以下であってもよい。
【0032】
マンガン(Mn):0.9~5.0%
マンガン(Mn)は、強度と延性を共に高めるのに有用な元素である。したがって、本発明は、このような効果を達成するためにマンガン(Mn)含量の下限を0.9%に制限することができる。好ましいマンガン(Mn)含量の下限は1.0%であってもよく、より好ましいマンガン(Mn)含量の下限は1.1%であってもよい。一方、マンガン(Mn)が過剰に添加される場合、ベイナイト変態時間が増加してオーステナイト中の炭素(C)の濃化度が不十分になるため、目的とするオーステナイト分率が確保できないという問題点が存在する。したがって、本発明は、マンガン(Mn)含量の上限を5.0%に制限することができる。好ましいマンガン(Mn)含量の上限は4.7%であってもよく、より好ましいマンガン(Mn)含量の上限は4.5%であってもよい。
【0033】
リン(P):0.15%以下(0%を含む)
リン(P)は不純物として含有されて衝撃靭性を劣化させる元素である。したがって、リン(P)の含量は0.15%以下に管理することが好ましい。
【0034】
硫黄(S):0.03%以下(0%を含む)
硫黄(S)は不純物として含有されて鋼板中にMnSを形成し、延性を劣化させる元素である。したがって、硫黄(S)の含量は0.03%以下であることが好ましい。
【0035】
窒素(N):0.03%以下(0%を含む)
窒素(N)は不純物として含有されて連続鋳造中に窒化物を作り、スラブの割れを引き起こす元素である。したがって、窒素(N)の含量は0.03%以下であることが好ましい。
【0036】
一方、本発明の鋼板は、上述した合金成分以外に、更に含まれ得る合金組成が存在し、これについては以下で詳細に説明する。
【0037】
チタン(Ti):0~0.5%、ニオブ(Nb):0~0.5%及びバナジウム(V):0~0.5%のうち1種以上
チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)は、析出物を作って結晶粒を微細化させる元素であり、鋼板の強度及び衝撃靭性の向上にも寄与する元素であるため、本発明は、このような効果のためにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうちの1種以上を添加することができる。但し、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の各含量が一定レベルを超える場合、過度な析出物が形成されて衝撃靭性が低下するだけでなく、製造コスト上昇の原因となるため、本発明は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の含量をそれぞれ0.5%以下に制限することができる。
【0038】
クロム(Cr):0~3.0%及びモリブデン(Mo):0~3.0%のうち1種以上
クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)は、合金化処理時にオーステナイト分解を抑制するだけでなく、マンガン(Mn)と同様にオーステナイトを安定化させる元素であるため、本発明は、このような効果のためにクロム(Cr)及びモリブデン(Mo)のうちの1種以上を添加することができる。但し、クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)の含量が一定レベルを超える場合、ベイナイト変態時間が増加してオーステナイト中の炭素(C)の濃化量が不十分になるため、目的とする残留オーステナイト分率を確保することができない。したがって、本発明は、クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)の含量をそれぞれ3.0%以下に制限することができる。
【0039】
銅(Cu):0~4.5%及びニッケル(Ni):0~4.5%のうち1種以上
銅(Cu)及びニッケル(Ni)はオーステナイトを安定化させ、腐食を抑制する元素である。また、銅(Cu)及びニッケル(Ni)は鋼板の表面に濃化して、鋼板内に移動する水素の侵入を防止し、水素遅れ破壊を抑制する元素でもある。したがって、本発明は、このような効果のために銅(Cu)及びニッケル(Ni)のうちの1種以上を添加することができる。但し、銅(Cu)及びニッケル(Ni)の含量が一定レベルを超える場合、過度な特性効果だけでなく、製造コスト上昇の原因となるため、本発明は、銅(Cu)及びニッケル(Ni)の含量をそれぞれ4.5%以下に制限することができる。
【0040】
ボロン(B):0~0.005%
ボロン(B)は、焼入れ性を向上させて強度を高める元素であり、結晶粒界の核生成を抑制する元素でもある。したがって、本発明は、このような効果のためにボロン(B)を添加することができる。但し、ボロン(B)の含量が一定レベルを超える場合、過度な特性効果だけでなく、製造コスト上昇の原因となるため、本発明は、ボロン(B)の含量を0.005%以下に制限することができる。
【0041】
カルシウム(Ca):0~0.05%、マグネシウム(Mg):0~0.05%及びイットリウム(Y)を除く希土類元素(REM):0~0.05%のうち1種以上
ここで、希土類元素(REM)とは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)とランタン族元素を意味する。カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)を除く希土類元素(REM)は、硫化物を球状化させることにより、鋼板の延性向上に寄与する元素であるため、本発明は、このような効果のためにカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)を除く希土類元素(REM)のうちの1種以上を添加することができる。但し、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)を除く希土類元素(REM)の含量が一定レベルを超える場合、過度な特性効果だけでなく、製造コスト上昇の原因となるため、本発明は、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)を除く希土類元素(REM)の含量をそれぞれ0.05%以下に制限することができる。
【0042】
タングステン(W):0~0.5%及びジルコニウム(Zr):0~0.5%のうち1種以上
タングステン(W)及びジルコニウム(Zr)は焼入れ性を向上させて鋼板の強度を増加させる元素であるため、本発明は、このような効果のためにタングステン(W)及びジルコニウム(Zr)のうちの1種以上を添加することができる。但し、タングステン(W)及びジルコニウム(Zr)の含量が一定レベルを超える場合、過度な特性効果だけでなく、製造コスト上昇の原因となるため、本発明は、タングステン(W)及びジルコニウム(Zr)の含量をそれぞれ0.5%以下に制限することができる。
【0043】
アンチモン(Sb):0~0.5%及び錫(Sn):0~0.5%のうち1種以上
アンチモン(Sb)及び錫(Sn)は、鋼板のめっき濡れ性及びめっき密着性を向上させる元素であるため、本発明は、このような効果のためにアンチモン(Sb)及び錫(Sn)のうちの1種以上を添加することができる。但し、アンチモン(Sb)及び錫(Sn)の含量が一定レベルを超える場合、鋼板の脆性が増加して熱間加工又は冷間加工時に割れが発生する可能性があるため、本発明は、アンチモン(Sb)及び錫(Sn)の含量をそれぞれ0.5%以下に制限することができる。
【0044】
イットリウム(Y):0~0.2%及びハフニウム(Hf):0~0.2%のうち1種以上
イットリウム(Y)及びハフニウム(Hf)は鋼板の耐食性を向上させる元素であるため、本発明は、このような効果のためにイットリウム(Y)及びハフニウム(Hf)のうちの1種以上を添加することができる。但し、イットリウム(Y)及びハフニウム(Hf)の含量が一定レベルを超える場合、鋼板の延性が劣化する可能性があるため、本発明は、イットリウム(Y)及びハフニウム(Hf)の含量をそれぞれ0.2%以下に制限することができる。
【0045】
コバルト(Co):0~1.5%
コバルト(Co)は、ベイナイト変態を促進させてTRIP効果を増加させる元素であるため、本発明は、このような効果のためにコバルト(Co)を添加することができる。但し、コバルト(Co)の含量が一定レベルを超える場合、鋼板の溶接性及び延性が劣化する可能性があるため、本発明は、コバルト(Co)の含量を1.5%以下に制限することができる。
【0046】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、上述した成分以外に残りのFe及びその他の不可避不純物を含むことができる。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入し得るため、これを全面的に排除することはできない。これらの不純物は、本技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書ではそのすべての内容を特に言及しない。さらに、上述の成分以外に、有効な成分の更なる添加が全面的に排除されるものではない。
【0047】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、微細組織として、テンパードマルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト及びフェライトを含むことができる。好ましい一例として、本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、体積分率で、30~70%のテンパードマルテンサイト、10~45%のベイナイト、10~40%の残留オーステナイト、3~20%のフェライト及び不可避組織を含むことができる。本発明の不可避組織として、フレッシュマルテンサイト(Fresh Martensite)、パーライト、島状マルテンサイト(Martensite Austenite Constituent、M-A)などが含まれることができる。フレッシュマルテンサイトやパーライトが過度に形成されると、鋼板の加工性が低下したり、残留オーステナイトの分率を低減させたりする可能性がある。
【0048】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、下記の[関係式1]のように、残留オーステナイトに含まれたシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の平均合計含量([Si+Al]γ、重量%)に対するフェライトに含まれたシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の平均合計含量([Si+Al]F、重量%)の比が1.1~3.0の範囲を満たし、下記の[関係式2]のように、鋼板の残留オーステナイトの分率(V(γ)、体積%)に対する鋼板のテンパード残留オーステナイトの分率(T(γ)、体積%)の比が0.1以上であってもよい。
【0049】
[関係式1]
1.1≦[Si+Al]F/[Si+Al]γ≦3.0
【0050】
[関係式2]
T(γ)/V(γ)≧0.1
【0051】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、下記の[関係式3]で表される引張強度と伸び率のバランス(BT・E)が22,000(MPa%)以上であり、下記の[関係式4]で表される引張強度と穴拡げ率のバランス(BT・H)が7×106(MPa2%1/2)以上であり、下記の[関係式5]で表される曲げ加工率(BR)が0.5~3.0の範囲を満たすため、優れた強度と延性のバランス及び強度と穴拡げ率のバランスを有するだけでなく、優れた曲げ加工性を有することができる。
【0052】
[関係式3]
BT・E=[引張強度(TS,MPa)]×[伸び率(El,%)]
【0053】
[関係式4]
BT・H=[引張強度(TS,MPa)]2×[穴拡げ率(HER,%)]1/2
【0054】
[関係式5]
BR=R/t
上記関係式5において、Rは90°曲げ試験後にクラックが発生しない最小曲げ半径(mm)を意味し、tは鋼板の厚さ(mm)を意味する。
【0055】
本発明は、高強度特性だけでなく、優れた延性及び曲げ加工性を同時に確保することを目的とするため、鋼板の残留オーステナイトを安定化させることが重要である。残留オーステナイトを安定化させるためには、鋼板のフェライト、ベイナイト及びテンパードマルテンサイトにおける炭素(C)とマンガン(Mn)をオーステナイトに濃化させることが必要である。しかし、フェライトを活用してオーステナイト中に炭素(C)を濃化させると、フェライトの低い強度特性のため鋼板の強度が不足する可能性があり、過度な相間の硬度差が発生して穴拡げ率(HER)が低下するおそれがある。したがって、本発明は、ベイナイト及びテンパードマルテンサイトを活用してオーステナイト中に炭素(C)とマンガン(Mn)を濃化させるものとする。
【0056】
残留オーステナイト中のシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の含量を一定範囲に制限する場合、ベイナイト及びテンパードマルテンサイトから残留オーステナイト中に炭素(C)とマンガン(Mn)を多量に濃化させることができるため、残留オーステナイトを効果的に安定化させることができる。また、オーステナイト中のシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の含量を一定範囲に制限することによって、フェライト中のシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の含量を増加させることができる。フェライト中のシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の含量が増加するにつれて、フェライトの硬度は増加し、軟質組織であるフェライトと硬質組織であるテンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイトの相間の硬度差を効果的に減少させることができる。
【0057】
したがって、本発明は、残留オーステナイトに含まれたシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の平均合計含量([Si+Al]γ、重量%)に対するフェライトに含まれたシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の平均合計含量([Si+Al]F、重量%)の比を1.1以上に制限するため、軟質組織と硬質組織との相間の硬度差を効果的に減少させることができる。一方、フェライト中のシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の含量が過剰な場合、むしろフェライトが過度に硬質化して加工性が低下するため、目的とする引張強度と伸び率のバランス(TS×El)、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS2×HER1/2)及び曲げ加工率(R/t)のいずれも確保できなくなる。したがって、本発明は、残留オーステナイトに含まれたシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の平均合計含量([Si+Al]γ、重量%)に対するフェライトに含まれたシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の平均合計含量([Si+Al]F、重量%)の比を3.0以下に制限することができる。
【0058】
一方、残留オーステナイト中のテンパード残留オーステナイトは、ベイナイトの形成温度で熱処理されて平均サイズが増加したものであって、オーステナイトからマルテンサイトへの変態を抑制して、鋼板の加工性を向上させることができる。すなわち、鋼板の延性及び加工性を向上させるためには、残留オーステナイト中のテンパード残留オーステナイトの分率を増加させることが好ましい。
【0059】
したがって、本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、鋼板の残留オーステナイトの分率(V(γ)、体積%)に対する鋼板のテンパード残留オーステナイトの分率(T(γ)、体積%)の比を0.1以上に制限することができる。鋼板の残留オーステナイトの分率(V(γ)、体積%)に対する鋼板のテンパード残留オーステナイトの分率(T(γ)、体積%)の比が0.1未満の場合、曲げ加工率(R/t)が0.5~3.0を満たさなくなり、目的とする加工性が確保できないという問題点が存在する。
【0060】
残留オーステナイトが含まれた鋼板は、加工中、オーステナイトからマルテンサイトへの変態時に発生する変態誘起塑性により優れた延性及び曲げ加工性を有する。残留オーステナイトの分率が一定レベル未満の場合には、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であるか、又は曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることができる。一方、残留オーステナイトの分率が一定レベルを超えると、局部伸び率(Local Elongation)が低下する可能性がある。したがって、本発明は、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)だけでなく、曲げ加工率(R/t)に優れた鋼板を得るために残留オーステナイトの分率を10~40体積%の範囲に制限することができる。
【0061】
一方、焼戻しされていないマルテンサイト(フレッシュマルテンサイト)及びテンパードマルテンサイトはいずれも鋼板の強度を向上させる微細組織である。しかし、テンパードマルテンサイトと比較すると、フレッシュマルテンサイトには鋼板の延性及び穴拡げ性を大きく低下させる特性がある。これは、焼戻し熱処理によってテンパードマルテンサイトの微細組織が軟質化するためである。したがって、本発明は、強度と延性のバランス、強度と穴拡げ性のバランス及び曲げ加工性に優れた鋼板を提供するために、テンパードマルテンサイトを活用することが好ましい。テンパードマルテンサイトの分率が一定レベル未満では、22,000MPa%以上の引張強度と伸び率のバランス(TS×El)又は7×106(MPa2%1/2)以上の引張強度と穴拡げ率のバランス(TS2×HER1/2)を確保しにくく、テンパードマルテンサイトの分率が一定レベル超過では、延性及び加工性が低下して、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であるか、又は曲げ加工率(R/t)が3.0を超えるため、好ましくない。したがって、本発明は、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS2×HER1/2)及び曲げ加工率(R/t)に優れた鋼板を得るために、テンパードマルテンサイトの分率を30~70体積%の範囲に制限することができる。
【0062】
引張強度と伸び率のバランス(TS×El)、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS2×HER1/2)及び曲げ加工率(R/t)を向上させるためには、微細組織としてベイナイトが適切に含まれることが好ましい。ベイナイト分率が一定レベル以上の場合に限って、22,000MPa%以上の引張強度と伸び率のバランス(TS×El)、7×106(MPa2%1/2)以上の引張強度と穴拡げ率のバランス(TS2×HER1/2)及び0.5~3.0の曲げ加工率(R/t)を確保することができる。一方、ベイナイトの分率が過度な場合、テンパードマルテンサイト分率の減少が必須的に伴われるため、結局、本発明が目的とする引張強度と伸び率のバランス(TS×El)、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS2×HER1/2)及び曲げ加工率(R/t)が確保できなくなる。したがって、本発明は、ベイナイトの分率を10~45体積%の範囲に制限することができる。
【0063】
フェライトは延性向上に寄与する元素であるため、フェライトの分率が一定レベル以上の場合に限って、本発明が目的とする引張強度と伸び率のバランス(TS×El)を確保することができる。但し、フェライトの分率が過度な場合には、相間の硬度差が増加して穴拡げ率(HER)が低下する可能性があるため、本発明が目的とする引張強度と穴拡げ率のバランス(TS2×HER1/2)が確保できなくなる。したがって、本発明はフェライトの分率を3~20体積%の範囲に制限することができる。
【0064】
以下では、本発明の鋼板を製造する方法の一例について詳細に説明する。
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板の製造方法は、所定の成分を有する冷間圧延された鋼板を提供する段階と、上記冷間圧延された鋼板をAc1以上Ac3未満の温度範囲まで加熱(1次加熱)して、50秒以上保持(1次保持)する段階と、平均冷却速度1℃/s以上で、600~850℃の温度範囲(1次冷却停止温度)まで冷却(1次冷却)する段階と、平均冷却速度2℃/s以上で、300~500℃の温度範囲まで冷却(2次冷却)し、この温度範囲で5秒以上保持(2次保持)する段階と、平均冷却速度2℃/s以上で、100~300℃の温度範囲(2次冷却停止温度)まで冷却(3次冷却)する段階と、300~500℃の温度範囲まで加熱(2次加熱)し、この温度範囲で50秒以上保持(3次保持)する段階と、常温まで冷却(4次冷却)する段階と、を含むことができる。
【0065】
また、本発明の冷間圧延された鋼板は、鋼スラブを1000~1350℃に加熱する段階と、800~1000℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延する段階と、300~600℃の温度範囲で上記熱間圧延された鋼板を巻き取る段階と、上記巻き取られた鋼板を650~850℃の温度範囲で600~1700秒間熱延焼鈍熱処理する段階と、上記熱延焼鈍熱処理された鋼板を30~90%の圧下率で冷間圧延する段階と、によって提供されることができる。
【0066】
鋼スラブの準備及び加熱
所定の成分を有する鋼スラブを準備する。本発明の鋼スラブは、上述の鋼板の合金組成と対応する合金組成を有するため、鋼スラブの合金組成に対する説明は、上述の鋼板の合金組成に対する説明に代える。
【0067】
準備された鋼スラブを一定の温度範囲に加熱することができる。このときの鋼スラブの加熱温度は1000~1350℃の範囲であってもよい。これは、鋼スラブの加熱温度が1000℃未満の場合、目的とする仕上げ熱間圧延温度範囲以下の温度区間で熱間圧延されるおそれがあり、鋼スラブの加熱温度が1350℃を超える場合、鋼の融点に到達して溶けてしまうおそれがあるためである。
【0068】
熱間圧延及び巻取
加熱された鋼スラブは、熱間圧延されて熱延鋼板として提供されることができる。熱間圧延時の仕上げ熱間圧延温度は800~1000℃の範囲が好ましい。これは、仕上げ熱間圧延温度が800℃未満の場合、過度な圧延負荷が問題となる可能性があり、仕上げ熱間圧延温度が1000℃を超える場合、熱延鋼板の結晶粒が粗大に形成され、最終鋼板の物性低下を招く可能性があるためである。
【0069】
熱間圧延が完了した熱延鋼板は、10℃/s以上の平均冷却速度で冷却することができ、300~600℃の温度で巻き取ることができる。これは、巻取温度が300℃未満の場合、巻取が容易ではなく、巻取温度が600℃を超える場合、表面スケール(scale)が熱延鋼板の内部まで形成されて酸洗が困難になる恐れがあるためである。
【0070】
熱延焼鈍熱処理
巻取後の後続工程である酸洗及び冷間圧延を容易に行うためには、熱延焼鈍熱処理工程を施すことが好ましい。熱延焼鈍熱処理は650~850℃の温度区間で600~1700秒間行うことができる。熱延焼鈍熱処理温度が650℃未満であるか、又は熱延焼鈍熱処理時間が600秒未満の場合、熱延焼鈍熱処理された鋼板の強度が高く、後続する冷間圧延が容易でない可能性がある。一方、熱延焼鈍熱処理温度が850℃を超えるか、又は熱延焼鈍熱処理時間が1700秒を超える場合、鋼板の内部に深く形成されたスケール(scale)に起因して酸洗が容易でない可能性がある。
【0071】
酸洗及び冷間圧延
熱延焼鈍熱処理後に鋼板の表面に生成されたスケールを除去するために酸洗を施し、冷間圧延を行うことができる。本発明において、酸洗及び冷間圧延の条件を特に制限するものではないが、冷間圧延は累積圧下率30~90%で行うことが好ましい。冷間圧延の累積圧下率が90%を超える場合、鋼板の高い強度のため冷間圧延を短時間で行い難いおそれがある。
【0072】
冷間圧延された鋼板は、焼鈍熱処理工程を経て未めっきの冷延鋼板として作製されるか、耐食性を付与するためにめっき工程を経てめっき鋼板として作製することができる。めっきは、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっきなどのめっき方法を適用することができ、その方法及び種類を特に制限しない。
【0073】
焼鈍熱処理
本発明は、鋼板の強度及び加工性を同時に確保するために、焼鈍熱処理工程を行う。
【0074】
冷間圧延された鋼板をAc1以上Ac3未満(二相域)の温度範囲に加熱(1次加熱)し、当該温度範囲で50秒以上保持(1次保持)する。1次加熱又は1次保持温度がAc3以上(単相域)である場合、目的とするフェライト組織を実現することができないため、目的とするレベルの[Si+Al]F/[Si+Al]γ及び引張強度と穴拡げ率のバランス(TS2×HER1/2)が実現できなくなる。また、1次加熱又は1次保持温度がAc1未満の温度範囲である場合、十分な加熱が行われないため、後続する熱処理によっても、本発明が目的とする微細組織を実現できないおそれがある。1次加熱の平均昇温速度は5℃/s以上であってもよい。
【0075】
1次保持時間が50秒未満の場合には、組織を十分に均一化させることができず、鋼板の物性が低下する可能性がある。1次保持時間の上限は特に限定されないが、結晶粒の粗大化による靭性の減少を防止するために、1次加熱時間は1200秒以下に制限することが好ましい。
【0076】
1次保持後、1℃/s以上の平均冷却速度で600~850℃の温度範囲(1次冷却停止温度)まで冷却(1次冷却)することが好ましい。1次冷却の平均冷却速度の上限は特に規定する必要はないが、100℃/s以下に制限することが好ましい。1次冷却停止温度が600℃未満の場合には、フェライトが過度に形成され、残留オーステナイトが不足して、[Si+Al]F/[Si+Al]γ及び引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が低下する可能性がある。また、1次冷却停止温度の上限は、上記1次保持温度より30℃以下であることが好ましいため、1次冷却停止温度の上限は850℃に制限することができる。
【0077】
1次冷却後、2℃/s以上の平均冷却速度で、300~500℃の温度範囲まで冷却(2次冷却)し、当該温度範囲で5秒以上保持(2次保持)することが好ましい。2次冷却の平均冷却速度が2℃/s未満の場合には、フェライトが過度に形成され、残留オーステナイトが不足して[Si+Al]F/[Si+Al]γ及び引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が低下する可能性がある。2次冷却の平均冷却速度の上限は特に規定する必要はないが、100℃/s以下に制限することが好ましい。一方、2次保持温度が500℃を超える場合、残留オーステナイトが不足して[Si+Al]F/[Si+Al]γ、T(γ)/V(γ)、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)及び曲げ加工率(R/t)が低下する可能性がある。また、2次保持温度が300℃未満の場合、低い熱処理温度によりT(γ)/V(γ)及び曲げ加工率(R/t)が低下する可能性がある。2次保持時間が5秒未満の場合、熱処理時間が不足してT(γ)/V(γ)及び曲げ加工率(R/t)が低下する可能性がある。これに対し、2次保持時間の上限は特に規定する必要はないが、600秒以下とすることが好ましい。
【0078】
一方、1次冷却の平均冷却速度(Vc1)は、2次冷却の平均冷却速度(Vc2)より小さいことが好ましい(Vc1<Vc2)。
【0079】
2次保持後、2℃/s以上の平均冷却速度で100~300℃の温度範囲(2次冷却停止温度)まで冷却(3次冷却)することが好ましい。3次冷却の平均冷却速度が2℃/s未満の場合、遅い冷却により鋼板の[Si+Al]F/[Si+Al]γ、T(γ)/V(γ)及び曲げ加工率(R/t)が低下する可能性がある。3次冷却の平均冷却速度の上限は特に規定する必要はないが、100℃/s以下に制限することが好ましい。一方、2次冷却停止温度が300℃を超える場合、ベイナイトが過度に形成され、テンパードマルテンサイトが不足してT(γ)/V(γ)及び引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が低下する可能性がある。これに対し、2次冷却停止温度が100℃未満の場合には、テンパードマルテンサイトが過度に形成され、残留オーステナイトが不足して[Si+Al]F/[Si+Al]γ、T(γ)/V(γ)、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)及び曲げ加工率(R/t)が低下する可能性がある。
【0080】
3次冷却後、300~500℃の温度範囲まで加熱(2次加熱)し、当該温度範囲で10秒以上保持(3次保持)することが好ましい。3次保持温度が550℃を超える場合、残留オーステナイトが不足して[Si+Al]F/[Si+Al]γ、T(γ)/V(γ)、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)及び曲げ加工率(R/t)が低下する可能性がある。これに対し、3次保持温度が350℃未満の場合、保持温度が低く残留オーステナイトが不足し、それにより[Si+Al]F/[Si+Al]γ、T(γ)/V(γ)、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)及び曲げ加工率(R/t)が低下する可能性がある。3次保持時間が50秒未満の場合、テンパードマルテンサイトが過度に形成され、残留オーステナイトが不足して[Si+Al]F/[Si+Al]γ、T(γ)/V(γ)、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)及び曲げ加工率(R/t)が低下する可能性がある。上記3次保持時間の上限は特に限定されないが、好ましい3次保持時間は1800秒以下であってもよい。
【0081】
上記3次保持後、常温まで1℃/s以上の平均冷却速度で冷却(4次冷却)することが好ましい。
【0082】
上述の製造方法により製造された加工性に優れた高強度鋼板は、微細組織として、テンパードマルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト及びフェライトを含むことができ、好ましい一例として、体積分率で、30~70%のテンパードマルテンサイト、10~45%のベイナイト、10~40%の残留オーステナイト、3~20%のフェライト及び不可避組織を含むことができる。
【0083】
なお、上述の製造方法により製造された加工性に優れた高強度鋼板は、下記の[関係式1]のように、残留オーステナイトに含まれたシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の平均合計含量([Si+Al]]γ、重量%)に対するフェライトに含まれたシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の平均合計含量([Si+Al]F、重量%)の比が1.1~3.0の範囲を満たすことができる。また、下記の[関係式2]のように、鋼板の残留オーステナイトの分率(V(γ)、体積%)に対する鋼板のテンパード残留オーステナイトの分率(T(γ)、体積%)の比が0.1以上であってもよい。
【0084】
[関係式1]
1.1≦[Si+Al]F/[Si+Al]γ≦3.0
【0085】
[関係式2]
T(γ)/V(γ)≧0.1
【0086】
上述の製造方法により製造された加工性に優れた高強度鋼板は、下記の[関係式3]で表される引張強度と伸び率のバランス(BT・E)が22,000(MPa%)以上であり、下記の[関係式4]で表される引張強度と穴拡げ率のバランス(BT・H)が7×106(MPa2%1/2)以上であり、下記の[関係式5]で表される曲げ加工率(BR)が0.5~3.0の範囲を満たすことができる。
【0087】
[関係式3]
BT・E=[引張強度(TS,MPa)]×[伸び率(EL,%)]
【0088】
[関係式4]
BT・H=[引張強度(TS,MPa)]2×[穴拡げ率(HER,%)]1/2
【0089】
[関係式5]
BR=R/t
上記関係式5において、Rは90°曲げ試験後にクラックが発生しない最小曲げ半径(mm)を意味し、tは鋼板の厚さ(mm)を意味する。
【実施例】
【0090】
以下では、具体的な実施例を通じて本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板及びその製造方法についてより詳細に説明する。下記の実施例は、本発明の理解を助けるためのものであり、本発明の権利範囲を特定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定される。
【0091】
(実施例)
下記表1に記載の合金組成(残りはFeと不可避不純物である)を有する厚さ100mmの鋼スラブを製造して、1200℃で加熱した後、900℃で仕上げ熱間圧延を行った。その後、30℃/sの平均冷却速度で冷却し、表2及び表3の巻取温度で巻き取り、厚さ3mmの熱延鋼板を製造した。上記熱延鋼板を表2及び表3の条件で熱延焼鈍熱処理した。その後、酸洗して表面スケールを除去してから、1.5mmの厚さまで冷間圧延を行った。その後、表2~表7の焼鈍熱処理条件で熱処理を行い、鋼板を製造した。
【0092】
このように製造された鋼板の微細組織を観察し、その結果を表8及び表9に示した。微細組織のうち、フェライト(F)、ベイナイト(B)、テンパードマルテンサイト(TM)及びパーライト(P)は、研磨された試片の断面をナイタルエッチングした後、SEMを介して観察した。このうち、区別し難いベイナイトとテンパードマルテンサイトは、ディラテーション評価後に膨張曲線を用いて分率を計算した。一方、フレッシュマルテンサイト(FM)と残留オーステナイト(残留γ)も区別が容易ではないため、上記SEMで観察されたマルテンサイトと残留オーステナイトの分率からX線回折法で計算された残留オーステナイトの分率を差し引いた値をフレッシュマルテンサイト分率とした。
【0093】
一方、鋼板の[Si+Al]F/[Si+Al]γ、T(γ)/V(γ)、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS2×HER1/2)、曲げ加工率(R/t)を観察し、その結果を表10及び表11に示した。
【0094】
残留オーステナイトに含まれたシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の平均合計含量([Si+Al]γ、重量%)及びフェライトに含まれたシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の平均合計含量([Si+Al]F、重量%)は、EPMA(Electron Probe MicroAnalyser)を用いて測定した。また、鋼板の残留オーステナイトの分率(V(γ))は、EPMAの位相マップ(Phase Map)を用いて残留オーステナイト内で測定された面積によって決定した。
【0095】
引張強度(TS)及び伸び率(El)は引張試験によって評価され、圧延板材の圧延方向に対して90°方向を基準にJIS5号規格に基づいて採取された試片で評価し、引張強度(TS)及び伸び率(El)を測定した。曲げ加工率(R/t)はV-曲げ試験で評価され、圧延板材の圧延方向に対して90°方向を基準に試片を採取して、90°曲げ試験後にクラックが発生しない最小曲げ半径Rを板材の厚さtで除した値によって決定して算出した。穴拡げ率(HER)は穴拡げ試験を通じて評価され、10mmΦのパンチ穴(ダイ内径10.3mm、クリアランス12.5%)を形成した後、頂角60°の円錐形パンチをパンチ穴のバリ(burr)が外側となる方向にパンチ穴に挿入し、20mm/minの移動速度でパンチ穴の周辺部を圧迫拡張した後、下記の[関係式6]を用いて算出した。
【0096】
[関係式6]
穴拡げ率(HER,%)={(D-D0)/D0}×100
上記関係式6において、Dは割れが厚さ方向に沿って鋼板を貫通したときの孔径(mm)を意味し、D0は初期孔径(mm)を意味する。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
上記表1~表11に示すように、本発明で提示する条件を満たす試片の場合、[Si+Al]F/[Si+Al]γの値が1.1~3.0の範囲を満たし、T(γ)/V(γ)が0.1以上で、引張強度及び伸び率のバランス(TS×El)が22,000MPa%以上であり、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS2×HER1/2)が7×106(MPa2%1/2)以上であり、曲げ加工率(R/t)が0.5~3.0の範囲を満たし、優れた強度及び加工性を同時に備えることが分かる。
【0109】
試片2~5は、本発明の合金組成範囲は重複しているが、熱延焼鈍温度及び時間が本発明の範囲を外れるため、酸洗不良が発生したり、冷間圧延時に破断が発生したりすることが確認できる。
【0110】
試片6は、冷間圧延後の焼鈍熱処理過程で1次加熱又は保持温度が、本発明が制限する範囲を超えるため、フェライトの形成量が不足していた。その結果、試片6は[Si+Al]F/[Si+Al]γの値が1.1未満であり、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS2×HER1/2)が7×106(MPa2%1/2)未満であることが確認できる。
【0111】
試片8は、1次冷却停止温度が低くてフェライトが過度に形成され、残留オーステナイトが少なく形成された。その結果、試片8は、[Si+Al]F/[Si+Al]γの値が3.0を超え、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であることが確認できる。
【0112】
試片9は、2次冷却の平均冷却速度が低くてフェライトが過度に形成され、残留オーステナイトが少なく形成された。その結果、試片9は、[Si+Al]F/[Si+Al]γの値が3.0を超え、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であることが確認できる。
【0113】
試片12は、2次保持温度が高くて残留オーステナイトが少なく形成された。その結果、試片12は、[Si+Al]F/[Si+Al]γの値が3.0を超え、T(γ)/V(γ)が0.5未満であり、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0114】
試片13は、2次保持温度が低くてT(γ)/V(γ)が0.1未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超え、試片14は、2次保持時間が短くてT(γ)/V(γ)が0.1未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0115】
試片15は、3次冷却の平均冷却速度が低くて[Si+Al]F/[Si+Al]γの値が3.0を超え、T(γ)/V(γ)が0.5未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0116】
試片16は、2次冷却停止温度が高くてベイナイトが過度に形成され、テンパードマルテンサイトが少なく形成された。その結果、試片16は、T(γ)/V(γ)が0.1未満であり、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であることが確認できる。
【0117】
試片17は、2次冷却停止温度が低くてテンパードマルテンサイトが過度に形成され、残留オーステナイトが少なく形成された。その結果、試片17は、[Si+Al]F/[Si+Al]γの値が3.0を超え、T(γ)/V(γ)が0.1未満であり、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0118】
試片18は、3次保持温度が高くて残留オーステナイトが少なく形成された。その結果、試片18は、[Si+Al]F/[Si+Al]γの値が3.0を超え、T(γ)/V(γ)が0.1未満であり、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0119】
試片19は、3次保持温度が低くて[Si+Al]F/[Si+Al]γの値が3.0を超え、T(γ)/V(γ)が0.1未満であり、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0120】
試片20は、3次保持時間が短くてテンパードマルテンサイトが過度に形成され、残留オーステナイトが少なく形成された。その結果、試片20は、[Si+Al]F/[Si+Al]γの値が3.0を超え、T(γ)/V(γ)が0.1未満であり、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0121】
試片43~51は、本発明で提示する製造条件を満たしているものの、合金組成範囲を外れた場合である。これらの場合には、本発明の[Si+Al]F/[Si+Al]γ、T(γ)/V(γ)、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS2×HER1/2)が7×106(MPa2%1/2)及び曲げ加工率(R/t)条件を同時に満たしていないことが確認できる。一方、試片45は、アルミニウム(Al)及びシリコン(Si)の合計含量が1.0%未満の場合であって、[Si+Al]F/[Si+Al]γ、引張強度と伸び率のバランス(TS×El)及び曲げ加工率(R/t)の条件を満たさないことが確認できる。
【0122】
以上のように、実施例を通じて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。したがって、以下に記載された特許請求の範囲の技術的思想及び範囲は実施例に限定されない。