IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 宝山鋼鉄股▲ふん▼有限公司の特許一覧

特許7442675極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼の製錬方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/10 20060101AFI20240226BHJP
   B21B 1/16 20060101ALI20240226BHJP
   B22D 23/10 20060101ALI20240226BHJP
   C21C 5/52 20060101ALI20240226BHJP
   C21C 7/06 20060101ALI20240226BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20240226BHJP
   C22B 9/18 20060101ALI20240226BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240226BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
C22B9/10 101
B21B1/16 B
B22D23/10 521
B22D23/10 531
C21C5/52
C21C7/06
C21C7/10 Z
C22B9/18 F
C22C38/00 301Y
C22C38/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022562387
(86)(22)【出願日】2021-04-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-13
(86)【国際出願番号】 CN2021091085
(87)【国際公開番号】W WO2021223660
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】202010373412.5
(32)【優先日】2020-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512171021
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BAOSHAN IRON & STEEL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No.885,Fujin Road,Baoshan District Shanghai,201900,P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】池本 理絵
(72)【発明者】
【氏名】シュー,インティエ
(72)【発明者】
【氏名】ホァン,ヅォンヅゥー
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,シャンジァン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ゲンヂィエ
(72)【発明者】
【氏名】チィー,イェンファン
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/007915(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102492894(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110230008(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B
B22D
C21C
C21D
C22B
C22C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼錬方法であって、
1)真空誘導炉で、アルゴンの保護下で原料を液体溶鋼に溶解し、前記原料は、炭素を含まない純鉄と、炭素含有量が3.5質量%~4.5質量%の低リン銑鉄とを使用し、次に、真空化して、300Pa未満の条件下で真空製錬を行って、15~20分間、脱ガスし、さらに脱酸素剤として高純度ケイ素鉄を用いて脱酸素を行って、前記溶鋼の成分を調整し、次に、前記溶鋼の前記成分を調整した後、真空条件下で円形鋼塊を鋳造し、ここで、各鋼塊の質量は1.5~2.5トン、直径は0.35~0.4m、及び長さは2~3mである、工程と、
2)前記円形鋼塊の表面を清浄し、エレクトロスラグ製錬用の電極棒を製造する工程と、
3)前記電極棒を原料として、エレクトロスラグ炉で再溶解及び製錬し、ここで、エレクトロスラグの保護スラグは、質量百分率で、CaF:45~55%、Al:15~25%、SiO:20~25%、NaO:2~4%、及びKO:1~2%を含み、
前記エレクトロスラグ炉内で前記電極棒を直径0.4~0.5mの円筒形のエレクトロスラグ鋼塊に製錬する、工程と、
4)前記エレクトロスラグ鋼塊をワイヤー圧延用鍛造ビレットに鍛造し、ここで、前記鍛造ビレットは、一辺の長さが0.140~0.160mの正方形の横断面を有する正方形ビレットであり、前記鍛造ビレットの長さは6mより大きい、工程と、
5)前記鍛造ビレットをワイヤー圧延プロセスにより直径4.5~5.5mmの鋼線材に圧延し、ここで、前記鋼線材は、重量百分率で、[C]:0.92~1.1%、[Si]:0.3~0.4%、[Mn]:0.5~0.8%、[Al]:0.0008%未満、[N]:0.005%未満、[S]:0.01%未満、[P]:0.015%未満の化学元素を含む、工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記真空誘導炉の容量が2~5トンである、請求項1に記載の極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼錬方法。
【請求項3】
前記工程2)において、前記円形鋼塊の表面を清浄した後、収縮した端部の5~10cmを切り取る、請求項1に記載の極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼錬方法。
【請求項4】
前記工程1)の前記真空誘導炉で製錬する工程において、前記製錬後に、前記溶鋼が質量百分率で、[C]:0.94~1.1%、[Si]:0.35~0.45%、[Mn]:0.6~0.8%、[Al]:0.001%未満、[N]:0.0045%未満、[S]:0.01%未満、[P]:0.015%未満の元素成分、並びに残部の鉄及び不可避不純物を含み、前記溶鋼の温度は、1460~1500℃で制御され、前記製錬後、保護雰囲気としてアルゴンを吹き込んで、前記真空誘導炉内の圧力を10000~20000Paに調整し、前記保護雰囲気下で鋳造を行う、請求項1に記載の極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼錬方法。
【請求項5】
前記工程1)において、前記鋼塊を鋳造するための鋳造モールドが鋳鉄製モールドである、請求項1又は4に記載の極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼錬方法。
【請求項6】
前記工程1)において、前記原料が完全に溶解した後、スラグ生成、脱リン及び脱硫のために前記原料1トンあたり2~5kgの石灰を添加する、請求項1に記載の極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼錬方法。
【請求項7】
前記工程3)が保護雰囲気下で行われ、前記エレクトロスラグ炉で再溶解及び製錬する工程は、前記エレクトロスラグ炉での一定の溶解速度での再溶解及び製錬である、請求項1に記載の極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼の技術分野に属し、極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼の製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボランダムソーイングワイヤーは、主にシリコンチップや宝石用原石などを切断するために使用される。それらの中で、シリコンチップは、太陽電池産業及びエレクトロニクス産業のための主原料である。切断効率を向上させるために、カーボランダムソーイングワイヤーは、通常、人間の毛髪よりも細い0.04~0.055mmの直径を有する極細の仕様を必要とする。極細の仕様は、鋼中の介在物の制御に関して厳しい要件を課している。鋼に含有される全ての介在物の幅は、10μm未満とすべきであり、脆いアルミニウムの介在物を含んではならない。
【0003】
従来技術では、一部の日本企業は、転炉~精錬炉~連続鋳造~一次圧延~ワイヤー圧延のプロセスで製造を行っている。この製錬工程では、主に、耐火材料のアルミニウム含有量を厳密に制御し、介在物の変性処理を行って介在物を製錬し、線材が変形能を有するように、介在物を制御している。それでも、このプロセスによって製造された鋼線材には、カーボランダムソーイングワイヤーの伸線プロセス中にワイヤー破断が起こる現象が依然としてあり、ワイヤー破断の主な原因は、大きな粒子状のシリカ-アルミナの介在物である。ワイヤー破断は、伸線製造に大きな影響を与え、ワイヤーを接続する時間は、ワイヤー破断後2時間を超える可能性がある。
【0004】
転炉プロセス及び電気炉プロセスを使用してカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼を製造する能力を持たない企業は、脆いアルミナ介在物を完全に存在しない状態にすること及び高含有量のマグネシア介在物を制御することができないという主な問題に直面する。このような介在物を、耐火材料の改良によって制御した場合、プロセス全体の製造コストは大幅に増加する。
【0005】
しかし、カーボランダムソーイングワイヤーの需要は小さく、その利益はプロセス全体における耐火材料のコストの増加を相殺することはできない。したがって、転炉プロセス又は電気炉プロセスによるカーボランダムソーイングワイヤーの製造は、経済的利益を得ることができない。カーボランダムソーイングワイヤーが十分な破断力を供給し、シリコンチップを効率的に切断できることを確実にするために、鋼中の炭素含有量に対する要件は高い。一般に、質量百分率での炭素含有量は、少なくとも0.92%以上、好ましくは1%を上回ることが必要であり、加えて、窒素含有量は50ppm未満であることが要求されるが、このような成分量は、他の鋼種では使用することができない。転炉プロセス又は電気炉プロセスによるカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼の大規模生産プロセスでは、介在物の制御が基準に達しないと、バッチ全体の鋼は廃棄されるリスクに直面することになり、同時に、連続鋳造プロセスで鋼を連続的に生産することはできない。市場の需要の観点からは、その強い耐久性のために、使用中のカーボランダムソーイングワイヤーの消費量は大きくなく、例えば、中国における市場需要は2,000~10,000トンに維持され、カーボランダムソーイングワイヤーの製造業者は、通常、鉄鋼製造業者から毎回わずか30トンを注文するにすぎない。この場合、電気炉プロセス又は転炉プロセスを使った100トン以上の生産は、その生産が計画できないという問題を引き起こすこととなる。
【発明の概要】
【0006】
従来技術における上述の課題を克服するために、本発明は、要件の高い極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼を製錬するための小規模プロセスを提供する。本プロセスは、介在物を制御して、カーボランダムソーイングワイヤーの伸線プロセス中にワイヤー破断を起こさないような極細のカーボランダムソーイングワイヤーを製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
解決すべき技術的課題は、以下の技術的解決手段によって実現できる。
【0008】
極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼の製錬方法を提供するものであって、その製錬方法は、真空誘導炉での製錬~エレクトロスラグ~鍛造~ワイヤー圧延に要約することができ、その方法に含まれる主な工程は以下の通りである。
【0009】
1)容量2~5トンの真空誘導炉で、アルゴンの保護下で原料を2~5トンの液体溶鋼に溶解する。原料は、炭素を含まない純鉄と、炭素含有量が3.5質量%~4.5質量%及びリン含有量が0.06質量%未満の低リン銑鉄とを使用する。その後、真空化して、300Pa以下の高真空条件下で15~20分間、真空製錬及び脱ガスを行い、脱酸素剤として高純度ケイ素鉄を用いて脱酸素を行って溶鋼の成分を調整する。ここで、アルミニウム含有脱酸素剤は脱酸素プロセス中では厳禁である。溶鋼の成分を調整した後、真空中で1~2個の円形鋼塊を鋳造するが、各鋼塊の質量は1.5~2.5トン、直径は0.35~0.4m、及び長さは2~3mである。
【0010】
本方法では、真空誘導炉は、本発明が対象とする鋼種についての脱窒素要件を満たすために、小規模製錬が可能であり、真空脱ガス機能を備えているという特性から、一次製錬炉として選択される。さらに、真空誘導炉は、真空保護鋳造も実現でき、室内雰囲気下での鋳造による溶鋼の二次酸化や窒素吸収を回避できる。鋳造鋼塊の重量が1.5~2.5トンであることを考えると、1~2個の鋼塊を鋳造する必要がある場合は、2~5トン規模の真空誘導炉を選択して生産する必要があるが、大規模な誘導炉を選択した場合、3つ以上の鋼塊を鋳造する必要があるため、真空鋳造の実現は困難になる。純鉄と銑鉄を原料として選択するのは、主に鋼種の炭素含有量の構成によるものである。銑鉄は、約4%の炭素(質量)を含有しており、最終的な溶鋼の炭素含有量が約1%(質量)であるという要件を満たすことができ、さらに、純鉄と銑鉄中の有害な残留元素の含有量が低いため、鋼中の有害な残留元素が基準を超えないことを保証できる。高真空条件下で15~20分間、脱ガスすることは、主に脱窒素が鋼種についての要件を満たすことを確実にするためであり、同時に脱水素化を起こし、水素による亀裂が発生しないようにすることもできる。溶鋼の成分は真空製錬プロセス中に調整でき、製品の最終組成要件を満たすように高純度マンガンと高純度ケイ素鉄を添加し、ここで、高純度ケイ素鉄とは、シリコン含有量が75~85質量%及びアルミニウム含有量が0.005質量%未満の鉄材料を指す。脱酸素剤として高純度ケイ素鉄を使用する主な理由は、通常のケイ素鉄のアルミニウム含有量が高く、これにより最終的なアルミニウム含有量が基準を超える可能性があるためである。極細のカーボランダムワイヤー用の鋼に含有されるアルミナ含有量の高い介在物は脆いもので、それはカーボランダムソーイングワイヤーの伸線に大きなダメージを与えるため、アルミニウム含有脱酸素剤の添加は厳禁である。最終的な鋼塊サイズの選択は、主に後続のプロセスに含まれるエレクトロスラグの電極棒のサイズの要件に基づいている。
【0011】
2)円形鋼塊の表面を清浄し、収縮した端部の5~10cmを切り取ってエレクトロスラグ製錬用の電極棒を製造する。本願でいう「収縮した端部」とは、最終的に凝固する鋼塊の端を指す。
【0012】
3)エレクトロスラグ炉で電極棒を原料として再溶解及び製錬する。ここで、エレクトロスラグの保護スラグは、質量百分率で、CaF2:45~55%、Al23:15~25%、SiO2:20~25%、Na2O:2~4%、及びK2O:1~2%を含み、エレクトロスラグ炉内で電極棒を直径0.4~0.5mの円筒形のエレクトロスラグ鋼塊に製錬する。
【0013】
エレクトロスラグ炉での再溶解及び製錬中、晶析装置内の電極棒、スラグ、及び溶鋼は、電圧印加回路に接続されている。低電圧(40~60Vの電圧)及び高電流(10~20KAの電流)の条件下で、エレクトロスラグの保護スラグを使用して局所加熱を発生させ、その結果、電極棒上部のエレクトロスラグの保護スラグと接触している部分が徐々に溶けて液滴になり、電極棒から分離された液滴の大部分が、エレクトロスラグの保護スラグのスラグ層を通過して晶析装置の溶鋼浴に落下すると、溶鋼浴の晶析装置と接触している部分が再び凝固する。エレクトロスラグ炉での再溶解及び製錬中、溶鋼は、エレクトロスラグの保護スラグによって濾過され、大きな介在物を完全に除去でき、残りの介在物は全て13μm未満であり、一方、エレクトロスラグ炉で再溶融及び製錬によって得られたエレクトロスラグ鋼塊の構造は、均一で密度が高い。エレクトロスラグ炉での再溶解及び製錬の後、鋼に残存する介在物は、エレクトロスラグ炉内のエレクトロスラグの保護スラグの組成に近くなっている。したがって、本発明の技術的解決手段では、エレクトロスラグの保護スラグの組成を、CaF2:45~55%、Al23:15~25%、SiO2:20~25%、Na2O:2~4%、及びK2O:1~2%(エレクトロスラグの保護スラグの全質量を100%として)に制御して、溶鋼中の残存小粒子介在物の組成もこの範囲に入るように制御する。エレクトロスラグの保護スラグ中では、Ca2の一部はCaOに変換される。この範囲の介在物は、融点が低く可塑化能力が強い特性を有し、その後の鍛造及び圧延プロセス中に、鍛造方向又は圧延方向に沿って鋼塊を十分に変形させることができ、変形後の介在物の幅は全て7μm未満である。さらに、介在物と鋼との接触面は比較的滑らかであり、伸線プロセス中の鋼への損傷が小さく、伸線中にワイヤー破断を引き起こさず、カーボランダムワイヤーがシリコンチップの切断プロセスで破断することもない。エレクトロスラグ鋼塊のサイズの選択は、主にエレクトロスラグ晶析装置の設計とその後の鍛造の利便性に基づいている。
【0014】
4)エレクトロスラグ鋼塊をワイヤー圧延用鍛造ビレットに鍛造する。ここで、鍛造ビレットは、一辺の長さが0.140~0.160mの正方形の横断面を有する正方形ビレットであり、鍛造ビレットの長さは6mより大きく14m未満である。
【0015】
5)鍛造ビレットをワイヤー圧延プロセスにより、直径規格が4.5~5.5mmの鋼線材に圧延する。ここで、鋼線材は、質量百分率で、[C]:0.92~1.1%、[Si]:0.3~0.4%、[Mn]:0.5~0.8%、[Al]:0.0008%未満、[N]:0.005%未満、[S]:0.01%未満、[P]:0.015%未満の成分、並びに残部の鉄及び不可避不純物を含む。
【0016】
本発明により製造された鋼線材は、最終的に直径0.04~0.055mmの極細の仕様のカーボランダムソーイングワイヤーに伸線することができ、伸線プロセスでワイヤー破断が起こらず、シリコンチップや宝石用原石などの高効率切断に適している。
【0017】
本発明の技術的解決手段のさらなる改善として、工程1)において、真空誘導炉での製錬の終了時に、溶鋼は、質量百分率で、[C]:0.94~1.1%、[Si]:0.35~0.45%、[Mn]:0.6~0.8%、[Al]:0.001%未満、[N]:0.0045%未満、[S]:0.01%未満、[P]:0.015%未満の元素成分、並びに残部の鉄及び不可避不純物を含むことがさらに必要である。具体的には、エレクトロスラグプロセス中にシリコンがさらに減少することを考慮すると、真空誘導炉での製錬後のシリコン含有量は、より高くなるはずであり、さらに、アルミニウムは、エレクトロスラグプロセス中にさらに減少するので、この段階では、必要であっても、[Al]<0.0008%は達成が難しいと思われ、したがって、[Al]<0.001%に設定される。
【0018】
真空誘導炉での製錬終了時の溶鋼の温度は、1460~1500℃で制御されるが、真空誘導炉で製錬後、保護雰囲気としてアルゴンを適切に吹き込み、真空誘導炉内の圧力を10000Pa~20000Paに調整し、そこで保護雰囲気下で鋳造を行うようにする。保護雰囲気は、例えばアルゴンであるが、これに限定されず、鋳造モールドは鋳鉄製モールドを採用する。
【0019】
真空誘導炉での製錬終了時の、溶鋼中の炭素、シリコン及びアルミニウムの含有量は、エレクトロスラグ炉で再溶解及び製錬した後の鋼中の含有量よりもわずかに高くなるが、これは、主に、エレクトロスラグ炉での再溶解及び製錬中の溶鋼中の炭素、シリコン及びアルミニウムの一定の減少によるものである。真空誘導炉での製錬終了時の溶鋼の温度は、1460~1500℃に制御されており、これは、主に、鋳造の過熱度が20~60℃であり、エレクトロスラグ製錬が可能な電極棒を鋳造できることを考慮している。実際の生産では、鋼塊を1つだけ鋳造する場合、終点温度を下限近く、すなわち1460℃近くに制御し、2つの鋼塊を鋳造する場合、終点温度を上限近く、すなわち1500℃近くに制御する。さもなければ、2番目の鋼塊の鋳造が完了しない可能性がある。真空保護鋳造は、鋳造プロセス中の窒素の吸収及び二次酸化を防ぐためである。
【0020】
本発明の技術的解決手段のさらなる改善として、工程1)において、鉄原料(鉄原料は純鉄と低リン銑鉄を含む)が完全に溶解した後、スラグ生成、脱リン及び脱硫のために、鉄原料1トンあたり2~5kgの石灰を添加する。真空誘導炉での製錬中、スラグ用材料を過剰に添加することは望ましくない(本発明の技術的解決手段では、スラグ用材料は石灰である)。さもなければ、スラグ用材料の溶融が困難になり、脱ガスに影響するなどの問題が発生する。ただし、原材料は必然的に硫黄とリンを含有しているため、脱硫と脱リンを十分に行うために、少量の石灰を添加して製品の硫黄とリンの含有量の要件を満たすことはできる。
【0021】
本発明の技術的解決手段のさらなる改善として、工程3)において、限定されないがアルゴンを含む保護雰囲気下でエレクトロスラグプロセスを実行する必要があり、エレクトロスラグ炉で再溶解及び製錬する工程は、一定の溶解速度での再溶解及び製錬である。
【0022】
保護雰囲気下のエレクトロスラグ炉で再溶解及び製錬する工程は、主に酸化を防ぐためである。二次酸化が重大な問題となる場合、それは酸化により溶鋼中のシリコンと炭素の大幅な減少につながり、同時に、溶鋼の二次酸化により、より多くのシリカ介在物が形成されるが、それは溶鋼中の介在物の制御には好ましくない。
【0023】
本発明は、カーボランダムワイヤーのための鋼線材を製造するための、全く新しいプロセス経路を開発するものであり、すなわち、真空誘導炉での製錬~エレクトロスラグ~鍛造~ワイヤー圧延という工程によるものである。このようなプロセス経路の採用は、主にカーボランダムワイヤー用の鋼の需要が低く、要件が高いという特性に基づいているが、これによりカーボランダムワイヤー用の鋼の小規模生産が容易になり、各バッチで注文数量よりもはるかに多くの重量の鋼を生産することができ、大規模な転炉プロセス又は電気炉プロセスを採用することで活用できない過剰な量の余分な鋼が出るという問題を解決することができる。このプロセスでは、エレクトロスラグプロセスによって大きな微粒子の介在物及び脆い介在物を完全に除去し、介在物の可塑化の要求範囲内に介在物の組成を制御できるため、鋼中の全ての介在物を汚染除去しカーボランダムワイヤーの伸線中のワイヤー破断を防止することができる。このプロセスでは、生産は夜間にも行うことができ、低需要期には送電網容量をフルに活用することができる。
【発明の効果】
【0024】
上記の技術的解決手段が提供するプロセスには、極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼を、小規模で柔軟かつ安定的に生産することができ、得られた最終鋼線材中の介在物の幅は全て7μm未満であり、カーボランダムワイヤーの各伸線プロセス中の鋼線材に対して、介在物に起因するワイヤーの破断が発生することはない、という有益な効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の高品質な鋼を製造するため、新しい製鋼プロセス経路の設計を通じ、極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼の製錬方法であって、カーボランダムソーイングワイヤー用の鋼の製造を柔軟かつ安定的に行うことができ、その後に続くカーボランダムワイヤー伸線プロセスにおいて、介在物の制御不良によって起こるワイヤー破断の問題を根本的に解決する方法を提供する。
【0026】
本方法には、次の主な工程を含む。
1)炭素を含まない純鉄と、3.5%~4.5%の炭素及び0.06%未満のリンを含有する低リン銑鉄とを原料として使用し、真空誘導炉で極細のカーボランダムソーイングワイヤー用の鋼の溶鋼マスターバッチを製錬し、続いて、鋳造により円形鋼塊を製造する。
【0027】
2)円形鋼塊から、エレクトロスラグ製錬用の電極棒を製造する。
【0028】
3)電極棒を原料として、エレクトロスラグ炉で再溶解及び製錬してエレクトロスラグ鋼塊を製造し、ここで、エレクトロスラグの保護スラグは、質量百分率で、CaF2:45~55%、Al23:15~25%、SiO2:20~25%、Na2O:2~4%、K2O:1~2%の成分を含む。
【0029】
4)鋳造する。
【0030】
5)ワイヤー圧延プロセスにより、直径4.5~5.5mmの鋼線材に圧延し、ここで、鋼線材は、質量百分率で、[C]:0.92~1.1%、[Si]:0.3~0.4%、[Mn]:0.5~0.8%、[Al]:0.0008%未満、[N]:0.005%未満、[S]:0.01%未満、[P]:0.015%未満の化学元素、並びに残部の鉄及び不可避不純物を含む。
【0031】
鋼線材は、直径0.04~0.055mmのカーボランダムワイヤーに伸線することができ、伸線プロセスで、介在物の制御不良によるワイヤー破断が発生することはない。
【0032】
[実施例1]
本願により提供される、真空誘導炉~エレクトロスラグ~鍛造~ワイヤー圧延における製錬方法は、カーボランダムソーイングワイヤー用の鋼の製造に使用され、その主な工程段階は次の通りである。
【0033】
1)炭素を含まない純鉄ロッド1.5トン及び炭素4%を含有する銑鉄0.5トン(銑鉄中のリン含有量は0.06%未満)を原料として使用し、容量2トンで真空鋳造の機能を有する真空誘導炉で、アルゴンの保護下で2トンの液体溶鋼に溶解する。溶鋼が完全に溶解した後、10kgの石灰を加え、真空化して300Pa以下の高真空条件下で、15分間の脱ガスを含む真空製錬を開始する。真空製錬のプロセスでは、溶鋼の成分を調整するために、8kgの高純度ケイ素鉄(75%のシリコン含有)と18kgの純マンガン合金を添加し、ここで、本工程での製錬後、溶鋼は、質量百分率で、[C]:1.05%、[Si]:0.41%、[Mn]:0.7%、[Al]:0.00079%、[N]:0.0040%、[S]:0.008%、[P]:0.014%の化学元素、並びに残部の鉄及び不可避不純物を含む。次に、炉内の圧力を10000Pa又はわずかにより高く、溶鋼の温度を1465℃に調整しながら、アルゴンを真空誘導炉に吹き込み、最後に円形の鋼塊を真空下で鋳造する。鋼塊は単体で、質量2トン、直径0.35m、及び長さ2.8mである。
【0034】
2)円形鋼塊の表面を研削により清浄し、収縮した端部のある鋼塊ヘッドの5cmを切り取ってエレクトロスラグ製錬用の電極棒を製造する。
【0035】
3)電極棒は、アルゴン保護雰囲気下のエレクトロスラグ炉で、一定の熔解速度で再溶解及び製錬するための原料として使用される。エレクトロスラグの保護スラグは、質量百分率で、CaF2:45%、Al23:25%、SiO2:25%、Na2O:3%、K2O:2%を含む。電極棒をエレクトロスラグ炉で、直径0.45m、長さ1.6mの円筒形のエレクトロスラグ鋼塊に製錬する。
【0036】
4)エレクトロスラグ鋼塊をワイヤー圧延用鍛造ビレットに鍛造し、ここで、鍛造ビレットは、一辺の長さが0.140の正方形の横断面を有する正方形ビレットであり、鍛造ビレットの長さは12.5mである。
【0037】
5)鍛造ビレットをワイヤー圧延プロセスにより直径4.5mmの鋼線材に圧延する。鋼線材は、質量百分率で、[C]:1.02%、[Si]:0.35%、[Mn]:0.6%、[Al]:0.0005%、[N]:0.0048%、[S]:0.008%、[P]:0.014%の化学元素、並びに残部の鉄及び不可避不純物を含む。鋼線材中の介在物は、CaF2ーCaOーSiO2ーAl23ーNa2OーK2O複合介在物、及びSiO2ーAl23ーMnOーCaOーMgOーNa2OーK2O複合介在物として検出される(両複合介在物中のSiO2含有量は50%を超える)。これら二系列の介在物は可塑性が良好で、介在物の幅は全て6μm未満であり、これらは無害な介在物であり、鋼線材の伸線プロセス中にワイヤー破断を引き起こすことはない。
【0038】
本実施例で製造した鋼線材は、最終的に直径0.05mmのカーボランダムマスターワイヤーに伸線することができ、伸線プロセス中にワイヤー破断を起こさず、カーボランダムワイヤーは、シリコンチップや宝石原石などの高効率切断に使用することができる。
【0039】
[実施例2]
本願により提供される、真空誘導炉~エレクトロスラグ~鍛造~ワイヤー圧延における製錬方法は、カーボランダムソーイングワイヤー用の鋼の製造に使用され、その主な工程段階は次の通りである。
【0040】
1)炭素を含まない純鉄ロッド3.75トン及び炭素3.9%を含有する銑鉄1.25トン(銑鉄中のリン含有量は0.06%未満)を原料として使用し、容量5トンで真空鋳造の機能を有する真空誘導炉で、アルゴンの保護下で5トンの液体溶鋼に溶解する。溶鋼が完全に溶解した後、20kgの石灰を加え、真空化して300Pa以下の高真空条件下で、20分間の脱ガスを含む真空製錬を開始する。真空製錬のプロセスでは、20kgの高純度ケイ素鉄(75%のシリコン含有)と45kgの純マンガン合金を添加し、ここで、本工程で製錬後、溶鋼は、質量百分率で、[C]:0.96%、[Si]:0.45%、[Mn]:0.75%、[Al]:0.0009%、[N]:0.0038%、[S]:0.0095%、[P]:0.013%の化学元素、並びに残部の鉄及び不可避不純物を含む。次に、炉内の圧力を12000Pa又はわずかにより高く、溶鋼の温度を1485℃に調整しながら、アルゴンを真空誘導炉に吹き込み、最後に2個の円形鋼塊を真空下で鋳造するが、各鋼塊は、質量2.5トン、直径0.4m、及び長さ2.6mである。
【0041】
2)円形鋼塊の表面を研削により清浄し、収縮した端部のある鋼塊ヘッドの6cmを切り取ってエレクトロスラグ製錬用の電極棒を製造する。
【0042】
3)電極棒は、アルゴン保護雰囲気下のエレクトロスラグ炉で、一定の熔解速度で再溶解及び製錬するための原料として使用される。エレクトロスラグの保護スラグは、質量百分率で、CaF2:51%、Al23:22%、SiO2:23%、Na2O:3%、K2O:1%を含み、電極棒をエレクトロスラグ炉で、直径0.5m、長さ1.5mの円筒形のエレクトロスラグ鋼塊に製錬する。
【0043】
4)エレクトロスラグ鋼塊をワイヤー圧延用鍛造ビレットに鍛造し、ここで、鍛造ビレットは、一辺の長さが0.160mの正方形の横断面を有する正方形ビレットであり、鍛造ビレットの長さは12mである。
【0044】
5)鍛造ビレットをワイヤー圧延プロセスにより直径5mmの鋼線材に圧延する。鋼線材は、質量百分率で、[C]:0.93%、[Si]:0.4%、[Mn]:0.5%、[Al]:0.0006%、[N]:0.0040%、[S]:0.0095%、[P]:0.013%の化学元素、並びに残部の鉄及び不可避不純物を含む。鋼線材中の介在物は、CaF2ーCaOーSiO2ーAl23ーNa2OーK2O複合介在物、及びSiO2ーAl23ーMnOーCaOーMgOーNa2OーK2O複合介在物として検出される(両複合介在物中のSiO2含有量は60%を超える)。これら二系列の介在物は可塑性が良好で、介在物の幅は全て7μm未満であり、これらは無害な介在物であり、鋼線材の伸線プロセス中にワイヤー破断を引き起こすことはない。
【0045】
本実施例で製造した鋼線材は、最終的に直径0.055mmのカーボランダムマスターワイヤーに伸線することができ、伸線プロセス中にワイヤー破断を起こさず、カーボランダムワイヤーは、シリコンチップや宝石原石などの高効率切断に使用することができる。
【0046】
[実施例3]
本願により提供される、真空誘導炉~エレクトロスラグ~鍛造~ワイヤー圧延における製錬方法は、カーボランダムソーイングワイヤー用の鋼の製造に使用され、その主な工程段階は次の通りである。
【0047】
1)炭素を含まない純鉄ロッド3トン及び炭素4.2%を含有する銑鉄1トン(銑鉄中のリン含有量は0.06%未満)を原料として使用し、容量4トンで真空鋳造の機能を有する真空誘導炉で、アルゴンの保護下で4トンの液体溶鋼に溶解する。溶鋼が完全に溶解した後、15kgの石灰を加え、真空化して250Pa以下の高真空条件下で、18分間の脱ガスを含む真空製錬を開始する。真空製錬のプロセスでは、脱酸素用の脱酸素剤として、15kgの高純度ケイ素鉄(75%のシリコン含有)と33kgの純マンガン合金を添加し、ここで、本工程での製錬後、溶鋼は、重量百分率で、[C]:1.1%、[Si]:0.35%、[Mn]:0.6%、[Al]:0.0007%、[N]:0.0034%、[S]:0.0099%、[P]:0.012%の化学元素、並びに残部の鉄及び不可避不純物を含む。次に、炉内の圧力を15000Pa又はわずかにより高く、溶鋼の温度を1495℃に調整しながら、アルゴンを真空誘導炉に吹き込み、最後に2個の円形鋼塊を真空下で鋳造する。各鋼塊は、質量2トン、直径0.38m、及び長さ2.4mである。
【0048】
2)円形鋼塊の表面を研削により清浄し、収縮した端部のある鋼塊ヘッドの8cmを切り取ってエレクトロスラグ製錬用の電極棒を製作する。
【0049】
3)電極棒は、アルゴン保護雰囲気下のエレクトロスラグ炉で、一定の熔解速度で再溶解及び製錬するための原料として使用される。エレクトロスラグの保護スラグは、質量百分率で、CaF2:55%、Al23:15%、SiO2:24%、Na2O:4%、K2O:2%を含み、電極棒をエレクトロスラグ炉で、直径0.45m、長さ1.5mの円筒形のエレクトロスラグ鋼塊に製錬する。
【0050】
4)エレクトロスラグ鋼塊をワイヤー圧延用鍛造ビレットに鍛造し、ここで、鍛造ビレットは、一辺の長さが0.15mの正方形の横断面を有する正方形ビレットであり、鍛造ビレットの長さは10.3mである。
【0051】
5)鍛造ビレットをワイヤー圧延プロセスにより直径5.5mmの鋼線材に圧延する。鋼線材は、質量百分率で、[C]:1.05%、[Si]:0.3%、[Mn]:0.5%、[Al]:0.0005%、[N]:0.0038%、[S]:0.0099%、[P]:0.012%の化学元素、並びに残部の鉄及び不可避不純物を含む。鋼線材中の介在物は、CaF2ーCaOーSiO2ーAl23ーNa2OーK2O複合介在物、及びSiO2ーAl23ーMnOーCaOーMgOーNa2OーK2O複合介在物として検出される(両複合介在物中のSiO2含有量は50%を超える)。これら二系列の介在物は可塑性が良好で、介在物の幅は全て5μm未満であり、これらは無害な介在物であり、鋼線材の伸線プロセス中にワイヤー破断を引き起こすことはない。
【0052】
本実施例で製造した鋼線材は、最終的に直径0.04mmのカーボランダムマスターワイヤーに伸線することができ、伸線プロセス中にワイヤー破断を起こさず、カーボランダムワイヤーは、シリコンチップや宝石原石などの高効率切断に使用することができる。