(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】切断要素用の触覚摩耗インジケータ
(51)【国際特許分類】
B26B 19/38 20060101AFI20240226BHJP
B26B 19/40 20060101ALI20240226BHJP
B26B 19/04 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
B26B19/38 Z
B26B19/40
B26B19/04 L
(21)【出願番号】P 2022578807
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 EP2021069938
(87)【国際公開番号】W WO2022023071
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-12-20
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】ファン ズースト ペーター ダニエル マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ウェフェルス ディルク ヘンドリク
(72)【発明者】
【氏名】クルーゼン アルノ
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-178955(JP,A)
【文献】特開平11-319340(JP,A)
【文献】特開平07-124344(JP,A)
【文献】特開2000-300860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26B 19/38
B26B 19/40
B26B 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪切断装置用の切断要素であって、前記切断要素が、
切断エッジと、皮膚対向領域と、前記皮膚対向領域の触覚摩耗インジケータとを有し、
前記触覚摩耗インジケータが、前記切断要素の皮膚接触面を規定し、かつユーザの皮膚及び/又は毛髪との接触により磨耗可能である摩耗可能な外層を含み、前記摩耗可能な外層は、乾燥潤滑剤添加物を持つコーティング材料を含み、
前記摩耗可能な外層が、前記切断要素の刃の摩耗率に相関する摩耗率を持つ、切断要素。
【請求項2】
前記摩耗可能な外層が、前記摩耗可能な外層を形成するコーティング材料の摩擦係数よりも高い摩擦係数を持つ第1の材料を被覆し、前記摩耗可能な外層と前記第1の材料との間の界面でコーティング材料の摩耗可能な外層が摩耗するにつれ、前記皮膚接触面に沿った動きに対する摩擦が増加する、請求項1に記載の切断要素。
【請求項3】
前記コーティング材料が、前記コーティング材料の1~20重量%の前記乾燥潤滑剤添加物を含む、請求項1又は2に記載の切断要素。
【請求項4】
前記コーティング材料が、結合剤内に分散された複数の乾燥潤滑剤粒子を含む、請求項1、2又は3に記載の切断要素。
【請求項5】
前記乾燥潤滑剤粒子の少なくとも一部が、前記結合剤から突出し、前記切断要素の皮膚接触面の少なくとも一部を形成する、請求項4に記載の切断要素。
【請求項6】
前記乾燥潤滑剤粒子が、球状ビーズの形態である、請求項4又は5に記載の切断要素。
【請求項7】
前記乾燥潤滑剤粒子の少なくともいくつかが、前記摩耗可能な外層における前記結合剤の厚さよりも大きいスパンを持つ、請求項4、5又は6に記載の切断要素。
【請求項8】
前記乾燥潤滑剤粒子が、ガラス粒子である、請求項4乃至7のいずれか1項に記載の切断要素。
【請求項9】
前記結合剤が、インク又は塗料である、請求項4乃至8のいずれか1項に記載の切断要素。
【請求項10】
前記皮膚対向領域に設けられ、前記摩耗可能な外層により覆われる視覚摩耗インジケータを更に有し、
前記視覚摩耗インジケータが、前記摩耗可能な外層と対照的な外観を持ち、前記摩耗可能な外層の摩耗時に露出される、請求項1乃至9のいずれかに記載の切断要素。
【請求項11】
前記視覚摩耗インジケータが、前記切断要素に付けられるコーティング材料の第1の層の形態である、請求項10に記載の切断要素。
【請求項12】
前記第1の層が、前記摩耗可能な外層の色と異なる第一の色、又は前記摩耗可能な外層により覆われる表面における表示若しくはパターンを持つ、請求項11に記載の切断要素。
【請求項13】
前記摩耗可能な外層が、該外層が磨耗するにつれて摩擦が徐々に変化する、請求項1乃至12のいずれかに記載の切断要素。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれかに記載の切断要素を有する毛髪切断装置。
【請求項15】
触覚摩耗インジケータを持つ切断要素の製造方法において、
切断エッジと皮膚対向領域とを含む切断要素を提供するステップと、
前記皮膚対向領域に摩耗可能な外層を設けることにより、触覚的摩耗インジケータを形成するステップとを有し、前記摩耗可能な外層が、皮膚接触面を規定し、乾燥潤滑剤添加物を持つコーティング材料を含
み、前記摩耗可能な外層が、前記切断要素の刃の摩耗率に相関する摩耗率を持つ、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪切断装置用の切断要素に関し、特に、切断要素(具体的にはその切断エッジの刃)が磨耗していることをユーザに示すための触覚手段に関する。
【背景技術】
【0002】
手動カミソリ又は電気シェーバーなどの毛髪切断装置は、体毛を切断するために広く使用されており、通常、ハンドル及び切断要素を含み、切断要素の上に1つ又は複数の刃が取り付けられている。電気シェーバー用などのいくつかの切断要素は、往復運動するカッターを持ち、これは、静止外側切断部材と、外側切断部材に対して往復運動して切断処理を行う可動内側切断部材とを有する。いくつかの配置では、静止外側切断部材は、一列に配置された複数のカッター刃(又は歯)を備えてもよい。内側切断部材は、外側切断部材のカッター刃と協働するために一列に配置された複数のカッター刃(歯)を備えることもできる。使用時には、静止外側切断部材がユーザの皮膚に直接触れるようになる。
【発明の概要】
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
使用するうちに、切断要素の刃が鈍くなり、切断性能が低下したり、髪が引っ張られることが多くなる可能性がある。しかしながら、刃の摩耗の程度は、目視ではなかなかわからない。このため、刃の摩耗の程度の間接的なインジケーションをユーザに提供する視覚摩耗インジケータを切断要素に装備することが知られている。視覚摩耗インジケータは典型的には、刃に近い位置で切断要素に付けられる材料の摩耗層を有し、切断要素の使用期間にわたり、ユーザの皮膚と摺動接触したときに、識別可能な量だけ摩耗するよう構成されている。こうして、層の摩耗の度合いが、刃の摩耗の視覚的なインジケーションを提供する。
【0005】
しかしながら、既知の構成に伴う課題は、その効果がユーザの目視に依存する点にある。視覚摩耗インジケータがユーザにより見られない場合、刃の摩耗は、鈍った刃が毛に引っ掛かり毛を引っ張るまで、切断要素のストローク中に容易に認識されない。毛の引っ掛かり及び引っ張りは、ユーザにとって苦痛となりうる。従って、切断要素の摩耗をユーザに示すための代替的又は補完的な手段が必要とされている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様によれば、毛髪切断装置用の切断要素が提供され、上記切断要素は、切断エッジと、皮膚対向領域と、皮膚対向領域における触覚摩耗インジケータとを有し、上記触覚摩耗インジケータが、上記切断要素の皮膚接触面を規定する摩耗可能な外層であって、乾燥潤滑剤添加物を持つコーティング材を含む、摩耗可能な外層を含む。
【0008】
摩耗可能な外層は、摩耗可能なインジケータの使用期間中のどの時点でも、切断要素の皮膚接触面を規定することができる。例えば、摩耗可能な外層は、触覚摩耗インジケータの耐用年数の間の個別の時点において、切断要素の外側の皮膚接触面を形成するコーティング材料の複数の摩耗可能な層の1つであってもよい。
【0009】
乾燥潤滑剤添加物を持つコーティング材料の外層により規定される皮膚接触面を提供することにより、皮膚に沿った切断要素の切断ストロークにおいて、切断要素とユーザの皮膚との間の摩擦を低減することが可能である。乾燥潤滑剤添加物の提供は、ドライシェービング及びウェットシェービングの両方で摩擦を減らすのに特に適している場合がある。これにより、種々のシェービングタイプに対する切断要素の汎用性が高められる。これは、水溶性潤滑剤が提供される仮想的な構成と比較して、特にそうである。
【0010】
コーティング材の外層は、例えばそれが、ユーザの皮膚と摺動接触されるので、時間の経過とともに(例えば、摩滅などにより)摩耗するよう構成されるという点で、摩耗可能である。こうして、皮膚接触面から乾燥潤滑剤添加物の量が失われ、外層が摩耗するとき、潤滑の程度、及び従って切断要素の滑走性能が低下する場合がある。乾燥潤滑剤添加物の損失(層が摩耗することにより)は、切断ストローク中に皮膚に対する摩擦の増加としてユーザに感じられることができる。言い換えると、コーティング材料の外層は、皮膚接触面の摩擦係数(即ち、皮膚接触面を皮膚に沿って移動させるのに必要な力と、両者を一緒に保持する法線力との比)が、摩耗可能な外層が摩耗するにつれて増加するように、摩耗してもよい。この摩擦の増加が、切断要素及び従って切断エッジの刃が摩耗したことの触覚的なインジケーションをユーザに提供するものとして機能する。
【0011】
触覚摩耗インジケータは、多くの異なる構成の1つを有することができる。実施形態において、コーティング材料の摩耗可能な外層は、摩耗可能な外層を形成するコーティング材料の摩擦係数よりも高い摩擦係数を持つ第1の材料をコーティングしてもよい。その結果、コーティング材の摩耗可能な外層がコーティング材と第1の材料との間の界面で磨耗するにつれて、皮膚接触面に沿った動きに対する摩擦が増加する。その点、摩耗可能な外層により覆われる第1の材料の外側に面した表面は、コーティング材料と第1の材料との間の界面で摩耗可能な外層が摩耗するにつれて、ますます露出され、皮膚接触面のますます大きな部分を形成することができる。
【0012】
第1の材料は、乾燥潤滑剤添加物を含まないものであってもよく、又は、摩耗可能な外層を形成するコーティング材料の量よりも少ない量の乾燥潤滑剤添加物(材料の重量パーセントによる)を含んでいるものであってもよい。第1の材料は、その皮膚対向領域における切断要素の外側に面する表面であってもよい。しかしながら、いくつかの実施形態では、触覚摩耗インジケータ自体が多層構造を有していてもよく、第1の材料は、コーティング材料の摩耗可能な外層により覆われる摩耗インジケータの第1の層を形成するコーティング材料であってもよい。
【0013】
コーティング材料(摩耗可能な外層を形成する)は、乾燥潤滑剤添加物の1~20重量%、例えば1~10重量%、例えば5重量%を含んでもよい。
【0014】
コーティング材料は、結合剤内に分散された複数の乾燥潤滑剤粒子を有することができる。
【0015】
乾燥潤滑剤粒子の少なくとも一部は、切断要素の皮膚接触面の少なくとも一部を形成するように結合剤から突出することができる。乾燥潤滑剤添加物は、切断要素の外側表面に露出されていてもよい。
【0016】
乾燥潤滑剤粒子は、球形ビーズ状であってもよい。
【0017】
乾燥潤滑剤粒子の少なくともいくつかは、摩耗可能な外層における結合剤の厚さよりも大きいスパンを有していてもよい。乾燥潤滑剤の粒子が球形ビーズ状である場合、個別の乾燥潤滑剤粒子は、摩耗可能な外層における結合剤の厚さよりも大きい直径を有していてもよい。
【0018】
乾燥潤滑剤添加物は、ガラスで形成されていてもよい。例えば、乾燥潤滑剤粒子は、ガラス粒子であってもよい。
【0019】
コーティング材料は、インク又は塗料の形態の結合剤を有することができる。
【0020】
切断要素は、視覚摩耗インジケータを更に含んでもよい。視覚摩耗インジケータは、皮膚対向領域、例えば、切断要素の皮膚対向領域における外側に面する表面上に設けられてもよい。視覚摩耗インジケータは、摩耗可能な外層により覆われてもよい。視覚摩耗インジケータは、摩耗可能な外層と対照的な外観を有していてもよい。視覚摩耗インジケータは、摩耗可能な外層の摩耗(例えば、摩滅)に基づき明らかにされることができる。
【0021】
視覚摩耗インジケータは、切断要素に付けられるコーティング材料の第1の層の形態であってもよい。視覚摩耗インジケータは、触覚摩耗インジケータの一部を形成してもよい。例えば、コーティング材料の第1層は、摩耗可能な外層を形成するコーティング材料の摩擦係数よりも高い摩擦係数を持つ第1材料であってもよい。
【0022】
第1の層は、摩耗可能な外層の色とは異なる第1の色を有していてもよい。追加的又は代替的に、第1の層は、摩耗可能な外層により覆われる表面に指標又はパターンを有することができる。
【0023】
摩耗可能な外層は、切断要素のブレードの摩耗率に相関する摩耗率を有していてもよい。
【0024】
別の態様によれば、任意の先行文の切断要素を含む毛髪切断装置が提供される。
【0025】
別の態様によれば、触覚摩耗インジケータを有する切断要素を製造する方法が提供される。この方法は、切断エッジ及び皮膚対向領域を含む切断要素を提供するステップと、皮膚対向領域に摩耗可能な外層を設けることにより、触覚摩耗インジケータを形成するステップとを有する。摩耗可能な外層は、(切断要素の)皮膚接触面を規定し、乾燥潤滑剤添加物を持つコーティング材料を有する。
【0026】
本方法は、上述した切断要素の特徴のいずれか1つ又は複数を切断要素に提供するステップを更に含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】電気シェーバーを有する毛髪切断装置の正面図である。
【
図2】
図1の毛髪切断装置の切断部材の正面図である。
【
図3a】
図2の切断要素の触覚摩耗インジケータの実施形態を、摩耗の異なる段階において概略的に示す図である。
【
図3b】
図2の切断要素の触覚摩耗インジケータの実施形態を、摩耗の異なる段階において概略的に示す図である。
【
図3c】
図2の切断要素の触覚摩耗インジケータの実施形態を、摩耗の異なる段階において概略的に示す図である。
【
図4】触覚摩耗インジケータを持つ切断要素の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図3の触覚摩耗インジケータの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、例示的な実施形態が、例示に過ぎない以下の図面を参照しながら説明される。
【0029】
図1は一般に、電気シェーバー100の形態の毛髪切断装置を示す。
【0030】
電気シェーバー100は、切断ヘッド104を持つ細長い本体102であって、その上に切断要素106
が着脱自在に取り付けられる、本体と、一般に切断ヘッド104から離れる方向に延びるハンドル部分108とを有する。本体102は一般に、電気シェーバー本体の外面を形成するハウジングにより形成される。
【0031】
ハンドル部分108は、ユーザが使用中に手で電気シェーバー100を握ることができる細長い把持可能な部分である。ハンドル部分108は、特にハンドル部分108が濡れているときに、ユーザによる電気シェーバー100のより良いグリップを容易にするために、ゴム加工又はテクスチャ表面で部分的に覆われる。ハンドル部分108の前面には、排出ボタン110が設けられており、これは、アクチュエータ又は他の機構を作動させて切断要素106を切断ヘッド104から離脱させるのに好適である。ハンドル部108の前面には、電源ボタン112により作動される電源スイッチも設けられ、これは、電気シェーバー100の電源オン/オフのためのものである。
【0032】
以下で更に詳細に説明されるように、切断要素106は、静止刃及び往復刃の第1の組(これはそれぞれ、複数の刃歯(blade teech)を有する)並びに静止刃及び往復刃の第2の組と有する。切断要素106の横方向に対向する側面において、刃の第1の組は、第1の切断エッジ114を形成し、刃の第2の組は、第2の切断エッジ116を形成する。電気シェーバー100の切断線118は、第1及び第2の切断エッジ114、116に垂直である。切断線118は、電気シェーバー100がそれらの毛を効果的に切断することを保証するために、毛が所与の切断エッジ114、116において刃に接近すべき方向を規定する。即ち、電気シェーバー100は、切断線118に沿った方向に移動されるとき、最も効果的に毛髪を切断する。
【0033】
この例では、切断線118に沿った方向における第1の切断エッジ114と第2の切断エッジ116との間にある、切断エッジ114、116に近接する切断要素106の領域120が、使用時に皮膚に面している。皮膚対向領域120において、密着シェービングのため使用中に一般的にユーザの皮膚に押し付けられる外部皮膚接触面122がある。皮膚接触面122は、ユーザの皮膚に沿って切断線118に沿う方向に摺動されることになる。その結果、切断エッジ114、116の1つが、切断要素106のストローク中に切断線118に沿ってユーザの皮膚に沿って前進し、それが遭遇するあらゆる毛が切断される。
【0034】
図2は、
図1の切断要素106の皮膚対向領域120の正面図を示す。
【0035】
切断要素106は、可動内側切断部材(図示省略)の上に位置する静止外側切断部材124を有し、これは、静止した切断部材124に対して、カッター軸126に沿って往復的な態様で移動可能である。可動切断部材は、電気シェーバー100の本体102(
図1に示す)のハンドル部108に設けられたモータにより駆動されるよう構成される。モータは、電気シェーバー100のハウジング内に含まれる充電式バッテリにより駆動されてもよい。モータは、電源ボタン112を用いることにより、電源スイッチを介して選択的にオン及びオフにされることができる。
【0036】
静止切断部材124は、カッター軸126に平行な方向に間隔をあけて配置され、互いに概ね平行な、対向する第1及び第2の側面128、130を持つ。静止切断部材124は、カッター軸126に垂直な方向に間隔をあけて配置された、対向する第3及び第4の側面132、134を更に持つ。第1及び第2の切断エッジ114、116は、静止切断部材124の上記対向する第3及び第4の側面132、134にそれぞれ配置される。静止切断部材124は、第1及び第2切断エッジ114、116の静止刃をそれぞれ形成する第1及び第2組のプライマリ刃歯136、138を有する。プライマリカッター歯136、138は、その間に毛髪進入開口を規定するように、カッター軸126に平行な方向で切断エッジ114、116に沿って間隔を空けて配置される。可動内側切断部材は、切断エッジ114、116の往復刃を形成する第1及び第2の組のセカンダリ刃歯を有する。使用中、プライマリ切断歯136、138の間の開口部に入る毛は、静止切断部材124のプライマリ歯と可動切断部材のセカンダリ歯が互いを越えて移動する際に、はさみのような動作で切断される。
【0037】
前述したように、可動切断部材及び静止切断部材の両方の刃(刃歯)は、経年変化により鈍化し、これは、切断性能の低下及び毛髪の引っ掛かりの増加をもたらす可能性がある。そこで、刃歯の摩耗の程度のインジケーションをユーザに提供するために、切断要素106の皮膚対向領域120は、触覚摩耗インジケータ140を備える。触覚摩耗インジケータ140は、皮膚対向領域120において静止切断部材124の外向きの表面125に付けられ、切断要素106の皮膚接触表面122の一部を形成している。
図2の例では、触覚摩耗インジケータ140は、直方体形状を有するが、それは、切断要素106の皮膚対向領域120の一部又は全部を覆うのに適した任意の形状及びサイズを有していてもよい。
【0038】
図2にて図示省略されるが、触覚摩耗インジケータ140は、その中に乾燥潤滑剤添加物を混合したコーティング材料の少なくとも1つの外層を有する。乾燥潤滑剤添加物は、液体又は固体粉末材料などの結合剤に添加されることができる固相の潤滑材料である。これは、元の結合剤よりも摩擦係数が低下した固形物を形成するよう硬化される。即ち、乾燥潤滑剤添加物は、材料の潤滑性を向上させるよう結合剤に添加される固形物である。複数の既知の種類の乾燥潤滑剤添加物が存在し、例えば、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又はグラファイト添加剤である。これは通常、可動要素の合わせ面に適用される摩擦防止コーティングを形成するのに使用され、可動要素の円滑な動きを確保するために使用される。従来、摩擦防止コーティングは、要素間の潤滑を提供し続けることができるよう、適用される要素の寿命まで耐摩耗性があるよう構成される。
【0039】
本実施形態では、外層が、静止切断部材124の外向きの表面125と直接接触又は間接的に(例えば、材料の1つ又は複数の他の層を介して)接触することができる第1の側面と、切断要素106の外側に皮膚接触面122を形成する第2の反対側の側面とを有する。こうして、切断要素106の皮膚接触面122は、例えば、乾燥潤滑剤添加物が外層に存在しない仮想的な構成と比較して、切断要素106のストローク中にユーザの皮膚に沿って摺動運動することに対してより少ない摩擦を提供することができる。
【0040】
耐摩耗性コーティングに乾燥潤滑剤添加物が提供される従来の用途と対照的に、本発明では、乾燥潤滑剤添加物が、切断要素106の切断ストロークの間にユーザの皮膚及び/又は毛髪と接触したときに、例えば摩擦により摩耗するよう構成されたコーティング材料の層において提供される。外層が摩耗すると、皮膚接触面122の潤滑特性(及び従って、切断要素106の強化された滑走性能)が、顕著に低下されることができる。こうして、ユーザは、切断要素の摩耗の程度と、それに対応する刃歯の摩耗の可能性の程度との触覚的なインジケーションを与えられる。例えば、ユーザは、切断ストローク中の皮膚で感じられる摩擦の増加により、切断要素が摩耗している(及び従って交換が必要である)ことを認識することができる。
【0041】
図1及び2は、それぞれが一対の静止刃及び往復刃により形成される、2つの切断エッジを持つ電気シェーバーに関して上述してきたが、これは必須ではない。本発明、特に触覚摩耗インジケータは、任意の数の刃又は切断エッジを持つ切断要素に適用可能である。更に、この摩耗インジケータは、手動カミソリ用など、静止切断部材に設けられた1つ又は複数の静止刃を持つ任意のタイプの毛髪切断装置の切断要素により広く適用されるものである。更に、切断要素は、切断装置の本体に取り外し可能に取り付けられる必要はなく、代わりに単一ピースの本体の一体部分を形成してもよい。
【0042】
図3a~3cは、
図2の切断要素106に設けられた触覚摩耗インジケータ140の例示的な実施形態を概略的に示す。
図3a~3cはそれぞれ、新品時、部分的に摩耗した時、及び切断要素の動作寿命の意図された終わりにおける完全に摩耗した時の触覚摩耗インジケータ140を示す。
図3a~3cの各1つは、摩耗インジケータ140の2つの図を示し、切断要素の第3の側面と第4の側面との間でインジケータ140の横方向の範囲を横断する線A-Aの一部に沿った第1の断面図(図の左側)と、摩耗インジケータ140により形成される皮膚対向面122の第2の正面図(図の右側)とを示す。
【0043】
図3の例示的な構成では、摩耗インジケータ140は多層構造を持ち、コーティング材料の4つの層142、144、146、148が静止切断部材124上に積層構成で配置される。多層構造は、静止切断部材124の外向きの表面125の少なくとも一部に付けられコーティングされた第1層142と、第1層142に付けられコーティングされた第2層144と、第2層144に付けられコーティングされた第3層146と、第3層146に付けられコーティングされた第4層148とを有する。第3及び第4層146、148は、少なくとも部分的に、切断要素の皮膚接触面122を形成するという点で、摩耗インジケータ140の外側の層である。
【0044】
触覚摩耗インジケータ140は、任意の適切な製造装置及び方法を用いて製造されることができる。その選択は、層142、144、146、148に使用されるコーティング材料のタイプに依存し得る。本実施例では、コーティング材の各層142、144、146、148は、結合剤を有し、これは、本実施例では溶剤系インク又は塗料などの印刷剤152、154である。従って、基板に印刷剤を付着させるための任意の装置及び方法が、このために使用されることができる。例えば、いわゆる「パッド印刷」装置を用いて、印刷剤が表面に堆積されることができる。これにより、変形可能な印刷パッド(例えば、シリコンパッド)が、あらかじめ用意された印刷剤のプレートに接触され、印刷される基板の表面にプレートから印刷剤を移すために使用される。
【0045】
摩耗インジケータ140を形成するコーティング材料の異なる層142、144、146、148は、同じコーティング材料で作られることができ、又は異なるコーティング材料、例えば異なる組成の印刷剤で作られることができる。その点で、コーティング材料は、印刷剤と、オプションで接着剤樹脂及び硬化剤、例えばラッカー材料のような1つ又は複数の充填材とを有することができる。コーティング材料の具体的な組成は、当該層の機能に依存することができる。
【0046】
本実施例では、第1の層142及び第2の層144は、少なくとも切断要素の意図された通常の作業寿命の間、静止切断部材124上の所定の位置に留まるよう構成されたコーティング材料の永久耐磨耗層である。しかしながら、コーティング材料の第3の層146及び第4の層148は、切断要素の通常の作業寿命の間に摩耗されるよう構成され、これは、露出した外側の第4層148から始まり、次に、第4層148の摩耗が進むにつれて第3層146が徐々に露出されるようになる。従って、第1及び第2の層142、144のコーティング材料が、第3及び第4の層146、148のコーティング材料の摩耗率よりも小さい摩耗率を有することを確実にするため、各層のコーティング材料の組成が製造時に調整及び選択されることができる。更に、第3及び第4の層146、148の両方が、切断要素の刃の摩耗速度に相関する摩耗速度を持つように、即ち、切断要素の刃が摩耗する時(例えば、鈍る程度に)までに第3及び第4の層146、148のコーティング材料も完全に摩耗することを確実にするように、コーティング材料組成は調整されることができる。
【0047】
理論に縛られることを望むことなしに、コーティング材
の所与の層が完全に摩耗されるまでの時間(又は、均一なサイズの切断ストロークの数)は、その層のコーティング材(特に存在するのであれば、印刷剤及び充填材)の厚さ(その層が付けられた表面に対する法線に沿って測定される)と、その層のコーティング材の摩耗速度(切断ストロークごとに失われる印刷剤の量)とに依存する。既知の厚さの層の摩耗率は、例えば、層を完全に摩耗させるために必要な切断要素の均一な大きさの切断ストロークの数(皮膚に沿った移動距離の観点から)を決定し、それに基づき切断ストロークごとに失われるコーティング材の量を計算することなどにより、適切な実験で決定されることができる。
【0048】
図3aに最もよく示されるように、コーティング材料の第3及び第4の層146、148は、それらの層における印刷剤152、154(及び存在するのであれば充填剤)に加えて、乾燥潤滑剤添加物150を有する。図示の例では、乾燥潤滑剤添加物150は、第3及び第4の層146、148と摺動接触されるときに皮膚が遭遇する摩擦を低減する役割を果たす、複数の乾燥潤滑剤粒子150の形態である。乾燥潤滑剤粒子150の少なくとも一部は、第4の外層148の摩耗インジケータ140の外側に露出される。その結果、それらは、印刷剤154と共に、切断要素の皮膚接触面122を規定する。
【0049】
乾燥潤滑剤粒子150は、第3及び第4の層146、148を形成する印刷剤152、154により少なくとも部分的にカプセル化される。その結果、それらは、通常の切断ストローク中に粒子に作用するせん断力にもかかわらず、切断要素の通常の使用中、印刷剤152、154により保持される。その点、乾燥潤滑剤粒子150は、粒子150をカプセル化する印刷剤152、154の全てではないにしても大部分が摩耗して失われるまで、印刷剤152、154に付着したままであり、及び従って潤滑の利点を提供することになる。これは、永久基板と、基板とユーザの皮膚との間の摩擦を低減するために、水と組み合わせて使用中に基板から連続的に浸出するよう構成された可溶性潤滑剤とを有する潤滑手段を切断要素が具備する仮想的な配置とは対照的である。
【0050】
プラスチック又はPTFEで形成されたものといった任意の種類の乾燥潤滑剤粒子150が使用されることができる。しかしながら、本実施形態では、乾燥潤滑剤粒子150は、ガラス粒子である。これは、特にプラスチック又はPTFEに似た物質と比較して、安全で環境に優しく、摩擦を減らすのに特に効果的な特性を持っている。本構成における使用に適したガラス粒子の一例は、いわゆる「Coatosil」添加剤粒子、例えば「Coatosil DSA 10」であり、これはMomentive Performance Materials Inc.から購入することができる。
【0051】
乾燥潤滑剤粒子150は、任意の適切な形状をとることができる。しかしながら、本実施形態では、それらは球状のビーズの形態であり、それぞれのビーズは、断面が実質的に円形である(
図3a及び
図3bに示すように)。この球形状は、接触されるとき、接触面積を最小化し、及び従ってユーザの皮膚と皮膚接触面122との間の摩擦を最小化する丸みを帯びたプロファイルを提供するという点で特に有利である。
【0052】
第3及び第4の層146、148の摩擦を低減して切断要素の滑走性能を高めるために、任意の適切な量の乾燥潤滑剤粒子150が使用されることができる。しかしながら、いくつかの構成では、第3及び第4の層146、148のコーティング材料は、乾燥潤滑剤粒子の1重量%~20重量%、例えば1%~10重量%、例えば5重量%を含む。1~20%の範囲は、摩擦を顕著に減少させるのに十分な潤滑効果を提供する。その一方で、コーティング材料が効果的に表面に適用及び保持されることを可能にするよう、コーティング材が構造的完全性を持つことを確実にするため、十分な量の印刷剤(及びオプションで充填剤)がコーティング材料内に保持される。1~10%の範囲における値、例えば5%の値は、潤滑性及び構造的完全性の最適なバランスを提供し得るという点で特に有利である。
【0053】
皮膚接触面122は、第3及び第4の層146、148が摩耗するにつれて連続的に変化する。乾燥潤滑剤粒子150は、印刷剤152、154全体に実質的に分散され、その結果、印刷剤152、154が摩耗するにつれて、乾燥潤滑剤粒子150が摩耗インジケータ140の外側に新たに露出される。粒子は、第3及び第4層146、148の印刷剤152、154全体に実質的に均一に分布していてもよい。即ち、その場合、第3及び第4の層146、148が乾燥潤滑剤粒子150の同じ重量パーセントを持つ。こうして、第3及び第4の層146、148のコーティング材料が摩耗しても、皮膚は実質的に一定の数の粒子150に接触し、及び従って、一貫した滑走性能を経験する。しかしながら、他の配置では、コーティング材料の第4の層148は、第3の層146よりも乾燥潤滑剤粒子のより大きな重量パーセントを持つことができる。その結果、第4層148が摩耗し、第3層146がますます露出されるにつれて、摩擦の程度が増加する。
【0054】
図3の例では、第3及び第4層146、148の乾燥潤滑剤粒子150の少なくとも一部は、それらの層のコーティング材料(特に印刷剤152、154)の残りの部分から突出する。そのようにして、皮膚接触面122の(摩耗の様々な点での)トポグラフィは、印刷剤152、154により形成された実質的に平面状の部分と、乾燥潤滑剤粒子150により形成された隆起部分とを有することができる。皮膚接触面122に隆起部を形成することにより、突出した粒子150が、切断要素の平面部(及び一般に広い皮膚接触領域)からユーザの皮膚を持ち上げることができ、これにより、切断要素と皮膚との接触面積が低減され、切断ストローク中の滑走性能が更に向上される。しかしながら、この効果は、摩耗インジケータ140の隆起部に局所化され、その結果、皮膚接触面122の一部が、切断ストローク中にユーザの皮膚と接触したままとなり、それに対応してコーティング材料の外層148が摩耗(例えば、摩滅)することをもたらす。
【0055】
本実施例では、印刷剤152、154の厚さ(摩耗インジケータ140が取り付けられた静止切断部材124の表面125に対する法線に沿った方向で測定される)が、個別の粒子150のスパンよりも小さいことを確実にすることにより、上述のトポグラフィが実現される。粒子150のスパンは、粒子の一端から別の一端にまたがる直線に沿って測定されるその幅又は長さである。乾燥潤滑剤粒子150が球形プロファイルを有する場合、上述したように、所与の粒子150のスパンは、その断面直径により規定されることになる。従って、
図3aに最もよく示されるように、第4層148中の少なくとも1つの乾燥潤滑剤粒子150は、例えば約10ミクロンの第1の直径158を有し、これは第4層148中の印刷剤154の厚さ160より大きい。
【0056】
乾燥潤滑剤粒子150のスパンは、所与の層146、148における印刷剤152、154の厚みよりも大きくなくてもよい。
図3の図示例では、第3及び第4の層146、148の各1つのコーティング材料は、異なるサイズの粒子150の組み合わせを有する。例えば、
図3aに示すように、第4層148の少なくとも1つの粒子150は、その層148の印刷剤152の厚さ160よりも小さい第2の直径162を有する。他の配置では、所与の層の乾燥潤滑剤粒子のすべてが、その層の印刷剤の厚さより小さいスパンを持つことになる。層中の乾燥潤滑剤粒子の少なくとも一部が、その層中の印刷剤の厚みよりも小さい直径を有する配置において、粒子と比較した印刷剤の相対密度などの印刷剤の特性は、粒子が印刷剤の外面に向かうように調整されることができる。これにより、粒子がその層の印刷剤から突出することがもたらされる。その製造方法にかかわらず、上述したトポグラフィは、当技術分野で知られる従来の技術を用いて捕捉された摩耗インジケータ140の走査型電子顕微鏡画像の検査により容易に識別可能であり得る。
【0057】
上記の態様で、ユーザは、第3及び第4の層146、148が摩耗するまで、摩耗インジケータ140の強化された滑走性能の恩恵を受けることになる。しかしながら、第3層146が第3層146と第2層144との間の界面で磨耗して第2層144のますます大きな表面積が露出されるにつれて、潤滑の程度は徐々に減少することになる。
図3cを参照すると、第3層146がほとんど又は完全に摩耗されるときに、ユーザが切断要素を使用してシェービング動作を実行することを選択する場合、ユーザの皮膚は、露出された第2層144と接触することになる。本実施形態では、第2層144は、第3層146を形成するコーティング材料よりも高い摩擦係数を持つコーティング材料で形成される。その結果、第3の層146が第2及び第3の層144、146の間の界面で磨耗して第2の層144が露出されるにつれて、皮膚接触面122に沿った移動に対する摩擦が増加する。これは、本実施例では、コーティング材料の第2の層144が、そこにゼロ量の乾燥潤滑剤添加物を有することにより達成される。第3層144の摩擦の増大は、切断要素及び摩耗インジケータ140が新品であったときと比較して、快適さの対応する減少としてユーザに気付かれる。こうして、ユーザは、切断エッジの刃の摩耗の兆候を見たかどうかにかかわらず、切断要素の摩耗の顕著な触覚インジケーションを提供されることになる。
【0058】
摩耗インジケータ140は、切断要素の摩耗に関する触覚フィードバックをユーザに提供するために、潤滑層と非潤滑層との両方を持つ多層構造を有するものとして上述してきたが、触覚摩耗インジケータ140は、切断要素の摩耗の程度の視覚的なインジケーションをユーザに提供することもできる。その点で、コーティング材の1つ又は複数の層は、視覚摩耗インジケータとして機能することもできる。
図3の配置では、コーティング材の第1、第2、第3層142、144、146の各1つが、それが、少なくとも第4の層148と対照的な独特の外観を有し、当該層のすぐ上の層の摩耗に伴って露出されるという点で、視覚摩耗インジケータとして機能する。こうして、ユーザは、皮膚接触面122の外観に基づき、即ち、皮膚接触面122を規定する第1、第2、第3及び第4層142、144、246、148のどの1つ又は複数が露出されるかに基づき、切断要素又は刃の摩耗の程度を視覚的に識別することができる。
【0059】
異なる層142、144、146、148の外観は、その色により異なっていてもよい。例えば、個別の層142、144、146、148の印刷剤は、異なる色の顔料(又は同じ色の顔料の異なる重量パーセント)を有してもよい。追加的又は代替的に、1つ又は複数の層142、144、146、148は、層142、144、146、148の外側に面した表面上に固有の指標又はパターンを含んでいてもよい。
【0060】
図3aを参照すると、触覚摩耗インジケータ140の第4層148は、新しい切断要素を示すものとしてユーザが認識可能なクロスハッチ模様を形成するように、第3層146の外側に面した表面156の一部のみを覆っている。第3層146は、実質的に均質な色であってもよい(
図3bにおいて、摩耗インジケータ140の右側の図の破線により表されるように)。これは、第4の層148の摩耗の結果として露出されるとき、切断要素がその意図された作業可能な寿命の途中、例では少なくとも半分であることをユーザに示すことになる。
【0061】
第1及び第2の層142、144は、
図3cの右側図に示される永久パターン164を規定するように結合する異なる色のコーティング材料を有する。例えば、第1及び第2の層142、144の厚さは、第3及び第4の層146、148の摩耗時に露出されるパターン164を規定するために、摩耗インジケータ140の長手方向範囲に沿って変化して
いる。こうして、第1及び第2の層142、144は、切断要素が完全に摩耗し、交換が必要である場合があることをユーザに示す。
【0062】
多層構造が、4層のコーティング材料を有することに関して上述したが、多層摩耗インジケータは、2層以上の層を有していてもよい点を理解されたい。例えば、摩耗インジケータ140は、切断要素の外向きの表面125に付けられるコーティング材料の第1の永久層と、乾燥潤滑剤添加物を含むコーティング材料の第2の外層とを有することができる。
【0063】
更に、触覚摩耗インジケータが、多層構造を有することに関して上述してきたが、これは必須ではない。例えば、摩耗インジケータ140は、乾燥潤滑剤添加物を含むコーティング材料の単一の摩耗可能な層を有することができる。ここで、この層は、その皮膚対向領域120において、切断要素の外側に面する表面125を覆っている。斯かる配置では、切断要素自体、特に静止切断部材の表面125が、摩耗可能な外層よりも大きな摩擦係数を有するという点で、比較的摩耗性の高いものであってよい。更に、表面125は、例えばその表面に設けられたインジケーションにより、外層と対照的な外観を有していてもよい。
【0064】
図4は、触覚摩耗インジケータを有する切断要素の製造方法の例示的な方法を示すフローチャートである。
【0065】
この方法は、ブロック401で始まり、このブロックでは、
図1及び
図2に関して上述したタイプの切断要素が提供される。切断要素は、切断エッジと、皮膚対向領域と、オプションで、上述した切断要素の特徴のいずれか1つ又は複数とを有する。ブロック402において、本方法は、印刷剤の形態で結合剤を提供することを有する。1つの結合剤が、切断要素に付けられるコーティング材の各層に提供され、又は切断要素に付けられるコーティング材の2以上の層に対して提供されることができる。ブロック403において、本方法は、切断要素の皮膚対向領域に適用されるコーティング材料を形成するため、結合剤を上述のタイプのような乾燥潤滑剤添加物と組み合わせ又は混合することを有する。これは、結合剤を、最終的な混合コーティング材料の重量で1~20%、例えば1~10%、例えば5%に対応する量の乾燥潤滑剤粒子と混合することを有することができる。このブロックにおいて、方法は、例えば
図3に関して上述したように、実質的に所望の量の充填材を加えることを更に含んでもよい。ブロック404において、コーティング材料が、切断要素の皮膚対向領域に提供される。これにより、乾燥潤滑油添加剤の摩耗可能な外層が形成される。その層は、切断要素の皮膚接触面を規定する。
【0066】
コーティング材料は、コーティング材料を切断要素の、例えば静止切断部材の外側に面する表面に直接付けることにより、皮膚対向領域に提供されてもよい。しかしながら、いくつかの配置では、触覚摩耗インジケータは、多層構造を有し、従って、この方法は、静止切断部材の外向きの表面にコーティング材料の第1層を直接付け、その後、第1層の上に(直接又は1つ又は複数の他の層を介して間接的に)摩耗可能な外層のためのコーティング材料を付ける第1ステップを有する。上述したように、第1層は、
図3に関して上述した第1層又は第2層のようなコーティング材料の永久層であってよい。
【0067】
コーティング材を付けるのに、任意の適切な方法が用いられることができる。摩耗可能な外層の結合剤が印刷剤を有する場合、コーティング材は、印刷方法により静止切断部材(又は第1層)に付けられる。適切な印刷方法は、液相のコーティング材料の液滴がコーティングされる表面に堆積されるインクジェット印刷と、液体又は固体粉末ベースの形態のコーティング材料の量が連続的に堆積され、例えば加熱により互いの上に固化されて、層を形成するコーティング材料の厚さを構築する付加製造技術とを含む。他の配置では、紫外線硬化などの化学的固化技術が使用されてもよい。そこでは、紫外線を使用して光化学反応が開始され、硬化性印刷剤が固化される。
【0068】
上述したフローチャートのステップ又はブロックは、記載された順序で実行される必要はなく、いくつかの場合では、示された順序とは逆の順序で実行されてもよい点を理解されたい。いくつかの場合では、1つ又は複数のブロック又はステップが同時に実行されることができる。
【0069】
図5は、
図3に関して上述した多層構造を有する触覚摩耗インジケータ140の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【0070】
本実施形態では、コーティング材料の各層は、「パッド印刷」と呼ばれる方法を用いて印刷される溶剤ベースのインクの形態である印刷剤を含んでいる。そこでは、弾性変形可能なパッドが、コーティングされる表面へ印刷プレート源からコーティング材料を移送するために使用される。本方法は、以下のステップを有する。 1.ブロック501において、その層142のためのコーティング材料を、その皮膚対向領域120における切断要素106の外側に面する表面125に堆積させることにより、第1の層142を印刷するステップ。 2.ブロック502において、その層144のためのコーティング材料を第1の層142の外側に面した表面に堆積させることにより、第2の層144を印刷するステップ。 3.ブロック503において、その層146のためのコーティング材料を第2の層144の外側に面した表面に堆積させることにより、第3の層146を印刷するステップ。 4.ブロック504において、その層148のためのコーティング材料を第3の層146の外向きの表面に堆積させることにより、第4の層148を印刷するステップ。
【0071】
以上に述べた態様において、本発明は、切断要素の摩耗の触覚的インジケーションと、いくつかの場合において視覚的インジケーションとをユーザに提供することができる汎用性の高い摩耗インジケータを提供し得る。本発明が図及び説明において詳細に図示及び説明されてきたが、斯かる図及び説明は例示的又は説明的なものに過ぎず、限定的なものではない。本発明は、開示された実施形態に限定されるものではない。
【0072】
例えば、触覚摩耗インジケータの実施形態は、個別の層が異なる摩擦係数を持つ層構造を有するものとして上述されてきたが、これは必須ではない。例えば摩耗インジケータを作成するのに付加製造技術が使用されるようないくつかの場合において、単層の摩耗性コーティング材が、その層が摩耗するにつれて摩擦が徐々に変化することを提供することが可能である。例えば、摩耗性コーティング材料の単一層が、摩耗可能な層を形成するコーティング材料の厚さを構築するとき、コーティング材料の連続した堆積物に異なる量の乾燥潤滑剤添加物を提供ことにより、製造されることができる。こうして、摩耗可能な外層が摩耗するにつれ、皮膚接触面の摩擦係数が増加する。
【0073】
更に、切断要素の意図された通常の作業寿命に対して永久的であることが意図される弾力性のある材料を基板に堆積させ、次にコーティング材料の連続した堆積で増加した量の摩耗性材料を堆積させることにより、付加製造プロセスが、触覚摩耗インジケータを構築するのに開始されることができる。これは、乾燥潤滑剤をほとんど含まない第一の材料の永久部と、潤滑効果を提供する皮膚接触面を形成するコーティング材料の摩耗可能な外層とを持つ触覚摩耗インジケータをもたらす。
【0074】
開示された実施形態に対する他の変形が、図、説明、及び添付の請求項の検討から、請求項に記載された発明を実施する当業者により理解及び実施されることができる。特許請求の範囲において、「有する」という語は、他のステップ又は要素を除外するものではなく、不定冠詞「a」又は「an」は複数性を除外するものではない。従って、ある手段が相互に異なる従属請求項に記載されるという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用されることができないことを示すものではない。特許請求の範囲に記載される任意の参照符号は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。