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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】パンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/36 20060101AFI20240227BHJP
   A21D 8/02 20060101ALI20240227BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20240227BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20240227BHJP
【FI】
A21D2/36
A21D8/02
A21D13/00
A23L7/10 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023040824
(22)【出願日】2023-03-15
【審査請求日】2023-09-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】303022444
【氏名又は名称】府金製粉株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
(72)【発明者】
【氏名】武山 照愿
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-119275(JP,A)
【文献】吉川亮ほか,新形質小麦品種・系統の小麦粉ブレンドによる製パン適性の向上技術,東北農業研究センター研究報告,2011年03月,第113号,第97-122頁
【文献】伊賀大八,ニーズの多様化に適応するためのブレッド、ロール、ペストリーのテクスチャー改善技術,食品と科学,第52巻, 第4号,2010年,第65-74頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中種用小麦粉を用いて中種生地を作成する中種工程と、該中種工程で得られた中種生地にもち性小麦粉を含む本捏用小麦粉を加えてパン生地を作成する本捏工程とを備え、該本捏工程後にパン生地を最終発酵させて焼成するパンの製造方法であって、
上記中種工程で、中種用小麦粉として、タンパク含有率が10重量%~13重量%、エクステンソグラムのR/E値が3.5~6.5の超強力小麦粉を50重量部~80重量部用い、該超強力小麦粉に、少なくとも、イースト,脱脂粉乳,食塩及び水を加えて混捏し、混捏した生地を、17℃~20℃で10時間以上発酵させ、pHが、5.0≦pH≦5.6の中種生地を作成することを特徴とするパンの製造方法。
【請求項2】
イーストフード,酸化剤,乳化剤等の改良添加剤を使用しないことを特徴とする請求項1記載のパンの製造方法。
【請求項3】
上記中種工程で、中種用小麦粉としての超強力小麦粉を50重量部~60重量部用い、
上記本捏工程で、本捏用小麦粉として、タンパク含有率が9重量%~13重量%、エクステンソグラムのR/E値が0.8~2.0のもち性小麦粉を20重量部~45重量部用いるとともに、もち性小麦粉の他に、タンパク含有率が9重量%~13重量%、エクステンソグラムのR/E値が1~2.5の強力小麦粉を用いることを特徴とする請求項2記載のパンの製造方法。
【請求項4】
上記中種工程において、用いる超強力小麦粉は、小麦品種「銀河のちから」の国内産小麦粉であり、該超強力小麦粉を、50重量部~60重量部用い、インスタントドライイースト0.05重量部~0.15重量部、脱脂粉乳1重量部~3重量部、食塩0.1重量部~0.3重量部及び水25重量部~40重量部を加えて混捏し、混捏した生地を、17℃~19℃で15時間~20時間発酵させることを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載のパンの製造方法。
【請求項5】
上記本捏工程において、用いるもち性小麦粉は、小麦品種「もち姫」の国内産小麦粉であることを特徴とする請求項4記載のパンの製造方法。
【請求項6】
上記本捏工程において、もち性小麦粉は、小麦品種「もち姫」の国内産小麦粉であり、25重量部~45重量部用いるとともに、強力小麦粉は、小麦品種「ゆきちから」の国内産小麦粉であり、5重量部~25重量部用いることを特徴とする請求項4記載のパンの製造方法。
【請求項7】
上記本捏工程において、上記中種生地に、少なくとも、インスタントドライイースト0.5重量部~1.5重量部、増粘多糖類(SLD)0.5重量部~1.5重量部、食塩1重量部~2重量部及び水30重量部~50重量部、油脂5重量部~7重量部、上白4重量部~6重量部、トレハロース2重量部~4重量部を加えて混捏してパン生地を作成することを特徴とする請求項6記載のパンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、もち性小麦粉を用いたパンの製造方法に係り、特に、中種法によりパンを製造するパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のパンの製造方法としては、例えば、特許第3641313号公報(特許文献1)に掲載された技術が知られている。これは、予め、外国産の強力小麦粉(所謂「外麦」)ともち性小麦粉を用意し、予めこれらを混合しておき、この混合した混合小麦粉の一部(例えば50重量部)を用いて中種生地を作成する中種工程と、中種工程で得られた中種生地に残りの混合小麦粉(例えば50重量部)を練り込んでパン生地を作成する本捏工程とを備え、本捏工程後にパン生地を最終発酵させて焼成している。例えば、パンとしてハードロールを製造する。
【0003】
上記の特許文献1において、外国産の強力小麦粉(所謂「外麦」)としては、例えば、カナダ産「ウエスタン・レッド・スプリング・ホイートNo.1」が挙げられている。また、もち性小麦粉とは、アミロース含量10%以下のものを指称し、その一つとしては、特開平6-125669号公報に記載のアミロース含量0%のものが挙げられている。
【0004】
このハードロールの例では、例えば、中種工程では、小麦粉にイースト,イーストフード及び水を適宜量加えてミキシングし(捏上温度24℃)、4時間(温度27℃、湿度70%)発酵させて中種生地を作成する。本捏工程では、中種生地に残りの混合小麦粉を加えてミキシングする。その後、フロアタイム(20分、室温)、分割(60g/個)、ベンチタイム(15分、室温)を経て成形し、ホイロ(60分、42℃、湿度85%)をとる。そして、このパン生地を焼成(9分、210℃)する。これにより、もちもちした食感のパンを得るようにしている。
【0005】
【文献】特許第3641313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般に、もち性小麦粉はもち米同様、澱粉が略100%のアミロペクチンからなることから、「もちもち感」をもたらすが、反面、このもち性小麦粉の配合比率を増やすと、パン生地内のトータルの蛋白量が減少し、ケービングを生じる要因になる。また、もち性小麦粉の糊化開始温度と最高粘度は通常のパン用粉に比べ、それぞれ約20℃程低く、パン焼成時に内部のスダチ(気泡)の膜を形成するでん粉が低い温度で糊化することで溶け出しやすくなり、膜を損傷して気泡のガスが抜けてしまうことで収縮が起こりやすくなる。また、アミロペクチンはアミロースに比べて吸水率が高く、もちもち感やしっとり感が増す反面、焼成後に食パンのクラスト(パンの表皮)に対して水分の移行が起こり、クラストが軟化してしまうことで、形の保持力の低下を生む。
【0007】
即ち、もち性小麦粉は、吸水が多いこと、膨化力が大きいこと、糊化温度が低いことから焼成中に澱粉が溶けだしグルテン膜のガス保持力を悪くすることにより、釜伸びが小さくなり、澱粉のゲル物性が弱くなり収縮してしまうことから、放冷中にケービングを生じやすいという欠点がある。また、もち性小麦粉は、蛋白量の含有量がやや低いこともあって、もち性小麦粉30重量部以上のブレンドでは焼成から例えば3日目頃にはパンが老化し硬くなりやすいなどの欠点もある。
【0008】
一方、パン用強力小麦粉は、上記のように、主に外国産に頼っているが、近年、国内において、グルテン質の強い超強力小麦「ゆめちから」を始め各地で超強力小麦の開発が進められている。岩手県では、2014年(平成26年)に、超強力小麦「銀河のちから」(品種登録第23403号)が開発され、学校給食に提供されてきてはいるが、一般市場での活用はそれ程多くないという実情がある。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みて為されたもので、超強力小麦の利用を図り、しかも、ケービングを極力低減するとともに、老化を抑制し、もちもち感を維持した食感や風味の良いパンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、長年の研究により、用いる小麦粉として、強力小麦粉に変えて、グルテン質が強い超強力小麦粉を用い、これともち性小麦粉とのブレンドにより、上記課題を解決することを発明した。
【0011】
即ち、上記の目的を達成するための本発明のパンの製造方法は、中種用小麦粉を用いて中種生地を作成する中種工程と、該中種工程で得られた中種生地にもち性小麦粉を含む本捏用小麦粉を加えてパン生地を作成する本捏工程とを備え、該本捏工程後にパン生地を最終発酵させて焼成するパンの製造方法であって、
上記中種工程で、中種用小麦粉として、タンパク含有率が10重量%~13重量%、エクステンソグラムのR/E値が3.5~6.5の超強力小麦粉を50重量部~80重量部用い、該超強力小麦粉に、少なくとも、イースト,脱脂粉乳,食塩及び水を加えて混捏し、混捏した生地を、17℃~20℃で10時間以上発酵させ、pHが、5.0≦pH≦5.6の中種生地を作成する構成としている。発酵条件は、好ましくは、17℃~20℃で15時間~24時間である。超強力小麦粉は、もちもち感を呈するもち性小麦粉の量との関係で、50重量部~80重量部の範囲、例えば、その上限を、50重量部,55重量部,60重量部,65重量部,70重量部,75重量部,80重量部とその量を定めることができる。
尚、本明細書において、小麦粉の量は、パン生地に含まれる全小麦粉の量を100重量部としたときの分量である。
【0012】
もち性小麦粉とは、胚乳デンプン中のアミロース含量が低いモチ性の小麦をいう。品種としては、例えば、「もち姫」(品種登録第18437号)、「はつもち」(品種登録第8361号)、「もち乙女」(品種登録第8362号)、「あけぼのもち」(品種登録第8363号)等を挙げることができる。
【0013】
本発明において、超強力小麦粉とは、ミキサーで通常市販の強力粉の2倍以上のミキシング時間を要する小麦粉のことであり、通常市販の強力粉よりも生地にしたとき延びにくい小麦粉をいう。例えば、エクステンソグラムで比較すると、一般の外国産の強力小麦粉(所謂「外麦」)においては、エクステンソグラムのR/E値が3.0~3.5程度であるが、超強力小麦粉は、それ以上の値を示す。例えば、「ゆめちから」(品種登録第20751号)、「銀河のちから」(品種登録第23403号)等を挙げることができる。
【0014】
ここで、エクステンソグラムのR/E値は、次の方法により測定することができる。すなわち、小麦粉300gに対し、食塩6gを捏ね終わりのコンシステンシー(伸長抵抗)が500B.Uになるのに必要な量の水に溶かして加え、ファリノグラフ(ブラベンダー社製)のミキサーで1分間捏ねて5分間ねかせ、更に2分あるいは3分間捏ねて生地を調製する。この生地150gを採り、丸めた後に棒状に成形して、エキソテンソグラフ(ブラベンダー社製)の生地皿に固定し、30℃の恒温箱に45分間入れた後、棒状の生地の中央にフックをかけて1回目の引張試験を行なう。その後、再成形して45分後に同様の引張試験を行なう。更に、45分後に同様の引張試験を行なう。そして、3回目の引張試験の結果から、R/E値(形状係数)を求める。なお、Rは伸長抵抗(単位はB.U)であり、Eは伸長度(単位はmm)である。R/Eは小さいほど生地がだれる傾向を示す。
【0015】
これにより、中種工程においては、超強力小麦粉に、少なくとも、イースト,脱脂粉乳,食塩及び水を加えて混捏し、混捏した生地を、17℃~20℃で10時間以上発酵させ、pHが、5.0≦pH≦5.6の中種生地を作成する。一般に、超強力小麦粉はグルテン質が強いので、従来法においては、生地のつながりが悪く、本捏工程で生地の伸びが悪くなるが、本発明では、10時間以上の長時間に亘り発酵させるので、グルテンの結合割合がよくなる。また、イーストにより発生したCOにより、生地のpHが下がって、グルテンの伸展性も良くなる。この場合、pHが5以下に下がると、酸味・酸臭が出る虞れがあるが、脱脂粉乳を混合したので、脱脂粉乳はpH緩衝作用を呈することから、生地のpHが5以下に下がらないようにすることができる。このため、本捏工程以降の生地の伸展性が良くなることから、釜伸びがよくなり、ソフトで風味の良いパンになる。
【0016】
また、中種工程及び本捏工程で用いる小麦粉は、従来のように予め全部をブレンドしたものではなく、夫々、別々のものを用いるので、特に中種工程において、超強力小麦粉を単独で用いることから、イースト発酵による炭酸ガスの増加によりpHが低下することにより、本来伸展性が悪い超強力小麦粉のグルテンが程よく軟化することで、伸展性を向上させることができる。また、超強力小麦粉を用いた際の「ミキシングの長時間化による作業時間の増加」と「分割後の意図しない生地の収縮」も抑止することができる。
【0017】
更に、超強力小麦粉は、上記の長時間に亘る発酵によりグルテンの結合割合が良くなることと、生地中のpHの低下によるグルテンの軟化と伸展性が向上することで、ケービングを低減できるとともに、老化を抑制し、もちもち感を維持した食感や風味の良いパンを提供することができる。この結果、超強力小麦粉の利用を促進することができる。
【0018】
そして、必要に応じ、イーストフード,酸化剤,乳化剤等の改良添加剤を使用しない構成としている。上記の長時間に亘る発酵によりグルテンの結合割合を良くすることができ、伸展性のある生地にすることができるので、これらの改良添加剤を用いなくても良く、省力化を図ることができる。
【0019】
また、必要に応じ、上記中種工程で、中種用小麦粉としての超強力小麦粉を50重量部~60重量部用い、
上記本捏工程で、本捏用小麦粉として、タンパク含有率が9重量%~13重量%、エクステンソグラムのR/E値が0.8~2.0のもち性小麦粉を20重量部~45重量部用いるとともに、もち性小麦粉の他に、タンパク含有率が9重量%~13重量%、エクステンソグラムのR/E値が1~2.5の強力小麦粉を用いる構成としている。望ましくは、もち性小麦粉を25重量部~45重量部用い、他を強力小麦粉とする。
【0020】
これにより、本捏工程で、もち性小麦粉の他に、強力小麦粉を用いるので、これが、中種生地の超強力小麦粉と混合することから、より一層グルテンの結合割合を良好にすることができ、パン生地内のトータルの蛋白量の減少によるケービングの発生を抑制することができるとともに、もち性小麦粉の配合比率を増すことで、「もちもち」の食感を程よく維持することができる。
【0021】
より具体的には、上記中種工程において、用いる超強力小麦粉は、小麦品種「銀河のちから」の国内産小麦粉であり、該超強力小麦粉を、50重量部~60重量部用い、インスタントドライイースト0.05重量部~0.15重量部、脱脂粉乳1重量部~3重量部、食塩0.1重量部~0.3重量部及び水25重量部~40重量部を加えて混捏し、混捏した生地を、17℃~19℃で15時間~20時間発酵させる構成としている。
尚、本明細書において、小麦粉の量は、パン生地に含まれる全小麦粉の量を100重量部としたときの分量であり、他の成分の量は、パン生地に含まれる小麦粉100重量部に対する量である。
【0022】
「銀河のちから」(品種登録第23403号)は、1996年に、穂発芽性がやや難で縞萎縮病に強く、製めん適性の優れた「盛系C-138」を母とし、縞萎縮病に強く、製パン適性の優れた「東北205号」を父として人工交配が行われ、派生系統育種法で育成されたものである。これにより、上記の作用,効果をより一層確実に発揮させることができるとともに、国産小麦の利用促進を図ることができる。
【0023】
また、上記本捏工程において、用いるもち性小麦粉は、小麦品種「もち姫」の国内産小麦粉であることが有効である。「もち姫」(品種登録第18437号)は、高品質・安定多収を育種目標として1996年に東北農業試験場の温室にて「もち盛系C-D1478」を母とし、「F1=もち盛系C-G1517/盛系B-8605」を父として人工交配を行い、以後、系統育種法により選抜・固定を図ってきたものである。これにより、上記の作用,効果をより一層確実に発揮させることができるとともに、国産小麦の利用促進を図ることができる。
【0024】
更に、上記の本捏工程で、もち性小麦粉の他に強力小麦粉を用いる場合においては、上記本捏工程において、もち性小麦粉は、小麦品種「もち姫」の国内産小麦粉であり、25重量部~45重量部用いるとともに、強力小麦粉は、小麦品種「ゆきちから」の国内産小麦粉であり、5重量部~25重量部用いることが有効である。「ゆきちから」(品種登録第13529号)は、1976年に、「東北141号」を母とし、「さび系23号」を父として人工交配を行い、以後系統育種法で選抜・固定を図って育成された品種である。これにより、上記の作用,効果をより一層確実に発揮させることができるとともに、国産小麦の利用促進を図ることができる。
【0025】
この場合、必要に応じ、上記本捏工程において、上記中種生地に、少なくとも、インスタントドライイースト0.5重量部~1.5重量部、増粘多糖類(SLD)0.5重量部~1.5重量部、食塩1重量部~2重量部及び水30重量部~50重量部、油脂5重量部~7重量部、上白4重量部~6重量部、トレハロース2重量部~4重量部を加えて混捏してパン生地を作成する構成としている。上記の作用,効果をより一層確実に発揮させることができる。特に、増粘多糖類(SLD:パルプ由来CMC)を加えるが、これは、このSLDは生地中で膨潤し粘性を出し、含まれる繊維質がグルテンを補完し、超強力小麦粉と強力小麦粉との相乗効果に加えて、もち性小麦粉は糊化温度が低く、澱粉中のアミロペクチンの溶出に対処できるようにしている。
【0026】
即ち、原料の「銀河のちから」,「ゆきちから」,「もち姫」の特定の小麦に適した製法を提供できる。そして、外国産小麦やバイタルグルテンを用いずとも、これらの複数の小麦粉をあらかじめブレンドしたものではなく、「銀河のちから」のみを中種に用いることで、イースト発酵による炭酸ガスの増加によりグルテン質を軟化させて伸展性を向上させるとともに、超強力小麦粉を用いた際の「ミキシングの長時間化による作業時間の増加」と「分割後の意図しない生地の収縮」を解消し、充分なボリュームであり、ケービングも抑制した食感や風味の良いパンを提供することができる。
【0027】
要するに、本発明のパンの製造方法に係るパンは、中種用小麦粉を用いて中種生地を作成し、該中種生地にもち性小麦粉を含む本捏用小麦粉を加えてパン生地を作成し、その後、該パン生地を焼成してなるパンであって、
上記中種用小麦粉として、タンパク含有率が10重量%~13重量%、エクステンソグラムのR/E値が3.5~6.5の超強力小麦粉を50重量部~60重量部用い、
上記本捏用小麦粉として、タンパク含有率が9重量%~13重量%、エクステンソグラムのR/E値が0.8~2.0のもち性小麦粉を20重量部~45重量部の他に、タンパク含有率が9重量%~13重量%、エクステンソグラムのR/E値が1~2.5の強力小麦粉を5重量部~25重量部用いる構成としている。上記と同様の作用,効果を奏する。
【0028】
また、必要に応じ、上記中種用小麦粉の超強力小麦粉として、小麦品種「銀河のちから」の国内産小麦粉を、50重量部~60重量部用い、
上記本捏用小麦粉のもち性小麦粉として、小麦品種「もち姫」の国内産小麦粉を、25重量部~45重量部用い、
上記本捏用小麦粉の強力小麦粉として、小麦品種「ゆきちから」の国内産小麦粉を、5重量部~25重量部用いる構成としている。上記と同様の作用,効果を奏する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ケービングを極力低減するとともに、老化を抑制し、もちもち感を維持した食感や風味の良いパンの製造方法及びパンを提供することができる。特に、超強力小麦粉の利用を図ることができ、この結果、超強力小麦粉の利用、特に国産小麦の利用を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施の形態に係るパンの製造方法を示す工程図である。
図2】本発明の実施例で用いる小麦粉の性状を示す表図である。
図3】本発明の実施例で用いる小麦粉及び他の成分の分量を示す表図である。
図4】本発明の実施例に係る製造工程を示す図である。
図5】本発明の実施例に係る食味試験結果を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係るパンの製造方法について詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係るパンの製造方法は、図1に示すように、中種用小麦粉を用いて中種生地を作成する中種工程(1)と、中種工程で得られた中種生地にもち性小麦粉を含む本捏用小麦粉を加えてパン生地を作成する本捏工程(2)とを備え、この本捏工程後にパン生地を最終発酵させて焼成する。以下、詳しく説明する。
【0032】
(1)中種工程
中種用小麦粉として、タンパク含有率が10重量%~13重量%、エクステンソグラムのR/E値が3.5~6.5の超強力小麦粉を、パン生地に含まれる小麦粉100重量部の内50重量部~80重量部用いる。超強力小麦粉としては、例えば、「ゆめちから」(品種登録第20751号)、「銀河のちから」(品種登録第23403号)等を挙げることができる。
【0033】
そして、この超強力小麦粉に、少なくとも、イースト,脱脂粉乳,食塩及び水を加えて混捏し、混捏した生地を、17℃~20℃で10時間以上発酵させ、pHが、5.0≦pH≦5.6の中種生地を作成する構成としている。発酵条件は、好ましくは、17℃~20℃で15時間~24時間である。ここでは、イーストフード,酸化剤,乳化剤等の改良添加剤を使用しない構成としている。
【0034】
実施の形態では、超強力小麦粉として、小麦品種「銀河のちから」の国内産小麦粉を用い、この超強力小麦粉50重量部~60重量部に、インスタントドライイースト0.05重量部~0.15重量部、脱脂粉乳1重量部~3重量部、食塩0.1重量部~0.3重量部及び水25重量部~40重量部を加えて混捏し、混捏した生地を、17℃~19℃で15時間~20時間発酵させる。pHが、5.0≦pH≦5.6の中種生地を作成する。
【0035】
一般に、超強力小麦粉はグルテン質が強いので、従来法においては、生地のつながりが悪く、本捏工程で生地の伸びが悪くなるが、実施の形態では、15時間以上の長時間に亘り発酵させるので、グルテンの結合割合がよくなる。また、イーストにより発生したCOにより、生地のpHが下がって、グルテンの伸展性も良くなる。この場合、pHが5以下に下がると、酸味・酸臭が出る虞れがあるが、脱脂粉乳を混合したので、脱脂粉乳はpH緩衝作用を呈することから、生地のpHが5以下に下がらないようにすることができる。このため、本捏工程以降の生地の伸展性が良くなることから、釜伸びがよくなり、ソフトで風味の良いパンになる。
【0036】
また、超強力小麦粉は、複数種の小麦粉を予め全部をブレンドしたものではなく、単独で用いることから、イースト発酵による炭酸ガスの増加により、超強力小麦粉でありながら、グルテン質を軟化させて伸展性を向上させることができる。また、超強力小麦粉を用いた際の「ミキシングの長時間化による作業時間の増加」と「分割後の意図しない生地の収縮」も抑止することができる。
【0037】
(2)本捏工程
中種工程で得られた中種生地にもち性小麦粉を含む本捏用小麦粉を加えてパン生地を作成する。この本捏工程では、本捏用小麦粉として、タンパク含有率が9重量%~13重量%、エクステンソグラムのR/E値が0.8~2.0のもち性小麦粉を20重量部~45重量部用いるとともに、もち性小麦粉の他に、タンパク含有率が9重量%~13重量%、エクステンソグラムのR/E値が1~2.5の強力小麦粉を用いる。
【0038】
もち性小麦粉としては、例えば、「もち姫」(品種登録第18437号)、「はつもち」(品種登録第8361号)、「もち乙女」(品種登録第8362号)、「あけぼのもち」(品種登録第8363号)等を挙げることができる。強力小麦粉としては、従来から用いられている種々のものから選択することができる。
【0039】
実施の形態では、もち性小麦粉として、小麦品種「もち姫」の国内産小麦粉を、25重量部~45重量部用いる。強力小麦粉としては、小麦品種「ゆきちから」の国内産小麦粉を、5重量部~25重量部用いる。また、本捏工程においては、中種生地に、少なくとも、インスタントドライイースト0.5重量部~1.5重量部、増粘多糖類(SLD)0.5重量部~1.5重量部、食塩1重量部~2重量部及び水30重量部~50重量部、油脂5重量部~7重量部、上白4重量部~6重量部、トレハロース2重量部~4重量部を加えて混捏(ミキシング)する。
【0040】
この工程においては、もち性小麦粉の他に、強力小麦粉を用いるので、これが、中種生地の超強力小麦粉と混合することから、より一層グルテンの結合割合を良好にすることができる。
【0041】
その後、フロアタイム(例えば、15分~25分)、分割、ベンチタイム(例えば、20分~30分、室温)を経て成形し、ホイロ(例えば、30℃~40℃、40分~60分、湿度75%~85%)をとる。それから、例えば、オーブンで、パン生地を焼成する(例えば、200℃~220℃)。そして、放冷して(例えば、5℃~10℃)、パンの製品にする。
【0042】
このパンにおいては、超強力小麦粉は、上記の長時間に亘る発酵によるグルテンの結合割合が良くなることと、生地中のpHの低下によるグルテンの軟化と伸展性の向上が相まって、ケービングを低減できるとともに、老化を抑制し、もちもち感を維持した食感や風味の良いパンとなる。また、本捏工程で、もち性小麦粉の他に、強力小麦粉を用いるので、これが、中種生地の超強力小麦粉と混合することから、より一層グルテンの結合割合を良好にすることができ、パン生地内のトータルの蛋白量の減少によるケービングの発生を抑制することができるとともに、もち性小麦粉の配合比率を増すことで、「もちもち」の食感を程よく維持することができる。即ち、原料の「銀河のちから」,「ゆきちから」,「もち姫」の特定の小麦に適した製法を提供できる。
【実施例
【0043】
次に、実施例1,2を示す。実施例に係るパンは食パンである。実施例1,2において、図2に示すように、原料の小麦粉としては、「銀河のちから」,「もち姫」,「ゆきちから」を用いた。図2には、各小麦粉の蛋白質の量(重量%)とエクステンソグラムの各項目の測定値を示す。各原料毎に、ロットの異なる原料について、7~11回測定した。図2には、その最大値(MAX)、平均値及び最小値(MIN)を示す。
【0044】
<実施例1>
図3に示すように、「銀河のちから」を50重量部、「もち姫」を30重量部,「ゆきちから」を20重量部を用いた。また、図3には、原料小麦粉に加えた他の成分及びその量を示す。そして、図4に示す工程で、食パンを製造した。この食パンの製造において、ミキサーは、株式会社愛工舎製作所社製の「マイティ25」を用いた。また、オーブンは、株式会社フジサワ社製の電気平窯を用いた。実施例に係る食パンは、2斤型を用い、比容積を3.8~4.0とした。また、食パンのホワイトラインを10~15mm程とした。得られたパンは、ケービングが極めて少なかった。
【0045】
<実施例2>
図3に示すように、「銀河のちから」を50重量部、「もち姫」を40重量部,「ゆきちから」を10重量部用いた。他の成分及びその量は実施例1と同じである。また、製造工程も実施例と同じである。
【0046】
<試験例>
実施例1及び実施例2に係る食パンについて、食味試験を行った。各実施例の食パンを、厚切り(厚さ18mm)し、2cm×2cmにカットしたものを試験片とし、多数用意した。これらを、夫々、樹脂シートの袋に収納して、室温で保存した。製造日(0日)から1日毎に3日間、トースト等の加熱はせずに5名のパネラーに試食してもらい、クラム部分の品質について、4項目(硬さ、パサつき、もちもち感、風味)の評価を行った。結果を図5に示す。
【0047】
この結果から、実施例に係る食パンは、何れも、老化が抑制され、もちもち感を維持した食感や風味の良いことが分かった。
【0048】
尚、上記実施の形態において、原料の小麦粉として、「銀河のちから」,「もち姫」,「ゆきちから」を用いたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、他の品種の小麦粉を使用して良いことは勿論である。特に、国産の小麦粉の使用が望まれる。また、加える他の成分や量について、あるいは、温度や時間などの製造条件についても上述したものに限定されるものではなく、適宜変更して差支えない。本発明は、上述した本発明の実施の形態に限定されず、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施の形態に多くの変更を加えることが容易であり、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
国内においては、パン用の小麦は少なく、外国産に頼っているのが実情であるが、本発明によれば、国産の小麦粉の利用促進を図ることができる。例えば、国産の超強力小麦粉「銀河のちから」及び国産の強力小麦粉「ゆきちから」を併用することにより、国産のもち小麦粉「もち姫」の欠点を補完し、ケービングが少なく、老化が抑制され、その「もちもち感」を維持しつつ食感や風味の良いパンを提供することができる。そのため、国産小麦の消費拡大、ひいては食料自給率アップに繋げることができる。
【符号の説明】
【0050】
(1)中種工程
(2)本捏工程
【要約】
【課題】 超強力小麦の利用を図り、ケービングを極力低減するとともに、老化を抑制し、もちもち感を維持した食感や風味の良いパンの製造方法及びパンを提供する。
【解決手段】 中種用小麦粉を用いて中種生地を作成する中種工程と、中種生地にもち性小麦粉を含む本捏用小麦粉を加えてパン生地を作成する本捏工程とを備え、その後、パン生地を最終発酵させて焼成する方法であって、中種工程で、中種用小麦粉として、タンパク含有率が10重量%~13重量%、エクステンソグラムのR/E値が3.5~6.5の超強力小麦粉を50重量部~80重量部用い、この超強力小麦粉に、少なくとも、イースト,脱脂粉乳,食塩及び水を加えて混捏し、混捏した生地を、17℃~20℃で10時間以上発酵させ、pHが、5.0≦pH≦5.6の中種生地を作成する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5