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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】蛋白質加水分解物
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/06 20060101AFI20240227BHJP
   C07K 1/12 20060101ALI20240227BHJP
   C07K 2/00 20060101ALI20240227BHJP
   A23J 3/34 20060101ALI20240227BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20240227BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240227BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20240227BHJP
【FI】
C12P21/06
C07K1/12
C07K2/00
A23J3/34
A23J3/16
A23L5/00 M
A23L2/38 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019043154
(22)【出願日】2019-02-20
(65)【公開番号】P2020130159
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 亮介
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-058982(JP,A)
【文献】特開昭60-043344(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0210065(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0235946(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104161168(CN,A)
【文献】大豆たん白質研究,2018年,Vol. 21,p. 48-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/00 - 21/08
C07K 1/00 - 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来のプロテアーゼ活性を有する酵素製剤による大豆蛋白質の加水分解反応を、プロテアーゼ活性を有する植物原料の破砕物、ペースト又はエキスを併用し、グルタチオンの存在下(ただし、混合プロバイオティクス液非存在下)で行うことを特徴とする、大豆蛋白質加水分解物の製造方法。
【請求項2】
酵素製剤がパパインである、請求項1記載の大豆蛋白質加水分解物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により得られる、大豆蛋白質の乾燥重量100重量部あたり0.01~5.0重量部のグルタチオンを含む大豆蛋白質加水分解物。
【請求項4】
請求項3記載の大豆蛋白質加水分解物を含む飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆蛋白質加水分解物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康維持、動物愛護、環境保全等への意識の高まりとともに、植物性食品が注目されており、乳、肉、卵等の動物性タンパク質を植物性タンパク質に代替した植物性食品のニーズが高まっている。
【0003】
特許文献1には、蛋白質分解酵素による蛋白質の加水分解反応をデキストリンの存在下で行うことで、製造中に腐敗が生じにくい、蛋白質の加水分解物の製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、植物性原料から蛋白質含有液を調製し、これにフィチン酸分解酵素を作用させる工程を含む、水への分散性に優れ、容易に素早く溶解させることができる植物性分離蛋白の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4863859号公報
【文献】特許第5682697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水分散性に優れた大豆蛋白質の加水分解物及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、プロテアーゼ活性を有する植物由来の酵素製剤による大豆蛋白質の加水分解反応を、グルタチオンの存在下で行うことで、水分散性に優れた大豆蛋白質加水分解物を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]の態様に関する。
[1]植物由来のプロテアーゼ活性を有する酵素製剤による大豆蛋白質の加水分解反応を、グルタチオンの存在下で行うことを特徴とする、大豆蛋白質加水分解物の製造方法。
[2]酵素製剤がパパインである、[1]記載の大豆蛋白質加水分解物の製造方法。
[3]プロテアーゼ活性を有する組成物を併用して加水分解反応を行う、[1]又は[2]記載の大豆蛋白質加水分解物の製造方法。
[4][1]~[3]の何れかに記載の製造方法により得られる、大豆蛋白質加水分解物。
[5][4]記載の大豆蛋白質加水分解物を含む飲食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、水分散性に優れた大豆蛋白質加水分解物の製造方法を提供できる。また、水分散性に優れた大豆蛋白質加水分解物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に記載の大豆蛋白質加水分解物は、植物由来のプロテアーゼ活性を有する酵素製剤による大豆蛋白質の加水分解反応を、グルタチオンの存在下で行う工程を含むことで得られる。
【0011】
本発明に用いられる大豆蛋白質は、本発明の加水分解物が得られる大豆蛋白質であれば特に限定されないが、脱脂大豆から蛋白質を抽出、分離して得られる精製品を用いることができ、市販品を利用できる。
【0012】
本発明に用いられる、植物由来のプロテアーゼ活性を有する酵素製剤は、本発明の加水分解物が得られる酵素であれば特に限定されないが、パパイン、ブロメライン、フィシン、アクチニジン等の製剤が例示でき、精製パパイン(三菱ケミカルフーズ株式会社製)、パパインW-40(天野エンザイム株式会社製)、ブロメラインF(天野エンザイム株式会社製)等の酵素製剤を使用することができるが、特にパパイン製剤が好ましい。また、二種以上の酵素製剤を使用してもよい。大豆蛋白質と酵素製剤との比率は、適宜設定できるが、大豆蛋白質の乾燥重量100重量部あたり、酵素製剤として0.2重量部以上が好ましく、0.3重量部以上がより好ましく、上限は特に限定されないが、例えば、5重量%以下に設定するのが好ましい。
【0013】
さらに、酵素製剤にプロテアーゼ活性を有する組成物を添加して併用するのが好ましく、例えば、パパイア、パイナップル、イチジク、キウイ、ショウガ等、プロテアーゼ活性を有する植物原料の粉砕物、ペースト、エキス等を併用でき、パパイン製剤にプロテアーゼ活性を有するショウガエキスを併用するのが特に好ましい。大豆蛋白質と該組成物との比率は、適宜設定できるが、大豆蛋白質の乾燥重量100重量部あたり、固形分として0.05~10重量部が好ましく、0.1~5重量部がより好ましい。
【0014】
本発明において、プロテアーゼによる大豆蛋白質の加水分解反応における温度、時間及びpHは、適宜設定できるが、例えば、10~80℃、好ましくは20~70℃で、10分間~48時間、好ましくは30分間~24時間、より好ましくは1~18時間で行うことができ、pHは、例えばpH5.0~9.5、好ましくはpH6.0~9.0に調整できる。さらに、例えば85~130℃、6秒間~6時間、好ましくは90~100℃、3分間~3時間の加熱工程を加水分解反応後に行ってもよい。
【0015】
本発明に用いるグルタチオンは特に限定されないが、酸化型でも還元型でもよく、酵母、レバー、アボカド、ブロッコリー、アスパラガス、トマト等、グルタチオンを含む原料でもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。大豆蛋白質とグルタチオンとの比率は、水分散性の良い蛋白質分解物が得られる比率であれば特に限定されないが、大豆蛋白質の乾燥重量100重量部あたり、グルタチオン0.01~5.0重量部が好ましく、0.02~4.0重量部がより好ましく、0.05~3.0重量部がさらに好ましい。グルタチオンを含む原料を用いる場合は、グルタチオンとして前記割合を含むよう、該原料の使用量を調整するのが好ましい。
【0016】
上記に記載の方法により、本発明の大豆蛋白質加水分解物を製造することができる。さらに、ドラムドライ、エアードライ、スプレードライ、真空乾燥及び/又は凍結乾燥等を行い、乾燥品として利用してもよい。
【0017】
本発明の大豆蛋白質加水分解物は、水分散性に優れており、摂取時の粉っぽさや舌触りのざらつき感も低減されている。さらに、大豆蛋白質の加水分解で生じる苦味については、苦味マスキング剤を添加することで低減できる。例えば、酵素分解レシチンが例示でき、製剤としては、ベネコート(登録商標)BMI(花王株式会社製)等が使用できる。
【0018】
本発明の大豆蛋白質加水分解物は、水分散性に優れているため各種飲食品や調味料、機能性食品、飼料等に利用できる。添加量は特に限定されないが、好ましくは0.1~50%、より好ましくは0.5~30%、さらに好ましくは1.0~10%である。本発明の大豆蛋白質加水分解物は、ホエイ加水分解物と、重量当たりで同程度の全窒素含量のため、ホエイ加水分解物の代替品として利用可能で、乳アレルギーフリーやアニマルフリーの窒素含有組成物として有用である。
【実施例
【0019】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0020】
[調製]
生鮮ショウガ100gをミキサーにて粉砕後、搾汁することでショウガエキス80g(固形分:5%)を得た。
【0021】
[試験例1]
水道水350gに、酵母エキス(ハイチオンエキス(登録商標)YH-15、興人ライフサイエンス株式会社製、グルタチオン含量:15%)2g、前記ショウガエキス5g、及び精製パパイン(三菱ケミカルフーズ株式会社製、パパイア由来(実施例1))、スミチーム(登録商標)FP(新日本化学工業株式会社製、Aspergillus oryzae由来(比較例1-1))、スミチーム(登録商標)MP(新日本化学工業株式会社製、Aspergillus sp.由来(比較例1-2))又はスミチームLP(新日本化学工業株式会社製、A.oryzae由来(比較例1-3))1gを加えて溶解させた後、大豆から精製された粉末状大豆蛋白質(フジプロ(登録商標)F、不二製油株式会社製、全窒素含量:13.1%)100gを加えて、60℃で60分間撹拌処理することで、各大豆蛋白質酵素処理物450gを得た。各大豆蛋白質酵素処理物中の原料比、並びに大豆蛋白質(乾燥重量)100gあたりのグルタチオン含量、パパイン製剤含量及びショウガエキス固形分含量を表1に示した。
【0022】
[評価試験1]
実施例1及び比較例1-1~1-3で得られた各大豆蛋白質酵素処理物について、3名の習熟したパネラーにより流動性を目視で観察して評価し、結果を表1に示した。
評価は、液状化しており流動性があるものを「2」、ゲル状の粒々の集合体となっており流動性が無いものを「1」として評価し、数値を平均して、数値が1.5以上2.0以下を「○」、1.0以上1.5未満を「×」として、結果を表1に示した。
【0023】
【表1】
【0024】
表1より、パパイア(植物)由来のプロテアーゼ活性を有する酵素製剤で処理した実施例1では、流動性がある酵素処理物が得られたのに対し、Aspergillus(微生物)由来のプロテアーゼ活性を有する酵素製剤で処理した比較例1-1~1-3の酵素処理物は、何れも流動性が無かった。
よって、微生物由来のプロテアーゼ活性を有する酵素製剤では本発明の大豆蛋白質加水分解物が得られず、植物由来のプロテアーゼ活性を有する酵素製剤を用いることで、大豆蛋白質が加水分解され、本発明の大豆蛋白質加水分解物が得られることが分かった。
【0025】
[試験例2]
水道水210gに、前記酵母エキス1.8g、前記ショウガエキス3g及び前記精製パパイン0.6gを加えて溶解させた後、前記粉末状大豆蛋白質60gを加えて、70℃で120分間撹拌処理した後、90℃で10分間加熱処理することで、大豆蛋白質酵素処理物270gを得た(実施例2-1)。実施例2-1のショウガエキスの代わりに水道水を3g加えたものを実施例2-2、実施例2-1の精製パパインの代わりに水道水を0.6g加えたものを比較例2-1、実施例2-1の酵母エキスの代わりに水道水を1.8g加えたものを比較例2-2として同様に処理し、各大豆蛋白質処理物270gを得た。各大豆蛋白質処理物中の原料比、並びに大豆蛋白質(乾燥重量)100gあたりのグルタチオン含量、パパイン製剤含量及びショウガエキス固形分含量を表2に示した。
【0026】
[評価試験2]
実施例2-1、2-2、比較例2-1及び2-2で得られた各大豆蛋白質処理物について、3名の習熟したパネラーにより水分散性及び舌触りを評価し、結果を表2に示した。
水分散性は、各大豆蛋白質処理物100gに、熱水100gを注ぎ、80℃で1分間撹拌後、100メッシュ(目開き0.154mm)でろ過し、メッシュ上に残った残渣(粒状の塊)重量を測定することで評価した。数値が0以上10g未満を「◎」、10以上20未満を「○」、20以上40未満を「△」、40以上を「×」として、結果を表2に示した。
舌触りは、各大豆蛋白質処理物10gに熱水90gを注ぎ、撹拌したものを、3名のパネラーにより、ざらつきにつき官能評価を行って評価した。ざらつきが、極めて弱いものを「4」、弱いものを「3」、強いものを「2」、極めて強いものを「1」として評価し、数値を平均して、数値が3.0以上4.0以下を「○」、2.0以上3.0未満を「△」、1.0以上2.0未満を「×」として、結果を表2に示した。
【0027】
【表2】
【0028】
表2より、グルタチオン存在下でパパイン製剤で処理した実施例2-1及び2-2では、水分散性が良く、ざらつきが弱い処理物が得られており、ショウガエキスを併用することでさらに水分散性が高められ、ざらつきも極めて弱くなっていたのに対し、グルタチオン又はパパイン製剤の何れかを含まない状態で処理した比較例2-1及び2-2では、水分散性が悪く、ざらつきも極めて強いものとなっていた。
尚、目視での流動性確認は、実施例2-1及び2-2で得られたものは何れも流動性があり、比較例2-1及び2-2で得られたものは何れも流動性が無かった。
よって、グルタチオン又はパパイン製剤の何れかを含まない処理条件では本発明の大豆蛋白質加水分解物が得られず、グルタチオン存在下でパパイン製剤で処理することで、本発明の大豆蛋白質加水分解物が得られ、さらに、ショウガエキスを併用することで、より水分散性や舌触りが良くなった大豆蛋白質加水分解物が得られることが分かった。
【0029】
[試験例3]
水道水210gに、前記酵母エキス1.8g、前記ショウガエキス3g、及び前記精製パパイン0.2g(実施例3-1)、0.4g(実施例3-2)、0.6g(実施例3-3)、0.8g(実施例3-4)又は0.1g(比較例3)を加えて溶解させた後、前記粉末状大豆蛋白質60gを加えて、70℃で120分間撹拌処理した後、90℃で10分間加熱処理することで、各大豆蛋白質酵素処理物270gを得た。
【0030】
[評価試験3]
実施例3-1~3-4及び比較例3で得られた各大豆蛋白質酵素処理物について、評価試験2と同様に3名の習熟したパネラーにより水分散性及び舌触りを評価し、結果を表3に示した。
【0031】
【表3】
【0032】
表3より、乾燥大豆蛋白質100gあたりパパイン製剤を0.33~1.3g添加して処理した実施例3-1~3-4では、水分散性が良く、ざらつきが弱い処理物が得られたのに対し、乾燥大豆蛋白質100gあたりパパイン製剤を0.08又は0.17g添加して処理した比較例3-1又は3-2では、水分散性が悪く、ざらつきも極めて強いものとなっていた。
尚、目視での流動性確認は、実施例3-1~3-4で得られたものは何れも流動性があり、比較例3-1及び3-2で得られたものは何れも流動性が無かった。
よって、乾燥大豆蛋白質100gあたりパパイン製剤の添加量が0.2g未満の処理条件では、本発明の大豆蛋白質加水分解物が得られず、乾燥大豆蛋白質100gあたりパパイン製剤の添加量が0.2g以上の処理条件では、本発明の大豆蛋白質加水分解物が得られることが分かった。