(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】走性解析方法、がん評価方法、走性解析システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/483 20060101AFI20240227BHJP
G01N 33/493 20060101ALN20240227BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
G01N33/483 C
G01N33/493 Z
C12M1/34 Z
(21)【出願番号】P 2019221268
(22)【出願日】2019-12-06
【審査請求日】2022-11-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516266031
【氏名又は名称】株式会社HIROTSUバイオサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(72)【発明者】
【氏名】今泉 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 研二
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/047959(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/094066(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/081750(WO,A1)
【文献】特開2018-061515(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150569(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147268(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C12M 1/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器または
容器内の培地に基準点が設けられた容器を用いて、
対象試料を前記容器内に滴下した後に線虫の走性解析をする走性解析方法であって、
当該容器内の線虫の分布態様を撮像するステップと、
前記撮像して得られた画像内に含まれる、前記基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を検出し、当該位置を基準に、当該画像内における誘引領域及び/または忌避領域を決定するステップと、
前記決定された誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトを用いて、走性解析を実行するステップと、
を有する走性解析方法。
【請求項2】
前記走性解析を実行するステップにおいて、前記決定された誘引領域の線虫の計数及び/または前記決定された忌避領域の線虫の計数を実行し、計数結果に応じて、走性解析結果を出力する
請求項1に記載の走性解析方法。
【請求項3】
前記基準点は、前記容器を識別する容器識別情報が含まれるコードであり、
前記撮像するステップにおいて撮像された画像には、前記コードに対応するコードオブジェクトが含まれており、
前記コードオブジェクトから容器識別情報を読み取るステップと、
前記読み取った容器識別情報に関連付けて、前記走性解析を実行した結果である走性解析結果をストレージに記憶させるステップと、
を有する請求項1または2に記載の走性解析方法。
【請求項4】
前記対象試料が被験者の検体であって、
前記ストレージには、被験者を識別する被験者識別情報と容器識別情報が関連付けられて記憶されており、
前記ストレージを参照して、前記コードオブジェクトから読み取った容器識別情報に対応する被験者識別情報を特定するステップ
を有する請求項3に記載の走性解析方法。
【請求項5】
前記基準点は、第1の基準点及び/または第2の基準点を含む
請求項1または2に記載の走性解析方法。
【請求項6】
前記容器の内部を撮像する前に、前記容器の蓋を外すステップを有する
請求項1から5のいずれか一項に記載の走性解析方法。
【請求項7】
前記誘引領域及び/または忌避領域を決定するステップにおいて、前記基準点オブジェクトの位置と前記容器のオブジェクトの中心とを通る直線の基準線に対する角度を決定し、予め誘引領域及び/または忌避領域が設定されている基準フォーマットを当該角度、回転させて、前記誘引領域及び/または忌避領域を決定する
請求項1から6のいずれか一項に記載の走性解析方法。
【請求項8】
前記誘引領域及び/または忌避領域を決定するステップにおいて、前記基準点オブジェクトの位置と前記容器のオブジェクトの中心とを通る直線の基準線に対する角度を決定し、前記撮像して得られた画像を当該角度、回転させて、回転後の画像において前記誘引領域及び/または前記忌避領域を決定する
請求項1から6のいずれか一項に記載の走性解析方法。
【請求項9】
容器または容器内の培地に基準点が設けられた容器を用いて、
対象試料を前記容器内に滴下した後に線虫の走性解析をする走性解析方法であって、
前記基準点と撮像装置とを所定の位置関係に位置決めするステップと、
当該容器内の線虫の分布態様を前記撮像装置により撮像するステップと、
誘引領域及び/または忌避領域を決定するステップと、
前記決定された誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトを用いて、走性解析を実行するステップと、
を有する走性解析方法。
【請求項10】
前記誘引領域及び/または忌避領域を決定するステップにおいて、前記基準点オブジェクトの位置と前記容器のオブジェクトの中心とを通る直線の基準線に対する角度を決定し、前記容器を当該角度、回転させ、回転後の容器内の線虫の分布態様を撮像し、当該撮像された画像と、予め誘引領域及び/または忌避領域が設定されている基準フォーマットとを比較することによって、前記誘引領域及び/または前記忌避領域を決定する
請求項1から6のいずれか一項に記載の走性解析方法。
【請求項11】
前記対象試料が被験者の検体であって、
請求項1から10のいずれか一項に記載の走性解析方法と、
解析部が前記走性解析を実行することにより得られた走性解析結果を用いて、前記被験者のがんの可能性を評価するステップと、
を有するがん評価方法。
【請求項12】
容器また
容器内の培地に基準点が設けられた容器を用いて
対象試料を前記容器内に滴下した後に線虫の走性解析をする走性解析システムであって、
当該容器内の線虫の分布態様を撮像するよう撮像ユニットを制御する制御部と、
前記撮像して得られた画像内に含まれる、前記基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を検出し、当該位置を基準に、当該画像内における誘引領域及び/または忌避領域を決定し、前記決定された誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトを用いて、走性解析を実行する解析部と、
を有する走性解析システム。
【請求項13】
容器または
容器内の培地に基準点が設けられた容器を用いて、
対象試料を前記容器内に滴下した後に線虫の走性解析をするためのプログラムであって、コンピュータを、
当該容器内の線虫の分布態様を撮像して得られた画像内に含まれる、前記基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を検出し、当該位置を基準に、当該画像内における誘引領域及び/または忌避領域を決定し、前記決定された誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトを用いて、走性解析を実行する解析部
として実行させるためのプログラム。
【請求項14】
対象試料を容器内に滴下した後に線虫の走性解析をする走性解析方法であって、
当該容器内の線虫の分布態様を撮像するステップと、
誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトが占める領域の面積値を用いて、走性解析を実行するステップと、
を有する走性解析方法。
【請求項15】
前記対象試料が被験者の検体であって、
請求項14に記載の走性解析方法と、
解析部が前記走性解析を実行することにより得られた走性解析結果を用いて
、被験者のがんの可能性を評価するステップと、
を有するがん評価方法。
【請求項16】
対象試料を容器内に滴下した後に線虫の走性解析をする走性解析システムであって、
当該容器内の線虫の分布態様を撮像するよう撮像ユニットを制御する制御部と、
誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトが占める領域の面積値を用いて、走性解析を実行する解析部と、
を有する走性解析システム。
【請求項17】
対象試料を容器内に滴下した後に線虫の走性解析をするためのプログラムであって、コンピュータを、
当該容器内の線虫の分布態様を撮像して得られた画像内に含まれる、誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトが占める領域の面積値を用いて、走性解析を実行する解析部
として実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走性解析方法、がん評価方法、走性解析システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、線虫ががん患者の尿に対して誘引行動を示す走性を利用したがん検出方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Hirotsu T. et al., PLOS ONE, 1 0 (3): e 0118699, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の技術において、多くの尿検体を処理しようとすると、機械による自動化が必要になる。尿検体を容器(例えばシャーレ)内の培地に滴下し、線虫を培地に載置し、所定の時間経過してから、撮影装置の下まで移動させて撮像装置で、培地の線虫を撮像することで、線虫の走性を解析することが考えられる。この場合、容器の移動に伴って容器が回転する場合がある。このため、容器が点対称または線対称の形状であると、撮像された画像からは、容器内で尿検体を滴下した場所を特定できず、線虫が誘引行動を示しているかを判断することができないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、線虫が載置される容器が点対称または線対称の形状であっても、撮像された画像から線虫が誘引行動を示しているかを判断することを可能とする走性解析方法、がん評価方法、走性解析システム及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る走性解析方法は、当該容器または当該容器内の培地に基準点が設けられた容器を用いて、線虫の走性解析をする走性解析方法であって、当該容器内の線虫の分布態様を撮像するステップと、前記基準点に基づいて、誘引領域及び/または忌避領域を決定するステップと、前記決定された誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトを用いて、走性解析を実行するステップと、を有する。
【0007】
この構成によれば、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を基準にして、誘引領域と忌避領域を正しく設定することができるので、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、線虫の走性解析を正しく実行することができる。
【0008】
本発明の第2の態様に係る走性解析方法は、第1の態様に係る走性解析方法であって、前記走性解析を実行するステップにおいて、前記決定された誘引領域の線虫を計数し、及び/または前記決定された忌避領域の線虫を計数し、計数結果に応じて、走性解析結果を出力する。
【0009】
この構成によれば、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、走性解析結果を出力することができる。
【0010】
本発明の第3の態様に係る走性解析方法は、第1または2の態様に係る走性解析方法であって、前記基準点は、前記容器を識別する容器識別情報が含まれるコードであり、前記撮像するステップにおいて撮像された画像には、前記コードに対応するコードオブジェクトが含まれており、前記コードオブジェクトから容器識別情報を読み取るステップと、前記読み取った容器識別情報に関連付けて、前記走性解析を実行した結果である走性解析結果をストレージに記憶させるステップと、を有する。
【0011】
この構成によれば、容器識別情報と走性解析結果とを関連付けて管理することができるので、予め被験者と容器識別情報を関連付けて管理しておけば、容器識別情報から被験者と走性解析結果を特定することができるので、被験者の走性解析結果を取り違える可能性を低減することができる。
【0012】
本発明の第4の態様に係る走性解析方法は、第3の態様に係る走性解析方法であって、前記ストレージには、被験者を識別する被験者識別情報と容器識別情報が関連付けられて記憶されており、前記ストレージを参照して、前記コードオブジェクトから読み取った容器識別情報に対応する被験者識別情報を特定するステップを有する。
【0013】
この構成によれば、容器識別情報から被験者を特定することができるので、被験者の走性解析結果を取り違える可能性を低減することができる。
【0014】
本発明の第5の態様に係る走性解析方法は、第1または2の態様に係る走性解析方法であって、前記基準点は、第1の基準点及び/または第2の基準点を含む。
【0015】
この構成によれば、第1の基準点及び/または第2の基準点を参照して、誘引領域及び忌避領域を決定することができる。
【0016】
本発明の第6の態様に係る走性解析方法は、第1から5のいずれかの態様に係る走性解析方法であって、前記容器の内部を撮像する前に、前記容器の蓋を外すステップを有する。
【0017】
この構成によれば、容器の蓋を外して撮像するので、線虫の分布を精度良く把握でき、走性解析の精度を向上させることができる。
【0018】
本発明の第7の態様に係る走性解析方法は、第1から6のいずれかの態様に係る走性解析方法であって、前記誘引領域及び/または忌避領域を決定するステップにおいて、前記基準点オブジェクトの位置と前記容器のオブジェクトの中心とを通る直線の基準線に対する角度を決定し、予め誘引領域及び/または忌避領域が設定されている基準フォーマットを当該角度、回転させて、前記誘引領域及び/または前記忌避領域を決定する。
【0019】
この構成によれば、適切な誘引領域及び/または忌避領域を人手によらず決定することができる。
【0020】
本発明の第8の態様に係る走性解析方法は、第1から6のいずれかの態様に係る走性解析方法であって、前記誘引領域及び/または忌避領域を決定するステップにおいて、前記基準点オブジェクトの位置と前記容器のオブジェクトの中心とを通る直線の基準線に対する角度を決定し、当該角度、前記撮像して得られた画像を回転させて、前記誘引領域及び/または前記忌避領域を決定する。
【0021】
この構成によれば、適切な誘引領域及び/または忌避領域を人手によらず決定することができる。
【0022】
本発明の第9の態様に係る走性解析方法は、容器または容器内の培地に基準点が設けられた容器を用いて、線虫の走性解析をする走性解析方法であって、前記基準点と撮像装置とを所定の位置関係に位置決めするステップと、当該容器内の線虫の分布態様を前記撮像装置により撮像するステップと、誘引領域及び/または忌避領域を決定するステップと、前記決定された誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトを用いて、走性解析を実行するステップと、を有する。
【0023】
この構成によれば、撮像された画像において容器の向きと位置が常に同じであるため、撮像画像から誘引領域と忌避領域の位置を補正する必要がなく、線虫の走性解析を正しく実行することができる。
【0024】
本発明の第10の態様に係る走性解析方法は、第1から6のいずれかの態様に係る走性解析方法であって、前記誘引領域及び/または忌避領域を決定するステップにおいて、前記基準点オブジェクトの位置と前記容器のオブジェクトの中心とを通る直線の基準線に対する角度を決定し、当該角度、前記容器を回転させ、回転後の容器内の線虫の分布態様を撮像し、当該撮像された画像と、予め誘引領域及び/または忌避領域が設定されている基準フォーマットとを比較することによって、前記誘引領域及び/または前記忌避領域を決定する。
【0025】
この構成によれば、適切な誘引領域及び/または忌避領域を人手によらず決定することができる。
【0026】
本発明の第10の態様に係るがん評価方法は、第1から6のいずれかの態様に係る走性解析方法と、前記走性解析を実行することにより得られた走性解析結果を用いて、前記被験者のがんの可能性を評価するステップと、を有する。
【0027】
この構成によれば、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を基準にして、誘引領域と忌避領域を正しく設定することができるので、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、走性解析の評価の精度を維持することができる。
【0028】
本発明の第11の態様に係る走性解析システムは、当該容器または当該容器内の培地に基準点が設けられた容器を用いて、線虫の走性解析をする走性解析システムであって、線虫及び被験者の検体が容器に滴下された後に、当該容器内の線虫の分布態様を撮像するよう撮像ユニットを制御する制御部と、前記撮像して得られた画像内に含まれる、前記基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を検出し、当該位置を基準に、誘引領域及び/または忌避領域を決定し、前記決定された誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトを用いて、走性解析を実行する解析部と、を有する。
【0029】
この構成によれば、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を基準にして、誘引領域と忌避領域を正しく設定することができるので、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、線虫の走性解析を正しく実行することができる。
【0030】
本発明の第12の態様に係るプログラムは、当該容器または当該容器内の培地に基準点が設けられた容器を用いて、線虫の走性解析をするためのプログラムであって、コンピュータを、線虫及び被験者の検体が容器に滴下された後に当該容器内の線虫の分布態様を撮像して得られた画像内に含まれる、前記基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を検出し、当該位置を基準に、誘引領域及び/または忌避領域を決定し、前記決定された誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトを用いて、走性解析を実行する解析部として実行させるためのプログラムである。
【0031】
この構成によれば、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を基準にして、誘引領域と忌避領域を正しく設定することができるので、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、線虫の走性解析を正しく実行することができる。
【0032】
本発明の第13の態様に係る走性解析方法は、線虫の走性解析をする走性解析方法であって、線虫及び被験者の検体が容器に滴下された後に、当該容器内の線虫の分布態様を撮像するステップと、誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトが占める領域の面積値を用いて、走性解析を実行するステップと、を有する。
【0033】
本発明の第14の態様に係るがん評価方法は、第13の態様に係る走性解析方法と、前記走性解析を実行することにより得られた走性解析結果を用いて、前記被験者のがんの可能性を評価するステップと、を有する。
【0034】
本発明の第15の態様に係る走性解析システムは、線虫の走性解析をする走性解析システムであって、線虫及び被験者の検体が容器に滴下された後に、当該容器内の線虫の分布態様を撮像するよう撮像ユニットを制御する制御部と、誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトが占める領域の面積値を用いて、走性解析を実行する解析部と、を有する。
【0035】
本発明の第16の態様に係るプログラムは、線虫の走性解析をするためのプログラムであって、コンピュータを、線虫及び被験者の検体が容器に滴下された後に当該容器内の線虫の分布態様を撮像して得られた画像内に含まれる、誘引領域及び/または忌避領域における線虫のオブジェクトが占める領域の面積値を用いて、走性解析を実行する解析部として実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0036】
本発明の一態様によれば、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を基準にして、誘引領域と忌避領域を正しく設定することができるので、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、線虫の走性解析を正しく実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本実施形態に係る走性解析システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】容器を搬送する前の状態における容器取出ユニット13の概略斜視図の一例である。
【
図3】容器を搬送した後の状態における容器取出ユニット13の概略斜視図の一例である。
【
図4】本実施形態に係るシャーレを上から見た図の一例である。
【
図5】本実施形態に係る走性解析の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】ストレージに保存されている検査情報のテーブルの一例である。
【
図8】撮像画像中において誘引領域及び忌避領域の一例を示す模式図である。
【
図9】本実施形態に係る走性解析方法の一例を示すフローチャートである。
【
図10】変形例に係るシャーレを上から見た図の一例である。
【
図12】変形例において撮像画像中の誘引領域及び忌避領域の一例を示す模式図である。
【
図13】予めストレージ16に記憶されている基準フォーマットの一例である。
【
図14】変形例において、撮像画像中の誘引領域及び忌避領域の一例を示す模式図である。
【
図15】第2の実施形態に係る走性解析システムの概略構成図である。
【
図16】第2の実施形態に係る走性解析装置のブロック図である。
【
図17】走性解析が行われるシャーレの画像の概略模式図である。
【
図18】第2の実施形態に係る処理の工程を示す図である。
【
図19】誘引領域及び忌避領域における線虫のオブジェクトの面積値のヒストグラムの一例である。
【
図20】走性解析値の第1の算出方法を用いた処理の一例を示すフローチャートである。
【
図21】全ての走性解析領域(誘引領域および忌避領域の両方)における線虫のオブジェクトの数と線虫のオブジェクトの面積値のヒストグラムの一例である。
【
図22】走性解析値の第2の算出方法を用いた処理の一例を示すフローチャートである。
【
図23】
図22のステップS460の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0039】
本実施形態では、「線虫」とは、セノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)を意味する。線虫は、生物研究においてモデル生物として世界中で広く飼育され、研究されているポピュラーな生物であり、飼育が容易で、嗅覚が優れているという特徴を有する。
【0040】
本実施形態において、「がん」とは、胃がん、直腸結腸がん、食道がん、すい臓がん、前立腺がん、胆管がん、肺がん、血液がん、白血病、リンパ腫等のがん種を意味する。
【0041】
本実施形態において、「走性行動」とは、誘引行動または忌避行動を意味する。誘引行動とは、ある物質からの物理的距離を縮める行動を意味し、忌避行動とは、ある物質からの物理的距離を広げる行動を意味する。誘引行動を誘発する物質を誘引物質といい、忌避行動を誘発する物質を忌避物質という。また、本実施形態において、「走性解析」とは、走性行動を解析することをいう。
【0042】
本実施形態において、「基準点」とは、容器の底面の当該底面を含む平面における回転角度を認識するために容器や培地に設けられる印(例えば、印字、模様など)または形態変化(例えば、溝、突起など)をいう。例えば、円形シャーレの場合、非対称形状の基準点を設けるか、または任意の形状の基準点を底面の中心点以外に設けることにより誘引領域と忌避領域を判別することができる。
【0043】
本実施形態に係る走性解析方法及び走性解析システムは、一例として線虫の走性行動を指標に被験者のがんの可能性を評価するのに使用する。但し、本実施形態に係る走性解析方法及び走性解析システムは、線虫に限らず他の生物や細胞の走性解析にも使用可能であり、がんの可能性評価に限らず、別の疾患の可能性を評価するのにも適用可能である。
【0044】
本実施形態に係る容器は、線対称または点対称な形状を内底面に有する容器であり、本実施形態ではその一例として容器は点対称な形状を有する容器であり、具体的には円形のシャーレであるものとして説明する。また、本実施形態では、容器または当該容器内の培地に、点対称となる対称点(ここでは円形のシャーレなのでシャーレの中心)以外の領域に基準点が設けられているものとして説明する。
なお、容器が線対称な形状を有する容器の場合には、容器または当該容器内の培地に、対称軸以外の領域に基準点が設けられる。
【0045】
図1は、本実施形態に係る走性解析システムの概略構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係る走性解析システム1は、プロセッサ10と、容器供給ユニット11と、静置台12と、容器取出ユニット13と、撮像ユニット15と、ストレージ16とを備える。
【0046】
容器供給ユニット11は、線虫及び被験者の検体(例えば、尿検体)が滴下された後の容器を、静置台12まで運ぶユニットである。線虫及び被験者の検体が滴下された後、この容器は蓋がされ、この容器は蓋がされた状態で静置台12まで運ばれる。ここで容器供給ユニット11は、容器を予め決められた位置まで運ぶ供給コンベア111と、容器をその予め決められた位置から静置台12まで運ぶ供給ロボット112とを備える。
【0047】
静置台12は、所定の時間だけ、例えば室温で静置するための台である。この所定の時間で、線虫が検体に対して、誘引行動または忌避行動をする。
【0048】
容器取出ユニット13は、容器を取り出して、容器を予め決められた撮像位置(例えば、撮像ユニット15の焦点位置)まで運ぶユニットである。容器取出ユニット13は一例として、容器を静置台12から取り出す取出ロボット131と、容器を予め決められた撮像位置まで搬送する容器搬送ユニット132と、容器の蓋を取り外す蓋取外ユニット133と、センサ134とを備える。
【0049】
ストレージ16には、プロセッサ10が読み出して実行するためのプログラムが記憶されている。プロセッサ10は、ストレージ16に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、制御部14及び解析部17として機能する。
制御部14は、容器供給ユニット11と、容器取出ユニット13と、撮像ユニット15を制御する。
またストレージ16には、画像データベース(画像DBともいう)161と、検査データベース(検査DBともいう)162が保存されている。
撮像ユニット15は、容器取出ユニット13によって運ばれた容器内の線虫の分布態様を撮像し、撮像して得られた画像を、ストレージ16の画像データベース161に保存する。
【0050】
解析部17は、ストレージ16の画像データベース161から画像を読み出し、撮像して得られた画像内を用いて、走性解析を実行する。
【0051】
そして、解析部17は、走性解析を実行することにより得られた走性解析結果を用いて、当該被験者のがんの可能性を評価する。解析部17は、走性解析結果と被験者のがんの可能性の評価結果(以下、がん評価結果ともいう)を検査情報として、ストレージ16の検査データベース162に保存する。
【0052】
図2は、容器を搬送する前の状態における容器取出ユニット13の概略斜視図の一例である。
図2において、容器搬送ユニット132は、容器の一例であるシャーレ21を把持するロボットハンド1321を有する。一方、蓋取外ユニット133は、シャーレ21の蓋22を把持するアーム1331を有する。
【0053】
センサ134は、容器搬送ユニット132のロボットハンド1321が予め決められた位置にあることか否かを検出し、検出結果を制御部14へ出力する。センサ134は、ロボットハンド1321が予め決められた位置にあることか否かを検出した場合、制御部14は、蓋取外ユニット133のアーム1331を、上記の予め決められた位置まで移動させ、アーム1331で、シャーレ21の蓋22を把持するよう制御する。
【0054】
図2に示すように、撮像ユニット15は、支柱151に固定され、この支柱151は、ベース部材152の上に固定されている。また、光源153が支柱151に固定されている。蓋22が外されたシャーレ21が撮像ユニット15の真下に、容器搬送ユニット132によって搬送される。
【0055】
図3は、容器を搬送した後の状態における容器取出ユニット13の概略斜視図の一例である。
図3に示すように、蓋22が外されたシャーレ21が一例として撮像ユニット15の真下に移動される。このシャーレ21の位置は、撮像ユニット15の焦点距離だけ離れていることが好ましい。光源153によってシャーレ21の底から光で照らされた状態で、撮像ユニット15によってシャーレ21内の線虫の分布態様が撮像される。
【0056】
図4は、本実施形態に係るシャーレを上から見た図の一例である。
図4に示すように、シャーレ21の底面には一例として、プラスを表す基準点S1と、マイナスを表す基準点S2とが設けられている。
図4では一例として、基準点S1、S2は、シャーレ21の中心に対して点対称な位置に設けられている。すなわち、基準点S1、S2は、シャーレ21の中心からの距離が同じであり、基準点S1、S2、及びシャーレ21の中心は同一の直線状にある。また、基準点S1、S2がシャーレ21に印字されていてもよいし、シャーレ21に凹凸を設けて表現されていてもよい。なお、基準点S1、S2が印字された紙が、印字面を貼付面としてシャーレの底面に貼付されていてもよい。
【0057】
なお、この基準点S1、S2のシャーレ21の底面内における位置は、一例であって、これに限ったものではない。また、基準点S1、S2は、シャーレ21の側面にあってもよいし、培地に設けられていてもよい。
【0058】
図5は、本実施形態に係る走性解析の処理の一例を示すフローチャートである。
(ステップS10)まず、水平位置が基準点S1及び基準点S2の位置に該当する培地の上に、麻酔を滴下する。これにより、この基準点S1または基準点S2の位置もしくはその近傍に到達すると、麻酔により動けなくなる。
【0059】
(ステップS20)次に、シャーレ21の略中心の位置に該当する培地の上に、線虫を滴下し、バッファを不織布やディスペンサーなどで除去する。
【0060】
(ステップS30)次に、水平位置が基準点S1の位置に該当する培地の上に、がん患者由来の尿検体を滴下する。これにより、線虫が尿のにおいに誘引されて、この基準点S1の位置もしくはその近傍に到達すると、麻酔により動けなくなる。
なお、ステップS10~S30の順序は異なっていてもよい。
【0061】
(ステップS40)次に、容器供給ユニット11は、シャーレ21を静置台12に搬送する。
【0062】
(ステップS50)次に、シャーレ21を静置台12に所定の時間、静置する。
【0063】
(ステップS60)次に、取出ロボット131がシャーレ21を静置台12から取り出し、蓋取外ユニット133が、シャーレ21から蓋22を取り外す。このように、シャーレ21の内部を撮像する前に、シャーレ21の蓋22を外す。
【0064】
(ステップS70)次に、容器搬送ユニット132は、シャーレ21を予め決められた撮像位置まで搬送する。
【0065】
(ステップS80)次に、撮像ユニット15は、シャーレ21内の線虫の分布態様を撮像する。
【0066】
(ステップS90)次に、解析部17は、走性解析を実行する。
【0067】
(ステップS100)次に、解析部17は、走性解析を実行することにより得られた走性解析結果を用いて、前記被験者のがんの可能性を評価する。そして解析部17は、走性解析結果と被験者のがんの可能性の評価結果を検査情報として、ストレージ16の検査データベース162に保存する。これにより、
図6に示すような検査情報が蓄積される。
【0068】
図6は、ストレージに保存されている検査情報のテーブルの一例である。
図6に示すように、テーブルT1には、被験者を識別する被験者識別情報である被験者ID、容器(ここでは一例としてシャーレ)を識別する容器識別情報の一例であるシャーレID、静置開始日時、静置終了日時、静置時の温度、撮影画像を識別する撮影ID、誘引線虫数、忌避線虫数、走性インデックス、がん評価結果の組のレコードが蓄積されている。ここで走性インデックスは、走性解析結果の一例であり、その式は例えば、走性インデックス=(誘引行動を示す線虫の数-忌避行動を示す線虫の数)/線虫の総数である。
【0069】
図7は、本実施形態に係る撮像画像の模式図である。
図7に示すように、撮像画像には、シャーレ21のオブジェクトOB3と、基準点S1のオブジェクトOB1と、基準点S2のオブジェクトOB2が示されている。
【0070】
図8は、撮像画像中において誘引領域及び忌避領域の一例を示す模式図である。
図8に示すように、撮像画像G1bにおいてシャーレ21のオブジェクトOB3の中心P1は、例えばシャーレ21のオブジェクトOB3の輪郭の接線に直交する直線を輪郭の異なる2点の位置で引き、この2本の直線が交わる点として抽出される。シャーレ21のオブジェクトOB3の中心P1と基準点S1のオブジェクトOB1とを結ぶ直線L0に沿って中心P1から距離d1だけオブジェクトOB1に近づいた位置において、直線L0に直交する直線L1を引くことができる。また、直線L0において、中心P1から距離d1だけオブジェクトOB1から離れた位置において直線L0に直交する直線L2を引くことができる。この直線L1とシャーレ21のオブジェクトOB3の輪郭で囲まれた領域R1が誘引領域である。この直線L2とシャーレ21のオブジェクトOB3の輪郭で囲まれた領域R2が忌避領域である。
【0071】
図8の例の場合、誘引領域の決定方法として、解析部17は例えば、撮像画像G1bから、シャーレ21のオブジェクトOB3の中心P1を抽出する。また、解析部17は例えば、撮像画像G1bから、基準点S1のオブジェクトOB1の位置を検出する。解析部17は例えば、シャーレ21のオブジェクトOB3の中心P1と基準点S1のオブジェクトOB1とを結ぶ直線L0に沿って中心P1から距離d1だけオブジェクトOB1に近づいた位置において直線L0に直交する直線L1を設定し、この直線L1とシャーレ21のオブジェクトOB3の輪郭で囲まれた領域R1を誘引領域として決定する。また、忌避領域の決定方法として、
図8の例の場合、直線L0に沿って中心P1から距離d1だけオブジェクトOB1から離れた位置において直線L0に直交する直線L2を設定し、この直線L2とシャーレ21のオブジェクトOB3の輪郭で囲まれた領域R2を忌避領域として決定する。
【0072】
なお、解析部17は、撮像画像G1bから、シャーレ21のオブジェクトOB3の中心P1を抽出しなくてもよい。基準点S1と基準点S2がシャーレ21の中心を挟んで点対称の位置にある場合、解析部17は、基準点S1のオブジェクトOB1と基準点S2のオブジェクトOB2とを撮像画像G1bから抽出し、基準点S1のオブジェクトOB1の中心と、基準点S2のオブジェクトOB2の中心とを通る直線を、直線L0に設定してもよい。
【0073】
このように解析部17は、ストレージ16の画像データベース161から画像を読み出し、撮像して得られた画像内に含まれる、当該基準点に対応する基準点オブジェクト(例えば、
図7及び
図8の基準点S1のオブジェクトOB1)の位置を検出し、当該位置を基準に、誘引領域(例えば
図8の領域R1)と忌避領域(例えば
図8の領域R2)を決定する。そして、解析部17は、決定された誘引領域及び忌避領域における線虫のオブジェクトを用いて、走性解析を実行する。
【0074】
その際、解析部17は、誘引領域における線虫のオブジェクトの数を、誘引行動を示す線虫の数として決定する。また、解析部17は、忌避領域における線虫のオブジェクトの数を、忌避行動を示す線虫の数として決定する。
【0075】
続いて、
図9を用いて、
図5のステップS90の走性解析処理の具体例について説明する。
図9は、本実施形態に係る走性解析方法の一例を示すフローチャートである。
(ステップS110)まず、プロセッサ10の解析部17は画像データを画像DB161から取得する。
【0076】
(ステップS120)次に、解析部17は画像データにおけるシャーレ位置を検出する。
【0077】
(ステップS130)次に、解析部17は画像データにおけるシャーレの基準点を検出する。例えば画像データが
図8の場合、解析部17は、画像データG1bから、基準点S1のオブジェクトOB1及び/または基準点S2のオブジェクトOB2を検出する。
【0078】
(ステップS140)次に、解析部17はシャーレの基準点に合わせて線虫の走性解析領域を設定する。その際、例えば画像データが
図8の場合、解析部17が、基準点S1のオブジェクトOB1及び/または基準点S2のオブジェクトOB2を基準に、
図8の領域R1を誘引領域に決定し、
図8の領域R2を忌避領域に決定する。
【0079】
(ステップS150)次に、解析部17は、ステップS140で決定された解析領域毎に画像解析を行う。その際、例えば、解析部17は、画像データ中の線虫の輪郭を際立たせる画像処理を実行する。
【0080】
(ステップS160)次に、解析部17は解析領域毎の線虫をカウントする。その際、例えば、解析部17は画像データ中の線虫の領域を解析領域毎に計数する。
【0081】
(ステップS170)次に、解析部17は、解析領域毎の線虫のカウント値から走性解析を実行する。その際、例えば、解析部17は走性インデックスを算出する。このように、決定された誘引領域の線虫を計数し、決定された忌避領域の線虫を計数し、計数結果に応じて、走性解析結果を出力する。
【0082】
以上のように、本実施形態に係る走性解析方法は、当該容器または当該容器内の培地に対称軸以外の領域もしくは対称点以外の領域に基準点が設けられた容器を用いて、線虫の走性解析をする走性解析方法である。この走性解析方法は、線虫及び被験者の検体が容器に滴下された後に、当該容器内の線虫の分布態様を撮像するステップと、前記撮像して得られた画像内に含まれる、前記基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を検出するステップと、当該位置を基準に、誘引領域と忌避領域を決定するステップと、前記決定された誘引領域及び忌避領域における線虫のオブジェクトを用いて、走性解析を実行するステップと、を有する。
【0083】
この構成により、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を基準にして、誘引領域と忌避領域を正しく設定することができるので、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、線虫の走性解析を正しく実行することができる。
【0084】
なお、
図9においてステップS130を省略することもできる。この場合、
図5のステップS70の撮像位置において容器の基準点とカメラとが所定の位置関係になるように容器またはカメラを位置決めしてもよい。この構成により、撮像された画像において容器の向きと位置が常に同じであるため、撮像画像から誘引領域と忌避領域の位置を補正する必要がなく、線虫の走性解析を正しく実行することができる。
【0085】
また、本実施形態では、解析部17は、走性解析を実行することにより得られた走性解析結果を予め決められた評価ルールに適用して、被験者のがんの可能性を評価する。例えば当該評価ルールが閾値との大小関係でがんの可能性を評価する場合、解析部17は、走性解析結果が閾値より高い場合にがんの可能性が高いと評価し、走性解析結果が閾値以下の場合にがんの可能性が低いと評価してもよい。これにより、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、がんの可能性の評価の精度を維持することができる。
【0086】
なお、本実施形態では、シャーレの底面にプラス及びマイナスの基準点をつけたが、これに限らず、シャーレの側面に基準点を設けてもよいし、培地に基準点を設けてもよい。
【0087】
<変形例>
なお、本実施形態では、シャーレにプラス及びマイナスの基準点をつけたが、基準点は、これに限ったものではない。基準点は、容器を識別する容器識別情報が含まれるコード(例えば、2次元コード)であってもよい。
【0088】
図10は、変形例に係るシャーレを上から見た図の一例である。
図10に示すように、シャーレ21bの底面には、2次元コードS3が設けられている。例えば、2次元コードがシャーレ21bに印字されていてもよいし、シャーレ21bに凹凸を設けて表現されていてもよい。なお、2次元コードが印字された紙が、印字面を貼付面としてシャーレ21bの底面に貼付されていてもよい。
【0089】
図11は、変形例に係る撮像画像の模式図である。
図11に示すように、撮像画像G2には、シャーレに対応するオブジェクトOB12内に、2次元コードS3に対応するコードオブジェクトOB11が含まれている。このように、撮像された画像には、コードに対応するコードオブジェクトが含まれている。
【0090】
この場合において、解析部17は、コードオブジェクトOB11から容器識別情報(ここでは一例としてシャーレID)を読み取る。そして、解析部17は、読み取った容器識別情報(ここでは一例としてシャーレID)に関連付けて、走性解析を実行した結果である走性解析結果をストレージ16に記憶させる。
【0091】
この構成により、容器識別情報と走性解析結果とを関連付けて管理することができるので、予め被験者識別情報と容器識別情報を関連付けて管理しておけば、容器識別情報から被験者と走性解析結果を特定することができるので、被験者の走性解析結果を取り違える可能性を低減することができる。
【0092】
なお、尿検体を容器(ここでは一例としてシャーレ)に滴下した際に、当該尿検体の被験者と容器との組み合わせが決まるので、その際に、被験者を識別する被験者識別情報と、容器識別情報を関連付けてストレージ16に記憶させて、被験者と容器識別情報を関連付けて管理してもよい。その場合、解析部17は、ストレージ16を参照して、コードオブジェクトから読み取った容器識別情報に対応する被験者識別情報を特定してもよい。この構成により、容器識別情報から被験者を特定することができるので、被験者の走性解析結果を取り違える可能性を低減することができる。
【0093】
同様に、解析部17は、ストレージ16を参照して、コードオブジェクトから読み取った容器識別情報に対応する、被験者識別情報と走性解析結果の組または被験者識別情報とがん評価結果の組を出力してもよい。この構成により、被験者毎の走性解析結果またはがん評価結果を得ることができるので、被験者の走性解析結果またはがん評価結果を取り違える可能性を低減することができる。
【0094】
以上、本実施形態に係る走性解析システムは、当該容器または当該容器内の培地に基準点が設けられた容器を用いて、線虫の走性解析をする走性解析システムである。本実施形態に係る走性解析システムは、線虫及び被験者の検体が容器に滴下された後に、当該容器内の線虫の分布態様を撮像するよう撮像ユニットを制御する制御部と、前記撮像して得られた画像内に含まれる、前記基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を検出し、当該位置を基準に、誘引領域と忌避領域を決定し、前記決定された誘引領域及び忌避領域における線虫のオブジェクトを用いて、走性解析を実行する解析部と、を有する。
【0095】
この構成により、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、基準点に対応する基準点オブジェクトの位置を基準にして、誘引領域と忌避領域を正しく設定することができるので、底面に対向する位置から容器がどの回転角度の状態で撮影されたとしても、線虫の走性解析を正しく実行することができる。
【0096】
図12は、変形例において撮像画像中の誘引領域及び忌避領域の一例を示す模式図である。
図12に示すように、シャーレ21のオブジェクトOB12の中心P2と2次元コードのコードオブジェクトOB11とを結ぶ直線L10において、中心P2から距離d1だけコードオブジェクトOB11に近づいた位置において直線L10に直交する直線L11を引くことができる。また、直線L10において、中心P2から距離d1だけコードオブジェクトOB11から離れた位置において直線L10に直交する直線L12を引くことができる。この直線L11とシャーレ21のオブジェクトOB12の輪郭で囲まれた領域R3が誘引領域である。この直線L12とシャーレ21のオブジェクトOB12の輪郭で囲まれた領域R4が忌避領域である。
【0097】
この場合、解析部17は、ストレージ16の画像データベース161から画像を読み出し、撮像して得られた画像内に含まれる、2次元コードに対応するコードオブジェクト(例えば、
図12のコードオブジェクトOB11)の位置を検出し、当該位置を基準に、誘引領域(例えば
図12の領域R3)と忌避領域(例えば
図12の領域R4)を決定し、決定された誘引領域及び忌避領域における線虫のオブジェクトを用いて、走性解析を実行してもよい。なお、2次元コードに限定されず、バーコードであってもよい。
【0098】
図13は、予めストレージ16に記憶されている基準フォーマットの一例である。
図13に示すように、基準フォーマットは、誘引領域及び忌避領域を設定するための基準となるフォーマットである。
図13の基準フォーマットにおいて、円C1の中心を通り、y軸に平行な直線L10を基準に-x方向に距離dだけ平行に離れた直線L15が示されている。この直線L15と円C1とで区画される領域R5が、基準の誘引領域である。同様に
図13の基準フォーマットにおいて、円C1の中心を通り、y軸に平行な直線L10を基準に+x方向に距離dだけ平行に離れた直線L16が示されている。この直線L16と円C1とで区画される領域R6が、基準の忌避領域である。
【0099】
図14を参照しつつ、
図9のステップS140の処理の一例を説明する。
図14は、変形例において、撮像画像中の誘引領域及び忌避領域の一例を示す模式図である。解析部17は、画像処理によりシャーレオブジェクトOB12を認識し、当該シャーレオブジェクトOB12の中心P2を認識する。次に解析部17は、画像処理により基準点の一例である2次元コードを認識する。なお、上記中心P2の認識処理と上記2次元コード認識処理の順序は逆でもよい。
【0100】
(ステップS230)次に解析部17は、中心P2と2次元コードを結ぶ直線L12(
図14に示す直線L12)を決定する。
(ステップS240)次に解析部17は、基準線の一例である画像G2の縦方向に平行な直線L11と直線L12のなす角θ(
図14に示す角θ)を求める。
【0101】
次にステップS251およびS252を実行するか、またはステップS261を実行する。
(ステップS251)解析部17は、
図14に示すように、
図13の基準フォーマットを、円の中心を軸に左周りにθ回転させる。
(ステップS252)次に解析部17は、
図14に示すように、左周りにθ回転させた後の基準フォーマットの円C1の中心が、画像G2内のシャーレオブジェクトOB12の中心P2に重なるように左周りにθ回転させた後の基準フォーマットを重畳させるか、重畳した場合を仮定する。そして、解析部17は、重畳後(または重畳した場合を仮定した場合)の基準フォーマットの領域R5を、誘引領域に設定し、重畳後(または重畳した場合を仮定)の基準フォーマットの領域R6を、忌避領域に設定する。
【0102】
なお、上記重畳の際に、基準フォーマットの円C1が、画像G2内のシャーレオブジェクトOB12の外周(すなわち輪郭)に一致しない場合には、解析部17は、基準フォーマットの円C1が、画像G2内のシャーレオブジェクトOB12の外周に一致するよう、基準フォーマットの円C1を拡大または縮小してもよい。その場合、解析部17は、拡大または縮小後の基準フォーマットの領域R5を、誘引領域に設定し、拡大または縮小後の基準フォーマットの領域R6を、忌避領域に設定する。
【0103】
(ステップS261)解析部17は、画像G2を右回りにθ回転させる。次に解析部17は、直線L10から距離d1だけ離れた直線L10に平行な直線L15とオブジェクトOB12の輪郭との間の領域R5を、誘引領域に設定し、直線L10から距離d1だけ離れた直線L10に平行な直線L16とオブジェクトOB12の輪郭との間の領域R6を、忌避領域に設定する。
【0104】
なお、ステップS261では、画像G2を右回りにθ回転させたが、これに限らず、
ロボットハンド1321がシャーレを把持して回転する機構を備えており、シャーレを把持した状態でシャーレ自体を物理的に右回りにθ回転させてもよい。この場合、回転後の容器内の線虫の分布態様を撮像し、当該撮像された画像と、予め誘引領域及び/または忌避領域が設定されている基準フォーマットとを比較することによって、誘引領域及び/または忌避領域を決定してもよい。なお、ここではロボットハンド1321がシャーレを把持して回転させる変形例について説明したが、これに限らず、表面に窪みが設けられた台(例えば、すり鉢状の台)の窪みにシャーレを置き、当該シャーレを置いた状態で、ロボットハンド1321によってシャーレを物理的に回転させてもよい。
【0105】
なお、本実施形態では、誘引領域と忌避領域の両方を設定し、両方の領域における線虫数を計数して、両方の領域における線虫数を用いて走性解析を行ったが、これに限ったものではない。静置後の線虫の分布は培地に麻酔を滴下した箇所に集中する傾向がある。そのため、誘引領域と忌避領域のどちらか片方のみを設定し、この設定された領域における線虫数を計数し、この設定された領域における線虫数とシャーレオブジェクトOB12の領域における線虫数とを用いて走性解析を行ってもよい。例えば、誘引領域を設定した場合、忌避領域における線虫数は、シャーレの内底面に対応するシャーレオブジェクトOB12の領域における線虫数から誘引領域における線虫数を引いた値とみなすことができる。
【0106】
なお、本実施形態では、被験者のがんの可能性を評価するために、
図9に示す走性解析方法を実行したが、がん評価に限らず、他の生物や細胞の走性を評価する場合に実行してもよい。
【0107】
<第2の実施形態>
続いて第2の実施形態について説明する。従来の走性インデックスは、線虫の数を顕微鏡で目視して計数(カウントともいう)している。具体的には、線虫の走性行動は走性解析値を指標として評価され、下記の式から算出される走性インデックスが用いられてきた。
走性インデックス=(x-y)/(x+y)
ここでxはサンプルに対して誘引行動を示した線虫の数であり、yはサンプルに対して忌避行動を示した線虫の数であり、この走性インデックスは第1の実施形態のものと同じである。
【0108】
この走性インデックスを自動で計算する方法として以下の算出方法が考えられる。すなわち、線虫が載ったシャーレの上方からカメラを配置し、シャーレの下方から光源を当てると、線虫で生じる光の乱反射により周囲より高い輝度で撮像され、線虫の領域を識別する。そして、撮像した画像や動画を用いて、以下の方法で算出する方法がある。
【0109】
(1)撮像した画像における所定の領域の輝度重心を計測して走性インデックスを算出する方法。
(2)撮像した画像における所定の領域における線虫の領域の数を計測する方法。
【0110】
(1)及び(2)の場合、周囲より輝度の高い領域の数を線虫の数として計測する。
しかし、線虫が複数匹重なった状態で撮像されると、線虫が一つの領域として認識され、実際の線虫の数と領域の数とでは大きく異なることがある。このことが原因で、画像からコンピュータが線虫を自動計数する場合、画像中で線虫が重なった場合に、画像から正確に線虫の数を計数することが難しく、コンピュータが算出した走性インデックスが、人間が目視で線虫をカウントして算出した走性インデックス(以下、手動でカウントして算出した走性インデックスという)と大きく異なってしまうという問題がある。
また、計数対象の領域に固定の閾値を設定すると撮像条件の差異により走性解析値の精度が落ちることがあるという問題もある。
【0111】
それに対して、本実施形態では、コンピュータで線虫撮像画像からがんの有無を自動判定するために、新たな走性解析値の決定方法を開発した。本実施形態では、コンピュータが、この新たな走性解析値算出方法で走性インデックスを算出し、この新たな走性解析値を用いて、被験者のがんの可能性を自動評価する。
【0112】
これによれば、画像中で線虫が重なった場合であっても、新たな走性解析値の算出方法により算出された走性解析値が、「手動でカウントして算出した走性インデックス」に近い値になるので、「手動でカウントして算出した走性インデックス」と同等の精度で、コンピュータが、画像から被験者のがんの可能性を自動で判定することができる。
また、線虫に対応するオブジェクトの面積は撮像条件により相対的に変化するが、本実施形態による走性解析値の算出方法によれば撮像条件が変化しても、新たな走性解析値算出方法により算出された走性解析値と手動でカウントして算出した走性インデックスとの差が小さい結果が得られた。したがって、本実施形態は撮像条件の影響をあまり受けることなく、「手動でカウントして算出した走性インデックス」と同等の精度で、コンピュータが、画像から被験者のがんの可能性を自動で判定することができる。
【0113】
<システム構成>
図15は、第2の実施形態に係る走性解析システムの概略構成図である。走性解析システム1bは、光源21と、撮像ユニットの一例であるカメラ15bと、カメラ15bに接続された走性解析装置3と、画像データベース(画像DB)161が格納されたストレージ16とを備える。走性試験後のシャーレ21の下方から光源21の光を当て、シャーレ21の上方に撮像ユニット15を配置し、走性解析装置3によりシャーレ21を撮像して走性解析値を算出する。光源21は円形型白色LEDが望ましい。カメラ15bは、走性解析装置3によって制御され、カメラ15bによって撮像されて得られた画像は、画像データベース161に蓄積される。
【0114】
図16は、第2の実施形態に係る走性解析装置のブロック図である。
図16に示すように、第2の実施形態に係る走性解析装置3は、プロセッサ10bを備え、プロセッサ10bは、ストレージ16に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、カメラ制御部31、画像処理部32、及び解析部33として機能する。カメラ制御部31はカメラ15bがシャーレ21を撮像するように制御し、撮像した画像をストレージ16の画像データベース161に格納する。画像処理部32は、画像処理を行う。解析部33は、画像処理後の画像を用いて、走性解析値を算出し、走性解析値を用いてがんの可能性を評価する。
【0115】
<線虫のオブジェクト及び面積値>
図17は、走性解析が行われるシャーレの画像の概略模式図である。
図17に示すように、線虫が誘引行動を示すと判断される誘引領域R11と、線虫が忌避行動を示すと判断される忌避領域R12が示されている。
図18は、第2の実施形態に係る処理の工程を示す図である。以下、処理の工程を
図18に沿って説明する。
【0116】
画像処理部32は、撮像された画像から、画像処理(例えば、色相によるエッジ抽出または2値化処理など)で、
図17に示す誘引領域(+領域ともいう)と忌避領域(-領域ともいう)のそれぞれにおいて、線虫それぞれに対応する線虫のオブジェクトが占める領域それぞれを抽出する。そして、解析部33は、抽出された線虫のオブジェクトの面積を算出する。具体的には例えば解析部33は、線虫のオブジェクトが占めるピクセル数をカウントする。
【0117】
本実施形態の走性解析値の算出方法は2種類あり、ともに線虫のオブジェクトの面積値を用いて算出される。以下にそれぞれ説明する。
【0118】
<第1の算出方法>
まず、本実施形態の走性解析値の第1の算出方法について説明する。第1の算出方法は、誘引領域における線虫のオブジェクトの面積値の総和と、忌避領域における線虫のオブジェクトの面積値の総和を用いた走性解析値の算出方法である。
【0119】
図19は、誘引領域及び忌避領域における線虫のオブジェクトの面積値のヒストグラムの一例である。走性試験において、線虫は略同じ大きさの成虫が用いられるが、撮像の際に線虫で乱反射される光により各線虫のオブジェクトの面積値にばらつきが生じる。(1)このばらつきは誘引領域と忌避領域におけるそれぞれの面積値のばらつきがほぼ同じであることが観測されている。このことから、下記式を用いて走性解析値を算出しても、手動でカウントして算出した走性インデックスとの差は小さかった。
【0120】
I =(SA-SB)/(SA+SB) … (1)
【0121】
ここで、Iは走性解析値で、S
Aは誘引領域における線虫のオブジェクトの面積値の総和で、S
Bは忌避領域における線虫のオブジェクトの面積値の総和である。後述する
図20のフローチャート中の走性解析値の算出には上記式(1)が用いられる。なお、誘引領域と忌避領域のどちらか片方のみを設定し、この設定された領域における線虫のオブジェクトの面積値と、シャーレオブジェクトOB12全体の領域における線虫のオブジェクトの面積値を用いて走性解析を行ってもよい。例えば、誘引領域を設定した場合、忌避領域における線虫のオブジェクトの面積値は、シャーレの内底面に対応するシャーレオブジェクトOB12全体の領域における線虫のオブジェクトの面積値から誘引領域における線虫のオブジェクトの面積値を引いた値とみなすことができる。
【0122】
また(1)検査に用いられる線虫の成虫の大きさに個体差があっても、線虫の大きさにより化学走性行動に偏りが観測されないこと、(2)ほとんどの検査において、検査後の線虫の分布は、複数匹で重なっている状態よりも、1匹で静止している状態が最も多いこと、(3)がん検査において走性解析値の絶対値が小さい結果が得られる場合であっても、線虫が複数匹重なった状態もまた、誘引領域(+)と忌避領域(-)それぞれにおいて偏って分布しない傾向にあること、(4)特にがん検査において従来の方法で得られた臨床結果と遜色ない結果が得られたことから、線虫が複数匹重なった状態で撮像された場合であっても、「コンピュータによる上記式(1)の計算によって算出された走性解析値」が、「手動でカウントして算出した走性インデックス」から乖離しない。
【0123】
図20は、走性解析値の第1の算出方法を用いた処理の一例を示すフローチャートである。
(ステップS310)まずカメラ制御部31は、カメラ15bを制御して、線虫を含むシャーレ21を撮像し、撮像で得られた画像データをストレージ16に保存する。画像処理部32は、この画像データを取得する。
【0124】
(ステップS320)次に、画像処理部32は、画像データにおいてシャーレ位置を検出する。
【0125】
(ステップS330)次に、画像処理部32は、画像データにおいてシャーレの基準点を検出する。
【0126】
(ステップS340)次に、画像処理部32は、シャーレに基準点に合わせて、線虫の誘引領域および忌避領域を設定する。ここで、誘引領域および忌避領域をまとめて走性解析領域という。
【0127】
(ステップS350)次に、解析部33は、誘引領域および忌避領域毎に、各線虫に対応する各線虫のオブジェクトが占める領域(線虫のオブジェクト)の面積値を決定する。
【0128】
(ステップS360)次に、解析部33は、誘引領域における線虫のオブジェクトの面積値の総和SAと、忌避領域における線虫のオブジェクトの面積値の総和SBとを算出し、算出した総和SAと、総和SBを、式(1)に代入することによって、式(1)に従って走性解析値を算出する。
【0129】
<第2の算出方法>
続いて、本実施形態の走性解析値の第2の算出方法について説明する。第2の算出方法は、線虫のオブジェクトの面積値のヒストグラムにおけるピークを用いた走性解析値の算出方法である。
【0130】
図21は、全ての走性解析領域(誘引領域および忌避領域の両方)における線虫のオブジェクトの数と線虫のオブジェクトの面積値のヒストグラムの一例である。
図21において、全ての走性解析領域(誘引領域および忌避領域の両方)における線虫のオブジェクトの数と線虫のオブジェクトの面積値のヒストグラムW3が示されている。
図21において、1匹の面積範囲U1は線虫1匹の面積範囲を表し、境界線L21と境界線L22の間の範囲である。また2匹の面積範囲U2は線虫2匹が重なった場合の面積範囲を表し、境界線L22と境界線L23の間の範囲である。また3匹の面積範囲U3は線虫3匹が重なった場合の面積範囲を表し、境界線L23と境界線L24の間の範囲である。
【0131】
線虫が複数匹重なった領域は1匹の線虫のオブジェクトよりも面積値が大きくなり、線虫の重なり数毎に面積値の取り得る範囲が異なることが観測されている。第2の算出方法では、
図21に示すように、極大点を一つ含む領域R21、R22、R23毎に、線虫の匹数毎に占める領域の面積範囲(例えば1匹の面積範囲U1、2匹の面積範囲U2、3匹の面積範囲U3)を、
図21に示すような線虫のオブジェクトの数と線虫のオブジェクトの面積値のヒストグラムから設定する。設定された面積範囲毎に線虫のオブジェクトの数を積算し、走性解析値を次の式(2)に従って算出する。
【0132】
I =(NA-NB)/(NA+NB) …(2)
【0133】
ここでIは走性解析値で、NAは誘引領域において、「面積範囲に割り当てられた線虫の匹数」×「面積範囲に収まる線虫のオブジェクトの数」の総和で、NBは忌避領域において、「面積範囲に割り当てられた線虫の匹数」×「面積範囲に収まる線虫のオブジェクトの数」の総和である。なお、誘引領域と忌避領域のどちらか片方のみを設定し、この設定された領域における線虫のオブジェクトの面積値と、シャーレオブジェクトOB12全体の領域における線虫のオブジェクトの面積値を用いて走性解析を行ってもよい。例えば、誘引領域を設定した場合、忌避領域におけるNBは、シャーレオブジェクトOB12全体の領域における「面積範囲に割り当てられた線虫の匹数」×「面積範囲に収まる線虫のオブジェクトの数」の総和から誘引領域におけるNAを引いた値とみなすことができる。
【0134】
この第2の算出方法は、(1)検査後の線虫の分布は、1匹で静止している状態が最も多く、複数匹重なっている状態は、重なり数が多くなるにつれてその状態数が少ない傾向にあることが観測されていること、(2)誘引領域(+)及び忌避領域(-)における線虫のオブジェクトの面積値のヒストグラムから、1匹、2匹、3匹…の重なり状態を、ヒストグラムの極大点、極小点から予測できることから、線虫が複数匹重なった状態で撮像された場合であっても、「コンピュータによる自動計算によって算出された走性解析値」が、「手動でカウントして算出した走性インデックス」から乖離しない。
【0135】
図22は、走性解析値の第2の算出方法を用いた処理の一例を示すフローチャートである。
(ステップS410)まずカメラ制御部31は、カメラ15bを制御して、線虫を含むシャーレ21を撮像し、撮像で得られた画像データをストレージ16に保存する。画像処理部32は、この画像データを取得する。
【0136】
(ステップS420)次に、画像処理部32は、画像データにおいてシャーレ位置を検出する。
【0137】
(ステップS430)次に、画像処理部32は、画像データにおいてシャーレの基準点を検出する。
【0138】
(ステップS440)次に、画像処理部32は、シャーレに基準点に合わせて、線虫の誘引領域および忌避領域を設定する。
【0139】
(ステップS450)次に、解析部33は、誘引領域および忌避領域毎に、各線虫に対応する各線虫のオブジェクトが占める領域の面積値を決定する。
【0140】
(ステップS460)次に、解析部33は、線虫のオブジェクトの数と全走性解析領域における面積値のヒストグラム(
図21参照)を用いて、線虫の匹数毎に占める領域の面積の範囲を決定する。この処理の詳細は、後述する
図23で説明する。
【0141】
(ステップS470)次に、各走性解析領域(すなわち誘引領域および忌避領域それぞれ)において、面積の範囲U1、U2、U3毎に、当該面積範囲に収まる線虫のオブジェクトの数と、当該面積の範囲に割り当てられた線虫の匹数を乗算し、乗算後のそれぞれの値の総和を走性解析領域毎に(すなわち誘引領域および忌避領域それぞれについて)算出し、この走性解析領域毎の総和NA、NBを用いて、式(2)に従って走性解析値を決定する。
【0142】
図23は、
図22のステップS460の処理の一例を示すフローチャートである。
(ステップS510)まず、解析部33は、線虫のオブジェクトの数と全走性解析領域における面積値のヒストグラム(
図21参照)の極大点と極小点を求める。そして、インデックスnを1に設定する。
【0143】
(ステップS520)次に、解析部33は、左からn番目に極小点があるか否か判定する。
【0144】
(ステップS530)ステップS520で、左からn番目に極小点があると判定された場合(ステップS520 YES)、解析部33は、n=1のときには、1匹の面積範囲の下限を所定値に設定する。ここで、所定値は成虫ではない小さな線虫やほこり等のノイズとして除外するための設定された値である。
解析部33は、nが2以上のときには、n匹の面積範囲の下限をヒストグラムの左から(n-1)番目の極小点におけるx座標+1に設定する。
なお、n=1のときには、Xmax1を左から1番目の極大点におけるx座標とすると、1匹の面積値の下限をXmax1-(左から1番目の極大点の半値半幅)に設定してもよい。
【0145】
(ステップS540)解析部33は、ヒストグラムの左からn番目の極小点におけるx座標をn匹の面積範囲の上限に設定する。そして、解析部33は、インデックスnを1増加させ、ステップS520以降の処理を繰り返す。
【0146】
(ステップS550)ステップS520で左からn番目に極小点がないと判定された場合(ステップS520 NO)、(n-1)匹の面積範囲の上限が所定値以上であるか否か判定する。
【0147】
(ステップS560)ステップS550で、(n-1)匹の面積範囲の上限が所定値以上である場合(ステップS550 YES)、解析部33は、n匹の面積範囲の上限を設定しない(すなわちn匹の面積範囲の上限は、n匹の面積範囲の下限以上となる)。なお、これに限らず、解析部33は、n番目の極大点のx座標をXmaxnとすると、n匹の面積範囲の上限を、Xmaxn+(左からn番目の極大点の半値半幅)に設定してもよい。
【0148】
(ステップS570)ステップS550で、(n-1)匹の面積範囲の上限が所定値以上でない場合すなわち所定値未満である場合(ステップS550 NO)、解析部33は、n匹の面積範囲の上限を所定値に設定する。
【0149】
なお、上述した実施形態で説明した制御部14及び解析部17の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。解析部17の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0150】
また、制御部14及び解析部17の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0151】
さらに、一つまたは複数の情報処理装置によって制御部14及び解析部17を機能させてもよい。複数の情報処理装置を用いる場合、情報処理装置のうちの1つをコンピュータとし、当該コンピュータが所定のプログラムを実行することにより解析部17の少なくとも1つの手段として機能が実現されてもよい。
【0152】
また、方法の発明においては、全ての工程(ステップ)をコンピュータによって自動制御で実現するようにしてもよい。また、各工程をコンピュータに実施させながら、工程間の進行制御を人の手によって実施するようにしてもよい。また、さらには、全工程のうちの少なくとも一部を人の手によって実施するようにしてもよい。
【0153】
以上、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0154】
1 走性解析システム
10、10b プロセッサ
11 容器供給ユニット
111 供給コンベア
112 供給ロボット
12 静置台
13 容器取出ユニット
131 取出ロボット
132 容器搬送ユニット
1321 アーム
133 蓋取外ユニット
1331 ロボットハンド
134 センサ
14 制御部
15 撮像ユニット
151 支柱
152 ベース部材
153 光源
16 ストレージ
161 画像データベース
162 検査データベース
17 解析部
21、21b シャーレ
22 蓋
3 走性解析装置
31 カメラ制御部
32 画像処理部
33 解析部