IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人首都大学東京の特許一覧

特許7442807突起構造制御装置および突起構造制御方法
<>
  • 特許-突起構造制御装置および突起構造制御方法 図1
  • 特許-突起構造制御装置および突起構造制御方法 図2
  • 特許-突起構造制御装置および突起構造制御方法 図3
  • 特許-突起構造制御装置および突起構造制御方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】突起構造制御装置および突起構造制御方法
(51)【国際特許分類】
   F15D 1/12 20060101AFI20240227BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20240227BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20240227BHJP
   B64C 21/10 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
F15D1/12
B05D3/00 E
B05D5/06 104G
B64C21/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020100238
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021195958
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】小方 聡
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-510717(JP,A)
【文献】特表2016-539888(JP,A)
【文献】特開2009-255925(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0362184(US,A1)
【文献】米国特許第05254876(US,A)
【文献】中国特許出願公開第108454816(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15D 1/12
B05D 3/00
B05D 5/06
B64C 21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一面に、接触角が異なる第一領域と第二領域が設けられた基材と、
前記第一領域および前記第二領域の温度を制御する温度制御手段と、を備え、
前記第一領域は、供給される液体を集め、集まった前記液体を凍らせて突起構造を形成する位置に設けられ、
前記第二領域は、前記第一領域より接触角が大きく、前記第一領域の周囲に設けられていることを特徴とする突起構造制御装置。
【請求項2】
前記第一領域および前記第二領域に、液体を供給する液体供給手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の突起構造制御装置。
【請求項3】
前記液体が水であることを特徴とする請求項2に記載の突起構造制御装置。
【請求項4】
前記第一領域に、前記液体と親和性を有する材料を主成分とする親和性塗膜が形成されていることを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載の突起構造制御装置。
【請求項5】
前記第二領域に、前記液体と非親和性を有する材料を主成分とする非親和性塗膜が形成されていることを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載の突起構造制御装置。
【請求項6】
前記突起構造が、ボルテックスジェネレータまたはリブレットを構成するものであることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の突起構造制御装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の突起構造制御装置を側壁に備えた移動体において、突起構造の形成および除去を制御する突起構造制御方法であって、
前記移動体が所定の速度域で移動しているときに、前記第一領域および前記第二領域に液体を供給する液体供給工程と、
前記移動体が前記速度域で移動しているときに、前記第一領域および前記第二領域の温度を、前記液体が凍って固体になるように制御する第一温度制御工程と、
前記移動体が前記速度域以外の速度域で移動しているときに、前記第一領域および前記第二領域の温度を、前記固体が溶けて前記液体に戻るように制御する第二温度制御工程と、を有することを特徴とする突起構造制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突起構造制御装置および突起構造制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機、新幹線、自動車等の移動体の壁面に、リブレット、ボルテックスジェネレータと呼ばれる突起構造を設け、移動時の周囲の気流を制御し、移動体の壁面部分が受けるダメージを低減させる技術が知られている。リブレットは、壁面近傍での乱流の発達を抑制し、気流に対する壁面の摩擦抵抗を低減させることができる(非特許文献1)。ボルテックスジェネレータは、気流の中に渦を作ったり、気流を乱したりすることで壁面部分の剥離を抑制することができる(非特許文献2)。
【0003】
リブレット、ボルテックスジェネレータは、ともに移動体の対象速度域では効果を発揮するが、その速度域を外れると、効果がない上に、気流に対する摩擦抵抗増加や騒音の原因になってしまうことが問題とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】日本流体力学会誌 ながれ 13(1994)271-277
【文献】三菱自動車テクニカルレビュー 16(2004)13-18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、対象とする速度域においてのみ周囲の気流を制御し、他の速度域においては、気流に対する摩擦抵抗増加や騒音を抑制することが可能な、突起構造制御装置および突起構造制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0007】
(1)本発明の一態様に係る突起構造制御装置は、少なくとも一方の主面に、接触角が異なる第一領域と第二領域が設けられた基材と、前記第一領域および前記第二領域の温度を制御する温度制御手段と、を備え、前記第一領域は、突起構造を形成する位置に設けられ、前記第二領域は、前記第一領域より接触角が大きく、前記第一領域の周囲に設けられている。
【0008】
(2)上記(1)に記載の突起構造制御装置において、前記第一領域および前記第二領域に、液体を供給する液体供給手段をさらに備えることが好ましい。
【0009】
(3)上記(2)に記載の突起構造制御装置において、前記液体が水であってもよい。
【0010】
(4)上記(2)または(3)のいずれかに記載の突起構造制御装置において、前記第一領域に、前記液体と親和性を有する材料を主成分とする親和性塗膜が形成されていることが好ましい。
【0011】
(5)上記(2)~(4)のいずれか一つに記載の突起構造制御装置において、前記第二領域に、前記液体と非親和性を有する材料を主成分とする非親和性塗膜が形成されていることが好ましい。
【0012】
(6)上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の突起構造制御装置において、前記突起構造が、ボルテックスジェネレータまたはリブレットを構成するものであることが好ましい。
【0013】
(7)本発明の一態様に係る突起構造制御方法は、上記(1)~(6)のいずれか一つに記載の突起構造制御装置を側壁に備えた移動体において、突起構造の形成および除去を制御する突起構造制御方法であって、前記移動体が所定の速度域で移動しているときに、前記第一領域および前記第二領域に液体を供給する液体供給工程と、前記移動体が前記速度域で移動しているときに、前記第一領域および前記第二領域の温度を、前記液体が凍って固体になるように制御する第一温度制御工程と、前記移動体が前記速度域以外の速度域で移動しているときに、前記第一領域および前記第二領域の温度を、前記固体が溶けて前記液体に戻るように制御する第二温度制御工程と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の突起構造制御装置および突起構造制御方法によれば、基材の表面に、相対的に接触角が小さい第一領域と、接触角が大きい第二領域とが形成されており、温度制御手段を用いて、基材の温度を制御することができる。基材に供給された液体は、接触角が小さい第一領域に集まるため、この状態で基材を冷却すれば、集まった液体を凍らせて突起構造を形成することができる。したがって、第一領域、第二領域の形状、サイズ、配置等を調整することによって、対象とする速度域で機能させることが可能な、リブレット型あるいはボルテックスジェネレータ型の突起構造を形成することができ、周囲の気流を制御することができる。また、凍った状態の突起構造は、温度制御手段を用いて溶かすことにより、容易に除去することができるため、対象としない速度域においては、この突起構造を除去し、気流に対する摩擦抵抗増加や騒音を抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第一実施形態に係る突起構造制御装置の斜視図である。
図2図1の突起構造制御装置において、リブレット状の突起構造を形成した状態を示す図である。
図3】本発明の第二実施形態に係る突起構造制御装置の斜視図である。
図4図3の突起構造制御装置において、ボルテックスジェネレータ状の突起構造を形成した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態に係る突起構造制御装置および突起構造制御方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0017】
<第一実施形態>
(突起構造制御装置)
図1は、本発明の第一実施形態に係る突起構造制御装置100の斜視図である。突起構造制御装置100は、主に、基材101と、温度制御手段106と、を備える。
【0018】
基材101は、突起構造制御装置100の適用対象に応じた様々な材料で構成される。例えば、突起構造制御装置100が、航空機、新幹線、自動車等の移動体の側壁(外壁)に適用される場合には、側壁の構成に適した材料が用いられる。基材101の形状は、少なくとも気流と接する表面(機能面)が、ほぼ滑らかな面(凹凸が少ない面)であればよく、平坦であってもよいし、湾曲、屈曲していてもよい。
【0019】
気流と接する基材101の表面のうち、少なくとも一面101aには、接触角(濡れ性)が異なる第一領域102と第二領域103が設けられている。第一領域102と第二領域103の形状、大きさ、配置等については、対象とする速度域等の用途に応じて決定される。ここでは、リブレット型の突起構造を形成することを想定し、第一領域102と第二領域103ともに同じ長さのライン状であり、互いに交互に並んで配置される場合について例示している。
【0020】
第一領域102は、リブレット型の突起構造を構成する突起を形成する領域である。第一領域102は、第二領域103に比べて接触角が小さく、表面に供給された液体Lに対して高い親和性を有する。第一領域102と第二領域103との接触角の差は、大きいほど好ましく、100°以上であればより好ましい。第一領域102のサイズ・形状については、形成しようとする突起構造のサイズ・形状に応じて自由に設計することができる。
【0021】
第二領域103は、第一領域102の周囲に設けられており、第一領域102より接触角が大きく、表面に供給された液体Lに対して高い非親和性を有する。第二領域103は、第一領域102に供給された液体Lが外に漏れないように、すなわち液体Lを第一領域102に閉じ込める機能を有するとともに、第二領域103に供給された液体Lを弾き、第一領域103に追いやる機能を有する。
【0022】
液体Lに対する親和性を第一領域102に付与する手段としては、例えば、第一領域102のみに、液体Lとの親和性を有する親和性塗膜104の形成、または液体Lとの親和性を有する表面構造への加工を行ってもよいし、第二領域103のみに、液体Lとの非親和性を有する非親和性塗膜105の形成、または液体Lとの非親和性を有する表面構造への加工を行ってもよい。あるいは、第一領域102に親和性塗膜104の形成または親和性を有する表面構造への加工を行い、かつ第二領域103に非親和性塗膜105の形成または非親和性を有する表面構造への加工を行ってもよい。
【0023】
液体Lが水である場合、親和性塗膜104の材料としては、例えば、二酸化珪素(SiO)、二酸化チタン等の親水基を有するものを用いることができ、また、非親和性塗膜105の材料としては、例えば、PTFE等の疎水基を有するものを用いることができる。
【0024】
温度制御手段106は、第一領域102および第二領域103の温度を制御する機能を有するものであればよく、例えばペルチェ素子を用いることができる。ペルチェ素子は、基材101に接触させた状態で電流を流すことにより、接触面を通じて基材101の冷却または加熱を行うことができ、電流の向きを変えることにより、冷却状態と加熱状態とを切り替えることができる。ここでは、温度制御手段106が、基材101と別体である場合について例示しているが、基材101と一体であってもよい。
【0025】
供給する液体Lが凍る程度の低温環境下においては、大気が冷却機能を有するため、温度制御手段106は昇温機能のみを有していればよい。反対に、凍った固体が溶けて元の液体Lに戻る程度の高温環境下においては、大気が加熱機能を有するため、温度制御手段106は降温機能のみを有していればよい。
【0026】
第一領域102および第二領域103への液体Lの供給は、基材101の周辺に備えた液体供給源107を用いて行うことができる。供給する液体Lとしては、例えば、水等を用いることができる。液体Lは、突起構造の原料となる。液体Lとしては、氷点下であっても、基材101の表面(第一領域102、第二領域103)に付着する前に凍らないものであることが好ましく、例えば塩水等が挙げられる。供給する液体Lが水である場合には、水を含む大気を供給源とすることができ、実体的な供給手段を備える必要がないため、突起構造制御装置100の構成を簡略化することができる。
【0027】
なお、液体供給源107を用いる代わりに気体供給源を用い、第一領域102および第二領域103に気体を供給し、温度制御手段106を用いてこの気体を冷却し、液化させたものを突起構造の原料(液体L)としてもよい。
【0028】
(突起構造制御方法)
突起構造制御装置100を側壁に備えた移動体において、次の手順で、突起構造の形成および除去を制御することができる。
【0029】
移動体が対象とする速度域、すなわち、制御しようとする気流が周囲に発生する所定の速度域で、移動体が移動しているときに、第一領域102および第二領域103に液体Lを供給する(液体供給工程)。液体Lの供給方法については、特に限定されることはないが、例えば、図1に示すように基材101上からシャワー状に噴射して供給してもよいし、基材101の端から流して供給してもよい。液体Lとして大気に含まれる水を供給する場合には、この工程を省略することができる。
【0030】
また、移動体が対象とする速度域で移動しているときに、第一領域102および第二領域103の温度を、液体Lが凍って固体になるように制御する(第一温度制御工程)。液体Lは、高速移動中の大気に長時間曝されていると、蒸発してしまうことを考慮し、蒸発が起きる前に液体Lが凍るように、冷却速度(降温速度)を調整することが好ましい。
【0031】
図2は、図1の突起構造制御装置100において、液体Lが第一領域102に局在して凍り、リブレット状の突起構造108を形成した状態を示す図である。突起構造108は、液体が凝固して形成されるものであるため、滑らかな曲面を有する。本実施形態のように、第一領域102の表面の形状が長方形である場合、突起構造108は、長方形の長手方向と平行な軸を有する略半円柱または略半楕円柱の形状になる。
【0032】
形成される突起構造の高さ108aは、第一温度制御工程での冷却時間に比例して高くなる。第一領域の幅102aが狭いほど、突起構造108は尖った形状(頂部に近づくほど細くなる形状)になりやすい。第二領域の幅103aは、短すぎると、隣接する第一領域102に供給された液体L同士が融合してしまい、突起構造になりにくいため、概ね0.2mm以上であることが好ましい。
【0033】
移動体が対象とする速度域以外の速度域で移動しているときに、第一領域102および第二領域103の温度を、第一温度制御工程で形成された固体が溶けて液体Lに戻るように制御する(第二温度制御工程)。液体Lが周囲の気流に押され、自然に除去されることにより、第一領域102は、突起構造108が形成される前の平坦な形状に戻る。
【0034】
以上のように、本実施形態の突起構造制御装置100および突起構造制御方法によれば、基材101の表面に、相対的に接触角が小さい第一領域102と、接触角が大きい第二領域103とが形成されており、温度制御手段106を用いて、基材101の温度を制御することができる。基材101に供給された液体Lは、接触角が小さい第一領域102に集まるため、この状態で基材101を冷却すれば、集まった液体Lを凍らせて突起構造108を形成することができる。
【0035】
したがって、第一領域102、第二領域103の形状、サイズ、配置等を調整することによって、対象とする速度域で機能させることが可能な、リブレット型あるいはボルテックスジェネレータ型の突起構造を形成することができ、周囲の気流を制御することができる。また、凍った状態の突起構造108は、温度制御手段106を用いて溶かすことにより、容易に除去することができるため、対象としない速度域においては、この突起構造108を除去し、気流に対する摩擦抵抗増加や騒音を抑制することもできる。
【0036】
<第二実施形態>
図3は、本発明の第二実施形態に係る突起構造制御装置200の斜視図である。図4は、図3の突起構造制御装置200において、ボルテックスジェネレータ状の突起構造108を形成した状態を示す図である。突起構造制御装置200では、ボルテックスジェネレータ型の突起構造を形成することを想定し、第一領域102が楕円状であり、第二領域103が第一領域102以外の領域を埋めるように配置される。その他の構成は、第一実施形態の突起構造制御装置100と同様であり、突起構造制御装置100と対応する箇所については、形状の違いによらず、同じ符号で示している。本実施形態の突起構造制御装置200では、第一実施形態の突起構造制御装置100と同様に、突起構造の形成・除去を容易に制御できるという効果を得ることができる。
【実施例
【0037】
以下、実施例により、本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0038】
(比較例1)
冷却した状態の基材の表面に水を供給した。基材としては、温度制御手段となるペルチェ素子を内部に備え、接触角が異なる二つの領域が表面に設けられていない、未加工のものを用いた。供給する水の量、ペルチェ素子に印加する電流および電圧、ペルチェ素子の放熱面に対する冷却方法等の条件を調整し、冷却(製氷)に要する時間、製氷される突起構造の高さを調べた。その結果を表1に示す。なお、ここでの水冷は、200mm×140mm×10mmの金属製容器に精製水を満たし、そこに基材を浸漬して行った。また、ここでの空冷は、基材の底面(突起構造が形成されていない面)側および側面側に、電動ファンを設置して行った。
【0039】
【表1】
【0040】
(実施例1)
基材として、温度制御手段となるペルチェ素子を内部に備え、上記実施形態のように、接触角が異なる二つの領域(第一領域、第二領域)が表面に並んで設けられているものを用い、冷却した状態の基材の表面に水を供給した。第一領域に対しては、超親水加工剤(AD-TECH COAT、株式会社トレードサービス製)を塗布して親水加工した。第二領域に対しては加工を行わなかった。第一領域の幅を1mmとし、第二領域の幅を10mmとした。ペルチェ素子に印加する電流および電圧、冷却方法等の条件を調整し、冷却(製氷)に要する時間、製氷される突起構造の高さを調べた。その結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
(実施例2)
第一領域の幅を5mmとし、第二領域の幅を10mmとし、その他の条件は実施例1と同様として、ペルチェ素子に印加する電流および電圧、冷却方法等の条件を調整し、冷却に要する時間、製氷される突起構造の高さを調べた。その結果を表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
(実施例3)
第一領域の幅を10mmとし、第二領域の幅を10mmとし、その他の条件は実施例1と同様として、ペルチェ素子に印加する電流および電圧、冷却方法等の条件を調整し、冷却に要する時間、製氷される突起構造の高さを調べた。その結果を表4に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
比較例1では、基材の表面に親水加工された領域が設けられていないため、供給された水は、表面全体に広がって分布することになり、その体積に比例した長い冷却時間(約1分30秒以上)を要する。冷却に長い時間を要する場合、大気に曝される時間が増加するため、液体の一部は蒸発してしまうおそれがあり、効率的に冷却を行うことが難しいと考えられる。また、比較例1では、供給する水の量を多くしても表面全体に広がってしまうため、形成される突起構造の高さは、ほとんど変わらない。
【0047】
一方、実施例1~3では、基材の表面に親水加工された領域が設けられているため、供給された液体は、基材の表面全体への広がりが抑えられ、突起構造の高さ方向の増加に効率的に費やされることにより、突起構造を効率的に形成することができる。その結果として、冷却時間については、幅が1mm~5mm程度の突起構造を形成する場合には約2分以下、幅が10mmの大きい突起構造を形成する場合でも、5分以下に抑えられており、蒸発の影響を回避しやすくなっている。
【符号の説明】
【0048】
100、200・・・突起構造制御装置
101・・・基材
101a・・・基材の一面
102・・・第一領域
102a・・・第一領域の幅
103・・・第二領域
103a・・・第二領域の幅
104・・・親和性塗膜
105・・・非親和性塗膜
106・・・温度制御手段
107・・・液体供給源
108・・・突起構造
108a・・・突起構造の高さ
L・・・液体
図1
図2
図3
図4