(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】プランジャポンプ
(51)【国際特許分類】
F04B 53/18 20060101AFI20240227BHJP
F04B 53/08 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
F04B53/18
F04B53/08 E
(21)【出願番号】P 2020213228
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】520508963
【氏名又は名称】中央工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【氏名又は名称】辻 忠行
(74)【代理人】
【識別番号】100150762
【氏名又は名称】阿野 清孝
(72)【発明者】
【氏名】浦 芙美代
(72)【発明者】
【氏名】池永 文茂
(72)【発明者】
【氏名】村中 宏彰
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】実開平7-39956(JP,U)
【文献】実開昭57-128353(JP,U)
【文献】特開昭60-19065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 23/00-23/14、
53/00-53/22
B05B 9/00- 9/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入口、前記吸入口から吸入された被送液を加圧するためのポンプ室、および、吐出口を有するポンプケーシングと、前記ポンプケーシングの軸受孔に摺動自在に支持されて前記ポンプ室に出し入れ駆動されるプランジャと、前記ポンプケーシングの吐出口から分岐接続された弁ケーシング、前記弁ケーシング内の弁座を開閉する弁体、および、前記弁ケーシング内で前記弁体の下流側にある低圧室に接続されて前記低圧室に流入した被送液を排出するための余液管部を有して成る調圧弁と、前記ポンプケーシングの軸受孔および前記プランジャの間に装入された高圧側シールおよび低圧側シールと、前記高圧側シールおよび前記低圧側シールの間に形成された潤滑用隙間と連通する位置のポンプケーシングに穿設されていて前記潤滑用隙間に被送液を潤滑用として供給するための液供給孔と、前記潤滑用隙間と連通する位置のポンプケーシングに穿設されていて前記潤滑用隙間内の被送液を排出するための液排出孔と、を有して成り、前記調圧弁の低圧室に流入した被送液を前記ポンプケーシングの潤滑用隙間に送って前記プランジャを潤滑するように構成されたプランジャポンプであって、
前記ポンプケーシングの潤滑用隙間内に被送液を送り出すための液送出孔が前記調圧弁の低圧室と連通する位置の前記弁ケーシングに穿設され、前記ポンプケーシングの液排出孔からの被送液を受け入れるための液受入孔が前記調圧弁の余液管部に穿設され、更に、前記ポンプケーシングの液排出孔と前記余液管部の液受入孔とを接続する液戻し配管と、前記ポンプケーシングの液供給孔と前記調圧弁の液送出孔とを接続する液供給配管と、前記ポンプケーシングの潤滑用隙間からの被送液を前記液戻し配管を通して前記調圧弁の余液管部に吸い入れる吸引手段と、を備えていることを特徴とするプランジャポンプ。
【請求項2】
前記吸引手段が、液受入孔よりも上流側の余液管部の内周面に固定される太径部と、前記太径部から一体的に軸心方向に連結されて前記液受入孔との対面位置に配置される細径部と、前記太径部および前記細径部の軸心に沿って一連に貫通して形成された第1通液孔と、を備えて成る第1円筒状体で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のプランジャポンプ。
【請求項3】
前記吸引手段が、前記第1円筒状体と、前記第1円筒状体の細径部よりも上流側位置の余液管部の内周面に固定されるとともに当該軸心方向に貫通して形成された第2通液孔を有する第2円筒状体と、から構成され、前記第2円筒状体の第2通液孔が前記第1円筒状体の第1通液孔に対し同径または細径に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のプランジャポンプ。
【請求項4】
前記被送液が海水または農業用水であり、前記吸引手段が耐水性を有する合成樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のプランジャポンプ。
【請求項5】
前記ポンプケーシングの液供給孔が、グリスカップが装着される既設のグリス供給孔を転用して用いられることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のプランジャポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリスなどの油剤を用いることなく被送液自体を用いてプランジャの潤滑を行なうプランジャポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般汎用のプランジャポンプでは、ポンプケーシングの軸受孔内で摺動するプランジャの潤滑がポンプケーシングに装着されたグリスカップのグリスを供給して行なわれてきた。しかしながら、プランジャはポンプ室に出し入れされるので、駆動中にプランジャに付着したグリスの油分が被送液に混入することがあり、油分を含む吐出液や余液が周囲環境に放出されて被害を及ぼすおそれがあった。
【0003】
そこで、下記の特許文献1に記載されたような被送液を用いてプランジャの潤滑を行なうプランジャポンプが提案されている。この文献1記載のプランジャポンプ81は、
図9に示すように、吸入口85、ポンプ室84および吐出口88を有するポンプケーシング82と、ポンプケーシング82の軸受孔82Aに摺動自在に支持されてポンプ室84に出し入れ駆動(矢印F)されるプランジャ83と、ポンプケーシング82の吐出口88から分岐接続された調圧弁94と、ポンプケーシング82の軸受孔82Aおよびプランジャ83の間に装入された高圧側シール91および低圧側シール92と、高圧側シール91および低圧側シール92の間に形成された潤滑用隙間93と連通する位置のポンプケーシング82に穿設されていて潤滑用隙間93に被送液Wを潤滑用として供給するための液供給孔104と、潤滑用隙間93と連通する位置のポンプケーシング82に穿設されていて潤滑用隙間93内の被送液Wを排出するための液排出孔105とを有している。調圧弁94は、弁ケーシング95、弁ケーシング95内の弁孔98を開閉する弁体99、および、弁ケーシング95内で弁体99の下流側にある低圧室100に接続されて低圧室100に流入した被送液Wを排出するための余液管部102を有している。そして、ポンプケーシング82内には、第1逆止弁86と第2逆止弁87が配備され、先端に噴射ノズル90を有する吐出管89が吐出口88に接続されている。吐出管89の途中からは、調圧弁94の高圧側接続口96とつながる分岐配管103が接続されている。高圧側接続口96とつながる弁ケーシング95内は高圧室97になっており、弁体99は弁バネ101のバネ付勢力により弁孔98を開閉する。ポンプケーシング82の液排出孔105は、被送液Wを貯留した液受槽108とつながる戻し配管106に接続されており、吸入口85は液受槽108からの吸入配管107に接続されている。このプランジャポンプ81では、吐出口88から吐出された海水などの被送液Wが吐出管89を経て噴射ノズル90から噴射されて洗浄作業などに使用される。一方、吐出管89内の液圧調整のために調圧弁94の弁孔98から低圧室100に流入した余液としての被送液Wは、その全量が余液管部102を経てポンプケーシング82の潤滑用隙間93に至り、そこでプランジャ83の潤滑や冷却を行なうようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記した文献1記載のプランジャポンプ81において、吐出管89や分岐配管103で5MPaほどの高圧になる被送液Wは、調圧弁94の低圧室100における余液として余液管部102から逃がされることで、吐出管89での液圧を設定圧以下に抑えるようにしている。すなわち、設定圧よりも液圧が高くなるほど、余液管部102から流出する余液量は多くなるのである。
一方で、プランジャ83の駆動量によるが、ポンプケーシング82の潤滑用隙間93に送られる潤滑用の被送液Wの量はそれほど多くを必要としない。しかしながら、余液管部102からの被送液Wはその全量が潤滑用隙間93を通されたのちに戻し配管106から液受槽108へ戻されるので、大量の通過液量に備えて過大な潤滑用隙間93を作成せざるを得ないが、そのような構成は合理的でない。逆に、常識的な通常容量の潤滑用隙間93を採用しようとすると、高圧調整時に余液管部102からの大量の被送液Wの流出が潤滑用隙間93で阻害されて正常な液圧調整ができず、ポンプ故障につながるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、調整弁は正常な圧力調整ができながら、プランジャは調整弁からの被送液により適正に潤滑され得るプランジャポンプの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るプランジャポンプは、吸入口、吸入口から吸入された被送液を加圧するためのポンプ室、および、吐出口を有するポンプケーシングと、ポンプケーシングの軸受孔に摺動自在に支持されてポンプ室に出し入れ駆動されるプランジャと、ポンプケーシングの吐出口から分岐接続された弁ケーシング、弁ケーシング内の弁座を開閉する弁体、および、弁ケーシング内で弁体の下流側にある低圧室に接続されて低圧室に流入した被送液を排出するための余液管部を有して成る調圧弁と、ポンプケーシングの軸受孔およびプランジャの間に装入された高圧側シールおよび低圧側シールと、高圧側シールおよび低圧側シールの間に形成された潤滑用隙間と連通する位置のポンプケーシングに穿設されていて潤滑用隙間に被送液を潤滑用として供給するための液供給孔と、潤滑用隙間と連通する位置のポンプケーシングに穿設されていて潤滑用隙間内の被送液を排出するための液排出孔と、を有して成り、調圧弁の低圧室に流入した被送液をポンプケーシングの潤滑用隙間に送ってプランジャを潤滑するように構成されたプランジャポンプであって、ポンプケーシングの潤滑用隙間内に被送液を送り出すための液送出孔が調圧弁の低圧室と連通する位置の弁ケーシングに穿設され、ポンプケーシングの液排出孔からの被送液を受け入れるための液受入孔が調圧弁の余液管部に穿設され、更に、ポンプケーシングの液排出孔と余液管部の液受入孔とを接続する液戻し配管と、ポンプケーシングの液供給孔と調圧弁の液送出孔とを接続する液供給配管と、ポンプケーシングの潤滑用隙間からの被送液を液戻し配管を通して調圧弁の余液管部に吸い入れる吸引手段と、を備えていることを特徴とする構成にしてある。
【0008】
また、前記構成において、吸引手段が、液受入孔よりも上流側の余液管部の内周面に固定される太径部と、太径部から一体的に軸心方向に連結されて液受入孔との対面位置に配置される細径部と、太径部および細径部の軸心に沿って一連に貫通して形成された第1通液孔と、を備えて成る第1円筒状体で構成されていることを特徴とするものである。
【0009】
そして、前記構成において、吸引手段は、第1円筒状体と、第1円筒状体の細径部よりも上流側位置の余液管部の内周面に固定されるとともに当該軸心方向に貫通して形成された第2通液孔を有する第2円筒状体と、から構成され、第2円筒状体の第2通液孔が第1円筒状体の第1通液孔に対し同径または細径に形成されているものである。
【0010】
更に、前記した構成において、被送液が海水または農業用水であり、吸引手段が耐水性を有する合成樹脂で構成されているものである。
【0011】
また、前記した各構成において、ポンプケーシングの液供給孔が、グリスカップが装着される既設のグリス供給孔を転用して用いられることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るプランジャポンプによれば、調圧弁の弁ケーシングに穿設された液送出孔と、調圧弁の余液管部に穿設された液受入孔と、液排出孔と液受入孔とを接続する液戻し配管と、液供給孔と液送出孔とを接続する液供給配管と、吸引手段とを備えているので、吸引手段の作用により、調圧弁の弁ケーシング内の被送液の一部を弁ケーシングから液供給配管に取り出しポンプケーシングの潤滑用隙間に流入させてプランジャの潤滑や冷却を行なわせたのち、潤滑用隙間内の被送液を液戻し配管から調圧弁の余液管部に吸引して他の余液被送液に合流させることができる。すなわち、ポンプケーシングでの高圧調整時に調圧弁へ流出された被送液はその多くが余液管部からポンプ外に排出される一方、低圧室に流入した被送液の全量ではなく、その一部を用いてプランジャの潤滑や冷却が行なわれるのである。すなわち、調圧弁は大量の余液の放出により正常な圧力調整動作を行なうことができ、プランジャは被送液の一部を用いて適正に潤滑され得る。無論、グリスなどの油類は使用しないので、周囲環境の汚染を防止でき潤滑油にかかる費用も削減できる。
【0013】
また、吸引手段が太径部と細径部と第1通液孔とを備えて成る第1円筒状体で構成されているものでは、ポンプケーシングから調圧弁の低圧室に流出した被送液は、その多くが余液管部内の第1円筒状体の第1通液孔を通ってケーシング外に排出される。そのときに生じたベンチュリ作用によって、細径部の外周面と余液管部の内周面との間の空間に液圧低下が引き起こされる。これにより、液戻し配管内の被送液が吸引されて余液管部内に引き入れられる。それに連動して、液供給配管内の被送液がポンプケーシングの潤滑用隙間内に吸い入れられてプランジャの潤滑や冷却に供せられる。更に遡って、調圧弁の低圧室の被送液の一部が液送出孔から液供給配管に吸い出される。このように極めて簡素な構成で安価な第1円筒状体により吸引手段を具現化できたのである。
【0014】
そして、吸引手段が第1円筒状体および第2円筒状体から構成されるものでは、第1円筒状体の第1通液孔を通過した被送液は、その後、第1円筒状体の第1通液孔と同径もしくは細径である第2円筒状体の第2通液孔を通過するから、第2円筒状体を用いない場合のように流速が落ちたりしない。従って、細径部の外周面と余液管部の内周面との空間での液圧低下が弱められたりせず、潤滑用隙間への液供給を十分に行えてプランジャの潤滑や冷却を確実に行なうことができる。
【0015】
更に、被送液が海水または農業用水であり、吸引手段が耐水性を有する合成樹脂で構成されているものでは、漁業用機械または農業用機械として有用に用いることができ、いっそう安価な吸引手段を提供できる。
【0016】
また、ポンプケーシングの液供給孔がグリスカップを装着される既設のグリス供給孔を転用して用いられるものでは、グリスカップを使用する既設のプランジャポンプを改造することにより、本発明に係るプランジャポンプを具現化できる。その場合、ポンプケーシングの液排出孔、弁ケーシングの液送出孔および余液管部の液受入孔の3孔の穿孔作業と、液供給配管および液戻し配管の入手だけで、既設のプランジャポンプを簡単かつ安価に転用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るプランジャポンプの側面図である。
【
図4】前記プランジャポンプの部分側断面図である。
【
図5】前記プランジャポンプの調圧弁を背面から視た部分拡大断面図である。
【
図6】前記プランジャポンプに用いる吸引手段の具体的一例を示す斜視図である。
【
図7】前記吸引手段を調圧弁の余液管部に設けた態様を示す部分拡大背断面図である。
【
図8】前記吸引手段の具体的別例を調圧弁の余液管部に設けた態様を示す部分拡大背断面図である。
【
図9】本発明の背景の一例となる従来のプランジャポンプを示す一部断面を含む概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。ここに、
図1は本発明の一実施形態に係るプランジャポンプの側面図、
図2は前記プランジャポンプの正面図、
図3は前記プランジャポンプの平面図、
図4は前記プランジャポンプの部分側断面図である。
各図において、この実施形態に係るプランジャポンプ1は、吸入口7、吸入口7から吸入された被送液Wを加圧するためのポンプ室17および吐出口8を有するポンプケーシング2と、ポンプケーシング2内で前後に延びる軸受孔33に摺動自在に支持されてポンプ室17に出し入れ駆動(
図4中の矢印F方向)されるプランジャ3と、プランジャ3を駆動するクランクロッド(図示省略)などを有するクランク部Kと、クランク部Kの回転駆動軸4Aに取り付けられたプーリ4と、図外の原動機(例えば、定格容量が22kW)とプーリ4を連結するベルト6と、ポンプケーシング2の上面に連結されて吐出被送液Wの液圧を調整する調圧弁5と、を備えている。前記の原動機としては、例えばモータ、エンジン、蒸気機関などが挙げられる。
【0019】
前記したポンプケーシング2の前部にはポンプ室17が形成されており、吸入口7を有する吸入管部9がポンプケーシング2の下端部に連結されている。ポンプケーシング2と吸入管部9の境目には、弁孔22を有する弁座21と、弁孔22を開閉する第1逆止弁18が配備されている。ポンプケーシング2の上端部には吐出口8を有する吐出管部10が連結されている。ポンプケーシング2と吐出管部10の境目には、弁孔23を有する弁座21と、弁孔23を開閉する第2逆止弁20が配備されている。
【0020】
ポンプケーシング2におけるポンプ室17の後方には、左右並列で前後に延びる3つの軸受孔33,33,33が形成されている。これらの軸受孔33,33,33にはプランジャ3,3,3が前後方向(軸心C,C,C方向)に移動自在に装着されている。そうして、軸受孔33およびプランジャ3との間には、ポンプ室17に近い位置に高圧側シール34が装着され、高圧側シール34から離間した後方位置に低圧側シール35が装着されている。これら高圧側シール34と低圧側シール35との間の空間は、プランジャ潤滑用の液を満たすための潤滑用隙間36となっている。そして、潤滑用隙間36と外部空間(この例では上方空間)とを連通する位置のポンプケーシング2に、被送液Wを潤滑用として供給するための液供給孔37が穿設されている。この液供給孔37は、グリスカップG(図中の一点鎖線で示す)が装着される既設のグリス供給孔を転用している。また、潤滑用隙間36と下方外部空間とを連通する位置のポンプケーシング2には、潤滑用隙間36内の被送液Wを排出するための液排出孔39が穿設されている。
【0021】
調圧弁5は、特に
図4および
図5に示すように、ポンプケーシング2上部の高圧室41から分岐接続された弁ケーシング15と、ポンプケーシング2と弁ケーシング15との境目に配備されて分岐口26を有する弁座24と、弁ケーシング15内に配備されて分岐口26を開閉する弁体25と、弁体25下流側の低圧室27と連通するように弁ケーシング15から分岐して設けられた余液管部12と、を備えている。前記の余液管部12は、高圧室41から低圧室27に流入した被送液Wを外部の液受槽などに排出するための余液出口11を有している。そして、弁ケーシング15内の上部に形成されたロッド支持孔28には、下端に弁体25を保持した弁体支持ロッド29が上下移動自在に支持されている。弁ケーシング15の上部には、円筒状の調整部ケーシング16が立設されている。尚、ポンプケーシング2や弁ケーシング15などの構造材は、海水に強い例えば砲金で構成されている。
【0022】
調整部ケーシング16内には弁体支持ロッド29をバネ付勢する弁バネ30が装入されており、この弁バネ30は調整部ケーシング16内に上下移動自在に装入されたバネ抑え板31の上下位置によりバネ弾性力を変えられるようになっている。バネ抑え板31の雌ネジ孔と螺合する雄ネジロッド32の上端には、手動で回転操作される調整用ノブ14が取り付けられている。そうして、弁ケーシング15の上端部には、余液管部12に設けられている開閉弁(図示省略)を手動で開閉操作するための操作レバー13が配備されている。この調圧弁5は、ポンプケーシング2の第2逆止弁20から吐出された被送液Wの一部を余液として取り出して高圧室41および分岐口26における液圧を調整するようになっている。
【0023】
そして、このプランジャポンプ1では、ポンプケーシング2の潤滑用隙間36内に被送液Wを送り出すための液送出孔42が調圧弁5の低圧室27と連通する位置の弁ケーシング15に穿設されている。ポンプケーシング2の液排出孔39からの被送液Wを受け入れるための液受入孔43は調圧弁5の余液管部12に穿設されている。更に、ポンプケーシング2の液排出孔39と余液管部12の液受入孔43とを接続する液戻し配管49,51および中継管具(液戻し配管)50と、ポンプケーシング2の液供給孔37と調圧弁5の液送出孔42とを接続する液供給配管48,53および中継管具(液供給配管)52を備えている。3つのプランジャ3,3,3に対応した3本の液戻し配管49,49,49は、それらの一端が液排出孔39,39,39に取り付けられた接続管40,40,40に接続され、それらの他端が中継管具50に接続されている。この中継管具50には液戻し配管51の一端が接続されている。液戻し配管51の他端は、液受入孔43の雌ネジ部に螺止された通液孔47付きの接続管45に接続されている。
【0024】
一方、3本の液供給配管48,48,48は、それらの一端が液供給孔37,37,37に取り付けられた接続管38,38,38に接続され、それらの他端が中継管具52に接続されている。この中継管具52には液供給配管53の一端が接続されている。液供給配管53の他端は、液送出孔42の雌ネジ部に螺止された通液孔46付きの接続管44に接続されている。尚、上記した液供給配管48,53や液戻し配管49,51は、入手が容易で強度および耐久性の高いポリアミドチューブなどで構成すると、既設ポンプの転用時に好都合である。また、ここでは、四つ口の中継管具52を用いた配管アレンジメントを示しているが、これに替えて、例えば三つ口の中継管具(図示省略)を2つ使用した配管アレンジメントであっても、3つの液供給孔37,37,37と1つの液送出孔42とを並列接続できる。これは、3つの液排出孔39,39,39と1つの液受入孔43とを並列接続するための四つ口の中継管具50を用いる場合も同様である。
【0025】
そして、このプランジャポンプ1は吸引手段60を備えている。吸引手段60は、
図5、
図6および
図7に示すように、液受入孔43よりも液流れ方向上流側の余液管部12の内周面12Aに固定される太径部63、太径部63から一体的に軸心B方向に連結されて液受入孔43との対面位置に配置される細径部64、ならびに、太径部63および細径部64の軸心Bに沿って一連に貫通して円環状に形成された第1通液孔65から成る第1円筒状体61と、第1円筒状体61の細径部64よりも下流側位置の余液管部12の内周面12Aに固定されるとともに軸心B方向に貫通して形成された第2通液孔67を有する第2円筒状体62と、から構成されている。そうして、この吸引手段60は、ポンプケーシング2の潤滑用隙間36からの被送液Wを戻し配管を通して調圧弁5の余液管部12に吸い入れるようになっている。
【0026】
太径部63を余液管部12の内周面12Aに密着させるために、太径部63の外径D1(例えば30mm程度)は余液管部12の内周面12Aの内径とほぼ同じかまたは若干大きく設定されている。第1円筒状体61の内周面66と第2円筒状体62の内周面68とは同じ内径D3に設定されている。細径部64の外径D2は余液管部12の内周面12Aの内径よりも小さいので、それらの間には径方向の隙間幅がd(例えば1.5mm程度=(D1-D2)/2)の減圧用空間70が形成される。第1円筒状体61の細径部64と第2円筒状体62との間には、間隔S(例えば3mm程度)の隙間69が設けられている。この例において、第1円筒状体61および第2円筒状体62は、耐水性を有する例えば塩化ビニル樹脂で構成されており、余液管部12の内周面12Aに対して圧入されるとともに耐水性のある接着剤で固着されている。尚、第1円筒状体61および第2円筒状体62を構成する、耐水性を有する合成樹脂としては、前掲の塩化ビニル樹脂以外でも採用可能であり、例えばPET、ABS、ポリアミドあるいはポリカーボネートなどでも構わない。
【0027】
上記のように構成されたプランジャポンプ1の作用を次に説明する。この場合、液受槽に貯めた海水を被送液Wとして用いた例を説明する。
まず、原動機の駆動によりプランジャ3が往復駆動(矢印F方向)すると(17kW程度)、液受槽の被送液Wが吸入口7からポンプ室17内に取り込まれて加圧され(5MPa程度)、高圧室41を経て吐出口8から吐出される。吐出された被送液Wはノズル(図示省略)から噴射されて、例えば漁具などの洗浄に供される。このとき、操作レバー13を矢印R方向に回動することにより、余液管部12の開閉弁が開閉されて、被送液Wの余液を余液管部12の余液出口11から液受槽に放出したり止水したりできる。そして、高圧室41における液圧は調圧弁5の調整用ノブ14の手動操作により例えば5MPaに設定されているので、高圧室41における液圧が5MPaを超えるときは、被送液Wが弁体25を押し上げて分岐口26を開き、余液(20~30L/分)として低圧室27内に流入する。
【0028】
そうして、ポンプケーシング2から調圧弁5の低圧室27内に流出した被送液Wは、その多くが余液管部12内の第1円筒状体61の第1通液孔65を通ってケーシング外に排出される。そのときに生じたベンチュリ作用によって、細径部64の外周面と余液管部12の内周面12Aとの間の減圧用空間70に液圧低下が引き起こされる。これにより、液戻し配管51他の被送液Wが吸引されて余液管部12内に引き入れられる。それに連動して、潤滑用隙間36内の被送液Wが液戻し配管49に吸い出され、液供給配管48他の被送液Wがポンプケーシング2の潤滑用隙間36内に吸い入れられてプランジャ3の潤滑や冷却に供せられる。更に遡って、調圧弁5の低圧室27の被送液Wの一部が液送出孔42から液供給配管53に吸い出される。このように被送液Wの一部がプランジャ3の潤滑や冷却を行なったのちに回収されるのである。
【0029】
上記したように、この実施形態のプランジャポンプ1によれば、吸引手段60の作用によって、調圧弁5の弁ケーシング15内の被送液Wの一部を弁ケーシング15から液供給配管53他に取り出しポンプケーシング2の潤滑用隙間36に流入させてプランジャ3の潤滑や冷却を行なわせたのち、潤滑用隙間36内の被送液Wを液戻し配管51他から調圧弁5の余液管部12に流入させて他の余液の被送液Wに合流させることができる。従って、ポンプケーシング2での高圧調整時に調圧弁5へ流出した被送液Wはその多くが余液として余液管部12からポンプ外に放出される。併せて、低圧室27に流入した被送液Wの全量ではなく、その一部がプランジャ3の潤滑や冷却に供される。すなわち、調圧弁5は大量の余液の放出により正常な圧力調整動作を行なうことができ、プランジャ3は被送液Wの一部を用いて適正に潤滑される。また、グリスなどの潤滑油類を使用しないので、周囲環境の汚染を防止でき潤滑にかかる費用を削減できるという利点もある。
【0030】
この場合、吸引手段60は第1円筒状体61と第2円筒状体62とから構成されているので、第1円筒状体61の第1通液孔65を通過した被送液Wは、その後、第1円筒状体61の第1通液孔65と同径の第2円筒状体62の第2通液孔67を通過するから、第1円筒状体61を通過後に流速が落ちたりしない。従って、細径部64の外周面と余液管部12の内周面12Aとの減圧用空間70での減圧作用が弱められたりせず、潤滑用隙間36への液供給を十分に行えてプランジャ3の潤滑や冷却を確実に実行することができる。尚、第2円筒状体62の第2通液孔67が第1円筒状体61の第1通液孔65より若干細径に形成されていても流速はいくぶん高められるので、この場合も減圧用空間70での減圧作用が弱められることはない。
【0031】
また、ポンプケーシング2の液供給孔37としては、グリスカップGを装着される既設のグリス供給孔を転用しているので、グリスカップGを使用する既設のプランジャポンプを改造することにより、本発明に係るプランジャポンプに容易かつ安価に到達できる。すなわち、ポンプケーシング2の液排出孔39、調圧弁5の液送出孔42および余液管部12の液受入孔43の3孔を穿孔する作業と、液供給配管48,53,52および液戻し配管49,51,50の入手をするだけで、本発明ポンプを実現できるのである。
【0032】
尚、上記の実施形態では、吸引手段60として第1円筒状体61と第2円筒状体62の双方で構成した例を示したが、本発明はそれに限定されるものでない。例えば、第1円筒状体61のみを吸引手段60として用いた場合でも、然るべき吸引効果が得られた。この場合、調圧弁5における液送出孔42と液受入孔43での液圧差△Pは0.1MPa程度
であり、既述した実施形態のような第1円筒状体61と第2円筒状体62の双方を用いた場合と比べて幾分低い液圧差であった。これは、第1円筒状体61の第1通液孔65から流出した直後の被送液Wが、内径の広い余液管部12の内周面12Aに拡がって流速がいくぶん低下するためと考えられる。但し、この実施形態のようなプランジャポンプでも、実用的に十分なプランジャへの潤滑機能を示した。このように、極めて簡素な構成で安価な第1円筒状体61により吸引手段60を具現化できたのである。
【0033】
また、上記では、吸引手段の一例として第1円筒状体61などを用いた例を示したが、本発明のプランジャポンプはそれに限定されない。例えば、
図8に示すようなベンチュリ式管具71を吸引手段60の別例として用いることも可能である。このベンチュリ式管具71は、上端部に液戻し配管51が接続され鍔部75付きで液受入孔43の雌ネジ部に螺止されるガイド管部72と、ガイド管部72の下端部から延設されて余液管部12の軸心B方向に延びる屈曲管部73と、を備えて構成されている。屈曲管部73の流出口74とガイド管部72の通液孔47とは連通している。このような構造のベンチュリ式管具71は、上記した第1円筒状体61のみまたは第1円筒状体61および第2円筒状体62で構成された吸引手段60と比べると、液戻し配管51における減圧力は低いが、配管途中に配備したサイトグラスにて確認されたように、プランジャ3の潤滑用隙間36に向けて被送液Wが流通しており、潤滑作用が認められた。
【0034】
また、上記では、被送液Wとして海水を用いる漁業用のプランジャポンプを例示したが、被送液としては、例示した海水に替えて、土砂や夾雑物を除去した雨水や農業用水でも適用可能である。
【0035】
そして、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではない。すなわち、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0036】
1 プランジャポンプ
2 ポンプケーシング
3 プランジャ
5 調圧弁
7 吸入口
8 吐出口
12 余液管部
12A 内周面
15 弁ケーシング
16 調整部ケーシング
17 ポンプ室
18 第1逆止弁
20 第2逆止弁
24 弁座
25 弁体
27 低圧室
33 軸受孔
34 高圧側シール
35 低圧側シール
36 潤滑用隙間
37 液供給孔
39 液排出孔
42 液送出孔
43 液受入孔
48 液供給配管
49 液戻し配管
50 中継管具(液戻し配管)
51 液戻し配管
52 中継管具(液供給配管)
53 液供給配管
60 吸引手段
61 第1円筒状体
62 第2円筒状体
63 太径部
64 細径部
65 第1通液孔
67 第2通液孔
70 減圧用空間
71 ベンチュリ式管具
72 ガイド管部
B 軸心
F 矢印
G グリスカップ
W 被送液