(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】びまん性胃癌の治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20240227BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20240227BHJP
A61K 31/166 20060101ALI20240227BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20240227BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240227BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240227BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20240227BHJP
A61K 45/06 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K31/436
A61K31/166
A61K31/44
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P1/00
A61K45/00
A61K45/06
(21)【出願番号】P 2020522157
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2019020689
(87)【国際公開番号】W WO2019230595
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018101086
(32)【優先日】2018-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507189460
【氏名又は名称】学校法人金沢医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】安本 和生
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】Molecular Cancer Therapeutics,2014年,Vol. 13,No. 12,p.3098-3106,DOI: 10.1158/1535-7163.MCT-14-0429
【文献】菅野康吉,家族性・遺伝性消化器がん(polyposis以外の大腸がん,胃がん,膵がんなど),分子消化器病,2015年,vol.12,no.3,p.253-263,254ページ表1の遺伝子のCDH1の行の記載
【文献】高山澄夫他,スキルス胃癌,Medical Practice,1999年,Vol.16, No.5,p.797-800,798ページ左欄1-4行
【文献】EUROPEAN JOURNAL OF CANCER ,2008年,44,1022-1029
【文献】Cancer Science,2016年,vol.107 no.12,1919-1928
【文献】CHEN I et al.,Journal of Translational Medicine,2017年,15:92,Abstract、9ページ右欄36-45行,11ページ左欄45-51行
【文献】TOLCHER AW et al.,Annuals of Oncology,2015年,Vol.26,p.58-64,Abstract
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 45/06
A61K 31/519
A61K 31/436
A61K 31/166
A61K 31/44
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEK阻害剤を含有する、癌性腹膜炎を伴うびまん性胃癌の治療剤であって、
MEK阻害剤がトラメチニブまたはその薬理学的に許容される塩、もしくはその溶媒和物である、治療剤。
【請求項2】
癌性腹膜炎を伴うびまん性胃癌が、癌性腹水を伴う癌性腹膜炎を伴うびまん性胃癌である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
MEK阻害剤がトラメチニブ・ジメチルスルホキシド付加物である、請求項1または2に記載の治療剤。
【請求項4】
MEK阻害剤とmTOR阻害剤とを含有するびまん性胃癌の治療剤であって、但し、びまん性胃癌は遺伝性びまん性胃癌を除くびまん性胃癌であ
り、
MEK阻害剤とmTOR阻害剤の組み合わせが、トラメチニブまたはその薬理学的に許容される塩もしくはその溶媒和物とエベロリムスまたはその薬理学的に許容される塩もしくはその溶媒和物の組み合わせ、PD0325910とTemsirolimus の組み合わせ、およびPimasertibとRapamycinの組み合わせからなる群から選択される何れかである、治療剤。
【請求項5】
トラメチニブまたはその薬理学的に許容される塩もしくはその溶媒和物がトラメチニブ・ジメチルスルホキシド付加物である、請求項
4に記載の治療剤。
【請求項6】
エベロリムスまたはその薬理学的に許容される塩もしくはその溶媒和物がエベロリムスである、請求項
4または5に記載の治療剤。
【請求項7】
mTOR阻害剤と組み合わせて投与されることを特徴とする、MEK阻害剤を含有する、びまん性胃癌の治療剤であって、但し、びまん性胃癌は遺伝性びまん性胃癌を除くびまん性胃癌であり、
MEK阻害剤とmTOR阻害剤の組み合わせが、トラメチニブまたはその薬理学的に許容される塩もしくはその溶媒和物とエベロリムスまたはその薬理学的に許容される塩もしくはその溶媒和物の組み合わせ、PD0325910とTemsirolimus の組み合わせ、およびPimasertibとRapamycinの組み合わせからなる群から選択される何れかである、治療剤。
【請求項8】
トラメチニブまたはその薬理学的に許容される塩もしくはその溶媒和物がトラメチニブ・ジメチルスルホキシド付加物である、請求項
7に記載の治療剤。
【請求項9】
エベロリムスまたはその薬理学的に許容される塩もしくはその溶媒和物がエベロリムスである、請求項
7または8に記載の治療剤。
【請求項10】
びまん性胃癌がスキルス胃癌である、請求項1から
9のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項11】
MEK阻害剤を含有する、癌性腹膜炎を伴うcMet遺伝子増幅胃癌の治療剤であって、
MEK阻害剤がトラメチニブもしくはその薬理学的に許容される塩、またはその溶媒和物である、治療剤。
【請求項12】
癌性腹膜炎を伴うcMet遺伝子増幅胃癌が、癌性腹水を伴う癌性腹膜炎を伴うcMet遺伝子増幅胃癌である、請求項
11に記載の治療剤。
【請求項13】
MEK阻害剤がトラメチニブ・ジメチルスルホキシド付加物である、請求項
11または
12に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物のびまん性胃癌を治療する方法、およびこのような治療に有用な医薬組成物に関する。特に、前記方法は、びまん性胃癌及びcMet遺伝子増幅胃癌の治療においてMEK阻害剤を含有する医薬組成物、MEK阻害剤とmTOR阻害剤とを含有する医薬組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スキルス胃癌を代表とするびまん性胃癌は、低分化腺癌や印環細胞癌などからなり、発育が早く、治療に難渋する癌性腹水を伴う腹膜播種(癌性腹膜炎)形成能が高く、高分化型腺癌からなる非びまん性胃癌に比べ予後が悪いと言われている。特にスキルス胃癌は癌細胞のびまん浸潤性増殖と大量の癌間質線維芽細胞増生ならびに高頻度に癌性腹水を合併する癌性腹膜炎発症を特徴とする難治性の胃癌である(非特許文献1)。これらは進行胃癌の50~60%がびまん性胃癌、そのうち20%前後がスキルス胃癌と言われていること、また、再発胃癌の50~60%は癌性腹膜炎が占めるという事実と一致する。また、一旦、癌性腹水を発症した癌性腹膜炎症例は短期間に進行増悪することも知られている(非特許文献2、非特許文献3)。
【0003】
発育が急速であるというびまん性胃癌の特徴により、ほとんどの進行症例は癌性腹水を伴うステージIVの状態で診断されるため、根治的外科切除による治療はほとんど期待できない(非特許文献2、非特許文献3)。そのため、CDDP、S-1、Capecitabin、oxaliplatin(第一選択)、paclitaxel、ramucirumab(抗VEGFR2抗体)、CPT-11、Nivolumab (抗PD-1抗体)(第二選択)などの抗がん剤治療が行われるが、非びまん性胃癌の場合に比べ、治療の効果は低い。胃癌における唯一の分子標的であるHuman epidermal growth factor receptor 2 (HER2)はびまん性胃癌には発現を認めない。したがって、抗HER2抗体等の標的療法は望めない。また、非びまん性胃癌である高分化型腺癌は、高い頻度で遺伝子異常を有するため、免疫療法のターゲットになりやすいのに比べ、びまん性胃癌は遺伝子異常が少なく、免疫原性も低いことから免疫療法の対象にもなりにくいと考えられている(非特許文献6)。
【0004】
びまん性胃癌に特徴的な癌進展メカニズムの解析の結果、本病態特異的に豊富な癌間質線維芽細胞よりHepatocyte growth factor (以下、HGF)が高産生することが明らかとなった(非特許文献1)。これら癌間質由来HGFは、唯一のレセプターであるcMetを介してびまん性胃癌細胞の運動性亢進に加えて強力な細胞増殖作用を引き起こす(非特許文献1)。さらにこれらパラクリン誘導性HGFは、HGF同様に著明な細胞増殖活性を有するEGFRリガンドの一つであるamphiregulin(以下、APということもある)(非特許文献3)を、びまん性胃癌細胞より大量に産生誘導する(非特許文献1)。びまん性胃癌が合併する癌性腹水中には、非癌性腹水に比して2~5倍以上の高濃度のHGFならびにAPが存在する(非特許文献3)。間質誘導性HGFはパラクリン機序で、また自己産生性APはオートクリン機序でびまん性胃癌細胞を強力に細胞増殖する。一方、非びまん性胃癌では、びまん性胃癌の癌間質にみられるような癌間質線維芽細胞からの高度なHGF産生誘導は認めない。また、非びまん性胃癌細胞にはHGFならびにAP刺激による細胞増殖誘導作用はなく、これらのことが、びまん性胃癌細胞との大きな違いとなっている(非特許文献1)。びまん性胃癌においては、癌間質誘導性パラクリンHGFがcMetレセプターを介して活性化される(HGF/cMet axis経路)ことが重要な役割を果たしていると考えられ(非特許文献1)、cMet遺伝子増幅のある胃癌細胞でもスキルス胃癌やびまん性胃癌発症との関連が報告されている(非特許文献7)。cMet阻害剤は、cMet遺伝子増幅胃癌やスキルス胃癌細胞を用いたマウス癌性腹膜炎モデルで高い抗腫瘍効果を示した(非特許文献1)。一方、胃癌全体を対象としたcMet受容体を標的としたTKI(チロシンキナーゼ阻害剤)や抗体によるいくつかの臨床試験が行われたが、いずれの試験においても十分な臨床的有用性は確認されていないのが実情である。
【0005】
マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ/細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)キナーゼ及びMEKは、Raf-MEK-ERKシグナル伝達系を媒介するキナーゼとして細胞増殖の調節に関与することが知られており、Rafファミリー(B-Raf、C-Rafなど)はMEKファミリー(MEK-1、MEK-2など)を活性化し、MEKファミリーはERKファミリー(ERK-1およびERK-2)を活性化する(非特許文献4、
図1)。
【0006】
また、MEK阻害活性は、ERK1/2活性の阻害および細胞増殖の抑制を有効に誘導することが知られている(非特許文献5)。
【0007】
上記Raf-MEK-ERKシグナル伝達系のほかに癌の進展に関わる経路として、PI3K/AKT/mTORシグナル伝達系が知られている。ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)は、細胞成長、細胞増殖、細胞運動性、細胞生存、タンパク質合成、および転写を調節するセリン/スレオニンキナーゼである。
【0008】
増殖因子の刺激によりPI3K/AKT/mTORシグナル伝達系の活性化が起こるが、mTORは細胞分裂や細胞死や血管新生やエネルギー産生などに作用してがん細胞の増殖を促進することから、このシグナル伝達系ががん細胞や肉腫細胞の増殖を促進するメカニズムとして重要であると言われている(非特許文献4、
図1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Cancer Science, December 2013, vol.104, No12, pp.1640-1646
【文献】Cancer Res 2006; 66: (4) pp.2181-2187, February 15, 2006
【文献】Clin Cancer Res 2011; 17: 3619-3630
【文献】モダンメディア 18-22頁61巻8号2015
【文献】The Journal of Biological Chemistry, vol.276, No.4, pp.2686-2692, 2001
【文献】Cancer genome landscapes. Science 39 (6127):1546-8
【文献】Cancer 1999;85:1894-1902
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、びまん性胃癌と非びまん性胃癌の進展発育における分子機構が異なることから、非びまん性胃癌に高い抗腫瘍効果をもたらす治療剤がびまん性胃癌の治療剤として十分な効果を発揮することは期待されず、びまん性胃癌に特徴的な細胞増殖癌進展メカニズムの理解に基づきそれを制御する、びまん性胃癌に高い抗腫瘍効果をもたらす治療剤の開発が待たれていた。
【0011】
なお、胃癌がびまん性であるか非びまん性であるかは従来、肉眼形態的に分類されてきたものである。ここで、全胃癌の2%を占めるcMet遺伝子増幅胃癌は、肉眼形態的にはびまん性胃癌に分類され難い場合があるが、進展発育の分子機構の観点からはびまん性胃癌の特徴を有していることが分かっている(非特許文献7)。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、びまん性胃癌及びcMet遺伝子増幅胃癌に対してMEK阻害剤を単剤で用いる場合でも大きな治療効果がもたらされること、さらにmTOR阻害剤を組み合わせる場合には相乗的により大きな治療効果がもたらされることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[1]MEK阻害剤を含有する、びまん性胃癌の治療剤、
[2]MEK阻害剤がトラメチニブもしくはその薬理学的に許容される塩、またはその溶媒和物である、[1]記載の治療剤、
[3]MEK阻害剤がトラメチニブ・ジメチルスルホキシド付加物である、[1]または[2]記載の治療剤、
[4]MEK阻害剤とmTOR阻害剤とを含有するびまん性胃癌の治療剤、
[5]MEK阻害剤がトラメチニブもしくはその薬理学的に許容される塩、またはその溶媒和物である、[4]記載の治療剤、
[6]MEK阻害剤がトラメチニブ・ジメチルスルホキシド付加物である、[4]または[5]記載の治療剤、
[7]mTOR阻害剤がエベロリムスもしくはその薬理学的に許容される塩、またはその溶媒和物である、[4]乃至[6]のいずれか一つに記載の治療剤、
[8]mTOR阻害剤がエベロリムスである、[4]乃至[7]のいずれか一つに記載の治療剤、
[9]mTOR阻害剤と組み合わせて投与されることを特徴とする、MEK阻害剤を含有する、びまん性胃癌の治療剤、
[10]MEK阻害剤がトラメチニブもしくはその薬理学的に許容される塩、またはその溶媒和物である、[9]記載の治療剤、
[11]MEK阻害剤がトラメチニブ・ジメチルスルホキシド付加物である、[9]または[10]記載の治療剤、
[12]mTOR阻害剤がエベロリムスもしくはその薬理学的に許容される塩、またはその溶媒和物である、[9]乃至[11]のいずれか一つに記載の治療剤、
[13]mTOR阻害剤がエベロリムスである、[9]乃至[12]のいずれか一つに記載の治療剤、
[14]びまん性胃癌がスキルス胃癌である、[1]乃至[13]のいずれか一つに記載の治療剤、
[15]MEK阻害剤を含有する、cMet遺伝子増幅胃癌の治療剤、
[16]MEK阻害剤がトラメチニブもしくはその薬理学的に許容される塩、またはその溶媒和物である、[15]記載の治療剤、
[17]MEK阻害剤がトラメチニブ・ジメチルスルホキシド付加物である、[15]または[16]記載の治療剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、MEK阻害剤を含有するびまん性胃癌及びcMet遺伝子増幅胃癌の治療剤、MEK阻害剤とmTOR阻害剤とを含有するびまん性胃癌の治療剤を提供する。かかる治療剤はびまん性胃癌に対しての利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】びまん性胃癌細胞に対するトラメチニブの抗腫瘍効果を示す。
【0016】
「HGF」はHGFとトラメチニブを加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとトラメチニブを加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずトラメチニブを加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図3】非びまん性胃癌細胞に対するトラメチニブの抗腫瘍効果を示す。各記号の意味は
図2と同様である。
【
図4】cMet遺伝子増幅胃癌細胞に対するトラメチニブの抗腫瘍効果を示す。各記号の意味は
図2と同様である。
【
図5】びまん性胃癌細胞及びcMet遺伝子増幅胃癌細胞に対するエベロリムスの抗腫瘍効果を示す。
【0017】
「HGF」はHGFとエベロリムスを加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとエベロリムスを加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずエベロリムスを加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図6】非びまん性胃癌細胞に対するエベロリムスの抗腫瘍効果を示す。各記号の意味は
図5と同様である。
【
図7】びまん性胃癌細胞に対するAkt阻害剤AZD5363の抗腫瘍効果を示す。
【0018】
「HGF」はHGFとAZD5363を加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとAZD5363を加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずAZD5363を加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図8】びまん性胃癌細胞に対するトラメチニブとエベロリムスによる相乗的細胞増殖抑制効果を示す。
【0019】
上段(トラメチニブのみの効果)において、「HGF」はHGFとトラメチニブを加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとトラメチニブを加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずトラメチニブを加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【0020】
下段(トラメチニブとエベロリムスの併用効果)において、「HGF+everolimus」はHGF、トラメチニブとエベロリムスを加えた細胞の増殖を、「AP+everolimus」はamphiregulin、トラメチニブとエベロリムスを加えた細胞の増殖を示し、「HGF」はHGFとトラメチニブを加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとトラメチニブを加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずトラメチニブを加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図9】びまん性胃癌細胞に対するトラメチニブとエベロリムスによる相乗的細胞増殖抑制効果を示す。各記号の意味は
図8と同様である。
【
図10】非びまん性胃癌細胞に対するトラメチニブとエベロリムスによる細胞増殖抑制効果を示す。各記号の意味は
図8の下段と同様である。
【
図11】びまん性胃癌細胞を移植したBalb/c nu/nuマウスに対するトラメチニブとエベロリムスによる相乗的細胞増殖抑制効果に基づく生存期間の延長を示す。
【
図12】びまん性胃癌細胞および非びまん性胃癌細胞に対するPD0325901(MEK阻害剤)とTemsirolimus(mTOR阻害剤)の併用による増殖抑制効果を示す。「HGF」はHGFとPD0325901を加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとPD0325901を加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずPD0325901を加えた細胞増殖(ベースライン増殖)を、「HGF+temsirolimus」はHGF、PD0325901とTemsirolimusを加えた細胞の増殖を、「AP+temsirolimus」はamphiregulin、PD0325901とTemsirolimusを加えた細胞の増殖をそれぞれ示す。
【
図13】びまん性胃癌細胞および非びまん性胃癌細胞に対するPimasertib(MEK阻害剤)とRapamycin(mTOR阻害剤)の併用による増殖抑制効果を示す。「HGF」はHGFとPimasertibを加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとPimasertibを加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずPimasertibを加えた細胞増殖(ベースライン増殖)を、「HGF+rapamycin」はHGF、PimasertibとRapamycinを加えた細胞の増殖を、「AP+rapamycin」はamphiregulin、PimasertibとRapamycinを加えた細胞の増殖をそれぞれ示す。
【
図14】びまん性胃癌細胞に対するRavoxertinib(ERK阻害剤)による増殖抑制効果を示す。「HGF」はHGFとRavoxertinibを加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとRavoxertinibを加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずRavoxertinibを加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図15】びまん性胃癌細胞に対するLY3214996(ERK阻害剤)による増殖抑制効果を示す。「HGF」はHGFとLY3214996を加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとLY3214996を加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずLY3214996を加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図16】非びまん性胃癌細胞に対するRavoxertinib(ERK阻害剤)による増殖抑制効果を示す。「HGF」はHGFとRavoxertinibを加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとRavoxertinibを加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずRavoxertinibを加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図17】非びまん性胃癌細胞に対するLY3214996(ERK阻害剤)による増殖抑制効果を示す。「HGF」はHGFとLY3214996を加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとLY3214996を加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずLY3214996を加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図18】cMet遺伝子増幅胃癌細胞に対するRavoxertinib(ERK阻害剤)の抗腫瘍効果を示す。「HGF」はHGFとRavoxertinibを加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとRavoxertinibを加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずRavoxertinibを加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図19】cMet遺伝子増幅胃癌細胞に対するLY3214996(ERK阻害剤)による増殖抑制効果を示す。「HGF」はHGFとLY3214996を加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとLY3214996を加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずLY3214996を加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図20】びまん性胃癌細胞に対するMK2206(Akt阻害剤)の抗腫瘍効果を示す。「HGF」はHGFとMK2206を加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとMK2206を加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずMK2206を加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図21】非びまん性胃癌細胞に対するMK2206(Akt阻害剤)の抗腫瘍効果を示す。「HGF」はHGFとMK2206を加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとMK2206を加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずMK2206を加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図22】びまん性胃癌細胞に対するPerifosine(Akt阻害剤)の抗腫瘍効果を示す。「HGF」はHGFとPerifosineを加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとPerifosineを加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずPerifosineを加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図23】非びまん性胃癌細胞に対するPerifosine(Akt阻害剤)の抗腫瘍効果を示す。「HGF」はHGFとPerifosineを加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとPerifosineを加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずPerifosineを加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図24】cMet遺伝子増幅胃癌細胞に対するMK2206(Akt阻害剤)の抗腫瘍効果を示す。「HGF」はHGFとMK2206を加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとMK2206を加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずMK2206を加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図25】cMet遺伝子増幅胃癌細胞に対するPerifosine(Akt阻害剤)の抗腫瘍効果を示す。「HGF」はHGFとPerifosineを加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとPerifosineを加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずPerifosineを加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図26】びまん性胃癌細胞に対するJNK-IN-8(JNK阻害剤)の抗腫瘍効果を示す。「HGF」はHGFとJNK-IN-8を加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとJNK-IN-8を加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずJNK-IN-8を加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【
図27】びまん性胃癌細胞に対するSP600125(JNK阻害剤)の抗腫瘍効果を示す。「HGF」はHGFとSP600125を加えた細胞の増殖を、「AP」はamphiregulinとSP600125を加えた細胞の増殖を、「Medium」はHGFおよびAPを加えずSP600125を加えた細胞増殖(ベースライン増殖)をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
【0022】
本明細書において治療剤とは、疾患を発症したヒトまたはそれ以外の哺乳動物を治療するための医薬を意味する。かかる治療剤は、主薬として(i)MEK阻害剤、または(ii)MEK阻害剤及びmTOR阻害剤を含む。肉眼形態から、胃癌は1~5型に分けられ、3型と4型がびまん性胃癌を指し、4型がスキルス胃癌を指す。
【0023】
本発明において、MEK阻害剤はMEK阻害効果により、細胞の増殖に寄与するMAPK/ERKシグナル伝達系を阻害するものであれば用いることができるが、トラメチニブ、Refametinib (RDEA119, Bay 86-9766)、Cobimetinib (GDC-0973, RG7420)、Binimetinib (MEK162, ARRY-162, ARRY-438162)、AZD6244(セルメチニブ)、AZD8330、Pimasertib (AS-703026)、PD0325901, PD184352 (CI-1040)又はそれらの薬理学的に許容される塩、もしくはそれらの溶媒和物などがあげられ、好ましくはトラメチニブ、AZD6244(セルメチニブ)又はそれらの薬理学的に許容される塩、もしくはそれらの溶媒和物などがあげられる。さらに好ましくはトラメチニブ又は薬理学的に許容される塩、もしくはその溶媒和物があげられ、なかでトラメチニブ・ジメチルスルホキシド付加物が好ましい。トラメチニブ・ジメチルスルホキシド付加物はメキニスト(商標)錠の有効成分である。
【0024】
本発明において、mTOR阻害剤はmTOR阻害効果を発揮するものであれば用いることができるが、エベロリムス、AZD805、ラパマイシンおよびその類似体、RAD001、CCI-779、テムシロリムス、AP23573、AZD8055、WYE-354、WYE-600、WYE-687、Pp121、Dactolisib (BEZ235, NVP-BEZ235)、Ridaforolimus (Deforolimus, MK-8669)、Sapanisertib (INK 128, MLN0128)、Omipalisib (GSK2126458, GSK458)、Vistusertib (AZD2014)、Torin 2又はそれらの薬理学的に許容される塩、もしくはそれらの溶媒和物などがあげられ、好ましくはエベロリムス、AZD805又はそれらの薬理学的に許容される塩、もしくはそれらの溶媒和物などがあげられる。さらに好ましくはエベロリムス又はその薬理学的に許容される塩があげられ、なかでもエベロリムスが好ましい。エベロリムスはアフィニトール(商標)錠の有効成分である。
【0025】
本明細書において塩とは、本発明のMEK阻害剤またはmTOR阻害剤と塩を形成し、かつ薬理学的に許容されるものであれば特に限定されない。例えば、無機酸塩、有機酸塩、無機塩基塩、有機塩基塩、酸性または塩基性アミノ酸塩等を挙げることができる。
【0026】
無機酸塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等を挙げることができる。
【0027】
有機酸塩としては、例えば、酢酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等があげられる。
【0028】
無機塩基塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。
【0029】
有機塩基塩としては、例えば、ジエチルアミン塩、ジエタノールアミン塩、メグルミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩等を挙げることができる。
【0030】
酸性アミノ酸塩としては、例えば、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等を挙げることができる。
【0031】
塩基性アミノ酸塩としては、例えば、アルギニン塩、リジン塩、オルニチン塩等を挙げることができる。
【0032】
本明細書において溶媒和物とは、例えば、水和物、非水和物などをあげることができる。溶媒は、例えば、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール)、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等があげられる。
【0033】
本発明のMEK阻害剤またはmTOR阻害剤は、結晶でも無結晶でもよい。結晶多形が存在する場合には、それらのいずれかの結晶形の単一物であっても混合物であってもよい。
【0034】
本発明のびまん性胃癌の治療剤は、錠剤、顆粒剤、細粒剤、粉剤、カプセル剤等の固形製剤または液剤、ゼリー剤、シロップ剤等の経口投与用製剤であってもよい。また、本発明のびまん性胃癌の治療剤は注射剤、坐剤、軟膏剤、パップ剤等の非経口投与用製剤であってもよい。
【0035】
経口投与用製剤を製造する場合には、本発明のMEK阻害剤またはmTOR阻害剤に、必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤等の薬剤学的に許容される担体を添加してもよい。また、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等は、必要に応じて、コーティングを施してもよい。
【0036】
賦形剤としては、例えば、乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、ソルビトール、結晶セルロース、二酸化ケイ素などが挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカなどが挙げられる。着色剤としては、例えば、酸化チタン、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、コチニール、カルミン、リボフラビンなどが挙げられる。矯味矯臭剤としては、ココア末、アスコルビン酸、酒石酸、ハッカ油、ボルネオール、桂皮末などが挙げられる。これらの錠剤、顆粒剤は、必要に応じてコーティングを施してもよい。
【0037】
注射剤(静脈内投与用、筋肉内投与用、皮下投与用、腹腔内投与用等)を製造する場合には、本発明のMEK阻害剤またはmTOR阻害剤に、必要に応じて、pH調整剤、緩衝剤、懸濁化剤、溶解補助剤、抗酸化剤、保存剤(防腐剤)、等張化剤等の薬剤学的に許容される担体を添加し、常法により注射剤を製造することができる。また、凍結乾燥して、用時溶解型の凍結乾燥製剤としてもよい。
【0038】
懸濁化剤としては、例えば、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどが挙げられる。
【0039】
溶解補助剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マクロゴール、グリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0040】
安定化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾールなどが挙げられる。
本発明のびまん性胃癌治療剤は、本発明のMEK阻害剤および/またはmTOR阻害剤を用いて、例えば第17改正日本薬局方の製剤総則に記載の方法など既知の方法に従って製造することができる。
【0041】
本発明の腫瘍治療剤は、本発明のMEK阻害剤とmTOR阻害剤を別々に製剤化して、両者を同時にまたは別々に投与してもよい。また、二つの製剤を一個の包装体中に入れ、いわゆるキット製剤としてもよい。さらに、一つの製剤の中に両者を含んでいてもよい。
本発明のびまん性胃癌の治療剤における、MEK阻害剤及びmTOR阻害剤の投与量は、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与時期、投与間隔、医薬製剤の種類等に応じて、適宜選択することができる。
【0042】
本発明のMEK阻害剤は公知の臨床実績に従って投与することができる。本発明のMEK阻害剤を経口投与する場合、MEK阻害剤の投与量が成人(体重60kg)に対して、1日あたり100μg~10g、好ましくは500μg~10g、さらに好ましくは1mg~1g、より好ましくは1mg~10mgとなるように投与してもよい。
本発明のMEK阻害剤がトラメチニブ・ジメチルスルホキシド付加物である場合、その投与量の一態様は、1日あたり1~2mgである。
本発明のMEK阻害剤は、1日1~3回に分けて投与することができる。
【0043】
本発明のmTOR阻害剤は公知の臨床実績に従って投与することができる。本発明のmTOR阻害剤を経口投与する場合、mTOR阻害剤の投与量が成人(体重60kg)に対して、1日あたり100μg~10g、好ましくは500μg~10g、さらに好ましくは1mg~1g、より好ましくは5mg~20mgとなるように投与してもよい。
本発明のmTOR阻害剤がエベロリムスである場合、その投与量の一態様は、1日あたり10mgである。
本発明のmTOR阻害剤は、1日1~3回に分けて投与することができる。
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0044】
実施例1
トラメチニブのびまん性胃癌細胞の増殖に与える効果を検討した。
びまん性胃癌細胞株NUGC4(ヒューマンサイエンス振興財団研究資源バンク(大阪、日本)より入手)及びGCIY(理化学研究所バイオソースセンター(筑波、日本)より入手)を、100 units/mL濃度のペニシリンならびに100 units/mL濃度のストレプトマイシン抗生剤を含む胎児ウシ血清10%濃度のRPMI1640培養液で培養継代して以下の実験に用いた。細胞は、マイコプラズマ感染の有無を定期的にMycoAlert Mycoplasma Detection kit (Lonza)を用いて検査した。
細胞増殖測定は、Cell Counting Kit-8 (CCK-8)(同人化学研究所,熊本,日本)を用いて行った(M. Ishiyama, et al. Talenta 44;1299:1997)。細胞を、1ウエルに5 × 10
4個/mLの濃度で100μLづつ撒き、37℃で24時間インクベーター内で培養した後、HGF(R&D systems)(50 ng/mL)、amphiregulin(R&D Systems (Minneapolis, MN))(100 ng/mL)、トラメチニブ(Selleck Chemicals (Houston, TX)) (0.001~10 μM)を各ウエルにに加え、さらに37℃、72時間インクベーター内で培養した。10 μLのWST-8溶液を各ウエルに加え、37℃で4時間培養した。microplate reader (BIO-RAD Laboratories, Inc.) を用いて、450 nmの波長で吸光度を測定した。すべて3連で、同様の実験を3度繰り返した。
その結果、トラメチニブは、NUGC4及びGCIYにおいて、HGF誘導性細胞増殖、amphiregulin誘導性細胞増殖及びベースライン細胞増殖を抑制した。特にNUGC4では、0.001 μM以下の非常に低濃度から用量依存的に、HGF誘導性細胞増殖、amphiregulin誘導性細胞増殖及びベースライン細胞増殖を強く抑制した。GCIYでは、amphiregulin誘導性増殖が0.03 μM以上の濃度から増殖抑制効果が確認された。結果を
図2および表1に示す。
【0045】
【0046】
実施例2
実施例1と同様の方法により、トラメチニブの非びまん性胃癌細胞の増殖に与える効果を検討した。
ヒト非びまん性高分化型胃癌細胞は、MKN7(ヒューマンサイエンス振興財団研究資源バンク(大阪、日本))及びGCR1(金沢大学がん進展制御研究所)を用いた。
その結果、MKN7及びGCR1においては、トラメチニブ0.001 μM以下の非常に低濃度から用量依存的にHGF誘導性細胞増殖、AP誘導性細胞増殖及びベースライン(HGFおよびamphiregulinを加えない)細胞増殖を抑制したが、その効果はびまん性胃癌細胞と比較して弱いものであった。結果を
図3および表2に示す。
【0047】
【0048】
実施例3
実施例1と同様の方法により、トラメチニブのcMet遺伝子増幅胃癌細胞の増殖に与える効果を検討した。
cMet遺伝子増幅胃癌細胞はcMet遺伝子増幅胃癌細胞株MKN45(ヒューマンサイエンス振興財団研究資源バンク(大阪、日本))を用いた。
その結果、トラメチニブは、MKN45では、HGF誘導性細胞増殖及びAP誘導性細胞増殖がほぼ認められず、トラメチニブ0.001 μM以下の非常に低濃度から著明な細胞増殖抑制が確認された。結果を
図4および表3に示す。
【0049】
【0050】
実施例4
実施例1と同様の方法により、びまん性胃癌細胞、cMet遺伝子増幅胃癌細胞および非びまん性胃癌細胞に対するエベロリムス(Selleck Chemicals)の効果を検討した。
その結果、エベロリムスは、検討したびまん性胃癌細胞(NUGC4及びGCIY)、cMet遺伝子増幅胃癌細胞(MKN45)および非びまん性胃癌細胞(MKN7及びGCR1)すべての細胞で、HGF誘導性細胞増殖、amphiregulin誘導性細胞増殖及びベースライン細胞増殖に対して0.001 μM以下の非常に低濃度で一定の抑制効果を示したが、0.001 μM以上の濃度では、10μMの高濃度を除き明らかな抑制効果は認められなかった。結果を
図5および
図6に示す。
【0051】
比較例1
実施例1と同様の方法により、Akt阻害剤であるAZD5363(Selleck Chemicals)のびまん性胃癌細胞(NUGC4)の増殖に与える効果を検討した。
その結果、HGF誘導性細胞増殖では10μMの高濃度を除き抑制効果はなく、amphiregulin誘導性細胞増殖では、1 μM以上の高濃度で軽度の抑制効果を示した。ベースライン細胞増殖には抑制効果は認められなかった。以上のようにAkt阻害剤(AZD5363)による抑制効果は、エベロリムスの抑制効果に比しても更に低かった。結果を
図7に示す。
【0052】
実施例5
実施例1と同様の方法により、トラメチニブとエベロリムスの併用による増殖抑制効果の有無を検討した。エベロリムスは1μMになるように加えた。
びまん性胃癌細胞(NUGC4及びGCIY)においては、トラメチニブの細胞増殖抑制効果がエベロリムスを加えることにより相乗的に増強した。一方、非びまん性胃癌細胞(MKN7及びGCR1)では、併用による効果は認められなかった。結果を
図8乃至10および表4に示す。
【0053】
【0054】
実施例6
Balb/c nu/nuマウス(6週齢)にびまん性胃癌細胞(NUGC4細胞)を一匹あたりPBS200μLに2x10
6個に調整し腹腔内投与により移植した。移植後21日経過後、腹水貯留を確認し、経口経路でトラメチニブ(0.1 mg/kg体重及び0.3 mg/kg体重)、エベロリムス(1.5 mg/kg体重)及びトラメチニブとエベロリムスの併用としてトラメチニブ(0.1 mg/kg体重)とエベロリムス(1 mg/kg体重)、トラメチニブ(0.1 mg/kg体重)とエベロリムス(1 mg/kg体重)、トラメチニブ(0.3 mg/kg)とエベロリムス(1 mg/kg)、トラメチニブ(0.3 mg/kg体重)とエベロリムス(5 mg/kg体重)の投与を開始した。トラメチニブ及びエベロリムスは溶液(7%DMSO, 13%Tween80, 80%大塚5%糖液 化合物と等モルHCl)にて溶解し、コントロール群は薬剤を含まない溶液のみを投与した。投与は4週間継続し、その後4週間治療は投与を行わず観察した。無治療のコントロールマウスは、腫瘍細胞移植後7週間以内にすべてのマウスが著明な腹水形成をもって死亡した。トラメチニブ投与群、エベロリムス投与群及び併用投与群において、コントロール群に比して生存期間の延長を示した。結果を
図11に示す。
【0055】
実施例7
実施例1と同様の方法により、トラメチニブ(MEK阻害剤)とエベロリムス(mTOR阻害剤)以外の組合せにおけるMEK阻害剤とmTOR阻害剤との併用効果を検証する目的で、MEK阻害剤であるPD0325901(Selleck Chemicals)とmTOR阻害剤であるTemsirolimus(Selleck Chemicals)の併用による増殖抑制効果の有無を検討した。Temsirolimusは1μMになるように加えた。その結果、びまん性胃癌細胞(NUGC4)においては、PD0325901の細胞増殖抑制効果がTemsirolimusを加えることにより相乗的に増強した。一方、非びまん性胃癌細胞(MKN7)では、併用による効果は認められなかった。結果を
図12に示す。
【0056】
実施例8
実施例1と同様の方法により、実施例7と同様の目的で、MEK阻害剤であるPimasertib(S elleck Chemicals)とmTOR阻害剤であるRapamycin(Selleck Chemicals)の併用についても増殖抑制効果の有無を検討した。Rapamycinは1μMになるように加えた。その結果、びまん性胃癌細胞(NUGC4)においては、
Pimasertibの細胞増殖抑制効果が
Rapamycinを加えることにより相乗的に増強した。一方、非びまん性胃癌細胞(MKN7)では、併用による効果は認められなかった。結果を
図13に示す。
【0057】
比較例2
実施例1、実施例2および実施例3と同様の方法により、ERK阻害剤であるRavoxertinib(Selleck Chemicals)およびLY3214996(Selleck Chemicals)の、びまん性胃癌細胞(NUGC4およびGCIY)、非びまん性胃癌細胞(MKN7およびGCR1)およびcMet遺伝子増幅胃癌細胞(MKN45)の増殖に与える効果を検討した。
その結果、ERK阻害剤は、検討したびまん性胃癌細胞、非びまん性胃癌細胞およびcMet遺伝子増幅胃癌細胞で、HGF誘導性細胞増殖、amphiregulin誘導性細胞増殖及びベースライン細胞増殖に対して明らかな抑制効果は認められなかった。結果を
図14乃至
図19に示す。
【0058】
比較例3
比較例1と同様の方法により、Akt阻害剤であるMK2206(Selleck Chemicals)およびPerifosine(Selleck Chemicals)の、びまん性胃癌細胞(NUGC4およびGCIY)、非びまん性胃癌細胞(MKN7およびGCR1)およびcMet遺伝子増幅胃癌細胞(MKN45)の増殖に与える効果を検討した。
その結果、Akt阻害剤は、検討したびまん性胃癌細胞、非びまん性胃癌細胞およびcMet遺伝子増幅胃癌細胞で、HGF誘導性細胞増殖、amphiregulin誘導性細胞増殖及びベースライン細胞増殖に対して明らかな抑制効果は認められなかった。結果を
図20乃至
図25に示す。
【0059】
比較例4
実施例1と同様の方法により、MAPKシグナル経路のひとつであるJNKの阻害剤であるJNK-IN-8(Selleck Chemicals)およびSP600125(Selleck Chemicals)のびまん性胃癌細胞(NUGC4の増殖に与える効果を検討した。
その結果、JNK阻害剤は、検討したびまん性胃癌細胞で、HGF誘導性細胞増殖、amphiregulin誘導性細胞増殖及びベースライン細胞増殖に対して明らかな抑制効果は認められなかった。結果を
図26および27に示す。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の(i)MEK阻害剤、または(ii)MEK阻害剤及びmTOR阻害剤を含む、びまん性胃癌治療剤、cMet遺伝子増幅胃癌治療剤は、(i)スキルス胃癌を代表するとするびまん性胃癌、(ii)cMet遺伝子増幅胃癌の治療剤としての利用可能性を有している。