(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】SLC26A3阻害剤及びその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/37 20060101AFI20240227BHJP
C07D 311/18 20060101ALI20240227BHJP
C07D 233/54 20060101ALI20240227BHJP
C07D 405/12 20060101ALI20240227BHJP
C07D 407/12 20060101ALI20240227BHJP
A61K 31/4433 20060101ALI20240227BHJP
A61K 31/4164 20060101ALI20240227BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240227BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20240227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240227BHJP
A61P 1/10 20060101ALI20240227BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
A61K31/37
C07D311/18
C07D233/54 CSP
C07D405/12
C07D407/12
A61K31/4433
A61K31/4164
A61K45/00
A61K31/455
A61P43/00 111
A61P1/10
A61P13/02
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2020559529
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 US2019029219
(87)【国際公開番号】W WO2019210103
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-25
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507127440
【氏名又は名称】ザ・リージエンツ・オブ・ザ・ユニバーシテイー・オブ・カリフオルニア
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バークマン,アラン・エス
(72)【発明者】
【氏名】シル,オヌアー
(72)【発明者】
【氏名】ハギー,ピーター・エム
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】JCI Insight,2018年,Vol.3, No.14,e121370 (pp.1-13),Supplemental data (pp.1-12)
【文献】Database REGISTRY,2005年,RN 858743-95-0,Retrieved from STN international [online] ;retrieved on 27 March 2023
【文献】Database REGISTRY,2004年,RN 701923-88-8,Retrieved from STN international [online] ;retrieved on 27 March 2023
【文献】Database REGISTRY,2003年,RN 500203-86-1,Retrieved from STN international [online] ;retrieved on 27 March 2023
【文献】Database REGISTRY,2003年,RN 500203-66-7,Retrieved from STN international [online] ;retrieved on 27 March 2023
【文献】Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol,2013年,Vol.305,pp.G520-G527
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/37
C07D 311/16
C07D 233/54
C07D 405/12
C07D 407/12
A61K 31/4433
A61K 31/4164
A61K 45/00
A61K 31/455
A61P 43/00
A61P 1/10
A61P 13/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SLC26A3を阻害することによる、SLC26A3媒介Cl
-、HCO
3
-、又はシュウ酸塩交換に関連する症状、疾患又は障害の治療又は予防における使用のための医薬組成物であって、生理学的に許容される賦形剤及び式(Ia)の化合物を含む、医薬組成物
【化1】
[式中、R
3は、C
1-C
4アルキルであり、R
4は、C
1-C
4アルキルであり、Xは、非置換アルキル、ハロ、非置換ハロアルキル、非置換アルコキシ、又は非置換ハロアルコキシであり、nは、1、2、又は3である]。
【請求項2】
前記使用は、便秘又は高シュウ酸尿症を予防又は治療するための使用を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記使用は、慢性突発性便秘(CIC)、オピオイド誘導性便秘(OIC)、便秘型過敏性腸症候群(IBS-C)、尿路結石、CF関連便秘、胎便性イレウス、遠位腸閉塞症候群、又はシュウ酸カルシウム尿路結石を予防又は治療するための使用を含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記化合物が、
【化2】
である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記化合物が、NHE3阻害剤と組み合わされる、請求項3又は4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記NHE3阻害剤が、テナパノールであり、前記使用が、難治性便秘を治療するためである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記化合物が、
【化3】
である、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
尿中シュウ酸排出の低減を必要とする対象において尿中シュウ酸排出を低減する使用のための医薬組成物であって、治療有効量の以下から選択される化合物:
【化4】
又はその薬学的に許容される塩を含む、医薬組成物。
【請求項9】
前記尿中シュウ酸排出の低減を必要とする対象は、腸内高シュウ酸尿症、原発性高シュウ酸尿症又はシュウ酸カルシウム尿路結石に罹患している、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
以下の構造:
【化5】
の1つを有する化合物又はその医薬として許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の利益に関する声明
本発明は、国立衛生研究所によって与えられた助成金番号DK099803 及びDK072517の下で政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に対し一定の権利を有する。
【0002】
技術分野
本開示は、結腸における陰イオン交換体の選択的阻害剤及びその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の記載
便秘は、米国人口における推定有病率が約15%である、一般的な問題である。最も一般的なタイプの慢性便秘としては、慢性突発性便秘(CIC)、オピオイド誘導性便秘(OIC)、及び便秘型優位性過敏性腸症候群(IBS-C)が挙げられる。慢性便秘についての現行の治療アプローチとしては、生活様式及び食餌の変更、市販の緩下剤(例えば、腸収縮の刺激剤、浸透圧剤)及び腸液分泌を促進する近年認可された処方薬が挙げられる。Clチャネルを活性化する3種の分泌促進薬が、認可されている:嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)及び塩素チャネル2(ClC-2)を間接的に活性化するプロスタグランジン誘導体であるルビプロストン;CFTRを間接的に活性化するグアニル酸シクラーゼCのペプチドアゴニストであるリナクロチド;及び、やはりグアニル酸シクラーゼC受容体のアゴニストとして作用するウログアニリンアナログであるプレカナチド。CFTRアクチベーターは、顕著な分泌促進作用及びルビプロストン及びリナクロチドを超える改善された効力を有することが、便秘の実験動物モデルにおいて示されている。Cil O,Phuan P-W,Lee S,et al.CFTR activator increases intestinal fluid secretion and normalizes stool output in a mouse model of constipation.Cell Mol Gastroentrol 2016;2:317-27.Cil O,Phuan P-W,Son JH,et al.Phenylquinoxalinone CFTR activator as potential prosecretory therapy for constipation.Transl Res 2016;182:14-26.e4.Son JH,Zhu JS,Phuan P-W,et al.High-potency phenylquinoxalinone cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)activators.J Med Chem 2017;60:2401-210を参照されたい。
【0004】
腸液吸収の阻害は、便への加水を増加して便秘を治療する分泌促進メカニズムを表す。阻害剤であるテナパノール(tenapanor)のIBS-Cに対する第3相臨床試験における近年の評価は、限定された効果を示し、治療群について27%対偽薬群について18.7%の、疼痛及び便の複合パターン応答割合を有した。NHE3は、小腸及び近位結腸において発現されるが、遠位結腸においては発現されない。したがって、NHE3阻害の便秘に対する臨床的有効性は限定的であり、遠位結腸において下流の液体吸収が損傷を受けないことに起因する可能性がある。Bharucha AE,Wouters MM,Tack J.Existing and emerging therapies for managing constipation and diarrhea.Curr Opin Pharmacol 2017;37:158-66。
【0005】
尿路結石は、米国において男性で12%を超え、女性で6%を超える生涯有病率を有する、一般的な問題である。尿路結石の再発率は非常に高く、30~40%の患者対象が、少なくとも1つの別の結石を5年以内に形成する。尿中シュウ酸の増大(高シュウ酸尿症)は、シュウ酸カルシウム腎結石についての主要な危険因子であり、腎結石対象のおよそ65%が罹患する最も一般的なタイプの腎結石である。シュウ酸カルシウム結石の発生は、尿中シュウ酸排出を低下させることによって減少し得たことが、わかっている(例えば、食餌によるシュウ酸塩摂取又はビタミンC消費の減少)。Holmes RP,Knight J,Assimos DG.Lowering urinary oxalate excretion to decrease calcium oxalate stone disease.Urolithiasis 2016;44:27-32。しかし、シュウ酸塩の吸収及び排出を生物学的に制御することが明らかにできておらず、吸収されたシュウ酸塩のほぼ全てが尿中に排出されるという最終結果があることに起因して、現在、シュウ酸カルシウム尿路結石に対する有効な治療は存在しない。
【0006】
上昇した尿中シュウ酸塩レベルは、腸内高シュウ酸尿症(enteric hyperoxaluria)及び原発性高シュウ酸尿症の主な病理であり、この両方が、最終的に腎臓病をもたらす。現在、原発性高シュウ酸尿症についての認可薬は存在せず、対象は、人工透析、肝移植及び腎移植で間に合わせている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Cil O,Phuan P-W,Lee S,et al.CFTR activator increases intestinal fluid secretion and normalizes stool output in a mouse model of constipation.Cell Mol Gastroentrol 2016;2:317-27
【文献】Cil O,Phuan P-W,Son JH,et al.Phenylquinoxalinone CFTR activator as potential prosecretory therapy for constipation.Transl Res 2016;182:14-26.e4.
【文献】Son JH,Zhu JS,Phuan P-W,et al.High-potency phenylquinoxalinone cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)activators.J Med Chem 2017;60:2401-210.
【文献】Bharucha AE,Wouters MM,Tack J.Existing and emerging therapies for managing constipation and diarrhea.Curr Opin Pharmacol 2017;37:158-66.
【文献】Holmes RP,Knight J,Assimos DG.Lowering urinary oxalate excretion to decrease calcium oxalate stone disease.Urolithiasis 2016;44:27-32.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、便秘、高シュウ酸尿症及び腎結石のための改善された治療法の需要が、当該分野において存在し続けている。
【0009】
簡潔な要旨
本明細書中で、結腸における主要な陰イオン(Cl-、HCO3
-、シュウ酸塩)交換体である、SLC26A3の阻害剤が、提供される。SLC26A3を選択的に標的することにより、本明細書中で開示される化合物及び組成物は、腸液吸収及びシュウ酸塩吸収の阻害において効果的であることが示された。本明細書中で開示される実施形態にしたがう化合物及び組成物は、阻害効力及び代謝安定性を提供する。
【0010】
詳細には、腸液吸収の阻害は、マウスにおいて閉塞した腸係蹄において実証され、及び効力は、便秘の実験モデルにおいて実証されている。その上、SLC26A3阻害及びNHE3阻害は、相加効果又は相乗効果を提供すると考えられる。これは、難治性便秘の治療に非常に有効であり得る。
【0011】
さらに、SLC26A3阻害は、尿中に排出されるシュウ酸塩の量を減少させることにより、高シュウ酸尿症及び腎不全を予防又は治療するための有効な治療法であることが、本明細書中で実証される。これは、シュウ酸塩の腸吸収を阻害しそして吸収されなかったシュウ酸塩を、尿ではなく便を通じて排除することによって、達成される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、1つの実施形態は、医薬として許容される賦形剤及び式(I)の化合物又はその医薬として許容される塩、同位体形態、立体異性体もしくはプロドラッグを含む、医薬組成物を提供する。
【0013】
【化1】
[式中、
R
1は、任意選択的に置換されたC
1-C
6アルキル、任意選択的に置換されたC
1-C
6アルケニル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキルアルキル、任意選択的に置換されたアルコキシアルキル、カルボキシC
1-C
3アルキル、任意選択的に置換されたヘテロアリールアルキル、-S(O)
2アリール(ここで、アリールは、任意選択的に置換されている)、又は任意選択的に置換されたアリールアルキルであり、
R
2は、カルボキシC
1-C
3アルキルであり、
R
3は、C
1-C
4アルキルであり、
R
4は、C
1-C
4アルキルであり、
但し、R
2がカルボキシエチルである場合、R
1は、置換されたベンジルであり、又はR
2がカルボキシメチルである場合、R
3及びR
4は、各々メチルであり、R
1はベンジルではない]。
【0014】
別の実施形態は、生理学的に許容される賦形剤及び式(II)の化合物又はその医薬として許容される塩、同位体形態、立体異性体もしくはプロドラッグを含む医薬組成物を、提供する。
【0015】
【化2】
[式中、
R
7は、任意選択的に置換されたアリールであり、
R
8は、任意選択的に置換されたアリールである]。
【0016】
他の実施形態は、SLC26A3媒介型陰イオン(Cl-、HCO3
-、シュウ酸塩)交換に関連する症状、疾患又は障害、例えば、慢性突発性便秘(CIC)、オピオイド誘導性便秘(OIC)、及び便秘型優位性過敏性腸症候群(IBS-C)、CF関連便秘、胎便性イレウス、遠位腸閉塞症候群、シュウ酸カルシウム尿路結石、腸内高シュウ酸尿症及び原発性高シュウ酸尿症を治療又は予防するための方法を提供する。この方法は、治療又は予防を必要とする対象に、治療有効量の式(I)の化合物又はその医薬として許容される塩、同位体形態、立体異性体もしくはプロドラッグを投与することを含む。
【0017】
【化3】
[式中、
R
1は、任意選択的に置換されたC
1-C
6アルキル、任意選択的に置換されたC
1-C
6アルケニル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキルアルキル、任意選択的に置換されたアルコキシアルキル、カルボキシC
1-C
3アルキル、任意選択的に置換されたヘテロアリールアルキル、-S(O)
2アリール(ここで、アリールは、任意選択的に置換されている)、又は任意選択的に置換されたアリールアルキルであり、
R
2は、カルボキシC
1-C
3アルキルであり、
R
3は、C
1-C
4アルキルであり、
R
4は、C
1-C
4アルキルである]。
【0018】
特に好ましい実施形態において、式(I)の化合物は:
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
別の実施形態において、本方法は、治療を必要とする対象に治療有効量の式(II)の化合物又はその医薬として許容される塩、同位体形態、立体異性体もしくはプロドラッグを投与することを含む。
【0023】
【化7】
[式中、
R
7は、任意選択的に置換されたアリールであり、
R
8は、任意選択的に置換されたアリールである]。
【0024】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の詳細な説明を参照して明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】SLC26A3阻害剤のハイスループット同定のためのアッセイ。A.アッセイ概説図。I
-含有溶液の細胞外添加は、SLC26A3媒介型Cl
-/I
-交換を駆動し、YFP蛍光クエンチングをもたらす。B.ビヒクル対照ならびに不活性化合物及び活性化合物についての、非トランスフェクト細胞、及びslc26a3トランスフェクト細胞の代表的蛍光時間経過データ。C.一般的なセカンドメッセンジャー及び膜脱分極による、slc26a3調節の非存在。対照条件下及びcAMP、cGMP、Ca
2+、又はホルボールエステルシグナル伝達、又は脱分極を活性化させるための細胞処理後の、slc26a媒介型Cl
-/I
--交換についての蛍光時間経過データ(上)及び概要(下)(平均±S.E.M.、n=4、差異は有意ではない)。
【
図2】ハイスループットスクリーニングによって同定されたマウスslc26a3阻害剤。A.(左パネル)阻害百分率を示す、18、000化合物についての25μMでの一次スクリーニングデータのドットプロット。(右パネル)スクリーニングからの結果のまとめ。B.一次スクリーニングにおいて同定された4つの化学分類の活性化合物の構造。C.スクリーニングにおいて同定された分類A(Class)及び分類Bの化合物ならびにニフルミン酸についてのslc26a3阻害の濃度依存性(平均±S.E.M.、n=6)。単一部位阻害モデルについての近似曲線。
【
図3】分類A及び分類Bのslc26a3阻害剤についての構造-活性の関係性。A.分類A。(左パネル)分類A阻害剤のコア構造は、四角で囲われている;活性及び不活性の置換基を、列挙する。(右パネル)化合物A1(DRA
inh-A250ともいう)を含む選択された分類A化合物についての濃度依存性測定。B.分類B。活性及び不活性置換基を有するコア構造(左パネル)及び濃度依存性測定値(右パネル)を示す。C.化合物A1の合成経路。
【
図4】化合物A1作用の性質決定。A.SLC26A3媒介型Cl
-/HCO
3
-交換の化合物A1阻害の濃度依存性(平均±S.E.M.、n=6)。(挿入)Cl
-/HCO
3
-交換についての元のBCECF蛍光曲線。B.SLC26A3媒介型Cl
-/SCN
-交換の化合物A1阻害の濃度依存性(平均±S.E.M.、n=6)。C.SLC26A3媒介型Cl
-/I
-交換の化合物A1(1μM)阻害の時間経過(平均±S.E.M.、n=4)。(挿入)SLC26A3媒介型Cl
-/I
-交換の化合物A1(1μM)阻害の可逆性(平均±S.E.M.、n=4)。D.HEK細胞における(ヒト)SLC26A3媒介型Cl
-/I
-交換の阻害。YFP蛍光の線(上)及びまとめデータ(平均±S.E.M.、n=12~26個の個々の細胞を分析した)(挿入)。
【
図5】化合物A1選択性。A.ペンドリン(slc26a4)、PAT-1(slc26a6)、slc26a9、CFTR(ホルスコリン刺激性)、及びTMEM16A(ATP刺激性)についてのCl
-/I
--交換アッセイにおけるYFP蛍光の時間経過(10μM化合物A1の非存在下(黒色線)及び存在下(灰色線))。B.研究についてのまとめデータを、対照条件に対して正規化したデータ(白色バー)と共にパネルAに示す(平均±S.E.M.、プレートリーダーアッセイについてn=4、及び単一細胞アッセイについてn=14~29、差異は有意ではない)。C.(左パネル)気体-液体境界にて生長させた十分に分化したHBE細胞における短絡電流(I
sc)。研究を、10μM化合物A1の非存在下(黒色線)及び存在下(灰色線)で行った。示される場合、アミロリド(20μM)、ホルスコリン(20μM)、CFTR
inh-172(10μM)及びATP(100μM)を加えた。(右パネル)調節因子の添加についてのI
scにおける変化(平均±S.E.M.、n=3、差異は有意ではない)。
【
図6】化合物A1は、マウス遠位結腸において腸液吸収を阻害するが空腸において阻害しない。A.化合物A1(10μM)及びテナパノール(10μM)の効果、個々に及び共に、腸係蹄重量/長さ比において(上)及び内腔pHにおいて(下)、マウス遠位結腸の閉塞した腸係蹄において(平均±S.E.M.、n=4腸係蹄/群)。B.化合物A1(10μM)及びテナパノール(10μM)の効果、個々に及び共に、腸係蹄重量/長さ比において(上)及び内腔pHにおいて(下)、マウス空腸中部(mid-jejunal)の閉塞した腸係蹄(平均±S.E.M.、n=5-9腸係蹄/群).*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、ns:有意でない、事後ニューマン-コイルス多重比較検定による一元配置分散分析。DRA
inh:化合物A1、Ten:テナパノール。
【
図7】経口化合物A1は、野生型マウス及び嚢胞性繊維症マウスにおいてロペラミド誘導性便秘を軽減する。A.ロペラミドによって作製した便秘のマウスモデル。B.ロペラミド処理野生型マウスにおける化合物A1(5mg/kg)及びテナパノール(5mg/kg)の効果、個々に及び共に、3時間糞便重量、ペレットの数、及び糞便水分含量(平均±S.E.M.、n=5-7マウス/群)、比較のために示されるビヒクル対照と共に。C.パネルAの研究は、機能的CFTRを欠損した嚢胞性繊維症マウスにおいてなされた(平均±S.E.M.、n=5マウス/群)。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、ns:有意でない;事後ニューマン-コイルス多重比較検定による一元配置分散分析。
【
図8】A.空腸及び遠位結腸における吸収メカニズム。矢印の大きさは、液体吸収における相対的な重要性を表す。B.化合物A1及びテナパノールについての提唱された作用部位及びメカニズム。
【
図9】化合物A1(DRA
inh-A250)及びDRA
inh-A270にkついてのSLC26A3媒介型Cl
-/I
--交換に対する濃度-阻害曲線。DRA
inh-A270は、化合物A1と比較して、4倍の改善された効力(約50nM IC
50)を有する。
【
図10】単回用量の腹腔内又は経口投与後の、DRA阻害剤の薬物動態。A.5mg/kg投与後の化合物A1(DRA
inh-A250)の血清濃度。B.5mg/kg投与後のDRA
inh-A260の血清濃度。C.10mg/kg投与後のDRA
inh-A270の血清濃度。
【
図11】マウスにおけるロペラミド誘導性便秘モデルでのDRA阻害剤の効力。A.実験プロトコール。B.DRA
inh-A260は、ロペラミド処理マウスにおける3時間糞便重量、ペレット数及び水分含量を改善する(n=4~6マウス/群)。C.DRA
inh-A270効果の用量依存性(n=5-8マウス/群)。比較を、一元配置分散分析with事後ニューマン-コイルス多重比較検定で行った。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、ns:有意でない。ip:腹腔内、po:経口、A270:DRA
inh-A270.
【
図12】シュウ酸ナトリウム経口投与によって誘導される急性高シュウ酸尿症における化合物A1(DRA
inh-A250)の効力(n=3~4マウス/群)。
【
図13】シュウ酸ナトリウム経口投与によって誘導される急性高シュウ酸尿症におけるDRA
inh-A270の効力。A.実験プロトコール.B.マウスにおける尿シュウ酸塩/クレアチニン比(経口シュウ酸ナトリウム処理の前及び後)DRA
inh-A270又はビヒクルで処理した(n=4-5マウス/群)。比較を、事後ニューマン-コイルス多重比較検定による一元配置分散分析によって行った。*p<0.05、**p<0.01、ns:有意でない。ip:腹腔内、po:経口、A270:DRA
inh-A270、Veh:ビヒクル。
【
図14】マウスにおいてシュウ酸塩腎症モデルを誘導するための実験プロトコール。
【
図15】化合物A1(DRA
inh-A250)処理は、シュウ酸塩腎症モデルにおいて、尿沈殿物を大幅に減らす。ビヒクル処理マウス及び化合物A1処理マウスにおける不溶性尿沈殿物(丸で囲う)をシュウ酸塩腎症モデルの14日目に示す代表写真(4~5マウス/群の代表)。
【
図16】シュウ酸塩腎症モデルにおいて化合物A1(DRA
inh-A250)処理は、腎臓損傷を予防する。A及びB。シュウ酸塩腎症モデルにおける14日目のビヒクル処理マウスは、顕著な腎臓損傷を有した(炎症-暗い領域、壊死-丸で囲った領域、尿細管円柱-矢印で示した領域)(5匹のマウスの代表)、A及びBそれぞれにおいて4×及び10×倍率。C及びD。化合物A1処理マウスは、有意な損傷のない正常に見える腎臓を有する(n=4マウスの代表)、C及びDそれぞれにおいて4×及び10×倍率。
【
図17】化合物A1処理は、シュウ酸塩腎症モデルにおいて腎臓結晶堆積を予防する。A.腎臓全体(破線内)、ビヒクル処理マウスにおいて14日目に偏光下で調べた(4×倍率)、白い点は腎臓結晶堆積を表す(n=5マウスの代表)。B.腎臓全体(破線内)、化合物A1処理マウスにおいて、14日目に偏光下で調べた(4×倍率)、白い点は腎臓結晶堆積を表す(n=4マウスの代表)。
【
図18】DRA
inh-A270は、シュウ酸塩腎症モデルにおいて、体重減少、高シュウ酸尿症及び腎不全を防ぐ。A.実験プロトコール。B.ビヒクル又はDRA
inh-A270で処理したマウスにおける0日目と比較した体重変化百分率(n=4~10マウス/群/時点)。C.ビヒクル又はDRA
inh-A270で処理したマウスにおける0日目及び7日目の3時間尿シュウ酸塩/クレアチニン比(10マウス/群/時点)。D.ビヒクル又はDRA
inh-A270で処理したマウスにおける7日目及び14日目の血清クレアチニン(n=4~6マウス/群/時点)。比較は、事後ニューマン-コイルス多重比較検定を用いた一元配置分散分析にてなされた。*p<0.05、***p<0.001、ns:有意でない。ip:腹腔内、A270:DRA
inh-A270、Veh:ビヒクル。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
最初にDRA(down-regulated in adenoma(腺腫において下方制御される))と名付けられたSLC26A3は、腸上皮細胞の内腔膜において発現しここで、電気的に中性のNaCl吸収及びシュウ酸塩吸収を促進する、陰イオン(Cl-、HCO3
-、シュウ酸塩)交換体である。ヒト又はマウスにおけるDRA機能欠損は、塩化物喪失性下痢を引き起こす。SLC26A3はまた、シュウ酸塩の吸収を促進するための胃における主要な輸送体でもある。DRAノックアウトマウスは、60%低い血清シュウ酸塩レベル及び70%低い尿シュウ酸塩レベルを有する。したがって、本開示の実施形態は、便秘、高シュウ酸尿症及び腎結石疾患を治療又は予防するための抗吸収療法として有効な選択的SLC26A3阻害剤を同定しそして最適化することを目指す。
【0027】
SLC26A3
SLC26A3は、陰イオンチャネル及び輸送体のSLC26遺伝子ファミリーのメンバーである。最も近いSLC26A3ホモログであるSLC26A4(ペンドリン;45%アミノ酸同一性)は、内耳、甲状腺、炎症を起こした気道及び腎臓における陰イオン交換体である。特定の低分子ペンドリン阻害剤は、気道上皮細胞培養物において気道表面液の深度を増大し、マウスにおいて利尿応答を起こすことが公知であり、炎症性肺障害、例えば、CF及び喘息における、及び容積過負荷浮腫(volume-overload edema)における、潜在的な治療有用性を示唆している。例えば、WO2017/147523を参照されたい。二番目に近く関連しているSLC26A3ホモログであるSLC26A6(PAT-1、推定陰イオン輸送体-1;34%アミノ酸同一性)もまた、小腸における頂端膜で発現される陰イオン交換体であり、SLC26A3と共に電気的に中性のNaCl吸収を促進する。
【0028】
SLC26A3は、結腸及び小腸における腸細胞の管腔に面する原形質膜において発現される陰イオン交換体である。SLC26A3は、種々の一価の陰イオン(Cl-、HCO3
-及びチオシアネート(SCN-)を含む)ならびに二価の陰イオンであるシュウ酸塩の交換を促進する。SLC26A3媒介型Cl-/HCO3
-交換は、電気的に中性のNaCl吸収に関与し、これは、結腸及び小腸における水分吸収を駆動する。SLC26A3における機能喪失突然変異は、ヒトにおいて先天的な塩化物喪失性下痢(CLD)を引き起こし、これは、子宮において始まる重篤な下痢によって特徴づけられる。マウスにおいて、slc26a3のノックアウトは、CLDを繰り返し、下痢及び代謝アルカローシスをもたらす。SLC26A3阻害は、したがって、腸液吸収を遮断することによって便秘を治療する、潜在的なアプローチであり、これは、オピオイド誘導性便秘を含む便秘の主要な種類において、及び、分泌促進性嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)Cl-チャネルが損傷している嚢胞性繊維症(CF)に関連する便秘において、有用であり得る。
【0029】
腸には、Na+及びCl-の吸収のための少なくとも3つの経路が存在する:栄養素共役型Na+吸収、電気的に中性のNaCl吸収、及び起電性Na+吸収。小腸における栄養素共役型Na+吸収は、ナトリウム-グルコース輸送体(SGLT)及びNa-アミノ酸共輸送体を含み、ここでは、Cl-が傍細胞経路を介して吸収される。小腸及び近位結腸における電気的に中性のNaCl吸収は、Na+/H+交換体(NHE2/SLC9A2及びNHE3)ならびにCl-/HCO3
-交換体(SLC26A3及びSLC26A6)を含み、これらは、直接で機能してNaClを吸収すると考えられる。遠位結腸における起電性Na+吸収は、上皮ナトリウムチャネル(ENaC)を含む。
【0030】
SLC9A3突然変異は、軽度の代謝アシドーシスを伴う先天的なNa+下痢を引き起こし、そしてslc9a3-/-マウスは、内腔液アルカリ化を伴う軽度の下痢を有する。しかし、slc9a3-/-マウスの遠位結腸における補償的なENaC活性の増大は、下痢の重篤度を制限すると考えられる。SLC26A3は、遠位結腸及び十二指腸において主に発現されそして空腸及び回腸において低い発現を有し、他方で、SLC26A6は、主に小腸で発現される。
【0031】
CF対象において、胃腸関連の問題は、一般的であり、胎便性イレウス(新生児において約15%の発症率)、便秘(47%以下の生涯有病率)及び遠位腸閉塞症候群(約15%の生涯有病率)を含む。分泌促進CFTRCl-チャネルの機能損傷は、これらの障害の病因であると考えられている。経口投与されたCFTRアクチベーターは、便秘の実験的マウスモデルにおいて有効であるが、機能的CFTRを欠損するCFマウスにおいては有効ではないことが、公知である。
【0032】
SLC26A3はまた、シュウ酸塩の吸収を促進する、胃における主な輸送体である。これは、特定の食品に含まれそしてまた代謝最終産物として肝臓において産生される。シュウ酸塩の大部分は尿中に排出され(90%)、10%が糞便中に排出される。尿中シュウ酸の増大は、シュウ酸カルシウム腎結石(腎結石対象の約65%)の主な危険因子である。
【0033】
シュウ酸カルシウム尿路結石において、主な病理は、尿中の高いシュウ酸塩レベルであり、これにより、最終的に腎臓疾患がもたらされる。高められた尿中シュウ酸塩排出(高シュウ酸尿症)は、腸内高シュウ酸尿症又は原発性高シュウ酸尿症に起因し得る。腸内高シュウ酸尿症は、種々の胃腸疾患(肥満手術、腸切除、炎症性腸疾患及び膵臓不全を含む)に起因する、結腸における病理学的なシュウ酸塩の超吸収によって特徴づけられる。腸内高シュウ酸尿症は、シュウ酸カルシウム腎結石を形成する危険性を劇的に増大する。原発性高シュウ酸尿症は、シュウ酸塩代謝経路における酵素をコードする遺伝子における突然変異(AGXT、GRHPR、HOGA1)によって引き起こされ、高い血漿及び尿中シュウ酸塩レベルによって特徴づけられる。原発性高シュウ酸尿症は、最終的に、シュウ酸カルシウム結石及び腎臓におけるシュウ酸カルシウム堆積の再発に起因する腎不全をもたらす。
【0034】
SLC26A3標的化
SLC26A3は、結腸において高く発現され、陰イオン交換を媒介することが知られている。SLC26A3を標的化することは、液体吸収を阻害することにより便秘を治療又は予防するための有効な治療法であることが、本明細書中で実証される同様に、SLC26A3を標的化することは、本明細書中でシュウ酸塩吸収を媒介するか又は阻害することにより、高シュウ酸尿症及び尿路結石の予防において有効であることが示される。
【0035】
本開示の全体を通してより詳細に記載されるように、50、000の合成低分子のスクリーニングを、マウスslc26a3及び遺伝的にコードされるハロゲン化物センサーを同時発現する細胞において実施した。構造-活性の関係性研究の結果は、強力かつ選択的なslc26a3阻害剤を同定し、これを、細胞ならびに便秘のマウスモデル及び高シュウ酸塩食によって誘発されるシュウ酸塩腎症のマウスモデルにおいて性質決定した。
【0036】
したがって、1つの実施形態において、SLC26A3の阻害は、新規な便秘の抗吸収治療法を提供する。理論に縛られることを望むものではないが、SLC26A3の阻害は、単独で又は代替の抗吸収メカニズムもしくは分泌促進メカニズムに作用する薬物と一緒で、難治性便秘の治療に非常に有効であり得ると考えられる。
SLC26A3の阻害は、腸Na+吸収のブロッカー、NHE3阻害剤であるテナパノール、ならびに同時投与された場合のSLC26A3及びNHE3阻害剤に匹敵する効力で便秘の兆候を低減し、完全に便秘を克服させる。
【0037】
ハイスループットスクリーニングは、SLC26A3阻害剤のいくつかの分類を同定し、以下の構造-活性分析及び最適化により、特定の4、8-ジメチルクマリン化合物を産生した。詳細には、SLC26A3媒介型陰イオン交換の阻害について100~200nMのIC50を有する化合物A1(DRAinh-A250)、DRAinh-A260及びDRAinh-A270である。マウスにおける研究は、これらの化合物の効力を便秘のロペラミドモデルにおいて実証し、そして腸液吸収のメカニズムを明らかにする新奇なデータを提供した。重要なことに、本開示の化合物(例えば、化合物A1)は、slc26a3についての選択性を示し、そして相同なslc26a-ファミリー陰イオン交換体又は関連する腸輸送体を阻害しないことを示した。
【0038】
SLC26A3の標的化は、したがって、便秘を治療するための有効な抗吸収アプローチを提供している。本明細書中で開示されるSLC26A3阻害剤は、便秘のマウスモデルにおけるテナパノに匹敵する効力を有することが示される。理論的には、SLC26A3阻害は、糞便が最終形態まで脱水される遠位結腸において吸収を遮断するため、便秘治療法のためのNHE3阻害よりもより有効であり得る。ロペラミド誘導性便秘の予防におけるNHE3及びSLC26A3阻害剤の相加作用又は相乗作用は、驚くべき発見であった。この結果は、SLC26A3阻害剤が、種々の種類の便秘のための単独治療法として単独で有効に使用されてもよいこと、又は単独治療法に適切に応答しない対象において、NHE3阻害剤(例えば、テナパノール)と組み合わせて使用されてもよいことを、支持する。
【0039】
便秘治療法としてのSLC26A3阻害剤の効力はまた、本明細書中で、便秘のロペラミドモデルにおいてCFマウスで実証され、このことは、腸SLC26A3機能は、CFにおいて損傷を受けないという結論を支持する。SLC26A3阻害治療法は、したがって、便への加水を促進しそしてヒトCF対象における便秘を治療することにおいて有益であり得、そして、新生児期における胎便性イレウスを予防又は治療する可能性を有する。
【0040】
これらの知見に一致して、マウス空腸においてslc26a3阻害は効果を有さなかった一方でNHE3阻害は液体吸収を遮断した。同時に、マウス遠位結腸において、slc26a3阻害は吸収を遮断したがNHE3阻害剤は効果を有さなかったことが、本明細書中で開示される。これらの結果は、Slc26a6が主要なCl-/HCO3
-交換体である可能性が高いマウス小腸において、slc26a3がNaCl吸収にわずかな役割しか果たさないか又は全く役割を果たさないことの薬理学的証拠を提供し、このことは、先行研究と一致する。
【0041】
ノックアウトマウスを使用した研究から得られた腸NaCl吸収の現在の多くの理解を通して、ノックアウトは、交絡した二次表現型を産生し得ることが、遺伝子発現パターン又は器官発生の変化からわかる。例えば、slc26a4(ペンドリン)により、本出願人は、slc26a4-/-マウスと比較して、薬理学的阻害による腎臓の生理学において、顕著な違いを見出した。ヒト又はノックアウトマウスにおけるSLC26A3機能欠損は、目立った下痢を伴うCLDを起こすが、本研究の阻害剤は、便秘のマウスモデルにおいて部分的な効力しか有さなかった。この相違は、この阻害剤の部分的効力に起因し得るか、又は、おそらくはノックアウトマウスにおける二次表現型である可能性がより高い。slc26a3阻害は、液体吸収を遠位結腸でのみ遮断することが、本明細書中で見出され、このことは、後者の可能性を支持し、slc26a3阻害剤及びテナパノールの同時投与に対する相加効果を支持する。さらに寄与する因子は、NHE3、Slc26a3及びCFTRの間の調節相互作用であり得、これは、NHE調節因子(NHERF)、SLC26スルフェート輸送体アンチシグマ(STAS)ドメイン、及びCFTR調節ドメインを含み得る。多くのCLD関連SLC26A3突然変異がSTASドメインにおいて起こるので、重度のCLD表現型は、SLC26A3吸収の欠損とNHE3及びCFTR活性の調節不全との両方の結果であり得る。CLDを有する対象及びslc26a3-/-マウスにおける先行研究は、空腸における液体吸収を損傷し、他方で、閉塞した腸係蹄の研究は、本明細書で、slc26a3は液体吸収における有用性が最小限であることを支持した。
【0042】
本明細書中で開示される結果は、便への加水の促進におけるSLC26A3阻害の治療有用性を支持する。それにもかかわらず、SLC26A3阻害と腫瘍原性との間の理論的相関性が存在することが、腺腫におけるSLC26A3下方調節についての元の知見、ならびにslc26a3-/-マウスにおける結腸上皮増殖帯域の拡張及び表面粘膜過形成の兆候に基づき、さらに観察された。しかし、特筆すべきことに、SLC26A3突然変異を有するCLD対象は、胃腸がんの発生の増加を示さない。低減したSLC26A3活性は、潰瘍性大腸炎において観察され、SLC26A3における1ヌクレオチド多型は、潰瘍性大腸炎の発症の危険因子であり得る。しかし、SLC26A3機能の欠損は、腸炎症を発症せず、CLD対象の6%のみにしか、クローン病又は比特異性大腸炎の兆候は報告されない。腎不全は、CLD対象の約25%において観察されるが、これは、診断の遅れ及びその結果としての慢性の体液量及び塩の枯渇からもたらされる可能性がある。SLC26A3突然変異はまた、雄性不妊にも関連するが、得られ得る証拠は、SLC26A3-CFTR相互作用の不全及び結果としてのCFTR活性不全が、原因であることを示唆する。一般に、適切な塩置換療法により、CLDにおける長期の健康は良好になり、このことは、SLC26A3突然変異による有意な腫瘍及び胃腸ではない問題が存在しないことを示唆する。
【0043】
別の実施形態において、SLC26A3の阻害は、シュウ酸塩吸収を低減し、それによって腎臓を、高シュウ酸尿症の有害な効果から守っている。Slc26a3-/-マウスは、胃におけるシュウ酸塩吸収の損傷に起因して、血中(60%低下)及び尿中(70%低下)のシュウ酸塩を大きく減少させる。Freel RW、Whittamore JM、Hatch M。マウス腸における経細胞シュウ酸塩及びCl-吸収は、DRA陰イオン交換体Slc26a3によって媒介され、そしてDRA欠失は、尿中シュウ酸を減少させる。Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2013;305:G520-G527。
【0044】
したがって、SLC26A3阻害は、尿の代わりに糞便を通したシュウ酸塩の大部分を除去することを促進することにより、腎結石、特にシュウ酸カルシウム腎結石に関する腎結石(特に、シュウ酸カルシウム腎結石)を予防し、腸内高シュウ酸尿症を治療し、原発性高シュウ酸尿症を管理する、新規かつ強制的なアプローチである。これは、本明細書中で開示されるインビボ動物データによって支持される。高シュウ酸塩食によって誘発されたシュウ酸塩腎症のマウスモデルにおいて、slc26a3阻害が、経口シュウ酸ナトリウム負荷によって誘発された高シュウ酸尿症;腎不全の発症、及び腎臓血漿の堆積を予防したことが見いだされた。これらの結果は、SLC26A3阻害剤が、高シュウ酸尿症の治療において有用であり得ることの薬理学的証拠(シュウ酸カルシウム尿路結石、腸内高シュウ酸尿症及び原発性高シュウ酸尿症において見られる)を提供する。
【0045】
したがって、種々の実施形態が、クマリン誘導体を含む強力なSLC26A3阻害剤を指向する。種々の実施形態にしたがうSLC26A3阻害剤は、便秘、高シュウ酸尿症又は腎結石を治療又は予防するための、有効な治療法である。
【0046】
化学定義
「アルキル」は、直鎖又は分枝鎖の、非環状の、飽和の、1~12の炭素原子を含む脂肪族炭化水素を意味する。低級アルキルは、1~6の間の任意の数の炭素原子を有するアルキル(すなわち、C1―C6アルキル)をいう。代表的な飽和直鎖アルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n―ペンチル、n-ヘキシル、などが挙げられ、他方で、飽和分枝鎖アルキルとしては、イソプロピル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、tert-ペンチル、ヘプチル、n-オクチル、イソぺンチル、2-エチルヘキシルなどが挙げられる。アルキルは、本明細書中で定義される1つ以上の置換基によって、任意選択的に置換されでもよい。
【0047】
「アルケニル」は、炭素及び水素原子のみを含み、1つ以上の炭素-炭素二重結合を含む、不飽和の、直鎖又は分枝鎖の、単結合によって分子の残りに結合している2~12の炭素原子(C2-C12アルケニル)、好ましくは1~2の炭素原子s(C2-C8アルケニル)又は2~6の炭素原子(C2-C6アルケニル)を有する、炭化水素鎖ラジカルをいい、例えば、エテニル、プロパ-1-エニル、ブタ-1-エニル、ペンタ-1-エニル、ペンタ-1,4-ジエニル、などである。本明細書中で特に別段に言及されていない限り、アルケニル基は、任意選択的に置換されている。
【0048】
「アルコキシ」は、-O-アルキルのラジカルをいう。アルコキシの例としては、メトキシ、エトキシ、などが挙げられる。アルコキシのアルキル部分は、本明細書中で定義される1つ以上の置換基によって、任意選択的に置換されてもよい。
【0049】
「アルコキシアルキル」は、式―RbORaのラジカルをいい、ここで、Raは、上で定義されたアルキルラジカルであり、Rbは、アルキレン鎖である。
【0050】
「カルボキシアルキル」は、-CO2Hによって置換されている、直鎖もしくは分枝鎖のアルキルラジカルをいう。アルキルラジカルの長さは、カルボキシ部分の炭素を除く炭素原子の数によって同定され得る。例えば、カルボキシC1-C3アルキルは、-CH2CO2H、-CH2CH2CO2H、-CH2CH2CH2CO2H、などを含む。
【0051】
「シクロアルキル」は、炭素及び水素原子のみを含み、縮合又は架橋した環系を含み得る、飽和であり単結合によって分子の残りに結合している3~15の炭素原子、好ましくは3~10の炭素原子、又は好ましくは3~6の(C3-C6)炭素原子を有し、安定的な非芳香族単環式又は多環式炭素環ラジカルをいう。単環式ラジカルとしては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチルが挙げられる。
【0052】
「シクロアルキルアルキル」は、Rbが上で定義したアルキレン鎖であり、Rcが上で定義したシクロアルキルラジカルである、式―RbRcのラジカルをいう。
【0053】
「アリール」は、フェニル又はナフチル(すなわち、ナフタレニル)(1-もしくは2-ナフチル)又はアントラセニル(例えば、2-アントラセニル)などの、芳香族炭素環部分を意味する。
【0054】
「アリールアルキル」(例えば、フェニルアルキル)は、アリール部分と置き換えられた少なくとも1つのアルキル水素原子を有するアルキルを意味し、例えば、-CH2-フェニル(すなわち、ベンジル)、-CH=CH-フェニル、-C(CH3)=CH-フェニル、などである。
【0055】
「ヘテロアリール」は、水素原子、1~13の環炭素原子、窒素、酸素及び硫黄からなる群から選択される1~6の環ヘテロ原子及び少なくとも1つのヘテロ原子含有芳香族環を含む、5―~14―員の環系ラジカルをいう。本開示の実施形態の目的について、ヘテロアリールラジカルは、単環式、二環式、三環式又は四環式環系であってもよく、縮合又は架橋した環系を含んでもよい;及びヘテロアリールラジカルにおける窒素、炭素又は硫黄原子は、任意選択的に酸化されていてもよい;窒素原子は、任意選択的に、四級化されていてもよい。例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:アゼピニル、アクリジニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾインドリル、ベンゾジオキソリル、ベンゾフラニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾ[b][1,4]ジオキセピニル、1,4―ベンゾジオキサニル、ベンゾナフトフラニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾジオキソリル、ベンゾジオキシニル、ベンゾピラニル、ベンゾピラノニル、ベンゾフラニル、ベンゾフラノニル、ベンゾチエニル(ベンゾチオフェニル)、ベンゾトリアゾリル、ベンゾ[4,6]イミダゾ[1,2―a]ピリジニル、カルバゾリル、シンノリニル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチオフェニル、フラニル、フラノニル、イソチアゾリル、イミダゾリル、インダゾリル、インドリル、インダゾリル、イソインドリル、インドリニル、イソインドリニル、イソキノリル、インドリジニル、イソキサゾリル、ナフチリジニル、オキサジアゾリル、2―オキソアゼピニル、オキサゾリル、オキシラニル、1-オキシドピリジニル、1―オキシドピリミジニル、1-オキシドピラジニル、1-オキシドピリダジニル、1―フェニル―1H―ピロリル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサジニル、フタラジニル、プテリジニル、プリニル、ピロリル、ピラゾリル、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、キナゾリニル、キノキサリニル、キノリニル、キヌクリジニル、イソキノリニル、テトラヒドロキノリニル、チアゾリル、チアジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、トリアジニル、及びチオフェニル(すなわち、チエニル)。
【0056】
「ヘテロアリールアルキル」は、式―RbRdのラジカルをいい、ここで、Rbは、上で定義されたアルキレン鎖であり、及びRdは、上で定義されたヘテロアリールラジカルである。
【0057】
「ハロゲン」又は「ハロ」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、及びヨードを意味する。
【0058】
「ハロアルキル」は、ハロ置換されたアルキル、すなわち、少なくとも1つの水素原子がハロゲンと置き換わっているアルキルをいう。「ペルハロアルキル」は、全ての水素がハロゲンに置き換えられているハロアルキルをいう。ハロアルキルの例としては、トリフルオメチル(trifluomethyl)、ジフルオロブロモメチル、ジフルオロクロロメチル、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロピルなどが挙げられる。特定の実施形態において、ハロアルキル又はペルハロアルキルのハロ置換基は、同じであってもよく(例えば、全てのハロ置換基がフルオロである)又は異なっていてもよい(例えば、ハロ置換基が、フルオロ、クロロ、ブロモ又はヨードの2以上の混合物であってもよい)。ハロアルキルのアルキル部分は、本明細書中で定義される1つ以上の置換基によって、任意選択的に置換されていてもよい。
【0059】
「ハロアルコキシ」は、置換されたアルコキシをいい、ハロゲンと置き換えられた少なくとも1つの水素原子を有するアルコキシ部分を意味する(例えば、クロロメトキシなど)。
【0060】
上記の全ての基は、「任意選択的に置換され」ており、すなわち、置換されたか又は置換されていないかのどちらであってもよい。用語「置換された」は、本明細書中で使用される場合、上記の基のいずれかを意味し(すなわち、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アリール、アラルキル、ヘテロシクリル、ヘテロシクリルアルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル及び/又はトリフルオロアルキル)、さらに官能性付与されていてもよく、ここで、少なくとも1つの水素原子は、非水素原子置換基への結合によって置き換えられている。本明細書中で特に言及されない限り、置換された基は、以下から選択される1つ以上の置換基を含み得る:オキソ、―CO2H、ニトリル、ニトロ、―CONH2、ヒドロキシル、チオオキシ、アルキル、アルキレン、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルキルカルボニル、アルキルオキシカルボニル、アリール、アラルキル、アリールカルボニル、アリールオキシカルボニル、アラルキルカルボニル、アラルキルオキシカルボニル、アリールオキシ、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、シクロアルキルカルボニル、シクロアルキルアルキルカルボニル、シクロアルキルオキシカルボニル、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、ジアルキルアミン、アリールアミン、アルキルアリールアミン、ジアリールアミン、N-オキシド、イミド、及びエナミン;トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基、チオアルキルトリアリールシリル基、ペルフルオロアルキル又はペルフルオロアルコキシ、例えば、トリフルオロメチル又はトリフルオロメトキシなどの基の中のケイ素原子。「置換された」はまた、1つ以上の水素原子がヘテロ原子へのより高級な結合(例えば、二重結合又は三重結合)によって置き換わっている任意の上記の基を含む(例えば、オキソ、カルボニル、カルボキシル、及びエステル基における酸素;及び例えば、イミン、オキシム、ヒドラゾン、及びニトリル基における窒素)。例えば、「置換された」は、1つ以上の水素原子が胃かと置き換わっている上記のいずれかの基を含む:―NRgC(=O)NRgRh、―NRgC(=O)ORh、―NRgSO2Rh、―OC(=O)NRgRh、―ORg、―SRg、―SORg、―SO2Rg、―OSO2Rg、―SO2ORg、=NSO2Rg、及び―SO2NRgRh。「置換された」はまた、1つ以上の水素原子が―C(=O)Rg、―C(=O)ORg、―CH2SO2Rg、―CH2SO2NRgRh、-SH、―SRg又は―SSRgと置き換わっている上記の基のいずれかを意味する。上記において、Rg及びRhは、同じであるか又は異なっており、独立して、水素、アルキル、アルコキシ、アルキルアミノ、チオアルキル、アリール、アラルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ハロアルキル、ヘテロシクリル、N-ヘテロシクリル、ヘテロシクリルアルキル、ヘテロアリール、N-ヘテロアリール及び/又はヘテロアリールアルキルである。さらに、上記の置換基の各々は、上記の置換基の1つ以上と任意選択的に置換されてもよい。
【0061】
医薬組成物
1つの実施形態は、生理学的に許容される賦形剤及び式(I)の化合物又はその医薬として許容される塩、同位体形態、立体異性体もしくはプロドラッグを含む、医薬組成物を提供する:
【0062】
【化8】
[式中、
R
1は、任意選択的に置換されたC
1-C
6アルキル、任意選択的に置換されたC
1-C
3アルケニル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキルアルキル、任意選択的に置換されたアルコキシアルキル、カルボキシC
1-C
3アルキル、任意選択的に置換されたヘテロアリールアルキル、-S(O)
2アリール(ここで、アリールは、任意選択的に置換されている)もしくは任意選択的に置換されたアリールアルキルであり、
R
2は、カルボキシC
1-C
3アルキルであり、
R
3は、C
1-C
4アルキルであり、
R
4は、C
1-C
4アルキルであり、
但し、R
2がカルボキシエチルである場合、R
1は、置換されたベンジルであり、又はR
2がカルボキシメチルである場合、R
3及びR
4は、各々メチルであり、R
1は、ベンジルではない]。
【0063】
特定の実施形態において、R1は、任意選択的に置換されたベンジルである。いくつかのより特定の実施形態において、R1は、以下の構造:
【0064】
【化9】
を有し、式中、
Xは、アルキル、C
3-C
5シクロアルキル、ハロ、ハロアルキル、アルコキシ、NO
2、又はハロアルコキシであり、及び
nは、1、2、3、4又は5である。
【0065】
より特定の実施形態において、nは、1又は2であり、Xは、ブロモ、クロロ、フルオロ、ヨード、シクロプロピル、CF3、メチル、NO2又はメトキシである。
【0066】
より特定の実施形態において、nは1であり、そしてXは、メタ位のハロゲン(Br又はI)である。
【0067】
いくつかの他の実施形態において、R1は、以下の構造の1つを有する:
【0068】
【0069】
特定の実施形態において、R2は、-CH2COOH、又は―CH2CH2COOHである:
【0070】
【0071】
いくつかの実施形態において、R3は、メチルである。特定の実施形態において、R4は、メチルである。
【0072】
好ましい実施形態において、式(I)の化合物は、以下の式(Ia)で表される:
【0073】
【化12】
式中、Xは、アルキル、C
3-C
5シクロアルキル、ハロ、ハロアルキル、アルコキシ、NO
2、又はハロアルコキシであり、nは、1、2、又は3である。
【0074】
より特定の実施形態は、式(Ia)の化合物を提供し、式中、nは、1又は2であり、Xは、ブロモ、クロロ、フルオロ、ヨード、シクロプロピル、CF3、メチル、NO2又はメトキシであり、及びR3及びR4は、各々メチルである。
【0075】
より特定の実施形態において、式(I)又は(Ia)の化合物は、以下の構造の1つを有する。
【0076】
【0077】
一般に、クマリン類(例えば、式(I)又は(Ia)の化合物)は、広範な炎症性、抗腫瘍、抗細菌及び抗真菌特性を有する植物由来の天然製品である。化合物A1(DRAinh-A250)の生理化学特性としては、複数の水素結合アクセプターの存在、417Daの分子量、4.6のlogP値、及び73A2のトポロジカル極性表面責が挙げられ、これらのそれぞれは、経口バイオアベイラビリティを含む薬物様特性と一致する。さらに、3-酢酸-クマリンスキャフォールドは、汎アッセイ干渉化合物分子として知られる無差別結合剤に属さない。
【0078】
化合物A1において見出された7-ベンゾキシ-4、8-ジメチル-3-酢酸-クマリンスキャフォールドの他の生物学的特性に対して、数件の先行報告が存在する。類似のクマリン類は、バシラス・アンシラシス(Bacillus anthracis)及びスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)複製DNAヘリカーゼの阻害剤として報告されている。Li B、Pai R、Di M、etal.Coumarin-based inhibitors of Bacillus anthracis and Staphylococcus aureus replicative DNA helicase.J Med Chem 2012;55:10896-908。別の3-酢酸-クマリンは、リン酸化Stat3の核トランスロケーションを阻害することにより、オンコジーンシグナル伝達因子及び転写(Stat3)活性化のアクチベーターを阻害することが報告されている。Xu X-L,Kasembeli MM,Jiang X,et al.Chemical probes that competitively and selevtively inhibit Stat3 activation.PLoS One 2009:4(3):e4783。
【0079】
合成的に、3-酢酸-クマリンスキャフォールドは、標的のアナログの容易な合成を可能にする市販の開始材料から、3~5工程で調製可能である。反応スキーム1は、式(I)又は(Ia)の特定の化合物(例えば、式(I)のR1基に-CH2-R基が対応する化合物)を調製するための合成経路を表す。
【0080】
反応スキーム1
【0081】
【0082】
より具体的には、硫酸条件下での2-メチルレゾルシノールのジエチルアセチルスクシネートとのペックマン反応は、(a)4、8-ジメチル-7-ヒドロキシクマリンエステル(上記2)を定量的にもたらした。2のアルキルブロミドとの反応は、(b)7-アルコキシ-4、8-ジメチルクマリン化合物を80~90%の収率でもたらした。2の置換されたベンジルブロミドとの反応は、置換されたベンジルオキシ-4、8-ジメチルクマリン化合物を50~96%の収率でもたらした。工程(b)及び(c)から得られた化合物を、メタノール中の1N水酸化ナトリウム溶液で加水分解し(2c)、代表的な分類A化合物を60~90%で得た。
【0083】
いくつかの他の実施形態は、生理学的に許容される賦形剤及び式(II)の化合物又はその医薬として許容される塩、同位体形態、立体異性体もしくはプロドラッグを含む医薬組成物を提供する。
【0084】
【化15】
[式中、
R
7は、任意選択的に置換されたアリールであり、
R
8は、任意選択的に置換されたアリールである]。
【0085】
これらの実施形態のいくつかにおいて、R7は、任意選択的に置換されたフェニルである。より特定の実施形態において、R7は、以下の構造:
【0086】
【化16】
を有し、式中、
Xは、水素、アルキル、ハロ、ハロアルキル、アルコキシ又はハロアルコキシであり、及び
nは、0、1、2、3、4又は5である。
【0087】
いくつかの実施形態において、Xは、水素、クロロ、ブロモ、メチル、又はメトキシであり、nは、1又は2である。
【0088】
いくつかの実施形態において、R7は、任意選択的に置換されたフェニルである。特定の特別な実施形態において、R8は、以下の構造:
【0089】
【化17】
を有し、式中、
Xは、アルキル、ハロ、ハロアルキル、アルコキシ又はハロアルコキシであり、
nは、1、2、3、4又は5である。
【0090】
いくつかの実施形態において、Xは、クロロ、ブロモ、メチル、又はメトキシであり、nは、1又は2である。
【0091】
いくつかの特定の実施形態において、式(II)の化合物は、以下の構造の1つを有する。
【0092】
【0093】
本明細書中で使用される場合、医薬組成物は、本明細書中で記載される化合物と他の化学的構成要素(例えば、担体、安定化剤、希釈剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤、及び/又は賦形剤)の混合物をいう。特定の実施形態において、医薬組成物は、化合物の生物への投与を容易にする。いくつかの実施形態において、本明細書中で提供される治療又は使用の方法の実施は、治療有効量の本明細書中で提供される化合物が、治療される疾患、障害又は医学症状を有する哺乳動物に、医薬組成物中で投与される。特定の実施形態において、哺乳動物は、ヒトである。特定の実施形態において、治療有効量は、疾患の重篤度、対象の年齢及び相対的健康、使用される化合物の効力及び他の因子に依存して変動する。本明細書中で記載される化合物は、単独で使用されるか、又は混合物の構成要素として1つ以上の治療剤と組み合わせて使用される。
【0094】
医薬組成物は、無菌の水性又は非水性の溶液、懸濁液又はエマルジョンであってもよい。これは、生理学的に許容される賦形剤(医薬として許容される又は好適な賦形剤もしくは担体とも呼ばれる)(すなわち、活性成分の活性に干渉しない非毒性物質)をさらに含む。このような組成物は、固体、液体又は気体(エアロゾル)の形態であってもよい。
【0095】
1つの実施形態において、1つ以上の化合物が、水溶液中に調剤される。特定の実施形態において、水溶液は、例示でしかないが、生理学的に適合性の緩衝液、例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液、又は生理食塩水緩衝液から選択される。特定の実施形態において、有用な水性懸濁液は、1つ以上のポリマーを懸濁化剤として含む。有用なポリマーとしては、水溶性ポリマー類、例えば、セルロースポリマー類(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、及び非水溶性ポリマー類(例えば、架橋カルボキシル含有ポリマー類)が挙げられる。本明細書中で記載される特定の医薬組成物は、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボマー(アクリル酸ポリマー)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリカルボフィル、アクリル酸/ブチルアクリレートコポリマー、アルギン酸ナトリウム及びデキストランから選択される粘膜接着性ポリマーを含む。
【0096】
別の実施形態において、本明細書中で記載される化合物は、経口投与のために調剤される。本明細書中で記載される化合物は、活性化合物を、例えば、医薬として許容される担体又は賦形剤と組み合わせることによって調剤される。種々の実施形態において、本明細書中で記載される化合物は、例示でしかないが、丸剤、散剤、錠剤、ドラジェ、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、エリキシル、スラリー、懸濁液などを含む経口投薬形態で調剤される。
【0097】
特定の実施形態において、治療有効量の少なくとも1つの本明細書中で記載される化合物は、他の経口投薬形態に調剤される。経口投薬形態としは、ゼラチンで作られたプッシュフィットカプセル、ならびにゼラチン及び可塑剤(例えば、グリセロール又はソルビトール)で作られた軟質の密封カプセルが挙げられる。特定の実施形態において、プッシュフィットカプセルは、活性成分を、1つ以上のフィラーと混合して含む。フィラーとしては、例示でしかないが、ラクトース、結合剤(例えば、デンプン類)、及び/又は滑沢剤(例えば、タルク又はステアリン酸マグネシウム)、及び任意選択的に、安定化剤が挙げられる。他の実施形態において、軟質カプセルは、好適な液体に溶解するか又は懸濁される1つ以上の活性化合物を含む。好適な液体としては、例示でしかないが、1つ以上の脂肪油、液体パラフィン、又は液体ポリエチレングリコ-ルが挙げられる。さらに、安定化剤が、任意選択的に加えられる。
【0098】
なお他の実施形態において、化合物は、直腸組成物(例えば、カカオバター又は他のグリセリド類などの従来の坐剤基材ならびに例えばポリビニルピロリドン、PEG、などの合成ポリマーを含む、浣腸、直腸ゲル、直腸泡剤、直腸エアロゾル、坐剤、ゼリー状坐剤、又は停留浣腸)として調剤される。組成物の坐剤形態において、低融点ワックス(例えば、任意選択的にカカオバターと組み合わせられた脂肪酸グリセリド類の混合物であるが、これに限定されない)が、最初に融解する。
【0099】
本明細書中で記載される化合物を含む組成物の調製のための方法は、本化合物を1つ以上の不活性な医薬として許容される賦形剤又は担体と共に調剤して、固体、半固体又は液体を形成することを含む。固体組成物としては、散剤、丸剤、分散可能顆粒、カプセル、カシェ及び坐剤が挙げられるが、これらに限定されない。液体組成物としては、化合物が溶解している溶液、化合物を含むエマルジョン、又は本明細書中で開示される化合物を含むリポソーム、ミセルもしくはナノ粒子を含む溶液が挙げられる。半固体組成物としては、ゲル、懸濁液及びクリームが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中で記載される医薬組成物の形態としては、液体の溶液又は懸濁液、使用前に液体中に溶解するか又は懸濁するために好適な固体形態又はエマルジョンが挙げられる。これらの組成物はまた、任意選択的に、少量の非毒性の補助物質、例えば、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝化剤、などを含む。
【0100】
有用な医薬組成物はまた、任意選択的に、本明細書中で記載される化合物の可溶性を補助する可溶化剤を含む。用語「可溶化剤」は、一般に、薬剤のミセル溶液又は真の溶液の形成をもたらす薬剤を含む。特定の受け入れ可能な非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80は、可溶化剤として有用であり、眼科的に受け入れ可能なグリコール、ポリグリコール、例えばポリエチレングリコール400及びグリコールエーテルである。
【0101】
さらに、有用な医薬組成物は、任意選択的に1つ以上のpH調整剤又は緩衝化剤(酢酸、ホウ酸、クエン酸、乳酸、リン酸及び塩酸などの酸;水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム及びtris-ヒドロキシメチルアミノメタンなどの塩基;及びシトレート/できストロース、重炭酸ナトリウム及び塩化アンモニウムなどの緩衝液が挙げられる)を含む。このような酸、塩基及び緩衝液は、組成物のpHを適切な範囲に維持するために必要な量で含まれる。
【0102】
さらに、有用な組成物はまた、任意選択的に、組成物の浸透性を適切な範囲にするために必要な量で、1つ以上の塩を含む。このような塩としては、ナトリウム、カリウム又はアンモニウムの陽イオン及び塩素、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、重炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩又は重亜硫酸塩の陰イオンを含むものが挙げられ、好適な塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム及び硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0103】
使用及び治療方法
本明細書中ではまた、(a)SLC26A3を発現する細胞と(b)式(I)の化合物を有効量で含む医薬組成物とを、SLC26A3媒介型陰イオン(Cl-、HCO3
-、シュウ酸塩)交換を阻害するために十分な条件下でかつ十分な時間にわたって接触させる工程を含む、SLC26A3を阻害する方法が提供され、式中、式(I)の化合物は、以下の構造を有する:
【0104】
【化19】
又はその医薬として許容される塩、同位体形態、立体異性体もしくはプロドラッグであり、式中、
R
1は、任意選択的に置換されたC
1-C
6アルキル、任意選択的に置換されたC
1-C
3アルケニル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキルアルキル、任意選択的に置換されたアルコキシアルキル、カルボキシC
1-C
3アルキル、任意選択的に置換されたヘテロアリールアルキル、-S(O)
2アリール(ここで、アリールは、任意選択的に置換されている)又は任意選択的に置換されたアリールアルキルであり、
R
2は、カルボキシC
1-C
3アルキルであり、
R
3は、C
1-C
4アルキルであり、
R
4は、C
1-C
4アルキルである。
【0105】
特定の実施形態において、細胞は、上皮細胞である。詳細な実施形態において、上皮細胞は、腸上皮細胞又は肺上皮細胞である。
【0106】
特定の実施形態において、化合物は、式(Ia)によって表される構造を有する:
【0107】
【化20】
式中、、Xは、アルキル、C
3-C
5シクロアルキル、ハロ、ハロアルキル、アルコキシ、NO
2、又はハロアルコキシであり、nは、1、2、又は3である。
【0108】
より特定の実施形態において、化合物は、化合物A1(DRAinh-A250)、DRAinh-A260又はDRAinh-A270であり、その代表的な構造を、以下に示す:
【0109】
【0110】
別の実施形態は、SLC26A3媒介型陰イオン(Cl-、HCO3
-、シュウ酸塩)交換に関連する症状、疾患又は障害を予防又は治療する方法を提供し、この方法は、予防又は治療を必要とする対象に、SLC26A3媒介型陰イオン(Cl-、HCO3
-、シュウ酸塩)交換を阻害するために有効な量の式(I)の化合物を投与することを含み、ここで、式(I)の化合物は、以下の構造を有する:
【0111】
【化22】
もしくはその医薬として許容される塩、同位体形態、立体異性体もしくはプロドラッグであり、[式中、
R
1は、任意選択的に置換されたC
1-C
6アルキル、任意選択的に置換されたC
1-C
3アルケニル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキルアルキル、任意選択的に置換されたアルコキシアルキル、カルボキシC
1-C
3アルキル、任意選択的に置換されたヘテロアリールアルキル、-S(O)
2アリール(ここで、アリールは、任意選択的に置換されている)又は任意選択的に置換されたアリールアルキルであり、
R
2は、カルボキシC
1-C
3アルキルであり、
R
3は、C
1-C
4アルキルであり、
R
4は、C
1-C
4アルキルである]。
【0112】
1つの実施形態において、疾患又は障害は、便秘(例えば、CIC、OIC、及び/又はIBS-C)、CF関連便秘、胎便性イレウス、遠位腸閉塞症候群、シュウ酸カルシウム尿路結石、腸内高シュウ酸尿症又は原発性高シュウ酸尿症である。
【0113】
特定の実施形態において、化合物は、式(Ia)によって表される構造を有する:
【0114】
【化23】
式中、Xは、アルキル、C
3-C
5シクロアルキル、ハロ、ハロアルキル、アルコキシ、NO
2、又はハロアルコキシであり、nは、1、2、又は3である。
【0115】
より特定の実施形態において、化合物は、化合物A1(DRAinh-A250)、DRAinh-A260又はDRAinh-A270である。
【0116】
さらなる実施形態は、便秘を治療する方法を提供し、この方法は、治療を必要とする対象に、治療有効量の式(I)、(Ia)又は(II)の化合物を投与することを含む。
【0117】
特定の実施形態において、便秘は、慢性突発性便秘(CIC)、オピオイド誘導性便秘(OIC)、便秘型優位性過敏性腸症候群(IBS-C)、CF関連便秘、胎便性イレウス、遠位腸閉塞症候群を含む慢性便秘である。
【0118】
特定の実施形態において、化合物は、式(Ia)によって表される構造を有する:
【0119】
【化24】
ここで、Xは、アルキル、C
3-C
5シクロアルキル、ハロ、ハロアルキル、アルコキシ、NO
2、又はハロアルコキシでありnは、1、2、又は3である。
【0120】
より特定の実施形態において、化合物は、化合物A1、DRAinh-A260又はDRAinh-A270である。
【0121】
さらなる実施形態において、この方法は、式(I)の化合物と同時に又は連続的に、NHE3阻害剤を投与することを、さらに含む。
【0122】
より特定の実施形態において、NHE3阻害剤は、テナパノールであり、症状又は障害は、難治性便秘である。
【0123】
別の実施形態は、尿中シュウ酸排出の低減を必要とする対象において尿中シュウ酸排出を低減する方法を提供し、この方法は、治療有効量の式(I)の化合物又はその医薬として許容される塩、同位体形態、立体異性体もしくはプロドラッグを対象に投与することを含む:
【0124】
【化25】
[式中、:
R
1は、任意選択的に置換されたC
1-C
6アルキル、任意選択的に置換されたC
1-C
3アルケニル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキルアルキル、任意選択的に置換されたアルコキシアルキル、カルボキシC
1-C
3アルキル、任意選択的に置換されたヘテロアリールアルキル、-S(O)
2アリール(ここで、アリールは、任意選択的に置換されている)又は任意選択的に置換されたアリールアルキルであり、
R
2は、カルボキシC
1-C
3アルキルであり、
R
3は、C
1-C
4アルキルであり、
R
4は、C
1-C
4アルキルである]。
【0125】
より特定の実施形態において、尿中シュウ酸排出の低減を必要とする対象は、腸内高シュウ酸尿症又は原発性高シュウ酸尿症に罹患している。
【0126】
特定の実施形態において、化合物は、式(Ia):
【0127】
【化26】
によって表される構造を有し
式中、Xは、アルキル、C
3-C
5シクロアルキル、ハロ、ハロアルキル、アルコキシ、NO
2、又はハロアルコキシであり、nは、1、2、又は3である。
【0128】
より特定の実施形態において、化合物は、化合物A1、DRAinh-A260又はDRAinh-A270である。
【0129】
なお別の実施形態は、腎結石を予防又は治療する方法を提供し、この方法は、治療を必要とする対象に、治療有効量の以下の構造を有する式(I)の化合物又はその医薬として許容される塩、同位体形態、立体異性体もしくはプロドラッグを投与することを含む。
【0130】
【化27】
[式中、
R
1は、任意選択的に置換されたC
1-C
6アルキル、任意選択的に置換されたC
1-C
3アルケニル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキル、任意選択的に置換されたC
3-C
6シクロアルキルアルキル、任意選択的に置換されたアルコキシアルキル、カルボキシC
1-C
3アルキル、任意選択的に置換されたヘテロアリールアルキル、-S(O)
2アリール(ここで、アリールは、任意選択的に置換されている)又は任意選択的に置換されたアリールアルキルであり、
R
2は、カルボキシC
1-C
3アルキルであり、
R
3は、C
1-C
4アルキルであり、
R
4は、C
1-C
4アルキルである]。
【0131】
より特定の実施形態において、腎結石は、シュウ酸カルシウム腎結石である。
【0132】
特定の実施形態において、化合物は、式(Ia)によって表される構造を有する。
【0133】
より特定の実施形態において、化合物は、化合物A1(DRAinh-A250)、DRAinh-A260又はDRAinh-A270である。
【0134】
他の実施形態において、上記の方法及び使用は、式(II)の化合物を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【実施例】
【0135】
略号
CFTR、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子;DCM、ジクロロメタン;4-DMAP、N、N-ジメチルアミノピリジン;DMF、N、N-ジメチルホルムアミド;DMSO、ジメチルスルホキシド;EDCI-HCl、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミドヒドロクロリド;FPR、蛍光プレートリーダー;FRT、フィッシャーラット甲状腺;PBS、リン酸緩衝化生理食塩水;RT、室温;TLC、薄層クロマトグラフィー;TMEM16A、膜貫通メンバー16A;YFP、黄色蛍光タンパク質。
【0136】
一般的実験
別段に示されない限り、全ての反応溶媒は、無水であり、購入される。ジフルオロヨード酢酸を、Synquest Laboratories(Alachua、FL)から購入した。全ての他の試薬を、入手した状態で使用した。
【0137】
購入した全ての材料及び溶媒を、さらなる精製なしで用いた。1H及び13C NMRスペクトルを、Avance 300MHz NMR Spectrometer(Bruker、San Jose、CA)にて実施した。化学シフトを、百万分率(ppm)で得た。LC-MS分析を、Micromass ZQ Mass Spectrometerを2695 HPLC Separations Module(Waters、Milford、MA)と共に用いて行った。試験した化合物は、LC/MSにより95%を超える純度を有した。
【0138】
FRT-YFP-slc26a3細胞を用いたslc26a3阻害剤を同定するためのハイスループットスクリーニングを、半自動化したBeckman Coulter(Indianapolis、IN)プラットフォームをFLUOstar OMEGAプレートリーダー(BMG Labtech、Cary、NC)と共に用い、本質的にペンドリン阻害剤の発見について記載された通りに行った。最初のスクリーニングを、約50、000薬物様合成低分子(ChemDiv、San Diego、CA)について、25μMの濃度で、Cl-/I-交換プロトコールを用いて行い、slc26a3機能をアッセイした。最初のスクリーニングの後、化合物アナログを購入し(ChemDiv、San Diego、CA)、構造-活性データを作成した。主なslc26a3阻害剤は、再合成され、そして1H及び13C NMRによって確認され、95%を超える純度をLC-MSによって確認した。
【0139】
スクリーニングのために、FRT-YFP-slc26a3細胞を、96ウェル黒色壁透明底部組織培養プレート(Corning Life Sciences、Tewksbury、MA)内でプレート培養し、20、000細胞/ウェルの密度にて48時間にわたりコンフルーエントまで培養した。スクリーニングのために、細胞を、PBS中で2回洗浄し、そしてslc26a3機能のアッセイの前に、10分間にわたって試験化合物を含む100μl PBS中でインキュベートした。アッセイを、doneusingaFLUOstar OMEGAプレートリーダー(BMG Labtech、Cary、NC)を用いて、12秒間にわたって行い、最初の蛍光を1秒間記録した後、100μlのNaI-置換されたPBS(137mM NaClが137mM NaIによって置き換えられている)を添加し、Cl-/I-交換を駆動した。Cl-/I-交換の初期速度を、単一指数回帰によって、蛍光強度から決定した。全てのプレートは、陰性対照ウェル(1% DMSO)及び陽性対照ウェル(350μM ニフルミン酸)のを含んだ。最初のスクリーニングの後、活性化合物のアナログを購入して(ChemDiv)、構造-活性の関係性データを作成した。
【0140】
動物実験は、UCSF施設内動物管理使用委員会(IACUC)によって認可を受けた。閉塞腸係蹄モデル及び便秘のロペラミド誘導性モデルを、文献に公知の技術を用いて、マウスにおいて行った。マウスを、標準的げっ歯類食及び水を自由に得られるようにして、市販のケージに入れた。野生型CD1マウスとΔF508-CFTRホモ接合体マウスとを、UCSF実験動物リソースセンターにおいて交配した。
【0141】
実施例1
Slc26a3阻害剤を同定するためのハイスループットスクリーニング
スクリーニングを、マウスslc26a3及びハロゲン化物感受性黄色蛍光タンパク質を安定的に発現するFRT細胞株(FRT-YFP-slc26a3細胞)を用いて行った。FRT細胞は、slc26a3によって運ばれる陰イオンに対し固有の浸透性を有するがゆえに、及びコーティングしていないプラスチック上に良好に接着し迅速に増殖するがゆえに、これを使用した。
図1Aにおいて表にした通り、SLC26A3媒介型輸送を、Cl
-/I
-交換を駆動するI
-の細胞外添加に応答するYFP蛍光クエンチングの動態からアッセイした;輸送阻害は、蛍光減少の速度を低下する。
図1Bは、代表的なスクリーニングにおいて試験した不活性及び活性な化合物からの蛍光データを、ビヒクル(DMSO)対照からのデータ及びslc26a3を発現しない細胞からのデータと共に示した。スクリーニングのために、slc26a3を350μMにて強力に阻害する非選択的塩素チャネルブロッカーであるニフルミン酸を、陽性対照として使用した。slc26a3スクリーニングアッセイについてのZ’因子は、約0.7であった。
【0142】
トランスフェクトされたFRT細胞においてセカンドメッセンジャーがslc26a3活性を調節するか否かを試験するために実験を行い、ここで、FRT-YFP-slc26a3細胞を、ホルスコリン(20μM;cAMPを上昇させるために)、8-ブロモグアノシン3’,5’-環状モノホスフェート(100μM;8-Br-cGMP;細胞浸透性cGMPアナログ)、ATP(100μM;細胞質Ca
2+を上昇させるため)、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(100nM;PMA)、又は20mM塩化カリウム(高K
+、脱分極膜電位まで)と共に事前インキュベートした。これらの手段は、電気的に中性のslc26a3媒介型Cl
-/I
-交換を実質的に変化させない(
図1C)。したがって、スクリーニングにおいて同定した阻害剤は、シグナル伝達メカニズムの上流に作用するよりもむしろ、slc26a3交換を直接的に阻害する可能性が高い。
【0143】
25μMにて50、000の合成低分子のスクリーニングは、slc26a3を75%を超えて阻害する136の活性化合物を、同定した。化合物は、4、8-ジメチルクマリン類、アセトアミド-チオイミダゾール類、トリアゾールアミド類、及びチアゾール-チオフェンスルホンアミド類(それぞれ、分類A~D)を含むいくつかの化合物分類に分かれる(
図2A~B)。スクリーニングした化合物のサブセットについての阻害百分率をスクリーニングした順に示す散布図(
図2A、左)は、化合物プレートにおける化学スキャフォールドを分けた結果として、活性化合物のクラスターを明らかにした。再試験において、36の化合物が、10μMにて、slc26a3を50%を超えて阻害した(
図2A、右)。これは、複数の分類A及び分類B化合物を含む。
図2Cは、一次スクリーニングにおいて見出した、選択した分類A(IC
50 約4μM)及び分類B(IC
50 約9μM)化合物についての、SLC26A3媒介型Cl
-/I
--交換の阻害についての濃度依存性測定値を、ニフルミン酸(IC
50 約60μM)についてのデータと共に示す。
【0144】
実施例2
構造-活性の関係性(SAR)研究
効力データ及び構造考察に基づき、分類A及び分類Bの化合物について、さらなる研究のために優先順位をつけた。全部で176の市販の分類Aアナログ及び175の分類Bアナログを、試験した。
図3A及び3Bは、分類A及び分類Bの化合物についての活性の構造的決定因子を(左パネルs)、選択したアナログの濃度依存性データと共に(右パネルs)まとめた。分類A化合物は、4-及び8-位にてメチル基で置換されたクマリンである。構造-活性分析は、3-位(R
1)の酢酸部分が、活性のために有益であるが、対応する酢酸エステルは不活性であることを示した。酢酸とプロピオン酸との置き換えは、活性を大きく低減し、アルキル及びベンジルを含む非酸性置換基は、不活性である。大きな効力が、クマリンの7-位におけるヒドロキシル化について見いだされ、ベンジル環(R
2)により、ならびに3-クロロ、3-フルオロ及び3-ブロモ置換基により、最も大きな効力が得られる。
【0145】
分類B化合物は、イミダゾール(R1)環において及びアセトアミドリンカー(R2)において置換基を有する、アセトアミド-チオイミダゾールである。R1基について、フェニルは、最もよい活性を与え、ベンゾフラン、ベンジル、メチル及びアセテートは、活性を低下させた。非置換のフェニルは、最も大きな効力を与えるが、4-メトキシ及び4-クロロもまた活性であり、他方で、2-位上の置換基は活性を低下させた。R2について、いくつかの置換されたアニリンは活性であり、他方で非アニリンの、アルキル、ベンジル及びアリル基は、活性を低下させた。3-クロロ-4-メチルで置換されたアニリンは、最も活性であった。アニリン環上の他の置換基(4-ハロゲン化物、4-メチル及び4-メトキシを含む)は、活性であった。一般に、3,4-二重置換され、そして及び3,4-二重置換は、活性を低下させた。
【0146】
表1及び2は、それぞれ選択した活性分類A及び分類Bの化合物についてのIC
50値を列挙する。化合物A1は、0.15μMのIC
50を有する最も強力な分類A化合物であった(
図3A、右パネル)。いくつかの他の分類Aアナログもまた、一次スクリーニングにおいて同定された元の化合物であるDRA
inh-A01よりも強力であることが、見いだされた。分類Bについて、多くのアナログが、元の活性化合物(DRA
inh-B01、IC
50 約9μM)よりも高い効力を示し、化合物B1(DRA
inh-B601)は、最も低い約1.5μMIC
50を有した(
図3B、右パネル)。
【0147】
電気的中性群又は電気供与群と4-置換されたアニリンが最良であり、他方で、4-NO2及び3,4-分布は、活性を低下させた。
【0148】
【0149】
【0150】
実施例3
化合物A1(DRA
inh-A250)の合成
さらなる研究のために、化合物A1を、2-メチルレゾルシノールのジメチルアセチルスクシネートとのペックマン濃縮によって再合成し、(
図3C)7-ヒドロキシクマリン(中間体1)を得、これをさらに3-ブロモベンジルブロミドによってアルキル化して、クマリンエステル(中間体2)を得た。クマリンエステルの加水分解により、対応する3-酢酸-クマリン化合物A1を、良好な収率で得た(
図3C)。
【0151】
無水メタノール(40mL)中の2-メチルレゾルシノール(2.00g、16.09mmol)及びジメチル2-アセチルスクシネート(3.03g、16.1mmol)を、無水HClで0℃にて処理した。次いで、反応混合物を、室温にて24時間にわたり撹拌し、この混合物を、水中に注いだ。得られた沈殿物を、ろ過によって集め、水で洗浄し、乾燥させて、所望の生成物(中間体1)のオフホワイト固体を得た(3.02g、72%収率)。1H NMR,300 MHz,MeOH-d4)δ 7.51,dd,J=8.7,0.45 Hz,1H),6.86,d,J=8.7 Hz,1H),3.728,s,2H),3.720,s,3H),2.41,s,3H),2.27,s,3H);LC/MS m/z 262,M+H+).
【0152】
アセトン(10mL)中の7-ヒドロキシクマリン(中間体1)(200mg、0.76mmol)、3-ブロモベンジルブロミド(267mg、1.07mmol)、及び炭酸カリウム(211mg、1.53mmol)の混合物を、一晩灌流まで加熱した。溶媒を蒸発させ、残留物を氷水中に注いだ。得られた沈殿物を、ろ過によって集め、メタノールで洗浄し、そして乾燥させて、290mg(90%)のクマリンエステル(中間体2)aを、白色固体として得た。1H NMR(300 MHz,CDCl3)δ 7.61(brs,1H),7.51-7.48(m,1H),7.46(d,1H,J=8.9 Hz),7.39(d,1H,J=8.0 Hz),7.29(t,1H,J=7.8 Hz),6.87(d,1H,J=8.9 Hz),3.75(brs,2H),3.73(s,3H),2.39(brs,6H);13C NMR(75 MHz,CDCl3)δ 170.9,161.8,158.6,151.6,149.0,138.8,131.2,130.2,130.0,125.5,122.76,122.72,116.5,114.5,114.4,108.1,69.5,52.2,32.7,15.3,8.4;LC/MS m/z 431(M+H+).
【0153】
エステル中間体2(180mg、0.42mmol)のメタノール(8mL)中溶液に、水(2mL)中NaOH(25mg、0.626mmol)を加え、溶液を1時間にわたり灌流まで加熱し、室温まで冷まし、水で希釈して、pH7.0まで1N HClで中性化した。得られた沈殿物を、ろ過によって集め、水で洗浄し、そして乾燥させて、化合物A1を白色粉末として得た(105mg、60%収率)。1H NMR(300 MHz,DMSO-d6)δ 7.73(brs,1H),7.66(d,1H,J=9.1 Hz),7.57-7.54(m,2H),7.42-7.37(m,1H),7.13(d,1H,J=8.9 Hz),5.34(s,2H),3.73(s,2H),2.45(s,3H),2.33(s,3H);13C NMR(75 MHz,DMSO-d6)δ 165.8,161.4,158.4,151.1,149.1,144.1,140.1,131.2,130.4,126.7,124.0,122.2,117.8,114.4,112.9,109.2,69.3,33.6,15.5,8.5 ;LC/MS m/z 417(M+H+).
【0154】
実施例4
化合物A1性質決定
c26a3の生理学的関連している活性である、Cl
-及びHCO
3
-のSLC26A3媒介型交換の阻害についての濃度依存性測定値を、細胞質pHセンサーとしてBCECFで標識したslc26a3発現FRT細胞を用いて測定した。標識細胞を、まず、Cl
-含有HCO
3
-緩衝溶液中でインキュベートし、そして細胞質アルカリ化を伴うHCO
3
-流入/Cl
-流出を、グルコネート含有HCO
3
-緩衝溶液の添加によって起こした。細胞質pH(約0.05pH単位/分)の上昇を、化合物A1がIC
50 約0.1μMにて阻害した(
図4A)。SLC26A3媒介型Cl
-/SCN
-交換の阻害についての濃度依存性測定値は、約0.3μMのIC
50を出した(
図4B)。化合物A1阻害の動態を、Cl
-/I
-交換のインキュベーションの前に、FRT-YFP-slc26a3細胞を1μMの化合物A1と共に異なる時間の間にわたってインキュベーションすることによって測定し、約30秒間の阻害についてのt
1/2を得た(
図4C)。完全な可逆性を確認するため、FRT-YFP-slc26a3細胞を、1μMの化合物A1と共に10分間インキュベートし、次いで、3回洗浄した後にアッセイCl
-/I
-交換を行った(
図4C、挿入)。
【0155】
化合物A1による(ヒト)SLC26A3の阻害をも、SLC26A3及びYFPを発現するHEK細胞モデルを用いて試験した。SLC26A3媒介型Cl
-/I
-交換を、化合物A1によって約0.25μMのIC
50で阻害し、より高い化合物A1濃度で完全に阻害した(
図4D)。
【0156】
実施例5
化合物A1選択性
化合物A1選択性を調べるために、輸送アッセイを、SLC26-ファミリーホモログ、他の関連上皮イオン輸送体及びチャネルのパネル上で行った。細胞と10μMの化合物A1との事前インキュベーションは、(マウス)ペンドリン(slc26a4)、PAT-1(slc26a6)又はslc26a9のCl
-/I
--交換活性を変えなかったことを、元の蛍光時間経過データ(
図5A)及びまとめデータ(
図5B)に示す。10μMの化合物A1はまた、チャネルであるCFTR及びTMEM16Aの活性も変えなかった。別の実験において、ヒト上皮における化合物A1の複数のイオン輸送体及びチャネルの作用の可能性を調べるために、ヒト気管支上皮(HBE)細胞を、アミロリド(上皮ナトリウムチャネルENaCを遮断するため)、ホルスコリン、CFTR
inh-172(CFTRを遮断するため)、及びATP(Ca
2+-活性化型塩素チャネル、CaCCを活性化させるため)を連続的に転嫁し、短絡電流によって調べた(
図5C)。20分間、10μMの化合物A1による事前処理は、短絡電流応答を変化させなかった。このことは、化合物A1は、ENaC、CFTR又はCaCC活性、又はそれらの活性を支持するために必要なK
+チャネル及びNa-K-Cl共輸送体を含む他の輸送体活性を変えなかったことを示している。
【0157】
実施例6
閉塞腸係蹄研究
雌CD1マウス(8~10週齢)に、ペディアライト(1リットルあたり:Na+ 45mEq、Cl- 35mEq、K+ 20mEq、デキストロース25g;Abbott、Abbot Park、IL)を自由に摂取させたが、実験の48時間前からは固形食を与えなかった。この間、マウスを、1日1回直腸にて500μLの鉱物油で処理し(最終回は手術の12時間前)、結腸を空にした。閉塞した腸係蹄を、記載のように取り出した。マウスを、イソフルランで麻酔し、加温パッドを用いて手術の間体温を36~38℃に維持した。それぞれのマウスにおいて、小さく腹部切開し、遠位結腸を暴き、1つの閉塞遠位結腸腸係蹄(長さ1.5~2cm)を取り出して、縫合した。腸係蹄に、100μLリン酸緩衝化生理食塩水(PBS、pH:7.4、1mM中:137 NaCl、2.7 KCl、8 Na2HPO4、1.8 KH2PO4、1 CaCl2、0.5 MgCl2)を、10μM化合物A1及び/又は10μMテナパノール(MedChemExpress、Monmouth Junction、NJ)を加えるか又は加えずに、注入した。腹部切開を、縫合によって閉じ、そしてマウスを麻酔から回復させた。結腸腸係蹄を、(別のマウスにおいて)0~60分間で取り出し、腸係蹄の長さ及び重量を、液体吸収を定量するために測定した。内腔液を、シリンジで空にし、AB15 pH Meter(Thermo Fisher Scientific、South San Francisco、CA)を用いてpHを直ちに測定した。別の研究において、空腸中部腸係蹄(長さ2~3cm、マウス1匹あたり3~4の腸係蹄)を、上述のように取り出し、100μL PBSを、10μM化合物A1及び/又は10μMテナパノールを加えるか又は加えずに注入し、0~30分間で取り出し、腸係蹄の長さ及び重量を測定した。
【0158】
実施例7
マウスの遠位結腸における液体吸収の阻害
マウスにおける閉塞した腸係蹄研究を行い、化合物A1の液体吸収に対する効果を調べた。取り出された遠位結腸腸係蹄における化合物A1の直接投与は、60分にて、腸係蹄重量/長さ比の低下を完全に妨げた。これは、液体吸収の直接指標である(
図6A、上パネル)。内腔pHの変化をも、slc26a3促進型HCO
3
-分泌/Cl
-吸収の反転量的測定として決定し、slc26a3阻害は、内腔液アルカリ化を低下することを予測した。これらの実験について、HCO
3
-/CO
2非含有のリン酸緩衝溶液(PBS)を使用して、交絡した内腔炭酸脱水酵素の効果を回避した。化合物A1は、60分にて遠位結腸腸係蹄における内腔液のアルカリ化を低下させ、このことは、Cl
-/HCO
3
-交換の阻害と一致した(
図6A、下パネル)。NHE3(Na
+/H
+交換体3)阻害剤であるテナパノールの投与は、遠位結腸腸係蹄において、重量/長さ比又は内腔pHに効果を有さなかった。化合物A1とテナパノールとの同時投与の結果は、化合物A1単独投与の効果と類似であった。これらの結果は、slc26a3はマウス遠位結腸における優勢な吸収促進性輸送体であし、他方で、NHE3は、このセグメントにおける液体吸収に実質的に寄与していないという結論を支持した。
【0159】
実施例8
Slc26a3阻害によって変わらなかった空腸液体吸収
化合物A1の空腸中部腸係蹄への投与は、腸係蹄の重量/長さ比に有意な変化をもたらさなかったが、他方で、液体吸収は、テナパノール処理腸係蹄においてなくなった(
図6B、上パネル)。化合物A1は、30分にて空腸駅の酸性化を変えなかったが、テナパノールは、酸性化を防ぎそしてわずかにアルカリ化をもたらした(
図6B、下パネル)。化合物A1及びテナパノールを同時投与された腸係蹄は、テナパノール単独での処理類似した腸係蹄の重量/長さ比及び内腔液pHを示した。これらの結果は、マウス空腸での液体吸収におけるslc26a3の重要な役割に対する証拠を提示し、NHE3はこのセグメントにおける優勢な吸収促進性輸送体であるという結論を支持した。
【0160】
実施例9
WT及び嚢胞性繊維症マウスにおけるロペラミド誘導性便秘の軽減
雌CD1マウス(8~10週齢)に、ロペラミド(0.3mg/kg、腹腔内、Sigma-Aldrich)を投与し、便秘を起こした。化合物A1(DRAinh-A250)(5mg/kg、ビヒクル(5% DMSO及び10% Kolliphor HS 15;Sigma-Aldrich)含有生理食塩水中)、テナパノール(5mg/kg、ビヒクル中)の両化合物(5mg/kg各々、ビヒクル中)又はビヒクル単独を、強制経口投与によって、ロペラミドの1時間前に与えた。ロペラミド注入後、マウスを個別に代謝ケージ内に入れ、食餌及び水を自由に与えた。糞便サンプルを、3時間にわたって集め、糞便総重量及び糞ペレットの数を定量した。糞便水分含量を測定するため、糞便サンプルを、80℃にて24時間にわたって乾燥させ、そして水分含量を、[湿重量-乾燥重量]/湿重量として計算した。類似の研究を、機能的CFTRを欠く嚢胞性繊維症(CF)マウス(ΔF508ホモ接合体)において行った。
【0161】
5mg/kgで経口投与された化合物A1は、野生型マウスにおける糞便重量、ペレット数及び水分含量のロペラミド誘導性減少を、部分的に妨げた(
図7A及び7B)。5mg/kgで経口投与されたテナパノールもまた、糞便重量、ペレット数及び水分含量のロペラミド誘導性減少を、部分的に妨げた。これらの応答の強さは、非常に高い用量の認可薬リナクロチドによって見られるものと類似であった。注目すべきことに、化合物A1及びテナパノールの同時投与は、ロペラミド誘導性便秘を完全に防いだ。このことは、slc26a3及びNHE3阻害の便への加水への相加効果を示唆する(
図7B)。重要なことに、化合物A1はまた、分泌促進性Cl
-チャネルCFTRの機能欠損を有するCFマウスにおけるロペラミド誘導性便秘モデルにおいても、有効であった(
図7C)。
【0162】
図8(A及びB)は、観察された結果に裏打ちされた可能性のあるメカニズムを模式的に図示する。
図8Aは、空腸及び遠位結腸における主要な吸収経路を図解する。NHE3及びNHE2は、小腸及び近位結腸において発現される;NHE3(SLC9A3)は、優勢なNa
+/H
+交換体であり、NHE2の欠損を補填し得る。表記は、以下の意味を有する。DRA:腺腫において下方調節された(Slc26a3)、PAT-1:推定陰イオン輸送体-1(Slc26a6)、NHE3:Na
+/H
+交換体3、ENaC:上皮ナトリウムチャネル。SGLT:Na
+-グルコース輸送体、SAACT:Na
+-アミノ酸共輸送体。
【0163】
図8Bは、化合物A1及びテナパノールについての可能性のある作用部位及びメカニズムを示す。上向きの垂直矢印は、吸収を表し、水平な矢印の大きさ及び厚さは、内腔含有物及び糞便排出物の水和を表す。
【0164】
実施例10
ベクター発現
slc26a3、SLC26A3、slc26a6、及びslc26a9についての相補的DNA(cDNA)を含むベクターを、Origene(Rockville、MD)から購入し、標準的技術を用いて捜査した。スクリーニングのための細胞株を作製するため、slc26a3を、pIRESpuro3(Clontech、Mountain View、CA)内にサブクローニングした。ヒトSLC26A3を、pLVX-IRES-mCherry(Clontech)内にサブクローニングし、他のslc26ファミリーメンバーを、ハロゲン化物感受性EYFP-H148Q/I152L/F46L(YFP)を同時発現するように作製されたベクターにサブクローニングした。
【0165】
特に、slc26a3発現ベクターを作製するために、KpnI-EcoRI断片をOrigeneプラスミド(開始コドン及び約1.7kbのコード配列を有する)から切り出し、カルボキシ末端slc26a3領域及び5’-EcoRI/3’-BstXI/XhoI制限部位をコードする合成DNA断片(gBLOCK、Integrated DNA Technologies(Coralville、IA)、約0.6kb)を使用して、slc26a3をpcDNA3.1/zeo(+)(ThermoFisherScientific、SouthSanFrancisco、CA)中に再生させた。その後、BglII及びBstXIで切り出したslc26a3 cDNAを、pIRESpuro3(Clontech、Mountain View、CA)のBamHI及びBstXI部位内にサブクローニングした。
【0166】
SLC26A3について、aKpnI-PstI断片をOrigeneプラスミド(開始コドン及び約1.9kbのコード配列を含む)から切り出し、カルボキシ末端SLC26A3領域ならびに5’-PstI及び3’-NotI制限部位をコードする約0.6kbのgBLOCKを使用して、SLC26A3をpcDNA3.1/zeo(+)中に再生させた。その後、NheI及びNotIで切り出したSLC26A3 cDNAを、pLVX-IRES-mCherry(Clontech)のSpeI及びNotI部位内にサブクローニングした。
【0167】
slc26a9及びハロゲン化物感受性EYFP-H148Q/I152L/F46L(YFP)を同時発現するプラスミドを作製するために、pIRESpuro3をApaI及びXmaIで切り出し、ピューロマイシン耐性遺伝子(Puror)をYFPで置き換えたgBLOCKによって再生し、得られたベクターをpIRES-YFPと名付けた。その後、slc26a9を、pIRES-YFP内に、EcoRI-NotI断片としてクローニングした。slc26a6及びYFPを同時発現するレンチウイルスベクターを作製するために、gBLOCKsを使用して、Purorの上流かつフレーム内にYFP-T2Aコード配列を有するpLVX-Puro(Clontech)を再生して、得られたベクターをpLVX-YFP-T2A-Puroと名付けた。KpnI-PstI断片を、Origene slc26a6プラスミド(約2kbの3’領域を含む)から切り出し、そしてアミノ末端slc26a6 cDNA領域及び開始コドンならびに5’-NheI/EcoRI及び3’-KpnI制限部位をコードする約0.5kbのgBLOCKを使用して、slc26a6をpcDNA3.1/zeo(+)内にて再生した。その後、完全長slc26a6を、pLVX-YFP-T2A-Puro内に、EcoRI~XbaI断片としてサブクローニングした。全ての構築物を、配列決定法によって確認した。
【0168】
実施例11
細胞培養及びトランスフェクション
フィッシャーラット甲状腺(FRT)上皮細胞、HEK細胞及びヒト気管支上皮細胞培養物を、当該分野で公知の標準的方法を用いて培養した。slc26a3阻害剤スクリーニングのために、YFPを発現するようにウイルス形質導入したFRT細胞株を、pIRESpuro3-slc26a3でトランスフェクトし、0.15μg/mlピューロマイシンを用いて選別し、そしてクローン細胞株(FRT-YFP-slc26a3と呼ぶ)を単離した。具体的に、フィッシャーラット甲状腺(FRT)細胞を、10% FBS、2mM L-グルタミン、100U/mL ペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、18μg/mLミオイノシトール及び45μg/mLアスコルビン酸を補充したKaign’s改変Ham’s F12培地中で、当該分野で公知の技術を用いて培養した。
【0169】
slc26a3阻害剤を同定するためのスクリーニングのために、Addgene(Garry Nolanによって寄託される、プラスミド#1728)から入手可能なFELIX第3世代ネコ免疫不全レンチウイルス系を用いて作製されたYFPを発現するFRT細胞を、pIRESpuro3-slc26a3でリポフェクタミン2000(Thermo Fisher Scientific、South San Francisco、CA)を用いてトランスフェクトし、0.15mg/mLのピューロマイシンを用いて選別し、クローナル細胞株(FRT-YFP-slc26a3と呼ぶ)を、読み出しとしてYFPクエンチングによるCl-/I--交換プロトコールを用いた機能的評価によって、単離した。
【0170】
YFP及びslc26a4(ペンドリン)又はCFTRを発現するFRT細胞は、当該分野で公知である。HEK293T細胞を、4.5g/Lグルコース、0.11g/Lピルビン酸ナトリウム、0.584g/Lグルタミン、10% FBS、100U/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシンを含むDMEM中で培養し、NanoFectトランスフェクション試薬(Alstem、Richmond、CA)を製造業者の指示に従って用いてトランスフェクトした。FRT細胞を、リポフェクタミン2000(Thermo FisherScientific、South San Francisco、CA)でトランスフェクトし、そしてHEK細胞を、NanoFect(Alstem、Richmond、CA)でトランスフェクトした。
【0171】
SLC26A3の発現のために富化した細胞株を作製するために、HEK293細胞を、pLVX-IRES-mCherry-SLC26A3輸送ベクターで作製したレンチウイルス粒子で形質導入し、次いで、トランスフェクトして、YFPを発現させた。
【0172】
slc26a6及びYFPの発現のため富化した細胞株を作製するために、HEK293細胞を、pLVX-YFP-T2A-Puro-slc26a6輸送ベクターによって作製したレンチウイルスで感染させ、0.2mg/mLピューロマイシンを用いて選別した。ヒト免疫不全ウイルスベースのレンチウイルス粒子を、HEK293細胞において、pMD2.G、pRSV-Rev、及びpMDLg/pRREパッケージングベクターAddgene(Didier Tronoにより寄託される、プラスミド#12251、#12253、及び#12259)で標準的手順を用いて作製した。気体-液体境界で生長させた十分に分化したヒト気管支上皮(HBE)細胞を、当該分野で公知の技術を用いて培養した。
【0173】
実施例12
選択性研究
CFTR、ペンドリン及びTMEM16AのYFPベースのアッセイは、記載の通りであった。YFP及びSLC26A3、slc26a6又はslc26a9を発現するようにトランスフェクトさせたHEK細胞を、Cl-/I-交換プロトコールを用いて機能的にアッセイした。Cl-/HCO3
-交換のアッセイを、BCECFを細胞間pH指示薬として用いて、ペンドリンについて記載されたように行った。十分に分化したHBE細胞培養物中の短絡電流(ISC)測定を、当該分野で公知の技術を用いて行った。
【0174】
pIRES-YFP-slc26a9でトランスフェクトしたHEK293細胞を、96ウェル黒色壁透明底組織培養プレート(Corning Life Sciences、Tewksbury、MA)をFNC Coating Mix(AthenaES、Baltimore、MD)でコーティングした後に、これでプレート培養した。PBSで2回洗浄し、10μMの化合物A1を含む100μL PBS中で10分間インキュベートした後、細胞を、C9100 EM-CCD(Hamamatsu、Campbell、CA)、Nikon20´N.A.0.75 S Fluor対物レンズ、ならびにそれぞれ緑色及び赤色を発色するフルオロフォアの画像化のためのB-2E/C及び31002フィルターセット(Chroma、Bellows Falls、VT)を備えたTE2000顕微鏡(Nikon、Melville、NY)のステージに移した。slc26a9媒介型陰イオン交換のアッセイを、最初にYFP蛍光を記録し、その後100μLのNaI-置換されたPBSを添加してウェルを試験し、単一指数回帰によって蛍光強度から推定されるCl-/I-交換の初期速度と共にウェルを試験した。slc26a6活性のアッセイを、pLVX-YFP-T2A-Puro-slc26a6ベクターから作製したレンチウイルス粒子で形質導入したHEK細胞を用いて、類似の様式で行った。SLC26A3機能をアッセイするために、pLVX-IRES-mCherry-SLC26A3輸送ベクターから作製したレンチウイルス粒子で形質導入したHEK293細胞を、上述のように、Cl-/I-交換アッセイについてYFPを発現させるようにトランスフェクトした;赤色蛍光画像を得、細胞におけるSLC26A3発現を確認した。CFTR機能、ペンドリン媒介型Cl-/I-交換、及びTMEM16A活性を、当該分野で公知の技術を用いてアッセイした。十分に分化したHBE細胞培養物中の短絡電流(ISC)測定もまた、化合物選択性を評価するために行った。HBE細胞を、Costar Snapwell透明透過性支持体(12mm径、0.4μmポリエステル膜;Corning Life Sciences、Tewksbury、MA)上で気体-液体境界において培養し、短絡電流を、対称HCO3
-緩衝溶液(1mM中:120NaCl、5KCl、1MgCl2、1CaCl2、5Hepes、25NaHCO3;pH7.4;95% O2/5% CO2平衡;37℃)を頂端側と側底川との両方に浴溶液を加えたイオン輸送モジュレーターと共に用いて、当該分野で公知の技術を用いて測定した。
【0175】
要約すると、式I(例えば、化合物A1)の化合物を含む組成物の特定の実施形態が、HCO3
-、I-及びSCN-によるSLC26A3媒介型Cl-交換を、約0.2μMのIC50で完全にかつ可逆的に阻害したことを見出した。10μMにて、化合物A1は、相同な陰イオン交換体であるslc26a4(ペンドリン)又はslc26a6(PAT-1)を阻害せず、他の関連タンパク質又は腸イオンチャネルの活性を変えることもなかった。.マウスにおいて、内腔内の化合物A1は、閉塞結腸腸係蹄において液体吸収を遮断したが、空腸腸係蹄においては遮断せず、他方で、NHE3/SLC9A3阻害剤であるテナパノールは、空腸における吸収を遮断したが、結腸腸係蹄において遮断しなかった。経口の化合物A1及びテナパノールロペラミド処理マウスにおいて便秘の兆候を同等に低減し、同時投与においては相加効果が見られた。化合物A1はまた、ロペラミド処理嚢胞性繊維症マウスにおいても有用である。
【0176】
これらの研究は、結腸液体吸収におけるSLC26A3の主要な役割を支持し、嚢胞性繊維症関連の便秘を含む便秘におけるSLC26A3阻害の治療有用性を示唆する。
【0177】
実施例13
さらなるDRA阻害剤ナログのSAR研究
さらなるSAR分析のために、7-ヒドロキシ位において置換された種々のベンジルアナログを、反応スキーム1にしたがって合成した。
【表3】
【0178】
図9は、2つの代表的な化合物、すなわち、DRAinh-A250及びDRAinh-A270の濃度-阻害曲線を示す。DRAinh-A270は、DRAinh-A250と比較して、4倍の改善された効力を有する(約50nM IC50)。上の表3は、式(I)のさらなる化合物をそのIC
50と共に示す。
【0179】
実施例14
薬物動態研究
化合物A1(DRAinh-A250)及びアナログ(DRA
inh-A260及びDRA
inh-A270)の薬物動態を、マウスにおいて決定した。単回用量の腹腔内又は経口投与(化合物A1及びDRA
inh-A260について5mg/kg、DRA
inh-A270について10mg/kg)の後、後眼窩穿刺を介して異なる時点で血液サンプルを採取し、そして血清を、遠心分離によって分離した。化合物濃度を、LC/MSを用いて血清において測定した。
図10A、10B、10Cは、0時点での単回経口又は腹腔内投与後の化合物A1(
図10A)、DRA
inh-A260(
図10B)及びDRA
inh-A270(
図10C)の代表的な血清濃度を示す(n=3マウス/化合物/投与経路)。化合物A1は、単回用量の経口又は腹腔内投与の少なくとも24時間後、予測された治療レベルを有した。DRA
inh-A260は、単回用量の経口又は腹腔内投与後の最初は、高い血清レベルを有した。しかし、濃度は、持続的ではなく、16時間において血清からほぼ完全に化合物が消失した。DRA
inh-A270は、単回用量の経口又は腹腔内投与後の数日間は、予測治療濃度を有し、DRA
inh-A270の血清濃度は、単回用量の経口又は腹腔内投与後の72時間毎に、およそ1μMであった。これらの条件下で、経口バイオアベイラビリティは、化合物A1について54%、DRA
inh-A260について16%、及びDRA
inh-A270について39%であった。(mean±SEM):化合物A1について53.9±6.5%、DRA
inh-A260について16.4±6.6%、及びDRA
inh-A270について39.3±3.5%。
【0180】
実施例15
マウス便秘モデルにおける効能研究
マウスにおける便秘モデルDRA
inh-A260及びDRA
inh-A270を、マウスにおけるロペラミド誘導性便秘モデルにおいて試験した。雌CD1マウス(8~10週齢)に、ロペラミド(0.3mg/kg、腹腔内、PBS中5%エタノール中、0.1mg/mLの最終濃度)を投与して便秘を起こし、対照マウスにおいてビヒクルを投与した。DRA
inh-A260(5mg/kg、5%DMSO及び10% Kolliphor HS 15含有生理食塩水中)又はDRA
inh-A270(1、3又は10mg/kg、5%DMSO及び20%(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン含有PBS中)又はビヒクル単独を、強制経口投与によってロペラミドの1時間前に投与した(
図11A)。ロペラミド注射後、マウスを、個別に代謝ケージ内に入れ、食餌及び水を自由に与えた。糞便サンプルを、3時間にわたり回収して、糞便総重量及び糞ペレットの数を定量した。糞便水分含量を測定するため、サンプルを80℃で24時間にわたり乾かし、そして水分含量を[湿重量-乾燥重量]/湿重量として計算した。
【0181】
図11Bは、ロペラミド処理マウスにおけるDRA
inh-A260の糞面重量、ペレット数及び水分含量における改善の効能を示す(n=4-6マウス/群、事後ニューマン-コイルス多重比較検定を用いた一元配置分散分析によって比較した、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、ns:有意でない)。
【0182】
図11Cは、ロペラミド処理マウスにおける糞便重量及びペレット数、及び水分含量の正規化においてDRA
inh-A270用量依存性を示す(n=5-8マウス/群、comparisonsmadewith一元配置分散分析with事後ニューマン-コイルス多重比較検定、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、ns:有意でない)。
【0183】
図11Cはまた、DRA
inh-A270が、(ロペラミドで処理していない)対照マウスにおいて糞便パラメーターに影響しないか又は高用量に(10mg/kg)おいて下痢を起こしたことを示す。これらの結果はロペラミドによって誘発した便秘のマウスモデルにおけるDRA
inh-A260及びDRA
inh-A270の効能を実証し、低い用量であってもDRA
inh-A270は糞便水分含量を正規化することを示す。
【0184】
実施例16
急性高シュウ酸尿症モデルにおける効能研究
化合物A1(DRA
inh-A250)及びDRA
inh-A270の効能を、マウスにおける急性高シュウ酸尿症及びシュウ酸塩腎症のモデルにおいて試験した。急性高シュウ酸尿症を誘発するために、マウスにシュウ酸ナトリウム(1μmol/kg)を、5mg/kg化合物A1を含むか又はむくめずに、強制経口投与にとって0時点で投与し、尿をその後4時間にわたって代謝ケージ内で採取した。マウスの群を、対照として使用してビヒクルのみで処理し(シュウ酸ナトリウム又はDRA阻害剤なし)、その尿を、その後4時間にわたって同様に代謝ケージ内で採取した。4時間分の尿サンプルを用い、尿シュウ酸塩/クレアチニン比を決定して、尿中シュウ酸排出を定量した。
図12は、経口シュウ酸ナトリウム処理が、尿シュウ酸塩/クレアチニン比を2倍より大きく増大させ、したがって高シュウ酸尿症を発症させることを示す;化合物A1による処理は、このモデルにおいて、高シュウ酸尿症を大いに予防した。
【0185】
類似の実験を、DRA
inh-A270について、急性高シュウ酸尿症モデルにおいて実施した。これらの実験のために、マウスを、まず代謝内に入れて、何も処理せず4時間にわたって尿を採取した。この最初の採取後、マウスをhDRA
inh-A270(10mg/kg)又はビヒクルで腹腔内処理し、シュウ酸ナトリウム(2.5μmol/kg、水中)を、強制経口投与にとって0時点で与えた。尿をその後の4時間にわたって、代謝ケージ内で採取した。
図13Aは、実験プロトコールを示し、
図13Bは、これらの実験的条件下でのマウスにおける4時間の尿シュウ酸塩/クレアチニン比を示す。経口シュウ酸ナトリウムは、尿シュウ酸塩/クレアチニン比を平均で2倍より大きく増大させ、DRA
inh-A270による処理は、このモデルにおいて高シュウ酸尿症を大きく予防した。
【0186】
実施例17
シュウ酸塩腎症モデルにおける効能研究
シュウ酸塩腎症を誘発するために、記載されるとおり、マウスに高シュウ酸塩(0.67%)かつ低カルシウム(0.01%未満)食を与えた(Am J Physiol Renal Physiol 310:F785-F795、2016)。
図14は、実験プロトコールを示す。マウスに、高シュウ酸塩食を0日目にて開始させ、化合物A1(5mg/kg)又はビヒクルで強制経口投与による1日2回の処理を、0日目に開始した。14日目、尿を、代謝ケージ内で24時間にわたって採取し、遠心分離して尿沈殿物を調べ、次いで、マウスを安楽死させて、腎臓を組織学分析に用いた。
図15は、showsthatビヒクル処理マウスが、大量の不溶性沈殿物を有したが、化合物A1によって処理されたマウスにおいて大きく減少したことを示す。
【0187】
腎臓を14日目に回収し、H&E染色を用いて腎臓損傷について、及び偏光顕微鏡検査を用いて結晶堆積について調べた。
図16A及び16Bは、明らかな腎臓損傷をビヒクル処理マウスにおいて示し、及び
図16C及び16Dは、化合物A1処理による腎臓損傷の予防を示す。
図17Aは、ビヒクル処理マウスの腎臓において広範に広がった結晶堆積を示し、
図17Bは、化合物A1処理による結晶堆積の予防を示す。
【0188】
シュウ酸塩腎症モデルにおける類似の実験を、DRA
inh-A270を用いて実施した。これらの実験のために、マウスに、3時間の尿採取を0、7及び14日目に行った。最初の尿採取後に、高シュウ酸塩食を0日目にて開始し、マウスにDRA
inh-A270又はビヒクルを腹腔内投与で1日に2回、14日間にわたって与えた。
図18Aは、実験プロトコールを示す。
図18Bは、ビヒクル処理マウスが0日目と比較して有意な体重減少(疾患重篤度の兆候)を、7日目及び14日目に有したことを示す;DRA
inh-A270処理マウスは、その体重を、実験の間中、より良く維持した。
図18Cは、ビヒクル処理マウスが、0日目と比較して、7日目に尿シュウ酸塩/クレアチニン比のおよそ7倍の増大を有したことを示す;DRA
inh-A270処理は、高シュウ酸尿症の発症を大いに予防した。
図18Dは、14日目のビヒクル処理マウスが、有意に高い血清クレアチニンレベルを有したことを示す(腎臓機能損傷を示唆する);DRA
inh-A270処理マウスは、正常な血清クレアチニンを有し、したがって、正常な腎臓機能を有していた。これらの結果全体は、DRA
inh-A270処理が、腎不全inマウスにおける高シュウ酸塩食誘導性シュウ酸塩腎症モデルの発症を予防することを示唆する。
【0189】
要約すると、これらの結果は、DRA阻害剤が高シュウ酸尿症を種々のマウスモデルにおいて予防することを示唆し、シュウ酸カルシウム腎結石の予防及び腸内高シュウ酸尿症(胃のバイパス手術、腸切除、炎症性腸疾患、膵臓不全又は他の吸収不良症候群)及び原発性高シュウ酸尿症を含む種々の症状に関連する高シュウ酸尿症の治療におけるDRA阻害剤の効能を支持する。
【0190】
上述の種々の実施形態は、さらなる実施形態と組み合わせ得る。本明細書中で引用された全ての米国特許、米国特許出願公報、米国特許出願、外国特許、外国特許出願及び非特許文献は、本明細書中でその全体が参考として組み込まれる。実施形態の態様は、必要な場合に改変されて、種々の特許、出願及び刊行物の概念を使用し、なおさらなる実施形態を提供することができる。
【0191】
これら及び他の変更が、上述の記載の観点から、実施形態に対してなされ得る。一般に、以下の特許請求の範囲において、使用される用語は、請求の範囲を本明細書及び請求の範囲に開示される特定の実施形態に限定すると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲が与える均等物の全ての範囲に沿った全ての可能な実施形態を含むと解釈されるべきである。したがって、請求の範囲は、本開示によって限定されない。