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  • 特許-p-キノン類の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】p-キノン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 46/02 20060101AFI20240227BHJP
   C07C 50/12 20060101ALI20240227BHJP
   C07C 50/02 20060101ALI20240227BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
C07C46/02
C07C50/12
C07C50/02
C07B61/00 300
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020561511
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2019049847
(87)【国際公開番号】W WO2020130080
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2018239812
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1) ウェブサイトの掲載日 2018年5月21日 ウェブサイトのアドレス http://jaci-gsc.com/7th_web/ (その2) 開催日 2018年6月14日から2018年6月15日 集会名、開催場所 第7回JACI/GSCシンポジウム ANAクラウンプラザホテル神戸(兵庫県神戸市中央区北野町1丁目) (その3) ウェブサイトの掲載日 2019年8月30日 ウェブサイトのアドレス https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0920586119304912
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土肥 寿文
(72)【発明者】
【氏名】知名 秀泰
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】Synlett,2007年03月08日,no.5,pp.765-768
【文献】Chemical & Pharmaceutical Bulletin,2009年01月05日,vol.57, no.3,pp.252-256
【文献】Organic Letters,2010年09月15日,vol.12, no.20,pp.4644-4647
【文献】Tetrahedron Letters,2013年02月26日,vol.54, no.19,pp.2344-2347
【文献】Tetrahedron,2010年05月04日,vol.66, no.31,pp.5833-5840
【文献】Catalysis Today,2019年08月30日,348,2-8,DOI: 10.1016/j.cattod.2019.08.060,30条
【文献】Chemical Communications,2019年,55,925-928
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/CASREACT/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、
C1-C6アルキル又は1-(3,4-ジメトキシフェニル)-1,3-ジヒドロキシ-2-プロピルを示し、
及びRは、同一に又は異なって、水素原子、C1-C6アルキル又はC1-C6アルコキシであるか或いはとRとは互いに結合してベンゼン環を形成し、該ベンゼン環は環上に、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、2-ブチル、イソブチル、t-ブチル、メトキシ、エトキシ、1-プロポキシ、2-プロポキシ、1-ブトキシ 、2-ブトキシ、イソブトキシ、及びt-ブトキシからなる群から選択される少なくとも一つの置換基を有していてもよい。
及びRは、同一に又は異なって、水素原子、C1-C6アルキル又はC1-C6アルコキシであるか或いはとRとは互いに結合してベンゼン環を形成し、該ベンゼン環は環上に、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、2-ブチル、イソブチル、t-ブチル、メトキシ、エトキシ、1-プロポキシ、2-プロポキシ、1-ブトキシ 、2-ブトキシ、イソブトキシ、及びt-ブトキシからなる群から選択される少なくとも一つの置換基を有していてもよい。
は、水素原子又はヒドロキシを示す。]で表される化合物又はリグニン類から、
式(II)
【化2】
[式中、R、R、R及びRは前記と同じ。]
で表される化合物を製造する方法であって、
式(I)で表される化合物又はβ-O-4結合を有するリグニン類を、
水及び水と有機溶媒との混合溶媒から選択される溶媒中、
ペルオキソ一硫酸モノカリウム及びオキソンから選択される少なくとも1つの過硫酸塩、並びに
2-ヨードキシ安息香酸(IBX)、2-ヨードソ安息香酸(IBA)、2-ヨード安息香酸(2-IB)、2-IBのアルカリ金属塩(2-IBM)、2-ヨードキシベンゼンスルホン酸(IBS)、2-ヨードソベンゼンスルホン酸(IBSA)、2-ヨードベンゼンスルホン酸(2-IS)、2-ISのアルカリ金属塩(2-ISM)、ヨードキシベンゼン(PhIO2)、ヨードベンゼン(PhI)、2-ヨードベンゼン酢酸(IPAA)、IPAAのアルカリ金属塩(IPAAM)、2-ヨードベンゼンプロパン酸(IPPA)、IPPAのアルカリ金属塩(IPPAM)、及びこれらのベンゼン環がハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシルオキシ又は低級アルキルで置換された置換体からなる群から選択される少なくとも1つの有機ヨウ素化合物、
の存在下で酸化する工程を含み、
前記酸化工程が、過酸化水素、又は過酸化水素及び金属触媒がさらに存在する条件下で行われる、方法。
【請求項2】
が水素原子である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
C1-C6アルキルである請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p-キノン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キノン類の合成には、酸化銀(AgO)や硝酸アンモニウムセリウム(IV)((NHCe(NO)などの重金属を酸化剤として用いる方法が知られているが、これらは廃液処理の観点で環境負荷を与えるため、非金属型の酸化方法の開発が求められている。このような中、近年では非金属型の超原子価ヨウ素酸化剤が開発されており、p-キノンの合成において現在利用されている。例えば、[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(PIFA)を用いたp-キノン合成法では、フェノール類から合成する方法(非特許文献1)と、1,4-ジメトキシベンゼン類から合成する方法(非特許文献2)が知られており、特に後者では高収率の結果を与える(非特許文献2の図1)。これは1,4-ジメトキシベンゼン類に2つのメトキシがパラ位にあらかじめ導入されているため、o-キノンのような副生成物が生じにくいからである。しかしながら、1,4-ジメトキシベンゼン類は予めパラ位にメトキシが導入された2置換体であることから、フェノール類と比較して合成が簡便でなく、したがって原料入手の観点から、現実的にはフェノール類を使用する前者の方法が主に利用される。
【0003】
一方、アニソール類を原料としたp-キノンの合成方法が知られている(非特許文献3、非特許文献4)。しかし、非特許文献3の方法ではo-キノンが副生することからp-キノンの精製が容易ではなく、また収率も低い。また、非特許文献4の方法では収率が低く、さらにベンゼン環が開環した副生物が主生成物となる。このため、これらの方法はほとんど用いられていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Tetrahedron, 2010, vol.66, 2111-2118.
【文献】Tetrahedron Lett., 2001, vol.42, 6899-6902.
【文献】Angew. Chem. Int. Ed., 1990, vol.29, 1471-1473.
【文献】J. Org. Chem., 2015, vol.80, 8354-8360.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原料の入手が容易なメトキシモノ置換ベンゼン類を原料とした場合でもp-キノンを合成できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、水の存在下にて、ペルオキソ一硫酸モノカリウム及び/又はオキソンと特定の有機ヨウ素化合物を用いることにより、アルコキシを有するベンゼン類のエーテル結合部位とパラ位が選択的にオキソ化されることを見出し、p-キノンの製造方法を完成させた。代表的な本発明は以下の通りである。
【0007】
項1.
式(I)
【化1】
[式中、
はアルキル又は1-(3,4-ジメトキシフェニル)-1,3-ジヒドロキシ-2-プロピルを示し、
及びRは、同一に又は異なって、水素原子又は有機官能基を示し、RとRとは互いに結合して環を形成してもよく、該環は環上に置換基を有していてもよい。
及びRは、同一に又は異なって、水素原子又は有機官能基を示し、RとRとは互いに結合して環を形成してもよく、該環は環上に置換基を有していてもよい。
は、水素原子、ヒドロキシ、アミノ、アルコキシ、チオール又はハロゲンを示す。]で表される化合物又はリグニン類から、
式(II)
【化2】
[式中、R、R、R及びRは前記と同じ。]
で表される化合物を製造する方法であって、
式(I)で表される化合物又はリグニン類を、
水及び水と有機溶媒との混合溶媒から選択される溶媒中、
ペルオキソ一硫酸モノカリウム及びオキソンから選択される少なくとも1つの過硫酸塩、並びに
2-ヨードキシ安息香酸(IBX)、2-ヨードソ安息香酸(IBA)、2-ヨード安息香酸(2-IB)、2-IBのアルカリ金属塩(2-IBM)、2-ヨードキシベンゼンスルホン酸(IBS)、2-ヨードソベンゼンスルホン酸(IBSA)、2-ヨードベンゼンスルホン酸(2-IS)、2-ISのアルカリ金属塩(2-ISM)、ヨードキシベンゼン(PhIO2)、ヨードベンゼン(PhI)、2-ヨードベンゼン酢酸(IPAA)、IPAAのアルカリ金属塩(IPAAM)、2-ヨードベンゼンプロパン酸(IPPA)、IPPAのアルカリ金属塩(IPPAM)、及びこれらのベンゼン環がハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシルオキシ又は低級アルキルで置換された置換体からなる群から選択される少なくとも1つの有機ヨウ素化合物、
の存在下で酸化する工程を含む、方法。
項2.
前記酸化工程が、過酸化水素、又は過酸化水素及び金属触媒がさらに存在する条件下で行われる項1に記載の方法。
項3.
が水素原子である項1又は2に記載の方法。
項4.
が低級アルキルである項1~3のいずれかに記載の方法。
項5.
及びRが、同一に又は異なって、水素原子、ハロゲン、アルキル又はアルコキシであるか、或いはRとRとは互いに結合してベンゼン環を形成するものであり、
及びRが、同一に又は異なって、水素原子、ハロゲン、アルキル又はアルコキシであるか、或いはRとRとは互いに結合してベンゼン環を形成するものである、
項1~4のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、p-キノン類を上記式(I)の化合物から製造できる。また、本発明によれば反応温度が常温域(例えば10℃~30℃)であっても上記式(I)の化合物からp-キノン類を製造できる。さらに、本発明によれば、副生物であるo-キノン類の生成が抑制される。また、本発明によればリグニン類を上記式(II)の化合物のような有用な低分子化合物に変換しうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、溶媒を、アセトニトリル、アセトニトリルと水とを種々の容積比率で混合した混合液、又は水とした場合の2-メトキシ-1,4-ベンゾキノンの収率(%)を示すグラフである(試験例2)。横軸は、溶媒の水含有率を示し、縦軸は収率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の前記概要は、本発明の各々の開示された実施形態または全ての実装を記述することを意図するものではない。
本発明の後記説明は、実例の実施形態をより具体的に例示する。
本発明のいくつかの箇所では、例示を通してガイダンスが提供され、及びこの例示は、様々な組み合わせにおいて使用できる。
それぞれの場合において、例示の群は、非排他的な、及び代表的な群として機能できる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられる。
【0011】
用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本発明が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、特に断りのない限り、室温で実施され得る。本明細書中、室温は、10℃~40℃の範囲内の温度を意味することができる。
本明細書中、表記「Cn-Cm」(ここで、n、及びmは、それぞれ、数である。)は、当業者が通常理解する通り、炭素数がn以上、且つm以下であることを表す。
【0012】
本発明の一実施形態は、式(I)
【化3】
[式中、
はアルキル又は1-(3,4-ジメトキシフェニル)-1,3-ジヒドロキシ-2-プロピルを示し、
及びRは、同一に又は異なって、水素原子又は有機官能基を示し、RとRとは互いに結合して環を形成してもよく、該環は環上に置換基を有していてもよい。
及びRは、同一に又は異なって、水素原子又は有機官能基を示し、RとRとは互いに結合して環を形成してもよく、該環は環上に置換基を有していてもよい。
は、水素原子、ヒドロキシ、アミノ、アルコキシ、チオール又はハロゲンを示す。]で表される化合物又はリグニン類から、
式(II)
【化4】
[式中、R、R、R及びRは前記と同じ。]
で表される化合物を製造する方法であって、
式(I)で表される化合物又はリグニン類を、
水及び水と有機溶媒との混合溶媒から選択される溶媒中、
ペルオキソ一硫酸モノカリウム及びオキソンから選択される少なくとも1つの過硫酸塩、並びに
2-ヨードキシ安息香酸(IBX)、2-ヨードソ安息香酸(IBA)、2-ヨード安息香酸(2-IB)、2-IBのアルカリ金属塩(2-IBM)、2-ヨードキシベンゼンスルホン酸(IBS)、2-ヨードソベンゼンスルホン酸(IBSA)、2-ヨードベンゼンスルホン酸(2-IS)、2-ISのアルカリ金属塩(2-ISM)、ヨードキシベンゼン(PhIO2)、ヨードベンゼン(PhI)、2-ヨードベンゼン酢酸(IPAA)、IPAAのアルカリ金属塩(IPAAM)、2-ヨードベンゼンプロパン酸(IPPA)、IPPAのアルカリ金属塩(IPPAM)、及びこれらのベンゼン環がハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシルオキシ又は低級アルキルで置換された置換体からなる群から選択される少なくとも1つの有機ヨウ素化合物、
の存在下で酸化する工程を含む、方法、である。
【0013】
本発明において「アルキル」としては、例えば、直鎖状、分枝状、または環状構造を含む、C1-C12アルキルが挙げられ、好ましくはC1-C6アルキル、より好ましくはC1-C4アルキル、特に好ましくはC1-C3アルキルが挙げられる。具体的には、直鎖状または分枝状のアルキルとしては、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、2-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、3-メチルペンチル等が挙げられ、環状構造を含むアルキルとしては、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロブチル、シクロブチルメチル、シクロペンチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、シクロヘキシルエチル等が挙げられる。好ましくは低級アルキルであり、より好ましくは直鎖状のC1-C6アルキル(メチル、エチル、1-プロピル、1-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル)、2-プロピル、2-ブチル又はt-ブチルであり、より一層好ましくは直鎖状のC1-C4アルキル、特に好ましくはメチル又はエチルである。
【0014】
本発明において「低級アルキル」としては、例えば、直鎖状、分枝状、または環状構造を含む、C1-C6アルキルが挙げられ、好ましくはC1-C4アルキル、より好ましくはC1-C3アルキルが挙げられる。具体的には、直鎖状または分枝状の低級アルキルとしては、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、2-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル等が挙げられ、環状構造を含む低級アルキルとしては、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロブチル、シクロブチルメチル、シクロペンチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシル等が挙げられる。好ましくは、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、t-ブチル、シクロプロピル等が挙げられる。
【0015】
本発明において「有機官能基」としては、例えば、アルキル、ヒドロキシアルキル、ハロゲノアルキル、ヒドロキシシクロアルキル、シクロアルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、ハロゲノアルコキシ、アルキルチオ、モノ若しくはジアルキルアミノ、アシル、カルバモイル、フェニル、ナフチルなどが挙げられる。好ましくはアルキル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシシクロアルキル、シクロアルキル、アルコキシ、フェニルなどが挙げられ、より好ましくはメチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、2-ブチル、イソブチル、t-ブチル、メトキシ、エトキシ、1-プロポキシ、2-プロポキシ、1-ブトキシ、2-ブトキシ、イソブトキシ、t-ブトキシなどが挙げられる。
【0016】
本発明において「ハロゲン」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくは臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0017】
本発明において「ヒドロキシアルキル」としては、例えば、ヒドロキシを少なくとも1個(例えば、1個又は2個)有する、前記アルキルなどが挙げられる。具体的には、ヒドロキシメチル、2-ヒドロキシエチル、1-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-ヒドロキシプロピル、1-メチル-2-ヒドロキシエチル、4-ヒドロキシブチル、2,2-ジメチル-2-ヒドロキシエチル、5-ヒドロキシペンチル、3,3-ジメチル-3-ヒドロキシプロピル、6-ヒドロキシヘキシル、ジヒドロキシメチル、1,2-ジヒドロキシエチル、2,3-ジヒドロキシプロピル、3,4-ジヒドロキシブチル、4,5-ジヒドロキシペンチル、5,6-ジヒドロキシヘキシル等がげられ、好ましくはヒドロキシを1個有するアルキルであり、より好ましくはヒドロキシを1個有する低級アルキルである。
【0018】
本発明において「ハロゲノアルキル」としては、例えば、ハロゲンを1~13個有するC1-C6の直鎖状又は分枝状アルキル(ハロゲノC1-C6アルキル)であり、具体的には、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、フルオロエチル、1,1,1-トリフルオロエチル、モノフルオロ-n-プロピル、パーフルオロ-n-プロピル、パーフルオロイソプロピルなどのハロゲノC1-C6アルキルなどが挙げられ、好ましくはハロゲノC1-C4アルキル、より好ましくはハロゲン原子を1~7個有するハロゲノC1-C4アルキルであり、さらに好ましくはハロゲン原子を1~3個有するハロゲノC1-C4アルキルである。
【0019】
本発明において「ヒドロキシシクロアルキル」としては、例えば、ヒドロキシを少なくとも1個(例えば、1個又は2個)有する、C3-C7の前記環状のアルキルなどが挙げられる。具体的には、1-ヒドロキシシクロプロピル、2-ヒドロキシシクロプロピル、1-ヒドロキシシクロブチル、3-ヒドロキシシクロブチル、1-ヒドロキシシクロペンチル、3,4-ジヒドロキシシクロペンチル、1-ヒドロキシシクロヘキシル、4-ヒドロキシシクロヘキシル、1-ヒドロキシシクロヘプチルなどが挙げられ、好ましくはヒドロキシを1個有するヒドロキシシクロアルキルである。
【0020】
本発明において「シクロアルキル-アルキル」としては、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロヘプチルメチルなどのC3-C7シクロアルキルで置換されたC1-C4アルキルが挙げられる。シクロアルキル-アルキルにおいて、アルキルが有するシクロアルキルの数は1以上であり、好ましくは1又は2個、より好ましくは1個である。
【0021】
本発明において「アラルキル」としては、ベンジル、フェネチル、ナフチルメチル、フルオレニルメチルなどのC7-C13アラルキルが挙げられる。
【0022】
本発明において「アルケニル」としては、直鎖状、分枝状又は環状のいずれでもよく、二重結合を少なくとも1個(例えば、1個又は2個)有する不飽和炭化水素基を意味し、例えばビニル、アリル、1-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、イソプロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、イソブテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、2-メチル-2-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、5-ヘキセニル、1-シクロペンテニル、1-シクロヘキセニル、3-メチル-3-ブテニルなどのC2-C6アルケニルが挙げられる。
【0023】
本発明において「アルキニル」としては、直鎖状、分枝状又は環状のいずれでもよく、三重結合を少なくとも1個(例えば、1個又は2個)有する不飽和炭化水素基を意味し、例えばエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニルなどのC2-C6アルキニルが挙げられる。
【0024】
本発明において「アルコキシ」としては、例えば、直鎖状、分枝状、または環状構造を含む、C1-C12アルコキシが挙げられ、好ましくはC1-C8アルコキシ、より好ましくはC1-C6アルコキシ、より一層好ましくはC1-C4アルコキシ、特に好ましくはC1-C3アルコキシが挙げられる。具体的には、直鎖状または分枝状のアルコキシとしては、メトキシ、エトキシ、1-プロポキシ、2-プロポキシ、1-ブトキシ 、2-ブトキシ、イソブトキシ、t-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシ、3-メチルペンチルオキシ等が挙げられる。環状構造を含むアルコキシとしては、シクロプロポキシ、シクロプロピルメトキシ、シクロブチロキシ、シクロブチルメトキシ、シクロペンチロキシ、シクロペンチルメトキシ、シクロヘキシロキシ、シクロヘキシルメトキシ、シクロヘキシルエトキシ等が挙げられる。好ましくは、メトキシ、エトキシ、2-プロポキシ、t-ブトキシ、シクロプロポキシ等が挙げられる。
【0025】
本発明において「ハロゲノアルコキシ」としては、ハロゲン原子を1~13個有するC1-C6の直鎖状又は分枝状アルコキシであり(ハロゲノC1-C6アルコキシ)、例えば、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、トリクロロメトキシ、フルオロエトキシ、1,1,1-トリフルオロエトキシ、モノフルオロ-n-プロポキシ、パーフルオロ-n-プロポキシ、パーフルオロ-イソプロポキシなどのハロゲノC1-C6アルコキシ、好ましくはハロゲノC1-C4アルコキシが挙げられ、更に好ましくはハロゲン原子を1~7個有するハロゲノC1-C4アルコキシである。
【0026】
本発明において「アルキルチオ」としては、直鎖状、分枝状又は環状のいずれでもよく、例えば、メチルチオ、エチルチオ、n-プロピルチオ、イソプロピルチオ、n-ブチルチオ、イソブチルチオ、tert-ブチルチオ、n-ペンチルチオ、イソペンチルチオ、ヘキシルチオ、シクロペンチルチオ、シクロヘキシルチオなどのC1-C6アルキルチオが挙げられる。
【0027】
本発明において「モノアルキルアミノ」としては、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、n-プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n-ブチルアミノ、イソブチルアミノ、tert-ブチルアミノ、n-ペンチルアミノ、イソペンチルアミノ、ヘキシルアミノなどの直鎖状又は分枝状のC1-C6アルキルでモノ置換されたアミノが挙げられる。
【0028】
本発明において「ジアルキルアミノ」としては、例えば、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジイソプロピルアミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジイソブチルアミノ、ジ(tert-ブチル)アミノ、ジ(n-ペンチル)アミノ、ジイソペンチルアミノ、ジヘキシルアミノ、メチルエチルアミノ、メチルイソプロピルアミノなどの同一又は異なった直鎖状、分枝状又は環状のC1-C6アルキルでジ置換されたアミノが挙げられる。
【0029】
本発明において「アシル」は、アルキルカルボニル又はアリールカルボニルを意味する。
【0030】
本発明において「アルキルカルボニル」としては、例えば、メチルカルボニル、エチルカルボニル、n-プロピルカルボニル、イソプロピルカルボニル、n-ブチルカルボニル、イソブチルカルボニル、tert-ブチルカルボニル、n-ペンチルカルボニル、イソペンチルカルボニル、ヘキシルカルボニル、シクロペンチルカルボニル、シクロヘキシルカルボニルなどの直鎖状、分枝状又は環状の(C1-C8アルキル)カルボニルが挙げられる。
【0031】
本発明において「アリールカルボニル」としては、例えば、フェニルカルボニル、ナフチルカルボニル、フルオレニルカルボニル、アントリルカルボニル、ビフェニリルカルボニル、テトラヒドロナフチルカルボニル、クロマニルカルボニル、インダニルカルボニル、フェナントリルカルボニルなどの(C6-C13アリール)カルボニルが挙げられる。
【0032】
本発明において「アシルオキシ」は、アルキルカルボニルオキシ又はアリールカルボニルオキシを意味する。
【0033】
本発明において「アルキルカルボニルオキシ」としては、例えば、メチルカルボニルオキシ、エチルカルボニルオキシ、n-プロピルカルボニルオキシ、イソプロピルカルボニルオキシ、n-ブチルカルボニルオキシ、イソブチルカルボニルオキシ、tert-ブチルカルボニルオキシ、n-ペンチルカルボニルオキシ、イソペンチルカルボニルオキシ、ヘキシルカルボニルオキシなどの直鎖状又は分枝状の(C1-C6アルキル)カルボニルオキシ基が挙げられる。
【0034】
本発明において「アリールカルボニルオキシ」としては、例えば、フェニルカルボニルオキシ、ナフチルカルボニルオキシ、フルオレニルカルボニルオキシ、アントリルカルボニルオキシ、ビフェニリルカルボニルオキシ、テトラヒドロナフチルカルボニルオキシ、クロマニルカルボニルオキシ、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニルカルボニルオキシ、インダニルカルボニルオキシ、フェナントリルカルボニルオキシ等の(C6-C13アリール)カルボニルオキシ基が挙げられる。
【0035】
<原料>
式(I)で表される化合物は、リグニン類とともに、式(II)で表される化合物の原料である。本発明では、式(I)中のORとRが酸化によりオキソに変換され、式(II)で表される化合物が製造される。
【0036】
式(I)においてRは、アルキル又は1-(3,4-ジメトキシフェニル)-1,3-ジヒドロキシ-2-プロピルである。ここで、アルキルは直鎖状又は分枝状の低級アルキルであってもよく、より好ましくはメチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル又はt-ブチルであり、より一層好ましくはメチル又はエチルである。
【0037】
なお、Rが「1-(3,4-ジメトキシフェニル)-1,3-ジヒドロキシ-2-プロピル」である場合、-ORは次の式で表される基を意味する(式中、*は、式(I)中のベンゼン環の炭素原子と結合する結合手であることを示す)。
【化5】
【0038】
式(I)においてR及びRは、同一に又は異なって、水素原子又は有機官能基である。ここで、有機官能基は前記のとおりであり、好ましくは水素原子、低級アルキル又はC1-C6アルコキシである。また、R及びRは互いに結合して環を形成してもよく、該環は環上に置換基を有していてもよい。該環としては、例えば3~10員の単環又は二環の飽和又は不飽和の炭素環、3~10員の単環又は二環の飽和又は不飽和の複素環などが挙げられる。
【0039】
単環の飽和又は不飽和の炭素環としては、例えば3~6員の炭素環であり、具体的にはベンゼン、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキサン、シクロへキセン、シクロヘキサジエンなどが挙げられ、好ましくはベンゼン、シクロペンタン、シクロヘキサンである。
【0040】
二環の飽和又は不飽和の炭素環としては、例えば8~10員の炭素環であり、具体的にはナフタレン、ジヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン、パーヒドロナフタレン、ペンタレン、パーヒドロペンタレン、アズレン、パーヒドロアズレン、インデン、パーヒドロインデン、インダンなどが挙げられる。好ましくはベンゼン環を有する二環の炭素環であり、例えばナフタレン、ジヒドロナフタレン、インデン、インダンである。
【0041】
飽和又は不飽和の複素環は酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選択される1~5個のヘテロ原子(好ましくは1又は2個の窒素原子)を環構成原子として含む。
【0042】
単環の飽和又は不飽和の複素環としては、例えば3~8員の複素環であり、具体的には、ピロール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピラゾール、フラン、チオフェン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、アゼピン、ピラン、チオピラン、オキセピン、チエピン、オキサジン、オキサジアジン、オキサゼピン、オキサジアゼピン、チアジン、チアジナン、チアゼピン、チアジアゼピン等の不飽和複素環;アジリジン、アゼチジン、チイラン、オキセタン、アゼチジン、チエタン、ピロリジン、テトロヒドロフラン、ヒトラヒドロチオフェン、ピペリジン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、ピペラジン、ピラゾリジン、イミダゾリジン、イソオキサゾリジン、イソチアゾリジン、モルホリン、チオモルホリン等の飽和複素環などが挙げられる。好ましくはピロール、イミダゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジンである。
【0043】
二環の飽和又は不飽和の複素環としては、例えば8~10員の複素環であり、具体的には、インドール、イソインドール、インドリジン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ベンゾチオフェン、イソベンゾチオフェン、インダゾール、キノリン、イソキノリン、キノリジン、プリン、フタラジン、プテリジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾジオキソ-ル、ベンゾオキサチオール、クロメン、ベンゾフラザン、ベンゾチアジアゾール、ベンゾトリアゾール、ジヒドロベンゾフラン、ジヒドロベンゾチオフェン、ジヒドロイソベンゾチオフェン、ジヒドロイソベンゾフラン、ジヒドロインダゾール、ジヒドロキノリン、テトラヒドロキノリン、ジヒドロイソキノリン、テトラヒドロイソキノリン、ジヒドロフタラジン、テトラヒドロフタラジン、ジヒドロナフチリジン、テトラヒドロナフチリジン、ジヒドロキノキサリン、テトラヒドロキノキサリン、ジヒドロキナゾリン、テトラヒドロキナゾリン、ジヒドロシンノリン、テトラヒドロシンノリン、ベンゾオキサチアン、ジヒドロベンゾオキサジン、ジヒドロベンゾチアジン、ピラジノモルホリン、ジヒドロベンゾオキサゾール、ジヒドロベンゾチアゾール、ジヒドロベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
【0044】
及びRが結合した環は環上に置換基を有していてもよい。この置換基としては、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アルキル、ヒドロキシアルキル、ハロゲノアルキル、ヒドロキシシクロアルキル、シクロアルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、ハロゲノアルコキシ、アルキルチオ、モノ若しくはジアルキルアミノ、アシル、カルボキシ、カルバモイル、フェニル、ナフチルなどが挙げられる。好ましくはアルキル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシシクロアルキル、シクロアルキル、アルコキシ、フェニルなどが挙げられ、より好ましくはメチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、2-ブチル、イソブチル、t-ブチル、メトキシ、エトキシ、1-プロポキシ、2-プロポキシ、1-ブトキシ 、2-ブトキシ、イソブトキシ、t-ブトキシなどが挙げられる。
該環上の置換基の数は例えば1~5個であり、好ましくは1~3個、より好ましくは1個又は2個である。
【0045】
式(I)においてR及びRは、同一に又は異なって、水素原子又は有機官能基である。ここで、有機官能基は前記のとおりである。また、R及びRは互いに結合して環を形成してもよく、該環は環上に置換基を有していてもよい。該環としては、例えば3~10員の単環又は二環の飽和又は不飽和の炭素環、3~10員の単環又は二環の飽和又は不飽和の複素環が挙げられ、該環及び該置換基はR及びRで説明されたそれらと同じである。
【0046】
式(I)においてRは、水素原子、ヒドロキシ、アミノ、アルコキシ、チオール又はハロゲンであり、好ましくは水素原子及びヒドロキシである。
【0047】
好ましい式(I)で表される化合物は、
が低級アルキル又は1-(3,4-ジメトキシフェニル)-1,3-ジヒドロキシ-2-プロピルであり、Rが水素原子であり、R及びRが互いに結合した置換されていないベンゼン環であり、R及びRが同一に又は異なって水素原子、低級アルキル又は低級アルコキシである化合物;或いは
が低級アルキル又は1-(3,4-ジメトキシフェニル)-1,3-ジヒドロキシ-2-プロピルであり、Rが水素原子であり、R、R、R及びRのうち少なくとも1つの基が水素原子であり、残りの基は低級アルキル又は低級アルコキシであり、当該残りの基は複数ある場合は同一であっても異なっていてもよい化合物;
である。
【0048】
より好ましい式(I)で表される化合物は、
がメチル、エチル又は1-(3,4-ジメトキシフェニル)-1,3-ジヒドロキシ-2-プロピルであり、Rが水素原子であり、R及びRが互いに結合した置換されていないベンゼン環であり、R及びRがともに水素原子である化合物;或いは
がメチル、エチル又は1-(3,4-ジメトキシフェニル)-1,3-ジヒドロキシ-2-プロピルであり、Rが水素原子であり、R、R、R及びRのうち少なくとも1つの基が水素原子であり、残りの基はメチル、エチル、メトキシ又はエトキシであり、当該残りの基は複数ある場合は同一であっても異なっていてもよい化合物;
である。
【0049】
具体的な式(I)で表される化合物は、例えば以下に示されるものである。
【化6】
【0050】
本発明における原料は、リグニン類であってもよい。リグニンは植物の細胞壁の主要な構成成分であり、製紙プロセスにおいて副産物として多量に発生することからこれを有効利用することが望まれている。リグニンの正確な化学構造は解明されていないが、モノリグノールと呼ばれるリグニンモノマーが重合したポリマーであることは判明している。モノリグノールは基本骨格がフェニルプロパン単位(C6-C3単位)であるp-ヒドロキシケイ皮アルコールであり、コニフェリルアルコール、シナピルアルコール、p-クマリルアルコールが代表的である。リグニン中でモノマーはエーテル結合及び炭素-炭素結合で互いに結合しているが、それらの中でもβ-O-4結合が50%程度を占める。
【0051】
本発明においてリグニン類は、リグニンに特有の構造を有するものをいう。例えば前記モノマーが結合した構造、モノマー間結合としてβ-O-4結合を主として有する構造などのリグニンに特有の構造を有するものをいい、天然由来のものであっても、天然のリグニンに人工的に改変、修飾、低分子化等の手を加えられたリグニン誘導体であってもよい。リグニン類の例としては、以下に示す構造を部分的に有するものである。
【化7】
【0052】
リグニン類としては、例えばリグノスルホン酸やクラフトリグニンなどが挙げられる。好ましくはリグノスルホン酸である。
【0053】
本発明では、リグニンモデル基質を用いた試験においてβ-O-4結合が切断されてp-キノンを製造できることを確認しているため、リグニン類も原料とできる。
【0054】
<製造物>
本発明では、式(I)で表される化合物又はリグニン類を所定の方法で酸化することにより式(II)で表される化合物に変換する。式(II)中のR、R、R及びRは、式(I)中のR、R、R及びRと同様である。
【0055】
<酸化工程>
本発明では、式(I)で表される化合物又はリグニン類を、適当な溶媒中、過硫酸塩及び有機ヨウ素化合物の存在下で酸化する。
【0056】
有機ヨウ素化合物は超原子価ヨウ素触媒であってもその前駆体であってもよい。溶媒中で原料を、酸化作用を有する超原子価ヨウ素触媒又はその前駆体と過硫酸塩とで処理することでp-キノンに変換する。この際、超原子価ヨウ素触媒は還元されて前駆体に変換される。前駆体は過硫酸塩によって酸化されて超原子価ヨウ素触媒に変換される。例えば、本発明の一実施形態の反応工程式は次のとおりであり、超原子価ヨウ素触媒である2-ヨードキソ安息香酸(IBA)は原料であるメトキシベンゼンを酸化するとともに自身は還元されて前駆体である2-ヨード安息香酸(2-IB)に変換され、2-IBはオキソンにより酸化されてIBAに変換される。
【化8】
【0057】
本発明者が過硫酸塩不在の下、有機ヨウ素化合物で試験した結果、p-キノン類の収率が低かったことから、過硫酸塩が前駆体を酸化して超原子価ヨウ素触媒に変換する作用だけでなく、原料の酸化においても何らかの作用を及ぼすことによってp-キノン類が生成している可能性がある。
【0058】
<溶媒>
本発明では酸化工程において、水及び水と有機溶媒との混合溶媒から選択される溶媒を使用する。本発明において水(水又は混合溶媒中の水)はオキソンを溶解する点とp位に酸素原子を導入する点で重要である。
【0059】
溶媒としては、水と有機溶媒との混合溶媒が好ましい。混合比(容積比)は、目的物が製造できる限り特に制限されないが、例えば、有機溶媒/水が85/15~0/100、好ましくは70/30~50/50である。
【0060】
混合溶媒における有機溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジメトキシメタン等のエーテル系溶媒、ベンゼン等の炭化水素系溶媒、N、N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトニトリル等の非プロトン性溶媒、メタノール、エタノール、tert-ブチルアルコール、2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)等のプロトン性溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、2種類以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。好ましくは非プロトン性溶媒、プロトン性溶媒であり、より好ましくはアセトニトリル、メタノールである。
【0061】
<過硫酸塩>
酸化工程では、ペルオキソ一硫酸モノカリウム及びオキソンから選択される少なくとも1つの過硫酸塩を使用する。ペルオキソ一硫酸モノカリウムはペルオキソ一硫酸(HSO)のモノカリウム塩であり、KHSOの化学式で表される。また、オキソンは登録商標であり、2KHSO・KHSO・KSOの化学式で表される。本発明では両者を適当な比率で混合して用いてもよい。混合比率は例えばペルオキソ一硫酸モノカリウム:オキソンが1:95~99:1(モル比)などである。好ましい過硫酸塩はオキソンである。
【0062】
過硫酸塩の使用量は目的物を製造できる限り特に制限されないが、原料1モルに対して、通常2モル以上、好ましくは2モル~10モル、より好ましくは3モル~10モルである。
【0063】
<有機ヨウ素化合物>
酸化工程で使用される有機ヨウ素化合物には、ベンゼン環にヨウ素原子が結合し、そのオルト位に酸性基であるカルボキシ又はスルホが結合した化合物(該カルボキシ又はスルホが該ヨウ素原子と結合して5員環を形成する場合を含む)とそのアルカリ金属塩;ベンゼン環にヨウ素原子が結合し、そのオルト位にカルボキシまたはスルホを有するアルキルが結合した化合物とそのアルカリ金属塩;ヨードベンゼン;及びヨードキシベンゼンが含まれる。有機ヨウ素化合物は、例えば2-ヨードキシ安息香酸(IBX)、2-ヨードソ安息香酸(IBA)、2-ヨード安息香酸(2-IB)、2-IBのアルカリ金属塩(2-IBM)、2-ヨードキシベンゼンスルホン酸(IBS)、2-ヨードソベンゼンスルホン酸(IBSA)、2-ヨードベンゼンスルホン酸(2-IS)、2-ISのアルカリ金属塩(2-ISM)、ヨードキシベンゼン(PhIO2)、ヨードベンゼン(PhI)、2-ヨードベンゼン酢酸(IPAA)、IPAAのアルカリ金属塩(IPAAM)、2-ヨードベンゼンプロパン酸(IPPA)、IPPAのアルカリ金属塩(IPPAM)、これらのベンゼン環がハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシルオキシ、又は低級アルキルで置換された置換体であってよく、これらを単独で使用しても2つ以上組み合わせて使用してもよい。
【0064】
2-ヨードキシ安息香酸(IBX)、2-ヨードソ安息香酸(IBA)、2-ヨード安息香酸(2-IB)、2-IBのアルカリ金属塩(2-IBM)、2-ヨードキシベンゼンスルホン酸(IBS)、2-ヨードソベンゼンスルホン酸(IBSA)、2-ヨードベンゼンスルホン酸(2-IS)、2-ISのアルカリ金属塩(2-ISM)、ヨードキシベンゼン(PhIO2)、ヨードベンゼン(PhI)、2-ヨードベンゼン酢酸(IPAA)、IPAAのアルカリ金属塩(IPAAM)、2-ヨードベンゼンプロパン酸(IPPA)、IPPAのアルカリ金属塩(IPPAM)は以下の化学構造式で表される化合物である。なお、当該化学構造式中、Mはアルカリ金属原子を示す。
【化9】
【0065】
2-IBM、2-ISM、IPAAM及びIPPAMは、例えばナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩であり、好ましくはナトリウム塩、カリウム塩である。
【0066】
本発明では、2-IB又は2-IBMは過硫酸塩又は他の酸化剤の下で酸化されてIBAに変換され、IBAは過硫酸塩の下で原料を酸化してオキソ化するとともに、自身は2-IB又は2-IBMに変換され、2-IB又は2-IBMは過硫酸塩の下でIBAに変換されるサイクルが生じる。IBXも過硫酸塩の下で原料を酸化してオキソ化するとともに、自身は2-IB又は2-IBMに変換されるが、2-IB又は2-IBMは過硫酸塩の下でIBAに変換されて前記サイクルに入る。同様に、2-IS又は2-ISMは過硫酸塩又は他の酸化剤の下で酸化されてIBSAに変換され、IBSAは過硫酸塩の下で原料を酸化してオキソ化するとともに2-IS又は2-ISMに変換され、2-IS又は2-ISMは過硫酸塩の下でIBSAに変換されるサイクルが生じる。IBSも過硫酸塩の下で原料を酸化してオキソ化するとともに、2-IS又は2-ISMに変換されるが、2-IS又は2-ISMは過硫酸塩の下でIBSAに変換されて前記触媒サイクルに入る。したがって、2-IB及び2-IBMはIBX及びIBAの前駆体であり、2-IS及び2-ISMはIBS及びIBSAの前駆体ということもできる。同様に、PhIはPhIO2の前駆体ということもできる。
【0067】
IBX、IBA、2-IB、2-IBM、IBS、IBSA、2-IS、2-ISM、PhIO2、PhI、IPAA、IPAAM、IPPA、及びIPPAMは公知の化合物であり、市販されたものも従来知られた方法で製造されたものも使用できる。
【0068】
本発明では、IBX、IBA、2-IB、2-IBM、IBS、IBSA、2-IS、2-ISM、PhIO2、PhI、IPAA、IPAAM、IPPA、又はIPPAMのベンゼン環が、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシルオキシ、又は低級アルキルで置換された置換体も有機ヨウ素化合物として使用できる。ハロゲンとしては臭素原子又はヨウ素原子が好ましく、ヨウ素原子がより好ましい。アシルオキシとしてはアセトキシ又はtert-ブチルカルボニルオキシが好ましく、アセトキシがより好ましい。低級アルキルとしてはメチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル又はt-ブチルが好ましく、メチルがより好ましい。
【0069】
前記置換体におけるこれらの置換基の数は1~4つであり、好ましくは1又は2つ、より好ましくは1つである。
【0070】
前記置換体におけるこれらの置換基はベンゼン環に結合したヨウ素原子のパラ位に存在することが収率の点から好ましい。
【0071】
一実施形態において有機ヨウ素化合物は、IBX、IBA、2-IB、2-IBM、IBS、IBSA、2-IS、2-ISM、及びこれら化合物中のヨウ素原子のパラ位にメチル基が結合した化合物からなる群から選択される少なくとも1種である。これらの有機ヨウ素化合物を使用すると、式(II)で表される化合物の収率が高い。
【0072】
また他の実施形態において有機ヨウ素化合物は、例えばIBS、IBSA、2-IS、2-ISM、及びこれら化合物中のヨウ素原子のパラ位にメチル基が結合した化合物からなる群から選択される少なくとも1種である。これらの有機ヨウ素化合物を使用すると、低使用量(例えば、触媒量)で式(II)で表される化合物を製造できる。
【0073】
また、有機ヨウ素化合物はシリカゲル、ポリスチレンなどの樹脂等の担体に担持させて使用することが知られており、本発明においても担体に担持させた有機ヨウ素化合物を使用してもよい。
【0074】
有機ヨウ素化合物の使用量は目的物を製造できる限り特に制限されないが、原料1モルに対して、例えば、0.001モル以上、0.005モル以上、0.01モル以上、0.05モル以上、0.1モル以上、10モル以下、5モル以下、2モル以下、1モル以下、0.5モル以下、0.1モル以下などとでき、好ましくは0.001モル~10モル、より好ましくは0.005モル~10モル、さらに好ましくは0.05モル~10モル、より好ましくは0.05モル~1モルである。
【0075】
<酸化剤>
酸化工程では酸化剤を使用してもよい。酸化剤の使用により原料のオキソ化が進行しやすくなる。これは、反応に寄与するラジカル活性種が発生しやすくなることが理由と考えられる。
【0076】
酸化剤としては例えばオキソン、過酸化水素、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)、過酢酸、過ヨウ素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、オゾン、ジメチルジオキシラン(DDO)、などの過酸化物が使用でき、1種単独で使用しても2種以上併用してもよい。好ましい酸化剤は、オキソン、過酢酸、又はメタクロロ過安息香酸(mCPBA)である。
【0077】
酸化剤を使用する場合の使用量は目的物を製造できる限り特に制限されないが、原料1モルに対して、通常1モル以上、好ましくは1~10モル、より好ましくは5~10モルである。
【0078】
<金属触媒>
酸化工程では金属触媒を使用してもよい。金属触媒の使用により原料のオキソ化が進行しやすくなる。これは、反応に寄与するラジカル活性種が発生しやすくなることが理由と考えられる。
【0079】
金属触媒としては、酸化バナジウム(V)(V2O5)、酸化バナジウム(III)、酸化ルテニウム(IV)(RuO2)、酸化ルテニウム(VIII)、酸化チタン(IV)(TiO2)などの金属酸化物が使用できる。
【0080】
金属触媒を使用する場合の使用量は目的物を製造できる限り特に制限されないが、原料1モルに対して、通常0.05モル以上、好ましくは0.05~0.5モル、より好ましくは0.05~0.1モルである。
【0081】
収率向上の点から金属触媒は酸化剤と併用することが好ましい。
【0082】
<酸化反応>
酸化工程は、反応系を加熱しなくとも目的物を製造できるが、加熱してもよい。反応温度は通常4℃~40℃、好ましくは10℃~40℃、より好ましくは30℃~35℃である。反応時間は目的物が製造できる限り特に制限されないが、通常30分間以上とすればよく、好ましくは1.5時間~3時間である。
【0083】
酸化工程では、溶媒中に原料、過硫酸塩、有機ヨウ素化合物を存在させればよく、またこれらに加えて必要であれば酸化剤及び/又は金属触媒を存在させてもよい。また、必要であれば反応系を加熱してもよい。溶媒、原料、過硫酸塩、有機ヨウ素化合物の添加順序は特に制限されないが、例えば原料及び有機ヨウ素化合物を有機溶媒に添加し、ここに過硫酸塩、水並びに任意に酸化剤及び/又は金属触媒を加えればよい。
【0084】
上記の酸化工程で得られる目的物を単離および精製することができる。例えば、反応混合物から粗反応生成物を分離するために濾過、濃縮、抽出等の単離手順を行い、その後、粗反応生成物を、カラムクロマトグラフィー、再結晶化等の一般的な精製手順に供することにより、反応混合物から目的物を単離および精製することができる。酸化工程では目的物は溶媒中に溶解している場合が多く、その場合は例えば、重クロロホルム、ジクロロメタンなどの適当な溶媒で目的物を抽出することができる。本発明ではo-キノン等の異性体生成が抑制されるため、目的物の精製は簡便に実施できる。
【実施例
【0085】
以下、試験例等を参照して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに示された態様に限定されない。
【0086】
以下の例で使用された化合物の略称は次のとおりである。
MeCN:アセトニトリル
NaIO4:過ヨウ素酸ナトリウム
PIDA:ヨードベンゼンジアセタート
PIFA:[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン
PhI(OCO-tBu)2:ビス(ピバロイルオキシ)ヨード(III)ベンゼン
MesI(OAc)2:ヨードメシチレンジアセタート
IBA:2-ヨードソ安息香酸
IBX:2-ヨードキシ安息香酸
2-IB:2-ヨード安息香酸
IBS:2-ヨードキシベンゼンスルホン酸
2-IS:2-ヨードベンゼンスルホン酸
2-ISM-Na:2-ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウム
2-ISM-K:2-ヨードベンゼンスルホン酸カリウム
PhI:ヨードベンゼン
IPAA:2-ヨードベンゼン酢酸
IPPA:2-ヨードベンゼンプロパン酸
【0087】
<試験例1>有機ヨウ素化合物の検討
次の反応工程式に従い、表1及び表2に示した有機ヨウ素化合物、過硫酸塩及び酸化剤を使用して合成を行った。
【0088】
【化10】
【0089】
10 mLのナスフラスコに1-メトキシナフタレン(0.2 mmol, 31.6 mg)と表1及び表2に示した有機ヨウ素化合物を入れ、これらをアセトニトリル(2.5 mL)で溶解させた後、表1及び表2で示した有機溶媒に溶解しない成分(オキソン、V2O5)を加え、更に水(2.5 mL)及び表1及び表2で示した過酸化水素を加えた。磁気撹拌子を用い、室温下で表1及び表2に示した時間で攪拌した後、ジクロロメタン(40 mL)を用いて反応混合物を分液漏斗に移し、下層の有機層において自然濾過による脱水処理を行った。エバポレーターによる濃縮後、シリカゲルクロマトグラフィーを行い、1,4-ナフトキノンを得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) : δ 6.98 (2H, s), 7.76 (2H, dd, J = 5.9, 3.4 Hz), 8.08 (2H, dd, J = 5.4, 3.4 Hz) ppm。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
有機ヨウ素化合物としてNaIO4、PIDA、PIFA、PhI(OCO-tBu)2又はMesI(OAc)2を使用した場合、目的物の収率は最大で3%と低いものであった(entry 1~entry 5)。
IBA、IBX又は2-IBとオキソンとの存在下では、目的物の収率が30~60%、変換収率が65~99%であり、他のヨウ素化合物を使用した場合より高く、また、表1及び表2には示していないが、副生物である1,2-ナフトキノンは検出されなかった(entry 13~entry 22)。
1当量以下のIBX及びIBAは、オキソンと併用しないと、目的物の収率は最大で6%であり(entry 6~entry 9)、触媒作用は認められなかった。
【0093】
<試験例2>有機溶媒と水との混合比の検討
オキソンと2-IBを用いた1,3-ジメトキシベンゼンから2-メトキシ-1,4-ベンゾキノンの合成における有機溶媒と水との混合比(アセトニトリル/水;容積比)の検討
【0094】
【化11】
【0095】
上記反応工程式に従い、5 mLのサンプル管に1,3-ジメトキシベンゼン(4a)(0.1 mmol, 13.8 mg)、2-IB(0.1 mmol, 24.8 mg)及び標準物質としての1,4-ジニトロベンゼン(0.05 mmol, 8.4 mg)を入れ、これらにオキソン(0.3 mmol, 184 mg)と、所定体積比のアセトニトリル/水混合溶媒(1.0 mL)を加え磁気撹拌子で攪拌した。室温下で1.5時間攪拌後、重クロロホルム(1 mL)を加え激しく振とうし、得られた有機層において定量NMRを行った。測定条件を観測中心(6 ppm)、観測範囲(6 ppm)および緩和遅延時間(40秒)とし、2-メトキシ-1,4-ベンゾキノン(4b)のNMR収率を求めた。結果を図1に示す。
なお、混合溶媒の容積比(アセトニトリル/水)は次のとおりである。
100/0,80/20,60/40,50/50,40/60,30/70,20/80,0/100
【0096】
図1より、溶媒がアセトニトリルのみでは製造できず、水又は水と有機溶媒との混合溶媒の存在下で2-メトキシ-1,4-ベンゾキノンの合成反応が進行することが確認された。また、水を含む溶媒(溶媒が水のみの場合を含む)を使用した場合では副生成物はほとんど生成していなかった。
【0097】
<試験例3>基質の検討
オキソンと2-IBを用いた、式(I)の化合物から式(II)の1,4-ベンゾキノンの合成
【0098】
【化12】
[上記反応工程式中、R~Rは前記と同じ。]
【0099】
上記反応工程式にしたがい合成を行った。
10 mLのナスフラスコに表3に示した式(I)の化合物(1.0 mmol)と2-IB(1.0 mmol, 248 mg)を入れ、これらをアセトニトリル(4 mL)で溶解させた後、オキソン(3.0 mmol, 1.844 g)と水(6 mL)を加え磁気撹拌子で攪拌した。室温下で1時間攪拌後、吸引濾過により固形物を除去し、ジクロロメタン(50 mLで2回)を用いて生成物を抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100 mL)で洗浄後、自然濾過による脱水処理を行った。エバポレーターによる濃縮後、5bの化合物についてはメタノールを用いた吸引濾過により、6b,9b及び10bの化合物についてはジクロロメタンを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより、7b及び8bの化合物については混合溶媒(ジクロロメタン-ペンタン=1:1)を用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより、式(II)の化合物を得た。収率を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
<試験例4>有機ヨウ素化合物の検討
オキソンと有機ヨウ素化合物を用いた、1-イソプロポキシ-2-メトキシベンゼン(11a)の酸化反応における2-メトキシ-[1,4]ベンゾキノン(4b)と2-イソプロポキシ-[1,4]ベンゾキノン(11b)の生成比および変換効率の検討
【0102】
【化13】
【0103】
上記反応工程式にしたがい、次の有機ヨウ素化合物(cat.)を使用して合成を行った。
【0104】
【化14】
【0105】
5 mLのサンプル管に上記反応工程式中に示した化合物11a(0.1 mmol, 16.6 mg)、有機ヨウ素化合物(0.1 mmol)及び標準物質として1,4-ジニトロベンゼン(0.05 mmol, 8.4 mg)を入れ、これらをアセトニトリル(0.4 mL)で溶解させた後、オキソン(0.3 mmol, 184 mg)と水(0.6 mL)を加え磁気撹拌子で攪拌した。室温下で表4に示した時間(1.5時間又は3.0時間)で攪拌後、重クロロホルム(1 mL)を加え激しく振とうし、得られた有機層において定量NMRを行った。測定条件を観測中心(6 ppm)、観測範囲(6 ppm)および緩和遅延時間(40秒)とした。化合物4bと化合物11bのNMR収率と変換率を表4に示す。2-イソプロポキシ-[1,4]ベンゾキノン(11b)は、ジクロロメタンを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより容易に精製できた。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) : δ 1.38 (6H, d, J = 6.0 Hz), 4.46 (1H, sep, J= 6.0 Hz), 5.89 (1H, d, J = 1.4 Hz), 6.66-6.69 (2H, m) ppm。
【0106】
【表4】
【0107】
本試験例では、二級エーテル酸化生成体4bと一級エーテル酸化生成体11bの混合物が得られ、一級エーテル酸化生成体11bが主生成物であったことから、一級エーテル基の方が酸化されやすいことが確認された。また、本試験例では、IPAA、IPPA及びPhIも原料化合物をp-キノン体へ変換することが確認された。
【0108】
また、2-IBについては、5位にメチル基を導入した5-Me 2-IBを使用することにより収率及び11b選択性が向上した。2-ISMについては、5位にメチル基を導入した5-Me 2-ISMを使用することにより11b選択性が向上した。これらのことから有機ヨウ素化合物のヨウ素原子のパラ位にアルキルを導入することにより選択性が向上することが確認された。
【0109】
p-キノンの総収率(Total yield)と11aの変換効率(Conversions)が近い値を示したものについてはそのことから副生成物がほとんど生じていないことがわかった。この場合、化合物11bの精製は、シリカゲルクロマトグラフィーを用いる簡便な方法で実施できた。
【0110】
<試験例5>リグニンモデル基質からのp-キノン変換の検討
オキソンと有機ヨウ素化合物を用いた、β-O-4構造を有するリグニンモデル基質、即ち1-(3,4-ジメトキシフェニル)-2-(2-メトキシフェノキシ)-1,3-プロパンジオール(12a)からの2-メトキシ-[1,4]ベンゾキノン(4b)の合成
【0111】
【化15】
【0112】
上記反応工程式にしたがい、次の有機ヨウ素化合物(cat.)を使用して合成を行った。
【0113】
【化16】
【0114】
5 mLのサンプル管に12a(0.1 mmol, 33.4 mg)、有機ヨウ素化合物(0.1 mmol又は0.005 mmol)および標準物質として1,4-ジニトロベンゼン(0.05 mmol, 8.4 mg)を入れ、これらをアセトニトリル(0.4 mL)で溶解させた後、オキソン(0.3 mmol, 184 mg)と水(0.6 mL)を加え磁気撹拌子で攪拌した。室温下で3時間攪拌後、重クロロホルム(1 mL)を加え激しく振とうし、得られた有機層において定量NMRを行った。測定条件を観測中心(6ppm)、観測範囲(6ppm)および緩和遅延時間(40秒)とした。4bのNMR収率は、2-IBで45%、5-Me 2-IBで50%、2-ISM-Naで35%、5-Me 2-ISM-Kで41%であった。
【0115】
本試験例により、ベンゼン環に結合したリグニン残基はメトキシ基よりp-キノン化されやすいことが確認された。本試験例では、リグニンモデル基質12aが有用な低分子化合物4bに変換された。リグニンモデル基質12aはβ-O-4構造を有している。β-O-4構造はリグニン内の全結合様式の約50%を占めるエーテル結合である。本試験例においてこの基質のβ-O-4構造が切断されて2-メトキシ-[1,4]ベンゾキノンが切り出されたことから、本発明の製造方法はリグニンを原料として、有用なp-キノン系の低分子化合物に変換しうることが確認された。
【0116】
<試験例6>有機ヨウ素化合物を触媒量用いる反応の検討
オキソンと触媒量の有機ヨウ素化合物を用いた、1,3,5-トリメトキシベンゼン(5a)からの2,6-ジメトキシ-[1,4]ベンゾキノン(5b)の合成、及び3,5-ジメトキシトルエン(10a)からの2-メトキシ-6-メチル-[1,4]ベンゾキノン(10b)の合成
【0117】
【化17】
【0118】
上記反応工程式にしたがい、触媒量の2-ヨード安息香酸(2-IB)を使用して合成を行った。
【0119】
5 mLのサンプル管に化合物5a(0.1 mmol, 16.8 mg)、2-IB(0.005 mmol,12.4 mg)を入れ、これらをアセトニトリル(0.4 mL)で溶解させた後、オキソン(0.3 mmol, 184 mg)と水(0.6 mL)を加え磁気撹拌子で攪拌した。室温下で3時間攪拌後、吸引濾過により固形物を除去し、ジクロロメタン(50 mLで2回)を用いて生成物を抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100 mL)で洗浄後、自然濾過による脱水処理を行った。エバポレーターによる濃縮後、メタノールを用いた吸引濾過により、化合物5bを得た。5bの単離収率は62%であった。
【0120】
2-IBの量を0.02 mmol,49.6 mgに換え、攪拌時間を1時間に換えた他は、同様にして、化合物5bを得た。5bの単離収率は80%であった。
【0121】
化合物5a(0.1 mmol, 16.8 mg)を化合物10a(0.1 mmol, 15.2 mg)に換え、攪拌時間を2時間に換え、メタノールを用いた吸引濾過をジクロロメタンを用いたシリカゲルクロマトグラフィー処理に換えた他は、同様にして、化合物10bを得た。10bの単離収率は86%であった。
【0122】
本試験例により、触媒量の2-IB(0.005 mmol)を使用しても良好な収率で、化合物5b及び10bが得られることが確認された。また、少量(0.02 mmol)の2-IBの使用でも80%の高い収率で化合物5bが得られた。
【0123】
また、本試験例のいずれの合成においても、原料化合物5aおよび10aの変換効率(Conversions)は、p-キノン化合物5bおよび10bの収率(Yield)と近い値であった。このことから、有機ヨウ素化合物を触媒量使用した場合でも副生成物がほとんど生じていないことが確認された。そのため、化合物5bおよび10bの精製は、吸引濾過処理及びシリカゲルクロマトグラフィー処理の簡便な方法で実施できた。
【0124】
本発明は、水存在下で反応が進むことから、リグニンの中でも水溶性の高いリグニンの分解に適する。また、スルホン酸系の有機ヨウ素化合物(2-ISM-Na及び5-Me 2-ISM-K)であれば少量(触媒量)でリグニンの分解が可能であった。
リグニンモデル基質からp-キノンへ変換する方法としては、ポルフィリン-オキソンの反応系を利用することで最高収率30%となることが知られている(New J. Chem., 1989, 13, 801)。本発明は、この方法に比べて、活性の面で優れていること、触媒の合成が容易であることから優位である。
図1