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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】抗菌方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/44 20060101AFI20240227BHJP
   A01N 25/06 20060101ALI20240227BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240227BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
A01N37/44
A01N25/06
A01P3/00
A01P1/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021188415
(22)【出願日】2021-11-19
(65)【公開番号】P2023075484
(43)【公開日】2023-05-31
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】397021235
【氏名又は名称】株式会社サニープレイス
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(72)【発明者】
【氏名】向井 信人
(72)【発明者】
【氏名】向井 孝
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-175709(JP,A)
【文献】特開2007-050400(JP,A)
【文献】特開2019-019097(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094905(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3089025(JP,U)
【文献】新 化粧品ハンドブック,2006年,p.392-411
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P,A61K,A61L,A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-システイン、L-アルギニン、L-リシン、L-ヒスチジン、又はこれらの塩類の少なくとも1種のアミノ酸を含有する抗菌水用組成物であって、前記抗菌水用組成物のpHは10.9以上である抗菌水用組成物を室内に噴霧し、前記噴霧において、圧電振動子、又は2流体ノズルを使用することにより、ミストを発生させて、室内浮遊ウイルスを抑制する工程と、前記抑制によって、前記室内を抗菌する工程と、を有することを特徴とする室内の抗菌方法。
【請求項2】
前記噴霧する工程において、噴霧されるミストの平均粒子径が10μm以下である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記抗菌水用組成物は、さらに、還元性イオン水を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗菌水用組成物の全量に対して、前記アミノ酸の含有量は、1.0質量%~0.00001質量%の範囲であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記抗菌水用組成物の全量に対して、前記還元性イオン水の含有量は、10質量%~90質量%の範囲であることを特徴とする請求項3記載方法
【請求項6】
前記抗菌水用組成物は、pH調整剤を含有しないことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌方法に関し、特に、安全性を有する抗菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌水には一般的に、中身や容器が微生物により腐敗などの変性を起こさないように、微生物の繁殖や成育を抑制する防腐・殺菌成分が配合されている。多くの防腐・殺菌成分は、配合可能成分リスト(ポジティブリスト)に記載されているので、配合規制がある。
【0003】
例えば、殺菌剤を含む拭き取り用の抗菌水であって、敏感肌用、ニキビ予防用、及びニキビ改善用からなる群より選ばれた用途に用いられ、下記成分(A)、下記成分(B)、下記成分(C)、下記成分(D)、及び下記成分(E)を含むことを特徴とする抗菌水が知られている(特許文献1)。
成分(A):抗炎症剤
成分(B):殺菌剤
成分(C):脂肪酸エステル非イオン性界面活性剤
成分(D):保湿剤
成分(E):水
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-132623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、上述の特許文献1を含め従来技術においては、中身や容器が微生物により腐敗などの変性を起こさないように、殺菌剤を含むものが多いのが現状である。一方で、未だにこれらの抗菌成分等は有害であるという認識を持つ消費者が多いことから、防腐・殺菌剤を配合しないことが望まれる。したがって、使用する前に、内容物や容器が微生物により腐敗などの変性を起こさないように、防腐・殺菌成分以外の手段によって、微生物の繁殖や成育を抑制することができれば望ましい。
【0006】
そこで、本発明は、抗菌力を有し、安全性を有する抗菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者らは、防腐、殺菌成分を配合することなく、抗菌性を有する組成物について鋭意検討した結果、本発明を見出すに至った。
【0008】
すなわち、本発明の室内の抗菌方法は、L-システイン、L-アルギニン、L-リシン、L-ヒスチジン、又はこれらの塩類の少なくとも1種のアミノ酸を含有する抗菌水用組成物であって、前記抗菌水用組成物のpHは10.9以上である抗菌水用組成物を室内に噴霧し、前記噴霧において、圧電振動子、又は2流体ノズルを使用することにより、ミストを発生させて、室内浮遊ウイルスを抑制する工程と、前記抑制によって、前記室内を抗菌する工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の抗菌方法の好ましい実施態様において、前記噴霧する工程において、噴霧されるミストの平均粒子径が10μm以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の抗菌方法の好ましい実施態様において、前記抗菌水用組成物は、さらに、還元性イオン水を含有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の抗菌方法の好ましい実施態様において、前記抗菌水用組成物の全量に対して、前記アミノ酸の含有量は、1.0質量%~0.00001質量%の範囲であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の抗菌方法の好ましい実施態様において、前記抗菌水用組成物の全量に対して、前記還元性イオン水の含有量は、10質量%~90質量%の範囲であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の抗菌方法の好ましい実施態様において、前記抗菌水用組成物は、pH調整剤を含有しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の抗菌方法によれば、いわゆる防腐剤や殺菌剤を配合せず、抗菌性を有する抗菌水用組成物の提供が可能であるという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の方法に用いる一実施態様における抗菌水用組成物の効果の一例を示す図である。
図2図2は、本発明の方法に用いる一実施態様における抗菌水用組成物の効果の一例を示す図である。
図3図3は、本発明の方法に用いる一実施態様における抗菌水用組成物の効果の一例を示す図である。
図4図4は、本発明の方法による一実施態様における効果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の抗菌方法は、L-システイン、L-アルギニン、L-リシン、L-ヒスチジン、又はこれらの塩類の少なくとも1種のアミノ酸を含有する抗菌水用組成物であって、前記抗菌水用組成物のpHは10.9以上、より好ましくは、11.5以上である抗菌水用組成物を噴霧する工程を有することを特徴とする。これは、抗菌成分等の添加を望まない消費者に対して、いわゆる防腐・殺菌剤を配合しない抗菌作用を有する組成物を用いて抗菌方法を提供しようとするものである。
【0018】
本発明においては、抗菌水用組成物のアルカリ度が極めて低いため、当該抗菌水用組成物を噴霧して、身体に接触したとしても、肌の中和能で瞬時に弱酸性になり、肌に刺激のない抗菌水とすることができる。すなわち、本発明の抗菌方法に用いる抗菌水用組成物は、pH10.9以上~pH11.5付近なので防腐剤を配合しなくても抗菌性のある抗菌水であり、万一肌に塗布されたとしても、瞬時に弱酸性(肌表面でpH6.0付近)になることを特徴の一つとすることができる。
【0019】
また、本発明の抗菌方法の好ましい実施態様において、前記噴霧する工程において、空間中の抗菌を施す場合に空間中に十分に拡散させるという観点から、噴霧されるミストの平均粒子径が10μm以下、より好ましくは、3μm以下であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の抗菌方法の好ましい実施態様において、前記噴霧する工程において、抗菌水用組成物を空間中に十分に拡散させるという観点から、圧電振動子、又は2流体ノズルを使用することにより、ミストを発生させることを特徴とする。
【0021】
本発発明において、圧電振動子を使用してミストを発生する場合について説明すると以下の通りである。圧電振動子を用いるものであれば、特に限定されないが、例えば、サニープレイス株式会社よりリースされているミスト装置(商品名:PLUME2、サニープレイス社製、例えば、第5801778号に記載のミスト装置等を利用することが可能である。)を利用することできる。貯水タンクに備えられた圧電振動子板は、それぞれ動作用基板によって2.4MHzの動作周波数を得て振動することができる。圧電振動子板が振動すると、貯水タンク内の液体がエネルギーを持ち、種々の粒径のミスト、例えば、平均粒子径3μm以下のミストまで生成することが可能である。なお、圧電振動子板は、装置本体の電源ユニットから24Vの動作電圧を得て動作するように構成されており、連続して噴霧が可能である。
【0022】
また、1流体ノズルでは粒径が大きく充分に部屋内に拡散されず床等が濡れる原因になる虞があるが、2流体ノズルを使用することにより平均粒子径が10μ mの微粒子化が可能になるためウイルスに対する抑制性能を発揮することが可能となる。2流体ノズルは圧搾空気などの高速の流れを利用して液体を微粒化するノズルを意味することができる。ポンプだけで噴霧する1流体ノズルと比較し、以下のような特長を有する。1. 優れた微粒化性能(流体ノズルは1流体ノズルでは難しい平均粒子径10μm以下の微粒化が可能。)、2.大きなターンダウン(噴霧流量の調節可能な最小値と最大値の比をターンダウン比といい、粒子径や流量分布を一定に保ちながら噴霧流量の調整範囲が大きくとれ、噴霧流量調整ノズルとして適している。)、3. 大きな異物通過径(同一水量の1流体ノズルと比較して大きな異物通過径を有する。)
【0023】
2流体ノズルにおいて、気体としては、圧縮空気の他、不活性ガス(N等)や蒸気を用いることができる。
【0024】
2流体ノズルの種類については、内部混合形、外部混合形、衝突形等を例示することができるが、いずれも本発明に適用可能である。
【0025】
なお、平均粒子径については、液浸法により求めることができる。液浸法は、シリコンオイルを厚めに塗布したプレートグラス上に霧を受け止め、素早く拡大写真を撮影し、できあがった写真からサイズごとに粒子数をカウントする方法である。
【0026】
また、本発明の抗菌方法の好ましい実施態様において、前記アミノ酸の含有量は、抗菌水用組成物の全量に対して、1.0質量%~0.00001質量%の範囲、より好ましくは、0.01質量%~0.0001質量%の範囲であることを特徴とする。かかる範囲としたのは、この程度の量であれば、抗菌性を有する組成物として効果を発揮し得るからである。
【0027】
本発明の抗菌方法に適用可能な抗菌水用組成物において、pH値の調整は、配合するアミノ酸の種類、配合量等により適宜調整可能である。一般に、炭酸ナトリウムの他、炭酸ソーダ、炭酸水素ナトリウム等を含めpH調整剤を用いて調整することができるが、このようなpH調整剤の使用は、組成物のアルカリ度が高くなりpHを維持する力は強くなり、肌に塗布した場合は瞬時に弱酸性には戻りづらくなる傾向がある。
【0028】
したがって、かかる観点から、本発明の好ましい実施態様において、pH調整剤を含有しないことを特徴とする。
【0029】
また、本発明において、前記抗菌水用組成物のpHは10.9以上であるとしたのは、このようなpH値であれば、いわゆる防腐・殺菌成分を添加しなくても、多くの好アルカリ性微生物を排除することが可能だからである。
【0030】
また、本発明の抗菌方法の好ましい実施態様において、前記抗菌水用組成物は、さらに、還元性イオン水を含有することを特徴とする。上述のように、pH値の調整は、配合するアミノ酸の種類、配合量等により適宜調整可能であるが、配合するアミノ酸や配合量によっては、所望のpH値を達成できない虞もある。この場合には、還元性イオン水を使用することができる。還元イオン水は、電気分解され、アルカリ性を示す水とすることができる。例えば、還元イオン水としては、株式会社エー・アイ・システムプロダクトが製造販売するS-100等を挙げることができ、S-100は、、電気分解された高機能還元性イオン水で、化粧品表示名称は「水」、pH12±0.5のアルカリ性水である。
【0031】
また、本発明の抗菌方法の好ましい実施態様において、前記抗菌水用組成物の全量に対して、前記還元性イオン水の含有量は、10質量%~90質量%の範囲、より好ましくは、10質量%~20質量%の範囲であることを特徴とする。
【実施例
【0032】
以下では本発明の抗菌方法に適用可能な抗菌水用組成物の一例について実施例を用いて説明するが、本発明は、下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0033】
実施例1
まず、アルカリ性を呈し、防腐・殺菌成分を配合しない抗菌水用組成物の一例を試みた。アミノ酸の一例として、アルギニンを用いた。具体的に、精製水99.0質量%にL(+)―アルギニン(和光純薬工業(株)製)1.0%質量を配合して、アルカリ性水溶液を作成しpHを測定した。また、参照のため、精製水80.0質量%に電解還元性イオン水S-100((株)エー・アイ・システムプロダクト製)を20質量%配合し、アルカリ性水溶液を作成しpHを測定した(参照例)。
【0034】
なお、pH測定には以下の機種及び電極を用いた。
pHメーターの機種:pH METER F-71((株)堀場製作所)
pHメーターの電極:#9615-10D((株)堀場製作所)
【0035】
実施例2
次に、精製水79.0質量%にS-100を20.0質量%、L-アルギニン1.0質量%を配合して、アルカリ性水溶液を作成し、実施例1と同様にpHを測定した。
【0036】
表1に、実施例1~2、参照例のpH測定値を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1の結果から参照例のpH測定値が一番高いことが判明した。
【0039】
実施例3~6
表1の結果をもとに、実施例1と同様の手順に従って、種々の調整例を作成した。表2は、本発明の一実施態様における抗菌方法に適用可能な抗菌水用組成物の成分例及び調整例を示す。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
実施例7
次に、アミノ酸として、L-ヒスチジンを用いて、かつ、種々の量の還元イオン水を用いて、上述の実施例の手順に従って、本発明の抗菌方法に適用可能な抗菌水用組成物を作成した。その結果を、表4に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
これらの結果、pH10.9以上の組成物を作成することができ、いわゆる防腐剤、殺菌剤を含むことなく、抗菌性を有する組成物を作成するできることが判明した。また、仮に、3種類の塩基性アミノ酸を同量配合する場合には、0.001%以下が好ましいことが判明した。
【0045】
また、本発明においては、炭酸ナトリウムの他、炭酸ソーダ、炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤を使用していないので、アルカリ度が極めて低い組成物を提供することができるので肌に塗布されたときに肌の中和能で瞬時に弱酸性になり肌を刺激しないという有利な効果を奏する。
【0046】
実施例8
次に、実際に、本発明の抗菌方法に適用可能な抗菌水用組成物について、各種ウイルスを用いて、当該ウイルスの不活性化効果を調べた。具体的に、本発明の抗菌方法に適用可能な抗菌水用組成物と、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、PEDウイルスとを反応させた時のウイルス不活化効果を確認した。対照資材として滅菌リン酸緩衝液を使用した。ウイルス不活化試験に使用した本発明に適用可能な抗菌水用組成物の成分を、表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
供試微生物については、以下の通りである。
・インフルエンザウイルス:swine influenza virus H1N1 IOWA株、培養細胞: MDCK細胞 (イヌ腎臓由来株化細胞)
・ネコカリシウイルス:feline calicivirus F9 株、培養細胞: CRFK細胞 (ネコ腎臓由来株化細胞)※ノロウイルス代替
・PEDウイルス: Porcine epidemic diarrhea virus P-5V 株、培養細胞: vero細胞(アフリカミドリザルの腎臓上皮由来株化細胞)※豚感染性のコロナウイルス(新型コロナウイルス代替として)
【0049】
試験区等の設定については、試験区においては、以下の通りである。
処置:試験資材(本発明の抗菌方法に適用可能な抗菌水用組成物)1mLにウイルス液0.1mL添加
感作時間:試験開始後30分
【0050】
対照区においては、以下の通りである。
処置:リン酸緩衝液1mLにウイルス液0.1mL添加
感作時間:試験開始後 0分、 30 分
【0051】
試験方法については、「ウイルス実験学 総論 改訂二版 丸善株式会社 ウイルス中和試験法」を参考として実施した 。
【0052】
<試験 手順>
1)予備試験:
試験に先立って、試験資材が培養細胞に与える影響(細胞毒性)を調査した。試験資材をリン酸緩衝液で10倍段階希釈した後、培養細胞に接種し、培養後の細胞の正常な状態を示す最高濃度を確認し、試験に使用するウイルス濃度を決定した。その結果、細胞毒性について、MDCK細胞、CRFK細胞、vero細胞のいずれにおいても確認されなかった。この為、各ウイルス添加濃度は105 TCID50 /mL以上、検出限界は<101.5TCID50/mLとした。
【0053】
2)本試験・試験液混合:
試験区分に従い、試験資材及びリン酸緩衝液の各1mLをそれぞ分取し、予備試験で決定した濃度にウイルス液を添加した。ウイルス液添加後、混合液として室温(25℃)にて所定の時間静置した。
【0054】
3)本試験・細胞接種及び菌数測定:
試験区分ごとに感作が終了した混合液をそれぞれ10倍段階希釈し、96wellプレートに培養した細胞に100μLずつ接種した。判定は、37℃、炭酸ガス培養(5%)で5日間培養した後、インフルエンザウイルスの場合は、各ウェル内の培養上清を回収し、赤血球凝集反応によりウイルスの増殖の有無を確認し、その濃度を算出した。また、ネコカリシウイルス及び PEDウイルスの場合は、培養細胞を顕微鏡観察し、培養細胞に現れるCPE(細胞変性)をもってウイルス増殖の有無を確認し、その濃度を算出した。
【0055】
<結果>
1)インフルエンザウイルス
インフルエンザウイルスに対する試験結果を図1にした。対照区では試験開始後から、30分までの間にウイルス量変化は見られなかった(108.1TCID50/mL(130000000))。試験区では開始後30分で103.9TCID50/mL(8000)(99.99%減少)となった。
【0056】
2)PEDウイルス
PEDウイルスに対する試験結果を図2に示した。対照区では試験開始後から、30分までの間にウイルス量変化は見られなかった (108.1TCID50/mL(130000000))。試験区では開始後30分で103.9TCID50/mL(8000)(99.99%減少)となった。
【0057】
3)ネコカリシウイルス
ネコカリシウイルスに対する試験結果を図3に示した。対照区では試験開始後から、30分までの間にウイルス量変化は見られなかった(106.7TCID50/mL(5000000))。試験区では開始後30分で101.9TCID50/mL(99.99%減少)となった。
【0058】
今回、試験資材のインフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス及びPEDウイルスに対する不活化効果試験を実施した。その結果、試験資材(本発明の抗菌方法に適用可能な抗菌水用組成物)はインフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、及びPEDウイルスに対して30分以上の反応で99.99%以上のウイルス不活化効果があることが判明した。
【0059】
実施例9
次に、室内浮遊ウイルス等に対する抗菌効果について試験を行った。具体的には、25m3空間において、試験機材(試験資材噴霧)を運転することによる室内浮遊ウイルス(インフルエンザウイルス)に対する抑制性能を評価するために実施した。供試ウイルスについては、以下の通りである。
【0060】
供試ウイルス:インフルエンザウイルス:swine influenza virus H1N1 IOWA 株 培養細胞:MDCK 細胞(イヌ腎臓由来株化細胞)
【0061】
<試験資材>
試験機材:PLUME(試験機材は 60 分間連続運転モードで使用した。試験資材:アミイオン(※試験資材は原液で使用した。)(なお、アミイオンとは、上記表5の成分を有する組成物である。
【0062】
表6に、区の設定を示す。
【0063】
【表6】
【0064】
なお、試験は、JEM1467「家庭用空気清浄機」付属書 D「室内浮遊ウイルスに対する抑制性能評価試験」を参考として実施した。
【0065】
<ウイルス液調製方法>
1)-70℃以下で凍結保存されたウイルス液を融解させ、MDCK 細胞に接種した。
2)37℃で1時間、細胞にウイルスを吸着させた後、接種ウイルス液を除去し、滅菌PBSで2回洗浄した。
3)MEM(細胞維持培地)培地を加え、37℃、5%CO2下で、上記4)の条件となるまで 3日間培養した。
4)70~80%程度の細胞変性効果(以下、CPE)が観察された時点で、培養ウイルス液を回収した。
5)回収した培養上清を、3000rpmで30分間遠心後、上澄み液を分注し、試験ウイルス液とした。
【0066】
<試験手順及び方法>
(1)試験環境
試験環境として約25m3(3.5x3.5x2.2m)の密閉空間を用いた。試験中は 25℃±5℃、試験開始時湿度は 50%RHとした。
(2)方法
1.試験室内にウイルス液を 5mL噴霧し、噴霧終了後 2分間ファンで室内を攪拌して試験準備とした。
2.対照区は、試験室内にウイルス液を 5mL噴霧直後の時点を試験開始時とし、内部攪拌用ファンを作動させたまま試験設定に従い室内の浮遊ウイルスを経時的に捕集した。
3.試験区は試験機材設置作動後、同様にウイルス液を噴霧して試験開始時として、試験機材及び攪拌用ファンを作動させた状態で試験設定に従い室内の浮遊ウイルスを経時的に捕集した。
4.ウイルスの捕集はインピンジャーを用い、10mLの細胞維持培地(MEM培地)に 10Lの室内空気を毎分5L吸引で 2分間行い捕集した。ウイルスを捕集した MEM 培地は、さらに MEM 培地で 10 倍段階希釈を行った。
5.各希釈液を MDCK 細胞に接種後、37℃、5%CO2下で 5日間培養した。
6.CPEの有無及び培養上清の鶏赤血凝集反応の有無から、ウイルス力価(TCID50)を測定した。
【0067】
<評価>
試験結果において、検査時点ごとに、対照区に対する試験区の減少率(%)を算出し、効果を確認した。なお、本試験において減少率は以下の式で算出した。
【0068】
減少率(%)=100 × (対照区-試験区)/対照区
【0069】
インフルエンザウイルスに対する試験結果を下記に示した。対照区では試験開始から、60分後までの間にウイルス量の自然減衰が見られた(104.5 →104.1 TCID50/10Lair)。試験区では試験開始6分後で104.1 TCID50/10Lair(59.3%減少)、30分後で103.7 TCID50/10Lair(75.0%減少)、60分後で102.9 TCID50/10Lair(93.9%減少)となった。表 1にインフルエンザウイルス試験結果(TCID50/10Lair)を示す。
【0070】
【表7】
【0071】
本試験は、25m3空間における試験機材の浮遊インフルエンザウイルスに対する効果を確認するために実施した。試験の結果、浮遊インフルエンザウイルスに対し、6分で59.3%、30分で75.0%、60分で93.9%の浮遊ウイルス感染価の減少が見られた。よって、本発明の抗菌方法によれば、抗菌水用組成物を60分以上の噴霧を行うことにより抗ウイルス活性値は1.2 以上となることが判明した。(抗ウイルス活性値=log(対照区・時間経過後感染価)-log(試験区・時間経過後感染価))
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によると、防腐剤、殺菌剤を配合することなく、抗菌性を有することから、広い分野において産業上利用価値が高い。
図1
図2
図3
図4