(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】アルツハイマー病における標的としてのTPKの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20240227BHJP
A61K 38/45 20060101ALI20240227BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240227BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240227BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240227BHJP
A01K 67/0276 20240101ALI20240227BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240227BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240227BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240227BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K38/45
A61P25/28
G01N33/15 Z
C12Q1/02
A01K67/0276 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/10 200Z
A61K45/00
C12N9/12
(21)【出願番号】P 2022506763
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 CN2020105353
(87)【国際公開番号】W WO2021023069
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】201910711540.3
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010038537.2
(32)【優先日】2020-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522044799
【氏名又は名称】シャンハイ、レイジング、ファーマシューティカル、カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI RAISING PHARMACEUTICAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】チョン、チュンチウ
(72)【発明者】
【氏名】サン、シャオミン
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】Neurological Research,2018年,40(8),pp.658-665
【文献】Alzheimer's Research & Therapy,2018年,10,26,pp.1-13
【文献】PLoS ONE,2017年,12(1),e0167273, pp.1-13
【文献】Biol Res.,2018年,51,35, pp.1-9
【文献】Oncotarget,2017年,8(7),pp.12081-12092
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A01K
C12N
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアミンピロホスホキナーゼ(TPK)またはTPK発現ベクターを含む、アルツハイマー病の予防又は治療のための医薬。
【請求項2】
脳内のTPKタンパク質のキナーゼ活性及び/又は発現レベルを促進するための、請求項1記載の医薬。
【請求項3】
アルツハイマー病を予防又は治療するための医薬を
インビトロまたはエクスビボでスクリーニングする方法であって、
被検化合物についてチアミンピロホスホキナーゼ(TPK)のキナーゼ活性及び/又は発現レベルを測定する工程、および
前記被検化合物から、チアミンピロホスホキナーゼ(TPK)のキナーゼ活性及び/又は発現レベルを促進する試薬を選択する工程
を含む、方法。
【請求項4】
前記試薬が、チアミンピロホスホキナーゼ(TPK)タンパク質を調節する試薬及び/又はチアミンピロホスホキナーゼ(TPK)遺伝子を調節する試薬である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
標的動物においてTPK遺伝子のノックアウトにより動物モデルを構築することを特徴とする、アルツハイマー病の動物モデル構築方法。
【請求項6】
標的動物が齧歯類であることを特徴とする請求項5記載の動物モデルの構築方法。
【請求項7】
前記齧歯類がマウスであることを特徴とする請求項6に記載の動物モデルの構築方法。
【請求項8】
TPK遺伝子のエクソン4をノックアウトすることを特徴とする請求項5記載の動物モデルの構築方法。
【請求項9】
遺伝子ノックアウトのためのターゲティングベクターTPK-loxpを構築し、該ターゲティングベクターを標的動物に導入してTPK-loxP+/+標的動物を得る工程を含むことを特徴とする請求項5に記載の動物モデル構築方法。
【請求項10】
前記標的化ベクターの配列が配列番号1に記載されていることを特徴とする、請求項9に記載の動物モデル構築方法。
【請求項11】
TPK-loxP+/+標的動物とCamK2α-Cre/ERT2+/-標的動物とを交配し、TPK遺伝子の条件付きノックアウトがされた、CamK2α-Cre/ERT2+/-;TPK-loxP+/+標的動物を得る工程をさらに含むことを特徴とする請求項9記載の動物モデル構築方法。
【請求項12】
アルツハイマー病の研究における、請求項5~11のいずれか一項記載の動物モデルの構築方法により得られる動物モデルの使用。
【請求項13】
細菌人工染色体をベクターとして用い、TPK遺伝子のエクソンに相同な配列の両端にネオマイシン耐性遺伝子配列と共に直接loxP配列を挿入することを特徴とする、アルツハイマー病の動物モデルのターゲティングベクターの構築方法。
【請求項14】
前記エクソンがエクソン4であることを特徴とする、請求項13に記載の標的ベクターの構築方法。
【請求項15】
ターゲティングベクターの配列が配列番号1に記載されていることを特徴とする、請求項14に記載のターゲティングベクター構築方法。
【請求項16】
請求項13~15のいずれかに記載の構築方法によって構築された標的化ベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年8月2日に中国特許庁に出願された中国特許出願第201910711540.3号(「動物モデルを構築するための方法及び対応するモデルの使用」を主題とする)、及び2020年1月14日に中国特許庁に出願された中国特許出願第202010038537.2号(「アルツハイマー病における標的としてのTPKの使用」を主題とする)の優先権を主張するものであり、これらの内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明の分野
本発明は、医学の分野、特にアルツハイマー病における標的としてのTPKの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
アルツハイマー病(AD)は最も一般的な認知症であり、主に認知と記憶の慢性的かつ進行性の退行と人格の変化を特徴とします。2015年までに世界中で5000万人以上のAD患者がおり、その発生率は65歳以上の人々の年齢とともに増加しました。世界的な高齢化の継続的な進展に伴い、ADは社会や家族に大きな経済的・精神的負担をもたらしている。
【0004】
ADはニューロンの喪失、グリア細胞の活性化、アミロイドβタンパク質(Aβ)の細胞外沈着による特徴的な老人病斑、細胞内Tauタンパク質の高リン酸化による神経原線維変化等様々な病態生理学的変化を伴う疾患である。さらに、シナプスの喪失、脳グルコース代謝異常、酸化ストレス等もAD脳では恒常的な病的変化であり、患者における脳グルコース代謝の低下は認知障害と密接に関連している。
【0005】
病因が明らかにされていないことから、ADの治療法は依然として確立されていない。従来の「Aβカスケード仮説」は、常に、ADの病因を説明する最も有力な理論である。これに基づいて種々のトランスジェニック動物モデルが開発され、医薬品開発のための実験が行われてきたが、現在のところ、第II/III相臨床試験で全て終了したか、あるいは失敗に終わっている。また、Tauタンパク質の異常な蓄積を抑制するような他の新規な医薬品についても、目的とする結果が得られていない。ADのメカニズムや医薬品に関する研究の進展には多くの制約要因があり、その第一は医薬品の標的の選択である。ADは様々な病態変化を伴う疾患であり、単一の標的に対する医薬品は、病気の進行を完全に阻止することができず、新たな治療標的の開発が必要である。さらに、既存のAD研究用動物モデルは主に遺伝的背景に基づいて確立されたものであり、より正確に言えば、それらはADの動物モデルというよりもAβカスケード仮説のモデルであり、AD脳における複数の病態変化を完全にシミュレートすることはできず、また、既存の動物モデルで有効であることが立証された医薬品は臨床試験で期待された結果を達成することができない。それは、現在、ADの好適な動物モデルを見つけるための喫緊の課題である。
【発明の概要】
【0006】
発明の要旨
この観点から、発明の特定の実施形態は、アルツハイマー病を治療又は予防する際の新規な標的としてのTPKの使用を提供し、その特定の技術的解決策は以下のとおりである:
【0007】
アルツハイマー病の治療又は予防における標的としてのTPK遺伝子又はタンパク質の使用。
【0008】
TPK遺伝子又はタンパク質を標的として、脳におけるTPKタンパク質のキナーゼ活性及び/又は発現レベルが促進されてもよい。
【0009】
アルツハイマー病を予防又は治療するための医薬における標的としてのTPK遺伝子又はタンパク質の使用、又はその医薬のスクリーニング又は調製におけるTPK遺伝子又はタンパク質の使用。
【0010】
薬物は、TPK遺伝子又はタンパク質を標的として、脳におけるTPKタンパク質のキナーゼ活性及び/又は発現レベルを促進するものであってもよい。
【0011】
アルツハイマー病を予防又は治療するための医薬の調製における、脳におけるTPKタンパク質のキナーゼ活性及び/又は発現レベルを促進する試薬の使用。
【0012】
脳におけるTPKタンパク質のキナーゼ活性及び/又は発現レベルを促進する試薬は、TPKタンパク質を調節する試薬及び/又はTPK遺伝子を調節する試薬であってもよい。
【0013】
アルツハイマー病を予防又は治療するための医薬であって、TPK遺伝子又はタンパク質を標的として、脳内のTPKタンパク質のキナーゼ活性及び/又は発現レベルを促進する医薬。
【0014】
アルツハイマー病の動物モデルを構築する際の標的としてのTPK遺伝子又はタンパク質の使用。
【0015】
TPK遺伝子を標的動物においてノックアウトして動物モデルを構築する動物モデルの構築方法。
【0016】
標的動物は齧歯類であってもよい。
【0017】
齧歯類はマウスであってもよい。
【0018】
TPK遺伝子のエクソン4をノックアウトしてもよい。
【0019】
本方法は、遺伝子ノックアウトのための標的ベクターTPK-loxPを構築するステップと、標的ベクターを標的動物に導入してTPK-loxP+/+標的動物を得るステップとを含んでいてもよい。
【0020】
ターゲティングベクターの配列は配列番号1に記載されるものであってもよい。
【0021】
本方法はさらに、TPK-loxP+/+標的動物をCamK2α-Cre/ERT2+/-標的動物と交配し、TPK遺伝子の条件付きノックアウトを有するCamK2α-Cre/ERT2+/-;TPK-loxP+/+標的動物を得る工程を含んでいてもよい。
【0022】
非疾患治療目的の神経変性疾患の研究における動物モデルの構築のための上記方法により得られた動物モデルの使用。
【0023】
神経変性疾患はアルツハイマー病であってもよい。
【0024】
動物モデルのためのターゲティングベクターを構築する方法であって、細菌人工染色体をベクターとして用い、TPK遺伝子のエクソンと相同な配列の両端に、ネオマイシン耐性遺伝子配列と共に直接loxP配列を挿入する、方法。
【0025】
エクソンはエクソン4であってもよい。
【0026】
ターゲティングベクターの配列は配列番号1に記載されるものであってもよい。
【0027】
動物モデルのためのターゲティングベクターを構築するための、上記方法により構築されたターゲティングベクター。
【0028】
本発明は、ADの新規な治療標的を提供し、本発明の特定の実施形態は、脳におけるTPKタンパク質のキナーゼ活性及び/又は発現レベルを促進することによって、TPKタンパク質レベルに対する阻害によって引き起こされるAD症状(例えば、認知退行、ニューロンの喪失、グリア細胞の活性化、シナプス機能障害、Aβの蓄積の増加、タウタンパク質の異常なリン酸化の増加等を引き起こすチアミン代謝異常、グルコース代謝異常)を治療又は予防することができる。AD研究のための既存の動物モデルの制限及び現在のチアミン欠乏動物モデルの欠点に関して、本発明の特定の実施形態の動物モデルの構築方法は、TPK遺伝子ノックアウトによって、脳のグルコース代謝の低下が誘導され、認知退行を引き起こす、ニューロンの喪失、グリア細胞の活性化、シナプス機能障害、Aβの増加、タウタンパク質の異常なリン酸化の増加等を引き起こす、新規な脳のチアミン欠乏動物モデルを構築する。動物モデルは、AD様の慢性の複数の病態生理学的変化をシミュレートすることができ、ADの発生及び発達におけるTDP欠乏及びグルコース代謝異常の役割並びに異なるADの病態生理学的変化間の相関を研究するために使用することができ、AD研究を広げ、ADの病因を研究し、疾患の診断のための新規な分子マーカー及び医薬品の治療標的等を探索するために非常に重要な科学的意義及び応用価値を有する。
【0029】
図面の簡単な説明
本発明の実施例又は先行技術の技術的解決手段をより明確に説明するために、実施例で使用される図面を以下に簡単に示す。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、実施例1のTDモデルのマウスにおける脳、血液、肝臓及び腎臓におけるTDP、TMP及びTMレベルの比較を示す。
【
図2】
図2は、実施例1のPTDモデルのマウスにおける脳、血液、肝臓及び腎臓におけるTDP、TMP及びTMレベルの比較を示す。
【
図3】
図3は、実施例1における正常マウスの脳及び血液、肝臓及び腎臓におけるTPK酵素の活性の比較を示す。
【
図4】
図4は、Ampがアンピシリン耐性遺伝子配列であり、NotIが制限エンドヌクレアーゼ標的部位であり、3’アーム及び5’アームがエクソン4に隣接する相同配列であり、Neo Cassetteがネオマイシン耐性遺伝子コード配列であり、loxP配列がノックアウトされる断片を位置決定し標的化するためのものであり、FrtがFlpがNeo配列を切断するための認識部位である、実施例2において使用される標的ベクターのプラスミドマップを示す。
【
図5】
図5は、実施例2におけるCamK2α-Cre/ERT2+/-;TPK-loxP+/+マウスの調製のための簡単なフローチャートを示し、ここで、1は、得られた標的ベクターの胚性幹細胞への電気的形質転換であり;2は、正しい陽性クローンの選択であり;3は、Neo配列を除去してCamK2α-Cre/ERT2+/-;Tpk-loxP+/+マウスを得るためのFlpマウスとの交配である。
【
図6】
図6はTPK及びTDP発現に対するTPK遺伝子ノックアウトの影響を示し、ここで、aはWTマウスがTPK
fl/flマウス、すなわちTPK-loxP+/+マウスであり、CamkII-KOマウスがCamK2α-Cre/ERT2+/-であり;Tpk-loxP+/+マウスがTPKノックアウトマウスであり;bはTPK-floxマウスの遺伝子ノックアウト構造を示し;c-dはCamkII-KOマウス及びWTマウスにおけるTPK酵素活性の発現量の比較を示し;e-fはCamkII-KOマウス及びWTマウスにおけるTDP、TMP及びTMの発現量の比較、g-iはCamK2α-Cre/ERT2+/-マウスをルシフェラーゼレポーターマウスAi9と交配して得られたCamK2α-Cre/ERT2+/-を示し;CreはAi9マウスでは主に皮質と海馬で発現しているが、小脳と脳幹では発現していない。
【
図7】
図7は、実施例2において、TomaxifenがTPK遺伝子ノックアウトを誘導してからそれぞれ1、2、2.5ヶ月後に実施したFDG-PET検査、耐糖能異常並びに体重変化及び空腹時血糖変化を示し、ここで、a-fは、TomaxifenがTPK遺伝子ノックアウトを誘導してから1、2、2.5ヶ月後の脳領域におけるグルコース代謝の変化のFDG-PET評価であり;g-jは、TomaxifenがTPK遺伝子ノックアウトを誘導してから1、2、2.5ヶ月後の耐糖能異常であり;k-lは、TomaxifenがTPK遺伝子ノックアウトを誘導してから1、2、2.5ヶ月後の体重変化及び空腹時血糖変化である。
【
図8】
図8は、実施例2におけるTPK遺伝子ノックアウト後の解糖及びトリカルボン酸回路障害の結果を示す。
【
図9】
図9は実施例2におけるTPK遺伝子ノックアウト前後の病理検査の結果を示し、ここで、a-cはTPK遺伝子ノックアウトマウスの皮質表面積及び重量の変化を示し;dはTPK遺伝子ノックアウトマウスのニューロンの変化を示し;eはTPK遺伝子ノックアウトマウスのTunel陽性細胞の変化の結果を示し;fはTPK遺伝子ノックアウトマウスの認知障害結果のY迷路評価を示す。
【
図10】
図10は、実施例2におけるTPK遺伝子ノックアウト前後に引き起こされるAβ及びタウの病的変化の結果を示し、ここで、a-cはTPK遺伝子ノックアウト前後の可溶性及び不溶性のAβ40及びAβ42レベル並びにAβ40/Aβ42比のELISA検出を示し;d-eはWB及びRT-PCR検出によるTPK遺伝子ノックアウト前後の海馬及び皮質におけるAPP及びBacelのタンパク質発現レベル及びmRNAレベルの変化を示し;fは免疫蛍光染色検出によるTPK遺伝子ノックアウト前後の皮質及び海馬におけるリン酸化Tauレベルの変化を示す。
【
図11】
図11は、実施例2におけるTPK遺伝子ノックアウト前後に引き起こされた血管の神経炎症応答及び機能障害の結果を示し、ここで、a-dは、IHC検出によるTPK遺伝子ノックアウト前後のマウス皮質及び海馬におけるミクログリア細胞及びアストロサイトの活性化及び増殖を示し;e-fは、RT-PCR検出によるTPK遺伝子ノックアウト前後のマウス海馬及び皮質におけるIbal及びGFAP mRNAレベルを示し;g-jは、免疫蛍光染色検出によるTPK遺伝子ノックアウト前後のマウス皮質及び海馬における血管形態及び血管IgG漏出を示す。
【
図12】
図12は、実施例3におけるTPK過剰発現プラスミドを示す。
【
図13】
図13は、実施例3における24時間後及び48時間後のHEK293-APP細胞株におけるTPK過剰発現プラスミド及びその対照群のWB検出結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
具体的な実施形態
AD患者は、脳内に複数のカスケード型病態生理学的変化を有しており、脳グルコース代謝異常は、その一貫した病理学的特徴であり、認知機能の退行と密接に関連し、臨床症状より何年も前から現れる。グルコースは、脳内細胞の主要なエネルギー基質であり、グルコース代謝の中間産物も神経伝達物質の合成の基質を提供する。脳内グルコース代謝は主に2つのプロセスを含み、それは、それぞれ、膜透過輸送とグルコースの細胞内代謝である。AD患者の細胞内グルコース利用障害は、主にグルコース代謝の主要な酵素であるトランスケトラーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼの活性低下によるものである。チアミン二リン酸(TDP)は、チアミンの主要な活性化型であるが、これら3つの主要な酵素の共通の補酵素であり、グルコース代謝に重要な役割を果たしている。上記の3つの主要な酵素の活性低下及びTDPの顕著な欠落は、AD患者に特異的かつ普遍的であり、血管性認知症、前頭側頭型認知症、パーキンソン病の患者には存在しない。チアミンピロホスホキナーゼ(TPK)は、TDP合成の主要な酵素であるのみならず、脳内におけるTDPの恒常性を維持するための重要な因子である。本発明者は、さらなる研究を通じて、TDPレベルの欠乏による脳グルコース代謝の低下がADの発症に関連すること、ADがTPKタンパク質の発現に関連することを見出した。さらに、TPK遺伝子ノックアウトによる脳内TPKタンパク質量の抑制は、明らかにチアミン代謝障害、グルコース代謝異常をもたらし、さらに重要なことは、AD様の神経変性疾患、脳萎縮、Aβやタウの病理学的変化、神経炎症、神経血管障害を誘導することができる。したがって、TPK遺伝子又はタンパク質は、ADにおいて非常に重要な役割を果たし、それゆえ、ADを治療及び予防するための新しい標的となる。TPK遺伝子又はタンパク質を標的として脳内のTPKタンパク質のキナーゼ活性及び/又は発現量を促進させることにより、TPKタンパク質阻害によるADを予防することができる。標的動物におけるTPK遺伝子ノックアウトによる動物モデルの構築方法により得られた動物モデルは、神経変性疾患の研究、特にアルツハイマー病の研究に用いることができ、これには、疾患治療研究及び非疾患治療研究を含む。動物モデルにおける非疾患治療研究には、具体的には、例えば、1)神経変性疾患のメカニズムを調査及び/又は研究すること、2)神経変性疾患を治療することができる産物を調製及び/又はスクリーニングすること、3)神経変性疾患を診断及び/又は示唆することができる分子マーカーを探索及び検証すること、等が含まれる。
【0032】
本発明の特定の実施形態において、脳におけるTPKタンパク質の発現レベルの促進は、限定されるものではないが、TPKタンパク質の発現を阻害から予防すること、TPKタンパク質の発現レベルを増加させること、TPKタンパク質の活性を増加させること、又はTPKタンパク質の安定性を増加させることを含む。
【0033】
本発明の特定の実施形態において、脳におけるTPKタンパク質の発現レベルを促進する試薬は、TPKタンパク質を調節する試薬であってもよく、またTPK遺伝子を調節する試薬であってもよい。この試薬は、限定されるものではないが、脳におけるTPKタンパク質の発現レベルを促進するための促進剤、アゴニスト、アクチベーターを含む。試薬は、化合物、化学的小分子、生体分子等であってもよく、具体的には、例えば、TPKタンパク質を調節する試薬(例えば、TPK結合タンパク質)、TPK、又はTPKを改変するための酵素等の化学的アゴニスト、TPK遺伝子を調節する試薬(例えば、TPK遺伝子の複製又は転写を活性化する物質、TPK遺伝子の発現を増加させる物質、TPK遺伝子のプロモーターを促進する上方調節剤、TPK遺伝子の特異的過剰発現のためのタンパク質)であってもよい。
【0034】
本発明の特定の実施形態において、医薬は、脳におけるTPKタンパク質の発現レベルを促進する安全かつ有効な用量の試薬及び薬学的に受容可能なキャリアを含み得る。医薬製剤は、通常、投与に適合し、製剤の剤形は、注射剤、経口製剤(錠剤、カプセル剤、経口液剤)、経皮製剤又は徐放性製剤であり得る。
【0035】
本発明の特定の実施形態において、標的動物は、霊長類又は齧歯類等を含む非ヒト動物であり、さらにマウスである。本方法では、TPK遺伝子のエクソン4をノックアウトし、マウスでは、TPK遺伝子は合計9個のエクソンを有し、ATGはエクソン2に位置し、終止コドンはエクソン9に位置し、エクソン4がノックアウトの標的として選択される一方で、ノックアウトされたエクソン配列は3の整数倍ではなく、下流の読み枠にフレームシフト変異を生じさせることができる;他方で、選択されたエクソンが翻訳開始部位に近いほど、遺伝子の機能は保持されにくい。
【0036】
本発明の特定の実施形態は、改変Cre-loxPリコンビナーゼ系を用いて、TPK遺伝子の条件付きノックアウトのための動物モデルを確立することができるものであり、TPK-loxP遺伝子ノックアウトのための標的ベクターを構築し、該標的ベクターを標的動物に導入してTPK-loxP+/+標的動物を得て、該TPK-loxP+/+標的動物とCamK2α-Cre/ERT2+/-標的動物と交配してTPK遺伝子の条件付きノックアウトを有するCamK2α-Cre/ERT2+/-;TPK-loxP+/+標的動物をするステップを含む。特に、ベクターとして細菌人工染色体を用いることができ、適当なエクソンの相同配列に並列して直接loxP配列及びネオマイシン耐性遺伝子の配列を挿入し;標的ベクターを胚性幹(ES)細胞にエレクトロトランスフォーメーションにより形質転換し;正しい部位に位置する正しい配列で形質転換されたES細胞を抗生物質耐性のスクリーニング、PCR及びサザンブロットにより同定し;陽性クローンを標的動物の胚盤胞にマイクロインジェクトし、成功裏にインジェクトされた胚盤胞を標的動物の子宮内に移植して、ES細胞を組み込まれたキメラ標的動物を作製し;得られたキメラ標的動物をFlpツール標的動物と交配し、ネオマイシン耐性遺伝子の配列を誘導により切断し、精製してノックアウト能を有するTPK-loxP+/+標的動物を得ることができ;変異型エストロゲン受容体エレメント(LBD-ER)とを組み合わせたCamK2αを有するCreツール標的動物を上記TPK-loxP+/+標的動物と交配するために選択し;同定した上で安定に遺伝したCamK2α-Cre/ERT2+/-;TPK-loxP+/+標的動物が得られる。
【0037】
本発明の特定の実施形態では、細菌人工染色体をベクターとして用い、TPK遺伝子のエクソンに相同な配列の両端に、ネオマイシン耐性遺伝子配列とともに直接loxP配列を挿入した、動物モデルのターゲティングベクターの構築方法を提供する。
【0038】
本発明の動物モデルのための標的ベクターを構築するための方法の特定の実施形態において、エクソンはエクソン4であり、以下の標的配列が構築される:「5’-相同アーム-loxP-エクソン4-frt-ネオ-frt-loxP-相同アーム-3’」。
【0039】
本発明の動物モデルのための標的ベクターを構築するための方法の特定の実施形態において、標的ベクターの配列は配列番号1に記載される。
【0040】
本発明の特定の実施形態では、上記動物モデルの標的化ベクターの構築方法によって得られる動物モデルの標的化ベクターも提供される。
【実施例】
【0041】
本発明は、以下の実施例に基づいてさらに説明される。
【0042】
例1
単純チアミン食欠乏(TD)モデル、及びピリチアミン注入(PTD)と組み合わせた、チアミン食欠乏モデルを用いて、それぞれ、実験を行った。TD及びPTDモデルの動的変化を追跡した。TD 11日、18日、26日及びPTD 7日、11日を含む6群(n=4)を比較のために設定した。同日に出生し、体重が類似している3か月齢のC57マウスを選択した。グループ分けに応じて異なるモデリング開始時点を選択し、最終的には同日にモデリングを完了し、サンプリングも同様とした。TDモデル:正常飲料水及びチアミン欠乏飼料でそれぞれ11日間、18日間及び26日間モデリング;PTDモデル:正常飲料水、チアミン欠乏飼料、及び500μg/(kg・d)の用量で0.1mg/mLのPT(ピリチアミン)の毎日の腹腔内注射でそれぞれ7日間及び11日間モデリング;対照群:正常飲料水、正常飼料及び正常生理食塩水の腹腔内注射。モデリングが完了したら、マウスをイソフルランの吸入で麻酔し、眼を摘出し、ヘパリン抗凝固剤を含む試験管に採血し、それを急速に転倒させて混合した。150μL全血に等量の7.5%PCAを添加し、ボルテックスで混合した。マウスを氷上で頸椎脱臼により急速に屠殺し、脳、腎臓、肝組織等を採取して重量を測定した。組織の重量を記録した。組織をKH2PO4と、組織:(mg)KH2PO4(μL)=100:900の比で混合し、70Hzで90秒間、組織グラインダーで粉砕し、30分間完全に粉砕した後に氷浴に供し、使用するまで-80℃で保存した。TD及びPTDモデルにおいて、マウスの脳、血液、肝臓、及び腎臓におけるTDP、TMP及びTM活性の比較を
図1及び
図2に示し、正常マウスの脳、血液、肝臓、及び腎臓におけるTPK活性の比較を
図3に示した。
【0043】
以上の実験から、TDモデルでは、血液、肝臓、腎臓と比較して、脳においてTDPレベルの低下が有意に遅いという特徴が示され、脳におけるTDPの喪失に対する保護が示唆された(
図1参照)。PTDモデルでは、TPKの特異的阻害剤であるPTが、体内のTDPのホメオスタシス、特に脳におけるTDPレベルを損傷する可能性がある(
図2参照)。正常マウスの異なる組織でのチアミンピロホスホキナーゼ(TPK)活性のさらなる検出により、TPK活性が脳で最も高いことが見出され(
図3)、脳組織に特異的なTPKの高い活性が脳におけるTDPホメオスタシス維持の鍵であったと推測される。
【0044】
例2
1.ターゲティングベクターの構築
ベクターには細菌人工染色体(BAC)を用い、エクソン4に隣接するイントロンを相同アームとして構築した標的配列「5’-相同アーム-loxP-エクソン4-frt-Neo-frt-loxP-相同アーム-3’」を挿入し、遺伝子ノックアウトのための標的ベクターを構築する(
図4参照)。
【0045】
2.CamK2α-Cre/ERT2+/-;TPK-loxP+/+マウスの構築(
図5参照)
TPK-floxP+/-胚幹細胞の入手及びスクリーニング
(1)マウス胚性幹細胞(ES)の作製
栄養膜細胞としての一次マウスはい線維芽細胞を、ES細胞を解凍する前日に0.1%ゼラチンで処理した皿に接種し、1000U/mLの濃度でLIFを添加した細胞培養ブロス中で培養した。
【0046】
(2)ES細胞の形質転換
[1]ES細胞をパンクレアチンで消化した後、PBS(約2×10^7/mL)に再懸濁し、氷上に置いた;
[2]線形化標的ベクター(45μg)を1mL細胞と混合し、エレクトロポレーションタンクに装填し、600V、25μF、10msのパラメーターでエレクトロトランスフォーメーションを実施した;
[3]エレクトロトランスフォーメーション後の細胞を、完全に密集したトロホブラストを有するディッシュに接種し、37℃のインキュベーターに入れ、G418(280μg/mL)を含有する細胞スクリーニングブロスを添加して、24時間後に置換した。
【0047】
(3)ES陽性クローンのピックアップ及び増幅
培養数日後にクローンの選択を開始し、単一の未分化ESクローンを低倍率顕微鏡下で選択し、以下の培養のために96ウェルプレートに配置した;各クローンを2つに分け、1つを凍結保存し、もう1つを増幅及び継代培養のために24ウェルプレートに移した。
【0048】
(4)標的ES細胞のPCR法及びサザンブロット法による同定
G418耐性の陽性クローンを選択して増幅し、ゲノムDNAを抽出して酵素消化し、アガロースゲル電気泳動のバンドを解析した。その後、Tpk exon4の5’及び3’末端を標的とするプローブを用いてサザンブロットを行い、対照ES細胞と標的ES細胞とを区別するバンドにしたがって同定を行った。ここで、
PCR同定のためのプライマーは以下のとおりであった:
【0049】
【0050】
サザンブロット用の5’及び3’プローブを調製するためのプライマーは以下のものであった:
【0051】
【0052】
胚盤胞マイクロインジェクションによるTPK-floxPキメラマウスの構築
(1)マウス胚盤胞の調製
4週齢のC57BL/6雌マウスを選抜し、正午に10IUのゴナドトロピンを腹腔内に注射した。48時間後に10IUのヒト絨毛性ゴナドトロピンを注射し、雌マウスを雄マウスとともにケージに入れた。次の日の朝に、雌マウスの膣栓の有無を検査し(0.5日と記録)、3日後に膣栓を有する雌マウスを殺処分し、子宮を摘出し、胚盤胞をBMOC-3培養液で洗浄した後、60mmのディッシュに滴下した培養液に胚盤胞を移し、鉱物油覆った。胞胚腔に拡大させた後、マイクロインジェクションを行った。
【0053】
(2)胚盤胞へのマイクロインジェクション
マイクロインジェクション用の保持ピペット及び注入ピペットを準備した。インジェクションの3時間前に、インジェクション用のES細胞に、置換用の新鮮な培養液を添加した。パンクレアチン消化の際に単一細胞懸濁液を調製した。明るい表面を有する小型及び円形のES細胞をインジェクションのために選択し、各胚に約12個から15個のES細胞を注射し、注射された胚盤胞は一般に1時間培養後に正常な形態を回復し、形態が損傷していない胚盤胞を移植のために選択した。
【0054】
(3)胚盤胞移植
偽妊娠マウスの作製:白の昆明種の雌マウスを精管結紮した雄マウスと交配し、翌日(0.5日と記録)に膣栓検査を行った。2日後には偽妊娠マウスを胚移植に用いることができる。偽妊娠マウスをイソフルランで麻酔し、10個の注入された胚盤胞を一側子宮に移植するために背部手術を行った。手術が成功した場合、17日後に新生児マウスが誕生する可能性があり、数日後の毛の色から、標的ES細胞を組み込んだTPK-floxPキメラマウスが得られたか否かを視覚的に判定することが可能であり、全体の毛に対する褐色の毛の割合からキメラの度合いを推定した。
【0055】
TPK-loxP+/+キメラマウスの取得
得られたTPK-floxPキメラマウスをFlpツールマウスと交配したところ、Flpツール酵素はFrt部位でNeo配列の開裂を誘導でき、純化により、ノックアウト可能なTpk-loxP+/+ホモ接合マウスが得られた。
【0056】
CamK2α-Cre/ERT2+/-;Tpk-loxP+/+マウスの入手
(1)上記の操作により得られ、確認されたTpk-loxP+/+マウスは、Tpkノックアウトを達成することができる;
(2)Tpk-loxP+/+マウスとCamK2α-Cre/ERT2+/-マウスを交配して、CamK2α-Cre/ERT2+/-;Tpk-loxP+/+マウスを得て、これを遺伝的に同定し、交配した。
【0057】
【0058】
条件付きTPK遺伝子の条件付きノックアウトを有するマウスの表現型
CamkII-Cre/ERT2+/-マウスとの交配により皮質と海馬に特異的なTPK遺伝子ノックアウトを行い、3ヶ月齢のマウスにTomaxifenを腹腔内投与してTPK遺伝子ノックアウトを誘導した。TPK遺伝子ノックアウトマウスの表現型解析を行、その結果を
図6から
図11に示す。
【0059】
図6を参照すると、TomaxifenがTPK遺伝子ノックアウトを誘導してから2.5ヶ月後に、脳内のTPKタンパク質レベル及びTDPレベルを、チアミンレベルに影響を与えることなく有意に低下させることができる。
図7を参照すると、TomaxifenがTPK遺伝子ノックアウトを誘導してからそれぞれ1、2、2.5ヶ月後にFDG-PETを実施したところ、血中グルコースアッセイ及びグルコース耐性試験により、TPKノックアウトマウスが有意な脳グルコース代謝障害、末梢グルコース恒常性障害及び耐糖能障害を示すことが見出された。
図8を参照すると、メタボノミクス研究により、TPK遺伝子ノックアウトが解糖及びトリカルボン酸回路障害を引き起こすことが示された。
図9を参照すると、病理学的検出により、TPK遺伝子ノックアウトが脳萎縮、シナプス及びニューロンの大幅な喪失、Tunel陽性細胞の増加、染色体凝縮及び核凝縮を有意に引き起こすことが示された。
図10を参照すると、ADに必須であるAβ及びタウの病理学的研究により、TPK遺伝子ノックアウトがAβ40及びAβ42の産生を有意に増加させることが示され、この増加は主にAPP発現及びBace1タンパク質レベルの増加及びTauタンパク質リン酸化の増加によって達成されることが示された。
図11を参照すると、ADの発生及び発症には炎症反応が重要な役割を果たしており、TPK遺伝子ノックアウトマウスではアストロサイト及びミクログリア細胞の有意な活性化及び脳皮質及び海馬における炎症因子の発現増加が認められた;一方、TPK遺伝子ノックアウトは神経血管障害及び血管透過性の増加をもたらした。結論として、脳TDPホメオスタシス調節の鍵酵素であるTPK遺伝子のノックアウトは、チアミン代謝障害、グルコース代謝障害を有意にもたらす可能性があり、さらに重要なことに、AD様神経変性疾患、脳萎縮、Aβ及びタウの病理的変化、神経炎症及び神経血管障害を、驚くべきことに誘導する可能性がある。
【0060】
例3
本実施例における抗体の情報は以下のとおりであった。
【0061】
【0062】
本実施例における試薬の情報は以下のとおりである。
【0063】
【0064】
1.TPK過剰発現プラスミドの構築
ヒト由来のHEK293細胞から逆転写により作製したcDNAからヒトTPK配列をPCRにより増幅し、PCR増幅産物を制限エンドヌクレアーゼ(5’:BamHI-HF(緩衝液4)、3’:ClaI(緩衝液4+BSA))で消化した後、732bpの標的遺伝子配列断片TPK1(NM_022445)(配列番号14)を得た。コード配列のC末端に8個のMycタグの反復配列を挿入してTPK1-Mycを生成し、標的断片をpCS2ベクターにクローニングし、次いでTPK過剰発現プラスミドを構築した(
図12参照)。
【0065】
PCR増幅用のプライマー:
フォワードプライマー:AT-GGATCC(BamHI)-ACCATGGAGCATGCCTTTACCCCG(配列番号15);
リバースプライマー:AT-ATCGAT(ClaI)-GGCTTTTGATGGCCATGGTCCA(配列番号16)。
【0066】
2.HEK293-APP細胞及び培養
1)HEK293-APP細胞を10cmのディッシュ中で培養し、ディッシュ中の培地を少なくとも90%の付着細胞の集密度になるまで除去した。付着細胞を1mLの37℃で予備加熱した1×PBS緩衝液で穏やかに洗浄し、続いてPBSを除去し、次いで、0.25%の質量体積%濃度を有する1mLの37℃で予備加熱したトリプシン-EDTAをディッシュに添加し、次にこれを穏やかにシェイクして、消化液を付着細胞と完全に接触させた。HEK293-APP細胞を室温に置いたが、消化には約2分から4分しか必要としなかった。
2)10%FBS(体積%濃度)を含む37℃で予備加熱した4mLのDMEM培地を添加して消化を終了させた後、穏やかに上下にピペッティングした。HEK293-APP細胞懸濁液を収集し、1000rpmで5分間遠心分離した。
3)上清を廃棄し、HEK293-APP細胞をそれぞれ1mlのチップで穏やかに上下させて分散させた。
4)実験条件に従って、3)のHEK293-APP細胞を12ウェルプレートに150,000個/ウェルで接種し、2日間培養後、75%から85%の集密度に接着成長させた後、以下のリポソームトランスフェクション実験を行った。
【0067】
3.リポソームトランスフェクション実験
1)-20°Cからプラスミドを取り出し、常温で溶解し、13,000rpm、室温で3分間遠心分離した。
2)プラスミド溶液の調製:X806(TPK過剰発現プラスミド(1.218μg/μl))とCtrlプラスミド(空の対照プラスミド(1.21μg/μl))をそれぞれopti-MEM培地に1:50の質量体積比でプレミックスした。
3)リポソーム溶液の調製:リポフェクタミン2000をopti-MEM培地に1:50質量体積比で混合した。
4)等容量のプラスミド溶液とリポソーム溶液を混合し、室温で20分間放置して、プラスミドとリポソームの複合体を形成した。混合物は6時間安定であった。
5)12ウェルの細胞培養プレートに、1ウェル当たり合計150μlの混合物を添加した。蓄積を避けるために、混合物を上下にピペッティングするか、プレートを前後に振とうした。
6)プラスミド-リポソーム混合物を添加したHEK293-APP細胞を二酸化炭素インキュベーター中に24時間及び48時間置いた後、細胞からのタンパク質試料の収集、処理及び試験を行った。
【0068】
4.HEK293-APP細胞のタンパク質試料の採取及び処理
リポソームでトランスフェクトしたHEK293-APP細胞を24時間及び48時間培養した後、37℃に予熱した1×PBSで3回洗浄した。PBSを廃棄し、100μlのRIPA溶解溶液(プロテアーゼ阻害剤PMSFを含む)を12ウェル細胞培養プレートの各ウェルに添加した。RIPA溶解溶液を細胞と完全に接触させた後、5分間氷上に置いた。細胞を細胞スクレーパー又はチップでこすり落とした後、チューブに採取し、4℃、13,000rpmで15分間遠心分離した。沈殿物を廃棄し、タンパク質上清を回収し、そのタンパク質濃度をBCAキットで測定した後、次いで、ウェスタンブロットにより標的タンパク質の発現を検出した。
【0069】
5.ウェスタンブロット検出
HEK293-APP細胞株における24時間(TPK OVER-1)及び48時間(TPK OVER-1)のTPKプラスミドの過剰発現がWB法により検出された。検出の具体的方法は以下のとおりである。
【0070】
1)ゲルの調製:トップゲル(質量体積濃度5%)、ボトムゲル(質量体積濃度10%)。
2)電気泳動:1×泳動緩衝液、90Vで20分間から30分間泳動後、次いで、120Vで60分間から90分間泳動。
3)膜への転移:PVDF膜を活性化のためにメタノール中に置き、続いて400mAの定電流で100分間ポリアクリルアミドゲルから固体支持体、PVDF膜にタンパク質を移動させた。
4)抗体反応:PVDFを5%BSA(TBST中の質量体積百分率濃度)で2時間ブロッキングし、一次抗体を加え、4℃で一晩置いた。1×TBSTで10分間3回洗浄した後、PVDF膜を5%BSA(TBST中)で希釈した二次抗体とともに室温で2時間インキュベートし、続いて1×TBSTで10分間3回洗浄した。
5)ECL現像液:CLiNX発光装置(CLiNX、Chemi scopeseries 6000)を用いて現像を行った。
【0071】
統計的分析によりT-検定を採用した。WB試験の結果、HEK293-APP細胞におけるAPPタンパク質の発現を有意に減少し、全ての比較において有意差が認められた(*p<0.05;**p<0.01)(
図13参照)。
【0072】
TPKの過剰発現は、HEK293-APP細胞におけるAPPタンパク質の発現量を低下させる可能性があり、APPタンパク質のレベルは、24時間群及び48時間群の両方において、ブランク対照群と比較して有意差をもって減少し、TPK過剰発現プラスミドがHEK293-APP細胞におけるAPPタンパク質の発現レベルを阻害し得ることが示された。よって、TPK過剰発現は、HEK293-APP細胞におけるAPPタンパク質の発現レベルを減少させることができる。
【0073】
上記は、単に本発明の好ましい実施形態である。当業者は、本発明の原理を超えることなく、本発明をさらに改変及び改良することができることに留意されたく、改変及び改良された発明もまた、本発明の範囲内にあるとみなされるものとする。
【配列表】