(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】2ストローク内燃エンジン及び方法並びにモータサイクル
(51)【国際特許分類】
F02D 41/34 20060101AFI20240227BHJP
F02B 25/14 20060101ALI20240227BHJP
F02M 69/00 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
F02D41/34 100
F02B25/14 Z
F02M69/00 350P
(21)【出願番号】P 2019543061
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(86)【国際出願番号】 EP2018053275
(87)【国際公開番号】W WO2018146251
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-03-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】102017102792.0
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516256272
【氏名又は名称】ケーティーエム アーゲー
【氏名又は名称原語表記】KTM AG
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】レール,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ドロシュナー,エルムート
(72)【発明者】
【氏名】メイローファー,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】スパツェネッガー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ラスゲブ,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ダーントゥル,ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】ホルツライトナー,バーント
(72)【発明者】
【氏名】ゴルバック,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】フォースター,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィエルトルマイール,ミハエル
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】吉村 俊厚
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-90369(JP,A)
【文献】特開平5-65860(JP,A)
【文献】特開2010-25083(JP,A)
【文献】特開2010-25084(JP,A)
【文献】欧州特許第0302045(EP,B1)
【文献】特開昭60-147549(JP,A)
【文献】特開昭61-53427(JP,A)
【文献】特開昭61-123743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D41/00-41/40
F02D43/00-45/00
F02B25/00-25/28
F02M39/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室(2)と排出口(8)とを備えている少なくとも1個のシリンダ(3)と、クランクシャフト(6)を備えているクランクハウジング(7)と、を有し、前記クランクハウジング(7)が少なくとも1個の掃気ポート(9、10)を介して前記燃焼室(2)と流路として接続されている2ストローク内燃エンジン(1)であって、
前記2ストローク内燃エンジン(1)は、
シリンダ(3)毎に2個の噴射器(13、14)を有し、前記2ストローク内燃エンジン(1)が動作しているときの
所定閾値より低い第1のエンジン負荷ではただ1個の前記噴射器(13または14)によって、前記
所定閾値より高い第2のエンジン負荷では2個
同時使用の前記噴射器(13、14)によって燃料が導入可能であり、
前記2ストローク内燃エンジン(1)は、シリンダ(3)毎に2個の掃気ポート(10、10)を有し、それぞれの掃気ポート(10、10)には、前記2個の噴射
器(13、14)の1つが設けられ、
前記2ストローク内燃エンジン(1)が、前記噴射器(13、14)によって前記クランクハウジング(7)から前記燃焼室(2)内への流れの方向に対して概ね反対方向に燃料を前記掃気ポート(10、10)に噴射するように形成されて
おり、
前記噴射器(13、14)のそれぞれが、少なくとも1個の円錐状の燃料ジェット(21)を生成し、前記噴射器(13、14)は、前記燃料ジェット(21)が前記掃気ポート(10、10)の壁(22)と交わらないように配置されている
ことを特徴とする、2ストローク内燃エンジン(1)。
【請求項2】
前記2ストローク内燃エンジン(1)が、前記第1のエンジン負荷では2個の前記噴射器(13、14)によって燃料サイクル毎に交互に燃料が噴射されるように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の2ストローク内燃エンジン(1)。
【請求項3】
前記2ストローク内燃エンジン(1)が、前記クランクシャフト(6)の全回転の一部分に対応するクランクシャフト角度内で燃料を噴射するように形成されており、前記一部分は
、クランクシャフト角度の5度からクランクシャフト角度の350度であることを特徴とする、請求項1または2に記載の2ストローク内燃エンジン(1)。
【請求項4】
前記2ストローク内燃エンジン(1)が、前記2ストローク内燃エンジン(1)の最大負荷の7パーセントから40パーセントの前記2ストローク内燃エンジン(1)のエンジン負荷の領域で、ただ1個の前記噴射器(13または14)によって燃料を噴射するように形成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の2ストローク内燃エンジン(1)。
【請求項5】
前記2ストローク内燃エンジン(1)が、前記クランクシャフト(6)の全回転に対応するクランクシャフト角度の一部分で燃料を噴射するように形成されており、該一部分は前記2ストローク内燃エンジン(1)の回転速度が増加すると増加することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の2ストローク内燃エンジン(1)。
【請求項6】
前記2ストローク内燃エンジン(1)が、制御装置(33)に機能的に結合しており、前記制御装置(33)は、前記2ストローク内燃エンジン(1)の負荷要求を設定するように形成されており、燃料の噴射は、設定された負荷要求に依存して、1個の前記噴射器(13または14)または2個の前記噴射器(13、14)によって行われることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の2ストローク内燃エンジン(1)。
【請求項7】
負荷要求の設定が、前記2ストローク内燃エンジン(1)の上流にあらかじめ収容されているスロットル機関(17)の開口の決定によって行われることを特徴とする、請求項6に記載の2ストローク内燃エンジン(1)。
【請求項8】
前記2ストローク内燃エンジン(1)は、設定されている負荷要求及び/または前記2ストローク内燃エンジン(1)の回転速度に依存して、1個の前記噴射器(13または14)または2個の前記噴射器(13、14)の燃料の噴射の開始及び/または1個の前記噴射器(13または14)または2個の前記噴射器(13、14)の開口作動の期間を変更するように形成されていることを特徴とする、請求項6または7に記載の2ストローク内燃エンジン(1)。
【請求項9】
前記シリンダ(3)が第1の掃気ポート(9、9)及び第2の掃気ポート(10、10)を備えており、前記第2の掃気ポート(10、10)は、前記排出口(8)に対して、前記第1の掃気ポート(9、9)よりもさらに間隔をあけて配置され
ており、前記噴射器(13、14)は燃料を前記第2の掃気ポート(10、10)に噴射するように配置されていることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の2ストローク内燃エンジン(1)。
【請求項10】
2つの掃気ポート(10、10)と燃焼室(2)と排出口(8)とを備えている少なくとも1個のシリンダ(3)と、クランクシャフト(6)を備えているクランクハウジング(7)と、を有し、前記クランクハウジング(7)が2つの前記掃気ポート(10、10)を介して前記燃焼室(2)と流路として接続されている2ストローク内燃エンジン(1)を動作させる方法であって、
シリンダ(3)毎に2つの噴射
器(13、14)によって前記2ストローク内燃エンジン(1)へ燃料が導入され、
前記2ストローク内燃エンジン(1)が動作しているときの
所定閾値より低い第1のエンジン負荷ではただ1個の前記噴射器(13または14)によって、前記
所定閾値より高い第2のエンジン負荷では2個
同時使用の前記噴射器(13、14)によって燃料が導入可能とされ、
前記噴射器(13、14)によって前記クランクハウジング(7)から前記燃焼室(2)内への流れの方向に対して概ね反対方向に燃料が前記掃気ポート(10、10)に導入され
、
前記噴射器(13、14)のそれぞれが、少なくとも1個の円錐状の燃料ジェット(21)を生成し、前記噴射器(13、14)は、前記燃料ジェット(21)が前記掃気ポート(10、10)の壁(22)と交わらないように配置されている
ことを特徴とする、方法。
【請求項11】
乗用サドル(30)と、前輪(28)と、後輪(29)と、請求項1から
9のいずれか1項に記載の2ストローク内燃エンジン(1)と、を有するモータサイクル(27)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2ストローク内燃エンジンであって、燃焼室と排出口とを備えている少なくとも1個のシリンダと、クランクシャフトを備えているクランクハウジングと、を有し、クランクハウジングは、少なくとも1個の掃気ポートを介して燃焼室と流路として接続されており、請求項1の前提部によれば、内燃エンジンは、クランクハウジングから燃焼室内へのオーバーフロー方向に対して概ね反対に燃料を掃気ポートに噴射するように構成されている2ストローク内燃エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
2ストローク内燃エンジンは、長い間知られており、2ストローク内燃エンジンつまり2ストロークエンジンが、多くの分野で4ストロークエンジンに置き換えられてきたとしても、掃気損失の結果として発生する排気気体内へのHC排出を回避するための対応する開発の対象でもある。その高出力密度のため、2ストローク内燃エンジンは、技術的観点から、そして、実際に、特に、低質量で高パワーの発生に依存している分野、つまり、たとえば、モータサイクルの駆動源の分野、特に、ここでは単に一例として言及するが、オフロードモータサイクルの分野において依然として非常に興味深い。
【0003】
2ストローク内燃エンジンは、特許文献1から知られており、燃料をエンジンのシリンダに供給する2個の噴射器を有しており、そのうち第1の噴射器は、燃料を燃料室内に直接噴射することが可能で、他の噴射器は、燃料を掃気ポート内に、つまりエンジンのクランクハウジングから掃気ポートを通した燃焼室への燃料の流れの方向に噴射することができる。言い換えると、これは、燃料が流れの方向に掃気ポート内に噴射されることを意味している。
【0004】
2ストローク内燃エンジンが、特許文献2から知られており、燃料及び潤滑油の混合物が噴射要素を介して噴射され、それによって少なくとも2個の噴射ジェットが形成され、そのうち、第1の噴射ジェットは、クランクハウジングから燃焼空間の方向への流れの方向で掃気ポート内に向けられ、第2の噴射ジェットはクランク室の方向に向けられている。
【0005】
2ストロークエンジンが、特許文献3から知られており、燃料が噴射器を介して掃気ポート内に、実際に吸気窓の下方の領域、または吸気窓かオーバーフロー窓の高さまで噴射される。
【0006】
2ストローク内燃エンジンが、特許文献4から知られており、燃料が2個の噴射ノズルによってピストンベース上に噴射され、高回転数の場合には、掃気ポート内に噴射される。
【0007】
2ストローク内燃エンジンが、特許文献5から知られており、燃料がクランクハウジングから燃焼室内への流れの方向とは反対に掃気ポート内に噴射される。
【0008】
2ストロークエンジンを有する乗り物が、特許文献6から知られており、燃料を第1の噴射器を介してクランクハウジング内に、第2の噴射器を介して掃気ポートに、実際には上向きの角度、つまり、クランクハウジングから燃焼空間への流れの方向とは反対ではなく、内燃エンジンのクランクハウジングから燃焼室内への流れの方向で見て上向きの角度で導入することができる。
【0009】
2ストロークエンジンが、特許文献7から知られており、燃料が、アイドリング時にはクランクハウジング内に、また、所定の制御時間には掃気ポート内に、実際には掃気ポートの燃焼室に向いている端部に、つまりオーバーフロー方向を横切って噴射される。
【0010】
2ストローク内燃エンジンが、特許文献8から知られており、シリンダあたり2個の噴射器を使用して機能し、燃料が掃気ポート内に、実際には掃気ポートからシリンダまでの吸気窓の領域に、実際には掃気ポートからシリンダへ流れる気流内に噴射される。
【0011】
最後に、2ストローク燃焼エンジンが、特許文献9から知られており、燃料が掃気ポート内に、実際には、クランクハウジングから燃焼室内へのオーバーフロー方向とは概ね反対に噴射され、シリンダのクランクハウジングの外側で混合気が形成されることになる。
【0012】
2ストローク内燃エンジンは、高出力密度を特徴としており、高出力密度を実現するのに必要な燃料について汎用性が高く、したがって低回転速度範囲及び低負荷において必要とする燃料が少なく、一方高負荷の高回転速度範囲においては必要とする燃料が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】米国特許第7 168 401号明細書
【文献】独国特許発明第10 2004 002 161号明細書
【文献】独国特許発明第102 29 365号明細書
【文献】欧州特許第0 302 045号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2008 019 157号明細書
【文献】米国特許第7 089 892号明細書
【文献】独国特許発明第102 20 555号明細書
【文献】米国特許第6 691 649号明細書
【文献】国際公開第2006/007614号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
既知の2ストローク内燃エンジンにおいて、燃料の要求が多い場合は燃焼室内、またはオーバーフロー窓を介して燃焼室に直接接続されている掃気ポートの領域内、のいずれかに燃料を直接噴射することによって、この問題の領域をせいぜい周辺において解決する努力が行われてきた。最初に説明した場合には、燃料は直接燃焼室内に導入され、2番目に説明した場合には、燃料はオーバーフロー窓を介して概ね直接燃焼室内に導入され、燃料―空気密度が高くなる領域となり、それは、一方では実際混合気の燃焼性に応じているが、他方では、HCがエンジンの排気気体内で高密度となる危険性を増す。
【0015】
また、オーバーフロー窓が非常に短時間だけ開くことが原因で燃料が高い噴射圧力で燃料室内に導入された場合、燃焼室内のオーバーフロー窓の反対側のシリンダ壁上に噴射された燃料が壁付着する危険性があり、それは、一方では、2ストロークエンジンの動作に必要な2ストロークオイルを洗い流す危険性を増加させ、したがってピストン詰りの危険性を増加させ、他方では、燃焼室壁上の燃料の壁付着のせいで排気気体内のHCをさらに増加させる。これらの危険性は、燃料を燃焼室内へ直接噴射しても依然として存在する。
【0016】
このことから、本発明の目的は、前述の問題をなくし、単純な構造を特徴とし、2ストロークに典型的な掃気損失を回避し、負荷範囲及び回転速度範囲の全般にわたる高パワーの発生を達成するのに必要な燃料の供給を受けることができる2ストロークエンジンを作ることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的を解決するために、本発明は、請求項1に記載した特徴を有しており;これの有利な実施形態をさらなる請求項に記載している。本発明は、請求項11に記載の2ストローク内燃エンジンを操作する方法及び本発明の2ストローク内燃エンジンを有するモータサイクルを提供する。
【0018】
本発明は、燃焼室と排出口とを備えている少なくとも1個のシリンダと、クランクシャフトを備えているクランクハウジングと、を有し、クランクハウジングが少なくとも1個の掃気ポートを介して燃焼室と流路として接続されている2ストローク内燃エンジンであって、2ストローク内燃エンジンは、シリンダ(3)毎に2個の噴射器を有し、2ストローク内燃エンジンが動作しているときの所定閾値より低い第1のエンジン負荷ではただ1個の噴射器によって、所定閾値より高い第2のエンジン負荷では2個同時使用の噴射器によって燃料が導入可能であり、2ストローク内燃エンジンは、シリンダ毎に2個の掃気ポートを有し、それぞれの掃気ポートには、2個の噴射器の1つが設けられ、2ストローク内燃エンジンが、噴射器によってクランクハウジングから燃焼室内への流れの方向に対して概ね反対方向に燃料を掃気ポートに噴射するように形成されており、噴射器(13、14)のそれぞれが、少なくとも1個の円錐状の燃料ジェット(21)を生成し、噴射器(13、14)は、燃料ジェット(21)が掃気ポート(10、10)の壁(22)と交わらないように配置されている。
【0019】
したがって、2ストローク内燃エンジンによって、燃料は、噴射器または2個の噴射器を介して燃焼室に直接には噴射されないので、燃焼室壁から潤滑油を洗い落とすという問題が回避され、燃焼室壁上への燃料の壁付着が発生することもない。
【0020】
燃料を、クランクハウジングから燃焼室内へのオーバーフロー方向に対して概ね反対に、一個の噴射器によって掃気ポート、またはトランスファー、オーバーフロワー、あるいはトランスファーダクトに噴射することによって、または2個の噴射器によって別個の掃気ポートまたはただ1個の共通の掃気ポートに噴射することによって、トランスファーまたはオーバーフロワー内の非常に高い乱流によって非常に良好な燃料処理が達成され、それによって、排気気体中での未燃焼の炭化水素(HC排出)の形成に対処することができる。
【0021】
燃料をただ1つの噴射器によってトランスファーまたはオーバーフロワー内に導入することによって、中立負荷または低負荷領域の場合の、つまり2ストロークエンジンの燃料の要求が低い場合の本発明の2ストロークエンジンの低燃料要求に対応する。この動作範囲は、第1のエンジン負荷での本発明の2ストロークエンジンの動作に対応している。
【0022】
それに対して、比較的高い負荷要求のために、たとえば本発明の2ストロークエンジンを使用して動作するモータサイクルの使用者による負荷要求のために、本発明の2ストロークエンジンの燃料要求が増加する場合、本発明の2ストロークエンジンの動作は、シリンダあたり2個の噴射器による燃料噴射に移行し、この動作領域は、燃料がただ1個の噴射器によってトランスファーまたはオーバーフロワー内に導入される第1のエンジン負荷よりも高い第2のエンジン負荷での本発明の2ストロークエンジンの動作に対応している。
【0023】
2ストローク特有の高い汎用性が、本発明によって、エンジン負荷に依存して燃料をオーバーフロワー内へ導入できるようにすることによって対応される。ここで、エンジン負荷は、目的のエンジン負荷、つまり本発明のエンジンの使用者によって望まれるようにエンジンによって提供されるエンジン負荷、つまりエンジンのシリンダの行程容積に関連してエンジンが担う仕事とすることができる。
【0024】
エンジンの使用者は、エンジンの空気吸入領域のスロットル開口断面によってエンジンが送達するエンジン負荷に影響を与える。スロットル開口断面は、エンジンの空気吸入領域のスロットル機関の開口によって決定され、最も単純な場合、スロットル機関は、その変位によってスロットル機関の開口断面が変化する空気スライドとすることが可能で;スロットル弁を中心としたピボット運動がスロットル機関の開口断面の変化につながるスロットル弁とすることもできる。
【0025】
したがって、第1のスロットル開口断面は、第1のエンジン負荷に対応できるのに対して、第2のスロットル開口断面は、第2のエンジン負荷に対応できる。スロットル開口断面は、クランクハウジングのクランク室内で達成されるクランクハウジング圧力の変化につながる。本発明の燃焼エンジンの動作モードの切換は、クランクハウジング圧力の決定を介してシリンダ当たり1個の噴射器を使用して、または2個の噴射器を使用して行うことができる。第1のスロットル開口断面、したがって第1のエンジン負荷に対応している第1のクランクハウジング圧力は、燃料を本発明のエンジンにオーバーフロワーつまりトランスファーに噴射することによってのみ燃料が供給されることにつながるのに対して、第2のスロットル開口断面、したがって第2のエンジン負荷に対応している第2のクランクハウジング圧力は、燃料を本発明のエンジンに、2個の噴射器から2個のオーバーフロワーつまりトランスファーに、または2個の噴射器用の1個の共通のオーバーフロワーつまりトランスファーに燃料が供給されることにつながる。
【0026】
本発明の内燃エンジンの動作モードを、ただ1個の噴射器を使用した燃料供給から2個の噴射器を使用した燃料供給に切り替えることによって、また、2個の噴射器を使用した燃料供給からただ1個の噴射器を使用した燃料供給に切り替えることによって、エンジンの負荷に依存して本発明の燃焼エンジンの特定の燃料要求に対応することができる。
【0027】
本発明のさらなる発展形態によれば、内燃エンジンが、2個の噴射器の1個によって交互に燃料を噴射するように構成されている。言い換えると、これは、2ストローク内燃エンジンにそれぞれの動作点で必要な量の燃料を供給するために燃料の量が、ただ1個の噴射器を使用して供給されるときには、燃料は、例えばクランクシャフトの回転の途中に噴射器によって供給され、クランクシャフトの次の回転の途中に他方の噴射器によって供給され;したがって、クランクシャフト回転あたりの燃料供給のために噴射器は交互に使用されることを意味している。燃料が1個の噴射器によって、例えばクランクシャフトの所定の数の回転の間に供給され、燃料が他方の噴射器によって、クランクシャフトの以降のある数の回転の間に供給されるようにすることも可能である。
【0028】
このアプローチは、最適化されている燃料の量が低エンジン負荷で達成され、別段対策を講じない場合に起こる、比較的長い期間燃料が流れない噴射器の汚損を防止できるという利点がある。そのような汚染は、例えば、ブローバイ効果によるクランクハウジング内の排気煙の結果、または2ストローク内燃エンジンの動作に必要な潤滑油がクランクハウジングに進入する結果である。そのような汚染は、ただ1個の噴射器によって燃料が供給される場合でも、2個の噴射器を交互に使用することによって回避することができる。考え得る樹脂の形成つまり噴射器の固着も、燃料内に存在する添加物または成分によって、このようにして防止することが可能で、別段対策を講じない場合に起こる2個の噴射器の機械的負荷の不均等な分配を回避することができる。
【0029】
本発明のさらなる発展形態によれば、内燃エンジンは、クランクシャフトの回転の部分領域、つまり全回転の一部分に対応しているクランクシャフト角度の間に燃料を噴射するように構成されており、部分領域つまり一部分は、クランクシャフト角度の約5度からクランクシャフト角度の約350度、好ましくはクランクシャフト角度の約10度からクランクシャフト角度の約300度、好ましくはクランクシャフト角度の約12度からクランクシャフト角度の約305度であることも実現される。
【0030】
言い換えると、これは、本発明の内燃エンジンは、クランク角度の360度のクランクシャフトの全回転の部分領域つまり一部分に対応しているクランクシャフト角度の間に燃料が噴射されるように構成されており、この部分領域つまり一部分は、クランク角度のわずか約5度の非常に短い時間の窓からクランク角度の350度の非常に長い時間の窓に達することを意味している。したがって、燃料が、実質的にクランクシャフトの全回転の非常に短い噴射時間間隔の間だけに、またはクランクシャフトの全回転に実質的に対応している時間間隔にも噴射され、したがって、完全なクランクシャフトの回転のほぼ全体の時間期間の間に燃料が噴射され、それによって燃料をクランクハウジングのクランク室内に備蓄することもできる。
【0031】
本発明または本発明のさらなる発展形態によれば、噴射間隔がクランク角度の約10度からクランク角度の約330度に達することも実現され、噴射間隔がクランク角度の約12度からクランク角度の約305度までで、行程容積が250立方センチメートルの2ストローク内燃エンジンを使用して非常に良好な結果が得られることも示された。
【0032】
本発明のさらなる発展形態によれば、2ストローク内燃エンジンが、燃焼機械の最大負荷の約7パーセントから約40パーセントの燃焼エンジンのエンジン負荷の領域ではただ1個の噴射器によって燃料を噴射するのに使用されることも実現され、値はエンジン速度に依存して変化する。本発明のエンジンの使用者は、例えば、実際にはそれぞれのエンジン速度に依存して、最大負荷の約40パーセントよりも高い負荷要求では、燃料は両方の噴射器によって噴射されるのに対して、最大負荷の約40パーセント未満の負荷要求では、燃料はただ1個の噴射器によって噴射されるように、エンジンの空気吸入領域に配置されているスロットル機関のスロットル開口断面を変更することによってエンジンで設定されている負荷要求に影響することが可能である。その後、前述のように、それぞれ2個の噴射器の1個による交互の動作において燃料を噴射することができる。したがって、1個の噴射器を使用した動作から2個の噴射器を使用した動作への切り替えとその反対の切り替えは、負荷の約7パーセントから約40パーセントの領域で行われる。
【0033】
エンジン速度の依存性は、ただ1個の噴射器を使用した本発明の2ストローク内燃エンジンの動作からシリンダあたり2個の噴射器を使用した動作への切り換え時間及び2個の噴射器を使用した動作からただ1個の噴射器を使用した動作への切り替えを意味しており、それは、それからエンジン速度に依存して交互に行うことができる。
【0034】
エンジン速度が低いと、1個の噴射器でエンジンの最大負荷の約40パーセントの負荷に対応することができるのに対して、エンジン速度が高いと、最大負荷の約7パーセントのエンジン負荷から2個の噴射器を使用した動作に切り替えられており、最大負荷の7パーセント未満の負荷要求の場合、エンジンをただ1個の噴射器を使用してさらに動作させることができる。
【0035】
本発明のさらなる発展形態によれば、内燃エンジンは燃料を噴射するように本発明によって構成されているのに対して、燃焼エンジンの速度が増加するとクランクシャフトの全回転に対応しているクランクシャフト角度の一部分の領域が増加することも実現される。
【0036】
言い換えると、これは次のことを意味する。すなわち、本発明の燃焼エンジンの速度が増加するのに従って、燃料が1個の噴射器または2個の噴射器によって掃気ポートの中でまたは中へ噴射される時間間隔、つまり360度のクランクシャフトの全回転の部分領域つまり一部分の間隔が長くなり、燃料が1個の噴射器または2個の噴射器を使用して噴射され、それによって燃料は、エンジン速度に依存して、燃焼エンジンを動作させるためにクランクハウジング内にも備蓄される;燃料はまた、掃気ポートからシリンダの燃焼室へのオーバーフロー窓が、ピストンが下死点UTから上死点OTまでシリンダ内を移動している間ピストンによって密封されているときに、掃気ポート内にも噴射される。
【0037】
本発明のさらなる発展形態によれば、内燃エンジンが、制御装置に機能的に結合している、つまり制御装置を備えており、制御装置は内燃エンジンの負荷要求を確定し、燃料の噴射が決定された負荷要求に依存して1個の噴射器または2個の噴射器によって行われるように構成されていることも実現される。したがって、使用者による目的のエンジン負荷つまり目標のエンジン負荷を、制御装置を介して、たとえば、キャブレターまたはスロットルフラップとすることができる流れの技術的な様態で吸入空気を供給するように予め切り換えられているスロットル機関のスロットル開度断面の検出を介して設定し、それから確定されたエンジン負荷に依存して、燃料を掃気ポートまたはオーバーフローチャネルに供給するように1個の噴射器または2個の噴射器のいずれかを制御装置によって作動させることができる。
【0038】
本発明のさらなる発展形態によれば、決定された負荷要求及び/または内燃エンジンの回転速度に依存して、内燃エンジンが、1個の噴射器または2個の噴射器によって、燃料の噴射を開始する及び/または1個の噴射器または2個の噴射器を開くように作動させる時間期間を変更するように構成されることも実現される。
【0039】
したがって、内燃エンジンは、燃料の1個の掃気ポートまたは複数の掃気ポート内への噴射の開始が内燃エンジンのエンジン負荷または確定された負荷要求及び/または現在のエンジン速度に依存して変更されるように噴射器を作動させることができる。したがって、このように確定されている本発明の内燃エンジンの動作パラメータに基づいて、クランク角度の360度の利用可能な間隔内で、燃料が1個の掃気ポートまたは複数の掃気ポート内へ噴射される噴射時間間隔を内燃エンジンはシフト及び/または短縮及び/または延長することができる。
【0040】
ここで、噴射間隔の早い方向へのシフトは、ピストンの下死点UTの方向へ向かう途中のピストンの上死点OTの後の領域において噴射間隔が上向きにシフトされることを意味するのに対して、噴射間隔の遅い方向へのシフトは、ピストンの下死点UTの方向、つまり下死点UTに向かう方向へ向かう途中のピストンの上死点OTの後の領域において噴射間隔が下向きにシフトされることを意味している。
【0041】
本発明のさらなる発展形態によれば、シリンダに第1及び第2の掃気ポートが設けられ、第2の掃気ポートは第1の掃気ポートよりも排出口に対してより離れて配置されており、噴射器は第2の掃気ポート内に燃料を噴射するように配置されることも実現される。
【0042】
このように、第1の掃気ポートとシリンダの排出口との間の短絡流の発生が減少するか回避されるので、掃気損失が最小化されることが達成される。燃料が排出口により近い掃気ポート内に噴射されると、そのような短絡流の危険性が増加する。これは、本発明の内燃エンジンの排気煙の中のHC排出の減少に貢献する。
【0043】
本発明のさらなる発展形態によれば、内燃エンジンはシリンダの長手方向の中心軸線によって形成されるシリンダ垂直軸線を有し、各噴射器は噴射器の長手方向の中心軸線によって形成される噴射器垂直軸線を有し、噴射器はシリンダ垂直軸線と噴射器垂直軸線の角度が約ゼロ度から約35度の間で、好ましくは約14度で傾斜して配置されることも達成される。
【0044】
このように、掃気ポートのチャネル壁への燃料の壁付着の危険性が減少し、それが本発明の内燃エンジンの排気煙内の未燃焼炭化水素の減少に貢献することが達成される。
【0045】
本発明のさらなる発展形態によれば、内燃エンジンはシリンダ垂直軸線を含む長手方向中心平面-想像上のまたは実質的な中心平面-を有し、長手方向中心平面に直角な横断方向中心平面-想像上のまたは実質的な中心平面-を有し、長手方向中心平面と噴射器垂直軸線との間の角度が約マイナス8度から約プラス33度で傾斜して噴射器が配置されることも達成される。ここで、噴射器は、排出口から離れる方向に横断方向中心平面に対して後ろ向きに約15度オフセットして配置することができる。
【0046】
この構成は、ジェット円錐つまり噴射円錐の形態で1個の掃気ポートまたは複数の掃気ポート内に噴射器によって導入される燃料が、1個の掃気ポートまたは複数の掃気ポートの壁にわずかに接触するだけか、接触せずに、そのような考え得る接触の前に、1個の掃気ポートまたは複数の掃気ポートにクランク室から燃焼室の向きに流入する流体の流れによって溶かされ、とらえられるという利点も有している。この構成は、今度は、本発明の内燃エンジンの排気煙内の未燃焼の炭化水素形成の減少に貢献する。
【0047】
本発明のさらなる発展形態によれば、噴射器によって掃気ポート内に噴射された燃料が掃気ポート壁への付着するのを広範囲にわたって掃気ポート回避するような様式で、噴射器がそれぞれの掃気ポートに対して非常に一般的に配置されることも達成される。この構成には、今度は、掃気ポートからの燃料の粒子が燃焼室内で液滴の形態に形成されることが減少するか回避され、それによって排気煙内のHC排出をまた減少させることができるという利点がある。したがって、本発明の2ストローク内燃エンジンの燃料消費率が減少する。
【0048】
最後に、本発明のさらなる発展形態によれば、噴射器が少なくとも1個の円錐燃料ジェットを生成し、掃気ポート壁への燃料ジェットの壁付着を回避するように噴射器は掃気ポートに対して揃えられていることも達成される。
【0049】
本発明は、2つの掃気ポートと燃焼室と排出口とを備えている少なくとも1個のシリンダと、クランクシャフトを備えているクランクハウジングと、を有し、クランクハウジングが2つの掃気ポートを介して燃焼室と流路として接続されている2ストローク内燃エンジンを動作させる方法をも提供し、シリンダ(3)毎に2つの噴射器によって2ストローク内燃エンジンへ燃料が導入され、2ストローク内燃エンジンが動作しているときの所定閾値より低い第1のエンジン負荷ではただ1個の噴射器によって、所定閾値より高い第2のエンジン負荷では2個同時使用の噴射器によって燃料が導入可能とされ、噴射器によってクランクハウジングから燃焼室内への流れの方向に対して概ね反対方向に燃料が掃気ポートに導入され、噴射器(13、14)のそれぞれが、少なくとも1個の円錐状の燃料ジェット(21)を生成し、噴射器(13、14)は、燃料ジェット(21)が掃気ポート(10、10)の壁(22)と交わらないように配置されている。
【0050】
ここで、エンジン負荷、つまり内燃エンジン負荷、または、本発明の内燃エンジンにわたる流れの技術的態様においてあらかじめ切り替えられている本発明の内燃エンジンのスロットル機関のスロットル開口断面の設定によって設定された負荷要求にも依存して、燃料がただ1個の噴射器によって掃気ポート内に噴射されるように、または、燃料が2個の噴射器によって掃気ポート内に噴射されるように、第1のエンジン負荷は、第2のエンジン負荷よりも低い。
【0051】
したがって、ただ1個の噴射器または2個の噴射器を備えている本発明の内燃エンジンの動作を、エンジン負荷または確定された負荷要求に依存して、また現在のエンジン負荷やエンジンが必要とする負荷によって、前者または後者に切り替えることができる。
【0052】
以下の図面によって本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】
図2の線I-Iに沿った断面で示している本発明の実施形態による単シリンダ、2ストローク内燃エンジンの断面図である。
【
図3】
図1と同様に噴射器の噴射のイメージつまりジェットのイメージを説明する
図1と同様の図である。
【
図4】シリンダヘッドのない
図2と同様の図示である。
【
図7】2個の断面A-A及びB-Bの位置を説明する
図1の2ストローク内燃エンジンのシリンダ上面図である。
【
図7A】
図7の線A-Aに沿った断面を示している。
【
図7B】
図7の線B-Bに沿った断面を示している。
【
図8】模式的に示しているスロットルフラップ体の断面図である。
【
図9】本発明の内燃エンジンを有しているモータサイクルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図面の
図1は、本発明の実施形態の2ストローク内燃エンジン1を通る
図2の線I-Iに沿った断面を示している。
【0055】
2ストローク内燃エンジン、つまりエンジン1は、クランクシャフト6にクランクハウジング7内に回転可能に受け入れられている連接棒5を介して連結されているピストン4の上方のシリンダ3内に形成されている燃焼室2を有している。シリンダ3には、排気煙を処理可能な
図2で確認できる排出口8が設けられている。例えばクラッチ、オルタネータ、エンジンハウジングカバー等のエンジン1のさらなる詳細は、図面を簡単にするために図示されていないが、動作的に取り付け準備ができているエンジン1内にもちろん存在している。
【0056】
図面の
図5からわかるように、たとえば、シリンダ3は2個の第1の掃気ポート9及び2個の第2の掃気ポート10を有しており、第1の掃気ポート9は、第2の掃気ポート10よりも排出口8の方向に近くなるように配置されている。
【0057】
掃気ポート9、10は、ピストン4のクランク室つまりクランクハウジング7の方向への下向きの移動が発生した時に、圧縮されている空気または圧縮されている燃料-空気混合物がクランクハウジング7から燃焼室2の方向に流れ、燃焼室2内に掃気ポート9、10からオーバーフロー窓11を通して進入できるように、クランクハウジング7内に形成されているクランク室に流路として接続されている。
【0058】
ピストン4の下死点UTの方向への下向きの移動が発生した時には、図面の
図3に矢印12で示している流体の流れが生じる。ここで、図面の
図1において図示平面上の右側の掃気ポート10だけを自由に切断して示しているのに対して、図示平面上の左側の掃気ポート10は、切断の経路のせいで、切断されずに示していることに注意することが重要である。
図3は、2個の掃気ポート10を示している。
【0059】
図面の
図2からわかるように、エンジン1は、第1の噴射器13及び第2の噴射器14を有しており、第1の噴射器13は、
図2で見たときに矢印15の方向で右側の第2の掃気ポート内10内に開いており、第2の噴射器14は、左側の第2の掃気ポート10内に開いている。
【0060】
したがって、シリンダ3は、各々が燃料をそれぞれの掃気ポート10内に、実際に、クランクハウジング7から掃気ポート10を介して燃焼室2の方向への流体の流れの方向とは逆に噴射するように形成されている2個の噴射器13、14を有している。ここで、燃料は、たとえば、より詳細には示していない燃料ポンプによる約3.5bar(350000Pascal、50,7632PSI)の系の圧力の下に置かれている。
【0061】
内燃エンジン1は、異なる負荷領域で動作可能で、負荷領域は、アイドル領域の低負荷から平均負荷を通して全負荷まで広がっている。
【0062】
図面の
図2は、エンジンが吸気領域に吸入サポート16を有していることを示しており、そこにはピボット運動可能なスロットル弁18を有する模式的に示されたスロットル弁本体17が配置され、スロットル弁18はスロットル弁本体17を通して貫流断面を変更するためのピボット運動が可能であり、そのピボット運動により本発明の2ストローク内燃エンジン1の使用者は2ストローク内燃エンジン1の負荷要求を示すことができる。
【0063】
ここで、スロットル弁18はスロットル弁本体17のハウジング19内にピボット運動可能に受け入れられ、使用者は、スロットル弁18の
図8矢印20方向のピボット運動を介して、スロットル弁18によって貫流断面を解放し、貫流断面を変更できるようになっている。スロットル弁本体17は、より詳細に説明していないアイドルシステムを有しているため、
図8に模式的に示した回転角度センサ34によって確定されるスロットル弁角度が、0度の場合はアイドル設定に対応することができ、一方72度の場合は参照番号18’で
図8に示している全負荷設定に対応している。
【0064】
本発明の内燃エンジン1は、第2のエンジン負荷よりも低い第1のエンジン負荷の場合には、燃料はただ1個の噴射器13、14によって掃気ポート10内に噴射され、一方第2のエンジン負荷の場合には、燃料は2個の噴射器13、14によって掃気ポート10内に噴射されることを特徴としている。
【0065】
言い換えると、これは、2ストローク内燃エンジン1が動作しているエンジン負荷に依存して燃料がただ1個の噴射器13または14によって掃気ポート10内に導入されるか、2個の噴射器13、14によって導入されることを意味しており、エンジン負荷または負荷要求に依存して「ただ1個の噴射器」と「2個の噴射器」との動作モードの間で切り替えられる。
【0066】
エンジンが低負荷の動作モードにある場合、燃料はただ1個の噴射器13または14を使用して掃気ポート10内に噴射され、エンジン負荷が増加し、速度に依存するしきい値に達すると、そこから負荷は2個の噴射器13、14を使用した燃料噴射の動作モードへ切り替えられる。エンジンによって示されるエンジン負荷が再び減少すると、2個の噴射器を使用した燃料噴射の動作モードからただ1個の噴射器を使用した燃料噴射の動作モードへ再び切り替えることができる。
【0067】
ここで、エンジン負荷は、クランクハウジング7にいきわたっているクランクハウジング圧力の決定によって行うことが可能で、先述の圧力はエンジン1の使用者がスロットル弁角度の変更によって設定するエンジンの負荷要求に依存しており、ただ1個の噴射器を使用した燃料供給と2個の噴射器を使用した燃料供給との間の切り換えは、クランクハウジング圧力に依存して行われる。
【0068】
ただ1個の噴射器13、14がエンジン1の燃料供給に必要な場合、クランクシャフト角度360度のサイクルの間に燃料がたとえば噴射器13によって噴射され、一方で続くクランクシャフト角度360度のサイクルの間には燃料が他方の噴射器14によって噴射されるように、燃料供給は、各場合に噴射器13、14の一方によって交互に行われる。
【0069】
このプロセスは、噴射器13、14上での樹脂の形成つまりコーキングを防止できるという利点を有しており、さらに、噴射器13、14の切り換えサイクルは各々が約50パーセントで均等に分配される。
【0070】
図面の
図3からわかるように、ちょうど噴射器14のように、噴射器13は、スプレーのイメージとしてスプレー円錐21を形成し、噴射器は、掃気ポート10内でオーバーフロー窓11の方向に流れる流体のスプレー円錐21が反対方向に揃って延びるように配置されており、したがって、スプレー円錐21によって排出される燃料の掃気ポート10の壁22上への壁付着の危険性が減少する。燃料の準備も、掃気ポート10内で広がる高い乱流によって良好に達成され、排気煙内のHC排出も減少する。
【0071】
図面の
図5は、掃気ポート10の壁22から離れている掃気ポート10内のスプレー円錐21をその描画において示している。ここで、燃料噴射は、排出口8により近い掃気ポート9内へではなく、排出口8から離れている掃気ポート10内へ行われ、排出口8はまたクランクハウジング7のクランク室に流体的に接続されている。燃料の排出口から離れている掃気ポート10内への噴射の結果、排出口8から離れる方向への燃料の短絡流の形成が減少し、それによって、本発明の2ストローク内燃エンジン1の掃気損失が減少する。エンジンの燃料消費率も減少させることが可能で、HC排出を減少させることが可能であり、そうでなければ、排出口に近い燃料の噴射が設定され、その結果、排出口8の領域のシリンダ壁の壁面に液滴が付着する。
【0072】
図4は、上から見たシリンダ3上の噴射器13、14の配置を示している。容易にわかるように、噴射器13、14は、両方が
図1で確認できるシリンダ垂直軸線23及び
図2で確認できる横断方向中心平面24に対して傾斜して配置されている。
【0073】
図面の
図1に示しているエンジン1の実施形態において、噴射器13、14は、シリンダ垂直軸線23に対してその噴射器垂直軸線25が14度の角度で傾斜している。図示のエンジン1では、この構成は、掃気ポート10の壁22の壁面への液滴の付着を避け、図面の
図2からわかるように、横断方向の中心平面24に対して15度の噴射器垂直軸線25の配置に実際に関連しているスプレー円錐21の形成につながる。
【0074】
図面の
図6からわかるように、シリンダ3上に配置されている噴射器13または14は、2個のスプレー円錐21の形態のスプレーイメージも形成することができ、掃気ポート10の壁22の壁面への液滴の付着が防止される。
【0075】
図面の
図7は、シリンダ垂直軸線23及び噴射器垂直軸線25の間に形成されている、
図7Aに示される傾斜の角度と、噴射器垂直軸線25が
図7の長手方向中心平面26に対して成す、
図7Bに示される角度とを示すように、2個の断面A-A及びB-Bを示している。
【0076】
図7Aに示しているように、噴射器13、14は、その噴射器垂直軸線25がシリンダ垂直軸線23に対して0度から約35度の広範な角度で傾斜するように配置され得て、ここでスプレー円錐21は掃気ポート10の壁22と交わらない。
【0077】
図面の
図7Bは、シリンダ垂直軸線23を含む長手方向中心平面26に対する噴射器13、14の考え得る配置を示しており、中心平面は
図7で確認できる。容易にわかるように、噴射器は、
図7Bの左側の噴射器を貫通する0度の仮想の長手方向中心平面から始めて、長手方向中心平面26に対してマイナス8度の角度に配置することが可能で、噴射器は、この角度から、33度の角度領域をカバーし、そうしなければ噴射された燃料が掃気ポート10の壁22上に壁付着する。これは、図面に示した2個のスプレー円錐を備えたスプレーイメージを有する噴射器、及び
図7Aの図示と同様のただ1個のスプレー円錐を備えているスプレーイメージを有する噴射器の両方に該当する。
【0078】
本発明の2ストローク内燃エンジン1はさらに、燃料を、エンジンの負荷状態及びエンジンの回転速度に実際に依存して、クランクシャフト6のクランクシャフト角度の360度に該当している全回転の部分領域の間に単一の噴射器または2個の噴射器を介して噴射することができることを特徴としている。
【0079】
したがって、本発明は、2ストローク内燃エンジンの特異性、すなわち250立方センチメートルの行程容積を有する図示のエンジンにおいて、アイドル領域、つまり、0度のスロットル弁開度で、毎分1000回転から毎分11000回転までの全速度領域にわたってエンジンがほとんど燃料を必要としないことに特徴づけられる特異性、を考慮している。この全速度領域は、ただ1個の噴射器13、14による燃料の供給によって対応することが可能であって、実際に、速度の増加に伴って最短の噴射器の開放時間を下回った場合でも対応できる。ここでは250立方センチメートルの行程の2ストローク内燃エンジンについて説明したが、2ストローク内燃エンジンは、125、150、また300立方センチメートルの行程さえも有し得る。
【0080】
結局、本発明のエンジンは、噴射器13、14の有利な配置、及び噴射器が噴射器固有の最短噴射器開口時間よりも短い時間で実際に動作しているときの量にしたがって設定される量に計量された燃料のおかげで、アイドル領域において動作するということになる。
【0081】
エンジン負荷が増加し、それに伴ってスロットル弁角度が増加すると、エンジンの燃料要求が増加する。同様に、エンジン速度が増加しても燃料要求が増加する。本発明のエンジンはここでは、最大負荷の約7パーセントから約40パーセントの負荷領域におけるエンジンの速度に依存して燃料供給が1個の噴射器から2個の噴射器に切り替えられるような様式で構成されている。
【0082】
したがって、高エンジン速度では、1個の噴射器による燃料供給から2個の噴射器による燃料供給への切り替えは、例えばエンジンの最大負荷の7パーセントの低負荷においてすでに実行されるのに対して、低エンジン速度では、切り換えは最大負荷の40パーセントで初めて実行される。低エンジン速度において、エンジンが高めの負荷からきて最大負荷の40パーセントの値には達さない場合、低エンジン速度での2個の噴射器からただ1個の噴射器への燃料供給の切り替えは、最大負荷の約7パーセントの負荷で行われる。
【0083】
360度のクランクシャフト角度に基づいている前述の燃料の供給の部分領域をクランク角度の約5度からクランク角度の約350度に広げることが可能で、図面に示しているエンジン1における部分領域は、クランクシャフト角度の約12度からクランクシャフト角度の305度の値を仮定しており、これにより0度のスロットル弁角度においてはただ1個の噴射器による燃料の供給はクランクシャフト角度の約12度に対して十分となり、一方たとえばエンジンの全負荷設定に対応している72度のスロットル弁角度においては2個の噴射器による燃料供給の部分領域は2個の噴射器を使用することによってクランクシャフト角度の約305度まで拡張可能となる;したがって、燃料は可能な最大クランク角度の非常に大きい部分領域の間に供給される。つまり、たとえば2.5グラム毎秒の比較的低い秒あたりの燃料の比質量効率の噴射器、つまりは単位時間当たりの燃料供給量の少ない噴射器によって対応可能である。
【0084】
この構成によって、燃料が、オーバーフロー窓の開いている期間の間だけでなく、オーバーフロー窓がピストンによって密封されている際にも掃気ポートを介して供給されることによりクランクハウジング内の燃料に十分なゆとりができる結果として、高い負荷及び高い速度でもエンジンの動作を保証することができる。これによって、高負荷での高い燃料消費率を可能にし、前述したように噴射器の秒あたりの比質量性能は低いにもかかわらず、高速に対応することが可能となる。噴射器の秒あたりの比質量性能が低いのは、エンジンの比燃料要求が低部分負荷領域及びアイドル領域では低いことに対応するためであった。そして、高負荷及び高速において、十分な量の燃料が燃焼室で即座に利用可能で、それによって、クランクハウジング内に備蓄されている燃料が存在している結果、高負荷でのシリンダ及びピストンの良好な内部冷却も達成される。
【0085】
最後に、図面の
図9は、本発明の2ストローク内燃エンジン1を備えているモータサイクル27の模式的な描写である。モータサイクル27は、前輪28ならびに後輪29及びサドル30の形態のモータサイクルの使用者用の座席表面を有している。サドル30またはベンチ30上に座っている使用者は、ハンドルバー31を介してモータサイクルを制御することが可能で、またここでは、ケーブル制御を用いて、またはドライブバイワイヤを用いて、ガソリンひねりハンドル32を介して、スロットル弁本体17内に配置されているスロットル弁19の回転角度設定に影響を与えることによりエンジン1のエンジン負荷を制御することができる。
【0086】
使用者が、ガソリンひねりハンドル32を、非作動端部位置に放置すると、概ね0度のスロットル弁角度が設定され、エンジンは、スロットル弁本体17のアイドルシステムを介して操作される。制御装置33は、内燃エンジン1によって機能的に操作され、図示のモータサイクル27のベンチ30の下方に配置されており、噴射器13、14を制御してこれらがアイドルモードにおいてエンジン1の運転に必要な燃料を掃気ポート10内に交互の態様で噴射することによって供給するようにする。
【0087】
エンジンに対する負荷要求は、モータサイクル27の使用者がガソリンひねりハンドル32を作動させることで変更され、エンジン1は変更されたエンジン負荷を受ける。スロットル弁角度の変更は、クランクハウジング7内で計測されるクランクハウジング圧力の変更につながる。
【0088】
制御装置33は、スロットル弁角度に対して必要な燃料の量を計算し、これを、1個の噴射器13、14によって、または2個の噴射器13、14によって燃料を掃気ポート10内に噴射することによって行い、実際に、必要な燃料量が設定されるように、2個の噴射器のうちの1個によってそれぞれ交互に、または2個の噴射器によって同時に、のいずれかの形態によって行う。エンジン負荷は、回転角度センサ34によって確立するスロットル弁角度に依存して変更され、エンジン負荷または負荷要求に対応している燃料の量が確認され、1個の噴射器13、14または2個の噴射器13、14の開口の持続期間が決定され、それが今度はクランクシャフト角度に対応し、それが、クランクシャフトの全回転に対応しているクランクシャフト角度の部分領域に対応する。
【0089】
以上でより詳細には説明されていない本発明の特徴に関しては、特許請求の範囲及び図面を明示的に参照する。
【符号の説明】
【0090】
1 2ストローク内燃エンジン
2 燃焼室
3 シリンダ
4 ピストン
5 連接棒
6 クランクシャフト
7 クランクハウジング
8 排出口
9 第1の掃気ポート
10 第2の掃気ポート
11 オーバーフロー窓
12 矢印
13 第1の噴射器
14 第2の噴射器
15 矢印
16 吸入サポート
17 スロットル弁本体
18 スロットル弁
19 ハウジング
20 矢印
21 スプレー円錐
22 壁
23 垂直軸線
24 横断方向中心平面
25 噴射器垂直軸線
26 長手方向中心平面
27 モータサイクル
28 前輪
29 後輪
30 サドル、ベンチ
31 ハンドルバー
32 ガソリンひねりハンドル
33 制御装置
34 回転角度センサ