(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】ノックセンサ模擬信号生成装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20240227BHJP
G01M 15/02 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
F02D45/00 368A
G01M15/02
(21)【出願番号】P 2020144214
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】桑田 雅司
(72)【発明者】
【氏名】谷川 朋嗣
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-286033(JP,A)
【文献】特開2001-164962(JP,A)
【文献】特開昭61-169900(JP,A)
【文献】特開平10-281939(JP,A)
【文献】特開平11-094907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
G01M 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンプラントモデルが構築されるシミュレーション装置とともに使用されて、ノックセンサのセンサ信号を模擬したノックセンサ模擬信号を生成して、そのノックセンサ模擬信号をエンジン制御のための電子制御装置に入力するノックセンサ模擬信号生成装置であって、
前記ノックセンサ模擬信号のベースとなる交流電圧信号を生成する信号生成器と、前記信号生成器が生成する交流電圧信号を変調する電圧制御増幅器と
の対、
を複数対含み、
前記複数対をなす前記信号生成器は、互いに異なる振幅および周波数の正弦波形の交流電圧信号を前記ノックセンサ模擬信号のベースとなるノック基本波形として生成し、
前記シミュレーション装置から入力される情報から前記ノックセンサ模擬信号のエンベロープを演算し、前記エンベロープに基づいて、前記電圧制御増幅器の利得を変化させる制御電圧を設定するコントローラと、
前記電圧制御増幅器の1つから信号が出力される場合には、その信号を単独で前記ノックセンサ模擬信号として出力し、前記電圧制御増幅器の複数から信号が時間的に重なって出力される場合には、それらの信号を合成した信号を前記ノックセンサ模擬信号として出力するミキサと、を
さらに含む、ノックセンサ模擬信号生成装置。
【請求項2】
前記ミキサから出力される前記ノックセンサ模擬信号にオフセット電圧を付与するためのオフセット電圧回路、をさらに含む、請求項1に記載のノックセンサ模擬信号生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノックセンサのセンサ信号を模擬したノックセンサ模擬信号を生成するノックセンサ模擬信号生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを搭載した車両では、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)により、エンジンが制御される。エンジンの制御には、点火時期を制御する点火制御が含まれる。点火制御では、点火時期がMBT(Minimum advance for the Best Torque:最適点火時期)に向けて進角される。点火進角が大きくなり、ノッキングが発生して、ノックセンサにより特定周波数帯の振動が検出されると、ノック制御機能により、ノッキングが止まるまで、点火時期が遅角(リタード)される。ノッキングが止まると、点火時期がMBTに向けて再び進角される。
【0003】
ECUの機能開発には、HILS(Hardware In the Loop Simulation)装置が用いられることがある。たとえば、ノック制御機能の開発時には、ECUがHILS装置に接続されるとともに、ノックセンサ模擬信号生成装置がECUに接続される。そして、HILS装置に構築されているエンジンプラントモデルが制御対象とされて、実際のエンジン制御の際と同様に、ECUからHILS装置に点火を指示する点火信号が出力される。また、HILS装置からノックセンサ模擬信号生成装置に指令が入力されて、ノックセンサ模擬信号生成装置からノックセンサのセンサ信号(検出信号)を模擬したノックセンサ模擬信号が出力され、そのノックセンサ模擬信号をECUが受信すると、点火時期を遅角させるべく、ECUからの点火信号の出力タイミングが変更される。HILS装置では、ECUから受信する点火信号に基づいて、ノック制御機能が正常であるかを検査することができる。したがって、HILS装置およびノックセンサ模擬信号生成装置を含むシステムにより、実際のエンジンがない環境においても、ECUのノック制御機能を開発することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジン運転中にノックセンサにより検出される振動には、ノッキングによる振動だけではなく、吸排気バルブが閉じることによる着座ノイズやその他のメカ的な要因によるノイズなども含まれる。昨今の高圧縮比エンジンでは、通常運転領域でもノッキングが発生するため、ECUには、ノックセンサのセンサ信号がノッキングを検出して出力されたものか、ノイズを検出して出力されたものかを判定する処理を実装する必要がある。
【0006】
しかし、現在のところ、エンジンでの発生が想定されるノッキングやノイズなどの種々の振動に応じたノックセンサ模擬信号を生成する装置が存在せず、ノックセンサのセンサ信号を判定する処理については、実際のエンジンでのノッキングやノイズの発生を利用して開発せざるを得ない。そのため、従来技術では、HILS装置を用いたシステムによるECUの機能開発を包括的に行うことができない。
【0007】
本発明の目的は、エンジンでの発生が想定されるノッキングやノイズなどの種々の振動に応じたノックセンサ模擬信号を生成できる、ノックセンサ模擬信号生成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明に係るノックセンサ模擬信号生成装置は、エンジンプラントモデルが構築されるシミュレーション装置とともに使用されて、ノックセンサのセンサ信号を模擬したノックセンサ模擬信号を生成して、そのノックセンサ模擬信号をエンジン制御のための電子制御装置に入力するノックセンサ模擬信号生成装置であって、ノックセンサ模擬信号のベースとなる交流電圧信号を生成する信号生成器と、信号生成器が生成する交流電圧信号を変調する電圧制御増幅器と、シミュレーション装置から入力される情報からノックセンサ模擬信号のエンベロープを決定し、エンベロープに基づいて、電圧制御増幅器の利得を変化させる制御電圧を設定するコントローラとを含む。
【0009】
この構成によれば、信号生成器でノックセンサ模擬信号のベースとなる交流電圧信号が生成され、その交流電圧信号が電圧制御増幅器で変調される。コントローラでは、シミュレーション装置から入力される情報を基にノックセンサ模擬信号のエンベロープが決定され、そのエンベロープに交流電圧信号が接するように、電圧制御増幅器の利得を変化させる制御電圧が設定される。これにより、種々の信号をノックセンサ模擬信号として生成することができる。そのため、エンジンでの発生が想定されるノッキングやノイズなどの種々の振動に応じたノックセンサ模擬信号を生成することができる。
【0010】
ノックセンサ模擬信号生成装置は、信号生成器と電圧制御増幅器との対を複数対含む構成であってもよい。
【0011】
この構成では、各対で生成される交流電圧信号を合成することによって、より多様な波形のノックセンサ模擬信号を生成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エンジンでの発生が想定されるノッキングやノイズなどの種々の振動に応じたノックセンサ模擬信号を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るノックセンサ模擬信号生成装置を含む検査システムの構成を示す図である。
【
図2A】ノックセンサがノッキングを検出して出力するセンサ信号の波形およびそのエンベロープを示す図である。
【
図2B】ノックセンサがノイズを検出して出力するセンサ信号の波形およびそのエンベロープの例を示す図である。
【
図2C】ノックセンサがノイズを検出して出力するセンサ信号の波形およびそのエンベロープの他の例を示す図である。
【
図2D】ノックセンサがノッキングおよびノイズを検出して出力するセンサ信号の波形およびそのエンベロープを示す図である。
【
図3A】エンベロープパラメータについて説明するための図であり、パラメータCが相対的に長い場合の例を示す。
【
図3B】エンベロープパラメータについて説明するための図であり、パラメータCが相対的に短い場合の例を示す。
【
図4】ノック制御機能の検査時における点火信号およびノックセンサ模擬信号の出力タイミングの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
<検査システム>
図1は、本発明の一実施形態に係るノックセンサ模擬信号生成装置4を含む検査システム1の構成を示す図である。
【0016】
検査システム1は、車両に搭載されるECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)の機能開発過程において、その機能を検査するシステムである。具体的には、車両には、各部を制御するため、複数のECUが複数搭載されており、検査システム1は、エンジン制御のためのECU2の機能開発過程において、ECU2による点火制御に含まれるノック制御機能の検査に用いられる。検査システム1には、HILS(Hardware In the Loop Simulation)装置3と、ノックセンサ模擬信号生成装置4とが含まれる。
【0017】
ECU2は、マイコン(マイクロコントローラ)を備えている。マイコンには、たとえば、CPU、プログラムなどを記憶する不揮発性メモリおよびプログラムの実行時にワークエリアとして使用される揮発性メモリが内蔵されている。ECU2は、HILS装置3に通信可能に接続される。
【0018】
HILS装置3では、ソフトウェアが動作することにより、エンジンを模擬するエンジンプラントモデル11が構築される。エンジンプラントモデル11が模擬するエンジンは、たとえば、3気筒4ストロークエンジンである。HILS装置3には、ECU2が通信可能に接続される。
【0019】
また、HILS装置3には、信号処理部12が設けられており、エンジンプラントモデル11には、信号処理部12が接続されている。信号処理部12は、エンジンプラントモデル11が模擬するエンジンについての模擬のセンサ信号を出力する。センサ信号には、クランク角センサのクランクセンサ信号およびカム角センサのカムセンサ信号が含まれる。クランク角センサは、エンジンのクランクシャフトの回転角(クランク角)を検出するためのセンサである。カム角センサは、エンジンのカムシャフトの回転角(カム角)を検出するためのセンサである。模擬のセンサ信号は、ECU2に入力される。一方、ECU2から信号処理部12には、各気筒の点火を指示する点火信号#1,#2,#3が入力される。点火信号#1,#2,#3が信号処理部12に入力されると、エンジンプラントモデル11では、それぞれ1番気筒(シリンダ)、2番気筒および3番気筒の点火動作が行われる。クランク角は、たとえば、1番気筒のピストンの上死点を基準とする。
【0020】
ノックセンサ模擬信号生成装置4は、エンジンプラントモデル11が模擬するエンジンに設けられるノックセンサのセンサ信号を模擬したノックセンサ模擬信号を生成する。ノックセンサ模擬信号は、ノックセンサ模擬信号生成装置4からECU2に入力される。
【0021】
ノックセンサ模擬信号生成装置4は、複数のFG(Function Generator:ファンクションジェネレータ)を備えている。FGは、任意の振幅・周波数および波形の交流電圧信号を生成する機器である。複数のFGは、たとえば、互いに異なる振幅・周波数の正弦波形の交流電圧信号をノックセンサ模擬信号のベースとなるノック基本波形として生成する。
図1には、2個のFG21,22が示されており、以下では、ノックセンサ模擬信号生成装置4について、2個のFG21,22を備える構成を取り上げて説明するが、3個以上のFGがノックセンサ模擬信号生成装置4に備えられていてもよい。
【0022】
ノックセンサ模擬信号生成装置4には、FG21,22にそれぞれ対応づけて、VCA(Voltage-Controlled Amplifier:電圧制御増幅器)23,24が設けられている。VCA23,24には、それぞれFG21,22が生成するノック基本波形が入力され、VCA23,24は、その入力されるノック基本波形を振幅変調して出力する。
【0023】
また、ノックセンサ模擬信号生成装置4は、マイコン25を備えている。マイコン25は、HILS装置3とCAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる通信が可能に接続されている。マイコン25には、ECU2から点火信号#1,#2,#3が入力される。また、マイコン25には、HILS装置3から模擬のクランクセンサ信号およびカムセンサ信号が入力され、マイコン25では、クランクセンサ信号およびカムセンサ信号からクランク角が演算される。さらに、マイコン25には、HILS装置3からエンベロープパラメータ(ノックエンベロープ情報)が入力される。
【0024】
図2Aは、ノックセンサがノッキングを検出して出力するセンサ信号の波形およびそのエンベロープを示す図である。
図2Bおよび
図2Cは、ノックセンサがノイズを検出して出力するセンサ信号の波形およびそのエンベロープを示す図である。
図2Dは、ノックセンサがノッキングおよびノイズを検出して出力するセンサ信号の波形およびそのエンベロープを示す図である。
【0025】
ノックセンサがノッキングを検出して出力するセンサ信号のエンベロープは、
図2Aに示されるように、急峻に立ち上がった後、時間経過に伴って小さくなる略三角形状をなす。
【0026】
一方、ノックセンサがノイズを検出して出力するセンサ信号のエンベロープは、経験的に様々な形状を想定する必要がある。その形状は、たとえば、
図2Bに示されるように、時間経過に伴って大きくなり、一定を保った後、時間経過に伴って小さくなる略六角形状であったり、
図2Cに示されるように、急峻に立ち上がり、一定を保った後、急峻に経ち下がる略四角形状であったりする。
【0027】
また、ノッキングとノイズとが時間を前後して重なって発生した場合、センサ信号のエンベロープは、
図2Dに示されるように、ノックセンサがノッキングを検出して出力するセンサ信号のエンベロープと、ノックセンサがノイズを検出して出力するセンサ信号のエンベロープとの一部同士が重なった形状となる。
【0028】
HILS装置3は、ノックセンサ模擬信号生成装置4に生成させるノックセンサ模擬信号のエンベロープの形状に応じて、1つのノック基本波形の振幅を変化させることにより、ノックセンサ模擬信号を生成するか、または、複数のノック基本波形の振幅をそれぞれ変化させて、それらを合成することにより、ノックセンサ模擬信号を生成するかを決定する。そして、HILS装置3は、ノック基本波形ごとに、ノック基本波形の振幅の変化を表すパラメータをエンベロープパラメータに含めて、そのエンベロープパラメータをノックセンサ模擬信号生成装置4のマイコン25に送信する。
【0029】
図3Aおよび
図3Bは、エンベロープパラメータについて説明するための図である。
【0030】
エンベロープパラメータには、次のパラメータA~Eが含まれる。
A.発生タイミング:点火からノックセンサ模擬信号の出力までの時間
B.立ち上がり傾き:ノックエンベロープの立ち上がりの傾き
C.プロット数:ノックエンベロープの立ち上がり開始から立ち下がり開始までの時間
D.立ち下がり傾き:ノックエンベロープの立ち下がりの傾き
E.発生頻度:点火回数に対するノックセンサ模擬信号の出力の頻度
【0031】
ノック基本波形の振幅の変化を表すパラメータは、パラメータB,C,Dである。言い換えれば、パラメータB,C,Dにより、ノック基本波形の振幅の変化の形であるノックエンベロープが定まる。パラメータCが長い時間に設定され、その時間の後半でパラメータBが0に設定される場合、ノックエンベロープは、たとえば、
図3Aに示されるような台形状となる。また、パラメータCが短い時間に設定され、パラメータBが0に設定されない場合、ノックエンベロープは、たとえば、
図3Bに示されるような三角形状となる。マイコン25は、パラメータB,C,Dからノックエンベロープを演算し、FG21,22の一方または両方に対して、パラメータEの発生頻度で、ECU2から出力される点火信号の立ち下がりからパラメータAの時間が経過した時に、ノックエンベロープを表すデジタル信号を出力する。
【0032】
FG21からのノック基本波形が入力されるVCA23には、マイコン25からFG21に対して出力されるデジタル信号をアナログ信号に変換するDAC(Digital Analog Converter)26が接続されている。マイコン25からFG21に対して出力されるデジタル信号は、DAC26でアナログ信号に変換されて、VCA23の利得を変化させる制御電圧(CV:Control Voltage)としてVCA23に入力される。これにより、ノック基本波形の振幅をパラメータB,C,Dにより定まるノックエンベロープに変化させた信号がVCA23から出力される。
【0033】
また、FG22からのノック基本波形が入力されるVCA24には、マイコン25からFG22に対して出力されるデジタル信号をアナログ信号に変換するDAC27が接続されている。マイコン25からFG22に対して出力されるデジタル信号は、DAC27でアナログ信号に変換されて、VCA24の利得を変化させる制御電圧としてVCA24に入力される。これにより、ノック基本波形の振幅をパラメータB,C,Dにより定まるノックエンベロープに変化させた信号がVCA24から出力される。
【0034】
ノックセンサ模擬信号生成装置4には、ミキサ28が設けられており、VCA23,24から出力される信号は、ミキサ28に入力される。VCA23,24の一方から信号が出力される場合には、その信号がミキサ28から単独でノックセンサ模擬信号として出力され、VCA23,24の両方から信号が時間的に重なって出力される場合には、それらの信号がミキサ28で合成されて、その合成された信号がノックセンサ模擬信号として出力される。
【0035】
また、ミキサ28から出力されるノックセンサ模擬信号には、ECU2と実際のノックセンサとの接続形態に応じて、必要であれば、オフセット電圧回路29からオフセットを補償するためのオフセット電圧が付与される。たとえば、ノックセンサの一方の端子がエンジンブロックにアース接続され、他方の端子がECU2に接続されている場合、ノックセンサ模擬信号にオフセットが発生するため、オフセット電圧の付与が必要である。一方、ノックセンサの両方の端子がECU2に接続されている場合、ノックセンサ模擬信号にオフセットが発生しないため、オフセット電圧の付与は不要である。
【0036】
<検査>
図4は、ノック制御機能の検査時における点火信号およびノックセンサ模擬信号の出力タイミングの一例を示す図である。
【0037】
ECU2による点火制御では、ノッキングが発生するまで、点火時期がMBT(Minimum advance for the Best Torque:最適点火時期)に向けて進角される。ノック制御機能の検査では、HILS装置3からノックセンサ模擬信号生成装置4のマイコン25にエンベロープパラメータが送信されて、たとえば、ECU2から点火信号が立ち下がるタイミング(時刻T1)からエンベロープパラメータのパラメータA=ΔT1の時間が経過したタイミング(時刻T2)で、パラメータB≒90°、パラメータC≒0、パラメータD=α(
図2A参照)により定まるノックエンベロープを表すデジタル信号がマイコン25から出力される。パラメータB,Dは、時間の経過に伴って緩やかに変化するか、または、時間の経過に依らずほぼ一定に設定される。マイコン25から出力されるデジタル信号は、DAC26でアナログ信号に変換されて、VCA23に入力される。これにより、ノックセンサがノッキングを検出して出力するセンサ信号の模擬であるノックセンサ模擬信号がVCA23から出力され、そのノックセンサ模擬信号がミキサ28を通してECU2に入力される。
【0038】
ECU2にノックセンサ模擬信号が入力されると、ECU2では、点火タイミングに応じて制御される該当気筒に対する信号であるか否かが判別される。そして、そのノックセンサ模擬信号がノッキングを検出して出力されたものか、ノイズを検出して出力されたものかが判定される。ノックセンサ模擬信号がノックセンサからノッキングを検出して出力されたセンサ信号であると判定された場合、点火時期が遅角するように、ECU2からの点火信号の出力タイミングが変更される。点火時期が遅角されたことにより、ノッキングが止まると、点火時期がMBTに向けて再び進角するように、ECU2から点火信号が出力される。
【0039】
ノックセンサがノッキングを検出して出力するセンサ信号の模擬であるノックセンサ模擬信号がノックセンサ模擬信号生成装置4からECU2に入力され、これを受けて、ECU2からHILS装置3に入力される点火信号の出力タイミングが遅くなった場合、HILS装置3では、ECU2がノッキングを正しく判定したと判断される。
【0040】
また、HILS装置3からノックセンサ模擬信号生成装置4のマイコン25にエンベロープパラメータが送信されて、たとえば、ECU2から点火信号が立ち下がるタイミング(時刻T4)からエンベロープパラメータのパラメータA=ΔT2の時間が経過したタイミング(時刻T5)で、パラメータB=β、パラメータC=P、パラメータD=γ(
図2B参照)により定まるノックエンベロープを表すデジタル信号がマイコン25から出力される。パラメータB,Dは、時間の経過に伴って緩やかに変化するか、または、時間の経過に依らずほぼ一定に設定される。マイコン25から出力されるデジタル信号は、DAC26でアナログ信号に変換されて、VCA23に入力される。これにより、ノックセンサがノイズを検出して出力するセンサ信号の模擬であるノックセンサ模擬信号がVCA23から出力され、そのノックセンサ模擬信号がミキサ28を通してECU2に入力される。
【0041】
ECU2にノックセンサ模擬信号が入力されると、ECU2では、前述したように、クランク角が参照されて、ノックセンサ模擬信号が何番の気筒のノックセンサから出力されたセンサ信号であるかが判別される。そして、そのノックセンサ模擬信号がノッキングを検出して出力されたものか、ノイズを検出して出力されたものかが判定される。ノックセンサ模擬信号がノックセンサからノッキングを検出して出力されたセンサ信号であると判定された場合、点火時期が遅角するように、ECU2からの点火信号の出力タイミングが変更される。一方、ノックセンサ模擬信号がノックセンサからノイズを検出して出力されたセンサ信号であると判定された場合、それまでと同様に点火時期が進角するように、ECU2から点火信号が出力される。
【0042】
ノックセンサがノイズを検出して出力するセンサ信号の模擬であるノックセンサ模擬信号がノックセンサ模擬信号生成装置4からECU2に入力され、これを受けて、ECU2からHILS装置3に入力される点火信号の出力タイミングが遅くなった場合、HILS装置3では、ECU2がノイズをノッキングと誤判定したと判断される。一方、ECU2からHILS装置3に入力される点火信号の出力タイミングが早くなった場合、HILS装置3では、ECU2がノイズを正しく判定したと判断される。
【0043】
<作用効果>
以上のように、ノックセンサ模擬信号生成装置4では、FG21,22でノックセンサ模擬信号のベースとなる交流電圧信号であるノック基本波形が生成され、そのノック基本波形がVCA23,24で変調される。マイコン25では、HILS装置3から入力される情報であるエンベロープパラメータを基にノックセンサ模擬信号のエンベロープが決定され、そのエンベロープにノック基本波形が接するように、VCA23,24の利得を変化させる制御電圧が設定される。これにより、種々の波形の信号をノックセンサ模擬信号として生成することができる。また、VCA23,24からそれぞれ出力される信号をミキサ28で合成することによって、より多様な波形のノックセンサ模擬信号を生成することができる。
【0044】
よって、ノックセンサ模擬信号生成装置4では、エンジンでの発生が想定されるノッキングやノイズなどの種々の振動に応じたノックセンサ模擬信号を生成することができる。その結果、ECU2の機能開発における実際のエンジンの使用を抑制でき、HILS装置3を用いた検査システム1により、ECU2の機能開発を包括的に行うことができる。また、ECU2の機能開発時に、実際のエンジンを危険な運転状態にする必要を最小限にすることができる。さらには、実際のエンジンの使用およびその使用による燃料の消費を抑制できるので、環境負荷の低減にも寄与することができる。
【0045】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することも可能である。
【0046】
たとえば、前述の実施形態では、複数のFGがノックセンサ模擬信号生成装置4に備えられているとしたが、ノックセンサ模擬信号生成装置4に備えられるFGおよびVCAは、それぞれ1つであってもよい。その場合、ミキサ28は省略される。
【0047】
また、
図5に示されるように、HILS装置3に、マイコンを含むHILS制御システム13が設けられるとともに、ノックセンサ模擬信号生成装置4の各部が組み込まれて、HILS制御システム13からマイコン25に与えられる指令に基づいて、ノックセンサ模擬信号が生成されてもよい。この場合、HILS装置3とノックセンサ模擬信号生成装置4との間でのCAN通信手段が不要であり、点火時期やクランク角の演算に必要な情報、およびエンベロープパラメータは、HILS装置3の内部において、HILS制御システム13からマイコン25に入力される。
【0048】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0049】
2:ECU(電子制御装置)
3:HILS装置(シミュレーション装置)
4:ノックセンサ模擬信号生成装置
11:エンジンプラントモデル
21,22:FG(信号生成器)
23,24:VCA(電圧制御増幅器)
25:マイコン(コントローラ)