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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/12 20060101AFI20240227BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
F16D25/12 D
F16H61/02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020199025
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086810
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】畑内 慎也
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-014007(JP,A)
【文献】特開2003-336662(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111207210(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00-39/00,48/00-48/12
F16H 59/00-61/12,61/16-61/24,
61/66-61/70,63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と駆動輪との間の動力伝達経路上に、プライマリプーリとセカンダリプーリとに無端状のベルトが巻き掛けられた構成の無段変速機構と直列に、前記動力伝達経路での動力の伝達を許可/阻止するために係合/解放される摩擦クラッチを設けた車両に用いられて、前記摩擦クラッチのスリップの発生を検出する装置であって、
前記摩擦クラッチの前記駆動源側の前回転数と前記摩擦クラッチの前記駆動輪側の後回転数との差と閾値とを比較して、前記差の絶対値が前記閾値以上であることを以て、前記摩擦クラッチのスリップの発生を判定するスリップ発生判定手段と、
前記前回転数または前記後回転数に基づく値を設定用値として、前記設定用値に比例した第1補正項、前記設定用値に反比例し、かつ、前記設定用値の時間変化率に比例した第2補正項、および前記設定用値の2乗値に比例した第3補正項の少なくとも1つを含む演算式に従って、前記閾値を設定する閾値設定手段と、を含む、スリップ発生検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載される変速機として、ベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)が知られている。
【0003】
ベルト式の無段変速機は、プライマリプーリ、セカンダリプーリおよびプライマリプーリとセカンダリプーリとに巻き掛けられた無端状のベルトを備えている。プライマリプーリおよびセカンダリプーリの各プーリは、回転軸に固定的に支持される固定シーブと、回転軸にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されて、固定シーブにベルトを挟んで対向する可動シーブとを備えている。エンジンからの動力がプライマリプーリの回転軸に入力されると、プライマリプーリからベルトに動力が伝達され、ベルトからセカンダリプーリに動力が伝達される。また、プライマリプーリおよびセカンダリプーリの各可動シーブの移動により、プライマリプーリおよびセカンダリプーリに対するベルトの巻きかけ径が変化し、変速比(プーリ比)が連続的に無段階で変化する。
【0004】
ベルト式の無段変速機を搭載した車両では、たとえば、車両がスピードブレーカ(スピードバンプ)などの突起物を乗り越えたときや、駆動輪が路面に対してスリップしている状態からグリップを取り戻したときに、プーリとベルトとの間でベルト滑りが発生するおそれがある。すなわち、車両の駆動輪が突起物を乗り越える際に路面から浮き上がったり、駆動輪が路面に対して滑ったりすると、アウトプット軸の回転数が上昇し、その後、駆動輪が路面に対してグリップしたときに、路面から駆動輪に入力されるトルクによりアウトプット軸の回転数が急減し、その急減によるイナーシャトルクでプーリに対してベルトが滑るおそれがある。
【0005】
そこで、セカンダリプーリと駆動輪との間の動力伝達経路上にクラッチを設けて、そのクラッチの伝達トルク容量(クラッチトルク容量)の目標である目標クラッチトルク容量をベルトの伝達トルク容量(ベルトトルク容量)の目標である目標ベルトトルク容量よりも小さい値であって、プライマリプーリに入力される入力トルクに余裕代を加えた値に設定することが考えられる。クラッチトルク容量がベルトトルク容量よりも小さければ、路面から駆動輪に過大なトルクが入力されても、ベルトよりも先にクラッチが滑るため(クラッチヒューズ)、ベルト滑りの発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-193081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クラッチが滑った場合、クラッチに供給される油圧であるクラッチ圧を上げて、クラッチトルク容量を増大させて、クラッチ滑りを解消することが望ましい。クラッチが滑ると、クラッチの前側(駆動源側)の回転数と後側(駆動輪側)の回転数とに差が生じるので、クラッチの前後の回転数の差の絶対値が閾値以上になったことを以て、クラッチトルク容量の不足によるクラッチの滑り(スリップ)の発生の検出とすることができる。
【0008】
ところが、その判定の閾値が特段の根拠もなく設定される場合、誤判定を回避するため、閾値に十分な余裕が必要となる。また、閾値が低く設定される場合には、誤判定を回避するため、クラッチの前後の回転数の差の絶対値が閾値以上である状態の所定時間の継続が確認される。そのため、従来のスリップ検出は、即応性に欠けている。
【0009】
本発明の目的は、摩擦クラッチのスリップの発生を早期に検出できる、スリップ発生検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明に係るスリップ発生検出装置は、駆動源と駆動輪との間の動力伝達経路上に、プライマリプーリとセカンダリプーリとに無端状のベルトが巻き掛けられた構成の無段変速機構と直列に、動力伝達経路での動力の伝達を許可/阻止するために係合/解放される摩擦クラッチを設けた車両に用いられて、摩擦クラッチのスリップの発生を検出する装置であって、摩擦クラッチの駆動源側の前回転数と摩擦クラッチの駆動輪側の後回転数との差と閾値とを比較して、当該差の絶対値が閾値以上であることを以て、摩擦クラッチのスリップの発生を判定するスリップ発生判定手段と、前回転数または後回転数に基づく値を設定用値として、設定用値に比例した第1補正項、設定用値に反比例し、かつ、設定用値の時間変化率に比例した第2補正項、および設定用値の2乗値に比例した第3補正項の少なくとも1つを含む演算式に従って、閾値を設定する閾値設定手段とを含む。
【0011】
この構成によれば、摩擦クラッチの駆動源側の前回転数と摩擦クラッチの駆動輪側の後回転数との差が求められて、その差と閾値との大小が比較される。そして、前回転数と後回転数との差の絶対値が閾値以上であることを以て、摩擦クラッチのスリップが発生したと判定される。
【0012】
閾値は、前回転数または後回転数に基づく値を設定用値として、設定用値に比例した第1補正項、設定用値に反比例し、かつ、設定用値の時間変化率に比例した第2補正項、および設定用値の2乗値に比例した第3補正項の少なくとも1つを含む演算式に従って設定される。
【0013】
たとえば、前回転数に基づく値が設定用値とされる場合、第1補正項は、前回転数を検出するセンサが有する回転体と前回転数で回転する回転体との回転方向の遊びによる誤差を考慮した項であり、第2補正項は、前回転数が真値に対して遅れることを考慮した項であり、第3補正項は、前回転数を検出するセンサが出力するパルス信号の間隔の真値に対してそれを量子化した値の誤差を考慮した項である。
【0014】
そのため、閾値を設定する演算式に第1補正項、第2補正項および第3補正項の少なくとも1つが含まれることにより、前回転数と後回転数との差の絶対値に含まれる誤差が判定に及ぼす影響を軽減でき、閾値を小さい値に設定することができる。閾値の値が小さいほど、摩擦クラッチのスリップによる前回転数と後回転数との差が小さい段階でスリップの発生を判定できるので、摩擦クラッチのスリップの発生を早期に検出することができる。
【0015】
その結果、摩擦クラッチのスリップの発生および再係合が繰り返されても、摩擦クラッチの再係合によるショックが小さいので、摩擦クラッチの耐久性の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、摩擦クラッチのスリップの発生を早期に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置が搭載される車両の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
図2】車両の制御系の構成を示すブロック図である。
図3】目標クラッチトルク容量の時間変化の一例を示す図である。
図4】スリップ検出のための演算回路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
【0020】
車両1は、エンジン2を駆動源として搭載し、たとえば、FR(Front-engine Rear-wheel-drive:フロントエンジン・リヤドライブ)レイアウトを採用している。エンジン2は、クランクシャフト3が車両1の前後方向(以下、単に「前後方向」という。)に対して縦向きになる縦置きで車両1の前部に搭載される。
【0021】
エンジン2は、たとえば、3気筒4ストロークエンジンであるが、3気筒4ストロークエンジンに限定されない。すなわち、エンジン2の気筒数は、3気筒に限らず、4気筒以上であってもよいし、2気筒以下であってもよい。また、エンジン2のストローク数は、4ストロークに限らず、2ストロークであってもよい。エンジン2には、燃焼室への吸入空気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが備えられている。また、エンジン2のクランキングのためのスタータモータがエンジン2に付随して設けられている。
【0022】
エンジン2の動力は、変速ユニット4に入力される。変速ユニット4から出力される動力は、プロペラシャフト5を介して、デファレンシャルギヤ6に伝達され、デファレンシャルギヤ6から左右の駆動輪(後輪)7L,7Rに伝達される。
【0023】
変速ユニット4は、外殻をなすユニットケース内に、トルクコンバータ8および無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)9を備えている。
【0024】
トルクコンバータ8は、ロックアップ機構付きのトルクコンバータであり、フロントカバー11、ポンプインペラ12、タービンランナ13およびロックアップクラッチ(ロックアップピストン)14を備えている。
【0025】
フロントカバー11は、前後方向に延びる回転軸線を中心に略円板状に延び、その外周端部がエンジン2側と反対側である後側に屈曲した形状をなしている。フロントカバー11の中心部には、エンジン2のクランクシャフト3が相対回転不能に結合される。
【0026】
ポンプインペラ12は、フロントカバー11の後側に配置されている。ポンプインペラ12の外周端部は、フロントカバー11の外周端部に接続され、ポンプインペラ12は、フロントカバー11と一体回転可能に設けられている。
【0027】
タービンランナ13は、フロントカバー11とポンプインペラ12との間に配置されている。
【0028】
ロックアップクラッチ14は、フロントカバー11とタービンランナ13との間に位置している。ロックアップクラッチ14に対してタービンランナ13側の係合側油室15の油圧がフロントカバー11側の解放側油室16の油圧よりも高いと、その差圧により、ロックアップクラッチ14がフロントカバー11側に移動し、ロックアップクラッチ14がフロントカバー11に押し付けられて、ポンプインペラ12とタービンランナ13とが直結(ロックアップオン)される。
【0029】
逆に、解放側油室16の油圧が係合側油室15の油圧よりも高いと、その差圧により、ロックアップクラッチ14がタービンランナ13側に移動する。ロックアップクラッチ14がフロントカバー11から離間した状態では、ポンプインペラ12とタービンランナ13との直結が解除(ロックアップオフ)される。ロックアップオフの状態において、エンジントルクによりポンプインペラ12が回転すると、ポンプインペラ12からタービンランナ13に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ13で受けられて、タービンランナ13が回転する。このとき、トルクコンバータ8の増幅作用が生じ、タービンランナ13には、エンジントルクよりも大きなトルクが発生する。
【0030】
無段変速機9は、インプット軸21、無段変速機構22、リバース伝達機構23およびアウトプット軸24を備えている。無段変速機9は、インプット軸21が前後方向に延びる縦向きとなるように設けられている。
【0031】
インプット軸21は、トルクコンバータ8の回転軸線上を延び、トルクコンバータ8のタービンランナ13と一体的に回転可能に設けられている。インプット軸21には、インプット軸ギヤ25が一体に形成されるか、または、別体に形成されたインプット軸ギヤ25が相対回転不能に支持されている。
【0032】
無段変速機構22は、プライマリ軸31、セカンダリ軸32、プライマリ軸31に支持されたプライマリプーリ33、セカンダリ軸32に支持されたセカンダリプーリ34およびプライマリプーリ33とセカンダリプーリ34とに巻きかけられたベルト35を備えている。
【0033】
プライマリ軸31は、その軸心がインプット軸21の軸心に対して後側から見て右下方に離間した位置に配置されて、インプット軸21と平行に延びている。セカンダリ軸32は、その軸心がインプット軸21の軸心に対して後側から見て左上方に離間した位置に配置されて、インプット軸21と平行に延びている。このように、インプット軸21に対して、プライマリ軸31とセカンダリ軸32とが左右に分かれて配置されている。これにより、プライマリ軸31とセカンダリ軸32との上下方向の軸間距離を短くすることができ、無段変速機9の上下方向のサイズを小さくすることができる。そのため、車両1が商用車などの車室が低床化された車両であっても、その車両1への変速ユニット4の搭載を車両1の最低地上高を確保しつつ可能とすることができる。
【0034】
プライマリプーリ33は、プライマリ軸31に固定されたプライマリ固定シーブ41と、プライマリ固定シーブ41にベルト35を挟んで対向配置され、プライマリ軸31にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されたプライマリ可動シーブ42とを備えている。プライマリ可動シーブ42は、プライマリ固定シーブ41に対して前側に配置されている。
【0035】
プライマリ可動シーブ42に対してプライマリ固定シーブ41側と反対側、つまり前側には、シリンダ43が設けられている。シリンダ43は、内周端がプライマリ軸31に固定され、プライマリ軸31から軸径方向に延び、外周端部が後側に屈曲して延びている。プライマリ可動シーブ42の外周端は、シリンダ43の外周端部に回転径方向の内側から液密的に当接している。プライマリ可動シーブ42とシリンダ43との間は、油室(ピストン室)44として形成されている。
【0036】
セカンダリプーリ34は、セカンダリ軸32に固定されたセカンダリ固定シーブ45と、セカンダリ固定シーブ45にベルト35を挟んで対向配置され、セカンダリ軸32にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されたセカンダリ可動シーブ46とを備えている。セカンダリ可動シーブ46は、セカンダリ固定シーブ45に対して後側に配置されており、前後方向において、セカンダリ固定シーブ45とセカンダリ可動シーブ46との位置関係は、プライマリプーリ33のプライマリ固定シーブ41とプライマリ可動シーブ42との位置関係と逆転している。
【0037】
セカンダリ可動シーブ46に対してセカンダリ固定シーブ45と反対側、つまり後側には、ピストン47が設けられている。ピストン47は、内周端がセカンダリ軸32に固定され、セカンダリ軸32から軸径方向に延びている。セカンダリ可動シーブ46の外周端部は、後側に延出しており、ピストン47の外周端は、そのセカンダリ可動シーブ46の外周端部に回転径方向の内側から液密的に当接している。セカンダリ可動シーブ46とピストン47との間は、油室48として形成されている。
【0038】
無段変速機構22では、プライマリプーリ33およびセカンダリプーリ34の各油室44,48に供給される油圧が制御されて、プライマリプーリ33およびセカンダリプーリ34の各溝幅が変更されることにより、ベルト変速比(プライマリプーリ33とセカンダリプーリ34とのプーリ比)が一定の変速比範囲内で連続的に無段階で変更される。
【0039】
具体的には、ベルト変速比が小さくされるときには、プライマリプーリ33の油室44に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ33のプライマリ可動シーブ42がプライマリ固定シーブ41側に移動し、プライマリ固定シーブ41とプライマリ可動シーブ42との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ33に対するベルト35の巻きかけ径が大きくなり、セカンダリプーリ34のセカンダリ固定シーブ45とセカンダリ可動シーブ46との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、ベルト変速比が小さくなる。
【0040】
ベルト変速比が大きくされるときには、プライマリプーリ33の油室44に供給される油圧が下げられる。これにより、ベルト35に対するセカンダリプーリ34の推力がベルト35に対するプライマリプーリ33の推力よりも大きくなり、セカンダリプーリ34のセカンダリ固定シーブ45とセカンダリ可動シーブ46との間隔が小さくなるとともに、プライマリ固定シーブ41とプライマリ可動シーブ42との間隔が大きくなる。その結果、ベルト変速比が大きくなる。
【0041】
なお、図示されていないが、セカンダリプーリ34の油室48には、バイアススプリングが設けられている。バイアススプリングは、一端がセカンダリ可動シーブ46に弾性的に当接し、他端がピストン47に弾性的に当接している。バイアススプリングの弾性力により、セカンダリ可動シーブ46およびピストン47が互いに離間する方向に付勢されている。セカンダリ可動シーブ46には、油室48内の油圧およびバイアススプリングによる付勢力が付与され、ベルト35には、それに応じた挟圧力が付与される。
【0042】
プライマリ軸31の前側の端部には、プライマリ入力ギヤ51が相対回転可能に支持されている。
【0043】
プライマリ入力ギヤ51とその後側に配置されるプライマリプーリ33との間に、前進クラッチ52が設けられている。前進クラッチ52は、油圧式の摩擦クラッチであり、油圧により係合し、プライマリ軸31に対するプライマリ入力ギヤ51の回転を禁止する。したがって、前進クラッチ52の係合状態では、プライマリ入力ギヤ51が回転すると、プライマリ軸31がプライマリ入力ギヤ51と一体に回転する。この係合状態の前進クラッチ52から油圧が開放されると、前進クラッチ52が解放される。前進クラッチ52の解放により、プライマリ軸31に対するプライマリ入力ギヤ51の回転が許容され、プライマリ入力ギヤ51が回転しても、その回転がプライマリ軸31に伝達されない。
【0044】
セカンダリ軸32の前側の端部には、セカンダリ入力ギヤ53が相対回転可能に支持されている。
【0045】
セカンダリ入力ギヤ53とその後側に配置されるセカンダリプーリ34との間には、後進クラッチ54が設けられている。後進クラッチ54は、油圧式の摩擦クラッチであり、油圧により係合し、セカンダリ軸32に対するセカンダリ入力ギヤ53の回転を禁止する。したがって、セカンダリ入力ギヤ53が回転すると、セカンダリ軸32がセカンダリ入力ギヤ53と一体に回転する。この係合状態の後進クラッチ54から油圧が開放されると、後進クラッチ54が解放される。後進クラッチ54の解放により、セカンダリ軸32に対するセカンダリ入力ギヤ53の回転が許容され、セカンダリ入力ギヤ53が回転しても、その回転がセカンダリ軸32に伝達されない。
【0046】
リバース伝達機構23は、インプット軸21の動力(回転)を無段変速機構22を経由せずにセカンダリ軸32に伝達する機構である。リバース伝達機構23は、リバースアイドラ軸55、第1リバースギヤ56および第2リバースギヤ57を含む。
【0047】
リバースアイドラ軸55は、インプット軸21と平行をなす前後方向に延びている。
【0048】
第1リバースギヤ56は、リバースアイドラ軸55と一体に形成されるか、または、リバースアイドラ軸55と別体に形成されて、リバースアイドラ軸55に相対回転不能に支持されている。
【0049】
アウトプット軸24は、インプット軸21に対して後側に間隔を空けて、インプット軸21と同一軸線上に配置されている。アウトプット軸24には、アウトプット軸ギヤ58が一体に形成されるか、または、アウトプット軸24と別体に形成されたアウトプット軸ギヤ58が相対回転不能に支持されている。これに対応して、セカンダリ軸32には、セカンダリプーリ34のピストン47の後側に隣接して、セカンダリ出力ギヤ59がスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。アウトプット軸ギヤ58とセカンダリ出力ギヤ59とは、噛合している。
【0050】
シフトレバーがDポジションに位置する状態では、前進クラッチ52が係合されて、後進クラッチ54が解放されることにより、Dレンジが構成される。このとき、エンジン2からトルクコンバータ8を介してインプット軸21に入力される動力は、前進クラッチ52の係合により、インプット軸ギヤ25からプライマリ入力ギヤ51を介してプライマリ軸31に伝達される。一方、インプット軸21に入力される動力がインプット軸ギヤ25からセカンダリ入力ギヤ53に伝達されて、セカンダリ入力ギヤ53が回転しても、後進クラッチ54の解放により、セカンダリ入力ギヤ53がセカンダリ軸32に対して空転し、セカンダリ軸32に動力が伝達されない。
【0051】
車両1の前進走行時には、前進クラッチ52が係合されて、後進クラッチ54が解放される。エンジン2からトルクコンバータ8を介してインプット軸21に入力される動力は、前進クラッチ52の係合により、インプット軸ギヤ25からプライマリ入力ギヤ51を介してプライマリ軸31に伝達される。一方、インプット軸21に入力される動力がインプット軸ギヤ25からセカンダリ入力ギヤ53に伝達されて、セカンダリ入力ギヤ53が回転しても、後進クラッチ54の解放により、セカンダリ入力ギヤ53がセカンダリ軸32に対して空転し、セカンダリ軸32に動力が伝達されない。
【0052】
プライマリ軸31に伝達される動力は、プライマリプーリ33とセカンダリプーリ34とのプーリ比に応じたベルト変速比で変速されて、セカンダリ軸32に伝達される。そして、セカンダリ軸32に伝達される動力は、セカンダリ出力ギヤ59からアウトプット軸ギヤ58を介してアウトプット軸24に伝達され、アウトプット軸24からプロペラシャフト5に伝達される。
【0053】
車両1の後進走行時には、前進クラッチ52が解放されて、後進クラッチ54が係合される。エンジン2からトルクコンバータ8を介してインプット軸21に入力される動力は、後進クラッチ54の係合により、インプット軸ギヤ25からリバース伝達機構23およびセカンダリ入力ギヤ53を介してセカンダリ軸32に伝達される。このとき、セカンダリ軸32は、車両1の前進時と逆方向に回転する。一方、インプット軸21に入力される動力がインプット軸ギヤ25からプライマリ入力ギヤ51に伝達されて、プライマリ入力ギヤ51が回転しても、前進クラッチ52の解放により、プライマリ入力ギヤ51がプライマリ軸31に対して空転し、プライマリ軸31に動力が伝達されない。
【0054】
セカンダリ軸32に伝達される動力は、セカンダリ出力ギヤ59からアウトプット軸ギヤ58を介してアウトプット軸24に伝達され、アウトプット軸24からプロペラシャフト5に伝達される。
【0055】
<車両の制御系>
図2は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
【0056】
車両1には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されている。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラユニット)を備えており、マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。各ECUには、制御に必要な各種センサが接続されており、その接続されたセンサの検出信号が入力される。また、各ECUには、各種センサから入力される検出信号以外に制御に必要な情報が他のECUから入力される。
【0057】
図1には、複数のECUのうち、エンジン2および変速ユニット4を制御するためのECU61が示され、そのECU61に接続されたセンサとして、エンジン回転数センサ62、アクセルセンサ63、前回転数センサ64および後回転数センサ65が示されている。
【0058】
エンジン回転数センサ62は、エンジン2の回転(クランクシャフト3の回転)に同期したパルス信号を検出信号として出力する。ECU61では、エンジン回転数センサ62から入力されるパルス信号の周波数が求められて、その周波数がエンジン2の回転数(エンジン回転数)に換算される。
【0059】
アクセルセンサ63は、運転者により操作されるアクセルペダル(図示せず)の操作量に応じた検出信号を出力する。ECU61では、アクセルセンサ63の検出信号から、アクセルペダルの最大操作量に対する操作量の割合、つまりアクセルペダルが踏み込まれていないときを0%とし、アクセルペダルが最大に踏み込まれたときを100%とする百分率であるアクセル開度が求められる。
【0060】
前回転数センサ64は、前進クラッチ52の入力側となるプライマリ入力ギヤ51の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力する。ECU61では、前回転数センサ64から入力されるパルス信号の周波数が求められて、その周波数がプライマリ入力ギヤ51の回転数である前回転数N1に換算される。
【0061】
後回転数センサ65は、前進クラッチ52の出力側となるプライマリ軸31の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力する。ECU61では、後回転数センサ65から入力されるパルス信号の周波数が求められて、その周波数がプライマリ軸31の回転数である後回転数N2に換算される。
【0062】
<余裕代設定処理>
図3は、目標クラッチトルク容量の時間変化の一例を示す図である。
【0063】
車両1では、前進クラッチ52が係合される前進走行時に、ECU61により、無段変速機構22のプライマリ軸31に入力される入力トルクに対して、無段変速機構22のベルト35の伝達トルク容量(クラッチトルク容量)の目標である目標ベルトトルク容量と、前進クラッチ52の伝達トルク容量(ベルトトルク容量)の目標である目標クラッチトルク容量とが繰り返し設定される。
【0064】
目標ベルトトルク容量は、入力トルクによるベルト35の滑りが生じないように、入力トルクよりも大きい値に設定される。目標ベルトトルク容量が設定されると、ベルトトルク容量が目標ベルトトルク容量と一致するように、ECU61により、無段変速機構22のセカンダリプーリ34の油室48に供給される油圧が制御される。
【0065】
目標クラッチトルク容量は、入力トルクに余裕代を加えた値に設定され、その余裕代の管理により、前進クラッチ52のクラッチトルク容量が無段変速機構22のベルトトルク容量を超えないように、目標クラッチトルク容量よりも小さい値に設定される。目標クラッチトルク容量が設定されると、クラッチトルク容量が目標クラッチトルク容量と一致するように、ECU61により、前進クラッチ52に供給される油圧であるクラッチ圧が制御される。
【0066】
以下、入力トルクおよび目標ベルトトルク容量が一定であるとして、余裕代の設定の手法について説明する。
【0067】
以下の手法により設定される余裕代は、ECU61の不揮発性メモリに記憶されてもよいし、ECU61の揮発性メモリに記憶されてもよい。余裕代が不揮発性メモリに記憶される場合、車両1のイグニッションスイッチがオフにされた後も、その余裕代の記憶が残るので、次にイグニッションスイッチがオンされて、車両1が前進走行を開始する際に、その不揮発性メモリに記憶されている余裕代が目標クラッチトルク容量の設定に使用されるとよい。一方、余裕代が揮発性メモリに記憶される場合、イグニッションスイッチがオフにされると、その余裕代の記憶が消去されるので、次にイグニッションスイッチがオンされて、車両1が前進走行を開始する際には、余裕代の初期値が目標クラッチトルク容量の設定に使用されるとよい。
【0068】
車両1が前進走行している状態で、次の禁止条件1~7がいずれも成立しない場合、余裕代が時間経過に伴って漸減される(時間T1-T2)。余裕代は、一定の変化率で連続的に下げられてもよいし、一定量ずつ段階的に下げられてもよい。
【0069】
禁止条件:
1.前回転数N1および後回転数N2が0または検出可能な最低回転数以下である。
2.クラッチ圧の下限ガードが作動中である。
3.ロックアップオン/オフの過渡中である。
4.無段変速機構22が急変速中(変速比の時間変化率が一定以上)である。
5.車両1が急減速中(減速度が一定以上)である。
6.入力トルクが急変中(入力トルクの時間変化率が一定以上)である。
7.エンジン2がフューエルカットまたは低回転状態(エンジン回転数が一定以下)である。
【0070】
なお、禁止条件1は、前進クラッチ52のスリップ検出が遅れることを防止するために設けられている。禁止条件2~5は、クラッチトルク容量不足の誤判定を防止するために設けられてきる。禁止条件6は、前進クラッチ52の応答遅れによるスリップ(滑り)の発生を防止するために設けられている。禁止条件7は、エンジン2がストールすることを防止するために設けられている。スリップ検出およびクラッチトルク容量不足の判定については、後述する。
【0071】
クラッチ圧の下限ガードは、クラッチ圧が一定以下に低下することを防止するために設定されている。下限ガードは、たとえば、前進クラッチ52のピストンがクッショニングスプリングの弾性力に抗してクラッチプレートをクラッチディスクに押し付けて、クラッチプレートとクラッチディスクとの間の隙間が押し潰された状態になる瞬間の油圧に設定されている。これにより、前進クラッチ52にスリップが発生した場合に、前進クラッチ52に供給される油圧を引き上げて、前進クラッチ52のスリップを速やかに止めることができる。
【0072】
余裕代の漸減に伴って、目標クラッチトルク容量が漸減し、前進クラッチ52のクラッチトルク容量(実クラッチトルク容量)が漸減する。クラッチトルク容量の漸減が進み、クラッチトルク容量に不足が生じると、前進クラッチ52のスリップが発生する。前進クラッチ52のスリップが発生すると、前進クラッチ52の入力側となるプライマリ入力ギヤ51の回転数である前回転数N1と、前進クラッチ52の出力側となるプライマリ軸31の回転数である後回転数N2とに差が生じる。ECU61では、前回転数N1と後回転数N2との差が所定の閾値以上になったことを以て、前進クラッチ52のスリップの発生が検出されたとして、クラッチトルク容量に不足が生じたと判定される。
【0073】
クラッチトルク容量に不足が生じると(時刻T2)、その時点での余裕代に所定値を加えた値が新たな余裕代として設定される。そして、目標クラッチトルク容量が現在の値から入力トルクに新たな余裕代を加えた値まで引き上げられる(時間T2-T3)。このとき、目標クラッチトルク容量は、一定の変化率で連続的に引き上げられてもよいし、一定量ずつ段階的に引き上げられてもよい。
【0074】
なお、クラッチトルク容量に不足が生じた時点での余裕代そのものの値に所定値を加えられてもよいが、クラッチトルク容量に不足が生じた時点での余裕代および過去に設定された余裕代に重み付けがなされて、それらの値を加算して得られる値に所定値が加えられてもよい。
【0075】
新たな余裕代が設定されると、目標クラッチトルク容量の引き上げによりクラッチトルク容量の不足が解消されてからの所定期間(インターバル)は、その新たな余裕代が漸減されずに保持される(時間T3-T4)。所定期間は、種々の状況に応じて可変に設定される。たとえば、余裕代が所定値よりも大きい場合には、余裕代が所定値よりも小さい場合よりも、所定期間が短い期間に設定されてもよい。所定期間は、時間により設定されてもよいし、走行距離により設定されてもよい。時間により設定される場合、車両1が停止している時間が所定期間から排除されてもよい。
【0076】
余裕代が保持されている所定期間に、クラッチトルク容量に不足が生じて、前進クラッチ52のスリップの発生が検出された場合には、その時点での余裕代に所定値を加えた値が新たな余裕代として設定される。この場合、所定値は、余裕代の漸減によりクラッチトルク容量に不足が生じた場合の所定値よりも小さい値に設定されることが好ましい。これにより、クラッチトルク容量が不必要に引き上げられることを抑制できる。
【0077】
なお、それ以外にも、所定値は、エンジン2の状態(駆動状態、エンジンブレーキ状態)などに応じて可変に設定されてもよい。
【0078】
所定期間の経過後は、余裕代が漸減されて(時間T4-T5)、前述の処理が再び行われる。
【0079】
<スリップ検出>
図4は、スリップ検出のための演算回路を示すブロック図である。
【0080】
ECU61では、前進クラッチ52のスリップの発生を検出するため、前進クラッチ52の入力側となるプライマリ入力ギヤ51の回転数である前回転数N1と、前進クラッチ52の出力側となるプライマリ軸31の回転数である後回転数N2とが取得される。
【0081】
前回転数N1に係数αを乗じることにより、前回転数N1に比例した第1補正項が求められる。前回転数センサ64のパルス信号を発生するための検出歯を有する回転体とプライマリ入力ギヤ51との間に回転方向の遊びがあるので、第1補正項は、その遊びによる誤差を考慮した項として設定される。
【0082】
また、前回転数N1の微分値DN1に係数βを乗じ、その乗算値を前回転数N1で除することにより、前回転数N1に反比例し、かつ、前回転数N1の時間変化率に比例した第2補正項が求められる。第2補正項は、前回転数センサ64の検出信号から取得される前回転数N1が真値に対して遅れることを考慮した項として設定される。
【0083】
さらに、前回転数N1の2乗値に係数γを乗じることにより、前回転数N1の2乗値に比例した第3補正項が求められる。前回転数N1が2倍になると、前回転数センサ64が出力するパルス信号の間隔の真値に対してそれを量子化した値の誤差率が2倍になるので、第3補正項は、その誤差を考慮した項として設定される。なお、前回転数N1の誤差は、真値に誤差率を乗じた値であるため、前回転数N1の2乗値が用いられることが適当である。
【0084】
そして、第1補正項、第2補正項および第3補正項を足し合わせることにより、スリップ検出の閾値が設定される。
【0085】
すなわち、スリップ検出の閾値は、次の演算式に従って設定される。
閾値=α・N1+β・DN1/N1+γN1
【0086】
一方、前回転数N1と後回転数N2との差分の絶対値が求められる。
【0087】
その後、前回転数N1と後回転数N2との差分の絶対値と閾値との大小が比較されて、前回転数N1と後回転数N2との差分の絶対値が閾値以上であれば、前進クラッチ52のスリップの発生が検出されたとして、クラッチトルク容量に不足が生じたと判定される。
【0088】
<作用効果>
以上のように、目標クラッチトルク容量が入力トルクに余裕代を加えた値に設定されて、前進クラッチ52のクラッチトルク容量が目標クラッチトルク容量となるように前進クラッチ52のクラッチ圧が制御される。
【0089】
前進クラッチ52が係合した状態で、余裕代が漸減される。余裕代の漸減に伴って、目標クラッチトルク容量が漸減し、クラッチトルク容量に不足が生じて、前進クラッチ52のスリップの発生が検出されると、その時点の余裕代に基づく値に所定値を加えた値が新たな余裕代として設定される。
【0090】
入力トルクに前進クラッチ52のスリップの発生の検出時点での余裕代を加えた値は、前進クラッチ52に必要とされるクラッチトルク容量であるから、不足時点での余裕代に基づく値に加える所定値は、小さい値に設定することができる。これにより、クラッチトルク容量に不足が生じず、かつ、クラッチトルク容量が無段変速機構22のベルトトルク容量を超えないように、余裕代を精度よく管理することができる。その結果、路面から車両1の駆動輪7L,7Rに過大なトルクが入力されても、ベルト35よりも先に前進クラッチ52を滑らせることができ、このクラッチヒューズの作動により、ベルト滑りの発生を防止することができる。
【0091】
しかも、目標クラッチトルク容量を可及的に小さい値に設定できるので、ベルトトルク容量の目標である目標ベルトトルク容量を下げて、ベルト35に付与される挟圧が下げることができる。挟圧の低下により、エネルギ損失の低減を図ることができ、ひいては、車両1の燃費の向上を図ることができる。
【0092】
また、新たな余裕代が設定されてからその余裕代が更新されるまでに、適度なインターバルが設けられることにより、前進クラッチ52のスリップが頻繁に発生することによる耐久性の低下を防止しつつ、余裕代を精度よく管理することができる。
【0093】
前進クラッチ52のスリップの発生の検出に用いられる閾値は、第1補正項、第2補正項および第3補正項を足し合わせる演算式に従って設定される。第1補正項は、前回転数センサ64のパルス信号を発生するための回転体とプライマリ入力ギヤ51との回転方向の遊びによる誤差を考慮した項であり、第2補正項は、前回転数センサ64の検出信号から取得される前回転数N1が真値に対して遅れることを考慮した項であり、第3補正項は、前回転数センサ64が出力するパルス信号の間隔の真値に対してそれを量子化した値の誤差を考慮した項である。
【0094】
そのため、閾値を設定する演算式に第1補正項、第2補正項および第3補正項が含まれることにより、前回転数と後回転数との差の絶対値に含まれる誤差を無視でき、閾値を小さい値に設定することができる。閾値の値が小さいほど、前進クラッチ52のスリップによる前回転数と後回転数との差が小さい段階でスリップの発生を判定できるので、前進クラッチ52のスリップの発生を早期に検出することができる。
【0095】
その結果、前進クラッチ52のスリップの発生および再係合が繰り返されても、前進クラッチ52の再係合によるショックが小さいので、前進クラッチ52の耐久性の低下を抑制することができる。そのため、余裕代が再設定される回数を増やすことができ、余裕代をより一層精度よく管理することができる。
【0096】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0097】
たとえば、前述の実施形態では、閾値を設定する演算式に第1補正項、第2補正項および第3補正項が含まれるとしたが、閾値を設定する演算式に第1補正項、第2補正項および第3補正項の少なくとも1項が含まれることにより、従来と比較して、閾値を小さい値に設定することができ、前進クラッチ52のスリップの発生を早期に検出することができる。
【0098】
また、閾値を設定する演算式には、理論値に対する余裕代として定数項がさらに追加されてもよい。
【0099】
エンジン2と変速ユニット4とは、別々のECUにより制御されてもよい。その場合、本発明は、変速ユニット4を制御するECUに適用される。エンジン2を制御するECUにエンジン回転数センサ62およびアクセルセンサ63が接続されて、エンジン2を制御するECUでエンジン回転数およびアクセル開度が算出され、エンジン回転数およびアクセル開度がエンジン2を制御するECUから変速ユニット4を制御するECUに送信されてもよい。
【0100】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0101】
1:車両
2:エンジン(駆動源)
7L,7R:駆動輪
22:無段変速機構
33:プライマリプーリ
34:セカンダリプーリ
35:ベルト
52:前進クラッチ
61:ECU(車両用制御装置、目標クラッチトルク容量設定手段、余裕代設定手段)
図1
図2
図3
図4