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特許7442946リフティングマグネット装置及びこれを用いた鉄系スクラップの成分分析方法
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  • 特許-リフティングマグネット装置及びこれを用いた鉄系スクラップの成分分析方法 図1
  • 特許-リフティングマグネット装置及びこれを用いた鉄系スクラップの成分分析方法 図2
  • 特許-リフティングマグネット装置及びこれを用いた鉄系スクラップの成分分析方法 図3
  • 特許-リフティングマグネット装置及びこれを用いた鉄系スクラップの成分分析方法 図4
  • 特許-リフティングマグネット装置及びこれを用いた鉄系スクラップの成分分析方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】リフティングマグネット装置及びこれを用いた鉄系スクラップの成分分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/2028 20190101AFI20240227BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20240227BHJP
   G01N 21/71 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
G01N33/2028
G01N23/223
G01N21/71
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021071728
(22)【出願日】2021-04-21
(65)【公開番号】P2022166489
(43)【公開日】2022-11-02
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591063202
【氏名又は名称】産業振興株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 圭造
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-174855(JP,A)
【文献】特開2012-242086(JP,A)
【文献】特開2020-163256(JP,A)
【文献】特開平10-216651(JP,A)
【文献】特開2019-052884(JP,A)
【文献】特表2020-513547(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0055039(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/2028
B66C 1/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系スクラップをハンドリングするリフティングマグネットの中心部に、内部が正圧に保たれた空洞を形成して成分分析器を内包させ、前記空洞につながる分析孔からパージエアを吹き出しながら、この分析孔を通じて、リフティングマグネットに吸着している鉄系スクラップの成分分析を可能としたことを特徴とするリフティングマグネット装置。
【請求項2】
成分分析器を内包させた前記空洞に、プレアブレーションを行うレーザー発振器または機械式デスケーリング機構を併せて内包させたことを特徴とする請求項1に記載のリフティングマグネット装置。
【請求項3】
前記成分分析器を、レーザーの空打ちによってデスケーリングが可能な、レーザー誘起ブレークダウン分析器としたことを特徴とする請求項1に記載のリフティングマグネット装置。
【請求項4】
前記成分分析器を、レーザー誘起ブレークダウン分析器と、蛍光X線分析器との2方式としたことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のリフティングマグネット装置。
【請求項5】
鉄系スクラップをハンドリングするリフティングマグネットの中心部に、内部が正圧に保たれた空洞を形成して成分分析器とレーザー発振器とを内包させ、
リフティングマグネットに吸着された鉄系スクラップに対して前記空洞につながる分析孔からパージエアを吹き出すとともに、
この分析孔を通じたレーザ照射による鉄系スクラップの表面のスケール除去と、鉄系スクラップの成分を分析とを、ハンドリング中にリアルタイムで行うことを特徴とする鉄系スクラップの成分分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リフティングマグネット装置及びこれを用いた鉄系スクラップの成分分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラルな持続可能な社会の実現に向けて、成分調整が比較的容易で高級鋼の製造に適した高炉法による製鉄技術から、二酸化炭素排出量の少ない電気炉法に依る高級鋼製造のニーズが高まってきている。電気炉法では、電気炉に供給する鉄系スクラップの成分保証の精度が、高級鋼を製造できるか否かを左右する重要な技術課題となっている。
【0003】
市中で回収した鉄系スクラップには、市中の雑屑が含まれていることがある。また工場由来の鉄系スクラップであったとしても、製品でないスクラップはトレーサビリティを確保することは困難である。よって、鉄系スクラップを電気炉向けの製鋼原料として成分保証するためには、選別時に常に成分分析を行うことが求められている。
【0004】
このため従来は、ハンディタイプの蛍光X線分析器を用いて人手によりスクラップの成分分析を行っていた。そのためには人が分析できるようにスクラップを並べ替え、グラインダーなどを用いて人手により機械的にデスケーリング(錆落し)し、スクラップに蛍光X線分析器を押し付けて分析していた。しかし、分析完了後にスクラップをハンドリングする必要があった。
【0005】
また特許文献1には、図Aに示すように搬送ライン2の上方にレーザー誘起プラズマ発光型の分析装置1を固定し、その下方を搬送されるスクラップにレーザー光を照射し、発光スペクトルから成分分析を行う自動装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-52884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1の技術では、スクラップを一旦、分析ラインに装入し、分析終了後に所定の位置にハンドリングしなければならず、人手分析の場合と同様の問題がある。また、分析精度を高めるためには、レーザー光を照射するタイミングで搬送ライン2を停止する必要がある。また、スクラップは大きさや形態がまちまちであるため、レーザーの焦点をいちいち合わせるか、もしくは長焦点のレーザーを用いるため、高い分析精度が得られないという問題がある。さらに、人手分析の場合も特許文献1の技術の場合も、スクラップのハンドリング時に成分違いのものが混入する異材混入の懸念があり、この懸念を根本から皆無にすることは不可能であった。
【0008】
従って本発明の課題は上記した従来の問題点を解決し、鉄系スクラップの成分を、異材混入のおそれなく精度よく分析することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記の課題を解決するために検討を重ねた結果、鉄系スクラップのハンドリングに使用されるリフティングマグネットに成分分析器を組み込むことにより、異材混入の懸念を皆無とし、しかも高い分析精度を達成できることに思い至った。
【0010】
上記の知見に基づいて完成された本発明は、鉄系スクラップをハンドリングするリフティングマグネットの中心部に、内部が正圧に保たれた空洞を形成して成分分析器を内包させ、前記空洞につながる分析孔からパージエアを吹き出しながら、この分析孔を通じて、リフティングマグネットに吸着している鉄系スクラップの成分分析を可能としたことを特徴とするリフティングマグネット装置を要旨とするものである。
【0011】
なお、成分分析器を内包させた前記空洞に、プレアブレーションを行うレーザー発振器または機械式デスケーリング機構を併せて内包させた構成とすることが好ましい。また、前記成分分析器を、レーザーの空打ちによってデスケーリングが可能な、レーザー誘起ブレークダウン分析器とすることができる。さらに、前記成分分析器を、レーザー誘起ブレークダウン分析器と、蛍光X線分析器との2方式とすることができる。
【0012】
また、本発明の鉄系スクラップの成分分析方法は、鉄系スクラップをハンドリングするリフティングマグネットの中心部に内部が正圧に保たれた空洞を形成して成分分析器とレーザー発振器とを内包させ、リフティングマグネットに吸着された鉄系スクラップに対して前記空洞につながる分析孔からパージエアを吹き出すとともに、この分析孔を通じたレーザ照射による鉄系スクラップの表面のスケール除去と、鉄系スクラップの成分を分析とを、ハンドリング中にリアルタイムで行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鉄系スクラップのハンドリングに使用されるリフティングマグネットの中心部の空洞に成分分析器を内包させ、リフティングマグネットに形成された分析孔を通じて、パージエアを吹き出しながらこの分析孔を通じて吸着している鉄系スクラップの成分分析を行う。このようにハンドリング中に鉄系スクラップの成分分析を行うことができるので、異材混入のおそれがないうえ、従来のような成分分析のためのハンドリング工程をなくすことができる。また、リフティングマグネットに吸着されている鉄系スクラップと成分分析器との距離は常に一定であるから、高い分析精度を達成することができる。
【0014】
なお、リフティングマグネットの中心部に、プレアブレーションを行うレーザー発振器または機械式デスケーリング機構を内包させれば、スケールの表面に熱延スケールが残存していたり、メッキ膜が存在したり、塗油が付着しているような場合にもこれらを除去し、精度の高い成分分析値を得ることができる。さらに前記成分分析器を、レーザーの空打ちによってデスケーリングが可能なレーザー誘起ブレークダウン分析器とすれば、大きな空洞を形成することなく、比較的簡単な構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明を天井クレーンに装着した第1の実施形態の説明図である。
図2】リフティングマグネットの内部構造を示す部分断面図である。
図3】リフティングマグネットの他の内部構造を示す部分断面図である。
図4】本発明を重機に装着した第2の実施形態の説明図である。
図5】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態を示す。
図1は本発明のリフティングマグネット装置を天井クレーンに装着した第1の実施形態を示す図であり、10は天井クレーン本体、11はその上を走行するクラブ、12は天井クレーン本体10の下方に位置する運転室である。クラブ11はワイヤロープ13とフック14を介してリフティングマグネット15を吊り上げており、このリフティングマグネット15に鉄系スクラップを吸着して移動させるハンドリングを行う。
【0017】
図2にスクラップ用のリフティングマグネット15の内部構造を示す。16はリフティングマグネット本体、17は外部鉄心、18は内部鉄心、19は外部鉄心17に設けられた励磁コイルである。リフティングマグネット15は、励磁コイル19に電流を流すことにより磁力を発生させ、その下面に鉄系スクラップを吸着させてハンドリングを行う装置である。
【0018】
本発明のリフティングマグネット15の中心部には、下部がテーパ状となった空洞20が形成され、この空洞20内に成分分析器21が内包されている。成分分析器21の周囲には発泡樹脂などの振動吸収材22が充填され、また成分分析器21の下部には振動吸収用のスプリング23が配置されている。またリフティングマグネット15の中心部には空洞20につながる分析孔24が形成され、成分分析器21の検出端25はこの分析孔24を通じて、吸着されている鉄系スクラップの成分分析を行う。
【0019】
上記した空洞20の直径は例えば50mm程度であり、分析孔24の直径は例えば10mm程度である。空洞20の直径が大きくなると電磁抵抗が減少し、吸着力を低下させる懸念がある。しかし空洞20の直径を内部鉄心18の直径の1/10程度とすれば、電磁抵抗の減少を1%前後に抑制し、吸着力の低下を防止することができる。
【0020】
この実施形態では、分析孔24からスケールや粉塵が空洞20の内部に侵入することを防止するため、リフティングマグネット本体16の上面に小型のエアコンプレッサ26を設置し、空洞20の内部を正圧に保つとともに分析孔24からパージエアーを吹き出し、成分分析器21の分析窓を保護している。なお、27はリフティングマグネット本体16の上面に設けられた保持金具である。
【0021】
成分分析器21としては、従来から成分分析に使用されている蛍光X線分析器や、レーザー誘起ブレークダウン分析器を用いることができる。レーザー誘起ブレークダウン分析器は、分析対象物の表面に短パルスでレーザー光線を当てることにより発生するマイクロプラズマを利用した分析器である。この分析器は鉄系スクラップに含まれる元素の内、C、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Co、Cu、Nb、Mo、Wの検出に優れる特徴がある。特にCについては、蛍光X線分析では検出が難しい。一方、蛍光X線分析器は、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Se、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Pbなどの分析に適する。よって、成分分析器21は、対象となる鉄系スクラップおよび知るべき情報の種類によって方式を選択する必要がある。Cを含めて、多くの含有元素の情報を得たい場合には、レーザー誘起ブレークダウン分析器と、蛍光X線分析器との2方式とすることが好ましい。
【0022】
前記したように、分析孔24の大きさは小さい方が機器への負担(吸着力の低減)が小さく、スケールや粉塵の侵入を防止することができる。しかし分析精度を確保するためには、蛍光X線分析器の場合には測定視野がスポットで直径8mmが必要とされているため、分析孔24の直径を10mm程度とすることが必要となる。これに対してレーザー誘起ブレークダウン分析器ではスポットサイズは直径50μm程度であるため、単独で用いる場合には分析孔24の直径を1mm程度にまで小さくすることができる。
【0023】
図2に示すように、成分分析器21とその制御・記録装置30は、制御並びに電力供給用ケーブル31により接続されている。32は分析結果表示モニター、33はプリンターである。この制御・記録装置30はクレーンの運転室12に搭載しておくことが好ましい。
【0024】
図3は、リフティングマグネット15の中心部の空洞20に、成分分析器21とともに、デスケーラー40を内包させた状態を示す部分断面図である。デスケーラー40として、図3にはプレアブレーションを行うレーザー発振器が示されている。このレーザー発振器はリフティングマグネット15に吸着された鉄系スクラップに対してレーザー光線を数回空打ちし、デスケーリングを行うもので、スケールの表面に残存する熱延スケール、メッキ膜、塗油などを除去し、精度の高い成分分析を可能とする。しかしデスケーラー40の種類はこれに限定されるものではなく、ジェットたがねなどの機械式デスケーリング機構を用いることもできる。
【0025】
しかし空洞20の内部に成分分析器21とデスケーラー40とを内包させた場合には、空洞20のサイズを大きくする必要があり、リフティングマグネット15の吸着力を低減させるおそれがある。この問題を回避するため、成分分析器21を、レーザーの空打ちによってデスケーリングが可能なレーザー誘起ブレークダウン分析器とすることもできる。このような構成とすれば、デスケ―リングと成分分析とを同一の装置により行うことができるので、空洞20のサイズを大きくする必要はなくなる。
【0026】
図4は本発明を重機(バックフォー)50に装着した組み合わせた第2の実施形態を示す図である。リフティングマグネット15の構成は第1の実施形態と同様である。第2の実施形態では、制御・記録装置30は重機50の運転室51に搭載しておくことが好ましい。
【0027】
以上に説明したリフティングマグネット装置を用いれば、鉄系スケールを吸着してハンドリングする作業と同時に、吸着した鉄系スケールの成分分析を行うことができる。吸着中はスクラップの表面とリフティングマグネット15の吸着面は、スクラップの表面凹凸のみのほぼ同一面となるので、レーザーや蛍光X線の焦点を高い確率でスクラップの表面に一致させることができ、分析精度を高めることができる。
【0028】
なお、リフティングマグネット15が鉄系スクラップの吸着後、上昇や旋回など目的場所までのハンドリングを行うが、目的場所でスクラップを釈放するまでの時間内に分析を終わらせる必要がある。レーザー誘起ブレークダウン分析器の分析必要時間は10秒とされており、蛍光X線分析器の場合にもスクラップへの押し付けが十分で距離が一定に保たれる本発明では、10秒で分析可能である。出願人会社の実績によれば、図4に示したバックフォー重機による鉄系スクラップのハンドリング時間は10~17秒であるから、ハンドリング時間内に成分分析が可能である。
【0029】
このように、本発明によればハンドリング中にリアルタイムで鉄系スクラップの成分を分析することができるので、従来のように成分分析後にハンドリングを行う必要がなくなり、異物混入の懸念をなくすことができる。しかも分析精度を高めることができる。このため、電気炉に供給する鉄系スクラップの成分保証の精度を高めることが可能となり、二酸化炭素排出量の少ない電気炉法に依る高級鋼製造のニーズに応えることも可能となる。
【符号の説明】
【0030】
1 分析装置
2 搬送ライン
10 天井クレーン本体
11 クラブ
12 運転室
13 ワイヤロープ
14 フック
15 リフティングマグネット
16 リフティングマグネット本体
17 外部鉄心
18 内部鉄心
19 励磁コイル
20 空洞
21 成分分析器
22 振動吸収材
23 スプリング
24 分析孔
25 検出端
26 エアコンプレッサ
27 保持金具
30 制御・記録装置
31 制御並びに電力供給用ケーブル
32 分析結果表示モニター
33 プリンター
40 デスケーラー
50 重機(バックフォー)
51 重機の運転室
図1
図2
図3
図4
図5