(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】レイアウト計画システム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/13 20200101AFI20240227BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20240227BHJP
【FI】
G06F30/13
G06F30/20
(21)【出願番号】P 2023039495
(22)【出願日】2023-03-14
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2022039769
(32)【優先日】2022-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年3月19日、令和3年8月4日、令和3年12月8日及び令和4年3月14日 ウェブ会議にて開催された、総務省事業「電波資源拡大のための研究開発」運営委員会にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年8月24日 ウェブ会議にて開催された、電子情報通信学会 短距離無線通信研究会(https://www.ieice.org/ken/program/index.php?tgs_regid=95f65ac805084384245e2b70d67a94525720ac2a9acc5b3507be7b05ba822357&tgid=IEICE-SRW)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年11月25日 パシフィコ横浜(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1)にて開催された、Microwave Workshops & Exhibition 2021(https://apmc-mwe.org/mwe2021/program/1125.html)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年11月26日 ウェブ会議にて開催された、電子情報通信学会 クラウドネットワークロボット研究会(https://www.ieice.org/ken/program/index.php?tgs_regid=e89b45154eb505409aa7f016b00b266d41b892945213cf714a9e6b41faf4d441&tgid=IEICE-SRW)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年12月9日 ウェブ会議にて開催された、第40回人間情報学会(http://www.ahi-soc.info/pdf/40thAHI_proceedings.pdf)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和4年3月4日 ウェブ会議にて開催された、国立研究開発法人情報通信研究機構 ワイヤレスエミュレータ利活用シンポジウム(https://pco-prime.com/cps_promo/)にて公開
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001351
【氏名又は名称】コクヨ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】天野 高光
(72)【発明者】
【氏名】坂口 綾華
(72)【発明者】
【氏名】坂本 賢亮
(72)【発明者】
【氏名】山川 裕生
(72)【発明者】
【氏名】三村 和香
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-304255(JP,A)
【文献】特開2019-180066(JP,A)
【文献】特開2011-159163(JP,A)
【文献】特開2003-067448(JP,A)
【文献】特開2021-033684(JP,A)
【文献】特開2001-036449(JP,A)
【文献】特開2017-212545(JP,A)
【文献】国際公開第2021/131425(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0035191(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0271079(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
G06Q 50/00 -50/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の什器を配置した
複数の階層を有したフロア内での無線通信の状態を仮想的に表示するものであって、
前記フロア内
の何れかの階層に配置される一または複数の什器の位置及び各什器の特性に関するデータを含む構造物情報を格納する構造物情報格納部と、
前記フロア内
の何れかの階層に所在する
複数の通信端末の各々の位置に関するデータを含む端末情報を格納する端末情報格納部と、
前記通信端末と無線通信を行うために
前記フロア内
の何れかの階層に配置される
複数のアンテナの位置及び各アンテナの特性に関するデータを含むアンテナ情報を格納するアンテナ情報格納部と、
前記構造物情報、前記端末情報及び前記アンテナ情報を基にシミュレートされる結果である、
フロア内にある複数の通信端末及び複数のアンテナのそれぞれについて、フロア内においてどの通信端末がどのアンテナと通信接続可能であるか、及び当該通信端末と当該アンテナとの間で実現可能な通信速度を、当該通信端末と当該アンテナとを線で結びかつ当該通信端末と当該アンテナとの間で実現可能な通信速度を示唆する表現をその線上で行うことで同時に可視化してユーザに提示するべくディスプレイに画面表示させる表示制御部とを具備
し、
前記フロア内に所在する複数の通信端末のうち少なくとも一部はフロア内を移動可能であり、前記端末情報格納部は、移動可能な各通信端末毎に、それが移動する場合の動線若しくは移動経路、移動速度、起点から移動する確率若しくは頻度を規定するデータを含む端末情報を格納し、
前記表示制御部は、刻々と移動する前記通信端末の前記フロア内での位置を基に単位時間あたりの時系列的なシミュレーションが反復的に実行される結果である、各時点における、フロア内においてどの通信端末がどのアンテナと通信接続可能であるか、及び当該通信端末と当該アンテナとの間で実現可能な通信速度を、時系列的に変化するアニメーションとしてディスプレイに画面表示させ、
さらに、前記表示制御部は、シミュレーションの結果に応じて、前記フロアのある階内にある通信端末と、別の階内にあるアンテナとが通信接続可能であるときに、それら通信端末とアンテナとを両階を跨ぐ前記線で結んで可視化してディスプレイに画面表示させるものであり、
また、前記表示制御部は、前記フロア内の各所に設置した各アンテナから放射される通信用の電波の強度及びフロア内での到達範囲をも視覚的にディスプレイに画面表示させる、レイアウト計画システム。
【請求項2】
請求項1記載のレイアウト計画システムを構成するために用いられるものであって、コンピュータを、
複数の階層を有したフロア内
の何れかの階層に配置される一または複数の什器の位置及び各什器の特性に関するデータを含む構造物情報を格納する構造物情報格納部、
前記フロア内
の何れかの階層に所在する
複数の通信端末の各々の位置に関するデータを含む端末情報を格納する端末情報格納部、
前記通信端末と無線通信を行うために
前記フロア内
の何れかの階層に配置される
複数のアンテナの位置及び各アンテナの特性に関するデータを含むアンテナ情報を格納するアンテナ情報格納部、並びに、
前記構造物情報、前記端末情報及び前記アンテナ情報を基にシミュレートされる結果である、
フロア内にある複数の通信端末及び複数のアンテナのそれぞれについて、フロア内においてどの通信端末がどのアンテナと通信接続可能であるか、及び当該通信端末と当該アンテナとの間で実現可能な通信速度を、当該通信端末と当該アンテナとを線で結びかつ当該通信端末と当該アンテナとの間で実現可能な通信速度を示唆する表現をその線上で行うことで同時に可視化してユーザに提示するべくディスプレイに画面表示させる表示制御部として機能させ
、
前記フロア内に所在する複数の通信端末のうち少なくとも一部はフロア内を移動可能であり、前記端末情報格納部は、移動可能な各通信端末毎に、それが移動する場合の動線若しくは移動経路、移動速度、起点から移動する確率若しくは頻度を規定するデータを含む端末情報を格納し、
前記表示制御部は、刻々と移動する前記通信端末の前記フロア内での位置を基に単位時間あたりの時系列的なシミュレーションが反復的に実行される結果である、各時点における、フロア内においてどの通信端末がどのアンテナと通信接続可能であるか、及び当該通信端末と当該アンテナとの間で実現可能な通信速度を、時系列的に変化するアニメーションとしてディスプレイに画面表示させ、
さらに、前記表示制御部は、シミュレーションの結果に応じて、前記フロアのある階内にある通信端末と、別の階内にあるアンテナとが通信接続可能であるときに、それら通信端末とアンテナとを両階を跨ぐ前記線で結んで可視化してディスプレイに画面表示させるものであり、
また、前記表示制御部は、前記フロア内の各所に設置した各アンテナから放射される通信用の電波の強度及びフロア内での到達範囲をも視覚的にディスプレイに画面表示させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の什器を配置したフロア内での無線通信の状態を仮想的に表示するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
オフィス等のフロアには、種々の什器、例えば机や椅子、収納家具、パーティション等が配置され、執務スペースやミーティングルーム、カフェスペース等が構築される。これにあたり、コンピュータを使用してレイアウトの計画や管理、提案等を行うことが試みられている。下記特許文献1には、複数の什器をフロア内に配置する際のレイアウトの基本計画を簡便に構築して可視化できるようにしたシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今日のオフィス、店舗、宿泊施設他各種の商業施設、病院等のフロアでは、携帯電話網の他、無線LAN(Local Area Network)やWiMAX(登録商標)、Bluetooth(登録商標)等による無線通信が多用される。
【0005】
フロア内で複数人が複数の通信端末を使用する環境下では、各人または各通信端末がどの場所にあり、また無線LANルータその他の通信用アンテナをどの場所に配置しているかによって、無線通信を円滑に行い得る(接続でき、通信速度が速い)かそうでない(接続できない、または通信速度が遅い)かが変化する。それ故、什器及び通信アンテナのレイアウトが重要となる。
【0006】
本発明では、什器及び通信アンテナをフロア内に配設する際のレイアウトの基本計画を簡便に構築、可視化できるようにすることを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、複数の什器を配置した複数の階層を有したフロア内での無線通信の状態を仮想的に表示するものであって、前記フロア内の何れかの階層に配置される一または複数の什器の位置及び各什器の特性に関するデータを含む構造物情報を格納する構造物情報格納部と、前記フロア内の何れかの階層に所在する複数の通信端末の各々の位置に関するデータを含む端末情報を格納する端末情報格納部と、前記通信端末と無線通信を行うために前記フロア内の何れかの階層に配置される複数のアンテナの位置及び各アンテナの特性に関するデータを含むアンテナ情報を格納するアンテナ情報格納部と、前記構造物情報、前記端末情報及び前記アンテナ情報を基にシミュレートされる結果である、フロア内にある複数の通信端末及び複数のアンテナのそれぞれについて、フロア内においてどの通信端末がどのアンテナと通信接続可能であるか、及び当該通信端末と当該アンテナとの間で実現可能な通信速度を、当該通信端末と当該アンテナとを線で結びかつ当該通信端末と当該アンテナとの間で実現可能な通信速度を示唆する表現をその線上で行うことで同時に可視化してユーザに提示するべくディスプレイに画面表示させる表示制御部とを具備し、前記フロア内に所在する複数の通信端末のうち少なくとも一部はフロア内を移動可能であり、前記端末情報格納部は、移動可能な各通信端末毎に、それが移動する場合の動線若しくは移動経路、移動速度、起点から移動する確率若しくは頻度を規定するデータを含む端末情報を格納し、前記表示制御部は、刻々と移動する前記通信端末の前記フロア内での位置を基に単位時間あたりの時系列的なシミュレーションが反復的に実行される結果である、各時点における、フロア内においてどの通信端末がどのアンテナと通信接続可能であるか、及び当該通信端末と当該アンテナとの間で実現可能な通信速度を、時系列的に変化するアニメーションとしてディスプレイに画面表示させ、さらに、前記表示制御部は、シミュレーションの結果に応じて、前記フロアのある階内にある通信端末と、別の階内にあるアンテナとが通信接続可能であるときに、それら通信端末とアンテナとを両階を跨ぐ前記線で結んで可視化してディスプレイに画面表示させるものであり、また、前記表示制御部は、前記フロア内の各所に設置した各アンテナから放射される通信用の電波の強度及びフロア内での到達範囲をも視覚的にディスプレイに画面表示させる、レイアウト計画システムを構成した。
【0010】
本発明に係るレイアウト計画システムを構成するために用いられるプログラムは、コンピュータを、複数の階層を有したフロア内の何れかの階層に配置される一または複数の什器の位置及び各什器の特性に関するデータを含む構造物情報を格納する構造物情報格納部、前記フロア内の何れかの階層に所在する複数の通信端末の各々の位置に関するデータを含む端末情報を格納する端末情報格納部、前記通信端末と無線通信を行うために前記フロア内の何れかの階層に配置される複数のアンテナの位置及び各アンテナの特性に関するデータを含むアンテナ情報を格納するアンテナ情報格納部、並びに、前記構造物情報、前記端末情報及び前記アンテナ情報を基にシミュレートされる結果である、フロア内にある複数の通信端末及び複数のアンテナのそれぞれについて、フロア内においてどの通信端末がどのアンテナと通信接続可能であるか、及び当該通信端末と当該アンテナとの間で実現可能な通信速度を、当該通信端末と当該アンテナとを線で結びかつ当該通信端末と当該アンテナとの間で実現可能な通信速度を示唆する表現をその線上で行うことで同時に可視化してユーザに提示するべくディスプレイに画面表示させる表示制御部として機能させ、前記フロア内に所在する複数の通信端末のうち少なくとも一部はフロア内を移動可能であり、前記端末情報格納部は、移動可能な各通信端末毎に、それが移動する場合の動線若しくは移動経路、移動速度、起点から移動する確率若しくは頻度を規定するデータを含む端末情報を格納し、前記表示制御部は、刻々と移動する前記通信端末の前記フロア内での位置を基に単位時間あたりの時系列的なシミュレーションが反復的に実行される結果である、各時点における、フロア内においてどの通信端末がどのアンテナと通信接続可能であるか、及び当該通信端末と当該アンテナとの間で実現可能な通信速度を、時系列的に変化するアニメーションとしてディスプレイに画面表示させ、さらに、前記表示制御部は、シミュレーションの結果に応じて、前記フロアのある階内にある通信端末と、別の階内にあるアンテナとが通信接続可能であるときに、それら通信端末とアンテナとを両階を跨ぐ前記線で結んで可視化してディスプレイに画面表示させるものであり、また、前記表示制御部は、前記フロア内の各所に設置した各アンテナから放射される通信用の電波の強度及びフロア内での到達範囲をも視覚的にディスプレイに画面表示させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、什器及び通信アンテナをフロア内に配設する際のレイアウトの基本計画を簡便に構築して可視化できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態のシステムの全体構成を示す図。
【
図2】同実施形態におけるシステムの主体となるコンピュータが有するハードウェア資源を示す図。
【
図3】同実施形態のコンピュータの機能ブロック図。
【
図4】同実施形態のコンピュータによるフロアの画面表示例を示す図。
【
図5】同実施形態のコンピュータによるフロア及び什器のレイアウトの画面表示例を示す図。
【
図6】同実施形態のコンピュータによるフロア及び什器のレイアウトの画面表示例を示す図。
【
図7】同実施形態におけるフロアに配置される什器のユニット及びグループについて説明する図。
【
図8A】同実施形態において構造物情報格納部が格納する構造物情報の内容の一部を例示する図。
【
図8B】同実施形態において構造物情報格納部が格納する構造物情報の内容の一部を例示する図。
【
図9A】同実施形態において構造物情報格納部が格納する構造物情報の内容の一部を例示する図。
【
図9B】同実施形態において構造物情報格納部が格納する構造物情報の内容の一部を例示する図。
【
図10】同実施形態において端末情報格納部が格納する端末情報の内容を例示する図。
【
図11】同実施形態においてアンテナ情報格納部が格納するアンテナ情報の内容を例示する図。
【
図12】同実施形態のコンピュータによる無線通信環境のシミュレーション結果の画面表示例を示す図。
【
図13A】同実施形態において構造物情報格納部が格納する構造物情報の内容の一部を例示する図。
【
図13B】同実施形態において構造物情報格納部が格納する構造物情報の内容の一部を例示する図。
【
図14A】同実施形態において構造物情報格納部が格納する構造物情報の内容の一部を例示する図。
【
図14B】同実施形態において構造物情報格納部が格納する構造物情報の内容の一部を例示する図。
【
図15】同実施形態において端末情報格納部が格納する端末情報の内容を例示する図。
【
図16】同実施形態においてアンテナ情報格納部が格納するアンテナ情報の内容を例示する図。
【
図17】同実施形態のコンピュータによる無線通信環境のシミュレーション結果の画面表示例を示す図。
【
図18】同実施形態のコンピュータによる無線通信環境のシミュレーション結果の画面表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。本実施形態のレイアウト計画システムは、オフィス等のフロア内に複数の什器F及び複数の無線通信用のアンテナRを配置するレイアウトの計画を行おうとするユーザが使用するコンピュータ1を主体として構成される。
【0015】
通信アンテナRとは、フロア内に存在する通信端末Tとの間で無線通信を行い、それにより、テキストデータ、静止画像データ、動画像データ、音声データその他各種データを送信及び/または受信するための装置一般を言う。典型的には、無線LANルータや中継器(回線補償器)等である。あるいは、建物外の携帯電話網等用の基地局であることもある。加えて、人が使用する通信端末T自体が、ここに言う通信アンテナRとなることがある。テザリングやBluetooth等の近接通信で、ある通信端末Tが他の通信端末Tと無線通信を行い、またはいわゆるメッシュネットワークを構築することもあるからである。換言すれば、通信アンテナRの位置はフロア内で常に固定であるとは限られず、移動する可能性がある。
【0016】
通信端末Tとは、フロア内で通信アンテナRとの間で無線通信を行うことが可能な機器または装置一般を言う。パーソナルコンピュータ(デスクトップコンピュータやラップトップ(ノートブック型)コンピュータ)、タブレット、ウェアラブルコンピュータ、スマートフォンに代表される携帯電話端末等はおしなべて、ここに言う通信端末Tに該当する。人が使用しまたは携行するものの他、ロボットやドローン等も通信端末Tに該当し得る。通信端末Tの位置はフロア内で常に固定であるとは限られず、移動する可能性がある。
【0017】
図1に示すように、本レイアウト計画システムのユーザの使用するコンピュータ1は、電気通信回線3を介して外部のコンピュータ2と接続し、当該コンピュータ2との間で情報通信を行うことができる。電気通信回線3の具体例としては、インターネット、公衆電話網、携帯電話網、PHS(Personal Handyphone System)網、公衆無線LANまたはWiMAXその他の移動体無線通信網のような、公開のネットワークが挙げられる。尤も、ユーザの使用するコンピュータ1と外部のコンピュータ2とを繋ぐ通信路の全体が公開ネットワークであるとは限らない。例えば、各コンピュータ1は、直接には非公開の有線LANまたは無線LANに接続しており、そのLANを経由して間接的にインターネット等の公開ネットワークに接続することがある。
【0018】
コンピュータ1は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット、ウェアラブルコンピュータ、携帯電話端末等である。
図2に示すように、コンピュータ1は、CPU(Central Processing Unit)1a、メインメモリ1b、補助記憶デバイス1c、操作入力デバイス1d、オーディオコーデック1e、ビデオコーデック1f、通信インタフェース1g、スピーカ1h、ディスプレイ1i、マイク1j、カメラ(イメージセンサ)1k等のハードウェア資源を備え、これらがコントローラ(システムコントローラ、I/Oコントローラ等)1lにより制御されて連携動作するものである。
【0019】
補助記憶デバイス1cは、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、光学ディスクドライブ、その他である。操作入力デバイス1dは、手指で操作可能なタッチパネル、トラックパッド、マウス等のポインティングデバイスや、押下ボタン、キーボード等である。タッチパネル1dは、ディスプレイ1iの画面に重ねて設けられていることがある。オーディオコーデック1eは、マイク1jを介して入力される音声を符号化する一方、符号化されている音声データを復号化してスピーカ1hから音声出力する。ビデオコーデック1fは、CPU1aより受けた描画指示をもとに表示させるべき画面を生成しその画面信号をディスプレイ1iに向けて送出するGPU(Graphics Processing Unit)、画面や画像のデータを一時的に格納しておくビデオメモリ等を要素とする。オーディオコーデック1e、ビデオコーデック1fはそれぞれ、ハードウェアでなくソフトウェアとして実装することも可能である。
【0020】
通信インタフェース1gは、電気通信回線3を介して外部のコンピュータ2と情報の授受を行うためのデバイスであって、無線LAN用のWi-Fi(登録商標)デバイスや移動体無線通信網用の無線デバイス、短距離通信用のBluetoothトランシーバ、Ethernet(登録商標)用のNIC(Network Interface Card)等である。これら以外に、USB(Universal Serial Bus)等のインタフェースを実装することもある。
【0021】
CPU1aによって実行されるべきプログラムは補助記憶デバイス1cに格納されており、プログラムの実行の際には補助記憶デバイス1cからメインメモリ1bに読み込まれ、CPU1aによって解読される。本実施形態では、既知のOS(Operating System)プログラムやこれに付帯する各種デバイスドライバプログラムが予めインストールされ、他のプログラムによる上記ハードウェア資源の利用を仲介する。
【0022】
しかして、コンピュータ1には、本実施形態のレイアウト計画システムを構築するために必要となるプログラムがインストールされる。なお、このプログラムは、ウェブサーバその他の外部のコンピュータ2から電気通信回線3を介して提供され、ウェブブラウザ上で起動する(ウェブブラウザにより解釈、実行される)、HTML(HyperText Markup Language)やJavaScript(登録商標)等で記述されたスクリプトであることがある。コンピュータ1は、プログラムに従い、
図3に示す構造物情報格納部101、端末情報格納部102、アンテナ情報格納部103、入力受付部104及び表示制御部105としての機能を発揮する。
【0023】
構造物情報格納部101は、メインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cの所要の記憶領域を利用して、フロア内に配置される構造物の位置及び各構造物の特性に関するデータを含む構造物情報を格納する。構造物とは、什器FやそのユニットU若しくはブロックB、フロアを具現する建築物の躯体、柱、天井、床、壁その他建材等を言う。
【0024】
図4ないし
図6に示すように、本実施形態では、フロアの平面
図M内の所望の区域を什器F等を配置するべきエリアAとして設定し、かつその各エリアA内に適した什器FのユニットU及び/または什器FのブロックB等の構造物を配置することができる。
【0025】
図7に示すように、ユニットUとは、現実のフロアにおける所定寸法の空間に一または複数の什器Fを配置した状態である。そして、そのようなユニットUを複数連結したものを一つのブロックBと見なしている。一つのユニットUの現実のフロアにおける幅寸法及び奥行寸法は、例えば1500mm×1500mm、3000mm×1500mm、3000×3000mm、6000mm×3000mm、9000mm×4500mm等である。
【0026】
図8A及び
図8Bに示すように、構造物情報格納部101は、構造物情報の一部として、什器F(または、複数の什器FからなるユニットU若しくは複数のユニットUからなるブロックB)等の構造物毎に、その寸法、二次元画像データ、三次元立体データ(既存のCAD(Computer-Aided Design)アプリケーションソフトウェアが読み込んで処理できるようなデータ形式のファイルであることがある)、材質(その他、無線通信を媒介する電磁波に影響を与え得る特性)、品名や価格、種類、型番等のデータを、当該構造物を識別する識別子に関連づけて記憶保持する。各ブロックBについてのデータとしては、当該ブロックBの寸法、当該ブロックBに属する複数のユニットUのそれぞれの識別子、それら各ユニットUの当該ブロックB内での配置位置を規定する座標値及びそのユニットUのブロックB内での向き(東西南北どの方向を向くかや、方位角)等のデータを、当該ブロックBを識別する識別子に関連づけて記憶保持する。また、各ブロックB毎に、そのブロックBがどの種別のエリアAに適用可能であるかを規定する情報、即ちそのブロックBに属する什器Fがどの種別のエリアAに配置されるのにふさわしいのかを示す情報を、当該ブロックBの識別子に関連づけて記憶保持することがある。
【0027】
上記に加えて、
図9A及び
図9Bに示すように、構造物情報格納部101は、構造物情報の一部として、什器FまたはユニットU若しくはブロックB等の構造物が配置される各エリアA毎に、そのエリアAの輪郭線Oを規定する複数の頂点Pの座標値を、当該エリアAを識別する識別子に関連づけた上で、メインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cに記憶保持する。そして、エリアA内に配置される各什器FまたはユニットU若しくはブロックB等の構造物毎に、その配置位置を規定する座標値や向き、当該構造物が配置されるエリアAを識別する識別子等を、当該構造物を識別する識別子に関連づけて記憶保持する。
【0028】
構造物情報格納部101が格納する構造物情報は、外部のコンピュータ2から電気通信回線3を介してダウンロードされるものであることがある。
【0029】
端末情報格納部102は、メインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cの所要の記憶領域を利用して、フロア内に所在する一または複数の通信端末Tの各々の位置に関するデータを含む端末情報を格納する。
【0030】
図10に示すように、端末情報格納部102は、端末情報として、各通信端末T(または、通信端末Tを携行する人や移動体)毎に、そのフロア内での位置を規定する情報(二次元または三次元位置座標)、当該通信端末Tが使用可能な通信方式若しくは通信規格(あるいは、周波数帯等)、当該通信端末Tによる無線通信の用途(電子メールや文書等のデータの送信若しくは受信なのか、音声通話なのか、ビデオ会議なのか、等)といったデータを、当該通信端末Tを識別する識別子に関連付けて記憶保持する。
【0031】
通信端末Tは、デスクトップ型コンピュータのように基本的にフロア内で位置が移動しないものであることもあれば、ラップトップ型コンピュータのように時に人によって持ち運ばれ移動するものであったり、スマートフォン等のように随時人とともに移動するものであったりすることもある。移動する通信端末Tについては、その動線若しくは移動経路(移動する際に通過する複数の位置の座標を含む)や、移動の速度、また起点から移動する確率若しくは頻度が、端末情報として定義される。
【0032】
端末情報格納部102が格納する端末情報は、外部のコンピュータ2から電気通信回線3を介してダウンロードされるものであることがある。
【0033】
アンテナ情報格納部103は、メインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cの所要の記憶領域を利用して、フロア内に設置され、フロア内に所在する通信端末Tと無線通信を行う一または複数のアンテナRの各々の位置、及び各アンテナRの特性に関するデータを含むアンテナ情報を格納する。
【0034】
図11に示すように、アンテナ情報格納部103は、アンテナ情報として、各アンテナR毎に、そのフロア内での位置を規定する情報(二次元または三次元位置座標)、当該アンテナRが使用可能な通信方式または通信規格(あるいは、周波数帯等)、当該アンテナRから放射される無線通信用の電波強度(空中線電力(出力dBm))といったデータを、当該アンテナRを識別する識別子に関連付けて記憶保持する。
【0035】
アンテナRは、無線LANルータや中継器等のようにフロア内で位置が移動しない固定のものであることもあれば、人が携行する通信端末Tのように移動するものであることもある。移動するアンテナRについては、その動線若しくは移動経路(移動する際に通過する複数の位置の座標を含む)や、移動の速度、また起点から移動する確率若しくは頻度が、アンテナ情報として定義される。
【0036】
アンテナ情報格納部103が格納する端末情報は、外部のコンピュータ2から電気通信回線3を介してダウンロードされるものであることがある。
【0037】
入力受付部104は、ユーザの手による、上掲の構造物情報、端末情報及び/またはアンテナ情報のうちの少なくとも一部または全部を入力するための操作を、操作入力デバイス1dを介して受け付ける。入力された情報は、構造物情報格納部101、端末情報格納部102またはアンテナ情報格納部103にそれぞれ格納することになる。
【0038】
しかして、表示制御部105は、構造物情報、端末情報及びアンテナ情報を基にシミュレートされる結果である、フロア内においてどの通信端末TがどのアンテナRと通信接続可能であるか、及び当該通信端末Tと当該アンテナRとの間で実現可能な通信速度を、同時に可視化してユーザに提示するべくディスプレイ1iの画面に表示させる。
【0039】
図12に、シミュレーション結果の画面表示例を示す。ディスプレイ1iの画面に表示する内容は、下記の(1)及び(2)の両方である。
(1)フロア内の各所に設置した各無線通信用アンテナRから放射される通信用の電波の強度及びそのフロア内での到達範囲を視覚的に表示したもの;図示例では、各アンテナRから拡散し三次元方向に球状に広がるパーティクル(ドット、点)Wで表現するようにしている。パーティクルWの間隔が広い(または、薄い)ほど、その位置における電波の強度が小さくなる。が、無論、表現形式はこれに限られず、各位置における電波の強度を色や濃度で表すサーモグラフィ的またはグラデーション的な表現でも構わない
(2)フロア内の各所において通信を行う各通信端末Tと、フロア内に設置したアンテナRとの間において、どの通信端末TとどのアンテナRとが通信接続可能であるか(ネットワークトポロジ)、及びそれら両者間で実現され得る通信速度(スループット(伝送速度、単位時間あたり送受信可能なデータ転送量)bps);図示例では、各通信端末Tと、当該通信端末Tが必要な無線通信接続を確立する際に電波を送受信する対象のアンテナRとの間を線Lで結び(即ち、トポロジを視覚化)、その線L上に通信速度を示唆するような(線Lに沿って行き交うように動く)光の点L1、L2をアニメーションで描画して、上り通信速度及び/または下り通信速度を示唆する。また、ある通信端末Tとこれと通信接続を確立するアンテナRとの間で用いられる通信方式若しくは通信規格を、線Lの色や太さ等によって表現する。が、無論、表現形式はこれに限られず、線Lの色や太さ等で通信速度を示唆してもよい。なお、既述の通り、いわゆる「メッシュネットワーク」を構築する場合、人が使用する通信端末T間(何れか少なくとも一方が無線通信用アンテナRとなる)での通信接続及び通信速度を示唆する表示を行うことがある
これらを表示するためのシミュレーション計算は、コンピュータ1内部で実行してもよいが、外部のコンピュータ2に委託することもある。後者の場合、格納している構造物情報、端末情報、アンテナ情報をコンピュータ1からコンピュータ2に送信し、シミュレーション結果の情報をコンピュータ2から受信して、画面表示することになる。
【0040】
シミュレーション方法は、既知の任意のものを採用してよい。(1)のシミュレーションでは、什器Fや建物の躯体、柱、壁、床建材等の構造物の位置や構造、厚み、材質等が、シミュレーション結果に影響を及ぼす可能性がある。特に、フロア内に配置した什器Fの寸法(一例として、ローパーティションとハイパーティションとでは電波の遮蔽の度合いが異なる)や材質(木製家具、スチール(鉄金属)家具、アルミ(非鉄金属)家具の何れかにより、電波の遮蔽の度合いが異なる)等が、シミュレーション結果に影響を及ぼす可能性がある。
【0041】
また、無線ルータ等のアンテナRの設置位置(例えば、高さ。アンテナRを天井板に取り付けた場合には、広範囲を見通せるので電波が遮蔽されにくいが、テーブルや床上に置いた場合には遮蔽されやすくなる)や、当該無線ルータ等アンテナRが用いる通信規格若しくは周波数帯(一般に、周波数が高い=波長が短いほど回折しにくく遮蔽されやすい)、当該無線ルータ等から放射される電波出力強度が、シミュレーション結果に影響を及ぼす可能性がある。
【0042】
並びに、オフィス等空間内で活動する人や移動体の存在が、シミュレーション結果に影響を及ぼす可能性がある(例えば、人体はいわば“水の袋”であり、高速無線通信によく用いられるマイクロ波ないしミリ波帯の電磁波のエネルギをよく吸収する。シミュレーションにおいては、通信端末Tを携行しまたは携行しない人を所定寸法の水の柱状体(円柱、角柱等)と仮定して、結果を計算することがある)。
【0043】
(2)のシミュレーションでは、無線ルータ等が各通信端末Tとの間で用いる通信規格若しくは周波数帯により、各通信端末Tの通信速度即ちスループットが変化する可能性がある(例えば、IEEE802.11nは、レガシーな規格IEEE 802.11b/gよりも速い)。
【0044】
また、通信端末Tが古いパーソナルコンピュータである場合等、当該通信端末Tが用いることのできる通信規格若しくは周波数帯が制限され、当該通信端末Tのスループットが変化する可能性がある。
【0045】
当然、一基の無線ルータ等アンテナRと同時または同時期に無線通信しようとする通信端末Tの数により、各通信端末Tのスループットが変化する可能性がある。個々の通信端末Tは、電波が届く無線ルータ等アンテナRとの間でしか通信接続を確立できないので、一基の無線ルータ等アンテナRと同時または同時期に通信する通信端末Tの数は刻一刻と変化し得る。これをシミュレーションすることになろう。
【0046】
各通信端末Tが実行しようとする無線通信の用途(アプリケーション。それが電子メールやチャットのような文字列通信なのか、音声通話なのか、ビデオ映像のやり取りなのか、等)により、各通信端末Tのスループットが変化する可能性がある。従って、シミュレーションに際しては、各通信端末Tが用いるアプリケーションの種別(または、通信負荷の程度)の情報を参照することになる。
【0047】
その上で、通信端末TやアンテナRはフロア内を移動し得るので、刻々と移動するそれらの位置を基に、単位時間あたりの時系列的なシミュレーションを反復的に実行し、その結果をディスプレイ1iの画面にアニメーション表示することになる。
【0048】
本実施形態のレイアウト計画システムによれば、フロア内にある什器Fその他構造物の影響を考慮して電波伝搬挙動をシミュレーションし、什器F等構造物とともに可視化してユーザに提示することができる。しかも、フロア内での通信トポロジ(どの通信端末TとどのアンテナRとが通信接続可能な状態になっているか、そのネットワーク)及び通信速度を同時に可視化してユーザに提示することができる。
【0049】
実際に通信を利用する、通信端末Tを使用する人や移動体の存在位置またはその動き(移動の軌跡、移動の頻度や時間間隔)を表示できる。さらに言えば、それら各人や移動体による通信速度への影響を考慮したシミュレーション結果を表示するので、その時その時の通信挙動が明らかとなる。現実には、通信主体がどこに何人いるか、通信端末Tが何台あるか、それが移動する場合にどの程度の頻度やタイミングであるか(または、一基の無線LANルータ等アンテナRを何人が同時に共用するか)という分布が、定常的なまたは瞬時的な通信速度に大きな影響を与え得る。例えば、多くの人が集まっている場所の無線LANは遅くなる。本実施形態のシステムによれば、静的な電波強度分布のみならず、実際に人が使用する通信端末Tの数や分布及びそれによる影響が考慮された、通信の挙動をユーザに提示できる。つまり、動的なシナリオに沿って、ミリ秒毎に通信の実行がシミュレーションされ(通信端末Tと接続するアンテナRが自動的に切り替わる可能性や、通信端末TとアンテナRとの距離が変化することによる通信速度への影響、また通信端末Tのアプリケーションが要求する通信帯域幅(音声通話ならば然程通信帯域幅を圧迫しないが、ビデオ通話では通信帯域幅を多く取るので、その分他のスマホ等端末の通信速度が低下するかもしれない)、通信環境を時系列で評価し得る。
【0050】
従って、本システムを利用するユーザにとって、什器F類やアンテナR等の配置レイアウトの基本計画を構築する際の作業が省力化される。
【0051】
以降、本実施形態に関して補記する。什器Fが配置され、複数人が滞在、行動または活動するフロアは、ビルの内部のように上下に複数の階層Vを有することがある。そして、ある階Vに所在する通信端末Tが、同じ階Vに設置されているアンテナRではなく、上の階Vまたは下の階Vに設置されたアンテナRと通信接続することも実際に起こる。本実施形態のレイアウト計画システムは、そのような階層Vを跨いだ通信のシミュレーション結果を出力しユーザに提示することが可能である。
【0052】
フロアの各階層Vに現存する什器F、建築物の躯体、天井や床等、通信端末T及び人(人体)、アンテナRの配置は何れも、ある通信端末TとあるアンテナRとの間の通信接続の可否及び通信速度に影響を及ぼす。特に、対象の通信端末Tが所在している階Vのそれらに限られず、上の階Vや下の階Vにあるそれらもまた、通信接続の可否及び通信速度に影響を及ぼし得る。ある階Vと他の階Vとの間に介在する天井や床による、電磁波の反射や吸収は小さくない可能性がある。シミュレーションでは、他の階Vの什器F、建築物、人体等や電波干渉を総合的に考慮に入れて演算を実行する。さらに、フロア外からフロア内に伝搬する外来波を加味することも好ましい。
【0053】
そのために、本システムの構造物情報格納部101、端末情報格納部102及びアンテナ情報格納部103は、複数の階層Vを包括したシミュレーションに必要となる情報を格納している。
図13A及び
図13Bに示すように、構造物情報格納部101は、構造物情報の一部として、建築物の躯体、柱、梁、天井、床、壁その他建材等の構造物毎に、その寸法(厚さを含む)、二次元画像データ、三次元立体データ、材質(その他、無線通信を媒介する電磁波に影響を与え得る特性)、名称や種類等のデータを、当該構造物を識別する識別子に関連づけて記憶保持する。建築物の構成要素である構造物には、フロアの各階Vに所在する人の目に必ずしも触れない内側素材(例えば、床スラブ、柱や梁、壁等の被覆されない基体)と、人の目に触れる外側素材(例えば、床スラブ上に敷設される床パネルやカーペット、床スラブ下に支持される天井板、柱や梁、壁等の基体の外表面を被覆するクロス、壁紙、パネル等)とがある。並びに、構造物情報格納部101は、構造物情報の一部として、建築物が具現するフロアの各階V毎に、その寸法(東西方向(または、幅方向、左右方向)に沿った寸法、及び南北方向(または、奥行方向、前後方向)に沿った寸法)、天井高(当該階Vの床(床パネル)の上面から天井の下面までの上下寸法)、床高(当該階Vの床スラブの上面から床(床パネル)の上面までの高さ)、階高(当該階Vの床(床パネル)の上面から、そのすぐ上の階Vの床(床パネル)の上面、までの高さ)のデータを、当該階Vを識別する識別子に関連付けて記憶保持する。柱、梁、壁等の構造物については、構造物毎に、それが配設される階V、及び当該階V内での位置を規定する座標値や向き等を、当該構造物を識別する識別子に関連づけて記憶保持することがある。
【0054】
上記に加えて、
図14A及び
図14B(それぞれ、
図9A及び
図9に対応する)に示すように、構造物情報格納部101は、構造物情報の一部として、什器FまたはユニットU若しくはブロックB等の構造物が配置される各エリアA毎に、そのエリアAが設定された階V、及び当該階V内で同エリアAの輪郭線Oを規定する複数の頂点Pの座標値を、エリアAを識別する識別子に関連づけて記憶保持する。そして、何れかの階VのエリアA内に配置される各什器FまたはユニットU若しくはブロックB等の構造物毎に、その配置位置を規定する座標値や向き、当該構造物が配置される階V、及びエリアAを識別する識別子等を、当該構造物を識別する識別子に関連づけて記憶保持する。
【0055】
図15(
図10に対応する)に示すように、端末情報格納部102は、端末情報として、各通信端末Tまたは通信端末Tを携行する各人若しくは各移動体、あるいは通信端末Tを携行しない人毎に、そのフロア内での位置を規定する情報(どの階Vに所在するか、そして当該階V内での二次元または三次元位置座標)、当該通信端末Tが使用可能な通信方式若しくは通信規格(あるいは、周波数帯等)、当該通信端末Tによる無線通信の用途(電子メールや文書等のデータの送信若しくは受信なのか、音声通話なのか、ビデオ会議なのか、等)といったデータを、当該通信端末T、人または移動体を識別する識別子に関連付けて記憶保持する。生身の人それ自体は、フロア内で何れかのアンテナRとの間で無線通信することはないが、人体の存在がフロア内の無線通信環境(電波の伝搬、電界強度分布)に影響を与えることはあり得るので、当該人の位置情報を取得して用いることが高精度のシミュレーションのために有益である。
【0056】
通信端末Tは、デスクトップ型コンピュータのように基本的にフロア内で位置が移動しないものであることもあれば、ラップトップ型コンピュータのように時に人によって持ち運ばれ移動するものであったり、スマートフォン等のように随時人とともに移動するものであったりすることもある。人も同様で、基本的にフロア内で移動しない(ある程度以上の時間同じ場所に居続ける)と考えてよい人もいれば、時々またはしばしばフロア内を移動する人もいる。移動する通信端末Tや人、移動体については、その動線若しくは移動経路(移動する際に通過する複数の位置の座標を含む)や、移動の速度、また起点から移動する確率若しくは頻度が、端末情報として定義される。動線若しくは移動経路は、同一階V内で完結することもあれば、途中である階Vから他の階Vに遷移することもある。後者の場合、動線若しくは移動経路上の位置の座標に、当該位置の所在する階Vの情報を付加することになる。
【0057】
図16(
図11に対応する)に示すように、アンテナ情報格納部103は、アンテナ情報として、各アンテナR毎に、そのフロア内での位置を規定する情報(どの階Vに所在するか、そして当該階V内での二次元または三次元位置座標)、当該アンテナRが使用可能な通信方式または通信規格(あるいは、周波数帯等)、当該アンテナRから放射される無線通信用の電波強度(空中線電力)といったデータを、当該アンテナRを識別する識別子に関連付けて記憶保持する。
【0058】
アンテナRは、無線LANルータや中継器等のようにフロア内で位置が移動しない固定のものであることもあれば、人が携行する通信端末Tのように移動するものであることもある。移動するアンテナRについては、その動線若しくは移動経路(移動する際に通過する複数の位置の座標を含む)や、移動の速度、また起点から移動する確率若しくは頻度が、アンテナ情報として定義される。動線若しくは移動経路は、同一階V内で完結することもあれば、途中である階Vから他の階Vに遷移することもある。後者の場合、動線若しくは移動経路上の位置の座標に、当該位置の所在する階Vの情報を付加することになる。
【0059】
また、フロア内で無線通信用の電磁波と干渉する外来波に係るデータを、アンテナ情報に含めてもよい。外来波の具体例として、電子レンジやコードレス電話機等が発する電磁波や、フロア外のアンテナその他のアクセスポイントが発する電磁波、フロア外からフロア内に侵入するレーダ波(気象レーダ、航空管制レーダ、船舶レーダ)等を挙げることができる。外来波に係るデータとして、その発信源の位置を規定する情報(フロア内またはフロア外におけるどの階Vに相当する高さに所在するか、発信源の当該階V内での二次元または三次元位置座標。什器Fが配置され人が活動するフロアから見て無限遠方またはそれに近い場所にあることがある)、当該発信源が使用する通信方式または通信規格(あるいは、周波数帯等)、当該発信源から放射される外来波の電波強度(空中線電力)または階層Vにおける外来波の到達範囲(例えば、外壁から3000mmまでの範囲、等)を、当該発信源を識別する識別子に関連付けて記憶保持する。
【0060】
しかして、本システムの表示制御部105は、上掲の構造物情報、端末情報及びアンテナ情報を基にシミュレートされる結果である、フロアの何れかの階Vにおいてどの通信端末Tが、他の階Vにあるものも含めどのアンテナRと通信接続可能であるか、及び当該通信端末Tと当該アンテナRとの間で実現可能な通信速度を、同時に可視化してユーザに提示するべくディスプレイ1iの画面に表示させる。
【0061】
図17及び
図18に、シミュレーション結果の画面表示例を示している。繰り返しになるが、ディスプレイ1iの画面に表示する内容は、下記の(1)及び(2)の両方である。
(1)フロアの階V内の各所に設置した各無線通信用アンテナRから放射される通信用の電波の強度及びその到達範囲を視覚的に表示したもの;
図17に示す例では、各アンテナRから拡散し三次元方向に球状に広がるパーティクル(ドット、点)Wで表現するようにしている。パーティクルWの間隔が広い(または、薄い)ほど、その位置における電波の強度が小さくなる。特に、ある階Vに設置しているアンテナRから放射される電波の強度及び到達範囲を、その同一階V内に止まらず、上方の階V内及び/下方の階V内に至るまでシミュレーション計算し、その結果を出力することができる。
(2)フロアの階V内の各所において通信を行う各通信端末Tと、設置したアンテナRとの間において、どの通信端末TとどのアンテナRとが通信接続可能であるか(ネットワークトポロジ)、及びそれら両者間で実現され得る通信速度(スループット(伝送速度、単位時間あたり送受信可能なデータ転送量));
図17及び
図18に示す例では、各通信端末Tと、当該通信端末Tが必要な無線通信接続を確立する際に電波を送受信する対象のアンテナRとの間を線Lで結び(即ち、トポロジを視覚化)、その線L上に通信速度を示唆するような(線Lに沿って行き交うように動く)光の点L1、L2をアニメーションで描画して、上り通信速度及び/または下り通信速度を示唆する。また、ある通信端末Tとこれと通信接続を確立するアンテナRとの間で用いられる通信方式若しくは通信規格を、線Lの色や太さ等によって表現する。が、無論、表現形式はこれに限られず、線Lの色や太さ等で通信速度を示唆してもよい。特に、ある階Vに所在する通信端末Tが、その階Vとは異なる階Vに設置しているアンテナRと通信接続可能であるか否かをもシミュレーション計算し、通信接続可能である場合に、階Vを跨いでそれら通信端末TとアンテナRとを線Lで結ぶ。
【0062】
また、
図18に示しているように、フロアの各階Vにおける、各アンテナRから放射される通信用の電磁波の強度、換言すれば階V内の個々の位置で通信端末Tが享受できる通信速度の予想値(どの場所で高速・高品位(ノイズ、エラーが少ない)の通信が可能か、またはどの場所で通信速度・通信品質が低下するか、その程度)を、それぞれの位置の色や濃度で表すサーモグラフィ的またはグラデーション的な表現を行うことがある。
【0063】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。特に、
図3に示す各部の機能が複数のコンピュータに分散され、それらが協働することで本発明に係るレイアウト計画システムとして成立している態様を妨げない。
【0064】
その他、各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…コンピュータ
1d…操作入力デバイス
1i…ディスプレイ
101…構造物情報格納部
102…端末情報格納部
103…アンテナ情報格納部
105…表示制御部
2…外部のコンピュータ
3…電気通信回線
L…通信端末が通信接続可能なアンテナを可視化する表現
L1、L2…実現可能な通信速度を可視化する表現
T…通信端末
R…アンテナ
V…フロアの階(階層)