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特許7442954永久磁石同期機及びこれを備えた電動機車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】永久磁石同期機及びこれを備えた電動機車両
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/2706 20220101AFI20240227BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20240227BHJP
   H02K 19/10 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
H02K1/2706
H02K1/22 A
H02K19/10 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017192422
(22)【出願日】2017-10-02
(65)【公開番号】P2019068632
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-07-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 暁史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】杉本 愼治
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】八木 敬太
【審判官】長馬 望
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-213256(JP,A)
【文献】国際公開第2014/065102(WO,A1)
【文献】特開2012-115070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のティースに巻回された固定子コイルを有する固定子と、永久磁石及び前記永久磁石を収容する永久磁石収容孔を周方向に複数備えた回転子とを備え、前記回転子には複数の磁極が周方向に沿って配置された永久磁石同期機において、
前記永久磁石は平板状に形成され、
周方向に延びる前記永久磁石収容孔の一辺が、1極を構成する前記永久磁石の磁極中心軸に対して直交するように形成され、
前記永久磁石の径方向外側面と前記回転子の外周端部とで構成され、前記永久磁石の開き角τmで切り取られる部分のコア外周部の断面積は、前記永久磁石収容孔の断面積よりも小さくなるよう構成され、
前記磁極の開き角τpと前記永久磁石の開き角τmとの比τm/τpが式(1)を満足し、かつ、前記永久磁石による固定子コイル鎖交磁束Ψpと、電流I(Arms)通電時の直軸インダクタンスLd及び横軸インダクタンスLqと、を用いて式(2)によって定義されるリラクタンストルク比αが、0.60以上としたことを特徴とする永久磁石同期機。
【数1】
【数2】
【請求項2】
請求項において、
前記永久磁石は一つの前記永久磁石収容孔内で複数個に分割されて配置されたことを特徴とする永久磁石同期機。
【請求項3】
請求項において、
前記永久磁石の残留磁束密度は0.6T以上であることを特徴とする永久磁石同期機。
【請求項4】
請求項において、
前記永久磁石はネオジム磁石であることを特徴とする永久磁石同期機。
【請求項5】
複数の車輪と、前記複数の車輪のうち、少なくとも一つの車輪を駆動する永久磁石同期機と、電力を変換して前記永久磁石同期機に交流電力を供給する電力変換装置とを備えた電動機車両において、
前記請求項1に記載の永久磁石同期機を備えたことを特徴とする電動機車両。
【請求項6】
請求項において、
架線から電力を集電する集電装置を備え、前記電力変換装置は前記集電装置で集電された電力を変換することを特徴とする電動機車両。
【請求項7】
請求項において、
バッテリーを備え、前記電力変換装置は前記バッテリーから供給された電力を変換することを特徴とする電動機車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は永久磁石同期機、及びこれを備えた電動機車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期機では、小型化と高効率化を実現するために、回転子に永久磁石を埋設するInterior Permanent Magnet(以下、IPM)構造が広く採用されている。IPM構造では、直軸インダクタンスLdと横軸インダクタンスLqの比(Ld/Lq)、いわゆる突極比が大きくなるので、磁石トルクに加えリラクタンストルクの活用が可能である。
【0003】
リラクタンストルクを活用する永久磁石同期機の従来技術としては、例えば特許文献1(特開2015-29421号公報)に記載の同期機が提案されている。この特許文献1には、永久磁石の極弧度τm/τp及び磁石穴極弧度τg/τpを変化させた場合の最大トルクの計算例が開示されている。特許文献1に記載の図14の計算例では、τm/τpを大きくした方が、磁石トルクとリラクタンストルクを足し合わせた出力トルクを大きくできることが開示されている。すなわち、特許文献1では磁石量を増加した方が出力トルクを大きくできることを開示している。
【0004】
その他磁石量を増加して出力トルクを向上する従来技術としては、例えば1極あたりの永久磁石をV字状やU字状に配置して磁石面積を確保したり、これらをさらに複数層で構成する手段が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-29421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来は1極あたりの磁石量を増加することにより磁石トルクを増加させ、磁石トルクとリラクタンストルクを足し合わせた出力トルクを大きくすることにより、小型化と高効率化を実現する手法がとられてきた。
【0007】
しかしながら、永久磁石は他の材料に比べてきわめて高価なので、上述のように磁石量を増加する手法においては、磁石コストの増加を招くといった課題がある。一方、コスト低減のため、磁石量を低減すると、磁石トルクが減少し、出力トルクが減少すると考えられてきた。このため、小型化と高効率化を実現しながら磁石量を低減することは困難と考えられていた。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決し、出力トルクを向上しつつ、磁石コストの低減を図った永久磁石同期機及びこれを備えた電動機車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の特徴とするところは、複数のティースに巻回された固定子コイルを有する固定子と、永久磁石及び前記永久磁石を収容する永久磁石収容孔を周方向に複数備えた回転子とを備え、前記回転子には複数の磁極が周方向に沿って配置された永久磁石同期機において、前記永久磁石は平板状に形成され、周方向に延びる前記永久磁石収容孔の一辺が、1極を構成する前記永久磁石の磁極中心軸に対して直交するように形成され、前記永久磁石の径方向外側面と前記回転子の外周端部とで構成され、前記永久磁石の開き角τmで切り取られる部分のコア外周部の断面積は、前記永久磁石収容孔の断面積よりも小さくなるよう構成され、前記磁極の開き角τpと前記永久磁石の開き角τmとの比τm/τpが式(1)を満足し、かつ、前記永久磁石による固定子コイル鎖交磁束Ψpと、電流I(Arms)通電時の直軸インダクタンスLd及び横軸インダクタンスLqと、を用いて式(2)によって定義されるリラクタンストルク比αが、0.60以上としたことにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、出力トルクを向上しつつ、磁石コストの低減を図った永久磁石同期機及びこれを備えた電動機車両を提供することができる。
【0011】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施例に係る永久磁石同期機において固定子と回転子とを回転軸に垂直な横断面で示す図である。
図2】本発明の第1の実施例に係る永久磁石同期機において磁極の1極分の拡大図である。
図3】永久磁石同期機のベクトル図である。
図4】本発明の第1実施例に係るトルク特性の説明図である。
図5】本発明の第1実施例に係るリラクタンストルク比の特性の説明図である。
図6】本発明の第1実施例に係るトルク特性の一例である。
図7】本発明の第1実施例に係るトルク特性の他の一例である。
図8】本発明の第1実施例に係る永久磁石同期機において出力トルクが最大となる条件を描いた曲線である。
図9】永久磁石を分割して配置した永久磁石同期機の回転子を回転軸に垂直な横断面で示す図である。
図10】本発明の第2実施例に係る永久磁石同期機において回転子を回転軸に垂直な横断面で示す図である。
図11】本発明の第3実施例に係る永久磁石同期機を用いた鉄道車両の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。以下の説明では、同一の構成には同一の記号を付してある。それらの名称及び機能は同じであり、重複説明は避ける。また、以下の説明では内転型回転子を対象としているが、本発明の効果は内転型回転子に限定されるものではなく、同様の構成を有する外転型回転子にも適用可能である。
【0014】
また、固定子の巻線方式は集中巻でも良いし分布巻であっても良い。また、回転子の極数、固定子コイルの相数も、実施例の構成に限定されるものではない。また、以下の説明ではインバータ駆動の永久磁石モータを対象としているが、本発明の効果は自己始動型永久磁石モータにも適用可能である。
【実施例1】
【0015】
以下、図1乃至8を用いて、本発明の第1実施例について説明する。図1は、本発明の第1実施例に係る永久磁石同期機において固定子と回転子とを回転軸に垂直な横断面で示す図である。図2は、本発明の第1の実施例に係る永久磁石同期機において磁極の1極分の拡大図である。図3は、永久磁石同期機のベクトル図である。図4は、本発明の第1実施例に係るトルク特性の説明図である。図5は、本発明の第1実施例に係るリラクタンストルク比の特性の説明図である。図6及び図7は、本発明の第1実施例に係るトルク特性の一例である。図8は、本発明の第1実施例に係る永久磁石同期機において出力トルクが最大となる条件を描いた曲線である。
【0016】
本実施例の永久磁石同期機100について、図1を用いて説明する。本実施例の永久磁石同期機は、固定子109の内周側に回転子101を備えている。回転子101と固定子109の間にはギャップGが設けられている。回転子101は、軸受(図示なし)によって回転自在に保持される。
【0017】
固定子109は固定子鉄心110と複数のティース111に巻回された固定子コイル(図示なし)とで構成される。固定子コイルは複数の固定子スロット107に格納される。回転子101は永久磁石収容孔104を備えた回転子鉄心102と、6極(極対数p=3)を構成するよう配置された永久磁石103とで構成される。回転子101の中心部Cには、回転軸106(回転軸、出力軸)が貫通する貫通孔106aが形成され、貫通孔106aに回転軸106が挿通されている。
【0018】
永久磁石収容孔104は方形状で、永久磁石収容孔104には永久磁石103が埋設されている。永久磁石103と永久磁石収容孔104とは、回転子の回転軸線に対し周方向に沿って複数設けられ、回転子101の内部に周方向に沿って複数の磁極108が構成される。磁極108は機械角で60°の開き角を有している。
【0019】
図2に磁極108の1極分の拡大図を示す。磁極108の開き角をτpとし、その磁極108内における永久磁石103の開き角をτmとする。永久磁石103の開き角τmは、永久磁石103の径方向外側に位置する両端部と、回転軸106の中心とを結ぶ線で構成される。永久磁石収容孔104の周方向両端にはリブ120(120a、120b)とフラックスバリア121(121a、121b)が設けられている。リブ120(120a、120b)とフラックスバリア121(121a、121b)は、永久磁石103の磁束が同一磁極内で短絡ループを形成することを抑制するとともに、回転子101の回転時において永久磁石103が飛散することを防止している。
【0020】
図2に示す断面において、永久磁石103の径方向外側面と回転子101の外周端部とで構成され、永久磁石の開き角τmで切り取られる部分のコア外周部105の断面積は、永久磁石収容孔104の断面積よりも小さくなるよう構成されている。この理由に関しては後述する。
【0021】
以下では、本発明の基本原理、すなわち、磁極の開き角τpと磁極の永久磁石の開き角τmとの比τm/τpが式(1)の関係を満足し、かつ永久磁石による固定子コイル鎖交磁束Ψpと、電流I(Arms)通電時の直軸インダクタンスLd及び横軸インダクタンスLqとを用い式(数2)によって定義されるリラクタンストルク比αが0.60以上となるように構成することで、出力トルクを最大化しつつ、磁石コストを低減できる原理を説明する。
【0022】
【数1】
【0023】
【数2】
【0024】
一般に出力トルクMeは、極対数p、永久磁石による固定子コイル一相分の鎖交磁束Ψp、直軸電流Id、横軸電流Iqを用いて式(3)で表される。
【0025】
【数3】
【0026】
ただし、Id、Iq、Ψpは波高値である。
【0027】
式(3)を構成する各パラメータは、モータの駆動条件が定まれば、以下に述べるように一義的に算出することができる。
【0028】
まず、固定子コイル一相分の鎖交磁束Ψpは、固定子コイルの電源供給端子を開放した状態で回転子101を外部駆動し、その時の相電圧波高値E0、または線間電圧波高値E0×√3を測定することで求めることができる。具体的には、毎分当たりの回転数N[min-1]で外部駆動した時の角周波数ω[rad/s]を式(4)から求め、その結果を式(5)に代入して得られる。ただし、pは極対数である。
【0029】
【数4】
【0030】
【数5】
【0031】
直軸インダクタンスLd及び横軸インダクタンスLqに関しては、ダルトン・カメロン法などのような回転子静止法から算出するか、または図3に示すようなベクトル図から逆算する方法がある。
【0032】
図3のdq軸座標系のベクトル図では、永久磁石による固定子コイル一相分の鎖交磁束Ψpの位相を基準として、これをd軸とおくと、Ψpの時間微分である誘導起電力E0は位相が90°進んだq軸に発生する。モータに印加される相電圧Vとモータに通電される相電流Iが、E0に対してそれぞれθ、βの位相差をもつとき、V,Iは式(6)、式(7)に示すようにd軸成分、q軸成分に分解できる。
【0033】
【数6】
【0034】
【数7】
【0035】
なお、図3の抵抗Rはホイートストーンブリッジなどの抵抗測定器を用いることで計測可能である。また、電圧位相差角θ、電流位相差角βに関しては、E0、V、Iの波形を取得し、各基本波成分の位相関係を割り出すことで求めることができる。図3では相電圧、相電流の波形を用いた場合を表しているが、例えば相電圧の代わりに線間電圧を取得している場合でも、相電圧と線間電圧の位相差を考慮することで、同様にしてθ、βを求めることができる。
【0036】
上記で得られた物理量を用いて、直軸インダクタンスLd及び横軸インダクタンスLqは式(8)の電圧方程式から求めることができる。
【0037】
【数8】
【0038】
さて、再び式(3)に戻って出力トルクMeの構成要素について説明すると、{ }内第一項が磁石トルクを表し、第二項がリラクタンストルクを表している。
【0039】
図4に示すように、磁石トルクは電流位相差角β=0のときに最大となり、その最大値Mp,maxは式(7)に基づき、式(9)で表せる。
【0040】
【数9】
【0041】
一方、リラクタンストルクは電流位相差角β=π/4(電気角で45 deg.)のときに最大となり、その最大値Mr,maxは式(7)に基づき、式(10)で表せる。
【0042】
【数10】
【0043】
上述した式(9)と式(10)の比をリラクタンストルク比αと定義する。電流波高値Iを用いる場合は、
【0044】
【数11】
【0045】
となる。
【0046】
電流実効値Irmsを用いる場合は、
【0047】
【数12】
【0048】
となる。本実施例では電流実効値Irmsを用いた式(12)を使用する。
【0049】
式(12)から明らかなように、リラクタンストルク比αはモータ駆動条件に基づいて一義的に決定されるパラメータ(Irms、Ψp、Ld、Lq)から算出できる。
【0050】
ここで、図4に示す特性に基づくと、出力トルクMeはMp,max、α、βの関数として次式で表せる。
【0051】
【数13】
【0052】
【数14】
【0053】
【数15】
【0054】
式(15)において、式(16)となるときのβをβ1とする。
【0055】
【数16】
【0056】
その時の最大トルクMe,maxは式(17)で表せる。
【0057】
【数17】
【0058】
【数18】
【0059】
【数19】
【0060】
図1及び図2に示す構成を有するモータにおいて、永久磁石の開き角τmが磁極の開き角τpと等しい(τm=τp)場合の磁石トルクをMp,max1とする。このとき、固定子サイズや回転子サイズ、及びその他設計仕様は一切変更せずに、永久磁石の開き角τmのみを変化させた場合、磁石トルクMp,maxは、永久磁石の開き角τmの関数として式(20)のように表すことができる。
【0061】
【数20】
【0062】
磁石量ならびに磁石コストを低減するためには永久磁石の開き角τmを減らすことが有効である。しかしながら、式(20)から明らかなように永久磁石の開き角τmを減らすと磁石トルクMp,maxが低下するので、式(17)により得られる出力トルクMe,maxもまた低下する。したがって、従来は出力トルクを最大化し、かつ磁石量を減らして磁石コストを低減することは困難であると考えられてきた。
【0063】
これに対し本発明者らは、式(20)を式(17)に代入することで以下のように表すことができると考えた。
【0064】
【数21】
【0065】
さらに本発明者らは、式(21)を変形すると以下のように表せることに着目した。
【0066】
【数22】
【0067】
式(22)は、固定子サイズや回転子サイズ、及びその他設計仕様は一切変更せずに、永久磁石の開き角τmのみを変化させた場合の出力トルクMe,maxが、τm=τpの場合の磁石トルクMp,max1に対してどのような比になるかを表した式である。永久磁石の開き角τmのみを減少させた場合、右辺のsin項(sin(π/2・τm/τp))は上述のように単調減少することが知られている。一方で、本発明者らは同じく右辺に含まれるリラクタンストルク比αは別の傾向を示すと考えた。
【0068】
そこで、本発明者らは図1及び図2に示す構成を有するモータにおいて、任意のIrms、Ψp、Ld、Lqの組合せを選定し、τm/τpとリラクタンストルク比αの関係を調査した。その結果、図5に示すように、τm/τpとリラクタンストルク比αの関係が略線形となることがわかった。また、得られた線形関数を外挿した場合の切片(以下、外挿切片と呼称)の大きさはIrms、Ψp、Ld、Lqの組合せ、すなわち、モータごとに異なることがわかった。
【0069】
式(22)の右辺において、リラクタンストルク比αをτm/τpの線形関数として表すことができれば、式(18)と式(19)から明らかなようにcosβ1とsinβ1もまたτm/τpの関数として表すことができる。すなわち、式(22)の右辺に含まれる変数はτm/τpのみとなる。
【0070】
例えば、図5の外挿切片が0.6となるモータでは、リラクタンストルク比αとτm/τpの関係は図6に示すようになる。このとき、任意のτm/τpに対して、式(22)より出力トルクMe,maxと磁石トルクMp,max1との比を計算すると、図6に示すような関係となる。図6に示すように、出力トルクMe,maxが最大となるのは、τm/τpが1近傍(リラクタンストルク比αは0近傍)のときであることがわかる。この結果は、永久磁石の開き角τmを減らすと出力トルクMe,maxもまた低下するという公知の内容を表しており、これまでは、どのようなモータでも図6のような傾向になると考えられていた。
【0071】
しかしながら、例えば図5の外挿切片が2.3となるモータでは、リラクタンストルク比αとτm/τpの関係は図7に示すようになる。先程と同様に、任意のτm/τpに対して、式(22)より出力トルクMe,maxと磁石トルクMp,max1との比を計算すると、図7に示すような関係となる。図7より、出力トルクMe,maxが最大となるのは、τm/τpが0.6近傍(リラクタンストルク比αは1近傍)のときであることがわかる。すなわち、永久磁石の開き角τmを減らして磁石量ならびに磁石コストを低減しながら、出力トルクを最大化できることがわかる。
【0072】
図7と同様に、外挿切片を任意の値に設定し、出力トルクMe,maxが最大となるときのτm/τpとリラクタンストルク比αの組合せを調査した結果を図8に示す。図8に示すように、出力トルクMe,maxが最大となるときのτm/τpは、0.5を下限とする飽和曲線となることがわかる。また、前記τm/τpの減少傾向の変極点は、リラクタンストルク比αが0.60のとき(τm/τpが0.63のとき)であることがわかる。
【0073】
このように、本発明者らは、本実施例において永久磁石の開き角τmとリラクタンストルク比αを適切に選択することで、磁石量を低減しながら出力トルクMe,maxを最大化できることを見出した。
【0074】
以上の通り、本発明の基本原理、すなわち、磁極の開き角τpと磁極の永久磁石の開き角τmとの比τm/τpが式(1)の関係を満足し、かつ永久磁石による固定子コイル鎖交磁束Ψpと、電流I(Arms)通電時の直軸インダクタンスLd及び横軸インダクタンスLqとを用い式(数2)によって定義されるリラクタンストルク比αが0.60以上となるように構成することで、出力トルクを最大化しつつ、磁石コストを低減できる原理を説明した。
【0075】
【数23】
【0076】
【数24】
【0077】
本発明の第1実施例によれば、横軸インダクタンスLqを増加できるのでセンサレス制御の安定性を向上することができる。
【0078】
また、第1実施例によれば、センサレス制御を採用することにより、センサ類の調達・取付コストを削減することができる。
【0079】
さらに、第1実施例によれば、センサ用の配線が不要となり断線リスクが無くなるので製品信頼性を向上することができる。
【0080】
さらにまた、第1実施例によれば、遠心力荷重を低減できるので機械強度に対する信頼性を向上することができる。同時に、リブ120の幅を小さくできるので、永久磁石103の漏れ磁束を低減でき、磁石トルクのさらなる向上を図ることができる。
【0081】
さらにまた、第1実施例によれば、磁石サイズが小さくなるので、組立て作業時の磁気吸引力が小さくなり、組立作業性を向上することができる。これにより組立てに要する時間を短縮でき、製作コストを低減することができる。
【0082】
ところで、本実施例の冒頭にて、永久磁石103の径方向外側面と回転子101の外周端部とで構成されるコア外周部105の断面積は永久磁石収容孔104の断面積よりも小さくなるよう構成することを述べた。この理由は、本実施例では永久磁石の磁束発生面積が永久磁石の開き角τmに比例することを前提としているためである。換言すると、永久磁石103の径方向外側面の幅と、コア外周部105の周方向幅がほぼ同等となることを前提としている。この前提は、コア外周部105の断面積を磁石挿入孔の断面積よりも小さくすることで維持され、このときに式(20)で示すような永久磁石の開き角τmと磁石トルクMp,maxの関係を確保できる。
【0083】
なお、永久磁石103は1極につき周方向に分割されることなく一体で構成しても良いし、複数個を周方向に分割して配置しても良い。また、1極を構成する永久磁石103及び永久磁石収容孔104は、1つに限定されるわけではない。例えば、1極を構成する永久磁石103を周方向に分割し、それぞれの磁石に合わせて永久磁石収容孔104を設け、隣接する収容孔の境界にリブを設けるなどしてもよい。
【0084】
また、遠心力荷重を低減するために、図9に示すようにコア外周部105の断面積が可能な限り小さくなるように永久磁石収容孔104を構成してもよい。図9は永久磁石を分割して配置した永久磁石同期機の回転子を回転軸に垂直な横断面で示す図である。
【0085】
図9において、回転子鉄心102には永久磁石収容孔104a、104bが形成され、それぞれの永久磁石収容孔104a、104bには永久磁石103a、103bが収容されている。永久磁石収容孔104a、104bのそれぞれの周方向一端には、リブ120a、120cが形成されている。また永久磁石収容孔104a、104bの間には、リブ120bが形成されている。そして、図9では、複数の永久磁石収容孔104は、径方向外側に凸となるように周方向に並べた形状で構成している。
【0086】
また、永久磁石103及び永久磁石収容孔104は、回転軸方向に複数個を分割して構成しても良いし、分割することなく一体で構成しても良い。永久磁石103は一つの永久磁石収容孔104内で複数個に分割して配置しても良い。
【0087】
回転子鉄心102は軸方向に積み重ねた積層鋼板で構成しても良いし、圧粉磁心などで構成しても良いし、アモルファス金属などで構成しても良い。フラックスバリア121は、永久磁石103の磁束を有効に利用する観点で設けることが望ましいが、漏れ磁束を十分小さくできるのであれば必ずしも設ける必要はない。
【0088】
本実施例では、リラクタンストルク比αの数値を0.60以上と規定している。この規定を満足するのであれば、永久磁石103にはネオジム磁石のような希土類磁石を使用しても良いし、フェライト磁石のような残留磁束密度が低く保持力の低い磁石を使用しても良いし、さらにはその他の磁石を使用しても良いし、残留磁束密度と保持力が異なる複数の磁石を組み合わせて使用してもよい。ネオジム磁石は一般に残留磁束密度が0.6T以上である。これに対して、フェライト磁石は一般に残留磁束密度が0.6T未満である。本実施例はいずれの磁石モータに対しても小形化・高効率化・低コスト化の全てを同時に実現することができる。特に、モータの限界設計という観点で言えば、残留磁束密度が0.6T以上のモータに本実施例を適用した場合には、残留磁束密度0.6T未満の磁石モータに適用した場合よりも、顕著な小形化・高効率化の効果を得ることができる。
【実施例2】
【0089】
図10を用いて本発明の第2実施例について説明する。図10は、本発明の第2実施例に係る永久磁石同期機において回転子を回転軸に垂直な横断面で示す図である。
【0090】
第2実施例において、回転子鉄心102には永久磁石収容孔104が形成され、永久磁石103が収容されている。永久磁石収容孔104の周方向両端にはリブ120(120a、120b)とフラックスバリア121(121a、121b)が設けられている。
【0091】
永久磁石収容孔104は、周方向に延びる永久磁石収容孔の一辺104cが、1極を構成する永久磁石の磁極中心軸130に対して直交するように形成される。永久磁石収容孔104に収容される永久磁石103は平板に形成されている。
【0092】
第2実施例によれば、上記のように構成することにより、永久磁石103の成形プロセスを最小限に抑えることができる。また、第2実施例によれば、永久磁石103の挿入工程も簡易となるので、製造コストを抑制できる。なお、永久磁石103は、永久磁石収容孔104を完全に埋めるのではなく、隙間を残すようにして挿入するようにしても良い。
【実施例3】
【0093】
図11を用いて本発明の第3実施例について説明する。第3実施例では、第1実施例及び第2実施例で用いた永久磁石同期機を電動機車両に適用した例を説明する。電動機車両の一例として、第3実施例では鉄道車両に用いた例を説明する。
【0094】
図11は、本発明の第3実施例に係る永久磁石同期機を用いた鉄道車両の構成図である。
【0095】
鉄道車両300は、レール201上を走行する複数の車輪301と、複数の車輪301のうち、少なくとも一つの車輪301を駆動する永久磁石同期機302と、架線202から電力を集電する集電装置303と、集電装置303で集電された電力を変換して永久磁石同期機302に交流電力を供給する電力変換装置304とを備えている。
【0096】
永久磁石同期機302は鉄道車両300の車軸と連結されており、永久磁石同期機302により鉄道車両300の走行が制御される。電気的なグランドはレール201を介して接続されている。ここで、架線202の電圧は直流及び交流のどちらでもよい。また、給電方式は、架線202からの給電に代えて、鉄道車両300内にバッテリーを搭載し、このバッテリーから電力を供給するようにしても良い。
【0097】
そして、第3実施例の永久磁石同期機302には、第1実施例及び第2実施例で説明した技術が適用されている。
【0098】
第3実施例によれば、第1実施例及び第2実施例の永久磁石同期機302を鉄道車両システムに搭載することにより、鉄道車両の駆動システムの小型化を図れると同時に、高効率に運転することが可能となる。
【0099】
また、第3実施例によれば、鉄道車両の軽量化が図れ、電力消費量を低減することができる。さらに、第3実施例によれば、鉄道車両の軽量化により、高速運転に好適な鉄道車両を提供することができる。さらにまた、第3実施例によれば、鉄道車両の軽量化により、レールへの負担が抑制でき、保線作業の軽減を図ることができる。
【0100】
なお、本発明は、上述した実施例に限定するものではなく、様々な変形例が含まれる。上述した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定するものではない。
【符号の説明】
【0101】
100 永久磁石同期機
101 回転子
102 回転子鉄心
103 永久磁石
103a 永久磁石
103b 永久磁石
104 永久磁石収容孔
104a 永久磁石収容孔
104b 永久磁石収容孔
104c 永久磁石収容孔の一辺
105 コア外周部
106 回転軸
106a 貫通孔
107 固定子スロット
108 磁極
109 固定子
110 固定子鉄心
111 ティース
120 リブ
120a リブ
120b リブ
120c リブ
121 フラックスバリア
121a フラックスバリア
121b フラックスバリア
130 永久磁石の磁極中心軸
201 レール
202 架線
300 鉄道車両
301 車輪
302 永久磁石同期機
303 集電装置
304 電力変換装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11