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特許7442955コーティング剤の特性を判定する方法およびデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】コーティング剤の特性を判定する方法およびデバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240227BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
A61B5/00 M
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017228851
(22)【出願日】2017-11-29
(65)【公開番号】P2019100741
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-16
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】391023932
【氏名又は名称】ロレアル
【氏名又は名称原語表記】L’OREAL
【住所又は居所原語表記】14 Rue Royale,75008 PARIS,France
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】李 正凱
(72)【発明者】
【氏名】朴 宇覧
【合議体】
【審判長】樋口 宗彦
【審判官】▲高▼見 重雄
【審判官】渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-321333(JP,A)
【文献】特開2013-248359(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0223749(US,A1)
【文献】特開2004-290234(JP,A)
【文献】Sergei R. Utz, et al.,In vivo evaluation of sunscreens by spectroscopic methods,Skin Research and Technology,1996年08月,Vol. 2,pp.114-121,doi:10.1111/j.1600-0846.1996.tb00072.x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/64
G01N33/00-33/46
A61B5/00-5/01
A61B8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング剤の特性を判定する方法であって、
光で対象を照射するステップと、
前記光の照射に応答して、3チャネルRGBセンサを用いて前記対象から放出される蛍光を検出するステップと、
前記検出された蛍光から第1の測定結果を得るステップと、
前記コーティング剤を前記対象上に塗布するステップと、
前記対象を前記光で照射するステップと、
前記光の照射に応答して、前記対象から放出される前記蛍光を検出するステップと、
前記検出された蛍光から第2の測定結果を得るステップと、
前記第1の測定結果と前記第2の測定結果とを比較して、前記コーティング剤の特性を判定するステップと
を含み、
前記第1の測定結果及び前記第2の測定結果は、前記3チャネルRGBセンサの赤、青、緑の各波長範囲における各チャネルで取得された蛍光の強度のデータである、コーティング剤の特性を判定する方法。
【請求項2】
前記対象を照射する前記光は紫外線または青色光である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象から放出される前記蛍光の波長が、前記対象を照射する前記光の波長より長い、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記対象から放出される前記蛍光は、前記対象を照射する前記光の波長を遮断するように構成されているフィルタを通して測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記コーティング剤は紫外線防御コーティング剤または日焼け止め剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記対象はヒトの皮膚である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
コーティング剤の特性を判定するデバイスであって、
対象を照射するように構成されている光源と、
前記対象から放出される蛍光を検出するように構成されている3チャネルRGBセンサを備える光検出器と、
前記コーティング剤を前記対象上に塗布する前後に、前記検出された蛍光の測定結果を生成するように、かつ前記測定結果を比較して、前記対象上に塗布された前記コーティング剤の特性を判定するように構成されている制御構成要素と
を含み、
前記測定結果は、前記3チャネルRGBセンサの赤、緑、青の各波長範囲における各チャネルで取得された蛍光の強度のデータである、コーティング剤の特性を判定するデバイス。
【請求項8】
前記光源は、紫外線または青色光で前記対象を照射するように構成されている、請求項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記3チャネルRGBセンサは、前記対象を照射する光の波長より長い波長を有する前記蛍光を検出するように構成されている、請求項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記3チャネルRGBセンサと前記対象との間にフィルタをさらに含み、前記フィルタは前記光源から放出される光の波長を遮断するように構成されている、請求項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記光源および前記3チャネルRGBセンサを取り囲むように、かつ前記対象と接触するように構成されているカバーをさらに含む、請求項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記光源と前記3チャネルRGBセンサとの間に配設されている壁をさらに含み、前記壁は、前記対象上に光を照射するときに前記壁と前記対象との間に空間を確保するように構成されている、請求項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記対象はヒトの皮膚である、請求項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの皮膚などの対象に塗布される紫外線防御コーティング剤または日焼け止め剤の存在および特性を判定する方法ならびにデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
光でコーティング剤を照射しかつコーティング剤から反射された光を検出する方法が、ヒトの皮膚上に塗布される紫外線防御コーティング剤または日焼け止め剤の存在、およびその塗布量などの特性を判定する方法として知られている。例えば、特許公報1が、皮膚に塗布されたコーティング剤中の蛍光性発色団から放出される蛍光を検出することにより、コーティング剤の特性を判定する方法を開示している。詳細には、特許公報1に開示されている先行技術の方法は、波長が定められていない光で、皮膚に塗布されたコーティング剤を照射することを利用する。この光は、コーティング剤中に含まれる蛍光性発色団を励起させて、400nmから600nmまでの間の範囲内の蛍光を放出させる。コーティング剤の存在は、蛍光を測定することにより判定され得る。
【0003】
先行技術の方法は、蛍光性発色団を含む特定のコーティング剤のみに適用され得る。蛍光性発色団を含まないコーティング剤および無機コーティング剤(ファンデーションなどの)が蛍光を放出しないので、先行技術の方法は、コーティング剤の存在を正確に判定することができない。さらに、先行技術の方法は、コーティング剤から放出された光を検出するので、コーティング剤の複数の層が皮膚に塗布された場合、最外層のみが検出される可能性があり、それが結果的に誤った判定をもたらす可能性がある。
【0004】
したがって、コーティング剤の種類およびコーティング剤の層数に関係なく、量などの、皮膚上のコーティング剤の特性を判定するための解決策が研究されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】欧州特許第2275176号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、コーティング剤の種類およびコーティング剤の層数に関係なく、量などの、皮膚上のコーティング剤の特性を判定することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成する以下の解決策を提供する。
【0008】
本発明は、
光で対象を照射するステップと、
光照射に応答して、対象から放出される蛍光を検出するステップと、
検出された蛍光から第1の測定結果を得るステップと、
コーティング剤を対象上に塗布するステップと、
光で対象を照射するステップと、
光照射に応答して、対象から放出される蛍光を検出するステップと、
検出された蛍光から第2の測定結果を得るステップと、
第1の測定結果と第2の測定結果とを比較して、コーティング剤の特性を判定するステップと
を含む、コーティング剤の特性を判定する方法を提供する。
【0009】
上記方法は、コーティング剤の代わりに、対象から放出される蛍光を測定するので、上記方法は、コーティング剤の種類およびコーティング剤に含まれる層数に関係なく、対象に塗布されるコーティング剤の量などの特性を判定することができる。
【0010】
本発明の方法によれば、対象を照射する光は、紫外線または青色光であってもよい。
【0011】
上記方法は、紫外線または青色光により、対象の蛍光の効果的な励起を実現することができる。
【0012】
本発明の方法によれば、対象から放出される蛍光の波長が、対象を照射する光の波長より長い可能性がある。
【0013】
上記方法は、対象を照射する光と対象から放出される蛍光とを容易に分離し、測定することができる。
【0014】
本発明の方法によれば、第1の測定結果および第2の測定結果は蛍光スペクトル強度を含み得る。
【0015】
上記方法は、コーティング剤を対象上に塗布する前後に、各波長における蛍光スペクトル強度の変化を測定することにより、コーティング剤の様々な特性を判定することができる。
【0016】
本発明の方法によれば、第1の測定結果および第2の測定結果は、赤、緑、および青の波長範囲内の強度を含み得る。
【0017】
上記方法は、コーティング剤を対象上に塗布する前後に、赤、緑、青の範囲内の蛍光の光強度の変化を測定することにより、コーティング剤の様々な特性を判定することができる。
【0018】
本発明の方法によれば、対象から放出される蛍光は、対象を照射する光の波長を遮断するように構成されているフィルタを通して測定される。
【0019】
上記方法は、フィルタにより、対象を照射する光を遮断して、対象から放出される蛍光のみを測定することにより、測定精度を向上させることができる。
【0020】
本発明の方法によれば、コーティング剤は、紫外線防御コーティング剤または日焼け止め剤を含み得る。
【0021】
上記方法は、紫外線防御コーティング剤または日焼け止め剤の特性を判定することができる。
【0022】
本発明の方法によれば、対象はヒトの皮膚であってもよい。
【0023】
上記方法は、ヒトの皮膚上に塗布されたコーティング剤の特性を判定することができる。
【0024】
また、本発明は、
光で対象を照射するように構成されている光源と、
対象から放出される蛍光を検出するように構成されている光検出器と、
コーティング剤を対象上に塗布する前後に、検出された蛍光の測定結果を生成するように、かつ測定結果を比較して、対象上に塗布されたコーティング剤の特性を判定するように構成されている制御構成要素と
を含む、コーティング剤の特性を判定するデバイスを提供する。
【0025】
上記デバイスは、コーティング剤の代わりに、対象から放出された蛍光を測定するので、上記デバイスは、コーティング剤の種類およびコーティング剤中に含まれる層数に関係なく、対象上に塗布されたコーティング剤の量などの特性を判定することができる。
【0026】
本発明のデバイスによれば、光源は、紫外線または青色光で対象を照射するように構成されていてもよい。
【0027】
上記デバイスは、紫外線または青色光により、対象の蛍光を効果的に励起させることができる。
【0028】
本発明のデバイスによれば、光検出器は、対象を照射する光の波長より長い波長を有する蛍光を検出するように構成されていてもよい。
【0029】
上記デバイスは、対象を照射する光と対象から放出される蛍光とを容易に分離し、測定することができる。
【0030】
本発明のデバイスによれば、制御構成要素は、光検出器により検出される蛍光スペクトル強度を含む測定結果を生成するように構成されていてもよい。
【0031】
上記デバイスは、コーティング剤を対象上に塗布する前後に、各波長における蛍光スペクトル強度の変化を測定することにより、コーティング剤の様々な特性を判定することができる。
【0032】
本発明のデバイスによれば、制御構成要素は、赤、緑、および青の波長範囲内の、光検出器により検出された蛍光の強度を含む測定結果を生成するように構成されていてもよい。
【0033】
上記デバイスは、コーティング剤を対象上に塗布する前後に、赤、緑、および青の範囲内の、蛍光の光強度の変化を測定することにより、コーティング剤の様々な特性を判定することができる。
【0034】
本発明のデバイスは、光検出器と対象との間にフィルタをさらに含んでいてもよく、フィルタは、光源から放出される光の波長を遮断するように構成されている。
【0035】
上記デバイスは、フィルタにより、光源から放出される光を遮断して、対象から放出される蛍光のみを測定することにより、測定精度を向上させることができる。
【0036】
本発明のデバイスは、光源および光検出器を取り囲むように、かつ対象と接触するように構成されているカバーをさらに含んでいてもよい。
【0037】
上記デバイスは、外部からの環境光の影響なく、対象から放出される蛍光を測定することにより、測定精度を向上させることができる。
【0038】
本発明のデバイスは、光源と光検出器との間に配設されている壁をさらに含んでいてもよく、壁は、光で対象を照射するときに壁と対象との間に空間を確保するように構成されている。
【0039】
上記デバイスは、光源から放出される光を遮断して、対象により放出される蛍光のみを測定することにより、測定精度を向上させることができる。
【0040】
本発明のデバイスによれば、対象はヒトの皮膚であってもよい。
【0041】
上記デバイスは、ヒトの皮膚上に塗布されたコーティング剤の特性を判定することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明の方法およびデバイスによれば、ヒトの皮膚上に塗布されたコーティング剤の量などの特性は、コーティング剤の種類およびコーティング剤中に含まれる層数と関係なく判定され得る。
【0043】
本発明のさらなる特徴および利点が、以下の「本発明の詳細」および添付の図に示されている実施形態を参照することにより、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明によるデバイスの実施形態の概略図である。
図2】本発明による、コーティング剤の特性を判定する方法の概略流れ図である。
図3】本発明による、コーティング剤の特性を判定する方法において、照射された対象から蛍光を放出する機構を示す概略図である。
図4】異なる種類のコーティング剤を塗布する前後の、蛍光の測定結果を示すグラフである。
図5】積層状のコーティング剤を塗布する前後の、蛍光の測定結果を示すグラフである。
図6】異なる量のコーティング剤を塗布する前後の、蛍光の測定結果を示すグラフである。
図7】ヒトの身体の異なる部分に日焼け止め剤を塗布する前後の、蛍光の測定結果を示すグラフである。
図8】白色光LEDが光源として使用された場合の、測定結果を示すグラフである。
図9】日焼け止め剤を塗布する前後の、蛍光と関連する色温度およびisFLAの測定結果を示すグラフである。
図10】ファンデーションを塗布する前後の、蛍光と関連する色温度およびisFLAの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本明細書では、「光」は「可視光」に限定されず、遠赤外線とγ線との間の広範囲内に含まれる波長を有する電磁波を示す。
【0046】
図1は、本発明によるデバイスの実施形態の概略図を示す。本発明によるデバイス1は、光源2と、光検出器3と、光源2および光検出器3と信号をやりとりする制御構成要素4とを含む。光源2は、光で対象10(例えば、コーティング剤を塗布する前後のヒトの皮膚)を照射するように構成されている。光検出器3は、対象10から放出される蛍光を検出するように構成されている。
【0047】
光源2は、紫外線または青色光で対象10を照射するように構成されている。光源2から放出される紫外線は、360nmと380nmの間の紫外線A波バンドの波長を有する光であってもよい。光源2から放出される青色光は、400nmと450nmの間の波長を有する光であってもよい。光検出器3は、光源2から放出される光の波長より長い波長を有する光を検出するように構成されていてもよい。光検出器3は、検出された光の波長および強度に対応する検出信号を出力してもよい。例えば、400nmと700nmの間の可視光を検出する光検出器3はセンサであってもよい。光検出器3は、赤、緑、および青の波長範囲内の強度を測定することができる3チャネルRGBセンサであってもよい。光検出器3は、異なる波長の詳細なスペクトル強度を測定するように構成されていてもよい。そのような構造を有する光検出器3は、各チャネルまたは波長と関連する光強度に対応する検出信号を出力するように構成されていてもよい。制御構成要素4は、例えば、光源2および光検出器3に電力を供給して、光を放出するための、光源2の信号を供給するように、かつ光検出器3から検出信号を受信するように構成されていてもよい。制御構成要素4は、光検出器3からの検出信号出力に基づいて、測定結果をデータとして生成し、格納するように、かつデータの必要な処理を実行するように構成されていてもよい。
【0048】
デバイス1は、光源2により照射される対象10と光検出器3との間に、フィルタ5をさらに含んでいてもよい。フィルタ5は、光源2から放出される光が有する波長を有する光を遮断するように構成されていてもよい。光源2から放出される光が、例えば360nmと380nmの間の紫外線A波バンドの波長を有する紫外線である場合、フィルタ5は、紫外線A波バンドの波長を有する光を遮断するように構成されていてもよい。光源2から放出される光が、例えば、400nmと450nmの間の波長を有する青色光である場合、フィルタ5は、そのような波長を有する青色光を遮断するように構成されていてもよい。
【0049】
デバイス1は、光源2および光検出器3を取り囲むように、かつ対象10と接触するように構成されているカバー6を含んでいてもよい。カバー6が対象10と接触している場合、外部からの環境光が光検出器3にぶつからない。したがって、光検出器3は、環境光のいかなる影響もなく、対象10からの光のみを検出することができる。そのような構造は光検出器3の測定精度を向上させる。
【0050】
デバイス1は、光源2と光検出器3との間に配設されている壁7を含んでいてもよい。壁7は、光で対象10を照射するときに壁7と対象10との間に空間を確保するように構成されていてもよい。そのような構造は、光源2から放出される光が、光検出器3に直接ぶつからないようにする。したがって、光検出器3が、対象10から放出される光のみを検出することができるので、そのような構造が光検出器3の測定精度を向上させる。
【0051】
図2は、本発明による、コーティング剤の特性を判定する方法100の概略流れ図を示す。図3は、本発明による、コーティング剤の特性を判定する方法100において、照射された対象10から蛍光を放出する概略的機構を示す。
【0052】
本発明による方法100は、コーティング剤11(例えば、紫外線防御コーティング剤または日焼け止め剤)の塗布前に、デバイス1の光源2から放出される光で対象10(例えば、ヒトの皮膚)を照射するステップ101を実行する。光源2から放出された光は、例えば、360nmと380nmの間の紫外線A波バンドの波長を有する紫外線、または400nmと450nmの間の波長を有する青色光であってもよい。対象10を照射するステップ101は、制御構成要素4からの命令に基づいて実行されてもよい。
【0053】
次に、本方法100は、照射に応答して、光検出器3を用いて、対象10から放出される蛍光を検出するステップ102を実行する。ヒトの皮膚などの対象10が紫外線または青色光で照射された場合、そのような光は、角質層12または真皮13内に含まれるコラーゲンなどの分子14を励起させる。励起された分子14は蛍光を放出する。蛍光は、通常、対象10を照射する紫外線または青色光より長い波長、例えば400nmと700nmの間の可視光線の波長を有する。光検出器3は、赤、緑、および青の波長範囲内の強度を測定することができる3チャネルRGBセンサであってもよい。光検出器3は、異なる波長の詳細なスペクトル強度を測定するように構成されていてもよい。蛍光が、そのような構造を有する光検出器3にぶつかった場合、光検出器3は、各チャネルまたは各波長におけるぶつかった蛍光の強度を検出し、蛍光の検出された強度に対応する検出信号を出力する。
【0054】
次に、本方法100は、制御構成要素4が光検出器3から検出信号出力を受信し、第1の測定結果をデータとして生成し、格納するステップ103を実行する。第1の測定結果は、例えば、赤波長、緑波長、および青波長における蛍光の強度のデータであってもよいか、または詳細な異なる波長におけるスペクトル強度であってもよい。
【0055】
次に、本方法100は、対象10上にコーティング剤11を塗布するステップ104を実行する。コーティング剤11は、例えば、紫外線を吸収するかまたは遮断する紫外線防御コーティング剤、であってもよい。コーティング剤11は日焼け止め剤であってもよい。コーティング剤11は、必ずしも、先行技術において開示されているように、対象10を照射する紫外線または青色光に応答して蛍光を放出する蛍光性発色団を含む特定のコーティング剤であるとは限らない。コーティング剤11は、複数の種類のコーティング剤で構成されていてもよいか、または複数の種類のコーティング剤の多層膜としてコーティングされていてもよい。
【0056】
次に、本方法100は、コーティング剤11の塗布後、デバイス1の光源2から放出される光で、対象10を照射するステップ105を実行する。光源2から放出される光は、ステップ101において光源2から放出される光と同じ波長を有する。光源2からの光は、紫外線もしくは青色光を吸収するかまたは遮断するコーティング剤11を介して対象10にぶつかるので、ステップ101における光と比較して、対象10に到達する光が減少する。光で対象10を照射するステップ105は、制御構成要素4からの命令に基づいて実行されてもよい。
【0057】
次に、本方法100は、光検出器3を用いて、照射に応答して対象10から放出される蛍光を検出するステップ106を実行する。蛍光は、ステップ102と同じ方法で、対象10の内部の蛍光性発色団から放出される。対象10が例えばヒトの皮膚である場合、蛍光性発色団は、角質層12または真皮13内に含まれるコラーゲンなどの分子14である。蛍光はステップ102の蛍光と同じ波長を有する。蛍光は、コーティング剤11を介してぶつかった光に応答して励起された蛍光性発色団から放出されるので、放出された蛍光は、ステップ102の蛍光に比べて減少する。蛍光が光検出器3にぶつかった場合、光検出器3は、各チャネルまたは各波長におけるぶつかった蛍光の強度を検出し、蛍光の検出された強度に対応する検出信号を出力する。
【0058】
次に、本方法100は、制御構成要素4が、光検出器3からの検出信号出力を受信し、第2の測定結果をデータとして生成し、格納するステップ107を実行する。第2の測定結果は、例えば、赤波長、緑波長、および青波長における蛍光の強度、または詳細な異なる波長におけるスペクトル強度のデータであってもよい。
【0059】
次に、本方法100は、制御構成要素4が第1の測定結果と第2の測定結果とを比較して、コーティング剤の特性を判定するステップ108を実行する。コーティング剤の様々な特性、例えばコーティング剤の量および種類が、第1の測定結果と第2の測定結果との間の差異に基づいて判定され得る。
【0060】
次に、実際の測定結果を参照すると、本方法100による、コーティング剤の特性の判定は以下に検討されるであろう。
【0061】
図4は、コーティング剤11の異なる種類が対象10としてのヒトの皮膚に塗布された場合の、コーティング剤の特性の判定を示す。
【0062】
コーティング剤11の塗布前のヒトの皮膚を、光源2からの紫外線A波バンドの波長を有する光で照射し、放出された蛍光を第1の測定結果を得るために測定した。図4Aは第1の測定結果を示す。3チャネルRGBセンサを光検出器3として、赤波長、緑波長、および青波長における光の強度を測定するために使用した。図4Aのグラフの水平軸は、赤波長、緑波長、および青波長を示し、垂直軸は、相対値での光強度を示す。ヒトの前腕の異なる4つの位置で測定を行った。4つの位置で測定された蛍光の強度は、互いに大きく異ならなかった。青色光の強度が最も高い理由は、青色光が光源2から放出される光の波長に最も近いことである。
【0063】
次に、4つの異なる種類のコーティング剤AからDまでの1つをコーティング剤11として塗布した後、ヒトの皮膚を、紫外線A波バンドの波長を有する光で照射し、放出された蛍光を測定して、第2の測定結果を得た。コーティング剤の全てが蛍光性発色団を含む訳ではなかった。コーティング剤AからCまでが、日焼け止め機能を有し、コーティング剤Dが保湿機能を有した。図4Bは、図4Aに示されているコーティング剤塗布前の、ヒトの皮膚からの蛍光の第1の測定結果の平均と共に、第2の測定結果を示す。コーティング剤塗布後に測定される蛍光の強度は、コーティング剤塗布前の蛍光と比較して大きく減少したことが、図4Bから明らかである。したがって、コーティング剤の存在は、光で皮膚を照射することにより得られた測定結果を比較すること、およびコーティング剤塗布の前後に、放出された蛍光を測定することにより判定されたことが分かった。さらに、保湿のためのコーティング剤Dの蛍光の強度の低下は小さかった。
【0064】
図5は、複数の種類のコーティング剤11が対象10としてのヒトの皮膚上に積層として塗布された場合の、コーティング剤の特性の判定を示す。
【0065】
コーティング剤11の塗布前に、ヒトの皮膚を、光源2からの紫外線A波バンドの波長を有する光で照射し、放出された蛍光を測定して、第1の測定結果を得た。図5Aは第1の測定結果を示す。赤波長、緑波長、および青波長における光の強度を測定するために、3チャネルRGBセンサを光検出器3として使用した。図5Aのグラフの水平軸は赤波長、緑波長、および青波長を示し、垂直軸は相対値での光強度を示す。ヒトの前腕の異なる5つの位置で測定を行った。
【0066】
次に、4つの異なる種類のコーティング剤AからDまでの1つをコーティング剤11として塗布した後、ヒトの皮膚を、光源2からの、紫外線A波バンドの波長を有する光で照射し、放出された蛍光を測定して、第2の測定結果を得た。図5Bは、図5Aに示されている、コーティング剤塗布前の、ヒトの皮膚からの蛍光の第1の測定結果の平均と共に、第2の測定結果を示す。コーティング剤Aは、SPF (Sun Protection Factor) 50の日焼け止め剤の層を1つだけ含む。コーティング剤Bは、ファンデーションが後に続く、SPF 50の日焼け止め剤の層の積層である。コーティング剤Cは、SPF 50の日焼け止め剤の層が後に続く、ファンデーションの層の積層である。コーティング剤Dは、SPF 50の日焼け止め機能を有するファンデーションの層を1つだけ含む。図5Bに示されている通り、コーティング剤塗布前の蛍光と比較して、コーティング剤後に測定された蛍光は大幅に減少した。さらに、コーティング剤AからDまでの測定結果は互いに大きく異ならなかった。
【0067】
図6は、対象10としてのヒトの皮膚上に塗布された異なる量のコーティング剤11の特性の判定を示す。
【0068】
コーティング剤11の塗布前に、光源2からの紫外線A波バンドの波長を有する光で、ヒトの皮膚を照射し、放出された蛍光を測定して、第1の測定結果(図6の「素肌avg」のデータ)を得た。次に、異なる量のコーティング剤AからCまでをコーティング剤11として塗布した後、光源2からの紫外線A波バンドの波長を有する光で、ヒトの皮膚を照射し、放出された蛍光を測定して、第2の測定結果を得た。コーティング剤AからCまでは、2mg、5mg、および8mgそれぞれで皮膚上の同一領域上に塗布された、SPF 50の日焼け止め剤であった。図6に示されている通り、日焼け止め剤の量を増加させると、測定される蛍光の減少につながる。
【0069】
図7は、ヒトの異なる部分にSPF 50の日焼け止め剤をコーティング剤11として塗布する前後の、蛍光の測定結果の比較を示す。ヒトの左腕の3つの部分、右腕の3つの部分、左右の頬、および左右の額を、測定位置として選択した。赤波長(r)、緑波長(g)、青波長(b)、波長全体(c)、赤色光の強度と緑色光の強度との間の勾配(isFLA)、および赤波長から青波長までの強度の積分(グラフの領域、Area)に関するデータが得られた。図7Aは、コーティング剤塗布前の蛍光の測定結果(第1の測定結果)を示し、図7Bは、コーティング剤塗布後の蛍光の測定結果(第2の測定結果)を示す。測定位置に関わらず、コーティング剤を塗布することが、結果的に、赤波長、緑波長、および青波長を有する蛍光の強度の減少をもたらした。腕の蛍光の強度は、頬および額からの蛍光と比較して、大幅に減少した。図7のデータ「ref」は、測定前にデバイスを較正するための、白色物体の照射の測定結果である。したがって、データ「ref」はコーティング剤の測定に直接関連していない。同じことが、以下の測定結果に適用される。
【0070】
図8は、光源2として白色光LEDを使用した場合の結果を示す。図7と同じ方法で、ヒトの左腕の3つの部分、右腕の3つの部分、左右の頬、および左右の額を、測定位置として選択した。SPF 50の日焼け止め剤をコーティング剤として使用した。図8Aは、コーティング剤塗布前の蛍光の測定結果(第1の測定結果)を示し、図8Bは、コーティング剤塗布後の蛍光の測定結果(第2の測定結果)を示す。コーティング剤塗布の前後で、測定結果間に大きな差異はなかった。したがって、白色光LEDは光源2に適さないこと、および紫外線A波または青波長の範囲内の光を放出する光源が好ましいことが分かった。
【0071】
図9が、異なる波長における蛍光の強度の代わりに、コーティング剤塗布の前後に測定された、色温度(CT)および赤色光の強度と青色光の強度との間の勾配(isFLA)の結果を示す。図7および図8と同じ方法で、ヒトの左腕の3つの部分、右腕の3つの部分、左右の頬、および左右の額を、測定位置として選択した。SPF 50の日焼け止め剤をコーティング剤11として使用した。図9Aは、コーティング剤塗布の前後に測定された蛍光の色温度の変化を示す。図9Bは、コーティング剤塗布の前後に測定された蛍光のisFLAの変化を示す。コーティング剤を塗布することが、結果的に、色温度およびisFLAの減少をもたらすことが分かった。詳細には、色温度およびisFLAの変化は大きかった。
【0072】
図10は、ファンデーションをコーティング剤11として塗布する前後に測定された蛍光の色温度およびisFLAの変化を示す。図7から図9までと同じ方法で、ヒトの左腕の3つの部分、右腕の3つの部分、左右の頬、および左右の額を、測定位置として選択した。図10Aは、コーティング剤塗布の前後に測定された蛍光の色温度の変化を示す。図10Bは、コーティング剤塗布の前後に測定された蛍光のisFLAの変化を示す。ファンデーションを塗布することが、結果的に、SPF 50の日焼け止め剤の結果と同様に、色温度およびisFLAの減少をもたらすことが分かった。
【0073】
上記結果から、コーティング剤の存在が、紫外線A波または青波長の範囲を有する光で対象を照射すること、およびコーティング剤塗布の前後に蛍光を測定して、測定結果を比較することにより、判定され得ることが分かった。コーティング剤の量が蛍光の減少に基づいて測定され得ることが分かった。さらに、コーティング剤が蛍光性発色団を含まない場合にも、コーティング剤の量が判定され得ることが分かった。
【0074】
前述の実施形態が、本発明を限定するのではなく、本発明の技術的解決策を説明しようとしているに過ぎないことに留意すべきである。前述の実施形態を参照して、本発明は詳細に説明されているが、当業者は、彼らが、依然として、前述の実施形態内に記録されている技術的解決策を修正してもよいか、またはこれらの技術的特徴の部分もしくは全体に対して等価の置換を行い得ることを理解すべきである。
【符号の説明】
【0075】
1 デバイス
2 光源
3 光検出器
4 制御構成要素
5 フィルタ
6 カバー
7 壁
10 対象
11、A、B、C、D、E コーティング剤
12 角質
13 真皮
14 分子
100 方法
Area 赤波長から青波長までの強度の積分、グラフの領域
CT 色温度
b 青波長
c 波長全体
g 緑波長
isFLA 赤色光の強度と緑色光の強度との間の勾配、赤色光の強度と青色光の強度との間の勾配
r 赤波長
ref 測定前にデバイスを較正するための、白色物体の照射の測定結果
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10