IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ポリエチレン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-易引裂性バックインボックス用フィルム 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】易引裂性バックインボックス用フィルム
(51)【国際特許分類】
   B65D 77/06 20060101AFI20240227BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240227BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
B65D77/06 B
B32B27/00 H
B32B27/32 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018062346
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019172304
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-05
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】足立 菜摘
【合議体】
【審判長】久保 克彦
【審判官】藤井 眞吾
【審判官】▲高▼橋 杏子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-238510(JP,A)
【文献】特開2015-182378(JP,A)
【文献】特開2016-159932(JP,A)
【文献】特開2001-225426(JP,A)
【文献】特開平07-256751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 77/06
B32B 27/00
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、最内層と、最外層と、その間に位置する中間層を有する多層フィルムであって、最内層及び最外層に、(a-1)密度が0.900~0.930g/cm、(a-2)MFRが0.1~20g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A)を65~100重量%を含有し、中間層に環状オレフィン系樹脂(B)20~80重量%、密度が0.900~0.930g/cm、MFRが0.1~20g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A)を15~80重量%、高圧法低密度ポリエチレン(C)を0~30重量%含有し、該直鎖状低密度ポリエチレン(A)は、更に下記物性(a-3)及び(a-4)を有するエチレン・α-オレフィン共重合体であり、該高圧法低密度ポリエチレン(C)は、下記物性(c-1)及び(c-2)を有することを特徴とする易引裂性バックインボックス用フィルム。
(a-3)分子量分布(Mw/Mn)が1.8~3.5、
(a-4)連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度-溶出量曲線のピークが複数個である
(c-1)密度が0.910~0.940g/cm
(c-2)MFRが0.5~20g/10分
【請求項2】
該環状オレフィン系樹脂は、エチレン・環状オレフィン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の易引裂性バックインボックス用フィルム。
【請求項3】
該多層フィルムにおいて、JIS K7128-2に準拠して測定したエルメンドルフ引裂強度が、縦方向及び横方向において、それぞれ30N/mm以下であることを特徴とする、請求項1ないし2のいずれかの項に記載の易引裂性バックインボックス用フィルム。
【請求項4】
該多層フィルムにおいて、ゲルボフレックステスターを用いて測定したピンホールの数が5個以下であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかの項に記載の易引裂性バックインボックス用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバックインボックスの内袋を構成するバックインボックス用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品、飲料を包装するバックインボックス用フィルムには、低温ヒートシール性、耐ピンホール性等の諸性能が要望されていた。多層フィルムである場合、シーラント層には、ヒートシール強度のほか、低温ヒートシール性等に優れたエチレン-酢酸ビニル共重合体、あるいは、線状低密度ポリエチレン等が用いられてきた。
しかしながら、上記エチレン-酢酸ビニル共重合体や、線状低密度ポリエチレンを用いてシーラント層を作成した場合、そのヒートシール性については、良好であるが、耐ピンホール性や易引裂性(易開封性)が十分でなかった。
【0003】
このような点を解決するために、例えば、上記性能が要求されるバックインボックス用フィルムは、積層フィルムで形成されており、その該積層フィルムの少なくとも最内層が、シングルサイト触媒を用いて重合した、エチレン-α-オレフィン共重合体と、中密度ポリエチレン及び/又は高密度ポリエチレンとの混合樹脂で形成されていることを特徴とするバッグインボックスの内袋が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、特定のエチレン単独重合体またはエチレン-α-オレフィン共重合体と他のエチレン系(共)重合体の樹脂または、樹脂組成物から形成されたことを特徴とするバッグインボックス用内袋が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
さらに、少なくとも1層の中間層(III)と、この両面に形成された外層(I)、外層(II)を有する3層以上の複数層からなるバッグインボックス内袋用フィルムであって、該少なくとも1層の中間層(III)が、特定のエチレン-α-オレフィン共重合体と他のエチレン系(共)重合体からなるバッグインボックス内袋用フィルムが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
しかしながら、特許文献1~3に記載のバックインボックス内袋用フィルムは共に、易引裂性(易開封性)においては考慮されていない。
【0004】
食品工場などでは、バックインボックスに入れられた内容物を完全に出し切るため、バックインボックスを開封することが多々生じているが、耐ピンホール性を重視した上記フィルムでは、逆に、手で安易に引裂き、開封することは出来ない。よって、このような場合、ハサミやカッターを使用して開封している。しかし、ハサミやカッターを使用すると、切傷の危険だけでなく、フィルム片や刃の混入といった危険性も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-227787号公報
【文献】特開平9-240731号公報
【文献】特開2000-326463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みて、低温ヒートシール性、耐ピンホール性に優れると共に、それに相反した特性である易引裂性にも優れたエチレン系共重合体組成物から形成されたことを特徴とするバックインボックス用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため種々の研究を重ねた結果、最内層と、最外層と、その間に位置する中間層を有する多層フィルムの中間層において、特定の樹脂層構成によるフィルムを用いることにより、上記課題を解決することができることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、少なくとも、最内層と、最外層と、その間に位置する中間層を有する多層フィルムであって、最内層及び最外層に、(a-1)密度が0.900~0.930g/cm、(a-2)MFRが0.1~20g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A)65~100重量%を含有し、中間層に環状オレフィン系樹脂(B)20~80重量%、密度が0.900~0.930g/cm、MFRが0.1~20g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A)を20~80重量%、高圧法低密度ポリエチレン(C)を0~30重量%含有することを特徴とする易引裂性バックインボックス用フィルムが提供される。
第2の発明によれば、該環状オレフィン系樹脂は、エチレン・環状オレフィン共重合体であることを特徴とする第1の発明に記載の易引裂性バックインボックス用フィルムが提供される。
第3の発明によれば、該直鎖状低密度ポリエチレン(A)は、更に下記物性(a-3)及び(a-4)を有するエチレン・α-オレフィン共重合体であることを特徴とする、第1又は第2発明に記載の易引裂性バックインボックス用フィルムが提供される。
(a-3)分子量分布(Mw/Mn)が1.8~3.5
(a-4)連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度-溶出量曲線のピークが複数個である
第4の発明によれば、該多層フィルムにおいて、JIS K7128-2に準拠して測定したエルメンドルフ引裂強度が、縦方向及び横方向において、それぞれ30N/mm以下であることを特徴とする、第1ないし3のいずれかの発明に記載の易引裂性バックインボックス用フィルムが提供される。
第5の発明によれば、該多層フィルムにおいて、ゲルボフレックステスターを用いて測定したピンホールの数が5個以下であることを特徴とする、第1ないし4のいずれかの発明に記載の易引裂性バックインボックス用フィルムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の易引裂性バックインボックス用フィルムは、低温ヒートシール性、耐ピンホール性、柔軟性に優れると共に、通常それらに相反する特性である、易引裂性に優れるという顕著な効果を奏する。そのため、該易引裂性バックインボックス用フィルムを用いることにより低温ヒートシール性、耐ピンホール性、易開封性に優れた、バックインボックスとしてよく用いられる飲料水等の食品包装用フィルム、医療品包装用フィルム等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例及び比較例の結果で得られた、エルメンドルフ引裂強度(MD)と、ゲルボフレックスで得られたピンホール数を対比したグラフを示す。(実施例の値は◆、比較例の値は×で示す。)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、直鎖状低密度ポリエチレンからなる最内外層と、環状オレフィン系樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレンからなる中間層を含む、易引裂性バックインボックス用フィルムである。以下に、各エチレン系共重合体組成物を構成する成分、各エチレン系共重合体組成物、その特性、それらを用いた易引裂性バックインボックス用フィルムについて詳細に説明する。
【0012】
(1)直鎖状低密度ポリエチレン(A)
本発明の直鎖状低密度ポリエチレン(A)とは、具体的にはエチレンと炭素数3~18のα-オレフィンとを触媒重合法により共重合して得られる、低密度かつ直鎖状の分子構造を有するエチレン・α-オレフィン共重合体である。
ここで、炭素数3~18のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-オクタデセン等が挙げられ、中でも、炭素数4~12であるのが好ましく、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン等の炭素数4~10であるものが特に好ましい。
【0013】
また、エチレン・α-オレフィン共重合体におけるα-オレフィンの含有量は、好ましくは3~24重量%、より好ましくは5~20重量%、さらに好ましくは7~15重量%である。α-オレフィンの含有量が3重量%未満では、フィルムとしての耐ピンホール性に劣りやすくなる。
【0014】
さらに、本発明における成分(A)の直鎖状低密度ポリエチレンは、下記の特性(a-1)~(a-2)を満たすことが必要である。
(a-1)密度
成分(A)の密度は、0.900~0.930g/cmであり、好ましくは0.905~0.925g/cmであり、より好ましくは0.910~0.920g/cmである。密度が0.900g/cm未満では、バッグインボックス用フィルムにミネラルウォーターを充填するときの、耐熱性に劣ることとなり、0.930g/cmを超えるとバッグインボックス用フィルムとしての耐ピンホール性に劣ることとなる。
ここで、密度は、JIS K7112-1999の「プラスチック-非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」のD法(密度こうばい管法)に準拠して測定する値である。
【0015】
(a-2)メルトフローレイト(MFR)
成分(A)のMFRは、0.1~20g/10分であり、好ましくは0.3~15g/10分であり、より好ましくは0.5~10g/10分である。MFRが0.1g/10分未満では、フィルムへ成形加工するとき、樹脂圧が上がる等して加工性が劣ることとなり、一方、MFRが20g/10分超では、バッグインボックス用フィルムとしての機械的強度、フィルム成形加工時のバブル安定性等の加工性が劣ることとなる。
ここで、MFRは、JIS K7210-1999の「プラスチック―熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に準拠して、試験条件:190℃、21.18N(2.16kg)荷重で測定する値である。
【0016】
本発明で用いる直鎖状低密度ポリエチレン(A)としては、チーグラー・ナッタ型触媒やフィリップス型触媒等の存在下に共重合されたものより、カミンスキー型触媒の存在下に共重合されたものであるのが好ましい。
カミンスキー型触媒によるエチレン・α-オレフィン共重合体は、例えば、特開昭58-19309号、特開昭59-95292号、特開昭60-35005号、特開昭60-35006号、特開昭60-35007号、特開昭60-35008号、特開昭60-35009号、特開昭61-130314号、特開平3-163088号の各公報、欧州特許公開第420436号公報、米国特許第5055438号明細書、及び国際公開WO91/04257号公報等に記載されている、メタロセン系触媒、特にメタロセン・アルモキサン系触媒を用い、又は例えば、国際公開WO92/07123号公報等に記載されている、メタロセン化合物と該化合物と反応して安定なアニオンとなる化合物からなる触媒を用い、例えば、気相法、スラリー法、溶液法、高圧イオン重合法等の重合法によって製造することができる。
【0017】
中でも、本発明における前記エチレン・α-オレフィン共重合体は、モノ-、ジ-、又はトリ-シクロペンタジエニル環若しくは置換シクロペンタジエニル環を配位子とした、チタン、ジルコニウム、ニッケル、パラジウム、ハフニウム、又は白金等の4価の遷移金属化合物をメタロセン化合物とする触媒を用いて重合されたものであるのが好ましい。
更に好ましくは、特許3539801号等に記載されているような、特別な触媒種により製造されるエチレン・α-オレフィン共重合体、すなわち、下記物性(a-3)及び(a-4)を有するエチレン・α-オレフィン共重合体が好ましい。
(a-3)分子量分布(Mw/Mn)が1.8~3.5
(a-4)連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度-溶出量曲線のピークが複数個である。
かかる(a-3)及び(a-4)を満たす共重合体は、通常のチーグラー・ナッタ型触媒により得られる重合体よりも分子量分布が狭いことに加えて、典型的なメタロセン触媒による共重合体が通常1つのピークを有するのに対して、溶出温度-溶出量曲線のピークを複数個有することを特徴とする共重合体であり、そのエチレン・α-オレフィン共重合体の製造に用いる触媒及びその製造方法、並びに、分子量分布及びTREFの測定方法は特許3539801号等に記載のとおりである。
【0018】
本発明に用いる直鎖状低密度ポリエチレンは、市販品から適宜選択して使用することもできる。特に上記(a-1)~(a-4)の物性を満たす市販品としては、例えば、日本ポリエチレン社製の「ハーモレックス」(商標名)などを例示することができる。
【0019】
(2)環状オレフィン系樹脂
本発明の易引裂性フィルムの中間層で用いる環状オレフィン系樹脂(B)としては、例えば、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、環状共役ジエン重合体等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体が好ましい。また、ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体(以下、「COP」ともいう。)、ノルボルネン系単量体とエチレン等のα-オレフィンを共重合したノルボルネン系共重合体(以下、「COC」ともいう。)等が挙げられる。また、COP及びCOCの水素添加物も用いることができる。
【0020】
COCとしては、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1等のα-オレフィンなどの直鎖状モノマーとテトラシクロドデセン、ノルボルネンなどの環状モノマーとから得られた環状オレフィン共重合体が挙げられる。さらに具体的には上記直鎖状モノマーと炭素数が3~20のモノシクロアルケンやビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(ノルボルネン)及びこの誘導体、トリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.1.2,5.17,10]-3-ドデセン及びこの誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン及びこの誘導体、ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ペンタデセン及びこの誘導体、ペンタシクロ[8.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ヘキサデセン及びこの誘導体、ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘキサデセン及びこの誘導体、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]-4-ヘプタデセン及びこの誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5-エイコセン等およびこの誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.13,6.110,17.112,15.02,7.011,16]-4-エイコセン及びこの誘導体、ヘプタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.03,8.012,17]-5-ヘンエイコセン及びこの誘導体、オクタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.113,16.03,8.012,17]-5-ドコセン及びこの誘導体、ノナシクロ[10.9.1.14,7.113,20.115,18.02,10.03,8.012,21.014,19]-5-ペンタコセン及びこの誘導体等の環状オレフィンとの共重合体からなる環状オレフィン共重合体などが挙げられる。直鎖状モノマー及び環状モノマーは、それぞれ単独でも、2種類以上を併用することもできる。また、このような環状オレフィン共重合体は単独であるいは組み合わせて使用することができる。また、環状オレフィン系樹脂(B)に、前記COPとCOCを併用することもできる。その場合は、COPとCOCのそれぞれの異なった性能を付与することができる。
【0021】
本発明においては、ポリエチレンに対する分散性の観点から、環状オレフィン系樹脂(B)はCOCであることが好ましい。また、COCとしては、直鎖状モノマーがエチレンである、エチレン・環状オレフィン共重合体であることが好ましい。さらには、環状モノマーは、ノルボルネン等であることが好ましい。
【0022】
また、本発明においては、エチレン・環状オレフィン共重合体は、エチレン/環状オレフィンの含有割合が重量比で15~40/85~60のものであることが好ましい。より好ましくは30~40/70~60のものである。エチレンが15重量%未満であると、剛性が高くなりすぎ、インフレーション成形性および製袋適正を悪化させるため好ましくない。一方、エチレンが40重量%以上であると、十分な易引裂性、剛性が得られないため好ましくない。含有比率がこの範囲にあれば、フィルムの剛性、引き裂き性、加工安定性、衝撃強度が向上するため好ましい。
【0023】
さらにまた、エチレン・環状オレフィン共重合体は、ガラス転移点が60℃以上であることが好ましい。より好ましくは70℃以上のものである。環状オレフィンの含有量が上記範囲を下回ると、ガラス転移点が前記範囲を下回るようになり、例えば、芳香成分のバリアー性が低下するようになる、十分な剛性が得られない等の恐れがある。一方、環状オレフィンの含有量が上記範囲を上回ると、ガラス転移点が高くなりすぎ、共重合体の溶融成形性やオレフィン系樹脂との接着性が低下する恐れがあり好ましくない。また、環状オレフィン系樹脂(B)の重量平均分子量は、5,000~500,000が好ましく、より好ましくは7,000~300,000である。
【0024】
環状オレフィン系樹脂(B)として用いることができる市販品として、ノルボルネン
系モノマーの開環重合体(COP)としては、例えば、日本ゼオン株式会社製「ゼオノア(ZEONOR)」等が挙げられ、ノルボルネン系共重合体(COC)としては、例えば、三井化学株式会社製「アペル」、チコナ(TICONA)社製「トパス(TOPAS)」等が挙げられる。
【0025】
(3)高圧法低密度ポリエチレン(C)
本発明の中間層に用いる組成物を構成する高圧法低密度ポリエチレン(C)は、次の特性(c-1)~(c-2)を有する、高圧ラジカル重合法により得られる枝分かれ状の多数の分岐を有する低密度ポリエチレンである。
【0026】
(c-1)密度
成分(C)の密度は、0.910~0.940g/cmであり、好ましくは0.915~0.930g/cmであり、より好ましくは0.918~0.925g/cmである。密度が0.940g/cmを超えるとフィルムとしての耐ピンホール性に劣ることとなる。
ここで、密度は、JIS K7112-1999の「プラスチック-非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」のD法(密度こうばい管法)に準拠して測定する値である。
【0027】
(c-2)メルトフローレイト(MFR)
成分(C)のMFRは、0.5~20g/10分であり、好ましくは0.7~10g/10分であり、より好ましくは0.7~5g/10分である。MFRが0.5g/10分未満では、フィルムへ成形加工するとき、樹脂圧が上がる等して加工性が劣ることとなる。MFRが20g/10分超では、フィルムとしての機械的強度及びフィルム成形加工時のバブル安定性等の加工性が劣ることとなる。
ここで、MFRは、JIS K7210-1999の「プラスチック―熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に準拠して、試験条件:190℃、21.18N(2.16kg)荷重で測定する値である。
【0028】
なお、高圧法低密度ポリエチレンの形状は限定されるものでなく、ペレット状、粉末状いずれであってもよい。
【0029】
本発明に用いる高圧法低密度ポリエチレンは、市販品から適宜選択して使用することもできる。市販品としては、例えば、日本ポリエチレン社製の「ノバテックLD」(商標名)などを例示することができる。
【0030】
(4)その他の添加剤
本発明の各層を構成するエチレン系共重合体組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂やゴム、並びに、熱可塑性樹脂に通常用いられる各種の添加剤、例えば、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、造核剤、中和剤、滑剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、スリップ剤、防曇剤、分散剤、流動性改良剤、離型剤、接着性付与剤、難燃剤、着色剤、充填材等が添加されていてもよい。これらの成分は、各成分に含まれていても良いし、エチレン系共重合体組成物の製造時に配合しても良い。
【0031】
(5)フィルムの成形
フィルムの製造方法は、多層ダイを用いて押出機で溶融された樹脂をダイス先端で接合させ積層構造とする多層インフレーション成形法、多層Tダイ成形法等の共押出成形法の他に、多層ブロー成形法等の通常の成形法が適用され特に限定されない。
【0032】
(6)多層フィルムの構成
本願発明の易引裂性バックインボックス用フィルムは、少なくとも、最内層、最外層、及びその間に位置する中間層の3層以上で構成される。最内層及び最外層とは、フィルム表面に位置する層であり、該フィルムで袋等を構成する際に内側に位置する層を最内層、外側に位置する層を最外層という。多層構成においては、最内層と中間層、中間層と最外層の間に、バリア性又は接着性等を有する他の任意の層を設けてもよいが、好ましくはシンプルな構成の3層構成である。最内層、中間層、最外層の層比は特に限定されないが、多層フィルム全体を基準として、中間層が10~70%、好ましくは20~70%の厚さであることが好ましい。すなわち、最内層/中間層/最外層の3層フィルムの場合、2/1/2~1/4/1程度の層比をとることができる。中間層の厚さが薄すぎると、十分な易引裂性が得られず、厚すぎると、剛性が高くなりすぎ、成膜性及び製袋適性を悪化させやすい。多層フィルムの全体厚さは10~500μm、好ましくは30~300μmである。
本願発明においては、最内層と最外層が、同一の樹脂組成物で構成されていることが、フィルムの製造効率上も、カール等の問題を発生しない点でも好ましい。
【0033】
(7)最内層及び最外層
本願発明の最内層及び最外層は、(a-1)密度が0.900~0.930g/cm、(a-2)MFRが0.1~20g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A)を65~100重量%を含有することを特徴とし、易引裂性を維持しつつ耐ピンホール性に優れたフィルムを得る上で好ましい。特に、直鎖状低密度ポリエチレン(A)を70~100重量%含有すると好ましい。直鎖状低密度ポリエチレン(A)の好ましい特性は前記のとおりであり、層中には他の樹脂、例えば高圧ラジカル重合法高圧法低密度ポリエチレン(C)を35~0重量%含有することができる。
(8)中間層
本願発明の中間層は、環状オレフィン系樹脂(B)20~80重量%、(a-1)密度が0.900~0.930g/cm、MFRが0.1~20g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A)を15~80重量%、高圧法低密度ポリエチレン(C)を0~30重量%含有することを特徴とする。重量%は、中間層中の含有量を意味する。
この構成により、バックインボックス用フィルムに要求されるフィルムの柔軟性等を維持しつつ、易引裂性を付与することが可能となる。
特に好ましくは、環状オレフィン系樹脂(B)20~50重量%、(a-1)密度が0.900~0.930g/cm、MFRが0.1~20g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A)を20~80重量%、高圧法低密度ポリエチレン(C)を0~30重量%含有する。
特に好ましくは、直鎖状低密度ポリエチレン(A)として、(a-1)~(a-4)の物性を全て満たす特定の直鎖状低密度ポリエチレン(A1)と、その他の(a-1)及び(a-2)の物性を有する直鎖状低密度ポリエチレン(A2)とから、各々1種以上含有して用いる態様が、バックインボックス用フィルムとして要求されるフィルムの要求特性を満たすために好ましい。その場合、(a-1)~(a-4)の物性を全て満たす特定の直鎖状低密度ポリエチレン(A1)を中間層中、15~55重量%含有すると好ましい。
(9)引裂特性
本願発明のバックインボックス用フィルムは、好ましい特性として、特定のエレメンドルフ引裂強度を有することを特徴とする。すなわち、JIS K7128-2に準拠して測定したエルメンドルフ引裂強度が、縦方向及び横方向において、それぞれ30N/mm以下であることを特徴とする。更に好ましくは、25N/mm以下である。下限は特に限定されないが、好ましくは5N/mm以上、更には7N/mm以上である。
(10)耐ピンホール特性
本願発明のバックインボックス用フィルムは、好ましい特性として、ゲルボフレックステスターを用いて測定したピンホールの数が5個以下であることを特徴とする。具体的な測定方法等は実施例の欄に記載した方法が挙げられる。
(11)バックインボックス用フィルム
バックインボックスは、通常内容器と外装ダンボールケースとが組み合わされ、軽量かつ丈夫で、しかも使用後も分別廃棄がしやすいため、食品、薬品、飲料水、溶剤、インキ等の各種液体、特に業務用液体品の輸送容器として幅広く利用されている。
内容器は、主に成形タイプ(ブロー成形または真空成形)とフィルムタイプに分かれるが、本願発明の上記の層構成を有するフィルムをもって、バックインボックスの内袋に適した、バックインボックス用フィルムとすることが可能である。
【実施例
【0034】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して、さらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた試験・評価方法、材料は以下の通りである。
【0035】
1.試験、評価方法
(1)密度:JIS K7112-1999の「プラスチック-非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」のD法(密度こうばい管法)に準拠して測定した。
(2)MFR:JIS K7210-1999の「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に準拠して、試験条件:190℃、21.18N(2.16kg)荷重で測定した。
(3)エルメンドルフ引裂強度
JIS K7128-2に準拠して下記装置、条件にて測定した。MDは流れ方向(MD:Machine Direction)であり、TDは垂直方向(TD:Transverse Direction)の値である。
装置:デジタルエルメンドルフ引裂試験機 型式SA(株式会社東洋精機製作所製)
測定環境:温度23℃、湿度50%
易引裂性については、次の基準で判断した。
○:引裂強度が30N/mm未満
×:引裂強度が30N/mm以上
(4)ゲルボフレックス
得られたフィルムを成形時の流れ方向に幅200mm、長さ300mm切り取ってこれを試験片とし、4枚用意した。試験片をテスター産業(株)製ゲルボフレックステスターに取り付け2000ストローク負荷後、試験片を白色のろ紙上で試薬(塩基性染料1%と界面活性剤1%を含む着色界面活性剤水溶液)を筆により塗付し、ろ紙への試薬の透過の有無により汚染箇所数を調べ、4枚の平均を算出した。耐ピンホール性については、次の基準で判断した。
○:汚染点が5個未満
×:汚染点が5個以上
【0036】
2.材料
(1)成分(A)
(i)a-1:密度が0.919g/cm、MFRが1.6g/10分、Mw/Mnが3.19、連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度-溶出量曲線のピークが2個である線状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製「ハーモレックス NF366A」)
(ii)a-2:密度が0.906g/cm、MFRが1.0g/10分、Mw/Mnが3.03、連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度-溶出量曲線のピークが2個である線状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製「ハーモレックス NF324A」)
(iii)LL:チーグラー・ナッター触媒により重合された、密度が0.922g/cm、MFRが0.9g/10分の線状低密度ポリエチレン
(2)成分(B)
環状オレフィン系樹脂:COC
商品名TOPAS「7010F」を使用。
ノルボルネン含有量 42mol%
(3)成分(C)
(i)c-1:密度が0.924g/cm、MFRが0.7g/10分である高圧法低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製「ノバテックLD LF240」
(4)AB剤(アンチブロッキング剤)
日本ポリエチレン社製「ハーモレックス MBN560B」
【0037】
(実施例1)
表1の配合に従い多層インフレーション成形機(ダイ径;200mmφ、ダイリップ;3mm、ダイス温度;180℃)を用い、3層の合計厚み90μmのチューブ状フィルムを成形した。最内層:中間層:最外層の厚みは30μm:30μm:30μmであった。得られたフィルムにおいてエルメンドルフ引裂強度、耐ピンホール性を評価した。その結果を表3に示す。
【0038】
(実施例2)
表1の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表3に示す。
【0039】
(実施例3)
表1の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表3に示す。
【0040】
(実施例4)
表1の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表3に示す。
【0041】
(比較例1)
表1の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表3に示す。
【0042】
(比較例2)
表2の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表4に示す。
【0043】
(比較例3)
表2の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表4に示す。
【0044】
(比較例4)
表2の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表4に示す。
【0045】
(比較例5)
表2の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表4に示す。
【0046】
(比較例6)
表2の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表4に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
表3及び表4で得られた実施例及び比較例の結果の、エルメンドルフ引裂強度(MD)と、ゲルボフレックスで得られたピンホール数を対比したグラフを図1として示す。(実施例の値は◆、比較例の値は×)
表3及び表4及び図1より、実施例1~4は、比較例3~5と比較して易引裂性に優れ、比較例1、2、6と比較して耐ピンホール性に優れることがわかる。
したがって、本発明の易引裂性バックインボックス用フィルムは、手で容易に引き裂くことのできる易引裂性と、耐ピンホール性の両方を備えており、大きな技術的意義を持つことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のエチレン系共重合体組成物からなる易引裂性バックインボックス用フィルムは、柔軟性に優れると共に、易引裂性(易開封性)、耐ピンホール性に優れるので飲料物、調味料や油といった液体内容物の包装袋として、好適に用いられる。
図1