(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】ロボット制御装置
(51)【国際特許分類】
B25J 9/10 20060101AFI20240227BHJP
【FI】
B25J9/10 A
(21)【出願番号】P 2019183611
(22)【出願日】2019-10-04
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄矢
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-59382(JP,A)
【文献】特開2002-91572(JP,A)
【文献】特開2017-119342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の軸を有するロボットを制御するロボット制御装置であって、
前記軸を支持する機械要素における許容モーメントと、速度によって該機械要素に発生する速度モーメントと、重力によって該機械要素に発生する重力モーメントとに基づいて、前記軸が所定の速度で動作する区間である該軸の動作区間における速度低下係数
であって、前記機械要素に加わるモーメントを前記許容モーメント以下にする速度低下係数を算出する速度低下係数算出部と、
前記軸の前記動作区間における最小の前記速度低下係数と、前記軸の駆動源における許容トルクに基づく速度とに基づいて、
前記許容モーメントを満たす前記所定の速度を算出する速度算出部と、を備える、
ロボット制御装置。
【請求項2】
前記最小の速度低下係数は、前記動作区間の複数の位置のそれぞれにおいて算出された複数の前記速度低下係数のうちの最小のものである、
請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項3】
前記速度低下係数算出部は、前記軸の機械要素における前記許容モーメントと、前記複数の軸の速度によって該機械要素に発生する速度モーメントと、前記複数の軸の位置によって該機械要素に発生する重力モーメントとに基づいて、前記速度低下係数を算出する、
請求項1又は2に記載のロボット制御装置。
【請求項4】
前記速度算出部は、前記許容トルクに基づく速度に、前記最小の前記速度低下係数の平方根を乗じて前記所定の速度を算出する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のロボット制御装置。
【請求項5】
前記軸は、前記動作区間にわたって前記所定の速度で動作する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のロボット制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の関節を有するロボットシステムの制御方法であって、開始位置及び目標位置と速度予測値とロボットダイナミクスベースパラメータに基づいて、慣性行列と粘性行列と重力行列とを含む開始位置及び目標位置におけるロボットダイナミクスモデルを計算し、計算されたロボットダイナミクスモデルに基づいて、加速度予測値の各関節間の比例関係と各関節の許容ピークトルクの条件を満足する最適な加速度及び減速度を演算した後、すべての関節で動作時間を一致させる同期処理を実行するものが知られている(特許文献1参照)。この制御方法では、ロボットシステムの各関節の許容ピークトルク(許容値)を越えず、かつ、最短時間で動作が終了できる最適な各関節の加減速度を求めることができ、動作時間を短縮できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の制御対象である複数の軸を有するロボットでは、他の軸の動作の影響によって、動作中の軸のベアリング等の機械要素にモーメントが加わることがある。
【0005】
この場合、特許文献1の方法では、各軸のトルクが許容値を越えないように制御されているが、他の軸の動作によってベアリングに発生するモーメントを考慮していなかった。そのため、例えば複数の軸を同時に高速動作させた場合に、ベアリングに加わるモーメントが許容値(以下、「許容モーメント」という)を超え、ベアリングの故障や寿命短縮といった問題が発生するおそれがあった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、各軸の機械要素の故障及び寿命短縮を防ぐことのできるロボット制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るロボット制御装置は、複数の軸を有するロボットを制御するロボット制御装置であって、軸を支持する機械要素における許容モーメントと、速度によって該機械要素に発生する速度モーメントと、重力によって該機械要素に発生する重力モーメントとに基づいて、速度低下係数を算出する速度低下係数算出部と、軸の動作区間における最小の速度低下係数に基づいて、該軸の動作区間における速度を算出する速度算出部と、を備える。
【0008】
この態様によれば、軸の動作区間における最小の速度低下係数に基づいて、当該軸の動作区間における速度が算出される。これにより、速度によって発生する速度モーメントを低下させ、機械要素に加わるモーメントを当該機械要素の許容モーメント以下にすることができる。従って、ロボットにおける各軸の機械要素の故障及び寿命短縮を防ぐことができる。
【0009】
上記した態様において、最小の速度低下係数は、動作区間の複数の位置のそれぞれにおいて算出された複数の速度低下係数のうちの最小のものであってもよい。
【0010】
この態様によれば、最小の速度変化係数が、動作区間の複数の位置のそれぞれにおいて算出された複数の速度低下係数のうちの最小のものである。これにより、例えば、動作区間において機械要素に加わるモーメントが急激に変化する場合でも、当該機械要素の許容モーメント以下にすることができる。
【0011】
上記した態様において、速度低下係数算出部は、軸の機械要素における許容モーメントと、複数の軸の速度によって該機械要素に発生する速度モーメントと、複数の軸の位置によって該機械要素に発生する重力モーメントとに基づいて、速度低下係数を算出してもよい。
【0012】
この態様によれば、軸の機械要素における許容モーメントと、全ての軸の速度によって当該軸のベアリングに発生する速度モーメントと、全ての軸の位置によって発生する重力モーメントとに基づいて、速度低下係数が算出される。これにより、軸ごとに速度低下係数を算出する場合と比較して、簡易に最小の速度低下係数を求めることができる。
【0013】
上記した態様において、速度算出部は、軸の駆動源における許容トルクに基づく速度に、最小の速度低下係数の平方根を乗じて該軸の動作区間における速度を算出してもよい。
【0014】
この態様によれば、軸の駆動源における許容トルクに基づく速度に、最小の速度低下係数の平方根を乗じて当該軸の動作区間における速度が算出される。これにより、当該軸の機械要素の許容モーメントを満たす速度を容易に求めることができる。
【0015】
上記した態様において、軸は、動作区間にわたって算出された速度で動作してもよい。
【0016】
この態様によれば、軸が、動作区間にわたって算出された速度で動作する。これにより、加速度モーメントを考慮する必要がなくなり、速度低下係数を簡易に算出することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、各軸の機械要素の故障及び寿命短縮を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、一実施形態におけるロボット制御システムの構成を概略的に示す構成図である。
【
図2】
図2は、一実施形態におけるロボット制御装置の構成を概略的に示す構成図である。
【
図3】
図3は、従来の方法に従う仮想的なロボット制御装置によって制御されるロボットの軸の速度及びモーメントの一例を示すグラフである。
【
図4】
図4は、
図3に示された平行二線ユニットを一部分解して示す平面図である。
【
図5】
図5は、一実施形態におけるロボット制御装置によって制御されるロボットの軸のベアリングに加わるモーメントの一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、一実施形態におけるロボット制御装置が等速区間の速度指令を生成する概略動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法などは以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。さらに、本発明の技術的範囲は、当該実施形態に限定して解するべきではない。
【0020】
まず、
図1及び
図2を参照しつつ、本発明の一実施形態に従うロボット制御システムの構成について説明する。
図1は、一実施形態におけるロボット制御システム100の構成を概略的に示す構成図である。
図2は、第1実施形態におけるロボット制御装置50の構成を概略的に示す構成図である。
【0021】
図1に示すように、ロボット制御システム100は、複数の軸を有する多関節ロボット(以下、単に「ロボット」という)Rと、ロボット制御装置50と、を備える。
【0022】
ロボットRは、例えば、7軸の垂直多関節型マニピュレータと呼ばれる産業用ロボットである。ロボットRは、各軸が関節のように回動自在に駆動される、アーム形状を有している。具体的には、ロボットRの基台C1の上部に、第1回転軸J1を中心として旋回可能に旋回台C2が設けられている。旋回台C2の上部に、第2回転軸J2を中心として旋回可能に第1アームC3が設けられている。第1アームC3の先端部に、第2回転軸J2と直交する第3回転軸J3を中心として旋回可能に第2アームC4が設けられている。第2アームC4の先端部に、第3回転軸J3と直交する第4回転軸J4を中心として旋回可能に第3アームC5が設けられている。第3アームC5の先端部に、第5回転軸J5を中心として旋回可能に第4アームC6が設けられている。第4アームC6の先端部に、第5回転軸J5と直交する第6回転軸J6を中心として旋回可能に第5アームC7が設けられている。第5アームC7の先端に、第6回転軸J6と直交する第7回転軸J7を中心として旋回可能にツール固定部材C8が設けられている。ツール固定部材C8には、作業ツールとして溶接トーチC9が固定されており、この溶接トーチC9はツール固定部材C8と一体的に旋回する。なお、以下の説明では、第1回転軸J1から第7回転軸J7を単に「軸」ということもある。
【0023】
図2に示すように、ロボットRには、旋回台C2を旋回させるための駆動源としてサーボモータ10が内蔵されている。サーボモータ10の出力軸10aは、減速機11に連結されている。第1回転軸J1は、ベルト11bによって減速機11の出力軸11aに連動するように構成されており、
旋回台C2に固定されている。また、第1回転軸J1は、機械要素、例えばベアリング15に支持されている。よって、サーボモータ10の出力軸10aが回転すると、減速機11において所定の減速比で減速されて減速機11の出力軸11aが回転するとともに、第1回転軸J1も回転する。そして、第1回転軸J1の回転に応じて旋回台C2が旋回する。
【0024】
また、ロボットRには、サーボモータ10の出力軸10aの回転角度を検出するためのモータエンコーダ12が内蔵されている。モータエンコーダ12は、例えば、インクリメントエンコーダであり、サーボモータ10の出力軸10aの回転角度に応じたパルス数のパルス信号を出力する。同様に、ロボットRには、減速機11の出力軸11aの回転角度を検出するための減速機エンコーダ13が内蔵されている。減速機エンコーダ 13は、例えば、インクリメントエンコーダであり、減速機11の出力軸11aの回転角度に応じたパルス数のパルス信号を出力する。
【0025】
さらに、ロボットRには、第1アームC3から第5アームC7、及びツール固定部材C8のそれぞれに対応して、サーボモータ、減速機、ベアリング、回転軸、モータエンコーダ、及び減速機エンコーダが設けられている。これらの構成は、旋回台C2のための、上述したサーボモータ10、減速機11、ベアリング15、第1回転軸J1、モータエンコーダ12、及び減速機エンコーダ13と同様であるため、図示及びその説明を省略する。
【0026】
本実施形態において、旋回台C2、第1アームC3から第5アームC7、及びツール固定部材C8は、いずれも軸の回転に応じて駆動する可動部材に相当する。また、以下の説明では、これらの旋回台C2、第1アームC3から第5アームC7、及びツール固定部材C8を「可動部材」ということもある。
【0027】
ロボットRの基台C1には、
図1において破線で示す通信ケーブルを介して、ロボット制御装置50が接続されている。
【0028】
ロボット制御装置50は、ロボットRの動作を制御するためのものである。
図2に示すように、ロボット制御装置50は、入力インターフェース51と、記憶部60と、サーボ制御部70と、主制御部80と、を備える。また、ロボット制御装置50は、ロボット制御装置50の各部の間で信号やデータを伝送するように構成されたバス52をさらに備える。
【0029】
入力インターフェース51は、ロボット制御装置50の外部の機器からの入力インターフェースである。入力インターフェース51は、外部の機器との間でデータや信号を受け取るように構成されている。入力インターフェース51は、ロボットRのモータエンコーダ12及び減速機エンコーダ13に接続されている。
【0030】
記憶部60は、プログラムやデータ等を記憶するように構成されている。記憶部60は、例えば、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等を含んで構成される。記憶部60は、主制御部80が実行する各種プログラムやプログラムの実行に必要なデータ等をあらかじめ記憶している。
【0031】
また、記憶部60は、各可動部材C2~C8の旋回動作を制御するためのアーム制御シークエンスが記憶されている。例えば、第1アームC3を旋回動作させる場合には、主制御部80は、このアーム制御シークエンスに従って各種の演算を行い、サーボモータ10の出力軸10aを目標回転角度に回転させるための速度指令Snを生成する。このアーム制御シークエンスは、後述する速度指令生成部85によって生成される。
【0032】
サーボ制御部70は、ロボットRに内蔵されている各サーボモータに電力を供給するように構成されている。例えば、サーボモータ10を制御する場合、サーボ制御部70は、主制御部80から入力される速度指令S1に応じて、パルス周波数及びパルス幅等を調整したモータ制御電圧Vxを、サーボモータ10に出力する。他のサーボモータに対しても同様に、サーボ制御部70は、速度指令Snに応じて調整したモータ制御電圧Vxを出力する。
【0033】
主制御部80は、各可動部材C2~C8の旋回動作を制御するように構成されている。また、主制御部80は、記憶部60に記憶されたプログラムを実行する等によって、後述する各機能を実現するように構成されている。主制御部80は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリ、及びバッファ等の緩衝記憶装置を含んで構成される。
【0034】
また、主制御部80は、その機能構成として、例えば、速度低下係数算出部81と、速度算出部82と、速度指令生成部85と、を備える。
【0035】
速度低下係数算出部81は、軸J1~J7を支持する機械要素、例えばベアリングにおける許容モーメントと、速度によって当該ベアリングに発生する速度モーメントと、重力によって当該ベアリングに発生する重力モーメントとに基づいて、速度低下係数αvを算出するように構成されている。
【0036】
速度低下係数αvは、例えば、以下の方法で算出される。各可動部材C2~C8の軸J1~J7を支持するベアリングに加わるモーメントは、以下の3つに分類される。
加速度モーメントMa:加速度によって発生するモーメント
速度モーメントMv:速度によって発生するモーメント
重力モーメントMg:重力によって発生するモーメント
【0037】
本発明の発明者は、これらのモーメントのうち、速度モーメントMvを低下させ、機械要素に加わるモーメントを許容モーメント以下にすることに想到した。また、本発明の発明者は、速度モーメントMvを低下させるための速度低下係数αvに基づいて、機械要素の許容モーメントを満たす速度を算出することができることを見出した。
【0038】
なお、以下の説明では、各可動部材C2~C8の各軸J1~J7を支持する機械要素の例として、
図1に示したベアリング15を用
い、各可動部材C2~C8の各軸J1~J7における駆動源の例として、
図1に示したサーボモータ10及び減速機11を用いる。
【0039】
加速度モーメントMa、速度モーメントMv、重力モーメントMgのそれぞれは、一般に、異なる向きのベクトルであるが、簡略化のために同一の向きのベクトルであるとすると、ベアリング15に加わる全モーメントMallは、以下の式(1)で表される。
Mall=Ma+Mv+Mg …(1)
【0040】
ベアリング15に加わるモーメントがベアリング15の許容モーメントMsを満たすためには、全モーメントMallが許容モーメントMs以下である必要がある。よって、以下の式(2)が成立する。
Mall≦Ms …(2)
【0041】
式(2)は、上記した式(1)を用いて以下の式(3)に変形することができる。
Ma+Mv≦Ms-Mg …(3)
【0042】
ここで、加速度低下係数αa、速度低下係数αvを用いると、式(3)は以下の式(4)で表される。
αa・Ma+αv・Mv≦Ms-Mg …(4)
【0043】
また、速度低下係数αvを求める区間の動作が等速、つまり、加速度ゼロである場合に、加速度モーメントMaはゼロである。この結果、等速動作の区間において、上記した式(1)は簡略化した以下の式(5)で表される。
Mall=Mv+Mg …(5)
【0044】
よって、式(4)及び式(5)から、等速動作の区間における速度低下係数αvは、以下の式(6)で求めることができる。
αv=(Ms-Mg)/Mv …(6)
【0045】
式(6)中、重力モーメントMgは、各軸J1~J7の位置、具体的には、各軸J1~J7の回転角度θの関数である。速度モーメントMvは、各軸J1~J7の速度の二乗に比例する値である。また、ベアリング15は軸ごとに要求される仕様が異なるため、許容モーメントMsは、一般に、ベアリング15ごとに異なる値である。
【0046】
速度低下係数算出部81は、式(6)において、ある軸のベアリング15における許容モーメントMsと、7軸全ての速度によって当該軸のベアリング15に発生する速度モーメントMvと、7軸全ての位置、つまり、回転角度θ1~θ7によって発生する重力モーメントMgと、を用いて速度低下係数αvを算出することが好ましい。これにより、軸J1~J7ごとに速度低下係数αvを算出する場合と比較して、簡易に最小の速度低下係数αvを求めることができる。
【0047】
速度算出部82は、軸J1~J7の動作区間における最小の速度低下係数αvに基づいて、当該軸J1~J7の動作区間における速度を算出するように構成されている。
【0048】
より詳細には、速度算出部82は、軸J1~J7の駆動源、例えば、サーボモータ10及び減速機11における許容トルクに基づく速度に、最小の速度低下係数αvの平方根を乗じて当該軸J1~J7の動作区間における速度を算出するように構成されている。
【0049】
ここで、速度モーメントMvは、速度の2乗に比例することが知られている。言い換えれば、速度モーメントMvの平方根は速度に比例する。一方、上記したように、速度モーメントMvは、速度低下係数αvに比例する。よって、ベアリング15の許容モーメントを満たす速度Vnewは、速度低下係数αvと、サーボモータ10及び減速機11の許容トルクを満たす(最大)速度Voldとを用いて、以下の式(7)で表される。
Vnew=αv1/2・Vold …(7)
【0050】
本実施形態では、速度算出部82は、式(7)における速度低下係数αvとして、ある動作区間における最小のものを用いる。
【0051】
このように、軸J1~J7の動作区間における最小の速度低下係数αvに基づいて、当該軸の動作区間における速度を算出することにより、速度によって発生する速度モーメントMvを低下させ、ベアリング15に加わるモーメントを当該ベアリングの許容モーメントMs以下にすることができる。従って、ロボットRにおける各軸J1~J7のベアリング15の故障及び寿命短縮を防ぐことができる。
【0052】
また、軸J1~J7のサーボモータ10及び減速機11における許容トルクに基づく速度に、最小の速度低下係数αvの平方根を乗じて当該軸J1~J7の動作区間における速度Vnewを算出することにより、上記した式(7)からベアリング15の許容モーメントを満たす速度Vnewを容易に求めることができる。
【0053】
なお、各軸J1~J7は、動作区間にわたり、算出された速度Vnewで動作することが好ましい。これにより、上記式(5)及び式(6)において説明したように、加速度モーメントMaを考慮する必要がなくなり、速度低下係数αvを簡易に算出することができる。
【0054】
速度指令生成部85は、算出された軸J1~J7の速度Vnewに基づいて、速度指令Sn(nは1から7の整数)を生成するように構成されている。速度指令Snは、軸J1~J7ごと、つまり、可動部材C2~C8ごとに生成され、それぞれのサーボモータに出力される。
【0055】
主制御部80の各機能は、コンピュータ(マイクロプロセッサ)で実行されるプログラムによって実現することが可能である。したがって、主制御部80が備える各機能は、ハードウェア、ソフトウェア、若しくはハードウェア及びソフトウェアの組み合わせによって実現可能であり、いずれかの場合に限定されるものではない。
【0056】
また、主制御部80の各機能が、ソフトウェア、若しくはハードウェア及びソフトウェアの組み合わせによって実現される場合、その処理は、マルチタスク、マルチスレッド、若しくはマルチタスク及びマルチスレッドの両方で実行可能であり、いずれかの場合に限定されるものではない。
【0057】
次に、
図3を参照しつつ、従来の方法に従う仮想的なロボット制御装置50’が生成する速度指令について説明する。なお、ロボット制御装置50’の構成は、上記したロボット制御装置50と略同一であるため、図示及びその説明を省略する。
図3は、従来の方法に従う仮想的なロボット制御装置50’によって制御されるロボットRの軸J1~J7の速度及びモーメントの一例を示すグラフである。
図3において、横軸は時間であり、左端の縦軸は速度、右端の縦軸はモーメントである。また、
図3において、実線は第1回転軸J1の速度を、点線は第4回転軸J4のベアリング15に加わるモーメントを、破線は第4回転軸J4のベアリング15の許容モーメントMsを、それぞれ表している。
【0058】
図3に示すように、ロボット制御装置50’は、動作区間T1’において第1回転軸J1の速度の同一、つまり、等速になるように、ロボットRの動作を制御する。ロボット制御装置50’は、サーボモータ10及び減速機11の許容トルクを満たす最大速度Voldを算出し、動作区間T1’における第1回転軸J1の速度として速度指令S1’を生成する。
【0059】
しかしながら、ロボットRの複数の軸J1~J7を同時に高速動作させた場合等に、他の軸の動作によって、当該軸にベアリング15の許容モーメントを超えることがある。例えば、
図3に示すように、第1回転軸J1の動作区間T1’において、第4回転軸J4のベアリング15に加わるモーメントは、区間Tb’及び区間Td’の2カ所で、当該ベアリング15の許容モーメントMsを超えている。
【0060】
次に、
図4及び
図5を参照しつつ、第1実施形態に従うロボット制御装置50が生成する速度指令について説明する。
図4は、第1実施形態におけるロボット制御装置50によって制御されるロボットRの軸J1~J7の速度の一例を示すグラフである。
図5は、第1実施形態におけるロボット制御装置50によって制御されるロボットRの軸のベアリング15に加わるモーメントの一例を示すグラフである。
図4において、横軸は時間であり、縦軸は速度である。
図5において、横軸は時間であり、縦軸はモーメントである。また、
図4において、実線は第1回転軸J1の速度を表し、参考のために、ロボット制御装置50’が制御する第1回転軸J1の速度を点線で表している。
図5において、実線は第4回転軸J4のベアリング15に加わるモーメントを、破線は第4回転軸J4のベアリング15の許容モーメントを、それぞれ表し、参考のために、ロボット制御装置50’が制御する第4回転軸J4のベアリングに加わるモーメントを点線で表している。
【0061】
図4に示すように、動作区間における最小の速度変化係数αvに基づいて算出された第1回転軸J1の速度Vnewは、1.5[rad/s]程度に低下する。その結果、動作区間T1は、
図3に示した動作区間T1’よりも長くなる。
【0062】
一方、
図5に示すように、第1回転軸J1の速度Vnewを低下させたことにより、ベアリング15に加わるモーメントは、許容モーメントMsである2000[Nm]以下になる。
【0063】
速度Vnewを算出する際の最小の速度変化係数αvは、例えば、動作区間T1の複数の位置(時点)のそれぞれにおいて計算された複数の速度低下係数αvのうちの最小のものであることが好ましい。これにより、例えば、
図5において破線で示すように、動作区間T1においてベアリング15に加わるモーメントが急激に変化する場合でも、
図5において実線で示すように、当該ベアリング15の許容モーメントMs以下にすることができる。
【0064】
なお、
図4及び
図5では、最小の速度変化係数αvに基づいて、第1回転軸J1の速度Vnewを算出する例を示したが、これに限定されるものではない。第1回転軸J1は、代表例であり、他の軸J2~J7についても、それぞれ、最小の速度変化係数αvに基づいて、速度Vnewを算出してもよい。
【0065】
また、
図3から
図5では、ロボットRの複数の軸を同時に高速動作させた結果、第4回転軸J4のベアリング15に加わるモーメントが許容モーメントMsを超える例を示したが、これに限定されるものではない。第4回転軸J4以外の軸J1、J2、J3、J5、J6、J7において、ベアリング15に加わるモーメントが許容モーメントMsを超える場合もあり得るし、7つの軸J1~J7のうちの2以上の軸において、ベアリングに加わるモーメントが許容モーメントMsを超える場合もあり得る。
【0066】
次に、
図6を参照しつつ、一実施形態に従うロボット制御装置50の動作について説明する。
図6は、一実施形態におけるロボット制御装置50が等速区間の速度指令を生成する概略動作を示すフローチャートである。
【0067】
例えば、
図4に示した加速度区間T+αの速度指令が生成された後、主制御部80は、
図6に示す等速区間速度指令処理S200を実行する。
【0068】
最初に、速度低下係数算出部81は、例えば
図4に示した動作区間T1における複数の位置のそれぞれにおいて、速度低下係数αv1、αv2、…、αvm(mは2以上の整数)を算出する(S201)。
【0069】
次に、速度指令生成部85は、速度指令Sの添字nに初期値、例えば「1」を設定する(S202)。
【0070】
次に、速度算出部82は、ステップS201で算出した複数の速度低下係数αvmのうちの最小のものに基づいて、軸J1~J7の動作区間T1における速度Vnewを算出する(S203)。なお、速度Vnewが算出される軸は、速度指令Sの添字nに対応している。
【0071】
次に、速度指令生成部85は、ステップS203で算出された速度Vnewに基づいて、速度指令Snを生成する(S204)。
【0072】
次に、速度指令生成部85は、添字nに例えば「1」を加算して更新する(S205)。
【0073】
次に、速度指令生成部85は、添字nが最大値以下、本実施形態では「7」以下であるか否かを判定する(S206)。
【0074】
ステップS206の判定の結果、添字nが「7」以下である場合、速度算出部82及び速度指令生成部85は、添字nが「7」より大きくなるまで、ステップS203からステップS206を繰り返す。
【0075】
ステップS206の判定の結果、添字nが「7」以下でない、つまり、添字nが「7」より大きい場合、主制御部80は、等速区間速度指令処理S200を終了する。
【0076】
このようにして、各軸J1~J7において、最小の速度低下係数αvmに基づいて、当該軸の動作区間T1における速度Vnewが算出され、速度指令Snが生成される。
【0077】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明した。一実施形態に従うロボット制御装置50によれば、軸J1~J7の動作区間における最小の速度低下係数αvに基づいて、当該軸J1~J7の動作区間における速度が算出される。これにより、速度によって発生する速度モーメントMvを低下させ、ベアリング15に加わるモーメントを当該ベアリング15の許容モーメントMs以下にすることができる。従って、ロボットRにおける各軸J1~J7のベアリング15の故障及び寿命短縮を防ぐことができる。
【0078】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。即ち、各実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもなく、これらも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0079】
10…サーボモータ、10a…出力軸、11…減速機、11a…出力軸、11b…ベルト、12…モータエンコーダ、13…減速機エンコーダ、15…ベアリング、50,50’…ロボット制御装置、51…入力インターフェース、52…バス、60…記憶部、70…サーボ制御部、80…主制御部、81…速度低下係数算出部、82…速度算出部、85…速度指令生成部、100…ロボット制御システム、C1…基台、C2…旋回台、C3…第1アーム、C4…第2アーム、C5…第3アーム、C6…第4アーム、C7…第5アーム、C8…ツール固定部材、C9…溶接トーチ、J1…第1回転軸、J2…第2回転軸、J3…第3回転軸、J4…第4回転軸、J5…第5回転軸、J6…第6回転軸、J7…第7回転軸、R…ロボット、Sn…速度指令、S200…等速区間速度指令処理。