(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】撮像装置、振れ補正装置および振れ補正方法
(51)【国際特許分類】
G03B 5/00 20210101AFI20240227BHJP
H04N 23/68 20230101ALI20240227BHJP
H04N 23/54 20230101ALI20240227BHJP
H04N 23/55 20230101ALI20240227BHJP
【FI】
G03B5/00 J
H04N23/68
H04N23/54
H04N23/55
(21)【出願番号】P 2019186012
(22)【出願日】2019-10-09
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 潤一
(72)【発明者】
【氏名】鷲巣 晃一
【審査官】東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-206656(JP,A)
【文献】特開2003-107553(JP,A)
【文献】特開2017-181717(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110166697(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0176015(US,A1)
【文献】特開2015-194711(JP,A)
【文献】特許第6508402(JP,B1)
【文献】特開2017-212681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 5/00
H04N 23/68
H04N 23/54
H04N 23/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置の振れを検出する検出手段が出力する平行振れの成分を含む振れ検出信号に基づいて、振れ補正信号を算出する演算手段と、
前記振れ補正信号に基づいて、振れを補正する補正手段と、
前記演算手段の
位相特性を露光中の時間の経過に応じて変更する特性変更手段と、を備え、
前記演算手段は、前記振れ検出信号を積分する積分フィルタを含み、
前記特性変更手段は、前記平行振れの成分に対応する周波数の前記積分フィルタの出力信号の位相を遅らせる度合いを、露光開始からの経過時間が
露光初期の期間に対応する第1の時間のときは前記経過時間が前記第1の時間よりも長い第2の時間のときよりも強くするように前記演算手段の
位相特性を変更することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記演算手段は、複数の周波数折れ点を有するフィルタを備える位相補償手段を有し、
前記特性変更手段は、露光中の時間の経過に応じて、前記複数の周波数折れ点を近づけることで前記演算手段の特性を変更することを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記位相補償手段は、ローパスフィルタと微分フィルタを有することを特徴とする請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記演算手段は、前記振れ検出信号から所定の周波数成分を抽出するバンドパスフィルタを有し、
前記特性変更手段は、露光中の時間の経過に応じて、前記バンドパスフィルタの抽出周波数を低周波から高周波に変更することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記演算手段は、複数の位相補償手段と複数のバンドパスフィルタを有し、
前記特性変更手段は、露光中の時間の経過に応じて、第1の位相補償手段から前記第1の位相補償手段よりも前記平行振れの成分に対応する周波数の前記積分フィルタの出力信号の位相を遅らせる度合いが弱い第2の位相補償手段に切り替え、低周波を抽出するバンドパスフィルタから高周波を抽出するバンドパスフィルタに切り替えることを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記振れ補正信号は、前記平行振れの成分に対応する平行振れ信号と角度振れの成分に対応する角度振れ信号であり、
前記補正手段は、前記平行振れ信号に基づく振れ補正を露光中のみ行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記補正手段は、第1の振れ補正手段と第2の振れ補正手段を備え、
前記補正手段は、前記角度振れ信号に基づく振れ補正を前記第1の振れ補正手段で行い、前記平行振れ信号に基づく振れ補正を前記第2の振れ補正手段で行うことを特徴とする請求項6に記載の撮像装置。
【請求項8】
振れを検出する検出手段が出力する平行振れの成分を含む振れ検出信号に基づいて、振れ補正信号を算出する演算手段と、
前記演算手段の
位相特性を露光中の時間の経過に応じて変更する特性変更手段と、を備え、
前記演算手段は、前記振れ検出信号を積分する積分フィルタを含み、
前記特性変更手段は、前記平行振れの成分に対応する周波数の前記積分フィルタの出力信号の位相を遅らせる度合いを、露光開始からの経過時間が
露光初期の期間に対応する第1の時間のときは前記経過時間が前記第1の時間よりも長い第2の時間のときよりも強くするように前記演算手段の
位相特性を変更することを特徴とする振れ補正装置。
【請求項9】
振れ補正方法であって、
撮像装置の振れを検出し振れ検出信号を出力する検出工程と、
前記検出工程において出力された平行振れの成分を含む振れ検出信号を積分フィルタで積分した出力信号に基づいて、振れ補正信号を算出する演算工程と、
前記平行振れの成分に対応する周波数の前記積分フィルタの出力信号の位相を遅らせる度合いを、露光開始からの経過時間が
露光初期の期間に対応する第1の時間のときは前記経過時間が前記第1の時間よりも長い第2の時間のときよりも強くするように前記演算工程での
位相特性を変更する特性変更手段と、
前記振れ補正信号に基づいて、振れを補正する補正工程と、を有することを特徴とする振れ補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置、振れ補正装置および振れ補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
像ブレには、平行振れや角度振れ等様々な振れ成分が含まれている。特許文献1は、撮像装置に搭載される平行振れ補正に関する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、シャッタを押下する等の撮影操作に伴う低周波で大きな平行振れの補正には対応できていない。
【0005】
本発明は、撮影操作に伴う低周波で大きな平行振れも高精度に補正することができる撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の撮像装置は、撮像装置の振れを検出する検出手段が出力する平行振れの成分を含む振れ検出信号に基づいて、振れ補正信号を算出する演算手段と、前記振れ補正信号に基づいて、振れを補正する補正手段と、前記演算手段の位相特性を露光中の時間の経過に応じて変更する特性変更手段と、を備え、前記演算手段は、前記振れ検出信号を積分する積分フィルタを含み、前記特性変更手段は、前記平行振れの成分に対応する周波数の前記積分フィルタの出力信号の位相を遅らせる度合いを、露光開始からの経過時間が露光初期の期間に対応する第1の時間のときは前記経過時間が前記第1の時間よりも長い第2の時間のときよりも強くするように前記演算手段の位相特性を変更する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、撮影操作に伴う低周波で大きな平行振れも高精度に補正することができる撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態における撮像装置の構成を説明する図である。
【
図2】像ブレ補正システムの抑振率を示すボード線図である。
【
図3】第1積分手段の利得特性ボード線図および位相特性ボード線図である。
【
図4】第1積分手段の積分動作を示す波形を説明する図である。
【
図5】ローパスフィルタおよび微分フィルタの利得特性ボード線図および位相特性ボード線図である。
【
図6】位相補償フィルタの利得特性ボード線図および位相特性ボード線図である。
【
図7】第1積分手段と位相補償手段を合わせた位相特性ボード線図である。
【
図8】位相補償手段の特性の変更について説明する図である。
【
図9】第1実施形態における駆動配分手段を説明する図である。
【
図10】第1実施形態における像振れ補正を説明する図である。
【
図11】第1実施形態における像振れ補正処理を示すフローチャートである。
【
図12】第2実施形態における撮像装置の構成を説明する図である。
【
図13】バンドパスフィルタ特性の変更について説明する図である。
【
図14】第2実施形態における駆動配分手段を説明する図である。
【
図15】第2実施形態における像振れ補正処理を示すフローチャートである。
【
図16】第3実施形態における撮像装置の横断面図およびブロック図。
【
図17】特性変更手段の特性の切り替えタイミングを説明する図である。
【
図18】第3実施形態における駆動配分手段を説明する図である。
【
図19】第3実施形態における像振れ補正処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における撮像装置の構成を説明する図である。カメラ11は、デジタル一眼レフカメラ、ビデオカメラ、コンパクトデジタルカメラ等、像ブレ補正手段を有する撮像装置である。カメラ11は、カメラボディ11aと、カメラボディ11aに着脱可能な交換レンズ11bを備える。なお、本実施形態では、交換レンズ11bがカメラボディ11aに対して着脱可能な撮像装置の例について説明するが、交換レンズ11bとカメラボディ11aが一体となっている撮像装置であってもよい。
【0010】
交換レンズ11bは、撮影光学系13、第1駆動手段13cを備える。撮影光学系13は、シフトレンズやズームレンズなどの複数のレンズや絞りを含む。撮影光学系13におけるレンズの一部は第1の振れ補正手段であるレンズ振れ補正手段13aを構成する。レンズ振れ補正手段13aを矢印13b方向に第1駆動手段13cで駆動されることで、撮像素子14面上に生ずる像ズレを軽減する。
【0011】
カメラボディ11aは、CPU(Central Processing Unit)12、撮像素子14、第2駆動手段14c、振動検出手段15、演算手段16、撮影操作手段17を備える。なお、
図1においてカメラボディ11aにCPU12、振動検出手段15、演算手段16が設けられているが、交換レンズ11b側に設けられてもよいし、カメラボディ11aと交換レンズ11bの両者に設けられてもよい。
【0012】
CPU12は撮影者からの撮影指示操作などに応じて、カメラ11の各ブロックの動作を制御することによって、カメラ11の機能が実現される。撮像素子14は、入力された被写体光束に応答した信号を出力する。撮影光軸10に沿った被写体光束が撮影光学系13を通して撮像手段である撮像素子14に入射する。撮像素子14から出力された撮像素子信号は、不図示の画像処理部で画像処理が行われ、画像処理後の画像情報は不図示の記憶部に記録される。
【0013】
また、撮像素子14は、矢印14bで示す方向に駆動される第2の振れ補正手段である撮像素子振れ補正手段14aを構成している。そして、撮像素子振れ補正手段14aの駆動により撮像素子14面上に生じる像ズレを軽減する。なお、
図1では矢印13b、14b方向の像ズレを軽減するブロックのみを記載しているが、例えばそれらの方向と直交する方向等、他の方向の像ズレを軽減するブロックが設けられていてもよい。また、本実施形態では像振れを光学的に補正する例について説明しているが、撮像素子14における像振れ補正は画像切り出し等により電子的に行ってもよい。
【0014】
撮影操作手段17は、シャッタボタンを含み、撮影者はシャッタボタンを押下することでカメラ11に撮影指示を送る。振動検出手段15は、角速度計15aおよび加速度計15bを備える。演算手段16は、第1積分手段16a、第1振幅補正手段16b、第2積分手段16c、バンドパスフィルタ16d、バンドパスフィルタ16e、比較手段16f、位相補償手段16g、第2振幅補正手段16h、駆動配分手段16iを備える。
【0015】
角速度計15aおよび加速度計15bで検出された各々の振れ検出信号は、演算手段16に出力される。具体的には、角速度計15aの振れ検出信号である角速度信号は、第1積分手段16aに入力される。第1積分手段16aは、角速度計15aの角速度信号を積分して角度信号に変換する。変換後の角度信号は、第1振幅補正手段16bにより撮影光学系13の敏感度で利得調整される。第1振幅補正手段16bの振れ補正信号は、駆動配分手段16iを介して第1駆動手段13c、第2駆動手段14cに入力され、レンズ振れ補正手段13aおよび撮像素子振れ補正手段14aを駆動する。これによりカメラに加わる角度振れにより生ずる像面ズレを軽減できる。
【0016】
加速度計15bの振れ検出信号は、第2積分手段16cに入力される。第2積分手段16cは、加速度計15bの振れ検出信号を速度に変換する。変換された速度信号は、バンドパスフィルタ16dにより、例えば2Hzの周波数成分など、一部の周波数成分のみ抽出される。バンドパスフィルタ16eは、角速度計15aが検出した角速度信号から、例えば2Hzの周波数成分など、一部の周波数成分のみ抽出する。比較手段16fは、バンドパスフィルタ16dの速度信号とバンドパスフィルタ16eの角速度信号から、互いの関係を示す回転半径を算出する。なお、バンドパスフィルタ16dおよびバンドパスフィルタ16eの詳細に関しては特許文献1に記載されているので具体的説明は省く。
【0017】
第1積分手段16aの信号は、後述する特性変更手段である位相補償手段16gを介して第2振幅補正手段16hにて比較手段16fの信号と乗算される。位相補償手段16gは、低周波の平行振れにより生ずる像面ズレの軽減効果を高める為に設けられている。比較手段16fは角速度と速度の回転半径を求めているので、第2振幅補正手段16hは、第1積分手段16aの角度信号に回転半径を乗算することで角度信号を平行振れの変位信号に変換する。
【0018】
第2振幅補正手段16hの振れ補正信号は、駆動配分手段16iを介して第1駆動手段13cおよび第2駆動手段14cに入力される。第1駆動手段13cおよび第2駆動手段14cは、駆動配分手段16iから入力された信号に応じてレンズ振れ補正手段13aおよび撮像素子振れ補正手段14aを駆動し、平行振れにより生ずる像ブレを補正し軽減する。以上の構成により、角度振れに加えて平行振れによる像面ズレを軽減できる像ブレ補正システムが構成されている。
【0019】
図2は、像ブレ補正システムの抑振率を示す図である。
図2において、横軸は周波数、縦軸は抑振率を示す。縦軸は紙面下に向かうほど抑振率が大きくなり、防振性能が高いことを表す。本実施形態では、破線21に示す角度振れの防振特性は、周波数ω1(破線22)近傍で抑振率が大きくなる特性に設定している。実線23に示す平行振れの防振特性は、周波数ω1より低周波の周波数ω2(破線24)近傍で抑振率が大きくなる特性に設定している。このように角度振れと平行振れで抑振率の特性を変更しているのは、平行振れには角度振れよりも低周波領域で大きな振れが発生することが分かっている為である。
【0020】
次に、位相補償手段16gが平行振れの低周波領域における抑振率を大きくするために設けられている理由を説明する。まず、像ブレ補正システムにおいて低周波の角度振れおよび低周波である平行振れ検出精度が低い理由を
図3および
図4を用いて説明する。
図3(A)は、第1積分手段利得特性ボード線図である。
図3(B)は、第1積分手段位相特性ボード線図である。
【0021】
図3(A)において、横軸は振れの周波数、縦軸は振動検出手段15の入力に対する第1積分手段16aの出力利得を示している。
図3(A)において、線分31は第1積分手段16aの利得特性を表しており、積分開始周波数である折れ点周波数ω3(破線32)より高周波の信号は1階積分の特性(周波数に反比例した利得)になっている。振動検出手段15の角速度信号は第1積分手段16aにより1階積分され、周波数ω3以上の信号は角度信号に変換される。ここで、折れ点周波数ω3は検出したいブレの帯域33の低周波側より低い周波数に設定する。例えば検出したい振れが1Hzから10Hzに分布している場合には折れ点周波数ω3は0.1Hzにする。
【0022】
図3(B)において、横軸は振れの周波数、縦軸は振動検出手段15の入力に対する第1積分手段16aの位相差を示している。
図3(B)において、線分34は第1積分手段16aの位相特性を表しており、折れ点周波数ω3(破線32)より高周波の信号は周波数が高くなるにつれて位相が-90度に漸近する特性となる。
【0023】
図4は、第1積分手段16aの積分動作を示す波形を説明する図である。
図4(A)および
図4(B)において横軸は時間、縦軸は振れの量を示す。
図4(A)は、折れ点周波数ω3より高周波である
図3(B)の破線35の周波数における例を示している。一方、
図4(B)は、折れ点周波数ω3近傍である
図3(B)の破線36の周波数における例を示している。なお、破線36の周波数は、ブレの帯域33における低周波限界でもある。
【0024】
図4(A)において、撮像装置に加わる振れの角度を振れ角度波形41、振動検出手段15が検出する角速度を角速度波形42、振動検出手段15の信号を第1積分手段16aで処理した積分信号を角度波形43で示す。
図4(A)において、折れ点周波数ω3より高周波の振れ(破線35の周波数)では、角速度波形42を積分した角度波形43は実際の振れ角度波形41と一致する。そのため、角度波形43は実際の振れ角度を正確に検出できている。
【0025】
図4(B)において、撮像装置に加わる振れの角度を振れ角度波形44、振動検出手段15が検出する角速度を角速度波形45、振動検出手段15の信号を第1積分手段16aで処理した積分信号を角度波形46で示す。
図4(B)において折れ点周波数ω3近傍の振れ(破線36の周波数)では振れ角速度波形45を積分した角度波形46は、実際の振れ角度波形44に対する理想的な積分遅れ特性である-90度に対してθ1(
図3(B)の位相差37)の位相進みが生じている。そのため、カメラ11に加わる振れ角度波形44と一致せず、正確な振れ角度検出が行えていない。このように、カメラ11に加わる振れ波形の中でも低周波の成分は、第1積分手段16aの影響で検出される振れの位相が進み、大きな抑振率(高い防振性能)は得られない。位相補償手段16gは、低周波の位相進みを遅らせるために設けられている。
【0026】
位相補償手段16gは、公知のローパスフィルタや微分フィルタで構成される。各々のフィルタの特性を
図5のボード線図を用いて説明する。
図5(A)は、ローパスフィルタの利得特性ボード線図である。
図5(B)は、ローパスフィルタの位相特性ボード線図である。
図5(C)は、微分フィルタの利得特性ボード線図である。
図5(D)は、微分フィルタの位相特性ボード線図である。
【0027】
図5(A)における線分51は、ローパスフィルタの利得特性であり、折れ点周波数ω4(破線52)より高周波の信号は減衰される。
図5(B)における線分53は、ローパスフィルタの位相特性であり、折れ点周波数ω4(破線52)より高周波の信号は周波数が高くなるにつれて位相が遅れる。
【0028】
図5(C)における線分54は、微分フィルタの利得特性であり、折れ点周波数ω5(破線55)より高周波の信号は増幅される。
図5(D)における線分56は、微分フィルタの位相特性であり、折れ点周波数ω5(破線55)より高周波の信号は周波数が高くなるにつれて位相が進む。
【0029】
図6はローパスフィルタと微分フィルタを組み合わせた位相補償フィルタのボード線図である。
図6(A)は、位相補償フィルタの利得特性ボード線図である。
図6(B)は、位相補償フィルタの位相特性ボード線図である。
図6(A)では、ローパスフィルタと微分フィルタを組み合わせて、中心周波数ω6(破線62)を有する太い実線61に示される利得特性となる位相補償フィルタを構成している。
【0030】
図6(B)の太い実線64は、
図6(A)に示される位相補償フィルタの位相特性である。実線64で示される位相補償フィルタの位相特性は、中心周波数ω6(破線62)において位相遅れが最大になる。本実施形態では、ローパスフィルタと微分フィルタを組み合わせた位相補償フィルタを
図1の位相補償手段16gとして用いる。
【0031】
図7は、第1積分手段16aと位相補償手段16gを合わせた位相特性ボード線図である。線分71は第1積分手段16aの位相特性を、線分64は位相補償手段16gの位相特性を示している。第1積分手段16aの位相特性(線分71)は、前述したように低周波で位相が進んでおり抑振率低下の原因になっている。そこで、第1積分手段16aに位相補償手段16gを接続すると、第1積分手段16aの位相特性(線分71)に位相補償手段16gの位相特性(線分64)が加算される。線分72は、第1積分手段16aの位相特性(線分71)に位相補償手段16gの位相特性(線分64)を加算した位相特性を示している。線分72に示されるように、位相特性が位相ゼロ(0deg)に近づくことでカメラ11に入力される振れと角速度計15aが検出する振れの位相が揃い、高い抑振率の振れ補正が可能になる。
【0032】
図2の説明に戻る。線分23で示す平行振れの抑振率が低周波の周波数ω2(破線24)において高いのは、上述した位相補償手段16gを設けているためである。しかしながら、平行振れの抑振率は周波数ω1(破線22)では線分21に示す角度振れの抑振率より低くなってしまう。これは、
図6(A)に示される位相補償手段16gの利得特性の差G(矢印63)により検出する振れの振幅が小さくなり、入力される振れの振幅と一致しなくなるためである。そのため、第1積分手段16aに位相補償手段16gを接続すると、低周波の振れが発生している場合のみ高い抑振率を示すことになる。
【0033】
ここで平行振れの特性について説明する。静止画露光開始時等に撮影者が撮影操作手段17のシャッタボタンを押下すると、
図1の矢印17a方向に発生する力により低周波の大きな平行振れが発生する。そのため、露光期間中において低周波の大きな平行振れが発生している期間は、露光開始からの一定の期間に限られる。そのため、本実施形態では、露光期間中において低周波の大きな平行振れが発生している期間のみ位相補償手段16gを設け、低周波の大きな平行振れが納まった後は位相補償手段16gの特性を弱めることで高周波の平行振れ抑振率を高める。露光期間中に位相補償手段16gの特性を変更することにより、全露光期間中において高い抑振率が得られる。
【0034】
位相補償手段16gの特性の変更についてその詳細を説明する。位相補償手段16gの特性の変更は、特性変更手段であるCPU12によって行われる。本実施形態において、露光初期には位相補償手段16gを、
図6(A)および
図6(B)に示す特性で用いる。そして時間の経過と共に折れ点周波数ω5(破線55)を折れ点周波数ω4(破線52)に近づけてゆき、最終的には周波数ω5と周波数ω4を一致させる。これにより位相補償手段16gの特性をなくす。
【0035】
図8は、位相補償手段16gの特性の変更について説明する図である。
図8(A)は、位相補償手段16gの特性の変更タイミングを説明する図である。
図8(B)~
図8(D)は、各タイミングにおける位相補償手段16gのボード線図である。
図8(A)において、横軸は露光時間の推移、縦軸は
図6における周波数ω4と周波数ω5の関係を示している。横軸のS2は、シャッタボタンが押下(全押し)されたタイミング、即ち露光開始時間を示している。
【0036】
線分81は微分フィルタの折れ点周波数ω5を示す。線分81で示されるように、露光初期は周波数ω4と周波数ω5が離れている。露光初期のボート線図である
図8(B)において線分64に示されるように、位相補償手段16gは位相遅れの大きな特性になっている。そして、CPU12は露光初期から時間が経過するにつれて周波数ω5を周波数ω4に近づける制御を行う。位相補償手段16gの特性の変更に伴い、露光中期のボート線図である
図8(C)、露光終期のボート線図である
図8(D)に示すように、位相遅れの小さな特性に変更される。このように、本実施形態では、位相補償手段16gの複数の周波数折れ点(ローパスフィルタの折れ点周波数ω4と微分フィルタの折れ点周波数ω5)を露光時間の経過と共に近づけていく。これにより、位相補償手段16gの低周波における位相補償効果は小さくなるが、位相補償手段16gの利得の差Gも小さくなる為に高周波帯域の抑振率が高くなる。
【0037】
次に、振れ補正ストロークについて説明する。抑振率を高くするためには、周波数特性に加えて振れ補正手段の振れ補正ストロークを大きくする必要もある。平行振れによる撮像面の像ブレは撮影倍率が高いほど大きくなるため、接写撮影における振れ補正手段の振れ補正ストロークは極めて大きくなる。本実施形態においては、レンズ振れ補正手段13aと撮像素子振れ補正手段14aの二つの振れ補正手段を駆動することで大きなストロークに対応している。具体的には、本実施形態では、平行振れの補正は露光中のみ行う方式にするとともに、露光前までは振れ補正を行っていなかった撮像素子振れ補正手段14aに露光開始時点から平行振れ補正信号を入力する。
【0038】
図9は、第1実施形態における駆動配分手段16iを説明する図である。駆動配分手段16iは、振れ補正信号(第1振幅補正手段16bの角度振れ信号および第2振幅補正手段16hの平行振れ信号)を各駆動手段に配分する。本実施形態の駆動配分手段16iは、スイッチ91を有する。第1振幅補正手段16bの角度振れ信号は、直接第1駆動手段13cに接続している。一方、第2振幅補正手段16hの平行振れ信号は、駆動配分手段16iが備えるスイッチ91を介して第2駆動手段14cに接続している。
【0039】
スイッチ91は、CPU12からの撮影者操作状態により以下の様にオンオフされる。
・被写体の撮影倍率が小さい時(焦点距離が短い時、被写体までの撮影距離が長い時)
常にオフ。すなわち、撮像素子振れ補正手段14aは振れ補正を行わない。
・被写体の撮影倍率が大きい時(焦点距離が長い時、被写体まで撮影距離が短い時)
静止画撮影開始時(S2)までオフ。静止画露光中のみオン。
【0040】
このように、撮像素子振れ補正手段14aは、静止画露光前までは振れ補正を行わないで振れ補正ストロークを温存しておき、露光中のみ平行振れ補正を行う。静止画露光前までは平行振れもさほど大きくならないため、撮像素子振れ補正手段14aによる振れ補正を行わなくても振れ補正ストロークが不足する恐れは低い。
【0041】
図10は、第1実施形態における像振れ補正を説明する図である。
図10(A)は、レンズ振れ補正手段13aによる像振れ補正を説明する図であり、横軸は時間、縦軸はレンズ振れ補正手段ストロークを示している。
図10(A)は、撮像素子振れ補正手段14aによる像振れ補正を説明する図であり、横軸は時間、縦軸は撮像素子振れ補正手段ストロークを示している。タイミング1003aは、撮影準備操作である撮影操作手段17のシャッタボタン半押し(S1)のタイミングである。タイミング1003bは、静止画撮影のために撮影操作手段17のシャッタボタンが全押し(S2)される露光開始のタイミングである。タイミング1003cは、露光終了のタイミングである。
【0042】
図10(A)において、レンズ振れ補正手段13aは、タイミング1003aから波形1001に示される角度振れ補正を始める。角度振れ補正に関しては、レンズ振れ補正手段13aの補正ストローク範囲(範囲1002aから1002bの間)は十分確保してあるために安定した振れ補正が行える。
【0043】
図10(B)において、撮像素子振れ補正手段14aが、タイミング1003aから破線の波形1004に示される平行振れ補正を始めたと仮定する。タイミング1003aから平行振れ補正を開始した場合、露光期間中であるタイミング1003bタイミング1003cの間に補正ストローク範囲(1006aから1006bの間)を超えてしまい、振れ補正が出来なくなる。補正ストローク範囲を大きくすることで回避は可能であるが、被写体の撮影倍率が大きい場合には平行振れ補正量も多く必要になるために、カメラボディ11aの大きさが極めて大きくなってしまう。そこで、本実施形態では、波形1005に示すように、撮像素子振れ補正手段14aによる平行振れ補正は露光開始までは行わず、静止画露光開始(タイミング1003b)時点をゼロにしてスタートさせる。これにより露光中に振れ補正ストロークをすべて消費してしまうことを防ぐことができる。
【0044】
露光中に位相補償手段16gの特性を時間と共に変更してゆく動作と駆動配分手段16iの撮像素子振れ補正手段14aの駆動動作を合わせた像振れ補正システムの動作について、
図11のフローチャートを用いて説明する。
図11は、第1実施形態における像振れ補正処理を示すフローチャートである。なお、
図11のフローはカメラ11における撮影準備動作である撮影操作手段17のシャッタボタン半押し操作(S1)でスタートし、この操作が継続している限りフローは循環される。
【0045】
ステップS1101で、レンズ振れ補正手段13aによる角度振れ補正を行う。具体的には、振動検出手段15で検出された振れ検出信号を演算手段16で処理し、第1振幅補正手段16bで駆動目標値を生成する。そして、第1駆動手段13cが生成された駆動目標値に基づいてレンズ振れ補正手段13aを駆動して角度振れ補正を行う。
【0046】
ステップS1102で、CPU12は、静止画露光の開始か否かを判定する。CPU12は、撮影操作手段17のシャッタボタンが全押し操作(S2)されると静止画露光の開始と判定し、ステップS1103に進む。一方、シャッタボタンの全押しを検知できない場合は、ステップS1101に戻る。
【0047】
ステップS1103で、CPU12は、露光期間中における平行振れ補正の要否を判定する。平行振れ補正の要否は、例えば、撮影操作時に得られた撮影倍率の大きさに基づいて判定する。撮影倍率が所定の倍率より大きい場合は、平行振れ補正が必要であると判定しステップS1104に進む。一方、平行振れ補正が所定の倍率以下である場合は、平行振れ補正が必要ないと判定し、ステップS1105に進む。
【0048】
ステップS1104で、撮像素子振れ補正手段14aを駆動し平行振れ補正を行う。具体的には、振動検出手段15で検出された振れ検出信号を演算手段16で処理し、第2振幅補正手段16hで駆動目標値を生成する。そして、CPU12は、駆動配分手段16iのスイッチ91をONにし、第2駆動手段14cが第2振幅補正手段16hで生成された駆動目標値を取得できるようにする。第2駆動手段14cは、取得した駆動目標値に基づいてレンズ振れ補正手段13aを駆動して角度振れ補正を行う。
【0049】
ステップS1105で、CPU12は、カメラのシャッタを開くなどの動作により静止画の露光を開始する。
ステップS1103で撮影倍率が所定の倍率より大きいと判定され平行振れ補正を行っている場合は、ステップS1106で、CPU12は、
図8(A)で説明した特性変更様式に従って、時間の経過と共に位相補償手段16gの特性を変更する。
【0050】
ステップS1107で、CPU12は、露光時間が終了したか否か判定する。露光時間が終了するまではステップS1106、およびステップS1107を循環する。一方、露光時間が終了し露光が完了した場合は、ステップS1108に進む。
ステップS1108で、CPU12は、第2駆動手段14cによる撮像素子振れ補正手段14aの駆動を停止し、ステップS1102に戻る。
【0051】
以上説明したように、本実施形態では、露光を行っている期間のみ撮像素子振れ補正手段14aを駆動して平行振れの補正を行う。そのため、露光中に振れ補正ストロークを超えてしまうことがなく、安定した平行振れ補正が行える。また、位相補償手段16gは静止画露光を行っている時に時間と共にその特性を変更する。露光期間中における特性の変更により、露光初期には低周波の大きな振れを精度よく補正でき、露光後期には高周波の振れを精度よく補正することができる。
【0052】
(第2実施形態)
図12は、第2実施形態における撮像装置の構成を説明する図である。第1実施形態の撮像装置(
図1)と異なる点は、特性変更手段であるCPU12からの信号が対のバンドパスフィルタ16dおよびバンドパスフィルタ16eに入力している点である。第1実施形態においてもCPU12からの信号は演算手段16に入力されており、CPU12は第1積分手段16a第2積分手段16cの時定数変更、位相補償手段16gの特性変更、第1振幅補正手段16bおよび第2振幅補正手段16hの制御を行っている。第2実施形態のCPU12はこれらに加えて、バンドパスフィルタ16dおよびバンドパスフィルタ16eの抽出周波数帯域を静止画露光開始時は低周波側に設定する制御を行う。このように、本実施形態では、バンドパスフィルタ16dおよびバンドパスフィルタ16eの抽出周波数帯域を静止画露光開始時は低周波側に設定することで、低周波の平行振れ検出精度を高める。撮像装置のその他の構成は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0053】
図13は、バンドパスフィルタの抽出周波数特性の変化を説明する図である。
図13のバンドパスフィルタは、対になるバンドパスフィルタ(バンドパスフィルタ16dおよびバンドパスフィルタ16e)である。
図13(A)は、バンドパスフィルタの特性の変更タイミングを説明する図である。
図13(B)~
図13(D)は、各タイミングにおけるバンドパスフィルタのボード線図である。
【0054】
図13(A)において、横軸は露光時間の推移、縦軸は抽出周波数を示している。抽出周波数は、露光当初はω7(例えば0.5Hz)であり露光後期にはω6(例えば5Hz)になる。
図13(B)~
図13(D)において、横軸は周波数、縦軸は周波数ごとの利得を示している。露光初期のボート線図である
図13(B)においては、周波数ω7(破線1303)において最も利得が高く、それより低周波、高周波は減衰する特性になっている。そのため、露光初期においてはω7の周波数成分のみ抽出される。露光終期のボート線図である
図13(D)においては、周波数ω6(破線1304)において最も利得が高く、それより低周波、高周波は減衰する特性になっている。そのため、露光終期においてはω6の周波数成分のみ抽出される。
図13(B)と
図13(D)のタイミングの中間に位置する露光中期のボート線図である
図13(C)では、
図13(B)と
図13(D)の中間の周波数を抽出する特性になっている。
【0055】
対のバンドパスフィルタ(バンドパスフィルタ16dおよびバンドパスフィルタ16e)は、常に同じ特性となっている。そのため、角速度計15aおよび加速度計15bの振れ検出信号は静止画露光の開始時は低周波(ω7)の成分が抽出され、露光の後期は高周波(ω6)の成分が抽出される。したがって、露光開始時は振れの低周波成分から求まる振れの回転中心に基づいて平行振れ検出を行うことができ、露光後期は振れの高周波成分から求まる振れの回転中心に基づいて平行振れ検出を行うことができる。そのため、露光開始時はその後よりも低周波の平行振れ検出が可能になる。
【0056】
次に振れ補正手段の動作について説明する。
図14は、第2実施形態における駆動配分手段16iを説明する図である。本実施形態の駆動配分手段16iは、スイッチ1401aおよびスイッチ1401bを有する。本実施形態において、第1振幅補正手段16bからの角度振れ信号は、第1駆動手段13cおよび第2駆動手段14cに入力される。取得した角度振れ信号に基づいて、第1駆動手段13cは第1の振れ補正手段であるレンズ振れ補正手段13aを駆動し、第2駆動手段14cは第2の振れ補正手段である撮像素子振れ補正手段14aを駆動する。レンズ振れ補正手段13aおよび撮像素子振れ補正手段14aはそれぞれ角度振れ量の半分を補正することにより、トータルで十分な角度振れ補正を行っている。
【0057】
第2振幅補正手段16hからの平行振れ信号は、CPU12により制御されるスイッチ1401a、スイッチ1401bを介して、第1駆動手段13c、第2駆動手段14cに入力される。スイッチ1401aは第2振幅補正手段16hと第1駆動手段13cの間に設けられたスイッチであり、スイッチ1401aがONのときに第2振幅補正手段16hからの平行振れ信号が第1駆動手段13cに入力される。スイッチ1401bは第2振幅補正手段16hと第2駆動手段14cの間に設けられたスイッチであり、スイッチ1401aがONのときに第2振幅補正手段16hからの平行振れ信号が第2駆動手段14cに入力される。
【0058】
CPU12は、レンズ振れ補正手段13aからの振れ補正状態信号および撮像素子振れ補正手段14aからの振れ補正状態信号を取得し、振れ補正状態信号に基づいてどちらの振れ補正手段に振れ補正ストロークに余裕があるかを判定する。そして、CPU12は、スイッチ1401aとスイッチ1401bのうち、静止画露光開始時に振れ補正ストロークに余裕のある振れ補正手段に繋がるスイッチをONにする。これにより、第2振幅補正手段16hからの平行振れ信号を、第1駆動手段13cと第2駆動手段14cのいずれかに入力させる。このように、静止画露光開始時に振れ補正ストローク余裕のある振れ補正手段を選択して平行振れ補正を行うことで、露光中の平行振れ補正ストロークの不足を抑制することが出来る。
【0059】
図15は、第2実施形態における像振れ補正処理を示すフローチャートである。第1実施形態(
図11)と同じ処理のステップについては同じ符号を付しその説明を省略する。なお、
図15のフローはカメラ11における撮影準備動作である撮影操作手段17のシャッタボタン半押し操作(S1)でスタートし、この操作が継続している限りフローは循環される。
【0060】
ステップS1501で、レンズ振れ補正手段13aおよび撮像素子振れ補正手段14aによる角度振れ補正を行う。具体的には、振動検出手段15で検出された振れ検出信号を演算手段16で処理し、第1振幅補正手段16bで駆動目標値を生成する。そして、第1駆動手段13cと第2駆動手段14cがそれぞれ生成された駆動目標値に基づいてレンズ振れ補正手段13aと撮像素子振れ補正手段14aを駆動して角度振れ補正を行う。
【0061】
ステップS1502で、CPU12は、静止画露光開始時点においてレンズ振れ補正手段13aの振れ補正ストロークに余裕があるか判定する。振れ補正ストロークに余裕がある場合はステップS1503に進む。一方、振れ補正ストロークに余裕がない場合はステップS1504に進む。
【0062】
レンズ振れ補正手段13aの振れ補正ストロークに余裕がある場合、ステップS1503で、レンズ振れ補正手段13aを駆動し、角度振れ補正に加えて平行振れ補正を行う。
レンズ振れ補正手段13aの振れ補正ストロークに余裕がない場合、ステップS1504で、撮像素子振れ補正手段13aを駆動し、角度振れ補正に加えて平行振れ補正を行う。
【0063】
ステップS1505で、CPU12は、時間の経過と共に位相補償手段16gとバンドパスフィルタ16dおよびバンドパスフィルタ16eの特性を変更する。具体的には、CPU12は、
図8(A)で説明した特性変更様式に従って、時間の経過と共に位相補償手段16gの特性を変更する。また、
図13(A)で説明した特性変更様式に従って、時間の経過と共にバンドパスフィルタ16dおよびバンドパスフィルタ16eの特性を変更する。なお、第1実施形態と同様に、撮影倍率が所定の倍率より大きい場合のみ特性を変更するようにしてもよい。
【0064】
ステップS1506で、CPU12は、レンズ振れ補正手段13aもしくは撮像素子振れ補正手段14aによる平行振れ補正のための駆動のみ停止する。
【0065】
以上説明したように、本実施形態では、静止画露光を行う際に駆動ストロークに余裕のある振れ補正手段を選択して平行振れ補正を行う。そのため、露光中に振れ補正ストロークが不足してしまう恐れがなく、安定した平行振れ補正が可能となる。また、本実施形態では、静止画露光中に時間の経過と共に抽出周波数を低周波から高周波に特性を変更する。これにより、静止画露光の初期では低周波の平行振れ補正に適した特性にすることで、振れの低周波成分を抽出して低周波の振れの回転半径を求め、低周波の大きな平行振れを精度よく補正することができる。そして、静止画露光の後期では高周波の平行振れ補正に適した特性にすることで、振れの高周波成分を抽出して高周波の振れの回転半径を求め、高周波の平行振れも補正することができる。
【0066】
(第3実施形態)
図16は、第3実施形態における撮像装置の構成を説明する図である。第1実施形態(
図1)および第2実施形態(
図12)との相違点は、演算手段16が、複数の位相補償手段、位相補償選択手段16j、複数のバンドパスフィルタ、複数の比較手段、比較値選択手段16kを備えている点である。
【0067】
複数の位相補償手段は、第1位相補償手段16g1および第2位相補償手段16g2である。第1位相補償手段16g1は、低周波での位相補償効果が高く、
図8(B)に示す低周波の検出精度を高める特性になっている。第2位相補償手段16g2は、高周波での位相補償効果が高く、
図8(D)に示す高周波の検出精度を高める特性になっている。位相補償選択手段16jは、CPU12の指示に従って、第1位相補償手段16g1および第2位相補償手段16g2の信号を選択する。
【0068】
複数のバンドパスフィルタは、バンドパスフィルタ16d1、バンドパスフィルタ16e1、バンドパスフィルタ16d2、バンドパスフィルタ16e2である。バンドパスフィルタ16d1およびバンドパスフィルタ16e1(以下、2つを合わせてBPF1ともいう)は、
図13(B)に示す低周波を抽出するバンドパスフィルタである。バンドパスフィルタ16d2およびバンドパスフィルタ16e2(以下、2つを合わせてBPF2ともいう)は、
図13(D)に示す高周波を抽出するバンドパスフィルタである。
【0069】
複数の比較手段は、第1比較手段16f1および第2比較手段16f2である。比較値選択手段16kは、CPU12の指示に従って、第1比較手段16f1および第2比較手段16f2の信号を選択する。
【0070】
位相補償選択手段16jおよび比較値選択手段16kと、これらを制御するCPU12は、特性変更手段である。位相補償選択手段16jは、CPU12から信号に基づいて第1位相補償手段16g1および第2位相補償手段16g2のいずれかを選択することで、特性を変更する。比較値選択手段16kは、CPU12から信号に基づいて第1比較手段16f1および第2比較手段16f2のいずれかを選択することで、特性を切り替える。
【0071】
図17は、特性変更手段の特性の切り替えタイミングを説明する図である。線分1701は、位相補償選択手段16jおよび比較値選択手段16kの選択状態を示している。静止画露光開始S2から時刻t1までは、位相補償選択手段16jは第1位相補償手段16g1を選択し、比較値選択手段16kは第1比較手段16f1を選択する。そして時刻t1以降において、位相補償選択手段16jは第2位相補償手段16g2を選択し、比較値選択手段16kは第2比較手段16f2を選択する。
【0072】
上記の特性の切り替えにより、本実施形態においても第2実施形態と同様に、静止画露光開始時には平行振れの低周波の補正精度を高く、その後は平行振れの高周波の補正精度を高くすることができる。そのため、露光時間全体にわたって平行振れ補正効果を高く維持することができる。また、特性の変更を行った第1および第2実施形態と異なり、本実施形態では特性切り替え方式にしたため、静止画露光中の演算量を軽減することができる。
【0073】
図16の説明に戻る。位相補償選択手段16jの信号は、第1振幅補正手段16bにも入力している。そのため、第1振幅補正手段16bには静止画露光開始時には第1位相補償手段16g1の信号が、その後は第2位相補償手段16g2の信号が入力される。これにより、角度振れに関しても静止画露光開始時に低周波の補正精度を高くして、その後は高周波の補正精度を高くすることができる。ユーザーによる撮影操作手段17の操作で平行振ればかりではなく角度振れも発生するため、角度振れ補正に対しても静止画露光開始時に低周波の振れ補正精度を高めることで効果のある振れ補正を行える。
【0074】
次に、振れ補正手段の動作について説明する。
図18は、第3実施形態における駆動配分手段16iを説明する図である。本実施形態の駆動配分手段16iは、重みづけ手段1802aおよび重みづけ手段1802bを有する。本実施形態において、第1振幅補正手段16bからの角度振れ信号は、第1駆動手段13cおよび第2駆動手段14cに入力される。取得した角度振れ信号に基づいて、第1駆動手段13cはレンズ振れ補正手段13aを、第2駆動手段14cは撮像素子振れ補正手段14aを駆動する。レンズ振れ補正手段13aと撮像素子振れ補正手段14aはそれぞれ角度振れ量の半分を補正する事によりトータルで十分な角度振れ補正を行う。
【0075】
第2振幅補正手段16hからの平行振れ信号は、CPU12により制御される重みづけ手段1801aおよび重みづけ手段1801bを介して、第1駆動手段13cおよび第2駆動手段14cに入力される。重みづけ手段1801aは、第2振幅補正手段16hと第1駆動手段13cの間に設けられ、重みづけ手段1801bは、第2振幅補正手段16hと第2駆動手段14cの間に設けられている。
【0076】
CPU12は、重みづけ手段1801aおよび重みづけ手段1801bを制御することで、平行振れを補正するためのレンズ振れ補正手段13aと撮像素子振れ補正手段14aそれぞれの駆動量を制御する。具体的には、CPU12は、レンズ振れ補正手段13aからの振れ補正状態信号と撮像素子振れ補正手段14aからの振れ補正状態信号に基づいて、各々の振れ補正手段における振れ補正ストローク余裕の比率を算出する。そして、CPU12は、静止画露光開始時に振れ補正ストローク余裕の比率に基づいて、それぞれの振れ補正手段における駆動量の重みづけを設定する。重みづけ手段1802aおよび重みづけ手段1802bは、設定された重みづけに応じて第2振幅補正手段16hからの平行振れ信号に対して重みづけ処理を行う。重みづけ処理された信号は、静止画露光開始時からそれぞれ第1駆動手段13cと第2駆動手段14cに入力される。
【0077】
例えば、レンズ振れ補正手段13aと撮像素子振れ補正手段14aの振れ補正ストローク余裕の割合が6:4の場合には、重みづけ手段1802aにおける重みづけをA=0.6とする。重みづけ手段1802bによる重みづけは1-A=0.4となる。これにより、静止画露光開始時に平行振れ補正のための駆動量の6割がレンズ振れ補正手段13aに入力され、残りの4割が撮像素子振れ補正手段14aに入力される。このように、本実施形態では、静止画露光開始時における複数の振れ補正手段の振れ補正ストローク余裕比率に基づいて平行振れ補正量を各振れ補正手段に配分することで、露光中に平行振れ補正ストロークが不足することを抑制することができる。
【0078】
図19は、第3実施形態における像振れ補正処理を示すフローチャートである。第1実施形態(
図11)および第2実施形態(
図15)と同じ処理のステップについては同じ符号を付しその説明を省略する。なお、
図19のフローはカメラ11における撮影準備動作である撮影操作手段17のシャッタボタン半押し操作(S1)でスタートし、この操作が継続している限りフローは循環される。
【0079】
ステップS1901で、CPU12は、駆動配分手段16iを制御して、第1駆動手段13cおよび第2駆動手段14cに入力される平行振れ駆動量を配分し、レンズ振れ補正手段13aと撮像素子振れ補正手段14aによる平行振れ補正を行う。具体的には、
図18で説明したように、静止画露光開始時点においてレンズ振れ補正手段13aと撮像素子振れ補正手段の振れ補正ストローク余裕の比率を検出し、その比率に応じて平行振れ補正のための駆動量を各振れ補正手段に配分する。各振れ補正手段は、平行振れ駆動量の配分に応じた平行振れ補正を行う。
【0080】
ステップS1902で、CPU12は、時間の経過と共に位相補償手段とバイパスフィルタの特性を切り替える。位相補償選択手段16jは、CPU12からの指示に基づき第1位相補償手段16g1と第2位相補償手段16g2のいずれかを選択して、特性を切り替える。比較値選択手段16kは、CPU12からの指示に基づきBPF1とBPF2のいずれかを選択して、特性を切り替える。位相補償選択手段16jが選択した信号は、第1振幅補正手段16bおよび第2振幅補正手段16hに入力される。比較値選択手段16kが選択した信号は、第2振幅補正手段16hに入力される。CPU12は、露光初期には低周波、その後は高周波の平行振れ補正の精度が高くなるよう特性を切り替える。
【0081】
このように、本実施形態では、静止画露光を行う時に駆動ストローク余裕の比率に応じてレンズ振れ補正手段13aと撮像素子振れ補正手段14aとで平行振れ補正量を配分し、平行振れ補正を行う。これにより、露光中における振れ補正ストロークの不足を抑制し、安定した平行振れ補正を行うことができる。
【0082】
また、本実施形態では、静止画露光の時間の経過とともに角度振れ信号および平行振信号の特性を切り替える。特性の変更を行った第1および第2実施形態と異なり、本実施形態では特性切り替え方式にしたため、静止画露光中の演算を軽くすることができる。また、平行振れ特性のみを変更していた第1および第2実施形態と異なり、本実施形態では角度振れ特性も露光中に特性切り替えを行っている。これにより、静止画露光の前半に発生する低周波の角度振れも精度よく補正できるとともに、静止画露光の後半の振れ補正精度の劣化も抑制することができる。
【0083】
第1から第3の実施形態においては、レンズ振れ補正手段13a、撮像素子振れ補正手段14aの2つの振れ補正手段を設けていたが、静止画露光中に像振れ補正システムの特性を変更することに関しては振れ補正手段が複数なくてもよい。例えば、振れ補正手段として撮像素子振れ補正手段14aのみを備える場合にも、本発明は適用可能である。
図20は、第3実施形態の変形例における撮像装置の構成を説明する図である。
【0084】
図20においては、振れ補正手段として撮像素子振れ補正手段14aのみ設けられている。撮像素子振れ補正手段14aは、第1振幅補正手段16bからの角度振れ信号を駆動配分手段16iを介して取得し、撮影準備動作時点から角度振れ補正を行う。また、撮像素子振れ補正手段14aは、第2振幅補正手段16hからの平行振れ信号を駆動配分手段16iを介して取得し、静止画露光開始時点から平行振れ補正を行う。すなわち静止画露光開始中において、撮像素子振れ補正手段14aは角度振れに加えて平行振れの補正を行う。なお、振れ補正手段としてレンズ振れ補正手段13aのみ設けられている防振システムにおいても本発明は適用可能である。
【0085】
また、第1実施形態~第3実施形態で説明した内容は適宜組み合わせ可能である。例えば、第1実施形態で説明した位相補償手段の周波数折れ点の変更と第2実施形態で説明した駆動配分手段を組み合わせてもよい。
【0086】
(その他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0087】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0088】
12 CPU
13a レンズ振れ補正手段
14a 撮像素子振れ補正手段
15 振動検出手段
16 演算手段
16g 位相補償手段
16i 駆動配分手段