IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社放電精密加工研究所の特許一覧

<>
  • 特許-水性プライマー処理組成物 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】水性プライマー処理組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240227BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240227BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240227BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240227BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240227BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20240227BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20240227BHJP
   C09D 133/02 20060101ALI20240227BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20240227BHJP
   C09D 129/14 20060101ALI20240227BHJP
   C09D 161/06 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/00 D
C09D5/02
C09D7/63
C09D7/61
C09D163/00
C09D175/04
C09D133/02
C09D167/00
C09D129/14
C09D161/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019193390
(22)【出願日】2019-10-24
(65)【公開番号】P2021066814
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000154794
【氏名又は名称】株式会社放電精密加工研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽平
(72)【発明者】
【氏名】越名 崇文
(72)【発明者】
【氏名】康 諭基泰
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-319787(JP,A)
【文献】特開2005-298837(JP,A)
【文献】特開2017-170828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 - 201/10
C23C 22/00 - 22/86
C23F 11/00 - 11/18
C23F 14/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層とトップコート層と、これらの間に設けられたプライマー層とを有する構造物において、前記プライマー層を形成するために用いる、水性プライマー処理組成物であって、
シランカップリング剤と、
水性コロイダルシリカと、
水を含む溶媒と、
水分散性樹脂と、を含み
(ただし、チオカルボニル基含有化合物、弗化化合物、および酸変性ポリオレフィン系樹脂を含む場合を除く)、
前記溶媒がアルコールを含み、前記アルコールの含有量が、前記シランカップリング剤および前記水分散性樹脂の合計含有量100質量部に対して、1質量部以上300質量部以下である、
水性プライマー処理組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の水性プライマー処理組成物であって、
前記水分散性樹脂が、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、フェノール樹脂およびこれらの変性体からなる群から選ばれる一種以上を含む、水性プライマー処理組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水性プライマー処理組成物であって、
液温25℃における当該水性プライマー処理組成物のpHが、7.0以上13.0以下である、水性プライマー処理組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の水性プライマー処理組成物であって、
前記アルコールの含有量が、当該水性プライマー処理組成物中、0.1質量%以上15質量%以下である、水性プライマー処理組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水性プライマー処理組成物であって、
高縮合リン酸塩または多価リン酸エステルからなるリン系防錆剤を含まない、水性プライマー処理組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の水性プライマー処理組成物であって、
前記シランカップリング剤が、エポキシシランを含む、水性プライマー処理組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水性プライマー処理組成物であって、
前記金属層が、一または二以上の金属種を含む溶融亜鉛めっき膜で構成される、水性プライマー処理組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の水性プライマー処理組成物であって、
前記トップコート層が、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂およびエポキシ樹脂からなる群から選ばれる一または二以上を含む、水性プライマー処理組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性プライマー処理組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで構造物中に使用されるプライマー層において様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、金属基材表面に、防食層、年接着層、金属層、プライマー層および耐候層を備える重防食積層皮膜構造が記載されている(特許文献1の請求項1)。プライマー層には、主剤と硬化剤とを含むエポキシ樹脂系プライマー塗料が使用されている(段落0055など)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-254557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載のプライマー塗料を用いた構造物において、耐食性および密着性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
耐食性を高める観点から、プライマー層にシリカを使用する考えがある。
ところが、シリカ単体からなる珪素皮膜は密着性を有さず、プライマー層(密着層)としての機能を果たさない。
そこで、本発明者は、水性プライマー処理組成物にシリカと有機樹脂とを併用することを試みた。
本発明者はさらに検討したところ、有機樹脂として水溶性樹脂を使用した場合、密着性や耐食性が不十分であることが判明した。詳細なメカニズムは定かでないが、水性プライマー処理組成物の膜形成時に、膜中に残存する水などに水溶性樹脂が再溶解すると、密着性の低下や、溶解部分におけるピンホールの形成による腐食進行が生じる、と考えられる。
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、有機樹脂として水分散性樹脂を用いることによって、密着性および耐食性が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
金属層とトップコート層と、これらの間に設けられたプライマー層とを有する構造物において、前記プライマー層を形成するために用いる、水性プライマー処理組成物であって、
シランカップリング剤と、
水性コロイダルシリカと、
水を含む溶媒と、
水分散性樹脂と、を含む、
水性プライマー処理組成物が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、
金属層と、
前記金属層の上に設けられたトップコート層と、
前記金属層と前記トップコート層との間に設けられたプライマー層と、
を備える構造物であって、
前記プライマー層が、シランカップリング剤、水性コロイダルシリカ、および水分散性樹脂を含む水性プライマー処理組成物からなる珪素皮膜で構成される、
構造物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐食性および密着性に優れた水性プライマー処理組成物およびそれを用いた構造物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る構造物中の金属構造体の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0011】
本実施形態の水性プライマー処理組成物について概説する。
【0012】
水性プライマー処理組成物は、シランカップリング剤と、水性コロイダルシリカと、水を含む溶媒と、水分散性樹脂と、を含む。
この水性プライマー処理組成物(以下、単に「組成物」と略称することもある。)は、金属層とトップコート層と、これらの間に設けられたプライマー層とを有する構造物において、プライマー層を形成するために用いるものである。
【0013】
本発明者の知見によれば、組成成分として、シランカップリング剤と水性コロイダルシリカに加えて、水分散性樹脂を使用することによって、水性プライマー処理組成物からなる珪素皮膜について、耐食性および密着性を向上できるため、そのような水性プライマー処理組成物を、構造体中のプライマー層(密着層)を形成するために好適に用いることができることが分かった。
【0014】
詳細なメカニズムは定かでないが、金属層に含まれる金属原子と、珪素皮膜中のシランカップリング剤由来のケイ素(Si)元素とが酸素原子を介した架橋構造を形成し、その架橋構造中にシリカが適切に配置された珪素皮膜となるため、構造物における耐食性を高められる、と考えられる。
また、水分散性樹脂を使用することにより、膜形成時の珪素皮膜において、完全に反応しきらないために残存するH基やOH基、あるいは水分によって、樹脂が溶解することが抑制される。このため、下地の金属層と上層のトップコート層との間を十分な密着できるとともに、樹脂の溶解によって生じたピンホールから腐食が進むことを抑制できる、と考えられる。
【0015】
本実施形態の珪素皮膜で構成されるプライマー層は、優れた密着性を有するため、構造物全体としての耐食性を高めることが可能になる。
【0016】
本実施形態の構造物の一例としては、例えば、各種の土木構造物、建築物、港湾設備、プラント、船舶、海洋構造物、橋梁、タンク、工業用水系施設、電力設備、通信設備等の鉄鋼構造物、およびこれらに用いる鋼鉄部材が挙げられる。
【0017】
以下、水性プライマー処理組成物の各成分について詳述する。
【0018】
<シランカップリング剤>
水性プライマー処理組成物は、シランカップリング剤を含む。
シランカップリング剤を用いることで、水分散性樹脂や水性コロイダルシリカを含む組成物を、水性溶液として安定化させることができる。また、シランカップリング剤は、水性コロイダルシリカや水分散性樹脂との間の親和性を向上できるため、安定な水性溶液(組成物)を形成することができる。
上記シランカップリング剤として、水中に溶解できる水溶性シランカップリング剤が用いられる。
【0019】
上記シランカップリング剤は、例えば、一般式:(RSi(OR4―m(上記一般式中、Rは炭素数1~20を有する官能基、Rは低級アルキル基である。mは0~3の整数である。)で表されるアルコキシシラン、またはこれを加水分解し、縮重合させた化合物が用いられる。上記シランカップリング剤は、組成物中、その一部が加水分解していてもよい。
【0020】
上記一般式で表されるシランカップリング剤の具体例としては、例えば、Si(OCH、Si(OC、CHSi(OCH、CHSi(OC、CSi(OCH、CSi(OC、CH(O)CHCHO(CHSi(OCH、CH=C(CH)COO(CHSi(OCH、CH=CHCOO(CHSi(OCH、HN(CHSi(OCH、HS(CHSi(OCH、OCN(CHSi(OC等を挙げることができる。
【0021】
また、上記化学式において、R中の官能基としては、例えば、ビニル、3-グリシドキシプロピル、3-グリシドキシプロピルメチル、2-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチル、p-スチリル、3-メタクリロキシプロピル、3-メタクリロキシプロピルメチル、3-アクリロキシプロピル、3-アミノプロピル、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチル、N―フェニル―3-アミノプロピル、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル―3-アミノプロピル、3-ウレイドプロピル、3-メルカプトプロピル、3-イソシアネートプロピル等の基を例示できる。
【0022】
上記化学式中、低級アルキル基としては、具体的には、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、1-エチルプロピル、イソペンチル、ネオペンチル等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。
【0023】
上記水溶性シランカップリング剤としては、例えば、官能基がエポキシ基を備えるシランカップリング剤(エポキシシラン)、または官能基がアミノ基を備えるシランカップリング剤(アミノシラン)を含むことができる。この中でも、耐食性の観点から、エポキシシランを用いることがより好ましい。
【0024】
上記エポキシシランとしては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシルエチル)トリメトキシシランなどのグリシジルまたはエポキシ基含有トリアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0025】
上記シランカップリング剤の含有量は、水性プライマー処理組成物全体に対して、固形分換算で、例えば、0.5質量%~10質量%、好ましくは0.8質量%~8質量%、より好ましくは1質量%~6質量%である。
【0026】
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
また、固形分とは、水やアルコール溶媒等の揮発成分を除いた残部を指す。この固形分は、水性プライマー処理組成物を加熱処理した後、各成分の反応後に残存する残存物としてもよい。
【0027】
<水性コロイダルシリカ>
上記水性プライマー処理組成物は、水性コロイダルシリカを含む。
【0028】
水溶性コロイダルシリカは、水溶媒や、水を含む混合溶媒中に分散するもので、SiOで構成される無機粒子を含む。無機粒子の平均粒子径は、たとえば、1~200nmとしてもよい。
【0029】
水性プライマー処理組成物は、水性コロイダルシリカ以外の、Al、TiO、ZrO、Fe等の無機酸化物で構成される無機コロイド粒子を含んでもよい。無機コロイド粒子は、水中に分散する無機粒子で構成される。
【0030】
水性コロイダルシリカを用いることで、水性プライマー処理組成物から得られる皮膜についての強度を一段と向上させることができる。また、組成物中の分散性を高めることができるので、シリカ粒子が皮膜中に均一に分散した、珪素皮膜を形成できる。
【0031】
上記水性コロイダルシリカの安定pH域は、酸性側、中性側、アルカリ側のいずれかにある。この中でも、組成物の溶液安定性の観点から、酸性側のpHで安定化する水性コロイダルシリカを用いることができる。
【0032】
上記無機粒子は、例えば、平均粒子径が1~200nm、好ましくは3~100nmの範囲にある。ナノサイズの無機粒子を用いることにより、水とアルコールとの水系混合溶媒を使用する場合、凝集や沈降を抑制でき、液安定性に優れた組成物を調製できる。また、組成物で表面処理した製品の防錆性能を向上ができる。
【0033】
水性コロイダルシリカ等の無機コロイド粒子を用いることで、さらに強固な皮膜構造を実現することができる。
詳細なメカニズムは定かでないが、上述の皮膜中の空間に、シリカ等の無機粒子が適切に配置されるため、珪素皮膜等の皮膜の緻密さが高まり、耐食性が向上すると考えられる。
【0034】
上記水性コロイダルシリカの含有量は、水性プライマー処理組成物中に対して、固形分換算で、例えば、0.5質量%~12質量%、好ましくは0.6質量%~10質量%、より好ましくは0.8質量%~8質量%である。上記下限値以上とすることで、皮膜に適度な強度を付与できる。上記上限値以下とすることで、皮膜の物性のバランスを図ることができる。
【0035】
また、水性コロイダルシリカの含有量は、上記シランカップリング剤100質量部に対して、固形分換算で、例えば、10質量部~300質量部、好ましくは20質量部~250量部、より好ましくは30質量部~200質量部である。
【0036】
<水分散性樹脂>
上記水性プライマー処理組成物は、水分散性樹脂を含む。
【0037】
水分散性樹脂は、水中に分散する樹脂で構成される。
水分散性樹脂を構成する樹脂としては、水に分散できる樹脂の中から適宜選択すればよく、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、フェノール樹脂、またはこれらの変性体を用いることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記例示の水分散性樹脂を用いることによって、撥水性が高いフッ素樹脂やシリコーン樹脂と比べて、トップコート層等の上層との濡れ性を高められ、密着性を向上できる。
【0038】
水分散性樹脂の含有量は、水性プライマー処理組成物中、固形分換算で、例えば、0.5質量%~10質量%、好ましくは1.0質量%~9質量%、より好ましくは1.5質量%~8質量%である。上記下限値以上とすることで、皮膜の耐熱性や耐食性を向上できる。上記上限値以下とすることで、皮膜の物性のバランスを図ることができる。
【0039】
<溶媒>
上記の水性プライマー処理組成物は、水を含有する溶媒を含む。この溶媒は、水のみを含む水溶媒で構成されていてもよく、水と水以外の親水性溶媒とを含む水系混合溶媒で構成されていてもよい。
【0040】
上記水としては、例えば、市水、蒸留水、イオン交換水等が挙げられる。
【0041】
上記親水性溶媒としては、アルコールなどの極性有機溶媒が挙げられる。溶液安定性の観点から、上記水系混合溶媒は、水とアルコールとの混合溶媒で構成されてもよい。水性プライマー処理組成物中の各成分の化学的性質や配合量などを鑑み、水系混合溶媒中の水の含有比率を決定できる。
【0042】
上記アルコールとしては、たとえば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコールなどの沸点が100℃未満の低沸点アルコールや、iso-ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノターシャルブチルエーテル(ETB)、ジホルムアルデヒドメトキシエタノールなどの沸点が100℃以上の高沸点アルコールを用いることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
これらの中でも、入手容易性の高さと、各成分に対する溶解性の高さから、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、s-ブチルアルコールおよびt-ブチルアルコールからなる群から選ばれる一種又は二種以上のアルコールを含むことができる。また、メチルアルコール(沸点:64.7°C)、エチルアルコール(沸点:78.37℃)、iso-プロピルアルコール(沸点:82.4℃)などの低沸点アルコールを用いることで、より低温環境下や乾燥環境下において塗膜を成膜することが可能になる。
【0044】
本実施形態において、アルコールを用いることで、各成分の溶解性を向上させ、得られる水性プライマー処理組成物の保存安定性を向上させることができる。理由は明確でないが、水とアルコールを含む混合溶媒を用いることにより、亜鉛表面を有する金属部材の表面に形成する皮膜における防錆性能を向上できる。また、アルコールは、水性プライマー処理組成物の発泡を抑制できるため、塗膜中に泡が入ってシリカ質皮膜が不均一になることを抑制できる。
【0045】
上記アルコールの含有量は、水性プライマー処理組成物全体中、例えば、0.1質量%~15質量%、好ましくは0.2質量%~9.0質量%、より好ましくは0.3質量%~8.0質量%である。上記の範囲内とすることで、組成物の長期保管安定性を高めることができる。また、上記上限値以下とすることによって、密着性を高めることができる。
【0046】
また、上記アルコールの含有量は、上記水およびアルコールの合計含有量100質量%に対して、例えば、0.1質量%~15.0質量%、好ましくは0.2質量%~10.0量%、より好ましくは0.3質量%~5.0質量%である。このような数値範囲内とすることで、水性プライマー処理組成物の長期保管安定性を高めることができる。
【0047】
上記アルコールの含有量は、シランカップリング剤および水分散性樹脂の合計含有量100質量部に対して、例えば、1質量部~300質量部、好ましくは2質量部~200質量部、より好ましくは3質量部~170質量部である。上記下限値以上とすることにより、シランカップリング剤が安定的に溶解された組成物を実現できる。上記上限値以下とすることにより、水分散性樹脂の分散性を高めることができる。上記の範囲内とすることで、組成物の長期保管安定性を高めることができる。
【0048】
水性プライマー処理組成物のpHは、含まれる成分に応じて適切に選択できるが、リン酸系防錆剤を含む場合には、例えば、4.0~6.9等の酸性側に構成されてもよいが、リン酸系防錆剤を含まない場合にはアルカリ性側に構成されてもよい。アルカリ性の水性プライマー処理組成物には、水溶性遷移金属化合物が含まれなくてもよい。
【0049】
アルカリ性の水性プライマー処理組成物のpHは、例えば、7.0~13.0、好ましくは7.2~12.0である。これにより、アルカリ水溶液中に良分散な水分散性樹脂を選択することで、凝集を抑制し、水分散性樹脂の添加量を適度に高めることが可能になる。アルカリ分散型の水分散性樹脂として、エポキシ樹脂やポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0050】
本実施形態において、pHは、水性プライマー処理組成物の液温25℃±1℃で、pHメータを用いて測定できる。液温は、25℃を通常採用するが、+1℃、あるいは-1℃程度のバラツキを許容し得る。
【0051】
<水溶性遷移金属化合物>
水性プライマー処理組成物は、水溶性遷移金属化合物を含んでもよく、含まなくてもよい。
水溶性遷移金属化合物は、水溶性チタン化合物または水溶性ジルコニウム化合物を含むものである。水溶性遷移金属化合物は、水中に溶解し得る。
【0052】
上記水溶性チタン化合物としては、無機系チタン化合物、ペルオキソチタネート、アミン系水溶性チタネート、キレート系チタネート(水溶性のチタンキレート剤)からなる群から選択される一種以上を含むことができる。この水溶性チタン化合物としては、具体的には、例えば、三塩化チタン、四塩化チタン、硫酸チタン、酸塩化チタン等の無機系チタン化合物、無機系またはキレート系のペルオキソチタネート、アミン類の存在下で例えばチタンアルコキシドと水とを反応させて得られたアミン系水溶性チタネート、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸及びグリコール等のオキシカルボン酸が配位したオキシカルボン酸キレートチタンや、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等のアルカノールが配位したアルカノールアミンキレートチタン等のキレート系チタネート(水溶性のチタンキレート剤)などを含むことができる。
また、上記水溶性ジルコニウム化合物は、上記水溶性チタン化合物と同様の構造を有することができるが、例えば、無機系ジルコニウム化合物、ペルオキソジルコネート、アミン系水溶性ジルコネート、キレート系ジルコネートからなる群から選択される一種以上を含むことができる。
【0053】
上記チタンキレート剤は、例えば、一般式:Ti(X)で表される有機化合物およびそのオリゴマーを用いることができる。上記一般式中Xは、水酸基、低級アルコキシ基、およびキレート性置換基から選ばれるものであり、4個のXは同一であっても、異なってもよい。
【0054】
上記低級アルコキシ基は、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ等の炭素数6以下、好ましくは4以下のアルコキシ基が挙げられる。
上記キレート性置換基は、例えば、キレート形成能を持つ有機化合物から誘導された基である。キレート形成能を持つ有機化合物としては、アセチルアセトン等のβ-ジケトン、アセト酢酸等のアルキルカルボニルカルボン酸およびそのエステル、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。
上記キレート性置換基の具体例は、ラクテート、アンモニウムラクテート、トリエタノールアミネート、アセチルアセトネート、アセトアセテート、エチルアセトアセテート等が挙げられる。
【0055】
上記水溶性遷移金属化合物は、水性防錆表面処理組成物全体中、固形分換算で、例えば、0.1質量%~7質量%、好ましくは0.2質量%~5質量%、より好ましくは0.3質量%~3質量%である。
【0056】
<リン酸系防錆剤>
水性プライマー処理組成物は、リン酸系防錆剤を含んでもよい。
【0057】
上記リン酸系防錆剤として、高縮合リン酸塩や多価リン酸エステルが挙げられる。
【0058】
上記高縮合リン酸塩は、4個以上のリン酸が脱水縮合してなる高縮合物の塩を用いてもよい。
上記高縮合リン酸塩のリン酸の縮合度(分子内のリン酸由来の構造単位数)は、例えば、4以上、好ましくは5以上、より好ましくは6以上である。これにより、耐食性を高めることができる。一方、上記縮合度の上限値は、特に制限されるものではないが、たとえば、50以下、40以下、30以下としてもよい。
【0059】
上記高縮合リン酸塩としては、例えば、直鎖状構造、環状構造、または、直鎖状構造と環状構造とが相互に結合した網目構造を有するものを用いることができる。この中でも、高縮合リン酸塩は、環状構造または網目構造を有することが好ましい。
【0060】
上記多価リン酸エステルは、複数のリン酸エステル残基を有する化合物である。リン酸エステル残基は、リン酸モノエステル構造またはリン酸ジエステル構造を有する。リン酸エステル残基を形成するアルコール部分は、1級アルコール、2級アルコール、3級アルコールのいずれでもよい。
上記多価リン酸エステルの具体例としては、例えば、フィチン酸が挙げられる。
【0061】
上記高縮合リン酸塩および多価リン酸エステルのいずれか一方の含有量またはこれら合計含有量は、水性防錆表面処理組成物全体中、固形分換算で、例えば、0.1質量%~1.0質量%、好ましくは0.15質量%~0.9量%、より好ましくは0.3質量%~0.75質量%である。上記下限値以上とすることで、耐食性を高められる。上記上限値以下とすることで、皮膜の物性のバランスを図ることができる。
【0062】
水性プライマー処理組成物は、高縮合リン酸塩または多価リン酸エステルからなるリン系防錆剤、好ましくは水溶性のリン系防錆剤を含まないように構成されてもよい。これにより、プライマー層の密着性を高めることが可能である。また、環境負荷の少ない水性プライマー処理組成物を実現できる。
詳細なメカニズムは定かでないが、水溶性のリン系防錆剤があると、プライマー層の表面に析出することや、ホールが形成されて密着性が低下することが考えられる。
【0063】
(他の成分)
上記水性プライマー処理組成物は、上記成分以外にも、その他の添加剤を含むことができる。
その他の添加剤としては、通常、プライマー材料に含まれる各種添加剤を用いることができるが、例えば、pH調整剤、滑剤、防腐剤、充填材、着色剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、抗菌剤などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。添加剤の添加量は、用途に応じ適宜設定することができる。
【0064】
上記防腐剤としては、イソチアゾリン系化合物などが挙げられる。
【0065】
上記水性プライマー処理組成物は、各成分を混合することにより得られる。
各成分の混合する順番は、限定されるものではなく、任意の順番で混合することが可能である。
【0066】
次に、本実施形態の構造物について説明する。
【0067】
構造物は、金属層と、金属層の上に設けられたトップコート層と、金属層とトップコート層との間に設けられたプライマー層と、を備える。構造物中、プライマー層は、上記の水性プライマー処理組成物からなる珪素皮膜で構成される。その水性プライマー処理組成物は、固形分として、少なくとも、シランカップリング剤、水性コロイダルシリカ、および水分散性樹脂を含む。
【0068】
図1は、構造物が有する金属構造体100の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図1の金属構造体100は、基材10、金属層20、プライマー層30および耐候性層50(トップコート層)を備える。
【0069】
基材10は、金属構造体100を構成する下地部材であり、その表面に金属層20が形成されている。
【0070】
基材10は、鋼鉄で構成されてもよいが、非鋼鉄材料または非金属材料で構成されてもよい。基材10の一例として、たとえば、亜鉛、鉄、銅、アルミニウム、スズならびにこれらの金属を含む合金、またはこれらの金属によるめっき鋼、あるいは蒸着品等が挙げられる。
【0071】
金属層20は、一または二以上の金属種を含む金属層であればよく、少なくとも亜鉛を含んでもよい。
好ましい形態の一つとして、金属層20は、亜鉛を含むめっき膜(亜鉛めっき膜)で構成されてもよい。めっき膜は、公知のめっき処理を用いて、基材10の表面に形成される。亜鉛めっき膜として、溶融亜鉛めっき膜を用いることが好ましい。
【0072】
上記めっき膜としては、たとえば、JIS H 8641:溶融亜鉛めっき、JIS H 8610:電気亜鉛めっき、JIS H 8625:クロメート皮膜(三価Crを含む)、JIS G 3313:電気亜鉛めっき鋼板、JIS G 3302:溶融亜鉛めっき鋼板などが挙げられる。
【0073】
金属層20の表面には、化学的処理および物理的処理の少なくとも一方の表面処理が施されていてもよい。化学的処理としては、リン酸亜鉛、ジルコニウム、または三価クロムなどを用いた化成処理が挙げられる。物理的処理としては、スィープブラストなどのブラスト処理が挙げられる。これによいって、金属層20とプライマー層30との密着性を高め、金属構造体100全体の耐久性、耐傷性を高められる。
【0074】
プライマー層30は、水性プライマー処理組成物からなる珪素皮膜で構成される。
公知の方法によって、金属層20の表面にプライマー層30を形成できる。例えば、金属層20の表面に、水性プライマー処理組成物を塗布し、これに乾燥処理を施すことで、珪素皮膜を形成ができる。乾燥処理は、20~25℃の常温で乾燥してもよいが、適切な温度まで加熱して行ってもよい。例えば、80℃~120℃の加熱条件で、5分~30分加熱してもよい。
また、水性プライマー処理組成物中に金属層20を有する基材10を浸漬させ、乾燥処理を施してもよい。
【0075】
金属構造体100は、金属層20とプライマー層30とが互いに接するように積層した積層構造を有してもよい。これによって、耐食効果や密着性を一層高めることができる。この積層構造には、上述の化学的処理又は物理的処理の表面処理が施された金属層20の表面とプライマー層30の一面とが互いに結合した構造を含めてよい。
【0076】
この乾燥させたプライマー層30上に、適当な塗料を塗布することで、耐候性層50などの各種層を形成できる。
【0077】
金属構造体100は、必要に応じて、中間層40等の他の層を備えてもよい。
【0078】
中間層40は、プライマー層30と耐候性層50との間に設けられている。
中間層40は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、およびポリエステル樹脂等で構成されてもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、エポキシ系樹脂を用いてもよい。
【0079】
耐候性層50は、表面が外部環境に曝露されるトップコート層として使用され得る。
【0080】
耐候性層50は、耐光性を有する材料で構成されていればよいが、たとえば、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂およびエポキシ樹脂、及びこれらの変性樹脂からなる群から選ばれる一または二以上を含んでもよい。この中でも、フッ素系樹脂を用いてもよい。
【0081】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 金属層とトップコート層と、これらの間に設けられたプライマー層とを有する構造物において、前記プライマー層を形成するために用いる、水性プライマー処理組成物であって、
シランカップリング剤と、
水性コロイダルシリカと、
水を含む溶媒と、
水分散性樹脂と、を含む、
水性プライマー処理組成物。
2. 1.に記載の水性プライマー処理組成物であって、
前記水分散性樹脂が、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、フェノール樹脂およびこれらの変性体からなる群から選ばれる一種以上を含む、水性プライマー処理組成物。
3. 1.又は2.に記載の水性プライマー処理組成物であって、
液温25℃における当該水性プライマー処理組成物のpHが、7.0以上13.0以下である、水性プライマー処理組成物。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載の水性プライマー処理組成物であって、
溶媒がアルコールを含む、水性プライマー処理組成物。
5. 4.に記載の水性プライマー処理組成物であって、
前記アルコールの含有量が、当該水性プライマー処理組成物中、0.1質量%以上15質量%以下である、水性プライマー処理組成物。
6. 4.または5のいずれか一つに記載の水性プライマー処理組成物であって、
前記アルコールの含有量が、前記シランカップリング剤および前記水分散性樹脂の合計含有量100質量部に対して、1質量部以上300質量部以下である、水性プライマー処理組成物。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載の水性プライマー処理組成物であって、
高縮合リン酸塩または多価リン酸エステルからなるリン系防錆剤を含まない、水性プライマー処理組成物。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載の水性プライマー処理組成物であって、
前記シランカップリング剤が、エポキシシランを含む、水性プライマー処理組成物。
9. 金属層と、
前記金属層の上に設けられたトップコート層と、
前記金属層と前記トップコート層との間に設けられたプライマー層と、
を備える構造物であって、
前記プライマー層が、シランカップリング剤、水性コロイダルシリカ、および水分散性樹脂を含む水性プライマー処理組成物からなる珪素皮膜で構成される、
構造物。
10. 9.に記載の構造物であって、
前記金属層が、一または二以上の金属種を含む溶融亜鉛めっき膜で構成される、構造物。
11. 9.または10.に記載の構造物であって、
前記トップコート層が、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂およびエポキシ樹脂からなる群から選ばれる一または二以上を含む、構造物。
12. 9.~11.のいずれか一つに記載の構造物であって、
前記プライマー層と前記トップコート層との間に中間層を備え、
前記中間層が、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、およびポリエステル樹脂からなる群から選ばれる一または二以上を含む、構造物。
【実施例
【0082】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されない。
【0083】
表1に示す各成分の情報は以下の通りである。
(シランカップリング剤)
・エポキシシラン1:3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(旭化成ワッカーシリコ-ン社製、GF-82、固形分:67質量%)
(水溶性樹脂)
・ポリエステル樹脂1:水溶性ポリエステル樹脂(互応化学社製、プラスコートZ565、固形分:40質量%)
(水分散性樹脂)
・変性エポキシ樹脂1:水分散性エポキシ樹脂(固形分:60質量%)
・ポリウレタン樹脂1:水分散性ウレタン樹脂(Lubrizol社製、固形分:60質量%)
・ポリウレタン樹脂2:水分散性ウレタン樹脂)(Stahl Polymers社製、固形分:60質量%)
(水溶性遷移金属化合物)
・チタンキレート剤1:チタンラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル社製、TC-300、固形分:20質量%)
(無機コロイド粒子)
・水性コロイダルシリカ1:(日産化学工業社製、スノーテックスST-O、酸性ゾル、粒子径:20nm、固形分:40質量%)
(リン系防錆剤)
・高縮合リン酸塩1:ウルトラリン酸ナトリウム(関東化学社製、直鎖状および環状のものが相互に結合した網目構造、固形分:100質量%)
(防腐剤)
・イソチアゾリン系化合物1:イソチアゾリン系化合物(三愛石油社製、IT-25XA、固形分:100質量%)
(溶媒)
・水1:イオン交換水
・アルコール1:イソプロピルアルコール(大伸化学社製)
【0084】
・鋼板A:溶融亜鉛めっき鋼板
・鋼板B:溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板
【0085】
【表1】
【0086】
表1中、非溶媒成分(シランカップリング剤、水溶性樹脂、水分散性樹脂、水溶性遷移金属化合物、無機コロイド粒子、リン系防錆剤、および防腐剤)の含有量は、使用量を表す。
【0087】
<水性プライマー処理組成物の調製>
表1に示す原料成分の配合比率(質量%)に従って、各成分を秤量し、攪拌機を用いて各成分を混合することにより、各実施例・各比較例の水溶液(水性プライマー処理組成物1~8)を得た。
【0088】
<金属構造体の作製>
(実施例1、2の鋼板A)
鋼板Aのめっき膜の表面に表面処理を行わずに、水性プライマー処理組成物3、4の液中に鋼板1を浸漬させ、120℃で15分加熱処理を行って、厚み:約1μmの珪素皮膜(プライマー層)を形成した。続いて、珪素皮膜の上に、アクリル樹脂塗料(中国塗料社製)を塗布し、室温25℃で30分乾燥処理し、25μmのトップコート層を形成して、試験片Aを作製した。
【0089】
(実施例3~6、比較例1、2の鋼板A)
水性プライマー処理組成物3、4の代わりに、水性プライマー処理組成物1、2、5~8を使用し、室温25℃で30分乾燥処理を行った以外は、実施例1と同様にして、試験片Aを作製した。
【0090】
(実施例1~6、比較例1、2の鋼板B)
鋼板Aの代わりに鋼板Bを使用し、アクリル樹脂塗料の代わりにメラミン樹脂塗料(神東塗料社製)を120℃で15分加熱処理してトップコート層として使用した以外は、試験片Aと同様にして、試験片Bを作製した。
【0091】
得られた各試験片を用いて、以下の評価項目について評価を行った。
【0092】
<耐食性>
(試験片A)
試験片AにX字にクロスカットして、鋼板の表面に達する切り込みを入れ、JASO M 609に準拠して複合サイクル試験(CCT)を220サイクル行った後、試験片Aの表面状態について評価を行った。
赤錆が表面に全く生じないか、殆ど生じていない場合を○、カット線に沿って赤錆が生じる部分が複数箇所で見られる場合を△、X字のカット線が形成された領域の全体に亘って赤錆が見られる場合を×と評価した。結果を表1に示す。
(試験片B)
複合サイクル試験を500サイクルとした以外は、試験片Aと同様にした。結果を表1に示す。
【0093】
<密着性>
(試験片A)
試験片AにX字にクロスカットして、鋼板の表面に達する切り込みを入れ、JIS Z2371に準拠して、塩水噴霧試験(SST、試験温度:35℃)を240h行った後、試験片Aのトップコート層に粘着性テープ(ニチバン社製)を貼り付けた後、90度で剥離した。
粘着性テープを剥離した後、試験片Aの表面状態について評価を行った。
表面にほとんど剥離が生じないか、まったく剥離が無い場合を◎、カット線に沿ってその近傍にわずかな剥離がみられる場合を○、カット線に沿って連続的に剥離が見られる場合を△、X字のカット線が形成された領域の全体に亘って剥離が見られる場合を×と評価した。結果を表1に示す。
(試験片B)
塩水噴霧試験(SST、試験温度:35℃)を120hとした以外は、試験片Aと同様にした。結果を表1に示す。
【0094】
(参考例)
鋼板A、または鋼板Bのめっき膜の表面に、表面処理を行わずに、30μmの中間層(日本ペイント社製、ハイポン、エポキシ樹脂塗料)を形成した以外は、上記の実施例における試験片A、または試験片Bと同様にして、金属構造体を得た。参考例の金属構造体においても、対応する実施例と同程度の耐食性および密着性が得られた。
【0095】
実施例1~6の金属構造体は、比較例1,2と比べて、耐食性および密着性に優れる結果が示された。
このような実施例1~6の水性プライマー処理組成物は、プライマー層(密着層)を形成するために好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0096】
10 基材
20 金属層
30 プライマー層
40 中間層
50 耐候性層
100 金属構造体
図1